説明

亜鉛強化バイオマス、その調製方法、および、それを含むプロバイオティック品、化粧品、ダイエタリー品および栄養補給品

本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、生きている、または、その後に殺される微生物を含む亜鉛強化バイオマス、該亜鉛強化バイオマスの製造方法、ならびに該バイオマスを含む食物調製物、栄養補給品、機能性食品、化粧品および薬用化粧品、および食物サプリメントに関する。さらに、非常に大量に細胞内に亜鉛を濃縮することができ、従って、本発明の方法における使用に特に適している新規な微生物株が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛強化(zinc-enriched)バイオマス、その調製方法、ならびに、それを含む食糧品、プロバイオティック品、ダイエタリー品、栄養補給品および化粧品に関する。本発明は、さらに、本発明の方法で用いられるために適した菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は、鉄を除くいずれか他の少数元素より大量に生体に存在する必須無機物である。それは、ビタミン(特に、ビタミンB群)の正常な吸収および活性と関連がある。それは、組織呼吸のために必要な消化および代謝において役割を果たす数多くの酵素(炭酸脱水酵素を含む)の構成元素である。人体において、亜鉛は、特に、骨、歯、皮膚、肝臓、筋肉および毛髪において見られる。亜鉛は、小腸の上部に急速に吸収される。亜鉛は、また、特定の眼組織、前立腺、精子、皮膚、毛髪、爪に蓄積され、白血球にも見られる。これらの供給は容易に使用できず、従って、食物は生体要求を満たすためにその充分な量を含まなければならない。それは、身体の成長、組織修復、および正常な免疫応答のために不可欠である。それは、また、炭水化物消化およびリン代謝にとっても重要である。それは、細胞中で様々なタンパク質の生成を制御する核酸の合成に関与し、ビタミン吸収にとって重要であり、治癒プロセスに有用であり、そして、細菌、酵母および皮膚腐生菌リパーゼを阻害する。非常に多くの酵素が活性であるために亜鉛を必要とし、それは、タンパク質合成、ホルモン機能の特定の態様、脳機能、視力および味覚のために必要である。さらに、アルコール分解に関与するアルコールデヒドロゲナーゼ酵素は亜鉛を含有するので、アルコールは亜鉛の喪失を引き起こす。亜鉛は、内外の創傷の治癒プロセスにおいて(それは、創傷治癒を加速する)、ざ瘡および脂漏性皮膚炎の治療において、皮脂性分泌物を減少させるために用いられる。該金属は、血中インシュリンに対するその調節効果のため、円形脱毛症全頭脱毛症(alopecia aerata totalis)を患う人の毛髪再成長を促進することができ、また、糖尿病治療において用いられることができる。インシュリンに対する亜鉛の添加は、血糖値に対するホルモンの影響を延長することがわかった。
【0003】
亜鉛欠乏症は、すべての生物において重篤な障害を引き起こす。特定の薬物、なかでも、抗MAO(抗モノアミンオキシダーゼ)、コルチコステロイド、利尿薬が亜鉛欠乏症を誘発しうることが知られている。亜鉛欠乏症は、成長遅延、性成熟の遅延、および創傷治癒の長期化を引き起こすことができる。亜鉛欠乏症は、また、アテローム性動脈硬化症を導き、また、感染に対する感受性を高めることもできる。皮膚線条および爪白斑は、亜鉛欠乏症の症状である可能性がある。亜鉛欠乏症の他の症状は、もろい爪および毛髪、毛髪色素の欠乏、青年期女子の不規則な月経周期、若年男性の性的不能、および青年期の膝および関節の痛みである。慢性の亜鉛欠乏は、体細胞に癌の素因を与えることさえある。わずかな亜鉛欠乏症でさえ生体に有害であり、例えば、それらは、精子濃度の減少および性的不能を左右することができる。さらに、亜鉛欠乏症は、疲労、感染症にかかるかまたは創傷を経験するより高い可能性、および精神的敏捷性の低下を引き起こす。実際、亜鉛欠乏症は、エネルギー生産、タンパク質合成、コラーゲン形成およびアルコール耐性を妨げる。
【0004】
プロバイオティック剤と組み合わせて亜鉛を含有する食物またはダイエット組成物は、従来技術に記載されている。
【0005】
例えば、米国特許出願第20070009502A号は、胃腸ミクロフローラの改善または維持のために設計された動物飼料のための栄養組成物を記載し、それは、プロバイオティック剤(例えば、酵母および/または細菌、例えば、ビフィドバクテリウム、エンテロコッカスまたはラクトバシラス)、プレバイオティック剤、グルタミンまたはその類似体、グルコース、グリシン、電解質、ビタミン類、およびミネラル亜鉛(100−200mg/kg)を包含する無機物を含む。
【0006】
特許出願第WO2006/112998号は、成長が遅延している母乳育ちの乳児の成長を促進するように設計された人乳と組み合わせて用いられるべき液状栄養補助剤を記載し、それは、多くの材料、なかでも、プロバイオティック剤(例えば、ラクトバシラスおよび/またはビフィドバクテリウム)、および亜鉛を包含する無機物を含む。
【0007】
特許出願第CA2525342A号は、例えば疾病に対する免疫応答を改善するための、食物補助剤に有用な幅広い範囲のプロバイオティック食物調製物を記載し、それは、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・プソイドプランタルム(Lactobacillus casei sbp. pseudoplantarum)、ラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)およびラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)の特定の菌株をさらなる補助成分、リンカーおよびエネルギー成分(亜鉛を包含する)と組み合わせて含む。
【0008】
上述の先行文献は、ヒトまたは動物の体内で亜鉛のデリバリーに適した組成物を記載し、ここに、亜鉛は無機亜鉛の形であり、プロバイオティック微生物を包含する多くの他の材料と組み合わされている。
【0009】
これらの組成物には、排他的に無機形態の亜鉛を含むという不利な点があり、それを人体が吸収するのは、有機亜鉛よりも困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US20070009502A
【特許文献2】WO2006/112998
【特許文献3】CA2525342A
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、今回、ビフィドバクテリウムおよびストレプトコッカス属に属している特定の細菌種、特にビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)種が、無機亜鉛を含有する培養培地において成長するときに、バイオマス自体の生存に有害なような大量の細胞内亜鉛を伴うことなく、細胞内に極めて大量の亜鉛を蓄積するという予想外な有利な能力を示すことを見出した。細胞内に亜鉛を蓄積するこのような能力は、上記の細菌種を、定義上、生きているバイオマスを含有しなければならないプロバイオティック製品の製造に特に有用なヒトまたは動物の体内での亜鉛のデリバリー手段としての用途に特に適したものとする。本発明の亜鉛強化バイオマスは、また、特に化粧品(cosmetic)または薬用化粧品(cosmeceutic)の製造のために、化粧品への応用において用いられてもよい。化粧品の製造の場合、バイオマスは死んだ微生物で構成される必要があり、一方、薬用化粧品の製造の場合、バイオマスは生きている微生物で構成される必要がある。
【0012】
かくして、本発明の目的の1つは、
(i)亜鉛塩を含む栄養培養培地中、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびそれらの組み合わせからなる群から選択された微生物を培養して、その結果、該微生物が亜鉛を蓄積し;次いで、
(ii)該亜鉛強化微生物を培養培地から分離すること
によって得られることを特徴とする亜鉛強化バイオマスの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に報告される研究から明らかなように、細胞内に蓄積された大量の亜鉛を含有する生きている微生物を含むバイオマスは、本発明の方法によって達成される。
【0015】
本発明の亜鉛強化バイオマスの製造方法は、微生物が亜鉛塩、好ましくは硫酸亜鉛(ZnSO)で補充されたビフィドバクテリウムおよびストレプトコッカス属由来の微生物の成長に適した栄養培地で培養される第1の発酵ステップを提供する。栄養培地は、好ましくは、炭素源(例えば、グルコースおよび/またはラクトース)、窒素源(例えば、ペプトン、カゼイン水解物、酵母抽出物)、無機塩類、微量元素およびビタミン源を含有する液体培地である。
【0016】
培養培地中の亜鉛塩の濃度は、好ましくは、5〜50mM、さらにより好ましくは、10〜40mMである。
【0017】
硫酸亜鉛が好ましい。
【0018】
発酵は、好ましくは、25℃〜48℃、より好ましくは、35℃〜45℃の温度で実施される。液体培地のpH値は、好ましくは2.5〜8.0、より好ましくは、3.5〜7.5である。発酵時間の長さは、好ましくは、6〜40時間、より好ましくは、8〜36時間である。発酵は、好気性、微好気性および/または、嫌気性条件下で実施されてもよい。
【0019】
発酵ステップの後、その間、細菌細胞内でバイオマス成長および亜鉛蓄積が起こるが、得られたバイオマスは、任意の適切なそれ自体が公知の方法、例えば、遠心分離法または精密濾過法によって、細胞の生存を危うくしないような方法で、培養培地から分離される。こうして、本発明の方法によって、生きている微生物を含む亜鉛強化微生物バイオマスが得られる。所望により、得られたバイオマスを次いで、常法に従って実施される凍結乾燥、乾燥、マイクロカプセル化および/または冷凍に付してもよい。
【0020】
また、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス種由来の2つの微生物株は細胞内で亜鉛を蓄積する特に高い能力を付与されているので、本発明者らは、特に本発明の方法の使用に適していると証明されたこれらの株を選択した。このような株は、ストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BMおよびビフィドバクテリウム・アニマリスサブスピーシーズ ラクチス BB 1 BMと称され、各々、受託番号DSM19526として2007年7月13日にストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BM、および受託番号DSM17850として2005年12月23日にビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチスBB 1 BMとして、ブタペスト条約に基づいてDSMZ(Deutsche Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkulturen, Braunschweig, Germany)に寄託された。
【0021】
上述したように、本発明の方法によって達成可能な亜鉛強化バイオマスは、有機形態におけるよりも高い亜鉛濃度を有するという点で、プロバイオティック剤としての用途に特に適している。
【0022】
この目的のために、生きている微生物を含む、したがって、プロバイオティック活性を有するバイオマスは、種々の形態で調製されうる。例えば、プロバイオティック活性を有する食物調製物を得るために、食品、好ましくは、ミルクまたは乳製品(例えば、ヨーグルト)に加えることができる。別法では、プロバイオティック活性を有する組成物(例えば、食物サプリメント、ダイエタリー品、機能性食品)の製造のために、または適切なビヒクルおよび/または賦形剤と併用される経口投与のための非食物調製物(例えば、栄養補給品)の製造のために用いられてもよい。この目的のために、バイオマスは、好ましくは、それ自体が凍結乾燥または乾燥組成物の形態、および/またはマイクロカプセル化された組成物の形態で用いられる。
【0023】
プロバイオティック活性を有する組成物においてその後に用いられるべき凍結乾燥または乾燥製品の細菌負荷は、少なくとも生成物の1010〜1011CFU/gである。
【0024】
凍結乾燥または乾燥製品の製造の場合、湿ったバイオマスを、保護剤、例えば、脱脂乳、ラクトース、グルコース、酵母抽出物、ジャガイモ澱粉、グルタミン酸ナトリウム、イノシトール、クエン酸ナトリウム、ゼラチン、マルトデキストリン、ステアリン酸マグネシウム、アスコルビン酸、ステアリン酸およびそれらの組み合わせを包含する液体培地、例えば、水または滅菌生理溶液中に懸濁する。
【0025】
該凍結乾燥または乾燥製品は、次いで、例えば、好ましくは、製品の少なくとも10CFU/gの細菌負荷を得るように、例えば、凍結乾燥のために上記したものから選択される不活性物質と共に、プロバイオティック剤の製造のために希釈される。凍結乾燥製品は、室温での安定性(18−24ヵ月)を増加させるために、マイクロカプセルに入れられてもよい。
【0026】
バイオマスが死んでいなければならない製品、例えば、化粧品またはいくつかの食品(例えば、ベーカリー製品)の製造の場合、本発明の方法によって達成可能な亜鉛強化バイオマスは、死んだ細胞を得るために、自体既知の方法(例えば、乾燥)に付される。
【0027】
以下の実験的なセクションは、説明として提供され、添付の請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0028】
細胞内亜鉛の取り込み試験
総細胞内亜鉛含量を比較して、該金属の蓄積容量を細胞質または膜レベルで評価するために、発明者らは、硫酸亜鉛を有する、または有さない培地上で生育するプロバイオティック微生物株についてスクリーニングを行った。
【0029】
MRSインフィション(infission)中に保存されたビフィドバクテリウム培養物を液体MRS中に接種し、37℃で嫌気的にインキュベートした。24時間の生育期間後、それぞれ、液体MRS単独の120ml(10%v/v)および10mMのZnSOを補足した液体MRSの120ml(10%v/v)に各々接種した。これらの培養物を37℃の嫌気性条件下で48時間培養した。同じ実験手順は、ストレプトコッカスの細胞内取り込みの試験を始めるために追随された。この場合、液体M17培地が用いられ、培養物は、42℃の嫌気性条件下で48時間培養された。
【0030】
生育期間の最後に、乾燥重量の測定のための小さいアリコートを保存しつつ、続けて、バイオマスを遠心分離によって培養培地から分離し、収集したバイオマスを無機化した。
【0031】
バイオマスの無機化
全細胞内亜鉛を決定するために、細菌性細胞を完全に破壊し、バイオマスを下記のプロトコルに従って無機化した。
【0032】
100mlの成長した培養物を4500rpmで30分間、遠心分離して(4℃まで冷却された遠心分離機、Beckman GS-15R centrifuge)、細胞を収集した。次いで、ペレットを4回、各回に140mlの蒸留水で洗浄して、残留する亜鉛を上清から除去した。4回目の洗浄水を保持して、ICP技術によってその亜鉛含量を分析した。
【0033】
バイオマスは、硝酸HNOの水溶液で1:1比(w/v)にペレットを再懸濁することによって無機化した。無機化手法の最適化の間、細胞内亜鉛の完全な回収を達成するために、硝酸溶液の濃度を各々、0.65%、6.5%および20%に増大させて用いた。
【0034】
かくして得られた各細胞懸濁液をスクリューキャップ管に移し、−20℃で少なくとも2時間保管した。次いで、スクリューキャップ管を、管内での過剰な蒸発および圧力を回避するために、ドラフト下、恒温槽中100℃にて30分間解凍し、これらを、通気針を備えた栓で密封した。水溶液を室温で冷却し、反応蒸気が放出されるようにした。無機化手法の最後に、細胞懸濁液を4℃にて、13000rpmで30分間遠心分離して、無機化抽出物を収集し、細胞細片を除去した。
【0035】
ICPによる全亜鉛分析
ICPによる分析のために、試料を65%濃HNOにより2%に酸性化し、次いで、5mlの最終容量まで再蒸留水で希釈した。これらの操作は、ドラフト下で実施された。かくして得られた水溶液を、完全に透明になるまで、0.8μmの酢酸セルロース・フィルタ(Millex-AA, Millipore)を用いて濾過した。
【0036】
試験下の菌株によって蓄積された細胞内亜鉛の定量は、ICP−AES技術(OES - OPTIMA 4200 DV, Perkin Elmer)によって行われた。
【0037】
該系は、40MHzの周波数を使用する。プラズマ入射は、コンピュータ接続した電子システムによって自動化され、制御される。
【0038】
使用されるアルゴンは、99.99%純粋でなければならず、その流量は、1リットル/分の可変増加により、常に、0〜20リットル/分の範囲でなければならない。霧状試料流量は、1リットル/分の可変増加により、0〜0.01リットル/分の質量流量値の範囲内で発生しなければならない。
【0039】
噴霧器は、耐腐食性材料により製造されるので、該系は、HCl、HNO、HSO、HPOの50%(v/v)濃度、NaOHの30%(v/v)濃度およびHFの20%(v/v)濃度を有する溶液に耐えることができる。
【0040】
分光光度計は、38℃でサーモスタット・コンパートメントにあるポリクロメーターからなる。使用される検出方法は、CCDであり、読み出しは、UVフィールドでされる。
【0041】
以下の分析パラメータを使用した。
解像度:高
パージ・ガス・フロー:通常
読み込み遅延時間(秒):45
反復:3
読み込み時間:自動
最小時間:1.000秒 − 最大時間:10.000秒
光源平衡遅延:15秒
プラズマエーロゾルタイプ:湿
噴霧器運転開始条件:即時
【0042】
未知の亜鉛濃度を得るために、2%HNOで酸性化した以下の標準溶液(0.5ppm、1ppm、2ppmおよび10ppm亜鉛)によって構築した検量線を使用した。
【0043】
総細胞亜鉛量は、乾燥したバイオマスのグラム当たりの金属のmgにおいて示される。
【0044】
蓄積された金属の総細胞内濃度は、得られた試料を2%HNOで酸性化することによって、上記のICP−AES技術によって定義された。
【0045】
図1は、ビフィドバクテリウムの異なる種の株において実施される取り込み試験において測定される細胞内亜鉛濃度(乾燥細胞重量のグラム当たりの細胞内亜鉛のmgとして示される)を報告する。詳細には、試験は、ビー・インファンティス(B. infantis)、ビー・ブレビ(B. breve)、ビー・ビフィダム(B. bifidum)、ビー・アニマリス(B. animalis)、ビー・ロングム(B. longum)の株において実施された。亜鉛不含MRS培地で生育させた場合、分析された株の全てが0.01〜0.20mg/gDWという非常に低い細胞内亜鉛濃度を示す。10mMの硫酸亜鉛のMRS培養培地への添加は、細胞内亜鉛濃度の増加を誘導する。しかしながら、図1に示されるように、ビフィドバクテリウム・アニマリスサブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM株(受託番号DSM17850;寄託日2005年12月23日)を除く全ての種の株において、該内在化金属の濃度は、むしろ低く、0.72mg/gDW〜2.12mg/gDWであり、ここに、細胞内亜鉛濃度は、最高53.32mg/gDW(基底濃度の1.000倍の増加)まで増加する。
【0046】
図2に示されるように、比較可能な細胞内亜鉛値は、10mM硫酸亜鉛(細胞内亜鉛濃度=59.31mg/gDW)で強化されたM17培地上で生育させたストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BM株(受託番号DSM19526;寄託日2007年7月13日)によって達成された(シリーズ1)。図2は、さらに、同じ培地上で生育させた場合、他のストレプトコッカス種、例えば、エス・サリバリウス(S. salivarius)、エス・フェシウム(S. faecium)およびエス・ラクチス(S. lactis)に属する菌株が非常に低い細胞内亜鉛蓄積能を明らかにすることを示す。さらにまた、該図は、該菌株を、硫酸亜鉛を添加しない同じM17培地上で生育させた場合に検出される細胞内亜鉛濃度との比較を示す(シリーズ2)。
【実施例1】
【0047】
10mMの硫酸亜鉛を添加した200mlのM17培地(Merck)を500mlのフラスコ中で滅菌した。あらかじめ嫌気性条件下で42℃にて24時間生育させたストレプトコッカス・サーモフィルスST 16 BMの種培養(受託番号DSM19526;寄託日2007年7月13日)を10%(v/v)の量でフラスコ中に接種した。次いで、培養物を嫌気的条件下、42℃で40時間生育させ続けた。該培養の最後に、2.73x10CFU/mlを得た。バイオマスを遠心分離によって収集し、上記の方法に従って処理および分析した。細胞によって蓄積された全亜鉛は、59.31mg/gDWであった。D.W.=乾燥重量。
【実施例2】
【0048】
実施例1のように、濾過によって別々に滅菌されたSBF31培地+15mM Zn2+を用いる。SBF31培地:トリプトン 23g/l;ダイズ・ペプトン 16g/l;酵母抽出物 12g/l;MgSO 0.25g/l;KHPO 2.5g/l;アスコルビン酸 0.5g/l;グルコース 45g/l;ジグリセロリン酸ナトリウム 19g/l。
【0049】
発酵時間:21時間;生きている細胞の産生:5.3x1010CFU/ml;蓄積された亜鉛:51.67mg/gDW
【実施例3】
【0050】
実施例1のように、濾過によって別々に滅菌されたSBF32培地+30mM Zn2+を用いる。21時間後に、3.15x1010CFU/mlの生存能力を有する乾燥したバイオマス2.1g/リットルが得られた。蓄積された亜鉛:63.42mg/gDW。SBF32培地:トリプトン 23g/l;ダイズ・ペプトン 16g/l;酵母抽出物 12g/l;MgSO 0.25g/l;KHPO 2.5g/l;アスコルビン酸 0.5g/l;ラクトース 45g/l;グリセリン 19g/l。
【実施例4】
【0051】
10mMの硫酸亜鉛が添加されたM17培地(別々に濾過によって滅菌される)71mlに、あらかじめストレプトコッカス・サーモフィルスST 16 BM(受託番号DSM19526;寄託日2007年7月13日)を嫌気的条件下で42℃にて24時間生育させた同じM17培地+10mM硫酸亜鉛由来の種培養液500mlを接種した。発酵槽条件:150rpm;0.5l エアー/l/分;温度:42℃;10%NaOHで4.8(±0.2)に調整されたpH;発酵時間:21時間。2.75x1010CFU/mlが得られた。細胞によって蓄積された全亜鉛は、57.2mg/gDWであった。
【実施例5】
【0052】
log12およびlog18での発酵の間に15mMのZn2+の2回の添加を行う以外は実施例4と同様に実施した。発酵時間:24時間。発酵の最後での細胞生存能力:2.25x1010CFU/ml。細胞によって蓄積された全亜鉛は、91.3mg/gDWであった。
【実施例6】
【0053】
フィルタ滅菌した10mMの硫酸亜鉛を添加し、120℃で30分間滅菌された300mlのMRS培地(Merck)+システインを好気性環境下で少なくとも24時間、予備還元において維持した。あらかじめ嫌気性条件下で37℃にて同じ培地中で24時間生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM(受託番号DSM17850;寄託日2005年12月23日)の種培養液を、上記の300ml培地中に10%(v/v)で接種し、嫌気性条件下、37℃で24時間生育させた。1x1011CFU/mlを培養の最後に得た。細胞によって蓄積された全亜鉛は、53.32mg/gDWであった。
【実施例7】
【0054】
シャフトの代わりにシェーカー・プレートを備え付けた15リットルの嫌気性発酵槽を、10リットルの培地を用いて、実施例6と同じ条件において用意した。硫酸亜鉛を15mMに調整した。発酵槽に、24時間のビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM(受託番号DSM17850;寄託日2005年12月23日)の種培養液10%(v/v)を接種し、37℃で24時間インキュベートした。生きている細胞の量は、1x1011CFU/mlであった。細胞によって蓄積された全亜鉛は、67.1mg/gDWであった。
【実施例8】
【0055】
10mMの硫酸亜鉛を添加した0.05%のシステインを含有する90mlのMRS培地を100mlのフラスコ中で滅菌した。あらかじめ嫌気性条件下で37℃にて24時間、同じ培地中で生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM種培養を10%(v/v)の量でフラスコ中に接種した。次いで、該培養物を嫌気的条件下、37℃で40時間生育させ続けた。3.12x10CFU/mlを培養の最後に得た。バイオマスを遠心分離によって収集し、開示された方法に従って処理および分析した。細胞によって蓄積された全亜鉛は、54.36mg/gp.s.であった。
【実施例9】
【0056】
90mlの最少基礎培地は、以下の通りに処方された(1リットル当たりのグラム数で示す)。カザミノ酸(Difco Laboratories, Sparks, Md.)、15;酵母窒素塩基(Difco Laboratories)、6.7;アスコルビン酸、10;酢酸ナトリウム、10;(NHSO、5;尿素、2;MgSO・7HO、0.2;FeSO・7HO、0.01;MnSO・7HO、0.007;NaCl、0.01;Tween80、1;システイン、0.5(pHは7.0に調整し、110℃で30分間オートクレーブ処理した)。以下の炭水化物(グルコース、フラクトオリゴ糖、イヌリン、ラフィノース、ラクトース、ガラクトオリゴ糖、フラクトース、ガラクトースまたはキシロ−オリゴ糖)のうちの1つを別々にオートクレーブ処理し、基礎培地に加えて、10g/lの濃度を達成した。10mMの硫酸亜鉛を更に加えた。あらかじめ同じ培地で嫌気性条件下で37℃にて24時間生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM種培養を10%(v/v)の量でフラスコ中に接種した。次いで、培養物を嫌気的条件下、37℃で40時間生育させ続けた。1.5x10CFU/ml〜3.2x10CFU/mlの範囲のバイオマス濃度を培養の最後に得た。バイオマスを遠心分離によって収集し、記載されている方法に従って処理および分析した。細胞中に蓄積された全亜鉛は、48.12〜54.37mg/gp.s.の範囲であった。
【実施例10】
【0057】
0.05%のシステインを含有し、10mMの硫酸亜鉛を添加した2リットルのMRS培地を3.6リットルのバイオリアクタ中で滅菌し、同じ培地中で24時間生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM培養物を10%で接種した。バイオリアクタをin situ滅菌し、窒素で加圧した。プロセス条件は、0.01での一定の窒素吹き入れ、150rpm、37℃、0.1MのNaOHにより6.2に維持されるpHであった。48時間後、バイオマスは、3.6x10CFU/mlの濃度を有した。バイオマスを収集し、亜鉛の量について分析した。細胞中に蓄積された全亜鉛は、53.81mg/gp.s.であった。
【実施例11】
【0058】
0.05%のシステインを含有する2リットルのMRS培地を3.6リットルのバイオリアクタ中で滅菌し、同じ培地中で24時間生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM培養を10%接種した。バイオリアクタをin situ滅菌し、窒素で加圧した。プロセス条件は、0.01での一定の窒素吹き入れ、150rpm、37℃、0.1MのNaOHにより6.2に維持されるpHであった。24時間の生育期間後、硫酸亜鉛を培養物に添加して、10mMの最終濃度を達成した。金属添加から24時間後、バイオマスは、3.6x10CFU/mlの濃度を有した。バイオマスを収集し、亜鉛の量について分析した。細胞中に蓄積された全亜鉛は、53.81mg/gp.s.であった。
【実施例12】
【0059】
10mMの硫酸亜鉛を添加した0.05%のシステインを含有する10リットルのMRS培地を3.6リットルのバイオリアクタ中で滅菌し、同じ培地中で24時間生育させたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチス BB 1 BM培養物を10%接種した。バイオリアクタをin situ滅菌し、窒素で加圧した。プロセス条件は、0.01での一定の窒素吹き入れ、150rpm、37℃、0.1MのNaOHにより6.2に維持されるpHであった。NaOH親和の終了によって示されるように、培養物が酸性化を終えた後、培養物に30%グルコースおよび10mM硫酸亜鉛溶液を流加(fed-batch)様式で補足した。15リットルの容量に達した後、バイオマスは、1.2x1010CFU/mlの濃度を有し、収集され、亜鉛量について分析された。細胞中に蓄積された全亜鉛は、52.15mg/gp.s.であった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛強化バイオマスの製造方法であって、該バイオマスが、
(i)亜鉛塩を含む栄養培養培地中、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびそれらの組み合わせからなる群から選択された微生物を培養して、その結果、該微生物が亜鉛を蓄積し;次いで、
(ii)該亜鉛強化微生物を培養培地から分離すること
によって得られることを特徴とする方法。
【請求項2】
培養培地から分離される微生物が、凍結乾燥、乾燥、マイクロカプセル化、および/または凍結に供される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微生物が、2007年7月13日に受託番号DSM19526として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BM、および、2005年12月23日に受託番号DSM17850として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチスBB 1 BMからなる群から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
亜鉛塩が硫酸亜鉛である、請求項1ないし3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
栄養培養培地が、5〜50mM、好ましくは、10〜40mMの範囲の硫酸亜鉛量を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
培養培地が液体培地である、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
培養培地が、無機塩類、炭素、窒素、ビタミン類および微量栄養源およびそれらの混合物からなる群から選択される微生物の成長のための従来の栄養分を含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
培養培地が、2.5から8.0までの範囲、より好ましくは、3.5から7.5までの範囲のpHを有する、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
微生物が、培養培地中、25℃から48℃までの範囲、より好ましくは、35℃から45℃までの範囲の温度で培養される、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
微生物が、培養培地中、6〜40時間、より好ましくは、8〜36時間培養される、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
微生物が、遠心分離または精密濾過法によって培養培地から分離される、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法によって入手可能な亜鉛強化バイオマス。
【請求項13】
2007年7月13日に受託番号DSM19526として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BM、および、2005年12月23日に受託番号DSM17850として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチスBB 1 BMからなる群から選択される微生物を含む、請求項12記載のバイオマス。
【請求項14】
生きている微生物を含む、請求項12または13記載のバイオマス。
【請求項15】
プロバイオティック剤としての、請求項14記載のバイオマス。
【請求項16】
プロバイオティック活性を有する組成物の製造のための、請求項14記載のバイオマスの使用。
【請求項17】
プロバイオティック活性を有する組成物が、食物サプリメント、ダイエタリー品、機能性食品、栄養補給品および食物調製物からなる群から選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
死んだ微生物を含む、請求項12または13記載のバイオマス。
【請求項19】
化粧品または食品の製造のための、請求項18記載のバイオマスの使用。
【請求項20】
適当なビヒクルおよび/または賦形剤と共に請求項14記載の生きている亜鉛強化バイオマスを含む、プロバイオティック活性を有する組成物。
【請求項21】
少なくとも10CFU/gの細菌負荷を有する、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
請求項20または21記載の組成物を含む、食物調製物、食物サプリメント、ダイエタリー品、機能性食品、栄養補給品または薬用化粧品。
【請求項23】
請求項18記載のバイオマスを含む化粧品または食品。
【請求項24】
2007年7月13日に受託番号DSM19526として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス ST 16 BM、および、2005年12月23日に受託番号DSM17850として、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDSMZにブダペスト条約に基づいて寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス サブスピーシーズ ラクチスBB 1 BMからなる群から選択される微生物。

【公表番号】特表2010−534470(P2010−534470A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517531(P2010−517531)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/IB2008/052943
【国際公開番号】WO2009/013709
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(506402230)バイオマン・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (2)
【氏名又は名称原語表記】BIOMAN S.r.l.
【Fターム(参考)】