説明

位置推定システム及び位置推定方法

【課題】送信装置から無線信号を送信し、無線信号の受信レベルを複数地点で観測することによって送信装置の位置を推定する位置推定システムにおいて、推定精度を向上し、また、演算処理の軽減を図る。
【解決手段】受信装置12_11〜12_MNは、送信装置11からの無線信号を受信し、その受信レベルを複数地点で観測する。平均化部131は、無線信号の波長の1倍以上の範囲の観測点を受信群とし、各観測点で観測された受群毎の観測点の平均化位置情報とを用いて、送信装置11の位置を推定する。波長の1倍以上の範囲で受信レベルの平均化を行うと、伝搬減衰の瞬時変動の項が0dBとなり、受信レベル間の相関が0となる。これにより、レイリー分布のばらつきや、受信レベルの相関信レベルを平均化する。送信位置推定部132は、受信群毎の平均化受信レベルと、受信性による推定精度の低下を防げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置から無線信号を送信し、その無線信号の受信レベルを複数の観測点で観測することによって送信装置の位置を推定する位置推定システム及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」繋がるユビキタスネットワークを利用し、様々なモノや人がネットワークに繋がることで、安心・安全で効率的な日常生活をサポートするユビキタスネットワーク社会の実現が期待されている。ユビキタスネットワーク社会において実現が期待されるいくつかのサービス(例えば、車や自転車、高価な服飾品、財布や鍵などの盗難・紛失時の追跡サービス)では、通信機能だけでなく、無線端末の位置情報を取得する機能が求められる。
【0003】
携帯電話などの従来の無線ネットワークでは、一般に、無線端末に搭載したGPS(全地球測位システム)を用いて位置推定を行っている。しかしながら、GPS機能の搭載により無線端末の消費電力とコストが増大し、さらに屋内で利用できない欠点を有するため、ユビキタスネットワークには不向きである。
【0004】
一方で、無線端末から無線信号を送信し、位置が既知である複数地点でその電波の受信レベルを観測することで無線端末の位置を推定する手法(例えば、非特許文献1)は、無線端末に機能の追加や変更が不要であり、また屋内でも利用可能であるため、ユビキタスネットワークにおける位置推定技術として有望な技術の1つである。
【0005】
図7は、無線端末から無線信号を送信し、複数地点でその電波の受信レベルを観測することで位置を推定する機能を持つ従来の位置推定システムの機能構成を示したブロック図である。
【0006】
この位置推定システムは、送信装置91と、複数の受信装置92_1〜92_Nと、位置推定演算装置93とから構成されている。送信装置91は、送信信号生成部911と、無線部912と、送信アンテナ913とを備えている。受信装置92_1〜92_Nは、それぞれ、受信アンテナ921_1〜921_Nと、無線部922_1〜922_Nと、受信レベル観測部923_1〜923_Nとを備えている。位置推定演算装置93は、送信位置推定部931と、受信位置管理部932とを備えている。
【0007】
次に、図7を参照しながら、従来の位置推定システムの動作を説明する。送信装置91では、送信信号生成部911で任意の送信信号を生成し、無線部912でアナログ変換、周波数変換や増幅などを行った後、送信アンテナ913から無線信号を送信する。
【0008】
受信装置92_1〜92_Nでは、それぞれ、受信アンテナ921_1〜921_Nで無線信号を受信し、無線部922_1〜922_Nで受信した信号の増幅や周波数変換等を行った後、受信レベル観測部923_1〜923_Nで変換後の信号から無線信号の受信レベルを観測する。n番目(n=1,2,3,…,N)の受信装置92_nで観測される受信レベルr[dBm]は、以下のように示される。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、Pは送信電力[dBm]、Lは送信装置とn番目の受信装置の間の伝搬路の減衰[dB]である。
【0011】
位置推定演算装置93の送信位置推定部931は、各受信装置92_1〜92_Nで観測された複数の受信レベルr〜r及び受信位置管理部932で管理されている受信装置92_1〜92_Nの位置情報を用いて、無線信号の距離減衰特性を利用し、最尤判定により送信装置91の位置(x,y)を推定する。
【0012】
【数2】

【0013】
ここで、p(x,y|r,r,…,r)は、各受信装置92_1〜92_Nで観測された受信レベルがr、r、…、rであったときに送信装置91の位置が(x,y)である結合確率密度関数である。式(102)は、この条件付確率p(x,y|r,r,…,r)が最大となる位置(x,y)を推定することを意味している。しかしながら、一般に条件付確率p(x,y|r,r,…,r)を計算するのは困難であるため、送信装置91の位置(x,y)の分布が一様だと仮定し、ベイズ則を用いて、
【0014】
【数3】

【0015】
と変形し、容易に計算可能な条件付確率p(r,r,…,r|x,y)を最大にする位置(x,y)を推定する。
【0016】
さらに、従来技術では、条件付確率p(r,r,…,r|x,y)を計算するため、2つの仮定を置く。1つ目の仮定は、各受信装置92_1〜92_Nで観測される受信レベルr、r、…、rが無相関であるという仮定である。このとき、条件付確率p(r,r,…,r|x,y)は以下のように展開できる。
【0017】
【数4】

【0018】
2つ目の仮定は、伝搬路の減衰Lは距離のβ乗に反比例する距離減衰と対数正規分布するばらつきによって決定される。すなわち、伝搬路の減衰Lは、下式のようになるという仮定である。
【0019】
【数5】

【0020】
ここで、α、βは位置推定を行う場所によって決まる伝搬定数、dは送信装置と受信装置の距離、N(0、σ)は平均0、分散σの正規分布する変数である。なお、α、βは予め伝搬減衰の距離特性を測定して定める、もしくは位置推定のために取得した受信レベルr、r、…、rを用いて推定するなどして定める。このとき、条件付き確率p(r|x,y)は正規分布の性質より
【0021】
【数6】

【0022】
と表せる。ここで、X、Yは受信位置管理部932で管理されている受信装置92_nの位置である。
【0023】
式(104)、式(106)より、条件付確率p(r,r,…,r|x,y)は次式で表される。
【0024】
【数7】

【0025】
さらに、exp(・)が単調増加の関数であることを利用し、位置(x,y)は以下のように推定できる。
【0026】
【数8】

【0027】
送信位置推定部931では、式(108)に基づいて、複数の受信装置92_1〜92_Nで観測された受信レベルr〜rから距離減衰特性を減算した値の分散が最小となる位置により、送信装置91の位置(x,y)を推定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】S. Hara, D. Zhao, K. Yanagihara, J. Taketsugu, K. Fukui, S. Fukunaga, and K. Kitayama, “Propagation Characteristics of IEEE 802.15.4 Radio Signal and Their Application for Location Estimation,” in IEEE VTC 2005 Spring, vol. 1, Stockholm, Sweden, May 2005, pp. 97 - 101.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、一般に見通し外通信では伝搬減衰Lは距離減衰と対数正規分布するばらつきだけでなく、レイリー分布するばらつきを有し、また複数の受信装置同士が近接する場合などは、受信レベルr、r、…、rが相関を持つため、従来の位置推定システムの2つの仮定が成り立たない。そのため、従来技術では、特に複数の受信装置同士が近接する場合に、式(108)では最尤推定が行われないため、推定精度が劣化する。さらに、式(108)では全ての受信装置92_1〜92_Nで取得した受信レベルr、r、…、rを利用するため、多数の受信装置92_1〜92_Nが存在する場合には、位置推定のための演算処理が膨大になるという問題がある。
【0030】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、送信装置から無線信号を送信し、その無線信号の受信レベルを複数地点で観測することによって送信装置の位置を推定する位置推定システムにおいて、伝搬減衰のもつレイリー分布のばらつきや、受信レベルの相関性による推定精度を低下を防ぎ、また、演算処理の軽減を図ることができる位置推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上述の課題を解決するために、本発明に係る位置推定システムは、送信装置が送信する無線信号を受信し、当該無線信号の受信レベルを複数の観測点で観測する受信手段と、無線信号の波長の1倍以上の範囲の観測点を受信群とし、各観測点で観測された受信レベルを受信群毎に平均化する平均化手段と、受信群毎の平均化受信レベルと、受信群毎の観測点の平均化位置情報とを用いて、送信装置の位置又は分布確率を推定する位置推定手段とを備えることを特徴とする。
【0032】
上記発明において、位置推定手段は、平均化受信レベルから距離減衰特性を減算した値の分散が最小となる位置を推定することを特徴とする。
【0033】
上記発明において、平均化手段は、受信レベルを単純平均することを特徴とする。
【0034】
上記発明において、平均化手段は、隣接する観測点との間の距離で受信レベルを重み付けして平均することを特徴とする。
【0035】
上記発明において、受信群毎の観測点の平均化位置情報は、受信群に位置する観測点の位置の単純平均であることを特徴とする。
【0036】
上記発明において、受信群毎の観測点の平均化位置情報は、受信群に位置する観測点の位置を隣接する観測点との間の距離で重み付けした平均であることを特徴とする。
【0037】
上記発明において、受信手段は異なる位置に複数あり、複数の受信手段により複数の観測点で無線信号の受信レベルを観測することを特徴とする。
【0038】
上記発明において、受信手段は単数であり、受信手段を移動させて複数の観測点で無線信号の受信レベルを観測することを特徴とする。
【0039】
上記発明において、受信手段は、さらに、観測点の位置を検出する受信位置検出手段を有することを特徴とする。
【0040】
本発明に係る位置推定方法は、送信装置が送信する無線信号を受信する工程と、当該無線信号の受信レベルを複数の観測点で観測する工程と、無線信号の波長の1倍以上の範囲の観測点を受信群とし、各受信点で観測された受信レベルを受信群毎に平均化する工程と、受信群毎の平均化受信レベルと、受信群毎の観測点の平均化位置情報とを用いて、送信装置の位置または分布確率を推定する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、送信装置から無線信号を送信し、その無線信号の受信レベルを複数地点で観測することによって送信装置の位置を推定する位置推定システムにおいて、伝搬モデルに基づいて一定の範囲で観測した受信レベルを平均化し、伝搬減衰のもつレイリー分布のばらつきと受信レベルの相関性をキャンセルすることで推定精度を向上し、また平均化処理によって位置推定に用いるパラメータ数を減らすことで、演算処理を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る受信装置の位置関係を概略的に示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る受信装置の走行ルートを概略的に示すブロック図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】従来の位置推定システムの機能構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る位置推定システムの構成を示すものである。図1に示すように、本発明の第1の実施形態の位置推定システムは、送信装置11と、複数の受信装置12_11〜12_MNと、位置推定演算装置13とから構成されている。
【0044】
図1に示すように、送信装置11は、送信信号生成部111と、無線部112と、送信アンテナ113とを備えている。送信信号生成部111は、任意の送信信号を生成して、無線部112に出力する。無線部112は、無線部112からの送信信号を入力し、アナログ変換、周波数変換や増幅などを行った後、送信アンテナ113に出力する。送信アンテナ113は、無線部112からの無線信号を送信する。
【0045】
図2に示すように、受信装置12_11〜12_MNは、通信信号の波長の1倍以上(波長の1〜100倍程度)の大きさの領域の受信群A1〜AM内に存在している。
【0046】
図2では、第1番目の受信群A1内には、N個(Nは正数)の受信装置12_11、12_12、…、12_1n、…、12_1Nが存在している。第2番目の受信群A2内には、N個の受信装置12_21、12_22、…、12_2n、…、12_2Nが存在している。m番目の受信群Am内には、N個の受信装置12_m1、12_m2、…、12_mn、…、12_mNが存在している。M番目の受信群AM内には、N個の受信装置12_M1、12_M2、…、12_Mn、…、12_MNが存在している。
【0047】
なお、Mは受信群のナンバを示す整数である。mは任意の受信群のナンバを示し、(m=1,2,3,…,M)である。また、N、N、…、N…、Nは、各受信群A1〜AM内に存在する受信装置の数を示す整数である。nは各受信群にある受信装置のインデックスナンバを示し、(n=1,2,3,…,N)である。
【0048】
また、各受信群A1〜AM内に存在する受信装置の数N、N、…、N…、N は任意である。また、各受信群A1〜AM内での受信装置12_11〜12_MNの配置は任意である。
【0049】
また、図3に示すように、任意の受信装置12_mnと隣接する受信装置との距離は、Dmnで示される。距離Dmnは、受信装置12_mnと最も近い距離に隣接する他の受信装置との距離で定義するのが望ましい。あるいは、距離Dmnは、受信装置12_mnの次のインデックスナンバの受信装置12_mn+1との距離で定義してもよい。このとき、距離DmNmは受信装置12_mNと受信装置12_mNm−1の間の距離で定義する。また、距離Dmnは、受信装置12_mnの1つ前のインデックスナンバの受信装置12_mn−1との距離で定義してもよい。このとき、距離Dm1は受信装置12_m1と受信装置12_m2の間の距離で定義する。
【0050】
なお、この実施形態は、例えば、路上に存在するノートPC(パーソナルコンピュータ)の位置を推定するために、各家庭のPCや家電等に搭載された無線LAN(Local Area Network)装置で受信レベルを観測し、位置を推定するアプリケーションなどを想定している。この例においては、各家庭の無線LAN装置が1つの受信群を構成する。
【0051】
図1に示すように、受信装置12_11〜12_MNは、それぞれ、受信アンテナ121_11〜122_MNと、無線部122_11〜122_MNと、受信レベル観測部123_11〜123_MNを備えている。受信アンテナ121_11〜122_MNは、それぞれ、送信装置11からの信号を受信して、無線部122_11〜122_MNに出力する。無線部122_11〜122_MNは、それぞれ、受信した信号の増幅や周波数変換等を行って、受信信号を受信レベル観測部123_11〜123_MNに出力する。受信レベル観測部123_11〜123_MNは、それぞれ、変換後の信号から無線信号の受信レベルを観測する。
【0052】
位置推定演算装置13は、平均化部131と、送信位置推定部132と、受信位置管理部133とを備えている。平均化部131は、各受信群A1〜AMでそれぞれ受信群を構成する受信装置12_11〜12_1N、12_21〜12_2N、…、12_m1〜12_mN、…、12_M1〜12_MNで観測された受信レベルをそれぞれ平均化する。送信位置推定部132は、これら複数の平均化受信レベル及び受信位置管理部133で管理されている受信装置12_m1〜12_mNの平均化位置情報を用いて、最尤判定により、送信装置11の位置を推定する。
【0053】
次に、本発明の第1の実施形態の位置推定システムの動作を説明する。図1において、送信装置11は、送信信号生成部111で任意の送信信号を生成し、無線部112でアナログ変換、周波数変換や増幅などを行った後、送信アンテナ113から無線信号を送信する。受信装置12_11〜12_MNは、それぞれ、受信アンテナ121_11〜122_MNで無線信号を受信し、無線部122_11〜122_MNで受信した信号の増幅や周波数変換等を行った後、受信レベル観測部123_11〜123_MNで無線信号の受信レベルを観測する。
【0054】
ここで、受信装置12_mnで観測された受信レベルをrmn[dBm]とすると、受信レベルrmnは、以下のように示される。
【0055】
【数9】

【0056】
ここで、Pは送信電力[dBm]、Lmnは送信装置11と受信装置12_mnの間の伝搬路の減衰[dB]である。従来システムでは伝搬減衰は、式(105)で示したように、距離のβ乗に反比例する距離減衰と対数正規分布するばらつきとによって決定されると仮定したが、伝搬減衰には、これに加えレイリー分布するばらつきが加わる。すなわち、伝搬減衰Lmnは、以下のように表される。
【0057】
【数10】

【0058】
ここで、N(0,1)及びN(0,1)は、それぞれ、平均0、分散1の正規分布する変数である。なお、N(0、σ)、N(0,1)及びN(0,1)は全て独立した変数である。
【0059】
式(2)の第3項は一般に瞬時変動と言われ、受信アンテナの周囲の散乱体で反射したパスの位相関係によって変動し、波長と同程度以上離れた受信アンテナ間では無相関になる。なお、式(2)から明らかなように、第3項の瞬時変動は受信レベルの真値で平均を取ると0dBとなる。以降では、伝搬定数α、βが既知であるとして説明するが、伝搬定数α、βは受信レベルrmnを用いて推定してもよい。
【0060】
平均化部131は、各受信群A1、A2、…、Am、…AMの受信装置12_11〜12_1N、12_21〜12_2N、…、12_m1〜12_mN、…、12_M1〜12_MNの受信レベルを、それぞれ、受信群毎に平均化する。平均化部131からは、受信群A1、A2、…、Am、…、AM毎の平均化受信レベルR、R、…、R、…、Rが得られる。
【0061】
なお、平均化方法は任意であり、いずれの方法でも一定の効果があるが、以下で効果が高く、比較的処理の簡易な代表的な2つの方法を説明する。
【0062】
1つ目は、各受信装置12_11〜12_MNから得られた受信レベルrm1〜rmNmの真値で、受信群毎に単純平均を取る方法である。
【0063】
【数11】

【0064】
ここで、Rは平均化受信レベルである。この方法は、平均化処理が簡易であり、受信アンテナ間の距離Dmnが大よそ等しい場合には、瞬時変動の項を0dBにすることができる。
【0065】
2つ目の方法は、距離Dmnで重み付けした後に真値で平均化する方法である。
【0066】
【数12】

【0067】
受信アンテナ間の距離Dmnが波長より十分に小さい場合、2つのアンテナで観測した受信レベルには相関があるため、前述した単純平均では相関の高い受信レベルに引っ張られて平均しても瞬時変動が0dBとならないことがある。そのため、2つ目の方法では、距離Dmnが近いほど瞬時変動の相関が高い性質を利用し、距離で重み付けを行う。
【0068】
送信位置推定部132は、平均化部131で求められた受信群毎の複数の平均化受信レベルR、R、…、R、…、R及び受信位置管理部133で管理されている受信群毎の受信装置の平均化位置情報を用いて、無線信号の距離減衰特性を利用して、最尤判定により送信装置11の位置(x,y)を推定する。
【0069】
すなわち、平均化部131から出力される各受信群の平均化受信レベルがR、R、…、R、…、Rであるときに、送信装置11の位置が(x,y)である結合確率密度関数をp(x,y|R,R,…,R)とすると、送信装置11の位置(x,y)は、この条件確率p(x,y|R,R,…,R)が最大となる位置(x,y)から以下のように推定できる。
【0070】
【数13】

【0071】
しかしながら、一般に条件付確率p(x,y|R,R,…,R)を計算するのは困難であるため、ベイズ則を用いて、
【0072】
【数14】

【0073】
と変形し、容易に計算可能な条件付確率p(R,R,…,R|x,y)を最大にする位置(x,y)を推定する。
【0074】
前述したように、平均化受信レベルR、R、…、R、…、Rは、波長の1倍以上の範囲の観測点で観測された受信レベルの真値の平均であるので、無相関である。よって、条件付確率p(R,R,…,R|x,y)は以下のように展開できる。
【0075】
【数15】

【0076】
また、式(2)に示したように、伝搬減衰Lmnは、伝搬路の減衰Lは距離のβ乗に反比例する距離減衰と、対数正規分布するばらつきと、レイリー分布するばらつきとからなる。しかしながら、式(2)の第3項の瞬時変動は、波長と同程度以上離れた受信アンテナ間では無相関になり、第3項の瞬時変動は真値で平均を取ると0dBである。よって、伝搬減衰Lmnは、以下のようにみなすことができる。
【0077】
【数16】

【0078】
よって、条件付き確率p(R|x,y)は正規分布の性質より
【0079】
【数17】

【0080】
と表せる。ここで、X、Yは受信位置管理部133で管理されている受信装置12_m1〜12_mNの位置(Xm1,Ym1)〜(XmNm,YmNM)の平均である。平均化方法は任意であり、いずれの方法でも一定の効果があるが、受信レベルrm1〜rmNmと同様に真値で平均する方法と距離Dmnで重み付けした後に真値で平均化する方法の2つが効果が高く、比較的処理が簡易である。前者を式(10)、後者の方法を式(11)に示す。
【0081】
【数18】

【0082】
【数19】

【0083】
式(7)、式(9)より、条件付確率p(R,R,…,R|x,y)は次式で表される。
【0084】
【数20】

【0085】
さらに、exp(・)が単調増加の関数であることを利用し、送信装置11の位置(x,y)は以下のように推定できる。
【0086】
【数21】

【0087】
送信位置推定部132では、式(13)に基づいて、平均化部131で求められた受信群毎の平均化受信レベルR〜Rから距離減衰特性を減算した値の分散が最小となる位置により、送信装置11の位置(x,y)を推定することができる。
【0088】
以上のように、波長の1倍以上の範囲で受信レベルの平均化を行うと、伝搬減衰の瞬時変動の項が0dBとなり、式(8)で示すように距離減衰と短区間変動だけとみなせるようになり、受信レベル間の相関も0となる。また、平均化処理により、演算に用いるパラメータが受信レベルから平均化受信レベルとなり、パラメータ数を大幅に減らすことができる。そのため、式(13)のように、少ないパラメータ数の単純な分散を評価関数とした最尤推定が可能となり、従来技術と比較して推定精度の向上と処理の軽減を両立することができる。
【0089】
この実施形態では、波長の1倍以上の任意の範囲に存在する受信装置12_m1〜12_mNが1つの受信群を構成するとして説明したが、受信群の範囲を広げると、送信装置と受信装置の位置が近い場合、式(2)の第一項である距離減衰の項が一定とならないため、平均化に誤差を生じ、位置推定精度が劣化する。一方で、受信群の範囲を狭くすると、平均化受信レベルRの数が増えるため、演算処理量が増大する。そのため、具体的にどの程度の範囲を1つの群とみなすかは、要求される推定精度と演算処理量とのトレードオフによって決定する。
【0090】
また、この実施形態では、平均化部131において平均化する受信レベルの数Nが少ないと、前述した瞬時変動を十分に平均化できず、推定精度の劣化を招く。そのため、推定精度の劣化を回避するため、送信位置推定部132において、平均化する受信レベルの数Nが少ない平均化受信レベルRを削除して位置推定処理を行うのが望ましい。
【0091】
また、一般に受信装置にはダイナミックレンジがあり、受信レベルが雑音レベルに埋もれたり、飽和したりすると式(1)の関係式を満たさなくなり、推定精度の劣化を招く。そのため、推定精度の劣化を回避するため、平均化部131において、ダイナミックレンジ外の低い受信レベルや高い受信レベルを削除して平均化処理を行うのが望ましい。
【0092】
なお、式(12)の条件付確率p(R,R,…,R|x,y)は、分布確率そのものであり、この実施形態により、送信位置推定部132は、送信装置11の最適な位置の推定だけでなく、分布確率を求めることができる。
【0093】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について図4を参照して説明する。前述の第1の実施形態では、複数の受信装置12_11〜12_Nを用いて複数地点で受信レベルを測定したが、1つの受信装置で動きながら複数の受信点で受信レベルを測定しても同様の効果が得られる。第2の実施形態は、1つの受信装置22を用いた実施形態である。
【0094】
図4は、本発明の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を示したブロック図である。本発明の第2の実施形態の位置推定システムは、送信装置21と、受信装置22と、位置推定演算装置23とから構成されている。
【0095】
送信装置21は、送信信号生成部211と、無線部212と、送信アンテナ213とを備えている。受信装置22は、受信アンテナ221と、無線部222と、受信レベル観測部223と、受信位置検出部224とを備えている。位置推定演算装置23は、平均化部231と、送信位置推定部232とを備えている。
【0096】
受信位置検出部224は、送信装置21が送信する無線信号を受信した受信点の位置を検出するものであり、GPS等を用いることができる。
【0097】
図5は、受信装置22及び位置推定演算装置23の走行ルートと受信点の位置(Xmn,Ymn)の幾何学的位置関係の一例を示した図である。図5に示すように、受信装置22はある走行ルートに従って移動し、受信点の位置(X11,Y11)〜(XMNM,YMNM)において受信レベルを観測し、波長の1倍以上の任意の領域に存在する(X11,Y11)〜(X1N1,Y1N1)、…、(Xm1,Ym1)〜(XmNm,YmNm)、…(XM1,YM1)〜(XMNM,YMNM)受信点の位置を各受信群B1〜BMとする。
【0098】
受信装置22及び位置推定演算装置23の処理は第1実施形態における受信装置12及び位置推定演算装置13と同じである。
【0099】
なお、この実施形態においても、平均化部231で受信レベルを平均化する場合に、単純平均と、隣接する観測点との間の距離で受信信号レベルを重み付けして平均とが行える。1つの受信装置22を移動させる場合には、隣接する観測点との間の距離で受信信号レベルを重み付けすることは、受信レベル観測期間における受信装置22の移動距離で受信信号レベルを重み付けすることに当たる。
【0100】
本発明の第2の実施形態では、受信装置22及び位置推定演算装置23は同じ場所に位置し、同様に移動するとして説明したが、両者の間を無線ネットワークを用いて接続することで、位置推定演算装置を別の場所に置くこともできる。
【0101】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について、図6を参照して説明する。前述の第2実施形態では、平均化部231を位置推定演算装置23内に備えたが、平均化部は受信装置内に備えても同様の効果が得られる。第3実施形態は、平均化部325を受信装置32内に備えた実施形態である。
【0102】
図6は、本発明の実施形態に係る位置推定システムの機能構成を示したブロック図である。この位置推定システムは、送信装置31と、受信装置32と、位置推定演算装置33とから構成されている。また、送信装置31は、送信信号生成部311と、無線部312と、送信アンテナ313とを備えている。
【0103】
受信装置32は、それぞれ受信アンテナ321、無線部322、受信レベル観測部323、受信位置検出部324、平均化部325を備えている。位置推定演算装置33は、送信位置推定部331を備えている。
【0104】
受信装置32及び位置推定演算装置33を構成する各機能ブロックの処理は第1実施形態における受信装置12及び位置推定演算装置13と同じである。
【0105】
なお、この実施形態では、受信装置32及び位置推定演算装置33は同じ場所に位置し、同様に移動するとして説明したが、両者の間を無線ネットワークを用いて接続することで、位置推定演算装置を別の場所に置くこともできる。
【0106】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0107】
11,21,31:送信装置
12_11〜12_MN,22,32:受信装置
13,23,33:位置推定演算装置
111,211,311:送信信号生成部
112,212,312:無線部
113,213,313:送信アンテナ
121,221,321:受信アンテナ
122,222,322:無線部
123,223,323:受信レベル観測部
131,231,331:平均化手段
132,232,332:送信位置推定部
133,233,333:受信位置管理部
224,324:受信位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置が送信する無線信号を受信し、当該無線信号の受信レベルを複数の観測点で観測する受信手段と、
前記無線信号の波長の1倍以上の範囲の観測点を受信群とし、前記各観測点で観測された受信レベルを前記受信群毎に平均化する平均化手段と、
前記受信群毎の平均化受信レベルと、前記受信群毎の観測点の平均化位置情報とを用いて、前記送信装置の位置又は分布確率を推定する位置推定手段と
を備えることを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
前記位置推定手段は、前記平均化受信レベルから距離減衰特性を減算した値の分散が最小となる位置を推定することを特徴とする請求項1に記載の位置推定システム。
【請求項3】
前記平均化手段は、受信レベルを単純平均することを特徴とする請求項1又は2に記載の位置推定システム。
【請求項4】
前記平均化手段は、隣接する観測点との間の距離で受信レベルを重み付けして平均することを特徴とする請求項1又は2に記載の位置推定システム。
【請求項5】
前記受信群毎の観測点の平均化位置情報は、前記受信群に位置する観測点の位置の単純平均であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の位置推定システム。
【請求項6】
前記受信群毎の観測点の平均化位置情報は、前記受信群に位置する観測点の位置を隣接する観測点との間の距離で重み付けした平均であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の位置推定システム。
【請求項7】
前記受信手段は異なる位置に複数あり、前記複数の受信手段により複数の観測点で無線信号の受信レベルを観測することを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の位置推定システム。
【請求項8】
前記受信手段は単数であり、前記受信手段を移動させて複数の観測点で無線信号の受信レベルを観測することを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の位置推定システム。
【請求項9】
前記受信手段は、さらに、観測点の位置を検出する受信位置検出手段を有することを特徴とする請求項8に記載の位置推定システム。
【請求項10】
前記送信装置が送信する無線信号を受信する工程と、
当該無線信号の受信レベルを複数の観測点で観測する工程と、
前記無線信号の波長の1倍以上の範囲の観測点を受信群とし、前記各受信点で観測された受信レベルを前記受信群毎に平均化する工程と、
前記受信群毎の平均化受信レベルと、前記受信群毎の観測点の平均化位置情報とを用いて、前記送信装置の位置または分布確率を推定する工程と
を含むことを特徴とする位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80898(P2011−80898A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234263(P2009−234263)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】