説明

作業用移動ロボット

【課題】 移動部の高精度の位置決め精度を必要とせず、把持対象物に自力で接近でき、かつ把持対象物の位置姿勢を修正して確実に対象物の把持ができる作業用移動ロボットを得る。
【解決手段】 本発明の作業用移動ロボットは、対象物位置姿勢取得部11と、移動部12と、マニピュレーション部13と、制御部とを備え、マニピュレーション部13の動作に伴って変化する外界情報を取得する外界情報検出部14と、作業対象の物体を探索する対象物探索部15と、マニピュレーション部13を用いて把持動作可能な範囲を判断する把持範囲判断部16と、移動部12の移動手順を生成する移動手順生成部17と、マニピュレーション部13の把持動作手順を生成する把持動作生成部18とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体が自律的に自在に移動し、搭載したマニピュレータによって作業を実行する作業用移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業用移動ロボットとして、作業対象の物体にマーカを備えることで、ビジョンによる物体の位置姿勢を高精度に計測する技術を利用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
図11は、従来の作業用移動ロボットを示す側面図である。図11において、1101は移動ロボット1110の無人車、1102は無人車1101に搭載されたハンドリングロボットである。1103はロボット1102のアーム、1104はロボット1102のハンドリング駆動部、1105は視覚センサであって、ハンドリング駆動部1104に固定されており、視覚センサ1105が送出する画像信号は画像処理装置1106に入力される。Wは作業対象の四角形のワークであり、その角隅部にマークM1とM2を付している。移動ロボット1110は行き先(作業位置)を指定され、作業位置に向かって走行する。移動ロボット1110が作業位置へ停止すると、視覚センサ1105の撮像を開始させ、先ず、マークM1を撮像させる。移動ロボット1110の停止位置がずれていない場合は、マークM1は視覚センサ1105の視野中心に映るが、移動ロボット1110の停止位置がずれている場合には、マークM1は視覚センサ1105の視野中心からずれた位置に映ることになる。次に、ロボット制御装置1112はロボットアーム1103を所定距離だけ所定向きに移動させる。この所定距離はマークM1とM2間の距離であって、ロボット制御装置1112に予め設定されており、ワークWの搬入姿勢と位置も一定であるので、移動する向きもロボット制御装置1112に予め設定されている。この位置決めが終わると、視覚センサ1105によるマークM2の撮像が開始され、画像処理装置1106によってM1およびM2の重心位置情報からワークの位置を特定する。移動ロボット1110の停止位置がずれている場合は、ロボット制御装置1112はこのワークの位置を用いて位置修正を行ったのちハンドリング作業を行う。
このようにワークの表面に少なくとも2ヶ所にマークを付し、それぞれのマークを視覚センサで撮像し、2つのマークの重心位置を画像処理で求めることでワークの位置を検出している。
【特許文献1】特開平3−166072号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の作業用移動ロボットは、無人車(移動部)が行き先(作業位置)へ高精度で位置決めできなければ視覚センサがマークを撮像することができないため、作業対象のワーク位置姿勢情報が得られず、ワークをハンドリングできないという問題があった。また、ワークの位置姿勢情報が得られた場合においても対象ワークがアーム(マニピュレータ)の可動範囲外に位置する場合もワークをハンドリングできないという問題や、更に、視覚センサが撮像する際に外乱光も同時に撮像するなどの場合、ワークの位置姿勢情報に誤差を生じることがあるが、このような誤差を含んだ位置姿勢情報を用いてワークを把持するとアームがワークと接触し、ハンドリングが不能になるばかりではなく、対象物またはアーム自体を破損するといった問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、高精度の移動部の位置決め精度を必要としないとともに、把持対象物がマニピュレータの可動範囲外に存在した場合でも移動部を移動することによって対象物をマニピュレータの可動範囲内に位置するようにし、把持対象物の位置姿勢情報に誤差があった場合でも、他のセンサ情報を利用することで位置姿勢を修正することができる作業用移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、空間を自在に移動して作業を実行可能な移動ロボットにおいて、作業対象の物体を識別し、前記物体の位置姿勢を取得する対象物位置姿勢取得部と、少なくとも1つのアクチュエータを備えた移動部と、少なくとも1つのアクチュエータを備えたマニピュレーション部と、前記マニピュレータの動作に伴って変化する外界情報を取得する外界情報検出部と、前記作業対象の物体を探索する対象物探索部と、前記マニピュレータを用いて把持動作可能な範囲を判断する把持範囲判断部と、前記移動部の移動手順を生成する移動手順生成部と、前記マニピュレーション部の把持動作手順を生成する把持動作生成部を備えたものである。
また、請求項2に記載の発明は、前記対象物位置姿勢取得部は、ビジョンセンサの情報を基に画像処理によって対象物の位置姿勢座標を求めるものである。
また、請求項3に記載の発明は、前記移動部は、2つのアクチュエータを備え、2つの駆動輪の差動によって回転と前進および後退可能な機構を有するものである。
また、請求項4に記載の発明は、前記移動部は、3つ以上のアクチュエータを備え、平面の並進移動および回転移動が自在な全方向移動機構を有するものである。
また、請求項5に記載の発明は、前記マニピュレーション部は、6つ以上のアクチュエータを有したマニピュレータから成り、前記マニピュレータの手先が空間の任意の位置姿勢に移動可能であるものである。
また、請求項6に記載の発明は、前記マニピュレーション部は、3つ以上のアクチュエータを有した2つ以上のマニピュレータから成り、前記マニピュレータによって把持された物体が空間の任意の位置姿勢に移動可能であるものである。
また、請求項7に記載の発明は、前記外界情報検出部は、前記マニピュレータの先端部に取り付けられた力センサであり、前記マニピュレータの動作による外界との接触力を計測するものである。
また、請求項8に記載の発明は、前記外界情報検出部は、前記マニピュレータの先端部に取り付けられた2つ以上のマイクロスイッチであり、前記マニピュレータの動作による外界との接触箇所を検出するものである。
また、請求項9に記載の発明は、前記対象物探索部は、前記対象物位置姿勢取得部にて物体の位置姿勢を取得できない場合、予め決められた手順で移動部を移動することで物体を探索するようにしたものである。
また、請求項10に記載の発明は、前記移動手順生成部は、前記対象物位置姿勢取得部によって計測する物体の位置姿勢データの誤差が最小になるように前記移動部を移動させるようにしたものである。
また、請求項11に記載の発明は、前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出した場合、前記マニピュレータが移動していた方向とは逆方向にマニピュレータを移動させるようにしたものである。
また、請求項12に記載の発明は、前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出した場合、前記マニピュレータを予め決められた動作パターンで移動するようにしたものである。
また、請求項13に記載の発明は、前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出するまで、前記マニピュレータの動きを保持するようにしたものである。
また、請求項14に記載の発明は、前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出するまでの時間を任意に設定でき、その設定時間時間内に予め決められた値以上の情報が検出されなかった場合、前記マニピュレータの動きを保持する事を解除するようにしたものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1および6に記載の発明によると、作業対象の物体の位置姿勢を取得することができ、移動部およびマニピュレーション部を移動させて、前記物体をハンドリングすることができる。
また、請求項7および8に記載の発明によると、作業対象の物体位置姿勢情報に誤差がある場合でも外界情報検出部にて検出した情報を基に誤差を修正することができるため、作業対象の物体を正確にハンドリングすることができる。
また、請求項9および10に記載の発明によると、前記対象物位置姿勢取得部にて物体の位置姿勢を取得できない場合でも移動部を移動させて物体を探索できるため、移動部の移動による位置決め精度に大きな誤差を生じても作業対象物体の位置姿勢を取得することができる。
請求項11および12に記載の発明によると、マニピュレータによる把持動作中に予期せぬ接触あるいは接近を検出することができるため、マニピュレータ自体または作業対象の物体や外界物などの破損を回避することができる。
請求項13および14に記載の発明によると、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出するまで、前記マニピュレータの動きを保持するため、外界との接触のある動作を安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の実施例1を示したブロック図であり、作業用移動ロボットの機能要素を示している。
図において、11は対象物位置姿勢取得部、12は移動部、13はマニピュレーション部、14は外界情報検出部、15は対象物探索部、16は把持範囲判定部、17は移動手順生成部、18は把持動作生成部である。
対象物位置姿勢取得部11は、作業対象物体(以下、対象物と略す)の位置姿勢を取得するために作業用移動ロボット本体10に取り付けられていて、予め記憶した対象物の位置姿勢を取得できるようになっている。移動部12は、モータによって駆動される2つの車輪の回転差で旋回および直進可能な構成となっている。マニピュレーション部13は、6自由度を有し空間の任意の位置姿勢をとることができる垂直多関節型マニピュレータであり、本移動用作業ロボット本体10の左右に2つ搭載されている。また、外界情報検出部14は、前記マニピュレータ13の手首部に配置された6軸力センサで構成されており、手先効果器が外界と接触した場合に接触した方向および力の大きさを検出することができるようになっている。対象物探索部15は、対象物位置姿勢取得部11にて対象物が見つからなかった場合、即ち、対象物の位置姿勢情報を取得できなかった場合に、対象物が対象物位置姿勢取得部11の検出範囲内に位置するように移動部12を動作させるようになっている。把持範囲判断部16は、対象物判断部にて対象物が検出できる範囲に位置する場合、マニピュレーション部13にて対象物が把持可能であるかどうかを対象物の位置姿勢から演算によって求めるようになっている。また、移動手順生成部17は、把持範囲判断部16にて対象物が把持範囲に無いと判断された場合に、移動部12の旋回や直進を組み合わせた移動手順を生成するようになっている。対象物が把持範囲内に位置した場合は、把持動作生成部18は、対象物位置姿勢取得部11にて取得した対象物の位置姿勢情報をもとにマニピュレーション部13の動作パターンを生成し、マニピュレーション部13は生成した動作パターンに従って動作することで対象物を把持できるようになっている。この把持動作の際に、対象物位置姿勢取得部11が取得した対象物の位置姿勢情報に誤差が含まれる場合、マニピュレーション部13が把持動作を行っている途中で対象物と接触する場合がある。このような場合は、外界情報検出部14にて接触方向と接触力を検出し、把持動作生成部18は接触方向とは反対の方向にマニピュレータ部13の動作パターンを修正することで対象物を確実に把持することができるようになっている。
【0008】
また、対象物が机の上に置かれた紙などの薄板の場合、把持動作生成部18は薄板を掴むのに十分な量を机から出させるようにマニピュレーション部13の先端を薄板の上から机に押さえつけながら引寄せる。この時、机に押さえつける力を外界情報検出部14により検出し、薄板を引寄せるのに適した力を検出するまで押さえつける方向にマニピュレーション部13を移動させ、薄板を引寄せるのに適した力を外界情報検出部14が検出した後は、薄板を引寄せる方向へマニピュレーション部13を移動させ、薄板を掴むのに十分な量が机から出るようにする。そして、薄板の端部を掴んだ後は、マニピュレーション部13の先端に設けた突起部82によって薄板は凹状になる。その薄板の他端を机の端部で持ち上げるようにマニピュレーション部13を移動させることにより、把持時の薄板の垂れ下がりが少なくなり、安定して薄板を把持することができるようになっている。また、この机にマニピュレーション部13の先端を押さえつける動作の時に、一定距離を移動させても机との接触を外界情報検出部が検出しなかった場合には、対象物の置いてある机が本移動用作業ロボット本体10の把持範囲にないという事であるため、再び対象物探索部15と移動部12を用いて机を探索するなど、把持できる状態にする。そして、対象物を把持した場合には、移動部12により対象物を渡す位置へ移動し、マニピュレーション部13によって対象物渡し姿勢になり、外界情報検出部14によって対象物の有無による力の変化を検出した場合、把持姿勢を解放して把持物を離す。この対象物渡し姿勢になって一定時間を経過しても外界情報検出部14に力の変化が検出されなかった場合は、対象物を把持した状態を保持することができるようになっている。
本発明が特許文献1と異なる部分は、対象物が見つからなかった場合に対象物を探索する対象物探索部15と、対象物がマニピュレータ部の把持範囲内にあるかどうかを判断する把持範囲判断部16と、対象物の位置姿勢情報に誤差が含まれていてもエラーリカバーするための外界情報検出部14および把持動作生成部18を備えた部分である。
【0009】
つぎに、本発明の作業用移動ロボットの動作について述べる。
図2は本発明の作業用移動ロボットの概略動作を示すフロー図である。作業用移動ロボットに対象物の把持要求がくると、まずStep201では対象物位置姿勢取得部にて対象物の位置姿勢情報を取得する。Step201にて対象物の位置姿勢情報が取得できなかった場合、Step202で対象物探索部にて対象物を取得するまで、または、予め設定された対象物の再取得回数の上限に達するまで移動体動作と位置姿勢取得を繰り返す。対象物の位置姿勢情報が取得できた場合、Step211に進み、取得した対象物の位置姿勢情報をもとに対象物が把持可能であるかどうかを把持範囲判断部にて判定する。Step211にて把持範囲に無いと判断された場合、Step212に進み移動手順生成部にて対象物の位置姿勢情報をもとに移動体の位置姿勢を調整し、再度対象物位置姿勢取得部にて対象物の位置姿勢を取得する。このように対象物の位置姿勢が把持範囲に位置するようになるまで、または、予め設定された移動体の位置調整回数の上限に達するまで移動体の位置調整および対象物の位置姿勢情報取得を繰り返す。次に、対象物が把持範囲に位置している場合、Step221に進み把持動作生成部にて把持動作パターンを生成する。ここで生成した把持動作パターンに基づいてマニピュレータ部は各関節を動作させ対象物を把持する。しかしながら、この把持動作パターンを生成するためには対象物の位置姿勢情報が基準となるため、この位置姿勢情報に誤差が含まれた場合、把持する対象物に接触し把持できない場合がある。このような場合、Step222により外界情報検出部にて接触を検出し、接触した際の移動方向とは逆の方向にマニピュレータ部を移動させ、予め設定された距離だけオフセット移動させて再度把持動作を行うことで、対象物の位置し姿勢情報に誤差を含んだ場合においても、確実に対象物を把持することができるようになっている。
【0010】
図3は図2の対象物探索の詳細を示すフロー図である。
図において、対象物の探索要求を受けるとStep301にて探索回数Nをゼロに初期化する。次に、Step302にて位置姿勢情報を取得(N=0の場合は、図2のStep201にて取得した位置姿勢情報が設定される)し、Step303にて位置姿勢情報が取得できたかどうか判定される。Step303にて位置姿勢情報が取得されていれば、図2のStep211へ移行する。もし、Step303にて位置姿勢情報が取得されなかった、即ち、対象物が対象物位置姿勢取得部の検出範囲になかった場合、Step304に移行し探索回数Nに1を加える。Step305では、探索回数Nが予め設定された探索回数の上限(Nmax)を超えているかどうか判断され、上限を超えている場合、Step306にて位置姿勢情報取得失敗通知を発行した後、一連の動作を停止する。Step305にて探索回数Nが上限を超えていない場合は、Step307へ移行し探索回数Nが偶数であるかどうかを判定する。探索回数Nが偶数の場合、Step308にて数式(1)で移動体の旋回角度θを求め、Step307にて探索回数Nが奇数の場合はStep309にて数式(2)で移動体の旋回角度θを求める。ここで、Δθは予め決められた微小角(例えば10deg)である。 Step310では、Step308またはStep309にて求めた旋回角θだけ移動体を旋回させ、Step302にて対象物の位置姿勢情報を取得する。本発明の作業用移動ロボットはStep302からStep310を繰り返すことによって対象物の位置姿勢情報を取得できるようになっている。
【0011】
【数1】

【0012】
このように、移動体を旋回させることによって対象物を探索するような構成をしているので、対象物が対象物位置姿勢取得部の検出範囲にない場合でも移動体を旋回させて対象物を検出範囲内に位置させ、位置姿勢を取得することができる。
図4は、取得した対象物の位置姿勢情報が把持範囲内であるかどうかを判定し、把持範囲にない場合でも対象物が把持範囲に入るように移動体の位置を調整する移動体位置調整フロー図である。
図4(a)において、対象物の位置姿勢情報をもとにマニピュレータ部の把持範囲にあるかどうかといった把持範囲判定要求を受けると、Step401にて位置調整回数Naをゼロに初期化する。次に、Step402にて位置姿勢情報取得部によって取得した情報を記憶する。ここでは、説明を簡単化するために位置姿勢情報はX、Y、Zの並進成分のみを考えることとする。Step403では記憶したZ方向の位置姿勢情報が予め設定した値Zmax以下であるかどうかを判定する。ZがZmax以下であればStep404へ移行し、今度はZがZmin以上であるかどうかを判定する。即ち、Step403およびStep404にて対象物の高さが把持可能範囲の高さ以内にあるかどうかを判定するのである。次に、Step405およびStep406にて対象物がXY平面の把持可能範囲内にあるかどうかを判定する。このときのXmin、Xmax、Ymin、Ymaxは予め設定した値である。Step403からStep406にて対象物が把持範囲に存在することが判定されると、図2のStep221の把持動作へと移行する。Step403またはStep404にて対象物が把持範囲の高さ方向以内にない場合、Step414にて対象物が把持範囲外にあることを通知する。Step403の条件を満たさなかった場合は、本発明の作業用移動ロボットは本体の高さ方向(Z方向)に移動できないため、例えば「高すぎます」や、Step404の条件を満たさなかった場合は、「低すぎます」というような内容を音声にて人間に呈示するようになっている。次に、Step405またはStep406にて対象物が把持範囲のXY平面内にない場合、Step407に移行して位置調整回数Naに1を加える。Step408では、位置調整回数Naが予め設定された位置調整回数の上限Namaxを超えているかどうかを判定し、超えている場合はStep415にて把持不能通知を発行する。この把持不能通知とは、例えば「把持することができません」という内容を発話することで状態を人間に呈示することである。Step408にて位置調整回数Naが上限Namaxに達していない場合は、Step409にて対象物がロボットのどの方向に位置しているかを数式(3)の計算によって求める。Step410では、ロボット中心から見た対象物の方向(角度)の絶対値が予め設定した角度θmaxよりも小さいかどうかを判定する。θmaxよりも小さい場合は、Step411にて記憶した位置姿勢情報をもとに移動体をX方向のみに移動させる。Step410にてθmaxよりも大きい場合は、Step412にてStep409で計算した対象物の方向に移動体を旋回させる。Step411またはStep412にて移動体の位置調整を行った後、Step413にて再度対象物の位置姿勢情報を取得し、Step402へと移行する。
このようにStep402からStep413を繰り返すことによってロボットは対象物が把持可能な相対位置になるように位置を調整するため、移動体の移動による誤差を生じても確実にマニピュレータ部の把持可能領域内に対象物が位置するようにできる。
また、移動体が平面の任意の方向の並進および旋回可能な全方向移動機構を備えている場合、XY方向に同時に移動可能であるため、図のStep409からStep412(図の点線で囲んだ部分)は、図4(b)に置き換えることができる。
【0013】
【数2】

【0014】
次に、位置姿勢情報に誤差が含まれている場合においても確実に対象物を把持できる探り動作について図5および図6を用いて説明する。図5は外界情報検出部を用いた探り動作を示した図であり、図6は把持動作および探り動作のフロー図である。
図5において、50は対象物、51は手先効果器であるハンド、52は外界情報検出部である力センサ、53は基準位置である。
把持動作要求を受けるとマニピュレータ部を動作させることによって周囲と干渉しない基準位置53へハンド51を移動させる(Step601)。基準位置53へ移動後、位置姿勢情報取得部によって取得した位置情報をもとに、先ずXY方向のみハンド51を移動させ、(Step602)。次に、Step603にて探り動作回数Nfをゼロに初期化し、Z方向に位置姿勢情報のZtrgまで移動させる(Step604)。この移動中に力センサ52の情報を監視することで対象物50との接触検出を行う(Step605)。接触を検出することなく目標位置(Ztrg)に到達した場合(Step606)、対象物50をハンド51で把持し(Step607)、持ち上げる(Steo608)ように構成されている。図5(a)では、この対象物50との接触を検出しない場合を図示している。次に、位置姿勢情報に誤差が含まれ、位置情報をもとにXY移動させた場合の説明を行う。図5(b)は、基準位置53から位置姿勢情報をもとにXY方向へハンド51を移動させた場合を示している。この状態から目標位置(Ztrg)へハンド51を移動(Step604)させていくと、ハンド51は対象物50とZtchの位置で接触する。この際、Step605にて接触を検出し、マニピュレータ部の動作を一時停止する(図5(c))。Step605にて接触を検出すると、Step609にて探り動作回数に1を加え、先ず図5(d)のように接触位置ZtchからΔZa上方にハンド51を移動させる(Step610)。次に、図(e)に示すようにハンド51をΔYaだけY方向に移動させる(Step611)。このときのΔZaおよびΔYaは予め決められた距離であるが、力センサ52(6軸の力を検出)の力およびモーメントからハンド51の接触位置を推定することができるため、Y方向に回避する正負の符合を決定することができる。Step612では探り動作回数Nfがあらかじめ設定された上限値Nfmaxを超えているかどうかを判定し、上限を超えている場合はStep613に移行してハンド51を基準位置53へ移動させ、Step614にてマニピュレータ部を基本姿勢に動作した後、図2のStep201へ移行する。Step612にて探り動作回数が上限に達していない場合は、図5(f)のように目標位置Ztrgへ移動する(Step604)。このようにStep604からStep612を繰り返すことで、位置姿勢情報に誤差を含んでいても外界情報検出部である力センサ52を利用することで確実に対象物50を把持できるようになる。
ここでは、マニピュレータの手首部に力センサを設置した場合を示したが、ハンド表面に複数のマイクロスイッチやテープスイッチあるいは近接スイッチなどのスイッチ類を配置し、接触または接近を検出する構成としても同様の効果を得られる。
【実施例2】
【0015】
図7は本発明の実施例2を示すフロー図であり、作業用移動ロボットの薄板把持を含めた概略動作を示している。作業用移動ロボットに対象物の把持要求がくると、まずStep701では対象物位置姿勢取得部にて対象物の位置姿勢情報を取得する。Step701にて対象物の位置姿勢情報が取得できなかった場合、Step702で対象物探索部にて対象物を取得するまで、または、予め設定された対象物の再取得回数の上限に達するまで移動体動作と位置姿勢取得を繰り返す。対象物の位置姿勢情報が取得できた場合、Step711に進む。このように対象物の位置姿勢が把持範囲に位置するようになるまで、または、予め設定された移動体の位置調整回数の上限に達するまで移動体の位置調整および対象物の位置姿勢情報取得を繰り返す。次に、対象物が把持範囲に位置している場合、Step711に進み対象物が薄板であるか判断する。対象物が薄板である場合はStep721に進み、把持動作生成部にて把持動作パターンを生成する。ここで生成した把持動作パターンに基づいてマニピュレータ部は各関節を動作させ対象物を把持する。Step711で薄板でないと判断した場合は、Step731に進み取得した対象物の位置姿勢情報をもとに対象物が把持可能であるかどうかを把持範囲判断部にて判定する。Step731にて把持範囲に無いと判断された場合、Step732に進み移動手順生成部にて対象物の位置姿勢情報をもとに移動体の位置姿勢を調整し、再度対象物位置姿勢取得部にて対象物の位置姿勢を取得する。そしてStep731にて把持範囲にあると判断された場合はStep741に進み把持動作生成部にて把持動作パターンを生成する。ここで生成した把持動作パターンに基づいてマニピュレータ部は各関節を動作させ対象物を把持する。しかしながら、このStep741の把持動作パターンを生成するためには対象物の位置姿勢情報が基準となるため、この位置姿勢情報に誤差が含まれた場合、把持する対象物に接触し把持できない場合がある。このような場合、Step742により外界情報検出部にて接触を検出し、接触した際の移動方向とは逆の方向にマニピュレータ部を移動させ、予め設定された距離だけオフセット移動させて再度把持動作を行うことで、対象物の位置し姿勢情報に誤差を含んだ場合においても、確実に対象物を把持することができるようになっている。そして、対象物を掴んだ後には、Step751に進み対象物を渡す動作を行う。
なお、本発明では、Step731把持範囲判定およびStep732移動体位置調整を行い、対象物の位置を判断するための情報の精度を向上させても良い。
【0016】
次に、机上に置かれた薄板を把持する動作について図8および図9を用いて説明する。図8は外界情報検出部を用いた薄板把持動作を示した図であり、図9は薄板把持動作のフロー図である。
図8において、50は対象物、51は手先効果器であるハンド、52は外界情報検出部である力センサ、53は基準位置、81は机、82はハンドに設ける突起部である。
薄板把持動作要求を受けるとマニピュレータ部を動作させることによって周囲と干渉しない基準位置53へ手先に突起部82を設けたハンド51を移動させる(Step901, 図8(a))。基準位置53へ移動後、位置姿勢情報取得部によって取得した位置情報をもとに、先ずXY方向のみハンド51を移動させ、(Step902)。次に、Step903にて探り動作回数Nbをゼロに初期化し、Z方向に位置姿勢情報のZepまで移動させる(Step904, 図8(b))。この移動中に力センサ52の情報を監視することで対象物50との接触検出を行う(Step905)。この時に目標とする位置Zepは、机81の高さよりも十分に低い位置に設定する。机への接触を検出した高さZfpを固定して薄板を把持するのに十分な量が机81からでると共にハンド51を離しても薄板が机81から落ちないようにΔXb1だけマニピュレータ部を移動させ(Step906, 図8(c))、周囲と干渉しないようにしながらハンド51の姿勢を薄板を把持する姿勢に変化させ、対象物50をハンド51で把持し(Step907, 図8(d))、把持後には薄板の把持した端部と逆側を持ち上げるように、ΔzbおよびΔXb2だけマニピュレータ部を移動させる(Step908, 図8(e))。その後、把持した薄板が周囲と干渉しないような位置へ移動する(Step909)ように構成されている。図8(a)では、この対象物50および机81と接触を検出する場合を図示している。次に、位置姿勢情報に誤差が含まれ、対象物50および机81が検出されなかった場合の説明を行う。図8(b)は、机81の高さよりも十分に低い対象物50との接触検出動作時の目標位置Zepへハンド51を移動させた場合を示している。この状態は、対象物50および机81が検出されなかった場合である。Step911では薄板把持動作回数Nbがあらかじめ設定された上限値Nbmaxを超えているかどうかを判定し、上限を超えている場合はStep912に移行してハンド51を基準位置53へ移動させ、Step913にてマニピュレータ部を基本姿勢に動作した後、図2のStep201へ移行する。Step911にて薄板把持動作回数が上限に達していない場合は、図8(a)のように基準位置53へ移動する(Step904)。このようにStep604からStep611を繰り返すことで、位置姿勢情報に誤差を含んでいても外界情報検出部である力センサ52を利用することで確実に対象物50を把持できるようになる。なお、対象物50との接触検出を行う時(Step905)のハンド51の姿勢は図示されたような姿勢に限定されず、対象物50の検出(Step905)および薄板を把持するのに十分は量を机から出す動作(Step906)を効果的に行う姿勢であれば良い。
ここでは、マニピュレータの手首部に力センサを設置した場合を示したが、ハンド表面に複数のマイクロスイッチやテープスイッチあるいは近接スイッチなどのスイッチ類を配置し、接触または接近を検出する構成としても同様の効果を得られる。
【0017】
図10は渡し動作の詳細を示すフロー図である。
図において、対象物把持を受けるとStep1001にて探索回数Npをゼロに初期化する。次に、Step1002にて移動部12およびマニピュレーション部13を動かして対象物を渡す位置に対象物を移動しStep1003での渡し検出の判定を待ち、姿勢保持を継続する。Step1003では外界情報検出部14に対象物を渡す力(受け取る力)がかかっているかどうか判定される。Step1003にて外界情報検出部14に対象物を渡す力がかかっていれば、Step1004へ移行し、対象物の渡し動作(対象物解放動作)を行う。もし、Step1003にて外界情報検出部14に対象物を渡す力がかかってなかった、即ち、対象物を渡す相手がなかった場合、Step1005に移行し探索回数Npに1を加える。Step1006では、探索回数Npが予め設定された探索回数の上限(Npmax)を超えているかどうか判断され、上限を超えている場合、Step1007にて対象物渡し失敗通知を発行し、Step1008で移動部12およびマニピュレーション部13を動かして対象物を渡す位置での姿勢保持を解除して対象物を安定して把持できる位置へ移り、渡し動作を終了する。Step1006にて探索回数Npが上限を超えていない場合は、Step1002へ戻り、渡し検出動作を再実行する。本発明の作業用移動ロボットはStep1002からStep1006を繰り返すことによって対象物の渡し失敗を防ぎ、対象物の落下を防ぐようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0018】
視覚センサの誤差を位置調整を繰り返すことで小さくするとともに、外乱光などの影響で視覚センサ情報に誤差を含んだ場合でも力センサ情報を利用することで修正することができるので、産業用ロボットのハンドリング用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の作業用移動ロボットの機能要素を示すブロック図
【図2】本発明の作業用移動ロボットの概略動作を示すフロー図
【図3】本発明の対象物探索の詳細を示すフロー図
【図4】本発明の移動体位置調整の詳細を示すフロー図
【図5】本発明の探り動作を示す模式図
【図6】本発明の探り動作の詳細を示すフロー図
【図7】本発明の作業用移動ロボットの薄板把持概略動作を示すフロー図
【図8】本発明の薄板把持動作を示す模式図
【図9】本発明の薄板把持動作も詳細を示すフロー図
【図10】本発明の渡し動作の詳細を示すフロー図
【図11】従来の移動ロボットの例を示すブロック図
【符号の説明】
【0020】
10 作業用移動ロボット
11 対象物位置姿勢取得部
12 移動部
13 マニピュレーション部
14 外界情報検出部
15 対象物探索部
16 把持範囲判定部
17 移動手順生成部
18 把持動作生成部
50 作業対象物
51 ハンド
52 力センサ
53 基準位置
81 机
82 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業対象の物体を識別し前記物体の位置姿勢を取得する対象物位置姿勢取得部と、少なくとも1つのアクチュエータを備え本体を移動させる移動部と、少なくとも1つのアクチュエータを有するマニピュレーション部と、全体の動作を制御する制御部とを備え、目的の位置に移動して前記マニピュレーション部により作業を実行する作業用移動ロボットにおいて、
前記マニピュレーション部の動作に伴って変化する外界情報を取得する外界情報検出部と、前記作業対象の物体を探索する対象物探索部と、前記マニピュレーション部を用いて把持動作可能な範囲を判断する把持範囲判断部と、前記移動部の移動手順を生成する移動手順生成部と、前記マニピュレーション部の把持動作手順を生成する把持動作生成部とを備えたことを特徴とする作業用移動ロボット。
【請求項2】
前記対象物位置姿勢取得部は、ビジョンセンサの情報を基に画像処理によって対象物の位置姿勢座標を求めることを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項3】
前記移動部は、2個のアクチュエータを備え、2個の駆動輪の差動によって回転と前進および後退可能な機構を有することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項4】
前記移動部は、少なくとも3個のアクチュエータを備え、平面の並進移動および回転移動が自在な全方向移動機構を有することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項5】
前記マニピュレーション部は、少なくとも6個のアクチュエータを有したマニピュレータから成り、前記マニピュレータの手先が空間の任意の位置姿勢に移動可能であることを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項6】
前記マニピュレーション部は、少なくとも3個のアクチュエータを有した少なくとも2個のマニピュレータから成り、前記マニピュレータによって把持された物体が空間の任意の位置姿勢に移動可能であることを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項7】
前記外界情報検出部は、前記マニピュレータの先端部に取り付けられた力センサであり、前記マニピュレータの動作による外界との接触力を計測することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項8】
前記外界情報検出部は、前記マニピュレータの先端部に取り付けられた2つ以上のマイクロスイッチであり、前記マニピュレータの動作による外界との接触箇所を検出することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項9】
前記対象物探索部は、前記対象物位置姿勢取得部にて物体の位置姿勢を取得できない場合、予め決められた手順で移動部を移動することで物体を探索するようにしたことを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項10】
前記移動手順生成部は、前記対象物位置姿勢取得部によって計測する物体の位置姿勢データの誤差が最小になるように前記移動部を移動させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項11】
前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出した場合、前記マニピュレータが移動していた方向とは逆方向にマニピュレータを移動させることを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項12】
前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出した場合、前記マニピュレータを予め決められた動作パターンで移動することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項13】
前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出するまで、前記マニピュレータの動作を継続することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。
【請求項14】
前記把持動作生成部は、前記外界情報検出部によって予め決められた値以上の情報を検出するまでの時間を任意に設定でき、その設定時間内に予め決められた値以上の情報が検出されなかった場合、前記マニピュレータの動作を解除することを特徴とする請求項1記載の作業用移動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−159399(P2006−159399A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197013(P2005−197013)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】