説明

作業車の車体状態切り換え構造

【課題】車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準に創意工夫を凝らすことにより、作業走行時において車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動の発生を抑制し、その誤作動に起因した不都合の発生を抑制する。
【解決手段】操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサ55と、この切角センサ55の検出に基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段48とを備えた作業車の車体状態切り換え構造において、車体の走行速度を検出する車速センサ56を備え、車体状態切換手段48が、切角センサ55の検出、および、車速センサ56の検出に基づいて、車体の旋回角度を算出し、かつ、算出した旋回角度が設定角度を超えると、車体の状態を車体に連結した作業装置を機能させる作業用の第1状態から作業装置を機能させない移動用の第2状態に切り換えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサと、この切角センサの検出に基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段とを備えた作業車の車体状態切り換え構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の車体状態切り換え構造としては、車体の後部に対地作業装置を昇降可能に装備したトラクタにおいて、前輪の切れ角が所定角度(約40度)以上になったときに、対地作業装置を上昇させる自動上昇機構を設けたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−34643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
つまり、上記のような作業車の車体状態切り換え構造においては、操舵輪の切れ角が設定角度以上になると、自動上昇機構の作動により、車体の状態が、対地作業装置を接地させた第1状態から、対地作業装置を浮上させた第2状態に切り換わるように構成されている。
【0005】
この構成によると、例えば、車体の後部にロータリ耕耘装置を連結して隣接耕法による耕耘作業を行う場合には、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる枕地旋回(畦際での180度の旋回走行)を開始する際の操舵により、操舵輪の切れ角が設定角度以上になることに連動して、車体の状態が、ロータリ耕耘装置を接地させた第1状態からロータリ耕耘装置を浮上させた第2状態に自動的に切り換わる。これにより、枕地旋回時においてロータリ耕耘装置を浮上させるための専用の操作を行う必要がないことから、枕地旋回による現在の作業走行経路から次の作業走行経路への移動を容易かつスムーズに行える。
【0006】
ところで、このような耕耘作業を行う場合において、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を小さい角度に設定すると、例えば、畦から圃場に向けて張り出す障害物が存在する圃場での作業走行時において、その障害物を避けるように車体を曲線走行させるために、枕地旋回時よりも操舵輪の切れ角が小さくなる操舵を行った場合や、畦が湾曲する変形田での作業走行時において、その湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させるために、枕地旋回時よりも操舵輪の切れ角が小さくなる操舵を行った場合であっても、そのときの操舵輪の切れ角が設定角度以上となる可能性が高くなる。そのため、その設定角度以上の操舵に基づいて、作業走行時の車体の状態として、ロータリ耕耘装置を浮上させた第2状態が不測に現出される虞がある。そして、このような第2状態が不測に現出されると、作業走行中であるにもかかわらず、ロータリ耕耘装置による耕耘が行われなくなる不都合を招くことになる。
【0007】
この不都合の発生を回避するために設定角度を大きくすると、枕地旋回を開始してから、操舵輪の切れ角が設定角度に達してロータリ耕耘装置が浮上するまでに要する時間が長くなる。そのため、作業車が旋回しながら耕耘する時間、言い換えると、耕した土が周囲にまき散らされる時間が長くなり、これにより、旋回走行時に旋回内側の圃場部分を陥没させる不都合を招き易くなる。
【0008】
要するに、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を小さい角度に設定すると、作業走行時において、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が生じる可能性が高くなり、その誤作動に起因した不都合を招き易くなる。また、その判断基準となる設定角度を大きい角度に設定すると、旋回走行時における車体状態の第1状態から第2状態への切り換えに要する時間が長くなり、それに起因した不都合を招くようになる。
【0009】
また、前述した作業車の車体状態切り換え構造においては、操舵輪の切れ角が設定角度以上になった場合に、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わることから、例えば、作業走行時に、作業地の凹凸によりハンドルが取られることや、ハンドルが取られた後に軌道を修正するための操舵を行うことなどにより、瞬間的に操舵輪の切れ角が設定角度以上になった場合にも、その設定角度以上の操舵に基づいて、作業走行時であるにもかかわらず、ロータリ耕耘装置を浮上させた第2状態が不測に現出される誤作動が発生し、ロータリ耕耘装置による耕耘が行われなくなる不都合を招くことになる。
【0010】
本発明の目的は、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準に創意工夫を凝らすことにより、作業走行時において車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動の発生を抑制できるようにして、その誤作動に起因した不都合の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、
操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサと、この切角センサの検出に基づいて作業走行時における車体の状態を切り換える車体状態切換手段とを備えた作業車の車体状態切り換え構造において、
前記切角センサにより検出される前記切れ角が設定角度を超えると、前記車体状態切換手段が、前記車体の状態を第1状態から第2状態に切り換えるように構成し、
操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、前記設定角度を変更する設定角度変更手段とを備え、
前記設定角度変更手段が、
前記操舵速度検出手段により検出される前記操舵速度が遅くなると、前記設定角度が設定上限角度に達するまでの間は、検出された前記操舵速度に応じて前記設定角度が大きくなるように、
また、前記操舵速度検出手段により検出される前記操舵速度が速くなると、前記設定角度が設定下限角度に達するまでの間は、検出された前記操舵速度に応じて前記設定角度が小さくなるように、
前記操舵速度検出手段の検出に基づいて前記設定角度を変更することを特徴とする。
【0012】
この特徴構成によると、操舵速度が遅い場合には、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度が大きい角度に変更されることから、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり難くなる。逆に、操舵速度が速い場合には、その設定角度が小さい角度に変更されることから、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり易くなる。
【0013】
そして、一般的には、旋回半径の大きい曲線走行を行う場合には、そのときの旋回半径に応じた小さい切れ角で操舵輪を操舵するだけでよいことから操舵速度が遅くなる。また、旋回半径の小さい旋回走行を行う場合には、短時間の間で、そのときの旋回半径に応じた大きい切れ角で操舵輪を操舵する必要があることから操舵速度が速くなる。
【0014】
これらの点から、旋回半径の大きい曲線走行を行う場合には、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度が大きい角度に変更されることになり、これにより、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり難くなる。逆に、旋回半径の小さい旋回走行を行う場合には、その設定角度が小さい角度に変更されることになり、これにより、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり易くなる。
【0015】
つまり、例えば、畦から圃場に向けて張り出す障害物が存在する圃場での作業走行時に、その障害物を避けるように車体を曲線走行させる場合や、畦が湾曲する変形田での作業走行時に、その湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させる場合などにおいては、そのときの操舵速度が遅くなることにより、そのときの操舵速度に応じて設定角度が大きい角度に変更されることになる。そのため、これらの作業走行時において操舵輪の切れ角が設定角度を超える可能性を低く抑えることができる。その結果、これらの作業走行時において、操舵輪の切れ角に基づいて車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができる。
【0016】
また、例えば、隣接耕法による耕耘作業時などにおいて、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行(枕地旋回)を行う場合には、そのときの操舵速度が速くなることにより、そのときの操舵速度に応じて設定角度が小さい角度に変更されることになる。そのため、このような旋回走行時には、旋回走行を開始してから、操舵輪の切れ角が設定角度に達して車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わるまでに要する時間を短くすることができる。
【0017】
そして、設定角度には下限角度が設定されていることにより、作業走行時に急速な操舵が行われた場合であっても、そのときの操舵により現出される車体の走行状態が、そのときの操舵輪の切れ角が設定下限角度を超えない程度の旋回半径の大きい曲線走行状態であれば、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わることはない。
【0018】
また、設定角度には上限角度が設定されていることにより、旋回走行時に緩慢な操舵が行われた場合であっても、そのときの操舵により現出される車体の旋回走行状態が、そのときの操舵輪の切れ角が設定上限角度を超えるほどの旋回半径の小さい旋回走行状態であれば、その旋回走行状態の現出に伴って車体の状態を第1状態から第2状態に切り換えることができる。
【0019】
従って、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を、操舵輪の切れ角に対するだけものではなく、操舵速度をも考慮したものとすることにより、旋回走行の開始に連動して行われる車体状態の第1状態から第2状態への切り換えに要する時間が長くなることを抑制しながら、作業走行時において、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができ、それらに起因した不都合の発生を抑制することができる。
【0020】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、
操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサと、この切角センサの検出に基づいて作業走行時における車体の状態を切り換える車体状態切換手段とを備えた作業車の車体状態切り換え構造において、
前記車体の走行速度を検出する車速センサを備え、
前記車体状態切換手段が、
前記切角センサの検出、および、前記車速センサの検出に基づいて、前記車体の旋回角度を算出し、
かつ、算出した前記旋回角度が設定角度を超えると、前記車体の状態を第1状態から第2状態に切り換えるように構成してあることを特徴とする。
【0021】
この特徴構成によると、操舵輪の切れ角および車速に基づいて算出した車体の旋回角度が設定角度を超えた場合に、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わる。
【0022】
ところで、車体の旋回角度は、車体の旋回角速度を積分することにより算出することができる。車体の旋回角速度は、車速を車体の旋回半径で割ることにより算出することができる。車体の旋回半径は、車体の軸間距離を操舵輪の切れ角で割った値に車輪間隔の半分の値を加えることにより算出することができる。
【0023】
つまり、車体の旋回角度は、車速が速い場合や操舵輪の切れ角が大きい場合にそれらに応じて大きくなり、逆に、車速が遅い場合や操舵輪の切れ角が小さい場合にそれらに応じて小さくなる。そのため、車速が遅い場合には、操舵輪の切れ角が大きくても車体の旋回角度が設定角度を超えないことがある。
【0024】
これにより、例えば、作業走行時において、作業地の凹凸によりハンドルが取られることや、ハンドルが取られた後に軌道を修正するための操舵を行うことなどにより、瞬間的に操舵輪の切れ角が大きくなった場合であっても、そのときの車速が遅ければ遅いほど、そのときの車体の旋回角度が設定角度を超える可能性が低くなる。その結果、作業走行時に操舵輪の切れ角が瞬間的に大きくなった場合において、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる不都合が発生する虞を抑制することができる。
【0025】
また、例えば、隣接耕法による耕耘作業時などにおいて、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行(枕地旋回)を行う場合には、その旋回走行により車体の旋回角度が設定角度を超えるのに伴って必ず車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わる。これにより、このような旋回走行時において、車体状態の第1状態から第2状態への切り換えに遅れが生じる虞を回避することができる。
【0026】
従って、車体の状態を第1状態から第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を、操舵輪の切れ角に対するものではなく、操舵輪の切れ角や車速などを考慮に入れた車体の旋回角度に対するものとすることにより、旋回走行の開始に連動して行われる車体状態の第1状態から第2状態への切り換えに遅れが生じる虞を回避しながら、作業走行時に操舵輪の切れ角が瞬間的に大きくなった場合に、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができ、それらに起因した不都合の発生を抑制することができる。
【0027】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、上記請求項2に記載の発明において、
前記旋回角度を所定時間あたりで算出することを特徴とする。
【0028】
この特徴構成によると、例えば、湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させる作業走行時において、車体の旋回角速度を積分することにより得られる車体の旋回角度が設定角度を超えることを回避することができる。
【0029】
従って、車体を曲線走行させる作業走行時において、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができ、それに起因した不都合の発生を抑制することができる。
【0030】
本発明のうちの請求項4に記載の発明では、上記請求項2に記載の発明において、
前記旋回角度を所定走行距離あたりで算出することを特徴とする。
【0031】
この特徴構成によると、例えば、湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させる作業走行時において、車体の旋回角速度を積分することにより得られる車体の旋回角度が設定角度を超えることを回避することができる。
【0032】
従って、車体を曲線走行させる作業走行時において、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができ、それに起因した不都合の発生を抑制することができる。
【0033】
本発明のうちの請求項5に記載の発明では、上記請求項2〜4のいずれか一つに記載の発明において、
前記切角センサにより検出される前記切れ角が設定角度を超えると、前記車体状態切換手段が、前記切角センサの検出に基づいて前記車体の状態を前記第1状態から前記第2状態に切り換えるように構成してあることを特徴とする。
【0034】
この特徴構成によると、例えば、隣接耕法による耕耘作業に、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時(枕地旋回時)において、その旋回走行状態を現出するために操舵輪を大きい切れ角で操舵すると、そのときの切れ角が設定角度を超えていれば、そのときの車速に関係なく、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わる。
【0035】
これにより、旋回走行状態を現出するための大きい切れ角で操舵輪を操舵しているにもかかわらず、そのときの車速が遅過ぎることにより、車体の旋回角度が設定角度を超え難くなり、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり難くなる、といった不都合が発生する虞を回避することができる。
【0036】
従って、旋回走行時において、車速を急激に低下させることに起因して、車体状態の第1状態から第2状態への切り換えに遅れが生じる虞を回避することができる。
【0037】
本発明のうちの請求項6に記載の発明では、上記請求項1〜5のいずれか一つに記載の発明において、
前記第1状態を、前記車体に昇降可能に連結した対地作業装置を接地させた状態とし、
前記第2状態を、前記対地作業装置を浮上させた状態としてあることを特徴とする。
【0038】
この特徴構成によると、作業走行時に車体を曲線走行させる場合や、作業走行時に操舵輪の切れ角が瞬間的に大きくなった場合において、車体の状態が、対地作業装置を接地させた状態から対地作業装置を浮上させた状態に不測に切り換わることを抑制することができる。
【0039】
また、旋回走行時には、その旋回走行を開始してから早い段階で、車体の状態を、対地作業装置を接地させた状態から対地作業装置を浮上させた状態に切り換えることができる。これにより、車体が旋回しながら対地作業装置による作業が行われる時間を短くすることができる。
【0040】
従って、作業走行時において対地作業装置が不測に浮上することや、旋回走行時において対地作業装置が接地作業する時間が長くなることに起因した不都合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ロータリ耕耘仕様に構成したトラクタの全体側面図である。
【図2】搭乗運転部の平面図である。
【図3】トラクタの伝動構成を示す概略平面図である。
【図4】伝動切換装置およびサイドブレーキの操作構造を示す概略図である。
【図5】第1実施形態での制御構成を示すブロック図である。
【図6】操舵速度と前輪の切れ角に対する設定角度との関係を示す図である。
【図7】第2実施形態での制御構成を示すブロック図である。
【図8】トラクタの基本構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
〔第1実施形態〕
【0043】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例として、本発明に係る作業車の車体状態切り換え構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0044】
図1はトラクタ1の全体側面図である。この図に示すように、このトラクタ1は、その後部にリンク機構2を介して対地作業装置の一例であるロータリ耕耘装置3を連結することにより、ロータリ耕耘仕様に構成されている。
【0045】
図1〜3に示すように、トラクタの前部には、水冷式のエンジン4が防振搭載され、ラジエータ5や主クラッチ6などが配備され、左右一対の前輪7が操舵輪として備えられている。トラクタの後部には、車体フレーム兼用のトランスミッションケース(以下、T/Mケースと略称する)8が配備され、前輪操舵用のステアリングホイール9や運転座席10などを備える搭乗運転部11が形成され、左右一対の後輪12が配備されている。
【0046】
図1および図3に示すように、エンジン4からの動力は、主クラッチ6などを介して、T/Mケース8の内部に備えたギヤ式の主変速装置13に伝達され、主変速装置13による変速後の動力が走行用として、また、非変速動力が作業用として、主変速装置13から出力される。走行用の動力は、前後進切換装置14、ギヤ式の副変速装置15、および、前輪伝動系16または後輪伝動系17などを介して、左右の前輪7および左右の後輪12に伝達される。前輪伝動系16には、左右の前輪7に対する伝動状態を切り換える伝動切換装置18や、前輪用の差動装置19などが備えられている。後輪伝動系17には、後輪用の差動装置20などが備えられている。作業用の動力は、作業用クラッチ21やギヤ式の作業用変速装置22などを介して、T/Mケース8の後端部に備えた動力取出軸23に伝達される。そして、動力取出軸23から取り出された作業用の動力が、軸伝動式の伝動機構(符号なし)を介してロータリ耕耘装置3に伝達されている。
【0047】
図1〜3に示すように、主クラッチ6は、図示しないバネの作用により、エンジン4からの動力を主変速装置13に伝達する入り状態に保持され、搭乗運転部11の左足元部に備えたクラッチペダル24の踏み込み操作により、バネの作用に抗して、入り状態からその伝動を遮断する切り状態に切り換えることができ、その踏み込み操作の解除に伴って、バネの作用により、切り状態から入り状態に切り換わるとともに入り状態に保持される。
【0048】
図2および図3に示すように、主変速装置13は、運転座席10の左側方に配備した主変速レバー25の揺動操作により、主変速レバー25の操作位置に応じた変速状態に切り換わる。
【0049】
図1〜3に示すように、前後進切換装置14は、ステアリングホイール9の左下方に配備したシャトルレバー26の揺動操作により、シャトルレバー26の操作位置に応じた前後進いずれかの伝動状態に切り換わる。
【0050】
図2および図3に示すように、副変速装置15は、主変速レバー25の後方に配備した副変速レバー27の揺動操作により、副変速レバー27の操作位置に応じた変速状態に切り換わる。
【0051】
図3〜5に示すように、伝動切換装置18には、副変速装置15から左右の前輪7への伝動を断続する第1クラッチ28と第2クラッチ29、第1クラッチ28を介して伝達される走行用の動力を左右の前輪7に伝達するギヤ式の第1伝動機構30、および、第2クラッチ29を介して伝達される走行用の動力を左右の前輪7に伝達するギヤ式の第2伝動機構31、などが備えられている。
【0052】
第1クラッチ28および第2クラッチ29には多板型の油圧クラッチが採用されている。第1伝動機構30は、第1クラッチ28を介して伝達される走行用の動力により、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度と同じ速度になるように駆動する。第2伝動機構31は、第2クラッチ29を介して伝達される走行用の動力により、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度の約2倍の速度となるように駆動する。
【0053】
伝動切換装置18は、第1クラッチ28および第2クラッチ29に対する作動油の流れを制御する電磁制御弁からなる伝動切換弁32の作動により、副変速装置15から左右の前輪7への伝動を遮断する前輪従動状態、その伝動を第1クラッチ28および第1伝動機構30を介して行う前輪駆動状態、および、その伝動を第2クラッチ29および第2伝動機構31を介して行う前輪増速状態、のうちのいずれかの状態に切り換わる。
【0054】
つまり、伝動切換弁32の作動で伝動切換装置18の作動状態を切り換えることにより、左右の後輪12のみを駆動する二輪駆動状態、左右の前輪7と左右の後輪12とを等速駆動する四輪駆動状態、および、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度の約2倍の速度となるように駆動する前輪増速状態、のうちのいずれかの駆動状態を現出することができる。
【0055】
図3および図5に示すように、作業用クラッチ21には多板型の油圧クラッチが採用されている。作業用クラッチ21は、それに対する作動油の流れを制御する電磁制御弁からなるクラッチ弁33の作動により、主変速装置13から作業用変速装置22に伝動する入り状態と、その伝動を遮断する切り状態とに切り換わる。
【0056】
図2および図3に示すように、作業用変速装置22は、副変速レバー27の横外方に配備した作業用変速レバー34の揺動操作により、作業用変速レバー34の操作位置に応じた変速状態に切り換わる。
【0057】
図3〜5に示すように、T/Mケース8の左右には多板型のサイドブレーキ35が装備されている。左右のサイドブレーキ35は、搭乗運転部11の右足元部に配備した左右一対のブレーキペダル36のうちの対応するものに、ブレーキシリンダ37や連係ロッド38などを介して連係されている。そして、左右のサイドブレーキ35は、対応するブレーキペダル36の踏み込み操作により、そのブレーキペダル36の踏み込み操作量に応じた制動力で対応する後輪12を制動する。
【0058】
左右のブレーキシリンダ37には単動型の油圧シリンダが採用されている。左右のブレーキシリンダ37は、それらに対する作動油の流れを制御する電磁制御弁からなる制動弁39の作動で伸縮駆動されることにより、対応するサイドブレーキ35を非制動状態と制動状態とに切り換える。
【0059】
つまり、左右のサイドブレーキ35は、対応するブレーキペダル36の踏み込み操作が行われていない場合であっても、制動弁39の作動により対応するブレーキシリンダ37が短縮駆動されることによって、対応する後輪12を制動する。
【0060】
図1、図2および図5に示すように、T/Mケース8の後端上部には、左右一対のリフトアーム40が上下揺動可能に装備されている。T/Mケース8の後方には、対応するリフトアーム40を上下方向に揺動駆動する左右一対の昇降シリンダ41が配備されている。左右の昇降シリンダ41には単動型の油圧シリンダが採用されている。
【0061】
図5に示すように、左右の昇降シリンダ41は、それらに対する作動油の流れを制御する電磁制御弁からなる昇降弁42の作動で伸縮駆動されることにより、対応するリフトアーム40を上下方向に揺動駆動する。
【0062】
図1および図5に示すように、リンク機構2は、T/Mケース8の後端上部に上下揺動可能に連結した上部リンク43と、T/Mケース8の後端下部に上下揺動可能に連結した左右一対の下部リンク44とを備える3点リンク式に構成されている。左側の下部リンク44は、左側のリフトアーム40と連動するように、その前後中間部が連係ロッド45を介して左側のリフトアーム40に連結されている。右側の下部リンク44は、右側のリフトアーム40と連動するように、その前後中間部がローリングシリンダ46を介して右側のリフトアーム40に連結されている。ローリングシリンダ46には、復動型の油圧シリンダが採用されている。
【0063】
図5に示すように、ローリングシリンダ46は、それに対する作動油の流れを制御する電磁制御弁からなるローリング弁47の作動で伸縮駆動されることにより、右側の下部リンク44を上下方向に揺動駆動する。
【0064】
つまり、昇降弁42の作動で左右の昇降シリンダ41を伸縮させることにより、ロータリ耕耘装置3を昇降させることができ、ローリング弁47の作動でローリングシリンダ46を伸縮させることにより、ロータリ耕耘装置3をローリングさせることができる。
【0065】
図5に示すように、このトラクタ1にはマイクロコンピュータからなる制御装置48が装備されている。制御装置48には、左右の前輪7に対する伝動状態などを制御することにより車体の走行状態を切り換える走行制御手段48A、ロータリ耕耘装置3の昇降を制御する昇降制御手段48B、ロータリ耕耘装置3のローリングを制御するローリング制御手段48C、および、動力取出軸23に対する伝動を制御する作業動力制御手段48D、などが制御プログラムとして備えられている。
【0066】
走行制御手段48Aには、二輪駆動モード、四輪駆動モード、小旋回モード、および急旋回モード、が走行用の制御モードとして備えられている。
【0067】
図1〜5に示すように、走行制御手段48Aは、搭乗運転部11における表示パネル49の左下方に配備した走行モード選択用の選択スイッチ50が押圧操作されるごとに、実行する走行用の制御モードを順次切り換えるとともに、表示パネル49の左端部に上下に並べて配備した4つの表示灯51〜54のうち、実行が選択された走行用の制御モードに対応するものを点灯させる。
【0068】
走行制御手段48Aには、ピットマンアーム(図示せず)の直進位置から左右方向への揺動操作角度を前輪7の直進位置からの切れ角として検出する切角センサ55、副変速装置15の出力回転数を車体の走行速度(以下、車速と略称する)として検出する車速センサ56、および、シャトルレバー26の操作位置を検出する位置センサ57、などからの検出情報が入力される。
【0069】
切角センサ55には回転式のポテンショメータが採用されている。車速センサ56には電磁ピックアップ式の回転センサが採用されている。位置センサ57には、シャトルレバー26の後進位置への操作に基づいてオン操作され、シャトルレバー26の前進位置への操作に基づいてオフ操作されるオンオフスイッチが採用されている。
【0070】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により二輪駆動モードが選択された場合には、その選択に基づいて、二輪駆動モードに対応する表示灯51を点灯させて二輪駆動モードの選択を運転者に報知するとともに、伝動切換装置18が前述した前輪従動状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。これにより、左右の後輪12のみを駆動する二輪駆動状態が現出される。
【0071】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により四輪駆動モードが選択された場合には、その選択に基づいて、四輪駆動モードに対応する表示灯52を点灯させて四輪駆動モードの選択を運転者に報知するとともに、伝動切換装置18が前述した前輪駆動状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。これにより、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度と同じ速度になるように駆動する四輪駆動状態が現出される。
【0072】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により小旋回モードが選択された場合には、その選択に基づいて、小旋回モードに対応する表示灯53を点灯させて小旋回モードの選択を運転者に報知するとともに、位置センサ57の検出に基づいてシャトルレバー26の操作位置を判別する。シャトルレバー26の操作位置が後進位置である場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。シャトルレバー26の操作位置が前進位置である場合は、切角センサ55の検出に基づいて、前輪7の切れ角が設定角度を超えたか否かを判別する。前輪7の切れ角が設定角度を超えていない場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。前輪7の切れ角が設定角度を超えている場合は、車速センサ56の検出に基づいて、車速が予め設定した作業速度範囲内(例えば0.2〜5.0km/hの間)であるか否かを判別する。車速が予め設定した作業速度範囲外である場合には、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速が予め設定した作業速度範囲内である場合には、伝動切換装置18が前述した前輪増速状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。
【0073】
これにより、小旋回モードにおいては、シャトルレバー26を後進位置に操作した車体の後進状態では、車速や前輪7の切れ角に関係なく四輪駆動状態が現出される。また、シャトルレバー26を前進位置に操作した車体の前進状態では、車速が作業速度範囲の速度よりも遅くなる微速走行時、および、車速が作業速度範囲の速度よりも速くなる高速走行時に、前輪7の切れ角に関係なく四輪駆動状態が現出される。さらに、前進状態において車速が作業速度範囲内の速度となる低速走行時には、前輪7の切れ角が設定角度を超えていない直線走行時や曲線走行時に四輪駆動状態が現出される。そして、低速走行時において、前輪7の切れ角が設定角度を超える旋回走行時には、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度の約2倍の速度となるように駆動する前輪増速状態が現出される。
【0074】
つまり、小旋回モードにおいては、車速が作業速度範囲内となる低速前進時に、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、車体の走行状態を四輪駆動状態から前輪増速状態に切り換えることができ、四輪駆動状態よりも小さい旋回半径で車体を旋回させることができる。
【0075】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により急旋回モードが選択された場合には、その選択に基づいて、急旋回モードに対応する表示灯54を点灯させて急旋回モードの選択を運転者に報知するとともに、位置センサ57の検出に基づいてシャトルレバー26の操作位置を判別する。シャトルレバー26の操作位置が後進位置である場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。シャトルレバー26の操作位置が前進位置である場合は、切角センサ55の検出に基づいて、前輪7の切れ角が設定角度を超えたか否かを判別する。前輪7の切れ角が設定角度を超えていない場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。前輪7の切れ角が設定角度を超えている場合は、車速センサ56の検出に基づいて、車速が予め設定した作業速度範囲内であるか否かを判別する。車速が予め設定した作業速度範囲外である場合には、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速が予め設定した作業速度範囲内である場合には、その車速が作業速度範囲内の低速領域内(例えば0.2〜3.5km/hの間)であるか高速領域内(例えば3.6〜5.0km/hの間)であるかを判別する。車速が高速領域内である場合には、前述した前輪増速状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速が低速領域内である場合には、伝動切換装置18が前述した前輪増速状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御するとともに、切角センサ55の検出に基づいて、旋回内側のサイドブレーキ35が制動状態に切り換わるように制動弁39の作動を制御する。
【0076】
これにより、急旋回モードにおいては、シャトルレバー26を後進位置に操作した車体の後進状態では、車速や前輪7の切れ角に関係なく四輪駆動状態が現出される。また、シャトルレバー26を前進位置に操作した車体の前進状態では、車速が作業速度範囲の速度よりも遅くなる微速走行時、および、車速が作業速度範囲の速度よりも速くなる高速走行時に、前輪7の切れ角に関係なく四輪駆動状態が現出される。さらに、前進状態において車速が作業速度範囲内の速度となる低速走行時には、前輪7の切れ角が設定角度を超えていない直線走行時や曲線走行時に四輪駆動状態が現出される。そして、低速走行時において、前輪7の切れ角が設定角度を超える旋回走行時には、車速が作業速度範囲内の高速領域内である場合に前輪増速状態が現出され、車速が作業速度範囲内の低速領域内である場合に、その前輪増速状態に加えて旋回内側の後輪12を制動する増速制動状態が現出される。
【0077】
つまり、急旋回モードにおいては、車速を作業速度範囲内の高速領域内として車体を前進させた低速前進時に、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、車体の走行状態を四輪駆動状態から前輪増速状態に切り換えることができ、車体を四輪駆動状態よりも小さい旋回半径で旋回させることができる。また、この旋回走行時において、前輪7の切れ角が設定角度を超える状態を維持しながら、車速を作業速度範囲内の低速領域内まで低下させることにより、車体の走行状態を前輪増速状態から増速制動状態に切り換えることができ、前輪増速状態よりも小さい旋回半径で車体を旋回させることができる。
【0078】
昇降制御手段48Bには、ロータリ耕耘装置3を任意の高さ位置まで昇降させる任意昇降モード、ロータリ耕耘装置3の実耕深に基づいてロータリ耕耘装置3を設定耕深に維持する自動定深モード、これらの制御モードに優先してロータリ耕耘装置3を予め設定した上限位置または下限位置まで昇降させる優先昇降モード、前輪7の設定角度を超える操舵に連動してロータリ耕耘装置3を予め設定した上限位置まで上昇させる旋回上昇モード、および、後進状態への切り換えに連動してロータリ耕耘装置3を予め設定した上限位置まで上昇させる後進上昇モード、が昇降用の制御モードとして備えられている。
【0079】
昇降制御手段48Bは、運転座席10の右側方に配備した昇降レバー58の揺動操作に基づいて任意昇降モードを実行する。そして、この任意昇降モードでは、昇降レバー58の操作位置を検出するレバーセンサ59の検出と、リフトアーム40の上下揺動角度を検出するアームセンサ60の検出と、それらの検出を、レバーセンサ59の検出をロータリ耕耘装置3の目標高さ位置とし、アームセンサ60の検出をロータリ耕耘装置3の実高さ位置として対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出がレバーセンサ59の検出と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0080】
つまり、昇降レバー58の揺動操作を行うことにより、その昇降レバー58の操作位置に対応する任意の高さ位置までロータリ耕耘装置3を昇降させることができる。
【0081】
ちなみに、レバーセンサ59およびアームセンサ60には回転式のポテンショメータが採用されている。上記の相関関係データにはマップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0082】
昇降制御手段48Bは、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58が、その揺動操作領域の最下降位置側に設けたフローティング領域内に揺動操作されたことを検知した場合に、任意昇降モードに優先して自動定深モードを実行する。そして、この自動定深モードでは、操作パネル61に備えた耕深設定器62の出力と、ロータリ耕耘装置3における耕深の変動に伴って上下揺動する後部カバー63の上下揺動角度を検出するカバーセンサ64の検出と、その出力および検出を、耕深設定器62の出力をロータリ耕耘装置3の設定耕深とし、カバーセンサ64の検出をロータリ耕耘装置3の実耕深として対応させた相関関係データとに基づいて、カバーセンサ64の検出が、耕深設定器62の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0083】
つまり、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作することにより、カバーセンサ64により検出されるロータリ耕耘装置3の実耕深に基づいて、ロータリ耕耘装置3を、耕深設定器62により設定した設定耕深に維持することができる。
【0084】
ちなみに、操作パネル61は昇降レバー58の後方に配備されている。耕深設定器62およびカバーセンサ64には回転式のポテンショメータが採用されている。上記の相関関係データにはマップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0085】
昇降制御手段48Bは、ステアリングホイール9の右下方に配備した中立復帰型の優先レバー65の揺動操作に基づいて優先昇降モードを実行する。
【0086】
そして、この優先昇降モードでは、優先レバー65の揺動操作を検出する優先センサ66の出力に基づいて、優先レバー65の上方への揺動操作を検知した場合に、表示パネル49に備えた優先昇降モードに対応する表示灯67を点灯させて優先昇降モードの実行を運転者に報知するとともに、操作パネル61に備えた上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力および検出を、上限設定器68の出力をロータリ耕耘装置3の設定上限位置とし、アームセンサ60の検出をロータリ耕耘装置3の実高さ位置として対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0087】
逆に、優先レバー65の下方への揺動操作を検知した場合には、表示灯67を消灯させて優先昇降モードの終了を運転者に報知するとともに、レバーセンサ59の検出に基づいて昇降レバー58の操作位置を判別する。昇降レバー58が前述したフローティング領域外である場合には、レバーセンサ59の検出と、アームセンサ60の検出と、それらの検出を対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が、レバーセンサ59の検出と対応するように昇降弁42の作動を制御する。昇降レバー58が前述したフローティング領域内である場合には、耕深設定器62の出力と、カバーセンサ64の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、カバーセンサ64の検出が耕深設定器62の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0088】
つまり、優先レバー65を上方に向けて揺動操作することにより、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、ロータリ耕耘装置3を、昇降レバー58により予め設定した任意の高さ位置、または、耕深設定器62により設定した設定耕深まで自動下降させることができる。
【0089】
ちなみに、優先センサ66には、優先レバー65の上方への揺動操作に連動して閉操作される第1接点と、優先レバー65の下方への揺動操作に連動して閉操作される第2接点とを備えたスイッチが採用されている。上限設定器68には回転式のポテンショメータが採用されている。上記の相関関係データにはマップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0090】
昇降制御手段48Bは、操作パネル61に備えた旋回上昇モード選択用の選択スイッチ69が押圧操作されるごとに、旋回上昇モードの実行を選択した選択状態と、その選択を解除した選択解除状態とに切り換わる。
【0091】
そして、選択スイッチ69の押圧操作により旋回上昇モードの実行が選択された場合には、その選択に伴って、表示パネル49に備えた旋回上昇モードに対応する表示灯70を点灯させて旋回上昇モードの実行を運転者に報知するとともに、車速センサ56の検出と位置センサ57の検出とに基づいて車体の走行状態を判別する。車体の走行状態が停止状態または後進状態である場合は前進状態に切り換わるまで待機し、前進状態である場合は、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されているか否かを判別する。昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されていない場合は、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されるまで待機し、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されている場合は、切角センサ55の検出に基づいて、前輪7の切れ角が設定角度を超えたか否かを判別する。前輪7の切れ角が設定角度を超えていない場合は、前輪7の切れ角が設定角度を超えるまで待機し、前輪7の切れ角が設定角度を超えた場合は、上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0092】
また、選択スイッチ69の押圧操作により旋回上昇モードの実行選択が解除された場合には、その選択解除に伴って、表示パネル49に備えた旋回上昇モードに対応する表示灯70を消灯させて旋回上昇モードの実行停止を運転者に報知するとともに、上記の制御作動を停止する。
【0093】
つまり、旋回上昇モードの実行を選択した状態においては、ロータリ耕耘装置3を接地させて車体を前進させた作業走行時に、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、その操舵に連動して、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。
【0094】
昇降制御手段48Bは、操作パネル61に備えた後進上昇モード選択用の選択スイッチ71が押圧操作されるごとに、後進上昇モードの実行を選択した選択状態と、その選択を解除した選択解除状態とに切り換わる。
【0095】
そして、選択スイッチ71の押圧操作により後進上昇モードの実行が選択された場合には、その選択に伴って、表示パネル49に備えた後進上昇モードに対応する表示灯72を点灯させて後進上昇モードの実行を運転者に報知するとともに、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されているか否かを判別する。昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されていない場合は、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されるまで待機し、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されている場合は、車速センサ56の検出に基づいて車体が走行しているか否かを判別する。車体が停止している場合は車体が走行するまで待機し、車体が走行している場合は、位置センサ57の検出に基づいて車体の進行方向を判別する。車体の進行方向が前進方向である場合は後進方向に切り換わるまで待機し、車体の進行方向が後進方向である場合は、上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0096】
また、選択スイッチ71の押圧操作により後進上昇モードの実行選択が解除された場合には、その選択解除に伴って、表示パネル49に備えた後進上昇モードに対応する表示灯72を消灯させて後進上昇モードの実行停止を運転者に報知するとともに、上記の制御作動を停止する。
【0097】
つまり、後進上昇モードの実行を選択した状態においては、ロータリ耕耘装置3を接地させて車体を前進させた作業走行時に、シャトルレバー25を前進位置から後進位置に揺動操作することにより、その操作に連動して、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。
【0098】
ローリング制御手段48Cには、水平圃場においてロータリ耕耘装置3のローリング角度を予め設定した設定角度に維持する水平モード、および、傾斜圃場で車体を等高線に沿って走行させる作業走行時においてロータリ耕耘装置3のローリング角度を予め設定した設定角度に維持する傾斜モード、などがローリング用の制御モードとして備えられている。
【0099】
ローリング制御手段48Cは、操作パネル61に備えたローリングモード選択用の選択スイッチ73が押圧操作されるごとに、実行するローリング用の制御モードを水平モードと傾斜モードとに順次切り換えるとともに、操作パネル61に備えた2つの表示灯74,75のうち、実行が選択された制御モードに対応するものを点灯させる。
【0100】
具体的には、選択スイッチ73の押圧操作により水平モードの実行が選択された場合は、水平モードに対応する表示灯74を点灯させて水平モードの実行を運転者に報知するとともに、トラクタ1のローリング角度を検出する傾斜センサ76の検出と、トラクタ1のローリング角速度を検出する角速度センサ77の検出とに基づいて、トラクタ1の実ローリング角度を算出し、その算出値と、操作パネル61に備えたローリング角度設定器78の出力と、トラクタ1に対するロータリ耕耘装置3のローリング角度とローリングシリンダ46の長さとを対応させた相関関係データとに基づいて、ローリングシリンダ46の目標長さを設定し、その設定値と、ローリングシリンダ46の長さを検出するストロークセンサ79の検出とに基づいて、ストロークセンサ79の検出が設定値と対応するようにローリング弁47の作動を制御することにより、ロータリ耕耘装置3をローリング角度設定器78で設定した目標ローリング角度に維持する。
【0101】
また、選択スイッチ73の押圧操作により傾斜モードの実行が選択された場合には、傾斜モードに対応する表示灯75を点灯させて傾斜モードの実行を運転者に報知する一方で、基本的には、水平モードの実行が選択された場合と同様の制御作動を行いながら、谷側車輪の沈下を考慮して、ローリング角度設定器78の出力(ロータリ耕耘装置3の目標ローリング角度)を自動的に補正する。これにより、傾斜圃場での谷側車輪の沈下にかかわらず、ロータリ耕耘装置3をローリング角度設定器78で設定した目標ローリング角度に精度良く維持することができる。
【0102】
ちなみに、傾斜センサ76には重錘式のものが採用されている。角速度センサ77には振動ジャイロ式のものが採用されている。ローリング角度設定器78には回転式のポテンショメータが採用されている。ストロークセンサ79には摺動式のポテンショメータが採用されている。上記の相関関係データにはマップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0103】
作業動力制御手段48Dには、動力取出軸23に伝動する出力モード、動力取出軸23への伝動を遮断する出力停止モード、および、ロータリ耕耘装置3の昇降に連動して動力取出軸23に対する伝動を断続する出力断続モード、が動力取り出し用の制御モードとして備えられている。
【0104】
作業動力制御手段48Dは、それらの動力取り出し用の制御モードに対応して操作パネル61に備えた3つの選択スイッチ80〜82のいずれかが押圧操作されることにより、実行する動力取り出し用の制御モードを、その押圧操作された選択スイッチ80〜82に対応するものに切り換えるとともに、操作パネル61に備えた3つの表示灯83〜85のうち、実行が選択された制御モードに対応するものを点灯させる。
【0105】
具体的には、出力モード選択用の選択スイッチ80の押圧操作により出力モードの実行が選択された場合には、作業用クラッチ21が入り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御するとともに、出力モードに対応する表示灯83を点灯させる。
【0106】
また、出力停止モード選択用の選択スイッチ81の押圧操作により出力停止モードの実行が選択された場合には、作業用クラッチ21が切り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御するとともに、出力停止モードに対応する表示灯84を点灯させる。
【0107】
そして、出力断続モード選択用の選択スイッチ82の押圧操作により出力断続モードの実行が選択された場合には、出力断続モードに対応する表示灯85を点灯させるとともに、カバーセンサ64の検出に基づいて、ロータリ耕耘装置3の接地を検知するのに伴って作業用クラッチ21が入り状態に切り換わり、ロータリ耕耘装置3の浮上を検知するのに伴って作業用クラッチ21が切り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御する。
【0108】
これにより、例えば、肥料や薬剤などを散布する散布装置のように浮上状態で作動させる必要のある対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に関係なく、動力取出軸23から取り出した作業用の動力により対地作業装置を駆動することができる。また、例えば、プラウのようにトラクタ1からの動力を必要としない対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力停止モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に関係なく、動力取出軸23からの作業用の動力の取り出しを停止することができる。さらに、例えば、ロータリ耕耘装置3のようにその昇降に応じて駆動状態と停止状態とに切り換えることが望ましい対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力断続モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に応じて自動的に対地作業装置を駆動状態と停止状態とに切り換えることができる。そして、対地作業装置を緊急停止させる必要が生じた場合には、出力停止モード選択用の選択スイッチ81を押圧操作することにより、対地作業装置を速やかに停止させることができる。
【0109】
以上の構成から、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、四輪駆動モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、圃場内に設定した走行経路に沿って車体を走行させる圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の作業状態である第1状態として、ロータリ耕耘装置3を定深耕耘作動させながら前述した四輪駆動状態で車体を走行させる四駆耕耘状態を現出することができる。
【0110】
また、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時(枕地旋回時)には、その旋回走行を開始する際に、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の移動状態である第2状態として、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるとともに設定上限位置に向けて上昇させながら前述した四輪駆動状態で車体を旋回させる四駆旋回状態を現出することができる。
【0111】
そして、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0112】
また、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、小旋回モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、前述した圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の第1状態として前述した四駆耕耘状態を現出することができる。
【0113】
そして、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時には、その旋回走行を開始する際に、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の第2状態として、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるとともに設定上限位置に向けて上昇させながら前述した前輪増速状態で車体を旋回させる増速旋回状態を現出することができる。
【0114】
また、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0115】
さらに、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、急旋回モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、前述した圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の第1状態として前述した四駆耕耘状態を現出することができる。
【0116】
また、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時には、その旋回走行を開始する際に、車速を作業速度範囲内の高速領域内とした状態で、前輪7の切れ角が設定角度を超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の第2状態として前述した増速旋回状態を現出することができる。
【0117】
さらに、その旋回走行時において、前輪7の切れ角が設定角度を超える状態を維持しながら、車速を作業速度範囲内の低速領域内まで低下させることにより、この圃場内走行時における車体の第3状態として、ロータリ耕耘装置3の駆動停止状態と設定上限位置への上昇状態とを維持しながら前述した増速制動状態で車体を旋回させる増速制動旋回状態を現出することができる。
【0118】
そして、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0119】
つまり、圃場内走行時において作業走行を開始する際には、発進操作とともに昇降レバー58のフローティング領域内への揺動操作を行うことにより、車体の状態として、作業用の第1状態を簡単に現出することができる。また、作業走行後の畦際での旋回走行時には、その旋回走行を開始する際の操舵によって前輪7の切れ角が設定角度を超えることにより、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるための専用の操作やロータリ耕耘装置3を浮上させるための専用の操作を行うことなく、車体の状態を、作業用の第1状態から移動用の第2状態に自動的に切り換えることができる。さらに、その旋回走行後の作業走行時には、旋回走行終了前に優先レバー65の下方への揺動操作を行うだけで、車体の状態を、移動用の第2状態または第3状態から作業用の第1状態に簡単に切り換えることができる。
【0120】
そして、この構成においては、制御装置48が、切角センサ55などの検出に基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段として機能する。
【0121】
ところで、耕耘作業を行う場合には、車体を圃場内に進入させて最初の作業走行経路に近づけた後、昇降レバー58のフローティング領域内への揺動操作を行いながら、車体の位置を最初の作業走行経路に合わせる位置合わせ走行を行うようになる。
【0122】
また、前述した隣接耕法による耕耘作業においては、畦際での旋回走行後に、車体の位置と次の作業走行経路との間にズレが生じることがある。このような位置ズレが生じた場合には、旋回走行終了前に行った優先レバー65の下方への揺動操作に基づく車体状態の第2状態または第3状態から第1状態への切り換えが行われる一方で、旋回走行後に生じた次の作業走行経路に対する車体の位置ズレを修正して車体位置を次の作業走行経路に合わせる位置合わせ走行を行うことになる。
【0123】
そして、上記のような位置合わせ走行を行う場合には、一旦、車体の走行状態を前進状態から後進状態に切り換えることがある。また、車体の後進状態を現出する際にはロータリ耕耘装置3を浮上させる必要がある。
【0124】
そこで、このトラクタ1においては、昇降制御手段48Bが備える昇降用の制御モードの一つとして後進上昇モードが備えられている。これにより、耕耘作業を開始する前に、後進上昇モードの実行を選択すれば、前述した位置合わせ走行時などにおいて車体の走行状態を前進状態から後進状態に切り換える場合には、そのときのシャトルレバー25の前進位置から後進位置への揺動操作に連動して、ロータリ耕耘装置3を設定上限位置まで自動上昇させて浮上させることができる。
【0125】
ところで、前述した隣接耕法による耕耘作業などを行う上において、車体の状態を作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を小さい角度に設定すると、例えば、畦から圃場に向けて張り出す障害物が存在する圃場での作業走行時において、その障害物を避けるように車体を曲線走行させるために、枕地旋回時よりも前輪7の切れ角が小さくなる操舵を行った場合や、畦が湾曲する変形田での作業走行時において、その湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させるために、枕地旋回時よりも前輪7の切れ角が小さくなる操舵を行った場合であっても、そのときの前輪7の切れ角が設定角度を超える可能性が高くなる。そのため、その設定角度を超える操舵に基づいて、作業走行時の車体の状態として、前述した四駆旋回状態、増速旋回状態、あるいは増速制動旋回状態、といった移動用の第2状態が不測に現出される虞がある。そして、このような移動用の第2状態が位置合わせ走行時に不測に現出されると、作業走行中であるにもかかわらず、ロータリ耕耘装置3による耕耘が行われなくなる不都合を招くことになる。
【0126】
この不都合の発生を回避するために設定角度を大きくすると、畦際での旋回走行において、その旋回走行を行うための操舵を開始してから前輪7の切れ角が設定角度に達してロータリ耕耘装置3が浮上するまでに要する時間が長くなる。そのため、車体が旋回しながらロータリ耕耘装置3による耕耘が行われる時間、言い換えると、耕した土が周囲にまき散らされる時間が長くなり、これにより、旋回走行時に旋回内側の圃場部分を陥没させる不都合を招き易くなる。
【0127】
そこで、図5および図6の(A)に示すように、このトラクタ1の制御装置48には、ステアリングホイール9の回転速度を操舵速度として検出する角速度センサからなる操舵速度検出手段86の検出に基づいて、その操舵速度が遅くなると、設定角度が設定上限角度(例えば45度)に達するまでの間は、検出された操舵速度に応じて設定角度が無段階で大きくなるように、また、その操舵速度が速くなると、設定角度が設定下限角度(例えば30度)に達するまでの間は、検出された操舵速度に応じて設定角度が無段階で小さくなるように設定角度を変更する設定角度変更手段48Eが制御プログラムとして備えられている。
【0128】
これにより、操舵速度が遅い場合には、設定角度が大きい角度に変更されることにより、車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わり難くなる。逆に、操舵速度が速い場合には、設定角度が小さい角度に変更されることにより、車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わり易くなる。
【0129】
そして、一般的には、旋回半径の大きい曲線走行を行う場合には、そのときの旋回半径に応じた小さい切れ角で前輪7を操舵するだけでよいことから操舵速度が遅くなる。また、旋回半径の小さい旋回走行を行う場合には、短時間の間で、そのときの旋回半径に応じた大きい切れ角で前輪7を操舵する必要があることから操舵速度が速くなる。
【0130】
これらの点から、旋回半径の大きい曲線走行を行う場合には、設定角度が大きい角度に変更されることになり、これにより、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり難くなる。逆に、旋回半径の小さい旋回走行を行う場合には、設定角度が小さい角度に変更されることになり、これにより、車体の状態が第1状態から第2状態に切り換わり易くなる。
【0131】
つまり、例えば、畦から圃場に向けて張り出す障害物が存在する圃場での作業走行時に、その障害物を避けるように車体を曲線走行させる場合や、畦が湾曲する変形田での作業走行時に、その湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させる場合などにおいては、そのときの操舵速度が遅くなることにより、そのときの操舵速度に応じて設定角度が大きい角度に変更されることになる。そのため、これらの作業走行時において前輪7の切れ角が設定角度を超える可能性を低く抑えることができる。その結果、これらの作業走行時において、前輪7の切れ角に基づいて車体の状態が不測に作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わる誤作動が発生する虞を抑制することができ、その誤作動により、作業走行時であるにもかかわらずロータリ耕耘装置3による耕耘が行われなくなることを抑制することができる。
【0132】
また、例えば、隣接耕法による耕耘作業時などにおいて、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行を行う場合には、そのときの操舵速度が速くなることにより、そのときの操舵速度に応じて設定角度が小さい角度に変更されることになる。そのため、このような旋回走行時には、旋回走行を開始してから、前輪7の切れ角が設定角度に達して車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わるまでに要する時間を短くすることができる。その結果、旋回走行開始時の操舵に基づいて車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わるまでに要する時間が長くなることに起因して、旋回走行時に旋回内側の圃場部分が陥没する、といった不都合が発生する虞を抑制することができる。
【0133】
そして、設定角度には下限角度が設定されていることにより、作業走行時に急速な操舵が行われた場合であっても、そのときの操舵により現出される車体の走行状態が、そのときの前輪7の切れ角が設定下限角度を超えない程度の旋回半径の大きい曲線走行状態であれば、このときの曲線走行によって車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わる虞を回避することができる。
【0134】
また、設定角度には上限角度が設定されていることにより、旋回走行時に緩慢な操舵が行われた場合であっても、そのときの操舵により現出される車体の旋回走行状態が、そのときの前輪7の切れ角が設定上限角度を超えるほどの旋回半径の小さい旋回走行状態であれば、その旋回走行状態の現出に伴って車体の状態を作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換えることができる。
【0135】
〔第2実施形態〕
【0136】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例として、本発明に係る作業車の車体状態切り換え構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した第2実施形態を図面に基づいて説明する。
【0137】
なお、この第2実施形態は、前述した第1実施形態とは、作業車の車体状態切り換え構造に関する制御構成のみが異なるものであることから、以下、その制御構成についてのみ説明する。
【0138】
図7に示すように、制御装置48には、前述した走行制御手段48A、昇降制御手段48B、ローリング制御手段48C、および、作業動力制御手段48D、などに加えて、車体の所定時間当たりの旋回角度を算出する旋回角度算出手段48Fが制御プログラムとして備えられている。
【0139】
ところで、車体の旋回角度は、車体の旋回角速度を積分することにより算出することができる。車体の旋回角速度は、車速を車体の旋回半径で割ることにより算出することができる。また、図8に示すように、このトラクタ1が、アッカーマン・ジャントー方式に基づいて、その旋回走行時には、旋回内側の前輪7の切れ角θsaが旋回外側の前輪7の切れ角θsbよりも大きくなって、各車輪7,12の旋回中心が固定車軸である後車軸87の延長線上の一点に収束されるように構成していることにより、車体の旋回半径は、車体の軸間距離を操舵輪の切れ角で割った値に車輪間隔の半分の値を加えることにより算出することができる。
【0140】
つまり、車体の旋回角度θは、θ=ω(車体の旋回角速度)×t(時間)となり、車体の旋回角速度ωは、ω=v(車速)/r(旋回半径)となり、旋回半径rは、r=W(軸間距離)/tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2となることから、θ(車体の旋回角度)={v(車速)/〔W(軸間距離)/tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2〕}×t(時間)という関係式を導き出すことができる。
【0141】
そして、旋回角度算出手段48Fは、この関係式、トラクタ1の車体情報、切角センサ55により検出される前輪7の切れ角θs、および、車速センサ56により検出される車速v、に基づいて車体の所定時間当たりの旋回角度θを算出するように構成されている。
【0142】
図7および図8に示すように、走行制御手段48Aには、二輪駆動モード、四輪駆動モード、小旋回モード、および急旋回モード、が走行用の制御モードとして備えられている。
【0143】
走行制御手段48Aは、走行モード選択用の選択スイッチ50の操作により二輪駆動モードが選択された場合には、その選択に基づいて、二輪駆動モードに対応する表示灯51を点灯させて二輪駆動モードの選択を運転者に報知するとともに、伝動切換装置18が前述した前輪従動状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。これにより、左右の後輪12のみを駆動する二輪駆動状態が現出される。
【0144】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により四輪駆動モードが選択された場合には、その選択に基づいて、四輪駆動モードに対応する表示灯52を点灯させて四輪駆動モードの選択を運転者に報知するとともに、伝動切換装置18が前述した前輪駆動状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。これにより、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度と同じ速度になるように駆動する四輪駆動状態が現出される。
【0145】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により小旋回モードが選択された場合には、その選択に基づいて、小旋回モードに対応する表示灯53を点灯させて小旋回モードの選択を運転者に報知するとともに、位置センサ57の検出に基づいてシャトルレバー26の操作位置を判別する。シャトルレバー26の操作位置が後進位置である場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。シャトルレバー26の操作位置が前進位置である場合は、旋回角度算出手段48Fにより算出された車体の旋回角度θに基づいて、車体の旋回角度θが設定角度θo(例えば20度)を超えたか否かを判別する。車体の旋回角度θが設定角度θoを超えていない場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車体の旋回角度θが設定角度θoを超えている場合は、車速センサ56の検出に基づいて、車速vが予め設定した作業速度範囲内(例えば0.2〜5.0km/hの間)であるか否かを判別する。車速vが予め設定した作業速度範囲外である場合には、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速vが予め設定した作業速度範囲内である場合には、伝動切換装置18が前述した前輪増速状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御する。
【0146】
これにより、小旋回モードにおいては、シャトルレバー26を後進位置に操作した車体の後進状態では、車体の旋回角度θや車速vに関係なく四輪駆動状態が現出される。また、シャトルレバー26を前進位置に操作した車体の前進状態では、車速vが作業速度範囲の速度よりも遅くなる微速走行時、および、車速vが作業速度範囲の速度よりも速くなる高速走行時に、車体の旋回角度θに関係なく四輪駆動状態が現出される。さらに、前進状態において車速vが作業速度範囲内の速度となる低速走行時には、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えていない直線走行時や曲線走行時に四輪駆動状態が現出される。そして、低速走行時において、車体の旋回角度θが設定角度θoを超える旋回走行時には、左右の前輪7を、それらの周速度が左右の後輪12の周速度の約2倍の速度となるように駆動する前輪増速状態が現出される。
【0147】
つまり、小旋回モードにおいては、車速vが作業速度範囲内となる低速前進時に、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、車体の走行状態を四輪駆動状態から前輪増速状態に切り換えることができ、四輪駆動状態よりも小さい旋回半径で車体を旋回させることができる。
【0148】
走行制御手段48Aは、選択スイッチ50の操作により急旋回モードが選択された場合には、その選択に基づいて、急旋回モードに対応する表示灯54を点灯させて急旋回モードの選択を運転者に報知するとともに、位置センサ57の検出に基づいてシャトルレバー26の操作位置を判別する。シャトルレバー26の操作位置が後進位置である場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。シャトルレバー26の操作位置が前進位置である場合は、切角センサ55の検出に基づいて、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えたか否かを判別する。車体の旋回角度θが設定角度θoを超えていない場合は、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車体の旋回角度θが設定角度θoを超えている場合は、車速センサ56の検出に基づいて、車速vが予め設定した作業速度範囲内であるか否かを判別する。車速vが予め設定した作業速度範囲外である場合には、前述した四輪駆動状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速vが予め設定した作業速度範囲内である場合には、その車速vが作業速度範囲内の低速領域内(例えば0.2〜3.5km/hの間)であるか高速領域内(例えば3.6〜5.0km/hの間)であるかを判別する。車速vが高速領域内である場合には、前述した前輪増速状態が現出されるように伝動切換弁32の作動を制御する。車速vが低速領域内である場合には、伝動切換装置18が前述した前輪増速状態に切り換わるように伝動切換弁32の作動を制御するとともに、切角センサ55の検出に基づいて、旋回内側のサイドブレーキ35が制動状態に切り換わるように制動弁39の作動を制御する。
【0149】
これにより、急旋回モードにおいては、シャトルレバー26を後進位置に操作した車体の後進状態では、車速vや車体の旋回角度θに関係なく四輪駆動状態が現出される。また、シャトルレバー26を前進位置に操作した車体の前進状態では、車速vが作業速度範囲の速度よりも遅くなる微速走行時、および、車速vが作業速度範囲の速度よりも速くなる高速走行時に、車体の旋回角度θに関係なく四輪駆動状態が現出される。さらに、前進状態において車速vが作業速度範囲内の速度となる低速走行時には、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えていない直線走行時や曲線走行時に四輪駆動状態が現出される。そして、低速走行時において、車体の旋回角度θが設定角度θoを超える旋回走行時には、車速vが作業速度範囲内の高速領域内である場合に前輪増速状態が現出され、車速vが作業速度範囲内の低速領域内である場合に、その前輪増速状態に加えて旋回内側の後輪12を制動する増速制動状態が現出される。
【0150】
つまり、急旋回モードにおいては、車速vを作業速度範囲内の高速領域内として車体を前進させた低速前進時に、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、車体の走行状態を四輪駆動状態から前輪増速状態に切り換えることができ、車体を四輪駆動状態よりも小さい旋回半径で旋回させることができる。また、この旋回走行時において、車体の旋回角度θが設定角度θoを超える状態を維持しながら、車速vを作業速度範囲内の低速領域内まで低下させることにより、車体の走行状態を前輪増速状態から増速制動状態に切り換えることができ、前輪増速状態よりも小さい旋回半径で車体を旋回させることができる。
【0151】
昇降制御手段48Bには、任意昇降モード、自動定深モード、優先昇降モード、旋回上昇モード、および後進上昇モード、が昇降用の制御モードとして備えられている。
【0152】
昇降制御手段48Bは、昇降レバー58の揺動操作に基づいて任意昇降モードを実行する。そして、この任意昇降モードでは、昇降レバー58の操作位置を検出するレバーセンサ59の検出と、リフトアーム40の上下揺動角度を検出するアームセンサ60の検出と、それらの検出を対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出がレバーセンサ59の検出と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0153】
つまり、昇降レバー58の揺動操作を行うことにより、その昇降レバー58の操作位置に対応する任意の高さ位置までロータリ耕耘装置3を昇降させることができる。
【0154】
昇降制御手段48Bは、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58が、その揺動操作領域の最下降位置側に設けたフローティング領域内に揺動操作されたことを検知した場合に、任意昇降モードに優先して自動定深モードを実行する。そして、この自動定深モードでは、耕深設定器62の出力と、カバーセンサ64の検出と、その出力および検出を対応させた相関関係データとに基づいて、カバーセンサ64の検出が、耕深設定器62の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0155】
つまり、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作することにより、カバーセンサ64により検出されるロータリ耕耘装置3の実耕深に基づいて、ロータリ耕耘装置3を、耕深設定器62により設定した設定耕深に維持することができる。
【0156】
昇降制御手段48Bは、優先レバー65の揺動操作に基づいて優先昇降モードを実行する。そして、この優先昇降モードでは、優先センサ66の出力に基づいて、優先レバー65の上方への揺動操作を検知した場合に、優先昇降モードに対応する表示灯67を点灯させて優先昇降モードの実行を運転者に報知するとともに、上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力および検出を対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0157】
逆に、優先レバー65の下方への揺動操作を検知した場合には、表示灯67を消灯させて優先昇降モードの終了を運転者に報知するとともに、レバーセンサ59の検出に基づいて昇降レバー58の操作位置を判別する。昇降レバー58が前述したフローティング領域外である場合には、レバーセンサ59の検出と、アームセンサ60の検出と、それらの検出を対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が、レバーセンサ59の検出と対応するように昇降弁42の作動を制御する。昇降レバー58が前述したフローティング領域内である場合には、耕深設定器62の出力と、カバーセンサ64の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、カバーセンサ64の検出が耕深設定器62の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0158】
つまり、優先レバー65を上方に向けて揺動操作することにより、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、ロータリ耕耘装置3を、昇降レバー58により予め設定した任意の高さ位置、または、耕深設定器62により設定した設定耕深まで自動下降させることができる。
【0159】
昇降制御手段48Bは、旋回上昇モード選択用の選択スイッチ69の押圧操作により旋回上昇モードの実行が選択された場合には、その選択に伴って、旋回上昇モードに対応する表示灯70を点灯させて旋回上昇モードの実行を運転者に報知するとともに、車速センサ56の検出と位置センサ57の検出とに基づいて車体の走行状態を判別する。車体の走行状態が停止状態または後進状態である場合は前進状態に切り換わるまで待機し、前進状態である場合は、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されているか否かを判別する。昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されていない場合は、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されるまで待機し、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されている場合は、旋回角度算出手段48Fにより算出された車体の旋回角度θに基づいて、車体の旋回角度θが設定角度θo(例えば20度)を超えたか否かを判別する。車体の旋回角度θが設定角度θoを超えていない場合は、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるまで待機し、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えた場合は、上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0160】
また、選択スイッチ69の押圧操作により旋回上昇モードの実行選択が解除された場合には、その選択解除に伴って、旋回上昇モードに対応する表示灯70を消灯させて旋回上昇モードの実行停止を運転者に報知するとともに、上記の制御作動を停止する。
【0161】
つまり、旋回上昇モードの実行を選択した状態においては、ロータリ耕耘装置3を接地させて車体を前進させた作業走行時に、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、その操舵に連動して、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。
【0162】
昇降制御手段48Bは、後進上昇モード選択用の選択スイッチ71の押圧操作により後進上昇モードの実行が選択された場合には、その選択に伴って、表示パネル49に備えた後進上昇モードに対応する表示灯72を点灯させて後進上昇モードの実行を運転者に報知するとともに、レバーセンサ59の検出に基づいて、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されているか否かを判別する。昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されていない場合は、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されるまで待機し、昇降レバー58がフローティング領域内に揺動操作されている場合は、車速センサ56の検出に基づいて車体が走行しているか否かを判別する。車体が停止している場合は車体が走行するまで待機し、車体が走行している場合は、位置センサ57の検出に基づいて車体の進行方向を判別する。車体の進行方向が前進方向である場合は後進方向に切り換わるまで待機し、車体の進行方向が後進方向である場合は、上限設定器68の出力と、アームセンサ60の検出と、その出力と検出とを対応させた相関関係データとに基づいて、アームセンサ60の検出が上限設定器68の出力と対応するように昇降弁42の作動を制御する。
【0163】
また、選択スイッチ71の押圧操作により後進上昇モードの実行選択が解除された場合には、その選択解除に伴って、表示パネル49に備えた後進上昇モードに対応する表示灯72を消灯させて後進上昇モードの実行停止を運転者に報知するとともに、上記の制御作動を停止する。
【0164】
つまり、後進上昇モードの実行を選択した状態においては、ロータリ耕耘装置3を接地させて車体を前進させた作業走行時に、シャトルレバー25を前進位置から後進位置に揺動操作することにより、その操作に連動して、ロータリ耕耘装置3を上限設定器68により予め設定した上限位置まで自動上昇させることができる。
【0165】
ローリング制御手段48Cには、水平モードおよび傾斜モードなどがローリング用の制御モードとして備えられている。
【0166】
ローリング制御手段48Cは、ローリングモード選択用の選択スイッチ73の押圧操作により水平モードの実行が選択された場合は、水平モードに対応する表示灯74を点灯させて水平モードの実行を運転者に報知するとともに、傾斜センサ76の検出と角速度センサ77の検出とに基づいてトラクタ1の実ローリング角度を算出し、その算出値と、ローリング角度設定器78の出力と、トラクタ1に対するロータリ耕耘装置3のローリング角度とローリングシリンダ46の長さとを対応させた相関関係データとに基づいて、ローリングシリンダ46の目標長さを設定し、その設定値と、ローリングシリンダ46の長さを検出するストロークセンサ79の検出とに基づいて、ストロークセンサ79の検出が設定値と対応するようにローリング弁47の作動を制御することにより、ロータリ耕耘装置3をローリング角度設定器78で設定した目標ローリング角度に維持する。
【0167】
また、選択スイッチ73の押圧操作により傾斜モードの実行が選択された場合には、傾斜モードに対応する表示灯75を点灯させて傾斜モードの実行を運転者に報知する一方で、基本的には、水平モードの実行が選択された場合と同様の制御作動を行いながら、谷側車輪の沈下を考慮して、ローリング角度設定器78の出力(ロータリ耕耘装置3の目標ローリング角度)を自動的に補正する。これにより、傾斜圃場での谷側車輪の沈下にかかわらず、ロータリ耕耘装置3をローリング角度設定器78で設定した目標ローリング角度に精度良く維持することができる。
【0168】
作業動力制御手段48Dには、出力モード、出力停止モード、および出力断続モード、が動力取り出し用の制御モードとして備えられている。
【0169】
作業動力制御手段48Dは、出力モード選択用の選択スイッチ80の押圧操作により出力モードの実行が選択された場合には、作業用クラッチ21が入り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御するとともに、出力モードに対応する表示灯83を点灯させる。
【0170】
また、出力停止モード選択用の選択スイッチ81の押圧操作により出力停止モードの実行が選択された場合には、作業用クラッチ21が切り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御するとともに、出力停止モードに対応する表示灯84を点灯させる。
【0171】
そして、出力断続モード選択用の選択スイッチ82の押圧操作により出力断続モードの実行が選択された場合には、出力断続モードに対応する表示灯85を点灯させるとともに、カバーセンサ64の検出に基づいて、ロータリ耕耘装置3の接地を検知するのに伴って作業用クラッチ21が入り状態に切り換わり、ロータリ耕耘装置3の浮上を検知するのに伴って作業用クラッチ21が切り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御する。
【0172】
これにより、例えば、肥料や薬剤などを散布する散布装置のように浮上状態で作動させる必要のある対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に関係なく、動力取出軸23から取り出した作業用の動力により対地作業装置を駆動することができる。また、例えば、プラウのようにトラクタ1からの動力を必要としない対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力停止モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に関係なく、動力取出軸23からの作業用の動力の取り出しを停止することができる。さらに、例えば、ロータリ耕耘装置3のようにその昇降に応じて駆動状態と停止状態とに切り換えることが望ましい対地作業装置をトラクタ1に連結した場合には、出力断続モードの実行を選択することにより、対地作業装置の昇降に応じて自動的に対地作業装置を駆動状態と停止状態とに切り換えることができる。そして、対地作業装置を緊急停止させる必要が生じた場合には、出力停止モード選択用の選択スイッチ81を押圧操作することにより、対地作業装置を速やかに停止させることができる。
【0173】
以上の構成から、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、四輪駆動モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、圃場内に設定した走行経路に沿って車体を走行させる圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の作業状態である第1状態として、ロータリ耕耘装置3を定深耕耘作動させながら前述した四輪駆動状態で車体を走行させる四駆耕耘状態を現出することができる。
【0174】
また、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時(枕地旋回時)には、その旋回走行を開始する際に、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の移動状態である第2状態として、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるとともに設定上限位置に向けて上昇させながら前述した四輪駆動状態で車体を旋回させる四駆旋回状態を現出することができる。
【0175】
そして、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0176】
また、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、小旋回モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、前述した圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の第1状態として前述した四駆耕耘状態を現出することができる。
【0177】
そして、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時には、その旋回走行を開始する際に、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の第2状態として、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるとともに設定上限位置に向けて上昇させながら前述した前輪増速状態で車体を旋回させる増速旋回状態を現出することができる。
【0178】
また、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0179】
さらに、例えば、隣接耕法による耕耘作業を開始する前に、急旋回モード、旋回上昇モード、および出力断続モードの実行を選択すれば、前述した圃場内走行時において、最初の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、前進走行を開始するための発進操作とともに、昇降レバー58をフローティング領域内に揺動操作して自動定深モードを実行させることにより、この圃場内走行時における車体の第1状態として前述した四駆耕耘状態を現出することができる。
【0180】
また、その作業走行後の畦際において、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行時には、その旋回走行を開始する際に、車速vを作業速度範囲内の高速領域内とした状態で、車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるように操舵することにより、この圃場内走行時における車体の第2状態として前述した増速旋回状態を現出することができる。
【0181】
さらに、その旋回走行時において、車体の旋回角度θが設定角度θoが設定角度を超える状態を維持しながら、車速vを作業速度範囲内の低速領域内まで低下させることにより、この圃場内走行時における車体の第3状態として、ロータリ耕耘装置3の駆動停止状態と設定上限位置への上昇状態とを維持しながら前述した増速制動状態で車体を旋回させる増速制動旋回状態を現出することができる。
【0182】
そして、その旋回走行後に次の作業走行経路に沿って車体を走行させる作業走行時には、その旋回走行の終了前に優先レバー65を下方に向けて揺動操作することにより、その旋回走行の終了とともに、車体の第1状態である四駆耕耘状態を再現出することができる。
【0183】
つまり、圃場内走行時において作業走行を開始する際には、発進操作とともに昇降レバー58のフローティング領域内への揺動操作を行うことにより、車体の状態として、作業用の第1状態を簡単に現出することができる。また、作業走行後の畦際での旋回走行時には、その旋回走行を開始する際の操舵によって車体の旋回角度θが設定角度θoを超えることにより、ロータリ耕耘装置3を駆動停止させるための専用の操作やロータリ耕耘装置3を浮上させるための専用の操作を行うことなく、車体の状態を、作業用の第1状態から移動用の第2状態に自動的に切り換えることができる。さらに、その旋回走行後の作業走行時には、旋回走行終了前に優先レバー65の下方への揺動操作を行うだけで、車体の状態を、移動用の第2状態または第3状態から作業用の第1状態に簡単に切り換えることができる。
【0184】
そして、この構成においては、制御装置48が、切角センサ55や車速センサ56の検出などに基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段として機能する。
【0185】
ところで、車体の旋回角度θは、θ(車体の旋回角度)={v(車速)/〔W(軸間距離)/tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2〕}×t(時間)という前述した関係式に示されているように、車速vが速い場合や前輪7の切れ角θsが大きい場合にそれらに応じて大きくなり、逆に、車速vが遅い場合や前輪7の切れ角θsが小さい場合にそれらに応じて小さくなる。そのため、車速vが遅い場合には、前輪7の切れ角θsが大きくても車体の旋回角度θが設定角度θoを超えないことがある。
【0186】
これにより、例えば、作業走行時において、作業地の凹凸によりハンドルが取られることや、ハンドルが取られた後に軌道を修正するための操舵を行うことなどにより、瞬間的に前輪7の切れ角θsが大きくなった場合であっても、そのときの車速vが遅ければ遅いほど、そのときの車体の旋回角度θが設定角度θoを超える可能性が低くなる。
【0187】
つまり、車体状態切換手段として機能する制御装置48が、切角センサ55および車速センサ56の検出などに基づいて車体の旋回角度θを算出し、その算出結果に基づいて車体の状態を作業用の第1状態と移動用の第2状態とに切り換えるように構成したことにより、切角センサ55の検出のみに基づいて車体の状態を作業用の第1状態と移動用の第2状態とに切り換えるように構成した場合に生じていた、作業走行時において、作業地の凹凸によりハンドルが取られることなどに起因して、前輪7の切れ角θsが瞬間的に大きくなることにより、車体の状態が不測に作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わる、といった不都合の発生を抑制することができる。
【0188】
また、隣接耕法による耕耘作業時などにおいて、現在の作業走行経路から隣接する次の作業走行経路に向けて車体を移動させる旋回走行を行う場合には、その旋回走行により車体の旋回角度θが設定角度θoを超えるのに伴って必ず車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わることから、その切り換えに遅れが生じることに起因して、車体が旋回しながらロータリ耕耘装置3により耕耘する時間が長くなり、その旋回走行時に旋回内側の圃場部分が陥没する、といった不都合が生じる虞を回避することができる。
【0189】
しかも、旋回角度算出手段48Fが、車体の所定時間当たりの旋回角度θを算出することにより、例えば、湾曲する畦に沿って車体を曲線走行させるなどの作業走行時において、車体の旋回角速度ωを積分することにより得られる車体の旋回角度θが設定角度θoを超えることを回避することができ、これにより、車体を曲線走行させる作業走行時であるにもかかわらず、車体の旋回角速度ωを積分することにより得られる車体の旋回角度θが設定角度θoを超えて、車体の状態が不測に第1状態から第2状態に切り換わる、といった誤作動が発生する虞を抑制することができる。
【0190】
旋回角度算出手段48Fは、車速センサ56の検出に基づいて車体の走行停止を検知した場合、位置センサ57の検出に基づいて車体の後進を検知した場合、または、アームセンサ60の検出によりロータリ耕耘装置3の浮上を検知した場合に、算出した車体の旋回角度θをリセットするように構成されている。
【0191】
〔別実施形態〕
【0192】
〔1〕作業車としては、車体の後部に対地作業装置3の一例である苗植付装置を、昇降可能または昇降可能かつローリング可能に連結した乗用田植機や、車体に対する作業に応じた作業装置3の付け換え(例えば、苗植付装置と直播装置あるいは薬剤散布装置などの付け換え)が可能に構成された多目的水田作業車、などであってもよい。
【0193】
〔2〕作業車としては、左右の後輪12または左右の前輪7と後輪12とを操舵輪とするように構成したものであってもよい。また、左右の後輪12に代えてクローラ式の走行装置を備えるように構成したものであってもよい。
【0194】
〔3〕車体の第1状態および車体の第2状態は、作業車の種類、作業装置(対地作業装置)の種類、および、作業時に実行する制御モードの種類、などに応じて種々の変更が可能である。
【0195】
例えば、作業車が乗用田植機である場合は、車体の第1状態を、対地作業装置3の一例である苗植付装置を植え付け作動させながら車体を走行させる植え付け走行状態とすることができ、また、車体の第2状態を、苗植付装置を駆動停止させるとともに設定上限位置に向けて上昇させながら車体を走行させる旋回走行状態とすることができる。
【0196】
例えば、トラクタ1の後部に対地作業装置3の一例であるプラウを連結している場合は、小旋回モード、旋回上昇モード、および出力停止モードの実行を選択すれば、車体の第1状態を、プラウを定深接地させながら四輪駆動状態で車体を走行させる四駆耕耘状態とすることができ、また、車体の第2状態を、プラウを設定上限位置に向けて上昇させながら前輪増速状態で車体を旋回させる増速旋回状態とすることができる。
【0197】
例えば、トラクタ1の後部に作業装置3の一例である薬剤散布装置を連結している場合は、作業動力制御手段48Dが、切角センサ55の検出(第1実施形態)または旋回角度算出手段48Fの算出値(第2実施形態)に基づいて、前輪7の切れ角(第1実施形態)または車体の旋回角度(第2実施形態)が設定角度を超えていないことを検知するのに伴って作業用クラッチ21が入り状態に切り換わり、前輪7の切れ角(第1実施形態)または車体の旋回角度(第2実施形態)が設定角度を超えたことを検知するのに伴って作業用クラッチ21が切り状態に切り換わるようにクラッチ弁33の作動を制御するように構成した状態で、四輪駆動モードと出力断続モードの実行を選択すれば、車体の第1状態を、薬剤散布装置を散布作動させながら四輪駆動状態で車体を走行させる四駆散布状態とすることができ、また、車体の第2状態を、薬剤散布装置の散布作動を停止させて四輪駆動状態で車体を旋回させる四駆旋回状態とすることができる。
【0198】
〔4〕車体の第2状態として、ロータリ耕耘装置3の駆動停止状態と設定上限位置への上昇状態とを維持しながら前述した増速制動状態で車体を旋回させる増速制動旋回状態(前述した実施形態では急旋回モードを選択した場合の車体の第3状態)が現出されるように構成してもよい。
【0199】
〔5〕左右の後輪12に対する伝動を断続する左右一対のサイドクラッチを備え、車体の第2状態として、ロータリ耕耘装置3の駆動停止状態と設定上限位置への上昇状態とを維持しながら、旋回内側のサイドクラッチを入り状態から切り状態に切り換えて旋回内側の後輪12を従動させた状態で車体を旋回させるクラッチ旋回状態が現出されるように構成してもよい。
【0200】
〔6〕切角センサ55としては、ステアリングホイール9の直進位置から左右方向への操作角度を前輪7の直進位置からの切れ角として検出するものなどであってもよい。
【0201】
〔7〕前述した第1実施形態では、設定角度変更手段48Eが、操舵速度検出手段86により検出される操舵速度に基づいて、車体の状態のうちの、車体の走行状態(前輪7に対する伝動状態など)、ロータリ耕耘装置(対地作業装置または作業装置)3の昇降状態、および、ロータリ耕耘装置(対地作業装置または作業装置)3に対する伝動状態、のそれぞれを作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を変更するように構成したが、これに代えて、それらの状態のうちのいくつかを作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を変更するように構成してもよい。
【0202】
例えば、設定角度変更手段48Eが、操舵速度検出手段86の検出に基づいて、ロータリ耕耘装置3の昇降状態とロータリ耕耘装置3に対する伝動状態とを作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度を変更し、車体の走行状態を作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換える際の判断基準となる設定角度は変更しないように構成してもよい。
【0203】
〔8〕図6の(B)に示すように、前述した第1実施形態における設定角度変更手段48Eとしては、操舵速度検出手段86の検出に基づいて、その操舵速度が遅くなると、設定角度が設定上限角度(例えば45度)に達するまでの間は、検出された操舵速度に応じて設定角度が有段階で大きくなるように、また、その操舵速度が速くなると、設定角度が設定下限角度(例えば30度)に達するまでの間は、検出された操舵速度に応じて設定角度が有段階で小さくなるように設定角度を変更するように構成したものであってもよい。
【0204】
〔9〕前述した第1実施形態における操舵速度検出手段86としては、切角センサ55により検出される前輪7の切れ角を時間で微分することにより操舵速度を得るように構成したものであってもよい。また、操舵速度検出手段86として、ピットマンアームの揺動速度を操舵速度として検出する角速度センサを採用するようにしてもよい。
【0205】
〔10〕前述した第2実施形態における旋回角度算出手段48Fとしては、車体の旋回角度θを所定走行距離あたりで算出するように構成したものであってもよい。
【0206】
〔11〕前述した第2実施形態における車体状態切換手段48としては、旋回角度算出手段48Fにより算出された車体の旋回角度θが設定角度θoを超えた場合、または、切角センサ55により検出される前輪7の切れ角θsが設定角度θsoを超えた場合に、車体の状態を作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換えるように構成したものであってもよい。
【0207】
この特徴構成によると、旋回走行状態を現出するための大きい切れ角θsで前輪7を操舵しているにもかかわらず、そのときの車速vが遅過ぎることにより、車体の旋回角度θが設定角度θoを超え難くなり、車体の状態が作業用の第1状態から移動用の第2状態に切り換わり難くなる、といった不都合が発生する虞を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明に係る作業車の車体状態切り換え構造は、操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサと、この切角センサの検出に基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段とを備えたトラクタや乗用田植機などの作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0209】
3 対地作業装置
7 操舵輪
12 操舵輪
48 車体状態切換手段
48E 設定角度変更手段
55 切角センサ
56 車速センサ
86 操舵速度検出手段
θ 車体の旋回角度
θo 設定角度
θs 操舵輪の切れ角
θso 設定角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵輪の直進位置からの切れ角を検出する切角センサと、この切角センサの検出に基づいて車体の状態を切り換える車体状態切換手段とを備えた作業車の車体状態切り換え構造であって、
前記車体の走行速度を検出する車速センサを備え、
前記車体状態切換手段が、
前記切角センサの検出、および、前記車速センサの検出に基づいて、前記車体の旋回角度を算出し、
かつ、算出した前記旋回角度が設定角度を超えると、前記車体の状態を前記車体に連結した作業装置を機能させる作業用の第1状態から前記作業装置を機能させない移動用の第2状態に切り換えるように構成してあることを特徴とする作業車の車体状態切り換え構造。
【請求項2】
前記旋回角度を所定時間あたりで算出することを特徴とする請求項1に記載の作業車の車体状態切り換え構造。
【請求項3】
前記旋回角度を所定走行距離あたりで算出することを特徴とする請求項1に記載の作業車の車体状態切り換え構造。
【請求項4】
前記切角センサにより検出される前記切れ角が設定角度を超えると、前記車体状態切換手段が、前記切角センサの検出に基づいて前記車体の状態を前記第1状態から前記第2状態に切り換えるように構成してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の作業車の車体状態切り換え構造。
【請求項5】
前記第1状態を、前記作業装置として前記車体に昇降可能に連結した対地作業装置を接地させた状態とし、
前記第2状態を、前記対地作業装置を浮上させた状態としてあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の作業車の車体状態切り換え構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−85660(P2012−85660A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25210(P2012−25210)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【分割の表示】特願2007−250109(P2007−250109)の分割
【原出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】