説明

光半導体パッケージ封止樹脂材料

【課題】硬化性エポキシ組成物から主として構成される光半導体パッケージ封止樹脂材料に、良好な透明性と高チクソ性と良好な耐クラック性とを同時に実現する。
【解決手段】 光半導体チップを半導体パッケージに封止するための光半導体パッケージ封止樹脂材料は、熱硬化性エポキシ組成物と疎水性スメクタイト粘土鉱物とを含有する。疎水性スメクタイト粘土鉱物は、親水性スメクタイト粘土鉱物をアルキルアンモニウムハライドとインターカレーション反応させて疎水化したものである。スメクタイト粘土鉱物としては、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュアライト、スチブンサイト、テニオライト、モンモリロナイト、またはノントロナイトが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明な光半導体パッケージ封止樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LED(発光ダイオード素子)、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCD(電荷結合素子)、EPROM(消去・書込可能ROM)等の光半導体チップ分野で利用されているパッケージ封止の代表的態様には、例えば、(i)セラミック容器1に光半導体チップ2を実装し、接着樹脂3でセラミック容器1に透明ガラス蓋4を密閉する態様(図1)、(ii)セラミック容器1に光半導体チップ2を実装し、そのセラミック容器1を、熱硬化性エポキシ組成物から主として構成される透明な光半導体パッケージ封止樹脂材料5で満たし、硬化させて密閉する態様(図2)、(iii)基板6上に光半導体チップ2をワイヤーボンド実装し、透明な光半導体パッケージ封止樹脂材料5でポッティングし硬化させて密閉する態様(図3)が知られている。近年では、図1の態様より図2もしくは図3の態様が主流となっている。
【0003】
このような光半導体パッケージ封止樹脂材料に対しては、封止作業、特にポッティングの作業の際に、ディスペンサーから吐出させるときには低粘度を示し、ポッティング後には高粘度を示して流動しにくくなるように、高チクソ性を示すことが求められている。また、光半導体パッケージ封止樹脂材料の硬化物に対しては、経時的に変化しない透明性(特に無色透明性)が求められている。また、硬化物と封止すべき光半導体チップを搭載する基材との間の線膨張係数の差に起因して硬化物に反りやクラックが生ずることがあるが、硬化物に対してはそのような反りやクラックの発生がないという性質、即ち、良好な耐クラック性を示すこと等が求められている。さらに、硬化した封止樹脂材料の紫外線による変色の抑制と機械的性質の劣化の抑制が急務の問題となっている。
【0004】
これらの問題を解決することを目的として、光半導体パッケージ封止樹脂材料を構成する硬化性エポキシ組成物に、安息香酸フェノールエステル類等の特定の芳香族化合物を配合することが提案されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−64243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の場合、硬化性エポキシ組成物のチクソ性の改善や硬化物の耐クラック性の改善については言及されていない。このため、それらのチクソ性や耐クラック性を改善するために、特許文献1の実施例で記載されているように、シリカのような微細な無機充填剤を硬化性エポキシ組成物に添加することが考えられる。無機充填剤を配合することにより、組成物のチクソ比が増大し、また、線膨張係数を低下させて基材との線膨張係数差を小さくし、それにより耐クラック性を向上させることが考えられる。
【0007】
しかしながら、硬化性エポキシ組成物にシリカ微粒子のような微細な無機充填剤を配合した場合、一部の粒子が凝集して粒径の比較的大きな二次粒子となり、その表面で光の反射が生じるため、硬化物のへーズ度が増加し透明性が低下するという問題があった。このように、従来の硬化性エポキシ組成物から主として構成される光半導体パッケージ封止樹脂材料の場合、無色透明性と高チクソ性と良好な耐クラック性とを同時に実現したものは未だ存在しないというのが現状であった。
【0008】
本発明の目的は、上述したような従来の問題点を解決しようとするものであり、硬化性エポキシ組成物から主として構成される光半導体パッケージ封止樹脂材料に、良好な透明性と高チクソ性と良好な耐クラック性とを同時に実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、充填剤として、従来のシリカ粒子に代え、疎水性スメクタイト粘土鉱物を使用することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、光半導体チップを半導体パッケージに封止するための光半導体パッケージ封止樹脂材料であって、熱硬化性エポキシ組成物と疎水性スメクタイト粘土鉱物とを含有することを特徴とする光半導体パッケージ封止樹脂材料を提供する。
【0011】
また、本発明は、光半導体チップが、上述の光半導体パッケージ封止樹脂材料で半導体パッケージに封止されてなる光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料は、充填剤として疎水性スメクタイト粘土鉱物を使用する。このため、疎水性スメクタイト粘土鉱物とエポキシ組成物とを分散混合で得た分散物は、良好な透明性と高チクソ性とを示し、しかもその硬化物は良好な耐クラック性を示す。高チクソ性と良好な耐クラック性については、シリカ粒子を使用した場合に得られる効果と少なくとも同等の特性を示す。他方、シリカ粒子を使用した場合と異なり、疎水性スメクタイト粘土鉱物を使用しても硬化物の透明性が低下しないのは以下に説明するような理由があるためと考えられる。
【0013】
即ち、疎水性スメクタイト粘土鉱物は、層状化合物であり、エポキシ組成物に分散させた場合、層間にエポキシ化合物を取り込んで膨潤し、“エポキシ−粘土鉱物分散体”となり、ゾルを形成する。このため、分散物中で疎水性スメクタイト粘土鉱物は単独の粒子として存在していないと考えられ、分散物中に入射した光は“エポキシ−粘土鉱物分散体”で反射することなく透過する。次に、この状態を維持したまま、“エポキシ−粘土鉱物分散体”を含有する光半導体パッケージ封止樹脂材料を硬化させれば、硬化物にも無色透明性が維持されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料は、光半導体チップを半導体パッケージに封止するためのものであり、熱硬化性エポキシ組成物と疎水性スメクタイト粘土鉱物とを含有することを特徴とする。ここで、光半導体チップとしては、発光または受光する機能を有する半導体チップが挙げられ、具体的にはLED(発光ダイオード素子)、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCD(電荷結合素子)、EPROM(消去・書込可能ROM)等が挙げられる。また、従来の光半導体パッケージと同様のものを使用することができる。
【0015】
スメクタイト粘土鉱物は、膨潤性を有する層状構造を有しており、具体的にはケイ酸四面体−アルミナ八面体−ケイ酸四面体(3層)が層状に積み重なった構造を有する無機化合物である。この粘土鉱物は、負電荷を有し、電気的中性を保つため、層間にナトリウムイオンやカルシウムイオン等の陽イオン、あるいは水分子を保持している。この状態のスメクタイト粘土鉱物は親水性である。
【0016】
スメクタイト粘土鉱物としては、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュアライト、スチブンサイト、テニオライト、モンモリロナイト、ノントロナイト等と称されるものが挙げられる。これらは、四面体・八面体カチオンサイトに入る原子が相違することにより区別される。これらは、天然物でも人工物でも使用できる。中でも、可視光領域での光吸収がほとんど無く、無色透明な硬化物を与えることができるヘクトライトを好ましく使用できる。
【0017】
また、親水性スメクタイト粘土鉱物は、層間イオン結合力が弱いため、層間に多量の水分子を取り込んで膨潤することができる。水に親水性スメクタイト粘土鉱物が分散・膨潤した分散液は、ゾルを形成し、光を透過させる。更に、層間イオン結合の結合力が弱いために、ナトリウムイオン等の陽イオンを、イオン性有機化合物(例えば、テトラドデシルアンモニウムブロミド、テトラオクタデシルアンモニウムブロミド、ジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド等のアルキルアンモニウムハライド、ジメチルテトラデシルアミン等のアルキルアミンなど)でイオン交換することができる(インターカレーション)。このように層間にイオン性有機物が挿入されると、スメクタイト粘土鉱物表面の極性が小さく(あるいは非極性と)なるので、スメクタイト粘土鉱物は疎水化される。疎水化されたスメクタイト粘土鉱物は、各種有機溶媒に分散し膨潤することができる。
【0018】
また、疎水性スメクタイト粘土鉱物の光半導体パッケージ封止樹脂材料における含有量は、疎水性スメクタイト粘土鉱物の中のアルキルアンモニウムイオン、アルキルアミンイオンが硬化性エポキシ組成物の硬化を促進させる硬化促進剤として機能する点も考慮に入れると、少なすぎると触媒機能を発揮できず、硬化が進行せず(未硬化)、多すぎると硬化物の透過率が低くなるので、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜7質量%、特に好ましくは2.5〜5.5質量%である。
【0019】
本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料を構成する熱硬化性エポキシ組成物は、エポキシモノマー、エポキシオリゴマー、エポキシプレポリマー等のエポキシ化合物と、それを硬化させるための硬化剤とを含む。
【0020】
本発明においては、エポキシ化合物として、透明性(特に無色透明性)を確保する観点から分子内に二重結合が存在しないものが好ましく、特に脂環式エポキシ化合物および/または水添芳香族エポキシ化合物を使用することが好ましい。脂環式エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3´,4´−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートあるいは2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール、1,2−エポキシ−4−2(オキシラニル)シクロヘキサン付加物等が挙げられる。水添芳香族エポキシ化合物としては、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールF型エポキシ化合物等が挙げられる。中でも、耐熱光透過性の点から3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3´,4´−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート又は水添ビスフェノールA型エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0021】
熱硬化性エポキシ組成物の全樹脂分(樹脂及び硬化して樹脂となる成分の合計)中の脂環式エポキシ化合物および水添芳香族エポキシ化合物の合計含有量は、少なすぎると硬化物の透過率が低くなり、多すぎると耐クラック性が低くなるので、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは70〜95質量%、特に好ましくは75〜95質量%である。
【0022】
硬化剤としては、硬化物の透明性を確保する観点から分子内に二重結合が存在しないものが好ましく、特に脂環式または脂肪族酸無水物が好ましい。脂環式酸無水物としては、ヘキサヒドロフタル酸無水物あるいはメチル−ヘキサヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。脂肪族酸無水物としては、ドデセニル無水コハク酸が挙げられる。中でも、耐熱光透過性の点からメチル−ヘキサヒドロフタル酸無水物を好ましく使用することができる。
【0023】
酸無水物硬化剤の熱硬化性エポキシ組成物中の配合量は、エポキシ化合物の量に連動して決められる。具体的には、酸無水物硬化剤の酸無水物当量に対する、熱硬化性エポキシ組成物に含有されているエポキシ化合物のエポキシ当量の割合が、少なすぎると吸湿性が低下し、多すぎると耐熱光透過性及び吸湿性が低下するので、好ましくは0.85〜1.15、より好ましくは0.9〜1.05となる量で配合する。なお、複数の酸無水物硬化剤と複数のエポキシ化合物とを用いる場合、全体の酸無水物当量に対するエポキシ当量の割合は、任意の酸無水物硬化剤の酸無水物当量に対する任意のエポキシ化合物のエポキシ当量の割合と一致させることが好ましい。
【0024】
熱硬化性エポキシ組成物には、光半導体パッケージ封止樹脂材料の接着力と弾力性とを改良するために、ウレタン樹脂やアクリル樹脂を配合することができる。ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させたものであり、ポリオールとしては、ポリカーボネートジオールやポリヒドロキシアルカノエート等を挙げることができる。アクリル樹脂としては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの単独重合体又は共重合体を挙げることができ、これらは透明性が高く、耐候性にも優れているので好ましい。
【0025】
このようなウレタン樹脂を熱硬化性エポキシ組成物に配合する場合、少なすぎると添加効果が得られず、多すぎると耐熱光透過性が低下するので、熱硬化性エポキシ組成物の全樹脂分(樹脂及び硬化して樹脂となる成分の合計)中好ましくは1〜10質量%、より好ましくは5〜10質量%である。また、アクリル樹脂を熱硬化性エポキシ組成物に配合する場合、少なすぎると添加効果が得られず、多すぎると耐熱光透過性が低下するので、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは10〜15質量%である。なお、ウレタン樹脂とアクリル樹脂とを併用する場合には、少なすぎると添加効果が得られず、多すぎると耐熱光透過性が低下するので、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0026】
熱硬化性エポキシ組成物には、更に、公知の硬化促進剤、例えば、第四級アンモニウム塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)−p−トルエンスルホン酸塩、有機ホスフィン等を配合することができる。また、硬化物の劣化過程で生成するラジカル(ROO・)を捕捉するラジカル連鎖禁止剤等の一次酸化防止剤、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を配合することができる。不安定な過酸化物(ROOH)を捕捉して積極的に分解して安定な化合物に変化させる過酸化物分解剤等の二次酸化防止剤、例えば、イオン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を配合することができる。
【0027】
更に、熱硬化性エポキシ組成物には、硬化物の用途などに応じて、公知の紫外線吸収剤、カップリング剤、難燃剤等を配合することができる。
【0028】
本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料は、上述した成分を含有する熱硬化性エポキシ組成物と疎水性スメクタイト粘土鉱物とを常法に従って均一に混合することにより製造することができる。得られた光半導体パッケージ封止樹脂材料において、疎水性スメクタイト粘土鉱物は、層間にエポキシ化合物を取り込んで膨潤して“エポキシ−粘土鉱物分散体”となり、ゾルを形成している。特に、無色透明性が必要な場合には、“エポキシ−粘土鉱物分散体”の粘土鉱物バンドギャップが可視光吸収エネルギーよりも大きいことが好ましい。具体的には3.3eV以上であることが好ましい。
【0029】
また、“エポキシ−粘土鉱物分散体”における粘土鉱物の濃度は、少なすぎると耐クラック性(柔軟性)が得られず、高すぎると粘土鉱物が析出し、全体が白または黄色がかった色になるので、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜7質量%である。
【0030】
本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料は、光半導体装置に好ましく適用できる。かかる光半導体装置も本発明の一部である。このような光半導体装置は、具体的には、光学用半導体チップが、光半導体パッケージ封止樹脂材料で半導体パッケージに封止されてなるものであり、例えば、図2、図3に示した構造を取ることができる。封止樹脂として本発明の光半導体パッケージ封止樹脂材料を使用する以外は、従来の光半導体装置と同様の構成とすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0032】
参考例1
(疎水性ヘクトライトを使用したエポキシ−粘土鉱物分散体の調製)
合成スメクタイトであるヘクトライト(ルーセンタイトSEN、コープケミカル社)5gを、トルエン100gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。なお、ヘクトライトの化学式は、Na0.33(Mg2.67Li0.33)Si10(OH)で表され、使用した疎水性ヘクトライトは、ポリオキシエチレンやアルキルメチルアンモニウムイオンが層間に挿入されているものである。
【0033】
得られた粘土鉱物分散液を、予め液状の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(YX8000、ジャパンエポキシレジン社)45gをジメチルホルムアミド100gに分散させておいたエポキシ分散液に添加し、24時間室温下で撹拌し、無色透明なエポキシ分散液を得た。
【0034】
得られたエポキシ分散液を、エバポレーターで減圧濃縮することにより、“エポキシ−粘土鉱物分散体”を得た。この分散体中の粘土鉱物の濃度は10質量%であった。
【0035】
参考例2
(疎水性ベントナイトを使用したエポキシ−粘土鉱物分散体の調製)
合成スメクタイトであるベントナイト(エスベンNX、ホージュン社)5gを、トルエン100gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。なお、ベントナイトの化学式は、合成条件により変動するが、一般にNa0〜0.66Ca0〜0.66(Mg0〜0.66Al3.34)Si20(OH)で表され、使用した疎水性ベントナイトは、トリオクチルアンモニウムイオンが層間に挿入されているものである。
【0036】
得られた粘土鉱物分散液を、予め液状の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(YX8000、ジャパンエポキシレジン社)45gをトルエン100gに分散させておいたエポキシ分散液に添加し、24時間室温下で撹拌し、無色透明なエポキシ分散液を得た。
【0037】
得られたエポキシ分散液を、エバポレーターで減圧濃縮することにより、“エポキシ−粘土鉱物分散体”を得た。この分散体中の粘土鉱物の濃度は10質量%であった。
【0038】
参考例3
(親水性ヘクトライトを使用したエポキシ−粘土鉱物分散体の調製)
合成スメクタイトであるヘクトライト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル社)1gを、超純水99gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。なお、ヘクトライトの化学式は、Na0.33(Mg2.67Li0.33)Si10(OH)で表され、使用した親水性ヘクトライトは、Naイオン及び水分子が層間に挿入されているものである。
【0039】
得られた粘土鉱物分散液を撹拌しながら、そこへ、テトラデシルアンモニウムブロミド1gをエタノール7gに分散したエタノール分散液を室温で0.5ml/秒の速度で滴下した。室温で6時間撹拌を続けた後、混合液を65μmメッシュフィルターで減圧濾別し、フィルター上に捕集された疎水化された粘土鉱物を100℃で1時間乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、粉末状の疎水性スメクタイト粘土鉱物を得た。
【0040】
得られた疎水性スメクタイト粘土鉱物5gを、メチルエチルケトン100gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。
【0041】
得られた粘土鉱物分散液を、予め液状の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(YX8000、ジャパンエポキシレジン社)45gをメチルエチルケトン100gに分散させておいたエポキシ分散液に添加し、24時間室温下で撹拌し、無色透明なエポキシ分散液を得た。
【0042】
得られたエポキシ分散液を、エバポレーターで減圧濃縮することにより、“エポキシ−粘土鉱物分散体”を得た。この分散体中の粘土鉱物の濃度は10質量%であった。
【0043】
参考例4
(親水性モンモリロナイトを使用したエポキシ−粘土鉱物分散体の調製)
合成スメクタイトであるモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業社)1gを、超純水99gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。なお、モンモリロナイトの化学式は、Na0.66(Mg0.66Al3.34)Si20(OH)で表され、使用した親水性モンモリロナイトは、Naイオン及び水分子が層間に挿入されているものである。
【0044】
得られた粘土鉱物分散液を撹拌しながら、そこへ、テトラデシルアンモニウムブロミド1gをエタノール7gに分散したエタノール分散液を室温で0.5ml/秒の速度で滴下した。室温で6時間撹拌を続けた後、混合液を65μmメッシュフィルターで減圧濾別し、フィルター上に捕集された疎水化された粘土鉱物を100℃で1時間乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、粉末状の疎水性スメクタイト粘土鉱物を得た。
【0045】
得られた疎水性スメクタイト粘土鉱物5gを、メチルエチルケトン100gに投入し、6時間室温下にて撹拌分散させ、粘稠な粘土鉱物分散液を得た。
【0046】
得られた粘土鉱物分散液を、予め液状の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(YX8000、ジャパンエポキシレジン社)45gをメチルエチルケトン100gに分散させておいたエポキシ分散液に添加し、24時間室温下で撹拌し、無色透明なエポキシ分散液を得た。
【0047】
得られたエポキシ分散液を、エバポレーターで減圧濃縮することにより、“エポキシ−粘土鉱物分散体”を得た。この分散体中の粘土鉱物の濃度は10質量%であった。
【0048】
実施例1〜5及び比較例1,2
表1に示した配合の成分を均一に混合することにより、150℃で2時間加熱することで透明な硬化物を与える光半導体パッケージ封止樹脂材料を得た。得られた封止樹脂材料に関し、以下の評価試験(a)〜(i)を行った。得られた結果を表1に示す。
【0049】
((a)樹脂性状評価試験)
封止樹脂材料のチクソ性を評価するために、レオメーター(レトストレスRS−150、HAAKE社)を用いて封止樹脂材料の粘度を測定した(測定環境条件:25℃、パラレルプレート使用、ギャップ0.052mm、周波数0.6〜600s-1)。チクソトロピーインデックス値(TI値)は、10s-1で測定した粘度を、1s-1で測定した粘度で除した値である。
【0050】
((b)硬化特性評価試験)
封止樹脂材料のゲルタイムとタックフリータイムを評価した。ゲルタイムについては、150℃に加熱したホットプレート上に1mm厚のガラス基板を載せ、このガラス基板上に封止樹脂材料を滴下してからゲル化(硬化)が始まるまでの時間(ゲルタイム)を計測した。また、そのまま硬化させ、表面を指で触って材料が指に付着せず、糸を引かなくなる時間(タックフリータイム)を測定した。
【0051】
((c)物性評価試験:ガラス転移温度と線膨張係数)
硬化物のガラス転移温度と線膨張係数とを、熱機械的分析装置(TMA/SS6000、セイコーインスツル社)を用いて測定した。封止樹脂材料の硬化物のバルク体(直径5mm、高さ15mmの円柱体)を作成し、このバルク体を4.9mNで圧縮する方式で測定した。昇温速度は10℃/分とした。
【0052】
((d)物性評価試験:基板の反り)
0.2mm厚のガラスエポキシ基板(60mm角)の周縁部に、1mm厚で5mm幅のシリコーン枠を貼り付け、その枠内に1mmの厚みとなるように封止樹脂材料を滴下し、硬化させた。そして基板の四隅の浮きを測定し、基板の反りを評価した。
【0053】
((e)物性評価試験:耐クラック性)
基板の反り評価のために作成したサンプルを、30℃/60%RH、192時間(JEDEC レベル3)の吸湿環境に放置した後、max260℃のリフロー槽に10秒間通し、更に、−40℃と125℃との間で冷熱サイクル試験槽に投入した(1サイクルは、−40℃で30分、125℃で30分の合計1時間)。リフロー槽通過時、及び冷熱サイクル試験(1000サイクル)後、硬化物のクラック発生の有無を目視観察した。
【0054】
((f)物性評価試験:450nmの光に対する初期光透過率)
封止樹脂材料を、10mm角で1mm厚のプレート状に硬化させ、硬化物の450nmの光に対する初期光透過率を分光光度計(U−3300 Spectro Photometer、日立ハイテクノロジーズ社)を用いて測定した。
【0055】
((g)物性評価試験:へーズ)
初期光透過率評価試験に用いたプレート状の硬化物の濁度を、へーズメータ(Σ80 Color Measuring System、日本電色工業社)を用いて測定した。具体的には、この測定で得られた散乱光透過率の値を、全光線透過率の値で除することにより算出した。
【0056】
((h)物性評価試験:耐熱・耐湿光透過率)
封止樹脂材料を硬化させて得られた直後の硬化物の450nmの光に対する初期光透過率を分光光度計(U−3300 Spectro Photometer、日立ハイテクノロジーズ社)を用いて測定した。その後、リフロー槽に投入し、最大260℃となる温度プロファイルの熱処理を3度(それぞれ10秒)繰り返した。その後、サンプルを130℃に保たれたオーブンまたは85℃/85%RHに保たれたオーブンへ投入した。そして1000時間経過後にサンプルを取り出し、再度光透過率を測定した。
【0057】
((i)物性評価試験:耐熱・耐光透過率)
封止樹脂材料を硬化させて得られた直後の硬化物の450nmの光に対する初期光透過率を分光光度計(U−3300 Spectro Photometer、日立ハイテクノロジーズ社)を用いて測定した。その後、リフロー槽に投入し、最大260℃となる温度プロファイルの熱処理を3度(それぞれ10秒)繰り返した。その後、サンプルを、フェードメーター(スガ試験機社)を用いて、紫外線フェード試験(30W/m、380nmピーク波長光源、60℃)を100時間行い、再度光透過率を測定した。
【0058】
【表1】

【0059】
エポキシ−粘土鉱物分散体を使用しなかった比較例1の場合には、チクソ性を示さなかったが、粘土鉱物を使用した実施例1〜5の場合には、TI値が大きく、良好なチクソ性を示した。このため、これらの封止樹脂材料は、良好な基材定着性を示し、印刷用樹脂として利用できることが確認できた。
【0060】
ゲルタイムとタックフリータイムについては、硬化促進剤の使用量を調整し、この分野のエポキシ樹脂として標準の硬化温度・時間となるようにした。比較例1、2および実施例1〜4の場合、いずれもゲルタイムが2分であり、タックフリータイムが10分であった。実施例5の場合、意図的に硬化促進剤を使用しなかったため、ゲルタイムとタックフリータイムは長くなるものの、粘土鉱物中のアルキルアンモニウムが触媒の役割を果たしているため、完全硬化させることができた。
【0061】
ガラス転移温度は、実施例・比較例ともに大きな差はなく、粘土鉱物添加の影響はないと考えられる。しかし、線膨張係数α1、α2は、実施例1〜5およびシリカ粉末フィラーを添加した比較例2の場合、比較例1の場合に比べて、8ppm以上低下していることから、エポキシ−粘土鉱物分散体は、封止樹脂材料の熱膨張を抑制することに貢献していると考えられる。
【0062】
封止樹脂材料を塗布・硬化させたガラスエポキシ基板の“基板の反り評価”では、実施例1〜5の場合の値が、比較例1の場合より低く、「基板の反り改善」が達成されていた。従って、エポキシ−粘土鉱物分散体は、線膨張係数の低下に寄与しているものと考えられる(なお、ガラスエポキシ基板のガラス転移温度は125℃、α1、α2はそれぞれ60ppm、260ppmである)。
【0063】
初期へーズに関し、実施例1〜5の場合には高い透明性を示していたが、シリカ微粒子を使用した比較例2の場合には、粒子表面での光の散乱があるため、高いへーズ値を示した。
【0064】
硬化物を吸湿リフロー処理した場合、比較例1のサンプルにクラックが生じた(5サンプルすべて)。一方、実施例1〜5のサンプルの場合、クラックの発生はなかった。このことから、エポキシ−粘土鉱物分散体は、線膨張係数を低下させる効果を示すことがわかった。次に、この吸湿リフローで評価したサンプルを用いて、引き続きTCT試験を1000時間実施したところ、7種類すべてのサンプルでクラックは発生しなかった。Tgが温度サイクル範囲を大きく超えていることが、寄与していると考えられる。なお、比較例1の場合のサンプルは、先の試験でクラックが発生して、ここでの評価に使えなかったため、新たに基板の反り評価試験で作製したサンプルを吸湿処理だけ施してTCT試験に供した。
【0065】
初期光透過率の評価より、実施例1〜5の場合、比較例1と同等の光透過率を示しており、エポキシ−粘土鉱物分散体の配合による光透過率の低下が生じていないことがわかる。
【0066】
なお、実施例2、4の場合、エポキシ中のベントナイト・モンモリロナイトが青色波長を吸収し、若干「黄色」に着色していたが、高い透明性を維持していた。但し、実施例2、4の場合、有色であるため、熱や光の影響により、光透過率が低下する傾向があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光半導体チップ封止樹脂材料によれば、硬化性エポキシ組成物から主として構成される光半導体パッケージ封止樹脂材料に、良好な透明性と高チクソ性と良好な耐クラック性とを同時に実現することができる。従って、本発明の光半導体チップ封止樹脂材料は、LED(発光ダイオード素子)、フォトトランジスタ、CCD(電荷結合素子)、EPROM(消去・書込可能ROM)等の光半導体チップを封止する材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】光半導体チップ分野で利用されているパッケージ封止の代表的態様の断面図である。
【図2】光半導体チップ分野で利用されているパッケージ封止の別の態様の断面図である。
【図3】光半導体チップ分野で利用されているパッケージ封止の別の態様の断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 セラミック容器
2 光半導体チップ
3 接着樹脂
4 透明ガラス蓋
5 光半導体パッケージ封止樹脂材料
6 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体チップを半導体パッケージに封止するための光半導体パッケージ封止樹脂材料であって、熱硬化性エポキシ組成物と疎水性スメクタイト粘土鉱物とを含有することを特徴とする光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項2】
疎水性スメクタイト粘土鉱物が、親水性スメクタイト粘土鉱物をアルキルアンモニウムハライドとインターカレーション反応させて疎水化したものである請求項1記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項3】
スメクタイト粘土鉱物が、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュアライト、スチブンサイト、テニオライト、モンモリロナイト、またはノントロナイトである請求項1または2記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項4】
疎水性スメクタイト粘土鉱物の含有量が、1〜10質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項5】
熱硬化性エポキシ組成物が、脂環式エポキシ化合物および/または水添芳香族エポキシ化合物と、酸無水物硬化剤とを含有する請求項1〜4のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項6】
熱硬化性エポキシ組成物の全樹脂分中の脂環式エポキシ化合物および水添芳香族エポキシ化合物の合計含有量が、50〜95質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項7】
酸無水物硬化剤の酸無水物当量に対する、熱硬化性エポキシ組成物に含有されているエポキシ化合物のエポキシ当量の割合が、0.85〜1.15である請求項1〜6のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項8】
熱硬化性エポキシ組成物の全樹脂分中のウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂の合計含有量が、1〜20質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料。
【請求項9】
光半導体チップが、請求項1〜8のいずれかに記載の光半導体パッケージ封止樹脂材料で半導体パッケージに封止されてなる光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−161742(P2009−161742A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312624(P2008−312624)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】