説明

光ディスク装置

【課題】光ディスク装置におけるトラッキング誤差信号の振幅変動を、低コストで確実に信号処理で補正すること。
【解決手段】サーボ信号生成回路25は、受光信号19からトラッキング誤差信号21とレンズ誤差信号22とを生成する。レンズ誤差信号変動記憶回路45は、サーボ信号生成回路25の生成したレンズ誤差信号22を記憶し、レンズ誤差信号の周回変動を再現する。トラッキング誤差信号補正回路24は、レンズ誤差信号22の周回変動を再現中に検出されるトラッキング誤差信号21から、トラッキング誤差信号に対する振幅補正値54を学習し、補正値記憶生成回路28に記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに情報を記録または再生する光ディスク装置に係り、特に記録または再生時のトラッキング制御を高精度に行う光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置の信頼性で重要なものに、トラッキングサーボの安定性がある。トラッキングサーボの安定性を決めるのは、主に、トラッキング誤差信号のゼロ点が、様々な使用条件において正しく記録情報トラック中心と一致しているという信号の安定性であり、このゼロ点からのズレを、トラッキング誤差信号のオフセットと呼んでいる。
【0003】
トラッキング誤差信号のオフセットは、限りなくゼロに近い(ズレがない)ことが理想であるが、光ヘッドであるピックアップの製造ばらつきや、ディスクの偏芯や反りやうねりといった媒体のばらつきによって、ズレが生じ、オフセットが発生する。信号のゼロ点がずれることで、正しくトラック中心にサーボできなくなり、ディスクの記録再生中の脱輪が発生する一因となってしまう。
【0004】
この改善策として、信号処理上で、ズレ量であるオフセットを補正する方法が特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0005】
特許文献1では、「対物レンズの機械的中立位置に対する対物レンズ位置のシフト量とトラッキングエラー信号のオフセット量とが比例関係ではない等の非線形な特性がある場合でも、トラッキングエラー信号のオフセットを高い精度で補正すること」を目的とし、「対物レンズの機械的中立位置に対する対物レンズ位置のシフト量が推定され、推定された対物レンズ位置のシフト量に応じて、複数の補正関数のいずれか1つを用いて、トラッキングエラー信号の補正信号が生成される」構成としている。
【0006】
また特許文献2では、「トラッキング誤差信号の非線形オフセットを補正する」ことを目的とし、「レンズシフトに伴う差動プッシュプル信号オフセットの非線形性を、ドライブ回路の学習補正により行う。学習でオフセットカーブを測定し、補正値を記憶する。サーボ中、補正値を用いてトラッキング誤差信号を補正し、非線形成分を補正する」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−294189号公報
【特許文献2】特開2011−065702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の構成では、対物レンズアクチュエータ自身の振動特性の影響を受けるため十分な補正効果が得られず、また補正回路のコストが高くなるという課題がある。これに対し特許文献2では、ピックアップ出力信号同士による補正と回路側補正との組み合わせにより、二重の補正効果を高速に得られるため、回路側補正自体が低精度の低コストなもので済むことが述べられている。
【0009】
一方、トラッキングサーボの安定性を決める他の要因として、トラッキング誤差信号のゼロ点からのズレ量の感度が、ディスクの偏芯や反りによらず一定であるという感度の安定性がある。感度の安定性は、トラッキング誤差信号振幅の一定性に表れる。トラッキング誤差信号振幅は、一周の間、常に一定であることが理想であるが、ディスクの偏芯に追従するために対物レンズが半径方向に動いたり、ディスクの反りやうねりによってディスク面が傾く(チルトする)ことで変動する。振幅が変動すると、サーボ制御におけるフィードバック量が不安定となり、サーボ制御の追従性能が劣化したり、フィードバックが強くなりすぎて対物レンズアクチュエータが発振したりする。上記特許文献1,2では、トラッキング誤差信号振幅の変動については特に考慮されていない。
【0010】
本発明は上記課題を鑑み、トラッキング誤差信号のオフセットとともに、トラッキング誤差信号の振幅変動を、低コストで確実に信号処理で補正する光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、特許請求の範囲に記載の発明により達成できる。一例を挙げれば、光ピックアップと信号処理回路とを有する光ディスク装置において、光ピックアップは、光源と、光源から出射されたレーザ光を集光して光ディスクに照射する対物レンズと、対物レンズを駆動するアクチュエータと、光ディスクからの反射光を検出して受光信号を出力する受光素子とを有し、信号処理回路は、受光素子の出力する受光信号からトラッキング誤差信号とレンズ誤差信号とを生成するサーボ信号生成回路と、サーボ信号生成回路の生成したレンズ誤差信号を記憶しレンズ誤差信号の変動を再現するレンズ誤差信号変動記憶回路と、トラッキング誤差信号を入力しトラッキング誤差信号に対する振幅変動を補正する振幅補正値を学習して生成するトラッキング誤差信号補正回路とを有し、トラッキング誤差信号補正回路において学習するトラッキング誤差信号に対する振幅補正値は、レンズ誤差信号の変動を再現中に検出されるトラッキング誤差信号から取得する構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トラッキング誤差信号のオフセットとともに、トラッキング誤差信号の振幅変動を、低コストで確実に信号処理で補正する光ディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る光ディスク装置の第1の実施例を示す全体構成図である。
【図2】補正値記憶生成回路28の詳細構成図である。
【図3】補間回路43の内部動作を示す図である。
【図4】本実施例におけるトラッキング誤差信号の補正原理を示す図である。
【図5】トラッキング制御の設定手順を示すフローチャートである。
【図6】DPP信号をディスクの回転方向に学習する場合を示す図である。
【図7】DPP信号をディスクの半径方向に学習する場合を示す図である。
【図8】多層光ディスクについてDPP信号を学習する場合を示す図である。
【図9】本発明に係る光ディスク装置の第2の実施例を示す全体構成図である。
【図10】3ビーム法の場合の差動プッシュプル法を説明する図である。
【図11】3ビーム法の受光面の形状を変更した場合を説明する図である。
【図12】1ビーム法におけるトラッキング誤差信号の生成法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従う光ディスク装置の実施の形態について説明する。本発明の光ディスク装置は、トラッキング誤差信号のオフセットだけでなく、トラッキング誤差信号の感度(信号振幅)の変動を補正して、精度良くトラッキングサーボできるようにするものである。そのために、トラッキング誤差信号のオフセットを、ピックアップ出力信号の特性を生かして、数十バイトというわずかなLSI側の学習情報により、回路側で簡易かつ確実に補正する。また、トラッキング誤差信号の感度(振幅変動)について、ディスク回転周期での変動も補正することを特徴とする。光ディスク装置の構成は、補正に対応した信号出力を持つ光ピックアップと、補正処理機能をもつ信号処理回路との組合せにより実現され得る。また、信号処理回路を復号・エラー補正の機能を持つ単一の集積回路チップに組込むことで、低コスト化と高機能・高信頼化を実現できる。以下の説明では、理解を容易にするため、各図において、同じ作用を示す部分には同じ符号を付している。
【0015】
まず、従来のトラッキング誤差信号の処理方法を説明する。光ディスク装置では、ディスク偏芯があった場合でも正しくトラック追従するために、サーボに用いるトラッキング誤差信号に対し偏芯で生じるレンズ中心ずれ(レンズシフト:LS)を補正する差動プッシュプル法を採用している。
【0016】
図10は、3ビーム法の場合の差動プッシュプル法を説明する図である。図10(a)のように、メインスポット受光面60の両隣に2つのサブスポット受光面61を配置する。そして、メインスポット受光面60で検出するプッシュプル信号(メインプッシュプル信号:MPP)と、サブスポット受光面61で検出するプッシュプル信号(サブプッシュプル信号:SPP)との差分を取ることで、MPP信号に含まれる上下変動(オフセット)を打消して補正する。これが差動プッシュプル法(ディファレンシャル・プッシュプル法:DPP法)で、これにより補正されたプッシュプル信号を、差動プッシュプル信号(ディファレンシャル・プッシュプル信号:DPP)と呼ぶ。通常、MPP信号とSPP信号はレンズシフトに対して同様の上下変動を示すので、正しく調整された差動プッシュプル信号では、図10(b)のように、レンズシフトに伴うDPP信号の上下変動(オフセット)が消えている。
【0017】
一方図11は、3ビーム法の受光面の形状を変更した場合を説明する図である。この例は、近年、2層または3層以上の記録層を持つ多層光ディスクに対し、迷光対策のために、図11(a)のように、サブスポット受光面61の中央部61cを中抜きした形状としたものである。この場合、メインスポットの受光面60とサブスポットの受光面61の形状が異なるために、レンズシフトしてスポットが変動した場合、図11(b)のように、MPP信号とSPP信号でアンバランスが生じる。特にSPP信号側で、レンズシフトに伴い非直線的なオフセットが生じ、また振幅も変化している。このため、MPP信号とSPP信号の差分で得られるDPP信号には、レンズシフトに対する非直線的なオフセットが生じ、また振幅変動に伴いフィードバックの感度が変わることで、トラッキングサーボが不安定となり脱輪する恐れがある。
【0018】
同様の課題は、図12に示す1ビーム法におけるトラッキング誤差信号の生成法でも生じる。図12(a)と図12(b)は、1ビーム法に用いる回折格子パターンの一例である。レンズシフトに対し、図12(a)中の斜線部分62がMPP信号に相当する信号を、図12(b)中の斜線部分63がSPP信号に相当する信号を生成する。なお、斜線部分63から得られる信号をレンズ誤差信号(LE信号)と呼ぶ。(a)と(b)でパターン形状が異なるために、大きなレンズシフトに対して図12(c)に示すようなDPP信号の非直線的なオフセットが発生し、また振幅も変化する。なお、この非直線的なオフセットのことを非線形オフセットと呼び、オフセットの直線的な変化を線形オフセットと呼ぶ。また、プッシュプル信号(PP信号)の振幅変化のことを振幅変動と呼ぶ。
【0019】
典型的にはディスク媒体に偏芯や反りや部分変形がある場合(後述図6(b))、反射光のバランスが崩れて、ディスク回転周期に同期した周期的オフセット変動(非線形オフセット)や、周期的振幅変動が発生する。本実施例の光ディスク装置は、この周期的オフセット変動と振幅変動を同時に補正するものである。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に係る光ディスク装置の第1の実施例を示す全体構成図である。装置の全体的な構成は、光ディスク2にレーザ光を照射して記録再生を行う光ピックアップ部1、光ディスク2を取り付けて回転させるスピンドルモータ3を含む機構部、それ以外の信号処理回路部より成る。回転サーボ回路4はスピンドルモータ3の回転速度を制御する。信号処理回路部のうちトラッキング誤差信号の処理に関しては、サーボ信号生成回路25とトラッキング誤差信号補正回路24を設けている。本実施例では、3ビーム法を例に説明をするが、本発明はこれに限定されるものではなく、1ビーム法にも適用できる。以下、各部の構成と動作を説明する。
【0021】
光ピックアップ部1において、光源である半導体レーザ6はレーザ駆動回路5により駆動され、レーザ光を出射する。半導体レーザ6の光は、3ビーム法用の回折格子7を通過し、3ビームに分割される。なお、1ビーム法の場合には、この回折格子はなく、代わりに復路側に回折格子8を設ける。回折格子7を通過した光は、ビームスプリッタ9を通過し、そのままコリメートレンズ10へ向かう。コリメートレンズ10は、レンズ駆動機構の可動部上に保持されており、この可動部はステッピングモータ11により光軸と平行な方向に移動可能なように構成されている。コリメートレンズ10を通過した光は、λ/4板12を通過し、対物レンズ13により集光されて、記録媒体である光ディスク2へ照射される。対物レンズ13はアクチュエータ14上に取付けられており、焦点位置を、サーボ信号生成回路25の信号によってフォーカス方向とトラック方向に、それぞれ駆動できるようになっている。
【0022】
照射された光はディスク2によって反射され、再び対物レンズ13を通過し、λ/4板12を通過して、コリメートレンズ10を通過し、偏光ビームスプリッタ9へ入射する。この際、光束はλ/4板12を2回通過したことにより偏光が90度回転しているため、偏光ビームスプリッタ9で反射され(1ビーム法の場合はここで回折格子8を通過し)、検出レンズ15へ向かう。検出レンズ15を通過した光は、半反射鏡16を通過し、受光素子17上の検出面で検出され、電気信号に変換される。なお、再生信号の信号/ノイズ比(S/N比)を改善するため、検出レンズ15と受光素子17の間に半反射鏡16を挿入して、高S/Nの再生信号検出器18を併設している。受光素子17上で変換された電気信号は、受光素子内の光電流アンプで増幅され、受光信号19が出力される。
【0023】
サーボ信号生成回路25は、光ピックアップ1から出力された受光信号19より、フォーカス誤差信号20と、トラッキング誤差信号(DPP信号)21と、レンズ誤差信号(LE信号)22と、再生信号(RF信号)23を生成する。トラッキング誤差信号21は、前記図10,11で説明した差分プッシュプル法で演算している。なお本例の受光素子17には、3ビーム法に対応した4分割光検出器を用いており、フォーカス誤差を非点収差法により検出している。なお、1ビーム法の場合は、ナイフエッジ法によりフォーカス誤差信号を検出する。スイッチ40は、3ビーム法と1ビーム法の切替を行う。本図では3ビーム法側の切替となっている。
【0024】
トラッキング誤差信号補正回路24は、サーボ信号生成回路25の出力するトラッキング誤差信号(DPP信号)21と、レンズ誤差信号(LE信号)22と、再生信号(RF信号)23より、トラッキング誤差信号オフセット補正量信号(以下、オフセット補正量信号)29aとトラッキング誤差信号振幅補正ゲイン信号(以下、振幅補正ゲイン信号)55を生成して出力する。
【0025】
トラッキング誤差信号補正回路24では、まずレンズ誤差信号22と再生信号23より、除算器26を用いて受光信号出力の総和で補正されたレンズ誤差信号(補正後LE信号)31を生成する。これは、再生総光量の変動によるレンズシフト量の誤検出を防ぐことで、補正の高精度化を図っている。この補正されたレンズ誤差信号31は、レンズ誤差信号変動記憶回路45に入力され、レンズ誤差信号の変動を記憶することでレンズシフト位置の変動を学習する。また、レンズ誤差信号変動記憶回路45から読み出した記憶値と比較することで、記憶されたレンズ誤差信号の変動を再現するように、ディスク回転に合わせてレンズシフト位置を制御する。この際、微小ウォブル信号発振器46によって、前記レンズシフト位置からわずかに振動させることができるよう構成されている。これにより、各々のレンズシフト位置におけるトラッキング誤差信号21の振幅を確実に検出できる。
【0026】
またトラッキング誤差信号補正回路24では、前記レンズシフト位置の変動の学習中またはトラッキングサーボオフ時に、トラッキング誤差信号(DPP信号)21を入力して、最大ピーク値検出器47により上側エンベロープ信号57を、最小ピーク値検出器48により下側エンベロープ信号58を生成する。生成した上側エンベロープ信号57と下側エンベロープ信号58の平均値をとることによって、DPPオフセット量信号32を生成する。また、上側エンベロープ信号57と下側エンベロープ信号58の差を減算器49で求め、DPP振幅値信号52を生成する。さらにDPP振幅値信号52の逆数を逆数値生成回路53で求め、DPP振幅補正ゲイン信号54を生成する。
【0027】
補正値記憶生成回路28では、回転サーボ回路4より出力されるスピンドル回転クロック44に応じ、ディスク回転に同期して、補正値となるDPPオフセット量信号32とDPP振幅補正ゲイン信号54を記憶する。そしてディスク回転に同期して、補正値記憶生成回路28から補正値を読出し、クロック区間の値を補間して、オフセット補正量信号29aと振幅補正ゲイン信号55を出力する。減算器30では、オフセット補正量信号29aを前記トラッキング誤差信号21に加減算して補正することで、オフセット補正後のトラッキング誤差信号50を生成する。さらに乗算器56では、トラッキング誤差信号50に振幅補正ゲイン信号55を乗算することで、ゲイン補正後のトラッキング誤差信号59を生成する。そして、補正後のトラッキング誤差信号59を光ピックアップ1に供給し、アクチュエータ14を駆動する。
【0028】
なお、逆数値生成回路53は、逆数値を求めると同時に、最大値を一定値内に制限するクリッピング機能を備えている。これにより、ゲイン(=逆数値)が大きくなりすぎることを防ぎ、サーボ制御において発振を抑制することができる。
【0029】
また、最大ピーク値検出器47と最小ピーク値検出器48により上側と下側のエンベロープ57,58を検出することで、DPP信号のオフセット量信号32と振幅値信号52とを同時に検出している。同時に検出することで、補正時にも辻褄の合った正しい補正を行うことができる。
【0030】
一方、ディスク2より再生された再生信号(RF信号)23、または再生信号検出器18の出力は、スイッチ33によりどちらかが選択された後、等化回路34、レベル検出回路35、同期クロック生成回路36を経て、復号回路37にて、記録された元のデジタル信号に変換される。また、同期クロック生成回路36は、同時に、合成された再生信号を直接検知して同期信号を生成し、復号回路37へ供給する。これらの一連の回路は、主制御回路38によって統括的に制御される。なお、本構成では不揮発メモリ39を備えており、これら補正に必要な光ピックアップの初期パラメータを電源切断された間も保持し、前回の学習内容を利用することで初期化動作を高速化できるようになっている。
【0031】
次に、補正値記憶生成回路28の構成と動作について詳しく説明する。
図2は、補正値記憶生成回路28の詳細構成図である。補正値記憶生成回路28では、ディスク回転角度(ここではスピンドル回転クロック44)に応じて、入力するトラッキング誤差信号のオフセット量と振幅の記憶と補間処理を行う。ディスク回転角度を複数の区間に分割し、各区間に対応させて複数の補正値記憶回路41を設けている。そして各補正値記憶回路41は、フォーカスサーボオン、トラッキングサーボオフ時の学習中に、入力されたDPPオフセット量信号32とDPP振幅補正ゲイン信号54の各区間での代表値を記憶する。
【0032】
各補正値記憶回路41から読み出された補正値42は、複数の補間回路43に対して出力される。各補間回路43もディスク回転角度の各区間に対応させて設けている。ディスク回転角度に応じて、補正値を出力する区間に対応する補間回路43は、対応する区間を含め例えば近隣の4区間から読み出した補正値42を用いて補間処理を行う。そして、補間後のオフセット補正量信号29a(またはゲインバランス補正量信号29b(後述))と、補間後の振幅補正ゲイン信号55を出力する。これにより、補正値記憶生成回路28からは、記憶された補正値の各点を滑らかにつないだ補間波形が出力される。
【0033】
なお本実施例では、この振幅補正ゲイン信号55を、トラッキング振幅補正信号とも呼ぶ。また、補間されたオフセット補正量信号29a(またはゲインバランス補正量信号29b)と振幅補正ゲイン信号55を併せて、トラッキング誤差信号補正信号と呼ぶ。
【0034】
図3は、補間回路43の内部動作を示す図である。補間処理はスプライン補間によって行われ、ディスク回転角度をx、記憶されている補正値42をSとして、図3に示されるような滑らかな3次関数を用いて、任意の回転角度xにおける補正値を近似計算して出力する。
【0035】
この3次関数は次のようにして決定する。まず学習段階において、各区間ごとに用いる3次関数の各係数(スプライン補間係数)a、b、c、dを、数式1を用いて求める。次に、各係数を数式2に代入して3次関数を決定し、補間処理の計算を行う。
【0036】
【数1】

【0037】
【数2】

【0038】
トラッキング誤差信号の補正値の学習が行われるタイミングは、プッシュプル信号振幅が得られる時に限られることから、フォーカスサーボがオンで、かつトラッキングサーボがオフの期間に限られ、各ディスク回転角度(ここではスピンドル回転クロック44)に対応した値を各々記憶する。または、光ディスク装置の出荷時において本学習を予め行うことも可能である。学習は半径方向に対しても行うことで、より媒体のバラツキに対応した精度の高い補正を行うことができる。
【0039】
図4は、本実施例におけるトラッキング誤差信号の補正原理を示す図である。通常のDPP法では、MPP信号(a)とSPP信号(b)よりDPP信号(d)とLE信号(c)が生成される。本構成ではさらに、ディスク回転に同期してDPP信号(トラッキング誤差信号)に生じる振幅変動と残存する非線形オフセット量を、ディスクが1回転する際のトラッキング誤差信号の振幅の包絡線(エンベロープ)を検出することで、トラッキングサーボオフ中に学習して記憶する。以後、トラッキングサーボがオンされて記録動作または再生動作の間、学習した振幅変動と残存非線形オフセット量の情報を元に、DPP信号の振幅補正ゲインと非線形オフセット補正値を、スプライン補間しながら生成し、DPP信号の振幅変動とオフセット変動を補正するものである。
【0040】
まず、レンズシフト量信号に対応するレンズ誤差信号LE(c)を生成し、レンズ誤差信号を入力とするレンズ誤差信号変動の記憶再現手段(レンズ誤差信号変動記憶回路45)を用いて、トラッキングサーボオフ中に、対物レンズ13を半径方向に駆動して、学習時に記憶したレンズ誤差信号変動(レンズシフト量)(c)を再現するようサーボする。
【0041】
レンズ誤差信号変動(c)のサーボ中に、各ディスク回転角(e)に対応したトラッキング誤差信号のオフセットと振幅の変動を学習し、これをトラッキング誤差信号の補正量(f)として記憶する。
【0042】
記録再生動作中は、ディスク回転角検出信号(e)を入力とし、ディスク回転角に対応したトラッキング誤差信号のオフセット補正量信号29aと振幅補正ゲイン信号55を生成し、測定されるDPP信号を補正する。補正の結果として、オフセットとゲイン補正後のトラッキング誤差信号(DPP2)(g)が生成される。
【0043】
なお、ここではレンズシフト量(LS)の正確な値は、本回路中では未知であり、レンズシフト量に代えて、歪を含むレンズ誤差信号(LE)を学習時に用いている。また、通常のトラッキング誤差信号として差動プッシュプル信号(DPP信号)を考えているが、1ビーム法においてMPP信号からレンズシフトに対応するレンズシフト量信号を差引いたものを、便宜上DPP信号と呼ぶ場合もある。ここでは、3ビーム法の場合と1ビーム法の場合を兼ねて、トラッキング誤差信号として使える信号のことを、DPP信号と呼んでいる。
【0044】
図5は、トラッキング制御の設定手順を示すフローチャートである。
準備工程として、半導体レーザを点灯し(S101)、レンズ上下動(レンズスイング)によるフォーカス誤差信号の走査を行い(S102)、ディスクの種類を判別する。次にディスク回転を開始し(S103)、コリメートレンズ位置を移動して球面収差の粗調整を行う(S104)。次にフォーカスサーボをオンする(S105)。この時点でDPP信号を検出できるので、レンズシフトを行って(S106)、サーボ信号生成回路25中の2ヶ所の可変ゲインアンプの利得を調節し、いわゆる差動プッシュプル法におけるk値調整を行う(kDPPとkLEの学習)(S107)。これにより、DPP信号のうちレンズ誤差信号に対する線形オフセットは補正され、残りは非線形オフセットのみとなる。次にディスク回転周期Tと同期したインデックス信号Idxとスピンドル回転クロックCkに合わせて、位相ロック回路(PLL)をオンする(S108)。
【0045】
まず、第一段階の学習として、未学習の状態でトラッキングサーボをオンし(S109)、レンズ誤差信号(LE)の周回変動を学習する。この情報は、ディスク回転に同期してレンズ誤差信号変動記憶回路45に記憶される(S110)。次に、トラッキングサーボをオフし(S111)、直前に学習したレンズ誤差信号(LE)の周回変動を再現するようにレンズシフト量をサーボ制御する(S112)。
【0046】
S112のLE変動再現サーボ制御では、ディスク回転に同期して、上記S110で記憶したレンズ誤差信号(LE)の変動値をレンズ誤差信号変動記憶回路45から読出し、差分信号を増幅してアクチュエータ14に印加して、記憶したレンズ誤差信号の変動と一致するよう対物レンズ13を駆動する。結果として、ディスク回転に同期してトラッキングサーボオン時と同じレンズシフト量の軌跡が、トラッキングサーボオフ時に再現される。ここでは、このレンズシフト量のサーボを、LE変動再現サーボと呼ぶ。
【0047】
次に第二段階の学習として、LE変動再現サーボオンの状態で、ピックアップ1をディスク2上の所定の半径位置1へ移動する(S113)。そして、トラッキング誤差信号21の上下のエンベロープ57,58を検出し、DPP信号のオフセット量32と振幅52(および振幅補正ゲイン54)の変動を測定する。測定されたDPP信号のオフセット量と振幅補正ゲイン54の変動を、スピンドル回転クロックCk(ディスク回転角位置)と同期して補正値記憶生成回路28に記憶する(S114)。これにより、補正すべき非線形オフセットと振幅の周回変動を学習する。
【0048】
第二段階の学習は、ディスク半径位置を数点変化させて、各々の半径位置におけるオフセットと振幅の補正値を学習する(S115−S118)。具体的には、各ディスク半径位置において、ディスク1回転の間のDPPオフセット量と振幅を検出し、それに対する補正値を記憶する。学習完了次第、LE変動再現サーボをオフする(S119)。そして、記憶した複数のDPPオフセット量と振幅の補正値より、前記数式1,2におけるスプライン補間係数を計算する(S120)。
【0049】
第二段階の学習完了後、オフセット補正量信号29aと振幅補正ゲイン信号55の出力を開始する(S121)。すなわち、補正値記憶生成回路28は、学習した補正値を基にスピンドル回転クロックCkに同期してスプライン補間処理を行い、オフセット補正量信号29aと振幅補正ゲイン信号55を減算器30と乗算器56に供給する。トラッキングサーボをONし(S122)、記録動作または再生動作に入る(S123)。このようにして、トラッキング誤差信号の非線形オフセットと振幅変動を補正しながら、トラッキングサーボ制御を実行する。
【0050】
上記したトラッキングサーボ制御によれば、トラッキング誤差信号からアクチュエータ14へ至る信号の増幅率が変化するので、サーボループ全体としては、ディスク回転と同期して回路上のトラッキングサーボループゲインが変化して見える。
【0051】
上記した本実施例による学習動作の具体例を、図面を用いて説明する。
図6は、DPP信号をディスクの回転方向に学習する場合を示す図である。回転方向に沿ってムラのあるディスクでも、再現性良く周回変動を把握して安定な補正値学習ができる。図6(a)はDPP信号の理想波形を示し、ディスク回転に対し振幅が一定で上下変動(オフセット変動)がない。図6(b)は、実際に得られるDPP信号の例で、光ディスクの偏芯や反りによって振幅もオフセットも変動する。DPP信号は、正しくk値調整できていてもディスクの反りなどの影響によって、時間軸上で回転周期Tで上下に変動する場合がある。そのため、ピックアップ以外の要因による変動を、ディスク回転同期で学習することで、補正値の学習を安定化できる。
【0052】
または、スピンドル1周単位で学習することで、角度に偏りなく、最速かつディスク1周全体の変動を把握して安定な補正値学習ができる。k値調整(kDPP・kLE)では、一回転の間の時間平均を取ることによって、補正値の学習を安定化できる。複数回の学習結果の平均を求める際も、平均値の安定性が高くなる。
【0053】
図7は、DPP信号をディスクの半径方向に学習する場合を示す図である。半径方向に沿ってバラツキ(偏芯・反り・うねり・膜厚変化)を有するディスクでも、ディスク固有のバラツキに対応した安定な制御を行うための補正値学習ができる。ディスク半径位置を変えて、学習シーケンスを(a)(b)(c)のように各ディスク半径位置で繰返す。これにより、ディスクの反りといった半径依存の変動を正しく取得し、またゴミ・キズ等が原因で特定半径位置でのみ生じる誤学習を避けることができる。なお、この学習は、トラッキング信号が安定しないディスクであることが判明された場合のみ行うようにし、通常のディスクではこの学習をスキップすることで、初期化動作を高速化するようにしても良い。
【0054】
図8は、多層光ディスクについてDPP信号を学習する場合を示す図である。ここでは3層ディスクの例を示すが、3層以上の多層光ディスクでは、各層間の反射光により、受光素子上に多くの迷光が入射する。2回迄の多重反射で生じる迷光経路の数が、2層ディスクでは2通りであるのに比べて、3層ディスクでは8通り以上と、4倍以上に多くの迷光の影響を受けやすくなる。迷光はディスクの層間隔の製造ばらつきによって大きく影響され、DPP信号に周回依存性を生じる。迷光の影響により、各層で得られるレンズシフト時のトラッキング誤差信号の非線形性は、各層ごとに異なる挙動を示すことになる。
【0055】
そこで、L0,L1,L2の各層で各々補正することで、多層光ディスク媒体使用時でも、本補正の効果を生かして良好なトラッキングサーボ安定性が得られる。この場合、L0,L1,L2層ごとに、各ディスク半径位置において、トラッキング誤差信号の補正値の学習を行うことで、多層特有の迷光によるトラッキング誤差信号の非線形オフセットと振幅変動を補正することができる。多層ディスク上にサーボ不安定となる特定のトラックがある場合、そのトラックに対して本学習補正を適用することで、迷光による回転同期のDPP信号変動を補正でき、安定なトラッキングサーボで再読出し動作を行うことができる。
【0056】
本実施例の構成によれば、以下の効果が得られる。
本構成では、ディスク回転に同期して変動するトラッキング誤差信号の振幅を、学習時に記憶したトラッキング誤差信号のエンベロープ振幅値に従ってゲイン補正する。よって、ディスク媒体の偏芯や反りや変形によるトラッキング誤差信号の周期的オフセット変動といったピックアップ以外の要因に対応した補正が可能であり、特に補正を低コストかつ高精度にできる。
【0057】
LE変動再現サーボというレンズ誤差信号の変動を再現する学習を導入することで、初めて、トラッキングサーボ中のDPP振幅やDPPオフセットの正しい回転周期学習が可能となり、正しい補正が可能となる。トラッキング誤差信号振幅の補正によって、偏芯の大きな光ディスク媒体であっても、視野特性によるトラッキング誤差信号振幅の減少を補正して、安定なトラッキングサーボを実現する。
【0058】
従来技術では、誤差信号そのものをゼロとなるようフィードバック制御した場合にはトラッキングサーボオン中のレンズシフト量の推定ができなくなる。これに対し本構成では、トラッキングサーボオン中もレンズシフト量に対応するLE信号を検出しているので、通常のk値補正が可能である。
【0059】
ディスク回転角に伴うオフセット変動をまず学習し、学習結果に基づいてディスク回転に同期したトラッキング誤差信号変動を補正するので、ピックアップの角度ズレやディスク偏芯といった異なる要因が複数存在する場合でも、任意に補正できる利点がある。トラッキング誤差信号変動における振幅変動とオフセット変動は、ディスク偏芯だけでなくピックアップの対物レンズオフセンタ(半径に垂直な方向の位置ズレ)の影響も受けるため、これらの要因は位相ズレを伴って独立に振幅変動やオフセット変動を生じる。このためレンズシフト量(LE信号)が同じでも、偏芯の行きと帰りで振幅が異なるなどの現象となって現れる。従って、これら両方を補正するには、ディスクの回転周期に同期した回転周期補正が必須である。本構成では、これらの変動を両方補正できる。振幅とオフセットを同時に補正することで、ディスク一周を通して安定なサーボが可能となり、光ディスク装置の安定性が飛躍的に向上する。一周当り3点以上の複数回転角位置で学習することにより、LE信号のみでは補正できないディスクの反りといった回転依存のトラッキング誤差信号変動を補正することができる。
【0060】
レンズシフト量信号(ここではLE信号)を受光信号出力の総和で(例えば除算して)補正することで、ディスクの局部的な反射率の変動を学習時に避けることができる。すなわち、ディスク上の記録未記録域の違い/記録再生など動作条件の違いによらず、正確なレンズシフト位置に応じた信号を補正により得られるので、再現性の高い正確なトラッキング誤差信号の補正信号を得られ、補正を高精度化できる。
【0061】
LE信号値が実際のレンズシフト量に対して歪んでいる場合でも、LE変動再現サーボによる補正学習時に同じLE信号を参照することによって、LE信号の歪によらず正しくDPP信号の変動を学習することができ、正確な補正を実現できる。
【0062】
対物レンズの機械的中立位置精度は不要であるため、周囲の振動の影響により学習結果が乱されることがなく、車載等、振動下においても正確な学習と補正が可能である。
【0063】
トラッキング誤差信号の非線形オフセット成分だけを補正するので、トラッキング誤差信号の補正精度が向上する。補正用の値の格納ビット数およびA/D変換のビット数が少なくて済み、補正用の線形補間の演算精度も低く済み、補正用値の演算時間(サンプリングレート)や補正出力応答周波数も低いもので済むので、コストが低減する。また補正値の学習精度が低く済むので、学習に必要となる時間が短縮し、準備動作が高速となる。
【0064】
本構成の補正方法では、回転同期補正機能を、通常のk値補正の追加補正機能として使うことができる。すなわち、通常のk値補正により生成されたDPP信号に、振幅変動や非線形オフセット成分が多く含まれることが補正値記憶生成回路28で検知された場合にのみ、LE変動再現サーボにより補正値生成のための学習動作を行う。これにより、DPP信号の振幅変動や非線形オフセットが問題とならない通常時には、回転同期補正の学習動作をスキップして、より高速に光ディスク装置を起動できる。学習動作をスキップした場合には、振幅補正ゲイン量信号を1倍、オフセット補正量信号をゼロとすればよい。
【0065】
本構成では、学習によって、個々のピックアップのバラツキにも対応した補正が低コストで可能である。
【0066】
本構成は、前記図11で述べたサブスポット中抜きを行った3ビーム方式にも用いることができる。前記図10で述べた通常型3ビーム方式は、レンズシフトに対するレンズシフト量信号変化の線形性は比較的良いため非線形性が小さい。これに対し、2層干渉光対策のためにサブスポット受光面一部が中抜きされた、図11の変形型3ビーム方式の場合、サブスポットとメインスポットの受光面形状が違うことにより通常型3ビーム方式等他の方式に比べ、レンズシフトに伴うレンズシフト量信号変化の非線形性が大きい。従って、非線形成分補正による改善の効果が大きく得られる。中抜き受光面を持つ3ビーム方式の光学系においても、DPP信号の非線形性や視野特性による振幅変化が生じやすいが、本構成によりトラッキング誤差信号の振幅とオフセットの変動を補正して安定なサーボができる。
【0067】
本構成は、前記図12で述べた1ビーム方式にも用いることができる。1ビーム方式は、レンズシフトと共に原理的に視野(ビーム有効径内光束の往路・復路間のズレ)が変化するため、通常型3ビーム方式等他の方式に比べ、レンズシフトに伴うレンズシフト量信号変化の非線形性が大きく、非線形成分補正による改善の効果が大きく得られる。DPP信号の非線形性や視野特性による振幅変化を生じやすい1ビーム方式の光学系で、トラッキング誤差信号の振幅とオフセットの変動を補正して安定なサーボができる。
【0068】
本構成では、スプライン補間を用いて補正値の補間処理を行うようにしたので、学習するディスク回転角位置の数を最小限とすることができる。つまり、学習に必要とする時間を最小に抑えて、光ディスク装置の準備工程を高速化できる。補正値を予めフィッティング処理することにより、ノイズによる異常な補正値を平均化により防ぐことができ、制御が高精度化できる。また、記憶するトラッキング誤差信号の情報量を小さくできることで、メモリ使用量を抑えて低コスト化できる。また、学習結果を記憶できる不揮発メモリ39を備えており、トラッキングサーボオン後の処理を前もって済ませておけるため、サーボ処理を高速化できる。
【実施例2】
【0069】
図9は、本発明に係る光ディスク装置の第2の実施例を示す全体構成図である。装置の全体構成は前記実施例1(図1)とほぼ同様であり、異なるのはトラッキング誤差信号のオフセットの補正部分を変更した点である。具体的には補正値記憶生成回路28は、オフセット補正量信号29aに代えてゲインバランス補正量信号29bを出力し、サーボ信号生成回路25内の可変ゲインアンプ27a,27bへ供給する構成とした。可変ゲインアンプ27a,27bは、SPP信号を生成する2つの元信号SPP1,SPP2をそれぞれ増幅し、増幅された信号の差分がサブプッシュプル信号SPPとなり、メインプッシュプル信号MPPとの演算によりトラッキング誤差信号(DPP)21が生成される。ここにゲインバランス補正量信号29bは、オフセット補正量(g)に応じてゲインを(1+g)へ増加させる信号と、補正量に応じてゲインを(1−g)へ減少させる信号とをペアにしたものである。
【0070】
この動作を前記図4の(h)に追加して示す。SPP1とSPP2は、プッシュプル信号成分(交流成分)以外に直流成分を含んでいる。可変ゲインアンプ27a,27bの利得を(1+g),(1−g)に変化させることで、直流成分の比が変わり、両者の差分信号であるSPP信号のオフセット量を変化させることができる。これにより、実施例1と同様、トラッキング誤差信号のオフセットを補正することができる。
【0071】
本実施例によるトラッキング誤差信号のオフセット補正では、信号のオフセットを途中の信号のゲイン比(ゲインバランス)によって補正しているため、ディスク反射率が変化しても、学習補正後のトラッキング誤差信号のオフセットがずれにくいという利点がある。ディスク上の半径位置や角度位置によって記録部/未記録部が切替り、反射率が変化した場合や、ディスク上のゴミ・キズなどによって一時的に反射光量が変化した場合でも、総光量に比例した光量の変動を打消し合って、学習補正後のトラッキング誤差信号に発生するオフセットの変動を小さく抑えることができる。このため特に記録型ディスクの記録再生において、サーボ制御を安定化できる利点がある。
【0072】
なお、本実施例は実施例1におけるトラッキング誤差信号のオフセット補正部を変更したものであり、実施例1の構成例で有する利点は、本実施例の構成でも全て同様に有している。
【0073】
本実施例ではSPP信号のゲインバランスを補正する構成としたが、これに代えて、MPP信号又はDPP信号上でゲインバランスの補正を行う構成としても良い。例えば、MPP信号のみを(1+g):(1−g)のゲイン比で補正する方法や、MPP信号とSPP信号より生成するDPP信号上で(1+g):(1−g)のゲイン比で補正する方法でも可能である。また、ゲイン比を(1+g):(1−g)に代えて、1:(1+g)のように片側のみ調整する方法でも構わない。この場合は、可変ゲインアンプを減らせるので回路が簡略化する。
【0074】
本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
トラッキング誤差信号の変動の学習で、補正値記憶生成回路28には、トラッキング誤差信号の振幅値の逆数を一定範囲値内にクリッピングした振幅補正ゲイン54を記憶している。これに代えて、補正値記憶生成回路28には振幅値52そのものを記憶しておき、補正の直前に振幅値52の逆数値(振幅補正ゲイン)を求め、さらにそれを一定範囲値内にクリッピングした値54を生成して乗算器56に供給しても良い。その場合は、学習時の処理を軽減することができる。
【0075】
さらには補正値記憶生成回路28において、振幅値52とオフセット量32のペアを記憶する代わりに、トラッキング誤差信号21の上側エンベロープ信号57と下側エンベロープ信号58の値のペアを記憶してもよい。その場合も、学習時の処理を軽減することができる。これを実現するには、補正値記憶生成回路28を、最大ピーク値検出器47と最小ピーク値検出器48の後段に配置させればよい。これらの自由度を鑑み、本実施例における補正値記憶生成回路28は、上下のエンベロープ値のペア、トラッキング誤差信号振幅およびその逆数値、逆数値を一定範囲値内にクリッピングした値を含めてそのいずれかの情報を記憶するものであり、これらの情報を総称して「トラッキング誤差信号振幅情報」と呼ぶ。
【0076】
本発明は、例えば、干渉を利用してトラッキング検出する他の光記録装置にも応用可能である。
【0077】
上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…光ピックアップ部、
2…光ディスク、
3…スピンドルモータ、
4…回転サーボ回路、
5…レーザ駆動回路、
6…半導体レーザ、
7,8…回折格子、
9…ビームスプリッタ、
10…コリメートレンズ、
11…ステッピングモータ、
12…λ/4板、
13…対物レンズ、
14…アクチュエータ、
15…検出レンズ、
16…半反射鏡、
17…受光素子、
18…再生信号検出器、
19…受光信号、
20…フォーカス誤差信号、
21…トラッキング誤差信号(DPP)、
22…レンズ誤差信号(LE)、
23…再生信号(RF)、
24…トラッキング誤差信号補正回路、
25…サーボ信号生成回路、
26…除算器、
27a,27b…可変ゲインアンプ、
28…補正値記憶生成回路、
29a…オフセット補正量信号、
29b…ゲインバランス補正量信号、
30…減算器、
31…総光量補正されたレンズ誤差信号、
32…DPPオフセット量信号、
33…スイッチ、
34…等化回路、
35…レベル検出回路、
36…同期クロック生成回路、
37…復号回路、
38…主制御回路、
39…不揮発メモリ、
40…スイッチ、
41…補正値記憶回路、
42…補正値、
43…補間回路、
44…スピンドル回転クロック、
45…レンズ誤差信号変動記憶回路、
46…微小ウォブル信号発振器、
47…最大値ピーク検出器、
48…最小値ピーク検出器、
49…減算器、
50…オフセット補正後のトラッキング誤差信号、
52…DPP振幅値信号、
53…逆数値生成回路、
54…DPP振幅補正ゲイン信号、
55…振幅補正ゲイン信号、
56…乗算器、
57…上側エンベロープ信号、
58…下側エンベロープ信号、
59…ゲイン補正後のトラッキング誤差信号、
60…メインスポット受光面、
61…サブスポット受光面、
T…ディスク回転周期、
Idx…インデックス信号、
Ck…スピンドル回転クロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ピックアップと信号処理回路とを有する光ディスク装置であって、
前記光ピックアップは、光源と、該光源から出射されたレーザ光を集光して光ディスクに照射する対物レンズと、該対物レンズを駆動するアクチュエータと、光ディスクからの反射光を検出して受光信号を出力する受光素子とを有し、
前記信号処理回路は、前記受光素子の出力する受光信号からトラッキング誤差信号とレンズ誤差信号とを生成するサーボ信号生成回路と、該サーボ信号生成回路の生成した前記レンズ誤差信号を記憶しレンズ誤差信号の変動を再現するレンズ誤差信号変動記憶回路と、前記トラッキング誤差信号を入力しトラッキング誤差信号に対する振幅変動を補正する振幅補正値を学習して生成するトラッキング誤差信号補正回路とを有し、
該トラッキング誤差信号補正回路において学習する前記トラッキング誤差信号に対する振幅補正値は、前記レンズ誤差信号の変動を再現中に検出されるトラッキング誤差信号から取得することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記トラッキング誤差信号に対する振幅補正値とともに、前記トラッキング誤差信号に対するオフセットを補正するオフセット補正値を同時に学習して生成することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、学習動作の際、光ディスクの回転に同期して、複数のディスク回転角における前記トラッキング誤差信号に対する振幅補正値またはオフセット補正値を記憶する補正値記憶生成回路を有し、
記録動作または再生動作の際、光ディスクの回転に同期して、前記補正値記憶生成回路から記録再生動作の対象となるディスク回転角に対応する補正値を読出し、トラッキング誤差信号を補正することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記学習動作をフォーカスサーボオン時にトラッキングサーボオフの状態で行い、
光ディスクの回転に同期して、複数のディスク回転角位置におけるトラッキング誤差信号の上側エンベロープと下側エンベロープを検出し、該エンベロープから振幅補正値とオフセット補正値を取得することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記振幅補正値を取得するために、前記トラッキング誤差信号の振幅値の逆数値を求めるとともに、該逆数値の最大値を一定値内に制限するクリッピング機能を有する逆数値生成回路を備えていることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項6】
請求項1に記載の光ディクス装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記サーボ信号生成回路にて生成された前記レンズ誤差信号を前記受光信号の総和で補正するレンズ誤差信号補正回路を備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項7】
請求項1に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記学習動作をフォーカスサーボオン時にトラッキングサーボオフの状態で行い、
光ディスクの回転に同期して、ディスク一周を単位としてトラッキング誤差信号の上側エンベロープと下側エンベロープを検出し、該エンベロープから振幅補正値を取得することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項8】
請求項1に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記学習動作をフォーカスサーボオン時にトラッキングサーボオフの状態で行い、
光ディスクの異なるディスク半径位置において複数回実施することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項9】
請求項1に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記学習動作をフォーカスサーボオン時にトラッキングサーボオフの状態で行い、
前記光ディスクが3層以上の記録面を持つ多層光ディスクの場合、前記学習動作を各層において実施することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項10】
光ピックアップと信号処理回路とを有する光ディスク装置であって、
前記光ピックアップは、光源と、該光源から出射されたレーザ光を集光して光ディスクに照射する対物レンズと、該対物レンズを駆動するアクチュエータと、光ディスクからの反射光を検出して受光信号を出力する受光素子とを有し、
前記信号処理回路は、前記受光素子の出力する受光信号からトラッキング誤差信号とレンズシフト量信号を生成するサーボ信号生成回路と、前記レンズシフト量信号とディスク回転角検出信号を入力としてディスク回転に同期して前記レンズシフト量信号の変動を記憶/再現するレンズシフト量信号変動記憶再現手段と、該再現されたレンズシフト量信号の変動に一致するよう対物レンズを駆動してディスク回転に同期してレンズシフト量を制御するサーボ回路と、前記トラッキング誤差信号振幅と前記ディスク回転角検出信号を入力とするトラッキング誤差信号振幅変動記憶手段とを備え、
該トラッキング誤差信号振幅変動記憶手段は、前記レンズシフト量信号の変動の再現中に、前記ディスク回転角検出信号と同期してトラッキング誤差信号振幅の変動を記憶し、かつ前記変動の再現の終了後に、前記トラッキング誤差信号のディスク回転と同期してトラッキングサーボループゲインが補正されることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項11】
光ピックアップと信号処理回路とを有する光ディスク装置であって、
前記光ピックアップは、光源と、該光源から出射されたレーザ光を集光して光ディスクに照射する対物レンズと、該対物レンズを駆動するアクチュエータと、光ディスクからの反射光を検出して受光信号を出力する受光素子とを有し、
前記信号処理回路は、前記受光素子の出力する受光信号からメインプッシュプル信号とサブプッシュプル信号とを生成し、該メインプッシュプル信号とサブプッシュプル信号より差動プッシュプル信号とレンズ誤差信号を生成するサーボ信号生成回路と、ディスク回転角検出信号に同期し前記サーボ信号生成回路の生成した前記レンズ誤差信号の変動を学習して再現するレンズ誤差信号変動再現手段と、前記ディスク回転角検出信号に同期し差動プッシュプル信号の振幅変動に対する振幅補正値を生成するトラッキング誤差信号補正回路とを有し、
該トラッキング誤差信号補正回路の生成した振幅補正値により前記差動プッシュプル信号のディスク回転と同期した振幅変動を補正することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項12】
請求項11に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記差動プッシュプル信号に対する振幅補正値とともに、前記差動プッシュプル信号に対するオフセットを補正するオフセット補正値を同時に生成することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項13】
請求項12に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、前記差動プッシュプル信号のオフセットを補正するためにゲインバランス補正量を生成し、該生成したゲインバランス補正量を前記サーボ信号生成回路に供給し、前記メインプッシュプル信号または前記サブプッシュプル信号のゲインバランスを調整することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項14】
請求項11または12に記載の光ディスク装置であって、
前記トラッキング誤差信号補正回路は、光ディスクの回転に同期して、複数のディスク回転角における前記サブプッシュプル信号に対する振幅補正値またはオフセット補正値を記憶する補正値記憶生成回路を有し、
記録動作または再生動作の際、光ディスクの回転に同期して前記補正値記憶生成回路から補正値を読出し、記録再生動作の対象となるディスク回転角に対応する補正値をスプライン補間を行って生成することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項15】
請求項11に記載の光ディスク装置であって、
前記受光素子と前記サーボ信号生成回路は、サブスポット受光面が中抜きされた3ビーム方式により前記差動プッシュプル信号と前記レンズ誤差信号を生成することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項16】
請求項11に記載の光ディスク装置であって、
前記受光素子と前記サーボ信号生成回路は、1ビーム方式により前記差動プッシュプル信号と前記レンズ誤差信号を生成することを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−30236(P2013−30236A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164103(P2011−164103)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】