説明

係合装置

【課題】係合状態への切り替えを迅速に行うことができるとともに歯の衝突時のショックを低減でき、かつ小型化に有利な係合装置を提供する。
【解決手段】第1歯列14を有する第1係合部材11と、第1歯列14と噛み合わせることが可能な第2歯列16を有する第2係合部材12とを共通の軸線Axの回りに相対回転可能に配置したクラッチ10を備え、駆動装置20にてクラッチ10を第1歯列14と第2歯列16とが噛み合う係合状態と第1歯列14と第2歯列16とが離間する解放状態とに切り替える係合装置1において、駆動装置20は第1係合部材11を軸線Axの方向に駆動するための油圧シリンダ21を備え、油圧シリンダ11及び第1係合部材11には、一端が第1歯列14を形成する複数の歯15の先端に開口し、かつ他端が油圧シリンダ11の第1作動室24と繋がっているオイル通路27が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれが歯列を有する第1係合部材及び第2係合部材を備え、係合状態においてこれら係合部材の歯列同士を噛み合わせる係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
それぞれが歯列を有する第1係合部材及び第2係合部材を備え、これら係合部材の歯列同士が噛み合う係合状態と歯列同士の噛み合いが解除される解放状態とに切り替え可能に構成されたドグクラッチが知られている。また、状態を切り替える機構として油圧シリンダやエアシリンダ等の作動流体で動作するシリンダ機構が設けられたドグクラッチが知られている。このようなクラッチとして、クラッチを解放状態から係合状態に切り替える場合に、まず低圧回路を介してシリンダ機構に作動流体を供給し、センサにより係合状態に切り替わったことが検知された場合には高圧回路を介してシリンダ機構に作動流体を供給するクラッチが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−145828号公報
【特許文献2】特開2002−364734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のクラッチでは、作動流体の供給経路として低圧回路及び高圧回路の両方を設ける必要がある。そのため、クラッチ装置が大型化するおそれがある。また、特許文献1のクラッチでは、係合状態になるまではシリンダ機構に供給される作動流体の圧力が低いので、係合部材同士が完全に噛み合うまでに掛かる時間が長くなるおそれがある。さらに特許文献1のクラッチでは、低圧回路を介して供給される作動流体の圧力を適切に設定しないと係合部材の歯同士が衝突したときのショックが大きくなるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、係合状態への切り替えを迅速に行うことができるとともに歯の衝突時のショックを低減でき、かつ小型化に有利な係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の係合装置は、周方向に並べられた複数の歯にて形成される第1歯列を有する第1係合部材と、周方向に並べられた複数の歯にて形成され、かつ前記第1歯列と噛み合わせることが可能な第2歯列を有する第2係合部材とを共通の軸線の回りに相対回転可能に配置し、かつ前記第1係合部材が前記軸線の方向に移動可能に設けられたクラッチ手段を備え、駆動手段にて前記第1係合部材を前記軸線の方向に移動させることにより、前記クラッチ手段を前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とに切り替える係合装置において、前記駆動手段は、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内に往復動自在に設けられて前記第1係合部材と連結されたピストンと、を有し、前記シリンダ本体内に形成された作動室に作動流体を供給して前記ピストンを駆動することにより前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替えるシリンダ機構を備え、一端が前記第1歯列を形成する複数の歯のうちの少なくとも一部の歯の前記第2係合部材を向いている面に開口し、かつ他端が前記作動室と繋がっている作動流体通路を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の係合装置によれば、作動室に供給された作動流体を作動流体通路を介して第1歯列の一部の歯に送り、その一部の歯から第2係合部材に向けて噴射することができる。これにより、例えば第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに軸線の方向から衝突した場合には、第1係合部材の歯のうちの作動流体通路の一端が開口している歯と第2係合部材の歯との間に作動流体が介在する。そのため、この衝突時のショックを作動流体で低減できる。また、歯と歯の間に作動流体が介在することにより、それらの歯の間の摩擦力を低減できる。これによりそれらの歯の先端同士が摩擦でくっついたまま第1係合部材と第2係合部材とが供回りすることを抑制できるので、第1歯列の歯を第2歯列の歯と歯の間に迅速に導くことができる。そのため、係合状態への切り替えを迅速に行うことができる。さらに本発明の係合装置では、シリンダ機構に作動流体を供給する経路に低圧回路を設ける必要がない。また、第1係合部材の歯から作動流体を噴出させるので、第1係合部材と第2係合部材との間に作動流体を供給するための経路を別に設ける必要がない。そのため、装置を小型化できる。
【0008】
本発明の係合装置の一形態においては、前記第1歯列の歯の先端が前記第2歯列の歯の先端と接する接触位置に前記第1係合部材が移動したか否か検出する位置検出手段と、前記作動室に供給する作動流体の流量を調整可能な流量調整手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記位置検出手段により前記第1係合部材が前記接触位置に移動したことが検出された場合には、前記作動室に供給する作動流体の流量が増加するよう前記流量調整手段を制御する流量制御手段と、をさらに備えてもよい(請求項2)。この形態では、第1係合部材が接触位置に移動すると作動流体の流量が増加する。そのため、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに軸線の方向から衝突した場合に、第1係合部材の歯のうちの作動流体通路の一端が開口している歯と第2係合部材の歯との間に介在する作動流体の量を増加させることができる。これによりそれらの歯の間の摩擦力をさらに低減できるので、係合状態への切り替えをさらに迅速に行うことができる。また、第1係合部材が接触位置に到達するまで作動流体の流量は増加しないので、作動流体が第1係合部材の歯から無駄に噴射されることを抑制できる。
【0009】
本発明の係合装置の一形態においては、前記第1係合部材又は前記第2係合部材に前記軸線回りのトルクを与えることができるトルク付与手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記第1係合部材が前記第1歯列の歯の先端と前記第2歯列の歯の先端とが接する接触位置に移動したか否か推定し、前記第1係合部材が前記接触位置に移動したと推定した場合に前記第1係合部材又は前記第2係合部材にトルクが与えられるように前記トルク付与手段を制御するトルク制御手段と、をさらに備えてもよい(請求項3)。この形態では、第1係合部材が接触位置に移動すると第1係合部材又は第2係合部材にトルクが与えられるので、これらの係合部材の回転数の差が大きくなる。そのため、第1係合部材が接触位置に移動して第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに軸線の方向から衝突しても、衝突後に第1歯列の歯を第2歯列の歯と歯の間に速やかに導くことができる。そのため、係合状態への切り替えをさらに迅速に行うことができる。
【0010】
本発明の係合装置の一形態においては、前記第1歯列の歯の先端が前記第2歯列の歯の先端と接する接触位置に前記第1係合部材が移動したか否か検出する位置検出手段と、前記第1係合部材又は前記第2係合部材に前記軸線回りのトルクを与えることができるトルク付与手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記位置検出手段により前記第1係合部材が前記接触位置に移動したことが検出された場合に、前記第1係合部材又は前記第2係合部材にトルクが与えられるように前記トルク付与手段を制御するトルク制御手段と、をさらに備えてもよい(請求項4)。この形態によれば、第1係合部材が接触位置に移動したときに第1係合部材の回転数と第2係合部材の回転数との差を大きくできるので、係合状態への切り替えをさらに迅速に行うことができる。また、この形態では、位置検出手段にて第1係合部材が接触位置に移動したか否か検出するため、外乱等によってピストンの推力が変化しても適切なタイミングで第1係合部材又は第2係合部材にトルクが与えることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の係合装置によれば、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに軸線の方向から衝突した場合に、第1係合部材の少なくとも一部の歯と第2係合部材の歯との間に作動流体が介在する。そのため、その作動流体によって衝突時のショックを低減できる。また、それらの歯の間の摩擦力を低減できるので、第1歯列の歯を第2歯列の歯と歯の間に迅速に導くことができる。そのため、係合状態への切り替えを迅速に行うことができる。さらに本発明の係合装置によれば、作動流体の供給経路を複数設ける必要がないため、装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の形態に係る係合装置が適用されたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示した図。
【図2】図1のクラッチの係合状態を示した図。
【図3】クラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図4】係合状態のときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図5】第1係合部材の歯の先端と第2係合部材の歯の先端とが衝突したときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図6】第1係合部材の歯の先端以外の部分と第2係合部材の歯15とが衝突したときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図7】クラッチを係合状態から解放状態に切り替えているときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図8】第1の形態で制御装置が実行する係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図9】制御装置が実行する流量一定制御ルーチンを示すフローチャート。
【図10】本発明の第2の形態に係る係合装置において制御装置が実行する係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図11】本発明の第3の形態に係る係合装置において制御装置が実行する係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図12】本発明の第4の形態に係る係合装置のクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図13】第1係合部材が接触位置にあるときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図14】第1係合部材が係合位置にあるときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図15】第4の形態において制御装置が実行する係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図16】第4の形態において制御装置が実行する係合制御ルーチンの変形例を示すフローチャート。
【図17】本発明の第5の形態に係る係合装置のクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図18】第5の形態において制御装置が実行する係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図19】本発明の第1の変形例の係合装置のクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図20】第1の変形例において係合状態のときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図21】第1の変形例において第1係合部材の歯の歯先面と第2係合部材の歯の歯先面とが衝突したときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図22】本発明の第2の変形例の係合装置のクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【図23】第2の変形例において係合状態から解放状態に切り替えているときのクラッチの一部及び駆動装置を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の形態)
図1及び図2は、本発明の第1の形態に係る係合装置が組み込まれたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示している。係合装置1は、ハイブリッド車の変速を実現するための装置の一つとして動力伝達装置2に組み込まれている。動力伝達装置2の全体構成等の詳細な構造は本発明の要旨と直接関係しないため説明を省略する。
【0014】
係合装置1は、クラッチ手段としてのクラッチ10と、クラッチ10の状態を切り替える駆動手段としての駆動装置20とを備えている。クラッチ10はドグクラッチとして構成されており、動力伝達装置2が持つモータ・ジェネレータ(MG)3からアクスルシャフト4までの動力伝達経路内に配置される。クラッチ10は、MG3側に連結する回転軸5に装着された第1係合部材11と、アクスルシャフト4側に連結する回転軸6に装着された第2係合部材12とを備えている。これらの回転軸5、6が同軸に配置されることにより、各係合部材11、12は共通の軸線Axの回りに相対回転可能に配置される。MG3側の回転軸5は軸線Ax方向に移動可能な状態で支持されており、回転軸5は駆動装置20にて第1係合部材11とともに軸線Ax方向へ駆動される。なお、第2係合部材12は軸線方向Axに移動不能な状態で支持されている。回転軸5には、この回転軸5の回転数に対応した信号を出力する第1回転数センサ7が設けられている。回転軸6には、この回転軸6の回転数に対応した信号を出力する第2回転数センサ8が設けられている。
【0015】
第1係合部材11は、複数の歯13が周方向に並べられた第1歯列14を持っている。第2係合部材12は、複数の歯15が周方向に並べられた第2歯列16を持っている。第2歯列16は、第1歯列14と噛み合うことが可能、すなわち歯15と歯15の間に第1歯列14の歯13が入り込むことが可能なように形成されている。図1に示したように第1歯列14の歯13は、第2係合部材12に向かって軸線Axの方向に突出している。第2歯列16の歯15は、第1係合部材11に向かって軸線Axの方向に突出している。クラッチ10は、第1係合部材11がこの図に示したように第1歯列14と第2歯列16とが離間する位置(以降、解放位置と称することがある。)に移動することにより解放状態に切り替わる。この解放状態では、MG3側からアクスルシャフト4側への動力伝達が遮断される。この解放状態から駆動装置20によって第1係合部材11と第2係合部材12とを接近させると、図2に示すように第1係合部材11が第1係合部材11の第1歯列14と第2係合部材12の第2歯列16とが噛み合う位置(以降、係合位置と称することがある。)に移動し、クラッチ10が係合状態となる。これにより、第1係合部材11と第2係合部材12とが結合され、MG3側の動力がアクスルシャフト4側へクラッチ10を介して伝達される。
【0016】
図3はクラッチ10の一部及び駆動装置20を拡大して示している。この図に示したように各係合部材11、12の歯13、15は、いずれも先端が平らに形成されている。また、各歯13、15の先端は、その両端が斜めに面取りされている。駆動装置20は、シリンダ機構としての油圧シリンダ21を備えている。油圧シリンダ21は、周知の複動式の油圧シリンダであり、シリンダ本体22と、シリンダ本体22内に往復動自在に挿入されたピストン23とを備えている。ピストン23は、シリンダ本体22の内部を第1作動室24と第2作動室25とに区分している。ピストン23には、ロッド26が一体に動くように連結されている。ロッド26の他端は第1係合部材11と連結されている。この油圧シリンダ21では、第1作動室24にオイルが供給されるとピストン23がこの図の下方に移動してロッド26がシリンダ本体22から突出する。一方、第2作動室25にオイルが供給されるとピストン23がこの図の上方に移動してロッド26がシリンダ本体22内に後退する。
【0017】
この図に示すように第1係合部材11及び油圧シリンダ21には、一端が第1歯列14の各歯13の先端にそれぞれ開口し、他端が第1作動室24に繋がっている作動流体通路としてのオイル通路27が設けられている。オイル通路27の一端は、各歯13のうち第2係合部材12を向いている面に開口している。オイル通路27は、その流路断面積がピストン23の受圧面23aの面積に対して十分小さい値になるように設けられている。
【0018】
駆動装置20は、油圧シリンダ21の作動室24、25にオイルを供給するための供給装置30を備えている。供給装置30は、オイルポンプ31と、オイルポンプ31から吐出されたオイルを油圧シリンダ21に供給する供給通路32とを備えている。オイルポンプ31は動力源として電動モータを備えた周知のものである。オイルポンプ31は、不図示のオイルタンクからオイルを汲み出して供給通路32に吐出する。供給通路32には、第1バルブ33と、第2バルブ34とが設けられている。また、供給通路32にはアキュムレータ35が設けられている。アキュムレータ35は、オイルを高圧で溜めることが可能な周知のものである。第1バルブ33は、アキュムレータ35と供給通路32とが通じる開状態と、アキュムレータ35が供給通路32から切り離される閉状態とに切り替え可能に構成されている。
【0019】
供給通路32は、第1バルブ33の下流で第1供給通路36と第2供給通路37とに分岐している。第1供給通路36は第1作動室24に接続されている。第2供給通路37は第2作動室25に接続されている。第2バルブ34は、供給通路32が第1供給通路36と第2供給通路37とに分岐する分岐点に設けられている。第2バルブ34には、不図示のオイルタンクにオイルを戻すためのリターン通路38が接続されている。第2バルブ34は、オイルポンプ31やアキュムレータ35から送られてきたオイルの供給先を第1作動室24又は第2作動室25に選択的に切り替える。また、この際に第2バルブ34は、オイルの供給先に選択されなかった作動室をリターン通路38と接続する。これにより第1作動室24又は第2作動室25のうちの一方の作動室にオイルを供給しつつ他方の作動室のオイルをオイルタンクに戻すことができる。この図に示すように第1供給通路36には、第1供給通路36を流れているオイルの流量に対応した信号を出力する流量センサ39が設けられている。
【0020】
図3〜図7を参照して係合装置1の動作について説明する。なお、これらの図の矢印Rは第2係合部材12の回転方向を示している。この係合装置1では、クラッチ10を解放状態から係合状態に切り替える場合には第2バルブ34を制御して図3に矢印Fo1で示したように第1作動室24にオイルを供給する。これによりピストン23の受圧面23aに矢印P1で示す油圧が作用し、矢印F1で示したように第1係合部材11が第2係合部材12に向かって移動する。この際には、矢印Fo2で示すように第1作動室24のオイルの一部がオイル通路27を通って第1係合部材11の各歯13に送られ、矢印Fo3で示したように各歯13の先端から噴出する。なお、オイル通路27の流路断面積は受圧面23aの面積に対して十分に小さいため、各歯13の先端から噴出するオイルの量は十分に少ない。このようにクラッチ10を解放状態から係合状態に切り替えるため、第1作動室24が本発明の作動室に対応する。
【0021】
その後、第1係合部材11は各歯13の先端からオイルを噴射しながら第2係合部材12に向かって移動する。そして、図4に示すようにクラッチ10が係合状態に切り替わる際にはオイルが第2係合部材12に向かって噴出されるため、第1係合部材11の衝突速度を低下させることができる。なお、図5に示すようにクラッチ10を係合状態に切り替える際に第1歯列14の歯13の先端が第2歯列16の歯15の先端と衝突した場合には、それらの歯13、15の間にオイルが噴射される。また、このような場合には第1作動室24内の圧力が上昇するため、各歯13の先端から噴出するオイルの量が増加する。これらにより第1歯列14の歯13と第2歯列16の歯15との間の摩擦力が低下する。そのため、例えば第1係合部材11又は第2係合部材12にトルクを入力することで、このような状態を迅速に解消することができる。これによりこの図に示した状態で第1係合部材11と第2係合部材12とが供回りすることを抑制できる。図6に示すように第1歯列14の歯13の先端以外の部分と第2歯列16の歯15とが衝突した場合には、各歯13の先端から噴出するオイルの量が少ない状態に維持される。この場合、ピストン23の推力を高い状態に維持できる。そのため、この図に矢印F2で示したように衝突後に迅速に第1歯列14と第2歯列16とを噛み合わせることができる。
【0022】
クラッチ10を係合状態から解放状態に切り替える場合には、図7に矢印Fo4で示したように第2作動室25にオイルが供給される。これによりピストン23に矢印P2で示した油圧が作用し、ピストン23がこの図の上方に駆動される。これにより第1係合部材11が解放位置に移動してクラッチ10が解放状態に切り替わる。
【0023】
駆動装置20の動作は、制御装置40にて制御される。制御装置40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置40は、例えばクラッチ10を解放状態から係合状態に切り替えるべき所定の係合条件が成立した場合には、第1作動室24にオイルが供給されるようにオイルポンプ31、第1バルブ33及び第2バルブ34の動作を制御する。なお、所定の係合条件は、例えば第1係合部材11が連結された回転体と第2係合部材12が連結された回転体との間で動力を伝達させる必要がある場合に成立したと判定される。制御装置40は、駆動装置20の他にもMG3等の動作を制御する。制御装置40には、係合装置1の制御に関係する情報を取得するための種々のセンサが接続されている。例えば、制御装置40には流量センサ39が接続されている。また、制御装置40には、第1回転数センサ7及び第2回転数センサ8も接続されている。この他にも制御装置40には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0024】
図8は、制御装置40が駆動装置20の動作を制御するために所定の間隔で繰り返し実行する係合制御ルーチンを示している。なお、制御装置40は、この他にも複数の制御ルーチンを所定の間隔で繰り返し実行している。この係合制御ルーチンはそれら他の複数の制御ルーチンと平行に実行される。
【0025】
この制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で所定の係合条件が成立したか否か判定する。係合条件は、例えば上述したような場合に成立したと判定される。係合条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、係合条件が成立していると判定した場合にはステップS12に進み、制御装置40は第1作動室24へのオイルの供給を開始する。具体的には、オイルポンプ31が停止していた場合にはオイルポンプ31を運転する。また、オイルの供給先が第1作動室24になるように第2バルブ34の状態を切り替える。さらにアキュムレータ35のオイルも第1作動室24に供給する必要がある場合には第1バルブ33を開状態に切り替える。これにより第1係合部材11が第2係合部材12に向かって移動を開始する。
【0026】
次のステップS13において制御装置40はタイマの値を0にリセットし、その後タイマのカウントを開始する。続くステップS14において制御装置40は流量一定制御を実行する。図9は流量一定制御で実行される制御ルーチンを示している。この制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS21で流量センサ39の出力信号に基づいて第1作動室24に供給しているオイルの流量(以下、供給流量と称することがある。)を取得する。次のステップS22において制御装置40は、供給流量が予め設定した目標流量範囲の下限値未満か否か判定する。目標流量範囲には、例えば油圧シリンダ21を適切に動作させることが可能な流量範囲が設定される。そのため、目標流量範囲は、油圧シリンダ21の各作動室24、25の内径や最大ストローク量等に応じて適宜に設定される。供給流量が目標流量範囲の下限値未満と判定した場合はステップS23に進み、制御装置40は供給流量を増加させる。供給流量の増加は、例えばオイルポンプ31の電動モータの回転数を上昇させることにより行えばよい。また、第1バルブ33が閉状態の場合には開状態に切り替え、アキュムレータ35内に蓄えられていたオイルを供給通路32に導入して供給流量を増加させてもよい。この際に供給流量は例えば予め設定した所定量増加させればよい。また、供給流量と目標流量範囲の下限値との差に応じて増加量を算出し、供給流量を算出した増加量分増加させてもよい。供給流量を増加させた後は、ステップS21に戻る。
【0027】
一方、供給流量が目標流量範囲の下限値以上と判定した場合はステップS24に進み、制御装置40は供給流量が目標流量範囲の上限値より大きいか否か判定する。供給流量が目標流量範囲の上限値より大きいと判定した場合はステップS25に進み、制御装置40は供給流量を減少させる。供給流量の減少は、例えばオイルポンプ31の電動モータの回転数を低下させることにより行えばよい。この際に供給流量は例えば予め設定した所定量減少させればよい。また、供給流量と目標流量範囲の上限値との差に応じて減少量を算出し、供給流量を算出した減少量分減少させてもよい。供給流量を減少させた後は、ステップS21に戻る。一方、供給流量が目標流量範囲の上限値以下と判定した場合には、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
図8に戻って係合制御ルーチンの説明を続ける。次のステップS15において制御装置40はタイマの値が所定の係合目標時間未満か否か判定する。係合目標時間としては、例えば目標流量範囲内の流量のオイルを油圧シリンダ21に供給した場合に第1係合部材11が解放位置から第1歯列14の歯13と第2歯列16の歯15とが互いに軸線Axの方向に対向していた場合には図5に示したように第1歯列14の歯13の先端と第2歯列16の歯15の先端とが接する位置(以下、接触位置と称することがある。)まで移動するために要する時間が設定される。タイマの値が係合目標時間未満と判定した場合にはステップS14に戻り、タイマの値が係合目標時間以上になるまでステップS14、S15の処理を繰り返す。一方、タイマの値が係合目標時間以上と判定した場合にはステップS16に進み、制御装置40は流量一定制御を実行する。このステップS16でも図9に示した流量一定制御ルーチンが実行される。次のステップS17において制御装置40は、MG3から第1係合部材11にトルクを入力するトルク入力制御を実行する。続くステップS18において制御装置40は流量一定制御を実行する。このステップS18でも図9に示した流量一定制御ルーチンが実行される。
【0029】
次のステップS19において制御装置40は、クラッチ10の係合が完了したか否か、すなわちクラッチ10が係合状態に切り替わったか否か判定する。クラッチ10の係合が完了したか否かは、例えば油圧シリンダ21のロッド26のストローク量に基づいて判定すればよい。また、第1係合部材11が図2に示した係合位置に移動した場合に出力信号を出す位置センサを設け、その位置センサの信号に基づいて係合が完了してか否か判定してもよい。係合が未完了と判定した場合にはステップS18に戻り、係合が完了するまでステップS18、S19の処理を繰り返す。一方、係合が完了したと判定した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0030】
以上に説明したように、第1の形態に係る係合装置1では、第1係合部材11及び油圧シリンダ21にオイル通路27を設けたので、クラッチ10を解放状態から係合状態に切り替える場合に第1歯列14の歯13の先端からオイルを噴出させることができる。これによりクラッチ10が係合状態に切り替わる直前の第1係合部材11の衝突速度を低下させることができるので、第1係合部材11と第2係合部材12とが噛み合う際のショックを弱めることができる。そのため、クラッチ10が係合する際のノイズや振動を抑制できる。
【0031】
また、この係合装置1では、図5に示したように第1歯列14の歯13の先端と第2歯列16の歯15の先端とが衝突した場合にはこれらの歯13、15の間の摩擦力をオイルで低減できる。これにより第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間に迅速に導くことができる。そのため、クラッチ10を速やかに係合状態に切り替えることができる。また、このように衝突時に第1歯列14の歯13と第2歯列16の歯15との間にオイルがあることにより、これらの歯13、15が衝突したときのショックを弱めることができる。図6に示したように第1歯列14の歯13の先端以外の部分と第2歯列16の歯15とが衝突した場合にはピストン23の推力が高い状態に維持されるので、クラッチ10を迅速に係合状態に切り替えることができる。
【0032】
さらに、この係合装置1では、第1係合部材11の歯13からオイルを噴出させる。そのため、第1係合部材11と第2係合部材12との間にオイルを供給するための経路を供給通路32とは別に設ける必要がない。従って、装置を小型化できる。
【0033】
この係合装置1では、クラッチ10を解放状態から係合状態に切り替える場合には係合状態に切り替わるまで供給流量が目標流量範囲内の流量に維持される。そのため、第1係合部材11及び第2係合部材12の両方が停止している場合などこれら係合部材11、12の間の回転数差が無い場合であっても第1係合部材11にトルクを作用させることにより迅速にクラッチ10を係合状態に切り替えることができる。なお、上述したように供給流量はオイルポンプ31やアキュムレータ35で調整するので、これらが本発明の流量調整手段に相当する。
【0034】
(第2の形態)
図10を参照して本発明の第2の形態に係る係合装置について説明する。なお、この形態においてもクラッチ10及び駆動装置20については図1〜図7が参照される。図10は、この形態において制御装置40が実行する係合制御ルーチンを示している。この制御ルーチンも第1の形態の係合制御ルーチンと同様に制御装置40が実行する他の複数の制御ルーチンと平行に所定の間隔で繰り返し実行される。この制御ルーチンにおいて第1の形態の係合制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0035】
図10の制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で所定の係合条件が成立したか否か判定する。係合条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、係合条件が成立したと判定した場合はステップS31に進み、制御装置40は第1係合部材11の回転数と第2係合部材12の回転数との差の絶対値(以下、回転数差と称することがある。)が0より大きいか否か判定する。なお、回転数差は第1回転数センサ7の出力信号及び第2回転数センサ8の出力信号に基づいて算出すればよい。回転数差が0であると判定した場合にはステップS32に進み、制御装置40はMG3にて第1係合部材11を回転させる回転数制御を実行する。ただし、回転数差が過度に大きいとクラッチ10の係合に支障が生じる。そのため、この回転数制御では係合に支障が生じない程度の回転数で第1係合部材11を回転させる。その後、ステップS31に戻る。
【0036】
一方、回転数差が0より大きいと判定した場合はステップS12に進み、制御装置40は第1作動室24へのオイルの供給を開始する。次のステップS19において制御装置40はクラッチ10が係合状態に切り替わったか否か判定し、クラッチ10が係合状態に切り替わるまでこの処理を繰り返し実行する。そして、係合が完了したと判定した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0037】
この第2の形態では、回転数差がある状態でクラッチ10を解放状態から係合状態に切り替える。そのため、図5に示したように第1歯列14の歯13の先端が第2歯列16の歯15の先端に当たっても第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間に迅速に導くことができる。そのため、クラッチ10を速やかに係合状態に切り替えることができる。
【0038】
(第3の形態)
図11を参照して本発明の第3の形態に係る係合装置について説明する。なお、この形態においてもクラッチ10及び駆動装置20については図1〜図7が参照される。図11は、この形態において制御装置40が実行する係合制御ルーチンを示している。この制御ルーチンも第1の形態の係合制御ルーチンと同様に制御装置40が実行する他の複数の制御ルーチンと平行に所定の間隔で繰り返し実行される。この制御ルーチンにおいて第1の形態の係合制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図11の制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で所定の係合条件が成立したか否か判定する。係合条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、係合条件が成立したと判定した場合はステップS41に進み、制御装置40は、第1判定値t1及び第2判定値t2を算出する。第1判定値t1には、第1係合部材11が解放位置から接触位置まで移動するために要する時間の推定値が設定される。第1判定値t1は、例えば以下の式(1)にて算出される。
【0040】
【数1】

【0041】
なお、この式(1)においてF(N)はピストン23の推力を示し、δ1(m)は解放状態における第1歯列14の歯13の先端と第2歯列16の歯15の先端との間のクリアランスを示している。また、M(kg)は第1係合部材11、ピストン23及びロッド26のそれぞれの質量の合計値を示し、D(N)は摺動抵抗を示している。そして、C1は適合定数を示している。
【0042】
第2判定値t2には、第1係合部材11が接触位置から係合位置まで移動するために要する時間の推定値に適合定数C2を加えた値が設定される。なお、第1係合部材11が接触位置から係合位置まで移動するために要する時間の推定値は、上述した式(1)を利用して算出すればよい。この際、δ1の代わりとして、第1係合部材11が接触位置から係合位置に移動するまでの間に歯13の先端が移動する距離δ2(m)を用いればよい。
【0043】
次のステップS12において制御装置40は第1作動室24へのオイルの供給を開始する。続くステップS42において制御装置40は第1タイマをリセットした後、第1タイマのカウントを開始する。その後、ステップS43において制御装置40は第1タイマの値が第1判定値t1以上か否か判定する。この処理は第1タイマの値が第1判定値t1以上になるまで繰り返し実行される。一方、第1タイマの値が第1判定値t1以上になった場合はステップS44に進み、制御装置40は第2タイマをリセットした後、第2タイマのカウントを開始する。続くステップS45において制御装置40はトルク入力制御を開始する。このトルク入力制御では、図8のステップS17と同様にMG3から第1係合部材11にトルクが入力される。次のステップS46において制御装置40は、第2タイマの値が第2判定値t2以上か否か判定する。この処理は第2タイマの値が第2判定値t2以上になるまで繰り返し実行される。第2タイマの値が第2判定値t2以上になった場合はステップS47に進み、制御装置40はトルク入力制御を終了する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0044】
この第3の形態では、第1係合部材11が接触位置に到達したか否か推定し、第1係合部材11が接触位置に到達したと判定した場合には第1係合部材11が係合位置に移動するまで第1係合部材11にトルクを入力する。これにより回転数差を生じさせることができるので、第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間に迅速に導くことができる。また、この形態では、第1係合部材11が接触位置から係合位置に移動するまでの期間だけ第1係合部材11にトルクを入力すればよい。そのため、クラッチ10を係合状態に切り替える際に消費されるエネルギを低減できる。また、この形態では、回転数差を維持する制御が不要となる。そのため、第1歯列14の歯13が第2歯列16の歯15と歯15の間に入り込んで回転数差が生じない状態になった場合に回転数差を生じさせようと急激に第1係合部材11に入力するトルクを増大させることがない。そのため、係合状態への切り替え時にショックが発生することを抑制できる。
【0045】
なお、このように第1係合部材11にトルクを入力することによりMG3が本発明のトルク付与手段に相当する。また、図11の係合制御ルーチンを実行することにより制御装置40が本発明のトルク制御手段として機能する。
【0046】
(第4の形態)
図12〜図15を参照して本発明の第4の形態に係る係合装置1について説明する。図12は、第1の形態の図3に対応する図であり、この形態のクラッチ10の一部及び油圧シリンダ21を拡大して示している。この図では供給装置30の図示を省略している。この図に示したようにこの形態では、第1位置センサ51及び第2位置センサ52が設けられている点が上述した形態と異なり、それ以外は上述した形態と同じである。そのため、上述した形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
この図に示すように第1位置センサ51及び第2位置センサ52は、第1係合部材11が解放位置から係合位置まで移動する際の経路の側方に設けられている。第1位置センサ51は、図13に示すように第1係合部材11が接触位置に移動したときに第1係合部材11に設けられた検出部11aを検出するように設けられている。そのため、この第1位置センサ51が本発明の位置検出手段に相当する。一方、第2位置センサ52は、図14に示すように第1係合部材11が係合位置に移動したときに検出部11aを検出するように設けられている。これらの図に示すように第1位置センサ51及び第2位置センサ52は、制御装置40と接続されている。そして、第1位置センサ51及び第2位置センサ52は、いずれも検出部11aを検出した場合にはオンの信号を出力し、検出部11aが検出されない場合にはオフの信号を出力する。
【0048】
図15は、この形態において制御装置40が実行する係合制御ルーチンを示している。この制御ルーチンも第1の形態の係合制御ルーチンと同様に制御装置40が実行する他の複数の制御ルーチンと平行に所定の間隔で繰り返し実行される。この制御ルーチンにおいて上述した各形態の係合制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
この制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で所定の係合条件が成立したか否か判定し、係合条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、係合条件が成立していると判定した場合にはステップS12に進み、制御装置40は第1作動室24へのオイルの供給を開始する。
【0050】
次のステップS51において制御装置40は、第1位置センサ51の出力信号がオンか否か判定する。第1位置センサ51の出力信号がオフの場合には、出力信号がオンに切り替わるまでステップS51を繰り返し実行する。一方、第1位置センサ51の出力信号がオンと判定した場合にはステップS52に進み、制御装置40は供給流量を予め設定した所定量増加する。なお、供給流量は上述したようにオイルポンプ31やアキュムレータ35を用いて増加させればよい。続くステップS17において制御装置40は、トルク入力制御を実行する。
【0051】
次のステップS53において制御装置40は、クラッチ10の係合が完了したか否か判定する。この判定は第2位置センサ52の出力信号に基づいて行われ、この第2位置センサ52の出力信号がオンの場合に係合が完了したと判定される。係合が未完了と判定した場合は、係合が完了するまでステップS17及びS53の処理を繰り返し実行する。一方、係合が完了したと判定した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0052】
この第4の形態では、第1係合部材11が接触位置に到達したときに供給流量を増加させる。そのため、例えば図5に示したように第1歯列14の歯13の先端が第2歯列16の歯15の先端と当たった場合には、それらの歯13、15の間に供給されるオイルが増加する。そのため、これらの歯13、15の間の摩擦力をさらに低減できる。このように摩擦低減効果を増大できるので、第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間にさらに迅速に導くことができる。従って、クラッチ10をさらに速やかに係合状態に切り替えることができる。なお、このように図15の係合制御ルーチンを実行して供給流量を調整することにより、制御装置40が本発明の流量制御手段として機能する。
【0053】
また、この形態では、第1位置センサ51及び第2位置センサ52を用いて第1係合部材11が接触位置や係合位置に移動したことを検出する。そのため、例えば外乱等によってピストン23の推力等が変動した場合でも第1係合部材11が接触位置に移動したことを確実に検出できる。これにより供給流量の増加を誤ったタイミングで実施することを防止できる。
【0054】
図16は、この形態において制御装置40が実行する係合制御ルーチンに変形例を示している。この変形例において、図15の制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
この制御ルーチンにおいて制御装置40は、ステップS52まで図15の制御ルーチンと同様に処理を進める。次のステップS61において制御装置40は、MG3から第1係合部材11にトルクを入力するトルク入力制御を開始する。続くステップS62において制御装置40は、第2位置センサ52の出力信号がオンか否か判定する。第2位置センサ52の出力信号がオフの場合には、出力信号がオンに切り替わるまでステップS62を繰り返し実行する。一方、第2位置センサ52の出力信号がオンと判定した場合にはステップS63に進み、制御装置40はトルク入力制御を終了する。次のステップS64において制御装置40は、供給流量を低下させる。供給流量の低下は、例えばオイルポンプ31の電動モータの回転数を低下させることにより行えばよい。低下後の供給流量としては、例えば第1係合部材11を係合位置に維持することが可能な流量が設定される。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0056】
この変形例では、第1係合部材11が係合位置に移動した後はトルク入力制御を終了するとともに供給流量を低下させる。そのため、クラッチ10を係合状態に切り替える際に消費されるエネルギを低減できる。また、オイルが歯13の先端から無駄に噴射されることを抑制できる。また、第1位置センサ51及び第2位置センサ52で第1係合部材11の位置を検出するので、トルク入力制御の開始及び終了並びに供給流量の変更が誤ったタイミングで実行されることを防止できる。
【0057】
(第5の形態)
図17及び図18を参照して本発明の第5の形態に係る係合装置について説明する。図17は、この形態のクラッチ10の一部及び油圧シリンダ21を拡大して示している。この図では供給装置30の図示を省略している。この図に示したようにこの形態では、第1位置センサ51のみが設けられている点が第4の形態と異なり、それ以外は第4の形態と同じである。そのため、第4の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
図18は、この形態において制御装置40が実行する係合制御ルーチンを示している。この制御ルーチンも第1の形態の係合制御ルーチンと同様に制御装置40が実行する他の複数の制御ルーチンと平行に所定の間隔で繰り返し実行される。この制御ルーチンにおいて上述した各形態の係合制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
この制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で所定の係合条件が成立したか否か判定し、係合条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、係合条件が成立していると判定した場合にはステップS71に進み、制御装置40は判定値tを算出する。この判定値tは、上述した第3の形態の第2判定値t2と同じものである。そのため、第2判定値t2と同様の方法で算出すればよい。続くステップS12において制御装置40は第1作動室24へのオイルの供給を開始する。
【0060】
次のステップS51において制御装置40は、第1位置センサ51の出力信号がオンか否か判定し、出力信号がオンに切り替わるまでステップS51を繰り返し実行する。一方、第1位置センサ51の出力信号がオンと判定した場合にはステップS72に進み、制御装置40はタイマをリセットした後、タイマのカウントを開始する。続くステップS61において制御装置40は、トルク入力制御を開始する。次のステップS73において制御装置40はタイマの値が判定値t以上か否か判定する。この処理はタイマの値が判定値t以上になるまで繰り返し実行される。タイマの値が判定値t以上になった場合はステップS63に進み、制御装置40はトルク入力制御を終了する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0061】
この形態では、第1係合部材11が接触位置に到達するとトルク入力制御を開始するので、第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間に迅速に導くことができる。また、第1位置センサ51の出力信号に基づいてトルク入力制御の開始時期を制御するため、例えば外乱等によってピストン23の推力等が変動した場合でもトルク入力制御を誤ったタイミングで開始することを防止できる。さらに、クラッチ10の係合が完了したか否かの判定は算出した判定値tに基づいて行うので、第2位置センサ52を省略できる。そのため、コストを低減できる。
【0062】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明の係合装置が組み込まれる装置は車両に搭載される動力伝達装置に限定されない。本発明の係合装置は、回転伝達の許容及び遮断を切り替える必要がある種々の装置に組み込んでよい。
【0063】
係合制御ルーチンのトルク入力制御においてトルクを入力する係合部材は第1係合部材に限定されない。第2係合部材にトルクを入力可能な場合は、トルク入力制御において第2係合部材にトルクを入力してもよい。また、第1係合部材の回転数と第2係合部材の回転数の差が大きくなるように第1係合部材及び第2係合部材の両方にトルクを入力してもよい。
【0064】
オイル通路は油圧シリンダのロッドに設けられていなくてもよい。オイル通路は、一端が第1係合部材の各歯に開口し、他端が油圧シリンダの第1作動室に繋がるように設けられていればよい。そのため、オイル通路として第1作動室と第1係合部材の各歯とを接続する配管を油圧シリンダの外部に設けてもよい。第1係合部材の歯において、オイル通路の一端が開口する位置は上述した各形態で示した位置に限定されない。オイル通路の一端は、第1係合部材の歯において第2係合部材を向いている面に開口していればよい。また、オイル通路の一端は、第1係合部材の全ての歯に設けなくてもよい。例えば、第1係合部材の歯のうちの一部の歯のみにオイル通路の一端を設けてもよい。この場合でも第1係合部材の歯の先端と第2係合部材の歯の先端とが衝突した場合に、そのオイル通路の一端が設けられた歯と第2係合部材の歯との間の摩擦力を低減できる。そのため、係合状態への切り替えを迅速に行うことができる。
【0065】
本発明の係合装置が備えるクラッチの歯の形状は、上述した各形態で示した形状に限定されない。例えば、図19〜図21に示すようにクラッチ10の歯13、15は歯先面13a、15aが斜めになっている、いわゆる片面チャンファの歯であってもよい。なお、図19は上述した第1の形態の図3に対応する図である。同様に図20は図4に対応する図であり、図21は図5に対応する図である。そのため、これらの図において上述した各形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。これらの図に示した変形例においてはオイル通路27の一端が歯先面13a、15aに開口している。そのため、この変形例においても図21に示したように第1歯列14の歯13の歯先面13aが第2歯列16の歯15の歯先面15aに当たった場合にはそれら歯先面13a、15aの間にオイルが供給される。これによりこれら歯先面13a、15aの間の摩擦力を低減できるので、第1歯列14の歯13を第2歯列16の歯15と歯15の間に迅速に導くことができる。そのため、クラッチ10を係合状態に迅速に切り替えることができる。また、このような衝突時に第1歯列14の歯13と第2歯列16の歯15との間にオイルがあるため、衝突時のショックを弱めることができる。さらに、図20に示したように第1歯列14の歯13から噴射されるオイルでクラッチ10が係合状態に切り替わる直前の第1係合部材11の衝突速度を低下させることができる。そのため、第1係合部材11と第2係合部材12とが噛み合う際のショックを弱めることができる。
【0066】
本発明の係合装置に設けられるシリンダ機構は、オイルで動作する油圧シリンダに限定されない。シリンダ機構は、空気等の気体で動作するシリンダ機構であってもよい。図22及び図23は、油圧シリンダの代わりに気体で動作するガスシリンダ60を設けた場合の係合装置を示している。これらの図に示したようにガスシリンダ60も油圧シリンダと同様に、シリンダ本体61と、シリンダ本体61内に往復動自在に挿入されたピストン62とを備えている。そして、ピストン62はシリンダ本体61の内部を第1作動室63と第2作動室64とに区分する。ピストン62にはロッド65が連結され、ロッド65の他端は第1係合部材11と連結されている。これらの図に示すように第1係合部材11及びガスシリンダ60には、一端が第1歯列14の各歯13の先端にそれぞれ開口し、他端が第1作動室63に繋がっている作動流体通路としての気体通路66が設けられている。気体通路66の途中には、逆止弁67が設けられている。この逆止弁67は、図22に示すように第1作動室63から各歯13への気体の流れは許可し、図23に示すように各歯13から第1作動室63への気体の流れは遮断するように設けられている。
【0067】
この変形例の係合装置1では、オイルポンプの代わりにポンプ68が設けられている。このポンプ68は、接続通路69によって第1作動室63と接続されている。ポンプ68は、駆動源として電動モータを備えている。そして、エアポンプ68は、その電動モータの回転方向を変更することにより第1作動室63に気体を吐出したり第1作動室63の気体を吸引したりできるように構成されている。接続通路69にはアキュムレータ70が接続されている。また、接続通路69にはバルブ71が設けられている。バルブ71は、接続通路69とアキュムレータ70とが通じる開状態と、アキュムレータ70が接続通路69から切り離される閉状態とに切り替え可能に構成されている。
【0068】
この変形例では、クラッチ10を解放状態から係合状態に切り替える場合には、図22に矢印Fa1で示したようにポンプ68から第1作動室63に気体を供給する。これによりピストン62に矢印P3で示した流体圧が作用するため、第1係合部材11が係合位置に移動する。なお、この際には矢印Fa2で示したように第1歯列14の各歯13の先端から気体が噴出する。そのため、上述した各形態と同様に第1歯列14の歯13の先端が第2歯列16歯15の先端と衝突した場合にはそれらの歯13、15の間に気体が介在する。これによりこれらの歯13、15の間の摩擦力を低減できるので、クラッチ10を速やかに係合状態に切り替えることができる。また、このようにこれらの歯13、15の間に気体が介在することにより衝突時にショックを弱めることができる。さらに、第1歯列14の各歯13から噴射される気体でクラッチ10が係合状態に切り替わる直前の第1係合部材11の衝突速度を低下させることができる。そのため、第1係合部材11と第2係合部材12とが噛み合う際のショックを弱めることができる。このように第1係合部材11を駆動するため、この変形例でも第1作動室63が本発明の作動室に対応する。
【0069】
一方、クラッチ10を係合状態から解放状態に切り替える場合には図23に矢印Fa3で示したようにポンプ68で第1作動室63内の気体を吸引する。この際、逆止弁67が各歯13から第1作動室63への気体の流れを遮断するので、第1作動室63内の圧力を大気圧未満に低下させることができる。これによりピストン62に矢印P4で示した吸引力が作用する。そのため、矢印F4で示したように第1係合部材11をこの図の上方に駆動できる。そのため、第1係合部材11を解放位置に移動させ,クラッチ10を解放状態に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 係合装置
3 モータ・ジェネレータ(トルク付与手段)
10 クラッチ(クラッチ手段)
11 第1係合部材
12 第2係合部材
13 第1係合部材の歯
14 第1歯列
15 第2係合部材の歯
16 第2歯列
20 駆動装置(駆動手段)
21 油圧シリンダ(シリンダ機構)
22 シリンダ本体
23 ピストン
24 第1作動室
27 オイル通路(作動流体通路)
31 オイルポンプ(流量調整手段)
35 アキュムレータ(流量調整手段)
40 制御装置(流量制御手段、トルク制御手段)
51 第1位置センサ(位置検出手段)
60 ガスシリンダ(シリンダ機構)
61 シリンダ本体
62 ピストン
63 第1作動室
66 気体通路(作動流体通路)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並べられた複数の歯にて形成される第1歯列を有する第1係合部材と、周方向に並べられた複数の歯にて形成され、かつ前記第1歯列と噛み合わせることが可能な第2歯列を有する第2係合部材とを共通の軸線の回りに相対回転可能に配置し、かつ前記第1係合部材が前記軸線の方向に移動可能に設けられたクラッチ手段を備え、
駆動手段にて前記第1係合部材を前記軸線の方向に移動させることにより、前記クラッチ手段を前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とに切り替える係合装置において、
前記駆動手段は、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内に往復動自在に設けられて前記第1係合部材と連結されたピストンと、を有し、前記シリンダ本体内に形成された作動室に作動流体を供給して前記ピストンを駆動することにより前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替えるシリンダ機構を備え、
一端が前記第1歯列を形成する複数の歯のうちの少なくとも一部の歯の前記第2係合部材を向いている面に開口し、かつ他端が前記作動室と繋がっている作動流体通路を備えている係合装置。
【請求項2】
前記第1歯列の歯の先端が前記第2歯列の歯の先端と接する接触位置に前記第1係合部材が移動したか否か検出する位置検出手段と、前記作動室に供給する作動流体の流量を調整可能な流量調整手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記位置検出手段により前記第1係合部材が前記接触位置に移動したことが検出された場合には、前記作動室に供給する作動流体の流量が増加するよう前記流量調整手段を制御する流量制御手段と、をさらに備えた請求項1に記載の係合装置。
【請求項3】
前記第1係合部材又は前記第2係合部材に前記軸線回りのトルクを与えることができるトルク付与手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記第1係合部材が前記第1歯列の歯の先端と前記第2歯列の歯の先端とが接する接触位置に移動したか否か推定し、前記第1係合部材が前記接触位置に移動したと推定した場合に前記第1係合部材又は前記第2係合部材にトルクが与えられるように前記トルク付与手段を制御するトルク制御手段と、をさらに備えた請求項1に記載の係合装置。
【請求項4】
前記第1歯列の歯の先端が前記第2歯列の歯の先端と接する接触位置に前記第1係合部材が移動したか否か検出する位置検出手段と、前記第1係合部材又は前記第2係合部材に前記軸線回りのトルクを与えることができるトルク付与手段と、前記クラッチ手段が前記解放状態から前記係合状態に切り替えられているときに前記位置検出手段により前記第1係合部材が前記接触位置に移動したことが検出された場合に、前記第1係合部材又は前記第2係合部材にトルクが与えられるように前記トルク付与手段を制御するトルク制御手段と、をさらに備えた請求項1に記載の係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−92211(P2013−92211A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235090(P2011−235090)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】