説明

信号処理装置、及び走査式測距装置

【課題】走査式測距装置と被測定物との間に障害物が存在する場合であっても、被測定物に対する距離を正確に算出可能な走査式測距装置を提供する。
【解決手段】
走査部で周期的に偏向走査されたパルス状の測定光に対応して、受光部で検出された被測定物からの反射光に対応する反射信号を微分する微分処理部と、一次微分された一次微分反射信号の立上り時期を基準に当該一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光の検出時期として求め、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて被測定物までの距離を算出して出力する演算部と、微分処理部により反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定する波形判定部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、及び走査式測距装置に関し、特に、パルス状の測定光を出力する投光部と、前記投光部から出力された測定光を光学窓を介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部と、前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出する受光部と、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する演算部とを備えたTOF(Time of Flight)方式による走査式測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の走査式測距装置は、ロボットや無人搬送車の視覚センサ、或いは、ドアの開閉センサや監視領域への侵入者の有無を検出する監視センサ、さらには、危険な装置に人や物が近づくのを検出し、機械を安全に停止する安全センサ等に利用されている。
【0003】
特許文献1や特許文献2には、パルス状の測定光を出力する投光部と、前記投光部から出力された測定光を光学窓を介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部と、前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出して対応する反射信号を出力する受光部と、前記受光部から出力された反射信号を微分する微分処理部と、前記微分処理部で一次微分された一次微分反射信号の立上り時期を基準に当該一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を前記反射光の検出時期として求め、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する演算部とを備えた走査式測距装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−70159号公報
【特許文献2】特開2007−256191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の走査式測距装置で所定方向に位置する被測定物を測定する際に、走査式測距装置と真に検出する必要がある被測定物との間に、ガラス等半透明の反射物や、樹木の枝等測定光の光芒に比べ小さな物体が存在し、或は測定光が放出される光学窓が汚れている場合には、真に検出する必要がある被測定物からの反射光のみならず、ガラス等半透明の反射物や樹木の枝等、さらには光学窓の汚れからの反射光も走査式測距装置で検出され、真に検出する必要がある被測定物迄の正確な距離が算出できない虞がある。
【0006】
そこで、従来、ガラス等半透明の反射物や樹木の枝等からの反射光が微弱な強度である場合には、そのような微弱な反射光をノイズ光として距離演算の対象となる反射光から排除するように構成されている。
【0007】
しかし、半透明の反射物や樹木の枝等、ノイズ光の原因となる被測定物が、真に検出する必要がある被測定物の近傍に存在する場合には、複数の被測定物からの反射光が重畳して走査式測距装置に入射するため、そのような複数の反射光が重畳した反射光に基づいて演算部で算出された距離は、真に検出する必要がある被測定物に対応する正確な距離を示すものではないという問題があった。
【0008】
また、走査式測距装置が屋外で使用される場合に、測定対象空間の天候による影響を受けるという問題があった。例えば、霧が出ていたり、降雪または降雨時に、測定光がそれらから反射したノイズ光が走査式測距装置に入射して、真に検出する必要がある被測定物からの反射光として認識され、誤った距離が算出される虞があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、走査式測距装置と被測定物との間にノイズ光となる障害物が存在する場合であっても、真に検出する必要がある被測定物に対する距離を正確に算出可能な信号処理装置、及び、走査式測距装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による信号処理装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、パルス状の測定光を光学窓を介して測定対象空間に出力する投光部と、前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出して対応する反射信号を出力する受光部とを備えた測距装置に対して、前記測距装置から出力された信号を処理する信号処理装置であって、前記受光部から出力された反射信号を微分する微分処理部と、前記微分処理部により前記反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、前記反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定する波形判定部と、前記波形判定部による判定結果に応じて、前記反射信号に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する演算部と、を備えている点にある。
【0011】
測距装置と真に検出する必要がある被測定物との間にガラス等半透明の反射物が存在し、反射物が被測定物に近接していると、当該反射物からの反射信号が被測定物からの反射信号に重畳して、真に検出する必要がある被測定物に対する正確な距離が算出できない虞がある。このような現象は、ガラス等半透明の反射物に限らず、走査式測距装置と真に検出する必要がある被測定物との間に存在する樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓が汚れている場合に発生する。
【0012】
このような複数の反射光が重畳する場合であっても、微分処理部により反射信号が一次微分された一次微分反射信号、及び、反射信号が二次微分された二次微分反射信号が生成され、これらの信号が入力される波形判定部により、一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かが容易に判定できるようになる。
【0013】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記波形判定部は、前記一次微分反射信号が所定閾値以下に立下る迄に、前記二次微分反射信号が所定閾値以上に立上る二回目以降の立上りを検知すると、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定するように構成されている点にある。
【0014】
図4(b)に示すように、例えば二つの反射信号S4(T),S4(T´)が重畳すると、一次微分反射信号が二山形状を呈し、ピーク間の谷部で所定閾値L1を下回ることなく再度上昇し、反射光の重畳の態様によっては一次微分反射信号をモニタしても反射信号が重畳状態にあることが明確に判断できない場合がある。そのような場合であっても、一次微分反射信号の二山の各ピークで、それぞれ二次微分反射信号が所定閾値L1を下回り零になるため、二次微分反射信号に基づいて重畳した波形を分離することが可能になる。重畳数が二以上の反射信号であっても同様に、それぞれの反射信号に対応する波形に分離することができる。
【0015】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記演算部は、前記微分処理部で一次微分された一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を前記反射光の検出時期として求め、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する点にある。
【0016】
反射信号の立上がり時期を一次微分反射信号の重心位置に基づいて求めることにより、被測定物からの反射信号強度が異なる場合であっても適切に反射信号の立上がり時期を算出することができるようになる。
【0017】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第三特徴構成に加えて、前記波形判定部により前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に前記反射信号を分離する信号分離部を備え、前記演算部は、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に、前記信号分離部で分離された反射信号の一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を前記反射光の検出時期として求め、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出する点にある。
【0018】
図4(b)を例に説明する。波形判定部は、微分処理部から入力される一次微分反射信号が閾値L1より低い状態から閾値L1を超えた時点(図4(b)のtm)で反射信号の第一波の立上りを検知する区間であると判定する。さらに、この間に微分処理部232から入力される二次微分反射信号が閾値L1を二回目に超えた時点(図4(b)のtn)で反射信号の第二波の立上りを検知する区間であると判定する。
【0019】
信号分離処理部は、一次微分信号が所定の閾値L1を超えた時点から二次微分反射信号が所定の閾値L1を二回目に超える時点までの区間dtmの一次微分反射信号を最初(第一波)の反射信号S4(T´)の重心演算用の信号として出力し、二次微分反射信号が所定の閾値L1を二回目に超えた時点から一次微分信号が所定の閾値L1を下回る時点迄の区間dtnの一次微分反射信号を次(第二波)の反射信号S4(T)の重心演算用の信号として出力する。
【0020】
演算部は、一次微分信号が所定の閾値L1を超えた時点から二次微分反射信号が所定の閾値L1を二回目に超える時点までの区間dtmの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出するとともに、区間dtnの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出する。
従って、重畳したそれぞれの反射光に対して各別に距離を算出することができるようになる。
【0021】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第四特徴構成に加えて、予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、前記一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離と、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離と、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値との関係から、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データが記憶された記憶部を備え、前記演算部は、前記記憶部に記憶された補正データに基づいて、前記二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離を補正する点にある。
【0022】
図4(b)の区間dtnに本来の反射信号S4(T)の立上り時の一次微分反射信号が含まれていないために誤差が発生し、実際よりも長い距離として算出される可能性がある。そのような場合に備えて、記憶部に、予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離と、二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離と、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値との関係から、二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データを記憶しておけば、記憶部に記憶された補正データに基づいて、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離が補正され、適正な距離が求められるようになる。
【0023】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第四または第五の特徴構成に加えて、前記波形判定部で、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記演算部は、前記信号分離部で分離された反射信号のうち、最大のピーク値を示す反射信号に基づき算出した距離を真の被測定物に対する距離として出力する点にある。
【0024】
測定光の光芒に対して小さな被測定物や、半透明の被測定物からの反射光の強度は、その近傍に存在し、測定光の光芒に対して十分大きな真の被測定物からの反射光の強度よりも低い傾向がある。演算部は、信号分離部で分離された反射信号のうち、最大のピーク値を示す反射信号に基づき算出した距離を真の被測定物に対する距離として出力するので、不要な距離の出力を回避することができるようになる。
【0025】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記波形判定部により前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記演算部は前記光学窓が汚れている旨の信号を出力する点にある。
【0026】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記波形判定部は、前記反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wbより小さな値であると、適正な反射光でないと判定するように構成され、前記演算部は、前記波形判定部により適正な反射光でないと判定されると、距離の算出を中止し、または算出した距離の出力を中止する点にある。
【0027】
霧や煙等の微粒子が雰囲気中に存在すると、それらから反射した微小な反射信号が合成されて、ある程度の強度を有する反射信号となり、これが誤検出に繋がる虞があり。しかし、波形判定部によって、反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wbより小さな値であるか否かが判定されることにより、霧や煙等の微粒子からの反射信号が、適正な反射光でないと判定されるので、不要な距離が円座されたり外部に出力されるような事の発生が回避できるようになる。
【0028】
同第九の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記演算部は、前記走査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を出力する点にある。
【0029】
さらに、雨滴が雪粒からの反射信号が真の被測定物(検出対象となる被測定物)でない場合であっても、査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を出力するように構成すれば、雨滴が雪粒からの反射信号を被測定物と誤検知することが効果的に排除できるようになる。
【0030】
本発明による走査式測距装置の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、パルス状の測定光を出力する投光部と、前記投光部から出力された測定光を、光学窓を介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部と、前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出して対応する反射信号を出力する受光部と、前記受光部から出力された反射信号を処理する上述の第一から第九の何れかに記載の信号処理装置と、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した通り、本発明によれば、走査式測距装置と被測定物との間にノイズ光となる障害物が存在する場合であっても、真に検出する必要がある被測定物に対する距離を正確に算出可能な信号処理装置、及び、走査式測距装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による走査式測距装置の全体構成を示す概略縦断面図
【図2】(a)は被測定物からの反射光に基づく測距原理の説明図、(b)は反射信号の説明図
【図3】反射信号に対する信号処理の説明図
【図4】(a)は複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光に基づく測距原理の説明図、(b)は一次微分反射信号及び二次微分反射信号の説明図
【図5】走査式測距装置の制御回路のブロック構成図
【図6】本発明による信号処理装置の一部である信号処理部のブロック構成図
【図7】(a)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と霧からの反射光の相違を示す説明図、(b)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と雨滴等からの反射光の相違を示す説明図
【図8】本発明による走査式測距装置の別実施形態を示し、全体構成を示す概略縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明による信号処理装置、及び、走査式測距装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1に示すように、走査式測距装置1は、一対の投光部3及び受光部5を収容する円筒状のケーシング2と、ケーシング1の周方向に沿って配置された弧状の光学窓2aを備え、投光部3から出力された測定光を円筒状ケーシングの軸心Pと直交する方向に偏向反射する第一偏向ミラー9、及び、被測定物からの反射光を受光部5に向けて偏向反射する第二偏向ミラー10を軸心P周りに回転して、測定光を軸心Pと直交する平面上で回転走査する偏向光学系4を備えている。
【0035】
ケーシング1の内壁面は迷光を吸収する暗幕等の吸光部材で被覆され、軸心Pに沿って対向配置された投光部3と受光部5の間に、偏向光学系4が配置されている。
【0036】
投光部3は、赤外半導体レーザでなる発光素子と、発光素子から出力された光ビームを平行光に形成する光学レンズを備えて構成され、ケーシング2の上壁に固定されている。
【0037】
受光部5は、反射光を検出するアバランシェフォトダイオードでなる受光素子を備えて構成され、ケーシング2に固定された中空軸13上の支持板上に固定されている。
【0038】
偏向光学系4は、第一偏向ミラー9及び第二偏向ミラー10が取り付けられた天面8bと、反射光を受光部5で集光する受光レンズ14が取り付けられた周壁部8aを備えた円筒状の回転体8と、回転体8を一方向に回転駆動するモータ11を備えている。
【0039】
下端部が縮径された回転体8は、その内周面に備えた軸受12を介して中空軸13に回転可能に支承され、縮径部の外周面にモータ11の回転子となるマグネット11bが取り付けられている。当該回転子と、当該回転子に対向配置されたコイル11aでなる固定子によりモータ11が構成され、固定子のカバーがケーシング2に固定された中空軸13に取り付けられている。
【0040】
投光部3から光軸L1に沿って出射された測定光が、第一偏向ミラー9で光軸L1と直交する光軸L2に偏向され、光学窓2aを通過して測定対象空間に向けて照射される。測定対象空間に存在する被測定物Tからの反射光が、光軸L2と平行な光軸L3に沿って光学窓2aを通過して受光レンズ14に入光し、第二偏向ミラー10で光軸L3と直交する光軸L4に偏向され、受光部5に集光される。
【0041】
第一偏向ミラー9で偏向された測定光が光学窓2aの上方領域を透過し、被測定物Rからの反射光が光学窓2bの下方領域を透過する。
【0042】
モータ11で回転駆動される偏向光学系4により、測定光が光学窓2aを介して測定対象空間に走査される範囲、具体的には上述した軸心Pを基準とする約270度の角度範囲が計測用走査角度領域となり、測定光がケーシング2に遮られて測定対象空間に出射されない角度領域が非計測用走査角度領域となる。
【0043】
つまり、偏向光学系4により、投光部3から出力された測定光を、光学窓2aを介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部が構成されている。
【0044】
周方向に複数のスリットが形成された円盤状のスリット板15aが、回転体8の周壁部8aに取り付けられるとともに、当該スリットを検出するフォトインタラプタ15bがケーシング2の内壁に取り付けられ、これらにより偏向光学系4の走査角度を検出する走査角度検出部15が構成されている。
【0045】
スリット板15aに形成されるスリットは、測定光が非走査角度領域の中心に向けて照射される基準位置を除いて均等間隔で形成され、基準位置ではスリット間隔が他の間隔より狭い間隔に形成されている。従って、偏向光学系4の回転に伴なって走査角度検出部15から出力されるパルスのパルス幅に基づいて、基準位置から偏向光学系4の回転角度位置が把握できるように構成されている。
【0046】
非走査角度領域の中心には、距離補正用の基準光学系としてのプリズム16が設けられ、当該プリズム16を介して受光部5で検知される反射光に基づいて、補正用の基準距離が求められる。
【0047】
ケーシング2の底部には、装置を駆動して被測定物までの距離を算出する信号処理回路20を備えた制御基板17が収容されている。
【0048】
図5に示すように、信号処理回路20には、発光素子3aを駆動する駆動回路3b、反射光が受光素子5aで光電変換された反射信号を増幅する増幅回路5b、A/D変換部22、信号処理部23、モータ制御回路21、システム制御部24を備えている。信号処理部23及びシステム制御部24によって、本発明による信号処理装置が構成されている。
【0049】
システム制御部24には、マイクロコンピュータが設けられ、所定の制御プログラムに基づいて動作するマイクロコンピュータによって信号処理部23、モータ制御回路21等が制御される。
【0050】
システム制御部24は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに基づいて、走査角度つまり測定光の照射方向を検出するとともに、偏向光学系4によって測定光が所定の一定速度で周期的に測定対象空間に走査されるようにモータ制御回路21を制御する。そして、信号処理部23から入力される距離と、走査角度検出部15を介して検出した走査角度等の測定情報を、外部装置と接続されるインタフェースを介して外部装置に出力する。
【0051】
図2(a)に示すように、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、信号処理部23から駆動回路3bに出力される駆動パルス信号S1により赤外半導体レーザ3aがパルス駆動され、測定対象空間にパルス状の測定光S2が照射される。
【0052】
当該測定光S2が被測定物に照射され、被測定物からの反射光S3がアバランシェフォトダイオード5aで光電変換され、さらに増幅回路5bで増幅された反射信号S4がA/D変換部22に入力される。
【0053】
A/D変換部22でA/D変換されたデジタルの反射信号が信号処理部23に入力され、信号処理部23で駆動パルス信号S1と反射信号の時間差Δtが求められ、以下の式に基づいて被測定物迄の仮の距離D1が算出される。
D1=Δt・C/2 (但し、Cは光速)
【0054】
一方、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスが基準位置を示すときに、測定光がプリズム16に照射され、アバランシェフォトダイオード5aで検出されたプリズム16からの反射光S3に基づく時間差Δt´に対応する基準距離D2が以下の式に基づいて算出される。
D2=Δt´・C/2 (但し、Cは光速)
【0055】
被測定物迄の距離Dが、D1−D2によって算出される。当該基準距離D2は、走査式測距装置1に組み込まれた赤外半導体レーザ3a、駆動回路3b、アバランシェフォトダイオード5a等の特性ばらつきや、光学系の機差による計測距離のばらつきを吸収して、被測定物迄の正確な距離を算出するための補正値となる。
【0056】
ところで、反射信号S4の立上り時期を検知するために所定の閾値で比較する比較器を設ける場合、同じ時期に発生する反射信号S4であっても、その信号強度によって比較器からの出力時期が変動し、正確に反射信号S4の立上り時期を検知できない虞がある。
【0057】
そのため、信号処理部23は、反射信号S4を一次微分し一次微分反射信号の立上り時期を基準に当該一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光S3の検出時期として求めるように構成されている。
【0058】
以下、信号処理部23について詳述する。
図6に示すように、信号処理部23は信号処理用のゲートアレイやデジタルシグナルプロセッサを備えたASIC等の集積回路で構成され、並列化されたA/D変換信号を整列させるデジリアライザ230、ローパスフィルタ231、微分処理部232、波形判定部233、信号分離部234、距離演算部235、補正処理部236、補正データメモリ237、出力メモリ238、パルス信号生成部239等の処理ブロックを備えている。
【0059】
パルス信号生成部239は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、駆動回路3b及び距離演算部235に駆動パルス信号S1を出力するブロックである。
【0060】
A/D変換部22から入力されたデジタルの反射信号が、時系列的にデシリアライザ230で整列され、高周波ノイズ成分を除去するローパスフィルタ231を介して微分処理部232及び波形判定部233に入力される。
【0061】
微分処理部232は、反射信号を一次及び二次微分処理して、一次微分反射信号及び二次微分反射信号を波形判定部233及び信号分離部234に出力する。
【0062】
図2(b)には反射信号と一次微分反射信号が例示されている。微分処理部232は、K番目(Kはサンプリング順序を示す整数である)のサンプリング値とK−1番目のサンプリング値との差分を各Kについて求め、その値を一次微分反射信号として算出する。さらに、各Kについて求めた一次微分反射信号とK−1番目に求めた一次微分反射信号との差分を求め、その値を二次微分反射信号として算出する。尚、本実施形態では、差分値が負となる場合には零に丸め込み、正領域のみ抽出するように構成されている。
【0063】
波形判定部233は、測定光が出力される前にローパスフィルタ231を介して入力される信号の最大レベルから最小レベルを減算して、反射信号を識別するための第一測定閾値L1を算出するとともに、その信号の平均レベルをオフセット値に対応した第二測定閾値L2として算出する。
【0064】
つまり、測定光が出力される迄にA/D変換部22でサンプリングされた信号に基づいて、増幅回路5bのオフセットレベルや微小な外乱光によるノイズ信号のレベルが算出される。
【0065】
距離演算部235は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号から、第一測定閾値L1より大となる領域の信号成分を抽出し、その正側領域(図2(b)に示す微分波形)の重心位置を反射光S3の立上りタイミング、つまり検出時期として算出し、パルス信号生成部239から入力される駆動パルス信号S1の立上りエッジを測定光の出力時期として、当該反射光の検出時期との時間差に基づいて被測定物までの仮の距離D1を算出するとともに、駆動パルス信号S1の数をカウントするカウンタの値を1加算する。尚、当該カウンタの値は、走査部の一回転毎にリセットされる。
【0066】
図2(b)に示すように、一次微分反射信号のうち第一測定閾値L1を二回連続して超えるサンプリングポイントを検出し、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、例えば前後に連続する10点のサンプリングポイント(n−10〜n+10)を重心演算範囲R1として、〔数1〕に示す数式に基づいて重心位置Gを算出する。
【0067】
つまり、重心位置Gはサンプリングポイント(n−10)からの時間情報として算出される。尚、重心演算に寄与するサンプリングポイントの選定は、この例に限るものではなく、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える直前のサンプリングポイントから一次微分反射信号値が第一閾値L1より最初に低下したサンプリングポイント迄の間のサンプリングポイントを重心演算に寄与するサンプリングポイントに選定してもよい。
【0068】
【数1】

【0069】
このように、反射信号を一次微分してその正側領域の重心位置を反射信号の立上り時期として求める場合には、光量が異なる場合であってもほぼ等しい立上り時期として求まる。
【0070】
さらに、距離演算部235は、基準位置でプリズム16を介して検出された基準光としての反射光S3に対しても、上述と同様の処理を行ない基準距離D2を算出する。基準距離D2の算出は、走査部による測定光の回転周期と同期して毎回行なわれる。
【0071】
補正処理部236は、距離演算部235で仮の距離D1が算出される度に、仮の距離D1からその直前に算出された基準距離D2を減算して距離Dを算出し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。
【0072】
測定光S2は、測定対象空間に設定された検出範囲内に存在する被測定物からの反射光を確実に検出するために十分な発光強度に設定されているため、反射光の強度によっては増幅回路5bが飽和してリニアな出力特性が得られない場合がある。つまり、微弱な反射光を十分なレベルに増幅するために、増幅回路5bのダイナミックレンジが入力スパンに対応できず、強い反射光に対して飽和するのである。
【0073】
図3(a)に示すように、増幅回路5bからの出力波形を観測すると、被測定物からの反射光量が小さいときには、反射信号S41から反射信号S43に示すようにリニアに増幅されるが、被測定物からの反射光量が大きいときには、反射信号S44から反射信号S46に示すように飽和して正確な波高値が出力されず、その出力が立ち下がるまでの時間が長くなる。このような場合には、算出された重心位置が本来あるべき重心位置とずれることとなり、被測定物との距離Lが正確に算出できなくなる。
【0074】
しかし、反射信号S44から反射信号S46のように出力が飽和したときには、その信号の積分値と反射光S3の受光光量に相関があることが見出されており、距離演算部235により検出された重心位置に基づいて算出された距離Dを、当該積分値と予め設定された補正テーブル値に従って適切に補正することができる。
【0075】
補正処理部236は、図3(b)に示すように、ローパスフィルタ231を通過した信号に対して、波形判定部233から得た第一測定閾値L1と第二測定閾値L2の加算値を最初に超える直前のサンプリング値から第二測定閾値L2を最初に下回るサンプリング値までを積分範囲R2として反射信号S4を積分処理する。
【0076】
このとき、補正処理部236は、積分範囲R2に対応する積分値から第二測定閾値L2以下の領域の積分値を減算することによりオフセット誤差を除去する。尚、オフセット誤差を除去するために、積分範囲R2のサンプリング値から第二測定閾値L2を減算した値に対して積分することも可能である。
【0077】
補正処理部236は、増幅回路5bからの出力波形が飽和している旨の情報を波形判定部233から得ると、予め補正データメモリ237に格納された積分値と補正距離の関係を示す補正テーブル値に基づいて、算出した積分値に対応する補正距離Dcを算出し、先に算出した距離Dを補正し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。尚、波形判定部233は、反射信号S4のピーク値が予め設定された増幅回路5bの最大出力より数%低い値に設定された閾値を超えると出力波形が飽和していると判定する。
【0078】
以上が、信号処理部23で実行される基本的な演算処理となる。
しかし、図1に示すように、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Tとの間にガラス等半透明の反射物T´が存在し、反射物T´が被測定物Tに近接していると、当該反射物T´からの反射信号が被測定物Tからの反射信号に重畳して、真に検出する必要がある被測定物Tに対する正確な距離が算出できない虞がある。
【0079】
図4(a)には、反射物T´からの反射光と被測定物Tからの反射光が重畳した反射光S3が示されている。このような反射光S3の場合、測定光の出力時期と真の被測定物Tからの反射光の検出時期との期待される時間差ΔtよりもΔtεだけ短い時間差に基づいて距離が算出されるため、正確な距離が算出できなくなる。
【0080】
このような現象は、ガラス等半透明の反射物T´に限らず、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Tとの間に存在する樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合に発生する。
【0081】
図4(b)には、このような反射光S3に対応した反射信号S4と、その一次微分反射信号と、二次微分反射信号が示されている。
【0082】
図3に示す通常の単一の反射信号S4の場合には、反射信号S4の立上り時に一次微分反射信号が第一閾値L1を超えて反射信号S4の変曲点まで単調増加し、その後単調減少して反射信号がピークとなる時期に第一閾値L1を下回り零となるので、一次微分反射信号をモニタすれば、単一の反射信号S4であることを認識できる。
【0083】
しかし、図4(b)のように、例えば二つの反射信号S4(T),S4(T´)が重畳すると、一次微分反射信号が二山形状を呈し、ピーク間の谷部で第一閾値L1を下回ることなく再度上昇し、反射光の重畳の態様によっては一次微分反射信号をモニタしても反射信号が重畳状態にあることが明確に判断できない場合がある。
【0084】
そのような場合であっても、一次微分反射信号の二山の各ピークで、それぞれ二次微分反射信号が第一閾値L1を下回り零になるため、二次微分反射信号に基づいて重畳した波形を分離することが可能になる。重畳数が二以上の反射信号であっても同様に、それぞれの反射信号に対応する波形に分離することができる。
【0085】
そこで、波形判定部233は、微分処理部232により反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定するように構成されている。
【0086】
波形判定部233は、一次微分反射信号が所定閾値(ノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは第一閾値L1に設定されている)以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値(この値もノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは等しく第一閾値L1に設定されている)以上に立上る二回目の立上りを検知すると、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定するのである。
【0087】
尚、反射光が重畳している場合であっても、一次微分反射信号が所定閾値以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値以上に立上る二回目の立上りが検知されない場合には、反射光が重畳していないと判定される。例えば、強度が強い反射光のピーク値を示す時期以降に強度がそれより弱い反射光が重畳するような場合である。この場合には、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える時期を弱い反射光に対応する反射信号と判定して処理すればよい。
【0088】
信号分離処理部234は波形判定部233による判定結果に基づいて、微分処理部232から入力される一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。そして、距離演算部235は信号分離処理部234により分離された一次微分反射信号毎に重心演算を実行して、対応する距離演算を実行する。
【0089】
つまり、波形判定部233は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号が第一閾値L1より低い状態から第一閾値L1を超えた時点(図4(b)のtm)で反射信号の立上りを検知する区間であると判定して第一波の判定信号を信号分離部234に出力する。第一波の判定信号は一次微分反射信号が第一閾値L1より低い値に低下した時点まで出力される。
【0090】
波形判定部233は、第一波の判定信号の出力中に、微分処理部232から入力される二次微分反射信号が第一閾値L1を二回目に超えた時点(図4(b)のtn)で第二波の判定信号を信号分離部234に出力する。このような処理を繰り返すことにより、複数の反射信号が重畳した反射信号であっても、各反射信号に波形分離することができる。
【0091】
図4(b)の例では、信号分離処理部234は、各判定信号に対応して反射信号及び一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。即ち、図4(b)の区間dtmの一次微分反射信号を最初の反射信号S4(T´)の重心演算用の信号として出力し、区間dtnの一次微分反射信号を次の反射信号S4(T)の重心演算用の信号として出力する。
【0092】
距離演算部235は、区間dtmの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出するとともに、区間dtnの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出する。算出した距離は、補正処理部236で必要に応じてそれぞれ上述の補正が実行され、補正後の距離が出力メモリ238に記憶される。
【0093】
被測定物Tに対する距離は、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に、信号分離部232で分離された反射信号S4(T)の一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光の検出時期として求められ、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて算出される。
【0094】
つまり、区間dtnの一次微分反射信号に対して実行された重心演算によって得られる重心位置を立上り時期として算出された距離となる。しかし、実際には、区間dtnに本来の反射信号S4(T)の立上り時の一次微分反射信号が含まれていないために誤差が発生し、実際よりも長い距離として算出される可能性がある。
【0095】
そこで、補正処理部237は、上述の演算処理で得られた被測定物Tに対する距離を補正するように構成されている。
【0096】
補正データメモリ237には、予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離Dmと、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離Dnと、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値Vpm,Vpnとの関係から、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データCが記憶されている。実際には、Dn−Dmと、Vpm、Vpnを変数とする補正データテーブルが補正データメモリ237に格納されている。
【0097】
補正処理部236は、Dn−Dmと、Vpm、Vpnに対応する補正データCを補正データテーブルから読み出して、真の被測定物Tに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0098】
当該補正データCは、予め試験によりサンプリングされた各データと各データに基づいて上述の演算処理で求められた距離と、実際の距離との間で求められた以下の相関式を基準に算出することも可能である。
C=F(Dm,Dn,Vpm,Vpn)
【0099】
この場合には、補正処理部236は、関数Fの変数にDm,Dn,Vpm,Vpnを代入して補正値Cを算出し、真の被測定物Tに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0100】
尚、波形判定部233で、反射光S4が複数の被測定物T,T´からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、距離演算部235は、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(T)に基づき算出した距離を真の被測定物Tに対する距離として出力するように構成することも可能である。
【0101】
このように構成すると、真の被測定物Tの近傍に、ガラス等半透明の反射物T´が存在する場合や、樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合であっても、真の被測定物Tに対する距離のみを正確に算出して出力することができる。
【0102】
また、波形判定部233により反射光S3が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光S3であると判定され、反射光S3のうち距離演算部235で算出された最初の反射光に対応する距離と光学窓2aまでの距離との差が所定範囲内である場合には、距離演算部235は光学窓2aが汚れている旨の信号データを出力メモリ238に格納するように構成すれば、システム制御部71を介して外部に光学窓2aが汚れている旨の報知を行なうことができる。また、走査式測距装置1に表示部を設ける場合には、システム制御部71を介して光学窓2aが汚れている旨の報知を表示部で行なうことができる。
【0103】
走査式測距装置1が屋外で使用される場合には、霧、雨、雪等の天候の影響を受け、霧、雨滴、雪粒からの反射光を被測定物と誤検知する場合がある。本走査式測距装置1は、これらにも対処可能に構成されている。
【0104】
図7(a)に示すように、受光部5で検出されるパルス状の反射信号は、被測定物の表面反射率や被測定物迄の距離等によって、そのピーク値(p)及びパルス幅(W)が異なるが、ピーク値(P1)とパルス幅(W1)の比(P1/W1)は略一定の相似形の信号となる(図中、「反射信号(通常)」と表記された実線及び破線の波形参照)。
【0105】
これに対して、霧からの反射光は、霧の微細な粒子群からの個別の反射光が合成された反射光となり、相対的にピーク値(p2)が低く、またパルス幅(W2)が大きくなる傾向にあるため、ピーク値(P)とパルス幅(W)の比を対比すると、必ず(P2/W2)<(P1/W1)の関係が成立する。
【0106】
そこで、波形判定部233は、反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wb(≒P1/W1)より小さな値であると、適正な反射光でないと判定するように構成され、距離演算部235は、波形判定部233により適正な反射光でないと判定されると、距離の算出を中止し、または算出した距離の出力メモリ238への出力を中止するように構成されている。
【0107】
霧の中に被測定物Tが存在し、霧からの反射光と被測定物Tからの反射光が重畳して受光部5で検出される場合には、微分処理部232から入力される一次微分反射信号及び二次微分反射信号に基づいて、波形判定部233が第一波の反射信号、つまり図4(b)の区間dtmの反射信号部分に対してピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)を算出し、所定の閾値Pb/Wbより小さな値である場合に、第一波が霧からの反射信号であると判定すればよい。
【0108】
このような場合には、波形判定部233の判定結果を受けた距離演算部235が、上述と同様に、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(T)に基づき算出した距離を真の被測定物Tに対する距離として出力するように構成すればよい。
【0109】
また、図7(b)に示すように、雨滴や雪粒からの反射光は、通常の反射光と同様、上述の所定の閾値Pb/Wb以上の値を示すが、雨滴や雪粒は測定対象空間の同一位置に長時間留まることが無いため、走査部により走査される度にそれらからの反射信号に基づいて距離演算部235で算出される距離が異なることになる。これに対して、走査周期に対して十分長い時間で動作する被測定物に対する距離は、複数の周期でほぼ一定の値を示すことになる。
【0110】
そこで、距離演算部235は、走査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を雨滴や雪粒に対する距離ではなく、真の被測定物に対する距離であると判断して出力メモリ238に当該距離を出力するように構成されている。尚、このような判定を実行する周期は、走査部の走査周期と、雨滴や雪粒の降下速度との関係で定められる。
【0111】
以下、別の実施形態を説明する。上述の実施形態では、距離演算部235と補正処理部236とで構成される演算部が、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて被測定物までの距離を算出して出力メモリ238に出力する例を説明したが、距離演算部235が、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差を算出し、補正処理部236が当該時間差を補正した時間差を出力メモリ238に出力し、システム制御部71が当該出力メモリ238から時間差を読み出して距離を算出してもよい。つまり、本発明の演算部は、距離演算部235と補正処理部236のみでなく、システム制御部71をも含む概念である。
【0112】
A/D変換部22と信号処理部23は、ともに共通のクロック信号で動作するように構成することができるが、高速処理が必要となる場合には、信号処理部23の部品コストが上昇するため、A/D変換部22と信号処理部23が、異なるクロック信号で動作するように構成してもよい。
【0113】
例えば、A/D変換部22が1GHzで動作し、信号処理部23が100MHzのクロックで動作するような場合には、少なくとも信号処理部23の処理能力の10倍のデータがA/D変換部22で生成される。そのような場合にリアルタイムに演算処理が実行できるように、信号処理部23の微分処理部232、波形判定部233、信号分離部234、距離演算部235等の演算処理部を、複数のデータが並行して処理されるパイプライン構造で構成されることが好ましい。
【0114】
上述した走査式測距装置は、基準位置で補正用の基準距離を検出するためのプリズム16や、算出された距離を基準距離で補正する補正処理部236を備えているため、計測用走査角度領域が制限される。
【0115】
そこで、図8に示すような走査式測距装置を構成することも可能である。当該走査式測距装置は、プリズム16に替えて、測定対象空間に照射される測定光の一部を常に受光部5に導く導光部材6を備えている。
【0116】
走査部によって回転走査される測定光のうち、導光部材16´を介して受光部5で検出される基準光と、基準光から時間的に遅延して受光部5で検出される被測定物からの反射光の双方が上述したA/D変換部22でA/D変換され、信号処理部23で処理される。
【0117】
信号処理部23では、基準光に対応する基準信号と反射光に対応する反射信号の双方が微分処理部232で微分処理され、距離演算部235で双方の重心位置が求められ、さらにそれぞれの重心位置の差が、測定光の出力時期と反射光の検出時期との時間差として算出される。従って、基準距離で補正する処理が不要になる。プリズム16を設ける必要が無いため、計測用走査角度領域が360度全周となる。
【0118】
上述した実施形態では、信号処理部23がゲートアレイやデジタルシグナルプロセッサを備えたASIC等の集積回路で構成される例を説明したが、信号処理部23の各処理ブロックの一部または全てが、各処理ブロックの機能を具現化する制御プログラムが格納されたメモリと、メモリに格納された制御プログラムを実行するCPUを備えたマイクロコンピュータ等のコンピュータで構成されるものであってもよい。
【0119】
上述した実施形態では、距離演算部235が一次微分信号の重心位置に基づいて反射光の立上がり時期を特定する構成を説明したが、本発明による演算部は、波形判定部233による判定結果に応じて、反射信号に基づいて被測定物までの距離を算出して出力するものであればよく、演算部反射光の立上がり時期を特定する手法が一次微分信号の重心演算による手法に制限されるものではない。
【0120】
例えば、二次微分信号が所定の閾値を超える時期を反射信号の立上がり時期として距離演算を実行するものであってもよい。また、反射信号または一次微分信号が所定の閾値を超える時期を反射信号の立上がり時期として距離演算を実行し、波形判定部233による判定結果に応じて、その閾値を可変に設定するものであってもよい。例えば、最初の反射信号に対する閾値より、二回目の反射信号に対する閾値を大きく設定することにより、それぞれの反射信号の立上がり時期を求めることができるようになる。
【0121】
上述した実施形態では、信号処理装置が走査式測距装置に内蔵される例を説明したが、本発明による信号処理装置は、走査式測距装置に内蔵されるものに限らず、走査式測距装置の外部に設置される形態も採用可能である。
【0122】
また、信号処理装置の信号処理対象は走査式測距装置に限らず、走査機構を備えていない測距装置から出力される反射信号であってもよい。
【0123】
上述した実施形態は、本発明の一実施例であり、走査式測距装置の具体的構造、信号処理部23の具体的な回路構成やソフトウェア構成等は、本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0124】
1:走査式測距装置
3:投光部
5:受光部
4:走査部
23:信号処理部
71:演算部(システム制御部)
232:微分処理部
233:波形判定部
234:信号分離部
235:演算部(距離演算部)
236:演算部(補正処理部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の測定光を光学窓を介して測定対象空間に出力する投光部と、前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出して対応する反射信号を出力する受光部とを備えた測距装置に対して、
前記測距装置から出力された信号を処理する信号処理装置であって、
前記受光部から出力された反射信号を微分する微分処理部と、
前記微分処理部により前記反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、前記反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定する波形判定部と、
前記波形判定部による判定結果に応じて、前記反射信号に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する演算部と、
を備えている信号処理装置。
【請求項2】
前記波形判定部は、前記一次微分反射信号が所定閾値以下に立下る迄に、前記二次微分反射信号が所定閾値以上に立上る二回目以降の立上りを検知すると、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定するように構成されている請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記微分処理部で一次微分された一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を前記反射光の検出時期として求め、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出して出力する請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記波形判定部により前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に前記反射信号を分離する信号分離部を備え、
前記演算部は、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に、前記信号分離部で分離された反射信号の一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を前記反射光の検出時期として求め、前記測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて前記被測定物までの距離を算出する請求項3記載の信号処理装置。
【請求項5】
予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、前記一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離と、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離と、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値との関係から、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データが記憶された記憶部を備え、
前記演算部は、前記記憶部に記憶された補正データに基づいて、前記二次微分反射信号の二回目以降の立上り時期を基準に算出した距離を補正する請求項4記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記波形判定部で、前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記演算部は、前記信号分離部で分離された反射信号のうち、最大のピーク値を示す反射信号に基づき算出した距離を真の被測定物に対する距離として出力する請求項4または5記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記波形判定部により前記反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、前記演算部は前記光学窓が汚れている旨の信号を出力する請求項1から6の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記波形判定部は、前記反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wbより小さな値であると、適正な反射光でないと判定するように構成され、
前記演算部は、前記波形判定部により適正な反射光でないと判定されると、距離の算出を中止し、または算出した距離の出力を中止する請求項1から7の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記走査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を出力する請求項1から8の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項10】
パルス状の測定光を出力する投光部と、
前記投光部から出力された測定光を、光学窓を介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部と、
前記測定対象空間に存在する被測定物からの反射光を検出して対応する反射信号を出力する受光部と、
前記受光部から出力された反射信号を処理する請求項1から9の何れかに記載の信号処理装置と、
を備えている走査式測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−215005(P2011−215005A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83540(P2010−83540)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000242600)北陽電機株式会社 (37)
【Fターム(参考)】