説明

側壁を介した可変熱交換を備える溶融凝固炉

結晶材料(3)を溶融させかつ凝固させる溶融凝固炉(1)は、底部(4)および側壁(5)を有する坩堝(2)と、電磁誘導によって結晶材料を加熱するための手段と、を備える。炉は、側壁(5)の周囲の坩堝(2)の周辺に配置された少なくとも1つの側部断熱システム(6)を含む。側部断熱システム(6)の少なくとも1つの側部エレメントは、側壁(5)に対して、断熱位置と熱損失を助長する位置との間を移動する。側部断熱システム(6)は、1S/m未満の電気伝導率と、15W/m/K未満の熱伝導率と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
底部および側壁を有する坩堝と、
側壁の周囲の坩堝の周辺に配置された側部断熱システムと、
断熱位置と熱漏洩を助長する位置との間において、側部断熱システムの少なくとも1つの側部エレメントを側壁に対して動かす手段と、を備えた結晶材料の溶融凝固炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の手法では、結晶材料、典型的には半導体材料および金属材料は、不十分な純度および/または不適切な結晶構造のために、様々な技術分野において使用できない。結晶材料がきわめて厳しい要求仕様を満たせるようにするためには、例えば、その材料中の不純物の量を減少させるために、および/または、最終固体材料における結晶組織を与えるために、それらの結晶材料には、様々な溶融凝固サイクルが施される。
【0003】
結晶材料の精製は、最初に、液相精製法を用いた溶融段階において、例えばプラズマ・トーチを用いて、実行可能である。不純物は固相から溶融材料へ選択的に偏析するので、精製は凝固中に実行されてもよい。従来の手法では、凝固段階が、結晶材料の結晶相を画定するために使用される。
【0004】
従来の手法では、結晶化されるべき材料は、供給原料の形で坩堝内に配置され、その坩堝自体は、垂直炉内に配置される。その炉は、結晶材料を溶融させる加熱手段と、溶融材料の冷却段階中にきわめて独特の温度勾配を溶融材料に与える冷却手段と、を備える。加熱手段は、例えば、誘導型のものから選択される。なぜなら、誘導型の加熱手段は、結晶材料を加熱し、それと同時に、溶融材料を撹拌することを可能にするからである。
【0005】
しかしながら、結晶化されるべき材料の様々な処理段階中に、処理炉の機能とその処理炉を構成するエレメントの機能とは異なる。最初に、材料の溶融が実行されるときには、熱損失を減少させ、それによって、炉の十分な効率を保証するために、炉のきわめて良好な断熱、とりわけ坩堝のきわめて良好な断熱が必要である。
【0006】
精製の場合には、効率的な撹拌の達成が重要であるのと同様に、炉温を制御することも重要である。したがって、坩堝によって失われるエネルギーに対して坩堝に供給されるエネルギーの量を制御して、溶融材料の温度を制御することが重要である。さらに、良好な撹拌は、汚染物質を備えた自由表面の再生を保証する。上述したように、誘導加熱手段は、液槽の加熱及び撹拌の両方を実行する。コイルを流れる電流が大きくなればなるほど、撹拌および加熱はより強くなり、相反する2つの条件である、正確な炉温を完璧に制御するという条件と、強い撹拌を維持するという条件とを、同時に維持することはきわめて難しい。
【0007】
指向性凝固の場合には、材料からの熱除去は、完璧に制御されなければならない。なぜなら、材料からの熱除去を完璧に制御することは、凝固先端部の発達と、それによる最終材料の結晶学的品質と、を条件付ける坩堝に施される温度勾配であるからである。さらに、結晶化中に、液相は、材料を構成する成分の均一な分布を保証するために撹拌もされる。
【0008】
国際特許出願第WO2005/105670号は、半導体材料のブロックを製造する機器を記載している。この機器は、特定の処理専用の2つの別個のチャンバーを備える。第1のチャンバーおよび第1の坩堝は、半導体材料の溶融および精製の実行に使用される。そして、第2のチャンバーおよび第2の坩堝は、結晶化の実行に使用される。この機器は、複雑であり、かつ、溶融材料を第1の坩堝から第2の坩堝へ移す手段を必要とする。この機器は、2つのチャンバーが設置され、かつ、管理されなければならないので、大きな表面を占める。
【0009】
フランス特許第FR2553232号は、インゴットを多結晶半導体材料から製造する装置を記載している。この装置は坩堝を備え、この坩堝の中には半導体材料が配置される。装置は誘導加熱手段を備え、坩堝は、坩堝の側壁および底部に接触して配置された炭素フェルトによって断熱される。この装置は、半導体材料の溶融および結晶化を同じ坩堝内で実行する。結晶化は、坩堝の下に配置されたフェルトを除去することによって達成され、このフェルトの除去は、坩堝の底部を介した熱漏洩をもたらす。しかしながら、坩堝の底部に垂直な温度勾配は、溶融材料における安定した温度勾配(底部において冷温)を発生させるが、これは、均一な材料を得るのに必要な撹拌運動を妨げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願第WO2005/105670号明細書
【特許文献2】フランス特許第FR2553232号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、実施が容易であり、溶融および結晶化に1つの坩堝のみを使用し、かつ、溶融材料の過熱を制御するのを可能にし、それと同時に、大きな撹拌レートを有するのを可能にする、溶融結晶化炉を提供することである。
【0012】
本発明の炉は、添付の特許請求の範囲により特徴付けられ、より詳細には、
側部断熱システムは、1S/m未満の電気伝導率と、15W/m/K未満の熱伝導率と、を有し、
移動手段は、側部断熱システムの少なくとも1つの側部エレメントを横方向に動かす手段を備え、
側部断熱システムは、断熱位置においては連続的であり、かつ、熱漏洩を助長する位置においては非連続的である、リングを形成する、少なくとも2つの隣接するサブエレメントによって形成されることを特徴し、かつ、
電磁誘導によって結晶材料を加熱する手段を備えることを特徴とする。
【0013】
その他の利点および特徴は、非限定な例示目的でのみ提供され、かつ、添付の図面に示された、以下の本発明の特定の実施形態の説明からより明確になろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の坩堝および側部断熱エレメントの特定の実施形態を概略的に示す平面図。
【図2】2つの異なる断熱構成における、本発明の坩堝および側部断熱エレメントのさらなる特定の実施形態を概略的に示す縦断面図。
【図3】2つの異なる断熱構成における、本発明の坩堝および側部断熱エレメントのさらなる特定の実施形態を概略的に示す縦断面図。
【図4】異なる断熱構成における本発明の坩堝および側部断熱エレメントの第3の特定の実施形態を概略的に示す平面図。
【図5】異なる断熱構成における本発明の坩堝および側部断熱エレメントの第3の特定の実施形態を概略的に示す平面図。
【図6】異なる断熱構成における本発明の坩堝および側部断熱エレメントの第3の特定の実施形態を概略的に示す平面図。
【図7】本発明の側部断熱エレメントを概略的に示す縦断面図。
【図8】本発明の側部断熱エレメントを概略的に示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図6に示されるように、溶融凝固炉1は坩堝2を備え、この坩堝2の中には、半導体型または金属型の結晶材料3が配置される。溶融凝固炉1は、また、電磁誘導による結晶材料3の加熱装置(図示せず)を備える。加熱装置は、例えば、1つ以上のコイルからなり、このコイルには、所定の周波数を有する交流電流が流れる。
【0016】
坩堝2は、無冷却高融点材料(non−cooled refractory material)から作られた底部4および側壁5を有するので、坩堝は高温坩堝型である。側壁5は、坩堝2の底部4に垂直な縦方向Lに方向を合わせて配置される。側壁5は、縦方向Lにおいて、坩堝2の底部4からの高さhを有する。坩堝2は、坩堝の側壁5の外面に対応する外面を提供する。坩堝2は、側部熱漏洩の調節手段と組み合わせられる。これらの調節手段は、坩堝2の側壁5を介して坩堝2から出る熱エネルギーの割合を可変にする。それによって、坩堝2の外面を通って坩堝2から出るエネルギー束を調節することができる。
【0017】
このために、溶融凝固炉1は、側壁5の周囲坩堝2の周辺に配置された環状側部断熱システム6を備える。側部断熱システム6は、坩堝2に対して移動性がある。好適には、坩堝2の少なくとも側壁5には、追加の断熱材料(図示せず)が重ね合わせられ、この断熱材料は、坩堝2に対して固定され、かつ、坩堝2の第1の断熱を実行する。側部断熱システム6は、坩堝2に対して移動する少なくとも1つの側部断熱エレメント7を備える。
【0018】
別の実施形態においては、側部断熱システム6は、主側部断熱エレメント7と付加的側部断熱エレメント7’と、を備える(図2〜図6)。そして、主側部断熱エレメント7は、別個の付加的側部断熱エレメント7’によって囲まれる。これらの2つの側部断熱エレメント7および7’は、移動性があり、かつ、互いに独立して移動することができる。
【0019】
側部断熱システム6が、単一の側部断熱エレメントだけを備える場合、すなわち、側部断熱エレメント7のみを備える場合には、この側部断熱エレメント7は、システム6に同化されてもよく、同化された側部断熱エレメント7とシステム6とを、側部断熱エレメント6ということができる。
【0020】
側部熱漏洩を調節するための手段は、坩堝2の側壁に対する側部断熱システム6の移動手段を備える。本実施形態によれば、移動手段は、また、主側部断熱エレメント7のための独立した移動手段と、付加的側部断熱エレメント7’のための独立した移動手段と、を備えてもよい。その結果、側部断熱システム6は、断熱位置と側壁5を介した熱漏洩を助長する位置との間を移動する。
【0021】
移動手段は、少なくとも1つの側部断熱エレメント7、7’の縦方向Lへの移動手段を備えてもよい。この実施形態は、側部断熱エレメント7、7’が坩堝2の高さに等しい高さを有する場合に有益である。好適には、この断熱位置において、側部断熱エレメント7、7’の高さの全体は、損失をできる限り減少させるために、側壁と重なり合っている。
【0022】
図2および図3に示されるように、調節手段は、主側部断熱エレメント7および付加的側部断熱エレメント7’の縦方向Lへの移動手段を備える。この場合には、側部断熱エレメント7および7’は、坩堝2の底部4に対して移動し、側部断熱エレメントを側壁5から分離する距離は一定である。
【0023】
この実施形態は、側部断熱エレメント7および7’が、坩堝2の高さより低い高さを有する場合に、とりわけ、坩堝2内の溶融材料の量の高さより低い高さを有する場合に有益である。垂直と呼ばれる断熱位置においては、側部断熱エレメント7および7’は、側壁5の高さの全体を被覆し、それと同時に、互いに重なり合う最大表面を有する。側壁5を介した熱漏洩を増加させるために、側壁5の高さの全体にわたる被覆範囲は、もはや保証されない。側部断熱エレメント7および7’は、縦方向運動によって互いに近づく。側壁5の邸部を被覆するのは、縦方向に側壁5の上部に移動する側部断熱エレメント7または7’である。
【0024】
これまでの実施形態と組み合わせ可能な別の実施形態においては、移動手段は、また、側部断熱エレメント6の横方向への移動手段を備えてもよい。この運動の横方向は、縦方向Lに垂直である。この場合には、側部断熱システム6は、少なくとも1つの側部断熱エレメントを備えるが、この側部断熱エレメントは、サブエレメント毎に固有の方向に、各サブエレメントを近づけまたは遠ざけるのを可能にするために、複数のサブエレメントに分割されなければならない。換言すると、側部熱漏洩の調節手段は、互いに独立したそれぞれのサブエレメントの移動手段を備える。
【0025】
そのために、側部断熱システム6は、少なくとも2つのサブエレメント6a、6bによって形成される(図1)。側部断熱エレメントは、坩堝2の底部を切る少なくとも第1の切断面に沿って切断される。
【0026】
図4〜図6に示されるように、主側部断熱エレメント7は、坩堝2を取り囲むリングを形成する3つのサブエレメント7a、7b、および、7cによって形成される。側部断熱エレメントが断熱位置にあるとき、すなわち、すべてのサブエレメントが連結されているときには、このリングは連続的である。熱漏洩を助長する位置においては、サブエレメントはもはや連結されておらず、リングは非連続的である。
【0027】
図1の長方形の坩堝を囲む側部断熱システム6の場合にも、同じことが言える。
【0028】
同様に、付加的側部断熱エレメント7’は、図4〜図6の3つのサブエレメント7’a、7’b、および、7’cによって形成される。側部断熱エレメント7および7’は、坩堝2の底部を切る種々の切断面に沿って切断されてもよい。
【0029】
それぞれのサブエレメント6a、6b、7a、7b、7c、7’a、7’b、7’cは、2つの主表面と、4つの二次的な表面と、を備える。坩堝の側壁の外面に重なり合うように配置された主表面は、サブエレメントの内面と呼ばれる。外側を向いた主表面は、サブエレメントの外面と呼ばれる。サブエレメントの内面は、サブエレメントの外面または重なり合う坩堝の外面と相補的である。したがって、例として、サブエレメント6aおよび7aの内面は、向かい合った坩堝の外面と略相補的であるので、それらの内面および外面は、互いにぴったりと嵌ることができる。したがって、側部断熱エレメント6および7は、最大の断熱を達成するために、坩堝2の側壁5を囲むことができる。
【0030】
同様に、主側部断熱エレメント7および付加的断熱エレメント7’の重なり合った内面および外面は相補的であるので、それらの内面および外面は互いにぴったりと嵌ることができる。したがって、付加的側部断熱エレメント7’は、断熱位置において最大の断熱を有するために、主側部断熱エレメント7の側壁を囲むことができる。
【0031】
図3〜図6に示されるように、調節手段は、側部断熱エレメント7および7’の横方向Aへの移動手段を備えてもよい。それぞれの側部断熱エレメント7および7’は、複数のサブエレメントからなり、これらのサブエレメントは、図4において、サブエレメントに固有の所定の横方向Aa、Ab、Acへ移動する。このために、この運動の横方向は、半径方向または接線方向であってもよい。したがって、側面に対する接線方向運動、すなわち、円筒形の坩堝の半径に対する接線に沿った運動、または、四角形の底面もしくは長方形の底面を備えた坩堝の側面に平行な方向への運動、を有することが想定される。また、放射状の運動を有することも想定される。
【0032】
この運動の横方向は、坩堝2の縦方向Lに垂直であり、かつ、それぞれの構成要素をなす断熱部材(7a〜7c、7’a〜7’c)の特性点を通過する。運動Aの横方向は、サブエレメントの平坦な内面に直角のベクトルであってもよい。平行六面体の場合には、運動の横方向はさらに、サブエレメントの種々の表面と坩堝2の向かい合った側壁との間で等しい分離距離が得られることを保証する方向であってもよい。
【0033】
側部断熱エレメント7および7’の切断面は、好適には同一であるが、ずれていてもよい。また、側部断熱エレメント7および7’が同じ数のサブエレメントを有していないことも想定される。側部断熱エレメント7および7’は、異なる切断面によって分割することができるので、主側部断熱エレメント7のサブエレメントは、例えば、付加的側部断熱エレメント7’の2つのサブエレメントに重なり合ってもよい。したがって、側部断熱エレメント7および7’は、図4〜図6に示される特定の場合と異なり、同じ方向の運動を有する必要はない。
【0034】
これまでの実施形態と組み合わせ可能な特定の実施形態においては、側部断熱システム6の内面または主側部断熱エレメント7の内面は、坩堝2の外面よりわずかに大きいので、断熱位置においては、空気または気体の所定の薄膜が、坩堝2と側部断熱エレメント6または7との間に存在し、それにより、坩堝2とサブエレメントのそれぞれとの間に存在する。主側部断熱エレメント7と付加的側部断熱エレメント7’との間の場合にも同じことが言えるので、断熱位置においては、空気または気体の所定の薄膜が、これらの2つのエレメント7及び7’の間に存在する。
【0035】
坩堝2の形状が円筒形である場合には、側部断熱システム6のサブエレメント7、7’は、好適には、所定の厚さを有する円弧の形状である。坩堝2が四角形ベースまたは長方形ベースのものであれば、サブエレメントの内面は平坦な表面であってもよい。しかしながら、サブエレメントが坩堝2のエッジに重なり合っている場合には、サブエレメントの内面は複雑であると言われており、2つの平坦な表面に挟まれた角度を備える(図1)。
【0036】
溶融段階、精製段階、および、凝固段階において使用できるものであるためには、側部断熱システム6は、断熱位置と側壁5を介した熱漏洩を助長する位置との間を移動する。典型的には、側部断熱システム6は、坩堝2の側壁5または底部4に近づき、もしくは、坩堝2の側壁5または底部4から遠ざかる。
【0037】
図3〜図6に示されるように、側部断熱システム6の断熱位置においては、坩堝2と側部断熱システム6との間の距離は許容される最小距離であり、これは、主側部エレメント7および付加的側部エレメント7’の側壁5に対する最小距離をもたらす。この最小距離は、ゼロであってもよく、あるいは、所定の厚さであってもよい。熱漏洩を助長する側部断熱システム6の位置においては、坩堝2と側部断熱システム6との間の距離は、許容される最大距離であり、側壁5を介した熱漏洩は最大である。
【0038】
このように、調節手段によって得られる構成によれば、坩堝の側壁を介した熱漏洩はきわめて小さいか、または、それより大きく、側壁を介した漏洩の割合を、連続的または非連続的に可変にする。
【0039】
溶融段階において、漏洩は最小値にまで減少し、この減少は、誘導加熱手段によって効率的な加熱および撹拌の両方を有することが可能となり、それと同時に、この処理の良好なエネルギー効率を維持する。結晶化が行われると、側壁を介した熱漏洩はより大きくなり、坩堝内の材料の熱伝導率の変化に適応するために、結晶化が進行する「につれて連続的または非連続的に増加してもよい。
【0040】
この実施形態においては、調節手段が、側部断熱システム6の移動手段を、例えば、側部断熱エレメント7および7’を、坩堝2の縦軸に対して回転する状態で備えることは有益なことである。側部システム6の回転、または、エレメント7および7’の回転を互いに独立して実行することは、とりわけ有害な低温領域が坩堝上に形成されるのを防止する。エレメント7および7’は、互いに独立して移動してもよく、それにより、2つのエレメント7および7’の一方を他方に対して固定することができ、または、2つのエレメント7および7’は、異なる速度で移動するか、もしくは、反対方向に移動してもよい。
【0041】
坩堝2の底部4に対する側部断熱エレメント6の縦方向位置により、いくぶん大きな温度勾配を坩堝2の高さにわたって発生させることが可能になる。
【0042】
図1〜図6の種々の実施形態を組み合わせたものに対応する別の特定の実施形態においては、側部断熱システム6は、縦方向および横方向に移動性のあるものであってもよい。この実施形態は、当然ながら、主側部断熱エレメント7および付加的断熱エレメント7’に適用されてもよい。したがって、側部断熱エレメント7および7’は、縦方向および横方向のいずれにも移動することができる。また、主側部断熱エレメント7が縦方向に移動し、かつ、付加的側部断熱エレメント7’が横方向に移動することも考えられる。
【0043】
側部断熱システム6を構成する断熱材料は、好適には、炉加熱手段によって生成される電磁結合をできる限り制限するために、電気的な絶縁材料から形成される。断熱材料は、1S/m未満の電気伝導率を有する。また、断熱材料は、低い熱伝導率、典型的には15W/m/K未満の熱伝導率を有する材料から選択される。
【0044】
側部断熱システム6の断熱材料は、例えば、アルミナ、Macor(登録商標)、ムライト、または、ジルコンから選択されてもよい。すべての側部断熱エレメントおよびサブエレメントは、好適には、同じ材料から作られる。
【0045】
断熱材料は、好適には、0.3から0.6までの範囲に存在する放射率を有する。放射率が小さい場合には、側部断熱部材の断熱性および付加的側部断熱部材の断熱性は、現実には向上するが、炉の慣性は増大する。
【0046】
炉は、真空において動作してもよく、または、制御された気体雰囲気において動作してもよい。この気体雰囲気は、アルゴン、酸素、水素、ヘリウム、窒素、空気、または、これらの気体に基づいた混合物、の中から選択された気体によって形成されてもよい。好適には、気体雰囲気は、中性ガス、または、中性ガスの混合物によって形成される。
【0047】
炉1が気体雰囲気を備える場合には、側壁5を介した熱損失は、放射及び対流によって達成される。
【0048】
縦方向においては、側部断熱システム6の厚さおよび/または側部断熱エレメント7および7’の厚さは一定であるが、連続的に変化してもよい。坩堝の底部に垂直な切断面における側部断熱エレメント7および7’の断面は、長方形の形状または直角台形(rectangular trapezoid)の形状を有する。側部断熱エレメント6、7、7’の高さの全体にわたって厚さが一定でない場合には、最も厚い厚さは、好適には、断熱部材の上部に存在する。この厚さの変化により、いくぶん大きな軸方向温度勾配を坩堝2の高さにわたって発生させることが可能になる。
【0049】
特定の実施形態においては、熱漏洩を調節するために、複数の孔が側部断熱部材および/または付加的側部断熱部材にあけられる。また、付加的側部断熱エレメント7’によって主側部断熱エレメント7の孔を完全にまたは部分的に塞ぐために、側部断熱エレメント7と7’との間の回転またはずれの角度を制御することは、有益となる可能性がある。この動作モードは、とりわけ、円筒形の坩堝の場合に有益である。
【0050】
この実施形態においては、調節手段は、側部断熱システム6、例えば、側部断熱エレメント7および7’の移動手段を、坩堝2の縦軸に対して回転する状態で備えてもよい。
【0051】
側部断熱システム6の厚さ、または、エレメント7および7’の厚さの合計は、好適には、2mmから20mmまでの間に含まれ、より好適には、5mmから10mmまでの間に含まれる。側部断熱システム6の高さは、典型的には、10cmから20cmまでの間に含まれる。
【0052】
例として、側部断熱システム6と坩堝との間の横方向の移動は、0cmから10mmまでの間に含まれてもよい。
【0053】
同様に、例として、側部断熱システム6の縦方向運動は、5cmから15cmまでの間に含まれる。
【0054】
坩堝2から取り出される熱は、必要であれば、側部断熱エレメント6およびエレメント7および7’に対する坩堝2の幾何学的構成の変化によって調節される。熱流束の調節は、
− 側部断熱システム6と側壁5との間の横方向の距離、
− 主側部断熱エレメント7と付加的側部断熱エレメント7’との間の横方向の距離、および、付加的側部断熱エレメントと坩堝とを隔てている距離、
− 側部断熱エレメント6の坩堝2の側壁5との垂直方向における重なり、または、エレメント7および7’の坩堝2の側壁5との垂直方向における重なり合い、
− エレメント7および7’の垂直方向における互いの重なり合い、
− 炉1内の気体雰囲気の組成、
− 角回転(angular rotation)による重なり合い、
を単独かまたは組み合わせて調節することによって達成されてもよい。
【0055】
例として、本発明による結晶生成炉は、シリコンに適した炉であり、次のようにして達成されてもよい。側部熱損失の調節手段は、主側部断熱エレメントおよび付加的側部断熱エレメントを備える。これらの2つの側部断熱エレメントは、アルミナから作られる。坩堝は、図3と同じような円筒形型である。坩堝の直径は20cmに等しく、側壁は25cmに等しい高さを有する。側部断熱エレメントは、15cmに等しい高さおよび8mmに等しい厚さを有する。また、炉は固定断熱材料を備え、この断熱材料の厚さは5cmに等しい。動作中には、断熱材料の内面の温度は約800℃である。
【0056】
溶融段階中には、側部断熱エレメントは断熱位置にある。坩堝の側壁を介した熱損失を最大限に減少させるために、これらの側部断熱エレメントは坩堝に連結される。この断熱位置は、図2または図4に示される。この連結によって、側壁を介して坩堝から取り出される熱流束は約10kWとなる。凝固が開始されると、付加的側部断熱エレメントは、シリコンの凝固速度に関連づけられた速度で、坩堝の底部から縦方向に連続的に移動する。シリコンの凝固方向は、付加的側部断熱エレメントの移動方向と同じである。凝固速度は約10mm/hである。
【0057】
残った溶融材料がほとんどない凝固の終了時点において、付加的側部断熱エレメントは、縦方向に10cmだけ動かされる。この構成は、図3または図6に示される。側壁を介して取り出される熱流束は約13kWであり、これは、取り出された流束が、断熱構成に対して30%だけ増加したことを表している。
【0058】
2つの側部断熱エレメントがアルミナではなくMacor(登録商標)から作られている場合には、取り出される流束の断熱構成に対する増加は約75%である。
【0059】
炉は、垂直方向の温度勾配を与えるために、坩堝の底部の下に配置された冷却手段を備える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶材料(3)の溶融凝固炉(1)であって、
底部(4)および側壁(5)を有する坩堝(2)と、
前記側壁(5)の周囲の前記坩堝(2)の周辺に配置された側部断熱システム(6)と、
断熱位置と熱漏洩を助長する位置との間において、前記側部断熱システム(6)の少なくとも1つの側部エレメント(7、7’)を前記側壁(5)に対して動かすための移動手段と、を備え、
前記側部断熱システム(6)は、1S/m未満の電気伝導率および15W/m/K未満の熱伝導率を有し、
前記移動手段は、前記側部断熱システム(6)における少なくとも1つの前記側部エレメント(7、7’)の横方向の移動手段を備え、
前記側部断熱システム(6)は、リングを形成する少なくとも2つの隣接するサブエレメントによって形成され、前記リングは、前記断熱位置においては連続的であり、かつ、前記熱漏洩を助長する位置においては非連続的であり、
電磁誘導によって前記結晶材料を加熱するための手段を備えることを特徴とする溶融凝固炉。
【請求項2】
前記側部断熱システム(6)は、少なくとも、主側部断熱エレメント(7)と、付加的側部断熱エレメント(7’)と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の炉。
【請求項3】
前記移動手段は、前記側部断熱システム(6)における少なくとも1つの前記側部エレメント(7、7’)の縦方向の移動手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炉。
【請求項4】
前記移動手段は、前記側部断熱システム(6)の少なくとも1つの前記側部エレメント(7、7’)の移動手段を、前記坩堝(2)の縦軸に対して回転する状態で備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の炉。
【請求項5】
少なくとも、前記側部断熱エレメント(7、7’)は、0.3から0.6までの間に含まれる放射率を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の炉。
【請求項6】
前記側部断熱システム(6)は、アルミナ、Macor(登録商標)、ムライト、または、ジルコンの中から選択された材料から作られることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の炉。
【請求項7】
前記側部断熱システム(6)は、前記側壁(5)の高さと同じ高さを有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の炉。
【請求項8】
前記側部断熱システム(6)は、前記側壁(5)の高さより低い高さを有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の炉。
【請求項9】
前記側部断熱システム(6)の少なくとも1つの前記側部エレメント(7、7’)は、前記坩堝(2)の前記底部(4)に垂直な平面において長方形の断面を有することを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の炉。
【請求項10】
前記側部断熱システム(6)の少なくとも1つの前記側部エレメント(7、7’)は、前記坩堝(2)の前記底部(4)に垂直な平面において直角台形の断面を有することを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−512797(P2012−512797A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541301(P2011−541301)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066393
【国際公開番号】WO2010/069784
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【Fターム(参考)】