説明

交通情報推定システム、推定方法、提供システムおよびコンピュータプログラム

【課題】交通情報をリアルタイムに推定できる道路範囲を増大させることにより、交通情報を提供できるエリアカバー率を向上する。
【解決手段】本発明の交通情報推定システムは、今回のタイムスパンで収集したVICS情報とプローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部406Aと、リアルタイム予測値が得られた道路リンクと異なる他の道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じてリアルタイム予測値とリアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する交通情報伝播処理部406Bと、各処理部でそれぞれ得られた予測値と信頼度とに基づいて、今回のタイムスパンに対し、道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部406Eとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路リンクの旅行速度等の交通情報を推定するための交通情報推定システム、推定方法、提供システムおよびコンピュータプログラムに関する。
より具体的には、定点観測に基づくVICS情報と移動観測に基づくプローブ情報の双方を入力情報として、道路リンクの交通情報を適応的に推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路の交通情報をドライバーに提供する技術として、財団法人道路交通情報通信システムセンターによるVICS(Vehicle Information and Communication System:なお、「VICS」は上記財団法人の登録商標)が広く知られている。
このVICSは、各種の路側センサ(車両感知器やループコイル等)から収集した車両台数や車両速度等よりなる定点観測情報に基づいて、各路線での渋滞やリンク旅行時間を含む交通情報を集計し、その交通情報を、ビーコンによる狭域通信やFM放送等の広域通信によってドライバーに提供するものである。
【0003】
一方、道路の交通情報をドライバーに提供する他の技術として、プローブカーを利用した交通情報推定システム(以下、プローブシステムという。)も知られている。
このプローブシステムは、例えば特許文献1および2に示すように、実際に道路を走行する車両(プローブ車両)を移動体センサとして利用するもので、現時点の車両位置や速度等の移動観測情報を無線通信によって各プローブ車両から収集し、道路の交通状況を推定するものである。
【0004】
上記両システムのうち、VICSは、車両感知器等から5分ごとにデータを取得して情報更新しているため、時間的に高密度なデータが得られる利点があるが、VICSリンクが全ての道路に設定されていないためにエリアカバー率が低く(主要道路でも20%以下)、エリアカバー率を向上させたくてもインフラの設置コストが高いという欠点がある。
また、VICSでは、実際の走行データではない定点観測情報を利用してVICSリンクの区間速度を推定しているので、交通情報の精度が低くなるという欠点もある。
【0005】
これに対して、プローブシステムは、プローブカーが走行可能な道路であれば情報取得が可能であるからエリアカバー率が高く、インフラの設置コストが不要であるため低コストであり、実際に走行中の車両速度を利用するため交通情報の精度が高いという利点がある。
しかし、プローブシステムでは、自車両のプローブ情報を提供する無線通信機能を有する車載装置の普及率がまだ低いため、時間的に低密度のデータしか得られないという欠点がある。
【0006】
そこで、例えば特許文献3に示すように、VICS情報とプローブ情報の双方をそれぞれ収集し、それらの情報の少なくとも一方を用いて提供すべき交通情報を適応的に推定することにより、交通情報サービスエリアの拡大と、提供すべき交通情報の精度向上を図るようにした交通情報推定システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−151496号公報
【特許文献2】特開2005−4467号公報
【特許文献3】特開2004−29871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3に記載の交通情報推定システムでは、VICSとプローブシステムによる二種類の旅行時間が同じ道路リンクについて得られている場合に、旅行時間の新しさや信頼度を考慮して、旅行時間を選択的に或いは重み付けして推定しているだけであるから、そもそもVICSとプローブシステムのいずれからもデータが得られていない道路リンクについては、交通情報を推定できない。
従って、上記従来の交通情報推定システムでは、交通情報の提供区間の補完を十分に行うことができず、エリアカバー率をそれほど向上できないという欠点がある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、交通情報をリアルタイムに推定できる道路範囲を増大させることにより、交通情報を提供できる道路リンクのエリアカバー率を向上することができる交通情報推定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明の交通情報推定システムは、タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定システムであって、今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部と、前記リアルタイム予測値が得られた前記道路リンクと異なる他の前記道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じて前記リアルタイム予測値と前記リアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する交通情報伝播処理部と、前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、上記リアルタイム処理部が、VICS情報とプローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた道路リンクについてのリアルタイム予測値とリアルタイム信頼度とを生成し、上記交通情報伝播処理部が、そのリアルタイム予測値が得られた道路リンクと異なる他の道路リンクに前記リアルタイム予測値とリアルタイム信頼度とを伝播させて伝播予測値と伝播信頼度とを生成し、上記最終決定部が、各処理部でそれぞれ得られた予測値と信頼度とに基づいて、道路リンクの交通情報の最終予測値を求めるので、VICS情報とプローブ情報が得られていない道路範囲についても交通情報を正確に予測することができ、エリアカバー率が高くかつ高精度の交通情報が得られる。
【0012】
(2) 本発明の交通情報推定システムは、過去のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報の蓄積データに基づいて、前記道路リンクの交通情報の蓄積予測値と、この予測値の信頼度である蓄積信頼度とを生成する蓄積データ処理部を更に備えていてもよい。
この場合、前記最終決定部において、前記蓄積データ処理部を含む前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求めるようにすれば、今回のタイムスパンで良好なリアルタイム予測値や伝播予測値が得られなかった場合でも、過去の交通パターンが安定している道路リンクについて有効にデータ補完を行うことができ、エリアカバー率をより向上させることができる。
【0013】
(3) また、本発明の交通情報推定システムは、直前のタイムスパンにおける前記最終予測値よりなる継続予測値と、この予測値の信頼度である継続信頼度とを生成する継続データ処理部を更に備えていてもよい。
この場合、前記最終決定部において、前記継続データ処理部を含む前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求めるようにすれば、今回のタイムスパンで良好なリアルタイム予測値や伝播予測値が得られなかった場合でも、前回のタイムスパンで良好な最終予測値が得られている道路リンクについて有効なデータ補完を行うことができ、エリアカバー率をより向上させることができる。
【0014】
(4) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記交通情報伝播処理部は、伝播元の前記道路リンクとの交通情報の類似度が大きい他の前記道路リンクほど、および、伝播元の前記道路リンクの前記リアルタイム信頼度が高いほど伝播が発生しやすくなるように、前記相関度を設定するものであることが好ましい。
この場合、リアルタイム予測値を他の道路リンクに伝播させる処理を正確に行うことができ、最終出力値の高精度化に繋がる。
【0015】
(5) また、前記交通情報伝播処理部は、所定の確率で、前記相関度によらずにランダムに伝播対象を選択することが好ましい。
その理由は、相関度が過度に収束してしまうと、実際には相関が強い道路リンクへの経路が発見されなくなるという事態が生じることがあるが、このような事態を未然に防止するためである。
【0016】
(6) また、前記交通情報伝播処理部は、具体的には、伝播元の前記道路リンクの前記リアルタイム信頼度、移動ホップ数および前記相関度により、前記伝播信頼度を算出することができる。
その理由は、伝播元からの移動ホップ数が小さい道路リンク(近い道路リンク)ほど関連性が高い可能性が高く、また、関連性が高いと判断されている道路リンクへの伝播の方がより信頼できる情報となるからである。
【0017】
(7) 更に、前記交通情報伝播処理部は、タイムスパンごとに所定の割合で前記相関度を減少させることが好ましい。
この場合、上記の減少によって相関性の低い道路リンクの相関度が下がるため、無駄な伝播経路を淘汰できるという利点がある。また、この減少によっても、相関度の過度の収束を防止することができる。
【0018】
(8) なお、前記交通情報伝播処理部は、伝播元の前記道路リンクと伝播先の前記道路リンクの交通情報の類似度を、当該交通情報の一致度で決定することができるが、当該交通情報の変化量または変化比率の一致度に基づいて決定することもできる。
【0019】
(9) また、前記交通情報伝播処理部が、前記相関度の時間的な継続性、或いは、負の相関関係を考慮して当該相関度を設定するようにすれば、これらの事情に対応して相関度を正確に設定することができ、最終出力値を高精度化できる。
ここで、相関度の時間的な継続性とは、所定の相関度が一定期間連続して存在することを意味し、かかる継続性が認められる場合に限り相関度を上げることで、相関度の異常変動に起因する精度悪化を回避できる。また、負の相関関係とは、特定の道路リンクが渋滞すると、他の道路リンクが必ず空くような場合がこれに該当する。
【0020】
(10) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記交通情報伝播処理部は、前記道路リンクの1対1対応の前記相関度以外に、複数の前記道路リンクに対する他の前記道路リンクの相関度を設定するようにしてもよい。
例えば、ある特定のリンクAが渋滞しただけではリンクBは必ずしも渋滞しないが、リンクAとリンクCが同時に渋滞すれば、リンクBが必ず渋滞するような場合がこれに該当する。
【0021】
(11) また、前記交通情報伝播処理部は、タイムスパンよりも長い時間遅れで特定の前記道路リンク間に生じる可能性が高い交通事象を考慮して、前記相関度を設定することにしてもよい。
例えば、ある特定のリンクAが渋滞すれば、その所定時間経過後に他のリンクBでの渋滞がほぼ確実に発生するような場合がこれに該当する。
【0022】
(12) 更に、前記交通情報伝播処理部は、道路の混雑状況、速度帯および事故等の異常事態の検出のうちの少なくとも1つに対応して、前記相関度を設定することにしてもよい。
この場合も、上記の各事情に対応して相関度を正確に設定することができ、最終出力値を高精度化できる。
【0023】
(13) また、前記交通情報伝播処理部は、特定の前記道路リンクからの伝播対象リンクを、予め算出した前記相関度が所定値以上である前記道路リンクに限定することにしてもよい。
この場合、例えば、オフラインで上記相関度を算出しておき、この相関度が所定値以上の道路リンクに対してのみ伝播予測値を算出することにより、当該交通情報伝播処理部が実行する処理時間を短縮することができる。
【0024】
(14) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記交通情報伝播処理部は、特定の前記道路リンクからの伝播対象または伝播エリアを可変に設定可能であることが好ましい。
例えば、一般道路の場合には、近隣の比較的狭い範囲の道路リンクに伝播対象を限定し、高速道路の場合には、かなり広範囲の道路リンクに伝播対象を拡げることにすれば、道路の性質に応じたきめの細かい相関度の設定が可能となる。
【0025】
(15) また、前記交通情報伝播処理部は、道路リンク単位同士の相関度を設定するのではなく、複数の前記道路リンクの単位ごと、或いは、1つの前記道路リンクの相関度を援用可能な同種の路線またはエリアごとに、当該相関度を設定することにしてもよい。
例えば、同方向に向かう路線が複数あり、そのうちの一方の路線の相関度が判明すれば他方の路線の相関度が容易に推定できる場合がこれに該当する。
【0026】
(16) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記リアルタイム処理部は、具体的には、例えば、蓄積された前記プローブ情報とそれらのプローブ情報が蓄積された際の前記VICS情報との差分値により、当該VICS情報に基づく前記リアルタイム信頼度を算出することができる。
(17) また、前記リアルタイム処理部は、例えば、蓄積された前記プローブ情報のデータ量とそのばらつきにより、当該プローブ情報に基づく前記リアルタイム信頼度を算出することができる。
【0027】
(18) もっとも、本発明の交通情報推定システムにおいて、前記リアルタイム処理部は、前記VICS情報の取得エリア、道路種別および情報源種別のうちの少なくとも1つを、当該VICS情報に基づく前記リアルタイム信頼度の値に反映させることが好ましい。
その理由は、VICS情報の場合には、上記取得エリア、道路種別および情報源種別によって精度が大きく変動することが多いので、これらを考慮しないで一律に信頼度を算出する場合に比べて、リアルタイム信頼度をより正確に算出可能となるからである。
【0028】
(19) また、前記リアルタイム処理部は、前記道路リンクの混雑状況、速度帯およびリンク長のうちの少なくとも1つを、前記プローブ情報に基づく前記リアルタイム信頼度の値に反映させることが好ましい。
その理由は、プローブ情報の場合には、上記道路リンクの混雑状況、速度帯およびリンク長によって精度が大きく変動することが多いので、これらを考慮しないで一律に信頼度を算出する場合に比べて、リアルタイム信頼度をより正確に算出可能となるからである。
【0029】
(20) また、本発明の交通情報推定システムにおいて、前記リアルタイム処理部は、前記リアルタイム信頼度の生成に必要な取得時間が異なる情報のうち、新しい情報ほど大きい重みを付けて加重平均することにより、前記リアルタイム信頼度を生成することが好ましい。
この場合、新しいVICS情報やプローブ情報ほど信頼度が高いと評価されるので、リアルタイム信頼度をより正確に求めることができる。
【0030】
(21) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記蓄積データ処理部は、前記プローブ情報と前記VICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度に応じて重み付けして加重平均することにより前記蓄積予測値を算出し、さらに同様にして前記蓄積信頼度を算出することができる。
この場合、信頼度の高い情報の割合を高くして蓄積予測値および蓄積信頼度が算出されるので、情報の精度を高めることができる。
【0031】
(22) また、前記蓄積データ処理部は、前記プローブ情報と前記VICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度がある値よりも大きいデータのみを抽出して平均化処理することにより前記蓄積予測値を算出し、さらに同様にして前記蓄積信頼度を算出することにしてもよい。
この場合、信頼度の高い情報のみで平均化して蓄積予測値および蓄積信頼度が算出されるので、情報の精度を高めることができる。
【0032】
(23) もっとも、前記蓄積データ処理部は、蓄積された前記VICS情報のデータ量およびそのVICS情報のリアルタイム信頼度により、当該VICS情報に基づく前記蓄積信頼度を算出することにしてもよい。
(24) また、前記蓄積データ処理部は、蓄積された前記プローブ情報のデータ量により、当該プローブ情報に基づく前記蓄積信頼度を算出することにしてもよい。
【0033】
(25) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記各処理部は、曜日や平日/休日、お盆、年末年始、ゴールデンウィーク、3連休等の特殊日等の日種、その日の天候、時間帯および季節のうちの少なくとも1つを、前記各信頼度の値に反映させることが好ましい。
その理由は、上記特殊日等の日種や、その日の天候、時間帯および季節は、各処理部で用いる信頼度に大きく影響することがあるので、これらを考慮しないで一律に信頼度を算出する場合に比べて、各信頼度をより正確に算出可能となるからである。
【0034】
(26) 本発明の交通情報推定システムにおいて、前記最終決定部は、前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値の中で対応する前記信頼度が最も高い当該予測値を、前記最終予測値として出力することができる。この場合、最終予測値の決定ロジックが簡単であるという利点がある。
【0035】
(27) もっとも、前記最終決定部は、前記各処理部でそれぞれ得られた前記信頼度の値で重み付けした前記予測値の加重平均を、前記最終予測値として出力することにしてもよい。
この場合には、最終予測値の決定ロジックがやや複雑になるが、いずれか1つの予測値に断定する場合に比べて、最終予測値をより正確に決定することができる。
【0036】
(28) 本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータの記憶部に格納されており、そのコンピュータの中央演算装置がプログラムを実行することにより、当該コンピュータを、前記各項(1)〜(27)のいずれかに記載の交通情報推定システムとして機能させるためのである。
【0037】
(29) 本発明方法は、タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する方法であって、前記各項(1)〜(27)のいずれかに記載の交通情報推定システムにおいて実行される、交通情報の推定方法に関する。
【0038】
(30) また、本発明の交通情報提供システムは、前記VICS情報とプローブ情報とをタイムスパンごとに収集する情報取得部と、収集した情報に基づいて道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定部と、推定した前記交通情報をユーザに提供する情報提供部と、を備えた交通情報提供システムであって、上記交通情報推定部が、前記各項(1)〜(27)のいずれかに記載の交通情報推定システムによって構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0039】
以上の通り、本発明によれば、交通情報をリアルタイムに推定できる道路範囲を増大させることができるので、交通情報を提供できる道路リンクのエリアカバー率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を採用した交通情報提供システムの全体構成図である。
【図2】管轄エリア内の交差点部分の拡大図である。
【図3】中央装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】車載装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】本発明を採用した他の交通情報提供システムの全体構成図である。
【図6】交通情報予測部の入力情報と出力情報の概念図である。
【図7】交通情報予測部におけるデータ補完の概念図である。
【図8】交通情報予測部で生成される予測値の概念図である。
【図9】交通情報予測部が生成する出力結果の一例を示す概念図である。
【図10】本アルゴリズム全体の大まかな時間的流れを示すタイムチャートである。
【図11】本アルゴリズムのメインフローチャートである。
【図12】リアルタイムデータ処理のフローチャートである。
【図13】交通情報伝播処理のフローチャートである。
【図14】蓄積データ処理のフローチャートである。
【図15】継続データ処理のフローチャートである。
【図16】最終予測値出力処理のフローチャートである。
【図17】本アルゴリズムで用いる各予測値の情報源と特徴を纏めた表である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明を採用した交通情報提供システムの全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態の交通情報提供システムは、交通信号機1、車載装置2(図2参照)を搭載したプローブ車両5、路側センサ3、中央装置4、車載装置2と無線通信する路側通信機6などを含む。
【0042】
交通信号機1は、中央装置4の管轄エリア内の交差点Ji(i=1〜12)のそれぞれに設置され、路側通信機6は、その管轄エリア内の適所に設置されている。交通信号機1と路側通信機6は、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されており、このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
従って、中央装置4は、交通信号機1および路側通信機6とLAN(Local Area Network)を構成しており、これらと双方向の有線通信が可能である。
【0043】
図1では、図示を簡略化するために、各交差点Jiに信号灯器が1つだけ描写されているが、例えば図2に示すように、実際の各交差点Jiには、互いに交差する道路の上り下り用として少なくとも4つの信号灯器が設置されている。
路側センサ3は、例えば、直下を通行する車両を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知するループコイル、或いは、カメラの映像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器よりなり、交差点Jiに流入する車両台数や車両速度を計測する目的で、管轄エリア内の一部の道路に設置されている。
【0044】
路側センサ3が検出した定点観測情報S1は、後述する交通信号制御機1aで中継されて、通信回線7を介して中央装置4に送信される。
路側通信機6は、無線LANやWiMAX(World Interoperability for Microwave Access )などの中・広域通信装置よりなり、プローブ車両5の車載装置2との間で各種情報を無線で送受信することができる。
【0045】
図2は、管轄エリア内の交差点Ji部分の拡大図である。
図2に示すように、交通信号機1は、例えば主道路の上下線RM1,RM2および従道路の上下線RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線9を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
交通信号制御機1aは、中央装置4からの灯器制御信号S3を受信し、この信号S3に基づいて各信号灯器1bの灯色を変化させる。また、交通信号制御機1aは、近隣の路側センサ3から定点観測情報S1を受信し、これを所定周期で中央装置4に転送する。
【0046】
一方、路側通信機6は、車載装置2が計測した移動観測情報S2を受信し、これを中央装置4に転送する。この移動観測情報S2には、プローブ車両5の位置、速度、送信時刻および車両ID等が含まれており、路側通信機6はこの移動観測情報S2を中央装置4に送信する。
また、路側通信機6は、中央装置4から受信したリンク旅行時間、旅行速度および渋滞情報等を含む交通情報S4を、プローブ車両5の車載装置2に送信することができる。
【0047】
なお、移動観測情報(プローブ情報)S2の取得方法としては、多数のプローブ情報を私的に収集している管理会社のデータベースからインターネット等の広域ネットワークを介して取得する方法もある。
また、中央装置4からの交通情報4をプローブ車両5に通知する手段としては、路側通信機6だけでなく、光ビーコン(図示せず)等の狭域通信で行うこともできるし、携帯電話やPHS等の電話通信網を利用して行うこともできる。
【0048】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404および操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等を含み、路側センサ3や路側通信機6等からの各種の交通パラメータの収集・処理(演算)・記録、信号制御および情報提供を統括的に行う。
【0049】
中央装置4の制御部401は、自身の管轄エリアに属する交差点Jiの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を実行可能であり、交通状況に応じて信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長およびオフセット等)を設定する交通感応制御を行う。
また、中央装置4の制御部401は、路側センサ3から取得した定点観測情報S1に基づいて、上記交通感応制御の入力情報となる各道路リンクの旅行時間を推定する。この推定旅行時間は、定点観測に基づくVICS情報の一種である。
【0050】
なお、中央装置4の制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
中央装置4の表示部402は、自身の管理エリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や路側センサ3等の位置が表示された表示画面により構成され、中央オペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
【0051】
中央装置4の通信部403は、前記通信回線7を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとの信号灯器1bの灯色切り替えタイミング等に関する灯器制御信号S3を各交通信号機1に送信し、道路リンクの推定旅行時間と渋滞情報等を含む交通情報S4を、路側通信機6に送信する。
また、中央装置4の通信部403は、路側センサ3による定点観測情報S1を交通信号制御機1aから受信し、プローブ車両5の位置、速度および車両ID等を含む前記移動観測情報S2を路側通信機6から受信する。
【0052】
灯器制御信号S3は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、推定旅行時間と渋滞情報の交通情報S4は例えば5分ごとに送信される。
なお、後述の通り、本実施形態の交通情報予測部406による旅行速度の生成周期は15分である。従って、この旅行速度を含めた交通情報S4については、15分ごとに路側通信機6に送信される。
【0053】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成され、前記交通感応制御のための制御プログラムや、この交通感応制御等に用いる交通情報の演算プログラム(後述する本発明の交通情報予測アルゴリズムを含む。)を記憶している。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央オペレータが前記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0054】
また、本実施形態の中央装置4の制御部401は、上記交通情報の演算プログラムによる機能実現部分として、交通情報予測部(交通情報推定部)406を備えている。
この交通情報予測部406は、定点観測情報S1から推定される旅行時間(VICS情報)と、移動観測情報(プローブ情報)S2から推定される旅行時間の双方を入力情報として、道路リンクの旅行速度を適応的に予測する予測システムを採用しており、リアルタイムデータ処理部406A、交通情報伝播処理部406B、蓄積データ処理部406C、継続データ処理部406Dおよび最終予測値出力処理部(最終決定部)406Eより構成されている。なお、この予測部406のアルゴリズムについては後述する。
【0055】
〔車載装置〕
前記プローブ車両5の車載装置2は、路側通信機6との間で無線通信する通信機能と、搭乗者が設定した目的地に案内するナビゲーション機能を有する。図4は、その車載装置2の構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、車載装置2は、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208および処理部209を含む。
【0056】
GPS処理部201は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、GPS信号に含まれる時刻情報、GPS衛星の軌道、測位補正情報等に基づいて、プローブ車両5の位置(緯度、経度および高度)を計測する。
方位センサ202は、振動ジャイロなどで構成されており、プローブ車両5の方位および角速度を計測する。車速取得部203は、車速センサ(図示せず)が車輪の角速度を検出することにより計測したプローブ車両5の速度データを取得する。
【0057】
車載装置2の通信部204は、プローブ車両5がある交差点Jiに向かって走行中に、路側通信器6の通信領域に入ると交通情報S4を受信し、自身の移動観測情報S2をリアルタイム(例えば、0.1〜1.0秒周期)で路側通信器6に送信する。
車載装置2の記憶部205は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、通信部204が受信した交通情報S4等を一時記憶する。また、記憶部205は、道路地図データを記憶している。
【0058】
車載装置2の操作部206は、タッチパネルやボタン等から構成されており、ドライバーを含むプローブ車両5の搭乗者が目的地の設定等を行えるようになっている。
車載装置2の表示部207は、プローブ車両5のダッシュボード部分に取り付けられたモニタ装置(図示せず)よりなり、処理部209が作成した画像データを搭乗者に表示する。また、音声出力部208は、処理部209が作成した音声データをスピーカー(図示せず)から出力する。
【0059】
車載装置2の処理部209は、1つまたは複数のマイクロコンピュータから構成され、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208の各処理を制御する。
また、処理部209は、GPS処理部201が計測したプローブ車両5の位置、方位センサ202が計測した車両5の方位および角速度、車速取得部203が取得した車両5の速度の各データ、記憶部205に記憶している道路地図データに基づいてマップマッチング処理を行い、道路地図データのリンク上におけるプローブ車両5の位置を求める。
【0060】
〔他のシステム構成例〕
図5は、本発明を採用した他の交通情報提供システムの全体構成図である。
図5に示すように、この場合の交通情報提供システムにおける交通情報提供サーバー10は、路側センサ3からの定点観測情報に基づいて旅行時間等を含むVICS情報を生成するVICSセンター9、及び移動観測情報であるプローブ情報を取得する各種のプローブ車両5からVICS情報及びプローブ情報をそれぞれ受信してデータ処理を施す。
【0061】
交通情報提供サーバー10は、VICS情報の一次配信事業者が所有するセンター内に設置されている。このサーバー10は、VICS情報を専用回線や公衆回線を通じて取得し、かつ、携帯電話等の無線通信網を通じてプローブ情報を取得する通信インタフェースを備え、この通信インタフェースを通じて、自身が生成した渋滞情報や交通情報等の生成情報をプローブ車両5に提供可能になっている。
なお、交通情報提供サーバー10は、自身が生成した交通情報等をプローブ車両5に直接送信するだけでなく、他の事業者のサーバーに送信することもできる。
【0062】
また、交通情報提供サーバー10は、デジタル地図、経路探索、渋滞情報および各種交通情報の推定ないし予測を実行する制御部を備えており、図5に示すように、この制御部は、本発明の前記交通情報予測部406も有している。
このように、本発明の交通情報予測部406は、交通管制センターの中央装置4だけでなく、特定私企業の管理する交通情報提供サーバー10に搭載することもできる。この場合、道路リンクのエリアカバー率が従来に比べて広範囲なリアルタイム交通情報を交通情報予測部406が生成し、この交通情報を当該管理者と契約するユーザに提供することにより、ユーザに対して有利な交通情報を提供することができる。
【0063】
〔交通情報予測部による予測方法の概略〕
以下、図6〜図9を参照しつつ、中央装置4または交通情報提供サーバー9の交通情報予測部406による予測方法の概略を説明する。
なお、一般に「予測」とは、将来の出来事を予め推測することを言うが、本明細書では、時間を経ていない為に不明な出来事だけでなく、例えばデータ欠損のある道路リンクの交通情報を推定する本発明のような、空間的に不明な出来事を推測する場合をも含む広義のものとする。もっとも、後述の通り、本発明のリアルタイム性は、例えば15分程度に設定される所定のタイムスパンの範囲であれば足りるから、そのタイムスパンよりも短時間が経過した後の将来的な推測という意味では、狭義の「予測」であるとも言える。
【0064】
図6は、交通情報予測部406の入力情報と出力情報の概念図である。
図6に示すように、本実施形態の交通情報予測部406は、一部の道路リンクについて得られたVICS情報とプローブ(Probe)情報(本実施形態ではいずれも旅行時間)とを入力情報として、管轄エリア内の全ての道路リンクについての交通情報(本実施形態では旅行速度)を出力するものである。もっとも、交通情報予測部406は、VICS情報またはProbe情報の得られていない道路リンクの交通情報を出力すればよく、全ての道路リンクについて交通情報を出力しなくてもよい。
【0065】
交通情報予測部406は、予測演算の解析を一定の時間間隔(タイムスパン)で実行し、そのタイムスパンごとにほぼリアルタイムに全道路リンクについての交通情報を出力する。全体で見ると、あるタイムスパンにおいてVICS情報とProbe情報には欠損があり、欠損のある道路リンクは各タイムスパンで変わり得る。交通情報予測部406は、その欠損を補完して、そのタイムスパンごとに各道路リンクの交通情報を出力する。
なお、後述のアルゴリズムでも示すように、本実施形態の交通情報予測部406による出力情報は、道路リンクの旅行速度であるが、旅行時間その他の交通情報を出力する場合でも本発明を適用可能である。
【0066】
図7は、交通情報予測部406におけるデータ補完の概念図である。
図7に示すように、本実施形態の交通情報予測部406は、後で詳述するフェロモンシステムを利用して、VICSとプローブ(Probe)のリアルタイム情報をデータ欠損のある道路リンクにも伝播させ、これによってリアルタイム交通情報を生成する(図7の左図)。
また、交通情報予測部406は、更に、VICS情報とプローブ(Probe)情報に関する過去の蓄積データベースと、直前時間帯(前回のタイムスパン)の予測結果とを、交通情報の予測結果に対する適応的な補間データとして用いる(図7の右図)。
【0067】
図8は、交通情報予測部406で生成される予測値の概念図である。
図8に示すように、本実施形態の交通情報予測部406は、VICS情報とプローブ(Probe)情報のリアルタイム交通情報と、これをフェロモンシステムによって周囲の道路リンクに伝播させた伝播予測交通情報と、VICS情報とプローブ(Probe)情報に関する過去の蓄積データベースと、直前時間帯の予測結果とを、タイムスパンごとに各道路リンクについてそれぞれ信頼度付きで生成する。
【0068】
図9は、交通情報予測部406が生成する出力結果の一例を示す概念図である。
図9に示すように、交通情報予測部406は、そのタイムスパンに対し、上記信頼度が最も高い種別の予測値を当該道路リンクの最終予測値として採用することができる。
図9に示す例では、リンクAとリンクDではリアルタイム交通情報が選択され、リンクBでは蓄積データベースが選択され、リンクCでは伝播交通情報が選択され、リンクEでは直前時間帯の予測情報が選択されている。
この選択は、図8の例に対応している。例えばリンクAではリアルタイム交通情報の信頼度が0.8、蓄積データベースの信頼度が0.6、直前時間帯の予測情報の信頼度が0.7となっている。すなわち、リンクAではリアルタイム交通情報の信頼度が最も高い。その結果、交通情報予測部406は、そのタイムスパンにおけるリンクAに対しリアルタイム交通情報の予測値を最終予測値として採用する。
【0069】
このように、交通情報予測部406は、各道路リンクについて信頼度が最も高い種別の予測値を採用して、全ての道路リンクについての最終予測値を決定する。
なお、図3では、交通情報予測部406が交通管制センターの中央装置4にある場合を例示したが、VICS情報とプローブ(Probe)情報を所定時間ごとに取得できる通信環境が整っている場所であれば、その設置場所は中央装置4に限定されない。
例えば、交通情報予測部406を交通信号機1に設けることもできる。その場合は、当該信号機周辺道路の路側センサ3から受信した定点観測情報S1や、路側通信機6から受信したプローブ情報(移動観測情報)S2から、信号機毎に分散処理して各信号機周辺リンクの交通情報予測値を算出し、路側通信機6を介してプローブ車両5に交通情報を提供したり、一旦中央装置4に各信号機からの情報を集約した後で、交通情報を提供したりしてもよい。
【0070】
〔交通情報予測アルゴリズム〕
次に、図10〜図16を参照しつつ、本実施形態の交通情報予測部406が実行するアルゴリズム(以下、単に「本アルゴリズム」と略記する。)について説明する。なお、本アルゴリズムの説明には、次の章と節が含まれる。
【0071】
<1.本アルゴリズムの概要>
<1.1 アルゴリズムの流れ>
<1.2 道路リンクの定義>
<1.3 アルゴリズムの入出力>
<1.4 アルゴリズムの特徴>
<2.交通情報予測アルゴリズム>
<2.1 リアルタイムデータ処理>
<2.2 交通情報伝播処理>
<2.3 蓄積データ処理>
<2.4 継続データ処理>
<2.5 最終予測値出力処理>
<2.6 交通情報伝播処理におけるエージェント行動の変形例>
【0072】
<1.本アルゴリズムの概要>
<1>の章では、本アルゴリズムの入出力や解析対象となる道路リンクの定義について述べ、最後に本アルゴリズムの特徴について簡単に説明する。
【0073】
<1.1 アルゴリズムの流れ>
本アルゴリズムでは、VICSシステムおよびProbeシステムから得たリアルタイムの交通情報を基に、その時点の全ての道路リンクの交通情報を予測する。
ここでの道路リンクとは、同一のVICSリンク番号が振られている単位道路リンクの纏まりを指すものとする。また、交通情報に関しては、入力とする交通情報は各リンクの旅行時間を指し、出力とする交通情報は各リンクの旅行速度を指すものとする。なお、道路リンクと入出力の交通情報の詳細については、後の<1.2>節および<1.3>節で説明する。
【0074】
本アルゴリズムでは、入力された交通情報(この場合は、各道路リンクの旅行時間)を用いて、次の(1)〜(4)に列挙する4種類の予測値を各道路リンクごとに算出する。
(1) リアルタイム予測値
(2) 伝播予測値
(3) 蓄積予測値
(4) 継続予測値
【0075】
(1) リアルタイム予測値
これは、入力されたVICSおよびProbeリアルタイムの交通情報から算出される予測値のことである。
そして、VICSのリアルタイム予測値とProbeのリアルタイム予測値がそれぞれ信頼度つきで計算され、信頼度の高いほうがリアルタイム予測値として採用される。このリアルタイム予測値は、精度の高いVICS機器が設置されている道路リンクや、Probeの交通情報が多く入った場合の予測を行う際に特に有効となる。
【0076】
(2) 伝播予測値
これは、特定の道路リンクのリアルタイム予測値を近隣の他の道路リンクに伝播させることによって生成される予測値である。伝播されてできた予測値の中で、最も信頼度の高いものが伝播予測値として採用される。
この伝播予測値は、自身の道路リンクのリアルタイム予測値や後述の蓄積・継続予測値の信頼度が低く、周囲に信頼度の高いリアルタイム交通情報を有する道路リンクが存在する場合に特に有効となる。
【0077】
(3) 蓄積予測値
これは、入力された各リアルタイム交通情報(VICSおよびProbeのリアルタイム交通情報)を長期間蓄積した蓄積データベースから算出される予測値である。VICSおよびProbeそれぞれの蓄積予測値がそれぞれ信頼度つきで算出され、信頼度の高い方が蓄積予測値として採用される。
この蓄積予測値は、リアルタイム交通情報が過去に比較的大量に蓄積された道路リンクであり、今回のタイムスパンにおいて良いリアルタイム交通情報が得られなかった場合の予測に特に有効となる。
【0078】
(4) 継続予測値
これは、自身の道路リンクの直前の最終予測値を用いて算出される予測値である。信頼度は直前の最終予測値の信頼度に基づいて計算される。
この継続予測値は、今回のタイムスパンにおいて良いリアルタイム交通情報が得られず、かつ直前に比較的精度の良い予測が行われた際に特に有効となる。
【0079】
以上の(1)〜(4)の各予測値には、それぞれ予測の確かさを示す信頼度が同時に算出され、本アルゴリズムでは、最終的に4つの予測値のうで最も信頼度の高いものが最終予測値として採用される。
なお、図17に、本アルゴリズムで用いる上記各予測値の情報源と特徴を纏めた表を掲載する。
【0080】
図10は、本アルゴリズム全体の大まかな時間的流れを示すタイムチャートである。
図10に示す通り、本アルゴリズムによる解析は、予め設定された一定時間間隔(図10の例では15分)ごとに行われ、各道路リンクの予測交通情報は当該時間間隔ごとに得られる。本アルゴリズムでは、この各解析の時間間隔をタイムスパンと呼ぶ。
【0081】
本アルゴリズムにおいて、上記タイムスパンを短く設定すれば、よりリアルタイムな交通情報の予測値が得られるが、その反面、一回の解析に用いる入力交通情報が少なくなるので、精度が落ちるという欠点が生じる。
また、上記タイムスパンを長く取れば、入力交通情報を多く確保できるため予測精度の向上が期待できるが、交通情報予測のリアルタイム性に乏しくなってしまう。これらはトレードオフの関係にあるので、適切なタイムスパンを設定する必要がある。
【0082】
<1.2 道路リンクの定義>
本アルゴリズムにいう道路リンクとは、同一のVICSリンク番号を有する単位道路リンクの纏まりを指す。ここで、単位道路リンクとは、一般に、交差点によって区切られる片方向道路のことをいう。VICSリンク番号は、VICSセンターによって必要となる主要な単位道路リンクに割り振られているが、全ての単位道路リンクがVICSリンク番号を有しているわけではない。
また、VICSリンク番号が割り振られている道路であっても、VICS機器が設置されていないリンクも多数存在する。このVICSリンク番号はVICSセンターによって管理されており、適宜更新されている。
【0083】
<1.3 アルゴリズムの入出力>
本アルゴリズムでは、入力として、リアルタイムで得られるVICS交通情報およびProbe交通情報を用いている。前記した通り、各入力情報はいずれもリンク旅行時間であるが、それぞれの特徴を以下で説明する。
【0084】
(1) リアルタイムVICS交通情報
これは、道路リンクに設置されているVICS機器が一定時間間隔ごとに出力する平均リンク旅行時間である。現在日本では、5分間隔でこの旅行時間が出力されており、基本的に24時間365日常に当該交通情報が得られる。
もっとも、VICS機器の中には欠損データを出すものも存在する。また、VICS機器は必ずしも全ての道路リンクに設置されているものではないので、リアルタイムVICS交通情報が得られない道路リンクもかなり存在する。
【0085】
(2) リアルタイムProbe交通情報
これは、Probeシステムを搭載した車両が該当道路リンクを通過した際に要した旅行時間のことであり、各車両がアップロードしたデータごとに独立したリアルタイム交通情報として扱われる。
すなわち、Probe車両が通過した数だけリアルタイムProbe交通情報が得られるが、Probe車両が通過しなかった道路リンクについてはリアルタイムProbe交通情報は得られない。
【0086】
なお、本アルゴリズムでは、Probeデータのリンクマッチングおよび異常値除去の処理を行ったProbe交通情報を用いている。
各リアルタイム交通情報が得られるタイミングは、VICSが5分ごとに、Probeが道路リンクを通過した際の任意のタイミングであるが、本アルゴリズムでは一定の時間間隔(タイムスパン)ごとに解析を行うため、入力とするリアルタイム交通情報は、解析対象のタイムスパンにおいて得られた交通情報を纏めたものとなる。
【0087】
例えば、図10に示すように、タイムスパンが15分であり、出力時刻t=9:15の交通情報の予測を行う場合には、9:00〜9:15の間に得られたリアルタイムVICS交通情報およびリアルタイムProbe交通情報が入力情報となる。
なお、このさい、同じタイムスパン内において、同じ道路リンクについて複数のVICS交通情報が存在する場合には、最新のものをもってリアルタイムVICS交通情報とした。従って、各解析で入力されるリアルタイム交通情報には、1つ以下のリアルタイムVICS交通情報および0個以上のリアルタイムProbe交通情報が含まれる。
【0088】
また、本アルゴリズムでは、入力されたリンク旅行時間は道路リンク長を用いてリンク旅行速度に変換され、最終的にリンク旅行速度という予測値の形で出力される。本アルゴリズムによる各解析は前記タイムスパンごとに行われるため、タイムスパン経過ごとに各道路リンクの予測リンク旅行速度が出力される。
【0089】
<1.4 アルゴリズムの特徴>
本アルゴリズムの最大の特徴は、各道路リンクごとに、リアルタイム予測値、伝播予測値、蓄積予測値、継続予測値の4種類の予測値を信頼度付きで算出する点にある。これにより、各道路リンクで得られる交通情報に合わせた予測処理が可能となる。
例えば、交通量が多く、リアルタイムProbe交通情報が多く得られる道路リンクに関しては、リアルタイム予測値の信頼度が高くなり、最終予測値に採用されやすくなる。これとは反対に、交通量が少なく、得られるリアルタイム交通情報が乏しい道路に関しては、周囲の道路からの伝播を重視して予測を行うといった処理が実現される。
【0090】
その他にも、普段は交通量が多いが、たまたま入力となるリアルタイム交通情報が得られなかった道路リンクの解析には、蓄積予測値や継続予測値を用いるといった処理も考えられる。特に、より実際の交通状況を反映するProbe交通情報が少ない場合には、リアルタイム予測値が正しく算出され難くなってしまうため、伝播・蓄積・継続の各予測値を用いて正しく補完することが重要となる。
現在では、Probeシステムを搭載した車両はまだまだ少なく、将来的にも普及には時間がかかる見通しであるため、本アルゴリズムにおける道路リンクごとの予測処理手段の選択は効果的であると考えられる。
【0091】
<2.交通情報予測アルゴリズム>
<2>の章では、本アルゴリズムの詳細について述べる。
図11は、本アルゴリズムのメインフローチャートである。この図11に示すように、本アルゴリズムは、大まかには次の1.〜5.に列挙する5つの処理に分類することができる。
【0092】
1.リアルタイム予測交通情報を算出するリアルタイムデータ処理(ステップST11−1)
2.伝播予測交通情報を算出する交通情報伝播処理(ステップST11−2)
3.蓄積予測交通情報を算出する蓄積データ処理(ステップST11−3)
4.継続予測交通情報を算出する継続データ処理(ステップST11−4)
5.最終予測交通情報を算出する最終予測値出力処理(ステップST11−5)
なお、上記において、全ての処理を実行する必要はない。例えば、リアルタイムデータ処理で算出したリアルタイム予測値の信頼度が所定値以上の場合は、蓄積データ処理や継続データ処理の一方又は両方をスキップしてもよい。
【0093】
本アルゴリズムでは、1.〜4.までの各処理において各予測値および各信頼度を算出し、5.の処理によって最終出力となる交通情報の最終予測値を決定する。
この予測値は、該当道路リンクの予測旅行速度を表し、信頼度は予測値の確からしさを示す、0.0〜1.0の値で出力される。以後、これらの予測値と信頼度を合わせて「予測交通情報」と呼ぶことがある。
【0094】
これら1.〜5.の各処理は、一回の解析(t)において、全ての道路リンクについて一度ずつ行われる。全ての道路リンクについて1.〜5.の全処理が終了すると、蓄積データベースおよびフェロモン場の値を保持した状態で、次の入力情報が入ってくるのを待ち、次の解析(t+1)に備える。
以上の処理を繰り返すことで、リアルタイムに交通情報の予測を行う。以下、上記各処理1.〜5.の具体的な内容について説明する。
【0095】
<2.1 リアルタイムデータ処理>
図12は、リアルタイムデータ処理のフローチャートである。
この処理部では、入力されたリアルタイム交通情報を基にリアルタイム予測値を算出する。その際、リアルタイムデータの蓄積データベースへの蓄積、およびVICS信頼度の更新も同時に行う。
【0096】
リアルタイム予測値を算出するため、まずはVICSリアルタイム予測値およびProbeリアルタイム予測値をそれぞれ信頼度付きで算出する。
これらの各リアルタイム予測値は、入力されたVICSリアルタイム交通情報およびProbeリアルタイム交通情報から直接算出される交通情報の予測値を表し、それらの各信頼度はそれぞれの情報の確かさを示す。
【0097】
(a) 蓄積データベースの更新(ステップST12−1,ST12−4)
図12に示すように、このリアルタイムデータ処理では、まずはじめに、入力リアルタイム交通情報を蓄積データベースに追加する。
追加されるデータは、リンク旅行時間である各入力リアルタイム交通情報をリンク旅行速度に変換したものとする。蓄積データベースにはVICSおよびProbeの2種類があり、それぞれタイムスパンの間隔で区切られた時間帯ごとにデータが保存されている。
【0098】
例えば、タイムスパンが15分である場合、蓄積データベースは、(0:00〜0:15),(0:15〜0:30),……(23:45〜24:00) の合計96個のデータ領域に分割されることになる。
各データ領域には、データの最大保存件数Smax が定められており、この最大保存件数Smax を超えた数の交通情報が追加されると、古い情報から消去される。
また、各リアルタイム交通情報にはデータ取得日時情報も追加しておき、システム稼動中であってもタイムスパンの値を変更して蓄積データベースを再作成できるようにしてもよい。
【0099】
最大保存件数Smax は蓄積データベースの精度と適応性に関係しており、Smax を大きく設定すればそれだけ保存データ量も多くなり精度の向上も期待できるが、その反面、一つ一つの交通情報の持つ重みが小さくなるため、交通情報の傾向の変換に適応しづらくなってしまう。
なお、本アルゴリズムは、Smax =30に設定した。これは、VICS機器が設置されている道路リンクの場合、約1ヶ月分のデータ容量を確保することに相当する。
【0100】
(b) VICSリアルタイム予測値算出(ステップST12−2)
VICSのリアルタイム交通情報が入力された場合、道路リンク長を用いてリンク旅行速度に変換し、それをもってVICSリアルタイム予測値とする。
すなわち、今回の解析(t) において、ある特定のリンクiにVICSリアルタイム交通情報Ivi(t) が入力された場合、そのリンクiのVICSリアルタイム予測値RVvi(t) は、以下のように計算される。
【0101】
【数1】

【0102】
ここで、li はリンクiの道路リンク長を指す。
また、該当リンクのVICSリアルタイム交通情報が入力されなかった場合、VICSリアルタイム予測値は0とする。
【0103】
(c) VICSリアルタイム信頼度算出(ステップST12−3)
次に、算出したVICSリアルタイム予測値の確かさを示すVICSリアルタイム信頼度を算出する。
Probe交通情報は直接車両の動きから得た情報であるのに対し、VICS交通情報は間接的に道路状況を捕らえたものとなっている。よって、VICS機器の信頼度はProbe交通情報を真と考え、そのProbe交通情報を正しく説明できるような交通情報を出力しているかどうかで判断する。
【0104】
ここで、蓄積されたProbe交通情報をSp1i(t),Sp2i(t),……,Spni(t) とし、それらのProbe交通情報が蓄積された際のVICS交通情報をSv1i(t),Sv2i(t),……,Svni(t)とした場合、VICSリアルタイム信頼度RRvi(t) は次のように算出される。
【0105】
【数2】

【0106】
なお、Probe交通情報Spki(t) が蓄積された際のVICS交通情報Svki(t) が0 であった場合には、信頼度算出には用いないものとした。
また、VICS交通情報の質はそれを出力するVICS機器の精度に依存するため、半永久的に変わらないものであると考えられる。すなわち、一回の解析ごとにVICS 信頼度を新規に算出・破棄するのではなく、一定量のProbe交通情報およびそれに対応するVICS交通情報を蓄積し、それらから算出するものとする。
【0107】
(d) Probeリアルタイム予測値算出(ステップST12−5)
Probeのリアルタイム交通情報が入力された場合、道路リンク長を用いてリンク旅行速度に変換し、それらの平均をもってProbeリアルタイム予測値とする。
解析tにおいて、リンクiにProbeリアルタイム交通情報Ip1i(t),Ip2i(t),……,Ipmi (t) が入力された場合、Probeリアルタイム予測値RVpi(t) は以下のように計算される。
【0108】
【数3】

【0109】
また、VICSリアルタイム予測値の場合と同様に、該当リンクのProbeリアルタイム交通情報が入力されなかった場合Probeリアルタイム予測値は0となる。
【0110】
(e) Probeリアルタイム信頼度算出(ステップST12−6)
次に、VICSの場合と同様に、Probeリアルタイム予測値のリアルタイム信頼度を算出する。Probe交通情報は、個々の情報ごとに独立したものであり、前後の解析のProbe交通情報との関連性は無い。よって、一回の解析ごとに新規算出・破棄されるものである。
【0111】
上記で算出されるProbeリアルタイム予測値は個々のProbe交通情報の平均であり、その確からしさは、a)入力Probe交通情報のデータ量、b)入力Probe交通情報のばらつきの2点で決定される。すなわち、データ量が多く、それらの分散が小さい場合は信頼できる交通情報であるといえ、逆にデータ量が少なかったり、得られたデータの分散が大きい場合は信頼感に欠ける交通情報と判断できる。
ここで、解析(t) で得られたProbe交通情報の個数がnpi(t)、それらの標準偏差がvpi(t)であった時の、Probeリアルタイム信頼度RRpi(t) は次のように計算される。
【0112】
【数4】

【0113】
なお、上記式(1.6)〜(1.8)におけるf(npi(t)), g(vpi(t)) は、それぞれProbeデータ量の多さ、分散の小ささを示す指標となっている。
【0114】
(f) リアルタイム予測値算出(ステップST12−7〜ST12−9)
以上で求めたVICSリアルタイム予測値およびProbeリアルタイム予測値から、最終予測値算出に用いるリアルタイム予測値を決定する。具体的には、次の式(1.9)および(1.10)に示すように、信頼度の高い方の予測値・信頼度をもって、リアルタイム予測値RVi(t)およびリアルタイム信頼度RRi(t)とする。
【0115】
【数5】

【0116】
<2.2 交通情報伝播処理>
図13は、交通情報伝播処理のフローチャートである。
この処理部では、リアルタイムデータ処理部で得られた各道路リンクのリアルタイム予測情報を、周囲の道路リンクへ適切に伝播させる。この伝播処理により、信頼できる情報源の交通情報が入力交通情報の乏しい道路リンクに広まり、適切な交通情報の補完がなされる。
なお、ここで言う「リアルタイム予測交通情報」とは、リアルタイム予測値およびリアルタイム信頼度を指すものとする。
【0117】
この処理部で最も重要なのは、いかにして正しい伝播経路を発見するかという問題であり、本アルゴリズムでは、フェロモンシステムを用いてその解決を図った。
すなわち、伝播経路の正しさを示す場として、フェロモン場を全道路リンクで共有する仮想空間上に用意し、各道路リンクのリアルタイム予測情報をアリエージェントに運んでもらうという方式を採用した。
【0118】
まず、このアリエージェントは、各道路リンク上にその道路リンクのリアルタイム予測交通情報を所持した状態で生成される。その後、フェロモン場上のフェロモン量によって移動経路(=伝播経路)を決定し、移動先の道路リンクへ、自身の所持するリアルタイム予測交通情報(リアルタイム予測値とリアルタイム信頼度)を伝播させる。
また、移動後に自身の所持するリアルタイム予測交通情報と移動先のリアルタイム予測情報とを比較して、移動経路の良し悪しの評価を行い、その評価値として移動経路上のフェロモン値を更新する。
【0119】
本アルゴリズムでは、上記の伝播と更新を各解析ごとに繰り返すことで正しい伝播経路を獲得し、適切な予測情報の補完を達成することにした。
ここで、正しい伝播経路を獲得することは、言い換えれば、相関性(相関度)の高い道路リンク関係を発見することを意味する。この相関性は、例えば時間帯と共に動的に変化することも考えられるため、フェロモンシステムの有する柔軟性と適応性は交通情報の伝播処理に有効な性質であるといえる。
【0120】
(a) アリエージェント生成(ステップST13−1)
まず、各道路リンク上に、リアルタイム信頼度に応じた数のアリエージェントを生成する。このアリエージェントは、生成元のリアルタイム予測交通情報を所持しており、他の道路リンクへこの情報を広める役割を持っている。
そのため、信頼度の高いリアルタイム予測交通情報を所持する道路リンクでは、アリエージェントがより多く生成されるように設定されている。
【0121】
解析tでの道路リンクiにおけるアリエージェント生成数Nai(t) は、次のように決定される。ここで、Nmax はアリエージェント生成数の最大値を示すパラメータである。
【数6】

【0122】
(b) アリエージェント移動経路選択(ステップST13−2)
次に、各アリエージェントの移動経路を決定する。各アリエージェントの移動先道路リンクの選択肢としては、例えば、自身の道路リンクの前後に位置するHmax ホップ以内の道路リンクが考えられる。
各道路リンクは、それぞれの各移動対象道路リンクに対して、交通情報(本アルゴリズムでは旅行時間)の相関性の高さを示すフェロモン値を有する。このフェロモン値は、0以上τmax 以下の値をとり、アリエージェントの評価による増加もしくは蒸発による減少がなされる。
【0123】
また、t=0の解析開始時には、全ての移動対象道路リンクに一律に、初期値としてのτini が与えられる。
各アリエージェントはこのフェロモン値(相関度)が高い対象道路リンクへ好んで移動するように設定されおり、これは相関性の高い道路リンクへ交通情報を伝播させる仕組みとして働いている。道路リンクiから移動対象道路リンクjへのフェロモン値をτi,j(t) とすると、道路リンクiからjへのアリエージェントの移動確率pi,j(t) は、次の式(1.12)のように定義することができる。
【0124】
【数7】

【0125】
この時、フェロモン場には、自身の道路リンクへ止まるように促すフェロモンτi,i(t)(=τstay)も一律に設定されており、移動対象道路リンクとして自身の道路を選択したアリエージェントは、これ以降の情報伝播・経路評価は行わない。これは、周囲に相関性の高い道路リンクが存在しない場合に、無駄な伝播をなくすための仕組みである。
また、アリエージェントは、一定の確率Arandomで、フェロモン値によらずランダムに移動対象道路の中から1つの道路リンクを選ぶように設定されている。これは、過度なフェロモン場の収束が発生し実際には相関が強い道路への経路が発見されなくなってしまうという事態を防止するためである。
【0126】
(c) 移動経路に応じた信頼度調整(ステップST13−3)
移動経路の決定後、各アリエージェントは、決定した対象道路リンクへ移動を行い、通過した経路情報によって自身の所持する信頼度を調整する。この調整に関わる要因としては、移動ホップ数および移動経路のフェロモン値があり、これらはそれぞれ近い道路リンクの方が関連性が高い可能性があること、関連性が高いと判断されている道路リンクへの伝播の方がより信頼できる情報となることに繋がっている。
【0127】
このエージェントの移動ホップ数をhi,j とすると、ある特定のアリエージェントkが所持する予測交通情報AVkj(t),ARkj(t) は、次の式(1.13)および(1.14)のように計算される。
ここで、Hreduce は、エージェントが1ホップ移動するごとに減少する信頼度の割合を示すパラメータである。
【0128】
【数8】

【0129】
(d) 予測交通情報伝播(ステップST13−4)
移動を終えた各アリエージェントは、自身の所持する予測交通情報AVkj(t),ARkj(t) を移動先の道路リンクjへ伝播させる。全ての道路リンク上に生成されたアリエージェントが伝播を終えると、各道路リンクは、自身に伝播された予測交通情報の中から最も信頼度の高いものを、伝播予測交通情報として採用する。
ある道路リンクjにおいて、伝播された予測交通情報がAV1j(t),AV2j(t),……,AVnj(t)、および、AR1j(t),AR2j(t),……,ARnj(t)であった場合、伝播予測値DVj(t)および伝播信頼度DRj(t)は、以下のようになる。
【0130】
【数9】

【0131】
(e) 移動経路評価(ステップST13−5)
最後に、アリエージェントは自身が通過した移動経路の正しさを評価し、その評価値に見合った量のフェロモンを経路に付加する。
この移動経路の評価は、エージェントの生成元の予測交通情報と移動先の予測交通情報の類似度、および生成元の予測信頼度で決定される。すなわち、例えば予測交通情報が近い道路間では、相関性が高いと判断されてフェロモンが多く付加され、その結果、より多くのアリエージェントを招きやすくなるといった正のフィードバックループが働く。
【0132】
また、予測交通情報の類似度が高くても、その予測交通情報が不確かなものであればフェロモンを付加することはできないため、生成元の予測信頼度も重要となる。
道路リンクiから道路リンクjへのフェロモン増加量Δτi,j(t)は、該当リンク間の移動アリエージェント数をni,j(t)とすると、以下のように計算される。
【0133】
【数10】

【0134】
ここで、si,j(t)は二つの道路リンクの予測交通情報の類似度を表す値であり、βは類似度算出の際に用いられるパラメータであり、0.0〜1.0の値をとる。
また、移動先の道路においてリアルタイム交通情報が生成されていない場合は、直前の解析結果である最終予測値FVj(t) をもって代用する。
なお、上記アリエージェントの寿命は1回の解析内のみであり、経路評価を終えると消滅する。
【0135】
(f) フェロモン蒸発(ステップST13−6)
フェロモンは、一回の解析ごとに一定割合eで蒸発し、減少する。これを数式で表現したものが、下の式(1.20)である。この蒸発により、相関性の低い道路間のフェロモン値が下がり、無駄な伝播経路を淘汰することができる。
【数11】

【0136】
以上の手順を経て、各道路リンクの伝播予測交通情報が算出される。
また、上記で説明したフェロモン場は、一回の解析を終えても引き継がれるため、解析を経るごとに正しい道路間の相関関係として学習されていくことになる。
また、蒸発作用およびアリエージェントのランダムな移動により、過度の収束を回避して、集中化と分散化の両立を図っている点も注目されたい。
【0137】
<2.3 蓄積データ処理>
図14は、蓄積データ処理のフローチャートである。
この処理部では、リアルタイム交通情報を蓄積して得られる蓄積データベースをもとに蓄積予測交通情報を算出する。蓄積予測交通情報は、その道路リンクの通常時の交通情報を表す、いわば統計的なデータとなる。
【0138】
蓄積データベースは、VICSおよびProbeについてそれぞれ作成され、各リアルタイム交通情報が入力されるたびに各データベースへ蓄積される。よって、蓄積予測交通情報は、リアルタイム予測交通情報と同様にVICSおよびProbeの予測交通情報が算出され、信頼度の高い方を採用するといった手順が採られる。
また、蓄積予測値には過去の蓄積データの平均が用いられるため、毎日の同じ時間帯の交通量が安定している場合には効果的だが、日によって同じ時間帯の交通量が異なる道路リンクや、事故や道路規制等によって通常時とは異なる交通量となる道路リンクの予測には適さないといった特徴がある。
【0139】
(a) 蓄積VICS予測交通情報の算出(ステップST14−1,ST14−2)
ここでは、蓄積VICSデータベースから蓄積VICS予測値および蓄積VICS信頼度を算出する。蓄積VICS予測値SVvi(t) は、解析を実行している該当時間帯に蓄積された交通情報の平均値であり、蓄積VICS信頼度SRvi(t) は、蓄積されたVICS交通情報のデータ量およびそのVICS機器の精度を示す、VICS信頼度RVi(t) から算出される。
【0140】
ここで、蓄積VICSデータベースの該当時間帯に蓄積されているVICS交通情報をSv1i(t),Sv2i(t),……,Svni(t)とすると、蓄積VICS予測交通情報は、以下のように計算される。
【数12】

【0141】
(b) 蓄積Probe予測交通情報の算出(ステップST14−3,ST14−4)
次に、蓄積Probeデータベースから蓄積Probe予測値および蓄積Probe信頼度を算出する。
蓄積VICS予測値と同様に、蓄積Probe予測値SVpi(t) も蓄積された交通情報の平均値とする。また、蓄積Probe信頼度SRpi(t) は蓄積されたProbe交通情報のデータ量によって決定される。よって、長期間の解析を通じて充分な量のProbeデータを蓄積した道路リンクでは、蓄積Probe信頼度はほぼ一定となる。
【0142】
蓄積Probeデータベースの該当時間帯に蓄積されているProbe交通情報をSp1i(t),Sp2i(t),……Spmi(t)とすると、蓄積Probe予測交通情報は、以下のように計算される。ここで、γは蓄積Probe信頼度の最大値を定めるパラメータである。
【数13】

【0143】
(c) 蓄積予測交通情報の算出(ステップST14−5〜ST14−7)
最後に、蓄積予測交通情報として、蓄積予測値SVi(t)および蓄積信頼度SRi(t)を算出する。
次の式(1.25)および(1.26)に示すように、リアルタイム予測交通情報の場合と同様に、VICSおよびProbeの蓄積予測交通情報のうちで信頼度の高い方をもって蓄積予測交通情報とする。
【0144】
【数14】

【0145】
<2.4 継続データ処理>
図15は、継続データ処理のフローチャートである。
この処理部では、1つ前の解析結果である最終予測交通情報を用いて継続予測交通情報を算出する。この予測は、短時間の間では交通状況は急激には変化しないという仮定に基づいたものであり、交通量の変化が比較的緩やかな場合に効果的なものとなる。
従って、個々の解析の間隔を示すタイムスパンが大きく設定されると精度が悪くなるという欠点も存在するが、入力交通情報が少ない場合には、より多くの道路リンクの補完に役立つものとなる。
【0146】
(a) 継続予測交通情報の算出(ステップST15−1)
継続予測値CVi(t)は、直前の解析結果である最終予測値FVi(t-1)をそのまま用い、継続信頼度CRi(t)は、直前の最終信頼度FRi(t-1)に継続信頼度減少率Creduceをかけたものとする。すなわち、次の式(1.27)および(1.28)に示す通りである。
【0147】
【数15】

【0148】
<2.5 最終予測値出力処理>
図16は、最終予測値出力処理のフローチャートである。
この処理部では、前記<2.1>〜<2.4>の4つの各処理で算出したそれぞれの予測交通情報から、例えば最も信頼度が高いという点で信頼度が確かである予測交通情報を最終予測値として採用し、出力する。この最終処理により、各道路リンクの特性や入力されたリアルタイム交通情報の内容に合わせた予測方法で、交通情報(ここでは、道路リンクの旅行速度)の予測が実現されることとなる。
【0149】
(a) 最終予測交通情報の算出(ステップST16−1)
ここで、最終予測値をFVi(t)、最終信頼度をFRi(t)とすると、これらの算出方法は以下のようになる。
【0150】
【数16】

【0151】
<2.6 交通情報伝播処理におけるエージェント行動の変形例>
なお、上記フェロモンシステムによる交通情報伝播処理部において、アリエージェントの行動パターンを多様化させることにしてもよい。
すなわち、前記<2.2>節では、フェロモン値の分布にそのまま単純に従って行動するアリエージェント(式(1.12)参照)と、完全にランダムに移動先を決定するアリエージェントの二種類を採用していたが、例えば、次の式(1.31) や(1.32)のように、フェロモン値への敏感性を変化させたアリエージェントの導入が考えられる。
【0152】
【数17】

【0153】
上記式(1.31)では分子をフェロモン値の2乗で定義しているので、この式で移動先を決定するアリエージェントは、フェロモン値の高低をよりはっきりとかぎ分けることができ、正しい道路の相関獲得を早めることができる。
他方、式(1.32)では分子をフェロモン値の1/2乗で定義しているので、この式で移動を行うアリエージェントは、フェロモン値の高低に関して鈍感であり、道路相関獲得の際の過度の収束を抑える働きをする。
【0154】
したがって、例えば、相関性の高い道路が周辺にあまり無い場合には、フェロモン値に対して敏感な式(1.31)のアリエージェントを多く採用して収束を早め、逆に、都市中心部などの、時間と共に道路間の相関が複雑に変化するエリアなどでは、フェロモン値に対して鈍感な式(1.32)のアリエージェントを多く採用して、正しい相関の局所解を避けるといったように、各道路特性に合わせてアリエージェントの起用比率を適宜決定すれば、さらに適切な伝播処理を行うことができる。
【0155】
また、式(1.33)に示すように、アリエージェントの移動の際にフェロモン値以外の情報をヒューリスティック情報として使用し、正しい移動経路獲得に役立てることなども考えられる。
【0156】
【数18】

【0157】
ここで、式(1.33)において、ηi,j(t)は移動経路i〜j間のヒューリスティック値であり、γはτに対するηの重みを表す。
このηi,j(t)が高ければ、アリエージェントはさらに移動経路i〜j間を移動しやすくなる。例えば、移動経路i〜j間のホップ数をHi,j とした時に、次の式(1.34)のようにアリエージェントの移動確率を定めれば、アリエージェントは近くの道路リンクを好んで移動対象とするようになる。
【0158】
【数19】

【0159】
ヒューリスティックに用いる情報としては、他にも対象道路との道路種別の類似性や規制速度の類似性など様々なものが考えられる。
上記に挙げた多様なアリエージェントと併用することで、さらに効率的な伝播経路の獲得が達成されると考えられる。
【0160】
〔本アルゴリズムの変形例〕
〔相関度の算出方法の変形例〕
本アルゴリズムでは、交通情報伝播処理において、アリエージェントの生成元(伝播元)の予測交通情報とアリエージェントの移動先(伝播先)の予測交通情報の類似度と、その生成元の予測交通情報の信頼度とから、移動経路評価を行って相関度(フェロモン値)を決定しているが、その相関度の算出を、速度値自体の一致度だけでなく、速度変化量の一致度や速度変化方向の一致度、或いは、速度変化量の差分値や速度変化比の一致度により算出することもできる。
【0161】
また、交通情報伝播処理において、道路リンク間の相関関係の時間的な継続性を考慮することにしてもよい。
例えば、一定期間連続して相関関係が存在すれば、付加する相関度(フェロモン量)を大きくするというように、1回の相関関係の変化だけでは相関度をあまり変更せず、傾向が続いた場合に大きく変化させる。
【0162】
更に、交通情報伝播処理において、正の相関関係だけでなく、負の相関関係も考慮して相関度を設定してもよい。
例えば、ある1つの路線上に2つの渋滞発生地点が存在し、手前の渋滞地点が渋滞すれば先の渋滞地点は渋滞しない等のように、ある特定の道路リンクが渋滞すると、他の道路リンクが必ず空くような場合がこれに該当する。
【0163】
また、交通情報伝播処理において、道路リンクの1対1の相関関係だけでなく、複数リンク間の相関度を設定することにしてもよい。
例えば、あるリンクAが渋滞しただけでは他のリンクBは必ずしも渋滞しないが、リンクAとリンクCが同時に渋滞すれば、リンクBが必ず渋滞するというような場合がこれに該当する。
【0164】
更に、交通情報伝播処理において、相関度の設定に際して、タイムスパンよりも長い時間遅れを考慮してもよい。
例えば、あるリンクAが渋滞すると所定時間後にリンクBが必ず渋滞するような場合において、10分後、20分後、30分後の両者間の相関度を設定しておけば、渋滞予測等に利用することができる。この時間遅れは、リンク間の距離やリンク間の道路種別に応じて、遅れ時間の間隔を設定することができる。例えば、近距離や高速道では短く、長距離や一般道では長くする。
【0165】
また、相関度を設定する道路リンクの対が上り線/下り線の関係がある場合は、時間遅れを考慮する時間間隔を非常に大きくすることができる。例えば、観光地へのアクセス道の場合は、上りが朝方混むと下りは夕方混むことがある。
【0166】
本アルゴリズムの交通情報伝播処理において、混雑状況(順調、混雑、渋滞)や、速度帯に応じて、相関度を設定してもよい。
例えば、渋滞時には特定の道路リンク間での強い相関関係が生じるが、空いている場合は、その相関関係が成立しないことが多い。
【0167】
また、交通情報伝播処理において、異常事態検出時(事故、規制、工事、施設の新設、道路形状の変化等によりリンク間の相関関係が変化)には、相関度をリセットし、異常事態検出以降の情報で相関度を設定することにしてもよい。このような異常事態を検出した時に、その検出時には相関度を用いた交通情報の予測を中止することが好ましい。
また、異常事態の影響範囲を考慮して相関関係をリセットする範囲(リンク対)を決定する。例えば、高速道路上の事故と一般道路上の事故の場合に、相関度をリセットする範囲を変えたり、通行止めと車線規制で範囲を変える。
【0168】
更に、交通情報伝播処理において、特定の道路リンクからの伝播対象リンクを、予め算出した相関度が所定値以上である道路リンクに限定することにしてもよい。
この場合、例えばオフラインで算出した上記相関度が所定値以上の道路リンクに対してのみ、伝播予測値を算出すれば足りるようになるので、すべての相関度を交通情報伝播処理ごとに算出する場合に比べて、処理時間を短縮できるという利点がある。
【0169】
〔相関対象道路のエリア設定方法の変形例〕
本アルゴリズムでは、交通情報伝播処理において、自身の道路リンクの前後でHmax ホップ以内の他の道路リンクを相関対象道路に設定しているが、当該道路が一般道路か高速道路かによって、相関関係を算出する対象を変えることにしてもよい。
一般道路の場合は、周辺のある一定距離範囲内の道路に限定し、高速道路の場合は、かなり広範囲の道路ないし当該道路と同じ路線の道路や、直線性のある路線の道路も対象にすることが好ましい。
【0170】
また、交通情報伝播処理において、相関対象道路のエリア設定を可変にすることが好ましい。例えば、最初は比較的狭い範囲とし、徐々に相関対象の道路の範囲を拡げていくようにすることが考えられる。エリアを拡げる際には、相関関係のない道路は対象外として相関対象から除外し、相関対象道路を絞りながら範囲を拡げていくことが好ましい。
また、管轄エリア内で行われるイベントと対応付けて、相関対象範囲を変えることもできる。例えば、花火大会、お祭り、レースやスポーツのイベントに応じて、相関対象範囲を設定する。
【0171】
〔相関対象道路の変形例〕
本アルゴリズムでは、1リンク単位同士の対に着目してそれらの間の相関度を設定しているが、複数リンクを纏めて1つの道路情報として相関度を設定してもよい。
また、路線単位で相関度を設定することもできる。例えば、同じ方向に向かう路線が複数ある場合(大阪→京都方面の名神高速道路、国道1号線、国道171号線等)には、1つの路線での相関度を設定し、他路線の交通情報を推定することも可能である。
更に、ある1つの道路リンクの交通情報から、その周辺の一定範囲エリアの道路の交通情報を推定することにしてもよい。
【0172】
〔信頼度の算出方法の変形例〕
本アルゴリズムの各処理において、曜日毎や、平日/休日、特殊日(ゴールデンウィーク、お盆、年末年始、3連休等)といった日種や、季節に応じて信頼度を変化させてもよいし、天候(晴れ/曇り、雨、雪)や、雨や雪の場合はその降水(雪)量に応じて信頼度を変化させてもよい。
【0173】
本アルゴリズムでは、伝播値に関して、伝播元になるリアルタイム情報の信頼度、ホップ移動回数、リンク間のフェロモン値(相関度)により信頼度を算出しているが、時間帯(朝夕の通勤時間帯、昼間、夜間、深夜等)に応じて信頼度を変化させてもよい。
また、道路の混雑状況(順調、混雑、渋滞)や、速度帯に応じて信頼度を変化させてもよい。この場合、プローブ情報では、渋滞時は安定した情報になるが、道路が空いている場合は、値がかなりばらつく可能性が高い。
【0174】
本アルゴリズムの各処理において、エリアによって信頼度の算出方法を変えることもできる。例えば、VICS情報では、地域によって精度が高いエリアと低いエリアが存在するからである。
また、道路種別(高速道路/一般道路、国道/主要地方道/細街路、道幅が広い/狭い等)により信頼度の算出方法を変えてもよい。VICS情報では、車両感知器の種類や精度により信頼度が変化し、高速道路の方が精度が高い場合が多いからである。
【0175】
本アルゴリズムのリアルタイムデータ処理において、プローブ情報の場合には、リンク長が短いと信号待ち等の影響を大きく受けるため、例えば、リンク長が短ければ信頼度を低目に設定する等、リンク長に応じて信頼度の算出方法を変更することにしてもよい。
さらに、VICS情報の信頼度は、プローブ情報との差分値を使用するが、基準とするプローブ情報の信頼度も考慮してVICS情報の信頼度を算出したり、基準とするプローブ情報の情報源(乗用車、バス、タクシー、二輪車等)も考慮してVICS情報の信頼度を算出することが好ましい。
【0176】
リアルタイムデータ処理におけるリアルタイム信頼度の算出において、新しい情報ほど重みを付けて加重平均し、古い情報の信頼度より新しい情報の信頼度が反映し易いようにすることが好ましい。
また、異常値を検出した場合や、周辺で大きなイベントが実施されている場合には、平均値算出等のリアルタイム予測値の対象外にしたり、その信頼度を大きく低下させたりすることもできる。
【0177】
更に、算出した各情報の予測値と実績値を比較することで学習し、信頼度の算出方法を変更あるいはパラメータ値の調整を行えば、信頼度の精度を高めていくことができる。
或いは、各種情報の予測値と信頼度、および実績値を比較することにより、各種情報の信頼度の補正係数を学習し、情報精度と信頼度が一致するよう修正することもできる。
【0178】
〔蓄積データ処理の変形例〕
本アルゴリズムでは、蓄積データ処理において、VICS情報に基づく蓄積信頼度については、蓄積されたVICS情報のデータ量およびそのVICS情報のリアルタイム信頼度により算出し、また、プローブ情報に基づく蓄積信頼度については、蓄積されたプローブ情報のデータ量により算出しているが、これ以外の算出方法もある。
【0179】
例えば、蓄積データ処理において、プローブ情報と前記VICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度に応じて重み付けして加重平均することにより蓄積予測値を算出し、さらに同様にして蓄積信頼度を算出することができる。
この算出方法によれば、信頼度の高い情報の割合を高くして蓄積予測値および蓄積信頼度を算出されることから、情報の精度が高まる。
【0180】
また、蓄積データ処理において、プローブ情報とVICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度がある値よりも大きいデータのみを抽出して平均化処理することにより蓄積予測値を算出し、さらに同様にして蓄積信頼度を算出することにしてもよい。
この算出方法によれば、信頼度の高い情報のみで平均化して蓄積予測値および蓄積信頼度が算出されることから、情報の精度が高まる。
【0181】
〔最終予測値の決定方法の変形例〕
本アルゴリズムでは、リアルタイム予測値、伝播予測値、蓄積予測値、継続予測値の中で、最も信頼度の高い情報を選択して最終予測値としているが、最終予測値の求め方はこれに限定されない。
例えば、リアルタイム予測値、伝播予測値、蓄積予測値、継続予測値の各情報の信頼度の値を重み付けし、それらの加重平均によって最終予測値を算出することもできる。
【0182】
なお、今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の権利範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0183】
1 交通信号機
2 車載装置
3 路側センサ
4 中央装置
5 プローブ車両
6 路側通信機
401 制御部
406 交通情報予測部(交通情報推定部)
406A リアルタイムデータ処理部
406B 交通情報伝播処理部
406C 蓄積データ処理部
406D 継続データ処理部
406E 最終予測値出力処理部(最終決定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定システムであって、
今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部と、
前記リアルタイム予測値が得られた前記道路リンクと異なる他の前記道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じて前記リアルタイム予測値と前記リアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する交通情報伝播処理部と、
前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部と、
を備えていることを特徴とする交通情報推定システム。
【請求項2】
過去のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報の蓄積データに基づいて、前記道路リンクの交通情報の蓄積予測値と、この予測値の信頼度である蓄積信頼度とを生成する蓄積データ処理部を更に備え、
前記最終決定部は、前記蓄積データ処理部を含む前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める請求項1に記載の交通情報推定システム。
【請求項3】
直前のタイムスパンにおける前記最終予測値よりなる継続予測値と、この予測値の信頼度である継続信頼度とを生成する継続データ処理部を更に備え、
前記最終決定部は、前記継続データ処理部を含む前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める請求項1または2に記載の交通情報推定システム。
【請求項4】
前記交通情報伝播処理部は、伝播元の前記道路リンクとの交通情報の類似度が大きい他の前記道路リンクほど、および、伝播元の前記道路リンクの前記リアルタイム信頼度が高いほど伝播が発生しやすくなるように、前記相関度を設定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項5】
前記交通情報伝播処理部は、所定の確率で、前記相関度によらずにランダムに伝播対象を選択する請求項1〜4のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項6】
前記交通情報伝播処理部は、伝播元の前記道路リンクの前記リアルタイム信頼度、移動ホップ数および相関度により、前記伝播信頼度を算出する請求項1〜5のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項7】
前記交通情報伝播処理部は、タイムスパンごとに所定の割合で前記相関度を減少させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項8】
前記交通情報伝播処理部は、伝播元の前記道路リンクと伝播先の前記道路リンクの交通情報の類似度を、当該交通情報の一致度或いは当該交通情報の変化量または変化比率の一致度に基づいて決定する請求項4に記載の交通情報推定システム。
【請求項9】
前記交通情報伝播処理部は、前記相関度の時間的な継続性、或いは、負の相関関係を考慮して当該相関度を設定する請求項1〜8のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項10】
前記交通情報伝播処理部は、前記道路リンクの1対1対応の前記相関度以外に、複数の前記道路リンクに対する他の前記道路リンクの相関度を設定する請求項1〜9のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項11】
前記交通情報伝播処理部は、タイムスパンよりも長い時間遅れで特定の前記道路リンク間に生じる可能性が高い交通事象を考慮して、前記相関度を設定する請求項1〜10のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項12】
前記交通情報伝播処理部は、道路の混雑状況、速度帯および事故等の異常事態の検出のうちの少なくとも1つに対応して、前記相関度を設定する請求項1〜11のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項13】
前記交通情報伝播処理部は、特定の前記道路リンクからの伝播対象リンクを、予め算出した前記相関度が所定値以上である前記道路リンクに限定する請求項1〜12のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項14】
前記交通情報伝播処理部は、特定の前記道路リンクからの伝播対象または伝播エリアを可変に設定可能である請求項1〜13のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項15】
前記交通情報伝播処理部は、複数の前記道路リンクの単位ごと、或いは、1つの前記道路リンクの相関度を援用可能な同種の路線またはエリアごとに、当該相関度を設定する請求項1〜14に記載の交通情報推定システム。
【請求項16】
前記リアルタイム処理部は、蓄積された前記プローブ情報とそれらのプローブ情報が蓄積された際の前記VICS情報との差分値により、当該VICS情報に基づく前記リアルタイム信頼度を算出する請求項1〜15のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項17】
前記リアルタイム処理部は、蓄積された前記プローブ情報のデータ量とそのばらつきにより、当該プローブ情報に基づく前記リアルタイム信頼度を算出する請求項1〜16のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項18】
前記リアルタイム処理部は、前記VICS情報の取得エリア、道路種別および情報源種別のうちの少なくとも1つを、当該VICS情報に基づく前記リアルタイム信頼度の値に反映させる請求項1〜17のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項19】
前記リアルタイム処理部は、前記道路リンクの混雑状況、速度帯およびリンク長のうちの少なくとも1つを、前記プローブ情報に基づく前記リアルタイム信頼度の値に反映させる請求項1〜18のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項20】
前記リアルタイム処理部は、前記リアルタイム信頼度の生成に必要な取得時間が異なる情報のうち、新しい情報ほど大きい重みを付けて加重平均することにより、前記リアルタイム信頼度を生成する請求項1〜19のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項21】
前記蓄積データ処理部は、前記プローブ情報と前記VICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度に応じて重み付けして加重平均することにより前記蓄積予測値を算出する請求項2に記載の交通情報推定システム。
【請求項22】
前記蓄積データ処理部は、前記プローブ情報と前記VICS情報とを、それぞれのリアルタイム信頼度がある値よりも大きいデータのみを抽出して平均化処理することにより前記蓄積予測値を算出する請求項2に記載の交通情報推定システム。
【請求項23】
前記蓄積データ処理部は、蓄積された前記VICS情報のデータ量およびそのVICS情報のリアルタイム信頼度により、当該VICS情報に基づく前記蓄積信頼度を算出する請求項2に記載の交通情報推定システム。
【請求項24】
前記蓄積データ処理部は、蓄積された前記プローブ情報のデータ量により、当該プローブ情報に基づく前記蓄積信頼度を算出する請求項2または23に記載の交通情報推定システム。
【請求項25】
前記各処理部は、曜日や平日/休日、お盆、年末年始、ゴールデンウィーク、3連休等の特殊日等の日種、その日の天候、時間帯および季節のうちの少なくとも1つを、前記各信頼度の値に反映させる請求項1〜24のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項26】
前記最終決定部は、前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値の中で対応する前記信頼度が最も高い当該予測値を、前記最終予測値として出力する請求項1〜25のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項27】
前記最終決定部は、前記各処理部でそれぞれ得られた前記信頼度の値で重み付けした前記予測値の加重平均を、前記最終予測値として出力する請求項1〜26のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項28】
コンピュータを、請求項1〜27のいずれか1項に記載の交通情報推定システムとして機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項29】
タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する方法であって、
今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成する第1ステップと、
前記リアルタイム予測値が得られた前記道路リンクと異なる他の前記道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じて前記リアルタイム予測値と前記リアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する第2ステップと、を含み、
前記各ステップでそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求めることを特徴とする交通情報推定方法。
【請求項30】
VICS情報とプローブ情報とをタイムスパンごとに収集する情報取得部と、収集した情報に基づいて道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定部と、推定した前記交通情報をユーザに提供する情報提供部と、を備えた交通情報提供システムであって、
前記交通情報推定部は、
今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部と、
前記リアルタイム予測値が得られた前記道路リンクと異なる他の前記道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じて前記リアルタイム予測値と前記リアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する交通情報伝播処理部と、
前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部と、
を有することを特徴とする交通情報提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−191614(P2010−191614A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34292(P2009−34292)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504126112)住友電工システムソリューション株式会社 (78)
【出願人】(509046789)
【出願人】(509046778)
【Fターム(参考)】