説明

倒立型走行装置および走行装置の制御方法

【課題】同軸二輪車を提供する。
【解決手段】倒立型走行装置は、指令部からの走行速度指令値で倒立走行を行うための目標指令値を生成する調整目標生成部100と、調整目標生成部100にて生成された目標指令値とセンサによる検出結果との偏差に基づいて走行制御を実行するフィードバック補償部43と、センサによる検出結果から求められる実際の走行速度と走行速度指令値との偏差に基づいて調整目標生成部100の制御パラメータを調整する応答性調整部200と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は倒立型走行装置および倒立型走行装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同軸に設けられた左右一対の車輪14、14を有し、倒立状態を維持しながら走行する走行装置10が知られている(特許文献1、特許文献2)。
図6は、搭乗者60を載せた状態で走行装置10が走行している様子を示す図である。
走行装置10は、搭乗者が乗車する車体部12と、車体部12に対して回転自在に設けられた車輪14、14と、走行装置10の状態を検出する状態センサ25と、所望の走行速度を入力指令するための指令部32と、状態センサ25による検出結果と指令部32からの指令値とに基づいて走行制御を実行する倒立走行制御部40と、を備える。
【0003】
車体部12と車輪14、14の車軸Cとは連結部12bによって連結されている。
車輪14、14は、図示しない減速機を介してモータ16に連結されている。
【0004】
状態センサ25としては、車体部12の傾斜角を検出する傾斜角センサ26と、
車輪14の回転角を検出するエンコーダ27と、が設けられている。
なお、傾斜角センサ26としては、例えば、傾斜角速度を検出するジャイロセンサを用い、ジャイロセンサが出力する車体部12の傾斜角速度を積分して車体部12の傾斜角度としてもよい。
【0005】
指令部32は、搭乗者が操作する操作レバーであり、搭乗者が所望の水平移動速度Vrefを入力するためのものである。
【0006】
図7は、走行装置10の制御システムを表す機能ブロック図である。
倒立走行制御部40は、目標生成部41と、偏差算出部42と、フィードバック補償部43と、モータドライバ44と、を備えている。
【0007】
目標生成部41には、指令部32から水平速度指令値Vrefが入力される。
目標生成部41は、指令された水平速度指令値Vrefで倒立走行を行うのに必要な各種パラメータの目標値を算出する。
ここで、図8のように、走行装置10を車輪14と負荷50とが連結部12bで繋がっているモデルにモデル化し、各パラメータを図のように設定する。
【0008】
目標生成部41は、目標状態として、目標車輪角速度ω、目標負荷角度η、目標負荷角速度Ωを算出する。
目標車輪角速度ωは、水平速度指令値Vrefを車輪の半径rで除することによって求められる。
目標負荷角度ηは、水平速度指令値Vrefと鉛直方向にかかる重力(mg)との関係から次のように求められる。
すなわち、目標負荷角度ηは、水平加速度指令(水平速度指令値Vrefの一階微分)を重力加速度gで除算した値の逆正接である。
【0009】

【0010】
目標負荷角度指令Ωは、目標負荷角度ηの微分によって求められる。
【0011】
目標生成部41は、上記のように算出した目標値(ω、η、Ω)を偏差算出部42に出力する。
偏差算出部42には、状態センサ25からのセンサ値が入力されている。
偏差算出部42は、目標生成部41からの目標値と状態センサ25からのセンサ値とを対比して、両者の偏差を算出する。
【0012】
すなわち、偏差算出部42は、車輪角速度の偏差Δω(=ω−ω)、負荷角度の偏差Δη(=η−η)、負荷角速度の偏差ΔΩ(=Ω−Ω)、を算出する。
算出されたこれら偏差(Δω、Δη、ΔΩ)は、フィードバック補償部43に出力される。
【0013】
フィードバック補償部43は、偏差算出部42にて算出された各偏差量(Δω、Δη、ΔΩ)に対して各種の制御補償演算を実行し、走行装置10の状態が目標値になるために必要なトルク指令Tを求める。
制御補償要素としては、例えば、比例要素、微分要素、積分要素などがある。
これらが組み合わされることにより、倒立制御を安定に実行しながらも指令値に追従するフィードバック制御がなされる。
トルク指令Tに応じてモータドライバ44から電流がモータ16に印加され、モータ16が駆動される。
これにより、倒立状態を維持しながらの走行が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007-160956号公報
【特許文献2】特開2008-18931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
搭乗者の体重や搭乗姿勢は各搭乗者によって異なってくるので、フィードバック補償部43としては、このような不確定な変動に対しても安定した特性を得られるように設計されなければならない。
このとき、走行装置10の設計としては、搭乗者の安全を確保することを何よりも優先させる必要がある。
したがって、倒立制御の安定性を優先し、フィードバック補償器43には荷重変動に強い制御補償が組み込まれている。
【0016】
ここで、倒立安定性と目標追従性とはトレードオフの関係にあり、両者を高いレベルで両立させることは非常に困難であった。
そのため、指令速度Vrefに対する追従性を所望の性能レベルにすることができなかった。
搭乗者にとってみれば、自分が指令した通りに走行装置10が反応よく動かないということになり、操縦している搭乗者のイライラが募るなどの問題が生じる。
【0017】
本発明の目的は、倒立安定性を維持しながらも追従性能を向上させる走行装置および走行装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の走行装置は、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された一対の車輪を有し、倒立状態を維持しながら走行する倒立型走行装置であって、
所望の走行速度を入力指令するための指令部と、
走行装置の状態を検出するセンサと、
前記指令部からの走行速度指令値で倒立走行を行うための目標指令値を生成する調整目標生成部と、
前記調整目標生成部にて生成された目標指令値と前記センサによる検出結果との偏差に基づいて走行制御を実行するフィードバック補償部と、
前記センサによる検出結果から求められる実際の走行速度と前記走行速度指令値との偏差に基づいて前記調整目標生成部の制御パラメータを調整する応答性調整部と、を備える
ことを特徴とする。
【0019】
このような構成において、本発明では、応答追従性についてはフィードバック補償部から切り離し、調整目標生成部の制御パラメータの調整によって応答追従性を改善する。
このように目標値を調整することで倒立安定性とは別個に応答性能を改善調整することができる。
また、フィードバック補償部の設計においては、応答性能についてはそれほど考慮しなくてもよくなる。したがって、フィードバック補償部の設計にあたってはより一層安定性を考慮した補償要素を組み込むことができ、安全性を向上させることができる。
【0020】
本発明では、
前記調整目標生成部は、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出する負荷角度変換器と、
前記負荷角度変換器にて算出された目標負荷角度指令値から高周波成分をカットする第1ローパスフィルタと、を備え、
前記応答性調整部は、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいて応答時間の長さを判定する応答時間判定部と、
前記応答時間判定部による判定結果に基づいて前記第1ローパスフィルタの時定数を調整する第1時定数調整部と、を備える
ことが好ましい。
【0021】
本発明では、
前記応答時間判定部の判定によって応答時間が基準の閾値よりも長いと判定された場合、
前記第1時定数調整部は、前記第1ローパスフィルタの時定数を下げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【0022】
本発明では、
前記調整目標生成部は、前記第1ローパスフィルタからの出力を微分して負荷角速度指令値を算出する調整負荷角速度算出部を備える
ことが好ましい。
【0023】
本発明では、
前記調整目標生成部は、
負荷の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記指令値と負荷にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出する負荷角度変換器と、
前記負荷角度変換器にて算出された目標負荷角度指令値にゲインを乗算する増幅器と、を備え、
前記応答性調整部は、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいてオーバーシュート量を判定するオーバーシュート判定部と、
前記オーバーシュート判定部による判定結果に基づいて前記増幅器のゲインを調整するゲイン調整部と、を備える
ことが好ましい。
【0024】
本発明では、
前記オーバーシュート判定部の判定によって前記オーバーシュート量が基準の閾値よりも大きいと判定された場合、
前記ゲイン調整部は、前記増幅部のゲインを下げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【0025】
本発明では、
前記増幅器からの出力を微分して負荷角速度指令値を算出する調整負荷角速度算出部を備える
ことが好ましい。
【0026】
本発明では、
前記調整目標生成部は、
前記走行速度指令値を前記車輪の半径で除して目標車輪角速度指令値を算出する車輪角速度変換器と、
前記車輪角速度変換器にて算出された目標車輪角速度指令値から高周波成分をカットする第2ローパスフィルタと、を備え、
前記応答性調整部は、
停止時の揺れ戻り量を判定する揺れ戻り判定部と、
前記揺れ戻り判定部による判定結果に基づいて前記第2ローパスフィルタの時定数を調整する第2時定数調整部と、を備える
ことが好ましい。
【0027】
本発明では、
前記揺れ戻り判定部の判定によって前記揺れ戻り量が基準の閾値よりも大きいと判定された場合、
前記第2時定数調整部は、前記第2ローパスフィルタの時定数を上げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【0028】
本発明の走行装置の制御方法は、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された一対の車輪を有し、倒立状態を維持しながら走行する倒立型走行装置の制御方法であって、
指令された走行速度指令値で倒立走行を行うための目標指令値を生成し、
生成された前記目標指令値と実際の走行速度との偏差に基づいてフィードバック補償をして走行制御を実行し、
実際の走行速度と前記走行速度指令値との偏差に基づいて前記調整目標指令値を調整する
ことを特徴とする。
【0029】
本発明では、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出し、
前記目標負荷角度指令値を第1ローパスフィルタに通した値を調整負荷角度指令値とし、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいて応答時間の長さを判定し、
前記応答時間が基準の閾値よりも長い場合、前記第1ローパスフィルタの時定数を下げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【0030】
本発明では、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出し、
前記目標負荷角度指令値に増幅器でゲインを乗算して調整負荷角度指令値とし、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいてオーバーシュート量を判定し、
前記オーバーシュート量が基準の閾値よりも大きい場合、前記増幅器のゲインを下げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【0031】
本発明では、
前記調整負荷角度指令値を微分して調整負荷角速度指令値を算出する
ことが好ましい。
【0032】
本発明では、
前記走行速度指令値を前記車輪の半径で除して目標車輪角速度指令値を算出し、
前記目標車輪角速度指令値を第2ローパスフィルタに通した値を調整車輪角速度指令値とし、
停止時の揺れ戻り量を判定し、
前記揺れ戻り量が基準の閾値よりも大きい場合、前記第2ローパスフィルタの時定数を上げるように調整を実行する
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態に係る走行装置の制御ブロック図。
【図2】調整目標生成部および応答性調整部の内部構成を示す図。
【図3】応答性調整部の動作フローを示す図。
【図4】揺れ戻りを説明するための図。
【図5】揺れ戻りを説明するための図。
【図6】走行装置が走行している様子を示す図。
【図7】従来の走行装置の制御システムを表す機能ブロック図。
【図8】走行装置を車輪と負荷とが連結部で繋がっているモデルにモデル化した図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の走行装置に係る第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る走行装置の制御ブロック図である。
本実施形態の基本的構成は背景技術で説明した図11と同様であるが、本実施形態の特徴は、倒立走行制御部900において、調整目標生成部100の制御パラメータを応答性調整部200によって変更調整する点にある。
【0035】
図2は、調整目標生成部100および応答性調整部200の内部構成を示す図である。
調整目標生成部100は、指令された水平速度指令値Vrefで倒立走行を行うのに必要な各種パラメータの目標値(ηad、Ωad、ωad)を算出する。
ここで、調整目標生成部100において、各目標値(ηad、Ωad、ωad)を生成する経路110、120、130には応答性を改善するための制御要素が組み込まれている。
そして、これら制御要素の制御パラメータが応答性調整部200によって調整され、調整目標生成部100は、調整された各種目標値(ηad、Ωad、ωad)を生成する。
【0036】
調整目標生成部100は、調整負荷角度算出部110と、調整負荷角速度算出部120と、調整車輪角速度算出部130と、を備える。
【0037】
調整負荷角度算出部110は、負荷角度変換器111と、第1ローパスフィルタ112と、増幅器113と、を備えている。
負荷角度変換器111は、背景技術で説明したように、水平速度指令値Vrefと鉛直方向にかかる重力mgとの関係から目標負荷角度ηを算出する。
【0038】

【0039】
算出された目標負荷角度ηは次段の第1ローパスフィルタ112に入力される。
【0040】
第1ローパスフィルタ112は、前記目標負荷角度ηから高周波成分をカットする。
目標負荷角度ηの算出には水平速度指令値Vrefの微分(加速度)が使用されるので、目標負荷角度ηには高周波のノイズが入りやすい。第1ローパスフィルタ112はこのようなノイズをカットするとともに目標負荷角度ηの変化をなめらかにする。
ここで、第1ローパスフィルタ112は積分回路であり、その時定数が調整可能となっている。
【0041】
第1ローパスフィルタ112の次段には増幅器113が設けられ、第1ローパスフィルタ112からの出力に対してゲインを乗算する。
増幅器113は比例回路であり、そのゲインは調整可能になっている。
このように調整された目標負荷角度を調整負荷角度ηadと称する。
背景技術の目標負荷角度ηに代えて、調整負荷角度ηadが偏差算出部42に出力される。
【0042】
調整負荷角速度算出部120は、ハイパスフィルタ121を備える。
調整負荷角度ηadがハイパスフィルタ121を通って微分されることにより、調整負荷角速度Ωadが算出される。
そして、背景技術の目標負荷角速度Ωに代えて、調整負荷角速度Ωadが偏差算出部42に出力される。
なお、第1ローパスフィルタ112の時定数および増幅器113のゲインが変更調整されると、調整負荷角速度Ωadもその値が調整されることになる。
【0043】
調整車輪角速度算出部130は、車輪角速度変換器131と、第2ローパスフィルタ132と、を備える。
車輪角速度変換器131は、水平速度指令Vrefを車輪14の半径rで除して、目標車輪角速度ωを算出する。算出された目標車輪角速度ωは、次段の第2ローパスフィルタ132に入力される。
第2ローパスフィルタ132は、前記目標車輪角速度ωの高周波成分をカットする。
第2ローパスフィルタ132は積分回路であり、その時定数が調整可能になっている。
このように調整された目標車輪角速度を調整車輪角速度ωadと称する。そして、背景技術の目標車輪角速度ωに代えて、調整車輪角速度ωadが偏差算出部42に出力される。
【0044】
次に、応答性調整部200について説明する。
ここで、図3は、応答性調整部200の動作フローを示す図である。
応答性調整部200は、指令値Vrefと実際の走行速度との偏差に基づいて調整目標生成部100の制御パラメータを調整する。
応答性調整部200は、応答時間調整部210と、オーバーシュート調整部220と、揺れ戻り調整部230と、を備えている。
【0045】
応答時間調整部210は、応答時間が所定値よりも短くなるように応答性を調整する。
応答時間調整部210は、応答時間判定部211と、第1時定数調整部212と、を備える。
応答時間判定部211には、応答時間の長短を判定するための閾値が予め設定されている。そして、応答時間判定部211は、水平速度指令値Vrefと実際の走行速度Vとを対比し、前記閾値を基準にして応答時間が長すぎるか否かを判定する(S211)。
【0046】
なお、実際の走行速度Vは、エンコーダ27にて検出される車輪回転速度ωに車輪半径rを乗算することによって求められる。
【0047】
なお、応答時間としては立ち上がり時間(rise time)、遅れ時間(delay time)、むだ時間(dead time)、行き過ぎ時間(time to peak)などがあるが、応答時間の判定にあたってはこれらのなかから一つ以上を選択して使用すればよく、どれを使用するかは適宜選択すればよい。
【0048】
応答時間判定部211の判定(S211)において、応答時間が基準の閾値よりも長かった場合(S211:YES)、その判定結果を第1時定数調整部212に送る。
第1時定数調整部212は、第1ローパスフィルタ112の時定数を調整する。
すなわち、応答時間判定部211の判定において応答時間が基準の閾値よりも長かった場合(S211:YES)、第1時定数調整部212は第1ローパスフィルタ112の時定数を下げるように調整を実行する(S212)。
【0049】
負荷角度ηの追従の遅れが立ち上がり時間等の応答時間に大きく影響すると考えられるので、応答時間が長すぎる場合には、第1ローパスフィルタ112の時定数を下げる。
これにより、調整負荷角度ηadに高周波の信号が含まれるようになり、立ち上がり等の応答が速くなる。
応答時間が改善したところで(S211:NO)、次にオーバーシュート量の調整に移行する。
【0050】
オーバーシュート調整部220は、オーバーシュートが所定値よりも小さくなるように調整する。
オーバーシュート調整部220は、オーバーシュート判定部221と、ゲイン調整部222と、を備える。
オーバーシュート判定部221には、オーバーシュートの大小を判定するための閾値が予め設定されている。そして、オーバーシュート判定部221は、指令値Vrefと実際の走行速度Vとを対比し、前記閾値を基準にしてオーバーシュートが大きすぎるか否かを判定する(S221)。
【0051】
オーバーシュート判定部221の判定(S221)において、オーバーシュートが基準の閾値よりも大きかった場合、その判定結果をゲイン調整部222に送る。
ゲイン調整部222は、増幅器113のゲインを調整する。
すなわち、オーバーシュート判定部221の判定においてオーバーシュートが基準の閾値よりも大きかった場合(S221:YES)、ゲイン調整部222は増幅器113のゲインを下げるように調整を実行する(S222)。
【0052】
負荷角度の揺れが大きいと速度の行き過ぎ量も大きくなってしまうと考えられるので、速度のオーバーシュートが大きすぎる場合には、増幅器113のゲインを下げる。
これにより、調整負荷角度ηadのレベルを下げ、結果として速度のオーバーシュートを小さくすることができる。
オーバーシュートが改善したところで(S221:NO)、次に揺れ戻りの調整に移行する。
【0053】
揺れ戻り調整部230は、停止時の揺れ戻りが所定値よりも小さくなるように応答性を調整する。
揺れ戻り調整部230は、揺れ戻り判定部231と、第2時定数調整部232と、を備える。
揺れ戻り判定部231は、停止時の揺れ戻り量の大小を判定するための閾値が予め設定されている。そして、揺れ戻り量が閾値よりも大きいか否かを判定する(S231)。
【0054】
ここで、揺れ戻りとは、走行装置が停止するときに図4に示すようにオーバーシュートして戻ってしまうことをいう(図4中の符号SB参照)。
前方に向けて走行しているときは図5(A)のように前傾して走行するので、停止時には車体部12を鉛直に戻さなければならない。
このとき、図5(B)に示すような揺れ戻りが生じる。
揺れ戻りが大きい場合、搭乗者60の乗り心地がよくないことはもちろん、目標位置に停止したつもりでも停止位置がずれてしまうということになる。
【0055】
揺れ戻り判定部231の判定において、揺れ戻りのオーバーシュート量が基準の閾値よりも大きかった場合(S231:YES)、その判定結果を第2時定数調整部232に送る。
第2時定数調整部232は、第2ローパスフィルタ132の時定数を調整する。
すなわち、揺れ戻り判定部231の判定において揺れ戻りオーバーシュートが基準の閾値よりも大きかった場合(S231:YES)、第2時定数調整部232は第2ローパスフィルタ132の時定数を上げるように調整を実行する(S232)。
これにより、調整車輪角速度ωadの変化がなめらかになり、停止時の揺れ戻りオーバーシュートを軽減する。
【0056】
なお、応答性調整部200による制御パラメータの調整動作(図3)は、走行装置の電源が投入されるたびに一回実行するようにしてもよく、あるいは、定期的に実行するようにしてもよい。
【0057】
このような構成を備える本実施形態によれば、目標追従性が向上する。
具体的には、応答時間、オーバーシュート、揺れ戻りを改善させることができる。
従来、搭乗者の体重や搭乗姿勢の違い等の不確定な変動値があるので安定性を重視して荷重変動に強い制御設計を行っていたが、その分、目標追従性を十分に上げることができなかった。
この点、本実施形態では、応答追従性についてはフィードバック補償部43から切り離し、調整目標生成部100の制御パラメータの調整によって改善することとした。
【0058】
すなわち、本実施形態では、目標値を生成する経路に制御要素として第1ローパスフィルタ112、増幅器113、第2ローパスフィルタ132を設け、これらの制御パラメータを調整可能としている。
そして、応答性調整部200において応答時間、オーバーシュート、揺れ戻りを判定した上で、第1ローパスフィルタ112、増幅器113、第2ローパスフィルタ132の制御パラメータを上下させて、目標値を調整する。
このように目標値を調整することで倒立安定性とは別個に応答性能を改善調整することができる。
また、フィードバック補償部43の設計においては、応答性能についてはそれほど考慮しなくてもよくなる。
したがって、フィードバック補償部43の設計にあたってはより一層安定性を考慮した補償要素を組み込むことができ、安全性を向上させることができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10…走行装置、12…車体部、12b…連結部、14…車輪、16…モータ、25…状態センサ、26…傾斜角センサ、27…エンコーダ、32…指令部、40…倒立走行制御部、41…目標生成部、42…偏差算出部、43…フィードバック補償部、44…モータドライバ、50…負荷、60…搭乗者、100…調整目標生成部、110…調整負荷角度算出部、111…負荷角度変換器、112…第1ローパスフィルタ、113…増幅器、120…調整負荷角速度算出部、121…ハイパスフィルタ、130…調整車輪角速度算出部、131…車輪角速度変換器、132…第2ローパスフィルタ、200…応答性調整部、210…応答時間調整部、211…応答時間判定部、212…第1時定数調整部、220…オーバーシュート調整部、221…オーバーシュート判定部、222…ゲイン調整部、230…揺れ戻り調整部、231…揺れ戻り判定部、232…第2時定数調整部、900…倒立走行制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された一対の車輪を有し、倒立状態を維持しながら走行する倒立型走行装置であって、
所望の走行速度を入力指令するための指令部と、
走行装置の状態を検出するセンサと、
前記指令部からの走行速度指令値で倒立走行を行うための目標指令値を生成する調整目標生成部と、
前記調整目標生成部にて生成された目標指令値と前記センサによる検出結果との偏差に基づいて走行制御を実行するフィードバック補償部と、
前記センサによる検出結果から求められる実際の走行速度と前記走行速度指令値との偏差に基づいて前記調整目標生成部の制御パラメータを調整する応答性調整部と、を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行装置において、
前記調整目標生成部は、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出する負荷角度変換器と、
前記負荷角度変換器にて算出された目標負荷角度指令値から高周波成分をカットする第1ローパスフィルタと、を備え、
前記応答性調整部は、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいて応答時間の長さを判定する応答時間判定部と、
前記応答時間判定部による判定結果に基づいて前記第1ローパスフィルタの時定数を調整する第1時定数調整部と、を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項3】
請求項2に記載の走行装置において、
前記応答時間判定部の判定によって応答時間が基準の閾値よりも長いと判定された場合、
前記第1時定数調整部は、前記第1ローパスフィルタの時定数を下げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の走行装置において、
前記調整目標生成部は、前記第1ローパスフィルタからの出力を微分して負荷角速度指令値を算出する調整負荷角速度算出部を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の走行装置において、
前記調整目標生成部は、
負荷の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記指令値と負荷にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出する負荷角度変換器と、
前記負荷角度変換器にて算出された目標負荷角度指令値にゲインを乗算する増幅器と、を備え、
前記応答性調整部は、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいてオーバーシュート量を判定するオーバーシュート判定部と、
前記オーバーシュート判定部による判定結果に基づいて前記増幅器のゲインを調整するゲイン調整部と、を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項6】
請求項5に記載の走行装置において、
前記オーバーシュート判定部の判定によって前記オーバーシュート量が基準の閾値よりも大きいと判定された場合、
前記ゲイン調整部は、前記増幅部のゲインを下げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の走行装置において、
前記増幅器からの出力を微分して負荷角速度指令値を算出する調整負荷角速度算出部を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の走行装置において、
前記調整目標生成部は、
前記走行速度指令値を前記車輪の半径で除して目標車輪角速度指令値を算出する車輪角速度変換器と、
前記車輪角速度変換器にて算出された目標車輪角速度指令値から高周波成分をカットする第2ローパスフィルタと、を備え、
前記応答性調整部は、
停止時の揺れ戻り量を判定する揺れ戻り判定部と、
前記揺れ戻り判定部による判定結果に基づいて前記第2ローパスフィルタの時定数を調整する第2時定数調整部と、を備える
ことを特徴とする走行装置。
【請求項9】
請求項6に記載の走行装置において、
前記揺れ戻り判定部の判定によって前記揺れ戻り量が基準の閾値よりも大きいと判定された場合、
前記第2時定数調整部は、前記第2ローパスフィルタの時定数を上げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置。
【請求項10】
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された一対の車輪を有し、倒立状態を維持しながら走行する倒立型走行装置の制御方法であって、
指令された走行速度指令値で倒立走行を行うための目標指令値を生成し、
生成された前記目標指令値と実際の走行速度との偏差に基づいてフィードバック補償をして走行制御を実行し、
実際の走行速度と前記走行速度指令値との偏差に基づいて前記調整目標指令値を調整する
ことを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の走行装置の制御方法において、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出し、
前記目標負荷角度指令値を第1ローパスフィルタに通した値を調整負荷角度指令値とし、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいて応答時間の長さを判定し、
前記応答時間が基準の閾値よりも長い場合、前記第1ローパスフィルタの時定数を下げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の走行装置の制御方法において、
車体部の重心と前記車輪の重心とをつなぐ直線が鉛直線との間になす角を負荷角度として、前記走行速度指令値と前記車体部にかかる重力との関係から目標負荷角度指令値を算出し、
前記目標負荷角度指令値に増幅器でゲインを乗算して調整負荷角度指令値とし、
前記走行速度指令値と実際の走行速度との差異に基づいてオーバーシュート量を判定し、
前記オーバーシュート量が基準の閾値よりも大きい場合、前記増幅器のゲインを下げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の走行装置の制御方法において、
前記調整負荷角度指令値を微分して調整負荷角速度指令値を算出する
ことを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれかに記載の走行装置の制御方法において、
前記走行速度指令値を前記車輪の半径で除して目標車輪角速度指令値を算出し、
前記目標車輪角速度指令値を第2ローパスフィルタに通した値を調整車輪角速度指令値とし、
停止時の揺れ戻り量を判定し、
前記揺れ戻り量が基準の閾値よりも大きい場合、前記第2ローパスフィルタの時定数を上げるように調整を実行する
ことを特徴とする走行装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−57169(P2011−57169A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211920(P2009−211920)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】