説明

光学フィルム用樹脂組成物およびこれからなる光学フィルム

【課題】 本発明は、成形加工性を改良された樹脂組成物及びこれからなる光学フィルムを提供することにある。
【解決手段】 少なくとも1種類以上の光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子16〜50重量%とポリマー(A)40〜83重量%と可塑剤(B)1〜10重量%からなることを特徴とする光学フィルム用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム用樹脂組成物及び複屈折の制御を必要とする液晶ディスプレイ(以下、LCDと称する)の位相差フィルム用として同樹脂組成物を用いた光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
LCDは表示特性の向上のために多くの光学フィルムを必要であり、表示特性の視認性を広げるための視野角の拡大や色調の補償などのために位相差フィルムなどの光学フィルムが用いられている。
【0003】
透明樹脂材料は光学フィルムとして軽量性、生産性及びコストの面から多用される状況にある。
【0004】
近年、LCDの特性の向上のために、位相差フィルムにも広帯域性として幅広く可視光領域の位相差制御できるような特性が重要視されている。例えば、反射型LCDにおいては、広帯域にて1/4波長の位相差を示すフィルム(円偏光板とも称する)が利用されている。
【0005】
例えば、これらには、単一波長において1/4波長の位相差を示すポリカーボネートや環状ポリオレフィン樹脂などからなる1枚の位相差フィルムに、波長分散特性を相殺するように1/2波長の位相差フィルムを積層させれば広帯域性が発現することが提案されている(例えば非特許文献1参照)。しかしながら、この方法はフィルムを2枚積層するために、厚さと重量が増えてしまう。また、製造工程が非常に複雑になるなどの課題がある。
【0006】
そこで、1枚のフィルムで位相差の波長依存性を改良し、広帯域性を示す方法として、正の複屈折性を示す分子構造単位と負の複屈折性を示す分子構造単位を組合わせた共重合体、あるいは正の複屈折性を示すポリマーと負の複屈折性を示すポリマーとのブレンド物などを利用したフィルムが提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0007】
しかし、特許文献1〜3において提案されたものは、位相差の波長分散性が改良されているが、十分ではない。
【0008】
また、光学異方性粒子を用いた光学フィルムや光学接着剤などの光学材料が提案されている(例えば特許文献4〜7、非特許文献2参照)。
【0009】
ここで、特許文献4及び非特許文献2において提案されたものは、実質的にゼロ複屈折(非複屈折)材料に関するものであり、位相差フィルム及びその波長分散性への言及はない。
【0010】
特許文献5〜7は位相差フィルムに関するものであり、光学異方性粒子を用いた光学フィルムの提案として、粒子のアスペクト比と上限粒子サイズに関する記述と、配合量などについて言及するが、特定の粒子形状よりも小さい光学異方性粒子を用いて16重量%を超えて配合した場合の分散性、成形加工性並びに光学異方性についての言及はない。
【0011】
非球形粒子として繊維状などの粒子をポリマー中に分散した系が提案されている(例えば非特許文献3参照)。非球形粒子を分散させた系の溶融粘度は球形粒子の系と比較して濃度上昇と共に急激に上昇し、扱いが困難になることが指摘されている。
【0012】
また、粒子サイズが小さくなるほど、一定の粒子体積を配合する条件下では粒子サイズに伴い粒子間距離が狭くなるために粘度が上昇することが知られている。こうしたことから非球状粒子は球状粒子よりも加工しにくくなる傾向にあり、まして粒子サイズが1μm以下ともなれば著しく粘度が上昇する。
【0013】
【特許文献1】特開2000−137116号公報
【特許文献2】特開2001−337222号公報
【特許文献3】特開2001−235622号公報
【特許文献4】特開平11−293116号公報
【特許文献5】特開2005−156862号公報
【特許文献6】特開2005−156863号公報
【特許文献7】特開2005−156864号公報
【非特許文献1】SID‘02 Digest ,p862(2002)
【非特許文献2】高分子学会予稿集 Vol.52,No.4,p748(2003)
【非特許文献3】レオロジーデータハンドブック,第2章分散系,2.1.2非球形粒子分散系,p140,日本レオロジー学会編,丸善株式会社(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述の事実に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、成形加工性を改良された樹脂組成物及びこれからなる光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、光学異方性粒子に可塑剤を配合することにより、成形加工性を改良された樹脂組成物が得られることを見出し本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は少なくとも1種類以上の光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子16〜50重量%とポリマー(A)40〜83重量%と可塑剤(B)1〜10重量%からなることを特徴とする光学フィルム用樹脂組成物及びこれからなる光学フィルムに関する。
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物は、少なくとも1種類以上の光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子16〜50重量%とポリマー(A)40〜83重量%と可塑剤(B)1〜10重量%からなるものである。
【0019】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物に用いる光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子は、該粒子長軸方向の平均寸法が50nm以上400nm未満であることが好ましく、特に50nm以上300nm以下、更に50nm以上100nm以下であることが好ましい。また、該粒子の形状は平均アスペクト比(粒子の短軸径と長軸径の比)が1.5以上であることが好ましく、特に3以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物に用いる光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子としては、特に制限はなく、例えば、鉱物、無機物として針状結晶系無機化合物、セラミックスなどが、有機物として針状の有機化合物結晶などが挙げられ、その中でも特に鉱物またはセラミックスなどの無機化合物が好ましい。なお、これら粒子は1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
そして具体的な光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子の例としては、例えばカルサイト、アラゴナイトなどの炭酸カルシウム;炭酸マグネシウム;炭酸ジルコニウム;炭酸ストロンチウム;炭酸コバルト;炭酸マンガン;酸化チタン(ルチル型)などが挙げられ、その中でも炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガンが好ましく、特に炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウムが好ましい。
【0022】
該粒子はポリマー中への分散性を高めるために表面処理を行なうことが好ましい。表面処理としては、例えば脂肪酸処理、アルキルアンモニウム処理、エポキシ樹脂処理、シラン処理、チタネート処理、ウレタン処理などが挙げられる。
【0023】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物に用いる光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子の配合量は16〜50重量%であり、得られる光学フィルム用樹脂組成物の光学異方性を制御可能であることから、特に16〜30重量%、更に16〜25重量%であることが好ましい。
【0024】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物に用いるポリマー(A)は透明樹脂であれば如何なるものでもよく、例えばポリカーボネート;ポリアリレート;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリエチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;フルオレン系ポリエステル;フルオレン系ポリカーボネート;アクリル樹脂;環状ポリオレフィン;マレイミド系共重合体などが挙げられる。またポリマー(A)は、耐熱性に優れる光学フィルムとなることからガラス転移温度120℃以上であることが好ましく、特にガラス転移温度(以下、Tgと称する)130℃以上であることが好ましい。
【0025】
また、ガラス転移温度130℃以上のポリマーとしては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、環状ポリオレフィン、マレイミド系共重合体が好ましい。
【0026】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物に用いる可塑剤(B)はポリマー(A)のTgおよび光学フィルム用樹脂組成物からなる光学フィルムの加工性を操作する目的で配合し、Tg並びに弾性率を変化させTgを超える温度域での樹脂の流動性向上させる目的で広く知られている物質であれば如何なるものでもよく、例えば、フタル酸エステルおよび重縮合体、アジピン酸などの脂肪酸エステルおよび重縮合体、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ターフェニル化合物およびそれらの置換誘導体などが挙げられ、その中でもフタル酸エステルおよび重縮合体、アジピン酸などの脂肪族エステルおよび重縮合体、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーなどが好ましく、特にフタル酸エステルおよび重縮合体、アジピン酸などの脂肪族エステルおよび重縮合体、アクリル系ポリマーなどが好ましい。
【0027】
該フタル酸エステルおよび重縮合体としては、例えばフタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル等が挙げられる。
【0028】
該アジピン酸などの脂肪酸エステルおよび重縮合体としては、例えばアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0029】
該アクリル系ポリマーとしては、例えばメチルアクリレート共重合体、エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。
【0030】
なお、これら可塑剤(B)は、ガラス転移温度100℃未満かつ分子量30,000未満であるであることが好ましい。
【0031】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物におけるポリマー(A)及び可塑剤(B)の配合量は、ポリマー(A):可塑剤(B)=40〜83重量%:1〜10重量%であり、特に40〜70重量%:1〜5重量%であることが好ましく、光学フィルム用樹脂組成物からなるフィルムの複屈折を安定して維持することができる。しかし、可塑剤量が1重量%未満の場合および10重量%を超えて配合した場合には延伸加工が困難となる。
【0032】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物の製造方法としては、例えば、光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子の分散溶液にポリマー(A)と可塑剤(B)を均一化した後に溶媒を除去してペレット化、顆粒化、粉体化する方法;光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子をポリマー(A)前駆体であるモノマーに分散し重合する際にその前後において可塑剤(B)を添加する方法;光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子、ポリマー(A)および可塑剤(B)を押出し機、ロール等で溶融混練する方法;光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子、ポリマー(A)及び可塑剤(B)を、ポリマー(A)と可塑剤(B)が可溶性を示す溶剤に分散溶解する方法などが挙げられる。
【0033】
そして、本発明の光学フィルム用樹脂組成物を溶液キャスト法、溶融キャスト法によりフィルム化し、必要に応じて該フィルムを一軸または二軸以上に延伸することにより光学フィルムを製造することができ、特に光学フィルム用樹脂組成物が可溶性を示す溶剤に分散溶解し、これを製膜及び乾燥してフィルム化する方法;光学フィルム用樹脂組成物を溶融押出し成形にてフィルム化する方法により光学フィルムを製造することが好ましい。
【0034】
溶液キャスト法によるフィルム化においては、例えば、光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子、ポリマー(A)および可塑剤(B)からなる光学フィルム用樹脂組成物をポリマー(A)および可塑剤(B)が溶解性を示す溶媒に溶解し分散させた溶液(以下、ドープと称する。)を支持基板上に流延した後に、加熱などにより溶媒を除去しフィルムを得る方法を挙げることができる。ドープを流延する方法としては、これによってフィルム化を可能とする方法であれば如何なる方法でもよく、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法などが挙げられる。用いる支持基板としては、フィルム化した際のフィルム表面平滑性、光学的均一性を可能とするものであれば如何なるものでもよく、例えばガラス基板、金属基板、溶剤耐性を示すプラスチックフィルムなどを用いることができる。
【0035】
溶液キャスト法により高透明性、高厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜するには、ドープの溶液粘度が700〜30,000cpsであることが好ましく、特に1,000〜10,000cpsであることが好ましい。また、溶液キャスト法によりフィルム化した際のフィルム厚さは、機械的特性、生産性に優れることから10〜500μmが好ましく、特に20〜300μmが好ましい。
【0036】
また、溶融キャスト法によるフィルム化としては、例えば光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子とポリマー(A)および可塑剤からなる光学フィルム用樹脂組成物を押出し機内で溶融し、Tダイなどの狭いスリットダイからフィルム状に押出した後に、冷却ロールやエアーなどで冷却しつつ成形する方法が挙げられる。この際、ダイ内部の溶融樹脂の流路を最適化し、ダイリップのクリアランスを制御することで高精度のフィルム厚さ制御ができる。
【0037】
このようにして得られた光学フィルムは、必要に応じて一軸または二軸以上に延伸することにより位相差が制御された位相差フィルムとすることができる。その際、延伸加工工程はフィルムの延伸が可能であれば如何なる方法でもよく、例えば、溶融キャスティング法であるTダイ溶融押出し工程に連なる工程として実施する方法;巻き取った後で延伸装置により延伸加工する方法;溶液キャスト法に連なる工程として延伸加工を実施する方法;乾燥巻取った後で延伸装置により延伸加工する方法などが挙げられる。
【0038】
フィルムの延伸加工法として一軸または二軸以上に延伸加工する方法としてはこれを可能とするものであれば如何なるものでもよく、知られている方法を利用できる(松本喜代一,高分子加工One Point2フィルムを作る,高分子学会編,共立出版(1998))。
【0039】
フィルムの一軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、カレンダーにより圧延して延伸する方法、ロール間で延伸する方法などが挙げられ、二軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、チューブ状に膨らませて延伸する方法などがある。また、これら一軸およびまたは二軸延伸を可能とする実験用の小型延伸装置を用いることもできる。その延伸条件としては、あつみムラが発生し難く、機械的特性、光学的特性に優れる位相差フィルムとなることからポリマー(A)のガラス転移温度に対して+10〜+40℃の延伸温度条件のもとで、延伸倍率が1.1〜5倍の範囲に延伸することが好ましい。
【0040】
本発明の光学フィルム樹脂組成物からなる光学フィルムの全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、特に86%以上、さらに90%以上であることが好ましい。
【0041】
光学フィルムの位相差(以下、Reと称する)は、目的とする用途に応じて適宜選択すればよく、通常20nm以上であることが好ましく、特に50nm以上であることが好ましく、更に80nm以上であることが好ましい。円偏光フィルムとして用いる際にはReが100〜200nmの範囲であることが好ましく、1/2波長フィルムとして用いる際にはReが200〜400nmの範囲であることが好ましい。なお、ここでいうReは測定波長589nmにおける値であり、該Reとしては、フィルム面内の直交する2軸をそれぞれx軸、y軸としてこれらと直交するフィルムに垂直な面外軸をz軸としてそれぞれの軸に対応する屈折率をnx、ny、nzとするとフィルム厚さdの場合に、フィルムの面内位相差(Re)=(nx−ny)・d、または面内位相差(Re)=(ny−nx)・d、フィルムの面外位相差(Re)=(nz−nx)/d、または面外位相差(Re)=(nz−ny)・dとして表される。
【0042】
光学フィルムの波長分散性は、異なる波長での位相差を測定することにより求めることができる。該光学フィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比Re(450/550)は、1.2以下が好ましく、特に好ましくは1以下である。また、波長650nmで測定した位相差(Re650)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比Re(650/R550)は、1.2以下が好ましく、特に好ましくは1以下である。このように、本発明の光学フィルム用樹脂組成物からなる光学フィルムでは、波長分散性が小さいことを特徴としている。
【0043】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物は、フィルム成形時または光学フィルム自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤などを配合してもよい。該酸化防止剤としては、公知のものを用いることができ、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他の酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独または併用して用いてもよく、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。
【0044】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物は、フィルムの熱着色および光劣化抑制のために光安定剤を配合してもよい。光安定剤としては公知のものを用いることができ、例えばヒンダードアミン系光安定剤などがあり、熱着色および光安定化に優れるものとして分子量1,000以上のものが好ましい。
【0045】
更に本発明の光学フィルム用樹脂組成物は、フィルムの紫外線劣化を抑制するために紫外線防止剤を配合してもよい。紫外線防止剤としては公知のものを用いることができ、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を用いることができる。
【0046】
本発明により得られる光学フィルムは、位相差フィルムとすることが好ましく、該位相差フィルムは、偏光板と積層し楕円偏光板とすることも出来る。その際、楕円偏光板は、反射型液晶ディスプレイの他に有機ELディスプレイなどの反射防止フィルム、輝度向上フィルムなどにも有用である。更に位相差フィルムどうしまたは他の位相差フィルムと積層することもできる。また、ポリビニルアルコール/ヨウ素などの二色性色素からなる偏光子と積層した偏光板とすることも可能であり、位相差フィルムをプラスチック基板とした液晶素子とすることも可能である。位相差フィルムを積層する際に、接着層を介して貼合してもよく、該接着層としては公知の水溶性または油溶性接着剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物は、光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子を高濃度に配合し、成形加工性を改良したものであり、これを容易に加工することで得られる光学フィルムは液晶ディスプレイの補償フィルムや有機ELディスプレイなどの反射防止フィルムなどに有用である。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0049】
以下、実施例の評価・測定に用いた方法を示す。
【0050】
〜透明性樹脂のガラス転移温度の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業株式会社製、商品名DSC200)を用い、昇温速度10℃/min.にて測定した。
【0051】
〜フィルムの延伸可否判定〜
フィルムを延伸する際の延伸可否をその延伸変形性により判定した。より具体的に、延伸可能な場合は延伸倍率に応じてフィルムが引き伸ばされて変形追従するが、成形加工性が悪く、延伸性が不十分な場合はフィルムが変形できずに裂けて切断したり、穴が開いたりする。
【0052】
〜位相差フィルムの光線透過率の測定〜
JIS−K−7361−1に準拠してヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、商品名NDH−2000)により測定した。
【0053】
〜位相差フィルムの位相差および位相差の波長依存性の測定〜
全自動複屈折計(王子計測器株式会社製、商品名KOBRA−21ADH)を用いて測定した。その際、位相差測定の基準波長は550nmとして、450nm、630nmの波長における位相差を測定し、これらの基準波長の場合との比としてそれぞれRe(450/550);Re(630/550)を評価することで波長依存性を判定した。
【0054】
〜位相差フィルムの位相差安定性の評価〜
フィルムを延伸配向させた直後の位相差と85℃にて加熱処理を72時間行なった後の位相差を比較することで位相差の安定性を判定した。
【0055】
実施例1
ポリマー(A)として延伸によって正の複屈折性を示すポリカーボネート(帝人化成製、商品名パンライト、ガラス転移温度141℃、位相差の波長依存性がRe(450/550)=1.17)75重量%、可塑剤(B)としてフタル酸ジエチルヘキシル5重量%および負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子として炭酸ストロンチウム粒子(ステアリン酸処理品、平均粒子径120nm、アスペクト比3.5、平均固有複屈折=na−((nb+nc)/2)=−0.1475)20重量%からなる混合物を、ポリマー(A)および可塑剤(B)が可溶性を示す塩化メチレン溶媒中25重量%となるように攪拌装置を用いて溶解・分散させた溶液をポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に製膜した後に、160℃にて乾燥しフィルム状の光学フィルム用樹脂組成物(光学フィルム)を得た。得られた光学フィルム用樹脂組成物のTgは157℃であった。
【0056】
得られた光学フィルムを二軸延伸装置(井元製作所製、型式16A1)を用いて自由幅一軸延伸モードにおいて、160℃にて1.5倍に延伸して光学フィルムを得た。得られた光学フィルム外観は良好であった。
【0057】
得られた光学フィルムの全光線透過率は90%であった。また、光学フィルム面内の位相差は135nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=1.20、Re(630/550)=0.90であった。
【0058】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は134nm(−1nm)であり安定していた。
【0059】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0060】
実施例2
実施例1のフィルムの延伸条件を170℃にて2.5倍とした以外は実施例1と同様の操作を実施して延伸して光学フィルムを得た。得られた光学フィルム外観は良好であった。
【0061】
得られた光学フィルムの全光線透過率は87%であった。また、光学フィルム面内の位相差は120nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=0.90、Re(630/550)=1.05であった。
【0062】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は120nm(±0nm)であり、安定していた。
【0063】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0064】
実施例3
実施例1のフィルムの延伸条件を180℃にて1.5倍とした以外は実施例1と同様の操作を実施して延伸して光学フィルムを得た。得られた光学フィルム外観は良好であった。
【0065】
得られた光学フィルムの全光線透過率は89%であった。また、光学フィルム面内の位相差は120nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=1.00、Re(630/550)=1.00であった。
【0066】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は119nm(−1nm)であり、安定していた。
【0067】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0068】
実施例4
実施例1のポリカーボネート79重量%、フタル酸ジエチルヘキシル5重量%および炭酸ストロンチウム粒子16重量%からなる混合物とした以外は実施例1と同様の操作を実施して光学フィルムを得た。
【0069】
得られた光学フィルムの全光線透過率は90%であった。また、光学フィルム面内の位相差は120nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=1.00、Re(630/550)=1.00であった。
【0070】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は119nm(−1nm)であり、安定していた。
【0071】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0072】
実施例5
実施例1のポリカーボネート55重量%、フタル酸ジエチルヘキシル10重量%および炭酸ストロンチウム粒子35重量%からなる混合物としフィルムの延伸条件を180℃にて1.5倍とした以外は実施例1と同様の操作を実施して光学フィルムを得た。
【0073】
得られた光学フィルムの全光線透過率は86%であった。また、光学フィルム面内の位相差は120nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=1.00、Re(630/550)=1.00であった。
【0074】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は119nm(−1nm)であり、安定していた。
【0075】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0076】
実施例6
実施例1において得られた光学フィルム用樹脂組成物を粉砕し、幅200mm、スリットギャップ0.15mmを有するTダイを設置したスクリュー径φ20mm、圧縮比3.5の単軸押出し機(東洋精機株式会社製、商品名ラボプラストミル)を用いて押出し機シリンダー温度プロファイルとして原料供給口からダイまでの温度がそれぞれ150℃;160;170℃;170℃にて押出し、水冷ロールにて冷却しながら溶融押出し光学フィルムを得た。得られた溶融押出し光学フィルムを用いて実施例1と同様の条件で延伸加工して光学フィルムを得た。
【0077】
得られた光学フィルムの全光線透過率は88%であった。また、光学フィルム面内の位相差は143nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=1.22、Re(630/550)=0.91であった。
【0078】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は143nm(±0nm)であり、安定していた。
【0079】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0080】
実施例7
ポリマー(A)として延伸によって正の複屈折性を示すポリエーテルスルフォン(住友化学製、商品名スミカエクセル4100G、ガラス転移温度200℃、位相差の波長依存性がRe(450/550)=1.18)75重量%、可塑剤(B)としてアジピン酸ジオクチル5重量%および負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子として炭酸ストロンチウム粒子(ステアリン酸処理品、平均粒子径120nm、アスペクト比3.5、平均固有複屈折=na−((nb+nc)/2)=−0.1475)20重量%からなる混合物を、ポリマー(A)および可塑剤(B)が可溶性を示す塩化メチレンとN−メチルピロリドンの50:50(重量比)の混合溶媒中において25重量%となるように攪拌装置を用いて溶解・分散させた溶液をポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に製膜した後に、200℃にて乾燥しフィルム状の光学フィルム用樹脂組成物(光学フィルム)を得た。得られた光学フィルム用樹脂組成物のTgは220℃であった。
【0081】
得られた光学フィルムを二軸延伸装置(井元製作所製、型式16A1)を用いて自由幅一軸延伸モードにおいて、240℃にて2.0倍に延伸して光学フィルムを得た。得られた光学フィルム外観は良好であった。
【0082】
得られた光学フィルムの全光線透過率は80%であった。また、光学フィルム面内の位相差は135nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=0.73、Re(630/550)=1.13であった。
【0083】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は136nm(+1nm)であり安定していた。
【0084】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0085】
実施例8
ポリマー(A)として延伸によって正の複屈折性を示すポリアリレート(ユニチカ製、商品名UポリマーP−3001、ガラス転移温度160℃、位相差の波長依存性がRe(450/550)=1.17)75重量%、可塑剤(B)としてアクリル系ポリマー可塑剤(東亜合成製、商品名ARFON、U−1150)5重量%および負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子として炭酸カルシウム粒子(ステアリン酸処理品、平均粒子径160nm、アスペクト比4.0、平均固有複屈折=na−((nb+nc)/2)=−0.172)20重量%からなる混合物を、ポリマー(A)および可塑剤(B)が可溶性を示す塩化メチレン溶媒中において25重量%となるように攪拌装置を用いて溶解・分散させた溶液をポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に製膜した後に、160℃にて乾燥しフィルム状の光学フィルム用樹脂組成物(光学フィルム)を得た。得られた光学フィルム用樹脂組成物のTgは180℃であった。
【0086】
得られた光学フィルムを二軸延伸装置(井元製作所製、型式16A1)を用いて自由幅一軸延伸して光学フィルムを得た。得られた光学フィルム外観は良好であった。
【0087】
得られた光学フィルムの全光線透過率は90%であった。また、光学フィルム面内の位相差は135nmであった。位相差の波長分散性は、Re(450/550)=0.97、Re(630/550)=1.02であった。
【0088】
85℃にて72時間熱処理後の位相差は135nm(−0nm)であり安定していた。
【0089】
これらの結果から延伸して得られた光学フィルムは、位相差フィルムに適したものであった。
【0090】
比較例1
可塑剤(B)を用いず、ポリマー(A)としてポリカーボネート(帝人化成製、商品名パンライト、ガラス転移温度141℃、位相差の波長依存性がRe(450/550)=1.17)80重量%および負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子として炭酸ストロンチウム粒子(ステアリン酸処理品、平均粒子径120nm、アスペクト比3.5、平均固有複屈折=na−((nb+nc)/2)=−0.1475)20重量%とした以外は実施例1と同様の操作によってフィルムを製膜・乾燥した後に延伸操作を試みたが、延伸途中でフィルムに亀裂および延伸シワを生じ、成形が困難であった。そこから採取した一部のフィルム片のTgは162℃であった。
【0091】
比較例2
ポリマー(A)としてポリカーボネート(帝人化成製、商品名パンライト、ガラス転移温度141℃、位相差の波長依存性がRe(450)/Re(550)=1.17)65重量%、可塑剤(B)としてフタル酸ジエチルヘキシル15重量%および負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子として炭酸ストロンチウム粒子(ステアリン酸処理品、平均粒子径120nm、アスペクト比3.5、平均固有複屈折=na−((nb+nc)/2)=−0.1475)20重量%とした以外は実施例1と同様の操作によってフィルムを製膜・乾燥した後に延伸操作を試みたがフィルムは非常に脆く、途中でフィルムに亀裂とシワを生じて破断したため延伸できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類以上の光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子16〜50重量%とポリマー(A)40〜83重量%と可塑剤(B)1〜10重量%からなることを特徴とする光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
ポリマー(A)がポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、環状ポリオレフィン、マレイミド系共重合体からなる群から選ばれるものであり、可塑剤(B)がフタル酸エステルおよび重縮合体、アジピン酸などの脂肪酸エステルおよび重縮合体、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーからなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子の短軸径と長軸径の比が1.5以上、また該粒子長軸方向の平均寸法が50nm以上400nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子が鉱物またはセラミックスなどの無機化合物からなる群より選ばれる粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子が炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項6】
ガラス転移温度が可塑剤(B)及びポリマー(A)よりも高い温度を示すことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルム用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の光学フィルム用樹脂組成物を構成するポリマー(A)と可塑剤(B)が可溶性を示す溶剤に対して、ポリマー(A)、可塑剤(B)及び光学異方性を有する針状または紡錘状の粒子とを分散溶解し、これを製膜及び乾燥してフィルム化することを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の光学フィルム用樹脂組成物を溶融押出し成形にてフィルム化することを特徴とする光学フィルム。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の光学フィルムを少なくとも1軸以上に延伸加工することを特徴とする位相差フィルム。

【公開番号】特開2008−176021(P2008−176021A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8977(P2007−8977)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】