説明

光学フィルム

【課題】 溶液流延製膜法において、フィルム表面を柔らかくすることで、フィルムの両端部に、高速でもホットエンボスで、必要な高さのエンボスを確保し、フィルムの巻き性を安定させる。ヒゲ状故障が無くかつフィルムの巻き性を確保する。高速製膜が可能で、生産性が向上する光学フィルムを提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法により金属支持体から剥離したウェブ(流延膜)を幅手方向に延伸し、乾燥後にロール状に巻き取る光学フィルムについて、フィルム最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を、1.0〜1.5とする。上記ウェブの延伸率が20〜60%であり、ロール状の巻きフィルムの下記式で定義される実効ナールが、2.5〜7.0μmであることが好ましい。
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルムとしての光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置用の光学フィルムは、液晶表示装置の大型化と普及により、年々生産量が増大しており、液晶表示装置用光学フィルムの需要の伸びより、生産性向上が求められている。液晶表示用光学フィルム、特に偏光板保護フィルムや位相差フィルムは溶液流延製膜法や溶融製膜法で製膜されるが、生産性向上のために製膜速度の高速化の検討がなされている。これらフィルムは製膜後、ロール状に巻き取られて加工メーカーにて使用されるが、巻き取り形状を安定化させるために、フィルム両端部にエンボス加工が施される。
【0003】
エンボスは加熱/加圧により加工させるが、製膜の高速化により加熱/加圧時間が十分とることができないために、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することが難しくなってきている。
【0004】
すなわち、エンボス加工において、エンボスの温度を上げすぎると、ヒゲ状と呼ばれるエンボス周辺に繊維状の異物が発生し、また、エンボスの圧力を上げすぎると、フィルム端部が波状に変形したり、巻き形状で耳立ちが発生するという問題があった。
【0005】
下記の特許文献1には、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、樹脂や添加剤により表面硬度200〜900MPa(メガパスカル)などに調整することで、フィルム製造工程で異物などによる押され故障を抑制することができる厚み方向で積層して表面を硬くするという技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−206721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されている従来技術のように、光学フィルムの表面を硬くするという技術は、従来よりあったが、表面を柔らかくするという技術は、光学フィルムとしては、従来知られていなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、溶液流延製膜法により製造された光学フィルムであって、フィルム表面を柔らかくすることで、フィルムの両端部に、エンボス加工による凹凸が付きやすいため、高速でもホットエンボスで、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することができて、ヒゲ状故障が無く、かつフィルムの巻き性を確保することができ、近年の生産性向上のための製膜速度の高速化の要求にも応えることができる、光学フィルムを提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、延伸率を高くすることで、フィルムの表面が柔らかくなることを見い出し、特に、1.8m以上の幅のフィルムを得るためには、延伸率20%以上が必要であり、かつフィルムのビッカース硬度比を規定することにより、製膜の高速化によってもエンボス加工で、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボス(凹凸)を確保することができることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離したウェブを幅手方向に延伸率20%以上で延伸し、延伸後に乾燥し、さらにフィルム両端部にナール加工(エンボス加工)を施した後、該フィルムをロール状に巻き取ることよって製造された光学フィルムであって、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムであって、延伸率が、20〜60%であることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが、2.5〜7.0μmであることを特徴としている。
【0012】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムであって、熱可塑性樹脂が、セルロースエステルであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明は、溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離したウェブを幅手方向に延伸率20%以上で延伸し、延伸後に乾燥し、さらにフィルム両端部にナール加工(エンボス加工)を施した後、該フィルムをロール状に巻き取ることよって製造された光学フィルムであって、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であるもので、請求項1の発明によれば、フィルム表面を柔らかくすることで、フィルムの両端部に、エンボス加工による凹凸が付きやすいため、高速でもホットエンボスで、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することができて、ヒゲ状故障が無く、かつフィルムの巻き性を確保することができ、近年の生産性向上のための製膜速度の高速化の要求にも応えることができるという効果を奏する。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムであって、延伸率が、20〜60%であるもので、請求項2の発明によれば、フィルム表面を柔らかくすることができ、フィルムの両端部に、エンボス加工による凹凸が付きやすいため、高速でもホットエンボスで、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することができるという効果を奏する。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが、2.5〜7.0μmである。
【0016】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
請求項3の発明によれば、ロール状の光学フィルムの実効ナールが、2.5〜7.0μmの範囲とすることにより、フィルム表面が柔らかくなり、フィルムの両端部に、エンボス加工による凹凸が付きやすいため、高速でもホットエンボスで、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することができて、ヒゲ状故障が無く、かつフィルムの巻き性を確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムであって、熱可塑性樹脂が、セルロースエステルであるもので、請求項4の発明によれば、密着性が良好で、塗布層を設ける場合に、溶剤のぬれ性を確保でき、塗布層が設けやすいという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明による光学フィルムは、溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離したウェブを幅手方向に延伸率20〜60%で延伸し、さらにフィルム両端部にナール加工(エンボス加工)を施した後、該フィルムをロール状に巻き取ることよって製造された光学フィルムであって、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であることを特徴としている。
【0020】
上記において、延伸率は、20〜60%であることが好ましい。というのは、一般に、1800mm以上の幅を有する光学フィルムを得るためには、延伸率20〜60%が必要であるからである。そして、このように、高い延伸率で延伸することにより、フィルムは、柔らかくなる。
【0021】
本発明の光学フィルムは、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であることを特徴としている。
【0022】
ここで、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が上がると、フィルムは柔らかくなる。ここで、ビッカース硬度の比:HV2/HV1が、1.0未満であれば、フィルム表面が硬いため、温度や圧力によるエンボス加工をするのに、高温・高圧での処理が必要になり、ヒゲ状故障や波状変形が発生するので、好ましくない。また、ビッカース硬度の比:HV2/HV1が、1.5を超えると、表面がやわらかくなりすぎるため、搬送工程でのロール表面に異物がある場合などに押され故障となるので、好ましくない。
【0023】
また、本発明による光学フィルムは、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが、2.5〜7.0μmであるのが、好ましい。ここで、実効ナールは、いわゆる巻き上がりの数値である。
【0024】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
ここで、ロール状光学フィルムの実効ナールが、2.5μm未満であれば、フィルム同士の貼り付き故障は発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。また、実効ナールが7.0μmを超えると、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。
【0025】
なお、本発明の光学フィルムは、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜14個/cm であることが好ましい。
【0026】
上記において、光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数は、少ないほど好ましく、ヒゲ状異物の個数が15個/cm を超えると、偏光板として加工する際のクリーニング装置でも除去しきれなくなり、偏光子とフィルムの間に異物として入り込み液晶表示装置に組み込んだ場合画像欠陥となるので、好ましくない。表面に反射防止処理や防眩処理などの塗布加工を施す場合も同様である。
【0027】
本発明の光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることが好ましい。
【0028】
ここで、ロール状フィルムの巻き長が3900m未満であれば、生産速度が速くなってくると巻き上がったロールの切替時間が足りなくなるので、好ましくない。また偏光板加工時にもフィルムの切替作業の頻度が高くなるため生産性を低下させてしまう。また、ロール状フィルムの巻き長が9100mを超えると、フィルムの自重により巻き芯の荷重が大きくなり、エンボスを高くしても実効ナールが保てず貼り付きが発生するので、好ましくない。
【0029】
以下、本発明について詳述する。
【0030】
本発明の光学フィルムは、溶液流延製膜法により製造されるものである。光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0031】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0032】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0033】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0034】
本発明において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルは、Mw/Mn比が1.4〜3.0が好ましく、さらに好ましくは1.4〜2.3である。
【0035】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
【0036】
測定条件は以下の通りである。
【0037】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G
(昭和電工株式会社製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1重量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製)
流量:1.0ml/分
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1,000,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0038】
セルロースエステルの総アシル基置換度は2.3〜2.9が用いられ、2.6〜2.9が好ましく用いられる。総アシル基置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0039】
本発明において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0040】
本発明による光学フィルムを製造する方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0041】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0042】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブ(金属支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0043】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0044】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0045】
本発明におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
【0046】
本発明において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0047】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0048】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0049】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0050】
本発明に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表わされる。
【0051】
一般式(1) R−(OH)n
(ただし、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表わす)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0053】
本発明の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0054】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0056】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0057】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0058】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0059】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0060】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0061】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0062】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本発明では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0063】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1重量%未満、好ましくは0.1重量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0064】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0065】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0066】
本発明におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0067】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0068】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0069】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0070】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0071】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0072】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加されたの粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0073】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0074】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0075】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0076】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0077】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0078】
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を金属支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0079】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0080】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0081】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0082】
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましく、5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
【0083】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0084】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0085】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0086】
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0087】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0088】
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0090】
また、本発明の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表わされる高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0091】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0092】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0093】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0094】
以下、本発明による光学フィルムを製造する方法について詳しく述べる。光学フィルムは、溶液流延製膜方法により作製できる。
【0095】
図1は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムを製造する方法を実施する装置の具体例を示すフローシートである。なお、本発明の実施にあたっては、図1のプロセスに限定されるものではない。
【0096】
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体(1)上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブ(10)を金属支持体(1)から剥離する工程と、剥離したウェブ(10)をテンター(4)により幅手方向に延伸する工程と、延伸後のフィルムを巻き取る巻取り工程とを具備している。
【0097】
まず、図示しない溶解釜において、熱可塑性樹脂、例えばセルロースエステル系樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0098】
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して、導管によって流延ダイ(2)に送液し、図1に示す無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる金属製支持体(1)上の流延位置に、流延ダイ(2)からドープを流延する。
【0099】
なお、図示は省略したが、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して流延ダイ(2)に送液されたドープを、流延ダイ(2)からハードクロム鍍金により鏡面処理された表面を有するステンレス鋼製回転の冷却ドラム上に流延しても、良い。
【0100】
流延ダイ(2)によるドープの流延には、流延されたドープ膜(ウェブ)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0101】
なお、流延ダイ(2)としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0102】
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20〜30重量%であるのが、好ましい。
【0103】
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20重量%未満であれば、金属支持体(1)上で充分な乾燥ができず、剥離時にドープ膜の一部が金属支持体(1)上に残り、ドラム汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、金属支持体(1)上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0104】
金属製支持体(1)として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該ベルト金属製支持体(1)は一対のドラムおよびその中間に配置されかつエンドレスベルト金属製支持体(1)の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数のロール(図示略)より構成される。
【0105】
回転駆動エンドレスベルト金属製支持体(1)の両端巻回部のドラムの一方、もしくは両方に、ベルト金属製支持体(1)に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってベルト金属製支持体(1)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0106】
また、金属支持体の幅は1800〜2200mm、セルロースエステル溶液の流延幅は1600〜2150mm、巻き取り後のフィルムの幅は1490〜3000mmである。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用セルロースエステルフィルムを製造することができるものである。
【0107】
ここで、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上記の下限値未満では、近年の液晶表示装置の大型化には、対応することができず、また、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上限値を超えると、剥離後のフィルムの残留溶媒量が多い状態で、後述する延伸工程のテンター入り口でフィルムが垂れ下がり、幅手の伸びにムラが生じ、リタデーションのばらつきが大きくなり、好ましくない。また垂れ下がったフィルムがテンターのガイドに当たり、フィルムが破断し生産をとめてしまう場合もある。
【0108】
また、本発明の光学フィルムの製造方法では、金属支持体(1)の周速度が80〜200m/minであるのが、好ましい。
【0109】
すなわち、薄膜フィルムでは、乾燥する溶剤量が少なくてすむため、金属支持体(1)の周速度を従来のドラム周速度より速くすることにより、フィルムの生産速度アップが可能で、セルロースエステルフィルムの生産性を増大することができる。
【0110】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0111】
上記のようにして金属支持体(1)表面に流延されたドープは、冷却ゲル化によりゲル膜の強度(フイルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フイルム強度)が増加する。
【0112】
また、製膜速度を上げるために、加圧流延ダイ(2)を流延用金属製支持体(1)上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
【0113】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)上では、ウェブ(10)が金属製支持体(1)から剥離ロール(3)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(10)中の残留溶媒量が150重量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120重量%が、より好ましい。また、金属製支持体(1)からウェブ(10)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(10)は、金属製支持体(1)からの剥離直後に、金属製支持体(1)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0114】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0115】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mは、フィルムの任意時点での重量、Nは、重量Mのものを110℃で3時間乾燥させた後の重量を表わす。
【0116】
エンドレスベルト金属製支持体(1)上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(ウェブ)を、金属製支持体(1)上で加熱し、金属製支持体(1)から剥離ロール(3)によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0117】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法、及び/または金属製支持体(1)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0118】
金属製支持体(1)にエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)とウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離する際の剥離張力は、通常100N/m〜200N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ(10)の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
【0119】
金属支持体(1)上でウェブ(10)が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離する。
【0120】
ついで、剥離後のウェブ(10)を、延伸工程のテンター(4)に導入する。本発明の方法において、延伸工程におけるテンター(4)としては、ピン・テンター、およびクリップ・テンターを用いることができるが、中でも、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(またはフィルム)(10)の両側縁部をクリップで固定して延伸するクリップテンターであることが好ましく、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0121】
延伸工程のテンター(4)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、10〜50重量%であることが好ましい。
【0122】
延伸工程においては、テンター(4)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温風が吹込まれ、テンター(4)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)が延伸されるとともに、乾燥される。
【0123】
本発明において、テンター(4)におけるウェブ(10)の延伸率は、20〜60%であることが好ましい。というのは、一般に、1800mm以上の幅を有する光学フィルムを得るためには、延伸率20〜60%が必要であるからである。そして、このように、高い延伸率で延伸することにより、フィルムは、柔らかくなる。
【0124】
なお、延伸工程における温風吹出し手段とは、具体的には、延伸工程のテンター(4)の温風吹出しスリット口をいうが、温風の吹き出しによりフィルムを効率的に加熱する形状であれば、特に限定されない。温風の温度は、165〜190℃であることが好ましく、さらに170〜185℃であることが望ましい。
【0125】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)は、ロール搬送乾燥装置(5)に導入し、乾燥装置(5)において非駆動のフリーロールよりなる搬送ロール(7)により搬送しながら乾燥する。
【0126】
この乾燥装置(5)内では、50〜1000本の側面から見て千鳥配置せられた搬送ロール(7)によってウェブ(10)が蛇行せられ、その間にウェブ(10)が乾燥せられるものである。また、乾燥装置(5)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥装置(5)での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
【0127】
なお、ウェブ(またはフィルム)(10)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(5)の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風によって乾燥され、乾燥装置(5)の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
【0128】
これら流延から最終的な後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0129】
ロール搬送乾燥装置(5)による乾燥後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター(11)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除し、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する。
【0130】
また、本発明による光学フィルムの製造方法において、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのが、好ましい。ここで、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのは、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという理由による。
【0131】
本発明による光学フィルムは、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であるもので、請求項1の発明によれば、フィルム表面を柔らかくすることで、フィルムの両端部に、エンボス加工による凹凸が付きやすいため、高速でもホットエンボスで、フィルムの巻き性を安定させるのに必要な高さのエンボスを確保することができて、ヒゲ状故障が無く、かつフィルムの巻き性を確保することができ、近年の生産性向上のための製膜速度の高速化の要求にも応えることができる。
【0132】
また、本発明の光学フィルムは、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであるのが、好ましい。
【0133】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
上記において、実効ナールが2.5μm未満であれば、フィルム同士の貼り付き故障は発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。また、実効ナールが7.0μmを超えると、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。
【0134】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜14個/cm であることが好ましく、0〜10個/cm であることが、さらに好ましい。
【0135】
上記において、光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数は、少ないほど好ましく、ヒゲ状異物の個数が14個/cm を超えると、偏光板として加工する際のクリーニング装置でも除去しきれなくなり、偏光子とフィルムの間に異物として入り込み液晶表示装置に組み込んだ場合画像欠陥となるので、好ましくない。表面に反射防止処理や防眩処理などの塗布加工を施す場合も同様である。
【0136】
ここで、エンボス部の高さh(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。エンボス部は、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボス部の高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボス部の高さh1+h2(μm)は2〜12μmに設定する。また、エンボス部幅は、5〜30mmに設定するのが、好ましい。
【0137】
エンボス部高さの下限については、フィルム間の部分的な密着ムラを防ぐために必要な高さから、一方、上限は、これ以上にするとエンボス部が高すぎるため、ロール状巻き製品の形態が馬の背状に多角形状に変形し、故障を誘発するからである。
【0138】
エンボス部の幅については、エンボス部は最終的にロス部分となるため少なくしたいが、例えば50μm以内の薄膜フィルムで、50m/分以上の高速製膜時において、フィルムのすべりを抑えるための最低限必要なエンボス部幅である。
【0139】
ただし、前述のエンボス部の高さともリンクしており、凸状、ピラミッド状、馬の背、多角形状、巻きずれ故障を全てクリアーするエンボス部高さ×エンボス部幅を設定する必要がある。
【0140】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることが好ましい。
【0141】
ここで、ロール状フィルムの巻き長が3900m未満であれば、生産速度が速くなってくると巻き上がったロールの切替時間が足りなくなるので、好ましくない。また偏光板加工時にもフィルムの切替作業の頻度が高くなるため生産性を低下させてしまう。
【0142】
また、ロール状フィルムの巻き長が9100mを超えると、フィルムの自重により巻き芯の荷重が大きくなり、エンボスを高くしても実効ナールが保てず、貼り付きが発生するので、好ましくない。
【0143】
なお、巻取り装置(15)によって巻き取るフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0144】
(偏光板)
つぎに、本発明のハードコートフィルムを用いた偏光板について述べる。
【0145】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明のハードコートフィルムの裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理した該フィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも該フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のハードコートフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは面内方向リタデーション(Ro)が590nmで、20〜70nm、厚み方向リタデーション(Rt)が100〜400nmの位相差を有する光学補償フィルム(位相差フィルム)であることが好ましい。これらは、例えば特開2002−71957号公報、特願2002−155395号公報記載の方法で作製することができる。また、さらにディスコチック液晶等の液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることが好ましい。例えば特開2003−98348号公報記載の方法で、光学異方性層を形成することができる。あるいは面内方向リタデーション(Ro)が590nmで0〜5nm、厚み方向リタデーション(Rt)が−20〜+20nmの無配向フィルムも好ましく用いられ、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることができる。
【0146】
裏面側に用いられる偏光板保護フィルムとしては、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2MW、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC4UEW、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC4FR−1、KC4FR−2(コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。
【0147】
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがあるがこれのみに限定されるものではない。偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行なったものが用いられている。偏光膜の膜厚は5〜30μm、好ましくは8〜15μmの偏光膜が好ましく用いられる。該偏光膜の面上に、本発明のハードコートフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
【0148】
(画像表示装置)
本発明のハードコートフィルムを用いた偏光板を画像表示装置の鑑賞面側に組み込むことによって、種々の視認性に優れた画像表示装置を作製することができる。本発明のハードコートフィルムは反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。また、平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。特に画面が30型以上の大画面の画像表示装置では、視認性が良好で、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0149】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0150】
実施例1
本発明のセルローストリアセテートフィルムよりなる光学フィルムを、溶液流延製膜法により、つぎのようにして製造した。
【0151】
(ドープ組成1)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
上記のドープ組成1の材料を、密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。ついで、ドープを、図1に示すベルト流延装置を用い、温度35℃で、幅2050mmのステンレスバンド支持体(1)上に幅1950mmに均一に流延した。
【0152】
ステンレスバンド支持体(1)上で、残留溶媒量が100重量%になるまで溶媒を蒸発させ、ウェブ(フィルム)(10)をステンレスバンド支持体(1)から剥離した。ついで、テンター(4)でウェブ(10)の幅手方向(TD方向)の両端部を把持し、ウェブ(10)の幅手方向に延伸率20%で延伸した。なお、延伸工程のテンター(4)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量を、30重量%とした。
【0153】
延伸工程においては、テンター(4)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温度180℃で温風が吹込まれ、テンター(4)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)を延伸するとともに、乾燥した。
【0154】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)を、ロール搬送乾燥装置(5)に導入し、このフィルムを、ロール搬送乾燥装置(5)において表面粗さ(Rmax)0.8μmの鏡面搬送ロール(面長2500mm、径110mm)よりなる500本の非駆動のフリーロールによって構成される搬送ロール(7)により搬送しながら乾燥した。乾燥装置(5)でのフィルム搬送張力は、80N/mとした。乾燥装置(5)では、これの底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる温度120℃の乾燥風によって乾燥させた。
【0155】
乾燥装置(5)による乾燥後に、フィルム両端部を上下一対のスリッター(11)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除した。
【0156】
ついで、スリット後のフィルム(10)の左右両端部に、エンボスリング(13)及びバックロール(14)によってナーリング加工を施して、フィルム端部に10mm幅のエンボス部(図示略)を付与した。また、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(13)のフィルム排出側に温度20℃の冷風を当てた。
【0157】
その後、エンボス部を具備する最終製品幅1800mm、および膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(F)を、巻取り装置(15)によって巻き取った。ロール状セルローストリアセテートフィルム(F)の巻き長は3900mであった。
【0158】
この実施例1において製造されたロール状のセルローストリアセテートフィルムは、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.24であった。
【0159】
ここで、ビッカース硬度(H )は、株式会社島津製作所社製、超微小硬度計DUH−211Sより測定した。
【0160】
なお、ビッカース硬度の測定は、フィルム最表面のビッカース硬度(HV1)を測定するとともに、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度、すなわち、膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムについては、その10%の8μmの厚さまで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)を測定し、さらに、これらの比を算出した。
【0161】
また、実施例1において製造されたロール状のセルローストリアセテートフィルムは、下記式で定義される実効ナールを算出したところ、3.5μmであった。
【0162】
ここで、実効ナールは、ロール状セルローストリアセテートフィルムのいわゆる巻き上がりの数値である。
【0163】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
得られた結果は、下記の表1に示した。
【0164】
実施例2〜4
上記実施例1の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合とは、延伸率を、実施例2では30%、実施例3では40%、実施例4では50%と、種々異なる条件として、セルローストリアセテートフィルムを製造した。なお、ステンレスバンド支持体(1)上のドープの流延幅は、それぞれ1900mmで同じであるが、延伸率が異なるため、エンボス部を具備する最終製品幅は、互いに異なるものであり、これらを下記の表1にあわせて示した。
【0165】
そして、得られたロール状のセルローストリアセテートフィルムについて、フィルム最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を測定するとともに、実効ナール(μm)を算出し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0166】
比較例1〜3
比較のために、上記実施例1の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、比較例1と2では、延伸率を20%未満とし、比較例3では60%を超えるものとして、本発明の範囲外とした点にある。
【0167】
そして、得られたロール状のセルローストリアセテートフィルムの最終製品幅、および各フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を測定するとともに、実効ナール(μm)を算出し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0168】
実施例5〜8
上記実施例1の場合と同様にして、セルロースエステルフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、下記のドープ組成2を用いて、セルロースアセテートプロピオネートを製造した点にある。
【0169】
(ドープ組成2)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基置換度+プロピオニル基置換度=2.45、
Mn=60000、Mw=180000、Mw/Mn=3.00)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 360重量部
エタノール 60重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
そして、延伸率を、実施例5では20%、実施例6では30%、実施例7では40%、実施例8では60%と、種々異なる条件として、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0170】
そして、得られた実施例4〜8のロール状のセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、フィルム最終製品幅、および各フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を測定するとともに、実効ナール(μm)を算出し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0171】
そして、得られたロール状のセルローストリアセテートフィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を測定するとともに、実効ナール(μm)を算出し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0172】
比較例4〜6
比較のために、上記実施例5の場合と同様に、ドープ組成2を用いて、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製するが、上記実施例5の場合と異なる点は、表1に示すように、比較例4と5では、延伸率を20%未満とし、比較例6では60%を超えるものとして、本発明の範囲外とした点にある。
【0173】
そして、得られた比較例4〜6のロール状のセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、フィルム最終製品幅、および各フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1を測定するとともに、実効ナール(μm)を算出し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0174】
つぎに、上記実施例1〜8及び比較例1〜6で得られたロール状のセルロースエステルフィルムの性能を評価するために、下記のテストを行なった。
【0175】
(ヒゲ状異物個数)
上記実施例1〜8及び比較例1〜6で製造されたロール状のセルロースエステルフィルムについて、エンボス部を30倍の光学顕微鏡にて観察した。そして、フィルムのエンボス部周囲に付着している200μm以上の長さを有するヒゲ状異物個数をカウントし、lcmあたりの個数に換算した。得られた各セルロースエステルフィルムについてのヒゲ状異物個数(個/cm )の結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0176】
(巻き品質の評価)
巻き品質の評価方法として、上記実施例1〜8及び比較例1〜6で得られたセルロースエステルフィルムのロール状巻きフィルムについて、それぞれ外観を観察評価し、巻きの外周で観察される突起状に表われる凸部分の個数により、下記の4段階のグレード付けを行なった。得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0177】
◎:0〜5個
○:6〜10個
△:11〜20個
×:21個以上
(巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価)
上記実施例1〜8及び比較例1〜6で得られたセルロースエステルフィルムのロール状巻きを、温度40℃、及び湿度80%RHで2週間保存した後、外観を確認し、馬の背状の巻き変形が生じているか、その有無を確認し、巻き変形の評価とした。
【0178】
ついで、上記実施例1〜8及び比較例1〜6で得られたロール状巻きフィルムをそれぞれ繰り出して、フィルム同士が貼り付いていないか、どうかを検査した。そして、フィルムの貼付きの状態により、下記の4段階のグレード付けを行なった。
【0179】
◎:全く貼り付いていない
○:若干貼り付いているが、容易に剥離できる
△:貼り付いているが、容易に剥離できる
×:貼り付きが多く、剥離しにくい
得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0180】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜8で作製したセルロースエステルフィルムによれば、巻き品質の評価、巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価がいずれも良好であり、得られた光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、フィルムの高品質化を果たし得るものであった。このように、本発明の実施例1〜8で作製したセルロースエステルフィルムによれば、光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができるものであった。
【0181】
これに対し、比較例1〜6のセルロースエステルフィルムでは、いずれもヒゲ状異物の発生個数が非常に多く、また特に、比較例3と6のセルロースエステルフィルムでは、馬の背状の巻き変形が生じていた。比較例1〜6のセルロースエステルフィルムでは、いずれもフィルムの貼付き故障発生の評価は、△または×であり、このような△の評価レベルでは、フィルム表面への塗布加工で塗布欠陥が発生するため、塗布向けには使用できないし、×の評価レベルでは、フィルムを繰り出す際に破断してしまうため、偏光板用に使用できないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明の光学フィルムを製造する方法を実施する装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0183】
1:エンドレスベルト支持体
2:流延ダイ
3:剥離ロール
4:テンター
5:ロール搬送乾燥装置
7:搬送ロール
10:ウェブ
11:上側スリッターロール
12:下側スリッターロール
13:エンボスリング
14:バックロール
15:巻取り装置
F:セルロースエステルフィルム(光学フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属支持体から剥離し、剥離したウェブを幅手方向に延伸率20%以上で延伸し、延伸後に乾燥し、さらにフィルム両端部にナール加工(エンボス加工)を施した後、該フィルムをロール状に巻き取ることよって製造された光学フィルムであって、フィルムの最表面のビッカース硬度(HV1)と、フィルム膜厚の10%まで押し込んだときのビッカース硬度(HV2)との比:HV2/HV1が、1.0〜1.5であることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項2】
延伸率が、20〜60%であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが、2.5〜7.0μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学フィルム。
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、セルロースエステルであることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−208358(P2009−208358A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53726(P2008−53726)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】