説明

作業車両

【課題】走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来より短時間に作業機を上昇できる作業車両を提供すること。
【解決手段】機体2の後部に苗移植装置7を装着するためのリンク機構8と、リンク機構を昇降させる昇降装置30と、機体2に設けられたエンジン6と、エンジン6の動力を変速して出力する変速装置5と、前進走行域、停止域、及び後進走行域の何れかの位置に切り替えることにより、変速装置の出力を変化させて走行速度を操作する走行操作レバー10と、走行操作レバー10が少なくとも後進走行域にある場合に苗移植装置7の上昇速度をエンジン回転数に基づいて制御する第1の制御を行う制御部200とを備え、第1の制御は、走行操作レバー10が、後進走行域の内、走行速度を最高に設定する最高速位置にあるときのエンジン回転数よりも、最高速位置より手前の位置にあるときのエンジン回転数の方を高くする制御である、作業車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の後部に苗移植機などの作業機を連結して各種作業を行う作業車両に関するものであり、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、苗移植機などの農作業機を連結した作業車両が、例えば、苗移植作業中において、畦際で機体を後進などさせる場合には、車速を低速で走行するためにハンドアクセルレバーを操作してエンジン回転数を低回転にセットすることが多い。しかし、このようにエンジン回転数を低下させると、エンジンからの動力で駆動される、作業機を昇降させる昇降装置の上昇速度が遅くなる。そのため、畦に極めて近い位置では作業機が畦に接触しない高さ以上に上昇するまで後進を待機する必要があり、作業能率が低下するという問題があった。特に、作業機の重量が大きい場合には昇降装置の上昇速度が遅くなり、待機時間がより多くかかるという問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1に記載の農作業機のバックアップ装置によれば、上記の様に後進動作を行う場合、作業機も自動的に上昇するが、エンジン回転数の低下によりその上昇速度が低下して作業効率が低下するのを回避するために次のような構成にすることを開示している。
【0004】
即ち、走行変速装置(例えば、HST(静油圧式無段階変速装置))のハンドアクセルレバーが後進の停止位置に切り替えられた場合、その停止位置にある間だけ、作業機の上昇速度を速くするために、ソレノイドに通電することでアクセル装置を通常より高速に操作して、エンジン回転数を通常より高回転に制御し、後進走行位置に移った後は、ハンドアクセルレバーで設定した本来の回転数まで低下させている。ハンドアクセルレバーが後進停止位置に切り替えられる前の上昇速度よりも大きく、短時間の内に作業機を上昇させるように構成されている。
【0005】
つまり、走行変速装置のハンドアクセルレバーが、後進の停止位置に設定された場合、通常のアイドリング時のエンジン回転数より高回転に制御することにより、作業機の上昇速度を増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−123817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この様な従来の農作業機のバックアップ装置の構造では、ハンドアクセルレバーが後進停止位置でのみエンジン回転数が高くなるため、後進の待機状態に作業者が待ちきれず、作業機が上昇途中であるにも関わらず、ハンドアクセルレバーを後進の低速走行に移動させた場合、作業機が上昇し終わっていないので、畦等に接触する危険性がある。また、この危険性を回避するためには、走行停止状態のまま依然として待機する必要があった。
【0008】
本発明は、上記従来の作業車両の課題に鑑み、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来よりも短時間に作業機を上昇できる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明は、
走行車体(2)の後部に作業機(7)を装着するためのリンク機構(8)と、
前記リンク機構(8)を昇降させる昇降装置(30)と、
前記走行車体に設けられたエンジン(6)と、
前記エンジン(6)の動力を変速して出力する変速装置(5)と、
前進走行域、停止域、及び後進走行域の何れかの位置に切り替えることにより、前記変速装置の前記出力を変化させて走行速度を操作する走行操作レバー(10)と、
前記走行操作レバー(10)が少なくとも前記後進走行域にある場合に前記作業機(7)の上昇速度をエンジン回転数に基づいて制御する第1の制御を行う制御部(200)を備え、
前記第1の制御は、前記走行操作レバー(10)が、前記後進走行域の内、前記走行速度を最高に設定する最高速位置にあるときの前記エンジン回転数よりも、前記最高速位置より手前の位置にあるときの前記エンジン回転数の方を高くする制御構成としたことを特徴とする作業車両である。
【0010】
また、請求項2記載の本発明は、
前記走行速度を検出する速度検出部(120)を備え、
前記走行操作レバー(10)が前記後進走行域にある場合おいて、前記走行速度が所定速度に達したことを前記速度検出部(120)が検出した場合、前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が更に前記最高速位置方向に操作されても、前記所定速度を維持する様に前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車両である。
【0011】
また、請求項3記載の本発明は、
前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が、前記停止域の内、後進停止位置にある場合の前記エンジン回転数を、前記走行操作レバー(10)が、前記後進走行域の所定位置にある場合の前記エンジン回転数より高くする制御構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両である。
【0012】
また、請求項4記載の本発明は、
前記作業機(7)が所定高さを超えたことを検知する上昇検知部(130)を備え、
前記制御部(200)は、前記上昇検知部(130)が前記作業機(7)の上昇を検知するまでは前記第1の制御を行い、前記上昇検知部(130)が前記作業機(7)の上昇を検知した後は前記第1の制御を行わない構成としたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の作業車両である。
【0013】
また、請求項5記載の本発明は、
前記作業車両の作業を、少なくとも植付モードと移動モードを含む複数のモードの何れかに切り替え操作する副変速操作レバー(140)と、
前記副変速操作レバー(140)の操作位置を検出するレバー位置検出部(150)を備え、
前記操作位置が前記植付モード以外であることが検出された場合、前記制御部(200)は前記第1の制御を行わず、前記走行操作レバー(10)の位置に対応して前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の作業車両である。
【0014】
また、請求項6記載の本発明は、
前記エンジン回転数の増減操作を行う回転数操作部(13)を備え、
前記制御部(200)は、前記回転数操作部(13)による前記エンジン回転数を増加させる操作があると、前記第1の制御に優先して前記エンジン回転数を増加させる構成としたことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の作業車両である。
【0015】
また、請求項7記載の本発明は、
前記走行操作レバー(10)を少なくとも前記後進走行域の何れかの位置に切り替える際に、第1の切り替えパターンに対応した複数の切り替え位置のそれぞれで前記走行操作レバー(10)を位置決めする第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)と、
前記走行操作レバー(10)を少なくとも前記後進走行域の何れかの位置に切り替える際に、第1の切り替えパターンと異なる第2の切り替えパターンに対応した複数の切り替え位置のそれぞれで前記走行操作レバーを位置決めする第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)と、
前記走行操作レバー(10)の動きを、前記第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)と前記第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)の何れか一方に選択的に伝達するための切り替え部(331、332、333、334、335)を備え、
前記第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)の前記後進走行域の第1段目の位置が、前記第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)の前記後進走行域の第1段目と第2段目の間の位置である構成としたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の作業車両である。
【0016】
また、請求項8記載の本発明は、
前記エンジン(6)を異なる動力特性で回転制御可能な、少なくとも標準モード、低燃費モード、高出力モード、及び後進モードを含む複数の制御モードの中から何れか一つの制御モードを選択するモード選択部(170)を備え、
前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が前記後進走行域にあるときは、前記モード選択部(170)の選択結果に関わらず前記後進モードに基づいて前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の本発明によれば、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来よりも短時間に作業機(7)を上昇できる。即ち、走行操作レバー(10)が後進方向の最後部よりも前側位置に操作された際にエンジン回転数がピーク値まで上昇し、走行操作レバー(10)が後進方向の最後部に操作されるとエンジン回転数が低下する制御構成としたことにより、高速で後進する際に走行速度が上がり過ぎることを防止できるので、作業者が走行車体(2)を後進操作し易くなるため、作業能率が向上する。
【0018】
また、エンジン回転数がピーク値まで上昇する操作位置を設けたことにより、リンク機構(8)の上昇速度が速くなるため、リンク機構(8)に取り付けた作業機(7)が地面に接触することを防止できるので、作業機(7)が破損等することが防止され、作業機(7)の耐久性が向上する。
【0019】
また、請求項2記載の本発明によれば、請求項1記載の本発明の効果に加えて、速度検出部(120)が検出した後進速度が設定速度に到達すると、設定速度が維持されるエンジン回転数に変更される制御構成としたことにより、作業者が意図した速度よりも速く後進走行することが防止されるため、作業者が走行車体(2)の操作に集中できる。
【0020】
また、設定速度に到達するまではエンジン回転数が上昇するため、リンク機構(8)の上昇速度が速くなるため、リンク機構(8)に取り付けた作業機(7)が地面に接触することを防止できるので、作業機(7)が破損等することが防止され、作業機(7)の耐久性が向上する。
【0021】
また、請求項3記載の本発明によれば、請求項1又は2記載の本発明の効果に加えて、走行操作レバー(10)の後進停止位置でのエンジン回転数よりも、走行操作レバー(10)を後進方向の所定位置に操作した際のエンジン回転数を低くする制御構成としたことにより、後進停止位置でリンク機構(8)を高速で上昇させることができるので、作業機(7)の底部が地面に接触しない高さまで上昇する時間が短くなり、後進走行に速やかに切り替えられるため、作業能率が向上する。
【0022】
また、後進操作を開始した際に急発進することが防止されるので、作業者は走行車体(2)の操作に集中することができ、操作性が向上する。
【0023】
また、請求項4記載の本発明によれば、請求項1から3のいずれか1項に記載の本発明の効果に加えて、上昇検知部(130)が検知状態の際は昇降装置(30)による昇降動作は不要であり、エンジン回転数を走行操作レバー(10)の操作段階に合わせた別の回転数の制御特性(図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数の制御特性を参照)に変更する制御構成としたことにより、不要なエンジン回転数の上昇を防止することができるので、燃料の消費量を削減することができると共に、構成部材に余計な負荷がかかることが防止されるので、耐久性が向上する。
【0024】
また、エンジン回転数が走行操作レバー(10)の操作段階に合わせた別の回転数の制御特性に従うことにより、後進速度が急に速くなることが防止されるので、作業者は走行車体(2)の操作に集中することができ、操作性が向上する。
【0025】
そして、上昇検知部(130)が非検知状態の際は、リンク機構(8)を上昇させるために、エンジン回転数がピーク値まで上昇する制御構成としたことにより、リンク機構(8)を高速で上昇させることができるので、作業機(7)の底部が地面に接触しない高さまで上昇する時間が短くなり、後進走行に速やかに切り替えられるため、作業能率が向上する。
【0026】
また、請求項5記載の本発明によれば、請求項1から4のいずれか1項に記載の本発明の効果に加えて、走行操作レバー(10)が後進走行停止位置又は後進走行域にある状態で、レバー位置検出部(150)が副変速操作レバー(140)の操作位置が、例えば路上走行モードであることを検出した場合、エンジン回転数を走行操作レバー(10)の操作段階に合わせた別の回転数の制御特性(図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数の制御特性を参照)に変更する制御構成としたことにより、不要なエンジン回転数の上昇を防止することができ、燃料の消費量を削減することが出来るとともに、構成部材に余計な負荷がかかることが防止されるので、装置の耐久性が向上する。
【0027】
また、上述した別の回転数の制御特性によれば、後進走行速度が急に速くなることが防止出来、作業者は走行車体(2)の操作に集中することが出来、操作性が向上する。
【0028】
また、請求項6記載の本発明によれば、請求項1から5のいずれか1項に記載の本発明の効果に加えて、作業者が回転数操作部(13)を操作することにより、エンジン回転数をピーク値(例えば、図5(a)の4段目の回転数、又は、図示しないが4段目より更に高い回転数)まで上昇させることが出来る構成としたことにより、後進走行時にエンジン回転数を増加させる必要がある場合に、回転数操作部(13)を操作するだけで優先的に必要なエンジン回転数を確保出来るので、操作性及び作業能率が向上する。
【0029】
また、請求項7記載の本発明によれば、請求項1から6のいずれか1項に記載の本発明の効果に加えて、後進走行で高いトルクが必要となる場合、後進走行開始時に走行速度をあまり上げることなく、通常より高い走行トルクを確保することが出来るので、傾斜地や凹凸の多い場所等で後進走行する際に、トルク不足で走行が停止してしまうことを防止出来、作業能率が向上する。
【0030】
また、請求項8記載の本発明によれば、請求項1から7のいずれか1項に記載の本発明の効果に加えて、制御部(200)に、エンジン回転数を制御する複数の制御モードを設定したことにより、作業者の意図や作業条件に合わせたエンジン回転数で作業を行うことができるので、低出力で作業をすることにより燃費を向上させることや、高出力で作業をすることにより凹凸や傾斜のある圃場でも能率のよい作業が行える。
【0031】
また、後進走行中は設定した制御モードに関係なく、後進時のエンジン回転制御を優先する構成としたことにより、電装系に不具合が生じてもエンジン回転数が不足することを防止できるので、走行車体(2)や作業機(7)が停止することが防止され、作業能率が向上する。
【0032】
逆に、エンジンが過剰に回転することを防止できるので、後進速度が急に速くなることが防止され、走行車体(2)の操作性が向上すると共に、余分に燃料が消費されることが防止され、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1における、苗移植作業車両の一例である6条型の乗用田植機の側面図
【図2】本発明の実施の形態1における、苗移植作業車両の一例である6条型の乗用田植機の平面図
【図3】本発明の実施の形態1における乗用田植機の制御システムを示すブロック図
【図4】本発明の実施の形態1における乗用田植機の制御システムの動作を説明するためのフロー図
【図5】(a)本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、走行操作レバーの操作位置と、それに対応して予め定められたエンジンスロットルの開度によるエンジン回転数との関係を示す概略図、(b)図5(a)に対応して示された、走行操作レバーの操作位置と機体の車速との関係を示す概略図
【図6】本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、ダブルカム収納ボックスの概略断面図
【図7】(a)本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける第1カム部材の外形を示す概略平面図、(b)本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける第2カム部材の外形を示す概略平面図
【図8】本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、低燃費モードL、標準モードM、及び、高出力モードHを示す特性線図
【図9】本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、ダブルカム収納ボックスの変形例を示す概略断面図
【図10】(a)本実施の形態の乗用田植機を前面側から見た概略図、(b)図10(a)に示した瓢箪型の穴部とその周辺の拡大図
【図11】図10に示す乗用田植機の制御システムを示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の作業車両の一実施の形態の苗移植作業車両についてその構成と動作を説明する。
【0035】
(実施の形態1)
図1は、本発明の苗移植作業車両の一例である6条型の乗用田植機の側面図であり、図2は、その平面図である。また、図3は、本実施の形態の乗用田植機の制御処理機構を説明するためのブロック図である。
【0036】
I.まず、これらの図面を用いて、本実施の形態の乗用田植機1の構成を中心に説明する。
【0037】
図1、図2に示す通り、苗移植作業車両の一例である6条型の乗用田植機1は、圃場走行可能に機体2(本願発明の走行車体の一例に該当)を支持する前後輪3,4と、これら前後輪3,4に走行動力を変速伝動する変速装置5と、この変速装置5を含む各機器に動力を供給する原動部であるエンジン6と、機体後部に昇降可能に支持されて変速装置5からの分岐動力により圃場に苗を植付けする苗移植装置7と、苗移植装置7を機体後部に連結するためのリンク機構8と、苗移植装置7を上下に昇降させる油圧昇降シリンダ9と、変速装置を切り替えて走行速度を操作する走行操作レバー10や各種機器を操作するための操作具、及びステアリングハンドル11等を配置した操縦部12等から構成される。
【0038】
変速装置5は、HSTと略称される静油圧式無段変速機を備え、走行操作レバー10の操作に連動した前後進切替えと無段変速を行うモータ電動操作によるトラニオン軸(図示省略)の角度調節により、ベルト5aによる伝動で受けたエンジン動力を前後輪3,4に変速伝動し、中低速域の作業走行および高速域の路上走行のそれぞれについて停止速から最高速までの変速が可能に構成する。
【0039】
エンジン6は、後進走行モード、低燃費走行モード、標準走行モード、高出力走行モードの各種モードでの動力特性範囲の走行動力をスロットル開度のモータ電動調節によりカバー可能に構成するほか、油圧機器駆動用の油圧ポンプ等の補機を駆動する。
【0040】
苗移植装置7は油圧動力によって昇降駆動されるとともにローリング角度調節によって水平支持され、また、変速装置5からの分岐動力によって車速連動で植付動作可能に構成する。尚、苗植付装置7は、本例では、6条植の構成で、植付条数分に仕切られた苗載せ面に土付きのマット状苗が載置される苗載タンク14と、苗載タンク上の苗を圃場に植え付ける植付条数分の植付装置15と、圃場面上を滑走して整地するフロート16等から構成されている。
【0041】
次に、本実施の形態の乗用田植機1に設けられている、条件に従って各機器を制御する制御システムを、図3を用いて説明する。
【0042】
ここで、図3は、本実施の形態の乗用田植機1の制御システムを示すブロック図である。
【0043】
図3に示す様に、本実施の形態の制御システムは、変速装置5、エンジンスロットル20、苗移植装置7、苗移植装置7を昇降させるための、油圧昇降制御弁(図示省略)や油圧昇降シリンダ9を含む昇降装置30等を制御装置200によって動作制御可能に構成している。
【0044】
また、図3に示す通り、制御部200への入力側には、変速装置5の変速操作用の走行操作レバー10、走行操作レバー10が後進停止位置にある場合と、後進走行域にある場合の両方を検出する後進位置検出部110、機体2の走行速度を検出する速度検出部120、苗移植装置7が所定高さを超えたことを検知する上昇検知部130、乗用田植機1の動作モードを、作業モード(例えば、植付モード)と移動モード(例えば、路上走行モード)の何れかに切り替える副変速操作レバー140のレバー位置の検出を行う副変速レバー位置検出部150、エンジン回転数を操作するアクセルペダル13のアクセル操作を検出するアクセル操作検出部160、エンジン6の動力特性である標準モード、低燃費モード、高出力モード、後進モードの中から何れか一つのモードを選択するモード選択部170、及び、苗移植装置7の、植付開始、降下、停止、上昇、及び自動の各種動作を切り替える昇降レバー180等が接続されている。
【0045】
走行操作レバー10の動きは、走行操作レバー10の前進・後進の移動量を検出するためのポテンショメータ(図示省略)の検出値及び、後進位置検出部110による検出結果として制御部200に入力される構成である。
【0046】
制御部200は、制御部200に入力されたポテンショメータの検出値と、後進位置検出部110による検出結果とに応じて、変速装置5(HST)と、エンジンスロットル20に対して、それぞれ制御信号を出力する構成である。
【0047】
即ち、制御部200は、変速装置5に対しては、モータ電動操作によるトラニオン軸(図示省略)の角度調節などを行うための制御信号を出力し、エンジンスロットル20に対しては、開度調節用モータを駆動して、エンジン6の回転数を制御するための制御信号を出力する構成である。この場合のエンジン回転数の制御方法については、後述する。
【0048】
尚、走行操作レバー10は、8段階の前進操作域、前進停止位置(前進アイドリング位置)、後進停止位置(後進アイドリング位置)、及び、5段階の後進走行域の、各変速位置に位置決め可能に構成されている(図5(a)参照)。
【0049】
II.以上の構成の下で、次に、本実施の形態の乗用田植機1の制御システムの動作について、エンジン回転制御を中心に、主として図4、図5等を参照しながら説明する。
【0050】
ここで、図4は、本発明の実施の形態1における乗用田植機の制御システムの動作を説明するためのフロー図である。また、図5(a)本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、走行操作レバーの操作位置と、それに対応して予め定められたエンジンスロットルの開度によるエンジン回転数との関係を示す概略図であり、図5(b)は、図5(a)に対応して示された、走行操作レバーの操作位置と機体の車速との関係を示す概略図である。
【0051】
(II−1).ここでは、本実施の形態の乗用田植機1の苗移植作業中(苗移植作業は、単に、植付作業と呼ぶ)に、前進走行から後進走行に切り替える場面において、走行操作レバー10が、後進走行域の内、走行速度を最高に設定する最高速位置(ここでは、後進走行域の5段目の位置)にあるときのエンジン回転数よりも、走行操作レバー10が、最高速位置より手前の位置(ここでは、後進走行域の4段目の位置)にあるときのエンジン回転数の方を高くする制御であって、且つ、走行操作レバー10が、後進停止位置にある場合のエンジン回転数を、走行操作レバー10が、後進走行域の所定位置(ここでは、図5(a)の後進走行の1段目と2段目の位置)にある場合のエンジン回転数より高くする制御について、図4を参照しながら説明する。この様なエンジン回転数の制御をここでは、「第1の制御」と呼ぶ。
【0052】
尚、本実施の形態では、昇降レバー180は、作業者により既に「自動」に切り替えられており、且つ、副変速操作レバー140は、「植付モード」に切り替えられているものとして説明する。
【0053】
図4に示す通り、作業者が、走行操作レバー10を前進停止位置から後進停止位置に移動させると、後進位置検出部110からの検知信号を受けた制御部200は(図4のステップS101参照)、副変速操作レバー位置検出部150からの検出信号により、現状の動作モードが「植付モード」以外であるか否かを判断する(図4のステップS102参照)。ここでは、既に副変速操作レバー140が、「植付モード」に切り替えられているので、ステップS103へ進む。
【0054】
一方、現状の動作モードが「植付モード」以外であれば、「第1の制御」の実行を終了し、各動作モードに応じた「通常制御」を実行する(図4のステップS118参照)。ここで、「通常制御」は、後述する「第2の制御」(図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数の制御特性を参照)をも含む、「第1の制御」以外の制御を総称したものである。
【0055】
これにより、走行操作レバー10が後進走行停止位置又は後進走行域にある場合であって、副変速操作レバー位置検出部150が、副変速操作レバー140の操作位置が例えば、路上走行モードであることを検出した場合、上記「第1の制御」に代えて、通常制御の内、後述する「第2の制御」を実行する構成としたことにより、不要なエンジン回転数の上昇を防止することが出来、燃料の消費量を削減することが出来るとともに、構成部材に余計な負荷がかかることが防止されるので、装置の耐久性が向上する。
【0056】
また、「第2の制御」のエンジン回転数が、図5(a)に示す通り、後進走行5段目を除き、「第1の制御」(図5(a)の実線で示したエンジン回転数の制御特性を参照)より低い回転数であるので、後進走行速度が急に速くなることが防止出来、作業者は機体2の操作に集中することが出来、操作性が向上する。
【0057】
次に、ステップS103では、まず、制御部200は、上昇検知部130からの検知信号により、苗移植装置7が所定の高さを超えたか否かを判断し、まだ超えていなければ、ステップS104へ進む。一方、苗移植装置7が所定の高さを超えていれば、エンジン回転数の制御特性を、後述する「第2の制御」(図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数の制御特性を参照)に移行し、昇降装置30による苗移植装置7の昇降動作は行わない(図4のステップS119参照)。
【0058】
これにより、上昇検知部130が、苗移植装置7が既に所定高さを超えて上昇していることを検知した場合は、昇降装置30による昇降動作は不要であり、エンジン回転数を「第1の制御」から「第2の制御」に切り替えて制御するので、不要なエンジン回転数の上昇を防止することが出来、燃料の消費量を削減することが出来るとともに、構成部材に余計な負荷がかかることが防止されるので、装置の耐久性が向上する。
【0059】
また、苗移植装置7を上昇させている最中は、エンジンに負荷がかかることを見越して、エンジン回転数を高回転に設定しているので(「第1の制御」)、所定高さまで上昇し後、昇降装置30を停止することにより、エンジンへの負荷はその分軽くなる。そのため、「第1の制御」をそのまま続けると、機体2の後進走行速度が急に速くなる場合があるので、「第2の制御」に切り替えることにより、機体2の後進走行速度が急に速くなることが防止出来て、作業者は機体2の操作に集中することが出来、操作性が向上する。
【0060】
次に、ステップS104では、エンジン回転数を所定値(図5(a)では、約2600rpm)まで上昇させるために、エンジンスロットル20の開度を予め定められた角度に設定する。これにより、昇降装置30が苗移植装置7の上昇を開始する。
【0061】
これにより、走行操作レバー10が後進停止位置にある時に、エンジン回転数を上昇させて、走行操作レバー10を後進走行域の所定位置(ここでは、1段目と2段目)に操作した際のエンジン回転数の方を低くする制御構成としたことにより、後進停止位置において、リンク機構8及び苗移植装置7を高速で上昇させることができ、苗移植装置7の底部等が、地面や畦などに接触しない高さまで短時間で上昇出来、後進走行に速やかに切り替えられるので、作業能率が向上する。
【0062】
また、後進走行を開始した少なくとも1段目では、エンジン回転数を低く設定しているので、機体2が急発進することを防止出来、作業者は機体2の操作に集中することが出来、操作性が向上する。
【0063】
次に、作業者が、走行操作レバー10を後進停止位置(後進アイドリング位置)から、後進走行域に移動させると、後進位置検出部110がそのことを検知して、後進走行域に走行操作レバー10が移動したことを制御部200に通知する(図4のステップS105参照)。
【0064】
上記通知を受けた制御部200は、走行操作レバー10が、5段目に移動するまでは(図4のステップS106)、即ち、停止位置から1段目に移動した際には、一旦エンジン回転数を低下(図5(a)では、約2600rpmから約2100rpmに低下)させるようにエンジンスロットル20を予め定められた開度に設定し、1段目から4段目までを移動する間は、エンジン回転数を順次増加させるように、エンジンスロットル20を予め定められた開度に制御する(図4のステップS107参照)。一方、5段目に移動した場合は、ポテンショメータの検出値により4段目を越えたことを制御部200に通知するので(図4のステップS106参照)、エンジンスロットル20を制御することにより、エンジン回転数を4段目での回転数よりも低下させて(図4のS117、図5(a)参照)、ステップS108に進む。
【0065】
ステップS107では、制御部200が、上述の様に、走行操作レバー10の移動量を検出するポテンショメータからの検出値に応じて、予め定めた制御特性(図5(a)の実線を参照)に基づいてエンジン回転数を制御する(図4のステップS107参照)。
【0066】
ところで、図5(a)に示す様に、ここでのエンジン回転数の制御特性(図5(a)の実線を参照)は、植付作業中の後進走行において、苗移植装置7が所定高さを超えたことが検知された後において切り替えられるエンジン回転数(図4のステップS105、S119参照)(図5(a)の一点鎖線を参照)、及び、植付作業以外の例えば、路上での後進走行用として設定されているエンジン回転数(図5(a)の一点鎖線を参照)に比べて、5段目を除いて、高めに設定されている。尚、図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数による制御を「第2の制御」と呼ぶ。
【0067】
即ち、図5(a)の実線で示す制御特性によれば、植付作業時の後進停止位置では、1段目及び2段目のエンジン回転数より高く設定されている。そして、停止位置から1段目に移動した際には一旦エンジン回転数をほぼ通常の回転数まで低下させるが、1段目から4段目までは、走行操作レバー10の位置に対応して通常より急カーブで増加させ、4段目から5段目に移動すると、エンジン回転数が4段目よりも低下させる点において、特有の制御特性を有している。また、車速の変化については、図5(b)に示した。
【0068】
尚、図5(a)は、本実施の形態の乗用田植機1の植付作業中におけるエンジン回転数の制御特性を説明するための概略図であり、図5(b)は、図5(a)に対応した車速を示す概略図である。尚、本実施の形態の「第1の制御」に基づくエンジン回転数、及び車速を実線で示し、「第2の制御」に基づく後進走行時のエンジン回転数、及び車速を一点鎖線で示し、前進走行時は、破線で示した。
【0069】
これにより、後進走行停止位置で待機することなく、後進走行しながら苗移植装置7を従来よりも素早く上昇させることが出来る。また、走行操作レバー10が後進走行方向の最後部(図5(a)では、5段目)よりも、前側の位置(図5(a)では、4段目)に操作された際に、エンジンスロットル20を、エンジン回転数(図5(a)では、約3100rpm)が上昇するように予め定められた開度に制御し、走行操作レバー10が後進走行方向の最後部に操作されると、エンジンスロットル20を、エンジン回転数(図5(a)では、約2900rpm)が低下するように予め定められた開度に制御する構成としたことにより、走行操作レバー10を最後部側に移動させて後進走行する場合に、走行速度が上がり過ぎることを防止でき、作業者が機体2を後進操作し易くなり、作業能率が向上する。
【0070】
また、走行操作レバー10の後進走行域の途中に、エンジン回転数がピーク値まで上昇する位置(本実施の形態では、4段目)を設けたことにより、リンク機構及び苗移植装置7の上昇速度が速くなり、後進走行の最中に苗移植装置7が畦などに接触することを防止できるので、苗移植装置7の破損を防止でき、耐久性の向上につながる。
【0071】
ここで、再び、図4の各ステップの説明に戻る。
【0072】
即ち、ステップS108では、上述したステップS103と同じ判定を行い、所定高さを超えていない場合は、機体2の後進走行速度が設定速度に達したか否かを判定し(図4のステップS109参照)、達していなければ、ステップS110へ進む。
【0073】
走行操作レバー10の移動量の変化をポテンショメータの検出値から判断して(図4のステップS110参照)、変化が無ければ、エンジン回転数を維持し(図4のステップS111参照)、ステップS112では上記ステップS103と同じ処理を行い、ステップS110に戻る。
【0074】
一方、ステップS110で、移動量の変化があると判断すれば、ステップS105に戻って、上記動作を繰り返す。ここで、走行操作レバー10が後進停止位置に向かう方向に移動した場合、エンジン回転数は、その位置に対応して順次低下して行く(図4のステップS107)。
【0075】
また、ステップS105で、後進走行域で走行操作レバー10が検出されない場合、更に、後進停止位置で走行操作レバー10が検出されるかどうかを判定し(図4のステップS113参照)、検出されなければ、ここでのエンジン回転制御(「第1の制御」)は終了する。また、検出されれば、ステップS103へ戻り、上記動作を繰り返す。
【0076】
また、ステップS109で、機体2の後進走行速度が設定速度に達したと判断すれば、走行操作レバー10が更に高速側に操作されても、その設定速度を維持する様にエンジン回転数を制御し(図4のステップS114参照)、ステップS115では、上述したステップS103と同じ処理を行う。
【0077】
尚、上記設定速度は、作業者が切り替えスイッチ(図示省略)を切り替えることにより、自由に選択可能な構成になっている。
【0078】
また、機体2の走行速度を設定速度に維持する場合において、作業者が走行操作レバー10を移動して、その移動方向が後進停止位置に向かう方向であると判定すれば(図4のステップS116参照)、リターンによりステップS101に戻り、上記処理を繰り返す。また、ステップS116で、後進停止位置に向かう方向ではないと判定すれば、ステップS114に戻って上記処理を繰り返す。
【0079】
これにより、作業者自身が切り替えスイッチで設定速度を予め選択して設定することが出来、その設定速度を維持出来るので、作業者が意図した速度よりも速い速度で後進走行することが防止出来、作業者が機体2の操作に集中出来る。
【0080】
また、設定速度に到達するまでは、エンジン回転数が従来装置より早く上昇するため、リンク機構及び苗移植装置7の上昇速度が速くなり、後進走行の最中に苗移植装置7が畦などに接触することを防止できて、苗移植装置7の破損を防止でき、耐久性の向上につながる。
【0081】
尚、8条植田植機や10条植田植機など、植付条数が多く苗移植装置7の重量が大きくなる場合、苗移植装置7の上昇に必要となるエンジン6の負荷が増加するので、図5(a)に示すエンジン回転数に対応したエンジンスロットル20の開度を与えても、高トルクが必要な分だけ、車速は図5(b)に示す上昇率より低い上昇率になり、従来の車速と同程度になることもある。この場合でも、後進走行時の車速は従来と同じレベルを維持出来るので、後進走行停止位置で待機することなく、後進走行しながら苗移植装置7を従来よりも素早く上昇させることが出来る点で、作業能率が向上する。
【0082】
(II−2).上記説明では、作業者が、走行操作レバー10を操作して機体2の車速を調整する場合について述べたが、ここでは、後進走行時において作業者がアクセルペダル13を踏んだ場合の動作について更に説明する。
【0083】
後進走行時において、制御部200が上述した「第1の制御」を実施している際に、作業者がアクセルペダル13を踏んだ場合、アクセル操作検知部160からの検知信号を受けた制御部200は、「第1の制御」に優先して、エンジン回転数を増加させる制御を行う。
【0084】
即ち、制御部200は、エンジンスロットル20に対して、エンジン6の回転数を更に増加させるための指令を出す。
【0085】
これにより、作業者がアクセルペダル13を踏むことにより、エンジン回転数をピーク値(例えば、図5(a)の4段目の回転数、又は、図示しないが4段目より更に高い回転数)まで上昇させることが出来る構成としたことにより、後進走行時にエンジン回転数を増加させる必要がある場合に、そのアクセルペダル13を踏むだけで優先的に必要なエンジン回転数を確保出来るので、操作性及び作業能率が向上する。
【0086】
(II−3).上記説明では、圃場内での後進走行時の動作を中心に説明したが、ここでは、例えば、機体2が歩み板を上る場合や、圃場から出る場合に必要な高トルクを確保するためのエンジン回転数の制御について、図5、図6、図7を参照しながら説明する。
【0087】
図6は、走行操作レバー10の停止位置、及び、前進後進域の各段の変速位置での位置決め様の第1カム部材310と、第2カム部材320を切り替え可能に収納したダブルカム収納ボックス330の概略断面図であり、図7(a)、図7(b)は、それぞれ第1カム部材310、第2カム部材320の外形を示す概略平面図である。
【0088】
図6に示す様に、内部に所定の空間を有するように向かい合わせに締結された収納ケース330aと330bの内部には、軸受け部材337aと337bにより回転自在に指示された回転軸部材337が配置されている。回転軸部材337には、伝動板336がロックキー336aにより常時固定されている。また、伝動板336に対しては、走行操作レバー10による前進操作、停止操作、及び後進操作の動きが連動部材10aにより伝達可能に構成されている。また、伝動板336の図中左側に配置された、第1カム部材310と第2カム部材320は、図7(a)、(b)に示す様に、略扇形をしており、その扇の要に相当する位置に設けられた貫通孔312、322に、回転軸部材337が回動可能に挿入されている。尚、貫通孔312、322には、それぞれ、後述する切り替えロック部材334のツメ部334aが挿入されるツメ用凹部311、321が形成されている。
【0089】
ここで、図7(a)、(b)を参照しながら、第1カム部材310と第2カム部材320について説明する。第1カム部材310は、上記実施の形態において図5で説明した後進5段、前進8段の操作位置を実現するためのカムであり、扇形の円弧状端部には、停止位置に対応する位置と、後進走行域には1段、2段、3段、4段、5段の5つの段階に対応する位置と、前進走行域には8つの段階に対応する位置とに、それぞれ等間隔で円弧状凹部313が形成されている。
【0090】
一方、第2カム部材320は、上記第1カム部材310と異なり、扇形の円弧状端部には、停止位置に対応する位置と、後進走行域には1.5段、3段、4段、5段の4つの段階に対応する位置と、前進走行域には8つの段階に対応する位置とに、それぞれ円弧状凹部323が形成されているが、等間隔ではない。即ち、後進走行域の内、停止位置の隣の操作位置は、第1のカム部材310の段との関係で言えば、1段と2段の中間の1.5段であり、更にその位置以降の操作位置は、3段、4段、5段となる。
【0091】
更に、第1カム部材310と第2カム部材320の端部には、走行操作レバー10の操作位置に連動した前後進切替えと無段変速を、制御部200からの指令により変速装置5(HST)に行わせるために、走行操作レバー10の前進・後進の移動量をポテンショメータ(図示省略)に伝達するための伝達アーム314、324が設けられている。
【0092】
ここで、再び、図6に戻り更に説明する。
【0093】
回転軸部材337の外周の一部には軸方向に沿って溝337cが形成されており、その溝337cを外周から覆うように、回転軸部材337の外径より大きな外径の筒状カバー339が設けられている。溝337cと筒状カバー339で囲まれた空間に、先端部に凸状のツメ部334aが形成された棒状の切り替えロック部材334が、板バネ部材335により付勢されて、回転軸部材337の軸方向に移動可能に配置されている。
【0094】
一方、ダブルカム収納ボックス330には、収納ケース330aと330bの一部により、矢印A方向に摺動可能に支持されて、回転軸部材337に平行に配置され、一方の端部が収納ケース330aの外部に突き出した切り替えシャフト332が配置されている。そして、その切り替えシャフト332の一方の端部には、作業者が手で握り易い形状の切り替えレバー331が取り付けられており、他端には、その切り替えレバー331の動きに、切り替えロック部材334を連動させるための連動板333が固定されている。
【0095】
これにより、切り替えロック部材334のツメ部334aは、走行操作レバー10が停止位置にある時に、切り替えレバー331の動きに連動して、第2カム部材320のツメ用凹部321、又は、第1カム部材310のツメ用凹部311に挿入されて、何れか一方のカム部材が、回転軸部材337に一時的に固定ロックされる。
【0096】
更に、第1カム部材310と第2カム部材320のそれぞれに複数形成された円弧状凹部313、323において走行操作レバー10を対応付けて位置決めするために、ダブルカム収納ボックス330の外壁に設けられたバネ留めピン340により上端部が固定された当接バネ部材338a、338bの下端部には、ローラ338a1、338b1が回転可能に設けられている。ローラ338a1、338b1は、第1カム部材310と第2カム部材320のそれぞれが、回転軸部材337の軸周りでの回動を可能にする状態で、当接バネ部材338a、338bにより円弧状凹部313、323に付勢されている。
【0097】
尚、第1カム部材310と第2カム部材320の配置は、図6に限らず、第1カム部材310の方が、第2カム部材320よりも伝動板336側に近い位置に配置されていても良い。
【0098】
以上の構成により、例えば、機体2が後進走行で歩み板を上る場合であって、作業者が、トルク不足になりそうだと予想した場合は、走行操作レバー10を後進停止位置にした状態で、切り替えレバー331を押し込む方向にスライドさせることにより、切り替えロック部材334のツメ部334aが同方向に連動して動き、第2カム部材320のツメ用凹部321と嵌合して、第2カム部材320が回転軸部材337に固定ロックされる。これにより、第1カム部材310から第2カム部材320への切り替えが簡単で且つ確実に行える。
【0099】
その後、作業者が、走行操作レバー10を、後進走行域において最初にクリック感を感じる位置まで移動させると、その操作に対応して、伝動板336及び第2カム部材320が、回転軸部材337の軸芯X(図6参照)周りで回動し、図7(b)に示す第2カム部材320の1.5段の位置に形成された円弧状凹部323に、ローラ338b1が当接し前後方向へ揺動可能な状態で、走行操作レバー10が位置決めされる。
【0100】
この時、制御部200は、エンジンスロットル20に対して、エンジン6が図5(a)に示した後進1段と後進2段の間の位置に対応するエンジン回転数(図5(a)では、約2300rpm)に相当する出力を得るための開度指令を出す。尚、歩み板が急勾配であるため、実際のエンジン回転数は2300rpmまでは上昇しないので低速走行となるが、その代わり高トルクが得られる。一方、変速装置5(HST)は、制御部200からの指令を受けて、走行操作レバー10の後進走行の1.5段への操作に対応したトラニオン軸の角度調節によりエンジン動力を前後輪3、4に変速伝動することで、後進走行開始時に低速かつ高トルクの出力が得られる。
【0101】
これにより、後進走行で高いトルクが必要となる場合、後進走行開始時に走行速度をあまり上げることなく、通常より高い走行トルクを確保することが出来るので、傾斜地や凹凸の多い場所等で後進走行する際に、トルク不足で走行が停止してしまうことを防止出来、作業能率が向上する。
【0102】
尚、本発明の第1のレバー位置決め部の一例が、本実施の形態の第1カム部材、当接バネ部材338a、及びローラ338a1等を含む構成に該当し、本発明の第2のレバー位置決め部の一例が、本実施の形態の第2カム部材、当接バネ部材338b、及びローラ338b1等を含む構成に該当する。また、本発明の切り替え部の一例が、本実施の形態の切り替えレバー331、切り替えシャフト332、連動板333、切り替えロック部材334、板バネ部材335等を含む構成に該当する。
【0103】
(II−4).上記説明では、圃場内での後進走行時の動作を中心に説明したが、ここでは、制御部200において、例えば、エンジン6への燃料噴射のタイミングなどを電子制御することにより、標準モード、低燃費モード、高出力モード、後進モードなどのエンジン回転数を制御する複数のエンジン制御モードを、モード選択スイッチ170で切り替える場合の動作について、図8を参照しながら説明する。
【0104】
ここで、図8は、本発明の実施の形態1の乗用田植機の制御システムにおける、低燃費モードL、標準モードM、及び、高出力モードHを示す特性線図である。
【0105】
以下、複数のエンジン制御モードを動作させるエンジン制御システムにおける各機器の制御について説明する。
【0106】
図8に示す様に、ここでのエンジン制御システムでは、エンジン6の前進走行における動力特性として、走行操作レバー10の前進停止位置から最高速位置の8段に亘る車速指示による回転数について、低燃費モードL、標準モードM、高出力モードHを設定している。
【0107】
ここで、低燃費モードLは、低燃費走行用として低回転アイドリングL0から始まる動力特性であり、標準モードMは、通常の走行用として通常回転アイドリングM0から始まる動力特性であり、高出力モードHは、ぬかるみ走行用として高回転アイドリングH0から始まる動力特性である。尚、後進モードは、上述した「第1の制御」(図5参照)を含む後進走行用に設定された制御モードである。
【0108】
制御部200は、上記4つの回転モードのいずれかをモード選択スイッチ170によって選択可能に構成するとともに、走行操作レバー10の指示が、図8に示す様に、前進停止位置「0段」から発進直後のレバー位置「2段」までの低速域について高出力モードHを適用し、レバー位置「3段」以上の中速域以上では、モード選択スイッチ170で選択された回転モードを適用する。
【0109】
例えば、モード選択スイッチ170によって低燃費モードLを選択している場合は、図8に示す特性図上のH0、H2、L3、L8の各点を結ぶ特性線によるエンジン動力を変速装置5に供給する。このような動力特性による制御動作は、走行操作レバー10が前進停止位置「0段」から増速操作されると、変速装置5が停止速で高出力モードHによるアイドリング回転H0から発進直後の低速域のレバー位置「2段」まで高出力モードHが維持され、次いで中速域の増速操作により、モード選択スイッチ170による低燃費モードLに移行する。
【0110】
一方、モード選択スイッチ170によって、後進モードを選択している場合は、上述した「第1の制御」(図5参照)を含む後進走行用に設定された制御モードを実施する。
【0111】
また、例えば、モード選択スイッチ170によって低燃費モードLを選択している場合であっても、作業者が走行操作レバー10を後進停止位置、及び後進走行域に操作した場合は、モード選択スイッチ170の選択結果に関わらず、後進モードに基づいてエンジン回転数を制御する。
【0112】
このように、低燃費走行からぬかるみ走行に及ぶ動力特性幅でエンジン6から各機器に動力を供給して変速装置5、及び苗移植装置7により植付け作業走行を行うに際して、低燃費モードL、標準モードM、高出力モードHの何れかのモード選択に沿って走行操作レバー10の操作に応じたエンジン制御を行い、また、停車時及び発進直後の低速域の走行に限り高出力モードHが適用される。
【0113】
また、後進走行中は、モード選択スイッチ170の選択結果に関わらず、後進モードに基づいたエンジン回転数を優先させるので、燃料噴射のタイミングを電子制御によりきめ細かく制御する必要が無いので、電子制御に関係する電装系統の異常に起因したエンジン回転数の制御不能や回転数不足を防止出来、走行車体や苗移植装置7が停止することが防止出来、作業能率が向上する。
【0114】
尚、低燃費モードLの選択では硬い土質の場合の燃費向上と排ガスの低減が可能となり、高出力モードHの選択ではぬかるみが酷い土質の場合の低速走行姿勢の安定化と植付部の昇降等に必要な十分な油圧の確保により作業能率の向上や苗の植付精度の向上が可能となることから、モード選択による簡易な操作によって土質状況に合わせたエンジン制御が可能となり、また、停車時及び発進直後の低速域の走行に限り高出力モードHが適用されることから、ぬかるみが酷い土質の場合において不適合の回転モードを選択していても、低速安定走行を確保した上で、高速走行時の燃費向上と排気ガスの低減を図ることができる。
【0115】
尚、上記実施の形態では、第1の制御として、図5(a)に示した様に、走行操作レバー10が、後進停止位置にある場合のエンジン回転数を、走行操作レバー10が、後進走行域の所定位置(図5(a)の後進走行の1段目と2段目の位置)にある場合のエンジン回転数より高くする制御について説明したが、これに限らず例えば、走行操作レバー10が、後進走行域の内、走行速度を最高に設定する最高速位置(例えば、後進走行域の5段目の位置)にあるときのエンジン回転数よりも、走行操作レバー10が、最高速位置より手前の位置(例えば、後進走行域の4段目の位置)にあるときのエンジン回転数の方を高くする制御でありさえすれば、走行操作レバー10が後進停止位置にある場合のエンジン回転数を、走行操作レバー10が後進走行域の所定位置(例えば、図5(a)の後進走行の1段目と2段目の位置)にある場合のエンジン回転数より低くする制御であっても良い。
【0116】
この場合でも、後進走行域におけるエンジン回転数が従来よりも急速に上昇するので、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、苗移植装置7などの作業機をより迅速に上昇させることが出来る。
【0117】
また、上記実施の形態では、図5(a)に示した様に、後進停止位置においてエンジン回転数を、後進走行1段、2段よりも高く、3段〜5段よりは低い値に制御する場合について説明したが、これに限らず例えば、後進停止位置においてエンジン回転数を、図5(a)に示す4段の回転数と同じ高回転数(例えば、フルスロットル)に制御する構成でも良い。これにより、後進停止位置において、素早く苗移植装置7が上昇するので、苗移植装置7の施肥肥料の出口に設けられた、圃場に溝を切る作溝器(図示省略)に泥が詰まるのを防止できる。尚、後進走行時に、作溝器が圃場面近くにあると、泥が詰まって、肥料の出口を埋めてしまい、作業能率が低下する。また、この様なエンジン回転数の制御を、走行操作レバー10が後進停止位置にあって、且つ、昇降レバー180を「上昇」位置に切り替えた場合に実施する構成でも良い。
【0118】
また、上記実施の形態では、後進停止位置においてエンジン回転数を、図5(a)に示す4段の回転数と同じ高回転数(例えば、フルスロットル)に制御する構成について説明したが、これに限らず、例えばフロート16(図1参照)が接地するところまで苗移植装置7が下がっていると、苗移植装置7を高速上昇させても後進速度が速いと作溝器に泥が浸入する可能性があるので、フロート16が非接地状態となるまでは、例えば、停止位置でのアイドリング回転数を維持したまま、極低速でゆっくりと後進走行しながら、苗移植装置7をゆっくりと上昇させて、ある程度上昇したことを検知したら、図5(a)に示す4段の回転数と同じ高回転数(例えば、フルスロットル)に切り替える構成でも良い。これにより、フロート16(図1参照)が接地するところまで苗移植装置7が下がっている場合でも、作溝器に泥が入り難くしつつ、且つ、苗移植装置7を素早く上昇させることが出来る。
【0119】
なお、前記フロート16には、フロート16の傾斜度を検知するポテンショメータ(図示省略)を設け、該ポテンショメータの検知角度によりフロート16が圃場面に接地しているか否かを、制御装置200が判断する構成とする。
【0120】
また、前記苗移植装置7が所定高さ以上に上昇し、上昇検知部130を構成するバックリフトスイッチが押されている場合は、作業者が昇降レバー180を手動で操作して「上昇」位置に移動させても、エンジン回転数は現在の走行操作レバー10の操作段階に対応する回転数(図5(a)の一点鎖線で示したエンジン回転数を参照)に維持する制御を行なう構成とする。
【0121】
上記の実施の形態とすると、苗移植装置7を上昇させた状態で、操作を誤って昇降レバー180を「上昇」位置に移動させてもエンジン回転数が変化しないので、余分な燃料の消費が抑えられ、低燃費化が計られる。
【0122】
また、上記実施の形態では、主として、エンジン回転数がエンジンスロットル20の開度で制御される場合について説明したが、これに限らず例えば、電子制御により燃料供給量を微調整してエンジン回転数を切り替えるタイプのエンジン(例えば、DFiエンジン)を用いた構成でも良い。
【0123】
また、上記実施の形態では、走行操作レバー10が、後進走行域の内、最高速位置のエンジン回転数よりも、最高速位置より手前の位置として1段手前の位置(図5(a)の後進4段目に該当)におけるエンジン回転数の方を高くする構成(図5(a)参照)について説明したが、これに限らず例えば、最高速位置より手前の位置として2段手前の位置(例えば、図5(a)の後進3段目に該当)、又は3段手前の位置(例えば、図5(a)の後進2段目に該当)を設定しても良い。この場合でも、上記と同様の効果を発揮する。
【0124】
また、上記実施の形態では、前進走行が8段切り替え可能で、後進走行が5段切り替え可能の場合について説明したが、本発明が、前進走行及び後進走行の切り替え可能段数に限定されることが無いことは言うまでもない。
【0125】
また、上記実施の形態では、図3に示した構成要素を全て備えた場合について説明したが、これに限らず例えば、速度検出部120、上昇検知部130、副変速操作レバー140、副変速レバー位置検出部150、アクセルペダル13、アクセル操作検出部160、モード選択スイッチ170の全部又は一部は備えていなくても良い。即ち、少なくとも、上述した変速装置5(HST)と、走行操作レバー10と、エンジンスロットル20と、エンジン6と、後進位置検出部110と、昇降装置30と、制御部200とを備えた作業車両の構成でありさえすれば、上述した通り、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来よりも短時間に作業機を上昇できるという効果を発揮する。
【0126】
また、上記実施の形態では、変速装置5のトラニオン軸(図示省略)の角度調節を、制御部200からの指令によりモータ(図示省略)を駆動させて行う場合について説明したが、これに限らず例えば、図9に示す通り、走行操作レバー10の動きを中継リンク機構350により、モータを介さずに変速装置5のトラニオン軸に構造的に連動させる構成でも良い。中継リンク機構350の一例として図9では、第1カム部材310の伝達アーム314に連結された第1連結ワイヤー351と、第2カム部材320の伝達アーム324に連結された第2連結ワイヤー352とが、中継部材353において一つにまとめられ、更にそこから変速装置5に連結される構造を示している。
【0127】
この場合、走行操作レバー10の動きは、中継リンク機構350により変速装置5のトラニオン軸に伝達されると共に、走行操作レバー10の前進・後進の移動量を検出するためのポテンショメータ(図示省略)の検出値及び、後進位置検出部110による検出結果として制御部200に入力されて、制御部200からはエンジンスロットル20の開度調整の指令が出力される。この場合でも、上述した通り、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来より短時間に作業機を上昇できるという効果を発揮する。
【0128】
また、上記実施の形態では、後進位置検出部110を備えた場合について説明したが、これに限らず例えば、走行操作レバー10の動きを検出するポテンショメータが、走行操作レバー10の移動量のみならず、少なくとも走行操作レバー10が後進走行域又は前進走行域の何れにあるかを、走行操作レバー10の停止位置からの移動方向(前進側と後進側)に応じた、プラス電圧の出力とマイナス電圧の出力により区別可能な構成とすることで、後進位置検出部110を備え無い構成を実現しても良い。この場合でも、上述した通り、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来より短時間に作業機を上昇できるという効果を発揮する。
【0129】
また、上記実施の形態では、機体2が歩み板を上る場合や、圃場から出る場合に必要な高トルクを確保するためのエンジン回転数の制御について、第1カム部材310と、第2カム部材320を切り替える構成について説明したが、これに限らず例えば、後輪4の回転数を検知する後輪回転センサー4a(図11参照)を備えることにより、走行操作レバー10を後進走行の1段目(図5(a)、図7(a)参照)に操作して、歩み板を上る場合は、制御部200は、後輪回転センサーが所定の回転数(例えば、歩み板を安全に上れる程度の回転数)を検知するまで、エンジン回転数を上昇させる制御構成としても良い。これにより、高トルクを必要とする場合でも、エンジン回転数が上昇し過ぎることが無く、作業者は機体2の操作に集中することが出来、操作性が向上する。
【0130】
ところで、走行車体の後部に苗移植装置7などの作業機を装着可能にした作業車両は、畦越え走行やトラックへの積み降ろし等においては、作業者は運転席から降りて作業を行うため、作業車両の変速操作を行い難い状態にある。これを解決する構成として、図1に示す通り、作業車両の一例である乗用田植機1の前側に出没切り替え可能にフロントアーム42が設けられている。即ち、作業者は、フロントアーム42を手動によりボンネット40の前方側(図1の矢印F参照)に倒すことが出来る構成である。以下、図10(a)、図10(b)、及び図11を参照しながら、フロントアーム42の構成と動作について説明する。
【0131】
ここで、図10(a)は本実施の形態の乗用田植機1を前面側から見た図であり、図10(b)は図10(a)に示した瓢箪型の穴部41とその周辺の拡大図であり、図11は図10(a)、(b)に示す乗用田植機1の制御システムを示すブロック図である。図3で示したものと同じものには同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0132】
図10で示すとおり、機体2の前部に設けるボンネット40の下部で且つ左右方向略中央部に、上下方向に長く下部側が細い長穴41aと、該長穴41aよりも左右方向に広い丸穴41bからなる瓢箪型の穴部41を形成し、該穴部41の内部にフロントアーム42の基部を配置する。該フロントアーム42の基部の側部42aで且つボンネット40の内部に規制プレート43を設け、該規制プレート43をフロントアーム42側に付勢するスプリング44を設ける。
【0133】
なお、フロントアーム42は、長穴41aの下端部の幅41awと略同じ径で構成し、作業者が手動により、フロントアーム42をスプリング44の付勢方向とは逆方向に押し操作して規制プレート43を横方向(図10(b)中では、左方向)に移動させないと、丸穴41bに移動できず、10度未満程度しか前後方向に回動できない構成とする。
【0134】
また、前記フロントアーム42に回動操作角度(図1の矢印F方向の回動角度)を検出する前部ポテンショメータ45(図11参照)を設け、該ポテンショメータ45と制御装置200を連結し、フロントアーム42の回動操作角度が一定角度(30〜60度)以上になり、且つ走行操作レバー10の操作段階が後進1段目であると、エンジンスロットル20を介してエンジン6の回転数を上昇させる構成とする。
【0135】
そして、前記後輪回転センサー4aが後輪4の回転開始(後輪が1/4〜1回転する)を検知すると、走行操作レバー10が操作されるまで、検知時のエンジン回転数を保持する構成とする。
【0136】
上記構成により、歩み板や圃場の出入口等の傾斜地をバックで登り走行する際、走行操作レバー10を後進2段目以上に操作することなく、後輪4が回転可能となるトルクが確保されるまでエンジン回転数を上昇させることができるので、後進速度が上昇することなく歩み板や傾斜地を後進走行することができ、作業の安全性が向上する。
【0137】
また、フロントアーム42の基部を、ボンネット40に形成した瓢箪穴41に設け、フロントアーム42の側部42aにはスプリング44で付勢されている規制プレート43を設けたことにより、作業者が意図的にフロントアーム42をスプリング44の付勢方向とは逆方向に押し操作しない限りフロントアーム42が、所定角度(30〜60度)以上回動することは無い。このように構成により、圃場の凹凸等により機体2が振動した際に、フロントアーム42が勝手に所定角度(30〜60度)以上回動することを防止できるので、植付作業中や平地での走行中に突然エンジン回転数が上昇して、苗の植付条列が乱れることや走行速度が急激に速くなることが防止され、苗の植付精度や操作性が安定する。
【0138】
なお、後進操作の場合は、作業者が後進操作を落ち着いて行なうべく、走行操作レバー10を後進1段階にしており、フロントアーム42を所定角度以上回動操作したときのみエンジン回転数を上昇させる構成としているが、作業者が機体から降り、機体の前方に立って傾斜地を移動させる場合には、走行操作レバー10の操作段階が前進2段、または3段にある場合でも、フロントアーム42を倒すと、後輪回転センサー4aが機体の前進を検知するまでエンジン回転数を上昇させる構成とすると、作業者は機体上にある走行操作レバー10を操作することなくエンジン回転数を上昇させることができるので、作業能率が向上する。
【0139】
ただし、走行操作レバー10の操作段階が4段以上になると、エンジン回転数が上がって傾斜地を登れるトルクが確保されると同時に高速で機体が走行を開始し、作業者の減速操作が間に合わず壁等にぶつかって破損するおそれがあるので、フロントアーム42を回動操作してもエンジン回転数を上昇させない構成とするとよい。
【0140】
また、前部ポテンショメータ45が所定角度以上の回動操作を検出すると、制御装置200から信号を発して、油圧バルブ46からパワーステアリング機構(パワーステアリング用のシリンダ)47への送油を遮断し、ステアリングハンドル11の操作を油圧でアシストしない構成としてもよい(図11参照)。
【0141】
上記構成により、機体を移動させる傾斜地がぬかるんでおり、ぬかるみによってステアリングハンドル11が勝手に操作されることがあっても、パワーステアリング機構47が停止しているとステアリングハンドル11は殆ど動かないので、機体の直進が妨げられず、操作性が向上する。
【0142】
また、前記フロントアーム42に角速度センサー48を設け、該角速度センサー48が反応するとエンジン6が強制的に停止させられるか、或いは、エンジン回転数を強制的に下げる構成としてもよい。
【0143】
上記構成により、歩み板や傾斜地など、フロントアーム42を回動操作している際に、作業者が足を滑らせたり、壁などに過度に接近したりしてフロントアーム42を高速で操作すると、機体の走行をその場で停止させることができるので、安全性が向上する。
【0144】
なお、前記フロントアーム42の上端部には、作業者が直進時の目安とする、センターマスコット49を設ける。
【0145】
また、図10、図11を用いて説明したフロントアーム42及び、それに関連関する各構成要素(前部ポテンショメータ45、油圧バルブ46、パワーステアリング機構47、角速度センサー48等)は、図3、図4等を用いて説明した本発明の一実施の形態の乗用田植機1に設けられている場合に限らず、例えば従来の乗用田植機に設けられた構成であっても良い。この場合でも図10及び図11を用いて説明した効果と同様の効果を発揮する。
【0146】
また、上記実施の形態では、作業機として苗移植装置を連結した場合について説明したが、これに限らず、苗移植装置以外の各種作業用装置を連結する構成であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明にかかる作業車両は、走行停止状態での待機時間を不要としつつ、後進走行中に従来より短時間に作業機を上昇できるという効果を有し、車体の後部に苗移植機などの作業機を連結して各種作業を行う作業車両等として有用である。
【符号の説明】
【0148】
1 乗用田植機
2 機体
3 前輪
4 後輪
5 変速装置
6 エンジン
7 苗移植装置
8 リンク機構
9 油圧昇降シリンダ
10 走行操作レバー
11 ステアリングハンドル
12 操縦部
13 アクセルペダル
14 苗載タンク
15 植付装置
16 フロート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の後部に作業機(7)を装着するためのリンク機構(8)と、
前記リンク機構(8)を昇降させる昇降装置(30)と、
前記走行車体に設けられたエンジン(6)と、
前記エンジン(6)の動力を変速して出力する変速装置(5)と、
前進走行域、停止域、及び後進走行域の何れかの位置に切り替えることにより、前記変速装置の前記出力を変化させて走行速度を操作する走行操作レバー(10)と、
前記走行操作レバー(10)が少なくとも前記後進走行域にある場合に前記作業機(7)の上昇速度をエンジン回転数に基づいて制御する第1の制御を行う制御部(200)を備え、
前記第1の制御は、前記走行操作レバー(10)が、前記後進走行域の内、前記走行速度を最高に設定する最高速位置にあるときの前記エンジン回転数よりも、前記最高速位置より手前の位置にあるときの前記エンジン回転数の方を高くする制御構成としたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記走行速度を検出する速度検出部(120)を備え、
前記走行操作レバー(10)が前記後進走行域にある場合おいて、前記走行速度が所定速度に達したことを前記速度検出部(120)が検出した場合、前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が更に前記最高速位置方向に操作されても、前記所定速度を維持する様に前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が、前記停止域の内、後進停止位置にある場合の前記エンジン回転数を、前記走行操作レバー(10)が、前記後進走行域の所定位置にある場合の前記エンジン回転数より高くする制御構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両。
【請求項4】
前記作業機(7)が所定高さを超えたことを検知する上昇検知部(130)を備え、
前記制御部(200)は、前記上昇検知部(130)が、前記作業機(7)の上昇を検知するまでは前記第1の制御を行い、前記上昇検知部(130)が前記作業機(7)の上昇を検知した後は前記第1の制御を行わない構成としたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記作業車両の作業を、少なくとも植付モードと移動モードを含む複数のモードの何れかに切り替え操作する副変速操作レバー(140)と、
前記副変速操作レバー(140)の操作位置を検出するレバー位置検出部(150)を備え、
前記操作位置が前記植付モード以外であることが検出された場合、前記制御部(200)は前記第1の制御を行わず、前記走行操作レバー(10)の位置に対応して、前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の作業車両。
【請求項6】
前記エンジン回転数の増減操作を行う回転数操作部(13)を備え、
前記制御部(200)は、前記回転数操作部(13)による前記エンジン回転数を増加させる操作があると、前記第1の制御に優先して前記エンジン回転数を増加させる構成としたことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の作業車両。
【請求項7】
前記走行操作レバー(10)を少なくとも前記後進走行域の何れかの位置に切り替える際に、第1の切り替えパターンに対応した複数の切り替え位置のそれぞれで前記走行操作レバー(10)を位置決めする第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)と、
前記走行操作レバー(10)を少なくとも前記後進走行域の何れかの位置に切り替える際に、第1の切り替えパターンと異なる第2の切り替えパターンに対応した複数の切り替え位置のそれぞれで前記走行操作レバーを位置決めする第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)と、
前記走行操作レバー(10)の動きを、前記第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)と前記第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)の何れか一方に選択的に伝達するための切り替え部(331、332、333、334、335)と、を備え、
前記第2のレバー位置決め部(320、338b、338b1)の前記後進走行域の第1段目の位置が、前記第1のレバー位置決め部(310、338a、338a1)の前記後進走行域の第1段目と第2段目の間の位置である構成としたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の作業車両。
【請求項8】
前記エンジン(6)を異なる動力特性で回転制御可能な、少なくとも標準モード、低燃費モード、高出力モード、及び後進モードを含む複数の制御モードの中から何れか一つの制御モードを選択するモード選択部(170)を備え、
前記制御部(200)は、前記走行操作レバー(10)が前記後進走行域にあるときは、前記モード選択部(170)の選択結果に関わらず、前記後進モードに基づいて前記エンジン回転数を制御する構成としたことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の作業車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−170420(P2012−170420A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37404(P2011−37404)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】