作業車両の制御装置
【課題】安価で、しかも作業機のローリング制御をタイミング良く行うことができるトラクタなどの作業車両を提供すること。
【解決手段】走行車両1に連結する作業機3が、走行車両1の旋回時に作業機3を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して作業する圃場の代かき作業機3である場合、このような作業時には、走行車両1は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が作業機3に作用し、スロープセンサ10はその遠心力によって、該センサ10中の粘性液が傾き、機体が傾斜したと判定してしまい、水平シリンダ16を伸縮し、作業機3が水平からずれてしまうことがある。そこで、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力によるスロープセンサ値の変化を補正値としてスロープセンサ検出値に加減算することで、実際の走行車両1の傾斜を判断でき、作業機3が水平となる。
【解決手段】走行車両1に連結する作業機3が、走行車両1の旋回時に作業機3を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して作業する圃場の代かき作業機3である場合、このような作業時には、走行車両1は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が作業機3に作用し、スロープセンサ10はその遠心力によって、該センサ10中の粘性液が傾き、機体が傾斜したと判定してしまい、水平シリンダ16を伸縮し、作業機3が水平からずれてしまうことがある。そこで、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力によるスロープセンサ値の変化を補正値としてスロープセンサ検出値に加減算することで、実際の走行車両1の傾斜を判断でき、作業機3が水平となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用、建築用、運搬用等の作業機を走行車両が連結した作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなどの走行車両に連結した作業機は機体進行方向に対して左右にローリング可能なローリング装置になっている。これは圃場平面に凹凸がある場合または圃場が傾斜地である場合に対応して圃場面の変化に作業機が対応できるようにするためであるが、走行車両に連結する作業機が代かき作業機である場合には、車両の旋回時には代かき作業機を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して圃場の代かき作業を行う。このように圃場の代かき作業時には圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が作業車両の機体に作用する。そのため、機体が傾斜していないのに、圃場の傾斜度合いを検出するスロープセンサ内にある粘性液が、前記遠心力によって作用を受け、機体が傾斜したと判定してしまう。
【0003】
そのため、誤ったスロープセンサの検出値に基づき代かき作業機を水平制御することになり、水平位置からずれることがあった。下記特許文献1記載の発明では、前記不具合を解消するために走行車両の傾斜角度センサの検出値と作業機をローリング駆動させるためのアクチュエータを水平面に対する作業機の左右方向の傾斜角度を検出する位置センサの検出値により設定角度に維持されるように作動させるが、このアクチュエータの作動前に、前車輪をローリング自在に支持する前車軸に設けたローリングセンサの検出値により車両の左又は右の傾斜予定方向の逆方向にアクチュエータによる作業機のローリングを開始する方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−51606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1記載の発明では、各種センサを備えておく必要があるので、コストがかさむ問題点がある。
本発明の課題は、安価で、しかも作業機のローリング制御をタイミング良く行うことができるトラクタなどの作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
すなわち、請求項1記載の発明は、ハンドル(2)の切れ角度により旋回角度が決められる走行車両(1)に作業機(3)を連結した作業車両において、ハンドル(2)の切れ角を検知するハンドル切れ角度センサ(12)と車速を検出する車速センサ(11)と作業車両の水平に対して左右方向への傾斜角度を検出するスロープセンサ(10)を設け、ハンドル切れ角センサ(12)と車速センサ(11)の検出値に応じて予め決められた補正式により作業車両の傾斜角度の検出値を補正することで作業機(3)のローリング時の水平制御を行う制御装置(20)を備えた作業車両である。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、走行車両に連結する作業機(3)が代かき作業機(3)などである場合、即ち、機体(作業機と走行車両を含む作業車両)の旋回時に作業機を下げた状態で作業する場合がある。このように圃場の代かき作業時には、走行車両(1)は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が代かき機体に作用する。そのため、スロープセンサ(10)は、その遠心力によって、該センサ(10)中の粘性液が傾き、機体が傾斜したと判定してしまう。このときのスロープセンサ値を用いて水平制御を行うと実際は走行車両(1)が傾いていないのに傾いていると判断し、水平シリンダ(16)を伸縮し、作業機(3)が水平からずれてしまうことがある。
【0008】
そこで、ハンドル切れ角に応じて決まる旋回径と車速によりスロープセンサ(10)に働く遠心力を算出し、スロープセンサ値から遠心力の影響を加減算して排除する。これにより、実際の走行車両(1)の傾斜を判断できる。実際には機体が傾斜していないにもかかわらず、機体が傾斜していると誤認識してしまうことで作業機(3)の水平制御を行うことを防止できる。
【0009】
請求項2記載の発明は、走行制御出力状態が4WD,2WD又は前輪増速のいずれの出力状態かに応じて前記補正式を変更する請求項1記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、作業機3を下げた状態で作業機3を駆動しながら走行車両1が圃場を比較的高速で走行しながら旋回すると、遠心力が機体に作用するが、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力を算出し、この遠心力の影響をスロープセンサ値から排除することで、実際の車両の傾斜を判断できるため、前記旋回時も精度のよい水平制御が可能になる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行車両1を前輪増速モードで旋回中と前輪増速モード以外のモードで旋回中とでは同じハンドル切れ角でも旋回径は異なり、前輪増速状態で運転中は旋回径が比較的小さくなるため車両の遠心力が比較的大きい値を示す(同じ車速の場合旋回径が小さいほど遠心力は大となる)。この遠心力の影響を排除することで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のトラクタの左側面図である。
【図2】図1のトラクタのセンサ設置部を示す平面図である。
【図3】図1のトラクタの制御ブロック図である。
【図4】図1のトラクタの平坦地を旋回する時のスロープセンサ値の車速(図4(a))とハンドル切れ角(図4(b))に対する変化を示す図である。
【図5】図1のトラクタの旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図6】図1のトラクタの走行状態に応じて旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図7】図1のトラクタのホイールの大きさに応じた旋回時の水平制御を可能とするフローチャートである。
【図8】図1のトラクタの圃場状態に応じて旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図9】図1のトラクタの所定車速以上での旋回中の平行制御をするフローチャートである。
【図10】図1のトラクタの旋回角度が所定車速で所定値以上である時の平行制御をするフローチャートである。
【図11】図1のトラクタが旋回時に制動を掛けている時の平行制御を可能とするフローチャートである。
【図12】図1のトラクタの傾斜センサ電圧と経過時間との関係を示すデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下図面と共に説明する。なお、本明細書では作業車両の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右といい、前後をそれぞれ前、後ということにする。そして、本発明の実施の形態によれば、作業車両の一例であるトラクタを例として以下に説明する。
【0014】
図1には本発明の実施形態のトラクタの左側面図を示し、図2には、図1のトラクタのセンサ設置部を示す平面図を示し、更に図3には図1のトラクタの制御ブロック図を示す。
乗用四輪駆動の走行形態を有するトラクタ機体(走行車両)1は、ステアリングハンドル2で前輪4を操向しながら走行運転する。走行車両1の後部にはロータリ耕耘装置等の作業機3を3点リンク機構により昇降可能に装着して対地作業を行うことができる。この走行車両1は、前端部にフロントアクスルハウジング(図示せず)に支架させるエンジンブラケットを介してエンジン6を搭載し、このエンジン6の後側にクラッチハウジングや、ミッションケース8等を一体的に連結し、このミッションケース8の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪7を軸装する。
【0015】
走行車両1に代かき作業機3を連結した場合に、スロープセンサ10は走行車両1側に設ける。走行車両1が傾斜すると作業機3も傾斜するので、作業機3を水平状態にして作業する。スロープセンサ10内には粘性の高い液体が入っており、この液体の状態で傾斜状態を検出する。正確には、液体は常時水平を保持しようとするので、液面とセンサ本体との相対位置の変化で傾斜状態を認識することができる。
【0016】
走行車両1に連結する作業機が代かき作業機3である場合には、車両の旋回時には代かき作業機3を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して圃場の代かき作業を行う。このように圃場の代かき作業時には、走行車両1は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が機体全体に作用する。そのため、スロープセンサ10は、その遠心力によって、該センサ中の粘性液が傾き、機体全体が傾斜したと判定してしまう。ここで、機体とは走行車両1と作業機3の両方を連結した作業車両全体のことをいう。走行車両1と作業機3は一体で傾斜するので、作業機3を水平に戻す。作業機3が水平になっているか否かは、水平シリンダ16のストロークセンサ13で検出する。
【0017】
平坦地を旋回する場合のスロープセンサ10の検出値(スロープセンサ値)と車速との関係を図4(a)に示し、スロープセンサ値とハンドル切れ角との関係を図4(b)に示す。図4(a)と図4(b)は車速と切れ角がスロープセンサ10に及ぼす影響が大であることを示しているだけであり、遠心力は車速の2乗に比例し、切れ角に略比例することを示している。
【0018】
このときのスロープセンサ値を用いて水平制御を行うと実際は走行車両1が傾いていないのに傾いていると判断し、水平シリンダ16を伸縮し、作業機3が水平からずれてしまうことがある。
そこで、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力を算出する。この遠心力の影響を補正値としてスロープセンサ10の検出値に加減算することで、実際の車両の傾斜を判断する。
【0019】
ハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値を算出し、該補正値をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して実際の機体の傾斜を求めて作業機3の水平制御を制御装置20が行う。
【0020】
前記補正値は車速の2乗に比例し、切れ角にほぼ正比例するので、30〜34馬力の走行車両の場合はスロープセンサ補正値(HSLn)は式(1)のようになる。
補正値=車速×車速/16×(6/25×切れ角センサの中立値との差−12) (1)
なお、スロープセンサ値(sln)は0V〜5Vであり、そして直進時は中間の2Vとしているために、右旋回時は−とし、左旋回時は+とする。
【0021】
したがって、補正値(HSLn)を算出して後、車両の旋回方向が右旋回であると、スロープセンサ制御時使用値(SLn)は次式(2)として算出され、
SLn=sln−HSLn (2)
また、車両の旋回方向が右旋回でない場合(直進時は含まない。すなわち、補正値の算出は、実際の切れ角と中立位置の切れ角との差があるときに行う。)には、スロープセンサ制御時使用値(SLn)は次式(3)とする。
SLn=sln+HSLn (3)
これを図5のフローチャートに示す。
【0022】
なお、以下に説明する何れの場合も走行車両1に代かき作業機3を連結した場合における代かき作業機3の水平制御のための構成である。また、作業機3は代掻き作業機以外のものであってもよい。即ち、機体が旋回中において作業機3を下降して駆動するものに適用できる。
【0023】
走行制御出力状態(4WD,2WD,前輪増速)に応じて補正式(1)を変更する。
走行車両1を前輪増速モードで旋回中と前輪増速モード以外のモードで旋回中とでは同じハンドル切れ角でも旋回径は異なり、前輪増速状態で運転中は旋回径が比較的小さくなるため走行車両1の遠心力が比較的大きい値を示し、同じ車速、同じ切れ角であっても、前輪増速では旋回径が小さくなるので遠心力は大きくなるので前記式(1)の補正値を比較的大きくしないと誤差が大きくなる。この場合の制御フローを図6に示す。
【0024】
ここで、A≒1.1×スロープセンサ補正値(HSLn)、
B≒1.0×スロープセンサ補正値(HSLn)、
C≒1.2×スロープセンサ補正値(HSLn)とする。
こうして、走行制御出力状態に応じて旋回時の補正を行うことで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【0025】
図5に示すフローチャートにおいて、スロープセンサ値(sln)ではなくスロープセンサ10の基準値(ハンドル切れ角と車速から予め決めておく一定値)に補正値(HSln)を加減算してスロープセンサ10制御時使用値(SLn)を得る構成としても良い。
【0026】
スロープセンサ基準値はハンドル切れ角と車速の値に対応させたテーブル(図示せず)などを作成しておき、このテーブルなど利用することで、スロープセンサ値(sln)を測定することなく、スロープセンサ制御時使用値(SLn)を得ることができる。
【0027】
この方法を用いるとスロープセンサ基準値は一定値であり、その値に補正値(HSln)の加減算したほうが解りやすいし、スロープセンサ制御時使用値(SLn)を得るためのソフト処理も楽になる。
【0028】
また、車重が重くなると、車速に応じて旋回時の遠心力の影響が大きくなるので、車重の程度に応じてクラス設定を行い、各クラス毎に補正式(1)を変更する構成としても良い。
これは、前記クラス毎にホイルベースの大きさ等が異なり、またハンドル切れ角に対する旋回径も異なるので、それらの相違点を考慮して複数の補正式(1)の中から適切な補正式(1)を選択して誤差の少ないスロープセンサ制御使用値(SLn)を得ることができ、精度の高い水平制御が可能になる。この場合の制御を図7のフローチャートに示す。
【0029】
図7に示すクラス設定=Aはホイールベース大、クラス設定=Bはホイールベース中及びクラス設定=Cはホイールベース小のことを表す。なお、トラクタは小型、中型、大型の3つに分類される。この分類はエンジン馬力で分類するが、ホイルベースに置き換えても分類できるため上記した分類が有用となる。
【0030】
また補正式A、B及びCは前記数式(1)の係数(6/25)をそれぞれP0、P1及びP2に変更し、係数12をそれぞれQ0、Q1及びQ2に変更した値であり、これらの値は遠心力の影響を無くする方向にそれぞれ係数を決めたものである。
【0031】
また、圃場の状態(スリップの多い圃場かどうか)で実際の車速は変わってくる。車速によって遠心力は変わってくるため、スリップの多い場合とそうでない場合とで補正式(1)を変更しないと誤差が大きくなる。
【0032】
そこで、圃場の状態(湿田、標準、乾田)に応じて補正式(1)を変更する構成を採用してもよい。例えば、湿田を走行車両1が旋回中は旋回速度が比較的遅くなり、スリップなどで旋回径が比較的大きくなるため、走行車両1の遠心力が比較的小さくなり、補正値(HSLn)を比較的小さくしないと誤差が大きくなる。またこれとは対称的に乾田を走行車両1が旋回中は旋回速度が比較的速くなり、スリップの影響がないために旋回径が比較的小さくなるため、走行車両1の遠心力が比較的大きくなり、補正値(HSLn)を比較的大きくしないと誤差が大きくなる。そこで、湿田、標準及び乾田に対応した圃場状態の設定スイッチ(図示せず)を設け、その設定に応じて補正式(1)を変更する構成とする。
【0033】
この場合の制御フローを図8に示す。
ここで、A≒0.8×スロープセンサ補正値(HSLn)、
B≒1.0×スロープセンサ補正値(HSLn)、
C≒1.1×スロープセンサ補正値(HSLn)とする。
こうして、圃場の状態に応じて旋回時の補正を行うことで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【0034】
上記したように走行車両1に代かき作業機3を連結した場合にハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値(HSLn)を算出し、該補正値(HSLn)をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して作業機3のローリング時の水平制御を行う方法(図5)や、走行制御出力状態(4WD,2WD,前輪増速)に応じて補正式(1)を変更すること又は圃場の状態(湿田、標準、乾田)に応じて補正式(1)を変更することなどで作業機3のローリング時の水平制御を行う方法を用いることができるが、車両の旋回時、一定車速以上(例えば10〜15km/hr程度であり、また、作業機の種類によっても変わる。)では代かき作業機3を走行車両(本機)に対して平行にする構成を採用する。
【0035】
これは車速が速くなればなるほど、旋回時の遠心力の影響が大きくなり、あまりにも旋回速度が速い場合はスロープセンサ値(sln)が上限値又は下限値に張り付いてしまい、適正な左右ローリング角度の検出が行えないためである。
このように車速が前記一定車速以上の場合には、間違ったスロープセンサ値(sln)を用いて制御するよりも、走行車両(本機)1に対して代かき作業機3が一体となってローリングする平行制御をした方が作業機3の不用意な動きがなくなるため水平精度が良くなる。また車速が一定車速(例えば、10〜15km/hr程度。作業機の種類より変わる。)未満の場合には上記代かき作業機3を絶対水平となるように走行車両(本機)1に対してローリング制御する自動水平制御を水平シリンダ16を作動させて行う構成を採用する。この制御のステップを図9のフローチャートに示す。
【0036】
なお、上記「平行制御」とは、走行車体(本機)1が左右方向に傾斜すると、作業機3は走行車体1と位置関係を保持した状態で一緒に左右方向に傾斜する制御のことであり、「水平制御」とは、走行車体(本機)1が左右方向に傾斜すると、作業機3を絶対水平にする制御のことである。
【0037】
走行車両に代かき作業機3を連結した場合に図5に示すフローチャートによるハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値(HSLn)を算出し、該補正値(HSLn)をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して作業機3のローリング時の水平制御を行う方法において、ハンドル切れ角が大きくなればなるほど、代かき作業機3を走行車体(本機)1に対して平行制御をする車速(=a:水平制御と平行制御の分岐点は作業機の種類にもよるが例えば10〜15km/h)を低くするように設定し、ハンドル切れ角が車速aに対応する設定切れ角以上であると、走行車両1に対して代かき作業機3が一体となってローリングする平行制御とする方が水平精度が良くなる。
なお、ハンドル切れ角が車速aに対応する設定切れ角未満であると、上記代かき作業機3を走行車両(本機)1に対して自動水平制御を行う構成としても良い。この制御のステップを図10のフローチャートに示す。
【0038】
オードブレーキ入りスイッチ(図示せず)をオンにしてオードブレーキターン(作業機3が上昇していて、ハンドル2を切ると旋回内側車輪にブレーキがかかるターン)モードに入った時は、水平シリンダ16を作動させて代かき作業機3を走行車両1に対して正規の位置(作業機3が走行車両1に対して左右方向に傾斜していない状態)にする所謂平行にする制御を行う構成とする。これはオートブレーキターンが入っている場合には隣接耕である(隣接する圃場の代かき作業に移りつつある)可能性が高く、その場合は代かき作業機3を走行車両1に対して平行にする制御を行うことで、必要のない場面で代かき作業機3が水平が不意に動くことを防ぐためである。また、オートブレーキターンが入っていない場合には代かき作業機3を走行車両1に対して自動水平制御を行う構成とする。この制御のステップを図11のフローチャートに示す。
【0039】
図2の作業車両の平面図に示すように、本実施例の代かき作業機3の水平制御には角速度センサ14を3個使用し、その取付位置を走行車両1の中心及び中心から離れた場所の左右2箇所に配置している。このため、走行車両(本機)1が傾いた時に3つの角速度センサ14の中のどれかの1つの角速度センサ14の上下移動が無くなるために、(角速度センサ14が上下方向に移動すると実際の走行車両(本機)1の傾斜以上に傾斜状態を検出してしまうので前記1つの角速度センサ14の値は残りの角速度センサ14の値と違う値となり、この上下移動のない角速度センサ14の検出値を使用することで)、代かき作業機3の走行車両1に対する水平制御性能が向上する。
なお、前記角速度センサ14に代えてスロープセンサ10を用いても良い。
【0040】
また図2の平面図に示すように、トラクタ機体1の中心から離れた場所である、例えば、後輪7のタイヤ上辺りのフェンダ19の左右2箇所に一対の角速度センサ14’を配置する方法でも良く、この場合は、走行車両1が傾いた時どちらかのセンサ14’の上下移動が無いために、検出値が安定し、代かき作業機3の走行車両1に対する水平制御性能が向上する。
【0041】
時系列データで制御を行う農業機械においてローリングスロープセンサ10の信号による作業機3の姿勢制御での傾斜センサ信号処理、時系列データに線形、又は、非線形の重みをつけた平均化処理を行い、この値でもって制御を行う。
すなわち、通常の平均は、例えば、n=5の場合は、[(n1+n2+n3+n4+n5)/5]となるのに対して、重み付け平均の場合は、n=5の場合(n1を最新とする)は、[(5*n1+4*n2+3*n3+2*n4+1*n5)/(5+4+3+2+1)]となる。
【0042】
例えば図12に示すセンサ電圧と経過時間との関係を示すデータの中で点線で示す生データでではなく、時系列データに線形、又は、非線形の重みをつけた平均化処理を行って得られた実線で示すデータを用いると実際の姿勢の変化に対する応答性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、トラクタなどの作業車両の操作性を良くすることができ、農業用、建築用、運搬用等の様々な作業車両に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 走行車両 2 ステアリングハンドル
3 作業機 4 前輪
6 エンジン 7 後輪
8 ミッションケース 10 スロープセンサ
11 車速センサ 12 切れ角センサ
13 ストロークセンサ 14,14’ 角速度センサ
16 水平シリンダ 19 フェンダ
20 制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用、建築用、運搬用等の作業機を走行車両が連結した作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなどの走行車両に連結した作業機は機体進行方向に対して左右にローリング可能なローリング装置になっている。これは圃場平面に凹凸がある場合または圃場が傾斜地である場合に対応して圃場面の変化に作業機が対応できるようにするためであるが、走行車両に連結する作業機が代かき作業機である場合には、車両の旋回時には代かき作業機を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して圃場の代かき作業を行う。このように圃場の代かき作業時には圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が作業車両の機体に作用する。そのため、機体が傾斜していないのに、圃場の傾斜度合いを検出するスロープセンサ内にある粘性液が、前記遠心力によって作用を受け、機体が傾斜したと判定してしまう。
【0003】
そのため、誤ったスロープセンサの検出値に基づき代かき作業機を水平制御することになり、水平位置からずれることがあった。下記特許文献1記載の発明では、前記不具合を解消するために走行車両の傾斜角度センサの検出値と作業機をローリング駆動させるためのアクチュエータを水平面に対する作業機の左右方向の傾斜角度を検出する位置センサの検出値により設定角度に維持されるように作動させるが、このアクチュエータの作動前に、前車輪をローリング自在に支持する前車軸に設けたローリングセンサの検出値により車両の左又は右の傾斜予定方向の逆方向にアクチュエータによる作業機のローリングを開始する方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−51606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1記載の発明では、各種センサを備えておく必要があるので、コストがかさむ問題点がある。
本発明の課題は、安価で、しかも作業機のローリング制御をタイミング良く行うことができるトラクタなどの作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
すなわち、請求項1記載の発明は、ハンドル(2)の切れ角度により旋回角度が決められる走行車両(1)に作業機(3)を連結した作業車両において、ハンドル(2)の切れ角を検知するハンドル切れ角度センサ(12)と車速を検出する車速センサ(11)と作業車両の水平に対して左右方向への傾斜角度を検出するスロープセンサ(10)を設け、ハンドル切れ角センサ(12)と車速センサ(11)の検出値に応じて予め決められた補正式により作業車両の傾斜角度の検出値を補正することで作業機(3)のローリング時の水平制御を行う制御装置(20)を備えた作業車両である。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、走行車両に連結する作業機(3)が代かき作業機(3)などである場合、即ち、機体(作業機と走行車両を含む作業車両)の旋回時に作業機を下げた状態で作業する場合がある。このように圃場の代かき作業時には、走行車両(1)は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が代かき機体に作用する。そのため、スロープセンサ(10)は、その遠心力によって、該センサ(10)中の粘性液が傾き、機体が傾斜したと判定してしまう。このときのスロープセンサ値を用いて水平制御を行うと実際は走行車両(1)が傾いていないのに傾いていると判断し、水平シリンダ(16)を伸縮し、作業機(3)が水平からずれてしまうことがある。
【0008】
そこで、ハンドル切れ角に応じて決まる旋回径と車速によりスロープセンサ(10)に働く遠心力を算出し、スロープセンサ値から遠心力の影響を加減算して排除する。これにより、実際の走行車両(1)の傾斜を判断できる。実際には機体が傾斜していないにもかかわらず、機体が傾斜していると誤認識してしまうことで作業機(3)の水平制御を行うことを防止できる。
【0009】
請求項2記載の発明は、走行制御出力状態が4WD,2WD又は前輪増速のいずれの出力状態かに応じて前記補正式を変更する請求項1記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、作業機3を下げた状態で作業機3を駆動しながら走行車両1が圃場を比較的高速で走行しながら旋回すると、遠心力が機体に作用するが、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力を算出し、この遠心力の影響をスロープセンサ値から排除することで、実際の車両の傾斜を判断できるため、前記旋回時も精度のよい水平制御が可能になる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行車両1を前輪増速モードで旋回中と前輪増速モード以外のモードで旋回中とでは同じハンドル切れ角でも旋回径は異なり、前輪増速状態で運転中は旋回径が比較的小さくなるため車両の遠心力が比較的大きい値を示す(同じ車速の場合旋回径が小さいほど遠心力は大となる)。この遠心力の影響を排除することで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のトラクタの左側面図である。
【図2】図1のトラクタのセンサ設置部を示す平面図である。
【図3】図1のトラクタの制御ブロック図である。
【図4】図1のトラクタの平坦地を旋回する時のスロープセンサ値の車速(図4(a))とハンドル切れ角(図4(b))に対する変化を示す図である。
【図5】図1のトラクタの旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図6】図1のトラクタの走行状態に応じて旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図7】図1のトラクタのホイールの大きさに応じた旋回時の水平制御を可能とするフローチャートである。
【図8】図1のトラクタの圃場状態に応じて旋回時に水平制御を可能とするフローチャートである。
【図9】図1のトラクタの所定車速以上での旋回中の平行制御をするフローチャートである。
【図10】図1のトラクタの旋回角度が所定車速で所定値以上である時の平行制御をするフローチャートである。
【図11】図1のトラクタが旋回時に制動を掛けている時の平行制御を可能とするフローチャートである。
【図12】図1のトラクタの傾斜センサ電圧と経過時間との関係を示すデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下図面と共に説明する。なお、本明細書では作業車両の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右といい、前後をそれぞれ前、後ということにする。そして、本発明の実施の形態によれば、作業車両の一例であるトラクタを例として以下に説明する。
【0014】
図1には本発明の実施形態のトラクタの左側面図を示し、図2には、図1のトラクタのセンサ設置部を示す平面図を示し、更に図3には図1のトラクタの制御ブロック図を示す。
乗用四輪駆動の走行形態を有するトラクタ機体(走行車両)1は、ステアリングハンドル2で前輪4を操向しながら走行運転する。走行車両1の後部にはロータリ耕耘装置等の作業機3を3点リンク機構により昇降可能に装着して対地作業を行うことができる。この走行車両1は、前端部にフロントアクスルハウジング(図示せず)に支架させるエンジンブラケットを介してエンジン6を搭載し、このエンジン6の後側にクラッチハウジングや、ミッションケース8等を一体的に連結し、このミッションケース8の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪7を軸装する。
【0015】
走行車両1に代かき作業機3を連結した場合に、スロープセンサ10は走行車両1側に設ける。走行車両1が傾斜すると作業機3も傾斜するので、作業機3を水平状態にして作業する。スロープセンサ10内には粘性の高い液体が入っており、この液体の状態で傾斜状態を検出する。正確には、液体は常時水平を保持しようとするので、液面とセンサ本体との相対位置の変化で傾斜状態を認識することができる。
【0016】
走行車両1に連結する作業機が代かき作業機3である場合には、車両の旋回時には代かき作業機3を上昇させないで圃場上に降ろしたまま旋回して圃場の代かき作業を行う。このように圃場の代かき作業時には、走行車両1は圃場の水平面上を比較的高速で走行しながら旋回するため遠心力が機体全体に作用する。そのため、スロープセンサ10は、その遠心力によって、該センサ中の粘性液が傾き、機体全体が傾斜したと判定してしまう。ここで、機体とは走行車両1と作業機3の両方を連結した作業車両全体のことをいう。走行車両1と作業機3は一体で傾斜するので、作業機3を水平に戻す。作業機3が水平になっているか否かは、水平シリンダ16のストロークセンサ13で検出する。
【0017】
平坦地を旋回する場合のスロープセンサ10の検出値(スロープセンサ値)と車速との関係を図4(a)に示し、スロープセンサ値とハンドル切れ角との関係を図4(b)に示す。図4(a)と図4(b)は車速と切れ角がスロープセンサ10に及ぼす影響が大であることを示しているだけであり、遠心力は車速の2乗に比例し、切れ角に略比例することを示している。
【0018】
このときのスロープセンサ値を用いて水平制御を行うと実際は走行車両1が傾いていないのに傾いていると判断し、水平シリンダ16を伸縮し、作業機3が水平からずれてしまうことがある。
そこで、ハンドル切れ角により旋回径を算出し、その旋回径と車速によりスロープセンサ10に働く遠心力を算出する。この遠心力の影響を補正値としてスロープセンサ10の検出値に加減算することで、実際の車両の傾斜を判断する。
【0019】
ハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値を算出し、該補正値をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して実際の機体の傾斜を求めて作業機3の水平制御を制御装置20が行う。
【0020】
前記補正値は車速の2乗に比例し、切れ角にほぼ正比例するので、30〜34馬力の走行車両の場合はスロープセンサ補正値(HSLn)は式(1)のようになる。
補正値=車速×車速/16×(6/25×切れ角センサの中立値との差−12) (1)
なお、スロープセンサ値(sln)は0V〜5Vであり、そして直進時は中間の2Vとしているために、右旋回時は−とし、左旋回時は+とする。
【0021】
したがって、補正値(HSLn)を算出して後、車両の旋回方向が右旋回であると、スロープセンサ制御時使用値(SLn)は次式(2)として算出され、
SLn=sln−HSLn (2)
また、車両の旋回方向が右旋回でない場合(直進時は含まない。すなわち、補正値の算出は、実際の切れ角と中立位置の切れ角との差があるときに行う。)には、スロープセンサ制御時使用値(SLn)は次式(3)とする。
SLn=sln+HSLn (3)
これを図5のフローチャートに示す。
【0022】
なお、以下に説明する何れの場合も走行車両1に代かき作業機3を連結した場合における代かき作業機3の水平制御のための構成である。また、作業機3は代掻き作業機以外のものであってもよい。即ち、機体が旋回中において作業機3を下降して駆動するものに適用できる。
【0023】
走行制御出力状態(4WD,2WD,前輪増速)に応じて補正式(1)を変更する。
走行車両1を前輪増速モードで旋回中と前輪増速モード以外のモードで旋回中とでは同じハンドル切れ角でも旋回径は異なり、前輪増速状態で運転中は旋回径が比較的小さくなるため走行車両1の遠心力が比較的大きい値を示し、同じ車速、同じ切れ角であっても、前輪増速では旋回径が小さくなるので遠心力は大きくなるので前記式(1)の補正値を比較的大きくしないと誤差が大きくなる。この場合の制御フローを図6に示す。
【0024】
ここで、A≒1.1×スロープセンサ補正値(HSLn)、
B≒1.0×スロープセンサ補正値(HSLn)、
C≒1.2×スロープセンサ補正値(HSLn)とする。
こうして、走行制御出力状態に応じて旋回時の補正を行うことで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【0025】
図5に示すフローチャートにおいて、スロープセンサ値(sln)ではなくスロープセンサ10の基準値(ハンドル切れ角と車速から予め決めておく一定値)に補正値(HSln)を加減算してスロープセンサ10制御時使用値(SLn)を得る構成としても良い。
【0026】
スロープセンサ基準値はハンドル切れ角と車速の値に対応させたテーブル(図示せず)などを作成しておき、このテーブルなど利用することで、スロープセンサ値(sln)を測定することなく、スロープセンサ制御時使用値(SLn)を得ることができる。
【0027】
この方法を用いるとスロープセンサ基準値は一定値であり、その値に補正値(HSln)の加減算したほうが解りやすいし、スロープセンサ制御時使用値(SLn)を得るためのソフト処理も楽になる。
【0028】
また、車重が重くなると、車速に応じて旋回時の遠心力の影響が大きくなるので、車重の程度に応じてクラス設定を行い、各クラス毎に補正式(1)を変更する構成としても良い。
これは、前記クラス毎にホイルベースの大きさ等が異なり、またハンドル切れ角に対する旋回径も異なるので、それらの相違点を考慮して複数の補正式(1)の中から適切な補正式(1)を選択して誤差の少ないスロープセンサ制御使用値(SLn)を得ることができ、精度の高い水平制御が可能になる。この場合の制御を図7のフローチャートに示す。
【0029】
図7に示すクラス設定=Aはホイールベース大、クラス設定=Bはホイールベース中及びクラス設定=Cはホイールベース小のことを表す。なお、トラクタは小型、中型、大型の3つに分類される。この分類はエンジン馬力で分類するが、ホイルベースに置き換えても分類できるため上記した分類が有用となる。
【0030】
また補正式A、B及びCは前記数式(1)の係数(6/25)をそれぞれP0、P1及びP2に変更し、係数12をそれぞれQ0、Q1及びQ2に変更した値であり、これらの値は遠心力の影響を無くする方向にそれぞれ係数を決めたものである。
【0031】
また、圃場の状態(スリップの多い圃場かどうか)で実際の車速は変わってくる。車速によって遠心力は変わってくるため、スリップの多い場合とそうでない場合とで補正式(1)を変更しないと誤差が大きくなる。
【0032】
そこで、圃場の状態(湿田、標準、乾田)に応じて補正式(1)を変更する構成を採用してもよい。例えば、湿田を走行車両1が旋回中は旋回速度が比較的遅くなり、スリップなどで旋回径が比較的大きくなるため、走行車両1の遠心力が比較的小さくなり、補正値(HSLn)を比較的小さくしないと誤差が大きくなる。またこれとは対称的に乾田を走行車両1が旋回中は旋回速度が比較的速くなり、スリップの影響がないために旋回径が比較的小さくなるため、走行車両1の遠心力が比較的大きくなり、補正値(HSLn)を比較的大きくしないと誤差が大きくなる。そこで、湿田、標準及び乾田に対応した圃場状態の設定スイッチ(図示せず)を設け、その設定に応じて補正式(1)を変更する構成とする。
【0033】
この場合の制御フローを図8に示す。
ここで、A≒0.8×スロープセンサ補正値(HSLn)、
B≒1.0×スロープセンサ補正値(HSLn)、
C≒1.1×スロープセンサ補正値(HSLn)とする。
こうして、圃場の状態に応じて旋回時の補正を行うことで、より精度の高い水平制御が可能になる。
【0034】
上記したように走行車両1に代かき作業機3を連結した場合にハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値(HSLn)を算出し、該補正値(HSLn)をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して作業機3のローリング時の水平制御を行う方法(図5)や、走行制御出力状態(4WD,2WD,前輪増速)に応じて補正式(1)を変更すること又は圃場の状態(湿田、標準、乾田)に応じて補正式(1)を変更することなどで作業機3のローリング時の水平制御を行う方法を用いることができるが、車両の旋回時、一定車速以上(例えば10〜15km/hr程度であり、また、作業機の種類によっても変わる。)では代かき作業機3を走行車両(本機)に対して平行にする構成を採用する。
【0035】
これは車速が速くなればなるほど、旋回時の遠心力の影響が大きくなり、あまりにも旋回速度が速い場合はスロープセンサ値(sln)が上限値又は下限値に張り付いてしまい、適正な左右ローリング角度の検出が行えないためである。
このように車速が前記一定車速以上の場合には、間違ったスロープセンサ値(sln)を用いて制御するよりも、走行車両(本機)1に対して代かき作業機3が一体となってローリングする平行制御をした方が作業機3の不用意な動きがなくなるため水平精度が良くなる。また車速が一定車速(例えば、10〜15km/hr程度。作業機の種類より変わる。)未満の場合には上記代かき作業機3を絶対水平となるように走行車両(本機)1に対してローリング制御する自動水平制御を水平シリンダ16を作動させて行う構成を採用する。この制御のステップを図9のフローチャートに示す。
【0036】
なお、上記「平行制御」とは、走行車体(本機)1が左右方向に傾斜すると、作業機3は走行車体1と位置関係を保持した状態で一緒に左右方向に傾斜する制御のことであり、「水平制御」とは、走行車体(本機)1が左右方向に傾斜すると、作業機3を絶対水平にする制御のことである。
【0037】
走行車両に代かき作業機3を連結した場合に図5に示すフローチャートによるハンドル切れ角センサ12と車速センサ11の検出値に応じて予め決められた補正式(1)によりローリング補正値(HSLn)を算出し、該補正値(HSLn)をスロープセンサ10の検出値(sln)に加減算して作業機3のローリング時の水平制御を行う方法において、ハンドル切れ角が大きくなればなるほど、代かき作業機3を走行車体(本機)1に対して平行制御をする車速(=a:水平制御と平行制御の分岐点は作業機の種類にもよるが例えば10〜15km/h)を低くするように設定し、ハンドル切れ角が車速aに対応する設定切れ角以上であると、走行車両1に対して代かき作業機3が一体となってローリングする平行制御とする方が水平精度が良くなる。
なお、ハンドル切れ角が車速aに対応する設定切れ角未満であると、上記代かき作業機3を走行車両(本機)1に対して自動水平制御を行う構成としても良い。この制御のステップを図10のフローチャートに示す。
【0038】
オードブレーキ入りスイッチ(図示せず)をオンにしてオードブレーキターン(作業機3が上昇していて、ハンドル2を切ると旋回内側車輪にブレーキがかかるターン)モードに入った時は、水平シリンダ16を作動させて代かき作業機3を走行車両1に対して正規の位置(作業機3が走行車両1に対して左右方向に傾斜していない状態)にする所謂平行にする制御を行う構成とする。これはオートブレーキターンが入っている場合には隣接耕である(隣接する圃場の代かき作業に移りつつある)可能性が高く、その場合は代かき作業機3を走行車両1に対して平行にする制御を行うことで、必要のない場面で代かき作業機3が水平が不意に動くことを防ぐためである。また、オートブレーキターンが入っていない場合には代かき作業機3を走行車両1に対して自動水平制御を行う構成とする。この制御のステップを図11のフローチャートに示す。
【0039】
図2の作業車両の平面図に示すように、本実施例の代かき作業機3の水平制御には角速度センサ14を3個使用し、その取付位置を走行車両1の中心及び中心から離れた場所の左右2箇所に配置している。このため、走行車両(本機)1が傾いた時に3つの角速度センサ14の中のどれかの1つの角速度センサ14の上下移動が無くなるために、(角速度センサ14が上下方向に移動すると実際の走行車両(本機)1の傾斜以上に傾斜状態を検出してしまうので前記1つの角速度センサ14の値は残りの角速度センサ14の値と違う値となり、この上下移動のない角速度センサ14の検出値を使用することで)、代かき作業機3の走行車両1に対する水平制御性能が向上する。
なお、前記角速度センサ14に代えてスロープセンサ10を用いても良い。
【0040】
また図2の平面図に示すように、トラクタ機体1の中心から離れた場所である、例えば、後輪7のタイヤ上辺りのフェンダ19の左右2箇所に一対の角速度センサ14’を配置する方法でも良く、この場合は、走行車両1が傾いた時どちらかのセンサ14’の上下移動が無いために、検出値が安定し、代かき作業機3の走行車両1に対する水平制御性能が向上する。
【0041】
時系列データで制御を行う農業機械においてローリングスロープセンサ10の信号による作業機3の姿勢制御での傾斜センサ信号処理、時系列データに線形、又は、非線形の重みをつけた平均化処理を行い、この値でもって制御を行う。
すなわち、通常の平均は、例えば、n=5の場合は、[(n1+n2+n3+n4+n5)/5]となるのに対して、重み付け平均の場合は、n=5の場合(n1を最新とする)は、[(5*n1+4*n2+3*n3+2*n4+1*n5)/(5+4+3+2+1)]となる。
【0042】
例えば図12に示すセンサ電圧と経過時間との関係を示すデータの中で点線で示す生データでではなく、時系列データに線形、又は、非線形の重みをつけた平均化処理を行って得られた実線で示すデータを用いると実際の姿勢の変化に対する応答性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、トラクタなどの作業車両の操作性を良くすることができ、農業用、建築用、運搬用等の様々な作業車両に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 走行車両 2 ステアリングハンドル
3 作業機 4 前輪
6 エンジン 7 後輪
8 ミッションケース 10 スロープセンサ
11 車速センサ 12 切れ角センサ
13 ストロークセンサ 14,14’ 角速度センサ
16 水平シリンダ 19 フェンダ
20 制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル(2)の切れ角度により旋回角度が決められる走行車両(1)に作業機(3)を連結した作業車両において、
ハンドル(2)の切れ角を検知するハンドル切れ角度センサ(12)と車速を検出する車速センサ(11)と作業車両の水平に対して左右方向への傾斜角度を検出するスロープセンサ(10)を設け、
ハンドル切れ角センサ(12)と車速センサ(11)の検出値に応じて予め決められた補正式により作業車両の傾斜角度の検出値を補正することで作業機(3)のローリング時の水平制御を行う制御装置(20)を備えたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
走行制御出力状態が4WD,2WD又は前輪増速のいずれの出力状態かに応じて前記補正式を変更することを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項1】
ハンドル(2)の切れ角度により旋回角度が決められる走行車両(1)に作業機(3)を連結した作業車両において、
ハンドル(2)の切れ角を検知するハンドル切れ角度センサ(12)と車速を検出する車速センサ(11)と作業車両の水平に対して左右方向への傾斜角度を検出するスロープセンサ(10)を設け、
ハンドル切れ角センサ(12)と車速センサ(11)の検出値に応じて予め決められた補正式により作業車両の傾斜角度の検出値を補正することで作業機(3)のローリング時の水平制御を行う制御装置(20)を備えたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
走行制御出力状態が4WD,2WD又は前輪増速のいずれの出力状態かに応じて前記補正式を変更することを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−193839(P2010−193839A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44772(P2009−44772)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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