説明

光ファイバーの加工方法及びレーザ光照射装置

【課題】レーザ光を導く光ファイバーの先端部分を先細状に加工する際に、特別な制御を必要とせず、簡単な作業で且つ高い安全性を保持する。
【解決手段】光ファイバーの加工方法は、光ファイバー1の後端部1bをレーザ発振器2に接続すると共に先端部1aのクラッド12を露出させておき、且つレーザ発振器2から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤4〜6を用意しておき、光ファイバー1の先端部1aを処理剤に浸漬又は接触させ、この状態で、レーザ発振器2からレーザ光を出射して処理剤に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を導く光ファイバーの先端部分を先細状に加工するための加工方法と、光ファイバーの先端部分を先細状に加工する作業と、この光ファイバーを用いてレーザ光を目的の位置に照射する作業とを行えるようにしたレーザ光照射装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療の分野では、患部にレーザ光を照射して生体組織を蒸散させて治療し、或いは切開することが行われている。このようなレーザ光を利用した医療装置では、レーザ発振器から出射されたレーザ光を患部に導くと共にプローブから患部に向けて照射し得るように構成されている。前記プローブはレーザ光を透過し得る材料からなり、先端部分が極めて細いテーパ状に形成されており、該先端部分を目的の患部に接近させて或いは接触させることで、レーザ光を患部に照射し得るように形成されている。
【0003】
利用するレーザ光が光ファイバーによって導くことが可能な場合、プローブは光ファイバーの先端部分に設けられる。プローブは石英やサファイヤ等を研磨加工して、テーパ状の端部と光ファイバーに対する取付部とを形成している。またプローブは患者の体液に触れる虞があり、滅菌処理することが必須となるため、多数のプローブを用意しておく必要が生じる。
【0004】
上記石英やサファイヤからなるプローブでは、形状や寸法のバラツキが生じて安定性が損なわれるという問題や、加工時間がかかり、且つ多数が必要となるためコスト的な問題が生じている。このような問題を解決するために、最近では光ファイバーの先端部分をテーパ状に形成してプローブとすることが行われている。
【0005】
光ファイバーの先端部分をテーパ状に加工する方法としては、プローブ材料の一端をエッチング液に浸して化学エッチングを行う際に、プローブ材料に対するエッチング液の液面を所定の速度で移動させるものがある(例えば特許文献1参照)。また光ファイバーの先端部を機械研磨することでコア部が最先端にくるように形成した後、この端部をエッチング液に浸漬することで先鋭化してプローブとする方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平07−218516号公報
【特許文献2】特開2004−12427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医療に用いるプローブは患者の体液に触れる虞があるため、一度使用した後は廃棄してしまうことが好ましい。この場合、石英やサファイヤからなるプローブではコストの問題があり、使い捨てに対応することは困難である。
【0008】
このため、光ファイバーの先端部分をテーパ状に加工してプローブとすることが好ましい。特に、治療が終了する都度、光ファイバーの先端部分を切除して切除部分をテーパ状に加工し得ることが望ましい。
【0009】
光ファイバーの先端部分を切除してテーパ状に加工する際に特許文献1の技術を採用しようとした場合、光ファイバーの先端部分をエッチング液に浸漬して液面と光ファイバーとの相対的な位置を変更させるような制御を行うことが必要となるため、加工が容易ではないという問題がある。また特許文献2の技術を採用しようとした場合には、光ファイバーをエッチング液に浸漬した後、液面の制御を行う必要はないものの、エッチング加工に先立って光ファイバーの先端部分を機械研磨しておく工程が必要となり、やはり加工が容易ではないという問題がある。
【0010】
特に、特許文献1,2の技術は共にエッチングを行うことが必須であるが、エッチング液は腐食性の強い薬品を使用するものであり、蒸気やしぶきが周囲にある医療設備に悪影響を与える虞があるため、医療用に用いるには抵抗がある。
【0011】
本発明の目的は、光ファイバーの先端部分を先細状に加工する際に、特別な制御を必要とせず且つ安全性の高い加工方法を提供すると共に、該加工方法を容易に実現することが出来るレーザ光照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る光ファイバーの加工方法は、レーザ発振器から出射されたレーザ光を目的の部位に導いて照射する光ファイバーの先端部を先細状に加工する方法であって、光ファイバーの一方の端部をレーザ発振器に接続すると共に他方の端部側のクラッドを露出させておき、且つ前記光ファイバーに接続されたレーザ発振器から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤を用意しておき、前記光ファイバーの他方の端部側を前記金属粉を含有した処理剤に浸漬又は接触させ、この状態で、前記レーザ発振器からレーザ光を出射することを特徴とするものである。
【0013】
また本発明に係るレーザ光照射装置は、レーザ発振器と前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を目的の部位に導いて照射する光ファイバーとを有し、且つ前記レーザ発振器から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有し前記光ファイバーの端部を先細状に加工するための処理剤を収容し又は保持する保持部材を含んで構成されるものである。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る光ファイバーの加工方法では、レーザ発振器から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤を用意しておき、この処理剤にクラッドを露出させた光ファイバーの端部を浸漬又は接触させてレーザ発振器を作動させてレーザ光を出射することで、クラッド及びコアを含んで先細状に加工することが出来る。
【0015】
上記の如く、端部を処理剤に浸漬,接触させた光ファイバーからレーザ光を出射することで、処理剤に含有された金属粉を分解し、この分解に伴って光ファイバーのクラッド及びコアを排除して先細状に加工するため、光ファイバーと処理剤との位置関係を制御する必要がなく、容易な作業で加工することが出来る。
【0016】
従って、機械研磨のように作業員によるバラツキが生じる虞がなく、且つエッチングのように腐食性の高い薬品も必要とせず、作業環境を良好な状態に維持して安全で且つ安定した先細状の加工を実施することが出来る。
【0017】
また本発明に係るレーザ光照射装置では、レーザ発振器と、このレーザ発振器に接続された光ファイバーを有するため、目的の部位にレーザ光を照射して目的の作業を行うことが出来る。また、処理剤を収容した容器を含むため、必要に応じて光ファイバーの先端部分をクラッドを露出させると共に切除して円筒状としておき、この状態で容器に収容された処理剤に浸漬,接触させ、レーザ発振器を作動させてレーザ光を出射することで、該光ファイバーの先端部分を先細状に加工することが出来る。
【0018】
本発明に於ける処理剤は、レーザ光を吸収し得る金属粉を含有することは必須であるが、この金属粉をそのままで使用するか、液体や粉体に混合するか、或いは多孔質物体に含浸させるか、の形態を選択することが可能であり、何れの形態であっても、腐食性の薬品などを用いることのない処理剤とすることが出来る。このため、光ファイバーを操作する者の操作範囲領域に容器を設置しても安全性に問題はない。
【0019】
従って、使用する都度、光ファイバーの先端部分を容易に且つ安全に先細状に形成することが出来、且つ新たに加工した先細状の先端部分から目的の部位にレーザ光を照射することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る光ファイバーの加工方法の好ましい形態と、この加工方法を実施することが可能なレーザ光照射装置の形態について説明する。本件発明者は、光ファイバーの先端部分を先細状に形成することで、該先端部分をプローブとして利用し得る技術を開発するために多くの実験を重ねた。その結果、本発明をなすに至ったのである。
【0021】
上記実験は、幾つかの金属粉や非金属粉を用意し、これらの金属粉をそのままの粉体、金属粉を水に混合させた液体、金属粉を混合した水を多孔質体に含浸させた含浸体とし、光ファイバーの先端部分を夫々の中に浸漬或いは接触させ、この状態を保持してレーザ発振器からレーザ光を出射して粉体,液体,含浸体に照射して行った。
【0022】
上記実験の結果、レーザ光に反応する金属粉(レーザ光を吸収し得る金属粉)を主成分とする粉体,前記粉体を含有した液体,前記粉体又は液体を含浸した含浸体に光ファイバーの先端部分を浸漬,接触させてレーザ光を照射することで、該先端部分を先細状に加工することが可能であった。
【0023】
ここで、上記実験の条件について説明し、合わせて実験結果について図1,2を利用して定性的に説明する。
【0024】
先ず、光ファイバー1の先端部1aに形成する形状について説明する。図1に示すように、光ファイバー1は、先端部1aが図示しない被覆が排除されることで、石英ガラスからなるコア11と、ポリマーからなるクラッド12が露出している。この先端部1aは本発明に係る加工が施されて角度θの先細状に形成されている。
【0025】
次に、実験について説明する。レーザ発振器として、Nd:YAGレーザ、波長1064nmを用いた。光ファイバー1としてコア11が石英ガラス、クラッド12がポリマーで構成されており、径dが200μm,300μm,400μm,600μmのものを用いた。
【0026】
加工に際してのエネルギー密度(1平方ミリ当たりのワット、W/mm2 )を光ファイバー2の径dが200μmの場合、約15〜約320に、300μmの場合、約5〜約150に、400μmの場合、約5〜約50に、600μmの場合、約3〜約35に設定し、処理剤に対する浸漬時間を15秒とし、同一条件に於けるサンプル数を3とした。
【0027】
金属粉として酸化チタン、二酸化マンガンを用い、非金属粉として塩化カルシウム、炭酸カルシウムを用いた。これらの粉を水に混合させて処理剤とし、この処理剤に光ファイバー1の先端部1aを浸漬して15秒レーザ光を照射して先端部1aの変化を確認した。この結果、酸化チタンを用いた場合には、光ファイバー1の先端部1aが先細状に加工されたが、他の物質では全く変化がなかった。即ち、波長1064nmのNd:YAGレーザの場合、酸化チタン粉が有効であることが判明した。
【0028】
また酸化チタン粉を二酸化珪素粉に対し重量比で3%以上混合させた粉体と、酸化チタン粉100%の粉体、酸化チタン粉を重量比で3%,5%,10%水に混合させた液体、前記液体を多孔質体としてのスポンジに含浸させた含浸体を用意し、これらの粉体,液体,含浸体に光ファイバー1の先端部1aを浸漬,接触させた状態で15秒レーザ光を照射して該先端部分の変化を確認した。この結果、何れの場合も先細状に加工することが可能であった。しかし、安定した加工を実現するには液体か含浸体であることが好ましいといえる。
【0029】
また酸化チタン(ルチル型,アナターゼ型)として、マイクロ粒子とナノ粒子とを用い、この酸化チタン粉を水に混合させたものを用意し、この液体に光ファイバー1の先端部1aを浸漬させた状態で15秒レーザ光を照射して該先端部1aの変化を確認した。この結果、何れの粒度の酸化チタンを用いた場合でも先細状に加工することが可能であった。
【0030】
特に、酸化チタンの粒度が小さい場合、加工に際してのエネルギー密度を変化させることにより角度θを広い範囲で変化させることが出来た。従って、作業目的に応じて変化する先細形状に高い自由度を持って対応するには、粒度の小さいものが好ましいといえる。
【0031】
また光ファイバーの径dを変化させた場合、何れの径でも先細状に加工することが可能であった。しかし、レーザ発振器の出力条件が同じの場合、細い光ファイバー1の方が先端部1aに於ける角度θを鋭角にすることが可能であった。このことは、エネルギー密度の影響によるものと思われる。
【0032】
同様に同一径dの光ファイバー1でエネルギー密度を変化させた場合、エネルギー密度が高い程、先端部1aに於ける角度θを鋭角にすることが可能であった。
【0033】
またレーザ光の照射時間を15秒よりも長時間とした場合、光ファイバー1の先端部1aの形状は目立った変化はなかった。このことは、一度先細状の形状が安定した後は、略同じ形状を保持して全面が加工されるものと思われる。
【0034】
この実験の結果得られた形状の例を図2により説明する。同図(a)は多少エネルギー密度が低めのときに得られる形状であり、作業目的により充分な先細形状である。同図(b)は略円錐状であり、同図(c)は先細の尖端が一方の側面に偏位した形状である。同図(d)は先端面が鏡板状であるが、作業目的により充分な先細形状の一つである。同図(e)は鋭い先細状とは言えないものの、作業目的により充分な先細形状である。同図(f),(g)は途中にくびれが生じているが、この形状であっても作業目的により充分な先細形状である。
【0035】
上記の如き実験の結果、本発明の光ファイバーの加工方法は、光ファイバーの先端部分を容易に且つ安全に先細状に加工するものであり、レーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤にクラッドを露出させた光ファイバーの先端部分を浸漬或いは接触させた状態で、該光ファイバーからレーザ光を出射することで先端部分を先細状に加工するものである。
【0036】
また本発明のレーザ光照射装置は、上記加工方法を好ましく実施するものであり、一方側の端部がレーザ発振器と接続されている光ファイバーの他方側の端部を目的の部位まで到達させ、該端部からレーザ光を目的の部位に照射して目的の作業(例えば患部の治療)を行うことが可能であり、且つ光ファイバーの端部を容器に収容された処理剤に浸漬し、或いは接触させてレーザ光を出射し、このレーザ光の出射に伴って端部を先細状に加工し得るようにしたものである。
【0037】
このレーザ光照射装置では、目的の部位にレーザ光を照射して目的の作業が終了した後、この作業終了の都度、或いは必要に応じて、光ファイバーの端部を先細状に加工してプローブとして利用することが可能である。従って、光ファイバーの端部を先細状に加工することが容易であり、常に良好な先細形状を持った光ファイバーによる作業を実現することが可能である。
【0038】
また本発明のレーザ光照射装置を治療に用いる場合は、新たな患者に対して新たに加工した先細状の端部を利用して目的の治療を施すことが可能となり、安全性の高いレーザ光照射装置を実現することが可能である。
【0039】
本発明に係る光ファイバーの加工方法或いはレーザ光照射装置に用いるレーザ発振器や光ファイバー及び金属粉を含有した処理剤の好ましい例について説明する。
【0040】
光ファイバーは一方の端部側がレーザ発振器の出力部に直接又は間接的に接続され、該レーザ発振器から出射されるレーザ光を目的の部位に導く機能を有する。従って、光ファイバーの材質は特に限定するものではなく、一般的に用いられている石英ガラスやポリマーを材料とする光ファイバーに適用することが可能である。同様に光ファイバーの径も限定するものではなく、直径が100μm〜600μmの範囲の光ファイバー、更に、前記範囲以外の太さを持った光ファイバーにも適用することが可能である。
【0041】
レーザ発振器の種類や出力も特に限定するものではなく、レーザ光照射装置が目的とする作業を実施するのに必要な種類,出力を持つものを選択的に用いることが可能である。特に、本発明は出射したレーザ光を光ファイバーによって導くことが可能なレーザ発振器に適用することが可能である。例えば医療用のレーザ発振器としては、Nd:YAGレーザや半導体レーザがあり、何れも好ましく適用することが可能である。
【0042】
レーザ発振器から出射されたレーザ光を吸収し得る金属粉(以下、単に「金属粉」ということもある)としては、純粋な金属分子の粉末である必要はなく、金属の酸化物を含む粉末であって良い。金属粉はレーザ光を吸収し得ることが必須であるため、レーザ発振器から出射されるレーザ光の波長との関係で材質が設定される。従って、本発明では金属粉の材料を限定するものではなく、レーザ光の波長との関係で選択的に設定することが好ましい。このような金属粉としては、酸化チタンの粉末や酸化鉄の粉末或いはアルミニウムの粉末等がある。
【0043】
処理剤は金属粉を含有したものであり、該金属粉を如何なる状態で含有するかを限定するものではない。即ち、処理剤としては、金属粉をそのままの状態(100%金属粉の状態)からなる粉体として構成したもの、金属粉を他の粉末に混合させた粉体として構成したもの、或いは前記何れかの粉体を液体に混合させて構成したもの、更に、前記何れかの粉体又は液体を多孔質物体に含浸させて構成したもの、がある。
【0044】
即ち、処理剤としては、金属粉を主成分とする粉体、この粉体を含有した液体、この粉体又は液体を含浸させた含浸体、として構成することが可能であり、夫々の性状を持った処理剤を容器に収容しておくことで好ましく用いることが可能である。
【0045】
金属粉を主成分とする粉体を構成する場合、金属粉を混合する基体となる粉末の材質は特に限定するものではなく、金属粉を混合して粉体であることを維持し得るようなものであれば良い。本件発明者の実験では、二酸化珪素や二酸化マンガン、塩化カルシウムや炭酸カルシウムの場合、好ましい結果を得ることが可能であった。
【0046】
金属粉を主成分とする粉体に於ける金属粉の混合率は特に限定するものではなく、重量比で約3%程度以上100%の範囲に設定することが可能である。従って、以下金属粉を主成分とする粉体、又は単に粉体と表現したとき、これらの粉体には、金属粉が100%のものも含むものとする。尚、本件発明者の実験では、混合率は加工時間に影響を与えることが判明している。
【0047】
上記粉体に含有する金属粉の粒度は特に限定するものではなく、ナノ粒子(例えば粒子径が約10nm〜約100nm程度)やマイクロ粒子(例えば粒子径が約0.1μm〜約0.5μm程度)のものを利用することが可能である。しかし、前記範囲以外の粒子径のものであっても加工することが可能であることが判明している。
【0048】
金属粉或いは粉体を含有するための液体は特に限定するものではなく、上水や蒸留水及び生理食塩水等の水、スピンドル油や灯油等の油類であって良く、何れも好ましく用いることが可能である。このような液体では、周囲の人が触れた場合であっても危険を及ぼすことがなく、高い安全性を保持することが可能である。本件発明者の実験では、液体はレーザ光を吸収することなく透過させてしまうものであることが好ましいことが判明している。
【0049】
特に、液体として上水を利用する場合には、入手が簡単でコストも低いため好ましい。また液体に粉体を含有させたとき、混合した粉体は液体中に浮遊した状態を保持することが好ましい。混合した粉体が沈殿した場合、良好な加工を行うことが困難となり、加工に際しその都度液体を攪拌することが必要となる。このため、粉体の見掛け比重は小さいことが好ましい。
【0050】
液体に対する粉体の混合率は特に限定するものではなく、液体としての流動性を保持し得る程度の混合率で、或いは高い粘性を発揮する程度の混合率で利用することが可能である。
【0051】
粉体を含浸させ或いは液体を含浸させる基材は特に限定するものではなく、これらを含浸して保持し得る程度に多孔質で且つ柔軟性を有することが好ましい。しかし、孔の大きさや硬度を限定するものではない。このような基材としては合成樹脂の発泡体があり、例えばウレタン樹脂の発泡体を用いることが可能である。
【実施例1】
【0052】
次に本発明に係るレーザ光照射装置の実施例について図を用いて説明する。図3はレーザ光照射装置の構成を説明する模式図である。図4は光ファイバーの端部を処理剤に浸漬し或いは接触させる状態を説明する図である。
【0053】
図に示すレーザ光照射装置Aは、レーザ発振器2と、一方側の端部(後端部)1bがレーザ発振器2と接続され他方側の端部(先端部)1aが先細状に加工されてプローブとして機能し得るように構成された光ファイバー1とを有しており、例えば医師が光ファイバー2を把持して先端部1aを目的の患部に接触或いは接近させ、この状態でレーザ発振器1を作動させて先端部1aから患部にレーザ光を照射することで、患部の組織を瞬時に蒸散させることで、目的の治療を行うことが可能である。
【0054】
レーザ光照射装置Aは、レーザ発振器2及び光ファイバー1を有し、且つレーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤を収容した容器3を含んで構成されている。処理剤は、金属粉を主成分とする粉体4として構成されたもの、粉体4を水等に混合させた液体5として構成されたもの、粉体4或いは液体5を含浸させた含浸体6として構成されたものがあり、これらの粉体4,液体5,含浸体6の中から選択的に用いられる。
【0055】
本実施例に於いて、レーザ発振器2は波長が1064nmのレーザ光を出射するNd:YAGレーザを用いており、光ファイバー1としては図3に示すようにコア11が石英ガラスによってクラッド12がポリマーによって形成されたものを用い、処理剤の主成分であるレーザ光を吸収し得る金属粉として酸化チタン(TiO2 )を用いている。
【0056】
上記の如く構成されたレーザ光照射装置Aによって光ファイバー1の先端部1aを先細状に加工する際の方法について説明する。先ず、光ファイバー1の後端部1bをレーザ発振器2に接続しておき、先端部1aの被覆を排除してクラッド12を露出しておく、この状態で、先端部2aを処理剤(例えば液体5)の中に入れる。
【0057】
ここで、処理剤の中に光ファイバー1の先端部1aを入れる場合、処理剤の性状に応じて入れ方が異なるのは当然である。即ち、処理剤が粉体4や液体5のように流動性を持ったものである場合、光ファイバー1の先端部1aを粉体4或いは液体5の中に差し込んで浸漬する。また処理材が含浸体6である場合、光ファイバー1の先端部1aを含浸体6に差し込んで浸漬又は接触させる。
【0058】
上記の如くして光ファイバー1の先端部1aを液体5に浸漬させ、この状態でレーザ発振器2を作動させてレーザ光を出射する。レーザ発振器2から出射されたレーザ光は、光ファイバー1の先端部1aから液体5中に照射され、該先端部1aの周囲に存在する金属粉に吸収される。レーザ光を吸収した金属粉は瞬時に蒸発又は分解し、このときの作用によって光ファイバー1の先端部1aが加工される。この加工の結果、光ファイバー1の先端部1aは図1或いは図2(a)〜(g)に示すような先細状に加工される。
【0059】
本発明に係る加工方法によって加工された光ファイバー1の先端部1aの先細状に形成された部分は、コア11が露出していることになる。このため、先細状の部分の全表面からレーザ光が照射されることとなり、レーザ光のエネルギーは一点に集中することなく、広範囲に散乱することになる。従って、広い面積に対し一様にエネルギーを分布させて作業を行うような場合に有利である。このようなエネルギー分布を得ることが好ましい作業として、例えば皮膚科の治療や歯科の根管治療がある。
【0060】
従って、レーザ光のエネルギーを極めて小さい一点に集中させることが必要な作業を行う場合には、先細状に形成された斜面に皮膜を形成して該斜面からの照射を遮断するように構成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上記の如き本発明の加工方法及びこの加工方法を実現するレーザ光照射装置は、医療用のレーザ照射装置に採用したときに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】光ファイバーの先端部に於ける先細状の形状を説明する図である。
【図2】先細状の形状の例を説明する図である。
【図3】レーザ光照射装置の構成を説明する模式図である。
【図4】光ファイバーの端部を処理剤に浸漬し或いは接触させる状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0063】
A レーザ光照射装置
1 光ファイバー
1a 先端部
1b 後端部
11 コア
12 クラッド
2 レーザ発振器
3 容器
4 粉体
5 液体
6 含浸体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から出射されたレーザ光を目的の部位に導いて照射する光ファイバーの先端部を先細状に加工する方法であって、光ファイバーの一方の端部をレーザ発振器に接続すると共に他方の端部側のクラッドを露出させておき、且つ前記光ファイバーに接続されたレーザ発振器から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有した処理剤を用意しておき、前記光ファイバーの他方の端部側を前記金属粉を含有した処理剤に浸漬又は接触させ、この状態で、前記レーザ発振器からレーザ光を出射することを特徴とする光ファイバーの加工方法。
【請求項2】
レーザ発振器と前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を目的の部位に導いて照射する光ファイバーとを有し、且つ前記レーザ発振器から出射されるレーザ光を吸収し得る金属粉を含有し前記光ファイバーの端部を先細状に加工するための処理剤を収容し又は保持する保持部材を含むことを特徴とするレーザ光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−14776(P2006−14776A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193108(P2004−193108)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(390003229)マニー株式会社 (66)
【Fターム(参考)】