像加熱装置及びこの像加熱装置に用いられるヒータ
【課題】非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立できる像加熱装置の提供。
【解決手段】エンドレスフィルム2の内面に接触し長手方向がエンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータ3を有し、ヒータの第1の発熱セグメント6,14−1,14−2と第2の発熱セグメント6,14−3,14−4は、それぞれ、ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の発熱部分は、それぞれ、基板7上にヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、基板上にヒータの長手方向に沿って設けられておりヒータの長手方向において第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、第1の導電パターンと第2の導電パターンそれぞれのオーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有する。
【解決手段】エンドレスフィルム2の内面に接触し長手方向がエンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータ3を有し、ヒータの第1の発熱セグメント6,14−1,14−2と第2の発熱セグメント6,14−3,14−4は、それぞれ、ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の発熱部分は、それぞれ、基板7上にヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、基板上にヒータの長手方向に沿って設けられておりヒータの長手方向において第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、第1の導電パターンと第2の導電パターンそれぞれのオーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載する加熱定着装置(定着器)として用いれば好適な像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式のプリンタや複写機に搭載する加熱定着装置(定着器)として、セラミック製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータ、このヒータに接触しつつ移動する可撓性部材(定着フィルム)、可撓性部材を介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有するものがある。未定着トナー画像を担持する記録材は定着器のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上の画像は記録材に加熱定着される。この定着器は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短いというメリットを有する。したがって、この定着器を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、一枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First PrintOut Time)を短く出来る。またこのタイプの定着器は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
ところで、可撓性部材を用いた定着器を搭載するプリンタで小サイズの記録材を大サイズの記録材と同じプリント間隔で連続プリントすると、ヒータの記録材が通過しない領域(非通紙領域)が過度に昇温することが知られている。ヒータの非通紙領域が過昇温すると、ヒータを保持するホルダや加圧ローラが熱により損傷する場合がある。
【0004】
そこで、可撓性部材を用いた定着器を搭載するプリンタは、小サイズの記録材に連続プリントする場合、大サイズの記録材に連続プリントする場合よりもプリント間隔を広げる制御を行いヒータの非通紙領域の過昇温を抑えている。
【0005】
しかしながら、プリント間隔を広げる制御は単位時間当りの出力枚数を減らすものであり、単位時間当りの出力枚数を大サイズの記録材の場合と同等或いは若干少ない程度に抑えることが望まれる。
【0006】
そこで、上述した定着器に用いるヒータとして、温度が上昇するほど抵抗値が下がる負の抵抗温度特性(NTC:Negative Temperature Coefficient)のものを用いることも考えられている。ヒータが負の抵抗温度特性であれば、非通紙領域が過昇温しても非通紙領域の抵抗値は下がるので非通紙領域が過度の昇温を抑えられるという発想である。
【0007】
しかし、一般的に負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体は体積抵抗が高く、商用電源で使用できる範囲の抵抗を得ることは通常の発熱抵抗体パターンでは困難である場合が多い。
【0008】
この負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を用いて商用電源で使用できる範囲の抵抗を得るようにした加熱体が特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に提案されている。この加熱体では、例えばグラファイト等の負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を基板の長手方向に分割し、分割した発熱抵抗体の1区域には基板の短手方向(記録材搬送方向)に給電し、分割した発熱抵抗体の区域同士は直列に接続してある。このような構成の発熱抵抗体パターンを有する加熱体を用いることにより、簡単な構成で非通紙部昇温を低減することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−025474号公報
【特許文献2】特開2000−58232号公報
【特許文献3】特開2001−43956号公報
【特許文献4】特開2007−18912号公報
【特許文献5】特開2004−144846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の加熱体においては、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立することが望まれている。
【0011】
本発明は上述の課題に鑑み成されたものであり、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立できる像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための構成は、記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置において、エンドレスフィルムと、前記エンドレスフィルムの内面に接触し長手方向が前記エンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ヒータは、記録材搬送方向において、上流側に設けられている第1の発熱セグメントと、下流側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする。
【0013】
また上記目的を達成するための構成は、エンドレスフィルムを有し記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置に用いられるヒータにおいて、前記ヒータの短手方向において一方の端部側に設けられている第1の発熱セグメントと、前記ヒータの短手方向において他方の端部側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の更なる目的は、添付図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立できる像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フィルム加熱方式の定着装置の一例の横断側面模型図
【図2】図1に示す定着装置の縦断面模型図
【図3】図1に示す定着装置を記録材の導入側から見た図
【図4】図1に示す定着装置のニップ部N及びその周囲の横断側面拡大図
【図5】実施例1に係る加熱体の説明図であって、(a)は加熱体の正面図、(b)は加熱体の背面図、(c)は(a)の加熱体のC1−C1矢視拡大断面図
【図6】実施例1に係る加熱体の通電制御を行う回路の一例を表わす図
【図7】実施例1に係る加熱体の発熱抵抗体の分割形態を表わす図
【図8】実施例1に係る加熱体の発熱抵抗体のモデル図
【図9】従来例1に係る加熱体の正面図
【図10】従来例1に係る加熱体の発熱抵抗体のモデル図
【図11】従来例2にかかる加熱体の正面図
【図12】図12は従来例3の加熱体の正面図
【図13】実施例2に係る加熱体の説明図であって、(a)は加熱体の正面図、(b)は加熱体の背面図、(c)は(a)の加熱体のC2−C2矢視拡大断面図
【図14】実施例2に係る加熱体の通電制御を行う回路の一例を表わす図
【図15】実施例2に係る加熱体の発熱抵抗体の分割形態を表わす図
【図16】画像形成装置の一例の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施例1]
本発明を図面に基づいて説明する。
【0018】
(1)画像形成装置例
図16は本発明に係る像加熱装置を画像定着装置(定着器)として搭載する画像形成装置の一例の概略構成図である。この画像形成装置は、転写式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンタである。このプリンタは、搬送可能な最大用紙幅をA4サイズ(210mm)とする。このプリンタの記録材の搬送基準は、記録材の搬送方向と直交する方向における記録材搬送路の中央とその方向における記録材の端部間の中央とを一致させて記録材の搬送を行う中央搬送基準である。
【0019】
101は像担持体としての電子写真感光体ドラム(以下、感光体ドラムと記す)である。感光体ドラム10は、矢示の反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転される。
【0020】
102は接触帯電ローラ等の帯電手段である。この帯電手段102により感光体ドラム101の外周面(表面)が所定の極性・電位に一様に帯電処理(一次帯電)される。
【0021】
103は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。レーザービームスキャナ103は、不図示のイメージスキャナ・コンピュータ等の外部機器から入力する目的の画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応してオン/オフ変調したレーザー光を出力して、感光体ドラム101の帯電処理面を走査露光(照射)する。この走査露光により感光体ドラム101の帯電処理面の露光明部の電荷が除電され帯電処理面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0022】
104は現像装置である。現像装置104は、現像スリーブから感光体ドラム101の帯電処理面にトナー(現像剤)を供給し帯電処理面の静電潜像(静電像)をトナー画像(現像像)として現像する。レーザービームプリンタの場合、一般的に、静電潜像の露光明部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。
【0023】
106は接触型・回転型の転写部材としての転写ローラである。転写ローラ106にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加されることで後述の転写部位において感光体ドラム101のトナー画像が記録材Pの面上に静電的に転写される。
【0024】
以上が像形成手段としての画像形成機構部の構成である。
【0025】
109は給紙カセットである。給紙カセット109には記録材Pを積載収納させてある。給紙スタート信号に基づいて給紙ローラ108が駆動されて給紙カセット109内の記録材Pが一枚ずつ分離給紙される。そしてその記録材Pは、搬送ローラ110、レジストローラ111等を含むシートパス112を通って、感光体ドラム101と転写ローラ106との当接ニップ部である転写部位に所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101上のトナー画像の先端部が転写部位に到達したとき、記録材Pの先端部もちょうど転写部位に到達するタイミングとなるようにレジストローラ111で記録材Pの搬送が制御される。
【0026】
転写部位に導入された記録材Pは、この転写部位を挟持搬送され、その間、転写ローラ106には不図示の転写バイアス印加電源から転写電圧(転写バイアス)が印加される。この転写ローラ106及び転写電圧制御については後述する。
【0027】
転写部位においてトナー画像の転写を受けた記録材Pは、感光体ドラム101表面から分離されてシートパス113を通って像加熱装置としての画像定着装置(定着器)107へ搬送導入され、ここでトナー画像の加熱・加圧定着処理を受ける。
【0028】
一方、記録材分離後(記録材Pに対するトナー像転写後)の感光体ドラム101表面はクリーニング装置105で転写残トナーや紙粉等の除去を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0029】
定着装置107を通った記録材Pは、シートパス114を通って排紙口から排紙トレイ115上に排出される。
【0030】
転写ローラ106は、一般にSUS、Fe等の芯金上にカーボン、イオン導電性フィラー等で1×106〜1×1010Ω程度の抵抗に調整された半導電性のスポンジ弾性層を形成した弾性スポンジローラが用いられる。本実施例1では、芯金の外回りに同心一体に、NBRゴムと界面活性剤等を反応させ、導電性を有する弾性層をローラ状に成形具備させてなるイオン導電系の転写ローラを用いた。抵抗値は1×108〜5×108Ωの範囲のものを用いた。
【0031】
転写ローラ106の抵抗は雰囲気環境の温湿度に応じて変動しやすいことが知られている。この転写ローラ106の抵抗変動は転写不良や紙跡などの発生を招来する。そこで、転写ローラ106の抵抗変動に起因する転写不良や紙跡などの発生を防止するために、転写ローラ106の抵抗値を測定し、その抵抗値測定結果に応じて転写ローラ106に印加する転写電圧を適正に制御する「印加転写電圧制御」が採択される。
【0032】
そのような印加転写電圧制御例として特開平2−123385号公報に開示されるATVC制御(Active Transfer Voltage Control)がある。ATVC制御は、転写時、転写ローラに印加する転写バイアスを最適化する手段であり、転写不良、紙跡の発生を防止したものである。上記転写バイアスは、画像形成装置の前回転行程中に転写ローラから感光体ドラムに所望の定電流バイアスを印加し、その時のバイアス値から転写ローラの抵抗を検知し、印字行程の転写時に、その抵抗値に応じた転写バイアスを転写ローラに印加する。本実施例1においても、上記のATVC制御を用いた。
【0033】
(2)定着装置107
次に、本実施例1における定着装置107について説明する。
【0034】
以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。長さとは長手方向の寸法をいう。幅とは短手方向の寸法をいう。
【0035】
図1は本実施例1に係るフィルム加熱方式の定着装置の横断側面模型図である。図2は定着装置の縦断面模型図である。図3は定着装置を記録材の導入側から見た図である。図4はニップ部N及びその周囲の横断側面拡大図である。この装置は特開平4−44075〜44083号公報、同4−204980〜204984号公報等に開示のテンションレスタイプの装置である。
【0036】
テンションレスタイプのフィルム加熱方式の定着装置は、可撓性部材として耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)を用いている。そして耐熱性フィルムとしては、エンドレスベルト状もしくは円筒状のものを用いている。耐熱性フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションフリー(テンションが加わらない状態)とし、耐熱性フィルムは加圧体(バックアップ部材)としての加圧ローラの回転駆動力で回転駆動するようにした装置である。
【0037】
(2−1)ステー
1は加熱体(ヒータ)3を支持する支持部材としてのステーである。ステー1は、加熱体支持部材兼フィルムガイド部材としての耐熱性の剛性部材である。このステー1は、ステー1の長手方向両端部が装置フレーム(不図示)に保持されている。ステー1の下面には、ステーの長手方向に沿って加熱体3を配設して保持させてある。加熱体3の詳細については後述する。
【0038】
ステー1は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等で構成できる。本実施例1では液晶ポリマーを用いた。
【0039】
(2−2)耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)
2はエンドレス(円筒状)の耐熱性フィルム(以下、フィルムと称す)である。フィルム2は、加熱体3を保持しているステー1に外嵌させてある。フィルム2の内周長と加熱体3を支持しているステー1の外周長はフィルム2の方を例えば3mm程度大きくしてある。従ってフィルム2は周長に余裕を持ってステー1に外嵌されている。Kは記録材搬送方向である。
【0040】
フィルム2は、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、フィルム膜厚は100μm以下、好ましくは50μm以下20μm以上の耐熱性のあるPTFE、PFA、FEP等の単層フィルム、或いは複合層フィルムを使用できる。複合層フィルムとして、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等のフィルムの外周表面にPTFE、PFA、FEP等をコーティングした複合層フィルムを使用できる。本実施例1では、膜厚50μmのポリイミドフィルムの外周表面にPTFEをコーティングしたものを用いた。フィルム2の外径は24mmとした。
【0041】
(2−3)加圧ローラ(バックアップ部材)
4は加圧ローラである。加圧ローラ4は、加熱体3との間にフィルム2を挟んで加熱体3とニップ部(圧接ニップ部、定着ニップ部)Nを形成し、かつフィルム2を回転駆動させるローラ部材である。加圧ローラ4は、丸軸状の芯金4aと、芯金4aの外周面上にローラ状に設けられた弾性体層4bと、弾性体層4bの外周面上に設けられた最外層の離形層4cと、を有する。この加圧ローラ4は、フィルム2と並列に配置され、芯金4aの長手方向両端部が装置フレームに軸受(不図示)を介して回転自在に保持されている。そしてその軸受を加圧バネ等の付勢手段(不図示)により所定の押圧力をもって付勢し加圧ローラ4の外周面(表面)をフィルム2を挟ませて加熱体3の表面に加圧することにより加圧ローラ4の弾性体層4bを長手方向に弾性変形させている。その弾性体層4bの弾性変形によってフィルム2の外周面(表面)と加圧ローラ4表面との間に未定着トナー画像Tの加熱定着に必要な所定幅のニップ部Nを形成している(図4参照)。本実施例1では、芯金4aはアルミ芯金を用いた。弾性体層4bはシリコーンゴムを用いた。離形層4cは厚さ約30μmのPFAのチューブを用いた。加圧ローラ4の外径は22mm、弾性体層4bの厚さは約3mmとした。
【0042】
この加圧ローラ4は、芯金4aの長手方向一端部に設けられている駆動ギアGが駆動系Mにより回転駆動されることによって矢印の時計方向に所定の周速度で回転される。この加圧ローラ4の回転により、ニップ部Nにおける加圧ローラ4表面とフィルム2表面との摩擦力でフィルム2に回転力が作用する。これによりフィルム2は、フィルム2の内周面(内面)がニップ部Nにおいて加熱体3の表面に密着して摺動しながらステー1の外回りを矢印の反時計方向に加圧ローラ4の回転周速度とほぼ同じ周速度で従動回転する。
【0043】
(2−4)加熱体(ヒータ)
次に、加熱体3について説明する。
【0044】
図5の(a)は加熱体3の表面を表わす正面図、(b)は加熱体3の裏面を表わす背面図、(c)は加熱体3のC1−C1断面図である。
【0045】
本実施例1に示す加熱体3は、長手方向に細長い基板7を有する。そしてその基板7の表面(フィルム摺動面)側に、発熱抵抗体6と、発熱抵抗体6に給電する電極としての給電用電極9・10及び導電パターン14と、発熱抵抗体6と導電パターン14を保護するオーバーコート層8を設けた全体に低熱容量の加熱体である。
【0046】
基板7は、耐熱性・絶縁性・良熱伝導性を有する。基板7の材料としては、例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のセラミックス材料が用いられる。本実施例1では、基板7として幅7mm、長さ270mm、厚さ1mmの酸化アルミニウム製の基板を使用している。
【0047】
発熱抵抗体6は、基板7の基板面上(基板上)に基板7の短手方向に離間させて基板7の長手方向に沿って2本(複数本)設けられている。つまり、発熱抵抗体6は、基板7の短手方向において、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側と記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている。以下、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と称す。また記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を下流側の発熱抵抗体6と称す。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6は、それぞれグラファイト・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペースト(以下、グラファイトペーストとも称す)をスクリーン印刷により、基板7上に形成して得たものである。発熱抵抗体6の形状・特性については後述する。
【0048】
また、上流側の発熱抵抗体6とその両側の導電パターン14−1、14−2を第1の発熱セグメントと称し、下流側の発熱抵抗体6とその両側の導電パターン14−3、14−4を第2の発熱セグメントと称する。第1の発熱セグメントと第2の発熱セグメントは電気的に直列に繋がっている。また、図5のように、第1の発熱セグメントは、ヒータの長手方向に4つの発熱部分(発熱part)6を有し、4つの発熱部分は電気的に直列に繋がっている。基板7の短手方向において上流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン14−1(第1の導電パターン),14−2(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。また基板7の短手方向において下流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン14−3(第1の導電パターン),14−4(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。そして上流側の発熱抵抗体6の外側(上流側)に設けられている導電パターン14−1は下流側の発熱抵抗体6の内側(上流側)に設けられている導電パターン14−3と接続されている。そして、導電パターン14−1には給電用電極9が、導電パターン14−4には給電用電極10が、それぞれ接続されている。
【0049】
また、図5のように、第1の発熱セグメントにおいて、第1の導電パターンと14−1と第2の導電パターン14−2はヒータ長手方向でオーバーラップする領域を有し、電力供給されて発熱する発熱抵抗体6は、第1の導電パターン14−1と第2の導電パターン14−2それぞれのオーバーラップする領域同士を電気的に繋いでいる。第2の発熱セグメントは、発熱抵抗体の数が第1の発熱セグメントと異なるだけで、基本的に第1の発熱セグメントと同様の形状である。
【0050】
給電用電極9・10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は、銀を材質としたペーストを基板7上にスクリーン印刷したものである。給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は発熱抵抗体6に給電する目的で設けられている。そのため、給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4の抵抗は発熱抵抗体6の抵抗に対して十分低くしている。
【0051】
オーバーコート層8は、発熱抵抗体6と加熱体3表面との電気的な絶縁性を確保することとフィルム2内面との摺動性を確保することが主な目的である。本実施例1では、オーバーコート層8として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0052】
基板7の裏面(非フィルム摺動面)には、温度検知手段として加熱体3の温度を検知する検温素子5が設けられている。本実施例1では、検温素子として加熱体3から分離した外部当接型のサーミスタを用いている。この外部当接型サーミスタ5は、例えば支持体上に断熱層を設けその上にチップサーミスタの素子を固定し、素子を下側(基板6裏面側)に向けて所定の加圧力により基板6裏面に当接するような構成をとる。本実施例1では、支持体として高耐熱性の液晶ポリマーを、断熱層としてセラミックスペーパーを積層したものを用いた。外部当接型サーミスタ5は基板7の最小通紙域内即ち基板7の長手方向においてサイズの異なる記録材が必ず通過する領域内に設けられている。そしてそのサーミスタ5は制御手段としてのCPU11に通じている。
【0053】
この加熱体3をオーバーコート層8を形成具備させた表面側を下向きに露呈させてステー1の下面側に保持させて固定配設してある。以上の構成をとることにより、加熱体3全体を低熱容量にすることができ、クイックスタートが可能になる。
【0054】
図6は加熱体3の通電制御を行う回路の一例を表わす図である。
【0055】
加熱体3は、基板7の長手方向端部の内側に設けられている給電用電極9,10に電源13から給電用コネクタ(不図示)を通じて給電される。これにより、給電用電極10と給電用電極9間で上流側及び下流側の発熱抵抗体6に導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を通じて図7にて矢印で示す通電経路を辿って通電される。上流側及び下流側の発熱抵抗体6は通電により長手全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温がサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力情報に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御や、波数制御等により制御して、加熱体3の温度制御を行う。即ちサーミスタ5の検知温度が所定の設定温度(目標温度)より低いと加熱体3が昇温するように、所定の設定温度より高いと降温するように通電を制御することで、加熱体3は所定の設定温度に保たれる。なお、本実施例1では位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。出力100%は加熱体3に全通電したときの出力を示す。
【0056】
加熱体3の温度が所定の設定温度に立ち上がり、かつ加圧ローラ4の回転によるフィルム2の回転周速度が定常化した状態においてニップ部Nに未定着トナー画像Tを担持する記録材Pが転写部位より導入される。そして、記録材Pがフィルム2と一緒にニップ部Nを挟持搬送されることにより加熱体3の熱がフィルム2を介して記録材Pに付与され記録材上のトナー画像Tが記録材P面に加熱定着される。ニップ部Nを通った記録材Pはフィルム2表面から分離されて搬送される。
【0057】
以下に本実施例1の加熱体3の製法を述べる。
【0058】
まず、酸化アルミニウム製の基板7上に給電用電極9,10と導電パターン14を同時にスクリーン印刷し、その給電用電極9・10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に発熱抵抗体6として前述のグラファイトペーストをスクリーン印刷し、そのグラファイトペーストを乾燥・焼成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、焼成温度は約600℃とした。その後、オーバーコート層8をスクリーン印刷により形成し、そのオーバーコート層8を乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、オーバーコート層8の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した。
【0059】
次に、本実施例1の発熱抵抗体6の形状・特性について詳細に説明する。
【0060】
図7は加熱体3の発熱抵抗体6の分割形態を表わす図である。図7においては、簡単のためオーバーコート層8を省略している。
【0061】
本実施例1では、加熱体3の発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本に分けそれらを導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4によって直列に接続している。そして上流側の発熱抵抗体6を基板7の長手方向で4分割し、下流側の発熱抵抗体6を基板7の長手方向で3分割している。つまり、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を3個以上の部分に分割している。本実施例1の加熱体3の特徴は、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えるとともに、その分割によって基板7の長手方向に生じる隙間の位置(分割位置)が基板7の長手方向において異なっている(一致しない)点である。
【0062】
上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6において、分割された発熱抵抗体6の1区域には基板7の短手方向に給電するように導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4が設けられている。そして分割された区域同士は導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4によって基板7の長手方向に直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域には流れる電流Iは図7の矢印の向きになる。
【0063】
上流側の発熱抵抗体6の1区域の長さaは55mmとしている。下流側の発熱抵抗体6の1区域の長さbは73.5mmとしている。発熱抵抗体6の幅dは上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6のいずれも1.55mmとしている(総発熱体幅は3.1mm)。上流側の発熱抵抗体6の4つの区域と、下流側の発熱抵抗体6の3つの区域は、それぞれ同じ形状である。分割された区域の隙間の長さfは上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6のいずれも0.5mmとした。よって、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の全長は隙間を含めるといずれの発熱抵抗体6も221.5mmになる。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の厚さはいずれの発熱抵抗体6も約10μmとした。
【0064】
導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4の幅cは0.5mmとした。導電パターン14−2と導電パターン14−3との間の幅(隙間)gは0.5mmとした。基板7の上流側の端縁から導電パターン14−1までの幅eと基板7の下流側の端縁から導電パターン14−4までの幅eはそれぞれ0.7mmとした。
【0065】
上記長さf及び幅c,e,gは、加熱体3の製造上可能な最小の値としている。
【0066】
本実施例1では、発熱抵抗体6の材料としてグラファイト・ガラスを主成分としたグラファイトペーストを用いており、その常温のシート抵抗は約100Ω/sq(厚さ10μm)である。本実施例1では、上流側の発熱抵抗体6の総抵抗(4区域の総抵抗)は常温で11.5Ωである。下流側の発熱抵抗体6の総抵抗(3区域の総抵抗)は常温で6.5Ωである。そして上流側の発熱抵抗体6の抵抗と下流側の発熱抵抗体6の抵抗を合わせた総抵抗(給電用電極9,10間の抵抗)は常温で18Ωである。
【0067】
従来の発熱抵抗体は銀パラジウム(Ag/Pd)等の金属を主体としたペーストで形成されているのが一般的であり、PTC特性(Positive TemperatureCoefficient)を示す。PTC特性とは温度が上がると抵抗が高くなる正の抵抗温度特性をいう。一方、本実施例1で発熱抵抗体6の材料として用いているグラファイトは、ある温度を境にその温度以下ではNTC特性(Negative Temperature Coefficient)を、その温度以上ではPTC特性を示す性質がある。そしてその変曲点温度は700℃程度である。NTC特性とは温度が上がると抵抗が低くなる負の抵抗温度特性をいう。
【0068】
加熱体3の最高到達温度は300℃程度であるので、本実施例1の発熱抵抗体6は、定着装置107の実使用時においてはNTC特性を示す。本実施例1の発熱抵抗体6の抵抗変化率は−1000ppm/℃程度(25℃から200℃までの抵抗変化率 以下の抵抗変化率の値も同様)とした。ちなみに、従来の加熱体に用いられている銀パラジウムペーストの抵抗変化率は0〜1000ppm/℃程度である(銀とパラジウムの比率によって異なる)。
【0069】
本実施例1との比較のために、比較例の加熱体30について説明する(以下、この比較例を比較例1とする)。
【0070】
図9は比較例1の加熱体30の正面図である。
図9において、本実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一の符号を付している。
【0071】
17は発熱抵抗体である。発熱抵抗体17は、銀パラジウム・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストを、酸化アルミニウム製の基板7上にスクリーン印刷により、幅3.1mm、長さ220mm、厚さ約10μmの線帯状に形成して得たものである。発熱抵抗体17の総発熱体幅は本実施例1の加熱体3における発熱抵抗体17の総発熱体幅と同じである。酸化アルミニウム製の基板7は本実施例1の基板7と同じ形状とした。従来例1の発熱抵抗体17は、常温のシート抵抗が約0.25Ω/sq(厚さ10μm)であるものを用いている。また発熱抵抗体17の総抵抗は本実施例1の発熱抵抗体6の総抵抗と同じく常温で18Ωとした。また発熱抵抗体17の抵抗変化率は500ppm/℃程度とした。
【0072】
比較例1の加熱体30において発熱抵抗体17の材料・形状及び導電パターン18の形状以外の構成は、本実施例1の加熱体3と同じとした。比較例1の加熱体30においてオーバーコート層として銀パラジウムペーストと相性の良い厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いているが、図9では簡単のため省略している。
【0073】
比較例1の加熱体30において、発熱抵抗体17には給電用電極9,10及び導電パターン18より基板7の長手方向に給電され、電流iは基板7の長手方向に流れる。従来の加熱体では、比較例1の加熱体30のように基板7の長手方向に給電するタイプが一般的である。
【0074】
比較例1の加熱体30を備えた定着装置のニップ部に小サイズ紙を通紙(導入)すると、前述した非通紙部昇温が発生する。比較例1の加熱体30を本実施例1で説明した定着装置107に搭載した場合を考え、以下、非通紙部昇温についてモデル図を用いて説明する。
【0075】
図10は比較例1の加熱体30における発熱抵抗体17のモデル図である。ここでは、発熱抵抗体17を長さm(=55mm)に4分割して考え、中央部の2つの区域の抵抗をそれぞれr1、端部の2つの区域の抵抗をそれぞれr2とする(中央部と端部の温度が同じであればr1=r2)。2(r1+r2)が総抵抗になり、常温では18Ωである。発熱抵抗体17に流れる電流をiとすると、中央部の1区域の発熱量q1はi2・r1であり、端部の1区域の発熱量q2はi2・r2である。
【0076】
簡単のため、幅2m(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央部の抵抗がr1の区域は通紙部に、端部の抵抗がr2の区域は非通紙部になる。加熱体30の温度制御は通紙部に設けられたサーミスタで行われるので、小サイズ紙に熱を奪われる通紙部に比べて、小サイズ紙に熱を奪われない非通紙部の温度は上昇する。発熱抵抗体17はPTC特性を示すため、小サイズ紙通紙時はr1<r2となる。電流iは通紙部・非通紙部で同じであるためq1<q2となり、非通紙部の発熱量は中央部の発熱量よりも大きくなる。
【0077】
本実施例1の加熱体3についても、同様にモデル図を用いて考えてみる。
【0078】
図8は本実施例1の発熱抵抗体6のモデル図である。ここでは、簡単のため上流側の発熱抵抗体6のみに給電しているモデル図を用いて説明する。4分割された発熱抵抗体6の抵抗を、中央部の1区域をR1、端部の1区域をR2とする(中央部と端部の温度が同じであればR1=R2)。2(R1+R2)が総抵抗になり、常温では11.5Ωである。つまり、温度が全て等しければR1=R2である。発熱抵抗体6に流れる電流をIとすると、中央部の1区域の発熱量Q1はI2・R1であり、端部の1区域の発熱量Q2はI2・R2である。
【0079】
比較例1の加熱体30の場合と同様に、幅2m(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央部の抵抗がR1の区域は通紙部に、端部の抵抗がR2の区域は非通紙部になる。本実施例1の加熱体3でも比較例1の加熱体30の場合と同じく、小サイズ紙を通紙すると通紙部よりも非通紙部の温度が高くなる。本実施例1の加熱体3の発熱抵抗体6はNTC特性であるため、小サイズ紙通紙時はR1>R2となる。電流Iは通紙部・非通紙部で同じであるためQ1>Q2となり、本実施例1の加熱体3の場合は、非通紙部の発熱量は中央部の発熱量よりも小さくなる。
【0080】
比較例1の加熱体30と本実施例1の加熱体3の定着性は総発熱体幅が同じ3.1mmであるのでほぼ同等である。よって、同じ小サイズ紙を通紙したときの通紙部の発熱量(=定着性)はほぼ同等、すなわちq1=Q1となる。故に、同じ小サイズ紙を通紙したときの非通紙部の発熱量はq2>Q2となり、本実施例1の加熱体3の方が比較例1の加熱体30よりも非通紙部昇温が小さくなることが分かる。
【0081】
以下に本実施例1の加熱体3と比較例1の加熱体30との非通紙部昇温の比較を示す。本実施例1の加熱体3を備えた定着装置を搭載する画像形成装置と比較例1の加熱体30を備えた定着装置を搭載する画像形成装置において、定着装置が十分室温(25℃)になじんだ状態からハガキサイズの記録材を連続でニップ部に100枚通紙した。そしてそのときの非通紙部の最高温度(加熱体裏面を熱電対で測定)を比較した。なお、画像形成装置に搭載されている定着装置は加熱体3,30を除いて同じ構成としてある。定着装置の定着温度は230℃とした。加熱体3,30への入力電圧は100Vとし、画像形成装置のプロセススピードは200mm/sec.とした。
【0082】
試験結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、比較例1に比べて大幅に(約50℃)非通紙部温度を下げることができた。
【0085】
次に記録材としてハガキサイズで坪量が157g/m2の厚紙を定着装置のニップ部に強制的に重送させて通紙し、何枚重送させると定着装置の劣化・破損に至るかを試験した。定着温度・入力電圧・プロセススピードは非通紙部昇温を測定したときと同条件としている。
【0086】
試験結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、比較例1の加熱体30は非通紙部昇温により基板7に発生する熱応力によって、4重送または3重送で破損に至り、定着装置のステー、フィルム、加圧ローラ表層の非通紙部に劣化が認められた。
【0089】
一方、本実施例1の加熱体3は2回とも10重送まで重送枚数を増やしていったが破損せず、定着装置107のステー、フィルム、加圧ローラ表層にも劣化は認められなかった。
【0090】
この結果からも本実施例1の加熱体3を用いることによって、非通紙部昇温が大幅に低減できていることが分かる。
【0091】
次に本実施例1との比較のために、本件特許出願の発明者が特許文献1で提案した加熱体の構成について説明する(以下、特許文献1で提案した加熱体を比較例2とする)。
【0092】
比較例2の加熱体においても発熱抵抗体の材料・形状及び導電パターンの形状以外の構成は、本実施例1の加熱体3と同じとした。本実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一符号を付した。
【0093】
図11は比較例2の加熱体40の正面図である。
【0094】
比較例2に示す加熱体40は、発熱抵抗体6として、本実施例1の発熱抵抗体6と全く同じグラファイト・ガラスを主成分とするペーストを用いている。その他の基板、導電パターン、給電用電極、オーバーコート層(図11では省略している)の材料も本実施例1の加熱体3と同じである。
【0095】
比較例2の加熱体40では、発熱抵抗体6を4分割している。つまり比較例2の加熱体40は、本実施例1の加熱体3の構成から下流側の発熱抵抗体6を削除したような形状になっている。
【0096】
発熱抵抗体6において、分割された1区域の長さaは55mm(本実施例1の上流側の発熱抵抗体6の1区域と同じ)とし、幅dは2.6mmとし、発熱抵抗体6の4区域とも同じ形状としている。発熱抵抗体6の厚さは本実施例1と同じく約10μmとした。分割された区域の隙間の長さfは0.5mmとした。基板7の短手方向において発熱抵抗体6の両側には導電パターン19−1,19−2が基板7の長手方向に沿って設けられている。その導電パターン19−1,19−2のうち発熱抵抗体6の外側(上流側)に設けられている導電パターン19−1は基板7の下流側の端縁の内側で導電パターン19−2と並列に設けられている導電パターン19−3と接続されている。これらの各導電パターン19−1,19−2,19−3の幅cは0.5mmとした。また、導電パターン19−2と導電パターン19−3との間の幅(隙間)gは0.5mmとした。基板7の上流側の端縁から導電パターン19−1までの幅eは0.7mmとした。また基板7の上流側の端縁から導電パターン19−1までの幅eと基板7の下流側の端縁から導電パターン19−3までの幅eはそれぞれ0.7mmとした。つまり、比較例2の加熱体40と本実施例1の加熱体3において上記長さa,d,f,gは同じであり、また上記幅c,eも同じである。ちなみに比較例の加熱体40の常温における発熱抵抗体6の総抵抗も本実施例1の加熱体40の発熱抵抗体6の総抵抗と同じく18Ωである。なお、酸化アルミニウム製の基板7の幅は比較例2では6mmとしている。
【0097】
グラファイトペーストはNTC特性を示す材料の中ではシート抵抗が低い方であるが、銀パラジウム等の金属ペーストに比べるとシート抵抗は大きい。よって、グラファイトペーストで比較例1の加熱体30のように長手方向に給電する発熱抵抗体パターンを形成すると、総抵抗が非常に大きくなり加熱体として用いることができない。例えば、本実施例1のシート抵抗のグラファイトペーストで、図9の比較例1の発熱抵抗体パターンを厚さ約10μmで形成すると、総抵抗は約7000Ωになってしまう。これはグラファイト以外のNTC特性を示す材料にも言えることである。
【0098】
シート抵抗の大きいグラファイトペーストを、商用電源で使用できる範囲の総抵抗にするための発熱抵抗体パターンが比較例2である。この構成であれば、モデル図で説明したように、グラファイトの有するNTC特性を非通紙部昇温低減に有効に使うことができる。しかし、比較例2の加熱体40で問題となるのは、この構成で必須となる分割によって生じる発熱抵抗体6の隙間部分の定着性である。
【0099】
比較例2の加熱体40では、発熱抵抗体6の3箇所の隙間部分は全く発熱抵抗体6が存在しないので、どうしても他の部分に比べて定着性が悪くなる。この隙間部分における定着性悪化を補うために、特許文献1では、隙間の形状を斜めにしたり(隙間の形状を斜めにした加熱体を従来例3とする。図12を参照)、形状を斜めにした上で隙間付近の発熱抵抗体の抵抗を変えたりして、定着性悪化を補っている。図12は比較例3の加熱体50の正面図である。
【0100】
前述したように、画像形成装置のプロセススピードがあまり速くない場合は、比較例3のような構成の加熱体50を用いることで発熱抵抗体6の隙間部分の定着性を使用上問題ないレベルまで補うことが可能であった。
【0101】
しかし、近年の画像形成装置のスピードアップにより、基板の長手方向全域において良好な定着性を確保するのも難しくなってきており、比較例3の加熱体50のような構成では、発熱抵抗体6の隙間部分の定着性確保に限界が生じてきている。
【0102】
この隙間部分の定着性確保という課題を解決するものが本実施例1の加熱体3である。図7を示して説明した通り、本実施例1の加熱体3では発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とに分けている。そして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とで発熱抵抗体6の分割数を変えることによって、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とで隙間の位置が一致しないようにしている。このため、基板の長手方向全域にわたって従来例2の加熱体40のように発熱抵抗体6が全く存在しない領域がなく、プロセススピードが速い画像形成装置においても、隙間部分の定着性が他の部分に比べて著しく悪化することはない。従って、画像全体で一様かつ良好な定着性を得ることができる。
【0103】
非通紙部昇温防止と画像全体で一様かつ良好な定着性確保(隙間部分の定着性確保)という2つの観点から、これまで説明してきた本実施例1の加熱体3と比較例1〜3の加熱体30,40,50を比較してみると、以下の表3のようになる。
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示す通り、本実施例1の加熱体3の構成が、非通紙部昇温防止と画像全体で一様かつ良好な定着性確保とを両立できる構成であることが分かる。
【0106】
本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6の幅と下流側の発熱抵抗体6の幅を同じにして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えているので、上流側の発熱抵抗体6の抵抗が下流側の発熱抵抗体6の抵抗よりも大きくなっている。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6において隙間の位置が一致しないのであれば、発熱抵抗体6の幅や分割数を調整して上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を同じ抵抗に、あるいは下流側の発熱抵抗体6の抵抗を大きくしてもよい。
【0107】
また、本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本の発熱抵抗体6を用いているが、3本以上の発熱抵抗体を、直列に接続するように構成することも可能である。
【0108】
更に、本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6をそれぞれ等分割し1区域の抵抗を同じにしているが、各々の発熱抵抗体6の分割は等分割に限られない。各々の発熱抵抗体6の隙間の位置が一致しないのであれば、等分割にせず、基板7の長手方向において各々の発熱抵抗体6を分割している区域に抵抗差をつけてもよい(例えば、端部の区域を中央部の区域よりも短くする等)。
【0109】
このように本実施例1の加熱体3では、発熱抵抗体の本数、幅、分割数、各発熱抵抗体の接続方法を適宜変えることによって、同じシート抵抗のペーストを用いても、仕様の異なる各種の定着装置に適した所望の総抵抗を得ることができるという利点もある。
【0110】
[実施例2]
加熱体の他の例を説明する。
【0111】
本実施例2に示す加熱体は、基板として窒化アルミニウム製の基板を用いる。実施例1のように基板の材料に酸化アルミニウムを用いる場合は、基板の表面側に発熱抵抗体を形成し、基板の裏面側にサーミスタを設ける構成が一般的である(表面発熱タイプ)。一方、基板の材料に窒化アルミニウムを用いる場合は、窒化アルミニウムは酸化アルミニウムより熱伝導率が高い。そのため、基板の裏面側に発熱抵抗体を形成し、その発熱抵抗体の上から絶縁層を介してサーミスタを当接し温度制御する構成の方が定着効率が良く一般的である(裏面発熱タイプ)。よって、本実施例2においても裏面発熱タイプを用いた。
【0112】
本実施例2の加熱体において、実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一符号を付している。
【0113】
以下、本実施例2の加熱体3について説明する。
【0114】
図13の(a)は本実施例2の加熱体3の表面を表わす正面図、(b)は加熱体3の裏面を表わす背面図、(c)は(a)の加熱体3のC2−C2断面図である。図14は加熱体3の通電制御を行う回路の一例を表わす図である。
【0115】
本実施例2の加熱体3では、基板15として幅7mm、長さ270mm、厚さ0.6mmの窒化アルミニウム製の基板を用いている。実施例1の酸化アルミニウム製の基板7では、その基板7の幅と長さは本実施例2の窒化アルミニウム製の基板15のそれと同じあるが、厚さは1mmであった。両者で基板7,15の厚さが異なるのは以下の理由による。
【0116】
加熱体が高温になると基板内の温度差(基板の幅方向において発熱抵抗体が存在する部分と基板端など発熱抵抗体が存在しない部分との温度差)より熱応力が生じる。この熱応力が基板の破断強度を超えると、基板が破損してしまう。基板を厚くすると、基板の強度は増すが、その分、熱容量が大きくなりクイックスタートに不利になる。表面発熱タイプの場合はサーミスタの応答性が悪化し、裏面発熱タイプの場合は記録材へ熱が伝わりにくくなるため定着効率が悪化する、等の問題点がある。よって、基板に発生しうる熱応力に十分耐えられる範囲でなるべく基板を薄くすることが望ましい。窒化アルミニウム製基板は、酸化アルミニウム製基板よりも熱伝導率が高いので、基板内の温度差が小さく基板に生じる熱応力が小さい。基板に発生する熱応力によって基板が破損しない範囲でできるだけ薄くするという観点で、酸化アルミニウム製基板は1mmという厚さを選択し、窒化アルミニウム製の基板は0.6mmという厚さを選択している。
【0117】
本実施例2の加熱体3では、発熱抵抗体6を基板15の裏面(非フィルム摺動面)に設けている。発熱抵抗体6は、実施例1と同様、基板15の長手方向に沿って基板15の短手方向に並列に2本設けられている。本実施例2においても、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と称す。また記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を下流側の発熱抵抗体6と称す。そしてその上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を絶縁層20でオーバーコートしている。絶縁層20は厚さ約50μmの耐熱性ガラス層である。この絶縁層20は上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を他の部材から電気的に絶縁するために設けられている。一方、基板15の表面(フィルム摺動面)には、摺動層21を設けている。摺動層21は加熱体3とフィルム2内面との摺動性を確保するために設けられている。本実施例2では、摺動層21として厚さ約10μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0118】
上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6は、グラファイト・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板15上に形成して得たものである。発熱抵抗体6の材料は実施例1の発熱抵抗体6と同じものを用いた。発熱抵抗体6の形状・特性については後述する。
【0119】
基板15の短手方向において上流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン22−1,22−2が基板15の長手方向に沿って設けられている。また基板15の短手方向において下流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン22−3,22−4が基板15の長手方向に沿って設けられている。そして上流側の発熱抵抗体6の内側(下流側)に設けられている導電パターン22−2は下流側の発熱抵抗体6の外側(下流側)に設けられている導電パターン22−4と接続されている。そして、導電パターン22−1には給電用電極9が、導電パターン22−4には給電用電極10が、それぞれ接続されている。
【0120】
本実施例2の加熱体3においても、基板7の長手方向端部の内側に設けられている給電用電極9,10に電源13(図14)から給電用コネクタ(不図示)を通じて給電される。これにより、給電用電極10と給電用電極9間で上流側及び下流側の発熱抵抗体6に導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を通じて図15にて矢印で示す通電経路を辿って通電される。上流側及び下流側の発熱抵抗体6は通電により長手全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温が基板15の裏面に設けられているサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力情報に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御、波数制御等により制御して、加熱体3の温度制御を行う。本実施例2でも、位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。
【0121】
本実施例2の加熱体3の製法も実施例1の加熱体3と同様である。まず、窒化アルミニウム製の基板15の表面に摺動層16をスクリーン印刷し、その摺動層16を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に基板15の裏面に給電用電極9,10と導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を同時にスクリーン印刷し、その給電用電極9,10と導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に発熱抵抗体6として前述のグラファイトペーストを基板15の裏面にスクリーン印刷し、そのグラファイトペーストを乾燥・焼成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、焼成温度は約600℃とした。その後、絶縁層20を基板15の裏面にスクリーン印刷し、その絶縁層20を乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、絶縁層20の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した(実施例1のオーバーコート層8と同じ材料)。
【0122】
次に、本実施例2の発熱抵抗体6の形状・特性について詳細に説明する。
【0123】
図15は加熱体3の発熱抵抗体6の分割形態を表わす図である。図15においては、簡単のため絶縁層20を省略している。
【0124】
本実施例2の発熱抵抗体パターンは実施例1と同じく、発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本に分けそれらを導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4によって直列に接続している。そして上流側の発熱抵抗体6を基板15の長手方向で4分割し、下流側の発熱抵抗体を基板15の長手方向で3分割している。本実施例2の加熱体3では、発熱抵抗体6は基板15の裏面に設けられているので、発熱抵抗体のパターン及び導電パターンは実施例1の発熱抵抗体パターン及び導電パターンの上下を反転したパターンになっている。本実施例2の加熱体3においても、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えるとともに、その分割によって生じる隙間の位置が基板15の短手方向で一致しないようにしている点が特徴である。
【0125】
実施例1と同じく、上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6において、分割された発熱抵抗体の1区域には基板15の短手方向に給電するように導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4が設けられている。そして分割された区域同士は導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4によって基板15の長手方向に直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域には流れる電流Iは図15の矢印の向きになる。
【0126】
上流側の発熱抵抗体6の1区域の長さaと、下流側の発熱抵抗体6の1区域の長さbと、分割された区域の隙間の長さfは、それぞれ実施例1の長さa,b,fと同じとした。また、発熱抵抗体6の幅も実施例1の幅dと同じとした。また、上流側の発熱抵抗体6の内側の導電パターン22−2と下流側の発熱抵抗体6の内側の導電パターン22−3との間の幅(隙間)gも実施例1と同じとした。また、基板15の上流側の端縁から上流側の発熱抵抗体6の外側の導電パターン22−1までの幅eと、基板15の下流側の端縁から下流側の発熱抵抗体6の外側の導電パターン22−4までの幅eも実施例1の幅eと同じとした。発熱抵抗体6の厚さも実施例1と同じく、上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6とも約10μmとした。
【0127】
また、グラファイトペーストの常温のシート抵抗は約100Ω/sq(厚さ10μm)とした。下流側の発熱抵抗体6の総抵抗(4区域の総抵抗)は常温で11.5Ωである。上流側の発熱抵抗体6の総抵抗(3区域の総抵抗)は常温で6.5Ωである。そして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の抵抗を合わせた総抵抗(給電用電極9,10間の抵抗)は常温で18Ωである。これらの抵抗の値も全て実施例1と同じ設定としている。発熱抵抗体6の抵抗変化率も実施例1と同じく−1000ppm/℃程度とした。
【0128】
本実施例2の加熱体3においても、実施例1の加熱体3と同じメカニズムで、比較例1のような加熱体30に対して非通紙部昇温低減の効果がある。
【0129】
また、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割によって生じる隙間部分の定着性に関しては、以下で説明する理由により、実施例1の加熱体3よりも本実施例2の加熱体3の方が優れている。
【0130】
本実施例2の加熱体3は、基板15の材料に窒化アルミニウムを用いた裏面発熱タイプであり、実施例1の加熱体3のように基板15の材料として酸化アルミニウムを用いた表面発熱タイプよりも定着効率が良い。定着効率、すなわち上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6で発生する熱が効率良く記録材に伝達されているかを判断するのは、発熱抵抗体6からみた加熱体表面方向の熱抵抗と加熱体裏面方向の熱抵抗とを比較すると分かりやすい。熱抵抗とは熱の伝わりやすさを表す物理量であり、厚さがd(m)で厚さ方向と直交する面の面積がA(m2)である直方体を考えたときに、その直方体の厚さ方向の熱抵抗R(K/W)は以下の式で定義される。
R = d /(λ・A)
ここで、λは直方体の厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)である。
【0131】
熱抵抗が小さいほど熱は伝わりやすく、大きいほど熱は伝わりにくいので、発熱抵抗体6からみて加熱体表面方向の熱抵抗は小さく、加熱体裏面方向の熱抵抗は大きい方が、効率良く記録材に熱を伝達することができ、定着効率が良いと言える。
【0132】
実施例1の加熱体3と本実施例2の加熱体3の構成で、熱抵抗を計算してみると、表4のようになる。実施例1の加熱体3及び本実施例2の加熱体3で用いている材料の熱伝導率は以下の通りである。なお、簡単のため、Aは1m2として計算している。
・実施例1
酸化アルミニウム基板:20W/m・K オーバーコート層:2W/m・K
・本実施例2
窒化アルミニウム基板:170W/m・K 絶縁層・摺動層:2W/m・K
【0133】
【表4】
【0134】
表4の熱抵抗比は、表面側の熱抵抗を裏面側の熱抵抗で割った値であり、この値が小さいほど裏面側に対して表面側の熱抵抗が小さいということになるので、定着効率が良い。
【0135】
表4に示す通り、本実施例2の加熱体3は実施例1の加熱体3よりも熱抵抗比が小さい。すなわち、本実施例2の加熱体3の方が、発熱抵抗体6から加熱体表面に熱が伝わりやすいということになる。上記の計算では、熱は加熱体表面に対して垂直方向に進むとしているが、当然加熱体表面に対して斜め方向への熱伝達も存在し、この斜め方向の熱伝達性も本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも優れている。
【0136】
加熱体表面に対して斜め方向への熱伝達性が優れている方が、発熱抵抗体6の分割によって生じる隙間部分の定着性悪化を周りからの熱でより補うことができると考えられる。そのため、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも隙間部分の定着性は良くなる。つまり、本実施例2の加熱体3の方が、発熱抵抗体6で生じた隙間部分とそれ以外の部分の温度差が、加熱体表面に熱が伝わる間に、よりならされて均一に近づくということである。
【0137】
よって、画像全体で一様かつ良好な定着性という観点では、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも優れている。従って、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも画像形成装置の更なるスピードアップにより対応しやすい構成である。
【0138】
本実施例2の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6の幅と下流側の発熱抵抗体6の幅を同じにし上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えて下流側の発熱抵抗体6の抵抗を上流側の発熱抵抗体6の抵抗よりも大きくしている。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6において隙間の位置が一致しないのであれば、発熱抵抗体6の幅や分割数を調整して上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を同じ抵抗に、あるいは上流側の発熱抵抗体6の抵抗を大きくしてもよい。
【0139】
更に、本実施例2の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6をそれぞれ等分割し1区域の抵抗を同じにしているが、各々の発熱抵抗体6の分割は等分割に限られない。各々の発熱抵抗体6の隙間の位置が一致しないのであれば、等分割にせず、基板7,15の長手方向において各々の発熱抵抗体6を分割している区域に抵抗差をつけてもよい(例えば、端部の区域を中央部の区域よりも短くする等)。
【符号の説明】
【0140】
2:耐熱性フィルム、3:加熱体、6:発熱抵抗体、7:基板、14−1・14−2・14−3・14−4:導電パターン、107:定着装置、N:ニップ部、P:記録材、T:トナー画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載する加熱定着装置(定着器)として用いれば好適な像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式のプリンタや複写機に搭載する加熱定着装置(定着器)として、セラミック製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータ、このヒータに接触しつつ移動する可撓性部材(定着フィルム)、可撓性部材を介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有するものがある。未定着トナー画像を担持する記録材は定着器のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上の画像は記録材に加熱定着される。この定着器は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短いというメリットを有する。したがって、この定着器を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、一枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First PrintOut Time)を短く出来る。またこのタイプの定着器は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
ところで、可撓性部材を用いた定着器を搭載するプリンタで小サイズの記録材を大サイズの記録材と同じプリント間隔で連続プリントすると、ヒータの記録材が通過しない領域(非通紙領域)が過度に昇温することが知られている。ヒータの非通紙領域が過昇温すると、ヒータを保持するホルダや加圧ローラが熱により損傷する場合がある。
【0004】
そこで、可撓性部材を用いた定着器を搭載するプリンタは、小サイズの記録材に連続プリントする場合、大サイズの記録材に連続プリントする場合よりもプリント間隔を広げる制御を行いヒータの非通紙領域の過昇温を抑えている。
【0005】
しかしながら、プリント間隔を広げる制御は単位時間当りの出力枚数を減らすものであり、単位時間当りの出力枚数を大サイズの記録材の場合と同等或いは若干少ない程度に抑えることが望まれる。
【0006】
そこで、上述した定着器に用いるヒータとして、温度が上昇するほど抵抗値が下がる負の抵抗温度特性(NTC:Negative Temperature Coefficient)のものを用いることも考えられている。ヒータが負の抵抗温度特性であれば、非通紙領域が過昇温しても非通紙領域の抵抗値は下がるので非通紙領域が過度の昇温を抑えられるという発想である。
【0007】
しかし、一般的に負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体は体積抵抗が高く、商用電源で使用できる範囲の抵抗を得ることは通常の発熱抵抗体パターンでは困難である場合が多い。
【0008】
この負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を用いて商用電源で使用できる範囲の抵抗を得るようにした加熱体が特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に提案されている。この加熱体では、例えばグラファイト等の負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を基板の長手方向に分割し、分割した発熱抵抗体の1区域には基板の短手方向(記録材搬送方向)に給電し、分割した発熱抵抗体の区域同士は直列に接続してある。このような構成の発熱抵抗体パターンを有する加熱体を用いることにより、簡単な構成で非通紙部昇温を低減することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−025474号公報
【特許文献2】特開2000−58232号公報
【特許文献3】特開2001−43956号公報
【特許文献4】特開2007−18912号公報
【特許文献5】特開2004−144846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の加熱体においては、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立することが望まれている。
【0011】
本発明は上述の課題に鑑み成されたものであり、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立できる像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための構成は、記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置において、エンドレスフィルムと、前記エンドレスフィルムの内面に接触し長手方向が前記エンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ヒータは、記録材搬送方向において、上流側に設けられている第1の発熱セグメントと、下流側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする。
【0013】
また上記目的を達成するための構成は、エンドレスフィルムを有し記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置に用いられるヒータにおいて、前記ヒータの短手方向において一方の端部側に設けられている第1の発熱セグメントと、前記ヒータの短手方向において他方の端部側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の更なる目的は、添付図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、非通紙部昇温防止と、分割された発熱抵抗体の隙間部分の定着性確保とを両立できる像加熱装置、及びこの像加熱装置に用いられるヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フィルム加熱方式の定着装置の一例の横断側面模型図
【図2】図1に示す定着装置の縦断面模型図
【図3】図1に示す定着装置を記録材の導入側から見た図
【図4】図1に示す定着装置のニップ部N及びその周囲の横断側面拡大図
【図5】実施例1に係る加熱体の説明図であって、(a)は加熱体の正面図、(b)は加熱体の背面図、(c)は(a)の加熱体のC1−C1矢視拡大断面図
【図6】実施例1に係る加熱体の通電制御を行う回路の一例を表わす図
【図7】実施例1に係る加熱体の発熱抵抗体の分割形態を表わす図
【図8】実施例1に係る加熱体の発熱抵抗体のモデル図
【図9】従来例1に係る加熱体の正面図
【図10】従来例1に係る加熱体の発熱抵抗体のモデル図
【図11】従来例2にかかる加熱体の正面図
【図12】図12は従来例3の加熱体の正面図
【図13】実施例2に係る加熱体の説明図であって、(a)は加熱体の正面図、(b)は加熱体の背面図、(c)は(a)の加熱体のC2−C2矢視拡大断面図
【図14】実施例2に係る加熱体の通電制御を行う回路の一例を表わす図
【図15】実施例2に係る加熱体の発熱抵抗体の分割形態を表わす図
【図16】画像形成装置の一例の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施例1]
本発明を図面に基づいて説明する。
【0018】
(1)画像形成装置例
図16は本発明に係る像加熱装置を画像定着装置(定着器)として搭載する画像形成装置の一例の概略構成図である。この画像形成装置は、転写式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンタである。このプリンタは、搬送可能な最大用紙幅をA4サイズ(210mm)とする。このプリンタの記録材の搬送基準は、記録材の搬送方向と直交する方向における記録材搬送路の中央とその方向における記録材の端部間の中央とを一致させて記録材の搬送を行う中央搬送基準である。
【0019】
101は像担持体としての電子写真感光体ドラム(以下、感光体ドラムと記す)である。感光体ドラム10は、矢示の反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転される。
【0020】
102は接触帯電ローラ等の帯電手段である。この帯電手段102により感光体ドラム101の外周面(表面)が所定の極性・電位に一様に帯電処理(一次帯電)される。
【0021】
103は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。レーザービームスキャナ103は、不図示のイメージスキャナ・コンピュータ等の外部機器から入力する目的の画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応してオン/オフ変調したレーザー光を出力して、感光体ドラム101の帯電処理面を走査露光(照射)する。この走査露光により感光体ドラム101の帯電処理面の露光明部の電荷が除電され帯電処理面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0022】
104は現像装置である。現像装置104は、現像スリーブから感光体ドラム101の帯電処理面にトナー(現像剤)を供給し帯電処理面の静電潜像(静電像)をトナー画像(現像像)として現像する。レーザービームプリンタの場合、一般的に、静電潜像の露光明部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。
【0023】
106は接触型・回転型の転写部材としての転写ローラである。転写ローラ106にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加されることで後述の転写部位において感光体ドラム101のトナー画像が記録材Pの面上に静電的に転写される。
【0024】
以上が像形成手段としての画像形成機構部の構成である。
【0025】
109は給紙カセットである。給紙カセット109には記録材Pを積載収納させてある。給紙スタート信号に基づいて給紙ローラ108が駆動されて給紙カセット109内の記録材Pが一枚ずつ分離給紙される。そしてその記録材Pは、搬送ローラ110、レジストローラ111等を含むシートパス112を通って、感光体ドラム101と転写ローラ106との当接ニップ部である転写部位に所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101上のトナー画像の先端部が転写部位に到達したとき、記録材Pの先端部もちょうど転写部位に到達するタイミングとなるようにレジストローラ111で記録材Pの搬送が制御される。
【0026】
転写部位に導入された記録材Pは、この転写部位を挟持搬送され、その間、転写ローラ106には不図示の転写バイアス印加電源から転写電圧(転写バイアス)が印加される。この転写ローラ106及び転写電圧制御については後述する。
【0027】
転写部位においてトナー画像の転写を受けた記録材Pは、感光体ドラム101表面から分離されてシートパス113を通って像加熱装置としての画像定着装置(定着器)107へ搬送導入され、ここでトナー画像の加熱・加圧定着処理を受ける。
【0028】
一方、記録材分離後(記録材Pに対するトナー像転写後)の感光体ドラム101表面はクリーニング装置105で転写残トナーや紙粉等の除去を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0029】
定着装置107を通った記録材Pは、シートパス114を通って排紙口から排紙トレイ115上に排出される。
【0030】
転写ローラ106は、一般にSUS、Fe等の芯金上にカーボン、イオン導電性フィラー等で1×106〜1×1010Ω程度の抵抗に調整された半導電性のスポンジ弾性層を形成した弾性スポンジローラが用いられる。本実施例1では、芯金の外回りに同心一体に、NBRゴムと界面活性剤等を反応させ、導電性を有する弾性層をローラ状に成形具備させてなるイオン導電系の転写ローラを用いた。抵抗値は1×108〜5×108Ωの範囲のものを用いた。
【0031】
転写ローラ106の抵抗は雰囲気環境の温湿度に応じて変動しやすいことが知られている。この転写ローラ106の抵抗変動は転写不良や紙跡などの発生を招来する。そこで、転写ローラ106の抵抗変動に起因する転写不良や紙跡などの発生を防止するために、転写ローラ106の抵抗値を測定し、その抵抗値測定結果に応じて転写ローラ106に印加する転写電圧を適正に制御する「印加転写電圧制御」が採択される。
【0032】
そのような印加転写電圧制御例として特開平2−123385号公報に開示されるATVC制御(Active Transfer Voltage Control)がある。ATVC制御は、転写時、転写ローラに印加する転写バイアスを最適化する手段であり、転写不良、紙跡の発生を防止したものである。上記転写バイアスは、画像形成装置の前回転行程中に転写ローラから感光体ドラムに所望の定電流バイアスを印加し、その時のバイアス値から転写ローラの抵抗を検知し、印字行程の転写時に、その抵抗値に応じた転写バイアスを転写ローラに印加する。本実施例1においても、上記のATVC制御を用いた。
【0033】
(2)定着装置107
次に、本実施例1における定着装置107について説明する。
【0034】
以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。長さとは長手方向の寸法をいう。幅とは短手方向の寸法をいう。
【0035】
図1は本実施例1に係るフィルム加熱方式の定着装置の横断側面模型図である。図2は定着装置の縦断面模型図である。図3は定着装置を記録材の導入側から見た図である。図4はニップ部N及びその周囲の横断側面拡大図である。この装置は特開平4−44075〜44083号公報、同4−204980〜204984号公報等に開示のテンションレスタイプの装置である。
【0036】
テンションレスタイプのフィルム加熱方式の定着装置は、可撓性部材として耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)を用いている。そして耐熱性フィルムとしては、エンドレスベルト状もしくは円筒状のものを用いている。耐熱性フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションフリー(テンションが加わらない状態)とし、耐熱性フィルムは加圧体(バックアップ部材)としての加圧ローラの回転駆動力で回転駆動するようにした装置である。
【0037】
(2−1)ステー
1は加熱体(ヒータ)3を支持する支持部材としてのステーである。ステー1は、加熱体支持部材兼フィルムガイド部材としての耐熱性の剛性部材である。このステー1は、ステー1の長手方向両端部が装置フレーム(不図示)に保持されている。ステー1の下面には、ステーの長手方向に沿って加熱体3を配設して保持させてある。加熱体3の詳細については後述する。
【0038】
ステー1は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等で構成できる。本実施例1では液晶ポリマーを用いた。
【0039】
(2−2)耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)
2はエンドレス(円筒状)の耐熱性フィルム(以下、フィルムと称す)である。フィルム2は、加熱体3を保持しているステー1に外嵌させてある。フィルム2の内周長と加熱体3を支持しているステー1の外周長はフィルム2の方を例えば3mm程度大きくしてある。従ってフィルム2は周長に余裕を持ってステー1に外嵌されている。Kは記録材搬送方向である。
【0040】
フィルム2は、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、フィルム膜厚は100μm以下、好ましくは50μm以下20μm以上の耐熱性のあるPTFE、PFA、FEP等の単層フィルム、或いは複合層フィルムを使用できる。複合層フィルムとして、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等のフィルムの外周表面にPTFE、PFA、FEP等をコーティングした複合層フィルムを使用できる。本実施例1では、膜厚50μmのポリイミドフィルムの外周表面にPTFEをコーティングしたものを用いた。フィルム2の外径は24mmとした。
【0041】
(2−3)加圧ローラ(バックアップ部材)
4は加圧ローラである。加圧ローラ4は、加熱体3との間にフィルム2を挟んで加熱体3とニップ部(圧接ニップ部、定着ニップ部)Nを形成し、かつフィルム2を回転駆動させるローラ部材である。加圧ローラ4は、丸軸状の芯金4aと、芯金4aの外周面上にローラ状に設けられた弾性体層4bと、弾性体層4bの外周面上に設けられた最外層の離形層4cと、を有する。この加圧ローラ4は、フィルム2と並列に配置され、芯金4aの長手方向両端部が装置フレームに軸受(不図示)を介して回転自在に保持されている。そしてその軸受を加圧バネ等の付勢手段(不図示)により所定の押圧力をもって付勢し加圧ローラ4の外周面(表面)をフィルム2を挟ませて加熱体3の表面に加圧することにより加圧ローラ4の弾性体層4bを長手方向に弾性変形させている。その弾性体層4bの弾性変形によってフィルム2の外周面(表面)と加圧ローラ4表面との間に未定着トナー画像Tの加熱定着に必要な所定幅のニップ部Nを形成している(図4参照)。本実施例1では、芯金4aはアルミ芯金を用いた。弾性体層4bはシリコーンゴムを用いた。離形層4cは厚さ約30μmのPFAのチューブを用いた。加圧ローラ4の外径は22mm、弾性体層4bの厚さは約3mmとした。
【0042】
この加圧ローラ4は、芯金4aの長手方向一端部に設けられている駆動ギアGが駆動系Mにより回転駆動されることによって矢印の時計方向に所定の周速度で回転される。この加圧ローラ4の回転により、ニップ部Nにおける加圧ローラ4表面とフィルム2表面との摩擦力でフィルム2に回転力が作用する。これによりフィルム2は、フィルム2の内周面(内面)がニップ部Nにおいて加熱体3の表面に密着して摺動しながらステー1の外回りを矢印の反時計方向に加圧ローラ4の回転周速度とほぼ同じ周速度で従動回転する。
【0043】
(2−4)加熱体(ヒータ)
次に、加熱体3について説明する。
【0044】
図5の(a)は加熱体3の表面を表わす正面図、(b)は加熱体3の裏面を表わす背面図、(c)は加熱体3のC1−C1断面図である。
【0045】
本実施例1に示す加熱体3は、長手方向に細長い基板7を有する。そしてその基板7の表面(フィルム摺動面)側に、発熱抵抗体6と、発熱抵抗体6に給電する電極としての給電用電極9・10及び導電パターン14と、発熱抵抗体6と導電パターン14を保護するオーバーコート層8を設けた全体に低熱容量の加熱体である。
【0046】
基板7は、耐熱性・絶縁性・良熱伝導性を有する。基板7の材料としては、例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のセラミックス材料が用いられる。本実施例1では、基板7として幅7mm、長さ270mm、厚さ1mmの酸化アルミニウム製の基板を使用している。
【0047】
発熱抵抗体6は、基板7の基板面上(基板上)に基板7の短手方向に離間させて基板7の長手方向に沿って2本(複数本)設けられている。つまり、発熱抵抗体6は、基板7の短手方向において、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側と記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている。以下、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と称す。また記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を下流側の発熱抵抗体6と称す。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6は、それぞれグラファイト・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペースト(以下、グラファイトペーストとも称す)をスクリーン印刷により、基板7上に形成して得たものである。発熱抵抗体6の形状・特性については後述する。
【0048】
また、上流側の発熱抵抗体6とその両側の導電パターン14−1、14−2を第1の発熱セグメントと称し、下流側の発熱抵抗体6とその両側の導電パターン14−3、14−4を第2の発熱セグメントと称する。第1の発熱セグメントと第2の発熱セグメントは電気的に直列に繋がっている。また、図5のように、第1の発熱セグメントは、ヒータの長手方向に4つの発熱部分(発熱part)6を有し、4つの発熱部分は電気的に直列に繋がっている。基板7の短手方向において上流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン14−1(第1の導電パターン),14−2(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。また基板7の短手方向において下流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン14−3(第1の導電パターン),14−4(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。そして上流側の発熱抵抗体6の外側(上流側)に設けられている導電パターン14−1は下流側の発熱抵抗体6の内側(上流側)に設けられている導電パターン14−3と接続されている。そして、導電パターン14−1には給電用電極9が、導電パターン14−4には給電用電極10が、それぞれ接続されている。
【0049】
また、図5のように、第1の発熱セグメントにおいて、第1の導電パターンと14−1と第2の導電パターン14−2はヒータ長手方向でオーバーラップする領域を有し、電力供給されて発熱する発熱抵抗体6は、第1の導電パターン14−1と第2の導電パターン14−2それぞれのオーバーラップする領域同士を電気的に繋いでいる。第2の発熱セグメントは、発熱抵抗体の数が第1の発熱セグメントと異なるだけで、基本的に第1の発熱セグメントと同様の形状である。
【0050】
給電用電極9・10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は、銀を材質としたペーストを基板7上にスクリーン印刷したものである。給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は発熱抵抗体6に給電する目的で設けられている。そのため、給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4の抵抗は発熱抵抗体6の抵抗に対して十分低くしている。
【0051】
オーバーコート層8は、発熱抵抗体6と加熱体3表面との電気的な絶縁性を確保することとフィルム2内面との摺動性を確保することが主な目的である。本実施例1では、オーバーコート層8として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0052】
基板7の裏面(非フィルム摺動面)には、温度検知手段として加熱体3の温度を検知する検温素子5が設けられている。本実施例1では、検温素子として加熱体3から分離した外部当接型のサーミスタを用いている。この外部当接型サーミスタ5は、例えば支持体上に断熱層を設けその上にチップサーミスタの素子を固定し、素子を下側(基板6裏面側)に向けて所定の加圧力により基板6裏面に当接するような構成をとる。本実施例1では、支持体として高耐熱性の液晶ポリマーを、断熱層としてセラミックスペーパーを積層したものを用いた。外部当接型サーミスタ5は基板7の最小通紙域内即ち基板7の長手方向においてサイズの異なる記録材が必ず通過する領域内に設けられている。そしてそのサーミスタ5は制御手段としてのCPU11に通じている。
【0053】
この加熱体3をオーバーコート層8を形成具備させた表面側を下向きに露呈させてステー1の下面側に保持させて固定配設してある。以上の構成をとることにより、加熱体3全体を低熱容量にすることができ、クイックスタートが可能になる。
【0054】
図6は加熱体3の通電制御を行う回路の一例を表わす図である。
【0055】
加熱体3は、基板7の長手方向端部の内側に設けられている給電用電極9,10に電源13から給電用コネクタ(不図示)を通じて給電される。これにより、給電用電極10と給電用電極9間で上流側及び下流側の発熱抵抗体6に導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を通じて図7にて矢印で示す通電経路を辿って通電される。上流側及び下流側の発熱抵抗体6は通電により長手全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温がサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力情報に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御や、波数制御等により制御して、加熱体3の温度制御を行う。即ちサーミスタ5の検知温度が所定の設定温度(目標温度)より低いと加熱体3が昇温するように、所定の設定温度より高いと降温するように通電を制御することで、加熱体3は所定の設定温度に保たれる。なお、本実施例1では位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。出力100%は加熱体3に全通電したときの出力を示す。
【0056】
加熱体3の温度が所定の設定温度に立ち上がり、かつ加圧ローラ4の回転によるフィルム2の回転周速度が定常化した状態においてニップ部Nに未定着トナー画像Tを担持する記録材Pが転写部位より導入される。そして、記録材Pがフィルム2と一緒にニップ部Nを挟持搬送されることにより加熱体3の熱がフィルム2を介して記録材Pに付与され記録材上のトナー画像Tが記録材P面に加熱定着される。ニップ部Nを通った記録材Pはフィルム2表面から分離されて搬送される。
【0057】
以下に本実施例1の加熱体3の製法を述べる。
【0058】
まず、酸化アルミニウム製の基板7上に給電用電極9,10と導電パターン14を同時にスクリーン印刷し、その給電用電極9・10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に発熱抵抗体6として前述のグラファイトペーストをスクリーン印刷し、そのグラファイトペーストを乾燥・焼成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、焼成温度は約600℃とした。その後、オーバーコート層8をスクリーン印刷により形成し、そのオーバーコート層8を乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、オーバーコート層8の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した。
【0059】
次に、本実施例1の発熱抵抗体6の形状・特性について詳細に説明する。
【0060】
図7は加熱体3の発熱抵抗体6の分割形態を表わす図である。図7においては、簡単のためオーバーコート層8を省略している。
【0061】
本実施例1では、加熱体3の発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本に分けそれらを導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4によって直列に接続している。そして上流側の発熱抵抗体6を基板7の長手方向で4分割し、下流側の発熱抵抗体6を基板7の長手方向で3分割している。つまり、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を3個以上の部分に分割している。本実施例1の加熱体3の特徴は、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えるとともに、その分割によって基板7の長手方向に生じる隙間の位置(分割位置)が基板7の長手方向において異なっている(一致しない)点である。
【0062】
上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6において、分割された発熱抵抗体6の1区域には基板7の短手方向に給電するように導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4が設けられている。そして分割された区域同士は導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4によって基板7の長手方向に直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域には流れる電流Iは図7の矢印の向きになる。
【0063】
上流側の発熱抵抗体6の1区域の長さaは55mmとしている。下流側の発熱抵抗体6の1区域の長さbは73.5mmとしている。発熱抵抗体6の幅dは上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6のいずれも1.55mmとしている(総発熱体幅は3.1mm)。上流側の発熱抵抗体6の4つの区域と、下流側の発熱抵抗体6の3つの区域は、それぞれ同じ形状である。分割された区域の隙間の長さfは上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6のいずれも0.5mmとした。よって、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の全長は隙間を含めるといずれの発熱抵抗体6も221.5mmになる。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の厚さはいずれの発熱抵抗体6も約10μmとした。
【0064】
導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4の幅cは0.5mmとした。導電パターン14−2と導電パターン14−3との間の幅(隙間)gは0.5mmとした。基板7の上流側の端縁から導電パターン14−1までの幅eと基板7の下流側の端縁から導電パターン14−4までの幅eはそれぞれ0.7mmとした。
【0065】
上記長さf及び幅c,e,gは、加熱体3の製造上可能な最小の値としている。
【0066】
本実施例1では、発熱抵抗体6の材料としてグラファイト・ガラスを主成分としたグラファイトペーストを用いており、その常温のシート抵抗は約100Ω/sq(厚さ10μm)である。本実施例1では、上流側の発熱抵抗体6の総抵抗(4区域の総抵抗)は常温で11.5Ωである。下流側の発熱抵抗体6の総抵抗(3区域の総抵抗)は常温で6.5Ωである。そして上流側の発熱抵抗体6の抵抗と下流側の発熱抵抗体6の抵抗を合わせた総抵抗(給電用電極9,10間の抵抗)は常温で18Ωである。
【0067】
従来の発熱抵抗体は銀パラジウム(Ag/Pd)等の金属を主体としたペーストで形成されているのが一般的であり、PTC特性(Positive TemperatureCoefficient)を示す。PTC特性とは温度が上がると抵抗が高くなる正の抵抗温度特性をいう。一方、本実施例1で発熱抵抗体6の材料として用いているグラファイトは、ある温度を境にその温度以下ではNTC特性(Negative Temperature Coefficient)を、その温度以上ではPTC特性を示す性質がある。そしてその変曲点温度は700℃程度である。NTC特性とは温度が上がると抵抗が低くなる負の抵抗温度特性をいう。
【0068】
加熱体3の最高到達温度は300℃程度であるので、本実施例1の発熱抵抗体6は、定着装置107の実使用時においてはNTC特性を示す。本実施例1の発熱抵抗体6の抵抗変化率は−1000ppm/℃程度(25℃から200℃までの抵抗変化率 以下の抵抗変化率の値も同様)とした。ちなみに、従来の加熱体に用いられている銀パラジウムペーストの抵抗変化率は0〜1000ppm/℃程度である(銀とパラジウムの比率によって異なる)。
【0069】
本実施例1との比較のために、比較例の加熱体30について説明する(以下、この比較例を比較例1とする)。
【0070】
図9は比較例1の加熱体30の正面図である。
図9において、本実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一の符号を付している。
【0071】
17は発熱抵抗体である。発熱抵抗体17は、銀パラジウム・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストを、酸化アルミニウム製の基板7上にスクリーン印刷により、幅3.1mm、長さ220mm、厚さ約10μmの線帯状に形成して得たものである。発熱抵抗体17の総発熱体幅は本実施例1の加熱体3における発熱抵抗体17の総発熱体幅と同じである。酸化アルミニウム製の基板7は本実施例1の基板7と同じ形状とした。従来例1の発熱抵抗体17は、常温のシート抵抗が約0.25Ω/sq(厚さ10μm)であるものを用いている。また発熱抵抗体17の総抵抗は本実施例1の発熱抵抗体6の総抵抗と同じく常温で18Ωとした。また発熱抵抗体17の抵抗変化率は500ppm/℃程度とした。
【0072】
比較例1の加熱体30において発熱抵抗体17の材料・形状及び導電パターン18の形状以外の構成は、本実施例1の加熱体3と同じとした。比較例1の加熱体30においてオーバーコート層として銀パラジウムペーストと相性の良い厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いているが、図9では簡単のため省略している。
【0073】
比較例1の加熱体30において、発熱抵抗体17には給電用電極9,10及び導電パターン18より基板7の長手方向に給電され、電流iは基板7の長手方向に流れる。従来の加熱体では、比較例1の加熱体30のように基板7の長手方向に給電するタイプが一般的である。
【0074】
比較例1の加熱体30を備えた定着装置のニップ部に小サイズ紙を通紙(導入)すると、前述した非通紙部昇温が発生する。比較例1の加熱体30を本実施例1で説明した定着装置107に搭載した場合を考え、以下、非通紙部昇温についてモデル図を用いて説明する。
【0075】
図10は比較例1の加熱体30における発熱抵抗体17のモデル図である。ここでは、発熱抵抗体17を長さm(=55mm)に4分割して考え、中央部の2つの区域の抵抗をそれぞれr1、端部の2つの区域の抵抗をそれぞれr2とする(中央部と端部の温度が同じであればr1=r2)。2(r1+r2)が総抵抗になり、常温では18Ωである。発熱抵抗体17に流れる電流をiとすると、中央部の1区域の発熱量q1はi2・r1であり、端部の1区域の発熱量q2はi2・r2である。
【0076】
簡単のため、幅2m(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央部の抵抗がr1の区域は通紙部に、端部の抵抗がr2の区域は非通紙部になる。加熱体30の温度制御は通紙部に設けられたサーミスタで行われるので、小サイズ紙に熱を奪われる通紙部に比べて、小サイズ紙に熱を奪われない非通紙部の温度は上昇する。発熱抵抗体17はPTC特性を示すため、小サイズ紙通紙時はr1<r2となる。電流iは通紙部・非通紙部で同じであるためq1<q2となり、非通紙部の発熱量は中央部の発熱量よりも大きくなる。
【0077】
本実施例1の加熱体3についても、同様にモデル図を用いて考えてみる。
【0078】
図8は本実施例1の発熱抵抗体6のモデル図である。ここでは、簡単のため上流側の発熱抵抗体6のみに給電しているモデル図を用いて説明する。4分割された発熱抵抗体6の抵抗を、中央部の1区域をR1、端部の1区域をR2とする(中央部と端部の温度が同じであればR1=R2)。2(R1+R2)が総抵抗になり、常温では11.5Ωである。つまり、温度が全て等しければR1=R2である。発熱抵抗体6に流れる電流をIとすると、中央部の1区域の発熱量Q1はI2・R1であり、端部の1区域の発熱量Q2はI2・R2である。
【0079】
比較例1の加熱体30の場合と同様に、幅2m(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央部の抵抗がR1の区域は通紙部に、端部の抵抗がR2の区域は非通紙部になる。本実施例1の加熱体3でも比較例1の加熱体30の場合と同じく、小サイズ紙を通紙すると通紙部よりも非通紙部の温度が高くなる。本実施例1の加熱体3の発熱抵抗体6はNTC特性であるため、小サイズ紙通紙時はR1>R2となる。電流Iは通紙部・非通紙部で同じであるためQ1>Q2となり、本実施例1の加熱体3の場合は、非通紙部の発熱量は中央部の発熱量よりも小さくなる。
【0080】
比較例1の加熱体30と本実施例1の加熱体3の定着性は総発熱体幅が同じ3.1mmであるのでほぼ同等である。よって、同じ小サイズ紙を通紙したときの通紙部の発熱量(=定着性)はほぼ同等、すなわちq1=Q1となる。故に、同じ小サイズ紙を通紙したときの非通紙部の発熱量はq2>Q2となり、本実施例1の加熱体3の方が比較例1の加熱体30よりも非通紙部昇温が小さくなることが分かる。
【0081】
以下に本実施例1の加熱体3と比較例1の加熱体30との非通紙部昇温の比較を示す。本実施例1の加熱体3を備えた定着装置を搭載する画像形成装置と比較例1の加熱体30を備えた定着装置を搭載する画像形成装置において、定着装置が十分室温(25℃)になじんだ状態からハガキサイズの記録材を連続でニップ部に100枚通紙した。そしてそのときの非通紙部の最高温度(加熱体裏面を熱電対で測定)を比較した。なお、画像形成装置に搭載されている定着装置は加熱体3,30を除いて同じ構成としてある。定着装置の定着温度は230℃とした。加熱体3,30への入力電圧は100Vとし、画像形成装置のプロセススピードは200mm/sec.とした。
【0082】
試験結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、比較例1に比べて大幅に(約50℃)非通紙部温度を下げることができた。
【0085】
次に記録材としてハガキサイズで坪量が157g/m2の厚紙を定着装置のニップ部に強制的に重送させて通紙し、何枚重送させると定着装置の劣化・破損に至るかを試験した。定着温度・入力電圧・プロセススピードは非通紙部昇温を測定したときと同条件としている。
【0086】
試験結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、比較例1の加熱体30は非通紙部昇温により基板7に発生する熱応力によって、4重送または3重送で破損に至り、定着装置のステー、フィルム、加圧ローラ表層の非通紙部に劣化が認められた。
【0089】
一方、本実施例1の加熱体3は2回とも10重送まで重送枚数を増やしていったが破損せず、定着装置107のステー、フィルム、加圧ローラ表層にも劣化は認められなかった。
【0090】
この結果からも本実施例1の加熱体3を用いることによって、非通紙部昇温が大幅に低減できていることが分かる。
【0091】
次に本実施例1との比較のために、本件特許出願の発明者が特許文献1で提案した加熱体の構成について説明する(以下、特許文献1で提案した加熱体を比較例2とする)。
【0092】
比較例2の加熱体においても発熱抵抗体の材料・形状及び導電パターンの形状以外の構成は、本実施例1の加熱体3と同じとした。本実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一符号を付した。
【0093】
図11は比較例2の加熱体40の正面図である。
【0094】
比較例2に示す加熱体40は、発熱抵抗体6として、本実施例1の発熱抵抗体6と全く同じグラファイト・ガラスを主成分とするペーストを用いている。その他の基板、導電パターン、給電用電極、オーバーコート層(図11では省略している)の材料も本実施例1の加熱体3と同じである。
【0095】
比較例2の加熱体40では、発熱抵抗体6を4分割している。つまり比較例2の加熱体40は、本実施例1の加熱体3の構成から下流側の発熱抵抗体6を削除したような形状になっている。
【0096】
発熱抵抗体6において、分割された1区域の長さaは55mm(本実施例1の上流側の発熱抵抗体6の1区域と同じ)とし、幅dは2.6mmとし、発熱抵抗体6の4区域とも同じ形状としている。発熱抵抗体6の厚さは本実施例1と同じく約10μmとした。分割された区域の隙間の長さfは0.5mmとした。基板7の短手方向において発熱抵抗体6の両側には導電パターン19−1,19−2が基板7の長手方向に沿って設けられている。その導電パターン19−1,19−2のうち発熱抵抗体6の外側(上流側)に設けられている導電パターン19−1は基板7の下流側の端縁の内側で導電パターン19−2と並列に設けられている導電パターン19−3と接続されている。これらの各導電パターン19−1,19−2,19−3の幅cは0.5mmとした。また、導電パターン19−2と導電パターン19−3との間の幅(隙間)gは0.5mmとした。基板7の上流側の端縁から導電パターン19−1までの幅eは0.7mmとした。また基板7の上流側の端縁から導電パターン19−1までの幅eと基板7の下流側の端縁から導電パターン19−3までの幅eはそれぞれ0.7mmとした。つまり、比較例2の加熱体40と本実施例1の加熱体3において上記長さa,d,f,gは同じであり、また上記幅c,eも同じである。ちなみに比較例の加熱体40の常温における発熱抵抗体6の総抵抗も本実施例1の加熱体40の発熱抵抗体6の総抵抗と同じく18Ωである。なお、酸化アルミニウム製の基板7の幅は比較例2では6mmとしている。
【0097】
グラファイトペーストはNTC特性を示す材料の中ではシート抵抗が低い方であるが、銀パラジウム等の金属ペーストに比べるとシート抵抗は大きい。よって、グラファイトペーストで比較例1の加熱体30のように長手方向に給電する発熱抵抗体パターンを形成すると、総抵抗が非常に大きくなり加熱体として用いることができない。例えば、本実施例1のシート抵抗のグラファイトペーストで、図9の比較例1の発熱抵抗体パターンを厚さ約10μmで形成すると、総抵抗は約7000Ωになってしまう。これはグラファイト以外のNTC特性を示す材料にも言えることである。
【0098】
シート抵抗の大きいグラファイトペーストを、商用電源で使用できる範囲の総抵抗にするための発熱抵抗体パターンが比較例2である。この構成であれば、モデル図で説明したように、グラファイトの有するNTC特性を非通紙部昇温低減に有効に使うことができる。しかし、比較例2の加熱体40で問題となるのは、この構成で必須となる分割によって生じる発熱抵抗体6の隙間部分の定着性である。
【0099】
比較例2の加熱体40では、発熱抵抗体6の3箇所の隙間部分は全く発熱抵抗体6が存在しないので、どうしても他の部分に比べて定着性が悪くなる。この隙間部分における定着性悪化を補うために、特許文献1では、隙間の形状を斜めにしたり(隙間の形状を斜めにした加熱体を従来例3とする。図12を参照)、形状を斜めにした上で隙間付近の発熱抵抗体の抵抗を変えたりして、定着性悪化を補っている。図12は比較例3の加熱体50の正面図である。
【0100】
前述したように、画像形成装置のプロセススピードがあまり速くない場合は、比較例3のような構成の加熱体50を用いることで発熱抵抗体6の隙間部分の定着性を使用上問題ないレベルまで補うことが可能であった。
【0101】
しかし、近年の画像形成装置のスピードアップにより、基板の長手方向全域において良好な定着性を確保するのも難しくなってきており、比較例3の加熱体50のような構成では、発熱抵抗体6の隙間部分の定着性確保に限界が生じてきている。
【0102】
この隙間部分の定着性確保という課題を解決するものが本実施例1の加熱体3である。図7を示して説明した通り、本実施例1の加熱体3では発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とに分けている。そして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とで発熱抵抗体6の分割数を変えることによって、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6とで隙間の位置が一致しないようにしている。このため、基板の長手方向全域にわたって従来例2の加熱体40のように発熱抵抗体6が全く存在しない領域がなく、プロセススピードが速い画像形成装置においても、隙間部分の定着性が他の部分に比べて著しく悪化することはない。従って、画像全体で一様かつ良好な定着性を得ることができる。
【0103】
非通紙部昇温防止と画像全体で一様かつ良好な定着性確保(隙間部分の定着性確保)という2つの観点から、これまで説明してきた本実施例1の加熱体3と比較例1〜3の加熱体30,40,50を比較してみると、以下の表3のようになる。
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示す通り、本実施例1の加熱体3の構成が、非通紙部昇温防止と画像全体で一様かつ良好な定着性確保とを両立できる構成であることが分かる。
【0106】
本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6の幅と下流側の発熱抵抗体6の幅を同じにして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えているので、上流側の発熱抵抗体6の抵抗が下流側の発熱抵抗体6の抵抗よりも大きくなっている。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6において隙間の位置が一致しないのであれば、発熱抵抗体6の幅や分割数を調整して上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を同じ抵抗に、あるいは下流側の発熱抵抗体6の抵抗を大きくしてもよい。
【0107】
また、本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本の発熱抵抗体6を用いているが、3本以上の発熱抵抗体を、直列に接続するように構成することも可能である。
【0108】
更に、本実施例1の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6をそれぞれ等分割し1区域の抵抗を同じにしているが、各々の発熱抵抗体6の分割は等分割に限られない。各々の発熱抵抗体6の隙間の位置が一致しないのであれば、等分割にせず、基板7の長手方向において各々の発熱抵抗体6を分割している区域に抵抗差をつけてもよい(例えば、端部の区域を中央部の区域よりも短くする等)。
【0109】
このように本実施例1の加熱体3では、発熱抵抗体の本数、幅、分割数、各発熱抵抗体の接続方法を適宜変えることによって、同じシート抵抗のペーストを用いても、仕様の異なる各種の定着装置に適した所望の総抵抗を得ることができるという利点もある。
【0110】
[実施例2]
加熱体の他の例を説明する。
【0111】
本実施例2に示す加熱体は、基板として窒化アルミニウム製の基板を用いる。実施例1のように基板の材料に酸化アルミニウムを用いる場合は、基板の表面側に発熱抵抗体を形成し、基板の裏面側にサーミスタを設ける構成が一般的である(表面発熱タイプ)。一方、基板の材料に窒化アルミニウムを用いる場合は、窒化アルミニウムは酸化アルミニウムより熱伝導率が高い。そのため、基板の裏面側に発熱抵抗体を形成し、その発熱抵抗体の上から絶縁層を介してサーミスタを当接し温度制御する構成の方が定着効率が良く一般的である(裏面発熱タイプ)。よって、本実施例2においても裏面発熱タイプを用いた。
【0112】
本実施例2の加熱体において、実施例1の加熱体3と同じ部材・部分には同一符号を付している。
【0113】
以下、本実施例2の加熱体3について説明する。
【0114】
図13の(a)は本実施例2の加熱体3の表面を表わす正面図、(b)は加熱体3の裏面を表わす背面図、(c)は(a)の加熱体3のC2−C2断面図である。図14は加熱体3の通電制御を行う回路の一例を表わす図である。
【0115】
本実施例2の加熱体3では、基板15として幅7mm、長さ270mm、厚さ0.6mmの窒化アルミニウム製の基板を用いている。実施例1の酸化アルミニウム製の基板7では、その基板7の幅と長さは本実施例2の窒化アルミニウム製の基板15のそれと同じあるが、厚さは1mmであった。両者で基板7,15の厚さが異なるのは以下の理由による。
【0116】
加熱体が高温になると基板内の温度差(基板の幅方向において発熱抵抗体が存在する部分と基板端など発熱抵抗体が存在しない部分との温度差)より熱応力が生じる。この熱応力が基板の破断強度を超えると、基板が破損してしまう。基板を厚くすると、基板の強度は増すが、その分、熱容量が大きくなりクイックスタートに不利になる。表面発熱タイプの場合はサーミスタの応答性が悪化し、裏面発熱タイプの場合は記録材へ熱が伝わりにくくなるため定着効率が悪化する、等の問題点がある。よって、基板に発生しうる熱応力に十分耐えられる範囲でなるべく基板を薄くすることが望ましい。窒化アルミニウム製基板は、酸化アルミニウム製基板よりも熱伝導率が高いので、基板内の温度差が小さく基板に生じる熱応力が小さい。基板に発生する熱応力によって基板が破損しない範囲でできるだけ薄くするという観点で、酸化アルミニウム製基板は1mmという厚さを選択し、窒化アルミニウム製の基板は0.6mmという厚さを選択している。
【0117】
本実施例2の加熱体3では、発熱抵抗体6を基板15の裏面(非フィルム摺動面)に設けている。発熱抵抗体6は、実施例1と同様、基板15の長手方向に沿って基板15の短手方向に並列に2本設けられている。本実施例2においても、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と称す。また記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている発熱抵抗体6を下流側の発熱抵抗体6と称す。そしてその上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を絶縁層20でオーバーコートしている。絶縁層20は厚さ約50μmの耐熱性ガラス層である。この絶縁層20は上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を他の部材から電気的に絶縁するために設けられている。一方、基板15の表面(フィルム摺動面)には、摺動層21を設けている。摺動層21は加熱体3とフィルム2内面との摺動性を確保するために設けられている。本実施例2では、摺動層21として厚さ約10μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0118】
上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6は、グラファイト・ガラス粉末(無機結着剤)・有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板15上に形成して得たものである。発熱抵抗体6の材料は実施例1の発熱抵抗体6と同じものを用いた。発熱抵抗体6の形状・特性については後述する。
【0119】
基板15の短手方向において上流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン22−1,22−2が基板15の長手方向に沿って設けられている。また基板15の短手方向において下流側の発熱抵抗体6の両側には導電パターン22−3,22−4が基板15の長手方向に沿って設けられている。そして上流側の発熱抵抗体6の内側(下流側)に設けられている導電パターン22−2は下流側の発熱抵抗体6の外側(下流側)に設けられている導電パターン22−4と接続されている。そして、導電パターン22−1には給電用電極9が、導電パターン22−4には給電用電極10が、それぞれ接続されている。
【0120】
本実施例2の加熱体3においても、基板7の長手方向端部の内側に設けられている給電用電極9,10に電源13(図14)から給電用コネクタ(不図示)を通じて給電される。これにより、給電用電極10と給電用電極9間で上流側及び下流側の発熱抵抗体6に導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を通じて図15にて矢印で示す通電経路を辿って通電される。上流側及び下流側の発熱抵抗体6は通電により長手全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温が基板15の裏面に設けられているサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力情報に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御、波数制御等により制御して、加熱体3の温度制御を行う。本実施例2でも、位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。
【0121】
本実施例2の加熱体3の製法も実施例1の加熱体3と同様である。まず、窒化アルミニウム製の基板15の表面に摺動層16をスクリーン印刷し、その摺動層16を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に基板15の裏面に給電用電極9,10と導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を同時にスクリーン印刷し、その給電用電極9,10と導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4を乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に発熱抵抗体6として前述のグラファイトペーストを基板15の裏面にスクリーン印刷し、そのグラファイトペーストを乾燥・焼成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、焼成温度は約600℃とした。その後、絶縁層20を基板15の裏面にスクリーン印刷し、その絶縁層20を乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、絶縁層20の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した(実施例1のオーバーコート層8と同じ材料)。
【0122】
次に、本実施例2の発熱抵抗体6の形状・特性について詳細に説明する。
【0123】
図15は加熱体3の発熱抵抗体6の分割形態を表わす図である。図15においては、簡単のため絶縁層20を省略している。
【0124】
本実施例2の発熱抵抗体パターンは実施例1と同じく、発熱抵抗体6を上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の2本に分けそれらを導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4によって直列に接続している。そして上流側の発熱抵抗体6を基板15の長手方向で4分割し、下流側の発熱抵抗体を基板15の長手方向で3分割している。本実施例2の加熱体3では、発熱抵抗体6は基板15の裏面に設けられているので、発熱抵抗体のパターン及び導電パターンは実施例1の発熱抵抗体パターン及び導電パターンの上下を反転したパターンになっている。本実施例2の加熱体3においても、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えるとともに、その分割によって生じる隙間の位置が基板15の短手方向で一致しないようにしている点が特徴である。
【0125】
実施例1と同じく、上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6において、分割された発熱抵抗体の1区域には基板15の短手方向に給電するように導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4が設けられている。そして分割された区域同士は導電パターン22−1,22−2,22−3,22−4によって基板15の長手方向に直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域には流れる電流Iは図15の矢印の向きになる。
【0126】
上流側の発熱抵抗体6の1区域の長さaと、下流側の発熱抵抗体6の1区域の長さbと、分割された区域の隙間の長さfは、それぞれ実施例1の長さa,b,fと同じとした。また、発熱抵抗体6の幅も実施例1の幅dと同じとした。また、上流側の発熱抵抗体6の内側の導電パターン22−2と下流側の発熱抵抗体6の内側の導電パターン22−3との間の幅(隙間)gも実施例1と同じとした。また、基板15の上流側の端縁から上流側の発熱抵抗体6の外側の導電パターン22−1までの幅eと、基板15の下流側の端縁から下流側の発熱抵抗体6の外側の導電パターン22−4までの幅eも実施例1の幅eと同じとした。発熱抵抗体6の厚さも実施例1と同じく、上流側の発熱抵抗体6及び下流側の発熱抵抗体6とも約10μmとした。
【0127】
また、グラファイトペーストの常温のシート抵抗は約100Ω/sq(厚さ10μm)とした。下流側の発熱抵抗体6の総抵抗(4区域の総抵抗)は常温で11.5Ωである。上流側の発熱抵抗体6の総抵抗(3区域の総抵抗)は常温で6.5Ωである。そして上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の抵抗を合わせた総抵抗(給電用電極9,10間の抵抗)は常温で18Ωである。これらの抵抗の値も全て実施例1と同じ設定としている。発熱抵抗体6の抵抗変化率も実施例1と同じく−1000ppm/℃程度とした。
【0128】
本実施例2の加熱体3においても、実施例1の加熱体3と同じメカニズムで、比較例1のような加熱体30に対して非通紙部昇温低減の効果がある。
【0129】
また、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割によって生じる隙間部分の定着性に関しては、以下で説明する理由により、実施例1の加熱体3よりも本実施例2の加熱体3の方が優れている。
【0130】
本実施例2の加熱体3は、基板15の材料に窒化アルミニウムを用いた裏面発熱タイプであり、実施例1の加熱体3のように基板15の材料として酸化アルミニウムを用いた表面発熱タイプよりも定着効率が良い。定着効率、すなわち上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6で発生する熱が効率良く記録材に伝達されているかを判断するのは、発熱抵抗体6からみた加熱体表面方向の熱抵抗と加熱体裏面方向の熱抵抗とを比較すると分かりやすい。熱抵抗とは熱の伝わりやすさを表す物理量であり、厚さがd(m)で厚さ方向と直交する面の面積がA(m2)である直方体を考えたときに、その直方体の厚さ方向の熱抵抗R(K/W)は以下の式で定義される。
R = d /(λ・A)
ここで、λは直方体の厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)である。
【0131】
熱抵抗が小さいほど熱は伝わりやすく、大きいほど熱は伝わりにくいので、発熱抵抗体6からみて加熱体表面方向の熱抵抗は小さく、加熱体裏面方向の熱抵抗は大きい方が、効率良く記録材に熱を伝達することができ、定着効率が良いと言える。
【0132】
実施例1の加熱体3と本実施例2の加熱体3の構成で、熱抵抗を計算してみると、表4のようになる。実施例1の加熱体3及び本実施例2の加熱体3で用いている材料の熱伝導率は以下の通りである。なお、簡単のため、Aは1m2として計算している。
・実施例1
酸化アルミニウム基板:20W/m・K オーバーコート層:2W/m・K
・本実施例2
窒化アルミニウム基板:170W/m・K 絶縁層・摺動層:2W/m・K
【0133】
【表4】
【0134】
表4の熱抵抗比は、表面側の熱抵抗を裏面側の熱抵抗で割った値であり、この値が小さいほど裏面側に対して表面側の熱抵抗が小さいということになるので、定着効率が良い。
【0135】
表4に示す通り、本実施例2の加熱体3は実施例1の加熱体3よりも熱抵抗比が小さい。すなわち、本実施例2の加熱体3の方が、発熱抵抗体6から加熱体表面に熱が伝わりやすいということになる。上記の計算では、熱は加熱体表面に対して垂直方向に進むとしているが、当然加熱体表面に対して斜め方向への熱伝達も存在し、この斜め方向の熱伝達性も本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも優れている。
【0136】
加熱体表面に対して斜め方向への熱伝達性が優れている方が、発熱抵抗体6の分割によって生じる隙間部分の定着性悪化を周りからの熱でより補うことができると考えられる。そのため、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも隙間部分の定着性は良くなる。つまり、本実施例2の加熱体3の方が、発熱抵抗体6で生じた隙間部分とそれ以外の部分の温度差が、加熱体表面に熱が伝わる間に、よりならされて均一に近づくということである。
【0137】
よって、画像全体で一様かつ良好な定着性という観点では、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも優れている。従って、本実施例2の加熱体3の方が実施例1の加熱体3よりも画像形成装置の更なるスピードアップにより対応しやすい構成である。
【0138】
本実施例2の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6の幅と下流側の発熱抵抗体6の幅を同じにし上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6の分割数を変えて下流側の発熱抵抗体6の抵抗を上流側の発熱抵抗体6の抵抗よりも大きくしている。上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6において隙間の位置が一致しないのであれば、発熱抵抗体6の幅や分割数を調整して上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6を同じ抵抗に、あるいは上流側の発熱抵抗体6の抵抗を大きくしてもよい。
【0139】
更に、本実施例2の加熱体3では、上流側の発熱抵抗体6と下流側の発熱抵抗体6をそれぞれ等分割し1区域の抵抗を同じにしているが、各々の発熱抵抗体6の分割は等分割に限られない。各々の発熱抵抗体6の隙間の位置が一致しないのであれば、等分割にせず、基板7,15の長手方向において各々の発熱抵抗体6を分割している区域に抵抗差をつけてもよい(例えば、端部の区域を中央部の区域よりも短くする等)。
【符号の説明】
【0140】
2:耐熱性フィルム、3:加熱体、6:発熱抵抗体、7:基板、14−1・14−2・14−3・14−4:導電パターン、107:定着装置、N:ニップ部、P:記録材、T:トナー画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置において、エンドレスフィルムと、前記エンドレスフィルムの内面に接触し長手方向が前記エンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ヒータは、記録材搬送方向において、上流側に設けられている第1の発熱セグメントと、下流側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記発熱抵抗体の抵抗温度特性は負であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
エンドレスフィルムを有し記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置に用いられるヒータにおいて、前記ヒータの短手方向において一方の端部側に設けられている第1の発熱セグメントと、前記ヒータの短手方向において他方の端部側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とするヒータ。
【請求項4】
前記発熱抵抗体の抵抗温度特性は負であることを特徴とする請求項3に記載のヒータ。
【請求項1】
記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置において、エンドレスフィルムと、前記エンドレスフィルムの内面に接触し長手方向が前記エンドレスフィルムの母線と平行となるように配置されているヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ヒータは、記録材搬送方向において、上流側に設けられている第1の発熱セグメントと、下流側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記発熱抵抗体の抵抗温度特性は負であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
エンドレスフィルムを有し記録材上に形成された画像を加熱する像加熱装置に用いられるヒータにおいて、前記ヒータの短手方向において一方の端部側に設けられている第1の発熱セグメントと、前記ヒータの短手方向において他方の端部側に設けられており前記第1の発熱セグメントと電気的に直列に繋がっている第2の発熱セグメントと、を有し、前記第1の発熱セグメントと前記第2の発熱セグメントは、それぞれ、前記ヒータの長手方向に電気的に直列に繋がっている複数の発熱部分を有し、複数の前記発熱部分は、それぞれ、基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられている第1の導電パターンと、前記基板上に前記ヒータの長手方向に沿って設けられており前記ヒータの長手方向において前記第1の導電パターンとオーバーラップする領域を有する第2の導電パターンと、前記第1の導電パターンと前記第2の導電パターンそれぞれの前記オーバーラップする領域同士を電気的に繋いでおり電力供給されて発熱する発熱抵抗体と、を有し、前記第1の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置と、前記第2の発熱セグメントの隣り合う前記発熱部分と前記発熱部分との間の隙間の位置は、前記ヒータの長手方向において異なっていることを特徴とするヒータ。
【請求項4】
前記発熱抵抗体の抵抗温度特性は負であることを特徴とする請求項3に記載のヒータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図5】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図5】
【図14】
【公開番号】特開2009−244867(P2009−244867A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53233(P2009−53233)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]