説明

使い捨てカートリッジ内のDNAまたはタンパク質の総合的かつ自動的な分析装置、このようなカートリッジの製造方法、およびこのようなカートリッジを使用したDNAまたはタンパク質分析のための操作方法

DNAまたはタンパク質を自動分析するために微小通路および/または微小空洞の系を有するカートリッジ(カード)が使用され、微小通路もしくは微小空洞は乾燥試薬を受け入れるための幾何学形状を有する。産業的製造を目的にカートリッジは平らなカード本体から例えば射出成形技術で製造され、開放通路に試薬がスポット注入され、乾燥させられ、引続いて通路はフィルムによって閉鎖される。こうして仕上げられたカートリッジは測定試料を備えることができ、読取装置に挿入することによって完全自動測定経過をスタートさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てカートリッジ内のDNAまたはタンパク質の総合的(integrated)かつ自動的な分析装置に関する。キャッシュカードサイズの平らなカードがカートリッジと称される。そのほかに、本発明は、このようなカートリッジの製造に関する。最後に本発明は、このようなカートリッジを使用したDNAまたはタンパク質分析のための操作方法にも関する。
【0002】
ヒト・ゲノム上の疑問に答えるための核酸分析のために、例えば全血から白血球を分析するために、まず第1段階において試料準備ステップとして細胞が破壊され、その際に遊離されたDNAが引続いて単離されねばならない。第2段階において、DNAを選択的に複製するためのPCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)が行われ、検出すべきDNAの濃度が高められ、第3段階においてこれが検出される。
【0003】
実験室では最後の部分プロセスが、公知の従来技術に従って個別に実行される。上で述べた3つの段階はそれぞれ複数の作業ステップを含み、相互に独自に異なる機器で実行される。個々の作業ステップは殆ど手動で行われる。
【0004】
これらのステップの実現は、実験室機器(細胞分解装置、PCR機器(いわゆるサーモサイクラ)、場合によっては定量的PCRに適したPCR機器、電気泳動装置、ハイブリタイゼーションステーション、光学読取装置、いわゆるエッペンドルフチューブ、複数のピペット機器、試薬冷却容器等)の存在に依存しており、習熟した人員によって、感染の危険、廃棄物管理等に関する安全規則を守りながら実行されねばならない。特に、試薬溶液の容量式計量、すなわち厳密な計量(ピペッティング)を複数回実行しなければならない。このような作業ステップは時間を要し、費用がかかる。
【0005】
従来技術により公知の生化学的分析機構は国際公開第02/073153号パンフレットに相応して、チップカードに一体化することのできる特にシリコン系測定モジュールを使用している。国際公開第02/072262号パンフレットに相応して、分析に使用される試薬は乾燥貯蔵されて分析モジュール内に組み込まれる。
【0006】
そのことを前提に、本発明の課題は、小型化したカートリッジ内で価格的に手頃で簡単に取り扱うことのできる完全なDNAまたはタンパク質分析過程を実現することである。特に、実験室法と比較して以下の改善が実現されねばならない。
・ 密閉された使い捨てカートリッジ内に(場合によっては水以外の)全ての物質を完全に組み込むこと。
・ 室温で安定に試薬を貯蔵すること。
・ カートリッジ内で全プロセスを自動的に実行すること。
・ 分析すべき試料、例えば血液の注入以外に、手動作業ステップがないこと。
・ 健康に有害な物質との直接接触がないこと(血液と試薬廃棄物はカートリッジ内に留まる)。
・ カートリッジ形状が効率的かつ迅速なサーマルサイクリングを可能にすること。
・ 全ての検出過程は電気的に進行し、簡単に読取可能でなければならないこと。
・ 使用するカートリッジが小さく、コスト的に手頃に製造できること。
【0007】
この課題は、本発明によれば、請求項1記載のカートリッジを有する装置によって解決される。このようなカートリッジの製造は請求項34の対象である。このようなカートリッジを使った操作方法は請求項38、42の対象である。請求項38はDNA分析に関し、請求項42はタンパク質分析に関する。装置、製造方法、および分析時の操作様式の実施態様は各従属請求項に明示されている。
【0008】
本発明は、特に国際出願第02/072262号パンフレットおよびそこに指摘されたその他の従来技術から出発する。そこに述べられた分析機構は流体通路内で乾燥貯蔵され室温で安定した試薬を有し、試薬は特定の使用の直前に給水によって溶液とされる。本発明はさらにまだ公開されていない独国特許出願第102004021780号とまだ公開されていない独国特許出願第102004021822号とから出発する。そのほかに、特に電気的に読取可能な検出モジュールを使用することも知られている。
【0009】
それに対して本発明の対象は、試料採取後の予め定められたプロセス経過のための微小通路および/または微小空洞からなる系を有するこのような使い捨てカートリッジであり、カートリッジは乾燥試薬を受け入れる構造を有し、これらの構造には、一方で細胞分解を実行し、他方でPCRを実行し、しかし電気化学的検出も実行する手段が付設されている。特に、通路は問題に適合された異なる構造を有する。特に分解通路は有利には乾燥試薬で最適に湿潤するための段状横断面を有する一方、PCR室とELISA試薬通路は滴状窪みを有する。
【0010】
それゆえ、試料の供給と調製、DNA増幅、本来のDNA検出が1つの方法経過において可能であることを達成することができる。
【0011】
乾燥試薬を受け入れるための微小通路もしくは微小空洞内の幾何学的構造の本発明に係る系によって一方でDNA分析、他方でタンパク質分析のための好適な境界条件が明らかとなる。以下の特徴および処置が重要である。
微小通路もしくは微小空洞に導入される試薬は、無視し得る蒸気圧を有する乾燥可能な物質である。室温において安定した物質によって、細胞分解および/またはPCRおよび/または検出に関するそれらの性質が維持される。物質と助剤との混合物は薄いフィルムを形成することができ、混合物は薄いパラフィン層で水密に覆っておくことができる。
【0012】
本発明において試薬と助剤は、既にカートリッジ製造時に、乾燥物質としてカートリッジ通路の窪みに導入される。そのことから以下の利点が得られる。
・ カートリッジ製造時に試薬の投与が簡単かつ精密になる。
・ 試薬が試薬通路への充填時に保護される。すなわち、試薬はいわゆる水流によって洗浄除去されるのでなく、通路全体の充填時に維持される。通路充填後にはじめて、試薬スポットは拡散過程を介して溶解し、均質な試薬溶液が生じる。
【0013】
他の特別な実施態様において窪みは予め定められた間隔で試薬通路に沿って配置されている。間隔は等間隔とすることができ、または特別有利には可変間隔パターンに配置しておくことができる。
【0014】
窪みは有利には可変量の乾燥試薬を充填しておくことができる。さまざまな量の乾燥試薬と窪みの間隔パターンとの組合せによって、仕上げられる試薬溶液の所望の濃度分布を調整することができる。
【0015】
例えば磁気ビーズおよび溶解試薬の存在下での細胞分解のような特定の機能にとって、不溶成分、すなわちビーズが乾燥試薬内に均一に分布している必要がある。このため磁気ビーズは懸濁液として溶解通路内に与えられる。溶媒の蒸発時、ビーズが溶解通路の縁領域に後退し、これにより均一分布は与えられていない。溶解通路横断面の段状構造化によって、段を介して磁気ビーズが分布し、均一分布が達成される。
【0016】
本発明に係るカートリッジを用いて細胞分解、PCR、いわゆるDNAまたはタンパク質ELISAテストを等しく実行できるように、微小通路もしくは微小空洞内には、DNA結合性、特にDNA結合磁気ビーズを有する基質が設けられていると有利である。溶解試薬と磁気ビーズは共に単一の乾燥マトリックス内に含有させておくことができる。さらに、カード内にはELISA分析用試薬も設けられている。詳細にはELISA分析のために2つの試薬、すなわち第1試薬としての標識酵素と、第2試薬としての酵素基質とが必要とされる。
【0017】
特に、カートリッジ内にはハイブリタイゼーション過程を電気的に検出する検出モジュールが配置されている。検出モジュールは有利には貴金属−プラスチック複合体からなり、または半導体シリコンチップと貴金属電極とからなる。電気的検出には特に電気化学的、磁気式または圧電式測定法が適している。
【0018】
本発明に係るカートリッジの本発明の用途のために特に全血試料の投与ポートが設けられている。さらに、給水手段、例えば外部給水部に接続するための流入ポートまたは一体に組み込まれた貯水器が設けられている。微小通路もしくは微小空洞内において、乾燥した緩衝物質は、給水後、規定のイオン強度を有する。
【0019】
全血の白血球を分析するための本発明の用途において、有利には、全血試料と水もしくは緩衝液とを混合する手段が設けられている。溶解ビーズ試薬で被覆された微小通路もしくは微小空洞に血液もしくは血液−水混合物または血液−緩衝液混合物を流通させる手段が設けられている。
【0020】
特にDNA分析に応用する際に本発明に係るカートリッジにおいて実施すべきPCRのためにさらに、PCR空洞内にDNA−磁気ビーズ複合体を固定するために磁界発生手段が設けられている。このために、PCR空洞は好適に閉鎖することができねばならず、サーマルサイクリング手段が設けられていなければならない。
【0021】
最後に、本発明に係るカートリッジにおいて重要なことは、使用済み試料材料および使用済み試薬を貯蔵する手段が設けられ、これらの手段が廃棄物リザーバを形成することである。これらの手段は、少なくとも1つの廃棄物リザーバを、細菌を通さず、粒子なしもしくは細胞なしに通気するのに適していなければならない。最後に、本発明の対象ではない読取装置内でカートリッジを読取るためにカートリッジ固定手段が設けられていなければならない。
【0022】
本発明のその他の詳細および利点は、特許請求の範囲と合せて図面に基づいて実施例についての以下の図面説明から明らかとなる。
【0023】
図中、同じ要素もしくは同一作用の要素は同じ符号を有する。特に、一方で図1〜図10、他方で図11〜図23は一緒に述べられる。
【0024】
図1にはELISA(=Enzymo Linked Sorbent Assay:「酵素結合免疫吸着測定」)テスト用カートリッジ100とそのなかにある微小通路(マイクロチャネル)系もしくは微小空洞(マイクロキャビティ)系が平面図で示してあり、理解し易いように付属する機能表示が付加的に表示されている。カートリッジ100は詳細にはプラスチック本体101とそこに導入されるフルイディクス構造とからなり、フルイディクス構造はプラスチックフィルムで覆われている。この構造は図2〜図10に基づいて以下でさらに説明される。
【0025】
図1の平面図からは試料ポート102とこれに続く計量区間105が明らかになり、ヒト・ゲノム上の疑問に答えるために特に核酸分析、例えば全血から白血球を分析するための規定の液体試料を試料ポート102を介して導入することができる。試料の細胞分解用通路領域110が続き、さらには特にDNA分析のために、選択的なDNA複製のためのPCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)用領域120が続き、検出すべきDNAの濃度が高められ、第3段階においてDNAを検出できる。本来のPCR室は弁122、122’によって閉鎖可能である。次に、このように調製された試料の特にELISA法による検出は領域130において行われる。
【0026】
図1ではさらに水ポート103〜103’’’が認められる。それらを介して、試料調製時に水は移送材および溶媒としてカートリッジ100内に導入可能である。さらに、通気ポート104〜104’’’が設けられている。
【0027】
既に述べたように、カートリッジ100は特に全血試料の投与ポート102を有する。このため給水手段が設けられている。外部給水部に接続するための流入ポートを設けておくことができ、または一体的に組み込まれた貯水器に流入ポートを接続することができる。
【0028】
微小通路もしくは微小空洞101〜131は通常、給水後に規定のイオン強度を保証する乾燥した緩衝物質が充填されている。血液分析のために、全血試料と水もしくは緩衝液とを混合する手段、および/または溶解ビーズ試薬で被覆された微小通路もしくは微小空洞に血液または血液−水混合物もしくは血液−緩衝液混合物を流通させる手段が設けられている。
【0029】
通路系中に、廃棄物(”waste”)を受け入れるリザーバとしての他の領域106、107、108、109が設けられている。そのほかに、異なるELISA試薬を受け入れるための通路131もしくは131’を有する領域が設けられている。
【0030】
図2〜図4において符号101はそれぞれやはりカートリッジ本体である。この本体は特に細胞分解(「溶解」)のために特別に成形された貫流通路111を含み、この貫流通路111は乾燥試薬を受け入れるために側面エッジによって形成された段状窪み112を有する。窪み112は段高さ10〜500μmの複数の段を有し、広がりが約1mm、奥行きが約100μmである。
【0031】
特に図4Aによる図示で明らかとなる選択的可能性では、補助窪みなしの貫流通路において貫流通路111のエッジ領域113にのみ溶解試薬受容部を設けることができる。それに対して図4Bでは、特に、遊離したDNAを形成するための磁気ビーズも含むこのような試薬が段112の間で貫流通路111にわたって均一に分布している。磁気ビーズは相応に準備されている限りDNAおよびタンパク質結合性を有する。磁気ビーズはDNA結合性を有し、場合によっては抗体で被覆しておくこともできる。溶解試薬と磁気ビーズとを有するマトリックスとしての乾燥試薬の導入に関しては本出願人の独国特許出願公開第102004021780号明細書および独国特許出願公開第102004021822号明細書を参照するように指示する。
【0032】
図5〜図7ではカートリッジ本体101内のPCR室120の構造と流れ通路111が明らかとなる。特定の用途の際にPCR室を閉鎖するための弁装置はここに図示されていない。重要なことは、PCR実行時に必要とされる特殊な試薬127、127’を受け入れるための円筒形窪み124、124’がPCR室120内に設けられていることである。このため特に図7に示すように、室温において貯蔵可能な乾燥した安定なPCR試薬127、127’は最初にパラフィン層128、128’で覆われている。
【0033】
カートリッジ内部において弁制御されるサーマルサイクリングでPCRを適切に実行することは同じ出願優先権を有する本出願人の独国特許出願第102004050576.4号明細書および独国特許出願第102004050510.1号明細書に詳しく述べられており、ここでの関連においてそれを明確に参照するように指示する(「参照による取り込み」)。特に、これらの明細書には、DNA結合のための磁気ビーズの使用と、制御可能な磁界によってPCR室120内でのDNAによる磁気ビーズの濃縮が述べられており、ここでそれに詳細には言及しない。
【0034】
図8〜図10により、図1によるELISA試薬通路131、131’の構成および構造が明らかとなる。それぞれ鉢状窪み132〜132’が設けられており、これらの窪みは図9に相応してELISAプロセス用に予め計量されかつ予め一回分に分けられた試薬量を受け入れるのに適している。そのことは、既に冒頭で従来技術として挙げた国際公開第02/072262号パンフレットに詳しく述べられており、ここでの関連においてやはりそれを明確に参照するよう指示する(「参照による取り込み」)。図10に示す円筒形窪み132〜132’は乾燥試薬133〜133’を充填されている。第1試薬は標識酵素を実現し、第2試薬は、場合によってはPCRによって調製された試料を特殊な捕捉プローブでハイブリタイゼーションの際に公知の如くに必要とされる酵素基質を実現する。略示しただけの検出領域130において貴金属−プラスチック複合体からなるモジュール内に生化学反応を検出する種々のセンサがある。半導体チップ、すなわち特にシリコン系センサを使った特に電気化学的測定において、信号は電気的に検出され、直接に継続処理される。電気化学的測定法の他に、磁気式および/または圧電式測定法も、相応するセンサで可能である。
【0035】
図11〜図23にはそれぞれ図1によるカートリッジ100が平面図で示してあり、カートリッジ100のうち各分析過程時に活性な領域がマークされている。このためカートリッジ100が分析装置内に押込まれるが、この分析装置は図に詳しく図示されておらず、本特許出願の対象ではない。
【0036】
カートリッジ受け入れ手段を備えた評価装置内にカートリッジが押込まれ、評価装置内にカートリッジを固定して評価装置が作動された後、評価は13の具体的な部分ステップa)〜m)に基づいて以下で明確にされる。図1を参考に、詳細には以下の部分ステップが生じる。
a)約10μlの血液が測定試料として注入される。計量毛細管105を介して1μlが自動的に計量される。
b)過剰の血液が空室106(廃棄物1)内で洗浄される。
c)引続いて1μlの血液試料は水で希釈され、細胞分解通路110に移送される。そこで血球の細胞分解(溶解)、遊離したDNAの磁気ビーズへの結合が起きる。
d)引続いて磁気ビーズがPCR室内に移送され、そこに集められる。洗浄過程が行われ、洗浄液が空室107(廃棄物2)に集められる。
e)いまや洗浄過程が終了している。
f)引続いてPCR室弁122、122’が閉じられ、PCRが実行される。
g)PCR中、酵素基質を含むELISA試薬通路131に水が同様に充填される。
h)同様にPCR中、標識酵素を含むELISA試薬通路131’に水が充填される。
i)PCR後、PCR室弁122、122’が開放され、PCR生成物は検出モジュール130を介して(廃棄物3、通路108内に)誘導され、そこで特殊な捕捉プローブを使ってハイブリタイゼーションが行われる。
j)酵素−基質通路が廃棄物通路108(廃棄物3)内に通気される。
k)標識−酵素通路が廃棄物通路108(廃棄物3)内に通気される。
l)標識−酵素溶液は標識のため検出モジュール130を介して廃棄物領域109(廃棄物4)内に流れる。
m)酵素−基質溶液はハイブリタイゼーションの酵素−電気化学的検出のために検出モジュール130を介して廃棄物領域109(廃棄物4)内に流れる。
これで分析方法は終了する。特に電気化学的検出の場合、発生する信号は電気的に読取り、プロセッサで支援されて予め定められたプログラムに従って評価することができる。
【0037】
図1に基づいて通路および空洞と共に詳細に述べたカートリッジは、例えばポリカーボネート等のポリマー材料から射出成形技術で製造される。まず、上向きに開口した構造を有するカード本体101が製造され、最初には開口している通路もしくは空洞内に試薬がスポット注入され、引続いて乾燥させられる。検出モジュールは好適な方法でカートリッジ内に挿入され、特に貼付けられる。最後に通路および空洞は例えば上カバーとしての弾性フィルムを備え、こうして特定の使用のための準備が完了する。
【0038】
カバー側を閉鎖してカートリッジを完成させる前に、特定の特殊機構を例えば密封材料および/または通気材料として、開口したカード本体101に被着することも可能である。
【0039】
具体的測定方法は図11〜図23に基づいて全血試料のDNA分析という特殊事例について説明される。一般に、前記カートリッジは一方でDNA分析および/または他方でタンパク質分析に利用することが意図されており、既に上述したように、相応する読取装置と付属する評価アルゴリズムとが使用される。それにより、例に基づいて説明したカートリッジを医学的「ポイントオブケア」応用の範囲内で分散利用するためにはじめて実務に即したものとする規定の操作方法が得られる。
【0040】
最後に、特にDNA分析に関して、上で詳細に述べたカートリッジの総合的な操作方法を個々の部分ステップの組合せとして、もしくは部分ステップ順で、再度まとめる。
・ カートリッジ内への試料の投与
・ 読取装置へのカートリッジの押込み
・ 自動分析の開始
・ 計量区間を介した試料の計量
・ 計量区間の洗浄
・ 試料の希釈および溶解通路への導入
・ 溶解通路内での滞留
・ PCR室内でビーズ集合器によるDNA−ビーズ複合体の集合
・ DNA−ビーズ複合体の水洗
・ PCR室の閉鎖
・ PCRの実行
・ PCR中、両方のELISA試薬通路に水を充填
・ PCR室の開放
・ PCR生成物を検出室に移送
・ 検出室内でハイブリタイゼーション
・ 両方のELISA試薬通路の通気
・ 検出室にELISA試薬1を充填して洗浄
・ 検出室にELISA試薬2を充填して洗浄
・ 電気化学的測定の実行。
【0041】
電気化学的測定の際、先ず、酵素標識を担持する抗体溶液(ELISA試薬1)を用いて検出室の洗浄が行われる。次に、酵素基質(ELISA試薬2)を用いて検出室の洗浄が行われる。電気化学的測定は、周知のように、酵素−基質溶液の設定可能なさまざまな温度および可変流速で実行される。
【0042】
タンパク質の分析には相応する処理方式が応用され、その場合PCRは応用されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】個々の微小通路/空洞系と付属する機能表示とを有するカートリッジを示す図
【図2】細胞分解通路の平面図
【図3】図5による細胞分解通路の横断面図
【図4】貫流通路横断面の2つの選択案を拡大図
【図5】図1のPCR室の平面図
【図6】図5によるPCR室の横断面図
【図7】図5によるPCR室の横断面図
【図8】図1によるELISA試薬通路の平面図
【図9】図8によるELISA試薬通路の横断面図
【図10】図8によるELISA試薬通路の横断面図
【図11】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図12】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図13】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図14】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図15】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図16】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図17】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図18】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図19】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図20】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図21】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図22】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【図23】自動評価中のさまざまな方法状態における図1によるカートリッジの平面図
【符号の説明】
【0044】
100 カートリッジ
101 本体
101〜131 微小通路もしくは微小空洞
102 試料ポート
103 水ポート
104 通気ポート
105 計量区間
110 通路領域
112 窪み
120 PCR室
122 弁
130 検出モジュール
132 窪み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥試薬を充填した使い捨てカートリッジ(カード)内の測定試料のDNAまたはタンパク質を総合的かつ自動的に分析する装置において、カートリッジ内での個々のプロセスからプロセス分析のために必要な全ての処置を自動的に実行するために、
カートリッジ(100)内に、微小流体プロセス技術のための微小通路および/または微小空洞(101〜131)の系が設けられ、
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)が、試薬を受け入れるために予め定められた幾何学構造を有し、
試薬が、カートリッジ(100)の微小通路もしくは微小空洞(101〜131)内の特定個所に安定に貯蔵され、
各プロセス用の乾燥貯蔵された試薬を好適な態様で、特に液体試薬として用意する手段が設けられている
ことを特徴とするDNAまたはタンパク質分析装置。
【請求項2】
安定に貯蔵された乾燥試薬を受け入れるための構造が試薬用窪み(112、132)を有することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
窪みが段高さ10〜500μmを持つ少なくとも1つの段を有することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
窪みが約1mmの広がりと約100μmの奥行きとを有することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項5】
窪みが円筒状であり、広がりが直径であることを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項6】
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)に導入された試薬が次の性質を有する、すなわち、
無視し得る蒸気圧を有する乾燥可能な物質が室温において安定しており、細胞分解もしくはPCRのための性質もしくは生化学的寸法を検出するための性質が維持される
ことを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載の装置。
【請求項7】
各物質と助剤との混合物が、壁体に付着する薄いフィルムを形成することを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の装置。
【請求項8】
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)の部分内に導入された物質もしくは混合物が薄いパラフィン層で水密に覆われていることを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)の部分内に導入された物質がDNAまたはタンパク質結合性を有することを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の装置。
【請求項10】
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)の部分内に導入された物質が、固有の結合性を有する磁気ビーズであることを特徴とする請求項1乃至9の1つに記載の装置。
【請求項11】
磁気ビーズが抗体で被覆されていることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
磁気ビーズがDNA結合物質で被覆されていることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項13】
溶解試薬と磁気ビーズとが等しく存在し、溶解試薬と磁気ビーズとが単一の乾燥マトリックス内に含まれていることを特徴とする請求項1乃至12の1つに記載の装置。
【請求項14】
いわゆるDNA−ELISA(酵素結合免疫吸着測定)分析またはタンパク質−ELISA分析(130、131)が実行可能であり、ELISA分析(130、131)のための試薬として標識酵素(試薬1)および酵素基質(試薬2)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至13の1つに記載の装置。
【請求項15】
ハイブリタイゼーション過程を電気的に検出する検出モジュール(130)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至14の1つに記載の装置。
【請求項16】
検出モジュール(130)が貴金属−プラスチック複合体からなることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項17】
検出モジュールが半導体シリコンチップと貴金属電極とからなることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項18】
電気的検出手段として電気化学的、磁気式および/または圧電式測定法が利用されることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項19】
カートリッジ(100)が全血試料の投与ポート(102)を有することを特徴とする請求項1乃至18の1つに記載の装置。
【請求項20】
給水手段(103〜103’’’)、特に流入ポートが設けられていることを特徴とする請求項1乃至19の1つに記載の装置。
【請求項21】
外部給水部に接続するための流入ポートが設けられていることを特徴とする請求項20記載の装置。
【請求項22】
流入ポートが、一体的に組み込まれた貯水器に接続されていることを特徴とする請求項20記載の装置。
【請求項23】
微小通路もしくは微小空洞(101〜131)が、給水後、規定のイオン強度を有する乾燥緩衝物質を充填されていることを特徴とする請求項1乃至22の1つに記載の装置。
【請求項24】
全血試料と水もしくは緩衝液とを混合する手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至23の1つに記載の装置。
【請求項25】
溶解ビーズ試薬で被覆された微小通路もしくは微小空洞に血液または血液−水混合物もしくは血液−緩衝液混合物を流通させる手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至24の1つに記載の装置。
【請求項26】
DNA−磁気ビーズ複合体またはタンパク質−磁気ビーズ複合体を固定するために磁界発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至25の1つに記載の装置。
【請求項27】
PCR空洞内にDNA−磁気ビーズ複合体を固定するために磁界発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至26の1つに記載の装置。
【請求項28】
PCR空洞を閉鎖する手段が設けられていることを特徴とする請求項21記載の装置。
【請求項29】
試料をサーマルサイクリングさせる手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至28の1つに記載の装置。
【請求項30】
使用済み試料材料および/または使用済み試薬の貯蔵手段がカートリッジ(カード)内に設けられていることを特徴とする請求項1乃至29の1つに記載の装置。
【請求項31】
使用済み試料材料および/または使用済み試薬の貯蔵手段が廃棄物リザーバを形成することを特徴とする請求項30記載の装置。
【請求項32】
廃棄物リザーバを、細菌を通さず、粒子なしもしくは細胞なしに通気する手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至31の1つに記載の装置。
【請求項33】
カートリッジを読取装置内に固定する手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至32の1つに記載の装置。
【請求項34】
請求項1乃至33の1つに記載の装置において使用されるカートリッジの製造方法であって、
通路および/または空洞を有するカートリッジ本体がポリマーから作成され、
開いた通路内に試薬がスポット注入され、そこで乾燥され、
通路および/または空洞がフィルムによって閉鎖される
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項35】
カード本体が射出成形技術によって製造されることを特徴とする請求項34記載の製造方法。
【請求項36】
例えば密封膜、通気膜等の特殊材料がカード本体に被着されることを特徴とする請求項34記載の製造方法。
【請求項37】
カード本体の密封前に、測定手段を有する検出モジュールが挿入され、特に貼付けられることを特徴とする請求項34記載の製造方法。
【請求項38】
請求項1乃至33の1つに記載の装置におけるDNA分析のための操作方法であって、
カートリッジ内へ試料を投与し、
読取装置内へカートリッジを押込み、
全自動分析を開始する
ことを特徴とするDNA分析のための操作方法。
【請求項39】
全自動分析の操作時に、
計量区間を介して試料計量を行うステップ、
計量区間を洗浄するステップ、
測定試料を希釈して溶解通路内に導入するステップ、
溶解通路内での滞留によって細胞分解を行うステップ、
形成されたDNA−ビーズ複合体を液体流によってPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)室内に入れ、ビーズ集合器によってPCR室内に保持するステップ、
DNA−ビーズ複合体の水洗を行うステップ、
PCRを実行するステップ、
PCRの終了後、PCR生成物を検出室内に移送するステップ、
検出室内で特殊な捕捉プローブを用いてハイブリタイゼーション過程を行うステップ、
標識酵素で検出室の洗浄を行うステップ、
酵素基質で検出室の洗浄を行うステップ、
電気化学的測定を実行するステップ、
酵素基質溶液のさまざまな温度とさまざまな流速とにおいて電気化学的測定を行うステップ
を含むことを特徴とする請求項38記載の操作方法。
【請求項40】
PCR中にELISA試薬通路に水が充填されることを特徴とする請求項39記載の操作方法。
【請求項41】
ハイブリタイゼーション後に両方のELISA通路が通気され、引続いて検出室がまず第1ELISA試薬で気泡なしに洗浄され、引続いて第2ELISA試薬で気泡なしに洗浄され、引続いて電気化学的測定が実行されることを特徴とする請求項39記載の操作方法。
【請求項42】
請求項1乃至33の1つに記載の装置におけるタンパク質分析のための操作方法であって、
カートリッジ内へ試料を投与し、
読取装置内へカートリッジを押込み、
全自動分析を開始する
ことを特徴とするタンパク質分析のための操作方法。
【請求項43】
全自動分析の操作時に、
計量区間を介して試料計量を行うステップ、
計量区間を洗浄するステップ、
測定試料を希釈し、液体流によって検出室内に移送するステップ、
検出室内で測定試料のタンパク質と特殊な捕捉抗体もしくは捕捉タンパク質との間で結合過程が起きるステップ、
酵素標識を担持する抗体溶液(第1ELISA試薬)で検出室の洗浄を行うステップ、
酵素基質(第2ELISA試薬)で検出室の洗浄を行うステップ、
電気化学的測定を実行するステップ
を含むことを特徴とする請求項42記載の操作方法。
【請求項44】
ハイブリタイゼーション後に両方のELISA通路が通気され、引続いて検出室がまず第1ELISA試薬で気泡なしに洗浄され、引続いて第2ELISA試薬で気泡なしに洗浄され、引続いて電気化学的測定が実行されることを特徴とする請求項43記載の操作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公表番号】特表2008−517259(P2008−517259A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536193(P2007−536193)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055303
【国際公開番号】WO2006/042838
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】