説明

光パターニングが可能な導電性樹脂

本発明は、レジストを使用せずに直接パターニングすることが可能であって、ナノメートルオーダーのパターニングも可能な導電性樹脂を提供するためになされた。cis-ポリ(アリーレンビニレン)とtrans-ポリ(アリーレンビニレン)の比率が65/35以上であって、数平均分子量が1500〜30000であるポリ(アリーレンビニレン)(アリーレンは、アリーレン基及び複素環化合物基)から成る材料とする。この材料により作製された膜のパターニングは、所定の領域に200〜600nmの光を照射した後、芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒を用いて光の未照射部分を有機溶媒に溶出させることにより行うことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストを用いることなく、直接、パターニングを行うことが可能な導電性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性樹脂として、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール等がよく知られている。これらは有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)、有機FET(有機電界効果トランジスタ)、電池、コンデンサ等の材料として用いられており、その用途によっては導電性樹脂により作製された膜のパターニングが必要な場合がある(特許文献1等参照)。
【0003】
例えばEL素子は、Si等の基板上に電極層、正孔輸送層、電子輸送層、電極層を順に積層した構造を有しており、EL素子を製造する場合には、これら4つの層の積層とパターニングを順に繰り返し行う必要がある。パターニングを行う際は、電極層等の上にレジストを塗布して、まずレジストをパターニングし、その後レジストをマスクとして電極層等を化学的又は物理的にエッチングすることによりパターニングが行われる。
また、FET素子は、例えば、ゲート電極、絶縁層薄膜、ソース電極、チャネル層、ドレイン電極を順に積層した構造を有しており、EL素子を製造する場合と同様の方法により、各層のパターニングが行われる。
【0004】
【特許文献1】特開平07-176470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電性膜のパターニングを、レジストを用いることなく直接行うことが可能であれば、パターニングのための工程数を減らすことができる。これにより、製品の生産効率及び歩留まりを向上させることが可能になる。また、レジストを現像する必要がなくなるため、有機溶剤の使用量を減らすことができ、環境への負荷も低減することが可能になる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、レジストを使用せずに直接パターニングすることが可能な、ナノメートルオーダーという微細パターニングも可能な導電性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された、本発明に係る光パターニングが可能な導電性樹脂は、cis-ポリ(アリーレンビニレン)とtrans-ポリ(アリーレンビニレン)の比率が65/35以上であって、数平均分子量が1500〜30000であるポリ(アリーレンビニレン)(ただし、アリーレンは、アリーレン基以外に複素環化合物基も含む。)から成ることを特徴とする。
【0008】
本願において、「導電性」には半導体程度の電気伝導性が含まれるものとする。
【0009】
本願発明者は、導電性を有するポリ(アリーレンビニレン)(ただし、アリーレンは、アリーレン基以外に複素環化合物基も含む。)のうち、cis-ポリ(アリーレンビニレン)は、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランといった芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒に対して容易に溶解する一方で、このcis-ポリ(アリーレンビニレン)に200〜600nmの波長の光を照射することにより得られる生成物は上記有機溶媒にほとんど溶解しないことを見出した。
【0010】
この生成物の詳細な構造は現在のところ明らかではない。光吸収測定により、trans-ポリ(アリーレンビニレン)に特有のスペクトルが観測されているが、trans-ポリ(アリーレンビニレン)は上記の有機溶媒に対して溶解するため、この生成物はtrans-ポリ(アリーレンビニレン)そのものではないと考えられる。cis-ポリ(アリーレンビニレン)に上記波長の光が照射されることにより、trans-ポリ(アリーレンビニレン)への異性化反応と共に更に何らかの反応が生じたものと考えられる。但し、光照射によりtrans体への異性化反応が生じたことは明らかであるので、以下では光照射部分をtrans-ポリ(アリーレンビニレン)、あるいはtrans体と呼ぶ。
【0011】
本発明では、ポリ(アリーレンビニレン)が有する上記性質を利用して、膜のパターニングを行う。即ち、cis-ポリ(アリーレンビニレン)で作製された膜等の一部領域に200〜600nmの光を照射することにより、光照射部分をtrans-ポリ(アリーレンビニレン)に変化させた後、芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒を用いて光の未照射部分を有機溶媒に溶出させて回路等のパターンを形成する。
【0012】
cis体のポリ(アリーレンビニレン)は、trans体に比べて芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒に対する溶解性が高いため、このような溶剤を用いて洗浄することにより、光が照射されていないcis体の部分のみが溶出し、光が照射されたtrans体の部分がパターンとして残ることとなる。そして、このtrans体は導電性を有するため、本発明の導電性樹脂を用いれば、直接、回路等のパターンを形成することができる。
【0013】
また、このtrans体は、電圧を印加することによりその物質に特有の波長で発光するという電界発光性も有する。そのため、本発明の導電性樹脂を用いてパターン形成を行うことにより、FETやEL等の発光デバイスの発光層を形成することができる。
【0014】
なお、樹脂の分子量が余りに大きいと、光が未照射の領域(cis-ポリ(アリーレンビニレン))であっても上記の有機溶剤に溶出しにくくなり、また、樹脂の分子量が余りに小さいと、光を照射した領域(trans-ポリ(アリーレンビニレン))であっても有機溶剤に溶出しやすくなるため、樹脂の数平均分子量は1500〜30000とする。
【0015】
また、trans-ポリ(アリーレンビニレン)が光照射前の樹脂中に多く存在する場合には、光の未照射領域において、樹脂膜が十分には有機溶剤に溶出しないこととなるため、cis-ポリ(アリーレンビニレン)とtrans-ポリ(アリーレンビニレン)の比率は65/35以上とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性樹脂を用いれば、レジストを用いずともパターニングを行うことが可能である。このため、本発明の導電性樹脂を用いて作製される有機EL、有機FET、電池、コンデンサ等の製品の生産効率及び歩留まりを向上させることができる。また、レジストを現像する必要がなくなるため、有機溶剤の使用量を減らすことができ、環境への負荷も低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】cis-PPV溶液の、光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を示すグラフ。
【図2】cis-PPV膜の、光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を示すグラフ。
【図3】反応式(1)の方法で合成を行ったPPVの1H NMRスペクトル。
【図4】(a)ラインパターンを有するPPV膜の光学顕微鏡写真、(b)ドットパターンを有するPPV膜の光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で使用されるポリ(アリーレンビニレン)は、一般式(1)
【化1】

(Ar及びAr'は同一又は異なるアリーレン基又は複素環化合物基であって、nは1以上の整数である。)で表される重合体である。
Ar及びAr'はアリーレン基又は複素環化合物基であればよく、その構造は特に問うものではないが、Ar及びAr'の構造としては、例えば化学式(1)〜化学式(17)やこれらの誘導体を挙げることができる。
【化2】

ここで、化学式(1)〜化学式(17)に結合する、(一般式(1)に記載された)二つのビニル基の芳香環又は複素環上での位置関係は特に問うものではない。例えばAr又はAr'がベンゼンの場合、二つのビニル基はオルト、メタ、パラのいずれの位置関係を有していてもよい。また、化学式(1)〜化学式(17)の誘導体とは、これらの芳香環又は複素環上に、水素原子の代わりにアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基等の置換基が結合したものを意味する。
【0019】
例えば、化学式(18)で表されるcis-ポリ(アリーレンビニレン)(数平均分子量Mn=2700、(多分散度)=(重量平均分子量)/(数平均分子量)=1.79(ポリスチレン基準)、cis/trans≧99/1)の0.015mg/mLベンゼン溶液の紫外可視吸収スペクトルは図1に示された通りであって、高圧キセノンランプ(主波長360nm)で光照射を行うことにより、時間が経過するとともにcis-ポリ(アリーレンビニレン)は異性化して、約150秒で完全にcis体からtrans体に変化している。なお、この測定は、試料と光源間の距離を20cm、照度を約0.4mW/cm2として、窒素雰囲気下、23℃で行った。
【化3】

【0020】
図2は、化学式(18)で表されるcis-ポリ(アリーレンビニレン)(数平均分子量Mn=6900、(多分散度)=2.01(ポリスチレン基準)、cis/trans≧86/14)で作製された膜(膜厚100〜200nm)の、光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を示したグラフである。この測定は、試料と光源間の距離を5cm、照度を260mW/cm2として、窒素雰囲気下、23℃で行った。ポリ(アリーレンビニレン)の濃度が高いため、光の照射時間は溶液状態の場合に比べて長くなり、スペクトルもブロードになっているが、スペクトルの形は図1の場合と同様である。
このことから、cis-ポリ(アリーレンビニレン)は、固体(膜)状態であっても、光照射によりtrans-ポリ(アリーレンビニレン)に変化することがわかる。
【0021】
本発明ではポリ(アリーレンビニレン)が、立体構造の違いによって溶剤への溶解性が異なるという性質をパターニングに利用するため、高い立体選択性でcis-ポリ(アリーレンビニレン)を得られるようにすることが重要である。
【0022】
そこで、本発明者らは、高い立体選択性でcis-ポリ(アリーレンビニレン)が得られる方法についても鋭意検討を行った。
その結果、二のcis-ブロモエテニル基が結合した第一の芳香族化合物又は複素環化合物と、第一のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して1当量の二のボロン酸が結合した第二のアリーレン化合物又は複素環化合物とを有機溶媒に溶解し、これに第一又は第二のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して1〜5当量の塩基と第一又は第二のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して0.1〜10mol%のパラジウム触媒を加えた後、遮光条件下、40〜120℃で加熱撹拌する、鈴木−宮浦クロスカップリング型重縮合法を用いた反応により、cis-ポリ(アリーレンビニレン)が99%以上という高い立体選択性で得られることを見出した。
この反応を具体的に示したものが、反応式(1)である。
【化4】

なお、この反応において、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、酸化銀、又はこれらの水溶液等を用いることができる。また、パラジウム触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ{1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム等を用いることができる。
【0023】
この反応により合成したポリ(アリーレンビニレン)の1H NMR(300MHz,CDCl3)のスペクトルを図3に示す。(ベンゼン環に結合した)アルコキシ基の酸素に隣接する炭素に結合した水素のピークは、cis-ポリ(アリーレンビニレン)では3.5ppmに現れ、trans-ポリ(アリーレンビニレン)では4.1ppmに現れるが、図3には4.1ppmにピークは現れていない。このことから、上記の方法によれば、高い立体選択性でcis-ポリ(アリーレンビニレン)が得られることがわかる。
【0024】
なお、本発明者らは、反応式(2)で表される、檜山クロスカップリング型重縮合法を用いた反応により、cis-ポリ(アリーレンビニレン)が66%以上という立体選択性で得られることを既に報告している(「ジャーナル・オブ・オルガノメタリック・ケミストリー(Journal of Organometallic Chemistry)」、(米国)、2003年、第676巻、pp.49-54)。
【化5】

【0025】
trans体が比較的多く含まれた領域は、光を照射しない場合でも樹脂が溶剤に溶解せずにそのまま残ることとなる。特に、数ナノメートルオーダーの微細パターニングを行う場合には、隣接する配線がつながる等の欠陥につながりやすくなるため、高い選択性でcis体のポリ(アリーレンビニレン)が得られる反応式(1)の方法により樹脂の合成を行わなければならない。しかし、比較的粗いパターン作製しか行わないような場合は、反応式(2)やその他の方法で得られる樹脂を用いることも可能である。
【0026】
本発明の導電性樹脂においては、アリーレンビニレンの芳香環や複素環上の置換基を変更することによって、有機EL、有機FET、電池、コンデンサといった用途に応じた性質を持たせることができる。また、材料の導電性を向上させる等の目的に応じて、I2,Br2等のハロゲン、Na,Ka等のアルカリ金属、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類といったドーパントやその他の化合物等を樹脂に混入させることも可能である。
【0027】
なお、以上においては、ポリ(アリーレンビニレン)を膜状にして回路等のパターニングを行う場合について述べたが、ポリ(アリーレンビニレン)をキューブ状等に予め成形した上で、上記と同様に光照射及び光未照射部分の溶剤による溶出を行うことにより、オブジェのような成形体を作製することも可能である。
【実施例】
【0028】
(cis-PPVの合成(1))
1,4-ビス(cis-2-ブロモエテニル)ベンゼン(58mg,0.20mmol)、1,4-ジオクチロキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(86mg,0.20mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(65mg,0.20mmol)のトルエン溶液(2.0mL)に、3Mのリン酸カリウム水溶液 (0.2mL,0.6mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.23mg,0.20mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、cis-PPVが濃オレンジ色固体として得られた(87mg,収率94%)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-PPVとtrans-PPVの比率が99/1以上であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は7200、多分散度は2.89(ポリスチレン基準)であった。
【0029】
(cis-PPVの合成(2))
1,4-ビス(cis-2-ブロモエテニル)ベンゼン(58mg,0.20mmol)、1,4-ジオクチロキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(86mg,0.20mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(65mg,0.20mmol)のトルエン溶液(2.0mL)に、3Mのリン酸カリウム水溶液(0.2mL,0.6mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.3mg,2.0mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、cis-PPVが濃オレンジ色固体として得られた(97 mg,収率99%以上)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-PPVとtrans-PPVの比率が99/1以上であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は3300、多分散度は1.53(ポリスチレン基準)であった。
【0030】
(cis-PmPVの合成)
1,3-ビス(cis-2-ブロモエテニル)ベンゼン(58mg,0.20mmol)、1,4-ジオクチロキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(87mg,0.21mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(65mg,0.20mmol)のトルエン溶液(2.0mL)に対して、3Mの水酸化カリウム水溶液(0.2mL,0.6mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.3mg,2.0mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、化学式(19)で表されるcis-PmPVが茶色粘性固体として得られた(80mg,収率86%)。
【化6】

この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-PmPVとtrans-PmPVの比率が99/1以上であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は5100、多分散度は2.13(ポリスチレン基準)であった。
【0031】
(cis-PFVPV の合成)
2,7-ビス(cis-2-ブロモエテニル)-9,9-ジヘキシルフルオレン(59mg,0.11mmol)、1,4-ジオクチロキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(47mg,0.11mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(35mg,0.11mmol)のトルエン溶液(1.0mL)に、3Mのリン酸カリウム水溶液(0.1mL,0.3mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.13mg,0.11mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、化学式(20)で表されるcis-PFVPVが茶色固体として得られた(75mg,収率96%)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-PFVPVとtrans-PFVPVの比率が72/28であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は3700、多分散度は1.46(ポリスチレン基準)であった。
【化7】

【0032】
(cis-PFPV の合成)
2,7-ビス(cis-2-ブロモエテニル)フルオレン(103mg, 0.273mmol)、1,4-ジオクチロキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(131mg, 0.273mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(79mg, 0.27mmol) のトルエン溶液(1.2 mL) に、3Mの水酸化カリウム水溶液(0.24mL, 0.72mmol) およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(3.1mg, 2.6μmol) を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50 mL) 中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、化学式(21)で表されるcis-PFPVが濃オレンジ色固体として得られた(135mg, 収率90%)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-PFPVとtrans-PFPVの比率が90/10であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は7400、多分散度は2.42(ポリスチレン基準)であった。
【化8】

【0033】
(cis-MEH-PPVの合成)
1,4-ビス(cis-2-ブロモエテニル)ベンゼン(79mg, 0.27mmol)、1-(2-エチルヘキシロキシ)-4-メトキシ-2,5-ベンゼンジボロン酸(87mg, 0.27mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(79mg, 0.27mmol)のトルエン溶液(1.2mL)に、3Mの水酸化カリウム水溶液(0.24mL, 0.72mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(3.1mg, 2.6μmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、化学式(22)で表されるcis-MEH-PPVが濃オレンジ色固体として得られた(66mg, 収率68%)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-MEH-PPVとtrans-MEH-PPVの比率が99/1以上であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は6400、多分散度は2.36(ポリスチレン基準)であった。
【化9】

【0034】
(cis-[(S)-BMB]PPVの合成)
1,4-ビス(cis-2-ブロモエテニル)ベンゼン(126mg, 0.437mmol)、1,4-ビス[(S)-2-メチルブトキシ]-2,5-ベンゼンジボロン酸(149 mg, 0.437 mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(141mg, 0.437mmol) のトルエン溶液(4.4 mL) に、3Mのリン酸カリウム水溶液(0.44mL, 1.3mmol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.51mg, 0.44μmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間撹拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、撹拌したメタノール(50mL)中に注いだ。これにより析出した沈殿をろ過し、沈殿をメタノールで洗浄した。これにより、化学式(23)で表されるcis-[(S)-BMB]PPVが黄土色固体として得られた(159mg, 収率97%)。
この固体をCDCl3に溶解し、1H NMRの測定を行ったところ、cis-[(S)-BMB]PPVとtrans-[(S)-BMB]PPVの比率が99/1以上であることが確認された。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は2900、多分散度は1.60(ポリスチレン基準)であった。
【化10】

【0035】
これらのポリ(アリーレンビニレン)は電圧を印加することにより発光させることができる。そのときの発光波長は、PPVでは510nm、PmPVでは450nm、PFVPVでは499nm、PFPVでは488nmである。
【0036】
(パターニング実験)
上記(cis-PPVの合成(2))で得られたcis-PPVを15wt%のクロロホルム溶液とし、石英ガラス基板(1cm×1cm×0.5mm)上に数滴垂らした後、800rpmで10秒間、続いて2000rpmで60秒間スピンキャストして、膜厚100〜200nmのcis-PPV膜を得た。これにより得られた基板を室温で30分間真空乾燥した後、膜上にフォトマスクを載置し、石英窓付きセル中に設置した。
セル内を窒素ガスでパージした後、高圧キセノンランプで紫外光(主波長365nm,照度260mW/cm2)を30分間照射した。その後基板を取り出し、直ちにクロロホルムで膜を洗浄した。
【0037】
これにより得られた膜の光学顕微鏡写真を図4に示す。図4からわかるように、本発明の導電性樹脂を用いれば、線幅が50μm以下のラインパターン(図4(a))、及び径が50μm以下のドットパターン(図4(b))を形成することが可能である。
【0038】
なお、本実施例では紫外光の強度を260mW/cm2としたが、これよりも弱い紫外光強度(例えば35mW/cm2)でも本発明の導電性樹脂にパターンを形成することは可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
cis-ポリ(アリーレンビニレン)とtrans-ポリ(アリーレンビニレン)の比率が65/35以上であって、数平均分子量が1500〜30000であるポリ(アリーレンビニレン)(ただし、アリーレンは、アリーレン基以外に複素環化合物基も含む。)から成ることを特徴とする、光パターニングが可能な導電性樹脂。
【請求項2】
ポリ(アリーレンビニレン)(ただし、アリーレンは、アリーレン基以外に複素環化合物基を含む。)のアリーレンが、化学式(1)〜(17)
【化11】

で表される構造を有するか、又はこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の光パターニングが可能な導電性樹脂。
【請求項3】
cis-ポリ(アリーレンビニレン)を含有する樹脂膜の所定の領域に200〜600nmの光を照射した後、芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒を用いて光の未照射部分を該有機溶媒に溶出させて膜のパターニングを行うことを特徴とする、所定のパターンを有する導電性樹脂膜の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族系又はハロゲン系又はエーテル系の有機溶媒が、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の所定のパターンを有する導電性樹脂膜の製造方法。
【請求項5】
二のcis-ブロモエテニル基が結合した第一のアリーレン化合物又は複素環化合物と、第一のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して1当量の、二のボロン酸が結合した第二のアリーレン化合物又は複素環化合物とを有機溶媒に溶解し、これに第一又は第二のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して1〜5当量の塩基と第一又は第二のアリーレン化合物又は複素環化合物に対して0.1〜10mol%のパラジウム触媒を加えた後、遮光条件下、40〜120℃で加熱撹拌して、第一のアリーレン化合物又は複素環化合物と第二のアリーレン化合物又は複素環化合物とを反応させることを特徴とするポリ(アリーレンビニレン)の製造方法。
【請求項6】
上記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、酸化銀、又はこれらの水溶液のいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載のポリ(アリーレンビニレン)の製造方法。
【請求項7】
上記パラジウム触媒が、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ{1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウムのいずれかであることを特徴とする、請求項5又は6に記載のポリ(アリーレンビニレン)の製造方法。
【請求項8】
cis-ポリ(アリーレンビニレン)とtrans-ポリ(アリーレンビニレン)の比率が65/35以上であって、数平均分子量が1500〜30000であるポリ(アリーレンビニレン)樹脂(ただし、アリーレンは、アリーレン基以外に複素環化合物基も含む。)から成ることを特徴とする露光成形用樹脂。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/049688
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515628(P2005−515628)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017090
【国際出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】