説明

光偏向器および光走査装置

【課題】偏向光の波面の乱れが生じず、光の利用効率が高く、機械的な可動部がない光偏向器及び光走査装置を提供する。
【解決手段】透明基板11A,11Bの基板面に形成された透明電極12A,12Bが互いに対向する状態で配置された一対の透明基板11A,11Bと、透明基板11Bの光入射面に対して所定の角度θをもって分子方向が配列され、透明基板11A,11B間に収容された液晶14とを備え、互いに対向する透明電極12A,12Bのうち少なくとも一方を高抵抗膜で形成し、高抵抗膜で形成した透明電極12Bに給電電極部15A,15Bを設け、給電電極15A,15Bに交流電圧を印加する電源16A,16Bを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器およびこれを備えた光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光偏向器は様々な分野の各種装置で使用されているが、そのほとんどが機械的な動きによって偏向を行なっている。たとえば、光磁気ディスクのトラッキング機構では、レンズを左右に移動させること、または、反射鏡の向きを変えることにより光を偏向している。この機械的な動きによる光偏向器は機械的な機構が複雑で、組み立て調整が難しく、また振動にも弱く、消費電力が比較的大きいという問題がある。そこで、これらの問題を解決する装置として機械可動部を持たない液晶を利用した光偏向器が知られており、非常に多くの透明電極を備えた液晶偏向器などが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.T.Kowel、D.S.Clerverly、P.G.Kornreich著、「反射液晶セルにおける電気的変調によるフォーカシング」、応用光学(1984年)、第23巻、278頁(S.T.Kowel,D.S.Clerverly,and P.G.Kornreich "Focusing by electrical modulation of reflectionina Liquid crystal cell", Applied Opt., 23, 278(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した非特許文献1に記載の液晶偏向器は、それぞれの電極に印加する電圧を制御することで液晶内に屈折率の分布を形成して偏向を行っているため、液晶内の電場分布が一様に変化せず階段状になっている。このため、液晶内では、屈折率の分布も階段状になり、偏向した光(以下、これを偏向光とよぶ)の波面が乱れる、という問題があった。
【0005】
従って、感光体や静電記録体等の像担持体である被走査面を光走査することにより画像形成する電子写真プロセスを有する各種の画像形成装置、例えば特にレーザビームプリンタやカラーレーザビームプリンタ、マルチカラーレーザプリンタ、レーザファクシミリ等の装置に、この液晶偏向器を併用すると、画像に歪みが発生するなどの画質不良をもたらすおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、偏向光の波面の乱れが生じず、光の利用効率が高く、機械的な可動部がない光偏向器及び光走査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一対の透明基板と、前記一対の透明基板が互いに対向する基板面に形成された透明電極と、前記一対の透明基板の間に、前記透明基板の基板面に対して所定の角度をもって分子方向が配列された液晶と、を備え、互いに対向する前記透明電極の両方が高抵抗膜からなり、前記透明電極の両方に、前記高抵抗膜よりシート抵抗値が低い材料からなる給電電極を少なくとも2箇所有し、前記透明電極における前記給電電極の並ぶ順にしたがって、高い値の交流電圧または低い値の交流電圧を印加できる電源を備えることにより、前記透明電極の各々に連続的な勾配電圧が生ずる光偏向器を提供する。
【0008】
前記透明電極の各々の勾配電圧の向きが交わるように構成してもよい。
【0009】
前記高抵抗膜を、酸化スズ薄膜から構成してもよい。
【0010】
少なくとも一つの光源と、光走査手段と、を備えた光走査装置において、前記光源と前記光走査手段の間に、前記光源より出射された光を偏向する偏向手段として、前記光偏向器を使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明の光偏向器によれば、入射する光を偏向させて出射させる際に、屈折率分布が直線的に変化するようになるため、偏向光の波面の乱れが生じず、また光の利用効率が高く、機械的な可動部がない屈折率分布型の光偏向器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光偏向器(液晶素子)を示す側面図である。
【図2】図1に示す光偏向器(液晶素子)の印加電圧−リタデーション特性の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る光偏向器(液晶素子)の変形例を示す側面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る光偏向器(液晶素子)を示す側面図である。
【図5】図4に示す光偏向器(液晶素子)の印加電圧−リタデーション特性の一例を示すグラフである。
【図6】本発明に係る光走査装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光偏向器1を示す断面図であり、この光偏向器1Aは、原理的に液晶素子(としての機能)を利用した液晶偏向器で構成しており、ガラスやプラスチックなどの透明基板11A、11B上に、透明電極12A、12Bが対向するように配置されている。
【0015】
透明基板11A、11Bは、ガラスやプラスチックなどの適宜の透明材料で形成されているが、透明電極12A、12Bが対向するようにしてシール材10により接着させることにより、所望のセルギャップ(透明基板11A、11Bの隙間)を有するセルを構成している。また、これらの透明電極12A、12Bの各対向面上には、配向膜13A、13Bが設けられており、ラビング法などにより配向処理が施されている。
【0016】
なお、このシール材10には、エポキシやアクリル系接着剤などの有機材料やガラス接着剤などの無機系の材料、またはんだ等の金属材料など使用可能である。セルギャップを均一に保つためシール材10の中にガラスビーズ、樹脂ビーズ、ファイバ等のスペーサ混ぜてもよい。また、セル内にスペーサを配置してもよい。
【0017】
透明電極12A、12Bには、ITO(Indium Tin Oxide)膜などの金属酸化物材料などが使用できるが、図1に示す構成のものでは、透明電極12Aは低抵抗膜であり、透明電極12Bは高抵抗膜である。高抵抗膜である透明電極12Bの両端付近には、高抵抗膜に電圧を印加するために、第1、第2の給電電極15A、15Bが設けられており、これら第1、第2の給電電極15A、15Bには、各々交流電源16A、16Bが接続されている。一方、低抵抗膜である透明電極12Aは接地されている。
【0018】
第1、第2の給電電極15A、15Bは、透明でも不透明でもよく、ITOなどの金属酸化物や、Cr、Ni、Au、Ag等の金属でもよい。特に金属はシート抵抗が小さく細線化しやすいため、液晶素子の小型化が容易になり好ましい。
【0019】
高抵抗膜である透明電極12Bについては、透明で、かつ第1、第2の給電電極15A、15Bおよび低抵抗膜である透明電極12Aに対してシート抵抗が高い必要があり、例えばガリウム、アルミニウム、シリコン、イットリウム、インジウムなどの元素を1種または複数種ドープした酸化亜鉛膜や、ケイ素、アンチモン、インジウム、ガリウムなどの元素を1種または複数種ドープした酸化スズ膜や、ドープしない、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜、ITO膜などがよい。また、これらと酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの複合酸化物がよい。特に、酸化スズ薄膜は、熱や水に対するシート抵抗値の安定性が高く、製造上また耐候性および信頼性上、極めて好ましい。
【0020】
前述のセル内には液晶14が封入されており、この液晶分子14Aは配向膜13A、13Bの界面においてその面に対して所定角度(プレチルト角:例えば、図1中では「θ」)をなすように配置される。液晶14には、例えばネマティック液晶などが使用でき、ここでは△ε(但し、△ε;誘電率異方性)が正の液晶について説明する。プレチルト角は、液晶に電界を印加した際の液晶分子の立ち上がり方向を決め、駆動時の配向不良を防ぐ。特に1度以上が好ましい。本実施の形態では、液晶14の配向はホモジニアス配向であるが、ハイブリッド配向、ホメオトロピック配向、ツイスト配向などをとることも可能である。
【0021】
なお、交流電源16A、16Bには、液晶パネルの信頼性向上のため直流成分の小さい電源を用いる。特に直流成分は交流成分の1%以下に抑えることが信頼性において好ましい。電源の周波数は50から5000Hz程度で、矩形交流波などが使用できる。
【0022】
次に、本実施の形態の光偏向器1の液晶素子部分の動作について、印加電圧に対するレタデーション値の相関性を示す図2を参照しながら説明する。
この光偏向器1に備えた液晶素子では、レタデーション値は、印加電圧が大きくなると徐々に小さくなる特性を有しているが、印加電圧に対して線形な領域(以下、これを線形領域とよぶ)が存在しており、液晶駆動時はこの線形領域の電圧を使用する。なお、この線形領域を示す電圧の高い方での値と低い方での値を、それぞれ、VH、VLとする。
【0023】
図1の液晶において、交流電源16Aの電圧をVH、交流電源16Bの電圧をVLとすれば、透明電極12Bが高抵抗膜であるため、第1の給電電極15Aの固定部位から第2の給電電極15Bの固定部位に向かって、高抵抗膜の透明電極12Bの電位が連続的に変化する。
【0024】
一方、低抵抗膜である透明電極12Aは接地されているので、高抵抗膜の透明電極12Bとの間には直線的な勾配を持つ電界分布が形成される。この電界中に存在する液晶14内では、前述した線形領域で液晶駆動を行っているため、同様に、線形(直線的;リニア)に変化する屈折率分布が形成される。
ここで、直線偏光された光を透明基板11Bに垂直に、かつ、偏光方向が配向した液晶分子の電界によって傾く面に対し平行となる方向に入射させると、入射光は屈折率の大きい方向に曲げられて進行し、透明基板11Aから出射される。
従って、入射光を所定方向に偏向させて出射させることができる。
【0025】
なお、図1に示す本実施の形態では片方の透明電極12Bのみ高抵抗膜としたが、図3に示すように、光偏向器1Bの対向する透明電極12A、12Bを両方とも高抵抗膜とし、それぞれに給電電極15A〜15Dを設置してもよい。この場合、印加する電圧を細かく制御することが可能となり、偏向角をより細かく制御することが可能となる。更に、各透明電極にできる勾配電圧の向きをクロスすることにより、2次元的に光を偏向することが可能となる。また、液晶素子を多段重ねることにより偏向角を大きくすることも可能である。ここで、符号17A,17Bは、交流電源である。なお、図3中の他の符号のうち、図1と同一符号のものは、図1と同じ要素を示す。
【0026】
[第2の実施の形態]
次に、図4に示す光偏向器1Cでは、図1に示す第1の実施の形態の光偏向器1Aとは異なり、透明基板11B上に、第1、第2の給電電極15A、15Bのほかに第3の給電電極15E及びこの第3の給電電極15Eと接続された交流電源18を設けている。
液晶素子をこのように構成して、例えば電圧VH、VC、VLを第1の給電電極15A、第3の給電電極15E、第2の給電電極15Bに各々印加すれば、液晶素子の印加電圧に対するレタデーション値については、図5に示すような相関性が得られる。
【0027】
即ち、これは、透明電極12Bが高抵抗膜であるため、第1の給電電極15Aの固定部位から第3の給電電極15Eの固定部位に向かって、高抵抗膜の透明電極12Bの電位が連続的に変化し、また第3の給電電極15Eの固定部位から第2の給電電極15Bの固定部位に向かって、高抵抗膜の透明電極12Bの電位が連続的に変化する。
【0028】
ここで、低抵抗膜である透明電極12Aを接地してあり、特に給電電極が第1の給電電極15Aから第3の給電電極15Eまで分割されているため、第1の給電電極15Aと第3の給電電極15Eの間、及び、第3の給電電極15Eと第2の給電電極15Bの間、つまり、各々の給電電極と高抵抗膜である透明電極12Bとの間には、異なる傾きを持った直線的な勾配電界分布を呈する線形領域を形成できる。このように、各勾配電界中に存在する液晶14内では、線形領域での液晶駆動を行っているため、同様に、線形に変化する屈折率分布が形成されている。
【0029】
しかも、第1の給電電極15Aと第2の給電電極15Bの間の液晶14内では、屈折率分布を直線的に大きく変化させることが実現可能となっている。これにより、図5に示すように、液晶素子での印加電圧に対するレタデーションについては、第1の実施形態に比べて線形領域を実質的に大きく取ることができる。
なお、図4中の他の符号のうち、図1と同一符号のものは、図1と同じ要素を示す。
【0030】
このように、分割させる給電電極を増やすことにより、線形性が保たれ、かつ、変化の大きな屈折率分布を確保することができるようになり、液晶素子から出射された光の波面を曲げることがなく、偏向後の光を平面波として出射できるので好ましい。また、液晶部分の厚さを増大させなくても、別言すれば液晶部分が薄くても、変化率の大きな屈折率分布を有する液晶素子が実現できるため、応答速度の点からも好ましい。
【0031】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施形態について図4及び図5を参照しながら説明する。
本実施形態では、図1における光偏向器1Cの透明電極12Bとして、第1の給電電極15Aから第2の給電電極15Bの方向に対して、シート抵抗値が勾配をもった高抵抗膜を用いている。
【0032】
このような構成とすると、第1、第2の給電電極15A、15Bに電圧を印加した場合、第1の給電電極15Aの固定部位から第2の給電電極15Bの固定部位に向かって、高抵抗膜の透明電極12Bの電位が連続的に変化する。ここで、低抵抗膜である透明電極12Aを接地させることで、高抵抗膜の透明電極12Bとの間には、高抵抗膜のシート抵抗値の勾配に対応した勾配電界分布が形成される。
【0033】
そこで、透明電極12Bにおいて、この高抵抗膜のシート抵抗値の勾配を調整する。即ち、この勾配電界分布を、図2に示した液晶素子の印加電圧に対するレタデーション値のカーブ(非線形領域)部分での特性に整合させる。
つまり、図2のレタデーションカーブの非線形領域についても、そこでの曲率変化を相殺するように電界分布の勾配率を調整させることで、第1、第2の給電電極15A、15B間において、直線的(リニア)に変化する屈折率分布が形成できるわけである。
【0034】
その結果、図2に示す液晶素子の印加電圧に対するレタデーションのグラフにおける線形領域を実質的に増大させることができるので、液晶素子より出射された光の波面を広範囲のエリアに亙って曲げることがなく、光を出射できるので好ましい。また、本実施の形態でも、液晶部分の厚さを薄くできるため、応答速度の点からも好ましい。
【0035】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る光走査装置について、図6を参照しながら説明する。
図6に示す光走査装置は、プリンタに適用されており、光源2と、電圧制御装置3と、ポリゴンミラー4と、fθレンズなどの結像レンズ5と、静電潜像を形成する感光ドラム6との他に、本発明の光偏向器1(第1の実施の形態〜第3の実施の形態のいずれかのもの)を備えている。
なお、光源2と光偏向器1との間の光路上には、出射される光をコリメートさせるため、コリメートレンズ(図示せず)などの平行光形成手段を配設している。
【0036】
光偏向器1は、ここに入射する光の偏向方向が図中Y方向に一致するように配置されている。また、この光偏向器1には、交流電圧を印加する電圧制御装置3が接続されている。
【0037】
従って、本実施の形態の光走査装置によれば、光源2から出射して光偏向器1を通過する光は、回転するポリゴンミラー4により反射され、結像レンズ5により感光ドラム6上に集光される。この際、結像レンズ5によりZ方向を集光された光が、ポリゴンミラー4の回転により感光ドラム6上で掃引される。
【0038】
また、本実施の形態の光走査装置を組み付け調整するとき及び経時的に光軸がずれたとき等には、電圧制御装置3により光偏向器1に印加する電圧値を調整・制御することにより、感光ドラム6に投光される光をY方向に偏向させることで、感光ドラム6上の所定の投光位置に正確に集光させることができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の光偏向器1およびこれを備えた光走査装置の実施例について、図1を参照しながら説明する。
例えば、第1の実施形態に係る光偏向器1Aでは、初めに、透明基板11Aとして所定0.6mmの厚さの無アルカリガラスを用い、その表面にスパッタ法により所要のシート抵抗300Ω/□のITO膜を成膜して低抵抗の透明電極12Aを形成する。そして、その透明電極12A面上に、配向膜13Aとしてポリイミド膜をフレキソ印刷法により厚さ50nm成膜して形成するようになっている。
【0040】
一方、高抵抗膜である透明基板11Bとしては、初めに、0.6mmの厚さの無アルカリガラス表面にスパッタ法によりシート抵抗1Ω/□のCr膜を成膜し、その後、エッチング技術により不要部分を除去して第1、第2の給電電極15A、15Bを形成する。その後、シート抵抗100kΩ/□の酸化スズ薄膜をスパッタ法により堆積し、これにより高抵抗膜の透明電極12Bを形成する。
【0041】
その後、この透明電極12Bの一方の面(透明電極12Aと対向する対向面)上に、配向膜13Bとしてポリイミド膜をフレキソ印刷法により厚さ50nm成膜する。ポリイミド膜はラビング法により配向処理を行った後、エポキシ樹脂よりなるシール材10を透明基板11A、11Bに印刷し、熱圧着によりセルを作製する。シール材10の中にガラスファイバスペーサ(図示せず)を混ぜることで、セルギャップを均一化し、10μmとした。なお、この透明電極12Bの対向面とは反対面上には、給電電極15A、15Bを形成するとともに、この給電電極15A、15Bを交流電源16A、16Bと適宜の線材で接続しておく。
【0042】
次に、真空注入法により、屈折率異方性△n(=0.18)の液晶14をセルに注入した後、封止材(図示せず)により封穴すれば、光偏向器1Aが完成する。
【0043】
このようにして形成した第1の実施形態に係る光偏向器1Aの液晶素子部分に対して、印加電圧に対するレタデーション値特性を測定したところ、図2のような特性が得られた。即ち、レタデーションの線形性が得られる領域が、印加電圧1.2Vrmsから2.0Vrmsの領域であり、最大獲得レタデーション値は680nmであった。
【0044】
この液晶素子に波長650nmのレーザ光を通過させ、電圧を印加させた際の偏向角を測定した。透明電極12Aは接地し、第1の給電電極15Aに1.2Vrms、周波数1000Hzの矩形交流、第2の給電電極15Bに2.0Vrms、周波数1000Hzの矩形交流を付与した。この際、第1、第2の給電電極15A、15Bへ印加する両矩形交流の位相差は0とした。
【0045】
このような条件下で光偏向器1Aに波長650nmのレーザ光を通過させた結果、約1分の角度偏向することが確認できた。一方、第1、第2の給電電極15A、15Bに印加する電圧を逆にすると、逆方向に約1分の角度変更(偏向)できることを確認した。また、偏向する際の液晶素子からの出射光の波面を測定したが0.03mλrms程度であり、波面の乱れが小さいことに問題がないことが認された。
【0046】
また、このようにして作製した光偏向器1A(液晶素子)を図6に示すレーザビームプリンタの光走査装置の部分に搭載したところ、交流電源16へ印加する電圧により、液晶素子を通過したレーザ光の偏向角度を所定の電圧値の範囲(VL〜VH)内でリニアに調整できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、偏向光の波面の乱れが生じず、光の利用効率が高く、機械的な可動部がない光偏向器及び光走査装置が提供される。
【符号の説明】
【0048】
1、1A〜1C:光偏向器(液晶素子)
10:シール材
11A、11B:透明基板
12A、12B:透明電極
13A、13B:配向膜
14:液晶
14A:液晶分子
15A、15B、15C、15D、15E:給電電極
16A、16B、17A、17B、18:交流電源
2:光源
3:電圧制御装置
4:ポリゴンミラー
5:結像レンズ
6:感光ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明基板と、
前記一対の透明基板が互いに対向する基板面に形成された透明電極と、
前記一対の透明基板の間に、前記透明基板の基板面に対して所定の角度をもって分子方向が配列された液晶と、を備え、
互いに対向する前記透明電極の両方が高抵抗膜からなり、
前記透明電極の両方に、前記高抵抗膜よりシート抵抗値が低い材料からなる給電電極を少なくとも2箇所有し、
前記透明電極における前記給電電極の並ぶ順にしたがって、高い値の交流電圧または低い値の交流電圧を印加できる電源を備えることにより、前記透明電極の各々に連続的な勾配電圧が生ずる光偏向器。
【請求項2】
前記透明電極の各々の勾配電圧の向きが交わる請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記高抵抗膜が、酸化スズ薄膜からなる請求項1または2に記載の光偏向器。
【請求項4】
少なくとも一つの光源と、光走査手段と、を備えた光走査装置において、
前記光源と前記光走査手段の間に、前記光源より出射された光を偏向する偏向手段として、請求項1から3のいずれか1項に記載の光偏向器を有する光走査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−88722(P2012−88722A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261969(P2011−261969)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【分割の表示】特願2003−187508(P2003−187508)の分割
【原出願日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】