信号抽出方法、信号抽出装置および機械検査装置
【課題】タイミング信号取得用のセンサを用いることなく、検査対象からの音や振動を検出するセンサの出力信号から良否の判定のための信号を抽出して検査できるようにする。
【解決手段】検査対象である回転機械からの音や振動を検出する検出手段の出力信号から、基準周波数成分抽出部4で基準周波数成分を抽出し、この基準周波数成分を用いて、前記出力信号から、波形切り出し処理部8で回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出し、抽出した信号区間の信号を用いて回転機械の良否を、異音検査装置32で検査するようにしている。
【解決手段】検査対象である回転機械からの音や振動を検出する検出手段の出力信号から、基準周波数成分抽出部4で基準周波数成分を抽出し、この基準周波数成分を用いて、前記出力信号から、波形切り出し処理部8で回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出し、抽出した信号区間の信号を用いて回転機械の良否を、異音検査装置32で検査するようにしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や振動を検出するセンサの出力信号に含まれる信号を抽出する方法および装置、並びに、機械が発生する音や振動に基づいて、機械を検査する機械検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象の機械が動作中に発生する音や振動を、官能検査員が、耳で聞いたり、手で触って振動を確認して機械の良否を判定する、いわゆる官能検査が行なわれている。
【0003】
しかしながら、かかる官能検査は、官能検査員の個人差や時間による変化などによりばらつきが大きく、良否の判定基準のデータ化、数値化が難しく、その管理も困難であるという問題があった。
【0004】
このため、機械が発生する音や振動をセンサで検出し、その出力信号を処理して、異常な音や振動(以下「異音」という)の有無を判定して機械を検査する、いわゆる異音検査を自動的に行う装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようにセンサの出力を信号処理して機械を検査する異音検査装置では、精度の高い検査を行なうためには、センサの出力に含まれる雑音成分を除去し異音の有無の判定に用いられる信号区間を抽出する必要がある。
【0006】
このため、例えば、車両用のエンジンを検査する場合に、特許文献2に示すように、エンジンの音や振動をセンサで検出するのに加えて、カム角を検出するセンサを用いてエンジンの各シリンダの動作に関連するタイミング信号(フェーズ信号)を取得し、このタイミング信号を利用してエンジンバルブの開閉のタイミングで、音や振動を検出するセンサの出力を窓処理し、検査に有効な信号区間を抽出するようにした装置も提案されている。
【特許文献1】特許第3484665号
【特許文献2】特許第3651351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにタイミング信号を利用して検査な有効な信号区間を抽出する従来例では、音や振動を検出するセンサとは別に、タイミンング信号を取得するためのセンサが必要となる。
【0008】
このタイミング信号取得用のセンサとして、エンジンに組み込まれているエンジン制御用のセンサを兼用できればよいが、兼用できるセンサが組み込まれていないエンジンもあり、あるいは、検査工程では、エンジン制御用のセンサの出力を利用できない場合もあり、かかる場合には、タイミング信号を取得するのが困難である。
【0009】
また、エンジンに組み込まれるエンジン制御用のセンサは、メーカや機種によって異なるために、それらの全てに対応できる検査装置を提供するのは困難である。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて為されたものであって、タイミング信号取得用のセンサを用いることなく、音や振動を検出するセンサの出力から検査に有効な信号を抽出できる信号抽出方法、信号抽出装置およびそれを用いた機械検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の信号抽出方法は、回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出方法であって、前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得ステップと、取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出ステップとを含むものである。
【0012】
回転機械とは、回転体を含む機械をいい、例えば、エンジン、トランスミッション、モータなどをいう。
【0013】
検出手段は、音を検出する場合は、マイクロフォンセンサなどであり、振動を検出する場合は、振動センサなどであり、一個使用することで、一箇所の音や振動を検出してもよいし、複数個使用することで、複数個所の音や振動を同時に検出するようにしてもよい。
【0014】
本発明の信号抽出方法によると、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出するので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がない。
【0015】
(2)本発明の信号抽出方法の一つの実施形態では、前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分としてもよい。
【0016】
この基準周波数成分は、回転機械の回転体の動きに同期した周波数成分であるのが好ましい。
【0017】
この基準周波数成分を、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分とすることにより、基準周波数成分の位相は、クランクシャフトやカムシャフトの位置、したがって、ピストンやバルブの位置に対応したものとなる。
【0018】
この基準周波数成分は、検出手段の出力信号を、フーリエ変換、あるいは、高速フーリエ変換して抽出した周波数成分とするのが好ましい。
【0019】
この実施形態によれば、基準周波数成分に基づくタイミングで、出力信号から信号区間を切り出して抽出するので、基準周波数成分として、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分を用いることにより、ピストンやバルブの所要の位置に対応した信号区間を抽出して検査に用いることが可能となる。
【0020】
(3)上記(2)の実施形態においては、前記取得ステップでは、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0021】
基準値は、信号区間の抽出の精度などに応じて、ユーザが適宜設定できるのが好ましい。
【0022】
この実施形態によると、複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分、すなわち、位相が揃っている周波数成分を基準周波数成分として抽出することができる。
【0023】
(4)上記(2)の実施形態においては、前記取得ステップでは、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0024】
定数は、自然数であるのが好ましい。
【0025】
回転機械、例えば、エンジンでは、その構成部品で発生する音や振動の周波数は、クランクシャフトの回転周波数の倍数で構成されることが多く、また、直列4気筒のエンジンでは、クランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)が強く現れる傾向があることが知られている。
【0026】
この実施形態によると、回転機械の回転数に基づく回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するので、例えば、エンジンのクランクシャフトに同期した周波数成分を、基準周波数成分として取得することができる。
【0027】
(5)上記(4)の実施形態においては、前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0028】
この実施形態によると、直列4気筒のエンジンで強く現れるクランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)を、基準周波数成分として効率的に抽出することができる。
【0029】
(6)上記(2)ないし(5)のいずれかの実施形態においては、前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出してもよい。
【0030】
予め定められた位相は、検査対象としたい信号のタイミング、例えば、異音の発生するタイミングに対応するのが好ましく、この位相は、設計的に定まるものであってもよいし、予め異音を発生する回転機械の音や振動を計測し、異音が発生するタイミングを求めてもよい。
【0031】
信号区間の切り出しは、窓関数を用いた時間窓を設定して行なうのが好ましく、時間窓の時間幅は、可変設定できるのが好ましい。
【0032】
この実施形態によると、基準周波数成分の予め定められた位相を基準にして、回転機械の検査に用いる信号区間、例えば、異音を含む信号区間を、出力信号から切り出して抽出することができる。
【0033】
(7)上記(2)ないし(5)のいずれかの実施形態においては、前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出して抽出してもよい。
【0034】
この実施形態によると、回転機械の検査に用いる信号が、周期的な衝撃による信号である場合には、基準周波数成分の周期と出力信号の衝撃波形のピークとに基づくタイミングで、周期的な衝撃による信号区間を切り出すことができる。
【0035】
(8)本発明の信号抽出装置は、回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出装置であって、前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得手段と、取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出手段とを含むものである。
【0036】
本発明の信号抽出装置によると、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出するので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がない。
【0037】
(9)本発明の信号抽出装置の好ましい実施形態では、前記回転機械がエンジンである。
【0038】
この実施形態によると、エンジンの検査、例えば、抽出した信号を用いてバルブクリアランスの検査を行なうといったことが可能になる。
【0039】
(10)本発明の信号抽出装置の一つの実施形態では、前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分としてもよい。
【0040】
この実施形態によれば、基準周波数成分に基づくタイミングで、出力信号から信号区間を切り出して抽出するので、基準周波数成分として、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分を用いることにより、ピストンやバルブの所要の位置に対応した信号区間を抽出して検査に用いることが可能となる。
【0041】
(11)上記(10)の実施形態では、前記取得手段は、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分として取得するようにしてもよい。
【0042】
この実施形態によると、複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分、すなわち、位相が揃っている周波数成分を基準周波数成分として抽出することができる。
【0043】
(12)上記(10)の実施形態では、前記取得手段は、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分として取得するようにしてもよい。
【0044】
この実施形態によると、回転機械の回転数に基づく回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するので、例えば、エンジンのクランクシャフトに同期した周波数成分を、基準周波数成分として取得することができる。
【0045】
(13)上記(12)の実施形態では、前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0046】
この実施形態によると、直列4気筒のエンジンで強く現れるクランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)を、基準周波数成分として効率的に抽出することができる。
【0047】
(14)上記(10)ないし(13)のいずれかの実施形態では、前記抽出手段は、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部とを備えるようにしてもよい。
【0048】
この実施形態によると、基準周波数成分の予め定められた位相を基準にして、回転機械の検査に用いる信号区間、例えば、異音を含む信号区間を、出力信号から切り出して抽出することができる。
【0049】
(15)上記(10)ないし(13)のいずれか実施形態では、前記抽出手段は、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出す切り出し部とを備えるようにしてもよい。
【0050】
この実施形態によると、回転機械の検査に用いる信号が、周期的な衝撃による信号である場合には、基準周波数成分の周期と出力信号の衝撃波形のピークとに基づくタイミングで、周期的な衝撃による信号区間を切り出すことができる。
【0051】
(16)上記(14)または(15)の実施形態では、前記抽出手段は、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部の前段に、前記出力信号に対して前処理を施す前処理部を備え、前記前処理部は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタまたは高周波包絡振幅変調フィルタを含むようにしてもよい。
この実施形態によると、出力信号に対して、雑音を低減し、あるいは、特徴を強調する前処理を施すので、切り出された区間の信号によって、回転機械の検査を効率的に行なえる。
【0052】
(17)本発明の機械検査装置は、上記(8)ないし(16)のいずれかの信号抽出装置を備え、抽出される信号に基づいて、前記回転機械の良否を判定する判定手段を備えている。
【0053】
本発明の機械検査装置は、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設けることなく、エンジンなどの回転機械を検査することができる。
【0054】
(18)本発明の機械検査装置の一つの実施形態では、前記信号抽出装置から前記信号区間が切り出された後の残差信号が与えられ、前記判定手段は、抽出された信号と、前記残差信号とに基づいて、前記回転機械の良否を判定するものである。
【0055】
この実施形態によると、切り出された信号は、回転機械が異常である場合に異音に対応する信号であるのに対して、切り出し後の残差信号は、回転機械の正常、異常に関らず、異音が含まれない正常な信号であるので、両信号の特徴量を抽出し、特徴量の差や比などに基づいて、回転機械の良否を判定することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出すので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がなく、抽出した信号に基づいて、回転機械の良否を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、図面によって本発明の実施形態について説明する。
【0058】
図1は、本発明に係る機械検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【0059】
この実施形態の機械検査装置1は、自動車やバイクなどの車両の生産工程において、回転機械を検査するものであり、例えば、エンジンのバルブクリアランスの異常の有無を、クランクシャフトの回転に同期して周期的に発生する衝撃音であるタペットノイズに基づいて、検査するものである。
【0060】
この機械検査装置1は、一定の回転数で回転する回転機械が発生する音や信号を検出するセンサの出力信号から、回転機械の検査に用いられる信号区間、例えば、タペットノイズを含む信号区間を抽出する信号抽出装置31と、抽出された信号に基づいて、回転機械を検査する異音検査装置32とを備えている。
【0061】
信号抽出装置31は、検査対象であるエンジンの音や振動を検出するマイクロフォンセンサや振動センサからの出力信号を、A/D変換してデジタルの波形データとする信号波形入力部2と、この波形データに対して前処理を行なう前処理部3と、波形データの中から、検査に用いられる信号区間を周期的に切り出すための基準信号となる基準周波数成分を取得する基準周波数成分抽出部4と、この基準周波数成分の抽出に、必要に応じて用いられる検査対象の回転数などの稼動情報が格納される第1のデータベース5と、抽出した基準周波数成分に基づいて、波形データから信号区間を抽出するタイミングである切り出しタイミングを決定する切り出しタイミング決定処理部6と、この切り出しタイミング決定処理部6の決定処理に、必要に応じて用いられる位相などのワーク情報が格納される第2のデータベース7と、決定された切り出しタイミングを基準に、波形データを切り出しして抽出を行なう波形切り出し処理部8と、切り出し区間幅などの情報が格納された第3のデータベース9と、切り出し処理後の波形を出力する処理後波形出力部10とを備えている。
【0062】
前記切り出しタイミング決定処理部6および前記波形切り出し処理部8によって、波形データから、検査に用いられる信号区間を切り出して抽出する抽出手段が構成される。
【0063】
異音検査装置32は、処理後波形出力部10の出力に基づいて、異常な音や振動であるか否かを判定する異音判定部11と、判定結果を出力する判定結果出力部12とを備えている。
【0064】
エンジンなどの検査対象が発生する音や振動を検出するマイクロフォンセンサや振動センサは、1個、すなわち、1CHであってもよいし、検査対象の複数箇所にそれぞれセンサを設置する複数CHであってもよい。
【0065】
前処理部3は、エンジンの検査を効率的に行なえるようにするために、波形データに含まれる雑音を低減したり、あるいは、波形データの特徴を強調するための前処理を行なうものであり、この実施形態では、前処理として、雑音除去処理を行なうものであり、具体的には、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタによる雑音処理を行なうものである。
【0066】
図2は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を行なう安定化ウェーブレットフィルタの構成を示す図であり、入力波形に対して窓処理を行なう窓処理部13と、ウェーブレット変換によって複数の成分に分解する分解処理部14と、波形変換のための閾値を計算する閾値計算処理部15と、波形変換処理部16と、ウェーブレット変換の逆変換を行なう再構成処理部17とを備えている。
【0067】
かかるウェーブレット変換と閾値処理による雑音処理方法あるいは離散ステーショナリーウェーブレット変換については、
・"Maarten Jansen, "Noise Reduction by Wavelet Thresholding",Springer-Verlag New York, Inc(2001).
・R.R.Coifman ,D.L.Donoho,"Translation-Invariant De-Noising", Lecture Not es in Statistics,103, pp. 125-150(1995).
・Nason, G.P., B.W. Silverman, "The stationary wavelet transform and some statistical applications," Lecture Notes in Statistics, 103, pp. 281-299,(1995).
などの公知文献に開示されている。
【0068】
本発明の他の実施形態として、図1の前処理部3では、波形データの特徴を強調するために、衝撃波形強調処理を行なうようにしもよい。この衝撃波形強調処理には、例えば、高周波包絡振幅変調フィルタを用いることができる。
【0069】
図3は、高周波包絡振幅変調フィルタの構成を示す図であり、例えば、図4(a)の波形データからBPFなどによって図4(b)に示すように、衝撃波形に多く含まれる高周波成分を抽出する高周波成分抽出処理部18と、ヒルバート(Hilbert)変換による包絡線処理を行なって図4(c)に示す包絡線成分を得る包絡線処理部19と、図4(a)の元の波形データと、図4(c)の包絡線成分とを乗算処理して図4(d)の波形を得る乗算処理部20とを備えている。
【0070】
この高周波包絡振幅変調フィルタによって、図4(d)に示すように、立ち上がりを損なうことなく、高周波成分を強調することができる。
【0071】
なお、本発明の他の実施形態として、図1の前処理部3は、一般的な周波数フィルタで構成してもよく、あるいは、省略してもよい。
【0072】
次に、波形データから基準周波数成分を取得する基準周波数成分抽出部4について説明する。
【0073】
エンジンやトランスミッション、モータで駆動される回転機械などは、一定の回転数で運転している場合、回転数に応じて周期的な振動、音が発生する。このため、検査対象に異常がある場合、異常に対応する波形データも周期的に発生する。
【0074】
そこで、一連の波形データから、周期的に発生する検出対象の異常の有無の判定に有効な信号に対応する区間の波形データのみを周期的に切り出すための基準信号とする基準周波数成分を抽出するものである。
【0075】
この基準周波数成分は、上述の背景技術で説明した従来のタイミング信号に相当するものであるが、従来のタイミング信号のように、タイミング信号取得用のセンサを必要しないものであり、図1に示すように、音や振動の波形データから抽出するものである。
【0076】
この基準周波数成分は、検出対象の動きに対応した成分であるのが好ましく、例えば、エンジンのピストンの動きやバルブを動作させるカムの動きに同期した周波数成分などであるのが好ましい。
【0077】
この基準周波数成分抽出部4における基準周波数成分の抽出方法には、例えば、次の3種類がある。
【0078】
(1)先ず、第1の抽出方法では、検査対象の複数箇所に、複数のマイクロフォンセンサまたは振動センサを設置し、各センサから得られる入力波形間で、位相差が基準値以下となる周波数成分を、基準周波数成分として抽出するものである。なお、各センサから得られる入力波形間で、位相差が最も小さい周波数成分を基準周波数成分とするのが好ましい。
【0079】
この方法では、各センサからの波形データ、例えば、図5(a)に示す複数のCHの各波形データを、フーリエ変換あるいは高速フーリエ変換によって、周波数と位相とに分解し、CH間で位相差が基準値以下の周波数成分(正弦波)、すなわち、位相が揃っている周波数成分を、図5(b)に示すように基準周波数成分とするものである。
【0080】
この方法によれば、センサの設置位置による位相のずれの影響を受けることなく、基準周波数成分を抽出することができる。
【0081】
(2)第2の抽出方法では、検査対象の回転数、例えば、エンジンにおけるクランクシャフトやカムシャフトの回転数を元に算出した回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するものである。
【0082】
例えば、エンジンの検査条件である回転数が2000RPMの場合、クランクシャフトは2000/60=約33.3Hzで回転する。エンジンの各部品で発生する振動は、この周波数(33.3Hz)の倍数で構成されることが多い。そこで、33.3Hzの定数(N:自然数)倍の周波数を基準周波数成分として抽出するものである。
【0083】
また、エンジンのバルブに着目すると、バルブを駆動するカムシャフトの回転数は、図6に示すように、エンジン21のカムシャフト22とクランクシャフト23とのギヤ比が2:1であった場合には、カムシャフト22の回転数は、クランクシャフト23の回転数の1/2となる。このことから、カムシャフトの回転周波数である33.3/2Hzの定数(M:自然数)倍を基準周波数成分として抽出すればよい。
【0084】
このように検査対象のどの部分に着目するに応じて、抽出する基準周波数成分を決定すればよい。
【0085】
(3)第3の抽出方法では、検査対象となるエンジンが直列4気筒である場合に、エンジンのクランクシャフトの回転数から算出した回転周波数の2倍を基準周波数成分として抽出するものである。
【0086】
エンジンが直列4気筒である場合、クランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)が強く出る傾向があることが知られている。このため、エンジンの回転数が2000rpmすなわち33.3Hzである場合、図7(a)に示される直列4気筒エンジンについての波形データから、上記2次成分である66.6Hzを、図7(b)に示すように基準周波数成分として抽出するものである。
【0087】
上記(2),(3)の第2,第3の抽出方法では、第1のデータベース5に予め記憶されている検査対象の種類や回転数などの稼動情報を利用して抽出する。なお、第1のデータベース5に稼動情報を記憶させるのではなく、インタラクティブにユーザが指定できるようにしてもよい。
【0088】
上記(1)〜(3)の第1〜第3のいずれの抽出方法を採用するかは、検査対象に対する事前の情報、例えば、検査対象の異常の種類、部品、エンジンの種類、検査条件(回転数)などの情報を、どれだけ利用できるかに応じて決定すればよい。事前情報が少なく、基準周波数を決める条件が不明確な場合は、上記(1)の第1の抽出方法を選択すればよい。
【0089】
基準周波数は、検出したい異常が発生する周期(の逆数)と同じであるのが好ましいが、必ずしも同じでなくても、検出したい異常の発生周期の数倍の範囲であれば、十分に、分析・検査性能を向上することができる。
【0090】
次に、抽出した基準周波数成分に基づいて、波形データの抽出タイミングである切り出しタイミングを決定する切り出しタイミング決定処理部6について説明する。
【0091】
この切り出しタイミング決定処理部6における決定処理方法には、位相オフセットを利用する方法と、衝撃波形のピークを探索する方法との2種類がある。
【0092】
位相オフセットを利用する方法とは、検出したい事象、例えば、タペットノイズの発生タイミングを、抽出した基準周波数成分の位相角(位相オフセット)で指定するものである。
【0093】
また、衝撃波形のピークを探索する方法とは、検出したい事象が周期性の衝撃波形の場合、基準周波数の周期(=1/基準周波数)ごとに現れる衝撃波形のピーク(波形の絶対値の極大値)を基準に探索を行うものである。
【0094】
位相オフセットを利用する方法の場合には、ユーザは検査対象の構造情報などを元に、予め事象の発生する位相を特定しておく必要がある。
【0095】
また、衝撃波形のピークを探索する方法の場合には、検出できる事象は周期性衝撃波形に限定されるが、衝撃の発生する周期のみ既知であればよい。
【0096】
以下、各方法について、順次説明する。
【0097】
(1)位相オフセットを利用する方法
検出したい事象の発生タイミングを、抽出した基準周波数成分の位相角(位相オフセット)で指定するものである。
【0098】
この位相オフセットを利用する方法では、ユーザは検査したい事象、例えば、タペットノイズの発生タイミングを、基準周波数を基準にした位相オフセット(角度)として予め求め、例えば、第2のデータベース7に、ワーク情報として格納しておくものである。このワーク情報を元に、波形データ中の検査したい事象の発生タイミングを求めるものである。ユーザは、事象の発生タイミングを、位相オフセット(角度)として指定するが、切り出しタイミング決定処理部6では、波形データの時間軸上の位置、例えば、先頭(計測開始)からN秒や先頭からmサンプル目に換算して求める。
【0099】
切り出し基準タイミングは、以下の手順で決定する。
【0100】
先ず、図8(a)示される基準周波数成分の位相0度の位置(−から+へゼロクロスする位置)を、図8(b)に示すように演算し、次に、ユーザの入力やワーク情報から得たオフセット位相を、図8(c)に示すように周波数の位相0度の位置からの相対位相として時間(または、波形のサンプル点数)換算し、図8(d)に示すように、計測開始(波形データの取り込み開始)からの経過時間N1,N2,N3…として、波形データ中の全ての切り出し基準タイミングである切り出し基準時刻を求めるものである。
【0101】
例えば、カムシャフトに同期する信号を基準周波数成分に設定した場合、特定のオフセット位相は、特定のバルブの動作音(タペットやバルブ閉じ音)に対応する波形の時間軸上での存在位置を示すことになる。
【0102】
また、特定の歯車の1回転に対応する振動を基準周波数成分に設定した場合、オフセット位相は、特定の歯車の歯に対応する波形の時間軸上での存在位置を示すことになる。
【0103】
エンジンのバルブの動作タイミングは、図9に示すように、設計上決まっており、エンジンの制御情報として入手することができる。
【0104】
したがって、制御情報として得られる図9のバルブの動作タイミングと基準周波数成分とに基づいて、検査したい事象に対応するオフセット位相を予め求めておき、例えば、ワーク情報として第2のデータベース7に格納しておくものである。
【0105】
位相オフセットは1つだけでなく、複数設定することができる。例えば、エンジンのバルブの検査を行う場合、シリンダごとにバルブの動作タイミングが異なる。このため、各エンジンのシリンダごとの位相オフセットを登録すればよい。
【0106】
エンジンの制御情報などから位相オフセットを求めることができないような場合には、検査したい事象を発生する検査対象、例えば、異音を発生する検査対象の基準周波数成分および検査したい事象の発生タイミングを予め計測し、位相オフセットを求めておけばよい。
【0107】
(2)衝撃波形のピークを探索する方法
切り出す波形が周期性衝撃波形の場合、衝撃波形のピーク(絶対値の極大値)周期を探索し、ピーク位置を切り出し基準タイミングに設定する。以下、切り出し基準タイミングの探索方法を説明する。
【0108】
ピークを用いる場合、ピークの発生周期=1/基準周波数であるとする。
【0109】
また、衝撃成分は、1周期に1つであると仮定する。
【0110】
先ず、波形データxの長さをS秒とし、ピークの発生周期をPとすると、最大でM=S/P個の衝撃成分がある。
【0111】
絶対振幅a=abs(x)の極大点の集合のうち、絶対振幅が大きい上位M個を探索し、上位M個の時刻の集合、すなわち、計測開始からの経過時間の集合をTとする。集合Tの中に、周期的衝撃成分の発生時刻が含まれているはずである。
【0112】
周期的であるかどうかは、他の極大点との関係により決まるので、集合Tに含まれる時刻tがどれくらい周期Pを満たす点であるかを次式によって評価する。
【0113】
【数1】
【0114】
つまり、探索したM個の点の時間の小さいもの、すなわち、時刻の早いものから選択し、他の点との周期が、周期Pの整数倍からどの程度ずれているかを上記式(1)で評価する。
【0115】
例えば、図10に示すように、4個のピークP1〜P4が存在する場合に、時刻が早い第1のピークP1は、他の衝撃成分のピークP2,P3.P4との時間差が、周期Pの倍数である場合が多いので、上記(1)式の値が小さくなるのに対して、第2のピークP2は、他の衝撃成分のピークP1,P3,P4との時間差が、周期Pの倍数からずれているので、上記(1)式の値が大きくなる。
【0116】
そこで、上記(1)式を指標とし、この指標により、もっともふさわしい時刻t0は、上記(1)式が最小である点
【0117】
【数2】
【0118】
と決定する。
【0119】
図10の例では、第1のピークP1が、時刻t0に対応するピークとなる。
【0120】
次に、その他の切り出し基準時刻を以下の式で決定する。
【0121】
【数3】
【0122】
この方法は、異常が発生する周期は既知であるが、検査対象の構造に対する知見が乏しい時に有効である。
【0123】
なお、同じ周期で、かつ、異なる位相で発生する衝撃波形も検査したいような場合には、ユーザが対応する設定を行うことにより、先ず、衝撃波形についての切り出し基準時刻を決定し、決定された切り出し基準時刻の付近の波形データを除外し、再度上記評価式(1)で切り出し基準時刻を探索することにより、同じ周期で位相が異なる衝撃波形に対応する切り出し基準時刻を決定することができる。
【0124】
次に、波形切り出し処理部8について説明する。
【0125】
波形切り出し処理部8は、切り出しタイミング決定処理部6で決定した切り出し基準時刻を起点に、波形データの切り出しを行う。
【0126】
切り出すとは、図11(b)に示す波形データの点線区間(図では4箇所)それぞれに対して、図11(d)に示す窓関数を乗算し、必要な区間のみを残し、不要な区間の振幅を0にすることである。
【0127】
つまり、窓関数の値が0でない部分は、波形データの振幅が残り、窓関数の値が0の部分の振幅は0になる。
【0128】
この処理により、図11(c)に示すように、検査したい対象の異常を含む時間帯(位相や周期)以外の振幅は0になり、検査したい対象の異常を含む時間帯(位相と窓幅)の信号のみが残ることになる。
【0129】
窓関数は、図11(d)に示すように、切り出し基準時刻からの前時間幅、後時間幅、前減衰幅、後減衰幅を指定することができる。これらは検出したい事象(異常)の持続時間などに応じて適切に設定する。
【0130】
オフセット位相が異なる複数の事象を捉える場合は、オフセット位相毎に個別に切り出し処理を行う。例えば、4気筒エンジンの場合、各シリンダに連動してバルブが開閉する。この開閉タイミングは各シリンダによって異なる。そこで、図12(b)〜(d)に示すように、各シリンダごとに個別にオフセット位相に対応する切り出し基準時刻を設定することにより、各シリンダに対応する信号を、図12(e)〜(g)に示すように切り出し、異音検査装置32で異常の有無を判定することにより、どのシリンダのバルブが異常であるかを容易に判断することができる。どのシリンダのバルブが異常であるかを判断するには、異音判定部11にて、どのオフセット位相で切り出した波形データに最も異常が多く含まれているか判定すればよい。
【0131】
次に、切り出し処理後の波形を出力する処理後波形出力部10について説明する。
【0132】
処理後波形出力部10は、図13に示すように、切り出した波形を、パソコン24のディスプレイ25に表示したり、スピーカ26で波形を音として再生出力したり、あるいは、加振器27を用いて振動として再生出力したりするものであり、切り出し処理後の波形を、ディスク28などに保存することもできる。
【0133】
ユーザは、キーボード29やマウス30等の入力デバイスを操作して所要の入力操作、例えば、上述の稼動情報やワーク情報の入力などを行うことができる。
【0134】
次に、図1に示される異音判定部11および判定結果出力部12からなる異音検査装置32について説明する。
【0135】
この異音検査装置32は、時間波形を入力とし、正常であるか異常であるかを検査する装置であれば、特に限定されるものではなく、例えば、特許第3484665号に開示されている異常判定装置を用いることができる。
【0136】
信号抽出装置31の出力を、異音検査装置32の入力とすることで、判定に必要な区間の信号波形のみが切り出されて異音検査装置32に入力され、不要な波形は除去されるので、検査精度が向上する。
【0137】
図14〜図16は、以上の動作説明に供するフローチャートである。
【0138】
先ず、図14に示すように、音や振動の信号波形入力部2から検査対象(エンジンやトランスミッションなど)の振動または音のデータを取り込む。振動は振動ピックアップやレーザドップラー振動計で取り込み、音はマイクロフォンで取り込む。取り込んだ音や振動は、A/D変換して波形データとして内部へ取り込む(ステップn1)。
【0139】
次に、取り込んだ波形データから雑音を低減したり、着目したい波形や周波数帯域の信号を強調する前処理を行う(ステップn2)。前処理は、機械検査装置が置かれている環境や、検査したい異常の発生メカニズムによって、適切に選択する。特定の周波数の振動や音を強調したい場合はBPFを利用する。ガウス性雑音の低減や衝撃波形の抽出には、上述の安定化ウェーブレットフィルタを用いる。また、衝撃性波形を高速に強調したい場合は、上述の高周波包絡振幅変調フィルタを用いる。
【0140】
次に、基準周波数成分を求めるが、この基準周波数成分の求め方には、上述のように稼動情報などを利用して計算で求める方法と、複数CHの波形データから求める方法とがあり、利用できる情報(検査対象の構造や、異常の発生原因など)から、いずれかの方法を選択する(ステップn3)。
【0141】
基準周波数成分を複数CHの波形データ位相から求める場合には、各CHの周波数ごとの位相を求める(ステップn4)。複数CHで取り込んだ波形データをFFTなどを用いて周波数ごとの位相情報に変換する。そして、各CHの位相差が基準値以下の周波数を求める(ステップn5)。振幅レベルが一定以上ある周波数で、かつ、各CH間で位相がそろっている周波数成分を抽出する。抽出した周波数成分を、基準周波数成分とする。
【0142】
基準周波数成分を複数CHの波形データの位相から求めない場合には、第1のデータベース5の稼動情報を用いて、基準周波数を決定する(ステップn6)。
【0143】
基準周波数は、検査対象の構造(ギアの比率)や検査条件(回転数)に応じて、回転周波数のN倍を指定する。また、検査対象が4サイクル4気筒のエンジンである場合、クランクシャフトの回転数の2次成分を基準周波数成分として選択することができる。
【0144】
上記2つのいずれかの方法を選択し、基準周波数成分を求めた後、切り出し基準タイミングを求める。
【0145】
切り出し基準タイミングの演算は、上述のように基準周波数成分の位相のオフセットで指定する方法と、基準周波数の周期(=1/基準周波数)で指定する方法とがあり、図15に示すように、いずれかの方法を選択する(ステップn7)。検査したい対象の事象が周期性衝撃波形である場合、後者の方法が利用できる。
【0146】
オフセット位相で求める場合には、基準周波数の位相0度を求める(ステップn8)。波形データから抽出した基準周波数の位相0(−から+へ0クロスする時刻)を求める。次に、指定されたオフセット位相と基準周波数の位相0度とから切り出し基準時刻を求める(ステップn9)。基準周波数の位相が0(ゼロ)の時刻を起点に、第2のデータベース7に格納しているオフセット位相を時間換算した分だけずらしたものを、切り出し基準時刻にする。
【0147】
衝撃波形のピークを利用して求める場合には、衝撃波形のピークを抽出する(探索済みのピーク付近は除外)(ステップn10)。波形データの中から波形のピーク(絶対値の極大値)をM個抽出する。(探索が2回目以降の場合、過去に探索したピークは除外する。)他のピークとの関係が最も周期に合致するピーク発生時刻を探索する(ステップn11)。
【0148】
上述の(1)式に示す評価式を用いて、探索したピークの中から、最も基準周波数(周期)にマッチするピークを探索する。この時、探索は時刻の若い順に行う。最も基準周波数にマッチするピークの発生時刻を求める。
【0149】
次に、切り出し基準タイミングを求める(ステップn12)。求めたピークの発生時刻を起点として、基準周波数の周期の倍数になる時刻を切り出し基準時刻に設定する。
【0150】
次に、図16に示すように、切り出し基準時刻を中心に窓関数を乗算し、切り出し処理を行う(ステップn13)。すなわち、全ての切り出し基準時刻を中心に、波形の切り出しを行う。波形の切り出しは、各切り出し基準時刻を原点として、窓関数を波形データに乗算することにより行う。すなわち、窓関数を用いて波形データをマスクする。
【0151】
次に、切り出し結果の波形を出力する(ステップn14)。切り出した波形データを、表示、保存などする。必要がなければ、この処理はスキップする。
【0152】
次に、異音検査処理を行う(ステップ15)。すなわち、切り出した波形を用いて、異音検査を行う。異音検査のアルゴリズム自体は、特に限定されない。
【0153】
切り出していないオフセット位相または、衝撃ピークがあるか否かを判断し(ステップn16)、検査対象の位相オフセットが複数指定されている場合、例えば、エンジンバルブの検査であれば、気筒ごとの検査をする場合には、図15のステップn7の切り出し基準タイミングを求める処理に戻る。また、同じ周期でかつ異なる位相で発生する衝撃波形を検査したい場合には、上述のユーザの対応する設定によって、衝撃波形のピークの探索を繰り返し実行することができる。この場合も図15のステップn7の切り出し基準時刻を求める処理に戻る。
【0154】
次に、異音検査結果を出力する(ステップn17)。波形データの切り出しが複数回分指定されている場合は、各切り出しごとに、検査結果を、モニタやランプなどに出力する。
【0155】
上述の実施形態では、異常の判定に必要に区間の信号波形を抽出して異音の判定を行なったが、前記区間の信号波形と、抽出後の残差信号の波形との特徴量、例えば、ピーク値、尖度などを抽出し、それらの差や比を算出し、閾値と比較して良否の判定を行なうようにしてもよい。
【0156】
この場合には、図16のステップn13では、図17(a)に示すように切り出し基準タイミングを中心として窓関数を乗算して切り出し処理を行ない(ステップn13−1)、更に、切り出した後の残差波形を演算する(ステップn13−2)。
【0157】
また、図16のステップn15の異音検査処理では、図17(b)に示すように、切り出し波形から特徴量を演算する一方(ステップn15−1)、残差波形から特徴量を演算し(ステップn15−2)、特徴量の差または比を演算し(ステップn15−3)、それに基づいて、良否判定を行なうものである(ステップn15−4)。
【0158】
図19は、この判定処理の構成を示すブロック図である。図18(a)の波形データから、図18(b)の切り出し基準時刻を基準に切り出された図18(c)の信号波形の特徴量を特徴量演算部33で演算する一方、切り出された後の図18(d)の残差波形の特徴量を特徴量演算部34で演算し、それらの差、あるいは、比を用いて良否判定処理部35で良否の判定を行なうものである。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、音や振動によって検査対象物を検査する検査装置などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の機械検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】安定化ウェーブレットフィルタの構成を示す図である。
【図3】高周波包絡振幅変調フィルタの構成を示す図である。
【図4】図3の説明に供する信号波形図である。
【図5】基準周波数成分の抽出の一例を示す図である。
【図6】クランクシャフトとカムシャフトとの回転数の関係を説明するための図である。
【図7】基準周波数成分の抽出の他の例を示す図である。
【図8】切り出し基準時刻の決定方法を説明するための図である。
【図9】吸気および排気バルブの開閉の位相を示す図である。
【図10】衝撃波形のピークの探索を説明するための図である。
【図11】信号の切り出し処理を説明するための図である。
【図12】シリンダ毎の信号の切り出し処理を説明するための図である。
【図13】切り出し処理後の波形の出力形態を説明するための図である。
【図14】基準周波数成分の抽出動作を説明するためのフローチャートである。
【図15】切り出し基準時刻を決定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図16】切り出し処理および異音検査を説明するためのフローチャートである。
【図17】本発明の他の実施形態を説明するためのフローチャートである。
【図18】切り出し波形と残差波形を説明するための波形図である。
【図19】異音判定処理の構成図である。
【符号の説明】
【0161】
1 機械検査装置
3 前処理部
4 基準周波数抽出部
8 波形切り出し処理部
31 信号抽出装置
32 異音検査装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や振動を検出するセンサの出力信号に含まれる信号を抽出する方法および装置、並びに、機械が発生する音や振動に基づいて、機械を検査する機械検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象の機械が動作中に発生する音や振動を、官能検査員が、耳で聞いたり、手で触って振動を確認して機械の良否を判定する、いわゆる官能検査が行なわれている。
【0003】
しかしながら、かかる官能検査は、官能検査員の個人差や時間による変化などによりばらつきが大きく、良否の判定基準のデータ化、数値化が難しく、その管理も困難であるという問題があった。
【0004】
このため、機械が発生する音や振動をセンサで検出し、その出力信号を処理して、異常な音や振動(以下「異音」という)の有無を判定して機械を検査する、いわゆる異音検査を自動的に行う装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようにセンサの出力を信号処理して機械を検査する異音検査装置では、精度の高い検査を行なうためには、センサの出力に含まれる雑音成分を除去し異音の有無の判定に用いられる信号区間を抽出する必要がある。
【0006】
このため、例えば、車両用のエンジンを検査する場合に、特許文献2に示すように、エンジンの音や振動をセンサで検出するのに加えて、カム角を検出するセンサを用いてエンジンの各シリンダの動作に関連するタイミング信号(フェーズ信号)を取得し、このタイミング信号を利用してエンジンバルブの開閉のタイミングで、音や振動を検出するセンサの出力を窓処理し、検査に有効な信号区間を抽出するようにした装置も提案されている。
【特許文献1】特許第3484665号
【特許文献2】特許第3651351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにタイミング信号を利用して検査な有効な信号区間を抽出する従来例では、音や振動を検出するセンサとは別に、タイミンング信号を取得するためのセンサが必要となる。
【0008】
このタイミング信号取得用のセンサとして、エンジンに組み込まれているエンジン制御用のセンサを兼用できればよいが、兼用できるセンサが組み込まれていないエンジンもあり、あるいは、検査工程では、エンジン制御用のセンサの出力を利用できない場合もあり、かかる場合には、タイミング信号を取得するのが困難である。
【0009】
また、エンジンに組み込まれるエンジン制御用のセンサは、メーカや機種によって異なるために、それらの全てに対応できる検査装置を提供するのは困難である。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて為されたものであって、タイミング信号取得用のセンサを用いることなく、音や振動を検出するセンサの出力から検査に有効な信号を抽出できる信号抽出方法、信号抽出装置およびそれを用いた機械検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の信号抽出方法は、回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出方法であって、前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得ステップと、取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出ステップとを含むものである。
【0012】
回転機械とは、回転体を含む機械をいい、例えば、エンジン、トランスミッション、モータなどをいう。
【0013】
検出手段は、音を検出する場合は、マイクロフォンセンサなどであり、振動を検出する場合は、振動センサなどであり、一個使用することで、一箇所の音や振動を検出してもよいし、複数個使用することで、複数個所の音や振動を同時に検出するようにしてもよい。
【0014】
本発明の信号抽出方法によると、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出するので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がない。
【0015】
(2)本発明の信号抽出方法の一つの実施形態では、前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分としてもよい。
【0016】
この基準周波数成分は、回転機械の回転体の動きに同期した周波数成分であるのが好ましい。
【0017】
この基準周波数成分を、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分とすることにより、基準周波数成分の位相は、クランクシャフトやカムシャフトの位置、したがって、ピストンやバルブの位置に対応したものとなる。
【0018】
この基準周波数成分は、検出手段の出力信号を、フーリエ変換、あるいは、高速フーリエ変換して抽出した周波数成分とするのが好ましい。
【0019】
この実施形態によれば、基準周波数成分に基づくタイミングで、出力信号から信号区間を切り出して抽出するので、基準周波数成分として、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分を用いることにより、ピストンやバルブの所要の位置に対応した信号区間を抽出して検査に用いることが可能となる。
【0020】
(3)上記(2)の実施形態においては、前記取得ステップでは、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0021】
基準値は、信号区間の抽出の精度などに応じて、ユーザが適宜設定できるのが好ましい。
【0022】
この実施形態によると、複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分、すなわち、位相が揃っている周波数成分を基準周波数成分として抽出することができる。
【0023】
(4)上記(2)の実施形態においては、前記取得ステップでは、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0024】
定数は、自然数であるのが好ましい。
【0025】
回転機械、例えば、エンジンでは、その構成部品で発生する音や振動の周波数は、クランクシャフトの回転周波数の倍数で構成されることが多く、また、直列4気筒のエンジンでは、クランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)が強く現れる傾向があることが知られている。
【0026】
この実施形態によると、回転機械の回転数に基づく回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するので、例えば、エンジンのクランクシャフトに同期した周波数成分を、基準周波数成分として取得することができる。
【0027】
(5)上記(4)の実施形態においては、前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0028】
この実施形態によると、直列4気筒のエンジンで強く現れるクランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)を、基準周波数成分として効率的に抽出することができる。
【0029】
(6)上記(2)ないし(5)のいずれかの実施形態においては、前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出してもよい。
【0030】
予め定められた位相は、検査対象としたい信号のタイミング、例えば、異音の発生するタイミングに対応するのが好ましく、この位相は、設計的に定まるものであってもよいし、予め異音を発生する回転機械の音や振動を計測し、異音が発生するタイミングを求めてもよい。
【0031】
信号区間の切り出しは、窓関数を用いた時間窓を設定して行なうのが好ましく、時間窓の時間幅は、可変設定できるのが好ましい。
【0032】
この実施形態によると、基準周波数成分の予め定められた位相を基準にして、回転機械の検査に用いる信号区間、例えば、異音を含む信号区間を、出力信号から切り出して抽出することができる。
【0033】
(7)上記(2)ないし(5)のいずれかの実施形態においては、前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出して抽出してもよい。
【0034】
この実施形態によると、回転機械の検査に用いる信号が、周期的な衝撃による信号である場合には、基準周波数成分の周期と出力信号の衝撃波形のピークとに基づくタイミングで、周期的な衝撃による信号区間を切り出すことができる。
【0035】
(8)本発明の信号抽出装置は、回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出装置であって、前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得手段と、取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出手段とを含むものである。
【0036】
本発明の信号抽出装置によると、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出して抽出するので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がない。
【0037】
(9)本発明の信号抽出装置の好ましい実施形態では、前記回転機械がエンジンである。
【0038】
この実施形態によると、エンジンの検査、例えば、抽出した信号を用いてバルブクリアランスの検査を行なうといったことが可能になる。
【0039】
(10)本発明の信号抽出装置の一つの実施形態では、前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分としてもよい。
【0040】
この実施形態によれば、基準周波数成分に基づくタイミングで、出力信号から信号区間を切り出して抽出するので、基準周波数成分として、例えば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトの動きに同期した周波数成分を用いることにより、ピストンやバルブの所要の位置に対応した信号区間を抽出して検査に用いることが可能となる。
【0041】
(11)上記(10)の実施形態では、前記取得手段は、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分として取得するようにしてもよい。
【0042】
この実施形態によると、複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分、すなわち、位相が揃っている周波数成分を基準周波数成分として抽出することができる。
【0043】
(12)上記(10)の実施形態では、前記取得手段は、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分として取得するようにしてもよい。
【0044】
この実施形態によると、回転機械の回転数に基づく回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するので、例えば、エンジンのクランクシャフトに同期した周波数成分を、基準周波数成分として取得することができる。
【0045】
(13)上記(12)の実施形態では、前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分としてもよい。
【0046】
この実施形態によると、直列4気筒のエンジンで強く現れるクランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)を、基準周波数成分として効率的に抽出することができる。
【0047】
(14)上記(10)ないし(13)のいずれかの実施形態では、前記抽出手段は、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部とを備えるようにしてもよい。
【0048】
この実施形態によると、基準周波数成分の予め定められた位相を基準にして、回転機械の検査に用いる信号区間、例えば、異音を含む信号区間を、出力信号から切り出して抽出することができる。
【0049】
(15)上記(10)ないし(13)のいずれか実施形態では、前記抽出手段は、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出す切り出し部とを備えるようにしてもよい。
【0050】
この実施形態によると、回転機械の検査に用いる信号が、周期的な衝撃による信号である場合には、基準周波数成分の周期と出力信号の衝撃波形のピークとに基づくタイミングで、周期的な衝撃による信号区間を切り出すことができる。
【0051】
(16)上記(14)または(15)の実施形態では、前記抽出手段は、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部の前段に、前記出力信号に対して前処理を施す前処理部を備え、前記前処理部は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタまたは高周波包絡振幅変調フィルタを含むようにしてもよい。
この実施形態によると、出力信号に対して、雑音を低減し、あるいは、特徴を強調する前処理を施すので、切り出された区間の信号によって、回転機械の検査を効率的に行なえる。
【0052】
(17)本発明の機械検査装置は、上記(8)ないし(16)のいずれかの信号抽出装置を備え、抽出される信号に基づいて、前記回転機械の良否を判定する判定手段を備えている。
【0053】
本発明の機械検査装置は、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設けることなく、エンジンなどの回転機械を検査することができる。
【0054】
(18)本発明の機械検査装置の一つの実施形態では、前記信号抽出装置から前記信号区間が切り出された後の残差信号が与えられ、前記判定手段は、抽出された信号と、前記残差信号とに基づいて、前記回転機械の良否を判定するものである。
【0055】
この実施形態によると、切り出された信号は、回転機械が異常である場合に異音に対応する信号であるのに対して、切り出し後の残差信号は、回転機械の正常、異常に関らず、異音が含まれない正常な信号であるので、両信号の特徴量を抽出し、特徴量の差や比などに基づいて、回転機械の良否を判定することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、音や振動を検出する検出手段の出力信号から、検査に用いる信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を取得し、この基準信号を用いて、前記出力信号から、回転機械の検査に用いる信号区間を切り出すので、従来のように、音や振動を検出する検出手段とは別に、タイミング信号を取得するための検出手段を設ける必要がなく、抽出した信号に基づいて、回転機械の良否を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、図面によって本発明の実施形態について説明する。
【0058】
図1は、本発明に係る機械検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【0059】
この実施形態の機械検査装置1は、自動車やバイクなどの車両の生産工程において、回転機械を検査するものであり、例えば、エンジンのバルブクリアランスの異常の有無を、クランクシャフトの回転に同期して周期的に発生する衝撃音であるタペットノイズに基づいて、検査するものである。
【0060】
この機械検査装置1は、一定の回転数で回転する回転機械が発生する音や信号を検出するセンサの出力信号から、回転機械の検査に用いられる信号区間、例えば、タペットノイズを含む信号区間を抽出する信号抽出装置31と、抽出された信号に基づいて、回転機械を検査する異音検査装置32とを備えている。
【0061】
信号抽出装置31は、検査対象であるエンジンの音や振動を検出するマイクロフォンセンサや振動センサからの出力信号を、A/D変換してデジタルの波形データとする信号波形入力部2と、この波形データに対して前処理を行なう前処理部3と、波形データの中から、検査に用いられる信号区間を周期的に切り出すための基準信号となる基準周波数成分を取得する基準周波数成分抽出部4と、この基準周波数成分の抽出に、必要に応じて用いられる検査対象の回転数などの稼動情報が格納される第1のデータベース5と、抽出した基準周波数成分に基づいて、波形データから信号区間を抽出するタイミングである切り出しタイミングを決定する切り出しタイミング決定処理部6と、この切り出しタイミング決定処理部6の決定処理に、必要に応じて用いられる位相などのワーク情報が格納される第2のデータベース7と、決定された切り出しタイミングを基準に、波形データを切り出しして抽出を行なう波形切り出し処理部8と、切り出し区間幅などの情報が格納された第3のデータベース9と、切り出し処理後の波形を出力する処理後波形出力部10とを備えている。
【0062】
前記切り出しタイミング決定処理部6および前記波形切り出し処理部8によって、波形データから、検査に用いられる信号区間を切り出して抽出する抽出手段が構成される。
【0063】
異音検査装置32は、処理後波形出力部10の出力に基づいて、異常な音や振動であるか否かを判定する異音判定部11と、判定結果を出力する判定結果出力部12とを備えている。
【0064】
エンジンなどの検査対象が発生する音や振動を検出するマイクロフォンセンサや振動センサは、1個、すなわち、1CHであってもよいし、検査対象の複数箇所にそれぞれセンサを設置する複数CHであってもよい。
【0065】
前処理部3は、エンジンの検査を効率的に行なえるようにするために、波形データに含まれる雑音を低減したり、あるいは、波形データの特徴を強調するための前処理を行なうものであり、この実施形態では、前処理として、雑音除去処理を行なうものであり、具体的には、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタによる雑音処理を行なうものである。
【0066】
図2は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を行なう安定化ウェーブレットフィルタの構成を示す図であり、入力波形に対して窓処理を行なう窓処理部13と、ウェーブレット変換によって複数の成分に分解する分解処理部14と、波形変換のための閾値を計算する閾値計算処理部15と、波形変換処理部16と、ウェーブレット変換の逆変換を行なう再構成処理部17とを備えている。
【0067】
かかるウェーブレット変換と閾値処理による雑音処理方法あるいは離散ステーショナリーウェーブレット変換については、
・"Maarten Jansen, "Noise Reduction by Wavelet Thresholding",Springer-Verlag New York, Inc(2001).
・R.R.Coifman ,D.L.Donoho,"Translation-Invariant De-Noising", Lecture Not es in Statistics,103, pp. 125-150(1995).
・Nason, G.P., B.W. Silverman, "The stationary wavelet transform and some statistical applications," Lecture Notes in Statistics, 103, pp. 281-299,(1995).
などの公知文献に開示されている。
【0068】
本発明の他の実施形態として、図1の前処理部3では、波形データの特徴を強調するために、衝撃波形強調処理を行なうようにしもよい。この衝撃波形強調処理には、例えば、高周波包絡振幅変調フィルタを用いることができる。
【0069】
図3は、高周波包絡振幅変調フィルタの構成を示す図であり、例えば、図4(a)の波形データからBPFなどによって図4(b)に示すように、衝撃波形に多く含まれる高周波成分を抽出する高周波成分抽出処理部18と、ヒルバート(Hilbert)変換による包絡線処理を行なって図4(c)に示す包絡線成分を得る包絡線処理部19と、図4(a)の元の波形データと、図4(c)の包絡線成分とを乗算処理して図4(d)の波形を得る乗算処理部20とを備えている。
【0070】
この高周波包絡振幅変調フィルタによって、図4(d)に示すように、立ち上がりを損なうことなく、高周波成分を強調することができる。
【0071】
なお、本発明の他の実施形態として、図1の前処理部3は、一般的な周波数フィルタで構成してもよく、あるいは、省略してもよい。
【0072】
次に、波形データから基準周波数成分を取得する基準周波数成分抽出部4について説明する。
【0073】
エンジンやトランスミッション、モータで駆動される回転機械などは、一定の回転数で運転している場合、回転数に応じて周期的な振動、音が発生する。このため、検査対象に異常がある場合、異常に対応する波形データも周期的に発生する。
【0074】
そこで、一連の波形データから、周期的に発生する検出対象の異常の有無の判定に有効な信号に対応する区間の波形データのみを周期的に切り出すための基準信号とする基準周波数成分を抽出するものである。
【0075】
この基準周波数成分は、上述の背景技術で説明した従来のタイミング信号に相当するものであるが、従来のタイミング信号のように、タイミング信号取得用のセンサを必要しないものであり、図1に示すように、音や振動の波形データから抽出するものである。
【0076】
この基準周波数成分は、検出対象の動きに対応した成分であるのが好ましく、例えば、エンジンのピストンの動きやバルブを動作させるカムの動きに同期した周波数成分などであるのが好ましい。
【0077】
この基準周波数成分抽出部4における基準周波数成分の抽出方法には、例えば、次の3種類がある。
【0078】
(1)先ず、第1の抽出方法では、検査対象の複数箇所に、複数のマイクロフォンセンサまたは振動センサを設置し、各センサから得られる入力波形間で、位相差が基準値以下となる周波数成分を、基準周波数成分として抽出するものである。なお、各センサから得られる入力波形間で、位相差が最も小さい周波数成分を基準周波数成分とするのが好ましい。
【0079】
この方法では、各センサからの波形データ、例えば、図5(a)に示す複数のCHの各波形データを、フーリエ変換あるいは高速フーリエ変換によって、周波数と位相とに分解し、CH間で位相差が基準値以下の周波数成分(正弦波)、すなわち、位相が揃っている周波数成分を、図5(b)に示すように基準周波数成分とするものである。
【0080】
この方法によれば、センサの設置位置による位相のずれの影響を受けることなく、基準周波数成分を抽出することができる。
【0081】
(2)第2の抽出方法では、検査対象の回転数、例えば、エンジンにおけるクランクシャフトやカムシャフトの回転数を元に算出した回転周波数の定数倍を基準周波数成分として抽出するものである。
【0082】
例えば、エンジンの検査条件である回転数が2000RPMの場合、クランクシャフトは2000/60=約33.3Hzで回転する。エンジンの各部品で発生する振動は、この周波数(33.3Hz)の倍数で構成されることが多い。そこで、33.3Hzの定数(N:自然数)倍の周波数を基準周波数成分として抽出するものである。
【0083】
また、エンジンのバルブに着目すると、バルブを駆動するカムシャフトの回転数は、図6に示すように、エンジン21のカムシャフト22とクランクシャフト23とのギヤ比が2:1であった場合には、カムシャフト22の回転数は、クランクシャフト23の回転数の1/2となる。このことから、カムシャフトの回転周波数である33.3/2Hzの定数(M:自然数)倍を基準周波数成分として抽出すればよい。
【0084】
このように検査対象のどの部分に着目するに応じて、抽出する基準周波数成分を決定すればよい。
【0085】
(3)第3の抽出方法では、検査対象となるエンジンが直列4気筒である場合に、エンジンのクランクシャフトの回転数から算出した回転周波数の2倍を基準周波数成分として抽出するものである。
【0086】
エンジンが直列4気筒である場合、クランクシャフトの回転周波数の2倍の成分(2次成分)が強く出る傾向があることが知られている。このため、エンジンの回転数が2000rpmすなわち33.3Hzである場合、図7(a)に示される直列4気筒エンジンについての波形データから、上記2次成分である66.6Hzを、図7(b)に示すように基準周波数成分として抽出するものである。
【0087】
上記(2),(3)の第2,第3の抽出方法では、第1のデータベース5に予め記憶されている検査対象の種類や回転数などの稼動情報を利用して抽出する。なお、第1のデータベース5に稼動情報を記憶させるのではなく、インタラクティブにユーザが指定できるようにしてもよい。
【0088】
上記(1)〜(3)の第1〜第3のいずれの抽出方法を採用するかは、検査対象に対する事前の情報、例えば、検査対象の異常の種類、部品、エンジンの種類、検査条件(回転数)などの情報を、どれだけ利用できるかに応じて決定すればよい。事前情報が少なく、基準周波数を決める条件が不明確な場合は、上記(1)の第1の抽出方法を選択すればよい。
【0089】
基準周波数は、検出したい異常が発生する周期(の逆数)と同じであるのが好ましいが、必ずしも同じでなくても、検出したい異常の発生周期の数倍の範囲であれば、十分に、分析・検査性能を向上することができる。
【0090】
次に、抽出した基準周波数成分に基づいて、波形データの抽出タイミングである切り出しタイミングを決定する切り出しタイミング決定処理部6について説明する。
【0091】
この切り出しタイミング決定処理部6における決定処理方法には、位相オフセットを利用する方法と、衝撃波形のピークを探索する方法との2種類がある。
【0092】
位相オフセットを利用する方法とは、検出したい事象、例えば、タペットノイズの発生タイミングを、抽出した基準周波数成分の位相角(位相オフセット)で指定するものである。
【0093】
また、衝撃波形のピークを探索する方法とは、検出したい事象が周期性の衝撃波形の場合、基準周波数の周期(=1/基準周波数)ごとに現れる衝撃波形のピーク(波形の絶対値の極大値)を基準に探索を行うものである。
【0094】
位相オフセットを利用する方法の場合には、ユーザは検査対象の構造情報などを元に、予め事象の発生する位相を特定しておく必要がある。
【0095】
また、衝撃波形のピークを探索する方法の場合には、検出できる事象は周期性衝撃波形に限定されるが、衝撃の発生する周期のみ既知であればよい。
【0096】
以下、各方法について、順次説明する。
【0097】
(1)位相オフセットを利用する方法
検出したい事象の発生タイミングを、抽出した基準周波数成分の位相角(位相オフセット)で指定するものである。
【0098】
この位相オフセットを利用する方法では、ユーザは検査したい事象、例えば、タペットノイズの発生タイミングを、基準周波数を基準にした位相オフセット(角度)として予め求め、例えば、第2のデータベース7に、ワーク情報として格納しておくものである。このワーク情報を元に、波形データ中の検査したい事象の発生タイミングを求めるものである。ユーザは、事象の発生タイミングを、位相オフセット(角度)として指定するが、切り出しタイミング決定処理部6では、波形データの時間軸上の位置、例えば、先頭(計測開始)からN秒や先頭からmサンプル目に換算して求める。
【0099】
切り出し基準タイミングは、以下の手順で決定する。
【0100】
先ず、図8(a)示される基準周波数成分の位相0度の位置(−から+へゼロクロスする位置)を、図8(b)に示すように演算し、次に、ユーザの入力やワーク情報から得たオフセット位相を、図8(c)に示すように周波数の位相0度の位置からの相対位相として時間(または、波形のサンプル点数)換算し、図8(d)に示すように、計測開始(波形データの取り込み開始)からの経過時間N1,N2,N3…として、波形データ中の全ての切り出し基準タイミングである切り出し基準時刻を求めるものである。
【0101】
例えば、カムシャフトに同期する信号を基準周波数成分に設定した場合、特定のオフセット位相は、特定のバルブの動作音(タペットやバルブ閉じ音)に対応する波形の時間軸上での存在位置を示すことになる。
【0102】
また、特定の歯車の1回転に対応する振動を基準周波数成分に設定した場合、オフセット位相は、特定の歯車の歯に対応する波形の時間軸上での存在位置を示すことになる。
【0103】
エンジンのバルブの動作タイミングは、図9に示すように、設計上決まっており、エンジンの制御情報として入手することができる。
【0104】
したがって、制御情報として得られる図9のバルブの動作タイミングと基準周波数成分とに基づいて、検査したい事象に対応するオフセット位相を予め求めておき、例えば、ワーク情報として第2のデータベース7に格納しておくものである。
【0105】
位相オフセットは1つだけでなく、複数設定することができる。例えば、エンジンのバルブの検査を行う場合、シリンダごとにバルブの動作タイミングが異なる。このため、各エンジンのシリンダごとの位相オフセットを登録すればよい。
【0106】
エンジンの制御情報などから位相オフセットを求めることができないような場合には、検査したい事象を発生する検査対象、例えば、異音を発生する検査対象の基準周波数成分および検査したい事象の発生タイミングを予め計測し、位相オフセットを求めておけばよい。
【0107】
(2)衝撃波形のピークを探索する方法
切り出す波形が周期性衝撃波形の場合、衝撃波形のピーク(絶対値の極大値)周期を探索し、ピーク位置を切り出し基準タイミングに設定する。以下、切り出し基準タイミングの探索方法を説明する。
【0108】
ピークを用いる場合、ピークの発生周期=1/基準周波数であるとする。
【0109】
また、衝撃成分は、1周期に1つであると仮定する。
【0110】
先ず、波形データxの長さをS秒とし、ピークの発生周期をPとすると、最大でM=S/P個の衝撃成分がある。
【0111】
絶対振幅a=abs(x)の極大点の集合のうち、絶対振幅が大きい上位M個を探索し、上位M個の時刻の集合、すなわち、計測開始からの経過時間の集合をTとする。集合Tの中に、周期的衝撃成分の発生時刻が含まれているはずである。
【0112】
周期的であるかどうかは、他の極大点との関係により決まるので、集合Tに含まれる時刻tがどれくらい周期Pを満たす点であるかを次式によって評価する。
【0113】
【数1】
【0114】
つまり、探索したM個の点の時間の小さいもの、すなわち、時刻の早いものから選択し、他の点との周期が、周期Pの整数倍からどの程度ずれているかを上記式(1)で評価する。
【0115】
例えば、図10に示すように、4個のピークP1〜P4が存在する場合に、時刻が早い第1のピークP1は、他の衝撃成分のピークP2,P3.P4との時間差が、周期Pの倍数である場合が多いので、上記(1)式の値が小さくなるのに対して、第2のピークP2は、他の衝撃成分のピークP1,P3,P4との時間差が、周期Pの倍数からずれているので、上記(1)式の値が大きくなる。
【0116】
そこで、上記(1)式を指標とし、この指標により、もっともふさわしい時刻t0は、上記(1)式が最小である点
【0117】
【数2】
【0118】
と決定する。
【0119】
図10の例では、第1のピークP1が、時刻t0に対応するピークとなる。
【0120】
次に、その他の切り出し基準時刻を以下の式で決定する。
【0121】
【数3】
【0122】
この方法は、異常が発生する周期は既知であるが、検査対象の構造に対する知見が乏しい時に有効である。
【0123】
なお、同じ周期で、かつ、異なる位相で発生する衝撃波形も検査したいような場合には、ユーザが対応する設定を行うことにより、先ず、衝撃波形についての切り出し基準時刻を決定し、決定された切り出し基準時刻の付近の波形データを除外し、再度上記評価式(1)で切り出し基準時刻を探索することにより、同じ周期で位相が異なる衝撃波形に対応する切り出し基準時刻を決定することができる。
【0124】
次に、波形切り出し処理部8について説明する。
【0125】
波形切り出し処理部8は、切り出しタイミング決定処理部6で決定した切り出し基準時刻を起点に、波形データの切り出しを行う。
【0126】
切り出すとは、図11(b)に示す波形データの点線区間(図では4箇所)それぞれに対して、図11(d)に示す窓関数を乗算し、必要な区間のみを残し、不要な区間の振幅を0にすることである。
【0127】
つまり、窓関数の値が0でない部分は、波形データの振幅が残り、窓関数の値が0の部分の振幅は0になる。
【0128】
この処理により、図11(c)に示すように、検査したい対象の異常を含む時間帯(位相や周期)以外の振幅は0になり、検査したい対象の異常を含む時間帯(位相と窓幅)の信号のみが残ることになる。
【0129】
窓関数は、図11(d)に示すように、切り出し基準時刻からの前時間幅、後時間幅、前減衰幅、後減衰幅を指定することができる。これらは検出したい事象(異常)の持続時間などに応じて適切に設定する。
【0130】
オフセット位相が異なる複数の事象を捉える場合は、オフセット位相毎に個別に切り出し処理を行う。例えば、4気筒エンジンの場合、各シリンダに連動してバルブが開閉する。この開閉タイミングは各シリンダによって異なる。そこで、図12(b)〜(d)に示すように、各シリンダごとに個別にオフセット位相に対応する切り出し基準時刻を設定することにより、各シリンダに対応する信号を、図12(e)〜(g)に示すように切り出し、異音検査装置32で異常の有無を判定することにより、どのシリンダのバルブが異常であるかを容易に判断することができる。どのシリンダのバルブが異常であるかを判断するには、異音判定部11にて、どのオフセット位相で切り出した波形データに最も異常が多く含まれているか判定すればよい。
【0131】
次に、切り出し処理後の波形を出力する処理後波形出力部10について説明する。
【0132】
処理後波形出力部10は、図13に示すように、切り出した波形を、パソコン24のディスプレイ25に表示したり、スピーカ26で波形を音として再生出力したり、あるいは、加振器27を用いて振動として再生出力したりするものであり、切り出し処理後の波形を、ディスク28などに保存することもできる。
【0133】
ユーザは、キーボード29やマウス30等の入力デバイスを操作して所要の入力操作、例えば、上述の稼動情報やワーク情報の入力などを行うことができる。
【0134】
次に、図1に示される異音判定部11および判定結果出力部12からなる異音検査装置32について説明する。
【0135】
この異音検査装置32は、時間波形を入力とし、正常であるか異常であるかを検査する装置であれば、特に限定されるものではなく、例えば、特許第3484665号に開示されている異常判定装置を用いることができる。
【0136】
信号抽出装置31の出力を、異音検査装置32の入力とすることで、判定に必要な区間の信号波形のみが切り出されて異音検査装置32に入力され、不要な波形は除去されるので、検査精度が向上する。
【0137】
図14〜図16は、以上の動作説明に供するフローチャートである。
【0138】
先ず、図14に示すように、音や振動の信号波形入力部2から検査対象(エンジンやトランスミッションなど)の振動または音のデータを取り込む。振動は振動ピックアップやレーザドップラー振動計で取り込み、音はマイクロフォンで取り込む。取り込んだ音や振動は、A/D変換して波形データとして内部へ取り込む(ステップn1)。
【0139】
次に、取り込んだ波形データから雑音を低減したり、着目したい波形や周波数帯域の信号を強調する前処理を行う(ステップn2)。前処理は、機械検査装置が置かれている環境や、検査したい異常の発生メカニズムによって、適切に選択する。特定の周波数の振動や音を強調したい場合はBPFを利用する。ガウス性雑音の低減や衝撃波形の抽出には、上述の安定化ウェーブレットフィルタを用いる。また、衝撃性波形を高速に強調したい場合は、上述の高周波包絡振幅変調フィルタを用いる。
【0140】
次に、基準周波数成分を求めるが、この基準周波数成分の求め方には、上述のように稼動情報などを利用して計算で求める方法と、複数CHの波形データから求める方法とがあり、利用できる情報(検査対象の構造や、異常の発生原因など)から、いずれかの方法を選択する(ステップn3)。
【0141】
基準周波数成分を複数CHの波形データ位相から求める場合には、各CHの周波数ごとの位相を求める(ステップn4)。複数CHで取り込んだ波形データをFFTなどを用いて周波数ごとの位相情報に変換する。そして、各CHの位相差が基準値以下の周波数を求める(ステップn5)。振幅レベルが一定以上ある周波数で、かつ、各CH間で位相がそろっている周波数成分を抽出する。抽出した周波数成分を、基準周波数成分とする。
【0142】
基準周波数成分を複数CHの波形データの位相から求めない場合には、第1のデータベース5の稼動情報を用いて、基準周波数を決定する(ステップn6)。
【0143】
基準周波数は、検査対象の構造(ギアの比率)や検査条件(回転数)に応じて、回転周波数のN倍を指定する。また、検査対象が4サイクル4気筒のエンジンである場合、クランクシャフトの回転数の2次成分を基準周波数成分として選択することができる。
【0144】
上記2つのいずれかの方法を選択し、基準周波数成分を求めた後、切り出し基準タイミングを求める。
【0145】
切り出し基準タイミングの演算は、上述のように基準周波数成分の位相のオフセットで指定する方法と、基準周波数の周期(=1/基準周波数)で指定する方法とがあり、図15に示すように、いずれかの方法を選択する(ステップn7)。検査したい対象の事象が周期性衝撃波形である場合、後者の方法が利用できる。
【0146】
オフセット位相で求める場合には、基準周波数の位相0度を求める(ステップn8)。波形データから抽出した基準周波数の位相0(−から+へ0クロスする時刻)を求める。次に、指定されたオフセット位相と基準周波数の位相0度とから切り出し基準時刻を求める(ステップn9)。基準周波数の位相が0(ゼロ)の時刻を起点に、第2のデータベース7に格納しているオフセット位相を時間換算した分だけずらしたものを、切り出し基準時刻にする。
【0147】
衝撃波形のピークを利用して求める場合には、衝撃波形のピークを抽出する(探索済みのピーク付近は除外)(ステップn10)。波形データの中から波形のピーク(絶対値の極大値)をM個抽出する。(探索が2回目以降の場合、過去に探索したピークは除外する。)他のピークとの関係が最も周期に合致するピーク発生時刻を探索する(ステップn11)。
【0148】
上述の(1)式に示す評価式を用いて、探索したピークの中から、最も基準周波数(周期)にマッチするピークを探索する。この時、探索は時刻の若い順に行う。最も基準周波数にマッチするピークの発生時刻を求める。
【0149】
次に、切り出し基準タイミングを求める(ステップn12)。求めたピークの発生時刻を起点として、基準周波数の周期の倍数になる時刻を切り出し基準時刻に設定する。
【0150】
次に、図16に示すように、切り出し基準時刻を中心に窓関数を乗算し、切り出し処理を行う(ステップn13)。すなわち、全ての切り出し基準時刻を中心に、波形の切り出しを行う。波形の切り出しは、各切り出し基準時刻を原点として、窓関数を波形データに乗算することにより行う。すなわち、窓関数を用いて波形データをマスクする。
【0151】
次に、切り出し結果の波形を出力する(ステップn14)。切り出した波形データを、表示、保存などする。必要がなければ、この処理はスキップする。
【0152】
次に、異音検査処理を行う(ステップ15)。すなわち、切り出した波形を用いて、異音検査を行う。異音検査のアルゴリズム自体は、特に限定されない。
【0153】
切り出していないオフセット位相または、衝撃ピークがあるか否かを判断し(ステップn16)、検査対象の位相オフセットが複数指定されている場合、例えば、エンジンバルブの検査であれば、気筒ごとの検査をする場合には、図15のステップn7の切り出し基準タイミングを求める処理に戻る。また、同じ周期でかつ異なる位相で発生する衝撃波形を検査したい場合には、上述のユーザの対応する設定によって、衝撃波形のピークの探索を繰り返し実行することができる。この場合も図15のステップn7の切り出し基準時刻を求める処理に戻る。
【0154】
次に、異音検査結果を出力する(ステップn17)。波形データの切り出しが複数回分指定されている場合は、各切り出しごとに、検査結果を、モニタやランプなどに出力する。
【0155】
上述の実施形態では、異常の判定に必要に区間の信号波形を抽出して異音の判定を行なったが、前記区間の信号波形と、抽出後の残差信号の波形との特徴量、例えば、ピーク値、尖度などを抽出し、それらの差や比を算出し、閾値と比較して良否の判定を行なうようにしてもよい。
【0156】
この場合には、図16のステップn13では、図17(a)に示すように切り出し基準タイミングを中心として窓関数を乗算して切り出し処理を行ない(ステップn13−1)、更に、切り出した後の残差波形を演算する(ステップn13−2)。
【0157】
また、図16のステップn15の異音検査処理では、図17(b)に示すように、切り出し波形から特徴量を演算する一方(ステップn15−1)、残差波形から特徴量を演算し(ステップn15−2)、特徴量の差または比を演算し(ステップn15−3)、それに基づいて、良否判定を行なうものである(ステップn15−4)。
【0158】
図19は、この判定処理の構成を示すブロック図である。図18(a)の波形データから、図18(b)の切り出し基準時刻を基準に切り出された図18(c)の信号波形の特徴量を特徴量演算部33で演算する一方、切り出された後の図18(d)の残差波形の特徴量を特徴量演算部34で演算し、それらの差、あるいは、比を用いて良否判定処理部35で良否の判定を行なうものである。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、音や振動によって検査対象物を検査する検査装置などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の機械検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】安定化ウェーブレットフィルタの構成を示す図である。
【図3】高周波包絡振幅変調フィルタの構成を示す図である。
【図4】図3の説明に供する信号波形図である。
【図5】基準周波数成分の抽出の一例を示す図である。
【図6】クランクシャフトとカムシャフトとの回転数の関係を説明するための図である。
【図7】基準周波数成分の抽出の他の例を示す図である。
【図8】切り出し基準時刻の決定方法を説明するための図である。
【図9】吸気および排気バルブの開閉の位相を示す図である。
【図10】衝撃波形のピークの探索を説明するための図である。
【図11】信号の切り出し処理を説明するための図である。
【図12】シリンダ毎の信号の切り出し処理を説明するための図である。
【図13】切り出し処理後の波形の出力形態を説明するための図である。
【図14】基準周波数成分の抽出動作を説明するためのフローチャートである。
【図15】切り出し基準時刻を決定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図16】切り出し処理および異音検査を説明するためのフローチャートである。
【図17】本発明の他の実施形態を説明するためのフローチャートである。
【図18】切り出し波形と残差波形を説明するための波形図である。
【図19】異音判定処理の構成図である。
【符号の説明】
【0161】
1 機械検査装置
3 前処理部
4 基準周波数抽出部
8 波形切り出し処理部
31 信号抽出装置
32 異音検査装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出方法であって、
前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得ステップと、
取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出ステップと、
を含むことを特徴とする信号抽出方法。
【請求項2】
前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分である請求項1に記載の信号抽出方法。
【請求項3】
前記取得ステップでは、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分とする請求項2に記載の信号抽出方法。
【請求項4】
前記取得ステップでは、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項2に記載の信号抽出方法。
【請求項5】
前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項4に記載の信号抽出方法。
【請求項6】
前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の信号抽出方法。
【請求項7】
前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出して抽出する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の信号抽出方法。
【請求項8】
回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出装置であって、
前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得手段と、
取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出手段と、
を含むことを特徴とする信号抽出装置。
【請求項9】
前記回転機械がエンジンである請求項8に記載の信号抽出装置。
【請求項10】
前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分である請求項8または9に記載の信号抽出装置。
【請求項11】
前記取得手段は、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分として取得する請求項10に記載の信号抽出装置。
【請求項12】
前記取得手段は、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分として取得する請求項10に記載の信号抽出装置。
【請求項13】
前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項12に記載の信号抽装置。
【請求項14】
前記抽出手段は、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部とを備える請求項10ないし13のいずれか1項に記載の信号抽出装置。
【請求項15】
前記抽出手段は、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出す切り出し部とを備える請求項10ないし13のいずれか1項に記載の信号抽出装置。
【請求項16】
前記抽出手段は、前記切り出し部の前段に、前記出力信号に対して前処理を施す前処理部を備え、前記前処理部は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタまたは高周波包絡振幅変調フィルタを含む請求項14または15に記載の信号抽出装置。
【請求項17】
前記請求項8ないし16のいずれか1項に記載の信号抽出装置を備え、
抽出された信号区間の信号に基づいて、前記回転機械の良否を判定する判定手段を備えることを特徴とする機械検査装置。
【請求項18】
前記信号抽出装置から前記信号区間が切り出された後の残差信号が与えられ、前記判定手段は、抽出された信号と、前記残差信号とに基づいて、前記回転機械の良否を判定する請求項17に記載の機械検査装置。
【請求項1】
回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出方法であって、
前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得ステップと、
取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出ステップと、
を含むことを特徴とする信号抽出方法。
【請求項2】
前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分である請求項1に記載の信号抽出方法。
【請求項3】
前記取得ステップでは、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分とする請求項2に記載の信号抽出方法。
【請求項4】
前記取得ステップでは、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項2に記載の信号抽出方法。
【請求項5】
前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項4に記載の信号抽出方法。
【請求項6】
前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の信号抽出方法。
【請求項7】
前記抽出ステップでは、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定し、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出して抽出する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の信号抽出方法。
【請求項8】
回転機械が発生する音および振動の少なくとも一方を検出する検出手段の出力信号から、前記回転機械の検査に用いる信号区間を抽出する信号抽出装置であって、
前記信号区間を抽出するタイミングの基準となる基準信号を、前記出力信号から取得する取得手段と、
取得した基準信号に基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出して抽出する抽出手段と、
を含むことを特徴とする信号抽出装置。
【請求項9】
前記回転機械がエンジンである請求項8に記載の信号抽出装置。
【請求項10】
前記基準信号は、前記回転機械の一定の回転数に対応する基準周波数成分である請求項8または9に記載の信号抽出装置。
【請求項11】
前記取得手段は、前記検出手段を構成する複数のセンサの各出力信号間で位相差が基準値以下となる周波数成分を、前記基準周波数成分として取得する請求項10に記載の信号抽出装置。
【請求項12】
前記取得手段は、前記回転機械の前記回転数に基づいて算出される回転周波数の定数倍の周波数を、前記基準周波数成分として取得する請求項10に記載の信号抽出装置。
【請求項13】
前記回転機械が直列4気筒のエンジンであって、該エンジンのクランクシャフトの回転数に基づいて算出される回転周波数の2倍の周波数を、前記基準周波数成分とする請求項12に記載の信号抽装置。
【請求項14】
前記抽出手段は、前記基準周波数成分と該基準周波数成分の予め定められた位相とに基づいて、切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて、前記出力信号から前記信号区間を切り出す切り出し部とを備える請求項10ないし13のいずれか1項に記載の信号抽出装置。
【請求項15】
前記抽出手段は、前記基準周波数成分の周期と前記出力信号のピークとに基づいて、前記切り出しのタイミングを決定するタイミング決定部と、決定したタイミングに基づいて前記信号区間を切り出す切り出し部とを備える請求項10ないし13のいずれか1項に記載の信号抽出装置。
【請求項16】
前記抽出手段は、前記切り出し部の前段に、前記出力信号に対して前処理を施す前処理部を備え、前記前処理部は、離散ステーショナリーウェーブレット変換を用いた安定化ウェーブレットフィルタまたは高周波包絡振幅変調フィルタを含む請求項14または15に記載の信号抽出装置。
【請求項17】
前記請求項8ないし16のいずれか1項に記載の信号抽出装置を備え、
抽出された信号区間の信号に基づいて、前記回転機械の良否を判定する判定手段を備えることを特徴とする機械検査装置。
【請求項18】
前記信号抽出装置から前記信号区間が切り出された後の残差信号が与えられ、前記判定手段は、抽出された信号と、前記残差信号とに基づいて、前記回転機械の良否を判定する請求項17に記載の機械検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−107294(P2008−107294A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292666(P2006−292666)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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