説明

光増感剤および当該光増感剤を含有する光重合開始剤

【課題】可視光線、特に410〜500nmの波長範囲の可視光線により光硬化することが出来、かつ、光硬化物からの金属イオンの滲み出しの問題がなく、しかも、リン化合物を含有しない光増感剤の提供。
【解決手段】例えば9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンや9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセンのような9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体を有効成分とする光増感剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増感剤および当該光増感剤を含有する光重合開始剤に関する。詳しくは、本発明は、特定の波長範囲の可視光線を照射することによりカチオン重合性単量体を硬化させることの出来る光増感剤および当該光増感剤を含有する光重合開始剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂は、活性エネルギー線により硬化することから、インキ、塗料、封止剤、各種レジスト材料などに広く使用されている。従来は紫外線による光硬化方法が使用されてきたが、紫外線の人体への有害性などにより、近年は可視光線を使用する光硬化方法が提案されている。しかしながら、可視光線は紫外線に比較して硬化エネルギーが低く、光硬化させるのに時間が掛かってしまうこと等の欠点である。
【0003】
そこで、可視光線による光硬化方法において、光硬化速度の向上を目的として光増感剤を使用する方法がある。光増感剤としては、例えば、ベンゾフラビン、アントラセン、ピレン、チオキサントン、ベンゾフェノン、アントラキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
【0004】
また、電子材料分野においては、密着性や可とう性に優れた光カチオン硬化が注目され、青色LEDや白色LEDのような400nm以上の波長の可視光線に感応する光重合開始剤が求められるようになってきている。このような光重合開始剤としては、カンファーキノンとヨードニウム塩の組み合わせ、ビスアシルホスフィンオキサイドとヨードニウム塩の組み合わせ、チタノセン化合物とヨードニウム塩の組み合わせ等が報告されている(特許文献1、2、3)。
【0005】
しかしながら、カンファーキノンとヨードニウム塩の組み合わせにおいては、ヒドロキシル化合物が必須成分であるが、ヒドロキシル化合物が親水性であることから、光硬化物の耐湿性の低下や硬さ等の機械物性を低下させる欠点がある。また、ビスアシルホスフィンオキサイドとヨードニウム塩の組み合わせにおいては、ビスアシルホスフィンオキサイドがリン化合物であるため、環境上の問題があり、その使用が忌避される傾向にある。また、チタノセン化合物とヨードニウム塩の組み合わせにおいては、チタノセン化合物が金属塩であるため、光硬化物からの金属イオンの滲み出し(マイグレーション)を嫌う電子材料分野では望ましくない。
【0006】
一方、光重合開始剤として、9,10−ジアルコキシアントラセンとオニウム塩との組み合わせが以前より知られている。これは、光硬化物の耐湿性の低下や環境上の問題、光硬化物からの滲み出し等がない光重合開始剤であるが、9,10−ジアルコキシアントラセン化合物の光吸収波長は406nm以下であり、それよりも長波長の可視光線には全く増感効果を示さないという欠点がある。
【0007】
また、アントラセン骨格にカルボキシル基を導入することにより、UV吸収が長波長シフトすることが知られており、9,10−ジエトキシアントラセン−2−カルボン酸の可視光増感剤としての例が報告されている(特許文献4)。しかしながら、この化合物を合成するためには9,10−アントラキノン−2−カルボン酸の還元およびエチル化が必要であるが、原料である9,10−アントラキノン−2−カルボン酸の工業的入手は容易ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
(光増感剤)
本発明の光増感剤は、下記一般式(1)で示される9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体を有効成分とする。
【0021】
【化2】

【0022】
(一般式(1)において、R、R、R、R、R、及びRは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基の群から選択される何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、カルボキシル基の群から選択される何れかを示す。)
【0023】
、R、R、R、R、及びRのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、n−アミル基,i−アミル基、n−ヘキシル基,n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、p−クロロフェニル基、p−メチルフェニル基、p−メトキシフェニル基、m−クロロフェニル基、m−メチルフェニル基、m−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、p−メチルベンジル基、p−クロロベンジル基、p−メトキシベンジル基、1−ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基などが挙げられる。
【0024】
X及びYのハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基としては、前記のR、R、R、R、R、及びRと同様の置換基が挙げられる。アミノ基としては、アミノ基、メチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基などが挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基,n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基などが挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基などが挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)で示される化合物の具体例としては次のものが挙げられる。すなわち、9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス[トリ(i−プロピル)シリルオキシ]アントラセン、9,10−ビス(トリブチルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(トリフェニルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス[トリ(p−メチルフェニル)シリルオキシ]アントラセン、9,10−ビス[トリ(p−クロロフェニル)シリルオキシ]アントラセン、9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(ジメチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(ジエチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(メチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(エチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス[トリ(i−プロピルシリル)オキシ]アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(トリブチルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(トリフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス[トリ(p−メチルフェニル)シリルオキシ]アントラセン、2−エチル−9,10−ビス[トリ(p−クロロフェニル)シリルオキシ]アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(ジメチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(ジエチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(メチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(エチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス「トリ(i−プロピル)シリルオキシ」アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(トリブチルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(トリフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス[トリ(p−メチルフェニル)シリルオキシ]アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス[トリ(p−クロロフェニル)シリルオキシ]アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(ジメチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(ジエチルフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(メチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ビス(エチルジフェニルシリルオキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0026】
(光重合開始剤)
本発明の光重合開始剤は、オニウム塩と上記の光増感剤とを有効成分として含有し、オニウム塩としては、通常、スルホニウム塩またはヨードニウム塩が使用される。
【0027】
スルホニウム塩としては、S,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4,4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられ、例えば、ダウ・ケミカル製の商品「UVI6992」等を使用することが出来る。
【0028】
一方、ヨードニウム塩としては、4−イソブチルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−イソプロピルフェニルー4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート等が挙げられ、例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品「irgacure250」、ローディア社製の商品「ロードシル2074」等を使用することが出来る。
【0029】
本発明の光重合開始剤中の光増感剤の配合割合は、光増感剤とオニウム塩との合計100重量部に対し、通常10〜50重量部、好ましくは20〜40重量部である。光重合開始剤中の光増感剤の割合が10重量部未満の場合は光重合が十分に進行しないことがあり、50重量部を超える場合は硬化物の硬度や耐候性が低下することがある。
【0030】
(光硬化性組成物)
本発明の光硬化性組成物は、カチオン重合性単量体と上記の光重合開始剤とを含有し、カチオン重合性単量体としては、エポキシ化合物、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ化合物;東芝GEシリコーン製の商品「UVー9300」等のエポキシ変性シリコーン;ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン等のグリシジルエーテル等が挙げられ、ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。その他の脂環式エポキシ化合物としては、例えばダウ・ケミカル製の商品「UVR6105、UVR6110」を使用することが出来る。これらは二種以上を併用してもよい。
【0032】
光硬化性組成物中の光重合開始剤の配合割合は、光重合開始剤とカチオン重合性単量体との合計100重量部に対し、通常0.01〜95重量部、好ましくは0.05〜2重量部である。光重合開始剤の割合が0.01重量部未満の場合は光硬化が十分に進行ないことがあり、5重量部を超える場合は、硬化物の硬度が低下したり、光重合開始剤が硬化物から滲み出すことがある。
【0033】
(硬化物の製造方法)
本発明に係る硬化物の製造方法は、上記の光重合性組成物に410〜500nmの波長範囲の可視光線を照射して硬化させることを特徴とする。本発明においては、フィルム状やシート状に成形して硬化させたり、塊状で硬化させることも出来る。
【0034】
例えば、フィルム状に硬化させる場合は、ポリエステルの基材上にバーコーターを使用して光硬化性組成物を塗布した後、可視光線を照射して光硬化させる。可視光線の光源としては、410〜500nmの波長範囲の可視光線を照射できるものであればよく、例えば、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線LED、青色LED,白色LED、有機ELの他、フュージョン社製のDランプ、Vランプ等を使用することが出来る。また、太陽光を使用することも出来る。特に、410〜500nmの波長範囲の可視光線を高い出力で照射できるキセノンランプ又は白色LEDが好ましい。
【0035】
光硬化の確認方法は、一般的に光硬化物の表面を人差し指などによりべたつきの有無を判定する方法が使用される。具体的には、光照射してから光重合性組成物を塗布したフィルム表面の光硬化性組成物のタック(べたつき)が取れるまでの時間を硬化時間(タックフリータイム)として測定する。
【0036】
(前記の式(1)で示されるアントラセン誘導体の製造方法)
次に、本発明における光増感剤の成分である9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体の製造方法について説明する。
【0037】
従来、9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体の製造法としては、9,10−アントラキノンを還元した後、単離することなくシリル化することにより、相当する9,10−ビスシリルオキシアントラセン化合物を得る方法が報告されている[テトラヘドロンレター、24巻、No47,p5215−5218(1983)、C.R.Acad.Sc.Paris,t.270(29 juin 1970)]
【0038】
しかしながら、上記の方法においては、アントラキノンをテトラヒドロフラン中でマグネシウムで還元するため、反応系は水分や酸素に敏感であり、工業的に満足できるものではなかった。
【0039】
そこで、本発明においては、9,10−アントラヒドロキノン誘導体をシリルエーテル化する。すなわち、原料に9,10−アントラヒドロキノン誘導体を使用することにより、簡便かつ高収率で前記の式(1)で示される9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体を製造することが出来る。原料の9,10−アントラヒドロキノン誘導体は、溶媒中、還元剤または貴金属触媒の存在下で9,10−アントラキノン誘導体を還元することにより得ることが出来る。以下、これらの反応毎に説明する。
【0040】
(第一反応)
この反応においては、溶媒中、還元剤または貴金属触媒の存在下で9,10−アントラキノン誘導体を還元して9,10−アントラヒドロキノン誘導体を得る。
【0041】
9,10−アントラキノン誘導体としては次のものが挙げられる。すなわち、9,10−アントラキノン、2−メチル−9,10−アントラキノン、1−メチル−9,10−アントラキノン、2−エチル−9,10−アントラキノン、1−エチル−9,10−アントラキノン、2−t−ブチル−9,10−アントラキノン、1−t−ブチル−9,10−アントラキノン、2−i−アミル−9,10−アントラキノン、1−i−アミル−9,10−アントラキノン、2−(2−メチルペンチル)−9,10−アントラキノン、1−(2−メチルペンチル)−9,10−アントラキノン、2−クロロ−9,10−アントラキノン、1−クロロ−9,10−アントラキノン、2−ブロモ−9,10−アントラキノン、1−ブロモ−9,10−アントラキノン、2−フルオロ−9,10−アントラキノン、1−フルオロ−9,10−アントラキノン、2−フェニル−9,10−アントラキノン、1−フェニル−9,10−アントラキノン、2−メトキシ−9,10−アントラキノン、1−メトキシ−9,10−アントラキノン、2−エトキシ−9,10−アントラキノン、1−エトキシ−9,10−アントラキノン、2−フェノキシ−9,10−アントラキノン、1−フェノキシ−9,10−アントラキノン、2−メチルチオ−9,10−アントラキノン、1−メチルチオ−9,10−アントラキノン、2−エチルチオ−9,10−アントラキノン、1−エチルチオ−9,10−アントラキノン、2−フェニルチオ−9,10−アントラキノン、1−フェニルチオ−9,10−アントラキノン、2−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン、1−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン、2−アミノ−9,10−アントラキノン、1−アミノ−9,10−アントラキノン、9,10−アントラキノン−2−カルボン酸、9,10−アントラキノン−1−カルボン酸、9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、9,10−アントラキノン−1−スルホン酸などが挙げられる。
【0042】
還元剤としては、特にケトン基を還元するものであればよく、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、亜ジチオン酸ナトリウム、過酸化チオ尿素などが使用される。還元剤の使用量は、9,10−アントラキノン誘導体1モルに対し、通常2〜4モル倍である。還元剤の使用量が2モル倍より少ない場合は未反応の9,10−アントラキノン誘導体が増加し、4モル倍よりも多い場合は製造費用が増加する。
【0043】
上記の他、還元剤として1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのアルカリ性化合物(SAQ)の溶液を使用することも出来る。すなわち、9,10−アントラキノン誘導体をSAQの溶液で還元し、9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ塩を製造する方法である。その詳細は特開平9−16982号公報を参照することが出来る。この方法は、還元に使用した1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンが9,10−アントラヒドロキノンとなるため、使用後の還元剤を除去する必要がないので特に好ましい。
【0044】
溶媒としては、特に種類を選ばないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒;メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒を好適に使用することが出来る。これらは二種以上を併用してもよく、例えば、アルコール系溶媒とケトン系溶媒と水溶性エーテル系溶媒との混合溶媒を使用することが出来る。溶媒の使用量は、9,10−アントラキノン誘導体を溶解するに足る量であればよく、9,10−アントラキノン誘導体100重量部に対し、通常5〜20重量部である。
【0045】
反応温度は、通常0℃〜120℃、好ましくは40℃〜80℃である。反応温度が0℃未満の場合は反応が遅く、120℃を超える場合は、アントロンが副生物として生成し、製品の純度が低下する。反応時間は、通常0.5〜3時間であり、一般的には1時間で還元反応は終了する。
【0046】
還元剤を使用した場合、通常、反応は大気圧下で行い、反応容器内部はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。すなわち、反応容器内に分子状酸素が存在すると、容易に酸化反応が起こり、還元反応にて得られる9,10−アントラヒドロキノン誘導体の純度が低下する。反応容器内部の酸素濃度は、特に限定されないが、通常2vol%以下とされる。
【0047】
上記の還元剤の代わりに貴金属触媒による水素化還元を採用することも出来る。貴金属触媒としては、パラジウム担持活性炭、パラジウム担持アルミナ、白金担持活性炭などが挙げられる。特にパラジウム担持活性炭を好適に使用することが出来る。貴金属触媒の使用量は、9,10−アントラキノン誘導体100重量部に対し、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.2〜2重量部である。貴金属触媒の使用量が9,10−アントラキノン誘導体100重量部に対して0.01%未満の場合は、水素化速度が遅く第一反応に時間がかかってしまい、5重量部より多い場合は、副反応によりアントラセンの芳香環の水素化が併発する。
【0048】
還元剤として上記の貴金属触媒を使用した場合、使用する溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらは二種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、9,10−アントラキノン誘導体を溶解するに足る量であればよく、9,10−アントラキノン誘導体100重量部に対し、通常5〜20重量部である。
【0049】
水素化還元の場合、反応容器内部はアルゴンや窒素などの不活性ガスで予め置換しておくことが好ましい。すなわち、反応容器内に分子状酸素が存在すると、容易に酸化反応が起こり、還元反応にて得られる9,10−アントラヒドロキノン誘導体の純度が低下する。反応容器内部の酸素濃度は、通常2vol%以下とされる。
【0050】
水素化還元の場合、水素ガスによる反応圧力は、通常3〜10気圧、好ましくは3〜5気圧である。反応圧力が3気圧未満の場合は、水素化速度が遅く反応に時間が掛かってしまい、10気圧より高い場合は、副反応によりアントラセンの芳香環の水素化が併発する。水素化還元反応の時間は通常1〜3時間である。反応温度は、前述の還元剤を使用した場合と同様であり、通常0℃〜120℃、好ましくは40℃〜80℃である。水素化還元反応が終了した後、貴金属触媒を濾過にて除去し、濾液を次の第二反応に供する。
【0051】
(第二反応)
この反応においては、上記で得られた9,10−アントラヒドロキノン誘導体をシリルエーテル化する。シリルエーテル化は、溶媒中、塩基性化合物の存在下または非存在下、シリル化剤を使用し、9,10−アントラヒドロキノン誘導体をシリルエーテル化することによって行うことが出来る。
【0052】
溶媒としては第一反応で使用した溶媒をそのまま使用することが出来る。塩基性化合物としては好適にはアミン化合物が挙げられ、アミン化合物としては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン等が挙げられる。アミン化合物の使用量は、9,10−アントラヒドロキノン誘導体に対し、通常2〜3モル倍である。アミン化合物の使用量が2モル倍未満の場合は、未反応の9,10−アントラヒドロキノン誘導体が増加し、3モル倍を超える場合は、反応物中に塩基が大量に残存し、生成物の結晶化を阻害し、単離収率が著しく低下させる。
【0053】
シリル化剤としては、好適にはハロゲン化シラン又はビストリアルキルシリルアセトアミドが使用される。ハロゲン化シランとしては、例えば、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリプロピルクロロシラン、トリ(i−プロピル)クロロシラン、トリブチルクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、ジメチル−t−ブチルクロロシラン、ジメチル−n−オクチルクロロシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジエチルフェニルクロロシラン、エチルジフェニルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリプロポキシクロロシラン、トリブトキシクロロシラン、トリフェニオキシクロロシラン、ジメトキシフェニルクロロシラン、メトキシジフェニルクロロシラン、ジエトキシフェニルシラン、エトキシジフェニルシラン、ジメトキシジクロロシラン、ジエトキシジクロロシラン、ジプロポキシジクロロシラン、ジブトキシジクロロシラン、メトキシトリクロロシラン、エトキシトリクロロシラン、プロポキシトリクロロシラン、ブトキシトリクロロシラン、フェノキシトリクロロシラン、テトラクロロシラン、トリメチルブロモシラン、トリエチルブロモシラン、トリ(i−プロピル)ブロモシラン、トリブチルブロモシラン、トリフェニルブロモシラン、ジメチル−t−ブチルブロモシラン、ジメチル−n−オクチルブロモシラン、ジメチルフェニルブロモシラン、メチルジフェニルブロモシラン、ジエチルフェニルブロモシラン、エチルジフェニルブロモシラン、ジメチルジブロモシラン、ジエチルジブロモシラン、ジプロピルジブロモシラン、ジブチルジブロモシラン、メチルトリブロモシラン、エチルトリブロモシラン、プロピルトリブロモシラン、ブチルトリブロモシラン、フェニルトリブロモシラン、テトラブロモシラン、トリメトキシブロモシラン、トリエトキシブロモシラン、トリプロポキシブロモシラン、トリブトキシブロモシラン、トリフェニオキシブロモシラン、ジメトキシフェニルブロモシラン、メトキシジフェニルブロモシラン、ジエトキシフェニルシラン、エトキシジフェニルシラン、ジメトキシジブロモシラン、ジエトキシジブロモシラン、ジプロポキシジブロモシラン、ジブトキシジブロモシラン、メトキシトリブロモシラン、エトキシトリブロモシラン、プロポキシトリブロモシラン、ブトキシトリブロモシラン、フェノキシトリブロモシラン、テトラブロモシラン等が挙げられる。また、ビストリアルキルシリルアセトアミドとしては、ビストリメチルシリルアセトアミド、ビストリエチルシリルアセトアミド、トリプロピルシリルアセトアミド等が挙げられる。これらのシリル化剤の中では、反応性が高いとの観点から、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、ジメチル−t−ブチルクロロシラン、ジメチル−n−オクチルクロロシラン又はビストリメチルシリルアセトアミドが好ましい。
【0054】
シリル化剤の使用量は、9,10−アントラヒドロキノン誘導体1モルに対し、通常2.0〜5モル倍、好ましくは2.2〜3モル倍である。シリル化剤の使用量が2.0モル倍未満の場合は、未反応の9,10−アントラヒドロキノン誘導体が増加し、3モル倍より多い場合は、生成した9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体の溶媒に対する溶解度が高くなり、9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体の単離収率が低下する。
【0055】
反応温度は、通常0〜150℃、好ましくは室温〜80℃である。反応温度が0℃未満の場合は、反応速度が遅すぎて反応に時間が掛かってしまい、150℃より高い場合は、副反応が起きて生成物の純度が低下する。反応時間は通常0.5〜3時間である。通常、反応は大気圧下で行い、反応容器内部はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。反応容器内部の酸素濃度は通常2vol%以下とされる。
【0056】
第二反応にて得られる反応液は、過剰のシリル化剤と塩基性化合物由来の沈殿を含有しているため、沈殿を濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮することにより、9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体を得ることが出来る。
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1[9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンの合成]:
攪拌機と温度計を備えた100ml三つ口フラスコに、 9,10−アントラヒドロキノン4.20g(20ミリモル)とトルエン溶媒30gを添加して分散させ、シリル化剤としてビストリメチルシリルアセトアミド8.1g(20ミリモル)を添加した。この混合液を20〜30℃になるように制御しながら2時間攪拌すると、黄色の蛍光色の溶液が得られた。この溶液に水10gを加え、合計3回水洗し、分液と水相除去操作を行い、未反応のビストリメチルシリルアセトアミドを除去した。次いで、トルエン相からロータリーエバポレーターによりトルエンを留去後、80℃で減圧乾燥して黄色の粉末4.96g(14.0ミリモル)を得た。得られた9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンの、原料9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は70モル%であった。
【0059】
得られた黄色の粉末について、融点測定、H−NMR、IRスペクトル、MASSスペクトルにより同定し、9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンであることを確認した。
【0060】
(1)融点:119−120℃
(2)H−NMR(CDCl,ppm):δ0.30(s,9H),7.36−7.43(m,4H)8.14−8.21(m,4H)
(3)IR(KBr,cm−1):3076,2960,1384,1260,1180,1080,880,840,762,703,652,515
(4)Massスペクトル:(EI−MS)m/z=436(M
【0061】
実施例2[9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセンの合成]:
攪拌機と温度計を備えた100ml三つ口フラスコに、 9,10−アントラヒドロキノン4.20g(20ミリモル)とトリエチルクロロシラン4.5g(30ミリモル)を入れ、脱気アセトン20gを加えて溶解した。この溶液を0〜10℃に調節した水浴中でトリエチルアミン2g(20ミリモル)のアセトン10g溶液を約1時間かけて添加した。すると、白い綿状結晶が沈殿したので、三口フラスコを水浴から出し、20〜30℃でさらに1時間攪拌した。その後、反応液をエバポレーターで処理し、アセトン、未反応トリエチルクロロシラン、トリエチルアミンを留去し、容器内に残った結晶に水40gを加えてリスラリー化し、混合液を吸引濾過し、得られた結晶を40℃で減圧乾燥し、黄緑色の粉末6.5gを得た。この粉末に脱気アセトン50mlを加えてリスラリー化し、同様に吸引濾過・減圧乾燥して黄緑色の粉末4.5g(10.3ミリモル)を得た。得られた9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセンの、原料9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は52モル%であった。
【0062】
得られた黄緑色の粉末について、融点測定、H−NMR、IRスペクトル、MASSスペクトルにより同定し、9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセンであることを確認した。
【0063】
(1)融点:68−70℃
(2)H−NMR(CDCl,ppm):δ0.85(q,J=8Hz,12H),0.94(t,J=8Hz,18H),7.37−7.45(m,4H)8.16−8.24(m,4H)
(3)IR(KBr,cm−1):3076,2960,2920,2880,1390,1240,1176,1080,1010,870,740,720,646
(4)Massスペクトル:(EI−MS)m/z=454(M
【0064】
実施例3[9,10−ビス[トリ(i−プロピル)シリルオキシ]アントラセンの合成]:
攪拌機、温度計を備えた200ml三つ口フラスコに9,10−アントラヒドロキノン4.20g(20ミリモル)、トリ(i−プロピル)クロロシラン(信越化学社製、商品名:TIPCS)9.6g(50ミリモル)を入れ、脱気テトラヒドロフラン20gを加え、溶解した。この溶液を0〜10℃に調整した水浴中でトリエチルアミン4.04g(40ミリモル)のテトラヒドロフラン13g溶液を約0.5時間かけて添加した。すると、白い綿状結晶が沈殿したので、三口フラスコを水浴から出し、20〜30℃でさらに1時間攪拌した。その後、反応液に水40gを加えてリスラリーし、混合スラリーを吸引濾過して結晶を40℃で減圧乾燥して黄緑色の粉末6.78gを得た。得られた9,10−ビス[9,10−ビス[トリ(i−プロピル)シリルオキシ]アントラセンの、原料9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は65モル%であった。
【0065】
得られた黄緑色の粉末について、融点測定、H−NMR、IRスペクトルにより同定し、9,10−ビス[トリ(i−プロピル)シリルオキシ]アントラセンであることを確認した。
【0066】
(1)融点:189−190℃
(2)H−NMR(CDCl,ppm):δ1.07(d,J=8Hz,18H),1.44(qq,d=8Hz,6H),7.34−7.42(m,4H),8.21−8.28(m,4H)
(3)IR(KBr,cm−1):2970,2950,2875,1470,1390,1260,1180,1092,1070,1018,996,882,872,762,702,680,648,568,521
【0067】
実施例4[9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセンの合成]:
攪拌機、温度計を備えた300ml三つ口フラスコにシクロペンタノン50ml、トルエン10ml、9,10−アントラヒドロキノン4.20g(20ミリモル)、ジメチル−(t−ブチル)クロロシラン(東レダウコーニング社製、商品名:TBMS501)7.5g(50ミリモル)を入れ、黄緑色のスラリーとした。このスラリ−を0〜10℃に調整した水浴中でトリエチルアミン4.04g(40ミリモル)のシクロペンタノン10ml溶液を約0.5時間かけて添加した。直ちに黄色い結晶が多量に析出した。三口フラスコを水浴から出し、20〜30℃でさらに1時間攪拌した。その後、反応スラリーにトルエン80ml、水50mlを加えてリスラリーした。次いで、トルエン層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮し、結晶を析出させた。析出した結晶を吸引ろ過・乾燥し薄黄緑色の結晶6.4g(14.6ミリモル)を得た。得られた9,10−ビス[ジメチル−(t−ブチル)シリルオキシ]アントラセンの、原料9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は73モル%であった。
【0068】
得られた薄黄緑色の結晶について、融点測定、H−NMR、IRスペクトルにより同定し、9,10−ビス[ジメチル−(t−ブチル)シリルオキシ]アントラセンであることを確認した。
【0069】
(1)融点:173−174℃
(2)H−NMR(CDCl,ppm):δ0.16(s,12H),1.23(s,18),7.36−7.42(m,4H),8.19−8.25(m,4H)
(3)IR(KBr,cm−1):2960,2930,2860,1480,1462,1380,1260,1172,1080,878,840,794,766,712,648
【0070】
実施例5[9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセンの合成]:
攪拌機、温度計を備えた300ml三つ口フラスコに9,10−アントラヒドロキノン4.20g(20ミリモル)、ジメチル−n−オクチルクロロシラン(東レダウコーニング社製、商品名:ACS−8)7.85g(38ミリモル)を入れ、脱気トルエン40mlを加え、黄緑色のスラリーとした。このスラリーにトリエチルアミン4.04g(40ミリモル)のトルエン10ml溶液を添加した後,60℃で1時間過熱した。反応混合汚物を冷却し、トルエン10ml、水80ml加え、よく攪拌した。二層となるので、トルエン層を採り、無水硫酸ナトリウムで脱水し、ついで減圧濃縮した。カーキ色のオイルが8.3g(15ミリモル)得られた。9,10−ビス[ジメチル−(n−オクチル)シリルオキシ]アントラセンの、原料ジメチル−n−オクチルクロロシランに対する収率は79モル%であった。
【0071】
得られたカーキ色のオイルについて、H−NMR、IRスペクトルにより同定し、9,10−ビス[ジメチル−(n−オクチル)シリルオキシ]アントラセンであることを確認した。
【0072】
(1)融点:カーキ色オイル
(2)H−NMR(CDCl,ppm):δ0.27(s12H),0.76−0.90(m,12H),1.14−1.28(m,22H),7.32−7.41(m、4H),8.11−8.21(m,4H)
(3)IR(KBr,cm−1):2960,2930,2860,1470,1390,1256,1180,1110,1080,880,840,780,766,702
【0073】
実施例6[9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンを光増感剤として使用した光硬化組成物の青色LEDによる光硬化時間の測定]:
カチオン重合性単量体としてエポキシ変性シリコーン(東芝GEシリコーン製の商品「UV−9300」)100重量部に対し、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ローディア社製の商品「2074」)0.5重量部、9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部を混合し、光硬化組成物を調製した。当該組成物をポリエステルフィルム(東レ製の商品「ルミラー」)の上にバーコーターで膜厚が12ミクロンになるように塗布した。次いで、光源としてLuxeon社製の青色LEDランプ(商品名:Luxeon Star、照射光の中心波長:460nm、1W、照射高さ1cm)を使用し、ポリエステルフィルムの塗布表面に光照射した。光照射してからポリエステルフィルム表面上の塗布物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間(以下「タックフリータイム」と称する)は3秒であった。
【0074】
実施例7[9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセンを光増感剤として使用した光硬化組成物の青色LEDによる光硬化時間の測定]:
実施例3において、9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部の代わりに9,10−ビス(トリエチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部を使用した以外は、実施例3と同様の方法で光硬化性組成物を調製した。当該組成物をポリエステルフィルム(東レ製、商品名:ルミラー)の上にバーコーターで膜厚が12ミクロンになるように塗布した。次いで、光源として実施例3におけるのと同一の青色LEDランプを使用し、ポリエステルフィルムの塗布表面に光照射した。タックフリータイムは8秒であった。
【0075】
実施例8[9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセンを光増感剤として使用した青色LEDによる光硬化時間の測定]:
カチオン重合性単量体としてエポキシ変性シリコーン(東芝GEシリコーン製、商品名:UV−9300)100重量部に対し、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ローディア社製、商品名:2074)0.5重量部、9,10−ビス(ジメチル−t−ブチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部を混合し、光硬化組成物を調製した。当該組成物をポリエステルフィルム(東レ製、商品名:ルミラー)の上にバーコーターを使用して膜厚が12ミクロンになるように塗布した。ついで、当該組成物を塗布したポリエステルフィルムの塗布表面に光源としてLuxeon社製青色LEDランプ「Luxeon Star」(照射光の中心波長:460nm、1W、照射高さ1cm)を用いて光照射した。光照射してからポリエステルフィルム表面上の塗布物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間(タック・フリー・タイム)は6秒であった。
【0076】
実施例9[9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセンを光増感剤として使用した青色LEDによる光硬化時間の測定]:
カチオン重合性単量体としてエポキシ変性シリコーン(東芝GEシリコーン製、商品名:UV−9300)100重量部に対し、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ローディア社製、商品名:2074)0.5重量部、9,10−ビス(ジメチル−n−オクチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部を混合し、光硬化組成物を調製した。当該組成物をポリエステルフィルム(東レ製、商品名:ルミラー)の上にバーコーターを使用して膜厚が12ミクロンになるように塗布した。ついで、当該組成物を塗布したポリエステルフィルムの塗布表面に光源としてLuxeon社製青色LEDランプ「Luxeon Star」(照射光の中心波長:460nm、1W、照射高さ1cm)を用いて光照射した。光照射してからポリエステルフィルム表面上の塗布物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間(タック・フリー・タイム)は5秒であった。
【0077】
実施例10[9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセンを光増感剤として使用した白色LEDによる光硬化時間の測定]:
実施例3と同様の方法で調整した光硬化性組成物をポリエステルフィルム(東レ製、商品名:ルミラー)の上にバーコーターを使用して膜厚が12ミクロンになるように塗布した。ついで、当該組成物を塗布したポリエステルフィルムの塗布表面に光源としてGENTOS社製白色LED(1.0W,照射高さ1cm)を用いて光照射した。光照射してからポリエステルフィルム表面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間(タック・フリー・タイム)は10秒であった。
【0078】
比較例[9,10−ジブトキシアントラセンを光増感剤として使用した光硬化組成物の青色LEDによる光硬化時間の測定]:
実施例6において、9,10−ビス(トリメチルシリルオキシ)アントラセン0.3重量部の代わりに9,10−ジブトキシアントラセン(川崎化成工業株式会社製の商品「UVS−1550」)0.3重量部を使用した以外は、実施例6と同様の方法で光硬化性組成物を調製した。当該組成物をポリエステルフィルム(東レ製の商品「ルミラー」)の上にバーコーターで膜厚が12ミクロンになるように塗布した。次いで、光源として実施例3におけるのと同一の青色LEDランプを使用し、ポリエステルフィルムの塗布表面に光照射した。タックフリータイムは55秒であった。
【0079】
実施例6〜10及び比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1から次のことが明らかである。すなわち、光増感剤として9,10−ビスシリルオキシアントラセン化合物を使用して光硬化させると、10秒以内で硬化させることが出来、光増感剤として知られている9,10−ジブトキシアントラセンを使用した比較例に比べ、格段に硬化速度が速いことが明らかである。したがって、9,10−ビスシリルオキシアントラセン化合物は光増感剤として極めて優れた機能を有するといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体を有効成分とする光増感剤。
【化1】

(一般式(1)において、R、R、R、R、R、及びRは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基の群から選択される何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、カルボキシル基の群から選択される何れかを示す。)
【請求項2】
オニウム塩と請求項1に記載の光増感剤とを有効成分として含有する光重合開始剤。
【請求項3】
オニウム塩がアリールヨードニウム塩及び/又はアリールスルホウム塩である請求項2に記載の光重合開始剤。
【請求項4】
カチオン重合性単量体と請求項2又は3に記載の光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の光重合性組成物に410〜500nmの波長範囲の可視光線を照射して硬化させることを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項6】
9,10−アントラヒドロキノン誘導体をシリルエーテル化することを特徴とする式(1)で示される9,10−ビスシリルオキシアントラセン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−299042(P2009−299042A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114711(P2009−114711)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】