説明

低圧蒸気タービンシステムおよび制御方法

【課題】負荷が遮断され、無負荷での運転に切り替わるときに、フラッシュバック振動の発生を抑制することができる低圧蒸気タービンシステムを提供することにある。
【解決手段】静翼3と動翼2とから構成される段落を複数有する低圧蒸気タービン1を有する低圧蒸気タービンシステム100であって、1つの段落の直前直後に給水加熱器8の給水加熱用蒸気の抽気孔6を有する場合において、低圧蒸気タービン1の負荷が遮断されて無負荷での運転に切り替わるときに、給水加熱器内8の温度を低減する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧蒸気タービンシステムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧蒸気タービンでは、無負荷時や低負荷時に復水器側からの蒸気の逆流により、動翼にランダム振動が発生することが知られている。この知見は低圧蒸気タービン動翼の設計に反映されている。ランダム振動については、非特許文献1や2に記載されている。
【0003】
【非特許文献1】ア・ヴェ・シェグリヤエフほか、池田監訳、永島訳、蒸気タービン理論と構造、三宝社、p340、 1982
【非特許文献2】M. Gloger 他 ADVANCED LP TURBINE BLADING; A RELIABLE AND HIGHLY EFFICIENT DESIGN PWR-VOL.18, STEAM TURBINE-GENERATOR DEVELOPMENTS FORTHE POWER GENERATION INDUSTRY, ASME 1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、効率向上のために低圧蒸気タービンが大型化しているが、本発明者等の検討によれば、低圧蒸気タービンが大型化した際のランダム振動については特別な配慮が必要であることが判明した。特に、低圧蒸気タービンから給水加熱器の給水加熱用の蒸気を抽気している場合、給水加熱器から低圧蒸気タービン内へのフラッシュバックによる振動(フラッシュバック振動)との重畳については特別に配慮する必要があることが判明した。
【0005】
本発明の目的は、低圧蒸気タービンが無負荷での運転に切り替わるとき等、供給される蒸気の流量が低減されるときに、フラッシュバック振動の発生を抑制することができる低圧蒸気タービンシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、静翼と動翼から構成される段落を複数有する低圧蒸気タービンシステムであって、1つの段落の直前直後に給水加熱器の給水加熱用蒸気の抽気孔を有する場合において、低圧蒸気タービンの負荷が遮断され、低圧蒸気タービンが無負荷での運転に切り替わるときに、給水加熱器内の温度を低減する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低圧蒸気タービンが無負荷での運転に切り替わるとき等、供給される蒸気の流量が低減されるときに、フラッシュバック振動の発生を抑制することができる低圧蒸気タービンシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を用いて詳細に説明する。
【0009】
先ず、本発明に至るまでの検討について説明する。
【0010】
従来、最終段の動翼の翼長が43インチ(約109cm)の低圧蒸気タービン(タービン回転速度1800rpm)では、ランダム振動(初負荷運転等の無負荷および低負荷時に発生する非定常流れによる流体加振力)の影響は、最終段(L−0段)とその前の段落(L−1段)と考えられ、これらの動翼はランダム振動の影響を加味して設計されている。しかし、最終段よりも2つ前の段落(L−2段)の動翼は、作りやすさ等の観点からテノンかしめ構造等の動翼構造が通常用いられている。
【0011】
しかし、本発明者等の検討によれば、最終段の動翼が52インチ(約132cm)以上の大型化した低圧蒸気タービン(タービン回転速度1800rpm)の場合、ランダム振動がL−2段まで及ぶことが判明した。低圧蒸気タービンがさらに大型化した場合には、3つ前の段落(L−3段)にもランダム振動が及ぶこともあり得ることが判明した。
【0012】
また、給水加熱器の給水加熱用として蒸気を低圧蒸気タービンから抽気しているが、負荷遮断時などの負荷急変時には、給水加熱器から低圧蒸気タービン内に熱水がフラッシュ(減圧沸騰)して逆流(フラッシュバック)することがある。すなわち、負荷遮断時などの負荷急変時には、低圧蒸気タービン内の圧力が急減し、低圧蒸気タービン内圧力と給水加熱器内圧力とが逆転(給水加熱器内圧力が低圧蒸気タービン内圧力より高くなる現象)し、蒸気の逆流が発生する。そして、給水加熱器内の圧力が更に低下し、給水加熱器内に残量している高温水がフラッシュ(減圧沸騰)し、タービンに音速に近い流速で流入する。この影響により、軸方向および周方向の不均一性が発生し、流体加振力(フラッシュバック振動)が発生する。
【0013】
このフラッシュバック振動は、抽気孔の場所に近い段落の動翼に対して影響が大きい。従来、L−1段の上流に抽気孔が設けられることが多かった。低圧蒸気タービンロータの軸長が短くなった等においては、L−2段の上流にも抽気孔が設けられることがある。
【0014】
本発明者等の検討によれば、これらのランダム振動とフラッシュバック振動が重畳することにより、大きな流体加振力が発生することが判明した。これを、図8を用いて説明する。
【0015】
図8は、フラッシュバック無およびフラッシュバック有のときの非定常流体力計算結果を示すものである。また、最終段の動翼が52インチ(約132cm)の低圧蒸気タービンで、低負荷(約5%負荷)のときの計算結果である。上図が流線、下図が流体力の時間変動を示す。左図はフラッシュバック無の結果であり、ランダム振動によるランダム流体加振力を示している。右図はフラッシュバック有の結果であり、ランダム流体加振力とフラッシュバック振動によるフラッシュバック流体加振力が重畳した場合の結果である。ランダム振動がL−2段まで及んでいることがわかる(渦がランダム振動を示す。L−0段の動翼根元側に大きな逆流域が、また先端部にも逆流域が見られ、L−2段の動翼根元側からL−1段を超えL−0段静翼にかけて大きな逆流域が見られる)。そして、ランダム流体加振力とフラッシュバック流体加振力の重畳により流体加振力が1.2ないし2.0倍(L−2段に対しては2.0倍)に増大していることがわかる。
【0016】
このフラッシュバック振動とランダム振動の重畳は、特に20%負荷遮断時に起こり得る。すなわち、20%負荷遮断時には、負荷遮断時に回転速度維持のために低負荷もしくは無負荷で運転される時間があり、このときに、ランダム振動が発生し、このランダム振動に負荷遮断によるフラッシュバック振動が重畳されることになる。
【0017】
従来、L−2段の動翼には大きな流体加振力が加わるとは考えられていなかったが、このように大きな流体加振力が加わり、また、動翼の構造上、流体加振力が加わった場合の影響は他の段落よりも大きい。したがって、低圧蒸気タービンが大型化し、抽気孔がL−2段のすぐ上流に設けられている場合には(L−2段のすぐ上流に抽気孔が設けられている場合には、L−2段のすぐ下流にも抽気孔が設けられている場合が多い)、L−2段の動翼の振動応力を低減させる手段が必要である。振動応力を低減させるには、動翼の構造を高減衰構造にするか、または、大きな流体加振力が加わらないように、すなわち、フラッシュバック振動とランダム振動との重畳を避けるようにすることが考えられる。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。以下に本発明の実施形態を説明する。
《第1の実施形態》
【0018】
図1は、第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。図1に示すように、低圧蒸気タービンシステム100は、低圧蒸気タービン1、復水器7、給水加熱器8(8a、8b)、圧力変動検出器9、蒸気流量調整弁10、復水ポンプ11(11a、11b)、抽気配管15、制御装置16、蒸気バイパス配管17、蒸気開閉弁17aを主要部として構成されている。また、低圧蒸気タービン1は、動翼2、静翼3、ロータ4、ケーシング5を主要部として構成され、抽気孔6がケーシング5に設けられている。
【0019】
図1に示すように、高圧蒸気タービン13から排気された蒸気は、湿分分離(加熱)器(図示省略)を通り、蒸気流量調整弁(蒸気流量制御手段)10を介して低圧蒸気タービン1に導入され、ロータ4に固定された動翼2とケーシング5に固定された静翼3の間を交互に通りながら膨張し、ロータ4を回転させる。ロータ4は高圧蒸気タービン13のロータと同一軸で構成されている。なお、低圧蒸気タービン1に導入される蒸気流量は、蒸気流量調整弁10によって調整される。そして、蒸気流量調整弁10を制御するために制御装置(弁制御装置)16が備わっている。低圧蒸気タービン1から排気された蒸気は、復水器7で凝縮されて水(給水)となった後、並設される2つの復水ポンプ(送水ポンプ)11a、11bで給水加熱器8に送り込まれ、給水加熱器8で加熱される。給水加熱器8で加熱された給水は、更に他の給水加熱器(図示省略)や高圧給水ポンプ(図示省略)などを経由して蒸気発生器14に導入される。そして、給水加熱器8での給水加熱用に、抽気孔6から蒸気が抽気され、抽気配管15を介して給水加熱器8に導入されている。
【0020】
なお、給水加熱器8(8a、8b)の加熱用蒸気を低圧蒸気タービン1から抽気する抽気孔6は、低圧蒸気タービン1において静翼3と動翼2とから構成される1つ段落の直前直後に2つ配置されるものとする。この抽気孔6の配置は、給水加熱器8(8a、8b)で要求される蒸気圧力と温度によって決められる。1つの段落の直前直後に2つ抽気孔6が配置される構成となっている場合が動翼2へのフラッシュバック振動の影響が大きく、このような配置構成において本発明の構成を適用することによる効果が大きい。第1の実施形態において、抽気孔6は、最終段よりも2つ前の段落(L−2段)の直前直後に配置されるものとする。また、給水加熱器8は、上流側に配置される給水加熱器を8a、下流側に配置される給水加熱器を8bとする。
【0021】
制御装置16は、各種演算をするためのCPU(Central Processing Unit )16a、制御装置16を動作するプログラムや各種データ等が記憶されている記憶部16b、蒸気流量調整弁10と信号線で接続して、蒸気流量調整弁10に制御信号を送信したりする外部インターフェース部16c等で構成されている。そして、第1の実施形態において、制御装置16がポンプ制御装置と弁制御装置とに相当する。また、制御装置(弁制御装置)16と蒸気流量調整弁10とが蒸気流量制御手段に相当する。さらに、制御装置(ポンプ制御装置)16と復水ポンプ(送水ポンプ)11a、11bとが加熱器温度制御手段に相当する。
【0022】
また、図1に示すように、抽気孔6には圧力変動検出器9が設置されている。圧力変動検出器9は、信号線で制御装置16の外部インターフェース部16cと接続されていて、検出した圧力を制御装置16に通知する機能を有する。
【0023】
さらに、高圧蒸気タービン13から出力された蒸気を、直接復水器7に導入する蒸気バイパス配管17が設けられていて、蒸気バイパス配管17には蒸気開閉弁17aが備わる。蒸気開閉弁17aは、定常時は閉じられている弁である。高圧蒸気タービン13から排気される蒸気は、蒸気開閉弁17aが閉じているときは、他の給水加熱器(高圧給水加熱器、図示省略)や給水ポンプ駆動用蒸気タービン(図示省略)にも導入されるが、これらの蒸気や湿分分離(加熱)器(図示省略)での湿分と少量の蒸気の減少を除いて全て低圧蒸気タービン1に導入される。なお、蒸気開閉弁17aは信号線で制御装置16の外部インターフェース部16cと接続され、制御装置16からの制御で開閉動作する。
【0024】
また、併設される2つの復水ポンプ11a、11bは、ポンプ制御装置として機能する制御装置16の外部インターフェース部16cと信号線で接続される。そして、制御装置16から、復水ポンプ11a、11bに指令を与えて、動作を制御する構成とする。また、制御装置16が復水ポンプ11a,11bの送水量を調整することで、給水加熱器8内の温度を調整することから、制御装置16および、復水ポンプ11a,11bが加熱器温度制御手段として機能する。
【0025】
ロータ軸4には、ロータ軸4によって駆動される発電機Gが負荷として接続される。発電機Gで発電された電力は、負荷遮断機構12を介して電力系統へ送電される。例えば何らかの異常が発生したときには、電力系統と発電機Gとを切り離すこと(以下、負荷遮断と称する)が可能である。さらに、負荷遮断機構12は、負荷遮断したときに負荷遮断信号を出力する機能を有する。そして、負荷遮断機構12は制御装置16の外部インターフェース部16cと信号線で接続され、負荷遮断信号を制御装置16に入力する。なお、制御装置16が負荷遮断を検出する手段は特に限定されるものではない。
【0026】
以上のように構成される低圧蒸気タービンシステム100は、制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されて、制御装置16が、低圧蒸気タービン1が無負荷になったことを検出すると、制御装置16によって以下のように制御される。
【0027】
図2は、制御装置に、負荷遮断機構から負荷遮断信号が入力されたときの、制御装置による第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムの制御を示すフローチャートである。制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されると(S1)、制御装置16は、蒸気流量調整弁10の開度を調整する(S2:負荷遮断時に、弁制御装置が、低圧蒸気タービンに外部から供給される蒸気の流量を低減するように、蒸気流量調整弁に指令を与えるステップ)。蒸気バイパス配管17の容量(例えば30%負荷相当の蒸気流量)以下での負荷遮断(例えば、20%負荷運転時の負荷遮断)の場合には、低圧蒸気タービン1の回転を停止させず定格回転数を維持するために少量(例えば定格の約5%以下)の蒸気が供給されるように蒸気流量調整弁10が制御される。このとき、制御装置16は、蒸気開閉弁17aに制御信号を送信して蒸気開閉弁17aを開いて(S3)、高圧蒸気タービン13から出力される蒸気を、蒸気バイパス配管17を経由して復水器7に導入する。このとき、復水器7が生成する給水の温度は多少上昇するが、給水加熱器8を冷却するのに支障の無い温度である。また、蒸気バイパス配管17の容量を超える負荷遮断(例えば、50%負荷遮断)では、低圧蒸気タービン1の回転を停止させるので、蒸気流量調整弁10が全閉される。前記のように、L―2段へのランダム振動とフラッシュバック振動の重畳は、20%負荷遮断のときに発生するので、20%負荷遮断の際に後記の本発明の制御が適用される。フラッシュバック自体を抑制するためであれば、50%、75%、100%の各負荷遮断の際にも同様の制御を適用しても良い。
【0028】
制御装置16は内部タイマーに所定の時間に設定して(S4:負荷遮断時に、ポンプ制御装置が所定の時間を設定するステップ)、所定の時間が経過するまで待機する(S5→No)。所定の時間が経過したら(S5→Yes)、制御装置16は復水ポンプ11aに制御信号を送信して復水ポンプ11aを停止する(S6:所定の時間が経過したときに、ポンプ制御装置が、給水加熱器を流通する給水の流量を低減させるように送水ポンプに指令を与えるステップ)。復水ポンプ11aが停止すると、復水ポンプ11bの吐出量のみに低減されるため、復水器7から給水加熱器8に送られる給水の量が低減する。なお、S6において、制御装置16は制御信号を復水ポンプ11aに送信して復水ポンプ11aを停止したが、これは復水ポンプ11bでもよい。また、S5において、低圧蒸気タービン1内の蒸気流量が低減してから、フラッシュバックの発生しやすい所定の時間が経過するまでは、給水によって給水加熱器8が冷却される。これによって、給水加熱器8においてフラッシュバックの発生が防止・抑制される。
【0029】
ここで、負荷遮断機構12が負荷遮断する前の低圧蒸気タービン1の負荷と、フラッシュバックが発生しない(若しくは振動に影響がない程度のフラッシュバックに抑制する)ために、負荷遮断された後に復水ポンプ11aを停止するまでに必要な遅れ時間をあらかじめ計測(若しくは計算)しておく。そして、例えば制御装置16に備わる記憶部16bに、計測された遅れ時間を、遅れ時間データとして記憶しておけばよい。制御装置16は、S4において内部タイマーに所定の時間を設定するときに、記憶部16bに記憶された前記の遅れ時間データを参照して、負荷遮断された後に復水ポンプ11aを停止するまでに必要な遅れ時間を、所定の時間として設定することができる。
【0030】
図3は復水ポンプの運転の切り替えのロジックを示すブロック図である。図3において、制御装置16が復水ポンプを2台運転するか1台運転するかを指示する給水ポンプ運転指令値は、負荷遮断機構12からの負荷遮断信号の入力と、相関関係31に基づいて設定される遅れ時間の設定という2つの要素から決定されることを示している。
【0031】
定常状態において、低圧蒸気タービンシステム100は、2台の復水ポンプによる2台運転をしている。そして、制御装置16に、負荷遮断機構12から、負荷遮断信号が入力されると復水ポンプ11を1台運転するように、プログラムによる仮想スイッチ30で切り替える(すなわち、1台の復水ポンプ11aを停止する)制御をする。第1の実施形態においては、あらかじめ、負荷遮断機構12が負荷遮断する前の低圧蒸気タービン1の負荷と、フラッシュバックが発生しないために、負荷遮断された後に復水ポンプ11aを停止するまでに必要な遅れ時間との相関関係31を計測しておく。そして、制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されると、制御装置16は、所定の時間として、相関関係に基づいた遅れ時間を設定する。そして、設定された所定の時間(遅れ時間)が経過した後に、1台運転に切り替える制御をする。
【0032】
以上のように、第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム100においては、制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されてから、所定の時間経過後に復水ポンプ11aを停止することを特徴とする。このように、制御装置16に負荷遮断信号が入力されてから、所定の時間が経過するまで2台の復水ポンプ11a、11bを作動することで、定常運転時と同量の、低温の給水を給水加熱器8に供給することができ、給水加熱器8内の温度が低下する。
【0033】
図4は、給水加熱器内部の状態を示す状態線図である。給水加熱器8の内部では、図4に実線で示される飽和線より下の部分にあっては液体としての水が存在し、飽和線より上の部分にあっては、水は蒸発して蒸気として存在する。そして、定常状態において、給水加熱器8内部は図4に破線で示す遷移線に沿った状態にある。
【0034】
例えば、20%負荷遮断時には、低圧蒸気タービン1への蒸気の供給量を定格の約5%以下にまで急閉するため、低圧蒸気タービン1内部の圧力が急減する。そのため、給水加熱器8内の蒸気が、抽気孔6を介して低圧蒸気タービン1内に逆流して給水加熱器8内の圧力が低下するため、エントロピーが増大する。そして、図4に示す遷移線と飽和線との交点であるフラッシング発生点(冷却前)αで、給水加熱器8内に残量している高温水が一気に沸騰して、フラッシュ(減圧沸騰)が発生する。
【0035】
ここで、冷却によって給水加熱器8内の温度が低下すると、フラッシング発生点(冷却前)αは図4に示す矢印の方向に移動して、飽和線より下の部分に移動する。そして、フラッシング発生点(冷却後)βに至るまで、マージンを有するようになる。このため、給水加熱器8内の圧力が低下してエントロピーが増大しても、図4に示す遷移線と飽和線との交点であるフラッシング発生点(冷却後)βに到達しにくくなり、フラッシュの発生を抑えられる。すなわち、給水加熱器8内部の温度を低下することで、フラッシュの発生を抑えられ、フラッシュバック振動の発生を抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0036】
また、負荷遮断時には、一般的に、一時的に定格回転数よりも高回転(オーバースピード)になるが、低圧蒸気タービン1内の蒸気の一部は、常に抽気孔6から抽気され給水加熱器8に導入されるため低圧蒸気タービン1の抽気孔6以降の段落へ流入する蒸気流量が低減し、ロータ4を回転させる力が低減するため、オーバースピードの抑制効果が期待できる。また、フラッシュバックを抑制することによってこの抑制効果が更に高まることが期待できる。
【0037】
さらに、第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム100は、従来の低圧蒸気タービンシステムと同等の構成要素で実現可能であって、新たな構成要素の追加は必要ないという、優れた効果を奏する。
【0038】
《第2の実施形態》
図5は、第2の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム100と同じ構成要素については、同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム200においては、給水加熱器8bで加熱された給水を、復水器7に戻す(給水加熱器の入口側に戻す)分岐配管18を有することを特徴とする。さらに、分岐配管18には、戻し弁18aが備わっている。戻し弁18aは、定常時は閉じられている弁であって、給水加熱器8bから流出する給水は、すべて蒸気発生器14に導入される。なお、戻し弁18aは、制御装置16の外部インターフェース部16cと信号線で接続され、制御装置16からの制御信号で開閉が制御される。ここで、第2の実施形態においては、制御装置16が戻し弁制御装置に相当し、分岐配管18が戻し手段に相当する。そして、制御装置(戻し弁制御装置)16と分岐配管(戻し手段)18と戻し弁18aとが加熱器温度制御手段に相当する。
【0039】
以上のように構成される低圧蒸気タービンシステム200は、制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されて、低圧蒸気タービン1が無負荷になったことを検出すると、制御装置16によって以下のように制御される。
【0040】
図6は、制御装置に、負荷遮断機構から負荷遮断信号が入力されたときの、制御装置による第2の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムの制御を示すフローチャートである。制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されると(S11)、制御装置16は、第1の実施形態と同じように、蒸気流量調整弁10の開度を調整する(S12:負荷遮断時に、弁制御装置が、低圧蒸気タービンに外部から供給される蒸気の流量を低減するように、蒸気流量調整弁に指令を与えるステップ)。さらに、制御装置16は、蒸気開閉弁17aに制御信号を送信して蒸気開閉弁17aを開いて(S13)、高圧蒸気タービン13から出力される蒸気を、蒸気バイパス配管17を経由して復水器7に導入するとともに、戻し弁18aに制御信号を送信して戻し弁18aを開く(S14:負荷遮断時に、戻し弁制御装置が、戻し手段を介して給水加熱器から流出する給水を給水加熱器の入口側に戻すように戻し弁に指令を与えるステップ)。
【0041】
さらに、制御装置16は、復水ポンプ11aに制御信号を送信して復水ポンプ11aを停止し(S15)、復水器7から給水加熱器8に送られる給水の量を低減する。なお、S15において、制御装置16は制御信号を復水ポンプ11aに送信して復水ポンプ11aを停止したが、これは復水ポンプ11bでもよい。
【0042】
そして、制御装置16は内部タイマーに所定の時間を設定して(S16:負荷遮断時に、戻し弁制御装置が、所定の時間を設定するステップ)、所定の時間が経過するまで待機する(S17→No)。所定の時間が経過したら(S17→Yes)、制御装置16は戻し弁18aに制御信号を送信して戻し弁18aを閉じる(S18:所定の時間が経過したときに、戻し弁制御装置が、戻し手段を介して給水加熱器の入口側に給水が戻ることを停止するように戻し弁に指令を与えるステップ)。
【0043】
ここで、図7に示すように、給水加熱器8b内に導入する給水の流量をGin、給水加熱器8bから流出して、蒸気発生器14(図5参照)に導入する給水の流量をG1out、給水加熱器8bから流出して、分岐配管18を介して復水器7(図5参照)に導入される給水の流量をG2outとする。さらに、給水加熱器8b内で給水が流れる配管の容積をVとすると、戻し弁18aを開いたときの、給水加熱器8b内で給水が流れる配管内の圧力変動ΔP(給水加熱器8bへの給水の入口と出口との圧力差)は、式1で表される。
【数1】

【0044】
そして、式1におけるΔPが0になるまで(給水加熱器8への給水の入口と出口との圧力差が無くなるまで)は、給水加熱器8b内で給水の流量が増加する。したがって、式1におけるGin、G1out、G2out、およびVと、戻し弁18aを開いてからΔPが0になるまでの時間と、の関係を予め計測(若しくは計算)しておいて、例えば制御装置16に備わる記憶部16bに、弁開放時間データとして記憶しておけばよい。制御装置16は、S16において内部タイマーに所定の時間を弁の開放時間として設定するときに、記憶部16bに記憶された前記の弁開放時間データを参照して、所定の時間を設定することができる。
【0045】
または、給水加熱器8bへの給水の入口と出口との圧力を、図示しない圧力計で測定して、測定結果を制御装置16に入力するように構成し、制御装置16は、給水加熱器8bへの給水の入口と出口との圧力差が0になった時点で戻し弁18aを閉じる構成にしてもよい。
【0046】
以上のように、制御装置16が戻し弁18aを開くと、給水加熱器8bから流出する給水の流量が増加するため、給水加熱器8bの内部を流れる給水の流量も増加し、給水加熱器8b内の温度が下がる。さらに、給水加熱器8bは給水加熱器8aと直列に接続されているため、給水加熱器8bを流れる給水の流量が増えると、給水加熱器8aを流れる給水の流量も増えることになり、給水加熱器8a内の温度も下がる。したがって、第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム100と同等の効果を奏する。
【0047】
そして、第2の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステム200は、戻し弁18aの開閉のみという、非常に簡単な制御で、給水加熱器8a、8b内の温度を下げることができるという、優れた効果を奏する。
【0048】
なお、第1の実施形態と第2の実施形態とを同時に実施する形態も考えられる。制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されたとき、制御装置16は、復水ポンプ11aを停止することなく、戻し弁18aを開く。そして、所定の時間が経過した後に、制御装置16は、復水ポンプ11aを停止するとともに、戻し弁18aを閉じる形態である(図5参照)。このように、第1の実施形態と第2の実施形態とを同時に実施する形態によって、更に効果的に給水加熱器8a、8b内の温度を下げることができるという、優れた効果を奏する。
【0049】
以上のように、本発明にかかる低圧蒸気タービンシステムは、低圧蒸気タービンの負荷が遮断されて、低圧蒸気タービンが無負荷での運転となったときに、逆止弁などを設けることなく、給水加熱器内を流れる給水の流量を増やすことで給水加熱器内の温度下げて給水加熱器内の圧力を低減し、フラッシュバックを防止することができる。そして、低圧蒸気タービンにおけるフラッシュバック振動の発生を抑制することができるという、優れた効果を奏する。
【0050】
なお、本発明においては、給水加熱器内部に流れる給水の量を増加することで給水加熱器の温度を低減する構成としたが、例えば給水加熱器内部に直接冷却水を導入する構造であっても、本発明と同等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。
【図2】第1の実施形態における制御装置による低圧蒸気タービンシステムの制御を示すフローチャートである。
【図3】復水ポンプの運転の切り替えのロジックを示すブロック図である。
【図4】給水加熱器内部の状態線図である。
【図5】第2の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。
【図6】第2の実施形態における制御装置による低圧蒸気タービンシステムの制御を示すフローチャートである。
【図7】給水加熱器へ給水が流入する態様を示す図である。
【図8】フラッシュバック無およびフラッシュバック有のときの非定常流体力計算結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 低圧蒸気タービン
2 動翼
3 静翼
6 抽気孔
7 復水器
8 給水加熱器
9 圧力変動検出器
10 蒸気流量調整弁
11a、11b 復水ポンプ
12 負荷遮断機構
15 抽気配管
16 制御装置
17 蒸気バイパス配管
17a 蒸気開閉弁
18 分岐配管
18a 戻し弁
100、200 低圧蒸気タービンシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静翼と動翼とから構成される段落を複数有し、外部から供給される蒸気によって駆動される低圧蒸気タービンと、
前記低圧蒸気タービンから排出される前記蒸気を凝縮して給水を生成する復水器と、
前記生成される給水を加熱する給水加熱器と、を含んで構成され、
前記低圧蒸気タービンは、前記給水加熱器の熱源となる給水加熱用蒸気を抽気する抽気孔を、前記複数の段落の中の少なくとも1つの段落の直前直後に有し、
前記低圧蒸気タービン内を流れる蒸気の一部が前記抽気孔を介して、前記給水加熱用蒸気として前記給水加熱器に導入される構造を有する低圧蒸気タービンシステムであって、
負荷遮断時に、前記低圧蒸気タービンに外部から供給される蒸気の流量を調整する蒸気流量制御手段と、前記給水加熱器内の温度を低減させる加熱器温度制御手段と、を有することを特徴とする低圧蒸気タービンシステム。
【請求項2】
前記加熱器温度制御手段は、前記復水器の下流側に設けられて、前記生成した給水を送水する送水ポンプと、前記送水ポンプに指令を与えるポンプ制御装置とを含んで構成され、
前記負荷遮断時に、前記ポンプ制御装置は、前記送水ポンプに指令を与えて前記給水加熱気を流通する給水の流量を低減させない制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の低圧蒸気タービンシステム。
【請求項3】
前記加熱器温度制御手段は、前記給水加熱器から流出する前記給水を前記復水器に戻すための戻し手段と、前記戻し手段に備わっていて前記復水器に前記給水を戻す戻し弁と、前記戻し弁に指令を与える戻し弁制御装置と、を含んで構成され、
前記負荷遮断時に、前記戻し弁制御装置は、前記戻し弁に指令を与えて前記給水加熱器から流出する給水を前記復水器に戻すような制御を行うことを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の低圧蒸気タービンシステム。
【請求項4】
静翼と動翼とから構成される段落を複数有し、外部から供給される蒸気によって駆動される低圧蒸気タービンと、
前記低圧蒸気タービンから排出される前記蒸気を凝縮して給水を生成する復水器と、
前記生成される給水を加熱する給水加熱器と、
前記低圧蒸気タービンに供給される前記蒸気の流量を調整する蒸気流量調整弁及び前記蒸気流量調整弁に指令を与える弁制御装置を含んでなる蒸気流量制御手段と、
前記給水を前記給水加熱器に送水する送水ポンプ及び前記送水ポンプに指令を与えるポンプ制御装置を含んでなる加熱器温度制御手段と、を含んで構成され、
前記低圧蒸気タービンは、前記給水加熱器の熱源となる給水加熱用蒸気を抽気する抽気孔を、前記複数の段落の中の少なくとも1つの段落の直前直後に有し、
前記低圧蒸気タービン内を流れる蒸気の一部が前記抽気孔を介して、前記給水加熱用蒸気として前記給水加熱器に導入される構造を有する低圧蒸気タービンシステムにおいて、
負荷遮断時に、前記給水加熱器内の温度を低減させる低圧蒸気タービンシステムの制御方法であって、
負荷遮断時に、前記弁制御装置が、前記低圧蒸気タービンに外部から供給される前記蒸気の流量を低減するように、前記蒸気流量調整弁に指令を与えるステップと、
負荷遮断時に、前記ポンプ制御装置が所定の時間を設定するステップと、
前記所定の時間が経過したときに、前記ポンプ制御装置が、前記給水加熱気を流通する給水の流量を低減させるように前記送水ポンプに指令を与えるステップと、を有することを特徴とする低圧蒸気タービンシステムの制御方法。
【請求項5】
静翼と動翼とから構成される段落を複数有し、外部から供給される蒸気によって駆動される低圧蒸気タービンと、
前記低圧蒸気タービンから排出される前記蒸気を凝縮して給水を生成する復水器と、
前記生成される給水を加熱する給水加熱器と、
前記低圧蒸気タービンに供給される前記蒸気の流量を調整する蒸気流量調整弁及び前記蒸気流量調整弁に指令を与える弁制御装置を含んでなる蒸気流量制御手段と、
前記給水加熱器から流出する給水を当該給水加熱器の入口側に戻す戻し手段、戻し弁、及び前記戻し弁に指令を与える戻し弁制御装置を含んでなる加熱器温度制御手段と、を含んで構成され、
前記低圧蒸気タービンは、前記給水加熱器の熱源となる給水加熱用蒸気を抽気する抽気孔を、前記複数の段落の中の少なくとも1つの段落の直前直後に有し、
前記低圧蒸気タービン内を流れる蒸気の一部が前記抽気孔を介して、前記給水加熱用蒸気として前記給水加熱器に導入される構造を有する低圧蒸気タービンシステムにおいて、
負荷遮断時に、前記給水加熱器内の温度を低減させる低圧蒸気タービンシステムの制御方法であって、
負荷遮断時に、前記弁制御装置が、前記低圧蒸気タービンに外部から供給される前記蒸気の流量を低減するように、前記蒸気流量調整弁に指令を与えるステップと、
負荷遮断時に、前記戻し弁制御装置が、前記戻し手段を介して前記給水加熱器から流出する前記給水を前記給水加熱器の入口側に戻すように前記戻し弁に指令を与えるステップと、
負荷遮断時に、前記戻し弁制御装置が、所定の時間を設定するステップと、
前記所定の時間が経過したときに、前記戻し弁制御装置が、前記戻し手段を介して前記給水加熱器の入口側に前記給水が戻ることを停止するように前記戻し弁に指令を与えるステップと、を有することを特徴とする低圧蒸気タービンシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−75526(P2008−75526A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255071(P2006−255071)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】