説明

位置検出装置

【課題】広い検出範囲でありながら、高い測定精度をもち安価で小型の位置検出装置を提供する。
【解決手段】磁石3の長さより短い配置間隔で磁気検知器5を複数個並べ、検出範囲を複数の磁気検知器5で分割して測定する。これにより任意の検出範囲の位置検出装置が製作でき、検出範囲が長い場合でも磁石3が小型にでき、さらに位置検出装置の全長を短くできる。また、磁石3の着磁方向を移動方向に異極とし、移動方向に垂直な方向の磁力線を検出対象とすることで、磁力線の強さが磁石の全長方向に広い範囲でなだらかに変化するので、検出精度の高い位置検出装置が実現できる。さらに検出範囲を複数の磁気検知器5で分割して測定するので、位置測定の分解能を高くでき、高精度の測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出装置に関し、特に、長尺の直動機器の動作位置検出に使用される位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンでは種々の制御用に直動機器が用いられることがある。例えば、エンジンの燃費改善策のひとつとして使用される排気ガス再循環機構では、排気ガスの一部を吸気側に再循環させる経路にバルブを設け、直動機器の一種であるダイヤフラム装置でバルブの開閉量を調整し、排気ガスの再循環量を制御している。
【0003】
ダイヤフラム装置でバルブの開閉量を調整する場合には、ダイヤフラム装置の動作位置を位置検出装置で測定しバルブの開閉量を正確に調整する方式が多い。
【0004】
従来の位置検出装置では、例えば特許文献1に開示されるように、移動部材と共に移動する磁石と磁気検知器を組み合わせ、磁気検知器と対向する磁石の面を曲面とする構造が知られている。
【0005】
排気ガス再循環機構で使用される直動機器の動作量は比較的小さいため、位置検出装置の検出範囲は比較的小さくて済む。しかし用途先によっては直動機器の動作量が大きく、位置検出装置に広い検出範囲が求められることがある。
【0006】
従来の位置検出装置では検出範囲内で直線性の良い検出が可能であるが、検出範囲を広くするには磁石を長尺とする必要があり、位置検出装置も大型化するという課題があった。
【0007】
また、磁気検知器が検出できる最小距離は検出範囲を分解能で除した値となるが、分解能が同一で検出範囲が広くなると検出できる最小距離が大きくなり、測定精度が低下するという課題があった。
【0008】
このような課題に対し、例えば特許文献2に開示されるように、小型の磁石と複数の磁気検知器を組み合わせ、複数の磁気検知器の検出値を補間して得た磁気分布により磁石の位置を測定する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−60339号公報
【特許文献2】特開平8−50004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示される方法では、複数個の磁界検出センサーを直線上に配置し各磁界検出センサーの検出した磁界値を直線か曲線で補間して得た磁界分布で磁界値がゼロになる点を求めることによって、永久磁石の位置を測定する、としており、この方法で磁石と位置検出装置を小型化することは可能である。
しかし、直線補間で磁石位置を算出すると補間での誤差が大きく高い測定精度を得ることができないという問題があった。また、複数個の磁界検出センサーが検出した磁界値を曲線補間して磁界分布を求め磁石位置を算出すると補間での誤差は小さくなるが、曲線補間の計算処理が複雑となり、計算回路が大型化するという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は広い検出範囲でありながら、高い測定精度を持つ小型の位置検出装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、固定部材に設けられた案内面に沿って直線的に往復移動する移動部材と、前記移動部材に保持され前記移動部材と共に移動する磁石と、前記移動部材の移動方向に垂直な方向の前記磁石からの磁力線の強さを検知し前記磁力線の強さにより変化する出力信号を出力する前記固定部材に設置された磁気検知器と、前記出力信号を受信する電子制御部と、を有する位置検出装置において、
前記磁石は前記移動部材の前記移動方向に異極となるように着磁されており、前記磁気検知器は前記移動部材の前記移動方向に複数個配設されており、前記複数個配置された磁気検知器の配置間隔は前記移動部材の前記移動方向の前記磁石の長さより短くされており、前記電子制御部は、複数個の前記磁気検知器のうち有効な磁気検知器の前記出力信号から前記磁石の位置を算出するとともに、前記磁石が前記有効な磁気検知器の測定範囲外に移動すると前記磁石が移動した方向の隣接する次の磁気検知器を新たな有効な磁気検知器として選定することに特徴を有する。
【0013】
これにより、本発明では、磁石の長さを変えることなく、磁気検知器を磁石の移動方向に複数個ならべ、移動する磁石の位置を複数個の磁気検知器で順次検出することにより、それぞれの磁気検知器の検出範囲の複数倍の広い検出範囲の位置検出装置が製作できる。
【0014】
このとき磁石の長さを変える必要がないので磁石を小型にできるとともに、位置検出装置の全長を短くできる。さらに、磁石の着磁方向を移動方向に異極とし移動方向に垂直な方向の磁力線の強さを検出する構成としたので、検出方向の磁力線の強さが磁石の全長方向の広い範囲で直線的に変化するので各々の磁気検知器で精度の高い位置検出が可能となり、移動範囲を複数の磁気検知器で分割して測定するので、検出範囲が広くなってもそれぞれの磁気検知器は分割された狭い範囲をそれぞれの磁気検知器の分解能で測定できるため、検出範囲の全長にわたり高精度で高分解能な測定が可能となる。
【0015】
また本発明では、前記電子制御部は、前記出力信号の所定の上限値と所定の下限値とをそれぞれ保持する記録部を有し、前記磁石が移動し前記有効な磁気検知器の前記出力信号が前記所定の上限値と前記下限値とから決められる範囲を超えると、前記磁石が前記有効な磁気検知器の測定範囲外に移動したと判定することに特徴を有する。
【0016】
これにより、本発明では、電子制御部は有効な磁気検知器の出力信号を監視するだけで、有効な磁気検知器の切り替えが可能で、検出範囲の広い位置検出装置を簡略に構成できる。
【0017】
また本発明では、前記複数の磁気検知器は、それぞれ測定可能範囲を有する第1の磁気検知器、第2の磁気検知器および第3の磁気検知器よりなり、
前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第1の磁気検知器側の端を前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端とし、前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第3の磁気検知器側の端を前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端としたとき、前記第1の磁気検知器は前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端の位置、または前記一方端より前記第2の磁気検知器に近い位置に配置され、前記第3の磁気検知器は前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端の位置、または前記他方端より前記第2の磁気検知器に近い位置に配置され、
前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第2の磁気検知器と反対側の端を前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端とし、前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第2の磁気検知器と反対側の端を前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端としたとき、前記磁石の移動可能範囲は前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端から前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端までの範囲より狭く、
前記電子制御部は前記第1の磁気検知器および前記第3の磁気検知器の前記出力信号から前記有効な磁気検知器を選択することに特徴を有する。
【0018】
これにより、本発明では、第1の磁気検知器では測定可能範囲の中央から一方側端までの測定可能範囲の半分だけを使用し、第3の磁気検知器では測定可能範囲の中央から他方側端までの測定可能範囲の半分だけを使用し、それ以外の測定範囲は第2の磁気検知器を使用して測定範囲の全域を測定する。
【0019】
従って、第1の磁気検知器の出力信号が出力値範囲の中央値から最小値(または最大値)までの範囲にあるときは第1の磁気検知器を有効な磁気検知器に選択し、第3の磁気検知器の出力信号が出力値範囲の中央値から最大値(または最小値)までの範囲にあるときは第3の磁気検知器を有効な磁気検知器に選択し、第1の磁気検知器の出力信号が出力値範囲の中央値から最大値(または最小値)までの範囲にあり第3の磁気検知器の出力信号が出力値範囲の中央値から最小値(または最大値)までの範囲にあるときは第2の磁気検知器を有効な磁気検知器に選択することにより、測定範囲の全域で有効な磁気検知器を選択できる。
【0020】
それゆえ、本発明では、第1の磁気検知器および第3の磁気検知器の出力信号の出力値を確認するだけで有効な磁気検知器が選択できるので、本発明による位置検出装置の使用用途を広げることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上により、本発明の位置検出装置では、磁気検知器を複数個ならべることにより各々の磁気検知器の検出範囲の複数倍の広い検出範囲の位置検出装置が製作でき、磁石を小型にでき、位置検出装置の全長を短くできる。
【0022】
さらに、磁石の着磁方向を移動方向に異極とし移動方向に垂直な方向の磁力線の強さを検出する構成としたので、検出方向の磁力線の強さが磁石の全長方向の広い範囲でなだらかに変化するので各々の磁気検知器で精度の高い位置検出が可能となる。さらに、移動範囲を複数の磁気検知器で分割して測定するので、検出範囲が広くなっても各々の磁気検知器は分割された狭い範囲をそれぞれの磁気検知器の分解能で測定できるため、検出範囲の全長にわたり高精度の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置の外観図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における位置検出装置の分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における位置検出装置の中央断面を示す図1の(a)のA−A断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における検出動作を説明するグラフで、(a)は磁石の中心位置からの距離と磁場強度との関係を示すグラフで、(b)は磁石が移動したときの磁石の位置とセンサーの出力信号との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第1の実施形態における位置検出装置の回路構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における磁石が移動したときの磁石の位置によるセンサー切り替え動作を説明するグラフである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る位置検出装置の中央断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態におけるセンサー出力処理を説明するグラフで、(a)は磁石が移動したときの磁石の位置とセンサーの出力信号との関係を示すグラフ、(b)は磁石が移動したときのセンサーの出力信号とセンサー切り替え動作を説明するグラフである。
【図9】は種々の構成例の位置検出装置の全長の違いを説明する位置検出装置の中央断面図で、(a)は従来の検出範囲用の従来製品で、(b)は従来の製品を長尺化し検出範囲を拡大した場合の例で、(c)は本発明の第1の実施形態により検出範囲を拡大した位置検出装置である。
【図10】本発明の第1の実施形態における位置検出装置の検出精度と、従来の製品を長尺化し検出範囲を拡大した場合の検出精度の違いを説明するセンサー出力特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について図1から図6を参照し説明する。なお、本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置は自動車の各種装置制御に用いられるリニアスケールであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、広い検出範囲が求められる任意の小型位置検出装置に適用することが可能である。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るリニアスケールの外観図である。図1に示すように、リニアスケールは、ケース1(固定部)のフランジ部1aの中央から、摺動可能な検出部2aが突出しており、検出部2aの先端を測定対象物に接触させることにより測定対象物の位置を測定する。
【0026】
図2はリニアスケールの構成を示す分解斜視図である。以下、図2を参照しリニアスケールの構成部品を説明する。
【0027】
リニアスケールは、図2に示すように、外形を構成するケース1と、ケース1の内部に保持される基板組立品71と、ケース1に移動可能に保持されるスライダー2(移動部材)と、スライダー2に保持される磁石3と、スライダー2を突出方向に付勢する圧縮バネ9、およびケース1の開口部に嵌合するカバー4から構成される。
【0028】
ケース1は成形材等で一方が開口した略箱状に形成され、開口部側には略板状のフランジ部1aを有する。開口部につながる内面のうち、対向する2面にスライダー2の移動方向に延びた案内面1bが形成され、案内面1bと並行する1面には基板取り付け面1cが形成されている。フランジ部1aにはリニアスケール取り付け用の4個の丸穴が設けられ、丸穴の内周部は金属製のスリーブで補強されている。
【0029】
スライダー2は成形材等により形成され、略箱状の本体部2bと、本体部2bの移動方向に垂直な面の一方に突出する円柱状の検出部2aと、本体部2bの移動方向に平行な両側面に突出した腕部2cを有し、底面には磁石保持部2dを有する。腕部2cには圧縮バネ9の端面が保持される。
【0030】
磁石3は略板状に形成された、焼結または少量のプラスチック材と共に成形加工されたネオジウム磁石等からなる磁石で、スライダー2に保持される面の反対側の面が曲面とされている。また、スライダー2の移動方向に沿って着磁され、移動方向に垂直な2つの端面が異極となる。
【0031】
基板組立品71は長方形の基板7に3個のセンサー5(磁気検知器)と、コントローラ6(電子制御部)、および外部接続端子8が実装された組立部品である。3個のセンサー5は磁石3の曲面とされた面と対向する。
【0032】
3個のセンサー5は例えば所定の間隔で配置されたホールICで、基板面に垂直な磁力線の方向と強さに比例して最小電圧から最大電圧まで直線的に変化する信号を出力する。
【0033】
コントローラ6は3個のセンサー5の出力を受け取り、有効なセンサーの出力から測定対象の磁石3の位置を算出し、位置データを出力する。
【0034】
外部接続端子8は銅合金等の金属で板状に形成されており、外部の電源およびグランドに接続されるとともにコントローラ6の出力を外部に出力する。
【0035】
圧縮バネ9は非磁性のバネ用鋼線等で製作される。
【0036】
カバー4は成形材等で略板状に形成され、外形がケース1の開口部と嵌合して開口部を封止し、中央の丸穴部4aを通過して検出部2aが突出する。
【0037】
次に、図3を参照し、本実施例のリニアスケールの構成と、センサー切り替え動作を説明する。図3はスライダー2が最も突出側に移動している状態を示す断面図である。
【0038】
ケース1の基板取り付け面1cには基板7が保持されており、基板7には第1のセンサー51、第2のセンサー52および第3のセンサー53の計3個のセンサー5とコントローラ6および外部接続端子8が実装されている。
【0039】
また、磁石3を保持したスライダー2が、ケース1の案内面1bに摺動可能に保持されており、圧縮バネ9がスライダー2を突出方向に付勢している。
【0040】
スライダー2は圧縮バネ9により突出方向に付勢されると、本体部2bの一方端の円板状の突起部2eがカバー4と当接し停止する。以下、この停止位置を突出端位置と記述する。
【0041】
スライダー2の一方の側面に突出した円柱状の検出部2aは、カバー4の中央の丸穴部4aを貫通して外部にて測定対象物に当接する。
【0042】
測定対象物が検出部2aを挿入方向に移動させると、スライダー2に保持された磁石3はセンサー5と対向しながら、しかし接触することなく、第1のセンサー51の一方側から第3のセンサー53の他方側まで移動する。
【0043】
スライダー2は挿入方向に移動させられると、本体部2bの他端の後端突起部2fがケース1の内底面の突起部と当接し停止する。この停止位置を挿入端位置と記述する。
【0044】
本実施例のリニアスケールでは、突出端位置から挿入端位置までの範囲が検出範囲となる。
【0045】
スライダー2が検出範囲を移動するとスライダー2に保持された磁石3も移動し、磁石3が発生する磁力線の方向と強さに応じて第1のセンサー51、第2のセンサー52および第3のセンサー53の出力信号が変化する。この各センサー5の出力信号を測定することにより磁石3の位置を算出し、スライダー2の位置を求める。
【0046】
以下に、図4を参照し、磁石3が移動したときの磁石の位置と各センサー5の出力信号の変化を説明する。
【0047】
はじめに、図4の(a)を参照し、磁石3による磁場強度の変化特性を説明する。
【0048】
図4の(a)は磁石3のセンサー5と対向する面から磁石−センサー間の距離だけ離れた位置で、磁石の着磁方向の長さの中心からの距離と、磁石の着磁方向と直交する方向の成分の磁場強度の関係を求めたシミュレーション結果を示すグラフである。なお、グラフ中の垂直方向磁場強度の(+)は磁石にむかう方向を示し、(−)は磁石から遠ざかる方向を示す。
【0049】
まず最初に、比較のため、本発明の第1の実施形態によらない、センサー5と対向する面が平面である直方体の磁石の磁場強度のシミュレーション結果を破線L2で示す。
【0050】
センサー5と対向する面が平面である直方体の磁石では、直方体の磁石の端面のうち移動方向に垂直な2つの端面の一方がN極となり、他方がS極となる。このとき、磁力線は磁石のN極から出て、湾曲しながら磁石の外部を通過し最後にS極に戻るが、磁石の中央位置では磁力線は磁石の着磁方向と並行になる。また磁極付近では磁力線が集中する。
【0051】
このため、磁石の着磁方向の長さの中央位置では磁石の着磁方向と直交する方向の成分の磁場強度はゼロとなり、中央位置から遠ざかると徐々にプラスまたはマイナス側に変化し、磁石端部の磁極付近すなわち全長位置では磁力線の集中により磁場強度は急激に変化して極値となり、以降緩やかにゼロに近づく。
【0052】
以上により、センサー5と対向する面が平面である直方体の磁石の着磁方向と直交する方向の成分の磁場強度は、図4の(a)に破線L2で示すように、中央部ではゼロで、中央部付近では緩やかに変化し、全長位置付近で大きく変化し、端面を超えると緩やかにゼロに近づくような変化を示し、全体としてはうねりを持ったSの字状の変化を示す。
【0053】
センサー5と対向する面が平面である直方体の磁石では磁場強度がうねりを持った変化を示すので、この磁石を位置測定に使用するとセンサー5の出力から精度良く位置を算出することができない。
【0054】
これに対し、本発明の第1の実施形態で用いた磁石3では、センサー5に対向する面を全長位置でセンサー5から遠ざかる方向の曲面状としたので、磁石3の中央位置から離れると磁石面からの距離が徐々に増加し、中央位置付近の磁力線の変化が大きくなる。また、全長位置では磁極までの距離が大きいので、磁極への磁力線の集中の影響が小さくなり全長位置での磁場強度の急激な変化がおこらず、全長位置付近までほぼ直線的に変化する。
【0055】
以上より、センサー5に対向する面を曲面状とした磁石3の、磁石の着磁方向と直交する方向の成分の磁場強度は、図4の(a)に実線L1で示すように、磁石3の中央位置でゼロとなり、磁石3の全長位置付近までほぼ直線的に変化し、磁石3の全長位置付近で極値となり、以降緩やかにゼロに近づく。
【0056】
以上の、センサー5に対向する面を曲面状とした磁石3の、磁場強度の変化特性とシミュレーション結果より、本発明の第1の実施形態で用いた磁石3では、磁石3の全長の概ね3/4の範囲で磁場強度が直線的に変化する特性を得ることができる。
【0057】
磁場強度が直線的に変化する範囲は磁石3を位置測定に使用できる使用可能範囲とすることができるので、磁石3のセンサー5に対向する面を曲面状とすることにより広い使用可能範囲を持つ位置測定に好適な特性の磁石が得られる。
【0058】
なお、磁場強度が広い範囲で直線的に変化するような磁石の曲面の最適な寸法は、磁石の外形寸法、磁石とセンサー5の距離および必要な直線性の精度等により異なるため、製品の実寸法等をもとに個々にシミュレーション等を併用しながら、最適値を求める必要がある。
【0059】
以上は磁石3の移動方向の長さの中心を基準とした、磁石3の中心からの距離と磁場強度の関係の説明であるが、本発明の第1の実施形態でセンサー5として使用するホールICの出力信号は、センサーの検出方向の磁場強度に直線比例して変化するため、磁石3が複数のセンサー5の直上を移動したときのセンサー5の出力信号の変化は磁石3の中心からの距離による磁力線の変化と同一になり、磁石3の使用可能範囲はそれぞれのセンサー5の測定可能範囲となる。
【0060】
以下に、図4の(b)を参照して、磁石3が検出範囲を突出端位置から挿入端位置まで移動したときの複数のセンサー5の出力信号の変化を、センサーの個数を3個とした場合を例に、説明する。
【0061】
3個のセンサー5の配置は、磁石3の移動方向の長さより短い間隔で配置され、最大では各センサーの測定可能範囲と同じ距離とすることができる。ただし本発明の第1の実施形態では、3個のセンサーのばらつきや磁石3の経時変化等を考慮して、図4の(b)に示すように、各々のセンサー5は測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置されている。また、リニアスケールの検出範囲の両端、すなわち突出端位置と挿入端位置はそれぞれ両端のセンサー5の測定可能範囲を超えない位置に設定している。
【0062】
なお、本発明の第1の実施形態でセンサー5として使用するホールICは電源電圧Vddで駆動され、磁石の着磁方向と直交する方向の成分の磁場強度により出力信号は0V付近からVdd付近まで変化し、磁場強度がゼロのときは中間電圧Vdd/2を出力する。
【0063】
以下、図4の(b)を参照し、磁石3の位置が突出端位置から挿入端位置まで順次変化していくときの各センサー5の出力信号の状態を記述する。
【0064】
<各センサーの出力状態の変化>
(1)磁石3が突出端位置(検出範囲の一方端)にあるとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は0V付近である。
第2のセンサー52の出力信号S2は中間電圧よりやや低い。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧付近である。
【0065】
(2)磁石3が第1のセンサー51の直上まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は中間電圧まで直線的に上昇する。
第2のセンサー52の出力信号S2は徐々に減少する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧付近のままで変化しない。
【0066】
(3)磁石3が第1のセンサー51と第2のセンサー52の中間位置まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は中間電圧からVdd付近まで直線的に上昇する。
第2のセンサー52の出力信号S2は0V付近まで低下し、のちわずかに上昇する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧付近からわずかに低下する。
【0067】
(4)磁石3が第2のセンサー52の直上まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は最大値まで上昇し、のち減少する。
第2のセンサー52の出力信号S2は中間電圧まで直線的に上昇する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧付近から徐々に減少する。
【0068】
(5)磁石3が第2のセンサー52と第3のセンサー53の中間位置まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は更に減少し中間電圧に近づく。
第2のセンサー52の出力信号S2は中間電圧からVdd付近まで直線的に上昇する。
第3のセンサー53の出力信号S3は0V付近まで低下し、のちわずかに上昇する。
【0069】
(6)磁石3が第3のセンサー53の直上まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1はほぼ中間電圧となる。
第2のセンサー52の出力信号S2は最大値まで上昇し、のち減少する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧まで直線的に上昇する。
【0070】
(7)磁石3が挿入端位置(検出範囲の他方端)まで移動するとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は中間電圧のまま変化しない。
第2のセンサー52の出力信号S2は更に減少し中間電圧に近づく。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧からVdd付近まで直線的に上昇する。
【0071】
磁石3の移動により各センサー5の出力信号S1,S2,S3は上記のように変化するので、上記(1)から(7)の各々の移動範囲で出力信号が直線的に変化するセンサーを有効なセンサーとして選択し、有効なセンサーの出力信号から磁石3の位置を算出することにより、全移動範囲での磁石3の位置を精度良く算出することができる。すなわち、以下の条件で有効なセンサーを選択する。
【0072】
(A)磁石3が突出端位置から、第1のセンサー51と第2のセンサー52の中間位置の範囲にあるときは第1のセンサー51を有効なセンサーとして選択する。
(B)磁石3が第1のセンサー51と第2のセンサー52の中間位置から、第2のセンサー52と第3のセンサー53の中間位置の範囲にあるときは第2のセンサー52を有効なセンサーとして選択する。
(C)磁石3が第2のセンサー52と第3のセンサー53の中間位置から挿入端位置の範囲にあるときは第3のセンサー53を有効なセンサーとして選択する。
【0073】
上記のセンサー5の選択はコントローラ6が、各センサー5の出力信号を監視しながら、所定の条件に従って切り替える。また、コントローラ6は、選択したセンサーの配置位置に応じた補正を行い、選択したセンサー5の出力信号から磁石3の位置を算出する。
【0074】
<センサーの切り替え条件>
本発明の第1の実施形態では、図5に示すように、第1のセンサー51,第2のセンサー52,第3のセンサー53はコントローラ6であるワンチップマイクロコンピュータのA/Dポートにそれぞれ接続される。
【0075】
コントローラ6は内部にCPU,A/Dポート,メモリーおよび出力ポート等を有し、これらが内部バスにより接続されている。A/Dポートは外部の信号を受信しデジタルデータに変換する。変換されたデジタルデータはCPUで処理され、出力ポートから外部に出力される。またメモリーは必要に応じてデータを保持する。これにより各センサー5の出力信号はコントローラ6により常時監視可能となる。
【0076】
なお、コントローラ6のメモリーの一部には、コントローラ6が有効なセンサーを切り換えるときの基準値である、上限値Vmaxと下限値Vminが保持されている。
【0077】
一例として、第1のセンサー51が有効なセンサーとして選択されており、磁石3が突出端位置から移動したときの有効なセンサーの切り替え動作を、図6を参照し説明する。
【0078】
磁石3が突出端位置P1にあるとき、第1のセンサー51の出力信号S1は下限値Vminよりやや高い電圧V1となっている。
【0079】
磁石3が挿入端方向に移動すると第1のセンサー51の出力信号S1は直線状に増加し、やがて上限値Vmaxに達する。第1のセンサー51の出力信号S1が上限値Vmaxに達すると、コントローラ6は有効なセンサーを、磁石3の移動方向で隣接するセンサー、すなわち第2のセンサー52に切り替える。
【0080】
磁石3が挿入方向に更に移動し、第2のセンサー52の出力信号S2が上限値Vmaxに達すると、コントローラ6は有効なセンサーを第3のセンサー53に切り替える。磁石3が更に移動し挿入端位置P4まで移動すると、第3のセンサー53の出力信号S3は上限値Vmaxよりわずかに低い電圧V4となる。
【0081】
次に、磁石3が逆方向すなわち突出端方向に移動すると、第3のセンサー53の出力信号S3は直線状に低下するが、出力信号S3が下限値Vminに達すると、コントローラ6は有効なセンサーを、磁石3の移動方向で隣接するセンサー、すなわち第2のセンサー52に切り替える。
【0082】
以降、磁石3が突出端方向に更に移動し、同様に第2のセンサー52の出力信号S2が下限値Vminに達すると、コントローラ6は有効なセンサーを第1のセンサー51に切り替える。
【0083】
以上により、コントローラ6は各センサー5の出力信号S1,S2,S3を、設定された上限値Vmax,下限値Vminと比較し、有効なセンサーを順次選択することにより、検出範囲の全域で磁石の位置を算出できる。
【0084】
上記の説明は磁石3が突出端位置から挿入端位置までの全検出範囲を移動した場合であるが、磁石3が突出端位置から挿入端位置までの中間位置で移動方向を変えた場合でも、有効なセンサーの出力信号が下限値Vminまたは上限値Vmaxに達すれば、コントローラ6は次の有効なセンサーを選択する。
【0085】
なお、本発明の実施の形態に係るリニアスケールでは、隣接するセンサーの測定範囲が部分的に重複するように、各々のセンサーが測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置されている。これにより本発明の実施の形態に係るリニアスケールでは、以下に記載する理由により、長期に使用し特性が変化した場合の不都合の発生や、磁石がセンサー切り替え位置近傍にあるときに有効なセンサーが頻繁に切り替えられるチャタリング現象を回避できる。
【0086】
本発明の実施の形態に係るリニアスケールでは、それぞれのセンサーの出力信号の使用範囲を規定する上限値Vmax,下限値Vminを設定すると、使用している磁石の磁気特性とセンサーの磁気検出特性により、それぞれのセンサーの測定範囲が決定する。
【0087】
従って、リニアスケールを長期にわたり使用し、磁石の磁気特性が劣化した場合やセンサーの磁気検出特性が変動した場合には、それぞれのセンサーの測定範囲が変化し、センサーの測定範囲が減少する場合もあり得る。
【0088】
しかし、本発明の実施の形態に係るリニアスケールでは、隣接するセンサーの測定範囲が部分的に重複するように各々のセンサーを測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置しているので、センサーの測定範囲が減少した場合でも、隣接するセンサーの測定範囲が不連続となり測定が不能となる、または測定の精度が低下するという不都合が生じることを回避できる。
【0089】
また、例えば、磁石3が挿入方向に移動し、第1のセンサー51の出力信号S1が上限値Vmaxに達し有効なセンサーが第2のセンサー52に切り替えられたときの磁石の位置をP2とし、磁石が逆方向、すなわち突出方向に移動し、第2のセンサー52の出力信号S2が下限値Vminに達し有効なセンサーが第1のセンサー51に切り替えられたときの磁石の位置をP6とすると、各々のセンサーが測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置されているため、有効なセンサーが第1のセンサー51から第2のセンサー52に切り替えられたときの位置P2と、有効なセンサーが第2のセンサー52から第1のセンサー51に切り替えられたときの位置P6には差が生じる。
【0090】
このとき、有効なセンサーが第1のセンサー51から第2のセンサー52に切り替えられたときの第2のセンサー52の出力信号S2の電圧V2は下限値Vminよりわずかに大きく、有効なセンサーが第2のセンサー52から第1のセンサー51に切り替えられたときの第1のセンサー51の出力信号S1の電圧V6は上限値Vmaxよりわずかに小さい。
【0091】
このため、磁石が移動し有効なセンサーが第1のセンサー51から第2のセンサー52に切り替えられた位置で磁石が停止し、磁石が停止位置で微小に振動したような場合でも磁石の位置は有効なセンサーが第2のセンサー52から第1のセンサー51に切り替えられたときの位置P6を超えず、また第2のセンサー52の出力信号S2の電圧V2は下限値Vminを超えないため、有効なセンサーが第2のセンサー52から第1のセンサー51に切り替えられることとはない。
【0092】
従って、隣接するセンサーの測定範囲が部分的に重複するように各々のセンサーを測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置することにより、有効なセンサーが隣接するセンサー間で頻繁に切り替えられるチャタリングが回避できる。
【0093】
以上は磁石3が挿入方向に移動し有効なセンサーが第1のセンサー51から第2のセンサー52に切り替えられる場合の、隣接するセンサーの測定範囲が部分的に重複するように、各々のセンサーを測定可能範囲よりわずかに短い間隔で配置することによる効果の記述であるが、磁石3が排出方向に移動し、有効なセンサーが第2のセンサー52から第1のセンサー51に切り替えられる場合でも同様の効果が得られる。
【0094】
なお、コントローラ6に設定される出力信号の上限値Vmaxおよび下限値Vminは各センサー5に対し同一で良いが、各センサー5のばらつきを解消するために、それぞれのセンサー毎に個別に設定することも可能である。
【0095】
<有効なセンサーの最初の選択方法>
上記のセンサー5の切り替えに関する説明では、有効なセンサーが既に選択されていることを前提に説明をおこなった。しかし、例えば停止している自動車を起動するときのように、リニアスケールに給電されていない状態から給電が開始された場合には、起動時には有効なセンサーは選択されておらず、各センサー5の出力を監視しても有効なセンサーが判定できない場合がある。
このような場合には以下のような方法で、有効なセンサーを判定する。
【0096】
(1)リニアスケールの用途から、起動時のリニアスケールの位置を特定する。
【0097】
例えばターボチャージャー制御に本発明を適用した場合、初めてエンジンが動き出すときにはターボチャージャーは働いていない。従ってターボチャージャー制御の場合、例えば、起動時にはバルブは閉じられており、リニアスケールは最も突出した状態となる、というように、用途により起動時のリニアスケールの位置が特定できる。
【0098】
このような場合には、特定された起動時のリニアスケールの位置に対応して、有効となるセンサーが特定できる。
【0099】
(2)起動時に測定対象物をわずかに動作させ、出力信号の変化から有効なセンサーを選択する。
【0100】
起動時のリニアスケールの位置が特定できないような用途の場合、起動時に測定対象物を意図的にわずかに動作させ、このときのセンサー5の出力信号が上限値Vmaxおよび下限値Vminの範囲内で、かつ出力信号の変化が構造的に決まる増減方向と合致するセンサー5を有効なセンサーとして選択する。
【0101】
以上の(1),(2)のような手法により、起動時に有効なセンサーを選択することが可能で、一度有効なセンサーを選択すれば、以降は各センサー5の出力信号を監視することにより、有効なセンサーを適切に切り替えていくことが可能である。
【0102】
なお、本発明の第1の実施形態では有効なセンサーの切り替えを各センサー5の出力信号S1,S2,S3と設定された上限値Vmaxおよび下限値Vminの比較でおこなったが、出力信号から算出された他の信号、例えば出力信号から算出された磁石3の位置データ等により有効なセンサーの切り替えをおこなうことも可能である。
【0103】
以上の第1の実施形態の説明では、使用するセンサー5を3個として説明したが、使用するセンサー5の個数は3個に限定されるものではなく、必要に応じて任意に増減可能である。
【0104】
<第2の実施形態>
次に、図7を参照し、本発明の第2の実施形態のリニアスケールの構成とセンサー切り替え動作を説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0105】
図7は本発明の第2の実施形態のリニアスケールのスライダー2が突出端位置にある状態を示す断面図である。
【0106】
本発明の第2の実施形態に係るリニアスケールの構成は、本発明の第1の実施形態に係るリニアスケールの構成と同一であるが、センサー5の配置間隔が異なり、センサー5の個数は3個に限定される。
【0107】
ケース1の基板取り付け面1cには基板7が保持されており、基板7には第1のセンサー51、第2のセンサー52および第3のセンサー53の計3個のセンサーとコントローラ6および外部接続端子8が実装されている。
【0108】
3個のセンサーは間隔をもって配置されており、図8の(a)に示すように、第1のセンサー51は第2のセンサー52の測定可能範囲の一方側の端位置に配置され、第3のセンサー53は第2のセンサー52の測定可能範囲の他方側の端位置に配置されている。また、リニアスケールの検出範囲の両端、すなわち突出端位置と挿入端位置はそれぞれ両端のセンサー5の測定可能範囲を超えない位置に設定している。
【0109】
以下、図8の(a)を参照し、磁石3の位置が突出端位置から挿入端位置まで変化していくときの3個のセンサー5の出力信号の状態を記述する。
【0110】
<第2の実施形態における各センサーの出力状態の変化>
(1)磁石3が突出端位置(検出範囲の一方端)から、図8の(a)に第1のセンサーの配置位置と記載した、第1のセンサー51の直上までの範囲にあるとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は0V付近から中間電圧まで直線的に上昇する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧以下である。
(2)磁石3が、図8の(a)に第1のセンサーの配置位置と記載した、第1のセンサー51の直上から、図8の(a)に第3のセンサーの配置位置と記載した、第3のセンサー53の直上までの範囲にあるとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は中間電圧以上である。
第2のセンサー52の出力信号S2は0V付近からVdd付近まで直線的に上昇する。
第3のセンサー53の出力信号S3は中間電圧以下である。
(3)磁石3が、図8の(a)に第3のセンサーの配置位置と記載した、第3のセンサー53の直上から挿入端位置(検出範囲の他方端)までの範囲にあるとき。
第1のセンサー51の出力信号S1は中間電圧以上である。
第3のセンサー53の出力信号S2は中間電圧からVdd付近まで直線的に上昇する。
【0111】
磁石3の移動により、各センサー5の出力信号S1,S2,S3は上記のように変化するが、本発明の第2の実施形態では、下記のように、第1のセンサー51および第3のセンサー53の出力信号S1,S3を中間電圧と比較することにより、有効なセンサーを選択することが可能である。
【0112】
<第2の実施形態におけるセンサーの切り替え方法>
(A)第1のセンサー51の出力信号S1が中間電圧より低いときは第1のセンサー51を有効なセンサーとして選択する(図8の(b)に第1のセンサーの測定範囲と記載した範囲)。
(B)第3のセンサー53の出力信号S3が中間電圧より高いときは第3のセンサー53を有効なセンサーとして選択する(図8の(b)に第3のセンサーの測定範囲と記載した範囲)。
(C)上記(A),(B)以外の場合、すなわち第1のセンサー51の出力信号S1が中間電圧より高く、第3のセンサー53の出力信号S3が中間電圧より低いときは、第2のセンサー52を有効なセンサーとして選択する(図8の(b)に第2のセンサーの測定範囲と記載した範囲)。
【0113】
以上により、センサー5の個数が3個に限定されている本発明の第2の実施形態では、第1のセンサー51と第2のセンサー52はそれぞれが有効となるときの出力信号範囲が限定されるので、第1のセンサー51と第3のセンサー53の出力信号S1,S3を中間電圧と比較するだけで有効なセンサーが選択できる。
【0114】
また、磁石3が突出端位置または挿入端位置にあるときでも、磁石3は第1のセンサー51または第3のセンサー53の測定可能範囲内にあるので、突出端位置から挿入端位置までのリニアスケールの検出範囲内の全域で直線性の良い磁石位置の検出が可能である。
【0115】
なお、3個のセンサーのばらつきや磁石3の経時変化等を考慮して、第1のセンサー51および第3のセンサー53は、それぞれ第2のセンサー52の測定可能範囲の端位置より第2のセンサー52に近い位置に配置してもよい。
【0116】
<磁石位置の算出方法>
本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に係るリニアスケールでは、複数のセンサー5で磁石3の位置を検出しているが、それぞれのセンサー5から出力される出力信号S1,S2,S3は、それぞれのセンサー5から磁石3までの距離に比例した信号であり、磁石位置に比例した値ではない。従って、出力信号から算出した磁石3までの距離に、有効としたセンサーの位置を加算して実際の磁石3の位置を算出する。
【0117】
しかし、それぞれのセンサー5は基板7上に半田付け等により実装されるので、各センサー5の取り付け位置を精度良く管理することは困難である。このため、センサー5の出力信号から算出した磁石3までの距離に、有効なセンサーの取り付け位置を単純に加算して磁石3の位置を算出しても測定精度が維持できない。このため本発明の実施例では下記の方法で実際の磁石3の位置を算出する(図6参照)。
【0118】
本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に係るリニアスケールでは、有効なセンサーを切り替えるときに、切り替える前に有効であったセンサーの出力信号から求めたセンサー切り替え位置での磁石位置の値を切り替えて有効となったセンサーの磁石位置の測定基準値とし、切り替えて有効となったセンサーのセンサー切り替え位置での出力信号値を切り替えて有効となったセンサーの基準出力信号値とし、磁石位置の測定基準値と、センサーの基準出力信号値と切り替えて有効となったセンサーの出力信号から、磁石の位置を算出する。
【0119】
以下に、図6を参照して、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に係るリニアスケールで、有効なセンサーを切り替えたときの磁石3の位置の具体的な算出方法を記載する。
【0120】
磁石3が突出端位置P1にあるときの位置を基準とし、例えば、有効なセンサーが第1のセンサー51から第2のセンサー52に切り替えられる場合は、
(1)第1のセンサー51の出力信号S1が上限値Vmaxになったときの磁石3の位置P2の位置データをコントローラ6に保存する。
(2)有効なセンサーを第2のセンサー52に切り替えたときの第2のセンサー52の出力信号の電圧V2をコントローラ6に保存する。
(3)有効なセンサーが第2のセンサー52である間、すなわち第2のセンサー52の出力信号S2が上限値Vmaxを超えず下限値Vminを下回らない間は、磁石3が移動して第2のセンサー52の出力信号S2が変化すると、第2のセンサー52の出力信号S2と保存されている出力信号の電圧V2との差から磁石3の位置の仮データを算出し、これに位置P2の位置データを加算することにより、磁石3の真の位置を算出する。
【0121】
同様にして、有効なセンサーが第2のセンサー52から第3のセンサー53に切り替えられた場合は、第2のセンサー52の出力信号S2が上限値Vmaxとなったときの磁石3の位置P3の位置データと、有効なセンサーを第3のセンサー53に切り替えたときの第3のセンサー53の出力信号の電圧V3をコントローラ6に保存し、以降は第3のセンサー53の出力信号S3と保存されている出力信号の電圧V3と位置P3の位置データから磁石3の位置を求める。
【0122】
さらに、磁石3の移動方向が反転し有効なセンサーの出力信号が下限値Vminに達した場合も、同様な手法で磁石3の位置を算出する。
【0123】
以上の方法で磁石3の位置を算出することにより、各センサー5の配置間隔がばらついた場合でも、個別に配置間隔を測定する等の対策を取らなくても精度のよい位置測定が可能となる。
【0124】
また、コントローラ6に保存する位置のデータと出力信号値を、例えば、コントローラ6の不揮発性のメモリーに保持することにより、製品製造時に一度位置P1,P2,P3および移動方向が反転したときの位置P4,P5,P6のデータと、出力信号の電圧V1,V2,V3および移動方向が反転したときの出力信号の電圧V4,V5,V6の保存を行うのみで、以降のデータ取得は不要となる。
【0125】
以上、所定の間隔で配置された複数のセンサー5をコントローラ6により切り替える方法およびセンサー5の出力信号からコントローラ6が磁石位置を算出する方法を記載したが、コントローラ6をリニアスケール内に実装することは必須ではなく、リニアスケールからは各センサー5の出力信号S1,S2,S3が直接出力され、外部に設けたコントローラ6により複数のセンサー5を切り替える場合でも、本発明の効果を奏することが可能である。
【0126】
<比較例>
リニアスケールの検出範囲を拡大する場合、最も単純な方法はリニアスケールを長尺化することである。ただし、この場合にはリニアスケールの外形寸法が本発明の実施例に比べ長尺化するとともに、磁石が大型化し、さらに測定精度が低下するという問題がある。
【0127】
以下に上記の問題が生じる理由を順次記載する。
【0128】
<リニアスケールを単純に長尺化すると外形寸法が長尺化する理由>
図9は各種のリニアスケールの構造を示す断面図である。図9の(a)は従来の検出範囲用の従来のリニアスケール、(b)は磁石を長尺化することにより検出範囲を、例えば、3倍としたリニアスケール、(c)は本発明の第1の実施形態により検出範囲を、例えば、3倍としたリニアスケールである。
【0129】
図9の(a)の従来のリニアスケールにおける磁石3の長さをW、検出範囲をLとすると、リニアスケールの全長は、ケース底面とカバーの厚さおよびスライダーの磁石より長い部分の長さの和をZとして
(W+L)+Z
である。
【0130】
図9の(b)の磁石を長尺化することにより検出範囲を3倍としたリニアスケールでは、検出範囲が3Lと拡大するとともに、長尺化した磁石10の長さは概ね3Wとなる。このためリニアスケールの長さは
3L+3W+Z=3(L+W)+Z
となり、従来の検出範囲用の従来のリニアスケールの略3倍となる。
【0131】
これに対し、図9の(c)の、本発明の第1の実施形態により検出範囲を3倍としたリニアスケールでは、検出範囲は3Lとなるが、磁石3の長さはWのままであるので、リニアスケールの全長は
W+3L+Z
となる。
【0132】
ところで磁石3の長さWは従来のリニアスケールの検出範囲Lより必ず大きいので、
W+3L=W+L+2L<W+W+2L=2W+2L=2(W+L)
である。従って本発明の実施例により検出範囲を3倍としたリニアスケールの全長は、
W+3L+Z<2(W+L)+Z
となり、従来の検出範囲用のリニアスケールの略2倍以下となる。
【0133】
これにより、本発明の第1の実施形態に係るリニアスケールでは、例えば、検出範囲を3倍にしても、リニアスケールの全長は2倍以下にしかならない。
【0134】
以上より、本発明の第1の実施形態に係るリニアスケールでは広い検出範囲でありながら全長を小型とすることが可能である。
【0135】
<リニアスケールを単純に長尺化すると磁石が大型化する理由>
図10は磁石を長尺化することにより検出範囲を、例えば、3倍としたリニアスケールのセンサー出力を示すグラフである。
【0136】
リニアスケールの検出範囲を3倍にするには磁石3の長さを3倍に長尺化すれば良いが、このとき磁石の厚さを通常検出範囲の場合と同じにすると磁石10の中央部付近に磁場強度の変化が少ない領域ができ、センサー5の出力は図10に破線S12で示すように長尺化した磁石10の中央部付近で変化の少ない範囲が発生する。このため、図10に実線S11で示すような、従来の検出範囲の3倍の検出範囲で直線性のよいセンサー5の出力特性を維持するには磁石の厚さも略3倍とする必要がある。
【0137】
従って、磁石の長尺化により検出範囲を、例えば、3倍とすると、使用する磁石の体積は略9倍となり、磁石が大きく重くなる。
【0138】
<リニアスケールを単純に長尺化すると測定精度が低下する理由>
【0139】
従来の検出範囲用の従来のリニアスケールのセンサー出力を、例えば、検出範囲をLとして10ビットのADコンバータでデジタルデータにすると、検出できる最小距離はL/1024となる。
【0140】
本発明の第1の実施形態の方式では、複数のセンサー5の出力信号は図10に一点鎖線で示す出力信号S1,S2,S3ように、複数のセンサー5が拡大された検出範囲を分割して担当し、それぞれのセンサー5の出力信号は通常の検出範囲L内で0V付近からVdd付近まで変化する。このため、それぞれのセンサー5の出力を、例えば、10ビットのADコンバータでデジタルデータにすると、検出できる最小距離はL/1024となり検出精度は従来の検出範囲用の従来のリニアスケールの検出精度と同一である。
【0141】
これに対し、直線性を維持しながら磁石を長尺化することにより検出範囲を、例えば、3倍としたリニアスケールのセンサー出力は、図10に実線S11で示すように、拡大された検出範囲3L内でセンサー出力が0V付近からVdd付近まで直線的に変化する。
【0142】
このためセンサー出力を、例えば、10ビットのADコンバータでデジタルデータにすると、検出できる最小距離は3L/1024となり、従来の検出範囲用の従来のリニアスケールと比べて測定精度が低下する。
【0143】
以上により、本発明によらない、長尺化することにより検出範囲を拡大したリニアスケールでは、小型化が困難で磁石の大型化が避けられず、測定精度も低下する。
【符号の説明】
【0144】
1 ケース(固定部)
1a フランジ部
1b 案内面
1c 基板取り付け面
2 スライダー(移動部材)
2a 検出部
2b 本体部
2c 腕部
2d 磁石保持部
2e 円板状の突起部
2f 後端突起部
3 磁石
4 カバー
4a 丸穴部
5 センサー(磁気検知器)
51 第1のセンサー
52 第2のセンサー
53 第3のセンサー
6 コントローラ(電子制御部)
7 基板
71 基板組立品
8 外部接続端子
9 圧縮バネ
10 長尺化した磁石
Vmax 上限値
Vmin 下限値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に設けられた案内面に沿って直線的に往復移動する移動部材と、
前記移動部材に保持され前記移動部材と共に移動する磁石と、
前記移動部材の移動方向に垂直な方向の前記磁石からの磁力線の強さを検知し前記磁力線の強さにより変化する出力信号を出力する前記固定部材に設置された磁気検知器と、
前記出力信号を受信する電子制御部と、を有する位置検出装置において、
前記磁石は前記移動部材の前記移動方向に異極となるように着磁されており、
前記磁気検知器は前記移動部材の前記移動方向に複数個配設されており、
前記複数個配置された磁気検知器の配置間隔は前記移動部材の前記移動方向の前記磁石の長さより短くされており、
前記電子制御部は、複数個の前記磁気検知器のうち有効な磁気検知器の前記出力信号から前記磁石の位置を算出するとともに、前記磁石が前記有効な磁気検知器の測定範囲外に移動すると前記磁石が移動した方向の隣接する次の磁気検知器を新たな有効な磁気検知器として選定することを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記電子制御部は、前記出力信号の所定の上限値と所定の下限値とをそれぞれ保持する記録部を有し、前記磁石が移動し前記有効な磁気検知器の前記出力信号が前記所定の上限値と前記下限値とから決められる範囲を超えると、前記磁石が前記有効な磁気検知器の測定範囲外に移動したと判定することを特徴とする、請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記複数の磁気検知器は、それぞれ測定可能範囲を有する第1の磁気検知器、第2の磁気検知器および第3の磁気検知器よりなり、
前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第1の磁気検知器側の端を前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端とし、前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第3の磁気検知器側の端を前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端としたとき、前記第1の磁気検知器は前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端の位置、または前記一方端より前記第2の磁気検知器に近い位置に配置され、前記第3の磁気検知器は前記第2の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端の位置、または前記他方端より前記第2の磁気検知器に近い位置に配置され、
前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第2の磁気検知器と反対側の端を前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端とし、前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の前記第2の磁気検知器と反対側の端を前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端としたとき、前記磁石の移動可能範囲は前記第1の磁気検知器の前記測定可能範囲の一方端から前記第3の磁気検知器の前記測定可能範囲の他方端までの範囲より狭く、
前記電子制御部は前記第1の磁気検知器および前記第3の磁気検知器の前記出力信号から前記有効な磁気検知器を選択することを特徴とする、請求項1に記載の位置検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−107929(P2012−107929A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255848(P2010−255848)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】