説明

位相比較信号処理回路

【課題】PLLのデジタル位相比較器の出力矩形波信号を処理し、PLLの引き込み可能な周波数幅を拡げ、同期時間を短縮する位相比較信号処理回路を提供する。
【解決手段】矩形波信号を両極性信号に変換する電圧シフタ7と出力端子22間に並列接続され、整流回路8と積分保持回路9と微分回路10とゲート回路12と電圧ホールド回路13と共通の加算回路14とからなる第1信号路、及び、整流回路15と積分保持回路16と微分回路17とゲート回路19と電圧ホールド回路20と前記加算回路14とからなる第2信号路、第1信号路及び第2信号路の積分保持回路9、16とゲート回路12、19を個別制御する制御信号発生器21を備え、第1及び第2信号路で、両極性信号の整流、整流電圧の積分保持、積分保持値の微分、微分出力の保持、保持電圧の加算を行うことにより処理信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相比較信号処理回路に係り、特に、位相同期ループ(PLL)における位相比較器とループフィルタとの間に接続され、位相比較器から出力されてループフィルタに供給される周波数比較用矩形波信号を処理するもので、PLLにおける引き込み周波数幅を拡大し、同期時間を短縮する等の同期特性を改善するようにした位相比較信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって、PLLは、比較的簡単な構成手段を用いることにより、電圧制御発振器の発振周波数を自動的に所定周波数に制御することができるために、発振器を必要とする多くの電子機器に使用されており、多チャネルアクセス(MCA)用受信機における第1局部発振回路や、周波数走査形受信機における第1局部発振回路に使用する場合には、周波数シンセサイザに組み込んだ状態で使用していることが多い。そして、PLLを多チャネルアクセス用受信機または周波数走査形受信機の第1局部発振回路に使用する場合は、PLLの位相同期時間をできるだけ短くすることが望まれており、また、一般的に未知の受信信号の探索を行うような受信機の第1局部発振回路に使用する場合は、できるだけ引き込み周波数幅が広いことが望まれている。
【0003】
PLLにおけるこのような相反する技術手段を解決するための最も簡単な手法は、位相比較器において電圧制御発振器から出力される発振周波数信号と基準信号発生器から出力される基準周波数信号とを位相比較する際に、基準信号発生器の基準周波数信号を高い周波数になるように設定することである。この場合、PLLに用いる基準周波数を高くすれば、ループフィルタにおけるコーナ周波数、すなわちループフィルタの減衰特性が段階的に変化する周波数を高くすることができ、その結果、ループフィルタの時間応答を短縮することができるようになる。
【0004】
しかしながら、実際に、PLLにおける基準信号発生器の基準周波数信号を高い周波数に設定することは、多チャネルアクセス用受信機における第1局部発振回路や、周波数走査形受信機における第1局部発振回路に使用する場合等において以下に述べるような理由による制約がある。その理由は、多チャネルアクセス用受信機や周波数走査形受信機においては、実際に周波数割り当てによって決められている電波が特定の周波数間隔、例えば25kHzまたは12.5kHz間隔の周波数の何れかになるように割り当てられており、PLLに用いる基準周波数をこの周波数間隔に等しく選ぶ必要があることから、上述のように基準周波数を自由に設定することはできない。
【0005】
このため、多チャネルアクセス用受信機や周波数走査形受信機においては、通常、PLLにおける基準信号発生器の基準周波数をそのままにし、ループフィルタのコーナ周波数をできるだけ高く設定することによって解決を図るようにしているが、コーナ周波数を高く設定した場合、コーナ周波数を高くした分、ループフィルタの出力信号中に含まれるリップル成分が増加し、電圧制御発振器から出力される発振信号(搬送波信号)中にスプリアス成分が増加することになる。したがって、PLLにおける応答速度の改善と、発振信号(搬送波信号)のスプリアス成分の減少とは相反関係にある。
【特許文献1】使用する特許文献はなし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多チャネルアクセス用受信機や周波数走査形受信機におけるPLLに使用される位相比較器は、従来のようにリング変調器やアナログ乗算器等のアナログ回路を用いるよりも、IC化されたデジタル回路、すなわち排他的論理和ゲート回路、RSフリップフロップ回路や、位相周波数比較器(PFC)等のディジタル位相比較器を用いるのが一般的になっている。そして、PLLにデジタル位相比較器を用いる場合は、デジタル位相比較器の比較出力を、従来のようにそのままループフィルタに加えるのではなく、ループフィルタに加える前に、デジタル位相比較器から出力される矩形波信号を変形処理して含まれるリップル成分を減少させ、さらに、そのリップル成分の高周波化を図るようにすれば、ループフィルタのコーナ周波数を高くすることが可能になり、PLLのループ利得を増加させることができるようになる。
【0007】
すなわち、PLLのディジタル位相比較器が排他的論理和回路によって構成されている場合、そのディジタル位相比較器から出力される矩形波信号は、基準信号と被比較信号との瞬時位相差に比例したパルス幅の信号であって、そのヂューティファクタが差周波数×時間の速さで変化して行くものである。従って、ヂューティファクタは単純に基準信号と被比較信号との位相差に比例したパルス列になっているので、一見したところ、この矩形波信号は利用しやすいものと考えられる。しかしながら、この矩形波信号が保持している周波数スペクトラムは、基準信号と被比較信号とが持っている矩形波としてのスペクトラム同士の積によって、基準信号と被比較信号とのスペクトラム和周波数成分及びそれらのスペクトラム差周波数成分を含んだ複雑なスペクトラムが生じている。この場合、PLLに用いている電圧制御発振器は、この矩形波信号から基準信号と被比較信号との位相差に比例した直流成分を抽出し、抽出した直流成分を用いて周波数制御を行うものであるため、従来方法においては、ループフィルタにおいて基準信号の周波数成分を十分に減衰させる必要があった。
【0008】
本発明は、このような技術的背景に基いてなされたもので、その目的は、デジタル位相比較器から出力された矩形波信号をループフィルタに供給する際に、その矩形波信号を処理することによってPLLにおける引き込み可能な周波数幅を拡げるともに、同期時間を短縮することを可能にした位相比較信号処理回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明による位相比較信号処理回路は、電圧制御発振器と位相比較器とループフィルタと基準信号発生器とからなるPLLにおける位相比較器とループフィルタとの間に接続され、位相比較器から出力される矩形波信号を処理するものであって、矩形波信号を両極性信号に変換する電圧シフタと、電圧シフタと処理信号を出力する出力端子との間に並列接続され、それぞれ整流回路と積分保持回路と微分回路とゲート回路と電圧ホールド回路と両信号路に共通の加算回路とからなる第1信号路及び第2信号路と、矩形波信号によって駆動され、第1信号路及び第2信号路の各積分保持回路と各ゲート回路とを個別に制御する制御信号を発生する制御信号発生器とを備え、第1信号路において、整流回路は両極性信号の正極性部分を抽出し、積分保持回路は抽出した正極性信号を積分してその積分値を正極性信号と次の正極性信号が抽出されるまでの期間保持し、微分回路は積分保持回路の保持電圧が基準電圧に変化するときの保持電圧を微分出力として検出し、ゲート回路及び電圧ホールド回路は、微分回路の微分出力をインターバル期間保持電圧として出力し、第2信号路において、両極性信号の負極性部分に対して第1信号路で行われた処理と同じ処理を行い、出力端子から第1信号路及び第2信号路に得られた各保持電圧を加算した処理信号が出力される第1構成手段を具備する。
【0010】
また、前記第1構成手段において、第1信号路及び第2信号路に共通の加算回路の出力端と出力端子の間に、制御信号発生器から発生される制御信号を用いて共通の加算回路から出力される処理信号を半周期遅延させた遅延処理信号を形成するゲート回路及び電圧ホールド回路と、共通の加算回路から出力される処理信号と遅延処理信号とが供給され、それらの信号レベルを平均化する平均化回路とを縦続接続し、平均化回路に接続された出力端子から加算部分の到来時間間隔が2分の1になり、その振幅差が2分の1になる平均化処理信号が出力される第2構成手段を具備する。
【0011】
前記第1構成手段に係る位相比較信号処理回路は、次のような動作原理に基づいて構成されたものである。
【0012】
すなわち、ディジタル位相比較器から出力される矩形波信号は、通常、低レベルL(「0」)と高レベルH(「1」)とからなる2値信号であって、基準レベル(低レベル)に対して正極性パルス(高レベルH)が間欠的に到来する単極性パルス列からなっているが、本発明においては、その矩形波信号の基準レベル(低レベルL)部分及び正極性パルス(高レベルH)をそれそれ積分するために、その矩形波信号の基準レベルを変更し、基準レベルに対して正極性パルス及び負正極性パルスからなる双極性信号に変換し、得られた双極性信号を、それぞれ整流回路と積分保持回路と微分回路とゲート回路と電圧ホールド回路と共通の加算回路とを備えた第1信号路及び第2信号路に供給する。
【0013】
第1信号路は、整流回路が双極性信号の中の正極性部分を選択抽出し、積分保持回路が選択抽出した正極性部分を積分保持し、微分回路が積分保持値が基準レベルに低下する際の変化部分を微分してその積分保持値に等しい負極性のインパルスを形成し、ゲート回路と電圧ホールド回路が微分により得られた積分保持値に等しい負極電圧値を保持し、その負極電圧値を加算回路に供給する。同じように、第2信号路は、整流回路が双極性信号の中の負極性部分を選択抽出し、積分保持回路が選択抽出した負極性部分を積分保持し、微分回路が積分保持値が基準レベルに上昇する際の変化部分を微分してその積分保持値に等しい正極性のインパルスを形成し、ゲート回路と電圧ホールド回路が微分により得られた積分保持値に等しい正極電圧値を保持し、その正極電圧値を加算回路に供給する。このとき、加算回路は、供給された負極電圧値と正極電圧値とを加算し、その負極電圧値と正極電圧値との差電圧値である処理信号が出力される。
【0014】
そして、この処理信号がPLLのループフィルタに供給されると、ループフィルタから出力される直流成分によりPLLの電圧制御発振器の周波数が調整されるもので、電圧制御発振器の周波数が調整されたときには、PLLの位相比較器から出力される矩形波信号の基準レベル(低レベル)と正極性パルス(高レベルH)との到来時間が等しくなり、それにより位相比較信号処理回路から出力される処理信号は基準レベルに等しい電圧値になる。
【発明の効果】
【0015】
以上、詳しく述べたように、この位相比較信号処理回路は、PLLにおける位相比較器から出力される矩形波信号を変形処理することにより、矩形波信号中の直流成分を増加させるとともに、直流成分に含まれる高周波成分の大きさを抑圧することができるので、ループフィルタのコーナ周波数を、従来のループフィルタのコーナ周波数に比べて高周波数方向に移行させることができ、その結果、PLLの応答速度を速くすることができるとともに、PLLの同期可能範囲を示す周波数幅を拡げることができるという効果がある。
【0016】
この場合、この位相比較信号処理回路において、PLLの応答速度をどの程度速めることができるか、及び、同期可能範囲を示す周波数幅をどの程度まで拡げることができるかは、使用されるデジタル位相比較器の形式や、電圧制御発振器の発振信号と基準信号との初期位相差、PLLのループ利得等の種々の設定条件によって異なり、一概にその具体的数値を挙げることは難しいが、一般的にその応答速度や同期可能範囲は、いずれもこの位相比較信号処理回路を用いる前に比べて数倍程度は改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明による位相比較信号処理回路を用いているPLLの要部構成を示すブロック回路図である。
【0019】
図1に示されるように、PLLは、本発明による位相比較信号処理回路1と、電圧制御発振器(VCO)2と、デジタル位相比較器3と、ループフィルタ4と、基準信号発生器5とからなっている。そして、位相比較信号処理回路1は、入力端がデジタル位相比較器3の出力端に接続され、出力端がループフィルタ4の入力端に接続される。電圧制御発振器2は、入力端がループフィルタ4の出力端に接続され、出力端が図示されない受信機の第1ミキサに接続されるとともに、デジタル位相比較器3の第1入力端に接続される。デジタル位相比較器3は、第2入力端が基準信号発生器5の出力端に接続される。
【0020】
図1に図示したPLLは、本発明による位相比較信号処理回路1の構成部分を除けば、よく知られた既知のPLLと同じ構成のものであり、位相比較信号処理回路1の構成部分の動作を除いた他の構成部分の動作は、この種の既知のPLLの動作と殆ど同じであり、しかも、かかるPLLの動作はよく知られていることであるので、ここではこのPLLについての動作の説明は、割愛する。
【0021】
次に、図2は、本発明による位相比較信号処理回路の第1の実施の形態を示すもので、その要部構成を示すブロック回路図である。
【0022】
図2に示されるように、この第1の実施の形態による位相比較信号処理回路は、入力端子6と、電圧シフタ7と、正極性整流回路8と、積分保持回路9と、微分回路10と、駆動回路11と、ゲート回路12と、電圧ホールド回路13と、加算回路14と、負極性整流回路15と、積分保持回路16と、微分回路17と、駆動回路18と、ゲート回路19と、電圧ホールド回路20と、制御信号発生回路21と、出力端子22とからなっている。この場合、正極性整流回路8と、積分保持回路9と、微分回路10と、駆動回路11と、ゲート回路12と、電圧ホールド回路13と、加算回路14は、第1信号路を形成し、負極性整流回路15と、積分保持回路16と、微分回路17と、駆動回路18と、ゲート回路19と、電圧ホールド回路20と、加算回路14は、第2信号路を形成している。
【0023】
そして、電圧シフタ7は、入力端が入力端子6に接続され、出力端が正極性整流回路8の入力端、負極性整流回路15の入力端、制御信号発生回路21の入力端にそれぞれ接続される。正極性整流回路8は、出力端が積分保持回路9の入力端に接続される。積分保持回路9は、出力端が微分回路10の入力端に接続され、制御端が出力端が制御信号発生回路21の第1制御端に接続される。微分回路10は、出力端が駆動回路11の入力端に接続され、駆動回路11は、出力端がゲート回路12の入力端に接続される。ゲート回路12は、出力端が電圧ホールド回路13の入力端に接続され、制御端が制御信号発生回路21の第1制御端に接続される。電圧ホールド回路13は、出力端が加算回路14の第1入力端に接続される。負極性整流回路15は、出力端が積分保持回路16の入力端に接続される。積分保持回路16は、出力端が微分回路17の入力端に接続され、制御端が出力端が制御信号発生回路21の第2制御端に接続される。微分回路17は、出力端が駆動回路18の入力端に接続され、駆動回路18は、出力端がゲート回路19の入力端に接続される。ゲート回路19は、出力端が電圧ホールド回路20の入力端に接続され、制御端が制御信号発生回路21の第2制御端に接続される。電圧ホールド回路14は、出力端が加算回路14の第2入力端に接続され、加算回路14は、出力端が出力端子22に接続される。
【0024】
また、図3は、第1の実施の形態による位相比較信号処理回路において各部に生じる信号波形を示す波形図である。
【0025】
図3の信号波形図において、aは入力端子6に供給される矩形波信号(単極性信号)波形であり、bは電圧シフタ7によって基準レベルを変化させた矩形波信号(双極性信号)波形であり、cは正極性整流回路8によって整流抽出した双極性信号の正極性部分の波形であり、c’は負極性整流回路8によって整流抽出した双極性信号の負極性部分の波形であり、dは制御信号発生回路21の第1制御端から出力される制御パルス波形であり、d’は制御信号発生回路21の第2制御端から出力される制御パルス波形であり、eは積分保持回路9における積分保持電圧値であり、fは微分回路10から出力される負極性パルス波形であり、gは電圧ホールド回路13から出力される負極性ホールド電圧値である。また、e’は積分保持回路16における積分保持電圧値であり、f’は微分回路17から出力される正極性パルス波形であり、g’は電圧ホールド回路20から出力される正極性ホールド電圧値であり、hは加算回路14から出力される2つのホールド電圧を加算した加算ホールド電圧値である。
【0026】
ここで、第1の実施の形態による位相比較信号処理回路の動作を、図3に図示された波形図を併用して説明する。
【0027】
デジタル位相比較器3から出力された矩形波信号(図3、波形a)が入力端子6を通して電圧シフタ7に供給されると、電圧シフタ7は、その矩形波信号の基準レベルを正極性パルスの中間レベルまで上昇させ、双極性信号(図3、波形b)に変更し、その双極性信号を正極性整流回路8、負極性整流回路15、制御信号発生回路21に供給する。正極性整流回路8は、双極性信号の正極性部分を整流し、その正極性部分(図3、波形c)を選択抽出し、次続の積分保持回路9に供給する。積分保持回路9は、正極性部分の到来期間中その正極性部分を積分し、次の正極性部分の到来期間になって制御信号発生回路21からの制御パルス(図3、波形d)の供給により積分値が基準レベルに低下するまでその積分値を保持(図3、波形e)する。微分回路10は、積分保持回路9の積分保持値が基準レベルに低下した際に、その積分保持値に等しいレベルの負極性パルスを発生(図3、波形f)し、駆動回路11は、その負極性パルスをゲート回路12に供給する。ゲート回路12及び電圧ホールド回路13は、制御信号発生回路21からの制御パルス(図3、波形d)の供給時点から次の制御パルスの供給時点までの間、供給された負極性パルスの電圧値をホールドし、電圧ホールド回路13からその負極性ホールド電圧値(図3、波形g)が出力される。
【0028】
一方、負極性整流回路15は、双極性信号の負極性部分を整流し、その負極性部分(図3、波形c’)を選択抽出し、次続の積分保持回路16に供給する。積分保持回路16は、負極性部分の到来期間中その負極性部分を積分し、次の負極性部分の到来期間になって制御信号発生回路21からの制御パルス(図3、波形d’)の供給により積分値が基準レベルに上昇するまでその積分値を保持(図3、波形e’)する。微分回路17は、積分保持回路16の積分保持値が基準レベルに低下した際に、その積分保持値に等しいレベルの正極性パルスを発生(図3、波形f’)し、駆動回路18は、その正極性パルスをゲート回路19に供給する。ゲート回路19及び電圧ホールド回路20は、制御信号発生回路21からの制御パルスの供給時点(図3、波形d’)から次の制御パルスの供給時点までの間、供給された正極性パルスの電圧値をホールドし、電圧ホールド回路20からその正極性ホールド電圧値が出力(図3、波形g’)される。この後、加算回路14は、負極性ホールド電圧値(図3、波形g)及び正極性ホールド電圧値(図3、波形g’)を加算し、それらの差のホールド電圧値が出力される。そして、出力端子22には、加算部分が周期的に到来する処理信号(図3、波形h)が得られ、この処理信号が次段のループフィルタに供給される。
【0029】
このように、第1の実施の形態による位相比較信号処理回路によれば、PLLにおいて、デジタル位相比較器から出力される矩形波信号を直接ループフィルタに加える代わりに、矩形波信号を階段波状に振幅変化する処理信号に変換処理してループフィルタに加えるようにしているので、ループフィルタに加える信号中に含まれるリップル成分を大幅に減少させることができ、ループフィルタのコーナ周波数を高くすることが可能になって、その分、ループの応答速度を速くすることがことができ、その上にPLLのループ利得を増加させることができる。
【0030】
次いで、図4は、本発明による位相比較信号処理回路の第2の実施の形態を示すもので、その要部構成を示すブロック回路図であり、階段波状に振幅変化する処理信号に含まれる全周波数スペクトルを第1の実施の形態に比べて2倍の高い周波数側に拡散させるようにした例を示すものである。
【0031】
図4に示されるように、この第2の実施の形態による位相比較信号処理回路は、第1の実施の形態による位相比較信号処理回路に対して、加算回路14の出力端と出力端子22との間に、駆動回路23と、ゲート回路24と、電圧ホールド回路25と、平均化回路26とを縦続接続しており、その他に、制御信号発生回路27の制御パルスを加算する加算回路27と、加算回路27の加算制御パルスを半周期遅延させる遅延回路28とを設けているもので、それ以外の構成要素は第1の実施の形態による位相比較信号処理回路10と同じ構成要素が用いられている。そして、駆動回路23は、入力端が加算回路14の出力端に接続され、出力端がゲート回路24の入力端に接続される。ゲート回路24は、出力端が電圧ホールド回路25の入力端に接続され、制御端が遅延回路28の出力端に接続される。平均化回路26は、第1入力端が加算回路14の出力端に接続され、第2入力端が電圧ホールド回路25の出力端に接続され、出力端が出力端子22に接続される。
【0032】
また、図5は、第2の実施の形態による位相比較信号処理回路において、その各部に生じる信号波形を示す波形図であり、図3に図示した各部に生じる信号波形と同じ信号波形については図3に図示した信号波形の記号を付している。
【0033】
図5に図示の信号波形図において、iは制御信号発生回路21から出力される2つの制御パルス(図5、波形d及び波形d’)を加算回路27で加算した加算制御パルス波形であり、jは加算制御パルスを遅延回路28で半周期遅延させた制御パルス波形であり、kは電圧ホールド回路25から出力された処理信号(図5、波形h)を半周期遅延させた遅延処理信号波形であり、mは処理信号(図5、波形h)と遅延処理信号波形(図5、波形k)とを平均化回路で平均化することにより得られた平均化処理信号波形である。
【0034】
ここで、第2の実施の形態による位相比較信号処理回路の動作を図5に図示された波形図を用いて説明する。
【0035】
この第2の実施の形態による位相比較信号処理回路における動作は、第1信号路及び第2信号路における各動作及び第1信号路及び第2信号路に関連する制御信号発生回路15の動作は前述の第1の実施の形態による位相比較信号処理回路の対応する動作と同じであり、それにより加算回路14の出力端には処理信号(図5、波形h)が導出されるもので、これらの構成部分の動作は、前述の第1の実施の形態による位相比較信号処理回路の動作と同じであり、その動作説明が重複するのでその動作説明を省略し、以下、これらの構成部分の以外の動作説明を行う。
【0036】
駆動回路23は、加算回路14から出力された処理信号(図5、波形h)を次続のゲート回路24に供給する。このとき、加算回路27は、制御信号発生回路21から出力される2つの制御パルス(図5、波形d及び波形d’)を加算して加算制御パルス(図5、波形i)を形成し、遅延回路28は、形成された加算制御パルスを半周期遅延して遅延制御パルス(図5、波形j)を形成し、その遅延制御パルスがゲート回路24に供給される。それにより、ゲート回路24は、供給された処理信号(図5、波形h)における遅延制御パルス供給時点の電圧を抽出し、その電圧を電圧ホールド回路25に供給する。電圧ホールド回路25は、供給された電圧を次の電圧が供給されるまで同じ電圧値にホールドし、電圧ホールド回路25の出力に処理信号(図5、波形h)を半周期遅延させた遅延処理信号(図5、波形k)が得られる。この後、平均化回路26は、供給された処理信号(図5、波形h)及び遅延処理信号(図5、波形k)との平均を求め、それらの処理信号の内挿を行っているもので、これにより出力端子22に供給される平均化処理信号(図5、波形m)は、処理信号(図5、波形h)に比べて加算部分の到来時間間隔が2分の1になり、その振幅差が2分の1になるもので、その平均化処理信号(図5、波形m)波形の持つ各スペクトル成分は、元の処理信号(図5、波形h)に比べてそれぞれ2倍の周波数になっている。
【0037】
このように、第2の実施の形態による位相比較信号処理回路は、平均化処理信号(図5、波形m)を次続のループフィルタに供給するようにすれば、ループフィルタの通過特性を高い周波数に移行させることができるので、ループフィルタの応答速度をその分速くすることができる。
【0038】
なお、図示していないが、加算回路14に出力端と出力端子22との間に、駆動回路23、ゲート回路24、電圧ホールド回路25、平均化回路26、加算回路27、遅延回路28からなる回路部分を、2段縦続接続してそれぞれの回路部分で前述のような処理動作を行うことにより、出力端子22に得られる平均化処理信号の加算部分の到来時間間隔を4分の1にし、その振幅差を4分の1にすれば、さらにループフィルタの応答速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による位相比較信号処理回路を用いているPLLの要部構成を示すブロック回路図である。
【図2】本発明によるPLL位相比較出力信号処理回路の第1の実施の形態に係るもので、その要部構成を示すブロック回路図である。
【図3】図2に図示されたPLL位相比較出力信号処理回路における各部に得られる信号を示す波形図である。
【図4】本発明によるPLL位相比較出力信号処理回路の第1の実施の形態に係るもので、その要部構成を示すブロック回路図である。
【図5】図4に図示されたPLL位相比較出力信号処理回路における各部に得られる信号を示す波形図である。
【符号の説明】
【0040】
1 位相比較信号処理回路
2 電圧制御発振器(VCO)
3 デジタル位相比較器
4 ループフィルタ
5 基準信号発生器
6 入力端子
7 電圧シフタ
8 正極性整流回路
9、16 積分保持回路
10、17 微分回路
11、18、23 駆動回路
12、19、24 ゲート回路
13、20、25 電圧ホールド回路
14、27 加算回路
15 負極性整流回路
21 制御信号発生回路
22 出力端子
26 平均化回路
28 遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御発振器と位相比較器とループフィルタと基準信号発生器とからなるPLLにおける前記位相比較器と前記ループフィルタとの間に接続され、前記位相比較器から出力される矩形波信号を処理する位相比較信号処理回路であって、前記矩形波信号を両極性信号に変換する電圧シフタと、前記電圧シフタと処理信号を出力する出力端子との間に並列接続され、それぞれ整流回路と積分保持回路と微分回路とゲート回路と電圧ホールド回路と両信号路に共通の加算回路とからなる第1信号路及び第2信号路と、前記矩形波信号によって駆動され、前記第1信号路及び第2信号路の各積分保持回路と各ゲート回路とを個別に制御する制御信号を発生する制御信号発生器とを備え、前記第1信号路において、前記整流回路は前記両極性信号の正極性部分を抽出し、前記積分保持回路は抽出した正極性信号を積分してその積分値を前記正極性信号と次の正極性信号が抽出されるまでの期間保持し、前記微分回路は前記積分保持回路の保持電圧が基準電圧に変化するときの保持電圧を微分出力として検出し、前記ゲート回路及び前記電圧ホールド回路は、前記微分回路の微分出力を前記インターバル期間保持電圧として出力し、前記第2信号路において、前記両極性信号の負極性部分に対して前記第1信号路で行われた処理と同じ処理を行い、前記出力端子から前記第1信号路及び第2信号路に得られた各保持電圧を加算した処理信号が出力されることを特徴とする位相比較信号処理回路。
【請求項2】
請求項1に記載の位相比較信号処理回路において、前記第1信号路及び第2信号路に共通の加算回路の出力端と前記出力端子の間に、前記制御信号発生器から発生される制御信号を用いて前記共通の加算回路から出力される処理信号を半周期遅延させた遅延処理信号を形成するゲート回路及び電圧ホールド回路と、前記共通の加算回路から出力される処理信号と前記遅延処理信号とが供給され、それらの信号レベルを平均化する平均化回路とを縦続接続し、前記平均化回路に接続された前記出力端子から加算部分の到来時間間隔が2分の1になり、その振幅差が2分の1になる平均化処理信号が出力されることを特徴とする位相比較信号処理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−28830(P2008−28830A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200742(P2006−200742)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(390033363)株式会社ゼネラル リサーチ オブ エレクトロニックス (32)
【Fターム(参考)】