説明

伝動ベルト

【課題】 低摩擦係数を長期に渡り維持し、スティックスリップやミスアライメントによる発音を軽減し、かつ耐磨耗性に優れた摩擦伝動ベルト、および摩擦伝動ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ベルト長手方向に沿って心線2を埋設したゴム層を含む弾性体層からなるVリブドベルト1において、摩擦伝動面となるリブ部6が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部含有するゴム組成物で構成される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝動に用いられる摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動ベルトに要求される特性として、動力を伝達することに加え、使用中に異音が発生しないこと、並びに耐久性、特に耐摩耗性に優れることが挙げられる。これらの特性を満たすため、摩擦伝動部をポリアミド、メタ系アラミドまたはパラ系アラミドなどの短繊維を配合したゴム組成物で構成し、それらで摩擦伝動面を覆うことで耐発音性、耐摩耗性及び耐粘着摩耗性の向上を図ることが一般的になされている。
【0003】
ところが、近年の自動車用エンジンでは、コンパクト化、燃費向上及び排出ガス低減を行うため希薄燃焼となっており、このためにエンジンの回転変動、振動が従来エンジンと比べ大きくなっている。また補機用ベルトのサーペンタイン化によって小プーリ化、屈曲角の小さなエンジンレイアウトになっており、摩擦伝動ベルトへの負荷が一層大きくなってミスアライメントやスティックスリップによる異音発生の問題が顕在化している。
【0004】
このような問題に対し、前述の方法において、該短繊維の配合量を増加することによって対処しようとすると、物性低下や加工性に問題が発生し、配合量に限界があるとともにベルト走行によって表面に突出した有機短繊維の脱落、摩滅などにより、摩擦係数の低減効果が低下するという問題があった。
【0005】
一方で、ベルト本体の少なくともプーリ接触部分を、エチレン・α−オレフィンエラストマーに粉状乃至粒状のポリオレフィン樹脂を含有させたゴム組成物で形成した摩擦伝動ベルトが提案されている。(例えば特許文献1参照)前記の構成によれば、ベルト本体の少なくともプーリ接触部分を構成するゴム組成物のゴム成分がエチレン・α−オレフィンエラストマーであって、それ自体の摩擦係数が低いことに加え、それに粉状乃至粒状のポリオレフィン樹脂が分散しており、ベルト表面に露出したポリオレフィン樹脂により摩擦係数の低減が図られるので、低発音性及び耐摩耗性が優れることとなる。また、エチレン・α−オレフィンエラストマーはポリオレフィン樹脂への親和性が高いことからポリオレフィン樹脂の良好な分散状態が得られる。
【特許文献1】特開2004−324794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の方法では、粉状乃至粒状のポリオレフィン樹脂は潤滑剤として作用するものであり、補強性については期待できなかった。また、ベルトの初期走行段階でのスリップ音を軽減することは可能であるが、長時間走行した後のベルトでは、ポリオレフィン樹脂が表面から脱落しやすくなるため、ベルト表面の摩擦係数を軽減する効果を長期間にわたって維持することはできなかった。またベルトの製造において、ポリオレフィン樹脂をエチレン・α−オレフィンエラストマーに混合する条件によっては、ベルト物性が急激に低下するなどの問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、長期間に渡って摩擦係数を低く維持することが可能であって、スティックスリップやミスアライメントによる発音を軽減し、かつ耐久性、耐磨耗性に優れた摩擦伝動ベルト、並びに摩擦伝動ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1記載の発明は、摩擦伝動面が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部含有するゴム組成物で構成されることを特徴とする摩擦伝動ベルトである。
【0009】
本願請求項2記載の発明は、請求項1記載の摩擦伝動ベルトであって、摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部が露出していることを特徴とする。
【0010】
本願請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルトであって、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cであることを特徴とする。
【0011】
本願請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトであって、ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維であることを特徴とする。
【0012】
本願請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトであって、摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであることを特徴とする。
【0013】
本願請求項6記載の発明は、摩擦伝動面を、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部配合し、融点又は軟化点未満で混練したゴム組成物を融点又は軟化点以上で加硫成形することにより形成することを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法である。
【0014】
本願請求項7記載の発明は、請求項6記載の摩擦伝動ベルトの製造方法であって、ゴムの混練は少なくとも2段階実施されてなり、最終段階の混練にて前記混練を行うことを特徴とする。
【0015】
本願請求項8記載の発明は、請求項6又は7記載の摩擦伝動ベルトの製造方法であって、摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部を露出させてなることを特徴とする。
【0016】
本願請求項9記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法であって、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cであることを特徴とする。
【0017】
本願請求項10記載の発明は、請求項7〜10のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法であって、ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維であることを特徴とする。
【0018】
本願請求項11記載の発明は、請求項7〜11のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法であって、摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本願請求項1記載の発明は、摩擦伝動面をエチレン・α−オレフィンエラストマーに繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を特定量含有するゴム組成物で構成することで、耐久性、耐摩耗性が良好で、かつ耐発音性に優れると共に、長期間に渡り摩擦係数を低減させることが可能な摩擦伝動ベルトを提供する。
【0020】
本願請求項2記載の発明は、摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部が露出していることで、走行初期から摩擦係数を低減せしめることができ、ひいては耐久性、耐摩耗性、並びに耐発音性が向上する。
【0021】
本願請求項3記載の発明は、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cであることで、ゴム組成物中でポリオレフィン短繊維が明確な繊維形状を保つことができ、またエラストマーとの接着性も良好で、更に耐久性、耐摩耗性、並びに耐発音性に優れる。
【0022】
本願請求項4記載の発明は、ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維であることで、更に摩擦係数低減効果が高まる。
【0023】
本願請求項5記載の発明は、摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであり、スティックスリップやミスアライメントによる発音を低減し、リブのクラックを抑制し、ベルトが長寿命化することができる。
【0024】
本願請求項6記載の発明は、摩擦伝動面を、エチレン・α−オレフィンエラストマーと繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を特定量配合し、融点若しくは軟化点未満で混練したゴム組成物を融点又は軟化点以上で加硫成形することにより形成することで、摩擦伝動面をエチレン・α−オレフィンエラストマーに繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を特定量含有するゴム組成物で構成することができる。すなわちポリオレフィン短繊維が繊維形状を保持したままベルト成形体において存在することが可能となり、また該短繊維とエチレン・α−オレフィンエラストマーとの接着性が良好であって、耐久性、耐摩耗性並びに耐発音性に優れると共に、長期間に渡り摩擦係数を低減させることが可能な摩擦伝動ベルトを提供することができる。
【0025】
本願請求項7記載の発明は、ゴムの混練は少なくとも2段階実施されてなり、最終段階の混練において前記混練を行うことで、ベルト成形体においてポリオレフィン短繊維が繊維形状を保持可能であり、そして最終段階の混練前に高温での混練を設けることが可能であることから、ゴムと他配合剤との混練を良好に行うことができるといった利点がある。
【0026】
本願請求項8記載の発明は、摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部を露出させることで、走行初期から摩擦係数を低減せしめることができ、ひいては耐久性、耐摩耗性、並びに耐発音性が向上する。
【0027】
本願請求項9記載の発明は、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cであることで、比較的高温の混練においてもゴム組成物中でポリオレフィン短繊維が明確な繊維形状を保つことができ、更に耐久性、耐摩耗性、並びに耐発音性に優れる。
【0028】
本願請求項10記載の発明は、ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維であることで、更に摩擦係数低減効果が高まる。
【0029】
本願請求項11記載の発明は、摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであり、スティックスリップやミスアライメントによる発音を低減し、リブのクラックを抑制し、ベルトが長寿命化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、摩擦伝動ベルトとして、ベルトの長手方向に延びる複数のリブ部を有するVリブドベルトに本発明を適用したものである。
【0031】
図1に示すようにVリブドベルト1は、心線2をベルト長手方向に沿って埋設した接着層3と、この接着層3の一方の面に設けられた圧縮層4と、接着層3の他方の面を被覆するカバー帆布からなる伸張層5とを有する。そして圧縮層4には、ベルト長手方向に延びる断面略三角形状の複数のリブ部6が設けられている。ここで摩擦伝動面は圧縮層6の表層をいう。
【0032】
本発明で使用する心線2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、またはアラミド繊維などから構成される撚糸コードが使用できる。
【0033】
前記心線は接着処理を施されることが望ましく、例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200°Cに温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260°Cに温度設定した延伸熱固定処理器に30〜600秒間通し−1〜3%延伸して延伸処理コードとする、ことができる。
【0034】
この前処理液で使用するイソシアネート化合物としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート(例えば商品名としてPAPIがある)等がある。このイソシアネート化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0035】
また、上記イソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも使用可能である。
【0036】
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物などである。上記エポキシ化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0037】
RFL処理液はレゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は1:2〜2:1にすることが接着力を高める上で好適である。モル比が1/2未満では、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の三次元化反応が進み過ぎてゲル化し、一方2/1を超えると、逆にレゾルシンとホルムアルデヒドの反応があまり進まないため、接着力が低下する。
【0038】
ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどがあげられる。
【0039】
また、レゾルシン・ホルムアルデヒドの初期縮合物と上記ゴムラテックスの固形分質量比は1:2〜1:8が好ましく、この範囲を維持すれば接着力を高める上で好適である。上記の比が1/2未満の場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が多くなり、RFL皮膜が固くなり動的な接着が悪くなり、他方1/8を超えると、レゾルシン・ホルムアルデヒドの樹脂分が少なくなるため、RFL皮膜が柔らかくなり、接着力が低下する。
【0040】
更に、上記RFL液には加硫促進剤や加硫剤を添加してもよく、添加する加硫促進剤は、含硫黄加硫促進剤であり、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等のチウラム類、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)ジエチルジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等のジチオカルバミン酸塩類等がある。
【0041】
また、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛)、有機過酸化物等があり、上記加硫促進剤と併用する。
【0042】
伸張層5を構成する帆布は、織物、編物、不織布などから選択される繊維基材である。構成する繊維素材としては、公知公用のものが使用できるが、例えば綿、麻等の天然繊維や、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、そしてポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、アラミド等の有機繊維が挙げられる。織物の場合は、これらの糸を平織、綾織、朱子織等することにより製織される。
【0043】
上記帆布は、公知技術に従ってRFL液に浸漬することが好ましい。またRFL液に浸漬後、未加硫ゴムを帆布に擦り込むフリクションを行ったり、ゴムを溶剤に溶かしたソーキング液に浸漬処理することができる。尚、RFL液には適宜カーボンブラック液を混合して処理反を黒染めしたり、公知の界面活性剤を0.1〜5.0質量%加えてもよい。
【0044】
ここで圧縮層4は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部含有するゴム組成物で構成される。
【0045】
エチレン・α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテン)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などであり、具体的にはEPMやEPDMなどのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
【0046】
本発明で用いるポリオレフィン短繊維は、繊維長が0.2〜8.0mm、更に好ましくは0.5〜6.5mmのものである。繊維長が0.2mm未満であれば、短繊維がゴム表面から脱落し易く、長期にわたり摩擦係数低減効果を持続させることが困難であり、また補強性に劣るという不具合がある。加えて、圧延等において配向が出難いため、配向性を必要とする場合に不適であるという問題がある。一方、8.0mmを超えると、ゴム組成物におけるオレフィン短繊維の分散が悪くなり、耐摩耗性、耐久性などが低下する。ポリオレフィンは、エチレン・α−オレフィンエラストマーと相溶性が良いためゴム組成物中で分散しやすく、ひいては物性低下を抑制して長期間安定した低摩擦係数を実現する。
【0047】
ここで、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点は、100〜250°Cであることが望ましい。100°C未満であると、混練などの工程において溶融又は軟化してしまい、ゴム組成物において繊維形状を保持することが困難であり、良好な耐摩耗性、耐久性を確保することが難しい。一方、250°Cを超えるポリオレフィン短繊維は非常に高価であるため、配合コストが高くなる。
【0048】
ポリオレフィンとして具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられるが、なかでも摩擦係数低減効果が高い超高分子量ポリエチレンを選択することが望ましい。超高分子量ポリエチレンは、平均分子量が粘度法で100万g/mol以上、光散乱法で300万g/mol以上のものを総称するが、本発明で用いられるものとしてはその中でも粘度法による平均分子量が300万〜800万g/molのものが好ましい。また超高分子量ポリエチレンの融点又は軟化点は、100〜150°Cのものが好ましく用いられる。
【0049】
ポリオレフィン短繊維は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、5〜50重量部含有させる。5重量部未満では、摩擦係数低減効果を長期にわたり持続させることが困難であり、他方、50重量部を超えると、耐久性が低下するといった不具合がある。
【0050】
また前記ゴム組成物には、上記ポリオレフィン短繊維以外の短繊維を含有させることが望ましい。例えば、ポリアミド、ポリエステル、綿、アラミド、PBOなどからなる短繊維を混入して、圧縮層4の耐側圧性を向上させるとともに、プーリと接する面になる圧縮層4の表面に該短繊維を突出させ、圧縮部の摩擦係数を低下させて、ベルト走行時の騒音を軽減させることができる。なかでも、アラミド短繊維とポリアミド短繊維の少なくとも一方を含めた場合には、低摩擦係数を長期に維持する効果が得られる。アラミド繊維は分子構造中に芳香環をもつ、例えば商品名コーネックス、ノーメックス、ケブラー、テクノーラ、トワロン等が例示できる。
【0051】
前記短繊維は、繊維長さは1〜20mmで、その添加量はゴム100重量部に対して5〜50重量部であることが望ましい。尚、短繊維の添加量が1重量部未満の場合には、圧縮層4のゴムが粘着しやすくなって摩耗する欠点があり、また一方40重量部を越えると、短繊維がゴム中に均一に分散し難い。前記短繊維は圧縮層4のゴムとの接着を向上させるためにも、該短繊維をエポキシ化合物やイソシアネート化合物などを含有する処理液によって接着処理されることが好ましい。
【0052】
また当該ゴム組成物には架橋剤として有機過酸化物が配合することができる。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ポリマー成分100重量部に対して0.5〜8重量部の範囲で好ましく使用される。
【0053】
また前記ゴム組成物は、ポリマー成分100重量部に対して、N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類を好ましくは0.5〜13重量部配合することができる。N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類は共架橋剤として作用し、0.5重量部未満では添加による効果が顕著でなく、13重量部を超えると引裂き力並びに接着力が急激に低下する。このとき、共架橋剤としてN,N’−m−フェニレンジマレイミドを選択した場合、架橋密度が高くなり、耐摩耗性が高く、また注水時と乾燥時の伝達性能の差が少ないといった特徴がある。またキノンジオキシム類を選択した場合は、繊維基材との接着性に優れるといった特徴がある。
【0054】
キノンジオキシム類としては、p−ベンゾキノンジオキシム、p,p’−ジベンゾキノンジオキシム、テトラクロロベンゾキノンポリ(P−ジニトロベンゾキノン)等が挙げられる。接着性や架橋密度を考慮すると、p−ベンゾキノンジオキシムやp,p’−ジベンゾキノンジオキシムなどのベンゾキノンジオキシム類が好ましい。
【0055】
また前記ゴム組成物には、カーボンブラック、金属炭酸塩、金属珪酸塩などの無機充填剤を配合することができる。補強性を考慮すると、少なくともカーボンブラックが含有されることが望ましい。
【0056】
カーボンブラックは限定されるものではないが、窒素吸着比表面積20〜150cm/g,DBP吸油量が50〜160cm/100gの特性を有するものを使用することが好ましい。ここで、窒素吸着比表面積(NSA)は、カーボンブラックの比表面積であって、JIS K 6217―2に従い測定される。またDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、ストラクチャーの指標であって、JIS K 6217―4に従い測定される。
【0057】
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウムを挙げることができ、金属珪酸塩としては、珪酸カルシウム、珪酸カリウムアルミニウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウムなどが挙げられる。更に具体的には、珪酸アルミニウムとしてはクレイ、珪酸マグネシウムとしてはタルク、珪酸カリウムアルミニウムとしてはマイカなどを挙げることができる。これらは単独又は併用することができる。なかでも炭酸カルシウムは、ゴムとの相溶性が良く、強度等の機械物性に悪影響を及ぼさないことから望ましい。
【0058】
上記無機充填剤の平均一次粒径は、0.01〜3.00μmのものが好ましい。3.00μmを超えるとベルトの耐久性に悪影響があるといった不具合があり、0.01μm未満のものは分散性が悪くゴム物性が不均一になる。
【0059】
そして、それ以外に必要に応じて、短繊維、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが使用される。
【0060】
接着層3は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィンゴム単独またはその他の種類ゴムからなる相手ゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムを用いることが望ましい。エチレン・α−オレフィンゴムにブレンドする相手ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)の少なくとも一種のゴムを挙げることができる。勿論、上記と同様のゴム組成物を用いることも可能である。
【0061】
尚、Vリブドベルトは、図1のような構成に限定されず、例えば接着層を配置しないVリブドベルトや、背面に帆布を貼着せずゴムを露出させたVリブドベルトなども本発明の技術範囲に属する。以下、これらの実施形態を図面をもとに説明する。
【0062】
図2に示すVリブドベルト21は、背面28が植毛層24を設けたゴム組成物で形成された伸張層25と、該伸張層25の下層に接着層22が配設され、更にその下層に圧縮層26を配置した構成を有する。心線23は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層25に接し、残部が接着層22に接した状態となっている。そして前記圧縮層26はベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ27が設けられている。ここで、圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈し、表面近傍の短繊維はリブ形状に沿って配向している。
【0063】
図3に示すVリブドベルト31は、背面38が短繊維34を含有するゴム組成物で形成された伸張層35と、該伸張層35の下層に圧縮層36を配置した構成を有する。心線33は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層35に接し、残部が圧縮層36に接した状態となっている。そして、前記圧縮層35にはベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ37が設けられており、該リブ表面には植毛層39が設けられている。ここで、伸張層25に含有される短繊維はランダム方向に配向している。
【0064】
ここで図3では、伸張層35を帆布で構成せず、短繊維を含有するゴム組成物で形成した構成を示したが、この際、背面駆動時の異音を抑制すべく、背表面に凹凸パターンを設けることができる。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどを挙げることができるが、最も好ましくは織物パターンである。また短繊維としては、ポリエステル、アラミド、ナイロン、綿などを所望に応じて配合することができる。尚、伸張層、圧縮層及び接着層を構成するゴム組成物、心線などは上述と同様のものが使用できる。
【0065】
そして図3では伸張層35に含有される短繊維はランダム方向に配向しているが、ベルト幅方向に配向させるなど一方向に配向していてもかまわない。尚、ランダム方向に配向させた場合、多方向からの裂きや亀裂の発生を抑制できるといった特徴があるが、このとき短繊維として屈曲部を有する短繊維(例えばミルドファイバー)を選択すると、より多方向から作用する力に対して耐性ができるといった特徴がある。
【0066】
また図3のように接着層を配置しない構成の場合、心線33は伸張層35と圧縮層36の境界領域でベルト本体に埋設されることになる。この時、心線33とベルト本体との接着性を考慮すると、伸張層35及び圧縮層36のどちらか一方のゴム層は、短繊維を含有しないゴム組成物で構成することが望ましい。
【0067】
尚、図2では、伸張層25を、短繊維を含有しないゴム組成物表面に植毛層24を設けた構成としているが、短繊維を含有するゴム組成物表面に植毛層を設けた構成とすることも可能である。
【0068】
また図2では圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているが、短繊維が幅方向に配向した構成としてもかまわない。
【0069】
尚、Vリブドベルトが背面伝動を行う場合は、伸張層の表面も摩擦伝動面となりうる。よって、伸張層を本発明のゴム組成物で構成してもかまわない。
【0070】
次に、これらVリブドベルトの製造方法を説明する。製造方法としては限定されるものではないが例えば以下のような方法がある。
【0071】
第1の方法としては、まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張層を構成する部材と接着層を構成する接着ゴムシートとを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次巻き付けて未加硫スリーブを形成した後、加硫して加硫スリーブを得る。次に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架され所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の該加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮層表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨して摩擦伝動面を形成する。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定に幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
【0072】
第2の方法としては、周面にリブ刻印を設けた円筒状の成形ドラムに、圧縮層を構成する圧縮ゴムシート、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けた後、心線をスピニングし、伸張層を構成する部材を巻き付けて未加硫スリーブを配置する。その後、該未加硫スリーブを成形ドラムに押圧しながら加硫することで、圧縮層にリブを型付けする。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0073】
第3の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き、その上に心線をスピニングした後、さらに圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次無端状に捲き付けて未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して加硫成形する。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0074】
第4の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを配置した第1未加硫スリーブを形成した後、可撓性ジャケットを膨張させて、該第1未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して、リブ部を有する予備成型体を作製する。そして、前記予備成型体を密着させた外型から、内型を離間させ、次いで、内型に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを配置し、心線をスピニングして第2未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、前記予備成型体を密着させた外型に、該第2未加硫スリーブを内周側から押圧して予備成型体と一体的に加硫する。得られた加硫ベルトスリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0075】
尚、Vリブドベルトの圧縮層を表層と内層の2層からなる構成とする場合、表層と内層の2層構成を有する圧縮ゴムシートを巻き付ける、もしくは表層用圧縮ゴムシートと内層用圧縮ゴムシートを順次巻き付けるなどにより、表層と内層の2層構成を有する圧縮層を配置した未加硫スリーブを形成する必要がある。このとき、第1の方法では研磨によりリブを形成するため、得られたVリブドベルトのリブ山には表層が存在するがリブ側面やリブ底には内層が露出することが考えられる。そのため、表層と内層の2層からなるVリブドベルトは、第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することが望ましい。
【0076】
また図3のような接着層を配置しないVリブドベルトは、上記方法において接着ゴムシートを配置せずに製造することで得ることができる。更に図2のように圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているVリブドベルトは、例えば第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することで得られる。そして、圧縮層に含有される短繊維が幅方向に配向したVリブドベルトは、例えば第1の方法で製造することで得られる。
【0077】
ここで、圧縮ゴムシートを構成するゴム組成物を以下のようにして調製することができる。本発明においては、ゴムと配合剤との混練は少なくとも2段階実施することが望ましい。具体的には、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて、ポリオレフィン短繊維、架橋剤以外の配合剤とエチレン・α−オレフィンエラストマーをブレンドし、第1段階の混練を行う。このときの混練温度は、ポリオレフィン短繊維の融点または軟化点以上の比較的高温で実施することができる。尚、本混練を複数回に分けて実施することも可能である。
【0078】
次いで、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点未満の温度で、前記混練物にポリオレフィン短繊維及び架橋剤を配合してブレンドし、最終段階の混練を行う。このとき、混練温度を融点又は軟化点以上に設定すると、ポリオレフィン短繊維が溶融又は軟化することにより繊維形状を保持することが困難となり、摩擦係数を低下させる効果が少なくなると共に、ゴム組成物が未加硫状態でも剛直になってしまい、混練り後の成形が困難になるという不具合が発生する。すなわち、混練温度を融点又は軟化点未満とすることで、ポリオレフィン短繊維の繊維形状を保持したままゴム組成物に含有せしめることが可能となるものである。そして、このようにして調製されたゴム組成物を圧延することにより圧縮ゴムシートを作製することができる。尚、この圧延工程において、ポリオレフィン短繊維を特定方向に配向させることができる。
【0079】
そして前記圧縮ゴムシートを用いて形成された未加硫ベルトスリーブを、ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点以上の温度で加硫を行う。これにより、保形性を有したまま溶融状態又は軟化状態に近づき、もしくは溶融又は軟化し、短繊維とエチレン・α−オレフィンエラストマーとの界面の親和性が増すことになる。
【0080】
尚、本実施形態は、Vリブドベルトに本発明を適用した一例であるが、Vリブドベルトに限らず、他の種類の摩擦伝動ベルトにも本発明を適用することは可能である。
【実施例】
【0081】
以下、具体的な実施例を伴って説明する。
【0082】
<ポリオレフィン短繊維の保形性評価>
実施例1
バンバリーミキサーを用いて、EPDMに、カーボンブラック、パラフィン系オイルを混合し、ゴム温度が165°Cになるまで混練を行ない、ゴムを排出して50°C程度まで冷却した後、該混練ゴムに有機過酸化物、超高分子量ポリエチレン短繊維(平均分子量(粘度法)400,000、繊維長1.0mm、融点145°C)を混合して120°C以下の温度で混練を行なった。このゴム組成物をカレンダーロールにて圧延してゴムシートとし、150°Cで30分間加硫した。得られた加硫ゴムをSEMにて観察したところ、図4に示すように超高分子量ポリエチレン短繊維が繊維形状を保っていることが確認できた。(写真中央が超高分子量ポリエチレン短繊維)またその配向性も確認することができた。
【0083】
実施例2
加硫条件を180°Cで30分間とした以外は、前記と同様にして加硫ゴムを製造し、SEMにて観察したところ、超高分子量ポリエチレン短繊維が繊維形状を保っていることが確認できた。
【0084】
比較例1
超高分子量ポリエチレン短繊維の混合温度を150°Cとした以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを製造したところ、前記混練後にゴムが剛直して加工性が著しく不良となった。また得られた加硫ゴムをSEMで観察したところ、短繊維の存在を認めることができなかった。
【0085】
<Vリブドベルトの摩擦性、耐摩耗性、耐熱耐久性評価>
実施例3〜6、比較例2〜5
表1の配合に従いゴム組成物を調製した。バンバリーミキサーを用いて、EPDMに、有機過酸化物、ポリオレフィン短繊維以外の配合剤を混合し、ゴム温度が165°Cになるまで混練を行ない、ゴムを排出して50°C程度まで冷却した後、該混練ゴムに有機過酸化物、超高分子量ポリエチレン短繊維(平均分子量(粘度法)400,000、融点145°C)を混合して120°C以下の温度で混練を行なった。得られたゴム組成物をカレンダーロールにて圧延してゴムシートとし、165°Cで30分間加プレス加硫し、得られた加硫ゴムの硬度(JIS−A)をJIS K6253に準じて測定した。
尚、比較例3はゴムに超高分子量ポリエチレン短繊維を配合せず、比較例5はゴム成分としてEPDMでなくCRを用いている。
【0086】
【表1】

【0087】
次にVリブドベルトを作製した。Vリブドベルトは、ベルト本体にポリエステル繊維のロープからなる心線を埋設し、背面(伸張層)をゴム層で形成し、他方の面側に設けられた圧縮層に3個のリブ部をベルトの長手方向に配したものである。前記圧縮層、伸張層には短繊維が含有されてなり、該短繊維はベルト幅方向に配向している。
【0088】
ここで、圧縮層及び伸張層を前記未加硫ゴムシートを用いて形成した。ベルトの製造方法としては、以下のような公知の方法を用いた。まず、フラットな円筒状の成形モールドに伸張ゴムシートを巻きつけ、心線をスピニングし、さらに、圧縮ゴムシートを巻きつけた後、該圧縮ゴムシートの上に加硫用ジャケットを挿入する。ついで、成形モールドを加硫缶内に入れて加硫した後、筒状の加硫スリーブを成形モールドから取り出す。そして、加硫スリーブの圧縮層をグラインダーにより研削して複数のリブ部を形成してから、カッターにより個々のベルトに切断して、Vリブドベルトを得た。研削面を確認したところ、超高分子量ポリエチレン短繊維が一部露出しているのが確認された。そして、このVリブドベルトを用いて、摩擦性、耐摩耗性、耐熱耐久性の評価を行った。
【0089】
耐熱耐久試験
図5に示すように、耐熱耐久試験の評価に用いた走行試験機は、駆動プーリ40(直径60mm)、アイドラープーリ41(直径50mm)、従動プーリ42(直径50mm)、テンションプーリ43(直径50mm)及びアイドラープーリ44(直径50mm)とを順に配置して構成したものである。そして、試験機の各プーリ40〜44にVリブドベルト1を掛架し、Vリブドベルト1のアイドラープーリ41,44への巻き付け角度を90°にして、雰囲気温度130°C、駆動プーリの回転数3300rpm、ベルト張力800N/リブの試験条件で、駆動プーリ40に荷重を付与してVリブドベルト1を走行させ、500時間を打ち切りとし、心線に達する亀裂が6個発生するまでの時間を調べた。尚、試験は400時間を打切りとした。
【0090】
摩耗試験
摩耗試験では、各Vリブドベルトを室温下で駆動プーリ(直径120mm)従動プーリ(直径120mm)これにアイドラープーリ(直径45mm)に設置し、従動プーリに負荷12馬力、アイドラープーリの取付け荷重8.3kgf、回転数800で48時間走行させた後、ベルト磨耗率を測定した。磨耗率は、走行試験前後のベルト重量を測定し、ベルト重量減量(走行前ベルト重量−走行後ベルト重量)を走行前ベルト重量で除したものを、摩耗率として算出した。
【0091】
摩擦試験
摩擦試験は、Vリブドベルトを、案内ローラにVリブドベルトの巻き付きけ角度が90°となるように掛け、Vリブドベルトの片一端を固定し、他方一端に2.0kgfのウェイトを垂下させ、案内ローラを43rpmで回転させたときの、ロードセルの値を検出することによって張り側の張力T1と緩み側の張力T2を検出し、張力比(T1/T2)から、摩擦係数μ=(1/2π)ln(T1/T2)を求めた。尚、摩擦試験は、耐熱耐久試験前のベルト(オリジナル)と耐熱耐久試験後のベルト(劣化後)について実施した。
これらの結果を表2に記す。
【0092】
【表2】

【0093】
結果、実施例は長期に渡り低摩擦係数を維持することが可能であり、耐摩耗性にも優れるとともに、耐久性が高いVリブドベルトであることが判る。しかし、超高分子量ポリエチレン短繊維を少量しか配合していない比較例2及び超高分子量ポリエチレン短繊維をまったく含有しない比較例3では、耐熱耐久試験前後の摩擦係数に極端に差があった。また比較例3は走行初期も摩擦係数が高く、また耐磨耗性にも乏しいことが知見された。超高分子量ポリエチレン短繊維を過剰に配合した比較例4並びに繊維長が長い超高分子量ポリエチレン短繊維を配合した比較例5では、耐熱耐久性が極端に低く、打切り時間まで走行させることができなかった。また耐磨耗性も実施例と比べると不十分であった。そして、ゴム成分にCRを用いた比較例6では、耐熱耐久性、耐摩耗性が極端に乏しく、実使用上不可能なレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明にかかる伝動ベルトは自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る摩擦伝動ベルトであるVリブドベルトの断面斜視図である。
【図2】本発明に係る摩擦伝動ベルトである別のVリブドベルトの断面図である。
【図3】本発明に係る摩擦伝動ベルトである更に別のVリブドベルトの断面図である。
【図4】本発明に係る加硫ゴム組成物のSEM像である。
【図5】実施例における耐熱耐久試験のレイアウトを示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 Vリブドベルト
2 心線
3 接着層
4 圧縮層
5 伸張層
6 リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦伝動面が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部含有するゴム組成物で構成されることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部が露出している請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cである請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
摩擦伝動ベルトがVリブドベルトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
摩擦伝動面を、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、繊維長0.2〜8.0mmのポリオレフィン短繊維を5〜50重量部配合し、融点又は軟化点未満で混練したゴム組成物を融点又は軟化点以上で加硫成形することにより形成することを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項7】
ゴムの混練は少なくとも2段階実施されてなり、最終段階にて前記混練を行う請求項6記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項8】
摩擦伝動面からポリオレフィン短繊維の一部を露出させてなる請求項6又は7記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項9】
ポリオレフィン短繊維の融点又は軟化点が100〜250°Cである請求項6〜8のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項10】
ポリオレフィン短繊維が超高分子量ポリエチレン短繊維である請求項6〜9のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項11】
摩擦伝動ベルトがVリブドベルトである請求項6〜10のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−92880(P2007−92880A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282858(P2005−282858)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】