説明

光信号受信装置

【課題】小型化が実現可能な偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドを提供することにある。
【解決手段】 領域ごとに透過軸方向の選択可能な偏光分離作用のあるフォトニック結晶偏光子や、領域ごとに遅相軸方向の選択可能な偏光回転作用のあるフォトニック結晶波長板を、石英系光導波路チップの導波路上に挿入することで、偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドを小型にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コヒーレント通信方式またはデジタルコヒーレント通信方式における光受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレント通信方式の光受信装置では、90°ハイブリッドは欠かせないものである(非特許文献1)。
【0003】
また、偏光多重した2つの光信号に対して、90°ハイブリッドをそれぞれ1つずつ使う2偏光多重光コヒーレント通信方式の光受信装置には偏光分離素子、偏光回転素子は欠かせないものである。
【0004】
光コヒーレント通信方式を実用するために、その光受信装置は小型に実現することが求められている。
【0005】
90°ハイブリッドを実現する方法として最も一般的なものは、偏光ビームスプリッタ(PBS)や3dBカプラ(ハーフミラー)、ミラー、偏光回転素子(1/4波長板、1/2波長板)といったバルク光学部品、またはピッグテールファイバー付き光学部品を組み合わせて実現する方法である。この方法は簡便ではあるが、アライメントや、ファイバの最小曲げ半径に起因するファイバ取り回し部があり、小型化が困難である。
【0006】
一方、石英系光導波路は任意のフォトマスクを使用し、写真技術を用いて精度良く微細な光回路を実現できる。光回路を小型に作成する上で非常にすぐれた方法である。
【0007】
しかし、石英系光導波路単独では偏光分離作用、偏光回転作用を実現することは非常に困難であるため、90°ハイブリッドを実現するには何らかの方法で偏光分離作用、偏光回転作用を導入する必要がある。
【0008】
フォトニック結晶偏光子、波長板は領域を微細に分割することができるため、機能集積化、小型化に適した偏光分離素子、偏光回転素子である。
【特許文献1】 特開2001−83321号公報 (偏光子特許)
【特許文献2】 特開2003−315552号公報 (波長板特許)
【特許文献3】 特開平10−335758号公報 (基本)
【非特許文献1】 菊池和朗「コヒーレント光ファイバー通信の新展開」、応用物理 第78巻 第9号(2009)、p856−861
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決する課題は、小型化が実現可能な偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の概略は、領域ごとに透過軸方向の選択可能な偏光分離作用のあるフォトニック結晶偏光子や領域ごとに遅相軸方向の選択可能な偏光回転作用のあるフォトニック結晶波長板を、石英系光導波路チップの導波路上に挿入することで、偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドを小型にする方法である。通常の偏光分離素子や偏光回転素子ではその偏光透過軸や遅相軸が一様であるため、数μm〜数10μm程度に近接した導波路群に対して、それぞれ別の偏光透過軸や遅相軸を割り当てることができない。近接した導波路群に対して、それぞれ別の偏光透過軸や遅相軸の割り当てを実現する素子として、例えば特許文献1記載のフォトニック結晶偏光子や特許文献2記載のフォトニック結晶波長板が挙げられる。この特徴は、光軸の異なる複数の偏光子または波長板として一体形成することができることにある。更に各偏光子の透過偏光方位角度や遅相軸方位角度を高精度に決定できること、各領域を微細にすることができること、各領域の境界を無視できるほど(数十nmオーダー)小さくすることができ損失や散乱などを抑えることができる、などが挙げられる。
【0011】
フォトニック結晶偏光子は領域を微細に分割することができるため、近接した導波路ごとに違った偏光透過軸や波長板遅相軸を割り当てることができ、光導波路に偏光分離機能や偏光回転機能を導入することに適している。
【0012】
フォトニック結晶偏光子は図1のような周期的な溝列を形成した透明材料基板101上に、透明で高屈折率の媒質102と低屈折率の媒質103とを界面の形状を保存しながら、交互に積層する。この図では溝方向が90°異なる2つの領域が一体形成された構造を示している。ここで媒質102と103の層の厚さと、基板の周期を選ぶことで、特定の波長で偏光子として動作させることができる。即ち、溝に平行な偏光を遮断し、溝に垂直な偏光を透過させることができる。予め溝の方向を変えて凹凸パタンを形成しておくことで、透過軸の異なる偏光子アレイを一括形成することが容易である。
【0013】
これは自己クローニング技術と呼ばれており、特許文献3に詳しく記載されている。ここでは簡単に説明する。
低屈折率媒質としてはSiOを主成分とする材料が最も一般的であり、透明波長領域が広く、化学的、熱的、機械的にも安定であり、成膜も容易に行なえる。しかしながらその他の光学ガラスでもよく、MgFのようにより屈折率の低い材料を用いてもよい。高屈折率材料としては、Si、Geなどの半導体や、Ta、TiO、Nb、HfO、Siなどの酸化物や窒化物が使用でき、透明波長範囲が広く、可視光領域でも使用できる。一方、半導体は、近赤外域に限定されるが、屈折率が大きい利点がある。
【0014】
基板に形成する凹凸パタンは、電子ビームリソグラフィとドライエッチングにより周期的な溝を形成する。あるいはフォトリソグラフィや干渉露光、ナノインプリントを用いても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光信号受信装置は、小型化可能な偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドである。小型90°ハイブリッドの実現により、偏光多重光コヒーレント通信システム全体の小型化が実現可能になり、新しい超高速光通信を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図2は本発明の光信号受信装置の構造を示す図である。導波路基板215に3dBカプラ、チャネル導波路を使用して光回路が形成されている。一部分に溝206をつくり、フォトニック結晶チップ205を機能させるため、導波路を横切る様に挿入する。
【0017】
信号光を信号光入力導波路201に入力し、フォトニック結晶チップ205により偏光分離され、透過光は3dBカプラ210に向かい、反射光は折り返し導波路203を伝搬し、フォトニック結晶チップ205により偏光回転の処理をおこない、3dBカプラ209へ向かう。その後、それぞれ3dBカプラ209、210により分岐されてそれぞれ3dBカプラ211、212、213、214へ向かう。
【0018】
局発光は偏波保持ファイバを介して局発光入力導波路202に入力する。このとき光の電界振動方向が紙面に垂直な方向になるように偏波保持ファイバの遅相軸を合わせる。またはLDの偏光方向を紙面垂直方向になるように導波路202に直接接続しても良い。導波路に結合した局発光は3dBカプラ204により分岐され、フォトニック結晶チップ205を通過して、3dBカプラ207、208に向かう。その後、それぞれ3dBカプラ207、208により分岐されてそれぞれ3dBカプラ211、212、213、214へ向かう。
【0019】
信号光、局発光が3dBカプラ211、212、213、214で合波してバランスPD208により電気信号に変換される。このとき3dBカプラ211、212、213、214で合波する際の各信号光、局発光の電界振動方向は紙面に垂直な方向にそろっている。
【0020】
図3は溝部分の拡大図である。溝304に挿入したフォトニック結晶チップ303は横切るチャネル導波路に対して違った機能を発生する様に設計できる。フォトニック結晶機能領域305、306の左平面は光の電界振動が紙面に垂直な方向の光を透過させ、水平な方向の光を反射する偏光子として設計し、フォトニック結晶機能領域307の左平面は偏光状態を変化させないように設計する。またフォトニック結晶機能領域305、306の右平面は偏光状態を変化させないように設計し、フォトニック結晶機能領域307の右平面は入射偏光を90°回転させるため、主軸方向が紙面に対して45°傾いた1/2波長板として設計し、左平面、右平面をそれぞれ別々に成膜しアセンブルする。
【0021】
このように偏光分離機能、偏光回転機能がフォトニック結晶チップを使用することで光導波路に導入でき、偏波多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドの小型化が可能である。
【実施例】
【0022】
図4は本発明の実施例を示す図である。図4のフォトニック結晶機能領域405に横切る光に対して、偏光状態を変化させないようにフォトニック結晶チップを設計することも可能である。
【0023】
図3のフォトニック結晶チップ303は別々に成膜してアセンブリせず、1枚の基板上に領域をマスキングして複数回成膜したフォトニック結晶チップでもかまわない。
【0024】
図3のフォトニック結晶チップ303を溝304に挿入するかわりに、溝部分で導波路を切断してその端面にフォトニック結晶を成膜して、再度接続してもかまわない。このようにすることで、溝304による伝搬光の回折損失を少なくできる。
【0025】
図3のフォトニック結晶チップ303のかわりに、図5に示すような導波構造付きフォトニック結晶チップ503を溝504に挿入してもかまわない。導波構造付きフォトニック結晶チップ503は面方向に導波構造を持った基板508に所望のフォトニック結晶を成膜してこのようにすることで、溝504による伝搬光の回折損失を少なくできる。
【0025】
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】フォトニック結晶偏光子の構造を表す図
【図2】本発明を表わす光信号受信装置の構成
【図3】本発明の溝部を表す図
【図4】本発明の実施例を表す図
【図5】本発明の実施例を表す図
【符号の説明】
【0027】
101 溝列を形成した基板
102 高屈折率材料
103 低屈折率
201 信号光入力導波路
202 局発光入力導波路
203 折り返し導波路
204 3dBカプラ
205 フォトニック結晶チップ
206 溝
207 3dBカプラ
208 3dBカプラ
209 3dBカプラ
210 3dBカプラ
211 3dBカプラ
212 3dBカプラ
213 3dBカプラ
214 3dBカプラ
215 導波路基板
216 バランスPD
301 光導波路チップ
302 チャネル導波路
303 フォトニック結晶チップ
304 溝
305 フォトニック結晶機能領域
306 フォトニック結晶機能領域
307 フォトニック結晶機能領域
401 光導波路チップ
402 チャネル導波路
403 フォトニック結晶チップ
404 溝
405 フォトニック結晶機能領域
406 フォトニック結晶機能領域
407 フォトニック結晶機能領域
501 光導波路チップ
502 チャネル導波路
503 導波構造付きフォトニック結晶チップ
504 溝
505 導波路基板
506 チャネル導波路
507 チャネル導波路端面
508 導波構造付き基板
509 フォトニック結晶成膜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶偏光子を光導波路型90°ハイブリッドと組み合わせたことを特徴とする偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッド。
【請求項2】
フォトニック結晶波長板を光導波路型90°ハイブリッドと組み合わせたことを特徴とする偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッド。
【請求項3】
フォトニック結晶偏光子とフォトニック結晶波長板を組み合わせたチップを光導波路型90°ハイブリッドと組み合わせたことを特徴とする偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッド。
【請求項4】
請求項1,2,3に記載の偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドのフォトニック結晶の基板に導波構造を持たせたチップを光導波路型90°ハイブリッドと組み合わせたことを特徴とする偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッド。
【請求項5】
請求項1,2,3,4に記載の偏光多重光コヒーレント通信用90°ハイブリッドをもちいた光信号受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−76049(P2011−76049A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244925(P2009−244925)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(302060650)株式会社フォトニックラティス (22)
【Fターム(参考)】