説明

仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法およびシリコンウェーハの表面平坦化装置

【課題】シリコンウェーハの製造工程において、シリコンウェーハ表面に粗研磨を施した後に仕上研磨を施すに際し、粗研磨後のウェーハ表面の平坦度を仕上研磨前に事前に改善し、仕上研磨後のウェーハの表面特性を安定して確保することができる仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法およびその表面平坦化装置を提供する。
【解決手段】仕上研磨を施す前に、平坦度測定工程(ステップ#42)にて、ウェーハ表面の平坦度を測定し、その表面に同心状に分布する凸領域を特定した後、凸領域除去工程(ステップ#44)にて、ウェーハの径方向で凸領域を覆うカップ部材を配置するとともに、ウェーハをウェーハ中心回りに回転させながら、カップ部材内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入し、凸領域を混合ガスとの化学反応によってエッチング除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの表面に粗研磨を施した後、ウェーハ表面を鏡面に仕上げる仕上研磨を施すに際し、シリコンウェーハの表面を事前に平坦化させる仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法、およびその方法を実施するのに適した表面平坦化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに用いられるシリコンウェーハは、チョクラルスキー法などによって育成されたシリコン単結晶のインゴットから製造される。
【0003】
図1は、従来のシリコンウェーハの製造工程を概略して示すフロー図である。同図に示すように、単結晶インゴットは、ステップ#10の外周研削工程で円柱状に加工され、ステップ#20のスライス工程で円板状にスライスされる。スライスされたウェーハは、ステップ#30の面取り工程で外周部に面取りを施して製品直径に仕上げられ、ステップ#40の粗研磨工程で両面同時研磨(Double Side Polishing、以下「DSP」という)により両面を研磨され、次いでステップ#50の仕上研磨工程で、コロイダルシリカ液などの研磨剤を用いたメカノケミカル研磨を利用する片面研磨(Single Side Polishing、以下「SSP」という)により、片面のみをまたは片面ずつで両面を鏡面に仕上げられる。
【0004】
ステップ#40の粗研磨の直後、およびステップ#50の仕上研磨の直後には、ウェーハ表面に残存するパーティクルやメタルなどの異物を除去するため、ウェーハの全域にわたり洗浄処理が施される。また、必要に応じて、加工ひずみを化学的に除去するエッチング工程が付加されたり、ステップ#40の粗研磨を施す前に、両面同時研削や片面研削による研削工程が付加される。
【0005】
鏡面に仕上げられたウェーハは、いわゆるポリッシュトウェーハ(以下「PW」という)として使用する場合、そのまま魔鏡検査や表面欠陥検査や外観検査などの各種の検査工程を経た後に出荷される。エピタキシャルウェーハ(以下「EW」という)として使用する場合は、PWの表面にエピタキシャル層を気相成長させるエピタキシャル処理を施し、その後に洗浄工程および各種の検査工程を再度経る。アニールウェーハとして使用する場合は、PWに例えば水素雰囲気中で1200℃の熱処理を施し、その後に洗浄工程および各種の検査工程を再度経る。
【0006】
上記したシリコンウェーハの製造工程において、DSPによる粗研磨の主目的は、ウェーハの平行度と整えてウェーハ表面の平坦度を調整することにあり、その次のSSPによる仕上研磨の主目的は、マイクロラフネスやLPD(Light Point Defect)などの微小な表面特性を調整することにある。このため、DSPによる粗研磨後のウェーハ表面の形状は、SSPによる仕上研磨後のウェーハ表面の形状に大きく影響を及ぼす。
【0007】
実際に、DSPによる粗研磨では、研磨条件により、ウェーハ表面における研磨の作用がウェーハの中央部よりも外周部で大きくなったり、逆にウェーハの外周部よりも中央部で大きくなる場合がある。研磨の作用に偏りが発生した場合、DSPによる粗研磨後のウェーハ表面は、中央部に外周部よりもウェーハ厚みが厚い凸領域が形成されたり、逆に外周部に中央部よりもウェーハ厚みが厚い凸領域が形成される。すなわち、DSPによる粗研磨後のウェーハ表面には、同心状に分布する凸領域が形成される場合がある。この同心状の凸領域は、粗研磨後のウェーハ表面の平坦度を悪化させ、さらにSSPによる仕上研磨でもほとんど消滅せず、仕上研磨後のウェーハの表面特性を悪化させる要因となる。
【0008】
このことから、シリコンウェーハの製造工程においては、粗研磨後のウェーハ表面の平坦度を改善し、仕上研磨後のウェーハの表面特性を安定して確保できる手法が強く望まれている。
【0009】
一方、特許文献1には、シリコンウェーハのエッチングを所望する部分のみに精度良くエッチングを施すため、その所望する部分にエッチング用ガスを噴出させるガス噴出用ノズル、そのノズルを具備するガスエッチング装置、およびそのノズルを用いたガスエッチング方法が提案されている。同文献に提案される技術では、エッチング用ガスにClF3ガスを用い、ガス噴出用ノズルをガス噴出パイプと排気パイプとからなる二重管構造とすることにより、ノズルを配置したウェーハ部分を局所的にエッチングすることができるとしている。
【0010】
しかし、前記特許文献1に提案される技術は、単に、ウェーハ上で所望する部分のみにエッチングを施すものに過ぎず、粗研磨後のウェーハ表面の形状について何ら考慮することなく、粗研磨後のウェーハ表面の平坦度を改善することを全く意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−242129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、シリコンウェーハの製造工程において、粗研磨を施した後に仕上研磨を施すに際し、粗研磨後のウェーハ表面の平坦度を仕上研磨前に事前に改善し、仕上研磨後のウェーハの表面特性を安定して確保することができる仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法およびその表面平坦化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するため、シリコンウェーハの製造プロセスを詳細に検討した結果、仕上研磨後のシリコンウェーハの表面特性を安定して確保するには、仕上研磨前のウェーハ表面を事前に平坦化させる工程を新たに追加するのが有効であることを見出した。
【0014】
そして、仕上研磨前のウェーハ表面を平坦化させる際、粗研磨でウェーハ表面に形成された同心状の凸領域に対し、ウェーハの径方向で凸領域を覆うカップ部材を配置し、そのウェーハをウェーハ中心回りに回転させながら、カップ部材内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入することにより、凸領域を周方向全域にわたり混合ガスとの化学反応によってエッチング除去することができ、効率的にウェーハ表面の平坦化を行えることを知見した。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものであり、下記(1)の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法、および(2)のシリコンウェーハの表面平坦化装置を要旨としている。
【0016】
(1)シリコンウェーハに粗研磨を施した後、仕上研磨を施す前にシリコンウェーハの表面を平坦化させる方法であって、シリコンウェーハの表面の平坦度を測定し、その表面に同心状に分布する凸領域を特定する平坦度測定工程と、シリコンウェーハの径方向で前記凸領域を覆うカップ部材を配置するとともに、シリコンウェーハをウェーハ中心回りに回転させながら、前記カップ部材内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入し、前記凸領域を前記混合ガスとの化学反応によってエッチング除去する凸領域除去工程と、を含むことを特徴とする仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法である。
【0017】
上記(1)の表面平坦化方法において、前記凸領域除去工程では、前記オゾンガスのオゾン濃度を100〜300g/m3、および前記フッ化水素蒸気のフッ化水素濃度を500〜2000g/m3とし、前記混合ガス中のフッ化水素のモル分率を0.90〜0.98の範囲内とすることが好ましい。
【0018】
また、上記(1)の表面平坦化方法において、前記平坦度測定工程での測定結果から前記凸領域の突出量を算出し、前記凸領域除去工程では、前記突出量に対応してエッチングレートおよび処理時間を設定する構成とすることが好ましい。
【0019】
(2)回転するシリコンウェーハの表面にエッチングガスを吹きつけてシリコンウェーハの表面を平坦化するシリコンウェーハの表面平坦化装置であって、シリコンウェーハを支持してウェーハ中心周りに回転させるテーブルと、シリコンウェーハの表面の一部を覆うカップ部材と、このカップ部材内にエッチングガスを導入するガス導入手段と、前記カップ部材をシリコンウェーハの径方向に移動させるカップ移動手段と、シリコンウェーハの表面の平坦度情報から前記カップ部材の移動量を制御するカップ移動量制御手段と、を備えたことを特徴とするシリコンウェーハの表面平坦化装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法によれば、カップ部材をウェーハ表面の凸領域に配置させた状態で、ウェーハを回転させながら、カップ部材内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入することにより、カップ部材内に存在する凸領域がオゾンガスとの化学反応により強制的に酸化され、さらに酸化された凸領域がフッ化水素蒸気との化学反応により溶解するため、同心状の凸領域を周方向全域にわたりエッチング除去することができ、その結果、仕上研磨前ウェーハの表面を効率的に平坦化させることが可能になる。
【0021】
また、本発明の表面平坦化装置によれば、そのようなウェーハ表面の平坦化処理を有効に行うことができる。そして、そのような平坦化処理で得られたウェーハは、表面の平坦度が改善されていることから、仕上研磨を施すことにより、表面特性が安定して確保されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のシリコンウェーハの製造工程を概略して示すフロー図である。
【図2】本発明のシリコンウェーハの表面平坦化装置の構成例を示す模式図であり、同図(a)は平面図を、同図(b)は側面図をそれぞれ示す。
【図3】本発明の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法を適用したシリコンウェーハの製造工程を概略して示すフロー図である。
【図4】仕上研磨前ウェーハの表面を平坦化させる処理状況の具体例を示す図であり、同図(a)はウェーハ表面の中央部に凸領域が形成されている場合を、同図(b)はウェーハ表面の外周部に凸領域が形成されている場合をそれぞれ示す。
【図5】混合ガス中のHFのモル分率とエッチングレートとの相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法およびその表面平坦化装置について、その実施形態を詳述する。
【0024】
1.表面平坦化装置
図2は、本発明のシリコンウェーハの表面平坦化装置の構成例を示す模式図であり、同図(a)は平面図を、同図(b)は側面図をそれぞれ示す。同図に示すように、表面平坦化装置1は、DSPによる粗研磨を施したシリコンウェーハ20の表面をSSPによる仕上研磨の前に平坦化させる装置であり、仕上研磨前ウェーハ20を支持するテーブル2と、このテーブル2の上方に配置されるカップ部材4を備える。なお、表面平坦化装置1の全体の動作は、図示しない制御部からの指令により行われる。
【0025】
テーブル2は、上面が円形の水平面に形成されており、その中心に電動モータ3が連結されている。テーブル2の上面には、仕上研磨前ウェーハ20がその中心とテーブル2の中心が一致するように載置され、このウェーハ20は、テーブル2に内蔵された吸引機構により裏面側から吸引され、テーブル2上に保持される。テーブル2は、電動モータ3からの動力によって回転駆動し、これにより、テーブル2上で支持したウェーハ20をウェーハ中心回りに回転させることができる。
【0026】
カップ部材4は、テーブル2の上面に対向して下端が開口する円筒容器である。カップ部材4の上端の中心には、カップ部材4の内部に連通する基管部5がカップ部材4と一体で突設され、この基管部5は、内部空間を有するブロック状の支持部材6に着脱可能に連結されている。支持部材6には、オゾンガスタンクに接続された第1配管7と、フッ化水素蒸気発生器に接続された第2配管8が連結されている。第1配管7と第2配管8にはそれぞれオゾンガスとフッ化水素蒸気が供給され、これらのオゾンガスとフッ化水素蒸気は、支持部材6の内部空間で混合され、この混合ガスは、エッチングガスとして基管部5を通じてカップ部材4の内部に導入される。
【0027】
また、テーブル2の外側には支柱9が立設され、この支柱9から水平方向にアーム部材10が突出している。アーム部材10の先端には、カップ部材4を連結した支持部材6が固定されている。支柱9は、図示しない電動モータやシリンダからの動力により、回動したり昇降するように構成される。アーム部材10は、支柱9の回動駆動、昇降駆動に伴って旋回したり昇降し、これにより、アーム部材10の先端に支持部材6を介して連結したカップ部材4を、テーブル2上で支持したウェーハ20の径方向に移動させることができ、さらに昇降させることもできる。
【0028】
2.表面平坦化方法
図3は、本発明の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法を適用したシリコンウェーハの製造工程を概略して示すフロー図である。同図において、前記図1に示した工程と同じ工程には同一のステップ番号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0029】
本発明の表面平坦化方法では、ステップ#40でシリコンウェーハにDSPによる粗研磨を施した後、ステップ#50でSSPによる仕上研磨を行う前に、ステップ#42の平坦度測定工程、およびそれに続いてステップ#44の凸領域除去工程を経る。通常、DSPによる粗研磨では、ウェーハ表面の径方向の厚み分布に関し、ウェーハ中心を中心軸とする同心状に凸領域が発生する。
【0030】
ステップ#42では、慣用されるウェーハ用平坦度測定装置を用いて、仕上研磨前ウェーハの表面の平坦度を測定し、その測定結果に基づくウェーハ表面の平坦度情報から、先のDSPによる粗研磨でウェーハ表面に形成された同心状の凸領域を特定する。高精度にウェーハ表面の平坦度を測定するための平坦度測定装置としては、例えば、KLA−Tencor社製:WaferSightなどが挙げられる。
【0031】
ステップ#44では、前記図2に示す表面平坦化装置を用い、凸領域が特定された仕上研磨前ウェーハの表面から凸領域を除去して、ウェーハ表面を平坦化させる処理を行う。その平坦化処理の具体的な手順を、前記図2を参照して説明する。
【0032】
前記図2に示すように、凸領域が特定された仕上研磨前ウェーハ20をテーブル2上で支持する。次いで、支柱9を回動させてアーム部材10を旋回させ、カップ部材4をウェーハ20の径方向で凸領域を覆う位置、すなわち凸領域の周方向の一部を覆う位置に移動させる。このとき、先の平坦度測定工程で得られたウェーハ表面の平坦度情報は、表面平坦化装置全体を制御する制御部のメモリに予め伝送されており、アーム部材10の旋回に伴うカップ部材4のウェーハ径方向への移動は、その平坦度情報に基づいて、制御部からの指令により行われる。
【0033】
続いて、支柱9とともにアーム部材10を下降させ、カップ部材4をその下端とウェーハ20の表面との間に僅かに隙間を設けた状態に配置する。この状態から、テーブル2を回転駆動させてウェーハ20を回転させ、これと同時に、第1配管7と第2配管8それぞれにオゾンガスとフッ化水素蒸気を供給して、カップ部材4の内部にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入する。
【0034】
このように、カップ部材4をウェーハ表面の凸領域に配置させた状態で、ウェーハ20を回転させながら、カップ部材4内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入することにより、カップ部材4内に存在する凸領域は、混合ガスが吹きつけられ、混合ガス中のオゾンガスとの化学反応により強制的に酸化されて組成がSiO2になり、さらにSiO2となった凸領域は、混合ガス中のフッ化水素蒸気との化学反応により溶解し、これらの化学反応が連続して繰り返されるのに伴って、ウェーハ20の中心を中心軸とする円環状にウェーハ表面のエッチングが進行し、同心状の凸領域を周方向全域にわたりエッチング除去することができる。その結果、仕上研磨前ウェーハの表面を効率的に平坦化させることが可能になる。
【0035】
そして、このウェーハは、表面の平坦度が改善されていることから、SSPによる仕上研磨を施すことにより、表面特性が安定して確保されたものとなる。この仕上研磨後のウェーハは、PWとして使用することができ、EWやアニールウェーハとしても使用することができる。
【0036】
図4は、仕上研磨前ウェーハの表面を平坦化させる処理状況の具体例を示す図であり、同図(a)はウェーハ表面の中央部に凸領域が形成されている場合を、同図(b)はウェーハ表面の外周部に凸領域が形成されている場合をそれぞれ示す。なお、同図では、凸領域を誇張して表示している。
【0037】
図4(a)に示すように、粗研磨を施した後のウェーハ20の表面中央部に凸領域21が形成されている場合、カップ部材4をウェーハ表面の中央部に配置させ、ウェーハ20を回転させながら、カップ部材4内に混合ガスを導入する。一方、図4(b)に示すように、ウェーハ20の表面外周部に凸領域21が形成されている場合は、カップ部材4をウェーハ表面の外周部に配置させ、ウェーハ20を回転させながら、カップ部材4内に混合ガスを導入する。
【0038】
図4(a)、(b)に示すいずれの場合も、ウェーハ表面の凸領域21を混合ガスとの化学反応によって周方向全域にわたりエッチング除去することができ、仕上研削前にウェーハ表面を平坦化させることができる。
【0039】
本発明の表面平坦化方法においては、前記図2に示す第1配管7を通じて供給するオゾンガスのオゾン(O3)濃度を100〜300g/m3の範囲内とし、第2配管8を通じて供給するフッ化水素蒸気のフッ化水素(HF)濃度を500〜2000g/m3の範囲内とし、さらに、それらのオゾンガスとフッ化水素蒸気を混合しカップ部材4内に導入する混合ガス中で、HFのモル分率を0.90〜0.98の範囲内とすることが好ましい。O3濃度はオゾンガスの供給流量を制御することで調整でき、同様に、HF濃度はフッ化水素蒸気の供給流量を制御することで調整できる。それらの範囲が好ましいのは以下の理由による。
【0040】
供給するオゾンガスのO3濃度が100g/m3未満であると、凸領域をSiO2化させて初めてフッ化水素蒸気により溶解除去することができるのに先立ち、凸領域を強制酸化させる能力が低いことに起因して凸領域のSiO2化を十分に行えない。一方、300g/m3を超えるO3濃度は、設備能力の制約から現実的でない。
【0041】
供給するフッ化水素蒸気のHF濃度が500g/m3未満であると、SiO2を溶解させる能力が低いことに起因して凸領域のエッチング除去を十分に行えない。一方、HF濃度が2000g/m3を超える条件では、フッ化水素蒸気が液化してミスト状になり、凸領域を被覆してしまう。このため、オゾンガスによる凸領域の酸化が妨げられて、凸領域のエッチング除去が進行しないばかりか、異物の付着を誘発する。
【0042】
図5は、混合ガス中のHFのモル分率とエッチングレートとの相関を示す図である。同図に示す相関は、結晶方位が(100)でp/p++型EWに使用される仕上研磨前ウェーハを試片として用い、オゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガス中のHFモル分率を種々変更し、それぞれの混合ガス雰囲気下で試片の表面をエッチングする試験を行った結果である。同図に示すように、HFのモル分率が0.96程度のときに、エッチングレートが最大の1000Å/min程度となる。
【0043】
エッチングレートは、混合ガスによる凸領域の除去効率に対応することから高い方が好ましい。1つの指標として、エッチングレートが500Å/min以上であれば、長時間の処理を要することなく、混合ガスによって凸領域を効率良く除去できるといえる。したがって、500Å/min以上のエッチングレートを十分に満足させるには、図5に示す相関から、HFのモル分率を0.90〜0.98の範囲内とするのが好ましい。
【0044】
混合ガス中のHFのモル分率は、オゾンガスのO3濃度およびはフッ化水素蒸気のHF濃度の調整に伴って調整することができ、そのHFモル分率の調整により、凸領域に対するエッチングレートも調整できる。
【0045】
また、本発明の表面平坦化方法においては、前記図3に示すステップ#42の平坦度測定工程での測定結果に基づき、凸領域以外の領域を基準として凸領域の突出量を算出する構成を採用できる。そして、ステップ#44の凸領域除去工程では、その突出量に対応し、凸領域に対するエッチングレートおよび処理時間を適切に設定することにより、精度良く凸領域をエッチング除去することが可能になる。処理時間を設定するに際しては、ウェーハを支持したテーブルの回転数も加味する。
【0046】
さらに、ステップ#44の凸領域除去工程に際しては、開口径の異なる複数のカップ部材を予め準備しておき、ウェーハ径方向での凸領域の幅と一致する開口径のカップ部材を選定し表面平坦化装置に装着する。これにより、凸領域のウェーハ径方向の幅にかかわらず、あらゆる凸領域に対しエッチング除去処理を行うことができる。
【0047】
その他本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、前記図2に示す表面平坦化装置では、カップ部材4をウェーハ20の径方向に移動させる機構として、旋回機構を採用しているが、直線上で進退する機構を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法によれば、カップ部材内に存在する凸領域が混合ガス中のオゾンガスとの化学反応により強制的に酸化され、さらに酸化された凸領域が混合ガス中のフッ化水素蒸気との化学反応により溶解するため、同心状の凸領域を周方向全域にわたりエッチング除去することができ、その結果、仕上研磨前ウェーハの表面を効率的に平坦化させることが可能になる。
【0049】
また、本発明の表面平坦化装置によれば、そのようなウェーハ表面の平坦化処理を有効に行うことができる。そして、そのような平坦化処理で得られたウェーハは、表面の平坦度が改善されていることから、仕上研磨を施すことにより、表面特性が安定して確保されたものとなり、PWとしても、EWやアニールウェーハとしても使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:表面平坦化装置、 2:テーブル、 3:電動モータ、
4:カップ部材、 5:基管部、 6:支持部材、 7:第1配管、
8:第2配管、 9:支柱、 10:アーム部材、
20:シリコンウェーハ、 21:凸領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハに粗研磨を施した後、仕上研磨を施す前にシリコンウェーハの表面を平坦化させる方法であって、
シリコンウェーハの表面の平坦度を測定し、その表面に同心状に分布する凸領域を特定する平坦度測定工程と、
シリコンウェーハの径方向で前記凸領域を覆うカップ部材を配置するとともに、シリコンウェーハをウェーハ中心回りに回転させながら、前記カップ部材内にオゾンガスとフッ化水素蒸気の混合ガスを導入し、前記凸領域を前記混合ガスとの化学反応によってエッチング除去する凸領域除去工程と、を含むことを特徴とする仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法。
【請求項2】
前記凸領域除去工程では、前記オゾンガスのオゾン濃度を100〜300g/m3、および前記フッ化水素蒸気のフッ化水素濃度を500〜2000g/m3とし、前記混合ガス中のフッ化水素のモル分率を0.90〜0.98の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法。
【請求項3】
前記平坦度測定工程での測定結果から前記凸領域の突出量を算出し、
前記凸領域除去工程では、前記突出量に対応してエッチングレートおよび処理時間を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の仕上研磨前シリコンウェーハの表面平坦化方法。
【請求項4】
回転するシリコンウェーハの表面にエッチングガスを吹きつけてシリコンウェーハの表面を平坦化するシリコンウェーハの表面平坦化装置であって、
シリコンウェーハを支持してウェーハ中心周りに回転させるテーブルと、
シリコンウェーハの表面の一部を覆うカップ部材と、
このカップ部材内にエッチングガスを導入するガス導入手段と、
前記カップ部材をシリコンウェーハの径方向に移動させるカップ移動手段と、
シリコンウェーハの表面の平坦度情報から前記カップ部材の移動量を制御するカップ移動量制御手段と、を備えたことを特徴とするシリコンウェーハの表面平坦化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−101930(P2011−101930A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257971(P2009−257971)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】