説明

低加速電圧X線顕微装置

【課題】軽元素から成る微小な試料に対しても充分な高分解能、高コントラストを得ることができ、in-situの状態で試料を観察することができるX線顕微装置を提供する。
【解決手段】電子銃の電子源からの電子線をX線ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段と、試料に照射されたX線の透過X線を撮像素子で撮像する撮像手段とを具備したX線顕微装置において、X線発生手段は波長0.1〜1.2nmの長波長の特性X線を発生し、X線ターゲットを真空封止するX線透過窓基材はベリリウムで成り、X線透過窓基材の厚さが10〜60μmであると共に、撮像手段の試料室が密封構成であり、試料室にガスを充填して試料の透過画像を撮像手段で得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を試料(被検査体)に照射して観察(若しくは検査)を行うX線顕微装置に関し、特に真空封止用のX線透過窓基材として10〜60μmの薄いベリリウム(Be)板材を用いると共に、X線発生部で0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線を発生させ、ヘリウム(He)ガス内で試料を観察するようにした低加速電圧駆動型のX線顕微装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は従来のX線顕微装置100の構造例を示しており、図9はX線発生手段としての開放型X線管110の内部構成例を示している。X線顕微装置100の上部には電子線を発生してX線ターゲット111に照射するX線管110が配設され、X線ターゲット111から放射されたX線がステージ機構101に載置若しくは保持された試料102を透過し、その透過X線が下方に配設された撮像手段としての撮像管103に取り込まれる。なお、試料102周りは外部へのX線漏洩を防ぐためのカバー(図示せず)が配置され、試料102は大気中に置かれる。また、X線像の幾何拡大倍率を稼ぐために、試料102はX線ターゲット111の近くに置かれ、適当に離れた位置に撮像管103が配置される。
【0003】
開放型X線管110では図9に示すように、内部を真空ポンプ(図示せず)により真空状態に排気し、電子源として電流加熱により熱電子を放出する熱電子放射陰極112を用い、熱電子放射陰極112とアノード114との間に40kV〜120kVの高電圧を印加することにより、熱電子放射陰極112から放射される電子Reを加速し、厚さ約250μmのベリリウム(Be)板材(X線透過窓基材)上に載置されたタングステン(W)で作成されたX線ターゲット111上に電子レンズ115により電子Reを集束させ、微小な点状X線源を得るようにしている。そして、X線ターゲット111上のX線源から発生する点状X線Rxを用いて、大気中で試料102の内部を拡大投影し、II(Image Intensifier)、CCD又はCMOS撮像素子で成る撮像管103で試料102内部の微細構造を非破壊で透視観察するようになっている。
【0004】
電子源としては熱電子放射陰極112の他に、電流加熱と強電界により電子を放出する熱電界放射陰極も同様に使用されている。
【0005】
このようなX線顕微装置において、X線ターゲット111に衝突した電子ReはX線Rxに変換されるが、その変換効率は1%以下と極めて低く、電子Reのエネルギーの殆どはX線ターゲット111で熱に変換される。ところで、X線は電荷を持たないため、電子のように電子レンズを用いて自由に曲げるということができない。そのため、大きな倍率を得るためには、試料102をX線ターゲット111の点状X線源にできるだけ近付け、試料102を透過して放射状に広がっていくX線Rxをできるだけ距離をおいて配置された撮像管103で取り込み、画像にする必要がある。理論上は、試料102と撮像管103との間の距離を大きくとればとるほど倍率は上がるが、実際には単位面積当たりのX線量は距離の2乗に逆比例して減衰するため、撮像管103の感度と拡大された像のX線量との兼ね合いによって倍率の上限が決まってくる。
【0006】
他方、試料102を透過したX線像の分解能については、X線源サイズ(焦点サイズ)が小さい方がボケ量が減って向上する。しかし、同じ熱電子放射陰極112を用いる場合、電子レンズ115で小さく集束するとX線源サイズを小さくできるが、それに含まれる電子線量がスポット径の2乗に逆比例して減少し、X線量もそれに応じて減少するので、最終的な分解能は撮像管103の感度との兼ね合いで決まり、ある限界を持っている。
【0007】
ところで、X線顕微装置では水素と酸素から成る水滴や水分の観察は、いずれも軽元素であり、X線の吸収が少ないために従来不可能と考えられて来た。そのため、従来のX線顕微装置では、例えば燃料電池内で生成される水の観察はほとんどできなかった。
【0008】
燃料電池内で生成される水の観察を説明すると、燃料電池内では発電時に水素(H)と酸素(O)が結合して水が生成される。この水が水素及び酸素の流れを妨げることによって、発電効率が大きく低下することが分かっている。しかし、どの部分からどのように水滴が発生し、成長していくのか、そのメカニズムは良く分かっていない。燃料電池内の水の生成メカニズムを解析することによって、燃料電池の性能向上に寄与することが期待されている。
【0009】
燃料電池内の水滴の観察に関する従来技術として、熱中性子線による放射線画像、或いは核磁気共鳴装置(MRI)による画像など、水分子中の水素を比較的検出し易いことを特徴とする観察方法によって観察はされているが、水滴発生の初期である10〜数10μmの極く小さなものの観察は不可能であり、現在100〜数100μmとかなり大きく成長したものしか観察されていないのが実情である。
【特許文献1】特開2005−221362号公報
【特許文献2】特開2003−207466号公報
【特許文献3】特許第4029209号公報
【非特許文献1】Kenji Oohashi, Keiji Yada, Kohei Shirota, Hiromi Kai, Yasushi Saito 「Low-Voltage Projection X-Ray Microscope for Inspection of Lighter Elements」 IMC 16 (Poster session:P7I_86, 2006.9.3〜9.8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在のX線顕微装置では、試料中の軽元素から成る微細構造に対して充分な画像コントラストを得ることができないため、その改善が強く望まれている。また、燃料電池の発電時には水素と酸素が結合して水が生成されるが、この水がどの部分からどのように発生し、成長していくのか、そのメカニズムを解明することが期待されているが、その要請に応え得るX線顕微装置は出現していない。
【0011】
また、従来ベリリウム製のX線透過窓基材の厚さは約250μmであり、その厚さでの窓基材部のX線の吸収は少なく、問題となることはなかった。一方、軽元素観察のために長波長X線を使用する場合は、ベリリウム製窓基材の吸収が無視できなくなるため、吸収を少なくするために更に薄くする必要がある。従来、このX線透過窓基材を更に薄くすることは、次のような理由で考えられなかった。即ち、ベリリウムは塩素等を含むガスによって腐食し易く、また、内部的な構造からピンホールができ易いため、薄くすると真空漏れを起こし易くなり、X線透過窓基材を極く薄くする試みはなされていない。
【0012】
本発明は上述のような事情によりなされたものであり、本発明の目的は、軽元素から成る微小な試料等に対しても充分な高分解能、高コントラストを得ることができ、in-situの状態で試料を観察することができる低加速電圧駆動型のX線顕微装置を提供することにある。
【0013】
また、X線顕微装置で観察するに適した構造の燃料電池を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電子銃の電子源からの電子線をX線ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段と、試料に照射された前記X線の透過X線を撮像素子で撮像する撮像手段とを具備したX線顕微装置に関し、本発明の上記目的は、前記電子線の加速電圧を6〜30kVとし、前記X線ターゲットを真空封止するX線透過窓基材がベリリウムで成り、前記X線透過窓基材の厚さが10〜60μmであると共に、前記撮像手段の試料室が密封構成であり、前記試料室にガスを充填して前記試料の透過画像を前記撮像手段で得ることにより、或いは前記X線発生手段は波長0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線を発生し、前記X線ターゲットを真空封止するX線透過窓基材がベリリウムで成り、前記X線透過窓基材の厚さが10〜60μmであると共に、前記撮像手段の試料室が密封構成であり、前記試料室にガスを充填して前記試料の透過画像を前記撮像手段で得ることにより達成される。
【0015】
また、本発明の上記目的は、前記ガスがヘリウムガスであることにより、或いは前記X線ターゲットがゲルマニウム、クロム、バナジウム又は金のいずれかで成っており、前記特性X線が前記ゲルマニウム、クロム又はバナジウムのKα線、前記金のMα線であることにより、或いは前記試料がステージ機構に載置若しくは保持され、前記ステージ機構により前記試料を移動、傾斜することにより立体観察が可能になっていることにより、より効果的に達成される。
【0016】
また、本発明はX線観察用燃料電池であり、燃料電池本体の表裏に複数の穴が開けられている金属カバーを層設され、前記金属カバーの外表面若しくは内表面にそれぞれ高分子膜又はベリリウム板が層設されており、或いは前記高分子膜が機械的強度を有し、長波長X線を透過し易い特性を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、波長0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線をX線ターゲット及びX線透過窓基材で成るX線発生部から発生させ、10μm〜60μm厚のベリリウム板材を真空封止用のX線透過窓基材として使用し、ヘリウムガス室内で試料の透過画像を撮像するようにしているので、軽元素物質の試料であっても高分解能、高コントラストで観察することができる。
【0018】
また、水素と酸素を電気化学反応させて電気を発生させる反応室内に水滴や水分が発生する様子、例えば燃料電池発電時の水滴発生のin-situ観察を、燃料電池本体の表裏に複数の穴が設けられた金属カバーを層設し、さらにその穴部を塞ぐように金属カバーの内表面若しくは外表面にベリリウム板又は高分子膜を層設することによって、高分解能、高コントラストで観察することができる。
【0019】
更に同様に、ヘリウムガス室内での観察であるため、有機材料や水分を含む生物試料等に対しても、高分解能、高コントラストで観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
X線顕微装置ではX線の長波長成分ほど空気中での吸収を受け易い性質があり、波長0.1nm以上の長波長X線は、窒素、酸素などから成る空気層を僅かな距離だけ通るだけでも大幅に減衰してしまう。しかしながら、点状X線源であるX線ターゲットから撮像素子までの試料室を真空にするか、若しくは不活性気体であるヘリウムガスで充填することにより、波長0.1nm以上の長波長X線の減衰を抑制することができる。
【0021】
また、試料中で炭素,酸素,窒素等の吸収を受けて生じる各元素成分に応じたコントラスト像は、空気中を進行中に長波長X線の成分ほど大きな吸収を受けるので、撮像素子に達したときは、長波長成分が失われた短波長成分を多く含んだ低コントラスト画像になってしまう。空気の代わりに真空又はX線吸収の少ないガスを用いるとX線の吸収が生じないので、試料のコントラスト像が劣化することなく撮像素子に伝達される。ヘリウムガスを充填された試料室内で観察するようにすれば、波長0.1nm以上の長波長X線を吸収し難く、真空に近い状態でX線を透過させることができる。真空下ではないので、試料の水分や有機物等の蒸発が起き難く、in-situ状態の観察が可能である。ヘリウムガスは軽いので、試料室内への封入操作が簡単であり、波長0.1〜1.2nm近傍の長波長X線は大気圧のヘリウムガスに対して殆ど吸収されない。
【0022】
図1は、X線ターゲットにクロム(Cr)を使用して発生する特性X線Cr−Kα線(波長0.229nm)が、大気を構成する主要ガス(窒素N、酸素O)及びヘリウムガスの1気圧雰囲気中において進行する距離と強度がどのように減衰するかを示す特性図である。この特性図からも、ヘリウムガスの試料室内への導入が極めて有効であることが分かる。
【0023】
一方、軽元素成分から構成される生物細胞(C,O,N)、水分(O)や有機物成分は短波長X線に対しては透過してしまうので、透明体と同じように振る舞い、像コントラストが付かないという性質を有することになるが、長波長X線に対しては吸収するので、元素の含有量に応じたコントラストの付いた画像が得られる。なお、炭素,酸素,窒素よりもX線吸収が小さいガスはヘリウムのみであり、他の不活性ガス(ネオン、アルゴン、キセノン等)は、炭素,酸素,窒素よりもX線吸収が大きく、本発明では使用することができない。
【0024】
燃料電池の発電時の内部水滴発生の様子を的確に観察したり、軽元素から成る物質(例えば生物試料)のX線像のコントラストを増加したり、画質を向上することがX線顕微装置に強く求められているが、クロムKα線(波長0.229nm)などの長波長の特性X線など、酸素に対して吸収係数の大きいX線を用いることによって、数10μmの水滴や水分の観察が可能であることが本発明者によって知見された。そのため、本発明に用いるX線観察可能な燃料電池では、燃料電池本体の表裏に複数の穴が設けられた金属ケースを層設すると共に、さらにその内側表面若しくは外側表面にそれぞれ薄い高分子膜又はベリリウム板を層設することによって、発電中の燃料電池内をX線が効率良く通るような構造にしている。燃料電池内は1気圧より僅かに高いことが望まれるため、燃料電池をX線観察のために真空中に置く場合は、燃料電池の内外圧差に高分子膜又はベリリウム板が耐える必要があるので高分子膜又はベリリウム板が厚くなり、そのために高分子膜又はベリリウム板中での長波長成分が大きな吸収を受けてしまう。その結果、長波長の特性X線を有効利用することができず、良い画像の撮像が望めなくなる。そのため、高分子膜又はベリリウム板は長波長の特性X線を充分透過し、しかも機械的強度を有する丈夫な薄い膜を用いることが重要である。
【0025】
一方、X線顕微装置の金属製筐体内部を真空とせずに、燃料電池内と同程度の圧力でヘリウムガスを封入することにより、燃料電池に層設した高分子膜又はベリリウム板に気圧差が加わらなくなるので、膜厚を薄くでき、長波長の特性X線の損失を最小にすることができる。
【0026】
X線ターゲットの材料の選択条件は下記条件となる。即ち、電子ビームが衝突して局所的に高温になるため融点温度が高いこと、真空中で使用するため蒸気圧が低いこと、X線ターゲットの熱を放熱する必要があるため熱伝導率が良いこと、電子による帯電を防止する必要があるため電気伝導率が良いこと、試料観察に適した波長λの特性X線を発生できることといった条件が必要であり、波長λ=0.1nm〜1.2nmの長波長に適したターゲット材及び特性X線の組み合わせは、下記表1の通りである。電子線の加速電圧に応じて、X線ターゲットで発生する特性X線と連続X線の波長スペクトルが変化するが、軽元素成分の観察では、加速電圧を発生させたい特性X線のエネルギー(eV)の2〜3倍の値にとると、コントラストの良い画像が得られた。
【0027】
【表1】

以上の理由により、本発明では低加速電圧(6〜30kV程度)によって波長0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線を発生して試料に照射すると共に、X線ターゲット及びX線透過窓基材で成るX線発生部、試料から撮像管(撮像素子)までの試料室を密封して不活性ガス(ヘリウムガス)で充填させ、試料の透過X線を撮像管で撮像する。試料室をヘリウムガスで充填することにより、波長0.1nm以上、1.2nm以下の長波長の特性X線を有効に用いることが可能となる。また、X線ターゲット材にクロム(Cr)を使用した実施例では、X線発生部の長波長成分の吸収を少なくするため、厚さが約60μmのベリリウム板材で成る真空封止用のX線透過窓基材に、クロムを約1.3μm厚さに真空蒸着して作成したものを使用する。そして、加速電圧を約15kVにすることにより、軽元素物質の試料、微小な生物、水であっても、高分解能、高コントラストに観察することができるようにしている。
【0028】
更に燃料電池の観察に対しては、X線観察用の穴を複数設けられた金属カバーを電池本体の表裏に層設すると共に、更にその内側表面に機械的な強度があり、長波長X線を透過する薄い高分子膜又はベリリウム板をそれぞれ層設した燃料電池構造とし、その燃料電池を試料室内のステージ機構に載置若しくは保持し、燃料電池内部に発生する10μm程度の極く初期の水滴や水分も観察できるようにしている。また、ステージ機構は載置若しくは保持した試料(燃料電池)を移動、旋回させることができ、立体的な観察が可能である。なお、高分子膜又はベリリウム板は金属カバーの各内側表面である必要はなく、各外側表面に層設することによっても同様の効果を得ることができる。
【0029】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0030】
図2は本発明に係るX線顕微装置の構成例を示す断面構造図であり、X線発生手段としての開放型X線管10と、X線管10から放射されるX線をステージ機構21上の試料(被検査体)22に照射して撮像するII、CCD、CMOS撮像素子等で成る撮像管23を具備した撮像手段20とで構成されている。開放型X線管10は図9で説明した開放型X線管110とほぼ同様な構成であり、印加電圧が6〜30kVの低電圧である点のみが異なっている。即ち、熱電子放射陰極(図示せず)又は熱電界放射陰極から放射される電子を低電圧印加のアノード(図示せず)で加速し、その電子を電子レンズ(図示せず)によりX線発生部16のX線ターゲット11に集束させ、微小な点状X線源を得る。発生するX線の波長成分は、連続X線成分と特性X線成分から成っており、前者は主にアノードへの印加電圧で決まり、後者はX線ターゲット板の元素の種類及びアノードへの印加電圧で決まる。
【0031】
また、撮像部20は密封性試料室を形成する金属製筐体24で構成され、金属製筐体24の上部の開口部には、X線ターゲット11及びX線透過窓基材14で成るX線発生部16が位置するようにX線管10に連結されている。試料室上方にはステージ機構21が設けられており、ステージ機構21上に試料22が載置若しくは保持され、X線ターゲット11の点状X線源から放射されるX線が、X線透過窓基材14を経て試料22に照射されるようになっている。試料22に照射されたX線は試料22の内部で吸収を受けて減衰し、吸収によるコントラスト像が拡大投影されて試料室下方の撮像管23で画像として撮像される。筐体24には、試料22をステージ機構21上に載置若しくは保持したり、交換するための試料交換扉25が設けられると共に、内部の試料22を外部から目視観察するための観察窓26が設けられており、更に内部を真空にするための真空ポンプ及び弁に連結された真空排気管27が設けられ、内部にヘリウムガスを導入するガス導入管28が弁を経て連結されている。
【0032】
図3はX線発生部16の構造例を一部断面構造で示しており、X線管10の底部のターゲットホルダ12に設けられている照射窓13を塞ぐようにして、ベリリウム製の厚さd2=10〜60μmのX線透過窓基材14及びクロム製のX線ターゲット11で成るX線発生部16が、ろう付け15(又は接着剤)によりターゲットホルダ12に装着されている。本例ではX線ターゲット11の径D2は約3mm、X線透過窓基材14の径D3は約4mmであり、照射窓13の径D1はX線透過窓基材14の厚さd2に依存させる構造となっている。
【0033】
X線発生部16の照射窓13のある面は真空であるのに対して、反対側の面は大気圧を受けるので、X線発生部16はこの気圧差によって生じる応力に耐える必要がある。そのために、X線透過窓基材14の厚さd2が薄いほど、径D1を小さくする必要がある。X線透過窓基材14の厚さが、例えば60μm厚のときに径D1=1.5mmφ以下、10μm厚のときに径D1=1.0mmφ以下が望ましい。
【0034】
ここで、本発明で使用するX線透過窓基材14について説明する。必要な特性として長波長X線の透過性が良く、X線管110内の真空と外気の大気圧差に耐える程度に機械的強度が強く、X線ターゲット11で発生する熱をX線管容器に伝達し、X線ターゲット11の温度を下げるように熱伝導性が高い必要がある。X線透過窓基材14の材料は、X線の透過率が高く、波長0.1nm〜1.2nmの長波長X線に対しても吸収が少ないベリリウムを使用する。汎用X線管では、主に製造コストの点からアルミニウム材、セラミックス材、ガラス材が用いられる場合もあるが、低加速電圧用のX線管ではベリリウム材が使われている。また、ベリリウム材の大きさは約250μm厚×約10mmφのものが使用されている。
【0035】
そして、本発明では、波長0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線に対するベリリウム内部(X線透過窓基材14)の吸収による減衰を少なくするため、X線透過窓基材14を従来よりも薄くする。図4は、波長0.1nmと1.0nmのX線のベリリウムの厚さに対する透過度を示す特性図であり、ベリリウム窓厚を10μmとすることで、波長1.0nmに対しても50%以上のX線透過が実現できる。また、ベリリウム厚の薄さに合わせてターゲットホルダ12の照射窓13の開口径D1を小さくして、大気圧が加わる面積を減らして、ベリリウム基材への応力を小さくするようにしている。また、ベリリウム材は大気中の腐食性ガス成分、例えば塩素成分による腐食を受けやすく、また内部構造上の欠陥のためにピンホールを生じやすい性質があり、これが顕在化すると、X線管内の真空度が低下して故障の原因となる。従って、本発明では、X線吸収による減衰強度とピンホール発生の兼ね合いから、厚さd2=10〜60μmのX線透過窓基材14を採用している。
【0036】
X線ターゲット11は、例えば次のように作成する。即ち、ベルジャー(釣鐘状のガラス容器)の中にベリリウム製X線透過窓基材の鏡面研磨面側と蒸着物を向き合わせて配置し、真空ポンプで空気を抜いて真空状態(10-3〜10-4 Pa)にする。次に、タングステンバスケット中に置いた蒸着物(顆粒状クロム)を抵抗加熱により溶融すると、霧状になって窓基材に付着する。蒸着厚さは蒸着物の質量、窓基材と蒸着物との間の距離、蒸着時間等によってコントロールする。最適な蒸着厚は元素によって異なるが、クロムの場合、厚さd1=1.3μmの場合、良好なコントラスト像が得られた。蒸着層の厚さは触針式表面形状測定器等を用いて測定できる。銅(Cu),タングステン(W),白金(Pt),チタン(Ti),バナジウム(V),タンタル(Ta)等の蒸着には、スパッタリング法も使用することができる。
【0037】
なお、ステージ機構21はモータを具備した駆動機構(図示せず)に連結されており、ステージ機構21上に載置若しくは保持された試料22を照射X線に対して移動、傾動させたり、必要に応じて回転させることができ、試料22を立体的にかつあらゆる方向から観察することができるようになっている。なお、立体観察には回転は必ずしも必要ではないが、回転があれば見やすい方向に調整しての観察が可能である。
【0038】
図5はステージ機構21の機構例を概略的に示しており、試料22をxy方向の水平方向に移動させるxyステージ21Aと、試料22を鉛直方向(z軸)に移動させて透視拡大倍率を変更するzステージ21Bと、試料22を視野内でX線ビーム回りに回転させる回転ステージ21Cと、試料22をX線ビーム軸に対して傾斜(θ)させる傾斜ステージ21Dとで構成された5軸駆動機構になっている。
【0039】
一方、図6は本発明のX線顕微装置で観察するために改造された燃料電池30の断面構造例を模式的に示しており、縦(厚さ)方向の倍率を横方向の5倍程度に拡大して示している。層状のサブストレート、触媒層、多孔質膜、電解質膜等で成る燃料電池本体31の表裏面には、それぞれX線像観察用の穴32A及び33Aが複数設けられた金属カバー32及び33が層設されており、その金属カバー32及び33の各内側表面には更に、機械的強度があり、X線を透過し易いポリイミドフィルム(例えばデュポン社のカプトン(登録商標))やポリエステルフィルムなどで成る高分子膜34及び35がそれぞれ層設されている。これにより、波長0.1nm〜1.2nmの長波長X線が穴32A及び33Aを通過すると共に、高分子膜34及び35を通過するので、燃料電池本体31から生じる水分を的確に観察することができる。高分子膜34及び35に代えて、ベリリウム板を用いるようにしても良い。
【0040】
また、図7は燃料電池30を立体的に観察する様子を示しており、ステージ機構21のxyステージ21Aで燃料電池30を水平移動(xy)させると共に、傾斜ステージ21Dによって燃料電池30を傾斜(θ)させることによって、任意位置での立体的な観察が可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】X線の減衰特性の一例を示す特性図である。
【図2】本発明に係るX線顕微装置の構成例を示す断面構造図である。
【図3】本発明に係るX線発生部の構造例を示す一部断面図である。
【図4】X線透過窓基材にベリリウムを用いた場合の長波長X線の減衰特性を示す図である。
【図5】ステージ機構の構成例を示す機構図である。
【図6】本発明の観察に用いる燃料電池の構造例を示す模式的断面図である。
【図7】燃料電池の観測例を説明するための図である。
【図8】従来の一般的なX線顕微装置の一例を示す断面構造図である。
【図9】開放型X線管の構成例を示す断面構造図である。
【符号の説明】
【0042】
10 開放型X線管
11 X線ターゲット
12 ターゲットホルダ
13 照射窓
14 X線透過窓基材
15 ろう付け
16 X線発生部
20 撮像手段
21 ステージ機構
22 試料
23 撮像管
24 金属製筐体
25 試料交換扉
26 観察窓
27 真空排気管
28 ガス導入管
30 燃料電池
31 燃料電池本体
32、33 金属カバー
34、35 高分子膜
100 X線顕微装置
101 ステージ機構
102 試料
103 撮像管
110 開放型X線管
111 X線ターゲット
112 熱電子放射陰極
113 グリッド
114 アノード
115 電子レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃の電子源からの電子線をX線ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段と、試料に照射された前記X線の透過X線を撮像素子で撮像する撮像手段とを具備したX線顕微装置において、前記電子線の加速電圧を6〜30kVとし、前記X線ターゲットを真空封止するX線透過窓基材がベリリウムで成り、前記X線透過窓基材の厚さが10〜60μmであると共に、前記撮像手段の試料室が密封構成であり、前記試料室にガスを充填して前記試料の透過画像を前記撮像手段で得ることを特徴とする低加速電圧X線顕微装置。
【請求項2】
電子銃の電子源からの電子線をX線ターゲットに当ててX線を発生させるX線発生手段と、試料に照射された前記X線の透過X線を撮像素子で撮像する撮像手段とを具備したX線顕微装置において、前記X線発生手段は波長0.1nm〜1.2nmの長波長の特性X線を発生し、前記X線ターゲットを真空封止するX線透過窓基材がベリリウムで成り、前記X線透過窓基材の厚さが10〜60μmであると共に、前記撮像手段の試料室が密封構成であり、前記試料室にガスを充填して前記試料の透過画像を前記撮像手段で得ることを特徴とする低加速電圧X線顕微装置。
【請求項3】
前記ガスがヘリウムガスである請求項1又は2に記載の低加速電圧X線顕微装置。
【請求項4】
前記X線ターゲットがゲルマニウム、クロム、バナジウム又は金のいずれかで成っており、前記特性X線が前記ゲルマニウム、クロム又はバナジウムのKα線、前記金のMα線である請求項1乃至3のいずれかに記載の低加速電圧X線顕微装置。
【請求項5】
前記試料がステージ機構に載置若しくは保持され、前記ステージ機構により前記試料を移動、傾斜することにより立体観察が可能になっている請求項1乃至4のいずれかに記載の低加速電圧X線顕微装置。
【請求項6】
燃料電池本体の表裏に複数の穴が開けられている金属カバーを層設され、前記金属カバーの外表面若しくは内表面にそれぞれベリリウム板又は高分子膜が層設されているX線観察用燃料電池。
【請求項7】
前記高分子膜が機械的強度を有し、長波長X線を透過し易い特性を有している請求項6に記載のX線観察用燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−210371(P2009−210371A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52874(P2008−52874)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所:社団法人 応用物理学会 発行日:平成19年9月4日 刊行物名:2007年(平成19年)秋季 第68回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第2分冊
【出願人】(000151601)株式会社東研 (18)
【Fターム(参考)】