説明

人力式の常用ブレーキ及びホイールスリップを制御するための装置を備えた液圧式の車両ブレーキ装置

本発明は、人力式の常用ブレーキ及びホイールスリップ制御のための装置を備えた液圧式の車両ブレーキ装置(10)から出発する。本発明によれば、この種の車両ブレーキ装置の場合には自吸式のポンプが独特に形成されたアキュムレータ(30)に関連して使用される。アキュムレータ(30)は分離エレメント(66;100,110;120)を有していて、これらの分離エレメント(66;100,110;120)はそれぞれ第1のアキュムレータ室(76)を第2のアキュムレータ室(74)から分離する。第1のアキュムレータ室(76)に流入路(44)が通じ、流入路(44)から分離された流出路(46)が出発する。分離エレメント(66;100,110;120)は2つの端部位置の間を自由に可動に配置されていて、分離エレメント(66;100,110;120)の一端部位置において流入路(44)と流出路(46)との圧力媒体結合を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、請求項1の上位概念部の記載に対応する人力式の常用ブレーキ及びホイールスリップを制御するための装置を備えた液圧式の車両ブレーキ装置から出発する。
【0002】
ホイールスリップ制御された車両ブレーキ装置は、以下、アンチロックブレーキシステム(ABS)、駆動スリップ制御機器(ASR)又は電子式のスタビリティプログラム(ESP)を備えた車両ブレーキ装置と解される。この種の車両ブレーキ装置は液圧装置を有している。この液圧装置は運転者によって操作可能なマスタブレーキシリンダと、少なくとも1つのホイールブレーキとの間において接続されている。この液圧装置は、とりわけ磁性的に操作可能な方向制御弁と、ポンプと、ポンプ駆動装置と、ポンプに圧力媒体を供給するアキュムレータとを備えている。更にポンプ駆動装置を操作するために駆動モータが設けられている。電子的な制御機器を介して駆動モータと方向制御弁とを、ホイールブレーキにおける圧力を必要に応じて調整するために制御することができる。更なる詳細な情報はパンフレット『Fachwissen Kfz−Technik, Schierheits−und Komfortsysteme, Fahrstabilisierungssysteme』(Gelbe Reihe, ロベルト・ボッシュGmbH2004版,Stuttgart ISBN3−7782−2026−8)の特に90頁以降に記載の実施の形態から見て取ることができる。
【0003】
上記パンフレット記載の車両ブレーキ装置はその液圧回路図の設計に関しては同じであるものの、機能範囲に応じた車両ブレーキ装置の構成手間において異なっている。実践において、たとえばポンプの種々異なる構成形状及び/又は種々異なって形成された比較的少ない数又は多い数の方向制御弁が使用され、その結果、それぞれ所望の機能性を達成する。アンチロックブレーキシステムを備えた車両ブレーキ装置は、たとえばいわゆるリターンフィードポンプと呼ばれる、自吸式ではないポンプで間に合う。前記リターンフィードポンプの役割は制動過程時に存在するホイールスリップでブレーキ圧を減じるために、圧力媒体を該当するホイールブレーキからマスタブレーキシリンダへとフィードバックすることである。この場合に行われている運転者によるマスタブレーキシリンダの操作に基づき、ホイールブレーキにおける圧力媒体は既に高められた圧力下にあるので、ポンプ自体は吸込み作業を行う必要はない。
【0004】
これに対してASRもしくはESP機能を備えた車両ブレーキ装置は、車両の加速時又はカーブ走行時に発生するホイールスリップを取り除くために、単数又は複数のホイールブレーキにおけるブレーキ圧を、運転者によるマスタブレーキシリンダの操作とは関係なく形成できるようになっていなければならない。このことは自吸式に設計されているポンプを必要とする。自吸式のポンプは、その吸入側においてどんな僅かな圧力差異も支配していないか、又はほんの僅かな圧力差異しか支配していない場合でも、圧力媒体を圧送することができる。自吸式のポンプの一実施の形態が、たとえば特許明細書DE19928913A1から既に公知である。
【0005】
車両ブレーキ装置の形式に関係なく、液圧式のアキュムレータがポンプに前置されている。このアキュムレータはポンプに圧力媒体を提供し、これによりポンプ始動を保証する。公知の車両ブレーキ装置はこのためにばねピストンアキュムレータを使用する。このばねピストンアキュムレータは、アキュムレータケーシング内で可動に案内されるピストンを有している。このピストンは周面側のシーリングにより、圧力媒体で充填可能な第1のアキュムレータ室を、ガスで充填される第2のアキュムレータ室から分離する。ピストンはばねによってピストンの基本位置の方向に負荷される。この基本位置では第1のアキュムレータ室には圧力媒体は存在しない。公知のアキュムレータにおいては、圧力媒体流入もしくは圧力媒体流出が共通の供給通路により行われる。この種のアキュムレータは、たとえば特許明細書DE19942293A1に記載されている。
【0006】
ポンプによってマスタブレーキシリンダから吸い込まれた圧力媒体がアキュムレータ室に流入する、という空にされたアキュムレータの事態を防ぐために、この種のアキュムレータの供給管路内には逆止弁が配置されている。公知の逆止弁は弁座を制御するために、ばねにより負荷される弁閉鎖体を有している。
【0007】
故障した不密の逆止弁はアキュムレータの唯一の供給通路と結合して、自吸式のポンプによって製造された負圧がホイールブレーキにかかってしまう、ということに繋がることがある。この負圧に基づきホイールブレーキのブレーキピストンは極端なポジションに動かされてしまう。従って後続のブレーキ過程においてブレーキ圧形成のために極端に多くの圧力媒体をホイールブレーキに排出しなければならない。このことを運転者は長いペダルストロークに基づき知覚することができる。このことは車両ブレーキ装置の機能能力に関するいらだちを引き起こす恐れがある。
【0008】
更に種々異なる機能範囲を備えた車両ブレーキ装置のための種々異なる構成部分の数は、モジュール系の開発及び維持のためのコストを高める。同様に公知の車両ブレーキ装置を製造するためには、比較的多くの個別構成部分を取り付けなければならない。このことは製造コスト及びもたらされる構成ボリュームに不都合に作用する。更に公知の車両ブレーキ装置は、その機能特性に基づきブレーキスリップの制御が行われる場合に改良されたポテンシャルを示す。
【0009】
発明の開示
発明の利点
先行技術に対して請求項1の特徴部によれば本発明による液圧式の車両ブレーキ装置は、僅かな種々異なる個別部分だけで間に合い、ひいては廉価に実施可能であるという利点を有している。使用される個別部分は、アンチロックブレーキシステム、駆動スリップシステム又は走行スタビリティコントロールシステムを備えた車両ブレーキ装置のために使用することもできる。本発明による車両ブレーキ装置はホイールスリップの制御中の改良された機能特性を有していて、減じられた個別部分の数に基づき、車両ブレーキ装置の液圧装置の比較的コンパクトな寸法を可能にする。とりわけ上記利点は、種々異なる全ての車両ブレーキ装置のための、つまり純粋なアンチロックブレーキ装置のためにも、液圧式のアキュムレータに関して自吸式のポンプ使用により達成される。前記液圧式のアキュムレータにそれぞれ流入路及びこの流入路から分離された流出路を介して、圧力媒体が供給される。使用されるアキュムレータは、2つの端部位置の間に自由に可動に配置された、第2のアキュムレータ室から第1のアキュムレータ室を分離するための分離エレメントを有している。更にこの分離エレメントはその一方の端部位置においアキュムレータの流入路から流出路への圧力媒体結合を遮断することができる。分離エレメントは付加的なばねエレメントを用いずに機能する。これによりアキュムレータ室内に貯蔵可能な圧力媒体体積は、ばねピストンアキュムレータと比較して寸法が変更されない場合には高められる。更にアキュムレータは改良されたヒステレシス挙動を備えた圧力/体積特性曲線を有している。なぜならばヒステレシスへのばねエレメントの影響を省くことができるからである。
【0010】
本発明に係る液圧式の車両ブレーキ装置は、人力式の常用ブレーキと、ホイールスリップを制御するための装置とを備えた液圧式の車両ブレーキ装置であって、マスタブレーキシリンダと、少なくとも1つのホイールブレーキと、前記マスタブレーキシリンダと前記ホイールブレーキとの間において接続されている、電磁的に制御可能な方向制御弁を備えた液圧装置と、少なくとも1つのポンプと、該ポンプのための駆動装置と、前記ポンプに圧力媒体を供給するための少なくとも1つのアキュムレータと、ポンプ駆動装置を操作する電動モータと、前記方向制御弁及び/又は前記電動モータを必要に応じて制御するための電子的な制御機器とを有している液圧式の車両ブレーキ装置において、前記少なくとも1つのポンプが自吸式のポンプ(selbst−ansaugende Pumpe)であり、前記少なくとも1つのアキュムレータが分離エレメントを有しており、該分離エレメントが、少なくとも1つの流入路を介して充填可能で且つ前記流入路から分離された少なくとも1つの流出路を介して排出可能な第1のアキュムレータを、第2のアキュムレータ室に対して分離し、前記分離エレメントが2つの端部位置の間を自由に可動に配置されており、前記2つの端部位置の1つの端部位置において、流出路と流入路との圧力媒体案内式の結合部を遮断することを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる利点又は好ましい改良された実施の形態は従属請求項及び以下の記載から明らかになる。
【0012】
つまり、好ましくは、前記アキュムレータの流出路に、前記第1のアキュムレータ室寄りに位置する弁座を制御するための自由に可動に収容されている弁閉鎖体を備えた逆止弁が設けられており、該逆止弁が前記弁閉鎖体の下流側に、圧縮媒体の前記弁閉鎖体の通流を可能にする手段を有している。
【0013】
つまり、好ましくは、前記第2のアキュムレータ室がポット状の支持体エレメントによって画成されており、該支持体エレメントの開口がダイアフラムによって張設されており、該ダイアフラムが前記第1のアキュムレータ室寄りの、前記ダイアフラムの側に、流出路の横断面をカバーするシールプレートを支持している。
【0014】
つまり、好ましくは、前記ダイアフラムを備えた前記支持体エレメントが予め取付け可能な構成ユニットとして、前記第1のアキュムレータ室に隣接している、前記液圧装置の液圧ブロック内の収容部に収容されている。
【0015】
つまり、好ましくは、前記分離エレメントが反転式ダイアフラムにより形成されており、該反転式ダイアフラムが少なくとも1つのダイアフラム折曲げ部の形成下で、ポット状のダイアフラム支持体の開口を閉鎖し、前記反転式ダイアフラムが前記第1のアキュムレータ室に対して前記第2のアキュムレータ室をシールするために、且つ周囲に対して第2のアキュムレータ室をシールするために、且つ前記流出路に対して前記アキュムレータの流入路をシールするためにシール区分を有している。
【0016】
つまり、好ましくは、前記反転式ダイアフラムと前記ダイアフラム支持体とが予め組み付け可能な構成ユニットを形成し、該構成ユニットが前記第1のアキュムレータ室に隣接する、前記液圧装置の前記液圧ブロック内の収容部内に自由に可動に収容されている。
【0017】
つまり、好ましくは、前記分離エレメントが中空のピストンによって形成されており、該ピストンが前記第1のアキュムレータ室に隣接する、前記液圧装置の前記液圧ブロックに設けられている前記収容部内において案内されている。
【0018】
つまり、好ましくは、前記アキュムレータに2つの流入路と1つの流出路とを介して圧力媒体が供給されるようになっており、前記流入路と前記流出路とが並んで共通のライン上に位置しており、前記流出路が2つの流入路の間に配置されている。
【0019】
請求項2はアキュムレータの流出路に配置された特別な構成の逆止弁の保護を求めている。上記逆止弁はアキュムレータのアキュムレータ室への圧力媒体の戻り流を防ぎ、アキュムレータの分離エレメントの付加的なシール機能に基づき、戻し調整ばねを用いずに形成できる。これにより公知の構成と比べて、部分コストにおける節約の他に逆止弁はよりコンパクトで廉価に構成される。この種の逆止弁は、電子的なスタビリティコントロール又は駆動スリップ制御部を備えた車両ブレーキ装置においてのみ必要である。なぜならばそこではブレーキ圧の形成が運転者に依存せず行うことがあるからであり、そしてこの圧力形成のために、場合によっては圧力媒体をマスタブレーキシリンダからポンプによって吸い込む必要があるからである。この場合に逆止弁は、マスタブレーキシリンダから来る圧力媒体がアキュムレータ内に流入することを防ぐ。アンチロックブレーキシステムを備えた車両ブレーキ装置は上記逆止弁を用いずに間に合う。
【0020】
請求項3〜7によって、一方の端部位置においてシールする分離エレメントを備えた、本発明によるアキュムレータのための代替的な実施の形態が請求される。別の実施の形態は、その実施のための僅かな構成スペースとコストとに関して同様に有利である。
【0021】
請求項8は上記アキュムレータの第1のアキュムレータ室に通じる流入路及び流出路の、有利な数と配置に基づいている。
【0022】
以下に本発明を図面に基づき記載し、以下の説明で詳しく述べる。全部で6図ある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】液圧切換え回路に基づいた、人力式の乗用ブレーキとホイールスリップを制御するための装置とを備えた、本発明による液圧式の車両ブレーキ装置の構造を示した図であり、この図において、電子式の走行スタビリティコントロールシステム(ESP)を備えた車両ブレーキ装置が例示的に示されている。
【図2】第1の、特に有利な構造的な別の実施の形態のアキュムレータと、該アキュムレータの流出路に配置されている逆止弁とを一緒に示した図である。
【図3】アキュムレータの別の実施の形態を認識可能にする図である。
【図4】アキュムレータの更に別の実施の形態を認識可能にする図である。
【図5】アキュムレータの更に別の実施の形態を認識可能にする図である。
【図6】アキュムレータ、特に合流/流入する供給通路の領域における横断面図であり、アキュムレータの流入路もしくは流出路の有利な数と配置とを見て取ることができる。
【0024】
実施の形態の説明
図1にはホイールスリップを制御するための装置を備えた液圧式の車両ブレーキ装置10の回路図が示されている。ブレーキペダル12によって操作可能なマスタブレーキシリンダ14と、ブレーキ回路において互いに接続されている2つのホイールブレーキ16とを見て取ることができる。マスタブレーキシリンダ14とホイールブレーキ16との間には液圧装置18が配置されている。この液圧装置18は図1では破線による輪郭線に基づき具体的に示されている。液圧装置18は種々異なる電磁式に制御可能な方向制御弁20,22と、駆動モータ24によって操作可能なポンプ26と、このポンプ26に圧力媒体を供給する液圧式のアキュムレータ30と、このアキュムレータ30とポンプ26との間に設けられている逆止弁32とを有している。これら言及した液圧構成部品は圧力媒体を液圧回路へと案内する管路34に基づいて接続されている。これらの管路34は液圧装置18の液圧ブロック40(図2)における孔に基づいて形成されている。これらの孔は後の作業工程において外側に向かって閉鎖される。液圧ブロック40において言及した上記液圧構成部品も取り付けられている。液圧構成部品の電気的な制御のために電子的な制御機器42が設けられている。この制御機器42は同様に液圧ブロック40に配置されていてもよい。
【0025】
液圧式の車両ブレーキ装置のこの構造はここまでの点では、従来の技術に含まれている。従ってこの車両ブレーキ装置の作動方式に関しては、冒頭で言及したパンフレットの実施の形態を参照することができる。
【0026】
本発明は上記パンフレットにおいて説明されている車両ブレーキ装置とは、設けられているアキュムレータ30の構成、及びこのアキュムレータ30と液圧回路との接続の構成の点で異なっていて、且つ使用されている逆止弁32の構造的な実施の形態に関して異なっている。本発明の根底にあるアキュムレータ30の変化した実施の形態は、図1においては象徴的な回路図に基づき具体的に示して、以下に図2〜5の記載に関連して明確にする。液圧回路とアキュムレータ30との接続に関して図1から、本発明によるアキュムレータ30が、圧力媒体の供給のためにここでは少なくとも1つの流入路44と、この流入路44から分離されて形成されている少なくとも1つの流出路46とを有している。ポンプ26とアキュムレータ30との間に配置されている逆止弁32として、図1によればリターンスプリングを用いていない逆止弁32が使用される。設けられていないリターンスプリングは該当する請求項においては「自由に可動に収容されている弁閉鎖体を備えた逆止弁」の記載に改められる。
【0027】
図2には、本発明に基づき形成されたアキュムレータ30を備えた液圧装置18の上記液圧ブロック40の一部分が示されている。このアキュムレータ30のアキュムレータケーシングは外側から内側に複数に段付けされた孔50の壁部により形成される。この孔50は下面52から液圧ブロック40の内部へと通じている。孔50は外側に位置する円筒状の縁区分54、及びこの縁区分54に接続していて、内側に向かって円錐状に狭幅している導入区分56、及び内側に位置する円筒状の取付け区分58に分かれている。この取付け区分58は水平方向に延在しているストッパ肩部60において終わっている。このストッパ肩部60の中央に流出路46が繋がっている。
【0028】
取付け区分58にポット状の支持体エレメント62が圧入されている。この支持体エレメント62は、たとえば深絞り加工により薄板素材から製造することができる。支持体エレメント62の開口64は流出路46の方向に向いていて、耐圧性の材料から成る弾性的なダイアフラム66によって完全にカバーされている。このダイアフラム66はその外周面に沿って支持体エレメント62で縁曲げされている。この場合、それと同時に縁曲げ加工によりもたらされた支持体エレメント62の周面は、この支持体エレメント62を取付け区分58において力接続的にアンカ固定するために働く。流出路46寄りの、ダイアフラム66の外面にシールプレート68が載置されている。このシールプレート68はダイアフラム66と形状接続的に結合されていて、特に、流出路46の方向に突出している突起70に基づいている。突起70はシールプレート68の中央における切欠きを貫通していて、この切欠きの肉厚化されたヘッドに後方から係合している。シールプレート68は流出路46の横断面を完全に覆っているが、支持体エレメント62の開口64の内径よりも小さな外径を有している。これにより縁曲げ部の内側の端部とシールプレート68との間に、軸線方向でダイアフラム66とストッパ肩部60によって画成された環状室72がもたらされる。このことは、この環状室72内にホイールブレーキ16(図1)から来るアキュムレータ30の少なくとも1つの流入路44(図1)が通じている、ことに由来できる。
【0029】
ダイアフラム66はシールプレート68と一緒に、支持体エレメント62に自由に可動に収容されている分離エレメントを形成する。この分離エレメントは支持体エレメント62の内部に配置されている、ガスで充填された(第2の)アキュムレータ室74を、車両ブレーキ装置の液圧式の圧力媒体で充填可能な(第1の)アキュムレータ室76に対してシールしている。この第1のアキュムレータ室76はシールプレート68と、このシールプレート68に対して軸線方向で間隔を置いてアキュムレータ30の流出路46内に位置決めされている逆止弁32との間に設けられている。シールプレート68はストッパ肩部60から持ち上がり、支持体エレメント62の内部へと運動することにより、第1のアキュムレータ室76はその体積を圧力媒体が流入してくる場合には拡大する。この場合、アキュムレータ室74の体積は適切な量で縮小される。
【0030】
上記逆止弁32は孔付きディスクの形をした弁座部分80から成っている。この孔付きディスクは肩部82に設けられているストッパに向かって流出路46内に圧入されている。弁座部分80は、ここでは例示的に球体の形をした弁閉鎖体84と協働する。球体は弁座部分80の下流側に、流出路46の円筒区分86内で自由に可動に収容されていて、孔付きディスクの内面に設けられている円錐状に成形された弁座88を制御する。円筒区分86の下流側に形成された流出路46の狭隘部90は、ポンプ26の吸入側への逆止弁32の接続を形成する(図1参照)。狭隘部90に、好ましくは星形に外側に延在しているウェブ又は溝92が設けられている。ウェブ又は溝92は弁閉鎖体84の通流を、この弁閉鎖体84が狭隘部90に接触している場合にも保証する。従って記載の逆止弁32はポンプ26に向かってのみ貫流可能であり、アキュムレータ30への反対方向を遮断している。
【0031】
図2の記載は空にされた第1のアキュムレータ室76を備えたアキュムレータ30を示している。自由に可動な分離エレメント(ダイアフラム66)がその第1の端部位置を適切に占めている。この場合、シールプレート68は孔50のストッパ肩部60に接触していて、流出路46に対して流入路44をシールしている。これにより流出路46に接続されている自吸式のポンプ(selbst−saugende Pumpe)26によって形成された負圧は、流入路44、ひいては流入路44と結合しているホイールブレーキ16に到達することはない。つまり吸引式のポンプ26には解放された方向制御弁20(図1)だけを介してマスタブレーキシリンダ14から圧力媒体が供給される。上記逆止弁32は、ホイールスリップ制御が行われている間にペダル操作をする場合、圧力下にある圧力媒体がマスタブレーキシリンダ14から弁20の開放時にアキュムレータ30に流入するということを防ぐ。
【0032】
図3にはアキュムレータ30の択一的な実施の形態が示されている。この択一的な実施の形態のアキュムレータケーシングも液圧ブロック40の外側に開放した孔50の壁部によって形成されている。このアキュムレータ30はカップ状の支持体エレメント94を有している。カップ状の支持体エレメント94の開放した端部が先じて孔50内に圧入されている。支持体エレメント94はその開口の領域で外径において減じられている。これにより支持体エレメント94の周面と孔50の内壁との間に環状室がもたらされる。この環状室に支持体エレメント94の周面に沿って全周にわたって延在する、反転式のダイアフラム100のシール区分98が挿入される。この反転式ダイアフラム100はこれにより支持体エレメント94と液圧ブロック40における孔50の内壁との間において形状接続的に保持されている。反転式ダイアフラム100は支持体エレメント94の中空の内部へと延びているダイアフラム折曲げ部102と、ダイアフラム折曲げ部102に一体に接続している中央区分104との形成下で、支持体エレメント94の全開口を覆う。反転式ダイアフラム100はその中央区分104で環状のシール区分98に対して軸線方向で突出していて、反転式ダイアフラム100の中央区分104の端面側の端部に制御横断面106を有している。この分離エレメント(反転式ダイアフラム100)は反転式ダイアフラム100と支持体エレメント94との間において囲まれていて、ガスで充填される(第2の)アキュムレータ室74を圧力媒体で充填可能な第1のアキュムレータ室76に対して分離している。第1のアキュムレータ室76は反転式ダイアフラム100と流出路46内に配置されている逆止弁32との間に設けられている。使用される逆止弁は実施の形態において、図2に関係して記載された逆止弁32の形態に相当する。相違は、逆止弁32はここでは液圧ブロック40内で独自の弁ケーシングとアンカ固定可能な構成ユニットとして形成されているという点である。弁ケーシングは弁閉鎖体84の下流側に貫通部を備えている。この貫通部を通って弁座88が開放されている場合には圧力媒体体が弁閉鎖体84を通流して流出路46に流出することができる。
【0033】
反転式ダイアフラム100も2つの端部位置の間を自由に可動に収容されている。図示の第1の端部位置において、圧力媒体を充填される第1のアキュムレータ室76は完全に空にされている。この場合、反転式ダイアフラム100の制御横断面106は逆止弁32の弁座88とは反対にある弁座部分80の側に接触している。従って反転式ダイアフラム100は逆止弁32の流入横断面をシールし、アキュムレータ30の流入路44から流出路46への接続を遮断する。流入路44は図3では見て取ることはできないが、ダイアフラム折曲げ部102の領域に通じている。その結果、この実施の形態では、駆動され流出路46に接続されたポンプ26によってもたらされた負圧の形成が、流入路44と接触接続されているホイールブレーキ16において防がれる。
【0034】
図4の実施の形態においては、アキュムレータ30は螺合分離部として形成されている。そのためにアキュムレータ30のアキュムレータケーシング31は、液圧ブロック40内に螺入されている別体の構成エレメントとして構成されている。アキュムレータケーシング31において円筒状の孔50が中空ピストン110を収容する。中空ピストン110はその開口で先んじて衝突するまでアキュムレータケーシング31内に組み込まれている。中空ピストン110の開口はダイアフラム66によって張設されている。ダイアフラム66は開口を取り囲む壁部112の端面側に載置されている。中空ピストン110はそのダイアフラム66とは反対の側の端部にて、半径方向で突出しているつば114を備えている。つば114は孔50とは逆に成形された切欠きに接触している。外側から孔50内に螺入可能である閉鎖栓体94は軸線方向力で中空ピストン110を負荷する。閉鎖栓体94の螺入モーメントによりダイアフラム66は中空シリンダと孔50の衝突肩部60との間において位置固定されている。アキュムレータ30の流入路44と流出路46とは、アキュムレータケーシング31の螺入管片において互いに平行に延在している。孔50への流入路44と流出路46との合流部には、ダイアフラム66と協働するウェブ116がもたらされる。図4にはダイアフラム66がやはりダイアフラム66の1つの端部位置において示されている。この場合、ダイアフラム66は2つのアキュムレータ室74,76の間の分離エレメントとして働き、それと同時に図示の端部位置において流入路44から流出路46への結合を遮断する。流出路46にはこの実施の形態の場合でも、既に図2に関係して開示されたように逆止弁32が自由に可動な弁閉鎖体84を備えて設けられている。
【0035】
図5にはアキュムレータ30の更に別の実施の形態が示されている。このアキュムレータ30においては分離エレメントとして中空のピストン120が使用される。このピストン120は肉薄で剛性な材料から製造されていて、中央で突出している突出部124を備えたピストン底部122を有している。中空のピストン120は1つの孔50内で可動に案内されていて、従来のシールエレメント126、たとえばOリング又はカッドリング(Quad−Ring)により周面でシールされる。ピストン20の組付け方向は、ピストン底部122がアキュムレータ30の流出路46寄りに位置し、ピストン120の開放された端部が液圧ブロック40の孔50の開口に向けられている。この開口は閉鎖カバー128により閉鎖されている。閉鎖カバー128はポット形に構成されている。この場合、閉鎖カバー128の内径は、液圧ブロック40の孔50の内径に相当する。これによりピストン120は閉鎖カバー128の内部に侵入することができる。アキュムレータ30の内側にある閉鎖カバー128の端面は、液圧ブロック40の軸線方向肩部130と共にピストン120をシールするシールエレメント126を位置決めする。閉鎖カバー128は液圧ブロック40において、たとえば圧入による力接続により保持することができるか、又はたとえばかしめによる形状接続により保持することができる。
【0036】
この実施の形態においては剛性なピストン120は2つのアキュムレータ室74,76の間において分離エレメントとして働く。車両ブレーキ装置の液圧式の圧力媒体で充填可能な第1のアキュムレータ室76は、ピストン底部122と逆止弁32との間において形成されている。ガス充填される第2のアキュムレータ室74は、ピストン120の内部と閉鎖カバー128とによって画成される。記載の状態では第1のアキュムレータ室76は液圧式の圧力媒体からほぼ空にされている。これによりピストン120のピストン底部122の突出部124は逆止弁32の流入横断面をシールする。この実施例においても流入路44(図示せず)は第1のアキュムレータ室76内に通じていることから出発できるので、従って図示の端部位置におけるピストン120は、流入路44から流出路46への圧力媒体案内結合を遮断する。
【0037】
図6には前記通路の合流横断面の領域におけるアキュムレータ30の横断面に基づいた、アキュムレータ30の流入路44と流出路46の相対ポジションが示されている。図6から全部で3つの合流横断面を見て取ることができる。この場合、3つの合流横断面のうち2つが流入路44で1つが流出路46を形成する。流出路46は図示の横断面の中央に設けられていて、2つの流入路44は流出路46の両側で対称的に位置決めされている。全3つの合流横断面は共通の線132上に位置する。
【0038】
図1の車両ブレーキ装置10のエア抜きのために、ホイールブレーキ16の接続部を介して圧力下にある圧力媒体が種々異なる管路34に供給される。この場合、電子的な制御機器42を介して基本位置おいて閉鎖されている方向制御弁22は制御されて開放位置へと切り換えられる。供給された圧力媒体は流入路44を介してアキュムレータ室76に流入し、各分離エレメント66;100:110:120を第2の端部ポジション(図示せず)に変位させる。この場合、分離エレメント66;100:110:120は流入路44からアキュムレータ30の流出路46への結合部を解放するので、圧力媒体は流れ方向で開放している逆止弁32を介してポンプ26に向かって更に流れる。ポンプ26の前方で圧力媒体流は、制御された方向制御弁22を介してマスタブレーキシリンダ14に通じている第1の分岐部に通じるか、もしくは制御されない方向制御弁20を通って同様にマスタブレーキシリンダ14に通じている第2の分岐部に分岐する。従って圧力媒体が貫流しない車両ブレーキ装置10の領域はない。
【0039】
当然ながら本発明の基本思想から逸れることなしに、記載の実施の形態に沿った好ましい形態又は補足的な形態が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力式の常用ブレーキと、ホイールスリップを制御するための装置とを備えた液圧式の車両ブレーキ装置(10)であって、マスタブレーキシリンダ(14)と、少なくとも1つのホイールブレーキ(16)と、前記マスタブレーキシリンダ(14)と前記ホイールブレーキ(16)との間において接続されている、電磁的に制御可能な方向制御弁(20,22)を備えた液圧装置(18)と、少なくとも1つのポンプ(26)と、該ポンプ(26)のための駆動装置と、前記ポンプ(26)に圧力媒体を供給するための少なくとも1つのアキュムレータ(30)と、ポンプ駆動装置を操作する電動モータ(24)と、前記方向制御弁(20,22)及び/又は前記電動モータ(24)を必要に応じて制御するための電子的な制御機器(42)とを有している液圧式の車両ブレーキ装置において、
前記少なくとも1つのポンプ(26)が自吸式のポンプであり、前記少なくとも1つのアキュムレータ(30)が分離エレメント(66;100;110;120)を有しており、該分離エレメント(66;100;110;120)が、少なくとも1つの流入路(44)を介して充填可能で且つ前記流入路(44)から分離された少なくとも1つの流出路(46)を介して排出可能な第1のアキュムレータ(76)を、第2のアキュムレータ室(74)に対して分離し、前記分離エレメント(66;100;110;120)が2つの端部位置の間を自由に可動に配置されており、前記2つの端部位置の1つの端部位置において、流出路(46)と流入路(44)との圧力媒体案内式の結合部を遮断することを特徴とする、液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項2】
前記アキュムレータ(30)の流出路(46)に、前記第1のアキュムレータ室(76)寄りに位置する弁座(88)を制御するための自由に可動に収容されている弁閉鎖体(84)を備えた逆止弁(32)が設けられており、
該逆止弁(32)が前記弁閉鎖体(84)の下流側に、圧縮媒体の前記弁閉鎖体(84)の通流を可能にする手段(94)を有している、請求項1記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項3】
前記第2のアキュムレータ室(74)がポット状の支持体エレメント(62)によって画成されており、該支持体エレメント(62)の開口がダイアフラム(66)によって張設されており、該ダイアフラム(66)が前記第1のアキュムレータ室(76)寄りの、前記ダイアフラム(66)の側に、流出路(46)の横断面をカバーするシールプレート(68)を支持している、請求項1又は2記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ダイアフラム(66)を備えた前記支持体エレメント(62)が予め取付け可能な構成ユニットとして、前記第1のアキュムレータ室(76)に隣接している、前記液圧装置(18)の液圧ブロック(40)内の収容部(50)に収容されている、請求項3記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項5】
前記分離エレメントが反転式ダイアフラム(100)により形成されており、該反転式ダイアフラム(100)が少なくとも1つのダイアフラム折曲げ部(102)の形成下で、ポット状のダイアフラム支持体(94)の開口を閉鎖し、前記反転式ダイアフラム(102)が前記第1のアキュムレータ室(76)に対して前記第2のアキュムレータ室(74)をシールするために、且つ周囲に対して第2のアキュムレータ室(74)をシールするために、且つ前記流出路(46)に対して前記アキュムレータ(30)の流入路(44)をシールするためにシール区分(98,106)を有している、請求項1又は2記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項6】
前記反転式ダイアフラム(102)と前記ダイアフラム支持体(94)とが予め組み付け可能な構成ユニットを形成し、該構成ユニットが前記第1のアキュムレータ室(76)に隣接する、前記液圧装置(18)の前記液圧ブロック(40)内の収容部(50)内に自由に可動に収容されている、請求項5記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項7】
前記分離エレメントが中空のピストン(120)によって形成されており、該ピストン(120)が前記第1のアキュムレータ室(76)に隣接する、前記液圧装置(18)の前記液圧ブロック(40)に設けられている前記収容部(50)内において案内されている、請求項1又は2記載の液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項8】
前記アキュムレータ(30)に2つの流入路(44)と1つの流出路(46)とを介して圧力媒体が供給されるようになっており、前記流入路(44)と前記流出路(46)とが並んで共通のライン(132)上に位置しており、前記流出路(46)が2つの流入路(44)の間に配置されている、請求項1から7までのいずれか一項記載の液圧式の車両ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−539668(P2009−539668A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513623(P2009−513623)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054051
【国際公開番号】WO2007/141092
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】