説明

光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物

【課題】光透過の熱安定性と熱衝撃に対する耐クラック性が優れた光半導体素子封止用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、式(1)のエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、数平均分子量が106〜414のポリエチレングリコール(C)、ポリオール(D)、アルコキシル基を有するポリシロキサン化合物(E)を必須成分として含む光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。


[Rは水素原子またはアルキル基;aおよびbは1〜100の整数で、a/bは0.1〜10。mは1〜50の整数。Rはアルキレン基またはオキシアルキレン基。Rはアルキル基。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物を硬化させ、光半導体素子を封止してなる光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光半導体装置は発光ダイオードまたはフォトダイオード等の光半導体素子が、エポキシ樹脂組成物によって樹脂封止されている。
封止用樹脂組成物としては、光半導体装置自体の小型化や大型化、形状の多種多様化に伴い、その形状によらず安定的に樹脂硬化物の物性を発現できる等の硬化安定性が求められている。近年のLEDの高出力化と光半導体素子自体の大型化に伴い、光半導体素子から発する熱量が増大しているため、より高い温度での光透過の熱安定性と、光半導体素子との高い密着性が要求される。
また、光半導体装置の使用温度の変化に伴う熱衝撃により、封止用樹脂にクラックが発生しない等、信頼性の高い封止用樹脂が切望されている。
【0003】
一般的な封止用樹脂組成物としては、脂環式エポキシ樹脂をマトリックス成分とし、酸無水物を硬化剤としたものが知られている(例えば特許文献1)。
しかし、光半導体装置の小型化や薄化などにより、硬化剤である酸無水物の揮発が無視出来なくなり、光半導体装置の形状によっては、樹脂硬化物の物性が安定的に発現できないという問題があった。
【0004】
酸無水物を有さないエポキシ樹脂の硬化システムとして、エポキシ樹脂のカチオン硬化が知られている(例えば特許文献2)。
エポキシ樹脂のカチオン硬化には、その低いカチオン硬化性のために、実用的には強酸であるアンチモン系の熱酸発生剤を使用されており、硬化物の光透過の熱安定性は低い。また、比較的にカチオン重合性の高い脂環式エポキシ樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合には、その硬化物は脆く、耐クラック性が低いという問題があった。
【0005】
一方で、硬化物の光透過の熱安定性が高いシロキサン骨格を有したエポキシ樹脂をマトリックした封止用樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献3)。
しかし、その硬化物は光半導体素子等との密着性が低く、樹脂と光半導体等との間に剥離が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−40972号公報
【特許文献2】特開2007−169337号公報
【特許文献3】特開2007−9086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、光透過の熱安定性、熱衝撃に対する耐クラック性および密着性がいずれも優れた光半導体素子封止用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で示される化学構造を有するエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、数平均分子量が106〜414のポリエチレングリコール(C)、ポリオール(D)、および1個以上のアルコキシル基を有するポリシロキサン化合物(E)を必須成分として含むことを特徴とする光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物である。
【0009】
【化1】

【0010】
[一般式(1)中、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基;aおよびbはそれぞれ独立に1〜100の整数であって、a/bは0.1〜10である。mは1〜50の整数である。〔 〕内の結合形式はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用のいずれでもよい。Rはアルキレン基またはオキシアルキレン基である。Rはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基である。]
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化物が優れた高い光透過の熱安定性、密着性、および熱衝撃に対する耐クラック性を発揮するという効果を奏する。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は基板やフィルム等の被着体上で硬化させたときに、その硬化物による反りが小さいため、紫外線発光素子のような光半導体の封止および電子材料のコーティングや、接着剤、封止材等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)以外に、特定の化学構造を有するエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、特定の数平均分子量を有するポリエチレングリコール(C)、ポリオール(D)、および1個以上のアルコキシル基を有するポリシロキサン化合物(E)を必須成分として含むことを特徴とする樹脂組成物である。
【0013】
本発明の必須成分のエポキシ樹脂(A)は、芳香族エポキシ樹脂(A1)、複素環式エポキシ樹脂、(A2)脂肪族エポキシ樹脂(A3)、脂環式エポキシ樹脂(A4)などが挙げられる。
【0014】
芳香族エポキシ樹脂(A1)としては、多価フェノールのグリシジルエーテル体(A11)、グリシジル芳香族ポリアミン(A12)、その他の芳香族エポキシ樹脂(A13)等が挙げられる。
【0015】
多価フェノールのグリシジルエーテル体(A11)としては、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールBジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ハロゲン化ビスフェノールAジグリシジル、テトラクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、カテキンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、1,5−ジヒドロキシナフタリンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、オクタクロロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂もしくはクレゾールノボラック樹脂のグリシジルエーテル体、ビスフェノールA2モルとエピクロロヒドリン3モルの反応から得られるジグリシジルエーテル体、フェノールとグリオキザール、グルタールアルデヒドもしくはホルムアルデヒドとの縮合反応によって得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル体、レゾルシンとアセトンの縮合反応によって得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル体等が挙げられる。
【0016】
グリシジル芳香族ポリアミン(A12)としては、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N,N',N'−テトラグリシジルジフェニルメタンジアミン等が挙げられる。
【0017】
その他の芳香族エポキシ樹脂(A13)としては、トリレンジイソシアネートもしくはジフェニルメタンジイソシアネートとグリシドールの付加反応によって得られるジグリシジルウレタン化合物、グリシジル基含有ポリウレタン(プレ)ポリマー、およびビスフェノールAのアルキレンオキシド(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシド)付加物のジグリシジルエーテル体等が挙げられる。
【0018】
複素環式エポキシ樹脂(A2)としては、トリスグリシジルメラミンが挙げられる。
【0019】
脂肪族エポキシ樹脂(A3)としては、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル体(A31)、脂肪酸多価カルボン酸のポリグリシジルエステル体(A32)、グリシジル脂肪族アミン(A33)等が挙げられる。
【0020】
脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル体(A31)としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
脂肪酸多価カルボン酸のポリグリシジルエステル体(A32)としては、ジグリシジルアジペートが挙げられる。
【0021】
グリシジル脂肪族アミン(A33)としては、N,N,N',N'−テトラグリシジルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
また、本発明において脂肪族エポキシ樹脂としては、グリシジル(メタ)アクリレートの(共)重合体も含む。
【0022】
脂環式エポキシ樹脂(A4)としては、分子中に脂環基を含有するエポキシ樹脂が挙げられる。
例えばビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエール、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3'、4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
また、脂環式エポキシ樹脂としては、芳香族エポキシ樹脂の核水添化物も含まれ、例えば多価フェノールの核水添化物のグリシジルエーテル体(水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル体など)等が挙げられる。
【0023】
脂環式エポキシ樹脂(A4)のうち、好ましいのは、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3'、4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、および多価フェノールの核水添化物のグリシジルエーテル体である。
なお、核水添化物は、水添率が90%以上であることが好ましい。
【0024】
これらのエポキシ樹脂(A)のうち、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性の観点から、好ましいのは脂環式エポキシ樹脂(A4)である。
【0025】
本発明におけるエポキシ樹脂(A)は、分子中に2個以上のエポキシ基を有していれば、いずれも用いることができるが、好ましいのは、分子中に2〜5個有するものである。
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、通常80〜5,000g/eqであり、好ましいのは100〜2000g/eqである。エポキシ樹脂(A)は単独で、もしくは2種類以上を併用して使用してもよい。
【0026】
本発明における第2の必須成分のエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)は、一般式(1)で示される。
【0027】
【化2】

【0028】
[一般式(1)中、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基;aおよびbはそれぞれ独立に1〜100の整数であって、a/bは0.1〜10である。mは1〜50の整数である。〔 〕内の結合形式はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用のいずれでもよい。Rはアルキレン基またはオキシアルキレン基である。Rはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基である。]
【0029】
一般式(1)におけるRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基である。
炭素数が1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、3−メチルブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
【0030】
これらのうち、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性の観点から、直鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3の直鎖のアルキルがさらに好ましい。複数のRは、すべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
一般式(1)におけるRは、アルキレン基またはオキシアルキレン基である。
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、ブチレン基およびヘキシレン基等が挙げられる。
オキシアルキレン基としては、アルキレン基の炭素数1〜10の基、例えばオキシメチレン基、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基等が挙げられる。
【0032】
のうち、熱衝撃に対する耐クラック性の観点から好ましいのは、炭素数が1〜7のアルキレン基およびオキシアルキレン基であり、さらに好ましいのは炭素数が2〜5のアルキレン基およびオキシアルキレン基である。
【0033】
一般式(1)におけるRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基である。
炭素数が1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、3−メチルブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性の観点から、直鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3の直鎖のアルキルがさらに好ましい。
複数のRは、すべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
一般式(1)におけるaおよびbはそれぞれ独立に1〜100の整数であって、その比a/bは0.1〜10である。
aが1〜100であるということは、エポキシ基含有基を少なくとも分子の側鎖に1〜100個有することを示している。
aが0である場合、すなわちエポキシ基を有しない場合は、それを使用したエポキシ樹脂組成物は、熱衝撃に対する耐クラック性の点で劣り、かつ密着性が低くなるため好ましくない。
aおよびbは、熱衝撃に対する耐クラック性、耐湿性と、エポキシ樹脂(A)またはポリオール(D)との相溶性の観点から、好ましくはそれぞれ独立に1〜50の整数であり、さらに好ましくは、aは2〜10、bは2〜20である。また、aおよびbがこの範囲にあると、(B)の粘度が高すぎず、取り扱いやすい。
【0036】
さらに、a/bは通常0.1/10であり、0.1〜4であり、より好ましくは0.2〜2、さらに好ましくは0.3〜1である。この範囲であると、熱衝撃に対する耐クラック性が高い。
【0037】
一般式(1)における〔 〕内の結合様式はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用を表す。弾性率の観点から、好ましいのはランダム結合である。
【0038】
一般式(1)におけるmは1〜50の整数である。好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10である。この範囲であると、(B)の粘度が高すぎず、取り扱いやすい。
【0039】
本発明におけるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)は公知の方法で製造でき、特に限定されない。例えば、オレフィン基含有シロキサンを過酸化物で酸化反応させる方法、予め臭化マグネシウム等でグリニャード化したシロキサンをエピクロルヒドリンと共にアルカリ処理する方法、クロロシラン又はアセトキシシラン化合物をグリシドールと反応させてグリシジルシリコーンエーテルを生成する方法(例えば、米国特許2,730,532パンフレット)、エチレン性不飽和基含有エポキシドとオルガノ水素ポリシロキサンを反応させる方法(例えば、特開平7−133351号公報)等が挙げられる。
【0040】
本発明におけるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)の数平均分子量は、通常1,000〜20,000、好ましくは2,000〜10,000である。1,000未満では、熱衝撃に対する耐クラック性、耐湿性が乏しくなり、20,000を超えるとエポキシ樹脂(A)またはポリオール(D)との相溶性が悪くなる。本発明における数平均分子量は、ポリスチレンを標準としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物における(B)の含有量は、好ましくはエポキシ樹脂(A)に対して0.5〜30重量%であり、さらに好ましくは1〜15重量%である。
(B)の添加量を0.5重量部以上とすることでエポキシ樹脂硬化物を強靱化でき、30重量部以下であると、エポキシ樹脂硬化物の透明性を高くすることができる。
【0042】
本発明の第3の必須成分であるポリエチレングリコール(C)は、数平均分子量が106〜414であって、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール;オキシエチレン基の平均の重合度が4〜9のポリオキシエチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
これらのポリエチレングリコール(C)のうち、好ましいのはオキシエチレン基の平均の重合度が4〜9のポリオキシエチレングリコールである。平均重合度が4〜9であれば、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性に優れる。
【0044】
本発明における第4の必須成分である数平均分子量が500以上のポリオール(D)は、ポリエステルポリオール(D1)、ポリエーテルポリオール(D2)、ポリカーボネートポリオール(D3)等が挙げられる。
【0045】
ポリエステルポリオール(D1)としては、ポリオール成分とカルボン酸成分から構成され、脱水エステル化反応、エステル交換反応、ラクトンの開環重合、またはその組み合わせによって合成したものが挙げられる。
【0046】
ポリエーテルポリオール(D2)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフランなどの環状エーテルの開環重合によって合成したリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0047】
ポリカーボネートポリオール(D3)としては、ホスゲン法、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートのようなジアルキルカーボネートを用いるカーボネート交換反応によって合成したもの等が挙げられる。
この具体例としては、1,4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールとジアルキルカーボネートとの反応によって得られる化合物等が挙げられる。
【0048】
これらのポリオール(D)のうち、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性の観点から、好ましいのはポリカーボネートポリオール(D3)である。
【0049】
ポリオール(D)の数平均分子量は500以上であり、好ましくは500〜3,000である。特に、ポリカーボネートポリオール(D3)の場合は、数平均分子量は、500〜3,000が好ましく、より好ましくは700〜1,500である。
数平均分子量が500未満である場合には、エポキシ硬化物の熱衝撃に対する耐クラック性、耐湿性が乏しくなり、分子量が3,000を超える場合には、エポキシ樹脂硬化物の光透過の熱安定性が低下する。
本発明における数平均分子量は、ポリスチレンを標準としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。
【0050】
本発明におけるポリオール(D)は、分子中に2個以上の水酸基を有していれば、いずれも用いることができるが、好ましいのは、分子中に2〜3個有するものである。
ポリオール(D)は単独で、もしくは2種類以上を併用して使用してもよい。
【0051】
本発明における第5の必須成分であるポリシロキサン化合物(E)は一般式(2)で示される。
【0052】
【化3】

【0053】
一般式(2)におけるR、R、R、およびRはそれぞれ独立にアルコキシル基、アルキル基、またはフェニル基である。
アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、等が挙げられる。
【0054】
これらのうち、エポキシ樹脂の硬化性の観点から、アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、アルキル基としては、メチル基、エチルが好ましい。
【0055】
さらに、ポリシロキサン化合物(E)を表す一般式(2)中のRはアルキル基が好ましく、R、R、Rの少なくとも1個がフェニル基であり、他はアルキル基またはアルコキシル基であることが好ましい。すなわち、R、R、Rのうちの1個がフェニル基で残り2個がアルキル基もしくはアルコキシル基;R、R、Rのうちの2個がフェニル基で残り1個がアルキル基もしくはアルコキシル基;R、R、Rがすべてフェニル基の場合が挙げられる。
【0056】
一般式(2)におけるnは1〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数である。nが6以上では、エポキシ樹脂硬化物に凹凸などが発生し、硬化物表面の平滑性が悪くなる。
【0057】
本発明の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂(A)、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、ポリエチレングリコール(C)、ポリオール(D)、およびポリシロキサン化合物(E)の必須成分以外に、有機アルミニウム化合物(F)を含有させることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化速度を促進することができる。
【0058】
そのような目的で含有させる有機アルミニウム化合物(F)としては、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド等のアルコキシド類、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム等のハロゲン化物類、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(プロピルアセテート)アルミニウム、トリス(ブチルアセトアセテート)アルミニウム、プロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(プロピオニルアセトナト)アルミニウム、トリス(アセトアセトナト)アルミニウム等のキレート化合物、アルミナ等が挙げられる。
【0059】
これらのうち、エポキシ樹脂の硬化性の観点から、有機アルミニウム化合物(F)として好ましいのは、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(プロピルアセテート)アルミニウム、トリス(ブチルアセトアセテート)アルミニウム、プロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(プロピオニルアセトナト)アルミニウム、トリス(アセトアセトナト)アルミニウム等のキレート化合物である。
【0060】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、充填剤、光拡散剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、粘度調整剤、可塑剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、着色防止剤、酸化防止剤、安定剤、カップリング剤、酸発生剤等を配合してもよい。
【0061】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化方法は、熱、紫外線および電子線などから選ばれる1種以上を用いる硬化方法である。
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、電気特性およびその他の物理的特性にも優れているので光半導体素子封止用に好適である。
【0062】
本発明の光半導体装置は、上記のエポキシ樹脂組成物および光半導体素子を含む構成材料からなる光半導体装置である。
光半導体素子としては、GaAlN、ZnS、ZnSe、SiC、GaP、GaAlAs、AlInGaP、InGaN、GaN、AlInGaN系光半導体素子などが挙げられる。
封止剤として使用されるエポキシ樹脂組成物の硬化に際しては、本発明のエポキシ樹脂組成物を、目的とする形状の硬化物が得られるように、通常は、型枠もしくは金型などに封入するか、基材に塗布、またはエポキシ樹脂組成物中に被塗物をポッティングなどする。
【0063】
熱硬化の場合は、硬化温度は特に限定されず、0℃〜250℃の範囲で行うことができる。硬化後の光透過性および熱衝撃に対する耐クラック性の観点から、30℃〜200℃の範囲が好ましい。
硬化させる場合は、1段階昇温で行っても、2段階以上で行ってもよい。なかでも硬化収縮の抑制および耐湿性向上の観点から、2〜3段階で行うことが好ましい。
【0064】
紫外線または電子線硬化の場合は、本発明のエポキシ樹脂組成物に光カチオン系硬化剤を含有させた組成物を紫外線照射により硬化させる。
光カチオン系硬化剤としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム塩および芳香族セレニウム塩などが用いられる。(例えば6フッ化アンチモン酸ベンジルメチル−P−ヒドロキシフェニルスルホニウム等)。光カチオン系硬化剤の含有量はエポキシ樹脂(A)の重量に基づいて0.01〜5重量%である。
【0065】
上記のようにして得られた光半導体装置は、熱履歴後の光透過性および熱衝撃に対する耐クラック性を兼ね備えている。
【0066】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、上記のように光透過の熱安定性および熱衝撃に対する耐クラック性を兼ね備え、その他の電気特性にも優れているため、光半導体素子封止用以外の他の電気・電子部品材料(例えば、コーティング材料、ダイボンディング材料、絶縁材料等)にも使用できる。さらには各種のエポキシ系接着剤にも使用できる。
【0067】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
以下、実施例と比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0069】
製造例1<エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)の合成>
温度計、冷却管、滴下ロートを備えた1リットルの撹拌機付き反応器中に窒素を導入し、反応器中の空気を窒素で置換した後、ヘキサメチルシクロトリシロキサン150.8g(678mmol)、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン79.4g(331mmol)、末端停止剤としてヘキサメチルジシロキサン7.0g(48mmol)を仕込み、十分に撹拌した後、CF3SO3H0.024g(0.16mmol)を滴下した。
CF3SO3Hを滴下した後、80℃まで加熱し、8時間熟成させた。熟成後、水洗によって触媒を除去し、次いで硫酸ナトリウムで脱水し、下記一般式(3)で示されるメチル水素ポリシロキサン320gを得た。
【0070】
【化4】

【0071】
温度計、滴下ロートを備えた1リットルの撹拌機付き反応器中に、アリルグリシジルエーテル130g(1138mmol)、トルエン60g、エタノール3g、塩化白金酸の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体を0.05g投入し、60〜70℃に加熱した後、上記で得られたメチル水素ポリシロキサン220gを滴下して付加反応を行った。
80℃で減圧下で溶剤を留去したところ、透明なエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)が得られた。
得られた(B−1)のGPCによる数平均分子量は4,100であり、エポキシ当量は250g/eqであった。
【0072】
表1に記載した配合割合で配合した実施例1〜3の本発明のエポキシ樹脂組成物、および比較例1〜5の比較のためのエポキシ樹脂組成物を、下記の条件で硬化させて得られた硬化物の光透過の熱安定性、密着性、耐クラック性を前述した方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
なお、表1中の配合成分の記号は、以下の化合物を表す。
<エポキシ樹脂(A)>
HBE−100(A−1):新日本理化(株)製の水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル体:エポキシ当量213g/eq
エピコートYX8040(A−2):ジャパンエポキシレジン(株)製の水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル体:エポキシ当量1040g/eq
セロキサイド2021P(A−3):ダイセル化学工業(株)製の3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3'、4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート:エポキシ当量 130g/eq
EHPE−3150(A−4):ダイセル化学工業(株)製の2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシー4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物:エポキシ当量170g/eq
【0075】
<エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)>
X22−163B(B´−1):信越化学(株)製の変性したオルガノポリシロキサン:エポキシ当量500g/eq。[側鎖ではなく両末端がエポキシ変性されている点で比較例2で本発明のエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)の代わりに使用した。また、比較例5では主成分のエポキシ樹脂(A−1)の代わりに使用した。]
X22−169AS(B´−2):信越化学(株)製の両末端を脂環式エポキシ変性したオルガノポリシロキサン:エポキシ当量500g/eq。[エポキシ基がグリシジルエーテルではなくシクロヘキセンオキシド変性されている点で、比較例5で本発明のエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)の代わりに使用した。]
【0076】
<ポリエチレングリコール(C)>
PEG200(C−1):三洋化成工業(株)製の数平均分子量200のポリエチレングリコール
PEG400(C−2):三洋化成工業(株)製の数平均分子量399のポリエチレングリコール
PEG600(C´−1):三洋化成工業(株)製の数平均分子量603のポリエチレングリコール
【0077】
<ポリオール(D)>
T−5651(D−1):旭化成ケミカルズ(株)製の数平均分子量1010のポリカーボネートジオール
【0078】
<ポリシロキサン化合物(E)>
ジメトキシジフェニルシラン(E−1):東京化成(株)製
SH−6018(E´−1):東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の両末端をシラノール変性したポリシロキサン化合物。[アルコキシル基を有さない点で、比較例4および5で本発明のポリシロキサン化合物(E−1)の代わりに使用した。]
【0079】
エポキシ樹脂組成物を加熱硬化させて硬化物を作製し、それら硬化物の光透過の熱安定性、基材との密着性および熱衝撃に対する耐クラック性を評価した。
その結果を表1に示す。
【0080】
<光透過の熱安定性>
ガラス板(大きさ:40mm×20mm)上に200μmのスペーサー用いて、樹脂厚みが200μmとなるように塗布し、これをまず100℃×3時間加熱し、さらに150℃×5時間かけて加熱して硬化させ、脱型して試験片を作製した。
この試験片を用い、150℃の乾燥機に72時間投入して熱処理後の試験片を波長400nmでの透過率を測定した。透過率の測定には、分光光度計(UV−2400PC、島津製作所製)を用いた。
【0081】
<密着性>
ガラス板(大きさ:40mm×20mm)上にエポキシ樹脂を塗布し、その塗布面に接着面積が2mm×2mmになるように正方形のシリコンチップ(2mm×2mm×0.3mm)をのせて、100℃×3時間、さらに150℃×5時間かけてエポキシ樹脂を硬化させ、シリコンチップをボンディングした。
その後、ダイシェア試験器(アークテック社製、型番:DAGE 4000)を用いて、1mm/秒の速度でシリコンチップ横からエポキシ樹脂が材料破壊、または界面剥離するまで荷重を掛け続け、最大荷重をシェア強度として下記評価基準で密着性を評価した。
○:シェア強度が30N/mm以上
△:シェア強度が5〜30N/mm
×:シェア強度が5N/mm未満
【0082】
<耐クラック性>
直径30±0.5mm×高さ10mmの円筒形シリコーン製容器に、内径3mm、外径10mm、厚さ1mmの真鍮製のワッシャーを1個入れ、エポキシ樹脂組成物を深さ3mmになるように流し入れ、100℃×3時間加熱した後、さらに150℃×5時間加熱して硬化させた。その後、硬化物を脱型した。これを30個作成した。
気相式熱衝撃試験機WINTECH(エタック社製)で−50℃×15分、120℃×15分を1000サイクル繰り返し、30サンプル中、クラックが発生したサンプルの発生率(%)を求めて下記評価基準で耐クラックを評価した。
○:クラックが発生したサンプルの発生率が10%未満
△:クラックが発生したサンプルの発生率が10〜50%
×:クラックが発生したサンプルの発生率が50%以上
【0083】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、いずれも熱処理後の光透過率が高く、密着性、耐クラック性に優れている。
一方、本発明のエポキシ変性オルガノシロキサン(B)を含有しない比較例1、2および4は、発生する内部応力を緩和できないため耐クラック性が低い。
また、本発明のエポキシ変性オルガノシロキサン(B)の代わりに、両末端にのみエポキシ基を有するエポキシ変性オルガノシロキサン(B´−1)を用いた比較例2は、密着性と耐クラック性が不十分である。
ポリエチレングリコールの数平均分子量が本発明の範囲外である(C´−1)を用いた比較例3では、密着性、耐クラック性には優れるものの、光透過の熱安定性が低下する。
通常のエポキシ樹脂の代わりにエポキシ変性オルガノポリシロキサン自体を主成分のエポキシ樹脂として使用した比較例5では、密着性が極めて低い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のエポキシ樹脂組成物からの硬化物は、光透過の熱安定性、密着性および熱衝撃に対する耐クラック性を兼ね備えているため、塗料、接着剤、半導体用封止材、電気・電子用部品の材料等様々な分野に好適である。特に光半導体素子封止用樹脂として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で示される化学構造を有するエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、数平均分子量が106〜414のポリエチレングリコール(C)、数平均分子量が500以上のポリオール(D)、および1個以上のアルコキシル基を有するポリシロキサン化合物(E)を必須成分として含むことを特徴とする光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

[一般式(1)中、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基;aおよびbはそれぞれ独立に1〜100の整数であって、a/bは0.1〜10である。mは1〜50の整数である。〔 〕内の結合形式はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用のいずれでもよい。Rはアルキレン基またはオキシアルキレン基である。Rはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基である。]
【請求項2】
該エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)の数平均分子量が1,000〜20,000である請求項1記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
該エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)のa/bが0.1〜4である請求項1または2記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
該エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)の含有量がエポキシ樹脂(A)に対して0.5〜30重量%である請求項1〜3のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
該エポキシ樹脂(A)が脂環式エポキシ樹脂である請求項1〜4のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
該ポリシロキサン化合物(E)が一般式(2)で示される1個以上のアルコキシル基および1個以上のフェニル基を有するシロキサン化合物である請求項1〜5のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【化2】

[一般式(2)中、nは1〜20の整数;R、R、RおよびRはそれぞれ独立にアルコキシル基、アルキル基、またはフェニル基である。]
【請求項7】
該ポリシロキサン化合物(E)を表す一般式(2)中のRはアルキル基;R、R、Rの少なくとも1個がフェニル基であり、他はアルキル基またはアルコキシル基である請求項1〜6のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、有機アルミニウム化合物(F)を含有する請求項1〜7のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物を硬化させて光半導体素子を封止してなる光半導体装置。

【公開番号】特開2011−94020(P2011−94020A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248958(P2009−248958)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】