光学フィルム製造方法、それを用いて製造されたセルロースエステルフィルム、並びに、そのセルロースエステルフィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置
【課題】含有される粒子の向きが一定方向の良く配向することで、大きな位相差を得て位相差制御範囲が拡大するとともに、スリッティング性を向上させ、さらに切断時における切り粉の発生も低減する光学フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】含有される粒子が、全粒子の90%以上が、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比をYとした場合、Y>(X^2)/20000,Y>20×(X^(−0.5))Y<20、50<X<500の粒径範囲に含まれる粒子であり、さらに、ドラフト比が2.1〜6.0か、もしくはスリット通過時間が0.1〜2.0secとなるランド長を備える。
【解決手段】含有される粒子が、全粒子の90%以上が、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比をYとした場合、Y>(X^2)/20000,Y>20×(X^(−0.5))Y<20、50<X<500の粒径範囲に含まれる粒子であり、さらに、ドラフト比が2.1〜6.0か、もしくはスリット通過時間が0.1〜2.0secとなるランド長を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の画面構成に用いられる光学フィルムの製造方法、並びに、その光学フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置に関する。特に、液晶表示装置に適切な複屈折性を得ることができる光学フィルムの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、TN(Twisted Nematic:ねじれネマチック)、STN(Super Twisted Nematic:超ねじれネマチック)、IPS(In−plane Switching:横電界)、VA(Vertical Alignment:垂直配向)、OCB(Optically Compensated Bend)など種々の液晶表示方式が提案されている。これら液晶表示装置では、液晶セルが複屈折性を持っているため、光の位相差が出てしまい、コントラストが低減してしまう。そこで、液晶表示装置における複屈折性を除去もしくは低減させるために位相差フィルムの必要性が高まっている。そこで、フィルムに複屈折性を与える手段としてポリカーボネートやオレフィン系のフィルム、セルロースエステル系の樹脂フィルムを延伸する方法が提案されている。ポリカーボネートやオレフィン系のフィルムを用いる場合には、偏光板に位相差フィルムを張り合わせる必要があるが、特にセルロースアセテートフィルムの場合は、偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化させた光学フィルムにすることもできるので、部材の減少、製造工程の簡略化、コストダウンなどの点で液晶表示装置に用いる光学フィルムとして好適であることが知られている。
【0003】
そして、従来は、セルロースアセテートなどの高分子樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「ドープ」という。)を、ベルト状やドラム状の無限移行する無端の金属支持体上にダイのスリットから流延させドープの膜(以下、「流延膜」という。)を作成し、その流延膜を乾燥させた後、剥離して光学フィルムを製膜する流延製膜法より、あるいは、セルロースアセテートなどの熱可塑性の高分子樹脂を加熱溶融した溶融樹脂を、ベルト状やドラム状の無限移行する無端の金属支持体上にダイのスリットから押出して、このフィルムを冷却させた後、剥離して光学フィルムを製膜する方法により、これまで製造されてきた(特許文献1、及び特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、セルロースアセテート系樹脂の場合は、発現できる位相差の範囲が限られており、各種の液晶表示方法に対応することが困難であった。
【0005】
そこで、複屈折性を有する粒子(以下、単に「粒子」ということがある。)をセルロースアセテートフィルムに導入することで、樹脂の複屈折に粒子の複屈折の効果が足しあわされるので、位相差を制御できる範囲が広がり、各種の液晶表示方法に対応する光学フィルムを製造することが可能になる。特に、この粒子を針状粒子とし、その針状粒子の向きが一定方向に良く配向するようすれば、その光学フィルムにおける位相差の制御範囲を拡大することが可能となり、さらに、製造工程における光学フィルムを切断するときの破断のしにくさ(以下、「スリッティング性」という。)が向上するとともに、切断時における切り粉の発生も低減できる。ここで、配向とは粒子が一方向に並べられることをいう。この点、複屈折性を調整する方法として、針状粒子を高分子樹脂に含有させることは従来からも行われてきた(特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6参照)。
【0006】
ここで、この添加した粒子を配向させる方法としては、従来から、光学フィルム作成時に光学フィルムをMD(Machine Direction、金属支持体の流れ方向。)またはTD(Traverse Direction、MDに直交する方向。)に延伸する方法、あるいはダイのスリットから樹脂溶液又は溶融樹脂が流延される速度(以下、「流延膜の線速度」という。)に対する金属支持体の線速度(金属支持体の回転方向の速度)の比であるドラフト比を大きくするなどして製膜直後に流延膜を引き伸ばしてせん断応力をかける方法、あるいは粒子を添加した樹脂を溶媒で溶かした樹脂溶液や熱で溶かした溶融樹脂の流れを作り、この流れに沿う形で粒子にせん断応力をかけて配向させる方法や、電場や磁場などで粒子の配向を促進する方法が行われてきた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−322314号公報
【特許文献2】特開2004−66545号公報
【特許文献3】特開2004−35347号公報
【特許文献4】特許第3648201号公報
【特許文献5】特開2005−156863号公報
【特許文献6】特開2005−227427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、液晶セルにおける複屈折性の除去もしくは低減を精度よく行うためには、光学フィルムにおける複屈折を液晶セルの複屈折に合わせて精度よく調整する必要がある。この点、特許文献3や特許文献4に記載の発明では、光学フィルム自体の複屈折をなくすことはできても、液晶セルとの関係から光学フィルムの複屈折を調整することは困難である。ここで、「複屈折性を調整」とは、製造工程で、所望の複屈折を取得するために行なう調整を言う(以下、同じ。)。
【0009】
また、特許文献5の発明では、3次元屈折率の関係を調整するのみであり、光学フィルム自体の複屈折を精度よく調整することは困難であるし、特許文献6の発明では、セルロースエステルなどを樹脂として、炭酸ストロンチウムなどの粒子を含有することで様々な複屈折性を有する発明が開示されているが、光学フィルムの複屈折を精度よく調整するために好適な粒子の大きさや、ダイにおけるドープを押し出すスリットのドープ流動方向の長さであるランド長の長さや、流延膜の線速度に対する金属支持体の線速度の比であるドラフト比などが規定されていないため、精度よく光学フィルムの複屈折性を調整することは困難である。この点、粒子の絶対最大長が長すぎると光が散乱し、ヘーズが出てしまうし、短すぎると配向し難い。また、粒子の前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値であるアスペクト比が小さすぎると配向し難いし、大きすぎるものは粒子の作成が困難になってしまう。さらに、ドラフト比は大きすぎると光学フィルムに横段が出てしまうし、小さいと配向し難いという問題がある、また、ランド長が長すぎると光学フィルムに縦スジが出てしまうし、短いと粒子が配向し難いという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、粒子の向きを一定方向に良く配向させ、広い範囲に亘って複屈折を調整できる光学フィルム製造方法の提供、さらに、スリッティング性を向上させ、かつ切断時における切り粉の発生を抑えた光学フィルム、及びその製造方法を提供することを目的としている。さらに、偏光板の保護フィルムとして本発明の光学フィルムを用いることで、液晶表示装置の製造における、部材の減少、製造工程の簡略化、コストダウンを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の光学フィルム製造方法は、所定の粒子を含み、有機溶媒を主成分とする樹脂溶液、又は、熱可塑性により加熱溶融している溶融樹脂のいずれかである液状樹脂をダイのスリットから、移行する金属支持体上に連続的に流延させる工程を有する光学フィルム製造方法において、前記所定の粒子は、全粒子の90%以上が、絶対最大長50nmより大きくかつ500nmより小さく、さらに、前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像を挟んだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値が、前記絶対最大長(単位はnm)の2乗を20000で割った値よりも大きく、かつ、前記絶対最大長(単位はnm)を−0.5乗したものに20をかけた値よりも大きく、かつ、20よりも小さくなる粒径範囲に含まれる粒子であり、下記A、B、又は、それら双方を満たすことを特徴とする。
A:前記スリットから前記液状樹脂が流涎される速度に対する前記金属支持体の線速度の比が、前記液状樹脂溶液である場合は、2.1〜6.0であり、前記液状樹脂が溶融樹脂である場合は10〜30である。
B:前記ダイのスリットを前記樹脂溶液が通過する時間が0.1〜2.0秒の範囲である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルム製造方法において、遠心分離機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルム製造方法において、濾過機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記粒子が負の屈折性を有することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記樹脂がセルロースエステルであることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記樹脂がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載のセルロースエステルフィルムは、請求項5又は請求項6に記載の光学フィルム製造方法で製造したことを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の偏光板は、偏光膜及びその両側に配置された透明保護膜からなる偏光板であって、前記両側の透明保護膜のうち少なくとも1つに、請求項7に記載のセルロースエステルフィルムが用いられていることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板を具備する液晶表示装置であって、前記2枚の偏光板のうち少なくとも1枚の偏光板が、請求項8に記載の偏光板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、粒子の向きが一定方向に良く配向する粒径範囲を有する粒子を使用し、さらに、樹脂溶液を使用する場合、ドラフト比を2.1〜6.0に、溶融樹脂を使用する場合、ドラフト比を10〜30にして、光学フィルムが製造されている。これにより、流延膜が樹脂溶液を使用する場合で2.1倍から6倍の速度で、溶融樹脂を使用する場合10倍から30倍の速度で引き伸ばされ、この引き伸ばされた方向に強いせん断応力がかかるため、粒子の向きが一定方向に配向することができる。また、製膜時において、粒子を添加した樹脂溶液や溶融樹脂によるスリット通過時間を長くする構成とすることにより、せん断応力がかかる時間が長くなり、粒子の向きが一定方向に良く配向する。また、製膜時において、粒子を添加した樹脂溶液や溶融樹脂によるスリット通過時間を長くし、加えて、ドラフト比を大きくして光学フィルムを製造することで、より粒子の向きが一定方向に良く配向する。これにより、従来に比しより大きな位相差を得ることができる。したがって、製造工程において、請求項における条件を変えることで(以下、「位相差の制御」という。)、広い範囲(以下、「位相差の制御範囲」という。)の位相差のいずれかに複屈折性を調整できる。さらに、粒子の向きが一定方向に良く配向することで、光学フィルムのスリッティング性を向上させることができ、切断時の切り粉の発生を減少させることができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、遠心分離機を用いることにより、絶対最大長とアスペクト比が所望の範囲に収まる粒子の含有率を確実に90%以上にすることが可能となる。これにより、より粒子の向きが一定方向に良く配向するようになり、大きな位相差を出すことができ、より光学フィルムの位相差の制御範囲を広くでき、複屈折性の調整の精度を上げることができる。また、そのスリッティング性をより向上させることもでき、さらに切断時の切り粉の発生をより減少させることができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、濾過機を用いることにより、絶対最大長とアスペクト比が所望の範囲に収まる粒子の含有率を確実に90%以上にすることが可能となる。これにより、より粒子の向きが一定方向に良く配向するようになり、大きな位相差を得ることができ、より光学フィルムの位相差制御範囲を広くでき、複屈折性の調整の精度をあげることができる。また、そのスリッティング性をより向上させることもでき、さらに切断時の切り粉の発生をより減少させることができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、粒子が負の複屈折性を持つため、複屈折性を有する樹脂にその粒子を含ませることにより、両方の複屈折の効果が足し合わされ、位相差が精度よく制御できる。
【0024】
請求項5の発明によれば、位相差の制御範囲が広い光学フィルムを、セルロースエステルを用いて製造できる。これにより、液晶表示装置の偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化する光学フィルムの製造が可能になる。
【0025】
請求項6の発明によれば、位相差の制御範囲が広い光学フィルムを、セルロースアセテートプロピオレートを用いて製造できる。これにより、液晶表示装置の偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化する光学フィルムの製造が可能になる。
【0026】
請求項7の光学フィルムの発明は、請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたものであるから、大きな位相差を持ち位相差の制御範囲が広く、スリッティング性が高く、切断時の切り粉の巻き込みによる変形故障が少ない。
【0027】
請求項8の偏光板の発明は、偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる偏光板であって、両透明保護層のうち少なくとも1つに、請求項12の光学フィルムが用いられているものであるから、本発明の偏光板は、部材の減少とともに、製造工程の簡略化及びコストの面において優れているという効果がある。
【0028】
請求項9の液晶表示装置の発明は、液晶セルを挟む2枚の偏光板うち少なくとも1枚の偏光板が、請求項13に記載の偏光板であるもので、本発明によれば、広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な画像表示装置、特にIPSのモードで動作する液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による光学フィルムの製造方法の概略について図1を基に説明する。ここで、図1は、本発明に係る光学フィルムの製造方法の工程図である。まず、図1に示すように、本発明の光学フィルム製造方法では、所望の粒径範囲を有する粒子である微粒子を作成する微粒子作成工程001を有する。この工程には、所望の粒径範囲を有する粒子の体積割合を上げる分級工程001(A)や、微粒子を効率よく均一に分散させるための微粒子分散液を作成する微粒子分散液調製工程001(B)などが含まれる。そこで、本発明における所望の粒径範囲について詳細に説明する。
【0030】
本発明の光学フィルムを構成する微粒子としては、複屈折性を有する微粒子の範疇に属するものである必要があり、特に延伸などの一般的な配向操作により3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムが容易に得られることから、棒状、針状、紡錘状等の細長い形態(以下、「針状」というときがある。)であることが好ましい。ここで、光学フィルムに含有された状態で説明すると、nxとは光学フィルム面内の遅相軸(x軸)方向(配向方向)の屈折率を示し、nyとはそれと垂直方向(y軸)方向の屈折率を示し、nzとは光学フィルムの厚み(z軸)方向の屈折率を示す。さらに、微粒子が一定方向に良く配向することや、ヘーズが少なく透明性の高い光学フィルムとなることから、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比(前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された微粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値)をYとしたとき、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]を満たす粒径範囲を持つ微粒子が好ましい。
[式1] Y>(X^2)/20000
[式2] Y>20×(X^(−0.5))
[式3] Y<20
[式4] 50<X<500
【0031】
ここで、[式1]の算出方法を説明する。まず、様々な粒径範囲を有する微粒子を含有する光学フィルムにおける、実際のヘーズを測定する。ここで、粒径範囲は透過電子顕微鏡で実測した。次に、レイリー散乱の式を用いてこの粒径範囲から計算できるヘーズの値と実測値を比較して、レイリー散乱の式の係数を調整し、粒径範囲から実際のヘーズが推定できるように式を作成した。そして、この式を用いて望ましい粒径範囲を算出し、そこから[式1]を算出した。
【0032】
次に、[式2]の算出方法を説明する。様々な粒径範囲を有する微粒子を含有する樹脂溶液に対して、様々なスリット通過時間又はドラフト比をかけた時の、それぞれの粒子の大きさやアスペクト比と、その粒子の向きの関係を調べる。そして、粒子の大きさやアスペクト比毎にどれだけ粒子が配向しやすいかを解析して[式2]を算出した。
【0033】
この微粒子の粒径範囲は図6に示すようなグラフで表される。ここで、図6は、縦軸はアスペクト比、横軸を絶対最大長(nm)に取ったグラフである。そして、曲線(a)が[式1]を表し、曲線(b)が[式2]を表している。そして、曲線(a)の左側の領域がヘーズ低減のため使用したい微粒子を表す領域であり、右側の領域がヘーズ低減のために除きたい微粒子を表す領域である。また、曲線(b)の上側の領域が一定方向に良く配向する微粒子を表す領域であり、下側の領域は微粒子の配向が悪くなるため除きたい微粒子を表す領域である。したがって、最も好ましい微粒子を含む領域は点線で囲まれた領域(c)で表される。
【0034】
ここで、アスペクト比が10未満の微粒子と比べるとアスペクト比が10以上の微粒子は作成し難いため、アスペクト比が10未満のものが特に好ましい。そこで、図6のグラフでは、特に好ましい範囲であるアスペクト比が10未満の領域について表している。ただし、[式1]は単調増加であり、[式2]は単調減少のグラフであるので、アスペクト比が10より大きい領域についても、このままグラフが拡大されるものである。
【0035】
本発明において負の複屈折性を有する針状微粒子を好ましく用いることができる。複屈折性微粒子の複屈折性については、次のように定義する。複屈折性微粒子の絶対最大長方向に偏光した光に対する屈折率をnpr、絶対最大長方向に直交する方向に偏光した光に対する平均屈折率をnvtとする。複屈折性微粒子の複屈折Δnは、下式(2)で定義される。
式(2) Δn=npr−nvt
すなわち、複屈折性微粒子の絶対最大長方向の屈折率が、それに直交する方向の平均屈折率よりも大きければ正の複屈折、その逆であれば負の複屈折となる。本発明で使用される複屈折性微粒子の持つ複屈折の絶対値には特に制限はないが、0.01〜0.3であることが好ましく、0.05〜0.3であることがさらに好ましい。負の複屈折性を示す複屈折性結晶としては、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン、および炭酸バリウム等が挙げられる。針状結晶の場合は結晶の長い方向の屈折率がそれとは直行する方向の屈折率よりも小さい材料を意味する。炭酸塩微粒子は、均一沈殿法あるいは炭酸ガス化合法等によって製造することができる。例えば、特開平3−88714号、特公昭55−51852号、特開昭59−223225号等に記載の方法で製造することができる。本発明に用いる微粒子は表面が疎水化処理されたものでもよく、その疎水化度がメタノールウェッタビリティ値で20%以下であることが好ましい。前記微粒子の疎水化度は、アルコール系を含む溶媒や純水などを用いて定量することが好ましい。疎水化度を定量化する方法としては、メタノールウェッタビリティ法(以下、MW法と称する)が好ましく、疎水化度は、本法で求められるメタノールウェッタビリティ値(以下、MW値と称する)で表すことが好ましい。上記のMW法において、微粒子の疎水化度を定量化するためには、メタノールと純水とを混合させた第1溶液及び第2溶液をそれぞれ用いる。このとき、メタノールと純水との配合比は、第1溶液においては体積比が4:6であることが好ましく、また、第2溶液では体積比が6:4とすることが好ましい。そして、各溶液に前記微粒子を同量添加して攪拌混合し、この混合した各溶液を遠心分離させて、前記微粒子の沈降物の体積をそれぞれ求め、第1溶液における微粒子の沈降物の体積をtmlとし、第2溶液における微粒子の沈降物の体積をsmlとしたときに、MW値を、MW=(t/s)×100〔%〕から求める。
【0036】
次に、図1に示すように、樹脂を溶かすことにより液体の樹脂を作る液化樹脂作成工程002を有する。この液化樹脂作成工程002には熱可塑性樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂や、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「ドープ」という。)がある。詳細は後述の第1の実施形態〔0047〕及び第2の実施形態〔0194〕に記載する。ここでドープを作成する場合にはセルロースエステル溶液調製工程002(A)などが含まれる。
【0037】
次に、図1に示すように、微粒子作成工程001で作成した微粒子と、液化樹脂作成工程002で作成した液体の樹脂を混ぜ合わせ攪拌する混合工程003を有する。この混合方法には微粒子分散液を調製し、それを、溶解釜1(図2参照)の中で混合したり、インライン添加工程003(A)により混合したりする方法がある。詳細は後述の第1の実施形態に記載する。また、その他の混合方法として、溶融樹脂に微粒子を添加する場合は、微粒子分散液を作成せずに粒子を直接溶融樹脂に添加して、二軸押し出し機やニーダーなどで混錬することで、微粒子が均一に分散された溶融樹脂を得る混合方法もある。
【0038】
次に、図1に示すように、混合工程003により、微粒子を含有させた溶融樹脂又は樹脂溶液を、ダイのスリットから回転駆動金属性エンドレスベルトまたは回転駆動金属性ドラムといった無限移行する無端の金属支持体上に流延して製膜する流延工程004を有する。
【0039】
本発明では、この流延工程004において、ダイのランド長を長くして熱可塑性樹脂のドープ又は溶融樹脂がダイのマニホールド内のスリットを通過する際の時間が長くなるようにしたり、流延膜の線速度Vrm(ダイのスリットからドープ又は溶融樹脂が流延される速度)に対する金属支持体の線速度Vbの比であるドラフト比Vb/Vrm(図5参照)が大きくなるようにしたりすることを特徴としている。ここで、ランド長とはダイにおけるドープを押し出すスリットのドープ流動方向の長さである(図4(A)参照)。
【0040】
そして、ドラフト比が大きければ、微粒子にかかるせん断応力が強くなるため、微粒子の向きが一定方向に良く配向することになる。したがって、ドラフト比が十分な大きさを有するときに、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。ただし、ドラフト比をあまり大きくしすぎると、光学フィルムに横段がでてしまう。そこで、ドラフト比は、ドープの場合2.1〜6.0、溶融樹脂の場合10〜30であることが好ましい。
【0041】
さらに、ドープ又は溶融樹脂がスリットを通過する時間が長ければ、微粒子にせん断応力がかかる時間を長くすることができ、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。したがって、スリット通過時間が十分な時間を有するときに、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。ただし、あまりスリット通過時間が長いと光学フィルムに縦スジが出てしまう。そこで、ダイのマニホールド内のスリットを熱可塑性樹脂のドープまたは溶融樹脂が通過する時間が0.1sec〜2.0secであることが好ましい。
【0042】
次に、図1に示すように、流延工程004で作成した流延膜を、溶媒蒸発工程005(A)、剥離工程005(B)、乾燥工程005(C)、巻き取り工程005(D)などを行なって、光学フィルムを完成させる仕上げ工程005を有する。
【0043】
以上ように、図1に示す本発明の光学フィルム製造方法における各工程を経ることで、微粒子が一定方向に良く配向した光学フィルムを製造することが可能である。
【0044】
さらに、本発明の方法により製造する光学フィルムとしては、製造が容易であること、活性線硬化型樹脂層との接着性が良好であること、光学的に透明であることなどが好ましい要件として挙げられる。
【0045】
ここで、光学フィルムについて、透明とは、可視光の透過率が60%以上であることを指し、好ましくは可視光の透過率が80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0046】
さらに、本発明において好ましく用いられる熱可塑性樹脂としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのアシル基の置換度が2.3〜2.8もしくはそれ以上のセルロースエステル樹脂などを挙げることができる。
【0047】
〔第1の実施形態〕
本発明の光学フィルムの製造方法を溶液流延製膜法で行う場合について、説明する。
【0048】
〈ドープを調製する材料〉
以下、熱可塑性樹脂としてセルロースエステルを例に挙げて、本発明を説明する。
【0049】
本発明において、セルロースエステル及びそれを溶かすための有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液をドープといい、これをもって溶液流延製膜し、セルロースエステルフィルムを形成せしめるものである。
【0050】
(セルロースエステル)
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ単独で、または任意の割合で混合して使用することができる。
【0051】
本発明において、セルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行なわれる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCI、C2H5COCI、C3H7COCI)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行なわれる。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することができる。
【0052】
セルロースエステルは、アシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットあたり3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0053】
セルロースエステルフィルムに用いることができるセルロースエステルとしては、総アシル基置換度が2.3〜2.8まで、もしくはそれ以上であることが好ましい。これは、置換度が3.0に近い樹脂は延伸しても、樹脂自体の複屈折が変わり難いからである。
【0054】
本発明に用いられるセルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)で50,000〜200,000のものが用いられる。60,000〜200,000のものがさらに好ましく、80,000〜200,000が特に好ましい。
【0055】
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnが、前記のように1.4〜3.0であることが好ましく、さらに好ましくは1.7〜2.2の範囲である。
【0056】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することができる。これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することが出来る。
【0057】
本発明に用いられるセルロースエステルは、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであり、特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートフタレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることができる。あるいは、特開2002−179701号、同2002−265639号、同2002−265638号に記載の芳香族カルボン酸とセルロースとのエステル、セルロースアシレートも好ましく用いられる。上記記載の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルはセルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートである。これらのセルロースエステルは混合して用いることもできる。
【0058】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をxとし、プロピオニル基もしくはブチリル基の置換度をyとした時、下記式(a)及び(b)を同時に満たすセルロースエステルである。
【0059】
式(a) 2.3≦x+y≦2.8
式(b) 0≦x≦2.5
アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらは公知の方法で合成することができる。
【0060】
これらアシル基置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。
【0061】
アセチルセルロースの場合、酸化率を上げようとすれば、酸化反応の時間を延長する必要がある。ただし、反応時間をあまり長くとると分解が同時に進行し、ポリマー鎖の切断やアセチル基の分解などが起こり、好ましくない結果をもたらす。したがって、酸化度を上げ、分解をある程度抑えるためには反応時間はある範囲に設定することが必要である。反応時間で規定することは反応条件がさまざまであり、反応装置や設備その他の条件で大きく変わるので適切でない。ポリマーの分解は進むにつれ、分子量分布が広くなっていくので、セルロースエステルの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値で規定できる。すなわちセルローストリアセテートの酸化の過程で、あまり長すぎて分解が進みすぎることがなく、かつ酸化には十分な時間酸化反応を行わせしめるための反応度合いの一つの指標として重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることができる。
【0062】
セルロースエステルの製造法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿花リンター100重量部を解砕し、40重量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をした。その後、硫酸8重量部、無水酢酸260重量部、酢酸350重量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行った。24質量%酢酸マグネシウム水溶液11重量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成し、アセチルセルロースを得た。これを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間攪拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の生成アセチルセルロースを得た。このアセチルセルロースはMnが92,000、Mwが156,000、Mw/Mnは1.7であった。同様にセルロースエステルのエステル化条件(温度、時間、攪拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、Mw/Mn比の異なるセルロースエステルを合成することができる。
【0063】
なお、合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去したり、未酸化の成分を濾過で取り除いたりすることも好ましく行なわれる。
【0064】
また、混酸セルロースエステルの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法によって得ることができる。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
【0065】
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ない方が好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、地下水や河川の水などに多く含まれ、これが多いと硬水となり、飲料水としても不適当であるが、カルボン酸や、スルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物、すなわち、錯体を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する。
【0066】
カルシウム(Ca)成分は60ppm以下、好ましくは0〜30ppmである。マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、0〜70ppmであることが好ましく、特に0〜20ppmであることが好ましい。鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行なった後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行なうことによって求めることができる。
【0067】
(有機溶媒)
セルロースエステルを溶解してドープの形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることができ、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。
【0068】
昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができる。
【0069】
これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることができるので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることはできるが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンが好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本発明において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0070】
本発明において、ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなると流延膜(以下、金属支持体上にドープを流延した以降の流延膜を「ウェブ」ということがある。)がゲル化し、ウェブを丈夫にし、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進したりする役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性もよいことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性を有していないので貧溶媒という。
【0071】
ドープ中のセルロースエステルの濃度は15〜30重量%、ドープ粘度は100〜500Pa・sの範囲に調製されることが良好な光学フィルム面品質を得る上で好ましい。
【0072】
ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、マット剤などの微粒子がある。本発明において、これらの添加剤はセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、マット剤などの微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。液晶画像表示装置に使用する偏光板には、耐熱・耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。下記に添加剤について説明する。
【0073】
(可塑剤)
本発明において、セルロースエステル溶液またはドープには、いわゆる可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、リタデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。
【0074】
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0075】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルホスフェート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。
【0076】
また、可塑剤として多価アルコールエステルも好ましく用いられる。
【0077】
本発明において用いられる多価アルコールは、次の一般式(1)で表される。
【0078】
(1)R1 −(OH)n
ただし、式中、R1 はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0079】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0080】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0081】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0082】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0084】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0085】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0086】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0087】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、また、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0088】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0089】
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸及び乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
【0090】
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0091】
この他の添加剤として、特開2002−22956号公報に記載のポリエステル、ポリエステルエーテル、特開2003−171499号公報に記載のウレタン樹脂、特開2002−146044号公報に記載のロジン及びロジン誘導体、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂、特開2003−96236号公報に記載の多価アルコールとカルボン酸とのエステル、特開2003−165868号公報に記載の一般式(1)で示される化合物、特開2004−292696号公報に記載のポリエステル重合体またはポリウレタン重合体等が挙げられる。これらの添加剤は、ドープもしくは微粒子分散液に含有させることができる。
【0092】
(紫外線吸収剤)
本発明において、セルロースエステル溶液またはドープには、有害な紫外線をカットするために、紫外線吸収剤を含有させることができる。
【0093】
使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報、特開2001−72782号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報、特開2002−31715号公報、特開2002−169020号公報、特開2002−47357号公報、特開2002−363420号公報、特開2003−113317号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0094】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。高分子紫外線吸収剤としては、大塚化学社製の反応型紫外線吸収剤RUVA−93を例として挙げることができる。
【0095】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0096】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0097】
紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤が溶解するようなものであれば制限なく使用できるが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等のセルロースエステルに対する良溶媒、または良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に添加するかまたは直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とポリマー中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0098】
紫外線吸収剤の含有量は0.01〜5重量%、特に0.5〜3重量%である。
【0099】
本発明においては、これら紫外線吸収剤を単独で用いても良いし、異なる2種以上の混合で用いても良い。
【0100】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して重量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0101】
(マット剤)
本発明のセルロースエステル溶液またはドープには、光学フィルムの滑り性を良くするため、あるいは物性を改善するために、マット剤などの微粒子を添加することができる。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、その形状としては、球状、平板状、棒状、針状、層状、不定形状などが用いられる。無機化合物の微粒子の例としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、カオリン、タルク、クレイ、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、及びリン酸カルシウム等の金属酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩、炭酸酸塩を挙げることができる。
【0102】
有機化合物の微粒子の例としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の微粒子を挙げることができ、シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元網状構造を有するものが好ましい。例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(東芝シリコーン株式会社製)を挙げることができる。
【0103】
中でも、二酸化珪素が光学フィルムのヘーズを低くできるので、好ましい。二酸化珪素のような微粒子は、有機物によって表面処理されていることが多いが、このようなものは光学フィルムのヘーズを低減できるので好ましい。表面処理で好ましい物質としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。
【0104】
微粒子の平均粒径は大きい方が、滑り性効果は大きく、反対に、平均粒径が小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の平均粒径は、0.005〜1.0μmの範囲である。これらの一次粒子であっても、凝集によってできた二次粒子であっても良い。微粒子の含有量は樹脂に対して1m2あたり0.01〜20g含有させることが好ましい。
【0105】
二酸化珪素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V,R974、R202、R812、R805、OX50、TT600などを挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種類以上併用しても良い。2種類以上併用する場合は、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えばアエロジル200VとR972Vを質量比で、0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0106】
上記マット剤として用いられる光学フィルム中の微粒子の存在は、別の目的として、光学フィルムの強度向上のために用いられることができる。
【0107】
(複屈折性調整用の微粒子)
本発明の光学フィルムには、大きな位相差制御範囲を確保するため、あるいは物性を改善するために、複屈折性を有する微粒子を添加する。これにより、本発明の光学フィルムは、3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムとなる。ここで、nxとは光学フィルム面内の遅相軸(x軸)方向(配向方向)の屈折率を示し、nyとはそれと垂直方向(y軸)方向の屈折率を示し、nzとは光学フィルムの厚み(z軸)方向の屈折率を示す。
【0108】
本発明の光学フィルムを構成する複屈折性を有する微粒子としては、複屈折性を有する微粒子の範疇に属するものである必要があり、特に延伸などの一般的な配向操作により3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムが容易に得られることから、棒状、針状、紡錘状等の細長い形態であることが好ましい。さらに、微粒子が一定方向に良く配向することや、ヘーズの値が低く透明性の高い光学フィルムとなることから、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比(前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された微粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値)をYとしたとき、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]を満たす粒径範囲を持つ微粒子が好ましい。(以下、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]をまとめて記載するときは[粒径範囲式]と記載する。)
[式1] Y>(X^2)/20000
[式2] Y>20×(X^(−0.5))
[式3] Y<20
[式4] 50<X<500
【0109】
この微粒子の粒径範囲は図6に示すようなグラフで表される。ここで、図6は、縦軸はアスペクト比、横軸を絶対最大長(nm)に取ったグラフである。そして、曲線(a)が[式1]を表し、曲線(b)が[式2]を表している。そして、曲線(a)の左側の領域がヘーズ低減のため使用したい微粒子を表す領域であり、右側の領域がヘーズ低減のために除きたい微粒子を表す領域である。また、曲線(b)の上側の領域が一定方向に良く配向する微粒子を表す領域であり、下側の領域は微粒子の配向が悪くなるため除きたい微粒子を表す領域である。したがって、最も好ましい微粒子を含む領域は点線で囲まれた領域(c)で表される。
【0110】
ここで、アスペクト比が10未満の微粒子と比べるとアスペクト比が10以上の微粒子は作成し難いため、アスペクト比が10未満のものが特に好ましい。そこで、図6のグラフでは、特に好ましい範囲であるアスペクト比が10未満の領域について表している。ただし、[式1]は単調増加であり、[式2]は単調減少のグラフであるので、アスペクト比が10より大きい領域についても、このままグラフが拡大されるものである。
【0111】
さらに、本発明における微粒子は、その中でも負の複屈折性を有する微粒子であることが好ましく、特に大きなΔnを有する負の複屈折性を有する微粒子であることが好ましい。
【0112】
該微粒子としては、例えば炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸バリウム、炭酸マンガンが上げられる。
【0113】
(界面活性剤)
本発明で用いられるドープあるいは微粒子分散液には、界面活性剤を含有することが好ましく、リン酸系、スルホン酸系、カルボン酸系、ノニオン系、カチオン系等特に限定されない。これらは、例えば特開昭61−243837号公報等に記載されている。界面活性剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0.002〜2重量%が好ましく、0.01〜1重量%がより好ましい。添加量が0.001重量%未満であれば添加効果を十分に発揮することができず、添加量が2重量%を超えると、析出したり、不溶解物を生じたりすることがある。
【0114】
さらに、本発明で用いられる炭酸ストロンチウムの微粒子は表面処理を行ってからドープを作成することが好ましく、ノニオン界面系活性剤で表面処理することがさらに好ましい。これは、微粒子はそのままでは癒着する性質があるため、光学フィルム内の複屈折性に偏りが出てしまう。そこで、微粒子同士を癒着させないために表面処理を行うものである。
【0115】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリグリシジルやソルビタンをノニオン性親水性基とする界面活性剤であり、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル、ポリオキシエチレン―ポリオキシプロピレングリコール、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステルを挙げることができる。
【0116】
アニオン系界面活性剤としてはカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩であり、代表的なものとしては脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩、ジアルキルスルフォコハク酸塩、α−スルホン化脂肪酸塩、N−メチル−Nオレイルタウリン、石油スルホン酸塩、アルキル硫酸塩、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニールエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩ホルムアルデヒド縮合物等である。
【0117】
カチオン系界面活性剤としてはアミン塩、4級アンモニウム塩、ピリジュム塩等を挙げることができ、第1〜第3脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩(テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等)を挙げることができる。両性系界面活性剤としてはカルボキシベタイン、スルフォベタイン等であり、N−トリアルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N−トリアルキル−N−スルフォアルキレンアンモニウムベタイン等である。
【0118】
フッ素系界面活性剤は、フルオロカーボン鎖を疎水基とする界面活性剤である。フッ素系界面活性剤としては、C8F17CH2CH2O-(CH2CH2O)10-OSO3Na、C8F17SO2N(C3H7)(CH2CH2O)16-H、C8F17SO2N(C3H7)CH2COOK、C7F15COONH4、C8F17SO2N(C3H7) (CH2CH2O)4-(CH2)4-SO3Na、C8F17SO2N(C3H7)(CH2)3-N+(CH3)3・I−、C8F17SO2N(C3H7)CH2CH2CH2N+(CH3)2-CH2COO−、C8F17CH2CH2O(CH2CH2O)16-H、C8F17CH2CH2O(CH2)3-N+(CH3)3・I−、H(CF2)8-CH2CH2OCOCH2CH(SO3)COOCH2CH2CH2CH2(CF2)8-H、H(CF2)6CH2CH2O(CH2CH2O)16-H、H(CF2)8CH2CH2O(CH2)3-N+(CH3)3・I−、H(CF2)8CH2CH2OCOCH2CH(SO3)COOCH2H2CH2CH2C8F17、C9F17-C6H4-SO2N(C3H7)(CH2CH2O)16-H、C9F17-C6H4-CSO2N(C3H7)(CH2)3-N+(CH3)3・I−等が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0119】
(剥離促進剤)
さらに、剥離時の荷重を小さくするための剥離促進剤も、ドープに添加してもよい。それらは、界面活性剤が有効であり、リン酸系,スルホン酸系,カルボン酸系,ノニオン系,カチオン系等があるが、これらに特に限定されない。これらの剥離促進剤は、例えば特開昭61−243837号公報等に記載されている。特開昭57−500833号公報にはポリエトキシル化リン酸エステルが剥離促進剤として開示されている。特開昭61−69845号公報には非エステル化ヒドロキシ基が遊離酸の形であるモノまたはジリン酸アルキルエステルをセルロースエステルに添加することにより迅速に剥離できることが開示されている。また、特開平1−299847号公報には非エステル化ヒドロキシル基及びプロピレンオキシド鎖を含むリン酸エステル化合物と無機物粒子を添加することにより剥離荷重が低減できることが開示されている。
【0120】
また、下記式(2)または(3)で表される化合物が含まれていることが好ましい。
【0121】
(2)(R1-B1-O)n1-P(=O)-(OM1)n2
(3) R2-B2-X
式中、R1及びR2は、それぞれ、炭素数4〜40の置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基であり、M1は、アルカリ金属、アンモニア、低級アルキルアミンであり、B1及びB2は、それぞれ、2価の連結基であり、Xは、カルボン酸またはその塩、スルホン酸またはその塩、あるいは硫酸エステルまたはその塩であり、n1は、1または2であり、そして、n2は、3−n1である。
【0122】
上記の式(2)または(3)で表される少なくとも一種の剥離剤を、セルロースアシレートフィルムに含有することが好ましい。
【0123】
以下に、これらの剥離剤について記述する。R1とR2の好ましい例としては、炭素数4〜40の置換、無置換のアルキル基(例えば、ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコサニル、ドコサニル、ミリシル、等)、炭素数4〜40の置換、無置換のアルケニル基(例えば、2−ヘキセニル、9−デセニル、オレイル等)、炭素数4〜40の置換、無置換のアリール基(例えば、フェニル、ナフチル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ジイソプロピルフェニル、トリイソプロピルフェニル、t−ブチルフェニル、ジ−t−ブチルフェニル、トリ−t−ブチルフェニル、イソペンチルフェニル、オクチルフェニル、イソオクチルフェニル、イソノニルフェニル、ジイソノニルフェニル、ドデシルフェニル、イソペンタデシルフェニル)である。
【0124】
これらの中でもさらに好ましいのは、アルキルとしては、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコサニル、アルケニルとしてはオレイル、アリール基としてはフェニル、ナフチル、トリメチルフェニル、ジイソプロピルフェニル、トリイソプロピルフェニル、ジ−t−ブチルフェニル、トリ−t−ブチルフェニル、イソオクチルフェニル、イソノニルフェニル、ジイソノニルフェニル、ドデシルフイソペンタデシルフェニルである。
【0125】
つぎに、B1、B2の2価の連結基について記述する。炭素数1〜10のアルキレン、ポリ(重合度1〜50)オキシエチレン、ポリ(重合度1〜50)オキシプロピレン、ポリ(重合度1〜50)オキシグリセリン、でありこれらの混合したものでもよい。これらで好ましい連結基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ポリ(重合度1〜25)オキシエチレン、ポリ(重合度1〜25)オキシプロピレン、ポリ(重合度1〜15)オキシグリセリンである。
【0126】
つぎに、Xは、カルボン酸(または塩)、スルホン酸(または塩)、硫酸エステル(または塩)であるが、特に好ましくはスルホン酸(または塩)、硫酸エステル(または塩)である。塩としては好ましくはNa、K、アンモニウム、トリメチルアミン及びトリエタノールアミンである。以下に、本発明の好ましい化合物の具体例を記載する。
【0127】
RZ−1 C8H17O-P(=O)-(OH)2
RZ−2 C12H25O-P(=O)-(OK)2
RZ−3 C12H25OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2
RZ−4 C15H31(OCH2CH2)5O-P(=O)-(OK)2
RZ−5 {C12H25O(CH2CH2O)5}2-P(=O)-OH
RZ−6 {C18H35(OCH2CH2)8O}2-P(=O)-ONH4
RZ−7 (t-C4H9)3-C6H2-OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2
RZ−8 (iso-C9H19-C6H4-O-(CH2CH2O)5-P(=O)-(OK)(OH)
RZ−9 C12H25SO3Na
RZ−10 C12H25OS3Na
RZ−11 C17H33COOH
RZ−12 C17H33COOH・N(CH2CH2OH)3
RZ−13 iso-C8H17-C6H4-O-(CH2CH2O)3-(CH2)2SO3Na
RZ−14 (iso-C9H19)2-C6H3-O-(CH2CH2O)3-(CH2)4SO3Na
RZ−15 トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−16 トリ-t-ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−17 C17H33CON(CH3)CH2CH2SO3Na
RZ−18 C12H25-C6H4SO3・NH4
これらの化合物の使用量は、ドープ中に0.002〜2重量%で含有することが好ましい。より好ましくは0.005〜1重量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%である。その添加方法は、特に限定されないがそのまま液体あるいは固体のまま、溶解する前に他の素材と共に添加され溶液としてもよいし、予め作製されたセルロースアシレート溶液に後から添加してもよい。
【0128】
(その他の添加剤)
この他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。さらに帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0129】
〈溶液流延製膜法〉
本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法により実施される。
【0130】
図2は、光学フィルムの溶液流延製膜法の微粒子分散液調製工程001(A)、セルロースエステル溶液調製工程002(A)、インライン添加工程003(A)、流延工程004及び仕上げ工程005を模式的に示した概略図である。ここで、微粒子分散液調製工程001(A)、セルロースエステル溶液調製工程002(A)、及びインライン添加工程003(A)はドープの調製を行う工程である。
【0131】
(1)微粒子分散液調製工程001(A)
微粒子分散液の調製方法は、特に限定はされないが、下記のa)もしくはb)の方法で行なうことが好ましい。
【0132】
a)溶解釜10中に有機溶媒と微粒子分散用樹脂を導入し、攪拌溶解し、樹脂溶液とする(図2参照)。これとは別に、有機溶媒と微粒子の混合液を送液ポンプ2でマントンゴーリーやサンドミル等の分散機(図示略)に移送し、プレ分散を行なう。微粒子のプレ分散液を前記の樹脂溶液に添加し、攪拌し、これを送液ポンプ11で濾過器12に送って凝集物を取り除き、微粒子分散液として、ストックタンク(静置釜)13にストックする。調製された微粒子分散液は、さらに何回か分散と濾過を繰り返してもよい。
【0133】
b)溶解釜10中に有機溶媒と例えばセルロースエステル系樹脂を加え、攪拌溶解して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に微粒子を加えて、マントンゴーリンもしくはサンドミル等の分散機(図示略)で分散し、それを送液ポンプ11で濾過器12に送って凝集物を除き微粒子分散液とする(何回か同様な操作を繰り返し循環させてもよい)。そして微粒子分散液を切り替え弁17からストックタンク13に移送し、静置脱泡後、送液ポンプ(例えば加圧型定量ギヤポンプ)14で移送し、濾過器15で濾過して導管16で移送する。
【0134】
微粒子分散液には、さらに可塑剤、紫線吸収剤、分散剤等も添加してもよい。
【0135】
本発明において、上記のような微粒子分散液を調製する際に使用する分散機は、大きくはメディアレス分散機とメディア分散機とに分けられ、どちらも使用することができる。
【0136】
メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型等があり、本発明においては高圧分散装置が好ましく用いられる。高圧分散装置は微粒子と溶媒を混合した組成物を細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態等特殊な条件を作りだす装置である。高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が9.8×106Pa以上であることが好ましい。さらに好ましくは19.6×106Pa以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが好ましい。上記のような高圧分散装置にはMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザー、あるいはウルトラタラックスがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えば、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー、三和機械株式会社社製UHN−01等が挙げられる。
【0137】
メディア分散機としては、ガラスビーズ、セラミックビーズ等のメディアの衝突力を利用して分散するタイプのボールミル、サンドミル、ダイノミル等が挙げられる。本発明では、特にメディア分散機が好ましく用いられる。
【0138】
このようにして調製された微粒子分散液は濾過により、凝集物や異物が除去される。得られた微粒子分散液を用いて、ドープが調製される。
【0139】
(2)セルロースエステル溶液調製工程002(A)
本発明においては、上記の方法で予め調製された微粒子分散液と溶媒とセルロースエステルとを混合してドープが調製される。具体的には、溶解釜1に溶媒の一部と微粒子分散液とを添加混合した後、ここに残りの溶媒とセルロースエステルとを攪拌しながら添加し溶解させることが好ましい。可塑剤等の添加剤は、先に溶解釜1に添加していても、後から添加することもできる。
【0140】
あるいは、溶解釜1中の溶媒にセルロースエステルや可塑剤等の添加剤を攪拌しながら添加し、セルロースエステルの溶解中にさらに前記微粒子分散液を添加してもよい。もしくは、溶媒とセルロースエステル及び可塑剤等の添加剤とを混合してセルロースエステル溶液を得て、ここに前記微粒子分散液を攪拌しながら添加することもできる。
【0141】
セルロースエステル溶液を調製する方法を、さらに詳細に説明する。
【0142】
前述のセルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜1中でセルロースエステルや可塑剤等の添加剤を攪拌しながら溶解する。溶解には、常圧で行なう方法、主溶媒の沸点以下で行なう方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行なう高温溶解方法、冷却して溶解する冷却溶解方法、かなりの高圧で行なう高圧溶解方法等種々の溶解方法があるが、本発明においては、高温溶解方法が好ましく用いられる。
【0143】
溶解釜1の中で前記微粒子分散液とセルロースエステルと溶媒が混合されて得られたセルロースエステル溶液は、セルロースエステルが溶解した後、ポンプ2で濾過器3に送液して濾過される。
【0144】
濾過は、このセルロースエステル溶液をフィルタープレス用の濾紙等の適当な濾材を用いて行なうことが好ましい。本発明において、濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題点があり、絶対濾過精度8μm以下の濾材が好ましく、1〜8μmの範囲の濾材がより好ましく、3〜6μmの範囲の濾材がさらに好ましい。濾紙としては、例えば市販品の安積濾紙株式会社のNo.244やNo.277の濾紙等を挙げることができ、好ましく用いられる。
【0145】
濾過の濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材やステンレス等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過は通常の方法で行なうことができるが、加圧下で、使用有機溶媒の常圧での沸点以上で、かつ有機溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱または保温しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度範囲は使用有機溶媒に依存はするが、45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0146】
濾圧は小さい方が好ましく、0.3〜1.6MPaであることが好ましく、0.3〜1.2MPaであることがより好ましく、0.3〜1.0MPaであることがさらに好ましい。
【0147】
このようにして得られたドープはストックタンク4に保管され、脱泡された後、流延に用いられる。
【0148】
このようにドープ釜中で微粒子分散液とセルロースエステル溶液とを混合してドープを調製することが好ましい方法として挙げられるが、セルロースエステル溶液と微粒子分散液の一部もしくは全部をインラインで混合することもできる。
【0149】
例えば、図2では、インラインで微粒子分散液を添加する工程の一例を示している。微粒子分散液は、セルロースエステル溶液(もしくはドープ原液と称する場合がある)と、合流管20で合流される。合流管20の直前には、濾過器6,15が配置されており、例えば濾材交換等に伴い経路から発生する大きな異物を、送液中の微粒子分散液あるいはドープ原液から除去することができる。
【0150】
ここでは、耐溶剤性を有する金属製の濾過器6,15が好ましく用いられる。濾材としては、耐久性の観点から金属、特にステンレス鋼が好ましい。目詰まりの観点から60〜80%の空孔率を有していることが好ましい。最も好ましくは、絶対濾過精度30〜60μmであって、かつ空孔率60〜80%の金属製濾材で濾過することであり、これにより、長期に亘り、確実に粗大な異物を除くことができ好ましい。絶対濾過精度30〜60μmでかつ空孔率60〜80%の金属製濾材としては、例えば、日本精線株式会社製ファインポアNFシリーズのNF−10、同NF−12、同NF−13等を挙げることができる。
【0151】
上記濾材の空孔率は60〜80%であることが好ましく、65〜75%であることがより好ましい。空孔率が大きい方が圧力損失が小さくなる点で好ましく、空孔率の小さいほうが耐圧性に優れるため好ましい。空孔率を求めるには、まず濾材を両面張力の低い溶媒中に浸漬し、濾材中の空気を取り除き、溶媒の増加した量から濾材の空孔量を求め、濾材の体積で割れば算出することができる。
【0152】
(3)インライン添加工程003(A)
図2に示す溶解釜1で、予め微粒子分散液とセルロースエステルと溶媒を混合してドープを調製する場合は、通常、微粒子分散液をインライン添加する必要はない。しかしながら、必要に応じて、微粒子の全部もしくは一部をインラインで混合することができる。
【0153】
図2を参照してインライン添加工程を説明すると、セルロースエステル溶液(ドープ原液と称することがある)を送液ポンプ5により移送し、濾過器6で濾過し、導管8で移送する。一方、微粒子分散液それぞれを送液ポンプ14により移送し、濾過器15で濾過し、導管16で移送する。そして、合流管20で両液を合流させる。合流した両液は導管内を、層状で移送するため、そのままでは混合しにくい。そこで、両液を合流後、インラインミキサーのような混合機21で十分に混合しながら次工程に移送する。
【0154】
本発明で使用できる混合機21としてのインラインミキサーとしては、例えばスタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer、東レエンジニアリング製)が好ましい。
【0155】
上記(2)セルロースエステル溶液調製工程、もしくは(2)セルロースエステル溶液調製工程と(3)インライン添加工程によって調製されたドープは、ドープ中の固形分濃度は15重量%以上に調整することが好ましく、特に18〜30重量%が好ましい。ドープ中の固形分濃度が高すぎると、ドープの粘度が高くなりすぎ、流延時にシャークスキン等が生じて光学フィルム平面性が劣化する場合があるので、30重量%以下であることが好ましい。
【0156】
(4)流延工程004
前工程までに調製されたドープを、図2に示す導管22によってダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属支持体31、すなわち例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトまたは回転駆動ステンレス鋼製ドラム(金属支持体)31上の流延位置に、ダイ30からドープを流延する工程である。金属支持体31の表面は鏡面となっている。ダイ30(例えば加圧型ダイス)は口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすいため好ましい。ダイ30には、コートハンガーダイスやTダイス等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるためにダイ30を金属支持体31上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0157】
図3は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置のダイ30とドープの供給管23との接続状態を示す拡大斜視図である。図4(A)及び(B)は、ランド長が異なる同ダイ30の拡大横断面図である。ここで、図3におけるWはスリットの幅を示している。また、図4におけるSはダイ30のスリットを示しており、HはスリットSの間隙を示しており、LはスリットSのドープ流動方向の長さ(以下、ランド長Lという。)を示している。
【0158】
そして、ダイ30のスリットの間隙Hは、狭すぎると送液圧力が高くなり過ぎるとともに微小な異物がドープに混入した場合にスリットS内で引っかかり、その部分が光学フィルムでスジになってしまう。また膜厚制御が非常にシビアになる。また、間隙Hが広すぎても精密な膜厚制御がしづらくなることから、0.2〜0.3mmの範囲が好ましい。
【0159】
さらに、ダイ30のスリットSをドープが流れるときのスリット通過時間が長くなると、微粒子に対しせん断応力がかかる時間が長くなるので、熱可塑性樹脂のドープに含まれた微粒子が一定方向に良く配向することになる。すなわち、微粒子を一定方向に良く配向させるためには、製膜において長いスリット通過時間が得られることが必要である。ただし、スリット通過時間を長くするためにランド長Lをあまり長くすると光学フィルムに縦スジができてしまう。そこで、かかるスリットSのドープのスリット通過時間は0.1〜2.0[sec]の範囲が好ましい。
【0160】
流延用の金属支持体31の表面温度は10〜55℃、ドープの温度は25〜60℃、さらに溶液の温度を支持体の温度と同じまたはそれ以上の温度にすることが好ましく、5℃以上の温度に設定することがさらに好ましい。
【0161】
溶液温度、支持体温度は、高いほど溶媒の乾燥速度が速くできるので好ましいが、あまり高すぎると発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
【0162】
さらに、流延膜の線速度Vrmに対する金属支持体の線速度Vbの比であるドラフト比Vb/Vrmを大きくすると、微粒子にかかるせん断応力が強くなるため、熱可塑性樹脂のドープに含まれた微粒子が一定方向によく配向することになる。ここで、流延膜の線速度は、ドープがダイ30から出た直後の速度であり、ドープ流量を、スリットSの幅WとスリットSの間隙Hの積(つまり断面積)で割ることで求められる。すなわち、微粒子を一定方向に良く配向させるため、このドラフト比を大きくする必要がある。ただし、ドラフト比があまり大きいと光学フィルムに横段がでてしまう。そこで、かかるドラフト比は2.1〜6.0の範囲が好ましい。
【0163】
ここで、本実施形態ではスリットSの間隙Hが一定なダイ30を使用しているが、これは、ドープの流速が下端に向かって大きくなるように、スリットSの間隙Hが上部で広く、下部に行くにしたがって狭くなっている形のダイ(特願2005−288042参照)を使用してもよい。
【0164】
(5)溶媒蒸発工程005(A)
ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降の流延膜)32を金属支持体31上で加熱し金属支持体31からウェブ32が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ32側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体31の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0165】
(6)剥離工程005(B)
金属支持体31上で溶媒が蒸発したウェブ32を、剥離位置33で剥離する工程である。剥離されたウェブ32は次工程に送られる。剥離する時点でのウェブ32の残留溶媒量(後述の式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体31上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブ32の一部が剥がれたりする。本発明において、薄手のウェブを金属支持体から剥離する際、平面性の劣化やつれがないように行うには、剥離張力として剥離できる最低張力から170N/m以内の力で剥離することが好ましく、140N/m以内の力がより好ましい。
【0166】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体31上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め、製膜速度を上げることができるのである。金属支持体31上でのウェブ32の乾燥が条件の強弱、金属支持体31の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することができるが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブ32が柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすくなったりするので、経済速度と品質との兼ね合いで剥離の際の残留溶媒量が決められる。従って、本発明においては、該金属支持体31上の剥離位置における温度を10〜40℃、好ましくは15〜30℃とし、かつ該剥離位置におけるウェブ32の残留溶媒量を10〜120質量%とすることが好ましい。
【0167】
製造時のセルロースエステルフィルムが良好な平面性を維持するために、金属支持体から剥離する際の残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、より好ましくは70〜150質量%であり、さらに好ましくは100〜130質量%である。残留溶剤中に含まれる良溶剤の比率は50〜90%が好ましく、さらに好ましくは、60〜90%であり、特に好ましくは、70〜80%である。
【0168】
本発明においては、残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
【0169】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量で、下記のガスクロマトグラフィーにより測定した質量であり、Nは該Mを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0170】
(7)乾燥工程005(C)
剥離後、一般には、図2に示すように、ウェブ32を複数の搬送ロール36に交互に通して搬送するロール乾燥装置35及びウェブ32の両端を把持して搬送するテンター装置34を用いてウェブ32を乾燥する。図2では、テンター装置34の後に、搬送ロール36を具備するロール乾燥装置35が配置されているが、この配置のみに限定されるものではない。
【0171】
乾燥の手段としてはウェブ32の両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥はでき上がりの光学フィルムの平面性を損ねやすい。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。37はでき上がったセルロースエステルフィルムの巻き取りである。セルロースエステルフィルムの乾燥工程において、残留溶媒量を0.5質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以下にして巻き取ることがより好ましい。
【0172】
テンター装置34による延伸工程についてさらに詳細に説明する。本発明によるセルロースエステルフィルムを製造する際の延伸倍率は、製膜方向もしくは幅手方向に対して、1.01〜3倍であり、好ましくは1.5〜3倍である。2軸方向に延伸する場合、高倍率で延伸する側が、1.01〜3倍であり、好ましくは1.5〜3倍であり、もう一方の方向の延伸倍率は0.8〜1.5倍、好ましくは0.9〜1.2倍に延伸することができる。
【0173】
これにより、本発明のリタデーション値を有するセルロ−スエステルフィルムを好ましく得ることと共に、平面性の良好なセルロ−スエステルフィルムを得ることができる。製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0174】
本発明に係る光学フィルムを作製するための延伸工程(テンター工程ともいう)の一例を説明する。
【0175】
テンター装置34において、まず、第1工程では、図示されていないフィルム搬送工程から搬送されてきた光学フィルムを把持する工程であり、次の第2工程において、光学フィルムが幅手方向(光学フィルムの進行方向と直交する方向)に延伸され、第3工程においては、延伸が終了し、光学フィルムが把持したまま搬送される工程である。
【0176】
光学フィルム剥離後から第2幅手方向延伸工程開始前、及び/または第3把持工程の直後に、光学フィルム幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、第1把持工程開始直前にフィルム端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行なった際、特に、第2幅手方向延伸工程開始前に光学フィルム端部を切除した場合と、光学フィルム端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより光学フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布という)を改良する効果が得られる。
【0177】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸の第2工程までの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0178】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0179】
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが好ましい。また、二軸延伸を行なう場合にも同時二軸延伸を行なってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行なうことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。
【0180】
また、本発明における延伸方向とは、延伸操作を行なう場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方の意味で使用される。
【0181】
セルロ−スエステルフィルムを幅手方向に延伸する場合には、配向角分布が悪くなることはよく知られている。厚み方向リタデーション(Rth)と面内方向リタデーション(Ro)の値を一定比率とし、かつ配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行なうため、上記のテンター工程における第1把持工程、第2幅手方向延伸工程、第3把持工程で好ましいフィルム温度の相対関係が存在する。第1把持工程、第2幅手方向延伸工程、第3把持工程終点でのフィルム温度をそれぞれTa℃、Tb℃、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10かつ、Tc≦Tbであることがさらに好ましい。
【0182】
第2幅手方向延伸工程でのフィルム昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5〜10℃/sの範囲が好ましい。
【0183】
第2幅手方向延伸工程での延伸時間は、温度80℃、湿度90%RH条件における寸法変化率を小さくするためには短時間である方が好ましい。ただし、光学フィルムの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。また、第2幅手方向延伸工程の温度は40〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
【0184】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9〜419×103J/m2hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。さらに好ましくは、41.9〜209.5×103J/m2hrの範囲であり、41.9〜126×103J/m2hrの範囲が最も好ましい。
【0185】
温度80℃、及び湿度90%RH条件下における寸法安定性を良好にするため、上記第2幅手方向延伸工程での幅手方向への延伸速度は、一定で行なってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50〜500%/minが好ましく、さらに好ましくは100〜400%/min、200〜300%/minが最も好ましい。
【0186】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、光学フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、光学フィルムの幅手での温度分布も小さくなることが期待できる。
【0187】
テンター装置34の第3把持工程において、寸法変化を抑えるため幅方向に緩和することが好ましい。具体的には、前工程のフィルム幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにフィルム幅を調整することが好ましい。
【0188】
テンター工程で処理した後、さらに後乾燥工程を設けるのが好ましい。50〜160℃で行なうのが好ましい。さらに好ましくは、80〜150℃の範囲であり、最も好ましくは110〜150℃の範囲である。
【0189】
後乾燥工程で、光学フィルムの幅方向の雰囲気温度分布が少ないことは、光学フィルムの均一性を高める観点から好ましい。±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0190】
(8)巻き取り工程005(D)
乾燥が終了したウェブ32を光学フィルムとして巻き取り、図2に示す光学フィルムの元巻37を得る工程である。乾燥を終了する光学フィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好な光学フィルムを得ることができる。
【0191】
光学フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0192】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして10〜150μmの範囲が好ましく、さらに30〜100μmの範囲がより好ましく、特に40〜80μmの範囲が好ましい。薄過ぎると例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。厚過ぎると従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイ30の口金のスリット間隙、ダイ30の押し出し圧力、金属支持体31の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0193】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことはもちろんである。
【0194】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の光学フィルムの製造方法を溶融押出し製膜法で行う場合について、説明する。
【0195】
〈溶融押出し製膜法〉
溶融押出し製膜法としては、図示は省略したが、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押出し法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、30〜200μm程度の厚さに加工しやすく、かつ、リタデーションの絶対値およびそのバラツキを小さくできるTダイを用いた溶融押出し法が好ましい。
【0196】
溶融押出し製膜法の条件は、他の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして成形できる。例えば、乾燥したセルロースエステル系樹脂、(及びノルボルネン系樹脂)を1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し、異物を除去した後、Tダイからシート状に流延し、前述の回転駆動金属性ドラム〔0038〕上で固化させる。
【0197】
本実施形態の方法において、供給ホッパーから押し出し機へ導入する際は、減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。冷却ドラムの温度は、セルロースエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下が好ましい。冷却ドラムへ樹脂を密着させるために、静電印加により密着させる方法、風圧により密着させる方法、全幅あるいは端部をニップして密着させる方法、減圧で密着させる方法などを用いることが好ましい。また、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押し出し機からダイまでの配管には滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。ダイ周辺に樹脂から揮発成分が析出しダイラインの原因となる場合があるので、揮発成分を含んだ雰囲気は吸引することが好ましい。また、静電印加等の装置にも析出する場合があるので、交流を印加したり、他の加熱手段で析出を防止することが好ましい。
【0198】
酸化防止剤、可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0199】
溶融押出し製膜法で成形されたセルロースエステルフィルムは、溶液流延製膜法で成形されたセルロースエステルフィルムと異なり、厚み方向リタデーション(Rth)が小さいとの特徴があり、このようなセルロースエステルフィルムを延伸することにより面内方向リタデーション(Ro)を発現し易く、延伸倍率を大きくする必要がないので、白濁のない透明性に優れたセルロースエステルフィルムが得られるのである。
【0200】
ついで、得られた光学フィルムを一軸方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、特に制限はないが、公知のピンテンターやクリップ式のテンターなどを好ましく用いることができる。延伸方向は長さ方向でも幅手方向でも任意の方向(斜め方向)でも可能であるが、本発明では延伸方向を幅手方向とすることで光学フィルムとの積層がロール形態でできるので好ましい。幅手方向に延伸することでセルロースエステルフィルムの遅相軸は幅手方向になる。一方、光学フィルムの透過軸も通常幅手方向である。光学フィルムの透過軸とセルロースエステルフィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、良好な視野角が得られるのである。
【0201】
延伸条件は、所望のリタデーション特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。通常、延伸倍率は1.1〜2.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、通常、光学フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。延伸倍率が小さすぎると所望のリタデーションが得られない場合があり、大きすぎると破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると、破断し、高すぎると、所望のリタデーションが得られない場合がある。
【0202】
上記の方法で作製した光学フィルムのリタデーションを合目的の値に修正する場合、光学フィルムを長さ方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長さ方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長さ方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることにより光学フィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。なお、光学フィルム両端部のクリップの把持部分は、通常、光学フィルムが変形しており、製品として使用できないので、切除されて、原料として再利用される。
【0203】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりの光学フィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては30〜100μmの範囲が好ましく、特に40〜80μmの範囲が好ましい。膜厚は、所望の厚さになるように、押し出し流量、ダイの口金のスリット間隙、冷却ドラムの速度等をコントロールすることで調整できる。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0204】
〔光学フィルムの物性〕
本発明による、セルロースエステルフィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿性と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明によるセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0205】
以下、本発明に係るセルロースエステルフィルム、並びに光学フィルムの物性に関し、下記に纏めて記載する。
【0206】
(セルロ−スエステルフィルムの透過率)
液晶表示装置の部材としては高い透過率が求められ、上述の添加剤を組み合せて添加し、製造されたセルロ−スエステルフィルムの500nm透過率は、85〜100%が好ましく、90〜100%がさらに好ましく、92〜100%が最も好ましい。400nm透過率は40〜100%が好ましく、50〜100%がさらに好ましく、60〜100%が最も好ましい。また、紫外線吸収性能が求められることがあり、その場合は、380nm透過率は0〜10%が好ましく、0〜5%がさらに好ましく、0〜3%が最も好ましい。
【0207】
(セルロ−スエステルフィルムの幅手方向の膜厚分布)
本発明のセルロ−スエステルフィルムは、幅手方向での膜厚分布R(%)を0≦R(%)≦5%であることが好ましく、さらに好ましくは、0≦R(%)≦3%であり、特に好ましくは、0≦R(%)≦1%である。
【0208】
(セルロ−スエステルフィルムのヘーズ値)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ヘーズ値が、2%以内が好ましく、1.5%以内がより好ましく、1%以内が最も好ましい。
【0209】
(セルロ−スエステルフィルムの弾性率)
弾性率は1.5〜5GPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、1.8〜4GPaであり、特に好ましくは、1.9〜3GPaの範囲である。
【0210】
また、破断点応力が50〜200MPaの範囲であることが好ましく、70〜150MPaの範囲であることがさらに好ましく、80〜100MPaの範囲であることが最も好ましい。
【0211】
23℃、55%RHでの破断点伸度が20〜80%の範囲であることが好ましく、30〜60%の範囲であることがさらに好ましく、40〜50%の範囲であることが最も好ましい。
【0212】
また、吸湿膨張率が−1〜1%の範囲であることが好ましく、−0.5〜0.5%の範囲がさらに好ましく、0〜0.2%以下が最も好ましい。
【0213】
また、輝点異物が0〜80個/cm2であることが好ましく、0〜60個/cm2の範囲であることがさらに好ましく、0〜30個/cm2の範囲であることが最も好ましい。
【0214】
一般的にセルロ−スエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして使用する場合、偏光子との接着性を良好なものにするため、アルカリ鹸化処理が行われる。アルカリ鹸化処理後の光学フィルムと偏光子とをポリビニルアルコール水溶液を接着剤として接着するため、セルロ−スエステルフィルムのアルカリ鹸化処理後の水との接触角が高いとポリビニルアルコールでの接着ができず偏光板保護フィルムとしては問題となる。
【0215】
このため、アルカリ鹸化処理後のセルロ−スエステルフィルムの接触角は0〜60°が好ましく、5〜55°がさらに好ましく、10〜30°が最も好ましい。
【0216】
(セルロ−スエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra))
セルロ−スエステルフィルムをLCD用部材として使用する際、光学フィルムの光漏れを低減するため高い平面性が要求される。中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に規定された数値であり、測定方法としては、例えば、触針法もしくは光学的方法等が挙げられる。
【0217】
本発明のセルロ−スエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra)としては、20nm以下が好ましく、さらに好ましくは、10nm以下であり、特に好ましくは、4nm以下である。
【0218】
(リタデーション値)
本発明の光学フィルムは、正の複屈折性を有する成分と負の複屈折性を有する成分とからなり、光学フィルムとしては延伸方向の屈折率が最も高くなる(nx>nz)ものではあるが、負の複屈折性を有する成分の正常光屈折率と異常光屈折率の屈折率差(以下、Δnという。)が、正の複屈折率を有する成分の実質的なΔnに比べ非常に大きいものとなり、3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たすものである。
【0219】
ここで、Roが光学フィルム内の面内リタデーション値を表し、Rthが光学フィルム内の厚み方向のリタデーション値を表すとすると。RoとRthは下式で表される。
Ro=(nx−ny)×d(nm)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
ここにおいて、dは光学フィルムの厚み(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、屈折率ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、屈折率nz(厚み方向におけるフィルムの屈折率)である。
【0220】
そして、RoとRthを、160nm≦Ro≦300nm、−50nm≦Rth≦50nmにすることで、この光学フィルムを用いた液晶表示装置の視野角を大きく広げることができる。したがって、RoとRthは160nm≦Ro≦300nm、−50nm≦Rth≦50nmを満たすことが好ましい。
【0221】
また、Rthの変動や分布の幅は、±10nm未満であることが好ましく、±8nm未満であることが好ましく、±5nm未満であることが好ましい。さらに、±3nm未満であることが好ましく、±1nm未満であることが好ましい。最も好ましくはRthの変動がないことである。
【0222】
なお、リタデーション値(Ro)と(Rth)は、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
【0223】
また、遅相軸は、長尺フィルムの幅手方向±1°、もしくは長手方向±1°にあることが好ましい。より好ましくは、光学フィルムの幅手方向または長手方向に対して±0.7°、さらに好ましくは、光学フィルムの幅手方向または長手方向に対して±0.5°であり、特に好ましくは、±0.1°である。
【0224】
〔偏光板及び液晶表示装置〕
本発明の偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置について説明する。
【0225】
〈偏光板〉
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明のセルロ−スエステルフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロ−スエステルフィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のセルロ−スエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0226】
本発明の偏光板は、本発明のセルロ−スエステルフィルムを偏光子の少なくとも片側に偏光板保護フィルムとして使用したものである。その際、該セルロ−スエステルフィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0227】
この偏光板が、横電界スイッチングモード型である液晶セルを挟んで配置される一方の偏光板として、本発明のセルロースエステルフィルム(特に好ましくは前述のセルロースエステルフィルムA)が液晶表示セル側に配置されることが好ましい。
【0228】
本発明の偏光板に好ましく用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられ、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光子の面上に、本発明のセルロ−スエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。また、セルロースエステルフィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0229】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸に対して直交する方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板保護フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明のセルロ−スエステルフィルムは寸法安定に優れるため、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0230】
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0231】
〈液晶表示装置〉
本発明による液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に狭持された液晶セルと、液晶セルを挟むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つ液晶表示装置であって、2枚の偏光板のうち、例えば1枚の偏光板が、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0に近いものであり、かつフィルムの厚み方向のリタデーション(Rth)値が0に近いものである光学フィルムを具備するものであり、もう1枚の偏光板が、本発明による上記の光学フィルムを具備するものである。
【0232】
本発明の液晶表示装置によれば、広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示が実現可能であり、特にIPSのモードで動作する液晶表示装置を提供するものであり、本発明の液晶表示装置は、長期間にわたって安定した表示性能を維持することができるものである。
【実施例】
【0233】
以下、本発明に係る光学フィルムの実施例を比較例とともに図8、図9、図13、図14、図15、及び図16を参照して説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで、図8、図9、図13、図14、図15、及び図16は各実施例及び比較例の結果を表した表である。以下の説明中の実施例番号及び比較例番号は図8、図9、図13、図14、図15、及び図16の各図に記載のものである。
【0234】
〔溶液流延製膜法による光学フィルムの製造〕
〈ドラフト比を変更する場合〉
図8の実施例及び比較例は、それぞれドラフト比を変更し、さらに微粒子の体積割合、および粒子分布範囲を調整したものである。ここで、粒子分布範囲とは、図11に示すように、微粒子全体の中で一定の粒径範囲の形状の微粒子が特に多く含まれている場合のその微粒子の形状を指すものである。例えば、図11の粒子分布範囲は絶対最大長50〜100nm、アスペクト比2〜4と表される。実施例1〜9は好ましい粒子分布範囲内の同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有するドープにおいて、ドラフト比を2.1〜6.0という好ましい範囲で変えたものであり、実施例17〜19、及び実施例20〜22は同様の条件でドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲に採ったものである。また、実施例10〜14はドラフト比の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例10は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例11は領域(c)の右下、実施例12は領域(c)の左下、実施例13は領域(c)の右上、実施例14は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例1〜3は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例1〜9と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例15、実施例16はそれぞれ比較例3で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例4は比較例3で使用した炭酸ストロンチウム分離液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例8〜10は、比較例1〜3の条件でドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例1〜4と比較例8〜10をまとめたものを、比較例1〜10という。)
【0235】
〈炭酸ストロンチウム分散液〉
(炭酸ストロンチウムの微粒子作成)
水300gに対し、メタノール60g(水に対し20%)と、水酸化ストロンチウム八水和物80g(水に対し26.7%)とを加えた懸濁液を調整した。この懸濁液をステンレスビーカーに入れ、攪拌モーター(アズワン製スリーワンモーターTORNADO PM203)に取り付けた攪拌羽根で懸濁液を攪拌した。次に、高低温用サーキュレーターFC−25MC(ユラボ製)にバスリキッドサーマルH5S(ユラボ製)を満たし、このサーキュレーターのバス部に上記懸濁液を入れたビーカーを入れて懸濁液の温度をー10℃〜0℃に保った。次に、懸濁液を攪拌しながらCO2ガスを50〜200ml/minの流量で懸濁液中に導入し、pHが12以下になったところでCO2ガス導入を止めた。次に、−5℃〜0℃に保った水とメタノールの混合液500gに上記懸濁液を攪拌しながら投入し懸濁希釈液を作成した。次に、この懸濁希釈液の温度を1〜6時間かけて25℃まで上昇させ微粒子の熟成を行なった。さらに、未反応分を取り除くため、懸濁希釈液を0.05μmポアサイズのメンブレンフィルターVMWP09025(アズワン製)で吸引濾過し、さらにフィルター上において純水で洗浄後、エタノールで洗浄して取り出した生成物を自然乾燥させて微粒子を得た。
【0236】
上記微粒子作成方法において、懸濁液の温度、CO2ガスの流量、混合液の水/メタノールの割合、混合液の温度、及び懸濁希釈液の温度を上げる時間を調整することで、微粒子の絶対最大長とアスペクト比が図7にあるような微粒子A〜Kを作成した。
【0237】
上記作成した微粒子Kについて、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間かけてエタノール分散した微粒子分散液を遠心分離機(コクサン(株)のH−103N)を用いて500rpm、1分間遠心分離を行い、上半分を採取した。この液を0.05μmポアサイズのメンブレンフィルターVMWP09025(アズワン製)で吸引濾過して取り出した微粒子を自然乾燥させて微粒子K−1を作成した。また、遠心分離した下半分の液についても同様に取り出して微粒子K−3を作成した。
【0238】
また、上記作成した微粒子Kについて、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間かけてエタノールに分散した微粒子分散液を0.2μmポアサイズのメンブレンフィルター オムニポアメンブレン JGWP09025(アズワン製)で吸引濾過により濾液を分離し、さらに、これを0.05μmポアサイズのメンブレンフィルター VMW09025(アズワン製)で再度吸引濾過して取り出した微粒子を自然乾燥させて微粒子K−2を作成した。
【0239】
(微粒子の形状測定方法)
本実施例において、所望の微粒子の形状を得るため、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察及びコンピュータソフトによる画像解析を用いた下記方法で微粒子の絶対最大長及びアスペクト比を測定し、体積割合を算出した。
【0240】
まず、観察前の処理として、微粒子をエタノール分散しC膜上に滴下乾燥させた上で、その微粒子をTEMで観察する。ここで、TEMはJEM−2000FX(日本電子製)(加速電圧:200kV)を使用した。ここで使用した対象画像は、各試料×10000(直接×5000)の断面TEM像各2枚である。入力はネガを印画紙にプリントしフラットヘッドスキャナーにて電子化する(入力解像度:300dpi)。次に、スキャナーで読み取った画像から解析を行なうために微粒子の画像のコントラストを強調することで画像ソフトが微粒子を認識できるようにするフィルター処理を行う。さらに、このフィルターの条件を変更することでコントラストの最適化を行う。ここで、フィルター処理はメディアン3×3、次に平坦化20ピクセル、次にハイパス3×3、次にメディアン3×3を使用した。次に、上記コントラストを最適化した画像から微粒子を抽出し個々の微粒子の形状を画像解析ソフトで測定して、絶対最大長やアスペクト比等を計測する。また、画像上のノイズと考えられるものを除去する選別を行なう。さらに、計測した絶対最大長やアスペクト比等の微粒子のデータをデータ処理ソフトに取り込み、微粒子の分布状態を計算するデータ処理を行った。ここで、フラットヘッドスキャナーはSitios9231(コニカミノルタ株式会社製)を使用し、画像解析ソフトはImagePro Plus(Media Cybernetics製)を、データ処理ソフトはExcel(Microsoft社製)を使用した。具体的には、画像解析ソフトにより各微粒子の絶対最大長、アスペクト比を算出し、Excelを用いて所望の粒径範囲内にある微粒子の体積割合を算出した。ここで各微粒子の体積は画像解析ソフトにより、算出された微粒子の投影面積の平方根を3乗して算出した。
【0241】
(微粒子の結晶性の評価方法)
微粒子の結晶性に関してはX線回折測定装置を用いて評価を行なった。これは、測定した半値幅が狭いほど、結晶が高純度で(単結晶に近く)できていると判定ができる。具体的には、X線回折測定装置(理学電気社製 CN2013)を用いて、(111)面の回折ピークの半値幅を測定したところ、全ての実施例で得られた結晶が確かに炭酸ストロンチウム結晶であることが認められた。また、前記市販品及び全ての実施例の炭酸ストロンチウム結晶とともに、(111)面の回折ピークの半値幅は0.2°であった。
【0242】
(微粒子の表面処理)
炭酸ストロンチウムの微粒子1.0gをエタノール20.0gに分散し、グリセリンステアレート(花王・エキセルT−95)を0.05g添加し50℃で10時間攪拌し表面処理を行い、この溶液を濾過し、微粒子を乾燥させた。
【0243】
〈ドープの作成〉
下記各組成物を、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間分散し、微粒子A〜K、K−1、K−2、及びK−3における微粒子分散液を調製した。
微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3 16重量部
メチレンクロライド 92重量部
エタノール 92重量部
【0244】
次に、下記各組成物を容器に投入し完全に溶解した。
セルロースアセテートプロピオネート 25重量部
(アセチル基置換度1.90、プロピオニル基置換度0.75、重量平均分子量190,000)
トリフェニルホスフェート(TTP) 21重量部
エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG) 5重量部
チヌビン326(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
チヌビン109(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
チヌビン171(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
メチレンクロライド 468重量部
エタノール 34重量部
【0245】
次に、上記溶液に、微粒子A〜Kにおける微粒子分散液の200部をゆっくり添加した後、この混合液を超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で容器のまわりを冷水で冷やしながら、連続10分間再分散を行なった。再分散した液をよく攪拌しながら下記組成物をゆっくり加え、完全に溶解して、微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3におけるドープ液を調製した。
セルロースアセテートプロピオネート 147重量部
(アセチル基置換度1.90、プロピオニル基置換度0.75、重量平均分子量190,000)
メチレンクロライド 100重量部
【0246】
〈溶液流延製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉
上記作成した、各ドープ液を40℃に保ち、40℃に保温された無限移行する無端の金属支持体であるステンレスベルト上に均一に流延した。この流延膜の残留溶媒量が80%まで乾燥した後、ステンレスベルト上から剥離し、剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを40℃で残留溶剤量を20%まで溶媒を蒸発させた後、テンターで幅方向に1.3倍の延伸を行なった。さらに多数のロールで搬送させながら120℃で乾燥して80μm、幅1.3mの光学フィルムを得た。
【0247】
(ドラフト比の変更)
図8における、実施例1〜22、及び比較例1〜10において、ドラフト比の変更は、ドープの流量およびステンレスベルトの走行速度の調整により行った。図5にドラフト比Dr調整のためのステンレスベルト(金属ベルト)の線速度Vbと流延膜の線速度Vrmの関係を図示している。ここで流延膜の線速度Vrmとは、ダイから出た直後の速度である。
【0248】
したがって、ドラフト比Drは下式で求められる。
【0249】
Dr=Vb/Vrm
Vrm=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Dr:ドラフト比
Vb:ステンレスベルト(金属ベルト)の線速度[mm/sec]
Vrm:流延膜の線速度[ml/sec]
Q:ドープ流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくるドープ体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSのドープ流動方向の長さ)
【0250】
以上のようにして製造した実施例1〜22、及び比較例1〜10について、位相差(リタデーション)、ヘーズ、スリッティング性、横段及びコントラストを評価し、図8に合わせて示している。ここで、コントラストは後述の〈偏光板の作成〉、〈偏光板βの作成〉、〈液晶表示装置の作成〉により作成した液晶表示装置を用いて評価したものである。
【0251】
(位相差(リタデーション)の測定方法)
本実施例では、アッベ屈折率計1T(株式会社アタゴ製)と分光光源装置を用いて光学フィルムの平均屈折率を測定した。また、市販のマイクロメータを用いて光学フィルムの厚みを測定した。さらに、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で24時間放置した光学フィルムにおいて、同環境下波長が590nmにおける光学フィルムのリタデーション測定を行なった。上記の平均屈折率と膜厚を下記式に入力し内面リタデーションRo、厚み方向のリタデーションRthの値を得た。
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をny、光学フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、dは光学フィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。前述のとおり、本発明においては160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50を満たすnx,ny,nzであることが好ましく。中でも、Ro=270nm、Rth=0nmを満たすnx,ny,nzが特に好ましい。
【0252】
(ヘーズの測定方法)
本実施例では、ヘーズは,JIS K−7136に従って,ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業(株))を用いて測定し、これを透明性の指標とした。ここで、ヘーズは1%以下であることが好ましい。
【0253】
(スリッティング性の評価方法)
光学フィルムの破断のしやすさを示すスリッティング性の評価には工程で長尺、長時間のテストを行なう必要があるがコスト、時間が膨大になる。そこで、本実施例では、下記の強制的な厳しい条件で試験を行なうことで短時間での評価が可能である。スリッター38で300mm幅の光学フィルムを1000mの長さの切断を、スリット幅を50mm、スリット速度を10m/min、張力を5kg、スリット方式を上刃/下刃方式の条件で行い、このときの光学フィルムの破断回数を計測する。上記条件で評価したときの破断頻度と実際の工程での破断頻度については経験上のデータの蓄積があり、上記の破断頻度に対する実用性のレベルの評価を図10に示す。
【0254】
(横段の評価方法)
本実施例では、作成したセルロースエステルフィルムの搬送方向に垂直に出る膜厚ムラを横段として、目視で評価を行なった。ここで、図8の表の横段における記号は、◎は横断がない、○は横断がかすかにある、△は横断があるが光学フィルムとしてなんとか使えるレベル、×は横断が光学フィルムとして許容できないレベル、という評価をそれぞれ表している。
【0255】
(縦スジの評価方法)
本実施例では、作成したセルロースエステルフィルムの搬送方向に平行に出る膜厚ムラを縦スジとして、目視で評価を行なった。ここで、図8の表の縦スジにおける記号は、◎は縦スジがない、○は縦スジがかすかにある、△は縦スジがあるが光学フィルムとしてなんとか使えるレベル、×は縦スジが光学フィルムとして許容できないレベル、という評価をそれぞれ表している。
【0256】
(コントラストの評価方法)
後述の〈偏光板の作成〉〈偏光板βの作成〉〈液晶表示装置の作成〉により作成した液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラストについて、ELDIM社製EZ−contrastを用いて測定を行った。パネル面の法線方向からの傾き角80°における液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラストが大きいほど視野角は広いと言える。パネル面の法線方向からの傾き角80°におけるコントラストを全方位にわたって平均した値をコントラストとして評価した。ここで、コントラストの値は30以上であることが好ましい。
【0257】
(総合評価)
横段、縦スジ、位相差、ヘーズ、コントラスト、スリッティング性の評価を総合して、各実施例及び比較例における光学フィルムの評価を行なっている。ここで、図8の表の総合評価における記号は、◎は特に好適、○は好適、△はおおよそ好適、×は不適、という評価をそれぞれ表している。
【0258】
このようにして得た図8に示す各評価の結果より好ましいドラフト比を考える。ドラフト比を1.4にした実施例17〜19の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例8〜9に比べるとコントラストは改善されている。また、横段及びヘーズともに好適な範囲に収まっている。ドラフト比を7.5にした実施例20〜22の場合、横段の評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例1〜4の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となりドラフト比を大きくした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、ドラフト比を1.4にした比較例8〜10の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例10の場合、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例11〜14の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例15、16では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例3、4ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうとドラフト比を大きくした効果がより大きく現れることが分かる。
【0259】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比をYとしたとき、
[粒径範囲式]
Y>(X^2)/20000
Y>20×(X^(−0.5))
Y<20
50<X<500
を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、ドラフト比が、2.1〜6.0を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0260】
〈ドープのスリット通過時間を変更する場合〉
図9の実施例及び比較例は、ダイのスリットをドープが通過する時間と、粒子分布範囲、及び微粒子の体積割合を調整したものである。ここで、実施例101〜109は好ましい粒子分布範囲内で同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有するドープにおいて、スリット通過時間を0.1〜2.0[sec]という好ましい範囲で変えたものであり、実施例117〜119、及び実施例120〜122は同様の条件でスリット通過断時間を0.1〜2.0[sec]以外の範囲に採ったものである。また、実施例110〜114はスリット通過時間の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例110は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例111は領域(c)の右下、実施例112は領域(c)の左下、実施例113は領域(c)の右上、実施例114は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例101〜103は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例101〜109と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例115、実施例116はそれぞれ比較例103で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例104は比較例103で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例108〜110は、比較例101〜103の条件でスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。また、比較例11〜14は、実施例10の微粒子を用いてドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲とし、さらにスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例101〜104と比較例108〜110をまとめたものを、比較例101〜110という。)
【0261】
この場合も、(ドラフト比の変更)以外はドラフト比を変更して計測した実施例と同様の手順を行なう。
【0262】
(スリット通過時間の変更)
実施例101〜122、及び比較例101〜110において、ダイのスリットS内を流れるドープのスリット通過時間の変更は、ドープを流すダイをランド長Lの異なるダイに交換するとともに、ドープの流量を変更することで行なった。図4(A)及び図4(B)にランド長Lの異なるダイの例を示している。また、図3はそれらのダイの斜視図の例を示している。ここで、ステンレスベルトの走行速度は、ダイ及びドープ流量の変更に伴い、仕上がりフィルムが80μmになるよう調整した。
【0263】
ドープがダイのスリットSを通過する時間θは、下式で求められる。
【0264】
θ=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Q:ドープ流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくるドープ体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSのドープ流動方向の長さ)
θ:スリット通過時間[sec]
である。
【0265】
以上のようにして製造した実施例101〜122、比較例101〜110、及び比較例11〜14について、位相差(リタデーション)、ヘーズ、スリッティング性、横段、縦スジ及びコントラストの評価、及び総合評価を図9及び図15に合わせて示している。
【0266】
この場合も、ドラフト比の変更の場合と同様のヘーズの測定方法、横段の評価、縦スジの評価、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0267】
このようにして得た図9及び図15に示す各評価の結果より好ましいスリット通過時間を考える。通過時間を0.07にした実施例117〜119の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例108〜109に比べるとコントラストは改善されている。また、横段及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。通過時間を2.5にした実施例120〜122の場合、縦スジの評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例101〜104の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となり通過時間を長くした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、通過時間を0.07にした比較例108〜110の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例110では、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例111〜114の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例115、116では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例103、104ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうと通過時間を長くした効果がより大きく現れることが分かる。また、横段や縦スジも重要な項目であり、これらがあると実際の液晶表示装置に組み込んだときに液晶表示にムラが見えてしまうことがある。これは、例えコントラストが良好でも商品価値が低下して好ましくない。比較例11〜13では、スリッティング性が悪く生産性が劣化した上に、横段または縦スジが発生しているのでコストが高く、商品価値が低い状態であり、非常に好ましくない。さらに、比較例14のように、特に横段と縦スジが同時に発生したフィルムを液晶表示装置に組み込むと液晶表示にクロス状にムラが発生するので、コントラストが非常に良好でも、実際の液晶表示はとても見苦しいものになってしまい商品価値はほとんどない。また、比較例11〜14では、実施例10で好適な結果の得られた粒子を用いているにも係わらず、ドラフト比及びスリット通過時間が本発明の範囲外であるために、コントラストの評価が悪かったり、横段や縦筋の評価が悪かったりして好適な結果が得られない。
【0268】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、スリットSの時間が、0.1〜2.0[sec]を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0269】
〔溶融押出し製膜法による光学フィルムの製造〕
〈ドラフト比を変更する場合〉
図13の実施例及び比較例は、それぞれドラフト比を変更し、さらに微粒子の体積割合、および粒子分布範囲を調整したものである。実施例201〜209は好ましい粒子分布範囲内の同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有する溶融液において、ドラフト比を10〜30という好ましい範囲で変えたものであり、実施例217〜219、及び比較例220〜222は同様の条件でドラフト比を10〜30以外の範囲に採ったものである。また、実施例210〜214はドラフト比の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例210は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例211は領域(c)の右下、実施例212は領域(c)の左下、実施例213は領域(c)の右上、実施例214は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例201〜203は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例201〜209と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例215、実施例216はそれぞれ比較例203で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例204は比較例203で使用した炭酸ストロンチウム分離液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例208〜210は、比較例201〜203の条件でドラフト比を10〜30以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例201〜204と比較例208〜210をまとめたものを、比較例201〜210という。)
【0270】
溶融押出し製膜法においても、〈ドープ液の作成〉及び〈溶液流延製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉以外の工程は溶液流延製膜法と同様である。以下、異なる工程を説明する。
【0271】
〈溶融液の作成〉
下記各組成物を、2軸式押出し機KZW−TW(テクノベル製)を用いて250℃で溶融混合し、ペレット化することで、粒子含有樹脂ペレットa〜k、k−1、k−2、k−3を作成した。
微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3 8重量部
セルロースアセテートプロピオネート 72重量部
(60℃で24時間真空乾燥済み、アセチル置換度1.90、プロピオニル置換度0.75、重量平均分子量190,000)
トリメチロールプロパンベンゾエート 10重量部
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕 0.01重量部
上記作成したペレットを250℃で溶融し、微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3における溶融液を得た。
【0272】
〈溶融押出し製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉
上記で作成した溶融液を、ダイよりフィルム状に30℃の冷却ドラム上に溶融押し出し、冷却固化させて、セルロースエステルフィルムを得た。
【0273】
(ドラフト比の変更)
図13における、実施例201〜222、及び比較例201〜210において、ドラフト比の変更は、溶融液の流量および冷却ドラムの回転速度の調整により行った。ここで冷却ドラムの回転速度は、外周部の線速度であり、それは金属ベルトの線速度と同じになる。そこで、ドラフト比は下式で求められる。
【0274】
Dr(Y)=Vb(Y)/Vrm(Y)
Vrm(Y)=Q×10^3/(W・H)
ここで、
Dr(Y):ドラフト比
Vb(Y):冷却ドラムの回転速度(金属ベルトの線速度)[mm/sec]
Vrm:流延膜の線速度[ml/sec]
Q:溶融液流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくる溶融液体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSの溶融液流動方向の長さ)
【0275】
以上のようにして製造した実施例201〜222、及び比較例201〜210について、ヘーズ、スリッティング性、位相差、横段、縦スジ、及びコントラストの評価、及び総合評価を図13に合わせて示している。
【0276】
この場合も、溶液流延製膜法の場合と同様のヘーズの測定方法、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、横段の評価、縦スジの評価、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0277】
このようにして得た図13に示す各評価の結果より好ましいドラフト比を考える。ドラフト比を5にした実施例205〜207の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例208〜209に比べるとコントラストは改善されている。また、縦スジ及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。ドラフト比を35にした実施例220〜222の場合、横段の評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例201〜204の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となりドラフト比を大きくした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、ドラフト比を5にした比較例208〜210の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例210の場合、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例211〜214の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例215、216では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例203、204ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうことにより、ドラフト比を大きくした効果がより大きく現れることが分かる。
【0278】
微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、ドラフト比が、10〜30を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0279】
〈溶融液のスリット通過時間を変更する場合〉
図14の実施例及び比較例は、ダイのスリットを溶融液が通過する時間と、粒子分布範囲、及び微粒子の体積割合を調整したものである。ここで、実施例301〜309は好ましい粒子分布範囲内で同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有する溶融液において、スリット通過時間を0.1〜2.0[sec]という好ましい範囲で変えたものであり、実施例317〜319、及び実施例320〜322は同様の条件でスリット通過断時間を0.1〜2.0[sec]以外の範囲に採ったものである。また、実施例310〜314はスリット通過時間の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例310は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例311は領域(c)の右下、実施例312は領域(c)の左下、実施例313は領域(c)の右上、実施例314は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例301〜303は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例301〜309と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例315、実施例316はそれぞれ比較例303で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例304は比較例303で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例308〜310は、比較例301〜303の条件でスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。また、比較例211〜214は、実施例210の微粒子を用いて、ドラフト比を10〜30以外の範囲とし、さらにスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例301〜304と比較例308〜310をまとめたものを、比較例301〜310という。)
【0280】
この場合も、(ドラフト比の変更)以外はドラフト比を変更して計測した実施例と同様の手順を行なう。
【0281】
(スリット通過時間の変更)
実施例301〜322、及び比較例301〜310において、ダイのスリットS内を流れる溶融液のスリット通過時間の変更は、溶融液を流すダイをランド長Lの異なるダイに交換するとともに、溶融液の流量を変更することで行なった。図4(A)及び図4(B)にランド長Lの異なるダイの例を示している。また、図3はそれらのダイの斜視図の例を示している。ここで、冷却ドラムの回転速度は、ダイ及び溶融液流量の変更に伴い、仕上がりフィルムが80μmになるよう調整した。
【0282】
溶融液がダイのスリットSを通過する時間θ(Y)は、下式で求められる。
【0283】
θ(Y)=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Q(Y):溶融液流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくる溶融液体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSの溶融液流動方向の長さ)
θ:スリット通過時間[sec]
である。
【0284】
以上のようにして製造した実施例301〜322、比較例301〜310、及び比較例211〜214について、ヘーズ、スリッティング性、位相差、横段、縦スジ及びコントラストの評価、及び総合評価を図14及び図16に合わせて示している。
【0285】
この場合も、溶液流延製膜法の場合と同様のヘーズの測定方法、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、横段の評価、縦スジの評価、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0286】
このようにして得た図14及び図16に示す各評価の結果より好ましいスリット通過時間を考える。通過時間を0.07にした比較例317〜319の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例308〜309に比べるとコントラストは改善されている。また、縦スジ及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。通過時間を2.5にした実施例320〜322の場合、縦スジの評価は悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例301〜304の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となり通過時間を長くした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、通過時間を0.07にした比較例308〜310の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例310では、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例311〜314の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例315、316では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例303、304ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうと通過時間を長くした効果がより大きく現れることが分かる。また、横段や縦スジも重要な項目であり、これらがあると実際の液晶表示装置に組み込んだときに液晶表示にムラが見えてしまうことがある。これは、例えコントラストが良好でも商品価値が低下して好ましくない。比較例211〜213では、スリッティング性が悪く生産性が劣化した上に、横段または縦スジが発生しているのでコストが高く、商品価値が低い状態であり、非常に好ましくない。さらに、比較例214のように、特に横段と縦スジが同時に発生したフィルムを液晶表示装置に組み込むと液晶表示にクロス状にムラが発生するので、コントラストが非常に良好でも、実際の液晶表示はとても見苦しいものになってしまい標品価値はほとんどない。また、比較例211〜214は実施例210で好適な結果の得られた粒子を用いているにもかかわらず、ドラフト比及びスリット通過時間が本発明の範囲外であるために、コントラストの評価が悪かったり、横段や縦スジの評価が悪かったりして好適な結果が得られない。
【0287】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、スリットSの時間が、0.1〜2.0[sec]を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0288】
〈偏光板の作成〉
本実施例では、図12に示すように、本発明により作成されたセルロースエステルフィルムを使用して作成した偏光板61を、横電界スイッチングモード型液晶セル70を挟んでバックライト側に貼り合せ、偏光板β60を、横電界スイッチングモード型液晶セル70を挟んで反対側に貼り合せる。ここで、偏光板βにおける液晶セル側の偏光板保護フィルム62はRo、Rthともほぼ0に近いものを使用しており、このように本発明の偏光板61と組み合わせた場合にコントラストが非常に良くなる。ここで、図12には液晶表示装置の構成を説明するための図である。
【0289】
厚さ50μmのポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム6g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、ついてヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬し、ついでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。ついで工程1〜5に従って偏光板J1〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜J322、H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、及びH301〜H310を作成した。(J番号、H番号はそれぞれ単純に実施例番号、比較例番号に合わせたものである。)
【0290】
(工程1)
偏光板保護フィルムとして、実施例1で作成したセルロースエステルフィルムを60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥して偏光子と貼合する側を鹸化した。同様に、反対側の偏光板保護フィルムとして、市販のセルロースエステルフィルムKC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)の鹸化も行なった。
【0291】
(工程2)
前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0292】
(工程3)
(工程2)で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを(工程1)で処理した実施例1で作成した本発明のセルロースエステルフィルムの鹸化した面上にのせ、さらに反対側の偏光板保護フィルムとして、(工程1)で処理した市販のセルロースエステルフィルムKC8UX2Mの鹸化した面が偏光子に接するように積層し、偏光板J1とした。
【0293】
(工程4)
(工程3)でセルロースエステルフィルムと偏光子を積層した偏光板を圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0294】
(工程5)
80℃の乾燥機中に(工程4)で作成した偏光板を2分間乾燥した。
【0295】
同様にして、実施例2〜22、101〜122、201〜222、301〜312で作成した本発明のセルロースエステルフィルムを用いて偏光板J2〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜J312を作成した。また同様にして、比較例1〜14、101〜110、201〜214、301〜310で作成したセルロースエステルフィルムを用いて偏光板H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、及びH301〜H310を作成した。
【0296】
〈偏光板βの作成〉
偏光板βに用いるセルロースエステルフィルム−βを下記のようにして作成した。
【0297】
(ポリマーの調製)
特開2000−344823号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。即ち、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び環流冷却管を備えたフラスコに下記メチルメタクリレートとルテノセンを導入しながら内容物を70℃に加熱した。次いで、充分に窒素ガス置換した下記β−メルカプトプロピオン酸の半分を攪拌下フラスコ内に添加した。β−メルカプトプロピオン酸添加後、攪拌中のフラスコ内の内容物を70℃に維持し2時間重合を行った。更に、窒素ガス置換したβ−メルカプトプロピオン酸の残りの半分を追加添加後、更に攪拌中の内容物の温度が70℃に維持し重合を4時間行った。反応物の温度を室温に戻し、反応物に5質量%ベンゾキノンのテトラヒドロフラン溶液を20重量部添加して重合を停止させた。重合物をエバポレーターで減圧下80℃まで徐々に加熱しながらテトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオール化合物を除去してポリマー7を得た。重量平均分子量は3,400であった。また水酸基価(下記の測定方法による)は50であった。
メチルメタクリレート 100重量部
ルテノセン(金属触媒) 0.05重量部
β−メルカプトプロピオン酸 12重量部
【0298】
(水酸基価の測定方法)
この測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2である。
【0299】
(偏光板βに用いるセルロースエステルフィルム−βの作製)
(二酸化珪素分散液β)
アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製) 12重量部
(一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 88重量部
以上をデゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分散後の液濁度は200ppmであった。二酸化珪素分散液に88重量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、デゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液βを作製した。
【0300】
(インライン添加液βの作成)
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 11重量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 5重量部
メチレンクロライド 100重量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。
【0301】
これに二酸化珪素分散希釈液βを36重量部、撹拌しながら加えて、更に30分間撹拌した後、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8)6重量部を撹拌しながら加えて、更に60分間撹拌した後、アドバンテック東洋(株)のポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1Nで濾過し、インライン添加液βを調製した。
【0302】
(ドープ液βの調製)
セルロースアセテート 100重量部
(アセチル置換度2.92、分子量Mn=148000、分子量Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
上記調製したポリマー 12重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液βを調製した。
【0303】
製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液βを濾過した。インライン添加液ライン中で、日本精線(株)製のファインメットNFでインライン添加液βを濾過した。濾過したドープ液βを100重量部に対し、濾過したインライン添加液βを2重量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合後、ドープ液βを40℃に保ち、40℃に保温されたステンレスベルト上に均一に流延した。残留溶媒量が80%まで乾燥した後、ステンレスベルト上から剥離し、剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを40℃で残留溶剤量を20%まで溶媒を蒸発させた後、テンターで幅方向に1.3倍の延伸を行った。さらに多数のロールで搬送させながら120℃で乾燥して80μm、幅1.3mのセルロースエステルフィルム−βを得た。
【0304】
ダイのスリット内を流れるドープのスリット通過時間は0.07sec、ドラフト比は1.5、仕上がりフィルムの膜厚が80μmになるようにランド長の異なるダイに交換するとともに、ドープの流量およびステンレスベルトの走行速度を調整した。
【0305】
このセルロースエステルフィルム−βのリタデーション値を測定したところ、Ro=0.1nm、Rth=0nmであった。Ro、Rthの測定は前述のRo、Rthの測定と同様の方法でおこなった。
【0306】
前記偏光板の作製において、本発明に係わる実施例1のセルロースエステルフィルムにかえて上記のセルロースエステルフィルム−βを用いた以外は同様にして偏光板βを作製した。
【0307】
〈液晶表示装置の作成〉
コントラストの評価を行う液晶パネルを以下のようにして作製した。
【0308】
IPSモード型液晶表示装置である日立製液晶テレビWooo W17−LC50を用いてあらかじめ貼合されていた両面の偏光板を剥がして上記で作製した偏光板をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。その際、セルロースエステルフィルムの遅相軸、偏光子の吸収軸、液晶セルの遅相軸の向きおよび液晶表示装置の構成は図12(軸の配置)になるように偏光板の作成時に貼り合わせ、液晶パネルの貼り合わせを行った。
ここで、図12に示すように本発明に係る液晶表示装置において、偏光板β60は、偏光板保護フィルム68、偏光子64、及びセルロースエステルフィルム−β62で構成されている。ここで、偏光板β60における偏光子64は、偏光子の透過軸72及び偏光子の吸収軸73を有している。また、偏光板61は、実施例及び比較例のセルロースエステルフィルム66、偏光子64、及び偏光板保護フィルム68で構成されている。さらに、偏光板61における偏光子64は偏光子の透過軸74及び偏光子の吸収軸75を有している。また、横電界スイッチングモード型液晶セル70は液晶のラビング軸71を有している。
【図面の簡単な説明】
【0309】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法の工程図
【図2】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置の概略図
【図3】本発明の光学フィルムの製造方法を実施するダイの拡大斜視図
【図4】同ダイの拡大横断面図
【図5】ドラフト比の調整方法を説明する図
【図6】粒径/アスペクト比の望ましい粒径範囲を表したグラフ
【図7】本実施例で作成した微粒子の絶対最大長及びアスペクト比を表した表
【図8】溶液流延製膜法においてドラフト比を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図9】溶液流延製膜法においてスリット通過時間を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図10】実施例及び比較例における破断頻度の評価を表した表
【図11】微粒子の粒径分布を説明するためのグラフ
【図12】本実施例における液晶表示装置の構成を説明するための図
【図13】溶融押出し製膜法においてドラフト比を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図14】溶融押出し製膜法においてスリット通過時間を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図15】溶液流延製膜法においてドラフト比及びスリット通過時間ともに好適な範囲外の値に調整した比較例の結果を表した表
【図16】溶融押出し製膜法においてドラフト比及びスリット通過時間ともに好適な範囲外の値に調整した比較例の結果を表した表
【符号の説明】
【0310】
1:溶解釜
2:送液ポンプ
3:濾過器
4:ストックタンク
5:送液ポンプ
6:濾過器
8:導管
10:溶解釜
11:送液ポンプ
12:濾過器
13:ストックタンク
14:送液ポンプ
15:濾過器
16:導管
17:切り替え弁
20:合流管
21:混合機
22:導管
23:供給管
30:ダイ
31:金属支持体
32:ウェブ
33:剥離位置
34:テンター装置
35:ロール乾燥装置
36:搬送ロール
37:元巻
60:偏光板β
61:偏光板J1〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜
J322、H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、H301〜
H310
62:セルロースエステルフィルム−β(偏光板保護フィルム)
64:偏光子
66:実施例および比較例のセルロ−スエステルフィルム(偏光板保護フィルム)
68:偏光板保護フィルム
70:横電界スイッチングモード型液晶セル
71:液晶のラビング軸
72、74:偏光子の透過軸
73、75:偏光子の吸収軸
76:実施例および比較例のセルロ−スエステルフィルムの遅相軸
S:スリット
W:スリットの幅
L:スリットのドープ流動方向の長さ(ランド長)
H:スリットの間隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の画面構成に用いられる光学フィルムの製造方法、並びに、その光学フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置に関する。特に、液晶表示装置に適切な複屈折性を得ることができる光学フィルムの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、TN(Twisted Nematic:ねじれネマチック)、STN(Super Twisted Nematic:超ねじれネマチック)、IPS(In−plane Switching:横電界)、VA(Vertical Alignment:垂直配向)、OCB(Optically Compensated Bend)など種々の液晶表示方式が提案されている。これら液晶表示装置では、液晶セルが複屈折性を持っているため、光の位相差が出てしまい、コントラストが低減してしまう。そこで、液晶表示装置における複屈折性を除去もしくは低減させるために位相差フィルムの必要性が高まっている。そこで、フィルムに複屈折性を与える手段としてポリカーボネートやオレフィン系のフィルム、セルロースエステル系の樹脂フィルムを延伸する方法が提案されている。ポリカーボネートやオレフィン系のフィルムを用いる場合には、偏光板に位相差フィルムを張り合わせる必要があるが、特にセルロースアセテートフィルムの場合は、偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化させた光学フィルムにすることもできるので、部材の減少、製造工程の簡略化、コストダウンなどの点で液晶表示装置に用いる光学フィルムとして好適であることが知られている。
【0003】
そして、従来は、セルロースアセテートなどの高分子樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「ドープ」という。)を、ベルト状やドラム状の無限移行する無端の金属支持体上にダイのスリットから流延させドープの膜(以下、「流延膜」という。)を作成し、その流延膜を乾燥させた後、剥離して光学フィルムを製膜する流延製膜法より、あるいは、セルロースアセテートなどの熱可塑性の高分子樹脂を加熱溶融した溶融樹脂を、ベルト状やドラム状の無限移行する無端の金属支持体上にダイのスリットから押出して、このフィルムを冷却させた後、剥離して光学フィルムを製膜する方法により、これまで製造されてきた(特許文献1、及び特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、セルロースアセテート系樹脂の場合は、発現できる位相差の範囲が限られており、各種の液晶表示方法に対応することが困難であった。
【0005】
そこで、複屈折性を有する粒子(以下、単に「粒子」ということがある。)をセルロースアセテートフィルムに導入することで、樹脂の複屈折に粒子の複屈折の効果が足しあわされるので、位相差を制御できる範囲が広がり、各種の液晶表示方法に対応する光学フィルムを製造することが可能になる。特に、この粒子を針状粒子とし、その針状粒子の向きが一定方向に良く配向するようすれば、その光学フィルムにおける位相差の制御範囲を拡大することが可能となり、さらに、製造工程における光学フィルムを切断するときの破断のしにくさ(以下、「スリッティング性」という。)が向上するとともに、切断時における切り粉の発生も低減できる。ここで、配向とは粒子が一方向に並べられることをいう。この点、複屈折性を調整する方法として、針状粒子を高分子樹脂に含有させることは従来からも行われてきた(特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6参照)。
【0006】
ここで、この添加した粒子を配向させる方法としては、従来から、光学フィルム作成時に光学フィルムをMD(Machine Direction、金属支持体の流れ方向。)またはTD(Traverse Direction、MDに直交する方向。)に延伸する方法、あるいはダイのスリットから樹脂溶液又は溶融樹脂が流延される速度(以下、「流延膜の線速度」という。)に対する金属支持体の線速度(金属支持体の回転方向の速度)の比であるドラフト比を大きくするなどして製膜直後に流延膜を引き伸ばしてせん断応力をかける方法、あるいは粒子を添加した樹脂を溶媒で溶かした樹脂溶液や熱で溶かした溶融樹脂の流れを作り、この流れに沿う形で粒子にせん断応力をかけて配向させる方法や、電場や磁場などで粒子の配向を促進する方法が行われてきた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−322314号公報
【特許文献2】特開2004−66545号公報
【特許文献3】特開2004−35347号公報
【特許文献4】特許第3648201号公報
【特許文献5】特開2005−156863号公報
【特許文献6】特開2005−227427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、液晶セルにおける複屈折性の除去もしくは低減を精度よく行うためには、光学フィルムにおける複屈折を液晶セルの複屈折に合わせて精度よく調整する必要がある。この点、特許文献3や特許文献4に記載の発明では、光学フィルム自体の複屈折をなくすことはできても、液晶セルとの関係から光学フィルムの複屈折を調整することは困難である。ここで、「複屈折性を調整」とは、製造工程で、所望の複屈折を取得するために行なう調整を言う(以下、同じ。)。
【0009】
また、特許文献5の発明では、3次元屈折率の関係を調整するのみであり、光学フィルム自体の複屈折を精度よく調整することは困難であるし、特許文献6の発明では、セルロースエステルなどを樹脂として、炭酸ストロンチウムなどの粒子を含有することで様々な複屈折性を有する発明が開示されているが、光学フィルムの複屈折を精度よく調整するために好適な粒子の大きさや、ダイにおけるドープを押し出すスリットのドープ流動方向の長さであるランド長の長さや、流延膜の線速度に対する金属支持体の線速度の比であるドラフト比などが規定されていないため、精度よく光学フィルムの複屈折性を調整することは困難である。この点、粒子の絶対最大長が長すぎると光が散乱し、ヘーズが出てしまうし、短すぎると配向し難い。また、粒子の前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値であるアスペクト比が小さすぎると配向し難いし、大きすぎるものは粒子の作成が困難になってしまう。さらに、ドラフト比は大きすぎると光学フィルムに横段が出てしまうし、小さいと配向し難いという問題がある、また、ランド長が長すぎると光学フィルムに縦スジが出てしまうし、短いと粒子が配向し難いという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、粒子の向きを一定方向に良く配向させ、広い範囲に亘って複屈折を調整できる光学フィルム製造方法の提供、さらに、スリッティング性を向上させ、かつ切断時における切り粉の発生を抑えた光学フィルム、及びその製造方法を提供することを目的としている。さらに、偏光板の保護フィルムとして本発明の光学フィルムを用いることで、液晶表示装置の製造における、部材の減少、製造工程の簡略化、コストダウンを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の光学フィルム製造方法は、所定の粒子を含み、有機溶媒を主成分とする樹脂溶液、又は、熱可塑性により加熱溶融している溶融樹脂のいずれかである液状樹脂をダイのスリットから、移行する金属支持体上に連続的に流延させる工程を有する光学フィルム製造方法において、前記所定の粒子は、全粒子の90%以上が、絶対最大長50nmより大きくかつ500nmより小さく、さらに、前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像を挟んだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値が、前記絶対最大長(単位はnm)の2乗を20000で割った値よりも大きく、かつ、前記絶対最大長(単位はnm)を−0.5乗したものに20をかけた値よりも大きく、かつ、20よりも小さくなる粒径範囲に含まれる粒子であり、下記A、B、又は、それら双方を満たすことを特徴とする。
A:前記スリットから前記液状樹脂が流涎される速度に対する前記金属支持体の線速度の比が、前記液状樹脂溶液である場合は、2.1〜6.0であり、前記液状樹脂が溶融樹脂である場合は10〜30である。
B:前記ダイのスリットを前記樹脂溶液が通過する時間が0.1〜2.0秒の範囲である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルム製造方法において、遠心分離機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルム製造方法において、濾過機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記粒子が負の屈折性を有することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記樹脂がセルロースエステルであることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法において、前記樹脂がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載のセルロースエステルフィルムは、請求項5又は請求項6に記載の光学フィルム製造方法で製造したことを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の偏光板は、偏光膜及びその両側に配置された透明保護膜からなる偏光板であって、前記両側の透明保護膜のうち少なくとも1つに、請求項7に記載のセルロースエステルフィルムが用いられていることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板を具備する液晶表示装置であって、前記2枚の偏光板のうち少なくとも1枚の偏光板が、請求項8に記載の偏光板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、粒子の向きが一定方向に良く配向する粒径範囲を有する粒子を使用し、さらに、樹脂溶液を使用する場合、ドラフト比を2.1〜6.0に、溶融樹脂を使用する場合、ドラフト比を10〜30にして、光学フィルムが製造されている。これにより、流延膜が樹脂溶液を使用する場合で2.1倍から6倍の速度で、溶融樹脂を使用する場合10倍から30倍の速度で引き伸ばされ、この引き伸ばされた方向に強いせん断応力がかかるため、粒子の向きが一定方向に配向することができる。また、製膜時において、粒子を添加した樹脂溶液や溶融樹脂によるスリット通過時間を長くする構成とすることにより、せん断応力がかかる時間が長くなり、粒子の向きが一定方向に良く配向する。また、製膜時において、粒子を添加した樹脂溶液や溶融樹脂によるスリット通過時間を長くし、加えて、ドラフト比を大きくして光学フィルムを製造することで、より粒子の向きが一定方向に良く配向する。これにより、従来に比しより大きな位相差を得ることができる。したがって、製造工程において、請求項における条件を変えることで(以下、「位相差の制御」という。)、広い範囲(以下、「位相差の制御範囲」という。)の位相差のいずれかに複屈折性を調整できる。さらに、粒子の向きが一定方向に良く配向することで、光学フィルムのスリッティング性を向上させることができ、切断時の切り粉の発生を減少させることができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、遠心分離機を用いることにより、絶対最大長とアスペクト比が所望の範囲に収まる粒子の含有率を確実に90%以上にすることが可能となる。これにより、より粒子の向きが一定方向に良く配向するようになり、大きな位相差を出すことができ、より光学フィルムの位相差の制御範囲を広くでき、複屈折性の調整の精度を上げることができる。また、そのスリッティング性をより向上させることもでき、さらに切断時の切り粉の発生をより減少させることができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、濾過機を用いることにより、絶対最大長とアスペクト比が所望の範囲に収まる粒子の含有率を確実に90%以上にすることが可能となる。これにより、より粒子の向きが一定方向に良く配向するようになり、大きな位相差を得ることができ、より光学フィルムの位相差制御範囲を広くでき、複屈折性の調整の精度をあげることができる。また、そのスリッティング性をより向上させることもでき、さらに切断時の切り粉の発生をより減少させることができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、粒子が負の複屈折性を持つため、複屈折性を有する樹脂にその粒子を含ませることにより、両方の複屈折の効果が足し合わされ、位相差が精度よく制御できる。
【0024】
請求項5の発明によれば、位相差の制御範囲が広い光学フィルムを、セルロースエステルを用いて製造できる。これにより、液晶表示装置の偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化する光学フィルムの製造が可能になる。
【0025】
請求項6の発明によれば、位相差の制御範囲が広い光学フィルムを、セルロースアセテートプロピオレートを用いて製造できる。これにより、液晶表示装置の偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを一体化する光学フィルムの製造が可能になる。
【0026】
請求項7の光学フィルムの発明は、請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたものであるから、大きな位相差を持ち位相差の制御範囲が広く、スリッティング性が高く、切断時の切り粉の巻き込みによる変形故障が少ない。
【0027】
請求項8の偏光板の発明は、偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる偏光板であって、両透明保護層のうち少なくとも1つに、請求項12の光学フィルムが用いられているものであるから、本発明の偏光板は、部材の減少とともに、製造工程の簡略化及びコストの面において優れているという効果がある。
【0028】
請求項9の液晶表示装置の発明は、液晶セルを挟む2枚の偏光板うち少なくとも1枚の偏光板が、請求項13に記載の偏光板であるもので、本発明によれば、広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な画像表示装置、特にIPSのモードで動作する液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による光学フィルムの製造方法の概略について図1を基に説明する。ここで、図1は、本発明に係る光学フィルムの製造方法の工程図である。まず、図1に示すように、本発明の光学フィルム製造方法では、所望の粒径範囲を有する粒子である微粒子を作成する微粒子作成工程001を有する。この工程には、所望の粒径範囲を有する粒子の体積割合を上げる分級工程001(A)や、微粒子を効率よく均一に分散させるための微粒子分散液を作成する微粒子分散液調製工程001(B)などが含まれる。そこで、本発明における所望の粒径範囲について詳細に説明する。
【0030】
本発明の光学フィルムを構成する微粒子としては、複屈折性を有する微粒子の範疇に属するものである必要があり、特に延伸などの一般的な配向操作により3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムが容易に得られることから、棒状、針状、紡錘状等の細長い形態(以下、「針状」というときがある。)であることが好ましい。ここで、光学フィルムに含有された状態で説明すると、nxとは光学フィルム面内の遅相軸(x軸)方向(配向方向)の屈折率を示し、nyとはそれと垂直方向(y軸)方向の屈折率を示し、nzとは光学フィルムの厚み(z軸)方向の屈折率を示す。さらに、微粒子が一定方向に良く配向することや、ヘーズが少なく透明性の高い光学フィルムとなることから、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比(前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された微粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値)をYとしたとき、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]を満たす粒径範囲を持つ微粒子が好ましい。
[式1] Y>(X^2)/20000
[式2] Y>20×(X^(−0.5))
[式3] Y<20
[式4] 50<X<500
【0031】
ここで、[式1]の算出方法を説明する。まず、様々な粒径範囲を有する微粒子を含有する光学フィルムにおける、実際のヘーズを測定する。ここで、粒径範囲は透過電子顕微鏡で実測した。次に、レイリー散乱の式を用いてこの粒径範囲から計算できるヘーズの値と実測値を比較して、レイリー散乱の式の係数を調整し、粒径範囲から実際のヘーズが推定できるように式を作成した。そして、この式を用いて望ましい粒径範囲を算出し、そこから[式1]を算出した。
【0032】
次に、[式2]の算出方法を説明する。様々な粒径範囲を有する微粒子を含有する樹脂溶液に対して、様々なスリット通過時間又はドラフト比をかけた時の、それぞれの粒子の大きさやアスペクト比と、その粒子の向きの関係を調べる。そして、粒子の大きさやアスペクト比毎にどれだけ粒子が配向しやすいかを解析して[式2]を算出した。
【0033】
この微粒子の粒径範囲は図6に示すようなグラフで表される。ここで、図6は、縦軸はアスペクト比、横軸を絶対最大長(nm)に取ったグラフである。そして、曲線(a)が[式1]を表し、曲線(b)が[式2]を表している。そして、曲線(a)の左側の領域がヘーズ低減のため使用したい微粒子を表す領域であり、右側の領域がヘーズ低減のために除きたい微粒子を表す領域である。また、曲線(b)の上側の領域が一定方向に良く配向する微粒子を表す領域であり、下側の領域は微粒子の配向が悪くなるため除きたい微粒子を表す領域である。したがって、最も好ましい微粒子を含む領域は点線で囲まれた領域(c)で表される。
【0034】
ここで、アスペクト比が10未満の微粒子と比べるとアスペクト比が10以上の微粒子は作成し難いため、アスペクト比が10未満のものが特に好ましい。そこで、図6のグラフでは、特に好ましい範囲であるアスペクト比が10未満の領域について表している。ただし、[式1]は単調増加であり、[式2]は単調減少のグラフであるので、アスペクト比が10より大きい領域についても、このままグラフが拡大されるものである。
【0035】
本発明において負の複屈折性を有する針状微粒子を好ましく用いることができる。複屈折性微粒子の複屈折性については、次のように定義する。複屈折性微粒子の絶対最大長方向に偏光した光に対する屈折率をnpr、絶対最大長方向に直交する方向に偏光した光に対する平均屈折率をnvtとする。複屈折性微粒子の複屈折Δnは、下式(2)で定義される。
式(2) Δn=npr−nvt
すなわち、複屈折性微粒子の絶対最大長方向の屈折率が、それに直交する方向の平均屈折率よりも大きければ正の複屈折、その逆であれば負の複屈折となる。本発明で使用される複屈折性微粒子の持つ複屈折の絶対値には特に制限はないが、0.01〜0.3であることが好ましく、0.05〜0.3であることがさらに好ましい。負の複屈折性を示す複屈折性結晶としては、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン、および炭酸バリウム等が挙げられる。針状結晶の場合は結晶の長い方向の屈折率がそれとは直行する方向の屈折率よりも小さい材料を意味する。炭酸塩微粒子は、均一沈殿法あるいは炭酸ガス化合法等によって製造することができる。例えば、特開平3−88714号、特公昭55−51852号、特開昭59−223225号等に記載の方法で製造することができる。本発明に用いる微粒子は表面が疎水化処理されたものでもよく、その疎水化度がメタノールウェッタビリティ値で20%以下であることが好ましい。前記微粒子の疎水化度は、アルコール系を含む溶媒や純水などを用いて定量することが好ましい。疎水化度を定量化する方法としては、メタノールウェッタビリティ法(以下、MW法と称する)が好ましく、疎水化度は、本法で求められるメタノールウェッタビリティ値(以下、MW値と称する)で表すことが好ましい。上記のMW法において、微粒子の疎水化度を定量化するためには、メタノールと純水とを混合させた第1溶液及び第2溶液をそれぞれ用いる。このとき、メタノールと純水との配合比は、第1溶液においては体積比が4:6であることが好ましく、また、第2溶液では体積比が6:4とすることが好ましい。そして、各溶液に前記微粒子を同量添加して攪拌混合し、この混合した各溶液を遠心分離させて、前記微粒子の沈降物の体積をそれぞれ求め、第1溶液における微粒子の沈降物の体積をtmlとし、第2溶液における微粒子の沈降物の体積をsmlとしたときに、MW値を、MW=(t/s)×100〔%〕から求める。
【0036】
次に、図1に示すように、樹脂を溶かすことにより液体の樹脂を作る液化樹脂作成工程002を有する。この液化樹脂作成工程002には熱可塑性樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂や、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「ドープ」という。)がある。詳細は後述の第1の実施形態〔0047〕及び第2の実施形態〔0194〕に記載する。ここでドープを作成する場合にはセルロースエステル溶液調製工程002(A)などが含まれる。
【0037】
次に、図1に示すように、微粒子作成工程001で作成した微粒子と、液化樹脂作成工程002で作成した液体の樹脂を混ぜ合わせ攪拌する混合工程003を有する。この混合方法には微粒子分散液を調製し、それを、溶解釜1(図2参照)の中で混合したり、インライン添加工程003(A)により混合したりする方法がある。詳細は後述の第1の実施形態に記載する。また、その他の混合方法として、溶融樹脂に微粒子を添加する場合は、微粒子分散液を作成せずに粒子を直接溶融樹脂に添加して、二軸押し出し機やニーダーなどで混錬することで、微粒子が均一に分散された溶融樹脂を得る混合方法もある。
【0038】
次に、図1に示すように、混合工程003により、微粒子を含有させた溶融樹脂又は樹脂溶液を、ダイのスリットから回転駆動金属性エンドレスベルトまたは回転駆動金属性ドラムといった無限移行する無端の金属支持体上に流延して製膜する流延工程004を有する。
【0039】
本発明では、この流延工程004において、ダイのランド長を長くして熱可塑性樹脂のドープ又は溶融樹脂がダイのマニホールド内のスリットを通過する際の時間が長くなるようにしたり、流延膜の線速度Vrm(ダイのスリットからドープ又は溶融樹脂が流延される速度)に対する金属支持体の線速度Vbの比であるドラフト比Vb/Vrm(図5参照)が大きくなるようにしたりすることを特徴としている。ここで、ランド長とはダイにおけるドープを押し出すスリットのドープ流動方向の長さである(図4(A)参照)。
【0040】
そして、ドラフト比が大きければ、微粒子にかかるせん断応力が強くなるため、微粒子の向きが一定方向に良く配向することになる。したがって、ドラフト比が十分な大きさを有するときに、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。ただし、ドラフト比をあまり大きくしすぎると、光学フィルムに横段がでてしまう。そこで、ドラフト比は、ドープの場合2.1〜6.0、溶融樹脂の場合10〜30であることが好ましい。
【0041】
さらに、ドープ又は溶融樹脂がスリットを通過する時間が長ければ、微粒子にせん断応力がかかる時間を長くすることができ、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。したがって、スリット通過時間が十分な時間を有するときに、微粒子の向きが一定方向に良く配向する。ただし、あまりスリット通過時間が長いと光学フィルムに縦スジが出てしまう。そこで、ダイのマニホールド内のスリットを熱可塑性樹脂のドープまたは溶融樹脂が通過する時間が0.1sec〜2.0secであることが好ましい。
【0042】
次に、図1に示すように、流延工程004で作成した流延膜を、溶媒蒸発工程005(A)、剥離工程005(B)、乾燥工程005(C)、巻き取り工程005(D)などを行なって、光学フィルムを完成させる仕上げ工程005を有する。
【0043】
以上ように、図1に示す本発明の光学フィルム製造方法における各工程を経ることで、微粒子が一定方向に良く配向した光学フィルムを製造することが可能である。
【0044】
さらに、本発明の方法により製造する光学フィルムとしては、製造が容易であること、活性線硬化型樹脂層との接着性が良好であること、光学的に透明であることなどが好ましい要件として挙げられる。
【0045】
ここで、光学フィルムについて、透明とは、可視光の透過率が60%以上であることを指し、好ましくは可視光の透過率が80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0046】
さらに、本発明において好ましく用いられる熱可塑性樹脂としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのアシル基の置換度が2.3〜2.8もしくはそれ以上のセルロースエステル樹脂などを挙げることができる。
【0047】
〔第1の実施形態〕
本発明の光学フィルムの製造方法を溶液流延製膜法で行う場合について、説明する。
【0048】
〈ドープを調製する材料〉
以下、熱可塑性樹脂としてセルロースエステルを例に挙げて、本発明を説明する。
【0049】
本発明において、セルロースエステル及びそれを溶かすための有機溶媒を含有するセルロースエステル溶液をドープといい、これをもって溶液流延製膜し、セルロースエステルフィルムを形成せしめるものである。
【0050】
(セルロースエステル)
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ単独で、または任意の割合で混合して使用することができる。
【0051】
本発明において、セルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行なわれる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCI、C2H5COCI、C3H7COCI)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行なわれる。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することができる。
【0052】
セルロースエステルは、アシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットあたり3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0053】
セルロースエステルフィルムに用いることができるセルロースエステルとしては、総アシル基置換度が2.3〜2.8まで、もしくはそれ以上であることが好ましい。これは、置換度が3.0に近い樹脂は延伸しても、樹脂自体の複屈折が変わり難いからである。
【0054】
本発明に用いられるセルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)で50,000〜200,000のものが用いられる。60,000〜200,000のものがさらに好ましく、80,000〜200,000が特に好ましい。
【0055】
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnが、前記のように1.4〜3.0であることが好ましく、さらに好ましくは1.7〜2.2の範囲である。
【0056】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することができる。これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することが出来る。
【0057】
本発明に用いられるセルロースエステルは、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであり、特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートフタレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることができる。あるいは、特開2002−179701号、同2002−265639号、同2002−265638号に記載の芳香族カルボン酸とセルロースとのエステル、セルロースアシレートも好ましく用いられる。上記記載の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルはセルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートである。これらのセルロースエステルは混合して用いることもできる。
【0058】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をxとし、プロピオニル基もしくはブチリル基の置換度をyとした時、下記式(a)及び(b)を同時に満たすセルロースエステルである。
【0059】
式(a) 2.3≦x+y≦2.8
式(b) 0≦x≦2.5
アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらは公知の方法で合成することができる。
【0060】
これらアシル基置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。
【0061】
アセチルセルロースの場合、酸化率を上げようとすれば、酸化反応の時間を延長する必要がある。ただし、反応時間をあまり長くとると分解が同時に進行し、ポリマー鎖の切断やアセチル基の分解などが起こり、好ましくない結果をもたらす。したがって、酸化度を上げ、分解をある程度抑えるためには反応時間はある範囲に設定することが必要である。反応時間で規定することは反応条件がさまざまであり、反応装置や設備その他の条件で大きく変わるので適切でない。ポリマーの分解は進むにつれ、分子量分布が広くなっていくので、セルロースエステルの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値で規定できる。すなわちセルローストリアセテートの酸化の過程で、あまり長すぎて分解が進みすぎることがなく、かつ酸化には十分な時間酸化反応を行わせしめるための反応度合いの一つの指標として重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることができる。
【0062】
セルロースエステルの製造法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿花リンター100重量部を解砕し、40重量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をした。その後、硫酸8重量部、無水酢酸260重量部、酢酸350重量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行った。24質量%酢酸マグネシウム水溶液11重量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成し、アセチルセルロースを得た。これを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間攪拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の生成アセチルセルロースを得た。このアセチルセルロースはMnが92,000、Mwが156,000、Mw/Mnは1.7であった。同様にセルロースエステルのエステル化条件(温度、時間、攪拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、Mw/Mn比の異なるセルロースエステルを合成することができる。
【0063】
なお、合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去したり、未酸化の成分を濾過で取り除いたりすることも好ましく行なわれる。
【0064】
また、混酸セルロースエステルの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法によって得ることができる。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
【0065】
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ない方が好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、地下水や河川の水などに多く含まれ、これが多いと硬水となり、飲料水としても不適当であるが、カルボン酸や、スルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物、すなわち、錯体を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する。
【0066】
カルシウム(Ca)成分は60ppm以下、好ましくは0〜30ppmである。マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、0〜70ppmであることが好ましく、特に0〜20ppmであることが好ましい。鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行なった後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行なうことによって求めることができる。
【0067】
(有機溶媒)
セルロースエステルを溶解してドープの形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることができ、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。
【0068】
昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができる。
【0069】
これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることができるので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることはできるが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンが好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本発明において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0070】
本発明において、ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなると流延膜(以下、金属支持体上にドープを流延した以降の流延膜を「ウェブ」ということがある。)がゲル化し、ウェブを丈夫にし、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進したりする役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性もよいことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性を有していないので貧溶媒という。
【0071】
ドープ中のセルロースエステルの濃度は15〜30重量%、ドープ粘度は100〜500Pa・sの範囲に調製されることが良好な光学フィルム面品質を得る上で好ましい。
【0072】
ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、マット剤などの微粒子がある。本発明において、これらの添加剤はセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、マット剤などの微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。液晶画像表示装置に使用する偏光板には、耐熱・耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。下記に添加剤について説明する。
【0073】
(可塑剤)
本発明において、セルロースエステル溶液またはドープには、いわゆる可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、リタデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。
【0074】
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0075】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルホスフェート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。
【0076】
また、可塑剤として多価アルコールエステルも好ましく用いられる。
【0077】
本発明において用いられる多価アルコールは、次の一般式(1)で表される。
【0078】
(1)R1 −(OH)n
ただし、式中、R1 はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0079】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0080】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0081】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0082】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0084】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0085】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0086】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0087】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、また、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0088】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0089】
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸及び乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
【0090】
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0091】
この他の添加剤として、特開2002−22956号公報に記載のポリエステル、ポリエステルエーテル、特開2003−171499号公報に記載のウレタン樹脂、特開2002−146044号公報に記載のロジン及びロジン誘導体、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂、特開2003−96236号公報に記載の多価アルコールとカルボン酸とのエステル、特開2003−165868号公報に記載の一般式(1)で示される化合物、特開2004−292696号公報に記載のポリエステル重合体またはポリウレタン重合体等が挙げられる。これらの添加剤は、ドープもしくは微粒子分散液に含有させることができる。
【0092】
(紫外線吸収剤)
本発明において、セルロースエステル溶液またはドープには、有害な紫外線をカットするために、紫外線吸収剤を含有させることができる。
【0093】
使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報、特開2001−72782号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報、特開2002−31715号公報、特開2002−169020号公報、特開2002−47357号公報、特開2002−363420号公報、特開2003−113317号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0094】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。高分子紫外線吸収剤としては、大塚化学社製の反応型紫外線吸収剤RUVA−93を例として挙げることができる。
【0095】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0096】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0097】
紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤が溶解するようなものであれば制限なく使用できるが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等のセルロースエステルに対する良溶媒、または良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に添加するかまたは直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とポリマー中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0098】
紫外線吸収剤の含有量は0.01〜5重量%、特に0.5〜3重量%である。
【0099】
本発明においては、これら紫外線吸収剤を単独で用いても良いし、異なる2種以上の混合で用いても良い。
【0100】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して重量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0101】
(マット剤)
本発明のセルロースエステル溶液またはドープには、光学フィルムの滑り性を良くするため、あるいは物性を改善するために、マット剤などの微粒子を添加することができる。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、その形状としては、球状、平板状、棒状、針状、層状、不定形状などが用いられる。無機化合物の微粒子の例としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、カオリン、タルク、クレイ、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、及びリン酸カルシウム等の金属酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩、炭酸酸塩を挙げることができる。
【0102】
有機化合物の微粒子の例としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の微粒子を挙げることができ、シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元網状構造を有するものが好ましい。例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(東芝シリコーン株式会社製)を挙げることができる。
【0103】
中でも、二酸化珪素が光学フィルムのヘーズを低くできるので、好ましい。二酸化珪素のような微粒子は、有機物によって表面処理されていることが多いが、このようなものは光学フィルムのヘーズを低減できるので好ましい。表面処理で好ましい物質としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。
【0104】
微粒子の平均粒径は大きい方が、滑り性効果は大きく、反対に、平均粒径が小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の平均粒径は、0.005〜1.0μmの範囲である。これらの一次粒子であっても、凝集によってできた二次粒子であっても良い。微粒子の含有量は樹脂に対して1m2あたり0.01〜20g含有させることが好ましい。
【0105】
二酸化珪素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V,R974、R202、R812、R805、OX50、TT600などを挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種類以上併用しても良い。2種類以上併用する場合は、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えばアエロジル200VとR972Vを質量比で、0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
【0106】
上記マット剤として用いられる光学フィルム中の微粒子の存在は、別の目的として、光学フィルムの強度向上のために用いられることができる。
【0107】
(複屈折性調整用の微粒子)
本発明の光学フィルムには、大きな位相差制御範囲を確保するため、あるいは物性を改善するために、複屈折性を有する微粒子を添加する。これにより、本発明の光学フィルムは、3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムとなる。ここで、nxとは光学フィルム面内の遅相軸(x軸)方向(配向方向)の屈折率を示し、nyとはそれと垂直方向(y軸)方向の屈折率を示し、nzとは光学フィルムの厚み(z軸)方向の屈折率を示す。
【0108】
本発明の光学フィルムを構成する複屈折性を有する微粒子としては、複屈折性を有する微粒子の範疇に属するものである必要があり、特に延伸などの一般的な配向操作により3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たす光学フィルムが容易に得られることから、棒状、針状、紡錘状等の細長い形態であることが好ましい。さらに、微粒子が一定方向に良く配向することや、ヘーズの値が低く透明性の高い光学フィルムとなることから、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比(前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された微粒子の像をはさんだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値)をYとしたとき、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]を満たす粒径範囲を持つ微粒子が好ましい。(以下、[式1]、[式2]、[式3]、[式4]をまとめて記載するときは[粒径範囲式]と記載する。)
[式1] Y>(X^2)/20000
[式2] Y>20×(X^(−0.5))
[式3] Y<20
[式4] 50<X<500
【0109】
この微粒子の粒径範囲は図6に示すようなグラフで表される。ここで、図6は、縦軸はアスペクト比、横軸を絶対最大長(nm)に取ったグラフである。そして、曲線(a)が[式1]を表し、曲線(b)が[式2]を表している。そして、曲線(a)の左側の領域がヘーズ低減のため使用したい微粒子を表す領域であり、右側の領域がヘーズ低減のために除きたい微粒子を表す領域である。また、曲線(b)の上側の領域が一定方向に良く配向する微粒子を表す領域であり、下側の領域は微粒子の配向が悪くなるため除きたい微粒子を表す領域である。したがって、最も好ましい微粒子を含む領域は点線で囲まれた領域(c)で表される。
【0110】
ここで、アスペクト比が10未満の微粒子と比べるとアスペクト比が10以上の微粒子は作成し難いため、アスペクト比が10未満のものが特に好ましい。そこで、図6のグラフでは、特に好ましい範囲であるアスペクト比が10未満の領域について表している。ただし、[式1]は単調増加であり、[式2]は単調減少のグラフであるので、アスペクト比が10より大きい領域についても、このままグラフが拡大されるものである。
【0111】
さらに、本発明における微粒子は、その中でも負の複屈折性を有する微粒子であることが好ましく、特に大きなΔnを有する負の複屈折性を有する微粒子であることが好ましい。
【0112】
該微粒子としては、例えば炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸バリウム、炭酸マンガンが上げられる。
【0113】
(界面活性剤)
本発明で用いられるドープあるいは微粒子分散液には、界面活性剤を含有することが好ましく、リン酸系、スルホン酸系、カルボン酸系、ノニオン系、カチオン系等特に限定されない。これらは、例えば特開昭61−243837号公報等に記載されている。界面活性剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0.002〜2重量%が好ましく、0.01〜1重量%がより好ましい。添加量が0.001重量%未満であれば添加効果を十分に発揮することができず、添加量が2重量%を超えると、析出したり、不溶解物を生じたりすることがある。
【0114】
さらに、本発明で用いられる炭酸ストロンチウムの微粒子は表面処理を行ってからドープを作成することが好ましく、ノニオン界面系活性剤で表面処理することがさらに好ましい。これは、微粒子はそのままでは癒着する性質があるため、光学フィルム内の複屈折性に偏りが出てしまう。そこで、微粒子同士を癒着させないために表面処理を行うものである。
【0115】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリグリシジルやソルビタンをノニオン性親水性基とする界面活性剤であり、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル、ポリオキシエチレン―ポリオキシプロピレングリコール、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステルを挙げることができる。
【0116】
アニオン系界面活性剤としてはカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩であり、代表的なものとしては脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩、ジアルキルスルフォコハク酸塩、α−スルホン化脂肪酸塩、N−メチル−Nオレイルタウリン、石油スルホン酸塩、アルキル硫酸塩、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニールエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩ホルムアルデヒド縮合物等である。
【0117】
カチオン系界面活性剤としてはアミン塩、4級アンモニウム塩、ピリジュム塩等を挙げることができ、第1〜第3脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩(テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等)を挙げることができる。両性系界面活性剤としてはカルボキシベタイン、スルフォベタイン等であり、N−トリアルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N−トリアルキル−N−スルフォアルキレンアンモニウムベタイン等である。
【0118】
フッ素系界面活性剤は、フルオロカーボン鎖を疎水基とする界面活性剤である。フッ素系界面活性剤としては、C8F17CH2CH2O-(CH2CH2O)10-OSO3Na、C8F17SO2N(C3H7)(CH2CH2O)16-H、C8F17SO2N(C3H7)CH2COOK、C7F15COONH4、C8F17SO2N(C3H7) (CH2CH2O)4-(CH2)4-SO3Na、C8F17SO2N(C3H7)(CH2)3-N+(CH3)3・I−、C8F17SO2N(C3H7)CH2CH2CH2N+(CH3)2-CH2COO−、C8F17CH2CH2O(CH2CH2O)16-H、C8F17CH2CH2O(CH2)3-N+(CH3)3・I−、H(CF2)8-CH2CH2OCOCH2CH(SO3)COOCH2CH2CH2CH2(CF2)8-H、H(CF2)6CH2CH2O(CH2CH2O)16-H、H(CF2)8CH2CH2O(CH2)3-N+(CH3)3・I−、H(CF2)8CH2CH2OCOCH2CH(SO3)COOCH2H2CH2CH2C8F17、C9F17-C6H4-SO2N(C3H7)(CH2CH2O)16-H、C9F17-C6H4-CSO2N(C3H7)(CH2)3-N+(CH3)3・I−等が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0119】
(剥離促進剤)
さらに、剥離時の荷重を小さくするための剥離促進剤も、ドープに添加してもよい。それらは、界面活性剤が有効であり、リン酸系,スルホン酸系,カルボン酸系,ノニオン系,カチオン系等があるが、これらに特に限定されない。これらの剥離促進剤は、例えば特開昭61−243837号公報等に記載されている。特開昭57−500833号公報にはポリエトキシル化リン酸エステルが剥離促進剤として開示されている。特開昭61−69845号公報には非エステル化ヒドロキシ基が遊離酸の形であるモノまたはジリン酸アルキルエステルをセルロースエステルに添加することにより迅速に剥離できることが開示されている。また、特開平1−299847号公報には非エステル化ヒドロキシル基及びプロピレンオキシド鎖を含むリン酸エステル化合物と無機物粒子を添加することにより剥離荷重が低減できることが開示されている。
【0120】
また、下記式(2)または(3)で表される化合物が含まれていることが好ましい。
【0121】
(2)(R1-B1-O)n1-P(=O)-(OM1)n2
(3) R2-B2-X
式中、R1及びR2は、それぞれ、炭素数4〜40の置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基であり、M1は、アルカリ金属、アンモニア、低級アルキルアミンであり、B1及びB2は、それぞれ、2価の連結基であり、Xは、カルボン酸またはその塩、スルホン酸またはその塩、あるいは硫酸エステルまたはその塩であり、n1は、1または2であり、そして、n2は、3−n1である。
【0122】
上記の式(2)または(3)で表される少なくとも一種の剥離剤を、セルロースアシレートフィルムに含有することが好ましい。
【0123】
以下に、これらの剥離剤について記述する。R1とR2の好ましい例としては、炭素数4〜40の置換、無置換のアルキル基(例えば、ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコサニル、ドコサニル、ミリシル、等)、炭素数4〜40の置換、無置換のアルケニル基(例えば、2−ヘキセニル、9−デセニル、オレイル等)、炭素数4〜40の置換、無置換のアリール基(例えば、フェニル、ナフチル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ジイソプロピルフェニル、トリイソプロピルフェニル、t−ブチルフェニル、ジ−t−ブチルフェニル、トリ−t−ブチルフェニル、イソペンチルフェニル、オクチルフェニル、イソオクチルフェニル、イソノニルフェニル、ジイソノニルフェニル、ドデシルフェニル、イソペンタデシルフェニル)である。
【0124】
これらの中でもさらに好ましいのは、アルキルとしては、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコサニル、アルケニルとしてはオレイル、アリール基としてはフェニル、ナフチル、トリメチルフェニル、ジイソプロピルフェニル、トリイソプロピルフェニル、ジ−t−ブチルフェニル、トリ−t−ブチルフェニル、イソオクチルフェニル、イソノニルフェニル、ジイソノニルフェニル、ドデシルフイソペンタデシルフェニルである。
【0125】
つぎに、B1、B2の2価の連結基について記述する。炭素数1〜10のアルキレン、ポリ(重合度1〜50)オキシエチレン、ポリ(重合度1〜50)オキシプロピレン、ポリ(重合度1〜50)オキシグリセリン、でありこれらの混合したものでもよい。これらで好ましい連結基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ポリ(重合度1〜25)オキシエチレン、ポリ(重合度1〜25)オキシプロピレン、ポリ(重合度1〜15)オキシグリセリンである。
【0126】
つぎに、Xは、カルボン酸(または塩)、スルホン酸(または塩)、硫酸エステル(または塩)であるが、特に好ましくはスルホン酸(または塩)、硫酸エステル(または塩)である。塩としては好ましくはNa、K、アンモニウム、トリメチルアミン及びトリエタノールアミンである。以下に、本発明の好ましい化合物の具体例を記載する。
【0127】
RZ−1 C8H17O-P(=O)-(OH)2
RZ−2 C12H25O-P(=O)-(OK)2
RZ−3 C12H25OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2
RZ−4 C15H31(OCH2CH2)5O-P(=O)-(OK)2
RZ−5 {C12H25O(CH2CH2O)5}2-P(=O)-OH
RZ−6 {C18H35(OCH2CH2)8O}2-P(=O)-ONH4
RZ−7 (t-C4H9)3-C6H2-OCH2CH2O-P(=O)-(OK)2
RZ−8 (iso-C9H19-C6H4-O-(CH2CH2O)5-P(=O)-(OK)(OH)
RZ−9 C12H25SO3Na
RZ−10 C12H25OS3Na
RZ−11 C17H33COOH
RZ−12 C17H33COOH・N(CH2CH2OH)3
RZ−13 iso-C8H17-C6H4-O-(CH2CH2O)3-(CH2)2SO3Na
RZ−14 (iso-C9H19)2-C6H3-O-(CH2CH2O)3-(CH2)4SO3Na
RZ−15 トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−16 トリ-t-ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−17 C17H33CON(CH3)CH2CH2SO3Na
RZ−18 C12H25-C6H4SO3・NH4
これらの化合物の使用量は、ドープ中に0.002〜2重量%で含有することが好ましい。より好ましくは0.005〜1重量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%である。その添加方法は、特に限定されないがそのまま液体あるいは固体のまま、溶解する前に他の素材と共に添加され溶液としてもよいし、予め作製されたセルロースアシレート溶液に後から添加してもよい。
【0128】
(その他の添加剤)
この他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。さらに帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0129】
〈溶液流延製膜法〉
本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法により実施される。
【0130】
図2は、光学フィルムの溶液流延製膜法の微粒子分散液調製工程001(A)、セルロースエステル溶液調製工程002(A)、インライン添加工程003(A)、流延工程004及び仕上げ工程005を模式的に示した概略図である。ここで、微粒子分散液調製工程001(A)、セルロースエステル溶液調製工程002(A)、及びインライン添加工程003(A)はドープの調製を行う工程である。
【0131】
(1)微粒子分散液調製工程001(A)
微粒子分散液の調製方法は、特に限定はされないが、下記のa)もしくはb)の方法で行なうことが好ましい。
【0132】
a)溶解釜10中に有機溶媒と微粒子分散用樹脂を導入し、攪拌溶解し、樹脂溶液とする(図2参照)。これとは別に、有機溶媒と微粒子の混合液を送液ポンプ2でマントンゴーリーやサンドミル等の分散機(図示略)に移送し、プレ分散を行なう。微粒子のプレ分散液を前記の樹脂溶液に添加し、攪拌し、これを送液ポンプ11で濾過器12に送って凝集物を取り除き、微粒子分散液として、ストックタンク(静置釜)13にストックする。調製された微粒子分散液は、さらに何回か分散と濾過を繰り返してもよい。
【0133】
b)溶解釜10中に有機溶媒と例えばセルロースエステル系樹脂を加え、攪拌溶解して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に微粒子を加えて、マントンゴーリンもしくはサンドミル等の分散機(図示略)で分散し、それを送液ポンプ11で濾過器12に送って凝集物を除き微粒子分散液とする(何回か同様な操作を繰り返し循環させてもよい)。そして微粒子分散液を切り替え弁17からストックタンク13に移送し、静置脱泡後、送液ポンプ(例えば加圧型定量ギヤポンプ)14で移送し、濾過器15で濾過して導管16で移送する。
【0134】
微粒子分散液には、さらに可塑剤、紫線吸収剤、分散剤等も添加してもよい。
【0135】
本発明において、上記のような微粒子分散液を調製する際に使用する分散機は、大きくはメディアレス分散機とメディア分散機とに分けられ、どちらも使用することができる。
【0136】
メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型等があり、本発明においては高圧分散装置が好ましく用いられる。高圧分散装置は微粒子と溶媒を混合した組成物を細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態等特殊な条件を作りだす装置である。高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が9.8×106Pa以上であることが好ましい。さらに好ましくは19.6×106Pa以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが好ましい。上記のような高圧分散装置にはMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザー、あるいはウルトラタラックスがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えば、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー、三和機械株式会社社製UHN−01等が挙げられる。
【0137】
メディア分散機としては、ガラスビーズ、セラミックビーズ等のメディアの衝突力を利用して分散するタイプのボールミル、サンドミル、ダイノミル等が挙げられる。本発明では、特にメディア分散機が好ましく用いられる。
【0138】
このようにして調製された微粒子分散液は濾過により、凝集物や異物が除去される。得られた微粒子分散液を用いて、ドープが調製される。
【0139】
(2)セルロースエステル溶液調製工程002(A)
本発明においては、上記の方法で予め調製された微粒子分散液と溶媒とセルロースエステルとを混合してドープが調製される。具体的には、溶解釜1に溶媒の一部と微粒子分散液とを添加混合した後、ここに残りの溶媒とセルロースエステルとを攪拌しながら添加し溶解させることが好ましい。可塑剤等の添加剤は、先に溶解釜1に添加していても、後から添加することもできる。
【0140】
あるいは、溶解釜1中の溶媒にセルロースエステルや可塑剤等の添加剤を攪拌しながら添加し、セルロースエステルの溶解中にさらに前記微粒子分散液を添加してもよい。もしくは、溶媒とセルロースエステル及び可塑剤等の添加剤とを混合してセルロースエステル溶液を得て、ここに前記微粒子分散液を攪拌しながら添加することもできる。
【0141】
セルロースエステル溶液を調製する方法を、さらに詳細に説明する。
【0142】
前述のセルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜1中でセルロースエステルや可塑剤等の添加剤を攪拌しながら溶解する。溶解には、常圧で行なう方法、主溶媒の沸点以下で行なう方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行なう高温溶解方法、冷却して溶解する冷却溶解方法、かなりの高圧で行なう高圧溶解方法等種々の溶解方法があるが、本発明においては、高温溶解方法が好ましく用いられる。
【0143】
溶解釜1の中で前記微粒子分散液とセルロースエステルと溶媒が混合されて得られたセルロースエステル溶液は、セルロースエステルが溶解した後、ポンプ2で濾過器3に送液して濾過される。
【0144】
濾過は、このセルロースエステル溶液をフィルタープレス用の濾紙等の適当な濾材を用いて行なうことが好ましい。本発明において、濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題点があり、絶対濾過精度8μm以下の濾材が好ましく、1〜8μmの範囲の濾材がより好ましく、3〜6μmの範囲の濾材がさらに好ましい。濾紙としては、例えば市販品の安積濾紙株式会社のNo.244やNo.277の濾紙等を挙げることができ、好ましく用いられる。
【0145】
濾過の濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材やステンレス等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過は通常の方法で行なうことができるが、加圧下で、使用有機溶媒の常圧での沸点以上で、かつ有機溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱または保温しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度範囲は使用有機溶媒に依存はするが、45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0146】
濾圧は小さい方が好ましく、0.3〜1.6MPaであることが好ましく、0.3〜1.2MPaであることがより好ましく、0.3〜1.0MPaであることがさらに好ましい。
【0147】
このようにして得られたドープはストックタンク4に保管され、脱泡された後、流延に用いられる。
【0148】
このようにドープ釜中で微粒子分散液とセルロースエステル溶液とを混合してドープを調製することが好ましい方法として挙げられるが、セルロースエステル溶液と微粒子分散液の一部もしくは全部をインラインで混合することもできる。
【0149】
例えば、図2では、インラインで微粒子分散液を添加する工程の一例を示している。微粒子分散液は、セルロースエステル溶液(もしくはドープ原液と称する場合がある)と、合流管20で合流される。合流管20の直前には、濾過器6,15が配置されており、例えば濾材交換等に伴い経路から発生する大きな異物を、送液中の微粒子分散液あるいはドープ原液から除去することができる。
【0150】
ここでは、耐溶剤性を有する金属製の濾過器6,15が好ましく用いられる。濾材としては、耐久性の観点から金属、特にステンレス鋼が好ましい。目詰まりの観点から60〜80%の空孔率を有していることが好ましい。最も好ましくは、絶対濾過精度30〜60μmであって、かつ空孔率60〜80%の金属製濾材で濾過することであり、これにより、長期に亘り、確実に粗大な異物を除くことができ好ましい。絶対濾過精度30〜60μmでかつ空孔率60〜80%の金属製濾材としては、例えば、日本精線株式会社製ファインポアNFシリーズのNF−10、同NF−12、同NF−13等を挙げることができる。
【0151】
上記濾材の空孔率は60〜80%であることが好ましく、65〜75%であることがより好ましい。空孔率が大きい方が圧力損失が小さくなる点で好ましく、空孔率の小さいほうが耐圧性に優れるため好ましい。空孔率を求めるには、まず濾材を両面張力の低い溶媒中に浸漬し、濾材中の空気を取り除き、溶媒の増加した量から濾材の空孔量を求め、濾材の体積で割れば算出することができる。
【0152】
(3)インライン添加工程003(A)
図2に示す溶解釜1で、予め微粒子分散液とセルロースエステルと溶媒を混合してドープを調製する場合は、通常、微粒子分散液をインライン添加する必要はない。しかしながら、必要に応じて、微粒子の全部もしくは一部をインラインで混合することができる。
【0153】
図2を参照してインライン添加工程を説明すると、セルロースエステル溶液(ドープ原液と称することがある)を送液ポンプ5により移送し、濾過器6で濾過し、導管8で移送する。一方、微粒子分散液それぞれを送液ポンプ14により移送し、濾過器15で濾過し、導管16で移送する。そして、合流管20で両液を合流させる。合流した両液は導管内を、層状で移送するため、そのままでは混合しにくい。そこで、両液を合流後、インラインミキサーのような混合機21で十分に混合しながら次工程に移送する。
【0154】
本発明で使用できる混合機21としてのインラインミキサーとしては、例えばスタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer、東レエンジニアリング製)が好ましい。
【0155】
上記(2)セルロースエステル溶液調製工程、もしくは(2)セルロースエステル溶液調製工程と(3)インライン添加工程によって調製されたドープは、ドープ中の固形分濃度は15重量%以上に調整することが好ましく、特に18〜30重量%が好ましい。ドープ中の固形分濃度が高すぎると、ドープの粘度が高くなりすぎ、流延時にシャークスキン等が生じて光学フィルム平面性が劣化する場合があるので、30重量%以下であることが好ましい。
【0156】
(4)流延工程004
前工程までに調製されたドープを、図2に示す導管22によってダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属支持体31、すなわち例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトまたは回転駆動ステンレス鋼製ドラム(金属支持体)31上の流延位置に、ダイ30からドープを流延する工程である。金属支持体31の表面は鏡面となっている。ダイ30(例えば加圧型ダイス)は口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすいため好ましい。ダイ30には、コートハンガーダイスやTダイス等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるためにダイ30を金属支持体31上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0157】
図3は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置のダイ30とドープの供給管23との接続状態を示す拡大斜視図である。図4(A)及び(B)は、ランド長が異なる同ダイ30の拡大横断面図である。ここで、図3におけるWはスリットの幅を示している。また、図4におけるSはダイ30のスリットを示しており、HはスリットSの間隙を示しており、LはスリットSのドープ流動方向の長さ(以下、ランド長Lという。)を示している。
【0158】
そして、ダイ30のスリットの間隙Hは、狭すぎると送液圧力が高くなり過ぎるとともに微小な異物がドープに混入した場合にスリットS内で引っかかり、その部分が光学フィルムでスジになってしまう。また膜厚制御が非常にシビアになる。また、間隙Hが広すぎても精密な膜厚制御がしづらくなることから、0.2〜0.3mmの範囲が好ましい。
【0159】
さらに、ダイ30のスリットSをドープが流れるときのスリット通過時間が長くなると、微粒子に対しせん断応力がかかる時間が長くなるので、熱可塑性樹脂のドープに含まれた微粒子が一定方向に良く配向することになる。すなわち、微粒子を一定方向に良く配向させるためには、製膜において長いスリット通過時間が得られることが必要である。ただし、スリット通過時間を長くするためにランド長Lをあまり長くすると光学フィルムに縦スジができてしまう。そこで、かかるスリットSのドープのスリット通過時間は0.1〜2.0[sec]の範囲が好ましい。
【0160】
流延用の金属支持体31の表面温度は10〜55℃、ドープの温度は25〜60℃、さらに溶液の温度を支持体の温度と同じまたはそれ以上の温度にすることが好ましく、5℃以上の温度に設定することがさらに好ましい。
【0161】
溶液温度、支持体温度は、高いほど溶媒の乾燥速度が速くできるので好ましいが、あまり高すぎると発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
【0162】
さらに、流延膜の線速度Vrmに対する金属支持体の線速度Vbの比であるドラフト比Vb/Vrmを大きくすると、微粒子にかかるせん断応力が強くなるため、熱可塑性樹脂のドープに含まれた微粒子が一定方向によく配向することになる。ここで、流延膜の線速度は、ドープがダイ30から出た直後の速度であり、ドープ流量を、スリットSの幅WとスリットSの間隙Hの積(つまり断面積)で割ることで求められる。すなわち、微粒子を一定方向に良く配向させるため、このドラフト比を大きくする必要がある。ただし、ドラフト比があまり大きいと光学フィルムに横段がでてしまう。そこで、かかるドラフト比は2.1〜6.0の範囲が好ましい。
【0163】
ここで、本実施形態ではスリットSの間隙Hが一定なダイ30を使用しているが、これは、ドープの流速が下端に向かって大きくなるように、スリットSの間隙Hが上部で広く、下部に行くにしたがって狭くなっている形のダイ(特願2005−288042参照)を使用してもよい。
【0164】
(5)溶媒蒸発工程005(A)
ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降の流延膜)32を金属支持体31上で加熱し金属支持体31からウェブ32が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ32側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体31の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0165】
(6)剥離工程005(B)
金属支持体31上で溶媒が蒸発したウェブ32を、剥離位置33で剥離する工程である。剥離されたウェブ32は次工程に送られる。剥離する時点でのウェブ32の残留溶媒量(後述の式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体31上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブ32の一部が剥がれたりする。本発明において、薄手のウェブを金属支持体から剥離する際、平面性の劣化やつれがないように行うには、剥離張力として剥離できる最低張力から170N/m以内の力で剥離することが好ましく、140N/m以内の力がより好ましい。
【0166】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体31上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め、製膜速度を上げることができるのである。金属支持体31上でのウェブ32の乾燥が条件の強弱、金属支持体31の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することができるが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブ32が柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすくなったりするので、経済速度と品質との兼ね合いで剥離の際の残留溶媒量が決められる。従って、本発明においては、該金属支持体31上の剥離位置における温度を10〜40℃、好ましくは15〜30℃とし、かつ該剥離位置におけるウェブ32の残留溶媒量を10〜120質量%とすることが好ましい。
【0167】
製造時のセルロースエステルフィルムが良好な平面性を維持するために、金属支持体から剥離する際の残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、より好ましくは70〜150質量%であり、さらに好ましくは100〜130質量%である。残留溶剤中に含まれる良溶剤の比率は50〜90%が好ましく、さらに好ましくは、60〜90%であり、特に好ましくは、70〜80%である。
【0168】
本発明においては、残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
【0169】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量で、下記のガスクロマトグラフィーにより測定した質量であり、Nは該Mを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0170】
(7)乾燥工程005(C)
剥離後、一般には、図2に示すように、ウェブ32を複数の搬送ロール36に交互に通して搬送するロール乾燥装置35及びウェブ32の両端を把持して搬送するテンター装置34を用いてウェブ32を乾燥する。図2では、テンター装置34の後に、搬送ロール36を具備するロール乾燥装置35が配置されているが、この配置のみに限定されるものではない。
【0171】
乾燥の手段としてはウェブ32の両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥はでき上がりの光学フィルムの平面性を損ねやすい。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。37はでき上がったセルロースエステルフィルムの巻き取りである。セルロースエステルフィルムの乾燥工程において、残留溶媒量を0.5質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以下にして巻き取ることがより好ましい。
【0172】
テンター装置34による延伸工程についてさらに詳細に説明する。本発明によるセルロースエステルフィルムを製造する際の延伸倍率は、製膜方向もしくは幅手方向に対して、1.01〜3倍であり、好ましくは1.5〜3倍である。2軸方向に延伸する場合、高倍率で延伸する側が、1.01〜3倍であり、好ましくは1.5〜3倍であり、もう一方の方向の延伸倍率は0.8〜1.5倍、好ましくは0.9〜1.2倍に延伸することができる。
【0173】
これにより、本発明のリタデーション値を有するセルロ−スエステルフィルムを好ましく得ることと共に、平面性の良好なセルロ−スエステルフィルムを得ることができる。製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0174】
本発明に係る光学フィルムを作製するための延伸工程(テンター工程ともいう)の一例を説明する。
【0175】
テンター装置34において、まず、第1工程では、図示されていないフィルム搬送工程から搬送されてきた光学フィルムを把持する工程であり、次の第2工程において、光学フィルムが幅手方向(光学フィルムの進行方向と直交する方向)に延伸され、第3工程においては、延伸が終了し、光学フィルムが把持したまま搬送される工程である。
【0176】
光学フィルム剥離後から第2幅手方向延伸工程開始前、及び/または第3把持工程の直後に、光学フィルム幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、第1把持工程開始直前にフィルム端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行なった際、特に、第2幅手方向延伸工程開始前に光学フィルム端部を切除した場合と、光学フィルム端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより光学フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布という)を改良する効果が得られる。
【0177】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸の第2工程までの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0178】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0179】
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが好ましい。また、二軸延伸を行なう場合にも同時二軸延伸を行なってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行なうことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。
【0180】
また、本発明における延伸方向とは、延伸操作を行なう場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方の意味で使用される。
【0181】
セルロ−スエステルフィルムを幅手方向に延伸する場合には、配向角分布が悪くなることはよく知られている。厚み方向リタデーション(Rth)と面内方向リタデーション(Ro)の値を一定比率とし、かつ配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行なうため、上記のテンター工程における第1把持工程、第2幅手方向延伸工程、第3把持工程で好ましいフィルム温度の相対関係が存在する。第1把持工程、第2幅手方向延伸工程、第3把持工程終点でのフィルム温度をそれぞれTa℃、Tb℃、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10かつ、Tc≦Tbであることがさらに好ましい。
【0182】
第2幅手方向延伸工程でのフィルム昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5〜10℃/sの範囲が好ましい。
【0183】
第2幅手方向延伸工程での延伸時間は、温度80℃、湿度90%RH条件における寸法変化率を小さくするためには短時間である方が好ましい。ただし、光学フィルムの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。また、第2幅手方向延伸工程の温度は40〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
【0184】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9〜419×103J/m2hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。さらに好ましくは、41.9〜209.5×103J/m2hrの範囲であり、41.9〜126×103J/m2hrの範囲が最も好ましい。
【0185】
温度80℃、及び湿度90%RH条件下における寸法安定性を良好にするため、上記第2幅手方向延伸工程での幅手方向への延伸速度は、一定で行なってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50〜500%/minが好ましく、さらに好ましくは100〜400%/min、200〜300%/minが最も好ましい。
【0186】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、光学フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、光学フィルムの幅手での温度分布も小さくなることが期待できる。
【0187】
テンター装置34の第3把持工程において、寸法変化を抑えるため幅方向に緩和することが好ましい。具体的には、前工程のフィルム幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにフィルム幅を調整することが好ましい。
【0188】
テンター工程で処理した後、さらに後乾燥工程を設けるのが好ましい。50〜160℃で行なうのが好ましい。さらに好ましくは、80〜150℃の範囲であり、最も好ましくは110〜150℃の範囲である。
【0189】
後乾燥工程で、光学フィルムの幅方向の雰囲気温度分布が少ないことは、光学フィルムの均一性を高める観点から好ましい。±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0190】
(8)巻き取り工程005(D)
乾燥が終了したウェブ32を光学フィルムとして巻き取り、図2に示す光学フィルムの元巻37を得る工程である。乾燥を終了する光学フィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好な光学フィルムを得ることができる。
【0191】
光学フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0192】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして10〜150μmの範囲が好ましく、さらに30〜100μmの範囲がより好ましく、特に40〜80μmの範囲が好ましい。薄過ぎると例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。厚過ぎると従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイ30の口金のスリット間隙、ダイ30の押し出し圧力、金属支持体31の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0193】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことはもちろんである。
【0194】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の光学フィルムの製造方法を溶融押出し製膜法で行う場合について、説明する。
【0195】
〈溶融押出し製膜法〉
溶融押出し製膜法としては、図示は省略したが、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押出し法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、30〜200μm程度の厚さに加工しやすく、かつ、リタデーションの絶対値およびそのバラツキを小さくできるTダイを用いた溶融押出し法が好ましい。
【0196】
溶融押出し製膜法の条件は、他の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして成形できる。例えば、乾燥したセルロースエステル系樹脂、(及びノルボルネン系樹脂)を1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し、異物を除去した後、Tダイからシート状に流延し、前述の回転駆動金属性ドラム〔0038〕上で固化させる。
【0197】
本実施形態の方法において、供給ホッパーから押し出し機へ導入する際は、減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。冷却ドラムの温度は、セルロースエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下が好ましい。冷却ドラムへ樹脂を密着させるために、静電印加により密着させる方法、風圧により密着させる方法、全幅あるいは端部をニップして密着させる方法、減圧で密着させる方法などを用いることが好ましい。また、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押し出し機からダイまでの配管には滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。ダイ周辺に樹脂から揮発成分が析出しダイラインの原因となる場合があるので、揮発成分を含んだ雰囲気は吸引することが好ましい。また、静電印加等の装置にも析出する場合があるので、交流を印加したり、他の加熱手段で析出を防止することが好ましい。
【0198】
酸化防止剤、可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0199】
溶融押出し製膜法で成形されたセルロースエステルフィルムは、溶液流延製膜法で成形されたセルロースエステルフィルムと異なり、厚み方向リタデーション(Rth)が小さいとの特徴があり、このようなセルロースエステルフィルムを延伸することにより面内方向リタデーション(Ro)を発現し易く、延伸倍率を大きくする必要がないので、白濁のない透明性に優れたセルロースエステルフィルムが得られるのである。
【0200】
ついで、得られた光学フィルムを一軸方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、特に制限はないが、公知のピンテンターやクリップ式のテンターなどを好ましく用いることができる。延伸方向は長さ方向でも幅手方向でも任意の方向(斜め方向)でも可能であるが、本発明では延伸方向を幅手方向とすることで光学フィルムとの積層がロール形態でできるので好ましい。幅手方向に延伸することでセルロースエステルフィルムの遅相軸は幅手方向になる。一方、光学フィルムの透過軸も通常幅手方向である。光学フィルムの透過軸とセルロースエステルフィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、良好な視野角が得られるのである。
【0201】
延伸条件は、所望のリタデーション特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。通常、延伸倍率は1.1〜2.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、通常、光学フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。延伸倍率が小さすぎると所望のリタデーションが得られない場合があり、大きすぎると破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると、破断し、高すぎると、所望のリタデーションが得られない場合がある。
【0202】
上記の方法で作製した光学フィルムのリタデーションを合目的の値に修正する場合、光学フィルムを長さ方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長さ方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長さ方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることにより光学フィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。なお、光学フィルム両端部のクリップの把持部分は、通常、光学フィルムが変形しており、製品として使用できないので、切除されて、原料として再利用される。
【0203】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりの光学フィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては30〜100μmの範囲が好ましく、特に40〜80μmの範囲が好ましい。膜厚は、所望の厚さになるように、押し出し流量、ダイの口金のスリット間隙、冷却ドラムの速度等をコントロールすることで調整できる。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0204】
〔光学フィルムの物性〕
本発明による、セルロースエステルフィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿性と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明によるセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0205】
以下、本発明に係るセルロースエステルフィルム、並びに光学フィルムの物性に関し、下記に纏めて記載する。
【0206】
(セルロ−スエステルフィルムの透過率)
液晶表示装置の部材としては高い透過率が求められ、上述の添加剤を組み合せて添加し、製造されたセルロ−スエステルフィルムの500nm透過率は、85〜100%が好ましく、90〜100%がさらに好ましく、92〜100%が最も好ましい。400nm透過率は40〜100%が好ましく、50〜100%がさらに好ましく、60〜100%が最も好ましい。また、紫外線吸収性能が求められることがあり、その場合は、380nm透過率は0〜10%が好ましく、0〜5%がさらに好ましく、0〜3%が最も好ましい。
【0207】
(セルロ−スエステルフィルムの幅手方向の膜厚分布)
本発明のセルロ−スエステルフィルムは、幅手方向での膜厚分布R(%)を0≦R(%)≦5%であることが好ましく、さらに好ましくは、0≦R(%)≦3%であり、特に好ましくは、0≦R(%)≦1%である。
【0208】
(セルロ−スエステルフィルムのヘーズ値)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ヘーズ値が、2%以内が好ましく、1.5%以内がより好ましく、1%以内が最も好ましい。
【0209】
(セルロ−スエステルフィルムの弾性率)
弾性率は1.5〜5GPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、1.8〜4GPaであり、特に好ましくは、1.9〜3GPaの範囲である。
【0210】
また、破断点応力が50〜200MPaの範囲であることが好ましく、70〜150MPaの範囲であることがさらに好ましく、80〜100MPaの範囲であることが最も好ましい。
【0211】
23℃、55%RHでの破断点伸度が20〜80%の範囲であることが好ましく、30〜60%の範囲であることがさらに好ましく、40〜50%の範囲であることが最も好ましい。
【0212】
また、吸湿膨張率が−1〜1%の範囲であることが好ましく、−0.5〜0.5%の範囲がさらに好ましく、0〜0.2%以下が最も好ましい。
【0213】
また、輝点異物が0〜80個/cm2であることが好ましく、0〜60個/cm2の範囲であることがさらに好ましく、0〜30個/cm2の範囲であることが最も好ましい。
【0214】
一般的にセルロ−スエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして使用する場合、偏光子との接着性を良好なものにするため、アルカリ鹸化処理が行われる。アルカリ鹸化処理後の光学フィルムと偏光子とをポリビニルアルコール水溶液を接着剤として接着するため、セルロ−スエステルフィルムのアルカリ鹸化処理後の水との接触角が高いとポリビニルアルコールでの接着ができず偏光板保護フィルムとしては問題となる。
【0215】
このため、アルカリ鹸化処理後のセルロ−スエステルフィルムの接触角は0〜60°が好ましく、5〜55°がさらに好ましく、10〜30°が最も好ましい。
【0216】
(セルロ−スエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra))
セルロ−スエステルフィルムをLCD用部材として使用する際、光学フィルムの光漏れを低減するため高い平面性が要求される。中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に規定された数値であり、測定方法としては、例えば、触針法もしくは光学的方法等が挙げられる。
【0217】
本発明のセルロ−スエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra)としては、20nm以下が好ましく、さらに好ましくは、10nm以下であり、特に好ましくは、4nm以下である。
【0218】
(リタデーション値)
本発明の光学フィルムは、正の複屈折性を有する成分と負の複屈折性を有する成分とからなり、光学フィルムとしては延伸方向の屈折率が最も高くなる(nx>nz)ものではあるが、負の複屈折性を有する成分の正常光屈折率と異常光屈折率の屈折率差(以下、Δnという。)が、正の複屈折率を有する成分の実質的なΔnに比べ非常に大きいものとなり、3次元屈折率の関係がnx>nz>nyを満たすものである。
【0219】
ここで、Roが光学フィルム内の面内リタデーション値を表し、Rthが光学フィルム内の厚み方向のリタデーション値を表すとすると。RoとRthは下式で表される。
Ro=(nx−ny)×d(nm)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
ここにおいて、dは光学フィルムの厚み(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、屈折率ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、屈折率nz(厚み方向におけるフィルムの屈折率)である。
【0220】
そして、RoとRthを、160nm≦Ro≦300nm、−50nm≦Rth≦50nmにすることで、この光学フィルムを用いた液晶表示装置の視野角を大きく広げることができる。したがって、RoとRthは160nm≦Ro≦300nm、−50nm≦Rth≦50nmを満たすことが好ましい。
【0221】
また、Rthの変動や分布の幅は、±10nm未満であることが好ましく、±8nm未満であることが好ましく、±5nm未満であることが好ましい。さらに、±3nm未満であることが好ましく、±1nm未満であることが好ましい。最も好ましくはRthの変動がないことである。
【0222】
なお、リタデーション値(Ro)と(Rth)は、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
【0223】
また、遅相軸は、長尺フィルムの幅手方向±1°、もしくは長手方向±1°にあることが好ましい。より好ましくは、光学フィルムの幅手方向または長手方向に対して±0.7°、さらに好ましくは、光学フィルムの幅手方向または長手方向に対して±0.5°であり、特に好ましくは、±0.1°である。
【0224】
〔偏光板及び液晶表示装置〕
本発明の偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置について説明する。
【0225】
〈偏光板〉
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明のセルロ−スエステルフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロ−スエステルフィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のセルロ−スエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0226】
本発明の偏光板は、本発明のセルロ−スエステルフィルムを偏光子の少なくとも片側に偏光板保護フィルムとして使用したものである。その際、該セルロ−スエステルフィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0227】
この偏光板が、横電界スイッチングモード型である液晶セルを挟んで配置される一方の偏光板として、本発明のセルロースエステルフィルム(特に好ましくは前述のセルロースエステルフィルムA)が液晶表示セル側に配置されることが好ましい。
【0228】
本発明の偏光板に好ましく用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられ、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光子の面上に、本発明のセルロ−スエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。また、セルロースエステルフィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0229】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸に対して直交する方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板保護フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明のセルロ−スエステルフィルムは寸法安定に優れるため、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0230】
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0231】
〈液晶表示装置〉
本発明による液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に狭持された液晶セルと、液晶セルを挟むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つ液晶表示装置であって、2枚の偏光板のうち、例えば1枚の偏光板が、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0に近いものであり、かつフィルムの厚み方向のリタデーション(Rth)値が0に近いものである光学フィルムを具備するものであり、もう1枚の偏光板が、本発明による上記の光学フィルムを具備するものである。
【0232】
本発明の液晶表示装置によれば、広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示が実現可能であり、特にIPSのモードで動作する液晶表示装置を提供するものであり、本発明の液晶表示装置は、長期間にわたって安定した表示性能を維持することができるものである。
【実施例】
【0233】
以下、本発明に係る光学フィルムの実施例を比較例とともに図8、図9、図13、図14、図15、及び図16を参照して説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで、図8、図9、図13、図14、図15、及び図16は各実施例及び比較例の結果を表した表である。以下の説明中の実施例番号及び比較例番号は図8、図9、図13、図14、図15、及び図16の各図に記載のものである。
【0234】
〔溶液流延製膜法による光学フィルムの製造〕
〈ドラフト比を変更する場合〉
図8の実施例及び比較例は、それぞれドラフト比を変更し、さらに微粒子の体積割合、および粒子分布範囲を調整したものである。ここで、粒子分布範囲とは、図11に示すように、微粒子全体の中で一定の粒径範囲の形状の微粒子が特に多く含まれている場合のその微粒子の形状を指すものである。例えば、図11の粒子分布範囲は絶対最大長50〜100nm、アスペクト比2〜4と表される。実施例1〜9は好ましい粒子分布範囲内の同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有するドープにおいて、ドラフト比を2.1〜6.0という好ましい範囲で変えたものであり、実施例17〜19、及び実施例20〜22は同様の条件でドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲に採ったものである。また、実施例10〜14はドラフト比の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例10は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例11は領域(c)の右下、実施例12は領域(c)の左下、実施例13は領域(c)の右上、実施例14は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例1〜3は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例1〜9と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例15、実施例16はそれぞれ比較例3で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例4は比較例3で使用した炭酸ストロンチウム分離液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例8〜10は、比較例1〜3の条件でドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例1〜4と比較例8〜10をまとめたものを、比較例1〜10という。)
【0235】
〈炭酸ストロンチウム分散液〉
(炭酸ストロンチウムの微粒子作成)
水300gに対し、メタノール60g(水に対し20%)と、水酸化ストロンチウム八水和物80g(水に対し26.7%)とを加えた懸濁液を調整した。この懸濁液をステンレスビーカーに入れ、攪拌モーター(アズワン製スリーワンモーターTORNADO PM203)に取り付けた攪拌羽根で懸濁液を攪拌した。次に、高低温用サーキュレーターFC−25MC(ユラボ製)にバスリキッドサーマルH5S(ユラボ製)を満たし、このサーキュレーターのバス部に上記懸濁液を入れたビーカーを入れて懸濁液の温度をー10℃〜0℃に保った。次に、懸濁液を攪拌しながらCO2ガスを50〜200ml/minの流量で懸濁液中に導入し、pHが12以下になったところでCO2ガス導入を止めた。次に、−5℃〜0℃に保った水とメタノールの混合液500gに上記懸濁液を攪拌しながら投入し懸濁希釈液を作成した。次に、この懸濁希釈液の温度を1〜6時間かけて25℃まで上昇させ微粒子の熟成を行なった。さらに、未反応分を取り除くため、懸濁希釈液を0.05μmポアサイズのメンブレンフィルターVMWP09025(アズワン製)で吸引濾過し、さらにフィルター上において純水で洗浄後、エタノールで洗浄して取り出した生成物を自然乾燥させて微粒子を得た。
【0236】
上記微粒子作成方法において、懸濁液の温度、CO2ガスの流量、混合液の水/メタノールの割合、混合液の温度、及び懸濁希釈液の温度を上げる時間を調整することで、微粒子の絶対最大長とアスペクト比が図7にあるような微粒子A〜Kを作成した。
【0237】
上記作成した微粒子Kについて、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間かけてエタノール分散した微粒子分散液を遠心分離機(コクサン(株)のH−103N)を用いて500rpm、1分間遠心分離を行い、上半分を採取した。この液を0.05μmポアサイズのメンブレンフィルターVMWP09025(アズワン製)で吸引濾過して取り出した微粒子を自然乾燥させて微粒子K−1を作成した。また、遠心分離した下半分の液についても同様に取り出して微粒子K−3を作成した。
【0238】
また、上記作成した微粒子Kについて、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間かけてエタノールに分散した微粒子分散液を0.2μmポアサイズのメンブレンフィルター オムニポアメンブレン JGWP09025(アズワン製)で吸引濾過により濾液を分離し、さらに、これを0.05μmポアサイズのメンブレンフィルター VMW09025(アズワン製)で再度吸引濾過して取り出した微粒子を自然乾燥させて微粒子K−2を作成した。
【0239】
(微粒子の形状測定方法)
本実施例において、所望の微粒子の形状を得るため、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察及びコンピュータソフトによる画像解析を用いた下記方法で微粒子の絶対最大長及びアスペクト比を測定し、体積割合を算出した。
【0240】
まず、観察前の処理として、微粒子をエタノール分散しC膜上に滴下乾燥させた上で、その微粒子をTEMで観察する。ここで、TEMはJEM−2000FX(日本電子製)(加速電圧:200kV)を使用した。ここで使用した対象画像は、各試料×10000(直接×5000)の断面TEM像各2枚である。入力はネガを印画紙にプリントしフラットヘッドスキャナーにて電子化する(入力解像度:300dpi)。次に、スキャナーで読み取った画像から解析を行なうために微粒子の画像のコントラストを強調することで画像ソフトが微粒子を認識できるようにするフィルター処理を行う。さらに、このフィルターの条件を変更することでコントラストの最適化を行う。ここで、フィルター処理はメディアン3×3、次に平坦化20ピクセル、次にハイパス3×3、次にメディアン3×3を使用した。次に、上記コントラストを最適化した画像から微粒子を抽出し個々の微粒子の形状を画像解析ソフトで測定して、絶対最大長やアスペクト比等を計測する。また、画像上のノイズと考えられるものを除去する選別を行なう。さらに、計測した絶対最大長やアスペクト比等の微粒子のデータをデータ処理ソフトに取り込み、微粒子の分布状態を計算するデータ処理を行った。ここで、フラットヘッドスキャナーはSitios9231(コニカミノルタ株式会社製)を使用し、画像解析ソフトはImagePro Plus(Media Cybernetics製)を、データ処理ソフトはExcel(Microsoft社製)を使用した。具体的には、画像解析ソフトにより各微粒子の絶対最大長、アスペクト比を算出し、Excelを用いて所望の粒径範囲内にある微粒子の体積割合を算出した。ここで各微粒子の体積は画像解析ソフトにより、算出された微粒子の投影面積の平方根を3乗して算出した。
【0241】
(微粒子の結晶性の評価方法)
微粒子の結晶性に関してはX線回折測定装置を用いて評価を行なった。これは、測定した半値幅が狭いほど、結晶が高純度で(単結晶に近く)できていると判定ができる。具体的には、X線回折測定装置(理学電気社製 CN2013)を用いて、(111)面の回折ピークの半値幅を測定したところ、全ての実施例で得られた結晶が確かに炭酸ストロンチウム結晶であることが認められた。また、前記市販品及び全ての実施例の炭酸ストロンチウム結晶とともに、(111)面の回折ピークの半値幅は0.2°であった。
【0242】
(微粒子の表面処理)
炭酸ストロンチウムの微粒子1.0gをエタノール20.0gに分散し、グリセリンステアレート(花王・エキセルT−95)を0.05g添加し50℃で10時間攪拌し表面処理を行い、この溶液を濾過し、微粒子を乾燥させた。
【0243】
〈ドープの作成〉
下記各組成物を、超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で連続40分間分散し、微粒子A〜K、K−1、K−2、及びK−3における微粒子分散液を調製した。
微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3 16重量部
メチレンクロライド 92重量部
エタノール 92重量部
【0244】
次に、下記各組成物を容器に投入し完全に溶解した。
セルロースアセテートプロピオネート 25重量部
(アセチル基置換度1.90、プロピオニル基置換度0.75、重量平均分子量190,000)
トリフェニルホスフェート(TTP) 21重量部
エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG) 5重量部
チヌビン326(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
チヌビン109(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
チヌビン171(チバスペシャルケミカルズ製) 1重量部
メチレンクロライド 468重量部
エタノール 34重量部
【0245】
次に、上記溶液に、微粒子A〜Kにおける微粒子分散液の200部をゆっくり添加した後、この混合液を超音波分散機UH−300(株式会社エスエムテー製)において出力目盛り10で容器のまわりを冷水で冷やしながら、連続10分間再分散を行なった。再分散した液をよく攪拌しながら下記組成物をゆっくり加え、完全に溶解して、微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3におけるドープ液を調製した。
セルロースアセテートプロピオネート 147重量部
(アセチル基置換度1.90、プロピオニル基置換度0.75、重量平均分子量190,000)
メチレンクロライド 100重量部
【0246】
〈溶液流延製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉
上記作成した、各ドープ液を40℃に保ち、40℃に保温された無限移行する無端の金属支持体であるステンレスベルト上に均一に流延した。この流延膜の残留溶媒量が80%まで乾燥した後、ステンレスベルト上から剥離し、剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを40℃で残留溶剤量を20%まで溶媒を蒸発させた後、テンターで幅方向に1.3倍の延伸を行なった。さらに多数のロールで搬送させながら120℃で乾燥して80μm、幅1.3mの光学フィルムを得た。
【0247】
(ドラフト比の変更)
図8における、実施例1〜22、及び比較例1〜10において、ドラフト比の変更は、ドープの流量およびステンレスベルトの走行速度の調整により行った。図5にドラフト比Dr調整のためのステンレスベルト(金属ベルト)の線速度Vbと流延膜の線速度Vrmの関係を図示している。ここで流延膜の線速度Vrmとは、ダイから出た直後の速度である。
【0248】
したがって、ドラフト比Drは下式で求められる。
【0249】
Dr=Vb/Vrm
Vrm=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Dr:ドラフト比
Vb:ステンレスベルト(金属ベルト)の線速度[mm/sec]
Vrm:流延膜の線速度[ml/sec]
Q:ドープ流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくるドープ体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSのドープ流動方向の長さ)
【0250】
以上のようにして製造した実施例1〜22、及び比較例1〜10について、位相差(リタデーション)、ヘーズ、スリッティング性、横段及びコントラストを評価し、図8に合わせて示している。ここで、コントラストは後述の〈偏光板の作成〉、〈偏光板βの作成〉、〈液晶表示装置の作成〉により作成した液晶表示装置を用いて評価したものである。
【0251】
(位相差(リタデーション)の測定方法)
本実施例では、アッベ屈折率計1T(株式会社アタゴ製)と分光光源装置を用いて光学フィルムの平均屈折率を測定した。また、市販のマイクロメータを用いて光学フィルムの厚みを測定した。さらに、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で24時間放置した光学フィルムにおいて、同環境下波長が590nmにおける光学フィルムのリタデーション測定を行なった。上記の平均屈折率と膜厚を下記式に入力し内面リタデーションRo、厚み方向のリタデーションRthの値を得た。
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をny、光学フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、dは光学フィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。前述のとおり、本発明においては160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50を満たすnx,ny,nzであることが好ましく。中でも、Ro=270nm、Rth=0nmを満たすnx,ny,nzが特に好ましい。
【0252】
(ヘーズの測定方法)
本実施例では、ヘーズは,JIS K−7136に従って,ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業(株))を用いて測定し、これを透明性の指標とした。ここで、ヘーズは1%以下であることが好ましい。
【0253】
(スリッティング性の評価方法)
光学フィルムの破断のしやすさを示すスリッティング性の評価には工程で長尺、長時間のテストを行なう必要があるがコスト、時間が膨大になる。そこで、本実施例では、下記の強制的な厳しい条件で試験を行なうことで短時間での評価が可能である。スリッター38で300mm幅の光学フィルムを1000mの長さの切断を、スリット幅を50mm、スリット速度を10m/min、張力を5kg、スリット方式を上刃/下刃方式の条件で行い、このときの光学フィルムの破断回数を計測する。上記条件で評価したときの破断頻度と実際の工程での破断頻度については経験上のデータの蓄積があり、上記の破断頻度に対する実用性のレベルの評価を図10に示す。
【0254】
(横段の評価方法)
本実施例では、作成したセルロースエステルフィルムの搬送方向に垂直に出る膜厚ムラを横段として、目視で評価を行なった。ここで、図8の表の横段における記号は、◎は横断がない、○は横断がかすかにある、△は横断があるが光学フィルムとしてなんとか使えるレベル、×は横断が光学フィルムとして許容できないレベル、という評価をそれぞれ表している。
【0255】
(縦スジの評価方法)
本実施例では、作成したセルロースエステルフィルムの搬送方向に平行に出る膜厚ムラを縦スジとして、目視で評価を行なった。ここで、図8の表の縦スジにおける記号は、◎は縦スジがない、○は縦スジがかすかにある、△は縦スジがあるが光学フィルムとしてなんとか使えるレベル、×は縦スジが光学フィルムとして許容できないレベル、という評価をそれぞれ表している。
【0256】
(コントラストの評価方法)
後述の〈偏光板の作成〉〈偏光板βの作成〉〈液晶表示装置の作成〉により作成した液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラストについて、ELDIM社製EZ−contrastを用いて測定を行った。パネル面の法線方向からの傾き角80°における液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラストが大きいほど視野角は広いと言える。パネル面の法線方向からの傾き角80°におけるコントラストを全方位にわたって平均した値をコントラストとして評価した。ここで、コントラストの値は30以上であることが好ましい。
【0257】
(総合評価)
横段、縦スジ、位相差、ヘーズ、コントラスト、スリッティング性の評価を総合して、各実施例及び比較例における光学フィルムの評価を行なっている。ここで、図8の表の総合評価における記号は、◎は特に好適、○は好適、△はおおよそ好適、×は不適、という評価をそれぞれ表している。
【0258】
このようにして得た図8に示す各評価の結果より好ましいドラフト比を考える。ドラフト比を1.4にした実施例17〜19の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例8〜9に比べるとコントラストは改善されている。また、横段及びヘーズともに好適な範囲に収まっている。ドラフト比を7.5にした実施例20〜22の場合、横段の評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例1〜4の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となりドラフト比を大きくした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、ドラフト比を1.4にした比較例8〜10の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例10の場合、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例11〜14の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例15、16では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例3、4ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうとドラフト比を大きくした効果がより大きく現れることが分かる。
【0259】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX(nm)、アスペクト比をYとしたとき、
[粒径範囲式]
Y>(X^2)/20000
Y>20×(X^(−0.5))
Y<20
50<X<500
を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、ドラフト比が、2.1〜6.0を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0260】
〈ドープのスリット通過時間を変更する場合〉
図9の実施例及び比較例は、ダイのスリットをドープが通過する時間と、粒子分布範囲、及び微粒子の体積割合を調整したものである。ここで、実施例101〜109は好ましい粒子分布範囲内で同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有するドープにおいて、スリット通過時間を0.1〜2.0[sec]という好ましい範囲で変えたものであり、実施例117〜119、及び実施例120〜122は同様の条件でスリット通過断時間を0.1〜2.0[sec]以外の範囲に採ったものである。また、実施例110〜114はスリット通過時間の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例110は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例111は領域(c)の右下、実施例112は領域(c)の左下、実施例113は領域(c)の右上、実施例114は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例101〜103は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例101〜109と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例115、実施例116はそれぞれ比較例103で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例104は比較例103で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例108〜110は、比較例101〜103の条件でスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。また、比較例11〜14は、実施例10の微粒子を用いてドラフト比を2.1〜6.0以外の範囲とし、さらにスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例101〜104と比較例108〜110をまとめたものを、比較例101〜110という。)
【0261】
この場合も、(ドラフト比の変更)以外はドラフト比を変更して計測した実施例と同様の手順を行なう。
【0262】
(スリット通過時間の変更)
実施例101〜122、及び比較例101〜110において、ダイのスリットS内を流れるドープのスリット通過時間の変更は、ドープを流すダイをランド長Lの異なるダイに交換するとともに、ドープの流量を変更することで行なった。図4(A)及び図4(B)にランド長Lの異なるダイの例を示している。また、図3はそれらのダイの斜視図の例を示している。ここで、ステンレスベルトの走行速度は、ダイ及びドープ流量の変更に伴い、仕上がりフィルムが80μmになるよう調整した。
【0263】
ドープがダイのスリットSを通過する時間θは、下式で求められる。
【0264】
θ=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Q:ドープ流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくるドープ体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSのドープ流動方向の長さ)
θ:スリット通過時間[sec]
である。
【0265】
以上のようにして製造した実施例101〜122、比較例101〜110、及び比較例11〜14について、位相差(リタデーション)、ヘーズ、スリッティング性、横段、縦スジ及びコントラストの評価、及び総合評価を図9及び図15に合わせて示している。
【0266】
この場合も、ドラフト比の変更の場合と同様のヘーズの測定方法、横段の評価、縦スジの評価、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0267】
このようにして得た図9及び図15に示す各評価の結果より好ましいスリット通過時間を考える。通過時間を0.07にした実施例117〜119の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例108〜109に比べるとコントラストは改善されている。また、横段及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。通過時間を2.5にした実施例120〜122の場合、縦スジの評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例101〜104の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となり通過時間を長くした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、通過時間を0.07にした比較例108〜110の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例110では、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例111〜114の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例115、116では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例103、104ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうと通過時間を長くした効果がより大きく現れることが分かる。また、横段や縦スジも重要な項目であり、これらがあると実際の液晶表示装置に組み込んだときに液晶表示にムラが見えてしまうことがある。これは、例えコントラストが良好でも商品価値が低下して好ましくない。比較例11〜13では、スリッティング性が悪く生産性が劣化した上に、横段または縦スジが発生しているのでコストが高く、商品価値が低い状態であり、非常に好ましくない。さらに、比較例14のように、特に横段と縦スジが同時に発生したフィルムを液晶表示装置に組み込むと液晶表示にクロス状にムラが発生するので、コントラストが非常に良好でも、実際の液晶表示はとても見苦しいものになってしまい商品価値はほとんどない。また、比較例11〜14では、実施例10で好適な結果の得られた粒子を用いているにも係わらず、ドラフト比及びスリット通過時間が本発明の範囲外であるために、コントラストの評価が悪かったり、横段や縦筋の評価が悪かったりして好適な結果が得られない。
【0268】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、スリットSの時間が、0.1〜2.0[sec]を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0269】
〔溶融押出し製膜法による光学フィルムの製造〕
〈ドラフト比を変更する場合〉
図13の実施例及び比較例は、それぞれドラフト比を変更し、さらに微粒子の体積割合、および粒子分布範囲を調整したものである。実施例201〜209は好ましい粒子分布範囲内の同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有する溶融液において、ドラフト比を10〜30という好ましい範囲で変えたものであり、実施例217〜219、及び比較例220〜222は同様の条件でドラフト比を10〜30以外の範囲に採ったものである。また、実施例210〜214はドラフト比の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例210は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例211は領域(c)の右下、実施例212は領域(c)の左下、実施例213は領域(c)の右上、実施例214は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例201〜203は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例201〜209と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例215、実施例216はそれぞれ比較例203で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例204は比較例203で使用した炭酸ストロンチウム分離液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例208〜210は、比較例201〜203の条件でドラフト比を10〜30以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例201〜204と比較例208〜210をまとめたものを、比較例201〜210という。)
【0270】
溶融押出し製膜法においても、〈ドープ液の作成〉及び〈溶液流延製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉以外の工程は溶液流延製膜法と同様である。以下、異なる工程を説明する。
【0271】
〈溶融液の作成〉
下記各組成物を、2軸式押出し機KZW−TW(テクノベル製)を用いて250℃で溶融混合し、ペレット化することで、粒子含有樹脂ペレットa〜k、k−1、k−2、k−3を作成した。
微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3 8重量部
セルロースアセテートプロピオネート 72重量部
(60℃で24時間真空乾燥済み、アセチル置換度1.90、プロピオニル置換度0.75、重量平均分子量190,000)
トリメチロールプロパンベンゾエート 10重量部
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕 0.01重量部
上記作成したペレットを250℃で溶融し、微粒子A〜K、K−1、K−2、K−3における溶融液を得た。
【0272】
〈溶融押出し製膜法によるセルロースアセテートフィルム作成〉
上記で作成した溶融液を、ダイよりフィルム状に30℃の冷却ドラム上に溶融押し出し、冷却固化させて、セルロースエステルフィルムを得た。
【0273】
(ドラフト比の変更)
図13における、実施例201〜222、及び比較例201〜210において、ドラフト比の変更は、溶融液の流量および冷却ドラムの回転速度の調整により行った。ここで冷却ドラムの回転速度は、外周部の線速度であり、それは金属ベルトの線速度と同じになる。そこで、ドラフト比は下式で求められる。
【0274】
Dr(Y)=Vb(Y)/Vrm(Y)
Vrm(Y)=Q×10^3/(W・H)
ここで、
Dr(Y):ドラフト比
Vb(Y):冷却ドラムの回転速度(金属ベルトの線速度)[mm/sec]
Vrm:流延膜の線速度[ml/sec]
Q:溶融液流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくる溶融液体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSの溶融液流動方向の長さ)
【0275】
以上のようにして製造した実施例201〜222、及び比較例201〜210について、ヘーズ、スリッティング性、位相差、横段、縦スジ、及びコントラストの評価、及び総合評価を図13に合わせて示している。
【0276】
この場合も、溶液流延製膜法の場合と同様のヘーズの測定方法、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、横段の評価、縦スジの評価、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0277】
このようにして得た図13に示す各評価の結果より好ましいドラフト比を考える。ドラフト比を5にした実施例205〜207の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例208〜209に比べるとコントラストは改善されている。また、縦スジ及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。ドラフト比を35にした実施例220〜222の場合、横段の評価が悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例201〜204の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となりドラフト比を大きくした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、ドラフト比を5にした比較例208〜210の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例210の場合、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例211〜214の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例215、216では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例203、204ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうことにより、ドラフト比を大きくした効果がより大きく現れることが分かる。
【0278】
微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、ドラフト比が、10〜30を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0279】
〈溶融液のスリット通過時間を変更する場合〉
図14の実施例及び比較例は、ダイのスリットを溶融液が通過する時間と、粒子分布範囲、及び微粒子の体積割合を調整したものである。ここで、実施例301〜309は好ましい粒子分布範囲内で同じ範囲を有する炭酸ストロンチウムをほぼ同じ好ましい体積割合で含有する溶融液において、スリット通過時間を0.1〜2.0[sec]という好ましい範囲で変えたものであり、実施例317〜319、及び実施例320〜322は同様の条件でスリット通過断時間を0.1〜2.0[sec]以外の範囲に採ったものである。また、実施例310〜314はスリット通過時間の条件を等しくし、粒子分布範囲を好ましい範囲内で変更したものである。ここで、実施例310は図6における好ましい微粒子の粒径範囲を示す領域(c)の中央に位置し、実施例311は領域(c)の右下、実施例312は領域(c)の左下、実施例313は領域(c)の右上、実施例314は領域(c)の左上にそれぞれ位置する。また、比較例301〜303は、微粒子の体積割合を調整せずに実施例301〜309と他の条件は同じで作成したものである。さらに、実施例315、実施例316はそれぞれ比較例303で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離機もしくは濾過機を使用して、粒子分級し微粒子の体積割合を向上させたものであり、比較例304は比較例303で使用した炭酸ストロンチウム分散液を遠心分離した下半分を使用したもので、体積割合が低下したものである。さらに、比較例308〜310は、比較例301〜303の条件でスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。また、比較例211〜214は、実施例210の微粒子を用いて、ドラフト比を10〜30以外の範囲とし、さらにスリット通過時間を0.1〜2.0〔sec〕以外の範囲に採ったものである。(以下では、比較例301〜304と比較例308〜310をまとめたものを、比較例301〜310という。)
【0280】
この場合も、(ドラフト比の変更)以外はドラフト比を変更して計測した実施例と同様の手順を行なう。
【0281】
(スリット通過時間の変更)
実施例301〜322、及び比較例301〜310において、ダイのスリットS内を流れる溶融液のスリット通過時間の変更は、溶融液を流すダイをランド長Lの異なるダイに交換するとともに、溶融液の流量を変更することで行なった。図4(A)及び図4(B)にランド長Lの異なるダイの例を示している。また、図3はそれらのダイの斜視図の例を示している。ここで、冷却ドラムの回転速度は、ダイ及び溶融液流量の変更に伴い、仕上がりフィルムが80μmになるよう調整した。
【0282】
溶融液がダイのスリットSを通過する時間θ(Y)は、下式で求められる。
【0283】
θ(Y)=L/(Q×10^3/(W・H))
ここで、
Q(Y):溶融液流量[ml/sec](幅WのダイのスリットSから単位時間当たりに出てくる溶融液体積)
W:スリットSの幅[mm]
H:スリットSの間隙[mm]
L:ランド長[mm](スリットSの溶融液流動方向の長さ)
θ:スリット通過時間[sec]
である。
【0284】
以上のようにして製造した実施例301〜322、比較例301〜310、及び比較例211〜214について、ヘーズ、スリッティング性、位相差、横段、縦スジ及びコントラストの評価、及び総合評価を図14及び図16に合わせて示している。
【0285】
この場合も、溶液流延製膜法の場合と同様のヘーズの測定方法、スリッティング性の評価、位相差の測定方法、横段の評価、縦スジの評価、コントラストの評価、及び総合評価を行なっている。
【0286】
このようにして得た図14及び図16に示す各評価の結果より好ましいスリット通過時間を考える。通過時間を0.07にした比較例317〜319の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストも30未満となるものの、スリッティング性は良好な状態を維持しつつ、比較例308〜309に比べるとコントラストは改善されている。また、縦スジ及びヘーズともに好適な範囲に納まっている。通過時間を2.5にした実施例320〜322の場合、縦スジの評価は悪いものの、Ro、Rthともに好適な範囲に収まっている。また、粒径分布範囲が同じでもその粒子の体積割合が低い比較例301〜304の場合、ヘーズが1%以上、スリッティング性が30以上となり通過時間を長くした効果が得られず不適である。粒径範囲が好適な粒子の体積割合が低く、通過時間を0.07にした比較例308〜310の場合、Ro<160、50<Rthであり、コントラストは30未満、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上となり非常に評価が悪く不適である。特にスリッティング性は、実際にフィルムを製造する場合に非常に重要で、この評価が10以上、特に30以上の場合にはフィルム製造の時に実際の工程で破断が頻発することになる。フィルムが破断した場合には、乾燥ゾーンなどに多数かつ長距離にわたって設置されている搬送ロールの間にフィルムを再び通さねばならず、これには非常に時間がかかってしまう。すなわち、著しく生産性が劣化して、実質的には製造が困難になる。あえて製造しても、コスト上昇が非常に大きく、許容されるものではない。言い換えれば、スリッティング性さえ良好な状態を維持できていれば、安いコストで製造できることになり、例えば、コントラストの改善幅がやや少なくても十分に価値があるといえる。さらに、粒径分布範囲が図6(c)の領域の中央に位置する実施例310では、Ro=270、Rth=0、ヘーズ1%以下、横断はかすかにあるのみ、コントラストは30以上、スリッティング性が2であり、最も良好な結果が得られており、粒径分布範囲が図6(c)の中心から少し外れた実施例311〜314の場合、若干各評価が下がることが分かる。さらに、実施例315、316では160≦Ro≦300、−50≦Rth≦50、ヘーズは1%以下、スリッティング性は10以下で好適であるのに対し、比較例303、304ではRo<160、50<Rth、ヘーズは1%以上、スリッティング性は30以上であり不適となる。よって、粒子分級を行なうと通過時間を長くした効果がより大きく現れることが分かる。また、横段や縦スジも重要な項目であり、これらがあると実際の液晶表示装置に組み込んだときに液晶表示にムラが見えてしまうことがある。これは、例えコントラストが良好でも商品価値が低下して好ましくない。比較例211〜213では、スリッティング性が悪く生産性が劣化した上に、横段または縦スジが発生しているのでコストが高く、商品価値が低い状態であり、非常に好ましくない。さらに、比較例214のように、特に横段と縦スジが同時に発生したフィルムを液晶表示装置に組み込むと液晶表示にクロス状にムラが発生するので、コントラストが非常に良好でも、実際の液晶表示はとても見苦しいものになってしまい標品価値はほとんどない。また、比較例211〜214は実施例210で好適な結果の得られた粒子を用いているにもかかわらず、ドラフト比及びスリット通過時間が本発明の範囲外であるために、コントラストの評価が悪かったり、横段や縦スジの評価が悪かったりして好適な結果が得られない。
【0287】
以上より、微粒子の形状は、絶対最大長をX、アスペクト比をYとしたとき、[粒径範囲式]を満たす粒径範囲の微粒子の体積割合が大きく、スリットSの時間が、0.1〜2.0[sec]を満たすことが好ましい。さらに、遠心分離機や濾過機を用いて粒子分級を行なうことで[粒径範囲式]を満たす粒子の体積割合を上げることがより好ましい。
【0288】
〈偏光板の作成〉
本実施例では、図12に示すように、本発明により作成されたセルロースエステルフィルムを使用して作成した偏光板61を、横電界スイッチングモード型液晶セル70を挟んでバックライト側に貼り合せ、偏光板β60を、横電界スイッチングモード型液晶セル70を挟んで反対側に貼り合せる。ここで、偏光板βにおける液晶セル側の偏光板保護フィルム62はRo、Rthともほぼ0に近いものを使用しており、このように本発明の偏光板61と組み合わせた場合にコントラストが非常に良くなる。ここで、図12には液晶表示装置の構成を説明するための図である。
【0289】
厚さ50μmのポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム6g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、ついてヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬し、ついでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。ついで工程1〜5に従って偏光板J1〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜J322、H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、及びH301〜H310を作成した。(J番号、H番号はそれぞれ単純に実施例番号、比較例番号に合わせたものである。)
【0290】
(工程1)
偏光板保護フィルムとして、実施例1で作成したセルロースエステルフィルムを60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥して偏光子と貼合する側を鹸化した。同様に、反対側の偏光板保護フィルムとして、市販のセルロースエステルフィルムKC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)の鹸化も行なった。
【0291】
(工程2)
前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0292】
(工程3)
(工程2)で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを(工程1)で処理した実施例1で作成した本発明のセルロースエステルフィルムの鹸化した面上にのせ、さらに反対側の偏光板保護フィルムとして、(工程1)で処理した市販のセルロースエステルフィルムKC8UX2Mの鹸化した面が偏光子に接するように積層し、偏光板J1とした。
【0293】
(工程4)
(工程3)でセルロースエステルフィルムと偏光子を積層した偏光板を圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0294】
(工程5)
80℃の乾燥機中に(工程4)で作成した偏光板を2分間乾燥した。
【0295】
同様にして、実施例2〜22、101〜122、201〜222、301〜312で作成した本発明のセルロースエステルフィルムを用いて偏光板J2〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜J312を作成した。また同様にして、比較例1〜14、101〜110、201〜214、301〜310で作成したセルロースエステルフィルムを用いて偏光板H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、及びH301〜H310を作成した。
【0296】
〈偏光板βの作成〉
偏光板βに用いるセルロースエステルフィルム−βを下記のようにして作成した。
【0297】
(ポリマーの調製)
特開2000−344823号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。即ち、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び環流冷却管を備えたフラスコに下記メチルメタクリレートとルテノセンを導入しながら内容物を70℃に加熱した。次いで、充分に窒素ガス置換した下記β−メルカプトプロピオン酸の半分を攪拌下フラスコ内に添加した。β−メルカプトプロピオン酸添加後、攪拌中のフラスコ内の内容物を70℃に維持し2時間重合を行った。更に、窒素ガス置換したβ−メルカプトプロピオン酸の残りの半分を追加添加後、更に攪拌中の内容物の温度が70℃に維持し重合を4時間行った。反応物の温度を室温に戻し、反応物に5質量%ベンゾキノンのテトラヒドロフラン溶液を20重量部添加して重合を停止させた。重合物をエバポレーターで減圧下80℃まで徐々に加熱しながらテトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオール化合物を除去してポリマー7を得た。重量平均分子量は3,400であった。また水酸基価(下記の測定方法による)は50であった。
メチルメタクリレート 100重量部
ルテノセン(金属触媒) 0.05重量部
β−メルカプトプロピオン酸 12重量部
【0298】
(水酸基価の測定方法)
この測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2である。
【0299】
(偏光板βに用いるセルロースエステルフィルム−βの作製)
(二酸化珪素分散液β)
アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製) 12重量部
(一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 88重量部
以上をデゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分散後の液濁度は200ppmであった。二酸化珪素分散液に88重量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、デゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液βを作製した。
【0300】
(インライン添加液βの作成)
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 11重量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 5重量部
メチレンクロライド 100重量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。
【0301】
これに二酸化珪素分散希釈液βを36重量部、撹拌しながら加えて、更に30分間撹拌した後、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8)6重量部を撹拌しながら加えて、更に60分間撹拌した後、アドバンテック東洋(株)のポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1Nで濾過し、インライン添加液βを調製した。
【0302】
(ドープ液βの調製)
セルロースアセテート 100重量部
(アセチル置換度2.92、分子量Mn=148000、分子量Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
上記調製したポリマー 12重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液βを調製した。
【0303】
製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液βを濾過した。インライン添加液ライン中で、日本精線(株)製のファインメットNFでインライン添加液βを濾過した。濾過したドープ液βを100重量部に対し、濾過したインライン添加液βを2重量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合後、ドープ液βを40℃に保ち、40℃に保温されたステンレスベルト上に均一に流延した。残留溶媒量が80%まで乾燥した後、ステンレスベルト上から剥離し、剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを40℃で残留溶剤量を20%まで溶媒を蒸発させた後、テンターで幅方向に1.3倍の延伸を行った。さらに多数のロールで搬送させながら120℃で乾燥して80μm、幅1.3mのセルロースエステルフィルム−βを得た。
【0304】
ダイのスリット内を流れるドープのスリット通過時間は0.07sec、ドラフト比は1.5、仕上がりフィルムの膜厚が80μmになるようにランド長の異なるダイに交換するとともに、ドープの流量およびステンレスベルトの走行速度を調整した。
【0305】
このセルロースエステルフィルム−βのリタデーション値を測定したところ、Ro=0.1nm、Rth=0nmであった。Ro、Rthの測定は前述のRo、Rthの測定と同様の方法でおこなった。
【0306】
前記偏光板の作製において、本発明に係わる実施例1のセルロースエステルフィルムにかえて上記のセルロースエステルフィルム−βを用いた以外は同様にして偏光板βを作製した。
【0307】
〈液晶表示装置の作成〉
コントラストの評価を行う液晶パネルを以下のようにして作製した。
【0308】
IPSモード型液晶表示装置である日立製液晶テレビWooo W17−LC50を用いてあらかじめ貼合されていた両面の偏光板を剥がして上記で作製した偏光板をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。その際、セルロースエステルフィルムの遅相軸、偏光子の吸収軸、液晶セルの遅相軸の向きおよび液晶表示装置の構成は図12(軸の配置)になるように偏光板の作成時に貼り合わせ、液晶パネルの貼り合わせを行った。
ここで、図12に示すように本発明に係る液晶表示装置において、偏光板β60は、偏光板保護フィルム68、偏光子64、及びセルロースエステルフィルム−β62で構成されている。ここで、偏光板β60における偏光子64は、偏光子の透過軸72及び偏光子の吸収軸73を有している。また、偏光板61は、実施例及び比較例のセルロースエステルフィルム66、偏光子64、及び偏光板保護フィルム68で構成されている。さらに、偏光板61における偏光子64は偏光子の透過軸74及び偏光子の吸収軸75を有している。また、横電界スイッチングモード型液晶セル70は液晶のラビング軸71を有している。
【図面の簡単な説明】
【0309】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法の工程図
【図2】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置の概略図
【図3】本発明の光学フィルムの製造方法を実施するダイの拡大斜視図
【図4】同ダイの拡大横断面図
【図5】ドラフト比の調整方法を説明する図
【図6】粒径/アスペクト比の望ましい粒径範囲を表したグラフ
【図7】本実施例で作成した微粒子の絶対最大長及びアスペクト比を表した表
【図8】溶液流延製膜法においてドラフト比を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図9】溶液流延製膜法においてスリット通過時間を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図10】実施例及び比較例における破断頻度の評価を表した表
【図11】微粒子の粒径分布を説明するためのグラフ
【図12】本実施例における液晶表示装置の構成を説明するための図
【図13】溶融押出し製膜法においてドラフト比を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図14】溶融押出し製膜法においてスリット通過時間を調整した実施例及び比較例の結果を表した表
【図15】溶液流延製膜法においてドラフト比及びスリット通過時間ともに好適な範囲外の値に調整した比較例の結果を表した表
【図16】溶融押出し製膜法においてドラフト比及びスリット通過時間ともに好適な範囲外の値に調整した比較例の結果を表した表
【符号の説明】
【0310】
1:溶解釜
2:送液ポンプ
3:濾過器
4:ストックタンク
5:送液ポンプ
6:濾過器
8:導管
10:溶解釜
11:送液ポンプ
12:濾過器
13:ストックタンク
14:送液ポンプ
15:濾過器
16:導管
17:切り替え弁
20:合流管
21:混合機
22:導管
23:供給管
30:ダイ
31:金属支持体
32:ウェブ
33:剥離位置
34:テンター装置
35:ロール乾燥装置
36:搬送ロール
37:元巻
60:偏光板β
61:偏光板J1〜J22、J101〜J122、J201〜J222、J301〜
J322、H1〜H14、H101〜H110、H201〜H214、H301〜
H310
62:セルロースエステルフィルム−β(偏光板保護フィルム)
64:偏光子
66:実施例および比較例のセルロ−スエステルフィルム(偏光板保護フィルム)
68:偏光板保護フィルム
70:横電界スイッチングモード型液晶セル
71:液晶のラビング軸
72、74:偏光子の透過軸
73、75:偏光子の吸収軸
76:実施例および比較例のセルロ−スエステルフィルムの遅相軸
S:スリット
W:スリットの幅
L:スリットのドープ流動方向の長さ(ランド長)
H:スリットの間隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の粒子を含み、有機溶媒を主成分とする樹脂溶液、又は、熱可塑性により加熱溶融している溶融樹脂のいずれかである液状樹脂をダイのスリットから、移行する金属支持体上に連続的に流延させる工程を有する光学フィルム製造方法において、
前記所定の粒子は、全粒子の90%以上が、絶対最大長50nmより大きくかつ500nmより小さく、さらに、前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像を挟んだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値が、前記絶対最大長(単位はnm)の2乗を20000で割った値よりも大きく、かつ、前記絶対最大長(単位はnm)を−0.5乗したものに20をかけた値よりも大きく、かつ、20よりも小さくなる粒径範囲に含まれる粒子であり、
下記A、B、又は、それら双方を満たすことを特徴とする光学フィルム製造方法。
A:前記スリットから前記液状樹脂が流涎される速度に対する前記金属支持体の線速度の比が、前記液状樹脂溶液である場合は、2.1〜6.0であり、前記液状樹脂が溶融樹脂である場合は10〜30である。
B:前記ダイのスリットを前記樹脂溶液が通過する時間が0.1〜2.0秒の範囲である。
【請求項2】
遠心分離機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項3】
濾過機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項4】
前記粒子が負の複屈折性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項5】
前記樹脂がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項6】
前記樹脂がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の光学フィルム製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
偏光膜及びその両側に配置された透明保護膜からなる偏光板であって、前記両側の透明保護膜のうち少なくとも1つに、請求項7に記載のセルロースエステルフィルムが用いられていることを特徴とする偏光板。
【請求項9】
液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板を具備する液晶表示装置であって、前記2枚の偏光板のうち少なくとも1枚の偏光板が、請求項8に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項1】
所定の粒子を含み、有機溶媒を主成分とする樹脂溶液、又は、熱可塑性により加熱溶融している溶融樹脂のいずれかである液状樹脂をダイのスリットから、移行する金属支持体上に連続的に流延させる工程を有する光学フィルム製造方法において、
前記所定の粒子は、全粒子の90%以上が、絶対最大長50nmより大きくかつ500nmより小さく、さらに、前記絶対最大長に平行な2本の直線で投影された粒子の像を挟んだときの2直線間の最短距離である対角幅で、前記絶対最大長を割った値が、前記絶対最大長(単位はnm)の2乗を20000で割った値よりも大きく、かつ、前記絶対最大長(単位はnm)を−0.5乗したものに20をかけた値よりも大きく、かつ、20よりも小さくなる粒径範囲に含まれる粒子であり、
下記A、B、又は、それら双方を満たすことを特徴とする光学フィルム製造方法。
A:前記スリットから前記液状樹脂が流涎される速度に対する前記金属支持体の線速度の比が、前記液状樹脂溶液である場合は、2.1〜6.0であり、前記液状樹脂が溶融樹脂である場合は10〜30である。
B:前記ダイのスリットを前記樹脂溶液が通過する時間が0.1〜2.0秒の範囲である。
【請求項2】
遠心分離機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項3】
濾過機により粒径分級することによって、全粒子の90%以上が前記粒径範囲に入る前記所定の粒子を取得する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項4】
前記粒子が負の複屈折性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項5】
前記樹脂がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項6】
前記樹脂がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の光学フィルム製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の光学フィルム製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
偏光膜及びその両側に配置された透明保護膜からなる偏光板であって、前記両側の透明保護膜のうち少なくとも1つに、請求項7に記載のセルロースエステルフィルムが用いられていることを特徴とする偏光板。
【請求項9】
液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板を具備する液晶表示装置であって、前記2枚の偏光板のうち少なくとも1枚の偏光板が、請求項8に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−15118(P2008−15118A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184979(P2006−184979)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【出願人】(506230194)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【出願人】(506230194)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]