伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板
【課題】電源線路に流れる伝導ノイズを抑制できるとともに、信号伝送線路クロストークを低減できる、伝導ノイズ抑制構造体を提供する。
【解決手段】同一面上に互いに離間して設けられた電源線路11および信号伝送線路12と、電源線路11および信号伝送線路12と離間して対向配置されたグランド層13と、電源線路11およびグランド層13と離間して対向配置された抵抗層14を備えてなり、電源線路11の幅方向において、電源線路11の幅よりも抵抗層14の幅が大きく、電源線路11の幅方向において、抵抗層14と信号伝送線路12とが離間していることを特徴とする伝導ノイズ抑制構造体。
【解決手段】同一面上に互いに離間して設けられた電源線路11および信号伝送線路12と、電源線路11および信号伝送線路12と離間して対向配置されたグランド層13と、電源線路11およびグランド層13と離間して対向配置された抵抗層14を備えてなり、電源線路11の幅方向において、電源線路11の幅よりも抵抗層14の幅が大きく、電源線路11の幅方向において、抵抗層14と信号伝送線路12とが離間していることを特徴とする伝導ノイズ抑制構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導ノイズ抑制構造体およびこれを備えた配線回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス社会が訪れ、情報処理機器、通信機器等にあっては、光モジュールによる光/電気変換による信号伝送速度の向上や、小型化が進んでいる。またサーバー、ワークステーション、パソコン、携帯電話、ゲーム機器等においては、MPU(マイクロプロセッサー)の高速化、多機能化、複合化、およびメモリ等の記録装置の高速化が進行している。
しかし、これらの機器から放射されるノイズ、または機器内の導体を伝導するノイズがもたらす、自身または他の電子機器への誤作動が問題となってきている。これらノイズとしては、レーザーダイオード、フォトダイオード、MPU、電子部品等における、配線回路基板内の信号伝送線路等とのインピーダンス不整合に基づくノイズ、配線線路間のクロストーク、MPU等の半導体素子の同時スイッチングによる電源層とグランド層との層間の共振によって誘起されるノイズ等がある。
【0003】
これらノイズを抑制する配線回路基板の構造としては、下記のものが知られている。
(i)表面に搭載された電子部品に電源を供給するために用いられる、電源層とグランド層を有する配線基板において、電源層を、配線回路化した低抵抗導体層と高抵抗導体層の積層体で構成した配線基板(特許文献1)。
(ii)電源層とグランド層との平行平板構造を有するプリント配線基板において、電源層またはグランド層を、抵抗性導体膜と電子部品電流供給パターンとの一体化物で構成し、抵抗性導体膜の厚さを、電子部品電流供給パターンの1/10以下とした配線基板(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−283073号公報
【特許文献2】特開2006−49496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載されている配線基板はいずれも、電源回路パターンに高抵抗の損失層(上記高抵抗導体層または抵抗性導体膜)を接続させることによって、電源層中に流れる高周波共振電流を損失させて、電源層とグランド層の平行平板共振を抑え、電源電圧の変動を抑えようとするものである。
しかし、配線回路化された電源回路パターンに接続された高抵抗の損失層は、大きな面積を占有してしまう。実際の電子機器の配線回路基板は実装密度が高いため、電源回路パターンの近傍にも信号伝送線路が存在する。このため、電源回路パターンに高抵抗の損失層を接続して設けると、信号伝送線路へのクロストーク、信号伝達の遅延、電圧が低下して閾値を超えることができない等、信号波形の品質が低下しやすい問題があり、実用化に至っていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる、伝導ノイズ抑制構造体および該伝導ノイズ抑制構造体を備えた配線回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備えてなり、電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きく、前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間していることを特徴とする。
【0007】
隣り合う電源線路と信号伝送線路の間に、グランド線路が設けられ、電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dが、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2より大きい構成であってもよい。
前記電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との距離をDとし、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離をTとし、電源線路の幅をW11とし、前記電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離をLとするとき、下記の数式(1)を満たすことが好ましい。
3T≦D<(L+W11) ・・・(1)
【0008】
前記抵抗層が、電源線路とグランド層の間に設けられている構成において、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgよりも小さいことが好ましい。
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが2〜100μmであることが好ましい。
前記抵抗層が、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層であることが好ましい。
また本発明は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体を具備する配線回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板によれば、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<伝導ノイズ抑制構造体>
[第1の実施形態]
図1,2は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示すもので、図2は上面図、図1は図2のA−A’線に沿う断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体10は、表面上に電源線路11と信号伝送線路12が設けられ、裏面にグランド層13が設けられた両面基板である。電源線路11と信号伝送線路12とは同一面上において互いに離間して併走している。電源線路11とグランド層13との間には抵抗層14が設けられている。
グランド層13は、電源線路11および信号伝送線路12のそれぞれと離間して対向配置されており、抵抗層14は、電源線路11およびグランド層13のそれぞれと離間して対向配置されている。具体的に本実施形態では、電源線路11と抵抗層14とは第1の絶縁層19aを介して対向積層されており、グランド層13と抵抗層14とは第2の絶縁層19bを介して対向積層されている。本発明において「対向」しているとは上面から見たときに少なくとも一部が重なり合う状態をいう。また電源線路11とグランド層13とは、第1の絶縁層19a、抵抗層14、および第2の絶縁層19bを介して対向積層されており、信号伝送線路12とグランド層13とは、第1の絶縁層19aおよび第2の絶縁層19bを介して対向積層されている。
【0011】
本実施形態において、電源線路11の幅方向をX方向、長さ方向をY方向、厚さ方向をZ方向という(以下、同様。)。X方向において、抵抗層14の幅(図中、W14で示す。)は電源線路11の幅(図中、W11で示す。)よりも広い。X方向において抵抗層14と信号伝送線路12とは離間している。すなわちX方向において抵抗層14の縁端部14aと信号伝送線路12の縁端部12aとの間には間隙15が存在する。X方向における該間隙15の幅を抵抗層14と信号伝送線路12との距離Dとする。
【0012】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、電源線路11またはグランド層13に流れる高周波ノイズ電流を以下のように抑制するものと考えられる。
すなわち抵抗層14が、電源線路11と電磁結合しており、電源線路11に流れる高周波電流によって発生する磁束密度(電束密度)の変化に対し、これを打ち消すように逆の方向に磁束が発生するように、抵抗層14中に渦電流が発生し、該電流が抵抗により損失させられ、結果として電源線路11およびグランド層13のそれぞれにおいて高周波ノイズ電流を減じるものである。効率よく抑制効果をもたらすためには、電源線路11の縁端部に集中する電磁界の強度分布(磁束密度または電束密度)を、グランド層に向かわせて、抵抗層14に集中させることが好ましい。
【0013】
この際、抵抗層14が信号伝送線路12とグランド層13との間に存在すると、信号を抑制することとなるため、図1に示すように、信号伝送線路12と対向する位置に抵抗層14を設けることは避けなければならない。また抵抗層14には高周波電流が流れ、該抵抗層14から、特にはその縁端部から、電磁界放射が行われているため、抵抗層14の近くに信号伝送線路12があると、電源線路11中の高周波ノイズが抵抗層14を介して信号伝送線路12に影響するおそれがある。このため、抵抗層14の縁端部14aと信号伝送線路12の縁端部12aとを離間させて間隙15を設けることが必要となる。
【0014】
間隙15の幅D(X方向における抵抗層14と信号伝送線路12との距離D)は、電源線路11の厚さ方向(Z方向)における電源線路11と抵抗層14との隔置距離をTとすると、3T以上とすることが好ましい。Dがこれより小さいと電源線路11中のノイズが信号伝送線路12に伝わりやすくなる。信号伝送線路12はマイクロストリップ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層14が近くなると、インピーダンスも変化するため、その影響を最小にするためにも、間隙15の幅Dを3T以上とすることが好ましい。また、X方向における電源線路11と信号伝送線路12との線間距離をLとすると、間隙15の幅Dは、該線間距離Lと電源線路11の幅W11の和(L+W11)より小さい。すなわち3T≦D<(L+W11)を満たすことが好ましい。
Dが(L+W11)以上であると、電源線路11と抵抗層14とが対向しなくなる。そうなると、電源線路11の縁端部より生じる磁束密度(電束密度)の変化を抵抗層14で捕捉することができなくなるため、抵抗層14を設けることによる伝導ノイズ抑制効果は全くなくなる。伝導ノイズ抑制効果の点からは、間隙15の幅Dは、線間距離Lよりも小さいほうが好ましい。
【0015】
電源線路11と抵抗層14との隔置距離Tは、基板厚みにもよるが、2〜100μmが好ましい。2μm未満では絶縁性の保持が困難となり、例えば電圧の異なる電源線路が隣接して設けられている場合にはリークが発生し不都合となる。100μmを超えると、電源線路からの磁束密度の変化が弱まることから、伝導ノイズ抑制効果が弱まる。該隔置距離Tのより好ましい範囲は5〜50μmである。
また、本実施形態のように抵抗層14が、電源線路11とグランド層13の間に設けられている場合、電源線路11と抵抗層14との隔置距離Tは、Z方向におけるグランド層13と抵抗層14との距離Tgよりも小さい方が、伝導ノイズ抑制効果の効率が良い。すなわち電源線路11とグランド層13との間に存在する絶縁層中において、抵抗層14がグランド層13より電源線路11に近くなるように抵抗層14を装荷する方が、伝導ノイズ抑制効果が高い。
【0016】
電源線路11と信号伝送線路12との線間距離Lは、個別のパターン設計によるが、10〜5000μm程度が好ましい。線間距離Lのより好ましい範囲は100〜1000μmである。
【0017】
[第2の実施形態]
図3,4は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示すもので、図4は上面図、図3は図4のB−B’線に沿う断面図である。以下、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体20が、第1の実施形態と大きく異なる点は、電源線路11および信号伝送線路22が設けられている面と同じ面上であって、隣り合う電源線路11と信号伝送線路22の間に、グランド線路16が設けられている点である。電源線路11と信号伝送線路22とグランド線路16とは互いに離間して併走している。
また、第1の実施形態における信号伝送線路12は、上面からみたとき図2に示すように直線ではなく変曲部を有する形状であるのに対して、本実施形態における信号伝送線路22は図4に示すように直線状である。さらに第1の実施形態における抵抗層14の一方の端部14aは、図2に示すように上面からみたときに直線状ではなく、信号伝送線路12の変曲部に追従する変曲部を有する形状であるのに対して、本実施形態における抵抗層24の一方の端部24aは図4に示すように直線状である。
【0018】
抵抗層24の幅W14は電源線路11の幅W11よりも広い。X方向において抵抗層24と信号伝送線路22とは離間している。信号伝送線路22はコプレーナ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層24が、グランド線路16を超えて信号伝送線路22に近くなると、インピーダンスも変化するおそれがある。その影響を最小にするためにも、X方向における抵抗層24と信号伝送線路22との距離D(間隙の幅D)を3T以上とすることが好ましい。
またX方向におけるグランド線路16と信号伝送線路22との線間距離をL2とすると、抵抗層24と信号伝送線路22との間隙の幅DはL2より大きい(D>L2)ことが望ましい。
また第1の実施形態と同様に、X方向における電源線路11と信号伝送線路22との線間距離をLとすると、間隙の幅Dは、線間距離Lと電源線路11の幅W11の和(L+W11)より小さいことが好ましい。
【0019】
[第3の実施形態]
図5は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第3の実施形態を示す断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体30は、併走する2本の信号伝送線路12の外側に、それぞれ電源線路11が設けられており、抵抗層24は電源線路11の下部から外側にからて設けられている。すなわち本実施形態において、抵抗層24と信号伝送線路12との間隙の幅Dは、電源線路11と信号伝送線路12との線間距離Lよりも大きく、抵抗層24の一部が電源線路11と対向している。図5は間隙(D)=L+W11/2の状態を示している。
【0020】
[第4の実施形態]
図6は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第4の実施形態を示す断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体40は、同一面上に電源線路11、信号伝送線路12、およびグランド線路16が設けられており、電源線路11に対して、グランド層13とは反対側に、抵抗層44が第3の絶縁層18を介して対向積層されている。
本実施形態において、電源線路11、グランド線路16および信号伝送線路12のそれぞれとグランド層とは、第4の絶縁層19を介して対向している。また抵抗層44とグランド層13とは、第3の絶縁層18、電源線路11および第4の絶縁層19を介して対向している。抵抗層44の上に保護層を設けてもよい。
【0021】
上記第1〜4の実施形態によれば、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備え、かつ電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きいため、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制できる。また、グランド層に流れる伝導ノイズも抑制される。また、電源線路に流れる伝導ノイズが抑制されることによって、電源電圧が安定化され、その結果、電源系からの放射ノイズの発生も抑えられる。
さらに、前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間しているため、信号伝送線路クロストークなどを引き起こす近傍界の放射電磁界強度を、信号波形品質を損なうことなく低減できる。
すなわち、実装密度が高いために、電源線路と同一平面状で、かつ電源線路の近傍に信号伝送線路が存在する場合であっても、抵抗層を電源線路に接続して設けることなく電源線路に流れる伝導ノイズを抑制できることから、抵抗層を信号伝送線路から離間して設けることが可能となり、抵抗層の影響によって発生する信号伝送線路クロストーク等の信号波形品質の低下を抑えることができる。
第3の実施形態によれば、電源線路11と信号伝送線路12との距離Lが小さい場合でも、抵抗層による影響をなくしつつ、伝導ノイズを抑制できる。
第4の実施形態によれば、配線回路基板が完成した後であっても、抵抗層を設けることができる。
【0022】
<配線回路基板>
上記第1〜4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、電源線路11、信号伝送線路12およびグランド層13を有しており、該構造体自体を配線回路基板として用いることができる。また第1〜4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体の上面および/または下面に、さらに絶縁層を介して銅箔を積層し、回路を形成して多層の配線回路基板を構成することもできる。この時、上層と下層の導体を連結するためのビア等が抵抗層を貫通する場合は、抵抗層にアンチパッドを形成して、絶縁性を確保することが好ましい。
【0023】
(導体層)
電源線路11、信号伝送線路12、22、グランド線路16、およびグランド層13はそれぞれ導体層からなる。導体層としては、金属箔;金属粒子を高分子バインダー、ガラス質バインダー等に分散させた導電粒子分散体膜等が挙げられる。金属としては、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、タングステン等が挙げられる。
多層プリント回路基板における導体層は、通常、銅箔である。銅箔の厚さは、通常3〜35μmである。銅箔は、絶縁層との接着性を向上させるために、粗面化処理、またはシランカップリング剤等による化成処理が施されていてもよい。
【0024】
(抵抗層)
抵抗層14、24、44は、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの物理的蒸着により形成された薄膜であることが好ましい。該抵抗層の厚さが5nmより小さいと抵抗層の形成が不充分となりやすく、伝導ノイズ抑制効果が充分に得られない。抵抗層の厚さが300nmを超えると、表面抵抗が小さくなって金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなる。
抵抗層の厚さは、膜厚方向(Z方向)に沿う断面の高分解能透過型電子顕微鏡像を基にして、5箇所の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0025】
抵抗層の表面抵抗は、1×100〜1×104Ωが好ましい。抵抗層が均質な薄膜である場合は体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、材料の体積抵抗率がそれほど高くない材料を用いる場合は、抵抗層に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設けて不均質な薄膜とすること、または後述のマイクロクラスターの連鎖物からなる膜とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。
【0026】
抵抗層の表面抵抗は、以下のように測定する。
すなわち、石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0027】
図7は、絶縁層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなる厚さ50nmの抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。抵抗層は、複数のマイクロクラスターの集合体として観察される。マイクロクラスターには物理的な欠陥があって、均質な薄膜となっておらず、抵抗を有する構造となる。また、欠陥を通してエポキシ樹脂などの接着性成分が貫通し、適切な接着強度を有するものとなっている。
【0028】
抵抗層に用いられる金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0029】
抵抗層に用いられる導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗が高いため、導電性セラミックスを含む抵抗層は、表面抵抗を厚みによる管理する精度がたかまり、さらに、化学安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって容易に得られる窒化物または炭化物が、特に好ましい。
【0030】
抵抗層の形成方法としては、物理的蒸着法が用いられる。この方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、膜厚の制御が、出力と時間で簡単に精度良く行えるため、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を容易に形成できる。
また、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成でき表面抵抗を調整できる。
【0031】
(絶縁層)
絶縁層は、一般的な有機または無機の絶縁材料を用いて構成できる。例えば、エポキシ樹脂、BTレジン、フッ素樹脂、ポリイミドなどの有機材料を、必要があれば、ガラスネットなどの補強材と一体化した材料を使用できる。またはシリコンあるいはアルミナ、ガラスなどの無機材料も用いることができる。
【0032】
(製造方法)
第1〜3の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、例えば以下のようにして製造される。
まず、銅箔上にエポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させ、絶縁層(第1の絶縁層19a)を形成する。該絶縁層上に抵抗層となる層を、EB蒸着、高周波イオンプレーティング、高周波マグネトロンスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどの物理的蒸着法で形成し、レーザーアブレーションを施して所定のパターン形状の抵抗層を形成する。抵抗層となる層は薄膜であるため不要な部分を容易に除去してパターニングすることができる。
ついで、抵抗層上に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグおよび銅箔を順に積層し、プリプレグを硬化させて絶縁層(第2の絶縁層19b)とする。こうして表面および裏面が銅箔からなる両面基板が得られる。
ついで、フォトリソグラフィー法等により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、信号伝送線路12、22、グランド線路16等を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得る。
その後、必要であれば伝導ノイズ抑制構造体の片面または両面上にプリプレグを介して銅箔を貼り合わせ、公知の方法でパターニングすることにより多層回路基板を製造することができる。
【0033】
第4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、例えば以下のようにして製造される。
まず、絶縁層の表面および裏面に銅箔が設けられた両面基板を用意し、フォトリソグラフィー法等により一方の面の銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、信号伝送線路22、グランド線路16を形成する。その上に、エポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させて絶縁層(第3の絶縁層18)を形成する。
次いで、該絶縁層上にマスクを密着させ、物理的蒸着法で全面に抵抗層となる層を形成した後、マスクを剥離することによって、所定の形状の抵抗層が得られる。
または絶縁層上の全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、ケミカルエッチング、またはドライで行えるレーザーエッチングによりパターニングして抵抗層を形成することもできる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図8、図9に示す電源線路、信号伝送線路、グランド層を有する伝導ノイズ抑制構造体(マイクロストリップ構造)を作製した。図9は上面図であり、図8は図9のa−a’線に沿う断面図である。図中符号29は絶縁層を示す。
まず、片面に銅箔(厚さ18μm)が設けられたポリイミドフィルムを2枚用意し、一方のフィルムのポリイミドからなる面上に抵抗層24(厚さ25nm)を形成した。抵抗層24は、全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、エッチングして形成した。
次いで、該抵抗層24を形成した面上に、他方のフィルムのポリイミドからなる面を、ポリイミド系接着剤を介して重ね合わせ、貼り合わせた。
次いでフォトリソグラフィー法により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11および信号伝送線路22を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得た。
得られた伝導ノイズ抑制構造体における各寸法を図8に示す。単位はmmである(以下、同様)。電源線路11から抵抗層24までの隔置距離Tは0.01mmとした。
抵抗層24の信号伝送線路22側の端縁の位置をずらして抵抗層24の幅(W14)を変化させることによって、間隙の幅Dを0、0.1mm、0.25mm、および0.5mmと変化させて4種類の伝導ノイズ抑制構造体を作製した。
【0035】
伝導ノイズ抑制効果の確認として、図9に示すポート1、ポート2間のS21パラメータを、また抵抗層の信号伝送路への影響の確認としてポート1、ポート3間(近端クロストーク)のS31パラメータおよびポート1、ポート4間(遠端クロストーク)のS41パラメータを評価した。
1GHz以上の高い周波数帯域での実測は困難を極めるため、これらの評価は、3D電磁界シミュレータ(ANSOFT製、製品名:HFSS)を用いて解析する方法で行った。導電率は160,000S/mを用いた。
【0036】
(比較例1)
抵抗層24を設けない以外は、実施例1と同様にして、図10に示す構成の両面基板を作製し、実施例1と同様にして評価した。
【0037】
実施例1および比較例1(抵抗層なし)の解析結果として、伝導ノイズ抑制効果(S21)を図11、近端クロストーク(S31)を図12および遠端クロストーク(S41)を図13に示す。図12、図13においては基板(伝導ノイズ抑制構造体)の長さ方向の共振ピークが存在するため、20GHzまでの総エネルギーを比較するため各周波数での減衰率の総和(擬似積分値)を求め表1、表2に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(評価)
実施例1および比較例1の結果より、伝導ノイズ抑制効果(S21)は、抵抗層が装荷され、間隙(D)が小さいほど、すなわち抵抗層の幅が広いほど大きな抑制効果を示した。周波数特性では、周波数が上がるほど大きな抑制効果を示した。
近端クロストーク(S31)および遠端クロストーク(S41)はほぼ同様の結果を示し、間隙(D)が0mmのときは、抵抗層がない比較例1の状態より抵抗層と信号伝送線路はクロストークを起こしている。間隙(D)が0.1mm以上では抵抗層がない比較例1の状態よりクロストークは抑制されている。
【0041】
(実施例2)
図14、図15に示す電源線路、信号伝送線路、グランド線路、グランド層を有する伝導ノイズ抑制構造体(コプレーナ構造)を作製した。図15は上面図であり、図14は図15のb−b’線に沿う断面図である。
まず、ガラスネットにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを硬化させてなる絶縁層の片面に銅箔(厚さ18μm)が設けられている基材を2枚用意し、一方の基材の絶縁層上に抵抗層24(厚さ15nm)を形成した。抵抗層24は、全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、エッチングして形成した。
次いで、該抵抗層24を形成した面上に、他方の基材の絶縁層を、エポキシ系接着剤を介して重ね合わせ、貼り合わせた。
次いでフォトリソグラフィー法により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、グランド線路16および信号伝送線路22を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得た。電源線路11から抵抗層24までの隔置距離Tは0.02mmとした。
抵抗層24の信号伝送線路22側の端縁の位置をずらして抵抗層24の幅(W14)を変化させることによって、グランド線路16の信号伝送線路22側の端縁と抵抗層24の端縁とのX方向における距離Dgを0、0.25mm、および0.5mmと変化させて3種類の伝導ノイズ抑制構造体を作製した。本例において抵抗層24と信号伝送線路22との間隙の幅Dは0.25+Dgとなる。評価には、3D電磁界シミュレータを用い、抵抗層の導電率は80,000S/mとした。
【0042】
(比較例2)
抵抗層24を設けない以外は、実施例2と同様にして、図16に示す構成の両面基板を作製した。
実施例2で得られた伝導ノイズ抑制構造体および比較例2の両面基板(抵抗層なし)について、実施例1と同様にして評価した。
解析結果として、伝導ノイズ抑制効果(S21)を図17、近端クロストーク(S31)を図18および遠端クロストーク(S41)を図19に示した。また実施例1と同様に、各周波数での減衰率の総和(擬似積分値)を求め表3、表4に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
(評価)
実施例2および比較例2の結果より、伝導ノイズ抑制効果(S21)は、抵抗層が装荷され、間隙(Dg)(グランド線路の信号伝送線路側の端縁からの距離)が小さいほど、すなわち抵抗層の幅が広いほど大きな抑制効果を示した。周波数特性では、周波数が上がるほど大きな抑制効果を示した。
近端クロストーク(S31)および遠端クロストーク(S41)はほぼ同様の結果を示し、間隙(Dg)が0mmのときは、抵抗層がない比較例2の状態とほぼ同等である。間隙(Dg)が0.25mm以上では抵抗層がない比較例2の状態よりクロストークは抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
高密度に実装された情報処理機器、通信機器等、特に光モジュールやワークステーション、携帯電話、ゲーム機器等のCPUなどの電源周囲の高周波ノイズを、近傍に配線される信号伝送線路の信号品質を落とすことなく抑制することができる伝導ノイズ抑制構造体を提供することができ、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す上面図である。
【図3】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す上面図である。
【図5】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第3の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第4の実施形態を示す断面図である。
【図7】抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。
【図8】実施例1における伝導ノイズ抑制構造体の断面図である。
【図9】実施例1における伝導ノイズ抑制構造体の上面図である。
【図10】比較例1における両面基板の断面図である。
【図11】実施例1、比較例1における伝導ノイズ抑制効果(S21)を示すグラフである。
【図12】実施例1、比較例1における近端クロストーク(S31)を示すグラフである。
【図13】実施例1、比較例1における遠端クロストーク(S41)を示すグラフである。
【図14】実施例2における伝導ノイズ抑制構造体の断面図である。
【図15】実施例2における伝導ノイズ抑制構造体の上面図である。
【図16】比較例2における両面基板の断面図である。
【図17】実施例2、比較例2における伝導ノイズ抑制効果(S21)を示すグラフである。
【図18】実施例2、比較例2における近端クロストーク(S31)を示すグラフである。
【図19】実施例2、比較例2における遠端クロストーク(S41)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10、20、30、40 伝導ノイズ抑制構造体、
11 電源線路、
12、22 信号伝送線路、
13 グランド層、
14、24、44 抵抗層、
15 間隙、
16 グランド線路、
18 第3の絶縁層、
19 第4の絶縁層、
19a 第1の絶縁層、
19b 第2の絶縁層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導ノイズ抑制構造体およびこれを備えた配線回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス社会が訪れ、情報処理機器、通信機器等にあっては、光モジュールによる光/電気変換による信号伝送速度の向上や、小型化が進んでいる。またサーバー、ワークステーション、パソコン、携帯電話、ゲーム機器等においては、MPU(マイクロプロセッサー)の高速化、多機能化、複合化、およびメモリ等の記録装置の高速化が進行している。
しかし、これらの機器から放射されるノイズ、または機器内の導体を伝導するノイズがもたらす、自身または他の電子機器への誤作動が問題となってきている。これらノイズとしては、レーザーダイオード、フォトダイオード、MPU、電子部品等における、配線回路基板内の信号伝送線路等とのインピーダンス不整合に基づくノイズ、配線線路間のクロストーク、MPU等の半導体素子の同時スイッチングによる電源層とグランド層との層間の共振によって誘起されるノイズ等がある。
【0003】
これらノイズを抑制する配線回路基板の構造としては、下記のものが知られている。
(i)表面に搭載された電子部品に電源を供給するために用いられる、電源層とグランド層を有する配線基板において、電源層を、配線回路化した低抵抗導体層と高抵抗導体層の積層体で構成した配線基板(特許文献1)。
(ii)電源層とグランド層との平行平板構造を有するプリント配線基板において、電源層またはグランド層を、抵抗性導体膜と電子部品電流供給パターンとの一体化物で構成し、抵抗性導体膜の厚さを、電子部品電流供給パターンの1/10以下とした配線基板(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−283073号公報
【特許文献2】特開2006−49496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載されている配線基板はいずれも、電源回路パターンに高抵抗の損失層(上記高抵抗導体層または抵抗性導体膜)を接続させることによって、電源層中に流れる高周波共振電流を損失させて、電源層とグランド層の平行平板共振を抑え、電源電圧の変動を抑えようとするものである。
しかし、配線回路化された電源回路パターンに接続された高抵抗の損失層は、大きな面積を占有してしまう。実際の電子機器の配線回路基板は実装密度が高いため、電源回路パターンの近傍にも信号伝送線路が存在する。このため、電源回路パターンに高抵抗の損失層を接続して設けると、信号伝送線路へのクロストーク、信号伝達の遅延、電圧が低下して閾値を超えることができない等、信号波形の品質が低下しやすい問題があり、実用化に至っていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる、伝導ノイズ抑制構造体および該伝導ノイズ抑制構造体を備えた配線回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備えてなり、電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きく、前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間していることを特徴とする。
【0007】
隣り合う電源線路と信号伝送線路の間に、グランド線路が設けられ、電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dが、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2より大きい構成であってもよい。
前記電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との距離をDとし、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離をTとし、電源線路の幅をW11とし、前記電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離をLとするとき、下記の数式(1)を満たすことが好ましい。
3T≦D<(L+W11) ・・・(1)
【0008】
前記抵抗層が、電源線路とグランド層の間に設けられている構成において、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgよりも小さいことが好ましい。
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが2〜100μmであることが好ましい。
前記抵抗層が、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層であることが好ましい。
また本発明は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体を具備する配線回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板によれば、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<伝導ノイズ抑制構造体>
[第1の実施形態]
図1,2は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示すもので、図2は上面図、図1は図2のA−A’線に沿う断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体10は、表面上に電源線路11と信号伝送線路12が設けられ、裏面にグランド層13が設けられた両面基板である。電源線路11と信号伝送線路12とは同一面上において互いに離間して併走している。電源線路11とグランド層13との間には抵抗層14が設けられている。
グランド層13は、電源線路11および信号伝送線路12のそれぞれと離間して対向配置されており、抵抗層14は、電源線路11およびグランド層13のそれぞれと離間して対向配置されている。具体的に本実施形態では、電源線路11と抵抗層14とは第1の絶縁層19aを介して対向積層されており、グランド層13と抵抗層14とは第2の絶縁層19bを介して対向積層されている。本発明において「対向」しているとは上面から見たときに少なくとも一部が重なり合う状態をいう。また電源線路11とグランド層13とは、第1の絶縁層19a、抵抗層14、および第2の絶縁層19bを介して対向積層されており、信号伝送線路12とグランド層13とは、第1の絶縁層19aおよび第2の絶縁層19bを介して対向積層されている。
【0011】
本実施形態において、電源線路11の幅方向をX方向、長さ方向をY方向、厚さ方向をZ方向という(以下、同様。)。X方向において、抵抗層14の幅(図中、W14で示す。)は電源線路11の幅(図中、W11で示す。)よりも広い。X方向において抵抗層14と信号伝送線路12とは離間している。すなわちX方向において抵抗層14の縁端部14aと信号伝送線路12の縁端部12aとの間には間隙15が存在する。X方向における該間隙15の幅を抵抗層14と信号伝送線路12との距離Dとする。
【0012】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、電源線路11またはグランド層13に流れる高周波ノイズ電流を以下のように抑制するものと考えられる。
すなわち抵抗層14が、電源線路11と電磁結合しており、電源線路11に流れる高周波電流によって発生する磁束密度(電束密度)の変化に対し、これを打ち消すように逆の方向に磁束が発生するように、抵抗層14中に渦電流が発生し、該電流が抵抗により損失させられ、結果として電源線路11およびグランド層13のそれぞれにおいて高周波ノイズ電流を減じるものである。効率よく抑制効果をもたらすためには、電源線路11の縁端部に集中する電磁界の強度分布(磁束密度または電束密度)を、グランド層に向かわせて、抵抗層14に集中させることが好ましい。
【0013】
この際、抵抗層14が信号伝送線路12とグランド層13との間に存在すると、信号を抑制することとなるため、図1に示すように、信号伝送線路12と対向する位置に抵抗層14を設けることは避けなければならない。また抵抗層14には高周波電流が流れ、該抵抗層14から、特にはその縁端部から、電磁界放射が行われているため、抵抗層14の近くに信号伝送線路12があると、電源線路11中の高周波ノイズが抵抗層14を介して信号伝送線路12に影響するおそれがある。このため、抵抗層14の縁端部14aと信号伝送線路12の縁端部12aとを離間させて間隙15を設けることが必要となる。
【0014】
間隙15の幅D(X方向における抵抗層14と信号伝送線路12との距離D)は、電源線路11の厚さ方向(Z方向)における電源線路11と抵抗層14との隔置距離をTとすると、3T以上とすることが好ましい。Dがこれより小さいと電源線路11中のノイズが信号伝送線路12に伝わりやすくなる。信号伝送線路12はマイクロストリップ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層14が近くなると、インピーダンスも変化するため、その影響を最小にするためにも、間隙15の幅Dを3T以上とすることが好ましい。また、X方向における電源線路11と信号伝送線路12との線間距離をLとすると、間隙15の幅Dは、該線間距離Lと電源線路11の幅W11の和(L+W11)より小さい。すなわち3T≦D<(L+W11)を満たすことが好ましい。
Dが(L+W11)以上であると、電源線路11と抵抗層14とが対向しなくなる。そうなると、電源線路11の縁端部より生じる磁束密度(電束密度)の変化を抵抗層14で捕捉することができなくなるため、抵抗層14を設けることによる伝導ノイズ抑制効果は全くなくなる。伝導ノイズ抑制効果の点からは、間隙15の幅Dは、線間距離Lよりも小さいほうが好ましい。
【0015】
電源線路11と抵抗層14との隔置距離Tは、基板厚みにもよるが、2〜100μmが好ましい。2μm未満では絶縁性の保持が困難となり、例えば電圧の異なる電源線路が隣接して設けられている場合にはリークが発生し不都合となる。100μmを超えると、電源線路からの磁束密度の変化が弱まることから、伝導ノイズ抑制効果が弱まる。該隔置距離Tのより好ましい範囲は5〜50μmである。
また、本実施形態のように抵抗層14が、電源線路11とグランド層13の間に設けられている場合、電源線路11と抵抗層14との隔置距離Tは、Z方向におけるグランド層13と抵抗層14との距離Tgよりも小さい方が、伝導ノイズ抑制効果の効率が良い。すなわち電源線路11とグランド層13との間に存在する絶縁層中において、抵抗層14がグランド層13より電源線路11に近くなるように抵抗層14を装荷する方が、伝導ノイズ抑制効果が高い。
【0016】
電源線路11と信号伝送線路12との線間距離Lは、個別のパターン設計によるが、10〜5000μm程度が好ましい。線間距離Lのより好ましい範囲は100〜1000μmである。
【0017】
[第2の実施形態]
図3,4は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示すもので、図4は上面図、図3は図4のB−B’線に沿う断面図である。以下、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体20が、第1の実施形態と大きく異なる点は、電源線路11および信号伝送線路22が設けられている面と同じ面上であって、隣り合う電源線路11と信号伝送線路22の間に、グランド線路16が設けられている点である。電源線路11と信号伝送線路22とグランド線路16とは互いに離間して併走している。
また、第1の実施形態における信号伝送線路12は、上面からみたとき図2に示すように直線ではなく変曲部を有する形状であるのに対して、本実施形態における信号伝送線路22は図4に示すように直線状である。さらに第1の実施形態における抵抗層14の一方の端部14aは、図2に示すように上面からみたときに直線状ではなく、信号伝送線路12の変曲部に追従する変曲部を有する形状であるのに対して、本実施形態における抵抗層24の一方の端部24aは図4に示すように直線状である。
【0018】
抵抗層24の幅W14は電源線路11の幅W11よりも広い。X方向において抵抗層24と信号伝送線路22とは離間している。信号伝送線路22はコプレーナ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層24が、グランド線路16を超えて信号伝送線路22に近くなると、インピーダンスも変化するおそれがある。その影響を最小にするためにも、X方向における抵抗層24と信号伝送線路22との距離D(間隙の幅D)を3T以上とすることが好ましい。
またX方向におけるグランド線路16と信号伝送線路22との線間距離をL2とすると、抵抗層24と信号伝送線路22との間隙の幅DはL2より大きい(D>L2)ことが望ましい。
また第1の実施形態と同様に、X方向における電源線路11と信号伝送線路22との線間距離をLとすると、間隙の幅Dは、線間距離Lと電源線路11の幅W11の和(L+W11)より小さいことが好ましい。
【0019】
[第3の実施形態]
図5は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第3の実施形態を示す断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体30は、併走する2本の信号伝送線路12の外側に、それぞれ電源線路11が設けられており、抵抗層24は電源線路11の下部から外側にからて設けられている。すなわち本実施形態において、抵抗層24と信号伝送線路12との間隙の幅Dは、電源線路11と信号伝送線路12との線間距離Lよりも大きく、抵抗層24の一部が電源線路11と対向している。図5は間隙(D)=L+W11/2の状態を示している。
【0020】
[第4の実施形態]
図6は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第4の実施形態を示す断面図である。
本実施形態の伝導ノイズ抑制構造体40は、同一面上に電源線路11、信号伝送線路12、およびグランド線路16が設けられており、電源線路11に対して、グランド層13とは反対側に、抵抗層44が第3の絶縁層18を介して対向積層されている。
本実施形態において、電源線路11、グランド線路16および信号伝送線路12のそれぞれとグランド層とは、第4の絶縁層19を介して対向している。また抵抗層44とグランド層13とは、第3の絶縁層18、電源線路11および第4の絶縁層19を介して対向している。抵抗層44の上に保護層を設けてもよい。
【0021】
上記第1〜4の実施形態によれば、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備え、かつ電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きいため、電源線路に流れる伝導ノイズを抑制できる。また、グランド層に流れる伝導ノイズも抑制される。また、電源線路に流れる伝導ノイズが抑制されることによって、電源電圧が安定化され、その結果、電源系からの放射ノイズの発生も抑えられる。
さらに、前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間しているため、信号伝送線路クロストークなどを引き起こす近傍界の放射電磁界強度を、信号波形品質を損なうことなく低減できる。
すなわち、実装密度が高いために、電源線路と同一平面状で、かつ電源線路の近傍に信号伝送線路が存在する場合であっても、抵抗層を電源線路に接続して設けることなく電源線路に流れる伝導ノイズを抑制できることから、抵抗層を信号伝送線路から離間して設けることが可能となり、抵抗層の影響によって発生する信号伝送線路クロストーク等の信号波形品質の低下を抑えることができる。
第3の実施形態によれば、電源線路11と信号伝送線路12との距離Lが小さい場合でも、抵抗層による影響をなくしつつ、伝導ノイズを抑制できる。
第4の実施形態によれば、配線回路基板が完成した後であっても、抵抗層を設けることができる。
【0022】
<配線回路基板>
上記第1〜4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、電源線路11、信号伝送線路12およびグランド層13を有しており、該構造体自体を配線回路基板として用いることができる。また第1〜4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体の上面および/または下面に、さらに絶縁層を介して銅箔を積層し、回路を形成して多層の配線回路基板を構成することもできる。この時、上層と下層の導体を連結するためのビア等が抵抗層を貫通する場合は、抵抗層にアンチパッドを形成して、絶縁性を確保することが好ましい。
【0023】
(導体層)
電源線路11、信号伝送線路12、22、グランド線路16、およびグランド層13はそれぞれ導体層からなる。導体層としては、金属箔;金属粒子を高分子バインダー、ガラス質バインダー等に分散させた導電粒子分散体膜等が挙げられる。金属としては、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、タングステン等が挙げられる。
多層プリント回路基板における導体層は、通常、銅箔である。銅箔の厚さは、通常3〜35μmである。銅箔は、絶縁層との接着性を向上させるために、粗面化処理、またはシランカップリング剤等による化成処理が施されていてもよい。
【0024】
(抵抗層)
抵抗層14、24、44は、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの物理的蒸着により形成された薄膜であることが好ましい。該抵抗層の厚さが5nmより小さいと抵抗層の形成が不充分となりやすく、伝導ノイズ抑制効果が充分に得られない。抵抗層の厚さが300nmを超えると、表面抵抗が小さくなって金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなる。
抵抗層の厚さは、膜厚方向(Z方向)に沿う断面の高分解能透過型電子顕微鏡像を基にして、5箇所の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0025】
抵抗層の表面抵抗は、1×100〜1×104Ωが好ましい。抵抗層が均質な薄膜である場合は体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、材料の体積抵抗率がそれほど高くない材料を用いる場合は、抵抗層に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設けて不均質な薄膜とすること、または後述のマイクロクラスターの連鎖物からなる膜とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。
【0026】
抵抗層の表面抵抗は、以下のように測定する。
すなわち、石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0027】
図7は、絶縁層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなる厚さ50nmの抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。抵抗層は、複数のマイクロクラスターの集合体として観察される。マイクロクラスターには物理的な欠陥があって、均質な薄膜となっておらず、抵抗を有する構造となる。また、欠陥を通してエポキシ樹脂などの接着性成分が貫通し、適切な接着強度を有するものとなっている。
【0028】
抵抗層に用いられる金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0029】
抵抗層に用いられる導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗が高いため、導電性セラミックスを含む抵抗層は、表面抵抗を厚みによる管理する精度がたかまり、さらに、化学安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって容易に得られる窒化物または炭化物が、特に好ましい。
【0030】
抵抗層の形成方法としては、物理的蒸着法が用いられる。この方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、膜厚の制御が、出力と時間で簡単に精度良く行えるため、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を容易に形成できる。
また、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成でき表面抵抗を調整できる。
【0031】
(絶縁層)
絶縁層は、一般的な有機または無機の絶縁材料を用いて構成できる。例えば、エポキシ樹脂、BTレジン、フッ素樹脂、ポリイミドなどの有機材料を、必要があれば、ガラスネットなどの補強材と一体化した材料を使用できる。またはシリコンあるいはアルミナ、ガラスなどの無機材料も用いることができる。
【0032】
(製造方法)
第1〜3の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、例えば以下のようにして製造される。
まず、銅箔上にエポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させ、絶縁層(第1の絶縁層19a)を形成する。該絶縁層上に抵抗層となる層を、EB蒸着、高周波イオンプレーティング、高周波マグネトロンスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどの物理的蒸着法で形成し、レーザーアブレーションを施して所定のパターン形状の抵抗層を形成する。抵抗層となる層は薄膜であるため不要な部分を容易に除去してパターニングすることができる。
ついで、抵抗層上に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグおよび銅箔を順に積層し、プリプレグを硬化させて絶縁層(第2の絶縁層19b)とする。こうして表面および裏面が銅箔からなる両面基板が得られる。
ついで、フォトリソグラフィー法等により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、信号伝送線路12、22、グランド線路16等を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得る。
その後、必要であれば伝導ノイズ抑制構造体の片面または両面上にプリプレグを介して銅箔を貼り合わせ、公知の方法でパターニングすることにより多層回路基板を製造することができる。
【0033】
第4の実施形態の伝導ノイズ抑制構造体は、例えば以下のようにして製造される。
まず、絶縁層の表面および裏面に銅箔が設けられた両面基板を用意し、フォトリソグラフィー法等により一方の面の銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、信号伝送線路22、グランド線路16を形成する。その上に、エポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させて絶縁層(第3の絶縁層18)を形成する。
次いで、該絶縁層上にマスクを密着させ、物理的蒸着法で全面に抵抗層となる層を形成した後、マスクを剥離することによって、所定の形状の抵抗層が得られる。
または絶縁層上の全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、ケミカルエッチング、またはドライで行えるレーザーエッチングによりパターニングして抵抗層を形成することもできる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図8、図9に示す電源線路、信号伝送線路、グランド層を有する伝導ノイズ抑制構造体(マイクロストリップ構造)を作製した。図9は上面図であり、図8は図9のa−a’線に沿う断面図である。図中符号29は絶縁層を示す。
まず、片面に銅箔(厚さ18μm)が設けられたポリイミドフィルムを2枚用意し、一方のフィルムのポリイミドからなる面上に抵抗層24(厚さ25nm)を形成した。抵抗層24は、全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、エッチングして形成した。
次いで、該抵抗層24を形成した面上に、他方のフィルムのポリイミドからなる面を、ポリイミド系接着剤を介して重ね合わせ、貼り合わせた。
次いでフォトリソグラフィー法により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11および信号伝送線路22を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得た。
得られた伝導ノイズ抑制構造体における各寸法を図8に示す。単位はmmである(以下、同様)。電源線路11から抵抗層24までの隔置距離Tは0.01mmとした。
抵抗層24の信号伝送線路22側の端縁の位置をずらして抵抗層24の幅(W14)を変化させることによって、間隙の幅Dを0、0.1mm、0.25mm、および0.5mmと変化させて4種類の伝導ノイズ抑制構造体を作製した。
【0035】
伝導ノイズ抑制効果の確認として、図9に示すポート1、ポート2間のS21パラメータを、また抵抗層の信号伝送路への影響の確認としてポート1、ポート3間(近端クロストーク)のS31パラメータおよびポート1、ポート4間(遠端クロストーク)のS41パラメータを評価した。
1GHz以上の高い周波数帯域での実測は困難を極めるため、これらの評価は、3D電磁界シミュレータ(ANSOFT製、製品名:HFSS)を用いて解析する方法で行った。導電率は160,000S/mを用いた。
【0036】
(比較例1)
抵抗層24を設けない以外は、実施例1と同様にして、図10に示す構成の両面基板を作製し、実施例1と同様にして評価した。
【0037】
実施例1および比較例1(抵抗層なし)の解析結果として、伝導ノイズ抑制効果(S21)を図11、近端クロストーク(S31)を図12および遠端クロストーク(S41)を図13に示す。図12、図13においては基板(伝導ノイズ抑制構造体)の長さ方向の共振ピークが存在するため、20GHzまでの総エネルギーを比較するため各周波数での減衰率の総和(擬似積分値)を求め表1、表2に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(評価)
実施例1および比較例1の結果より、伝導ノイズ抑制効果(S21)は、抵抗層が装荷され、間隙(D)が小さいほど、すなわち抵抗層の幅が広いほど大きな抑制効果を示した。周波数特性では、周波数が上がるほど大きな抑制効果を示した。
近端クロストーク(S31)および遠端クロストーク(S41)はほぼ同様の結果を示し、間隙(D)が0mmのときは、抵抗層がない比較例1の状態より抵抗層と信号伝送線路はクロストークを起こしている。間隙(D)が0.1mm以上では抵抗層がない比較例1の状態よりクロストークは抑制されている。
【0041】
(実施例2)
図14、図15に示す電源線路、信号伝送線路、グランド線路、グランド層を有する伝導ノイズ抑制構造体(コプレーナ構造)を作製した。図15は上面図であり、図14は図15のb−b’線に沿う断面図である。
まず、ガラスネットにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを硬化させてなる絶縁層の片面に銅箔(厚さ18μm)が設けられている基材を2枚用意し、一方の基材の絶縁層上に抵抗層24(厚さ15nm)を形成した。抵抗層24は、全面に物理的蒸着法で抵抗層となる層を形成した後、エッチングして形成した。
次いで、該抵抗層24を形成した面上に、他方の基材の絶縁層を、エポキシ系接着剤を介して重ね合わせ、貼り合わせた。
次いでフォトリソグラフィー法により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路11、グランド線路16および信号伝送線路22を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得た。電源線路11から抵抗層24までの隔置距離Tは0.02mmとした。
抵抗層24の信号伝送線路22側の端縁の位置をずらして抵抗層24の幅(W14)を変化させることによって、グランド線路16の信号伝送線路22側の端縁と抵抗層24の端縁とのX方向における距離Dgを0、0.25mm、および0.5mmと変化させて3種類の伝導ノイズ抑制構造体を作製した。本例において抵抗層24と信号伝送線路22との間隙の幅Dは0.25+Dgとなる。評価には、3D電磁界シミュレータを用い、抵抗層の導電率は80,000S/mとした。
【0042】
(比較例2)
抵抗層24を設けない以外は、実施例2と同様にして、図16に示す構成の両面基板を作製した。
実施例2で得られた伝導ノイズ抑制構造体および比較例2の両面基板(抵抗層なし)について、実施例1と同様にして評価した。
解析結果として、伝導ノイズ抑制効果(S21)を図17、近端クロストーク(S31)を図18および遠端クロストーク(S41)を図19に示した。また実施例1と同様に、各周波数での減衰率の総和(擬似積分値)を求め表3、表4に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
(評価)
実施例2および比較例2の結果より、伝導ノイズ抑制効果(S21)は、抵抗層が装荷され、間隙(Dg)(グランド線路の信号伝送線路側の端縁からの距離)が小さいほど、すなわち抵抗層の幅が広いほど大きな抑制効果を示した。周波数特性では、周波数が上がるほど大きな抑制効果を示した。
近端クロストーク(S31)および遠端クロストーク(S41)はほぼ同様の結果を示し、間隙(Dg)が0mmのときは、抵抗層がない比較例2の状態とほぼ同等である。間隙(Dg)が0.25mm以上では抵抗層がない比較例2の状態よりクロストークは抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
高密度に実装された情報処理機器、通信機器等、特に光モジュールやワークステーション、携帯電話、ゲーム機器等のCPUなどの電源周囲の高周波ノイズを、近傍に配線される信号伝送線路の信号品質を落とすことなく抑制することができる伝導ノイズ抑制構造体を提供することができ、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す上面図である。
【図3】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す上面図である。
【図5】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第3の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第4の実施形態を示す断面図である。
【図7】抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。
【図8】実施例1における伝導ノイズ抑制構造体の断面図である。
【図9】実施例1における伝導ノイズ抑制構造体の上面図である。
【図10】比較例1における両面基板の断面図である。
【図11】実施例1、比較例1における伝導ノイズ抑制効果(S21)を示すグラフである。
【図12】実施例1、比較例1における近端クロストーク(S31)を示すグラフである。
【図13】実施例1、比較例1における遠端クロストーク(S41)を示すグラフである。
【図14】実施例2における伝導ノイズ抑制構造体の断面図である。
【図15】実施例2における伝導ノイズ抑制構造体の上面図である。
【図16】比較例2における両面基板の断面図である。
【図17】実施例2、比較例2における伝導ノイズ抑制効果(S21)を示すグラフである。
【図18】実施例2、比較例2における近端クロストーク(S31)を示すグラフである。
【図19】実施例2、比較例2における遠端クロストーク(S41)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10、20、30、40 伝導ノイズ抑制構造体、
11 電源線路、
12、22 信号伝送線路、
13 グランド層、
14、24、44 抵抗層、
15 間隙、
16 グランド線路、
18 第3の絶縁層、
19 第4の絶縁層、
19a 第1の絶縁層、
19b 第2の絶縁層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、
電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、
電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備えてなり、
電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きく、
前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間していることを特徴とする伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項2】
隣り合う電源線路と信号伝送線路の間に、グランド線路が設けられ、
電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dが、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2より大きい、請求項1記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項3】
前記電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との距離をDとし、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離をTとし、電源線路の幅をW11とし、前記電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離をLとするとき、下記の数式(1)を満たす、請求項1または2に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
3T≦D<(L+W11) ・・・(1)
【請求項4】
前記抵抗層が、電源線路とグランド層の間に設けられており、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgよりも小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項5】
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが2〜100μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項6】
前記抵抗層が、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体を具備する、配線回路基板。
【請求項1】
同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、
電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、
電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層を備えてなり、
電源線路の幅方向において、電源線路の幅よりも抵抗層の幅が大きく、
前記電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間していることを特徴とする伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項2】
隣り合う電源線路と信号伝送線路の間に、グランド線路が設けられ、
電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dが、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2より大きい、請求項1記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項3】
前記電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との距離をDとし、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離をTとし、電源線路の幅をW11とし、前記電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離をLとするとき、下記の数式(1)を満たす、請求項1または2に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
3T≦D<(L+W11) ・・・(1)
【請求項4】
前記抵抗層が、電源線路とグランド層の間に設けられており、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgよりも小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項5】
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが2〜100μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項6】
前記抵抗層が、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制構造体を具備する、配線回路基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−38250(P2009−38250A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202121(P2007−202121)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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