説明

偏光変換素子、プロジェクタ及び偏光変換素子の製造方法

【課題】透光性基板に位相差板を接着固定する際に接着剤が光学領域にはみ出すことなく汚れることがない偏光変換素子を提供する。
【解決手段】透光性基板84の光出射面に45°の角度をもって偏光分離膜85と反射膜86とを交互に設けて偏光分離素子81を構成し、この偏光分離素子81の光射出面側で選択的に複数の位相差板82を接着固定し、これらの位相差板82の隣にスペーサ83を密着配置し、これらのスペーサ83をそれぞれ透光性基板84と同じ光学特性を有する構成とした。そのため、偏光分離素子81の平面が位相差板82とスペーサ83とで埋められた状態となるので、位相差板82及びスペーサ83と、複数並んで板状となった透光性基板84とを接着剤で貼り合わせた際に、各位相差板82の端縁から接着剤がはみ出ることがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性基板が界面を介して複数配置されるとともに、これらの界面に偏光分離膜と反射膜とが交互に配置された偏光分離素子と、この偏光分離素子に選択的に配置された複数の位相差板とを備えた偏光変換素子、この偏光変換素子を備えたプロジェクタ、及び偏光変換素子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタは、光源装置から射出された光を画像情報に応じて変調し、この変調された光学像をスクリーンの上に拡大投射するものである。このプロジェクタでは、光の利用効率を向上させるため、光源装置から出射された非偏光な光を複数の中間光束に分割し、この分割された中間光束を1種類の直線偏光光に変換するために偏光変換素子が用いられている。
【0003】
偏光変換素子は、偏光膜と反射膜とが透明部材の内部に交互に配置されるとももに、この透明部材の表面に位相差板を設けた構造である。位相差板は、透明部材の光射出面側で偏光膜に対応した位置に所定間隔毎に複数配置されている。
従来では、耐熱性、耐光性、耐久性を考慮して、材料をポリカーボネートフィルムから水晶に変えた位相差板がある(特許文献1)。
この特許文献1で示される従来例では、透明部材に水晶からなる位相差板が接着剤で貼り付けられている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−302523号公報(請求項5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例は、位相差板が接着剤で透明部材の光出射面側に接着固定されているので、この接着剤が位相差板の端縁からはみ出すことになる。位相差板は透明部材の光出射面の全面に渡って所定間隔で互いに等間隔配置されているため、はみ出した接着剤によって偏光変換素子の光学領域が汚されることになる。
そして、位相差板が設けられた状態で偏光変換素子が洗浄されることがあるが、この洗浄の工程を通した際に、接着剤の残りによる汚れが生じることもある。
【0006】
本発明の目的は、透光性基板に位相差板を接着固定する際に接着剤が光学領域にはみ出すことなく汚れることがない偏光変換素子、プロジェクタ及び偏光変換素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる偏光変換素子は、互いに略平行な光入射面と光出射面とが形成され光出射面に所定の角度をもって複数の界面で順次設けられた複数の透光性基板、並びに前記複数の界面の交互に設けられた偏光分離膜及び反射膜を有する偏光分離素子と、この偏光分離素子の光射出面側で選択的に接着固定される複数の位相差板と、これらの位相差板の間に配置され前記透光性基板の上に接着固定されるとともに前記透光性基板と同じ光学特性を有するスペーサとを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、偏光変換素子の光入射面から入射した光は透光性基板を通り、偏光分離膜でP偏光光とS偏光光とに分離される。偏光分離膜で透過したP偏光光が位相差板でS偏光光に位相を変更した後に光出射面から出射し、S偏光光が反射膜で反射された後、スペーサを通って光出射面から出射する。これにより、偏光変換素子から出射される光はS偏光光に偏光状態が揃えられることになる。ここで、スペーサは透光性基板と同じ光学特性を有することから、反射膜で反射された光はスペーサを通っても光学特性が変化することがない。
従って、本適用例では、透光性基板が複数並んで形成された偏光分離素子の光出射側面が位相差板とスペーサとで埋められた状態となっているため、これらの並んで配置される位相差板と透光性基板とを接着剤で貼り合わせる際に、各位相差板の端縁から接着剤がはみ出ることがなくなり、偏光変換素子の光学領域が汚されることが少ない。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかる偏光変換素子は、前記スペーサは前記位相差板と略同じ厚さであり、前記スペーサと前記位相差板との光出射面側の表面が略同一面とされることを特徴とする。
この構成の適用例では、偏光変換素子の光出射面側に反射防止膜等を蒸着で形成する際に、被蒸着面が略同一面とされるので、蒸着膜の厚さが均一となる。つまり、従来の偏光変換素子では、位相差板が透明部材の光出射面に所定間隔で複数が配置されているため、偏光変換素子の被蒸着面に凹凸面が連続して形成されることになる。そのため、凸面と凹面との入り隅部が蒸着する際の影となり、蒸着膜の厚さが不均一となって、反射防止膜等の成膜の精度が十分ではなくなる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかる偏光変換素子は、互いに密着して配置される前記位相差板と前記スペーサとが接合されて単板形状の部材であることを特徴とする。
この構成の本適用例では、偏光分離素子に接着する前記位相差板及び前記スペーサを1枚の単板形状の部材から構成するため、偏光分離素子への前記位相差板及び前記スペーサの接着作業が容易となる。
【0010】
[適用例4]
本適用例にかかる偏光変換素子は、前記単板形状の部材と前記偏光分離素子とは互いに対向する平面が略同じ大きさであることを特徴とする。
この構成の本適用例では、単板形状の部材と偏光分離素子とを接着して仮に接着剤がはみ出したとしても、この接着剤がはみだした箇所が偏光変換素子の光学領域とは関係のない側面となるので、偏光変換素子の光学領域への汚れを確実に防止することができる。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかるプロジェクタは、光源装置と、この光源装置から射出された光が入光する前記偏光変換素子と、この偏光変換素子で形成された偏光光を画像情報に応じて変調して光学像を形成する光変調装置と、この光変調装置にて形成された光学像を拡大投射する投射光学装置とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、前述の通り、偏光変換素子の光学領域が接着剤で汚されることが少ないので、光源装置から出射された光が偏光変換素子、光変調装置及び投写光学装置を通ってスクリーン等に投写される際に、偏光変換素子の汚れに伴って映像が不鮮明となることがない。
【0012】
[適用例6]
本適用例にかかる偏光変換素子の製造方法は、前記スペーサと前記位相差板とを貼り合わせて前記単板形状の部材を形成する第1貼合工程と、この第1貼合工程で形成された前記単板形状の部材を予め形成された前記偏光分離素子に貼り合わせる第2貼合工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、予めスペーサ及び位相差板を貼り合わせて形成した単板形状の部材を、偏光分離素子に貼り合わせるから、スペーサと位相差板とを個別に偏光分離素子に貼り合わせる場合に比べて偏光変換素子の製造を容易に行うことができる。
【0013】
[適用例7]
本適用例にかかる偏光変換素子の製造方法は、前記第1貼合工程は、前記スペーサを構成する基材と前記位相差板を構成する基材とを貼り合わせてブロックにするブロック形成工程と、このブロック形成工程で形成されたブロックを前記スペーサ及び前記位相差板の厚さと略等しい厚さに切断して前記単板形状の部材にする切断工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、スペーサ及び位相差板を予めブロックに形成するため、第1貼合工程におけるスペーサと位相差板との貼り合わせ作業を容易に行うことができる。
【0014】
[適用例8]
本適用例にかかる偏光変換素子の製造方法は、前記切断工程の後に前記単板形状の部材を研磨する研磨工程を備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、ブロックを切断して形成された単板形状の部材を研磨することで、スペーサと位相差板とを貼り合わせる際に仮に接着剤がはみ出しても、はみだした接着剤を研磨により取り除くことができる。その上、研磨することで単板形状の部材の厚みを薄くすることにより、所定厚さの位相差板を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明の第1実施形態を図1から図4に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態の偏光変換素子8を用いたプロジェクタの一例が示されている。図1において、プロジェクタ1は、外装筺体2と、投射光学装置としての投射レンズ3と、光学ユニット4等を備える。
光学ユニット4は、光源装置41と、均一照明光学装置42と、色分離光学装置43と、リレー光学装置44と、光学装置45と、これら光学部品42〜45を内部に収納配置する光学部品用筐体46とを備える。
光源装置41は、光源ランプ411と、リフレクタ412と、平行化レンズ413とを有しており、光源ランプ411から射出された放射状の光束をリフレクタ412にて反射させ、平行化レンズ413を介して平行光として射出する。
【0016】
均一照明光学装置42は、第1レンズアレイ421と、第2レンズアレイ422と、上述の偏光変換素子8と、重畳レンズ424とを備える。
第1レンズアレイ421は、入射光軸方向から見て略矩形状の輪郭を有する第1小レンズが、入射光軸に対し略直交する面内においてマトリクス状に配列された構成を有している。各第1小レンズは、光源装置41から射出される光束を複数の部分光束に分割している。
第2レンズアレイ422は、第1レンズアレイ421と略同様な構成を有しており、第2小レンズがマトリクス状に配列された構成を有している。この第2レンズアレイ422は、重畳レンズ424とともに、第1レンズアレイ421の各第1小レンズの像を光学装置45の後述する液晶パネル上に結像させる機能を有している。
第2レンズアレイ422と重畳レンズ424との間には本実施形態にかかる偏光変換素子8が設置される。
【0017】
色分離光学装置43は、2枚のダイクロイックミラー431,432と、反射ミラー433とを備え、ダイクロイックミラー431,432により均一照明光学装置42から射出された複数の部分光束を、赤、緑、青の3色の色光に分離する機能を有している。
リレー光学装置44は、入射側レンズ441、リレーレンズ443、および反射ミラー442,444を備え、色分離光学装置43で分離された赤色光を光学装置45の後述する赤色光用の液晶パネルまで導く機能を有している。
【0018】
この際、色分離光学装置43のダイクロイックミラー431では、均一照明光学装置42から射出された光束の青色光成分が反射するとともに、赤色光成分と緑色光成分とが透過する。ダイクロイックミラー431によって反射した青色光は、反射ミラー433で反射し、フィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する青色光用の液晶パネルに達する。
このフィールドレンズ425は、第2レンズアレイ422から射出された各部分光束をその中心軸(主光線)に対して平行な光束に変換する。他の緑色光用、赤色光用の液晶パネルの光束入射側に設けられたフィールドレンズ425も同様である。
【0019】
ダイクロイックミラー431を透過した赤色光と緑色光のうちで、緑色光はダイクロイックミラー432によって反射し、フィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する緑色光用の液晶パネルに達する。一方、赤色光はダイクロイックミラー432を透過してリレー光学装置44を通り、さらにフィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する赤色光用の液晶パネルに達する。
【0020】
光学装置45は、光変調装置としての3枚の液晶パネル451(赤色光用の液晶パネルを451R、緑色光用の液晶パネルを451G、青色光用の液晶パネルを451Bとする)と、これら液晶パネル451の光束入射側および光束射出側にそれぞれ配置される偏光素子5と、クロスダイクロイックプリズム454とを備える。
クロスダイクロイックプリズム454は、射出側偏光板5Bから射出された色光毎に変調された光学像を合成してカラー画像を形成する。このクロスダイクロイックプリズム454で形成されたカラー画像は、上述した投射レンズ3によりスクリーン等へ拡大投射される。
【0021】
偏光変換素子8の具体的な構成が図2及び図3に示されている。図2は第1実施形態にかかる偏光変換素子8の概略図である。
図2に示される通り、偏光変換素子8は、互いに略平行な光入射面と光出射面とが形成された略板状の偏光分離素子81と、この偏光分離素子81の光出射面側に選択的に接着固定される複数の位相差板82と、これらの位相差板82の隣に密着配置されるとともに透光性基板84と同じ光学特性、例えば、同じ屈折率を有するスペーサ83とを備え、2個の部材が左右対称に接合された構造である。
【0022】
偏光分離素子81は、光出射面に対して所定の角度(図2では、45°)の界面で複数が順次設けられた透光性基板84と、これらの透光性基板84にそれぞれ設けられた偏光分離膜85及び反射膜86とを有する。偏光分離膜85及び反射膜86の光出射側面には反射防止膜87が蒸着で形成されている。
透光性基板84は、断面三角形や断面平行四辺形の角柱部材から形成されており、界面を構成する斜面に偏光分離膜85と反射膜86とが交互に配置されている。
透光性基板84を構成する材料としては、BK7等の光学ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラスをはじめとするガラスを例示できる。
【0023】
偏光分離膜85は誘電体多層膜で形成され、入射した光線束(S偏光光とP偏光光)を、S偏光の部分光束(S偏光光)とP偏光の部分光束(P偏光光)とに分離し、S偏光光を反射し、P偏光光を透過する機能を有する。
誘電体多層膜は、例えば、SiOよりなる低屈折率層と、MgFよりなる高屈折率層と、LaとAlの重量割合が1:3の混合物よりなる中屈折率層とが、所定の順序及び光学厚膜で形成された多層膜を例示できる。
反射膜86は誘電体多層膜又は金属膜で形成され、反射膜86に入射したS偏光光をそのまま反射する機能を有する。反射膜86を構成する多層膜はSiOよりなる低屈折率層とSiOよりなる高屈折率層とが所定の順序及び光学厚膜で交互に形成された多層膜を例示できる。
反射防止膜87は、例えば、二酸化ケイ素、酸化チタン等の物質を蒸着することで形成される。
【0024】
位相差板82は、厚さが例えば、28μmとされた短冊状の1/2波長板であり、透光性基板84の光出射側面であって偏光分離膜85に対応する位置に密着固定されている。位相差板82の幅寸法は偏光分離膜85と反射膜86との間の寸法と対応している。位相差板82はSiOの単結晶からなる水晶から形成され、この水晶は人工水晶でも天然水晶でもよい。
スペーサ83は、位相差板82の厚さ、例えば、28μmと略同じ厚さであり、この位相差板82とスペーサ83とが並んで1枚の単板形状の部材、つまり板状部材80が形成される。この板状部材80は、光出射面側の表面が凹凸のない略同一面とされる。
板状部材80と偏光分離素子81とは互いに対向する平面が同じ大きさである。同様に、板状部材80と反射防止膜87との互いに対向する平面は同じ大きさである。
【0025】
図3には本実施形態にかかる偏光変換素子8の要部が示されている。
図3において、偏光変換素子8の偏光分離素子81により三色波長帯のS偏光成分を偏光分離膜85で反射させるとともに、P偏光成分を透過させる。反射されたS偏光成分を隣の反射膜86で再度反射させて、スペーサ83及び反射防止膜87を介して重畳レンズ424(図1参照)に射出する。また、偏光変換素子8は、偏光分離膜85を透過したP偏光成分を位相差板82によりS偏光光に変換し、反射防止膜87を介して重畳レンズ424に射出する。
偏光変換素子8によって略1種類の偏光光(S偏光光)に変換された各部分光は、重畳レンズ424によって最終的に光学装置45の後述する液晶パネル上にほぼ重畳される。偏光光を変調するタイプの液晶パネルを用いたプロジェクタでは、1種類の偏光光しか利用できないため、ランダムな偏光光を発する光源装置41からの光の略半分を利用できない。このため、偏光変換素子8を用いることで、光源装置41からの射出光を略1種類の偏光光に変換し、光学装置45での光の利用効率を高めている。
【0026】
次に、第1実施形態の偏光変換素子8の製造方法を図4に基づいて説明する。
[第1貼合工程]
まず、スペーサ83と位相差板82とを貼り合わせて板状部材80を作成する。
そのため、図4(A)に示される通り、スペーサ83を成形するための板状基材830と、位相差板82を成形するための板状基材820とを接着剤で貼り合わせてブロック800にするブロック形成工程を行う。
ここで、板状基材820は位相差板82と同じ材質から形成されており、その厚さは位相差板82の幅と同じ寸法である。板状基材830はスペーサ83と同じ材質から形成されており、その厚さはスペーサ83の幅と同じ寸法である。これらの板状基材820,830は積層された状態では、その平面が板状部材80の平面と略同じである。
【0027】
板状基材830と板状基材820とを接着するための接着剤としては、種々のものを用いることができるが、例えば、接着加工が容易で比較的高温度に耐え得る一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。この紫外線硬化型接着剤としては、例えば、サンライズMI株式会社製のPHOTOボンド(登録商標)が用いられる。この紫外線硬化型接着剤は、塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を照射して硬化される。
【0028】
ブロック形成工程で形成されたブロック800を切断する切断工程を実施する。この切断工程では、スペーサ83及び位相差板82の厚さと略同じあるいはやや厚い程度に切断して板状部材80にする。
切断工程において板状部材80を成形するために、複数本のチェーンソー70を用いてブロック800を所定厚さに切断する。これらのチェーンソー70を、その切断する方向が板状基材820,830の平面方向と直交するようにそれぞれ配置し、これらのチェーンソー70を作動させる。すると、板状基材820,830が厚み方向に切断されて複数の板状部材80が同時に形成される。
【0029】
[第2貼合工程]
図4(B)(C)に示される通り、板状部材80を予め製造された偏光分離素子81に貼り合わせる。この際、板状部材80の平面全面に接着剤を塗布し、偏光分離素子81の平面に貼り合わせる。
ここで使用される接着剤や接着剤を硬化させる方法は、前述の板状基材830と板状基材820とを接着する場合と同じである。
なお、偏光分離素子81は透光性基板84となる平板部材を用意し、この平板部材の一平面に偏光分離膜85又は反射膜86を蒸着により形成し、偏光分離膜85が形成された平板部材と反射膜86が形成された平板部材とを交互に並べるとともにこれらを接着してブロック体を形成し、このブロック体を平板部材の平面に対して45°の角度で切断して形成するものである。図4(B)(C)で示される符号Dは位相差板82の光学軸の方向である。
【0030】
[研磨工程]
図4(D)に示される通り、偏光分離素子81に貼り合わされた板状部材80を研磨する。この研磨に際して、円盤状のグラインダ71に板状部材80の表面を当接し、この状態でグラインダ71を回転させる。この研磨工程により、板状部材80を位相差板82の規定の厚さ、例えば、28μmに調整する。
図4(E)に示される通り、偏光分離素子81に位相差板82及びスペーサ83が貼り付けられたら、これらの位相差板82及びスペーサ83の表面に反射防止膜87を蒸着により形成する。これにより偏光変換素子8が製造されることになる。
【0031】
従って、第1実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)透光性基板84の光出射面に45°の角度をもって偏光分離膜85と反射膜86とを交互に設けて偏光分離素子81を構成し、この偏光分離素子81の光射出面側で選択的に複数の位相差板82を接着固定し、これらの位相差板82の隣にスペーサ83を密着配置し、これらのスペーサ83をそれぞれ透光性基板84と同じ光学特性を有する構成とした。そのため、偏光分離素子81の平面が位相差板82とスペーサ83とで埋められた状態となるので、位相差板82及びスペーサ83と、複数並んで板状となった透光性基板84とを接着剤で貼り合わせた際に、各位相差板82の端縁から接着剤がはみ出ることがなくなる。従って、接着剤がはみ出ることに伴う偏光変換素子8における光学領域の汚れを防止することができる。さらに、位相差板82を研磨する際に、スペーサ83も同時に研磨することになるので、研磨に際して偏光分離素子81に直接研磨部材が触れることがないので、偏光分離素子81の平面が傷つくことがない。
【0032】
(2)スペーサ83と位相差板82とは略同じ厚さであり、かつ、スペーサ83と位相差板82の光出射面側の表面が略同一面とされるので、偏光変換素子8の光出射面側に蒸着で形成される反射防止膜87の膜厚が均一となる。そのため、蒸着箇所によって反射防止膜87の性能が変わるという不都合がない。
【0033】
(3)位相差板82とスペーサ83とを幅方向に並べて1枚の板状部材80としたから、この1枚の板状部材80の平面に接着剤を塗布することが可能となり、偏光分離素子81への位相差板82及びスペーサ83の接着作業が容易となる。
【0034】
(4)板状部材80と偏光分離素子81とは互いに対向する平面が同じ大きさであるので、これらの部材を接着した際に仮に接着剤がはみ出したとしても、この接着剤がはみだした箇所が偏光変換素子8の光学領域とは関係のない側面となり、偏光変換素子8の光学領域への汚れを確実に防止することができる。
【0035】
(5)偏光変換素子8を備えてプロジェクタ1を構成したから、偏光変換素子8の光学領域が接着剤で汚されることが少ないので、光源装置41から出射された光が偏光変換素子8を通ってスクリーン等に投写される際に、映像が不鮮明となることがない。
【0036】
(6)第1実施形態の偏光変換素子の製造方法は、まず、幅方向に並べて配置されるスペーサ83と位相差板82とを貼り合わせて板状部材80を形成し、その後、板状部材80を偏光分離素子81の光出射面側に貼り合わせるから、スペーサ83と位相差板82とを個別に偏光分離素子81に貼り合わせる場合に比べて偏光変換素子8の製造を容易に行うことができる。
【0037】
(7)幅方向に並べて配置されるスペーサ83と位相差板82とを互いに貼り合わせるために、まず、スペーサ83を構成する板状基材830と位相差板82を構成する板状基材820とを互いに貼り合わせてブロック800にし、その後、このブロック800をスペーサ83及び位相差板82の厚さと略等しい厚さに切断して板状部材80を形成したので、薄いスペーサ83と位相差板82とを幅方向に貼り合わせる場合に比べて、貼り合わせ作業を容易に行うことができる。
(8)ブロック800から板状部材80を切り出すに際して、複数のチェーンソー70を用いたから、複数の板状部材80を同時に作製することができるので、偏光変換素子8の製造を効率的に行うことができる。
【0038】
(9)ブロック800を切断して形成された板状部材80を研磨することにした。そのため、スペーサ83と位相差板82とを貼り合わせる際に仮に接着剤がはみ出しても、はみだした接着剤を研磨により取り除くことができるだけでなく、研磨することで板状部材80の厚みを薄くすることにより、位相差板82やスペーサ83を所定の厚さに形成することができる。
【0039】
(10)1枚の板状部材80を偏光分離素子81に貼り付けた構成であるため、偏光変換素子8の製造を容易に行うことができる。
【0040】
本発明の第2実施形態を図5から図7に基づいて説明する。
第2実施形態は、第1実施形態とは偏光変換素子の構造が相違するものであり、偏光変換素子が組み込まれるプロジェクタ自体の構成は第1実施形態と同じである。
第2実施形態の偏光変換素子は板状部材が2枚からなる点で第1実施形態とは相違するものであり、他の構造は第1実施形態と同じである。ここで、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略もしくは簡略にする。
【0041】
図5は第2実施形態にかかる偏光変換素子8Aの概略図である。
図5に示される通り、偏光変換素子8Aは、偏光分離素子81の光出射面側に2枚の板状部材80Aが接着剤で貼り合わされた構造である。これらの板状部材80Aは、それぞれ第1実施形態の板状部材80に比べて薄く形成されている。
板状部材80Aは位相差板82Aとスペーサ83Aとが並んで配置されており、板状部材80Aが積層された状態では、位相差板82A同士が対応した位置にあり、同様に、スペーサ83A同士が対応した位置にある。
【0042】
位相差板82Aは第1実施形態の位相差板82と同じ材質であるが、1枚あたりの厚さが第1実施形態の位相差板82より薄い。2枚の位相差板82Aが重ね合わされることで、波長が1/2変化する。
スペーサ83Aは第1実施形態のスペーサ83と同じ材質であるが、その厚さが位相差板82Aと同じであるため、第1実施形態のスペーサ83より薄い。
これらのスペーサ83Aはそれぞれ透光性基板84と同じ光学特性、例えば、同じ屈折率を有する構造である。
【0043】
次に、第2実施形態の偏光変換素子8Aの製造方法を図7に基づいて説明する。
[第1貼合工程]
まず、図7(A)に示される通り、第1実施形態と同様に、スペーサ83Aを成形するための板状基材830と、位相差板82Aを成形するための板状基材820とを接着剤で貼り合わせてブロック800にするブロック形成工程を行う。
そして、ブロック800を切断する切断工程では、スペーサ83A及び位相差板82Aの厚さと略同じあるいはやや厚い程度に切断して板状部材80Aにする(図7(B)参照)。
【0044】
[研磨工程]
図7(C)に示される通り、板状部材80Aを研磨する。この研磨に際して、2枚の円盤状のグラインダ71の間に板状部材80Aを配置し、この状態でグラインダ71を回転させる。この研磨工程により、板状部材80Aを位相差板82の規定の厚さに調整する。
【0045】
[第2貼合工程]
図7(D)に示される通り、2枚の板状部材80A同士を重ね合わせ、これらを接着剤で貼り合わせる。この接着剤は前述の接着剤を用いる。なお、図7で示される符号Dは位相差板82Aの光学軸の方向であるが、2枚の板状部材80Aを積層する際には、積層される位相差板82Aの光学軸が交差するようにする。
そして、図7(E)に示される通り、予め製造された偏光分離素子81に積層された2枚の板状部材80Aを貼り合わせる。
さらに、偏光分離素子81に位相差板82A及びスペーサ83Aが貼り付けられたら、これらの位相差板82A及びスペーサ83Aの表面に反射防止膜87を蒸着により形成する。
【0046】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(1)〜(9)と同様の作用効果を奏することができる。
【0047】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、位相差板82,82A及びスペーサ83,83Aの表面に反射防止膜87を形成したが、本発明では、反射防止膜87を必ずしも形成することを要せず、仮に、形成する場合でも蒸着以外の手段を採用するものとしてもよい。
また、偏光変換素子8,8Aをプロジェクタ1に用いたが、本発明では、プロジェクタ1以外の装置、例えば、撮像装置にも用いることができる。
【0048】
また、位相差板82,82Aとスペーサ83,83Aとを接合して板状部材80,80Aを形成し、この板状部材80,80Aを偏光分離素子81に貼り付けたが、本発明では、位相差板82,82Aとスペーサ83,83Aとを繋げて板状部材とせず、個別に偏光分離素子81に貼り付ける構成であってもよい。
仮に、位相差板82,82Aとスペーサ83,83Aとを接合して板状部材80,80Aを形成する場合であっても、板状部材80,80Aの平面上の大きさを偏光分離素子81の平面に対して大きくあるいは小さくするものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、プロジェクタ、その他の装置に用いられる偏光変換素子に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるプロジェクタの概略構成図。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる偏光変換素子の全体を示す概略図。
【図3】前記偏光変換素子の要部を示す断面図。
【図4】(A)〜(E)は本発明の第1実施形態にかかる偏光変換素子の製造方法を説明するための概略図。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる偏光変換素子の全体を示す概略図。
【図6】前記偏光変換素子の要部を示す断面図。
【図7】(A)〜(E)は本発明の第2実施形態にかかる偏光変換素子の製造方法を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0051】
1…プロジェクタ、3…投射レンズ(投射光学装置)、8,8A…偏光変換素子、80,80A…板状部材(単板形状の部材)、81…偏光分離素子、82,82A…位相差板、83,83A…スペーサ、84…透光性基板、85…偏光分離膜、86…反射膜、41…光源装置、45…光学装置、451…液晶パネル(光変調装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに略平行な光入射面と光出射面とが形成され光出射面に所定の角度をもって複数の界面で順次設けられた複数の透光性基板、並びに前記複数の界面の交互に設けられた偏光分離膜及び反射膜を有する偏光分離素子と、この偏光分離素子の光射出面側で選択的に接着固定される複数の位相差板と、これらの位相差板の間に配置され前記透光性基板の上に接着固定されるとともに前記透光性基板と同じ光学特性を有するスペーサとを備えたことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載された偏光変換素子において、
前記スペーサは前記位相差板と略同じ厚さであり、前記スペーサと前記位相差板との光出射面側の表面が略同一面とされることを特徴とする偏光変換素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された偏光変換素子において、
互いに密着して配置される前記位相差板と前記スペーサとが接合されて単板形状の部材であることを特徴とする偏光変換素子。
【請求項4】
請求項3に記載された偏光変換素子において、
前記単板形状の部材と前記偏光分離素子とは互いに対向する平面が略同じ大きさであることを特徴とする偏光変換素子。
【請求項5】
光源装置と、この光源装置から射出された光が入光する請求項1から請求項4のいずれかに記載の偏光変換素子と、この偏光変換素子で形成された偏光光を画像情報に応じて変調して光学像を形成する光変調装置と、この光変調装置にて形成された光学像を拡大投射する投射光学装置とを備えたことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された偏光変換素子を製造する方法であって、
前記スペーサと前記位相差板とを貼り合わせて前記単板形状の部材を形成する第1貼合工程と、この第1貼合工程で形成された前記単板形状の部材を予め形成された前記偏光分離素子に貼り合わせる第2貼合工程とを備えたことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された偏光変換素子の製造方法において、
前記第1貼合工程は、前記スペーサを構成する基材と前記位相差板を構成する基材とを貼り合わせてブロックにするブロック形成工程と、このブロック形成工程で形成されたブロックを前記スペーサ及び前記位相差板の厚さと略等しい厚さに切断して前記単板形状の部材にする切断工程とを備えたことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載された偏光変換素子の製造方法において、
前記切断工程の後に前記単板形状の部材を研磨する研磨工程を備えたことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−168879(P2009−168879A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4021(P2008−4021)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】