説明

傾斜面の形成方法、配線構造体及びその形成方法、段差構造の被覆層、並びに、半導体装置

【課題】段差の上段と下段とを接続する、従来よりも傾斜の緩やかな傾斜面の形成方法を提供する。
【解決手段】上面14と、主面11aと、側面16とを有する段差構造を備えていて、側面から内部へと両平面にわたる深さの凹溝22が形成されている下地13を用意する第1工程と、下地上に凹溝を通り、かつ、上面及び主面の間にわたって、粘性流体を塗布することによって、粘性流体塗布層24であって、凹溝中における粘性流体塗布層の表面が、上面側から主面側に向かうにつれて高さが低くなる傾斜面26を有する粘性流体塗布層を形成する第2工程と、粘性流体塗布層を凹溝中の傾斜面を残すようにパターニングする第3工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板に設けられた段差部に形成される傾斜面の形成方法、この傾斜面を利用した段差部を跨ぐ配線構造体、及びその形成方法、段差構造の被覆層、並びに、この配線構造体を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路等の半導体装置においては、段差部の上段と下段とを電気的に接続する配線が必要となる場合がある。たとえば、メサ型に形成される素子である受光ダイオードやレーザダイオードを用いる場合、素子上面(上段)と基板表面(下段)とを電気的に接続しなければならない。
【0003】
このような配線として、いわゆるエアブリッジ配線が知られている(たとえば、特許文献1の図1参照)。
【特許文献1】特開2004−103819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、段差の上段と下段とを緩やかな傾斜で接続する枕状の支持体を、フォトレジストにより形成し、この支持体上に金属を真空蒸着することにより、段差の上段と下段とを接続する配線(エアブリッジ配線)を形成する。
【0005】
以下、特許文献1に開示されたエアブリッジ配線の形成方法を、従来周知の技術で補いながら説明する。
【0006】
まず、図14(A)に示すように、段差100の上段102と下段104との間を接続する支持体106を第1フォトレジストにより形成する。つまり、段差100を含む基板112の全面に塗布された第1フォトレジストに対して、フォトリソグラフィーを行う。これにより、第1フォトレジストからなる支持体106を形成する。この支持体106には、段差100の側面108(ほぼ垂直に延在)よりも傾きが緩やかな斜面110が形成される。
【0007】
次に、図示はしていないが、支持体106の斜面110を含む領域(配線形成予定領域)を除いた平面領域を第2フォトレジストにより被覆する。その結果、配線形成予定領域(上段102と下段104とに跨っている。)のみが露出したレジストパターンが形成される。
【0008】
そして、第2フォトレジストの全面及び配線形成予定領域に、真空蒸着法により配線113となる金属膜を所定の膜厚で堆積する。その後、第2フォトレジスト上の不用な金属膜を第2フォトレジストとともに除去(リフトオフ)する。
【0009】
これにより、図14(B)に示すように、支持体106の斜面110を含む配線形成予定領域に金属膜が所定の膜厚で堆積された配線113が形成される。
【0010】
しかし、この従来技術では、斜面110の傾斜を充分に緩やかにすることが難しかった。そのため、真空蒸着にあたり、金属膜に後述する段切れがしばしば発生した。その結果、段切れにより配線113が断線してしまい、この配線113を利用した半導体装置の製造歩留まりを低下させてしまうという問題点があった。
【0011】
ここで、図15(A)及び(B)並びに図16(A)〜(E)を参照して、金属膜おける段切れ発生のメカニズムにつき説明する。
【0012】
図15(A)に示すように、真空蒸着装置119を用いて、モデル構造体118の被蒸着面128上に金属膜120を堆積する場合を考える。真空蒸着装置119は、金属膜120を被蒸着面128上に均一な膜質で堆積するために、金属の蒸発源116に対してモデル構造体118を回転させるように構成されている。
【0013】
したがって、図15(B)に示すように、被蒸着面128の任意の一点Pから見た場合、被蒸着面128に向かって飛来する金属原子の入射方向は、ある角度範囲βで周期的に振動する。
【0014】
ここで、入射方向の振動範囲のうち、最も外側の方向を入射方向A及び入射方向Cと称する。また、入射方向A及びCの間であって、被蒸着面128に対して垂直な入射方向を入射方向Bと称する。また、入射方向Aと被蒸着面128の延在する面とのなす角度の鋭角側をλとし、この角度λを入射方向Aの入射角と称する。同様に、入射方向Cと被蒸着面128の延在する面とのなす角度の鋭角側をλ’とし、この角度λ’を入射方向Cの入射角と称する。
【0015】
図16(A)〜(E)を参照して、上述の条件下で、モデル構造体118上に金属膜120を堆積する工程につき説明する。
【0016】
まず、図16(A)を参照してモデル構造体118の構成につき簡単に説明する。
【0017】
モデル構造体118は、被蒸着面128としての上段平面122と、下段平面124と、斜面126とを備えている。
【0018】
上段平面122及び下段平面124は互いに平行に延在している。そして、斜面126は、両平面122及び124を緩やかに接続している。
【0019】
この斜面126の傾斜角τは、上述の入射角λよりも大きいものとする(τ>λ)。
【0020】
(段階1:(図16(A)))
まず、入射方向A(図中矢印)からモデル構造体118に金属原子が飛来する場合を考える。
【0021】
この場合、τ>λであるので、入射方向Aから飛来する金属原子は、上段平面122の陰となる領域(以下、陰領域と称する。)N1に堆積することができない。その結果、金属膜120aは、上段平面122及び下段平面124のみに堆積する。
【0022】
(段階2:(図16(B))
段階1の後に、モデル構造体118は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向B(図中矢印)から、モデル構造体118に飛来する。
【0023】
この場合、金属原子は、下段平面124(上段平面122)に対して垂直に入射する。その結果、金属膜120bは、被蒸着面128の全面に堆積する。
【0024】
(段階3:(図16(C))
段階2の後に、モデル構造体118は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向C(図中矢印)から、モデル構造体118に飛来する。
【0025】
この場合、金属原子は、下段平面124に堆積された金属膜120bのエッジ120bEの陰領域N2には堆積することができない。その結果、金属膜120cは、陰領域N2を除いた被蒸着面128に堆積する。
【0026】
(段階4:(図16(D))
段階3の後に、モデル構造体118は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向B(図中矢印)から、モデル構造体118に飛来する。
【0027】
この場合、金属原子は、下段平面124(上段平面122)に対して垂直に入射する。その結果、金属膜120dは、被蒸着面128の全面に堆積する。
【0028】
(段階5:(図16(E))
段階4の後に、モデル構造体118は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向A(図中矢印)から、モデル構造体118に飛来する。
【0029】
この場合、金属原子は、上段平面122に堆積された金属膜120dのエッジ120dEの陰領域N2には堆積することができない。その結果、金属膜120eは、陰領域N2を除いた被蒸着面128に堆積する。
【0030】
段階5以降、上述の段階1〜5が繰り返されることにより金属膜120が堆積していく。
【0031】
ここで、段階5を経た後の金属膜120の膜厚の被蒸着面128内でのバラツキに注目する。すると、陰領域N2おける金属膜120が、その他の領域よりも顕著に薄いことがわかる。これは、陰領域N2では、5段階中2段階(段階2及び段階4)のみで金属膜120b及び120dが堆積されることによる。
【0032】
さらに、陰領域N2に存在する金属膜120dは、陰領域N2以外の領域の金属膜120dとの連続性が保たれていないことがわかる。すなわち、陰領域N2において、金属膜120dと120bとの間、及び、金属膜120dと120cとの間には、それぞれ粒界GB1及びGB2が形成される。このように、金属膜120dの連続性が保たれていない場合、金属膜120を流れる電子は、粒界GB1及びGB2を通過しなければならないので、電気抵抗が増大する。
【0033】
つまり、陰領域N2においては、金属膜120の膜厚が他の領域に比べて相対的に薄く、かつ、金属膜120の連続性が保たれていない。陰領域N2において生じるこれらの現象を総称して「段切れ」と称する。
【0034】
上述のメカニズムに対する考察から、段切れ発生の原因は、斜面126の傾斜角τが、金属原子の入射角λよりも大きいためであることがわかる。つまり、段階1,3及び5のそれぞれにおいて、金属原子が被蒸着面128の全面には堆積されないことが、段切れ発生の原因である。
【0035】
なお、段切れは、モデル構造体118が静止している場合であっても発生し得る。なぜなら、蒸発源116を点蒸発源と見なせないからである。つまり、蒸発源116から被蒸着面128に飛来する金属原子は、蒸発源116の面積の分だけ入射角度分布を持つ。それゆえ、金属原子の被蒸着面128に対する入射角によっては、被蒸着面128に、上述と同様の陰領域が生じる。その結果、上述と同様のメカニズムで段切れが発生する。
【0036】
以上の説明より、段切れの発生を防ぐためには、斜面126の傾斜角τを小さくすることが有効であることがわかる。
【0037】
このための方策として、支持体106(図14)を形成するための第1フォトレジストとして、粘度の高いものを使用することが考えられる。確かに高粘度の第1フォトレジストを使用すれば、斜面110の傾斜角を小さくすることができる。しかし、今度は、その高粘度ゆえに第1フォトレジストの膜厚が厚くなりすぎ、フォトリソグラフィーの際のパターン解像度が低下し、ミクロンオーダーの微細加工が不可能になるという別の問題が発生する。
【0038】
これらの技術的背景の下で、発明者は、斜面に金属膜を形成することにつき、鋭意研究を重ねた。その結果、段差に凹部を形成し、この凹部にフォトレジストにより斜面を形成すれば、高粘度のフォトレジストを使用することなく、斜面の傾斜を緩やかにすることができ、結果として、この斜面に堆積される金属膜の段切れを抑制できることに想到した。
【0039】
したがって、この発明の第1の目的は、段差の上段と下段とを接続する、従来よりも傾斜の緩やかな傾斜面の形成方法を提供することにある。
【0040】
また、この発明の第2の目的は、従来よりも傾斜の緩やかな傾斜面を有する段差構造の被覆層を提供することにある。
【0041】
また、この発明の第3の目的は、上述の段差構造の被覆層に形成される、段切れを抑制した配線構造体及びその形成方法を提供することにある。
【0042】
さらに、この発明の第4の目的は、上述の配線構造体を備えた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0043】
上述した課題を解決するために、この発明の傾斜面の形成方法は、下記の第1〜第3工程を含む。
【0044】
第1工程において、上段平面と、下段平面と、これら両平面を接続する側面とを有する段差構造を備えていて、側面から内部へと上段平面及び下段平面間にわたる深さの凹溝が形成されている下地を用意する。
【0045】
第2工程において、下地上に凹溝を包含し、かつ、上段平面及び下段平面の間にわたって、粘性流体を塗布することによって、粘性流体塗布層であって、凹溝中における粘性流体塗布層の表面が、上段平面側から下段平面側に向かうにつれて高さが低くなる傾斜面を有する粘性流体塗布層を形成する。
【0046】
第3工程において、粘性流体塗布層を凹溝中の傾斜面を残すようにパターニングする。
【0047】
より好適には、下地に複数の凹溝を形成し、粘性流体塗布層の表面が、複数の凹溝のそれぞれに傾斜面を有するように粘性流体塗布層を形成することが好ましい。
【0048】
また、この発明の配線構造体の形成方法は、上述の傾斜面の形成方法を利用したものである。すなわち、粘性流体として第1フォトレジストを用いる。
【0049】
そして、第3工程は、第1フォトレジスト塗布層に対し、フォトリソグラフィーによるパターニングを行って、傾斜面を含み、かつ、上段平面及び下段平面に跨る第1領域に島状の第1フォトレジスト層を残存形成する工程を含む。
【0050】
そして、第4工程において、第3工程の後、第3工程で得られた構造体の上側の露出面の全面に、第2フォトレジストを塗布して、第2フォトレジスト塗布層を形成する。続いて、第2フォトレジスト塗布層に対し、フォトリソグラフィーによりパターニングを行って、第1領域の外側の上段平面の一部と、傾斜面と、第1領域の外側の下段平面の一部とが連続した第2領域に存在する第2フォトレジスト塗布層の部分を除去し、第2領域外の領域に第2フォトレジストパターンを形成する。
【0051】
そして、第5工程において、第4工程で得られた構造体の上側の露出面の全面に、配線構造体となる金属膜を真空蒸着法により堆積する。
【0052】
そして、第6工程において、第2フォトレジストパターンを、第2領域以外の領域に存在する金属膜とともにリフトオフにより除去する。
【0053】
金属膜を堆積するにあたり、真空蒸着法に代えて、スパッタ成膜法を用いてもよい。
【0054】
この発明の段差構造の被覆層は、下地と、粘性流体塗布層とを備える。
【0055】
下地は、上段平面と、下段平面と、これら両平面を接続する側面とを有する段差構造を備えていて、側面から内部へと上段平面及び下段平面間にわたる深さの凹溝が形成されている。
【0056】
粘性流体塗布層は、下地上に、凹溝を包含し、かつ、上段平面及び下段平面間にわたってパターニングされていて、凹溝内における表面の高さが、上段平面側から下段平面側に向かうにつれて低くなっている傾斜面を有する。
【0057】
ここで、粘性流体としては、フォトレジストを用いることが好ましい。
【0058】
また、粘性流体としては、SOG(spin on glass)又は樹脂を用いてもよい。
【0059】
この発明の配線構造体は、上述の粘性流体塗布層と、この粘性流体塗布層の傾斜面上に堆積された金属膜を含む。
【0060】
この発明の半導体装置は、上述の配線構造体を構成要素として備える。
【発明の効果】
【0061】
この発明の傾斜面の形成方法では、下地上での粘性流体の分布は、(1)下地の構造、(2)自らの粘性(流動性)、(3)下地に対する粘着力、及び(4)自重、の4つのファクターで決定される。
【0062】
すなわち、凹溝において、粘性流体は、凹溝の側面及び底面に粘着しながら、自重及び粘度に従い狭い溝(凹溝)を流れなければならない。つまり、凹溝中においては、粘性流体の流れが制限される。その結果、粘性流体は、凹溝の最奥部から開口に向かうにつれて徐々に高さが低くなるように分布して傾斜面を形成する。
【0063】
一方、凹溝以外の側面において、粘性流体は、流れを制限するような構造が存在しないために、上段平面から下段平面へと自由に流れる。その結果、粘性流体は、側面を被覆するように分布して斜面を形成する。
【0064】
これらより、粘性流体の流れが制限される分だけ、凹溝中に形成される傾斜面は、側面に形成される斜面よりも傾斜が緩やかとなる。
【0065】
このように、この発明の傾斜面の形成方法は、下地に設けた凹溝の形状を適切に設計することにより、傾斜面を形成している。つまり、傾斜面の形成にあたり、粘度の高い粘性流体を用いる必要がない。
【0066】
よって、粘性流体としてフォトレジストを用いる場合、低粘度のフォトレジストでも、充分に緩やかな傾斜面を形成することができる。したがって、下地上のフォトレジストの膜厚を3μm以下にまで薄くすることができる。その結果、フォトリソグラフィーにおいて、フォトレジストにミクロンオーダーの微細加工を行うことができる。
【0067】
また、この発明の傾斜面の形成方法によれば、傾きが緩やかな傾斜面を形成することができる。よって、傾斜面に真空蒸着法やスパッタ成膜法等で金属膜を形成する際に、傾斜面へと飛来する金属原子の入射角によらず、傾斜面上に金属膜を段切れなく堆積することができる。
【0068】
また、この発明の配線構造体の形成方法は、上述の傾斜面の形成方法を利用しているので、第2領域に、上段平面と下段平面とを接続する配線構造体を、段切れに由来する断線を生じることなく形成することができる。
【0069】
また、この発明の段差構造の被覆層によれば、凹溝中に、緩やかな傾斜の傾斜面を形成することができる。
【0070】
また、この発明の半導体装置によれば、段切れによる断線が減少するので、配線構造体の信頼性が増し、結果として、半導体装置の歩留まりが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。尚、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係を、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例に過ぎない。したがって、この発明は、以下の実施の形態に何ら限定されない。
【0072】
図1〜図13を参照して、実施の形態の傾斜面及び配線構造体並びにこれらの形成方法につき説明する。図1は、下地の斜視図である。
【0073】
(第1工程)
まず、図1に示す構造体10を準備する。構造体10は、基板11と第1素子12とで構成されている。詳細には、基板11の主面11a上には、半導体装置を構成するほぼ直方体状の第1素子12が配置されている。また、図示はしないが、基板11の主面11aには半導体装置を構成する第2素子も形成されている。
【0074】
第1素子12は、主面11aよりも高さが高く、主面11aに対してほぼ平行に延在する上面14と、基板11の主面11aに対してほぼ垂直に延在する側面16とを備えている。
【0075】
図1に示す例では、第1素子12は、上面14の平面形状が、ほぼ正方形とされている。この正方形の1辺の長さは、好ましくは、たとえば約10μmとする。また、第1素子12の高さH、すなわち上面14と主面11aとの距離は、好ましくは、たとえば約3μmとする。
【0076】
第1素子12には凹部18が形成されている。凹部18は、基板11の主面11aを底とする直方体形状の穴である。すなわち、凹部18は、側面16に設けられた開口20から第1素子12の内部に向かって、側面16に対してほぼ垂直に延在している。そして、凹部18は、第1素子12の上面14から基板11の主面11aにわたる深さに形成されている。
【0077】
したがって、この凹部18は、第1素子12の側面16から、側面16での開口幅(溝幅でもある。)がDで、第1素子12の厚みHに対応する深さ(高さ)で、及び、第1素子12中へ奥行き(全長)Lの長さで形成されている凹溝22として捉えることができる。
【0078】
図1に示す例では、凹部18の全長L(全長)は、好ましくは、たとえば約3μmとする。また、開口幅Dは、好ましくは、たとえば約2μmとする。また、高さHは、好ましくは、たとえば約3μmとする。
【0079】
凹溝22は、底面18aと、2つの対向面18b,18bと、奥側端面18cとで囲まれた空間である。
【0080】
対向面18b,18bは、凹溝22を挟んで互いに対向する平面である。対向面18b,18bは、互いに平行に延在している。また、対向面18b,18bは、底面18aから、ほぼ垂直に延在している。
【0081】
奥側端面18cは、凹溝22の最奥部を構成する平面である。奥側端面18cは、底面18aから、ほぼ垂直に延在している。
【0082】
以下、凹部18に関して、側面16に対して垂直な方向を「長手方向」と称する。また、側面16に対して平行な方向を「短手方向」と称する。さらに、主面11aに対して垂直な方向を「高さ方向」と称する。
【0083】
ここで、下地13を、下段平面としての主面11aと、上段平面としての上面14と、側面16とを有した段差構造を備えており、かつ、凹部18が形成された構造体と定義する。
【0084】
この下地13は、構造体10の形成と同時に形成される。すなわち、第1素子12形成前の平坦な基板11において、第1素子12と凹部18とを形成すべき領域を除いた領域を主面11a側から、所定の深さにわたってエッチングする。これにより、第1素子12と凹部18とが同時に形成され、結果として下地13が得られる。
【0085】
(第2工程)
図2は、第2工程における図1の下地を、フォトレジストとともに模式的に示す斜視図であり、図1のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口で示してある。図3は、図1のI−I線を垂直に上下させた面で切断した下地を第1フォトレジスト塗布層とともに描いた断面切り口を示す図である。図4は、図1のII−II線を垂直に上下させた面で切断した下地を第1フォトレジスト塗布層とともに描いた断面切り口を示す図である。なお、図2において、第1フォトレジスト塗布層24の下地13上での分布状況をより明確に示すために、第1フォトレジスト塗布層24の表面に実線でメッシュを施してある。
【0086】
第1工程に引き続き、図3に示すように、下地13の主面11a側の全面に粘性流体としての第1フォトレジストを、例えばスピンコート法により塗布する。これにより、第1フォトレジストが、主面11a、凹溝22及び上面14に塗布されて、第1フォトレジスト塗布層24が形成される。
【0087】
ここで、第1フォトレジストとしては、粘度が約30mPas(ミリパスカル・秒)のポジ型フォトレジスト(S1830:シプレー株式会社製)を用いた。また、スピンコートの条件は、回転数が約5000rpmであり、及び、この回転数での保持時間は、約10秒である。第1フォトレジスト塗布層24の膜厚は、主面11a上において約1.5μmである。
【0088】
ここで、図2〜図4を参照して、第1フォトレジストの挙動につき説明する。
【0089】
第1フォトレジストは、その粘性、下地13との粘着力、及び自重にしたがって下地13上を流れる。その結果、図2に示すように、側面16及び凹部18を緩やかに被覆するように分布して、第1フォトレジスト塗布層24を形成する。
【0090】
具体的には、凹部18を除く側面16においては、第1フォトレジスト塗布層24は、上面14側から主面11a側に向かうにつれて高さが低くなるように緩やかに分布する。ここで、図3に示すように、側面16を覆う第1フォトレジスト塗布層24の表面で形成される面を斜面28と表すとする。さらに、斜面28の接平面と主面11aとのなす角度の鋭角側を傾斜角θ’と表すとする。
【0091】
再び図2を参照すると、凹部18においては、第1フォトレジスト塗布層24は、奥側端面18c側から、開口20側に向かうにつれて高さが低くなるように緩やかに分布する。
【0092】
より詳細には、第1フォトレジストは、凹部18(凹溝22)内に、対向面18b,18b及び奥側端面18cに沿って流れ込む。その結果、図4に示すように、側面16に平行な切断面で見た場合、第1フォトレジスト塗布層24は、表面がU字形に凹んだ形状(U字谷状)に分布する。
【0093】
ここで、図3に示すように、凹溝22中の第1フォトレジスト塗布層24のU字谷の底部で構成され、上面14側から主面11a側に向かうにつれて表面の高さが徐々に低くなる面を傾斜面26と表すとする。さらに、傾斜面26と主面11aとのなす角度の鋭角側を傾斜角θと表すとする。ここで、傾斜角θは、主面11aに対して最大傾斜を与える傾斜面26上の点における、接平面26aと主面11aとのなす鋭角側の角度とする。
【0094】
次に、凹溝22において、第1フォトレジスト塗布層24が傾斜面26を形成する理由につき説明する。
【0095】
第1フォトレジストは、粘性及び下地13との粘着力を有している。このため凹溝22中に流れ込む第1フォトレジストは、対向面18b,18b及び奥側端面18cに対しても、ある程度の厚みをもって被着する。これらの面18b,18b及び18c上で、第1フォトレジストは、重力(自重)とのバランスにより、(1)上側では膜厚が薄く、かつ、下側では膜厚が厚く、分布する。
【0096】
さらに、凹部18は、一端部(奥側端面18c)が閉鎖されており、他端部に開口20が形成されている。そのため、凹溝22の底面18a上の第1フォトレジストは開いた方向(開口20側)に向かって流れる。その結果、第1フォトレジストは、(2)凹溝22の奥側(奥側端面18c側)では膜厚が厚く、かつ、開口20側では膜厚が薄く分布する。
【0097】
これら(1)及び(2)の総合効果により、凹溝22中では、第1フォトレジストは、奥側端面18c側から開口20側に向かうにつれて高さが低くなるように分布する。つまり、凹溝22内部において、第1フォトレジスト塗布層24により傾斜面26が形成される。
【0098】
傾斜面26の傾斜角θは、第1フォトレジストが粘性を有しているので、厳密には一定ではなく、主面11a方向に向かって緩やかに凸となっている。しかし、上述した粘度の第1フォトレジストを用いている限りは、傾斜面26の傾斜角θは、実質的に、ほぼ一定と見なしてかまわない。
【0099】
ここで、傾斜面26の傾斜角θは、凹溝22の全長Lに対して、高さがH程度変化することから、tan−1(H/L)程度の角度で与えられる。具体的には、凹部18の全長Lが約3μmであり、高さHが約3μmであることから、傾斜角θは約45°となる。なお、詳しくは後述するが、傾斜角θは、真空蒸着(第6工程)における金属原子の入射角λよりも小さい。
【0100】
一方、斜面28では、高さがH程度変化するために要する距離L’(主面11a上で側面16に対して垂直に測った距離)は、Lよりも小さくなる(L’<L)。よって、高さがH程度変化するために要する距離Lが長い傾斜面26の傾斜角θの方が、斜面28の傾斜角θ’よりも小さくなる(θ>θ’)。
【0101】
(第3工程)
図5(A)及び(B)は、それぞれ、第3工程における構造体の平面図及び上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【0102】
次に、図5(A)及び(B)に示すような構造体30を形成する。すなわち、第1フォトレジスト塗布層24に対してフォトリソグラフィーを行う。これにより、第1領域32に島状の第1フォトレジスト塗布層24d(以下、島状塗布層24dとも称する。)をパターニングする。
【0103】
ここで、第1領域とは、傾斜面26(凹溝22)を包含し、上面14及び主面11aに跨って延在する、平面視でほぼ矩形状の領域である。
【0104】
この図示例では、第1領域32の中心線(C1)と凹部18の中心線C1とが一致するように、島状塗布層24dがパターニングされている。ここで、第1領域32の中心線(C1)とは、側面16と平行に延在する第1領域32の2辺32a,32aのそれぞれの中点を結ぶ直線を示す。また、凹部18の中心線とは、開口20の短手方向の中点と、奥側端面18cの短手方向の中点とを結んだ直線C1を示す。
【0105】
第1フォトレジストとしてポジ型フォトレジストを用いているので、フォトリソグラフィーにより、島状塗布層24dは断面台形状にパターニングされる。すなわち、島状塗布層24dは、下面24bの方が上面24aよりも大面積である。つまり、島状塗布層24dの外周側面24cは、主面11a側に向かうにつれて、徐々に拡幅するように傾斜して形成される(図5(A)及び(B))。
【0106】
(第4工程)
図6は、第4工程における構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【0107】
次に、図6に示すような構造体40を形成する。すなわち、構造体30(図5(B))に対して、約150℃の温度で、約20分間ポストエクスポージャベーク(以下、PEBとも称する。)を行い、配線支持体25を形成する。
【0108】
この条件でPEBを行うと、一般に島状塗布層24dは熱変形を受け、外周側面24cの上端の角(角部)が取れて丸くなる。この熱変形を受けた島状塗布層24を配線支持体25と称する。
【0109】
PEBによる熱変形により、配線支持体25と上面14との境界部において、外周側面24cの上面14に対する傾きがさらに小さくなる。その結果、配線支持体25と上面14とは、なめらかに接続される。配線支持体25と主面11aとの境界部においても同様であり、両者25及び11aは、なめらかに接続される。
【0110】
なお、第1〜第4工程が、この発明の傾斜面の形成方法に相当する。また、第1〜第4工程により形成される傾斜面26を有する配線支持体25が、この発明の段差構造の被覆層に相当する。
【0111】
(第5工程)
図7(A)及び(B)は、それぞれ、第5工程における構造体の平面図及び上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【0112】
次に、図7(A)及び(B)に示すような構造体50を形成する。すなわち、第2フォトレジストを、第1領域32を含む構造体40(図6)の主面11a側の全面に塗布する。ここで、主面11a側の全面に塗布された状態の第2フォトレジストを第2フォトレジスト塗布層(図示せず)と称する。
【0113】
そして、第1領域32の外側の上面14の一部(端部領域36a)と、傾斜面26と、第1領域32の外側の主面11aの一部(端部領域36b)とが連続した第2領域36に存在する第2フォトレジストを除去する。
【0114】
つまり、第2フォトレジスト塗布層に対して、フォトリソグラフィーによるパターニングを行うことによって、第2フォトレジストパターン34を形成する。
【0115】
ここで、第2フォトレジストとしては、ネガ型フォトレジスト(LMR−F33:冨士薬品工業株式会社製)を用いた。そして第2フォトレジストをスピンコート法により、構造体40の主面11a側の全面に塗布した。第2フォトレジスト塗布層の膜厚は、主面11aにおいて約1μmである。
【0116】
第2領域36は、平面視で、凹部18を含むほぼ矩形状の領域である。第2領域36の、側面16に直交する方向の辺36cの長さは、配線支持体25の対応する辺25cの長さより大きい。また、第2領域36の、側面16に平行な方向の辺36dの長さは、配線支持体25の対応する辺25dの長さより小さい。また、平面視で、配線支持体25、第2領域36、及び凹部18の中心線C1は、共通である。
【0117】
したがって、第1領域32の外側の上面14の一部、すなわち、第2領域36の上面14側の端部領域36aでは、第1素子12の上面14が露出する。つまり、配線支持体25の上面14側端縁から、この端縁に対向する第2フォトレジストパターン34の側壁までの間の端部領域36aでは、上面14が露出する。この端部領域36aは、第1素子12の配線接続端子(電極パッド等)が設けられる領域である。
【0118】
同様に、第1領域32の外側の主面11aの一部、すなわち、第2領域36の主面11a側の端部領域36bでは、基板11の主面11aが露出する。つまり、配線支持体25の主面11a側端縁から、この端縁に対向する第2フォトレジストパターン34の側壁までの間の端部領域36bでは、主面11aが露出する。この端部領域36bは、第2素子の配線接続端子(電極パッド等)が設けられる領域である。
【0119】
また、上述のように第2領域36の辺36dの長さは、配線支持体25の辺25dの長さより小さい。よって、配線支持体25の2辺25c,25cの近傍の領域は、第2フォトレジストパターン34により被覆されている。
【0120】
なお、第2領域36の中心線C1とは、側面16に平行な方向の2辺36d,36dのそれぞれの中点を結んだ直線を示す。また、配線支持体25の中心線C1は、上述した第1領域32の中心線C1と一致する。
【0121】
(第6工程)
図8は、第6工程における構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。図9(A)〜(C)は、真空蒸着において、傾斜面に堆積される金属膜の堆積過程の説明に供する工程図であり、上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口で示してある。
【0122】
次に、図8に示すような構造体60を形成する。すなわち、第2領域36を含む構造体50の主面11a側の領域に、配線構造体38となる金属膜42を堆積する。
【0123】
詳細には、構造体50の主面11a側の領域の全面に真空蒸着法により、金属膜42を堆積する。金属膜42の堆積にあたっては、(発明が解決しようとする課題)欄で説明した真空蒸着装置119(図15(A))を用いている。
【0124】
ここで、金属膜42は、膜厚が約50nmのTi膜と、膜厚が約300nmのAu膜とをこの順序で堆積した積層膜とした。また、金属膜42の膜厚(約350nm)は、主面11aに平行な面における値である。
【0125】
これにより、第2領域36の全面に金属膜42aが堆積される。同様に、第2領域36の外部の第2フォトレジストパターン34上にも金属膜42bが堆積される。
【0126】
ここで、図9(A)〜(C)を参照して、金属膜42aの傾斜面26への堆積過程につき説明する。
【0127】
図9(A)〜(C)は、それぞれ、金属膜42aの堆積過程を示す工程図であり、構造体50(図7)の傾斜面26のみを抜き出した断面切り口で示してある。
【0128】
なお、図9(A)〜(C)において、傾斜面26に堆積される金属原子は、図15(B)で説明したと同様に入射方向A,B及びCから飛来するものとする。したがって、金属原子の入射角は、λ及びλ’である。
【0129】
(段階A:(図9(A))
まず、入射方向A(図中矢印)から傾斜面26に金属原子が飛来する場合を考える。
【0130】
この場合、傾斜面26の傾斜角θは、傾斜面26に飛来する金属原子の入射角λよりも小さい(λ>θ)。よって、金属原子は、傾斜面26にも飛来する。その結果、金属膜42aは、第2領域36の全面に堆積される。
【0131】
ただし、金属原子は傾斜面26に対して寝た角度で入射するために、傾斜面26の単位面積あたりに入射する金属原子数が減少する。その結果、傾斜面26における金属膜42aの膜厚は、他の領域に比較して薄くなる。
【0132】
(段階B:(図9(B))
段階Aの後に、構造体50は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向B(図中矢印)から、傾斜面26に飛来する。これにより、金属膜42aは、第2領域36の全面に堆積される。
【0133】
(段階C:(図9(C))
段階Bの後に、構造体50は蒸発源116に対して所定角度だけ回転する。これにより、金属原子は、入射方向C(図中矢印)から、傾斜面26に飛来する。これにより、金属膜42aは、第2領域36の全面に堆積される。
【0134】
段階C以降、上述の段階A〜Cが繰り返されることにより金属膜42が堆積していく。
【0135】
このように、傾斜面26の傾斜角θが入射角λよりも小さいために、傾斜面26には、金属原子の入射方向によらず、絶えず金属原子が堆積される。その結果、(発明が解決しようとする課題)欄で説明した金属膜120(図16(A)〜(D))とは異なり、金属膜42には段切れが発生しない。
【0136】
(第7工程)
図10は、第7工程後に得られる配線構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【0137】
最後に、図10に示すような構造体70を完成する。すなわち、第2フォトレジストパターン34を、不用な金属膜42bとともに、リフトオフにより除去する。詳細には、構造体60をレジスト剥離液中に浸漬することにより、第2フォトレジストパターン34を溶解する。
【0138】
これにより、上面14に存在する第1素子12と主面11aに存在する第2素子とを電気的に接続する配線構造体38が形成される。
【0139】
なお、第7工程の後に、さらに所定の工程(パッシベーション膜成膜等)を経ることにより、半導体装置が形成される。
【0140】
以下、この実施の形態の奏する効果につき説明する。
【0141】
この実施の形態の傾斜面26の形成方法によれば、下地13の上面14と主面11aとを接続して、従来の斜面110(図14)及び斜面28(図3)よりも傾斜が緩やかな傾斜面26を得ることができる。また、傾斜面26の傾斜角θを、真空蒸着の際の金属原子の入射角λよりも小さくすれば、入射角λの変化によらず、傾斜面26に絶えず金属原子を堆積させることができるので、金属膜42の段切れを抑制することができる。
【0142】
また、傾斜面26が形成される凹部18を構造体10と同時に形成している。つまり、凹部18を形成するための新たな工程を追加する必要がない。
【0143】
また、凹部18の寸法(高さH、全長L及び幅D)を調整することのみにより、傾斜面26の傾斜角θを金属原子の入射角λよりも小さくしている。つまり、緩やかな傾斜面26を得るために、第1フォトレジストの粘度を高くする必要がない。
【0144】
よって、第1フォトレジストとして低粘度のものを使用でき、結果として、主面11a上での第1フォトレジスト塗布層24の膜厚を3μm以下(約1.5μm)に抑えることができる。これにより、フォトリソグラフィー工程において、第1フォトレジスト塗布層24に対してミクロンオーダーの微細加工を行うことができる。
【0145】
また、この実施の形態の段差構造の被覆層は、配線支持体25により傾斜面26を形成するので、斜面110(従来技術)及び斜面28(図3)よりも緩やかな傾斜で、下地13の上面14と主面11aとを、接続することができる。
【0146】
また、この実施の形態の配線構造体38の形成方法によれば、配線構造体38となる金属膜42aが堆積される傾斜面26の傾斜角θを、真空蒸着の際の金属原子の入射角λよりも小さくしている。その結果、金属原子の入射角λの変化によらず、傾斜面26に絶えず金属原子が堆積するので、金属膜42の段切れを抑制することができる。したがって、下地13の段差構造を跨いで配線される配線構造体38の信頼性を向上させることができる。よって、従来問題とされてきた配線構造体38の断線の発生を抑制することができるとともに、配線構造体38を用いた半導体装置の製造歩留まりを向上させることができる。
【0147】
ここで、製造歩留まりの向上に関して具体的な数値を挙げる。発明者の評価によれば、従来法(背景技術)に従い斜面110(図14)に配線を形成した半導体装置に比べて、この実施の形態の配線構造体38を備えた半導体装置の製造歩留まりは、約30%向上した。
【0148】
以下、この実施の形態における、許容される条件変更及び変形例を例示し、この発明の技術的範囲をより明確にする。
【0149】
図11(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。図12(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。図13(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。
【0150】
下地13を構成する上面14と主面11aとは、必ずしも平行である必要はない。上面14と主面11aとの間が、高さが不連続に変化する側面16で接続されていれば、上面14及び主面11aは非平行に配置されていてもよい。
【0151】
また、下地13を構成する側面16は、必ずしも主面11aに対して垂直に延在する必要はない。また、側面16は平面である必要もない。側面16は、上述した金属原子の入射角λよりも大きな傾斜角を有する領域を有していればよく、たとえば、主面11a方向に凸に湾曲していてもよいし、逆に、主面11a方向に凹に湾曲していてもよい。
【0152】
また、側面16と上面14との接続部は、エッジ状、つまり、明確な稜線を有する必要はない。側面16と上面14との接続部の角が丸くなっていてもよい。
【0153】
また、側面16の高さ(段差の高さ)は、3μmである必要はない。発明者の評価によれば、側面16の高さが1〜10μmの範囲内であれば、凹部18の形状(全長L及び幅D)及び第1フォトレジストの粘度を最適化することにより、緩やかな傾斜の傾斜面26を形成することができる。
【0154】
つまり、凹部18中に形成される傾斜面26の傾斜角θは、凹部18の形状(高さH、全長L及び幅D)及び第1フォトレジストの粘度の関数となる。よって、側面16の高さが高い場合には、(対策1)より高粘度の第1フォトレジストを用いる、(対策2)凹部18の全長Lを長くする、及び、(対策3)凹部18の幅Dを小さくする、の3つの対策のうち、1つ以上を実施すればよい。
【0155】
ただし、(対策1)は、第1フォトレジスト塗布層24の厚膜化を招き、フォトリソグラフィーにおけるパターン解像度を低下させる虞がある。そのため、まず(対策2)及び(対策3)を適宜組み合わせて実施し、それでも良好な結果が得られない場合に(対策1)を実施することが好ましい。
【0156】
また、第1フォトレジストは、第1フォトレジスト塗布層24の主面11a上での膜厚が3μm以下となるような粘度とすることが好ましい。第1フォトレジストをこのような粘度とすることにより、フォトリソグラフィーでのパターン解像度をミクロンオーダーに保つことができる。さらに、第1フォトレジストをこのような粘度とすることにより、凹部18の形状(全長L及び幅D)を調整することで、最大約10μmの高さの段差に対して、緩やかな傾斜面26を形成することができる。
【0157】
また、傾斜面26の傾斜角θは、側面16に形成される斜面28の傾斜角θ’よりも小さいことが好ましい。さらに好適には、傾斜角θは、真空蒸着の際の金属原子の入射角λよりも小さいことが好ましい。金属膜42の段切れを抑制するという観点から見ると、傾斜角θは、θ<λを満たす範囲でより小さい値であることが好ましい。一般的な真空蒸着の場合、金属原子の入射角λは、約50°〜90°程度であるので、傾斜角θは、少なくともこの入射角未満の大きさであることが好ましい。
【0158】
また、下地13に形成される凹部18の凹溝22は、側面16に対して、垂直に延在する必要はない。つまり、凹溝22は、側面16に対して傾いて延在していてもよい。
【0159】
また、下地13に形成される凹部18は1個には限られない。たとえば、図11(A)に示すように、下地13に複数の凹部18’,18’を形成してもよい。
【0160】
また、凹部18の平面形状は、矩形状に限られない。たとえば、図11(B)に示すように、奥側端面18c’が円弧状に丸まっていてもよい。
【0161】
また、凹部18の対向面18b,18b及び奥側端面18cは、主面11aに対して垂直に延在する必要はない。図12(A)に示すように、上面14からの深さにしたがって、凹溝22の幅が減少していくような傾きを有していてもよい。同様に、図12(B)に示すように、主面11aからの深さにしたがって、凹溝22の幅が増加していくような傾きを有していてもよい。
【0162】
また、図13(A)に示すように、凹部18の底面18aは、主面11aと段差なく連なっている必要はない。底面18aが主面11aよりも高くなっていてもよい。このようにすることにより、側面16の高さ(段差の高さ)が10μm以上の場合であっても、上面14と主面11aとの間を傾斜面26で緩やかに接続することができる。
【0163】
また、図13(B)に示すように、凹部18の底面18aは、主面11aに対して平行である必要はない。底面18aを開口20からの距離にしたがって高さが高くなるような斜面状に形成してもよい。このようにすることにより、側面16の高さ(段差の高さ)が10μm以上の場合であっても、上面14と主面11aとの間を傾斜面26で緩やかに接続することができる。
【0164】
また、この実施の形態では、第3工程において、島状塗布層24dの短手方向の幅(辺32aの長さ:図5(A))を、凹溝22の溝幅Dよりも大きくしている。しかし、島状塗布層24dの短手方向の幅はこれには限定されない。たとえば、島状塗布層24dの短手方向の幅を溝幅Dよりも狭くして第1フォトレジスト層24dを溝幅内に残存形成するようにしてもよい。つまり、島状塗布層24dの短手方向の幅は、傾斜面26に形成される配線構造体38の設計幅よりも大きければよい。
【0165】
また、第7工程と同時、又は、後に、配線支持体25を公知の方法により除去してもよい。このようにすることにより、金属膜42aからなるエアブリッジ配線が形成される。エアブリッジ配線を形成することにより、配線に対する寄生容量を小さくすることができる。
【0166】
また、粘性流体としては、第1フォトレジストに限られず、無機系のSOG膜、又はポリイミド等の樹脂を用いてもよい。SOG膜を用いることにより、傾斜面26に300〜1000℃の耐熱性を付与できる。また、粘度を調節した樹脂を用いることにより、下地13上に膜厚が厚い塗布層を形成することができる。その結果、段差の高さが大きい場合でも、緩やかな傾斜面を形成できる。
【0167】
また、島状塗布層24dが、第5工程以降の処理に耐えられるほど強固に形成されていれば、第4工程は省略してもかまわない。
【0168】
また、この実施の形態においては、真空蒸着法により金属膜42を堆積しているが、スパッタ成膜法により金属膜を堆積しても良い。これにより、スパッタ成膜法により堆積された金属膜においても段切れの発生を防止することができる。
【0169】
また、この発明の傾斜面26の形成方法は、配線構造体38の形成に利用される以外にも、緩斜面を必要とするデバイスの製造に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】下地の斜視図である。
【図2】第2工程における図1の下地をフォトレジストとともに示す斜視図であり、図1のI−I線に沿った領域を、断面切り口で示してある。
【図3】図1のI−I線に沿った線で切断した下地を第1フォトレジストとともに描いた断面切り口を示す図である。
【図4】図1のII−II線に沿った線で切断した下地を第1フォトレジストとともに描いた断面切り口を示す図である。
【図5】(A)及び(B)は、それぞれ、第3工程における構造体の平面図及び上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【図6】第4工程における構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【図7】(A)及び(B)は、それぞれ、第5工程における構造体の平面図及び上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【図8】第6工程における構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【図9】(A)〜(C)は、真空蒸着において、傾斜面に堆積される金属膜の堆積過程の説明に供する工程図であり、上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口で示してある。
【図10】第7工程後に得られる配線構造体を上述のI−I線を垂直に上下させた面で切断した断面切り口を示す図である。
【図11】(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。
【図12】(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。
【図13】(A)及び(B)は、この実施の形態の凹部の変形例を示す図である。
【図14】(A)及び(B)は、従来技術の説明に供する工程図である。
【図15】(A)及び(B)は、従来技術において、段切れ発生のメカニズムの説明に供する図である。
【図16】(A)〜(E)は、従来技術において、金属膜おける段切れ発生のメカニズムの説明に供する工程図である。
【符号の説明】
【0171】
10,30,40,50,60,70 構造体
11 基板
11a 主面
12 第1素子
13 下地
14 上面
16 側面
18,18’ 凹部
18a 底面
18b 対向面
18c,18c’ 奥側端面
20 開口
22 凹溝
24 第1フォトレジスト塗布層
24a 上面
24b 下面
24c 外周側面
24d 島状の第1フォトレジスト塗布層(島状塗布層)
25 配線支持体
25c,25d,32a,36c,36d 辺
26 傾斜面
26a 接平面
28 斜面
32 第1領域
34 第2フォトレジストパターン
36 第2領域
36a,36b 端部領域
38 配線構造体
42,42a,42a,42a,42a,42b 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上段平面と、下段平面と、
これら両平面を接続する側面とを有する段差構造を備えていて、
該側面から内部へと前記上段平面及び前記下段平面間にわたる深さの凹溝が形成されている下地を用意する第1工程と、
前記下地上に前記凹溝を包含し、かつ、前記上段平面及び前記下段平面の間にわたって、粘性流体を塗布することによって、粘性流体塗布層であって、前記凹溝中における該粘性流体塗布層の表面が、前記上段平面側から前記下段平面側に向かうにつれて高さが低くなる傾斜面を有する当該粘性流体塗布層を形成する第2工程と、
前記粘性流体塗布層を前記凹溝中の前記傾斜面を残すようにパターニングする第3工程と
を含むことを特徴とする傾斜面の形成方法。
【請求項2】
前記下地に複数の前記凹溝を形成し、前記粘性流体塗布層の表面が、該複数の凹溝のそれぞれに前記傾斜面を有するように前記粘性流体塗布層を形成することを特徴とする請求項1に記載の傾斜面の形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の傾斜面の形成方法を利用した配線構造体の形成方法であって、
前記粘性流体として第1フォトレジストを用い、
前記第3工程は、前記第1フォトレジスト塗布層に対し、フォトリソグラフィーによるパターニングを行って、前記傾斜面を含み、かつ、前記上段平面及び前記下段平面に跨る第1領域に島状の第1フォトレジスト層を残存形成する工程を含み、
前記第3工程の後、該第3工程で得られた構造体の上側の露出面の全面に、第2フォトレジストを塗布して、第2フォトレジスト塗布層を形成し、続いて、
該第2フォトレジスト塗布層に対し、フォトリソグラフィーによりパターニングを行って、前記第1領域の外側の前記上段平面の一部と、前記傾斜面と、前記第1領域の外側の前記下段平面の一部とが連続した第2領域に存在する前記第2フォトレジスト塗布層の部分を除去し、該第2領域外の領域に第2フォトレジストパターンを形成する第4工程と、
該第4工程で得られた構造体の上側の露出面の全面に、配線構造体となる金属膜を真空蒸着法により堆積する第5工程と、
前記第2フォトレジストパターンを、前記第2領域以外の領域に存在する前記金属膜とともにリフトオフにより除去する第6工程と
を含むことを特徴とする配線構造体の形成方法。
【請求項4】
前記第5工程において、前記真空蒸着法に代えて、スパッタ成膜法により前記金属膜を堆積することを特徴とする請求項3に記載の配線構造体の形成方法。
【請求項5】
上段平面と、下段平面と、これら両平面を接続する側面とを有する段差構造を備えていて、該側面から内部へと前記上段平面及び前記下段平面間にわたる深さの凹溝が形成されている下地と、
該下地上に、前記凹溝を包含し、かつ、前記上段平面及び前記下段平面間にわたってパターニングされていて、前記凹溝内における表面の高さが、前記上段平面側から前記下段平面側に向かうにつれて低くなっている傾斜面を有する粘性流体塗布層とを備えることを特徴とする段差構造の被覆層。
【請求項6】
前記粘性流体をフォトレジストとしたことを特徴とする請求項5に記載の段差構造の被覆層。
【請求項7】
前記粘性流体をSOG又は樹脂としたことを特徴とする請求項5に記載の段差構造の被覆層。
【請求項8】
請求項5に記載された、
上段平面と、下段平面と、これら両平面を接続する側面とを有する段差構造を備えていて、該側面から内部へと前記上段平面及び前記下段平面間にわたる深さの凹溝が形成されている下地と、
該下地上に、前記凹溝を包含し、かつ、前記上段平面及び前記下段平面間にわたってパターニングされていて、前記凹溝内における表面の高さが、前記上段平面側から前記下段平面側に向かうにつれて低くなっている傾斜面を有する粘性流体塗布層とを備え、
該粘性流体塗布層の傾斜面上に堆積された金属膜を含む配線構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の配線構造体を構成要素として備える半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−109726(P2007−109726A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296679(P2005−296679)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】