説明

光学基板、発光素子、表示装置およびそれらの製造方法

【課題】光取り出し効率に優れる発光素子用の光学基板及びそれを用いた発光素子、その発光素子を用いた表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の光学基板は、透明基板1の一方の面に低屈折率層2と、低屈折率層2の上部にゾルゲル膜3を具備している。この光学基板は、ゾルゲル膜3の上部に発光領域を搭載し、発光素子の基板として使用される。また、この光学基板を用いることにより、発光効率の高い、すなわち高輝度で低消費電力の発光素子並びに表示装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子用の光学基板及びそれを用いた発光素子、発光素子を用いたディスプレイ等の表示装置、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化技術の発展に伴い、様々なディスプレイデバイスが開発されている。その中で、自発光型である有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、高表示品質や薄型化などの点で注目されている。
【0003】
有機EL素子は、電界を印加することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。積層型の低電圧駆動有機EL素子の報告がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。一例として、トリス(8−キノリノール)アルミニウムを発光層に、トリフェニルジアミン誘導体を正孔輸送層に用いた素子が挙げられる。積層構造の利点としては、発光層への正孔の注入効率を高めること、陰極より注入された電子をブロックして再結合により生成する励起子の生成効率を高めること、発光層内で生成した励起子を閉じ込めることなどが挙げられる。この例のような有機EL素子の素子構造としては、上記した2層型以外にも、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の3層型等が良く知られている。こうした積層型構造素子では、注入された正孔と電子の再結合効率を高めるため、素子構造や形成方法の工夫がなされている。また、発光層に用いる材料を変えることによって、発光波長を変えることができる。
【0004】
しかしながら、有機EL素子においては、キャリア再結合の際にスピン統計の依存性より一重項生成の確率に制限があり、発光効率に上限が生じる。この上限の値はおよそ25%と知られている。発光層のドーパント材料としてイリジウム錯体を用いた場合は、イリジウムの三重項励起子からの発光が高い確率で生じるため、一重項励起子の利用と併せて75〜100%の励起子生成確率が可能となる。
【0005】
ところで、有機EL素子などに見られる特徴的な光学現象として、全反射効果による光の閉じ込め作用がある。発光層もしくは透明電極の屈折率が基板や空気よりも高いため、臨界角以上の出射角の光は、透明電極/基板界面もしくは基板/空気界面等で全反射を起こし、基板から外部に取り出すことができない。発光層を含む有機層の屈折率を1.6、透明電極の屈折率を2.0、基板の屈折率を1.5とすると、外部に放出される発光量、即ち、光取り出し効率は20%程度でしかない。このため、エネルギーの変換効率の限界としては、上記した一重項生成確率を併せ全体で5%程度、三重項励起子を利用した場合でも全体で15〜20%程度と決して高い効率とならない。このことは有機EL素子に限らず、発光体から光が放出される面発光素子全般における共通の課題である。
【0006】
この光取り出し効率を向上させる手法として、特許文献1に低屈折率層を基板と透明電極層との間に配置する方法が提案されており、その積層構造を図11に示す。当該開示技術では、低屈折率体301の少なくとも一方の表面に接して透明導電性膜(透明電極層)302を有することで、低屈折率体301を通過する光は大気への取り出し率が高くなり、光を外部に取り出す取り出し率が高くなること、低屈折率体301の屈折率が1.003〜1.300であるので、低屈折率体301を通過する光は大気への取り出し効率が高くなり、光を外部に取り出す取り出し率が高くなること、さらに、低屈折率体301としてシリカエアロゲルを用いることにより、1に近い超低屈折率を実現している。
【0007】
また、同一発明人により特許文献1の発光素子を薄膜トランジスタ(TFT)基板に適用したものが特許文献2に開示されている。当該開示技術では、透明導電層の発光層と反対側の面に屈折率が1.01〜1.3の範囲にある低屈折率層を設けている。
【0008】
また、非特許文献1には、低屈折率層として10μm厚のシリカエアロゲルを配置し、シリカエアロゲル膜上に50nm厚のシリコン酸化膜(SiO2)、シリコン酸化膜上に100nm厚の透明電極(ITO)が具備された基板上に有機EL素子を設けた構造が開示されている。ここで、シリコン酸化膜はスパッタリング法で形成されている。当該開示構造の外部量子効率が、シリカエアロゲル膜が無い場合の素子構造と比較して1.8倍向上することが記載されている。
【特許文献1】特開2001−202827号公報
【特許文献2】特開2002−278477号公報
【非特許文献1】筒井 哲夫他,アドバンスドマテリアル,2001年8月3日,13,No.15,p.1149−1152(T.Tsutsui, Adv. Mater. 2001, 13, No.15, August 3, pp. 1149-1152)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記背景技術では、以下の点でなお改善の余地を有していた。
【0010】
特許文献1並びに2に記載されている、低屈折率層が基板と透明電極層との間に配置され構造では、臨界角内に光を集めて光取り出し効率を向上させるという点では有効であるが、透明電極と低屈折率層の界面で光の反射が発生するために、光取出し効率の改善は、未だ不十分であるといえる。また、超低屈折率層を得るためにポーラスなシリカエアロゲル膜を使用した場合、膜の機械的強度が非常に低い。また、透明電極をウエットプロセスでパターニングする場合には、ポーラスなシリカエアロゲル膜からのエッチャントの回り込みにより所定のパターンを形成することが困難となる。更に、ポーラスな膜の表面粗さに起因して電極間リークや画素ショートを招き、不安定な発光や非発光の箇所が発生する。このように、上記技術は、有機EL素子に有効な光取り出し技術として未だ不十分である。
【0011】
非特許文献1に記載されている10μm厚のシリカエアロゲル上にスパッタリング法でシリコン酸化膜を形成する方法においても、スパッタ膜は上記したシリカエアロゲル膜の表面粗さの改善にならず、同様に電極間リークや画素ショートを招く。また、10μmものシリカエアロゲル厚膜を均一性良く形成するのは困難であり、素子特性のばらつきが生じやすい。薄膜トランジスタ(TFT)を備えた表示装置に適用する場合においては、10μmの膜厚により画素電極とTFTソース電極とを接続するために必要なコンタクトホールの形成が困難となり適用できないという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の有する課題を解決した光取り出し効率に優れる発光素子用の光学基板及びそれを用いた発光素子、発光素子を用いたディスプレイ等の表示装置を提供することにある。特に、高歩留まり、高信頼性の発光素子および表示装置、並びに高品位画質、高精細の表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発光基板は、透明基板と、該透明基板上に設けられた当該透明基板より屈折率の低い低屈折率層と、該低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の発光素子は、透明基板と、該透明基板上に設けられた当該透明基板より屈折率の低い低屈折率層と、該低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜と、該ゾルゲル膜上の第一電極と、該第一電極上の発光層と、該発光層上の第二電極とを具備することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の表示装置は、複数の発光素子と該発光素子を駆動する手段とが透明基板上に設けられた表示装置において、該発光素子が、該透明基板上に設けられた当該透明基板より屈折率の低い低屈折率層と、該低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜と、該ゾルゲル膜上の第一電極と、該第一電極上の発光層と、該発光層上の第二電極とを具備することを特徴とする。この表示装置における複数の発光素子はマトリックス状に形成することができる。
【0016】
本発明によれば、前記低屈折率層上に設けられた前記ゾルゲル膜により、光取り出し効率が顕著に向上する。前記ゾルゲル膜は前記低屈折率層の表面粗さを緩和し、前記低屈折率層と前記透明電極間での乱反射を低減し、この結果、光取出し効率を顕著に向上することができる。
【0017】
本発明において、前記低屈折率層の屈折率は1.003〜1.400の範囲に設定することができる。
【0018】
本発明において、前記低屈折率層はシリカエアロゲルを好適に用いることができる。
【0019】
本発明において、前記ゾルゲル膜はSi−O−C構造を有するものを好適に用いることができる。
【0020】
本発明において、前記ゾルゲル膜は赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収を有するものを用いることができる。
【0021】
本発明において、前記ゾルゲル膜が赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収Aと、Si−O−Siに由来する波数1070±2cm-1の吸収Bを有し、吸収Aと吸収Bとの強度比A/Bが0.5〜1.0の範囲であるものを好適に用いることができる。
【0022】
本発明において、前記低屈折率層の表面粗さをRa1、前記低屈折率層上の前記ゾルゲル膜の表面粗さをRa2としたとき、
Ra1>Ra2
とすることができる。
【0023】
本発明において、前記ゾルゲル膜の屈折率は前記低屈折率層よりも大きくするように構成することができる。
【0024】
本発明において、前記ゾルゲル膜の膜厚は0.05〜1.0μmとなるように構成することができる。
【0025】
本発明において、前記ゾルゲル膜はSi−H基を有する前駆体を用いて形性することができる。
【0026】
本発明において、前記透明基板はプラスチック基板を好適に用いることができる。
【0027】
本発明において、前記ゾルゲル膜上にバリア層を有することでき、またこのバリア層上に前記第一電極を有することができる。
【0028】
本発明において、前記透明基板は薄膜トランジスタを具備した基板でを好適に用いることができる。
【0029】
本発明の発光素子において、発光層からの発光が単色光であるように構成することができる。また、この単色光は白色光もしくは青色光にすることができる。
【0030】
本発明に係る発光素子は、様々な形態の光素子に適用できる。例えば、有機EL素子、無機EL素子のほか、発光ダイオード、プラズマディスプレイ素子などにも適用可能である。
【0031】
本発明の表示装置は、前記駆動手段として薄膜トランジスタ(TFT)等より構成される電子回路を具備したTFT表示装置とすることができる。
【0032】
本発明の表示装置は、TFT等より構成される電子回路による凸部を緩和する段差緩和膜を具備した構成にすることができる。
【0033】
本発明の表示装置は、前記低屈折率層の膜厚を4μm以下となるように構成することができる。
【0034】
本発明に係る製造方法は、透明基板上に低屈折率層を設ける工程と、該低屈折率層上にゾルゲル膜をコートする工程と、乾燥後、紫外線照射によりゾルゲル膜の密度を増加させる工程を有することを特徴とする。発光素子は、このゾルゲル膜上に設けることができる。また、低屈折率層は、駆動手段を備えた透明基板上に設けることができる。
【発明の効果】
【0035】
第1の効果は、低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜により、低屈折率層界面で起こる乱反射を低減し、光取り出し効率を大幅に向上させた光学基板を提供することができる。また、この光学基板を用いることにより、発光効率の高い、言い換えると高輝度で低消費電力の発光素子並びに表示装置を提供することができる。
【0036】
第2の効果は、低屈折率層の表面粗さをゾルゲル膜が緩和することにより、有機EL素子のような非常に膜厚の小さい発光層を用いる場合においても電極間リークや画素ショートを抑制でき、高輝度、低消費電力に加え、高歩留まりで高信頼性の発光素子並びに表示装置を提供することができる。
【0037】
第3の効果は、TFT等の発光素子の駆動手段による凸部を解消する段差緩和層を設けることで、低屈折率層を膜厚ムラやクラックのない状態で均一に形成できるため、高輝度、低消費電力、高歩留まり、高信頼性に加え、高品位画質の表示装置が提供できる。
【0038】
第4の効果は、膜厚4μm以下、特に膜厚1μm以下の低屈折率層においても発光効率の高い発光素子が得られることにより、コンタクトホールサイズを非常に小さくすることが可能となるため、高輝度、低消費電力、高歩留まり、高信頼性、高品位画質に加え、高精細で高開口率の表示装置が提供できる。
【0039】
第5の効果は、ゾルゲル膜の前駆体にSi−H基を含むことにより、ゾルゲル膜硬化方法として紫外線照射による光反応を用いることができる。これは低温プロセスを可能とし、耐熱性の低いプラスチック基板にも適用可能であるため、軽量かつ薄型でフレキシビリティを有する光学基板、並びに発光効率の高い発光素子および表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
(第1の実施の形態)
図1を参照すると、本発明の第1の実施の形態として光学基板の断面図が示されている。すなわち、本発明の光学基板10は透明基板1の一方の面に低屈折率層2と、低屈折率層2の上部にゾルゲル膜3を具備している。
【0042】
図2は、図1の光学基板の上面に接して第一電極層20を設けた基板の断面図である。
【0043】
この光学基板は、ゾルゲル膜3の上部に発光領域を搭載し、発光素子の基板として使用される。ゾルゲル膜3は低屈折率層2の表面粗さを緩和し、ゾルゲル膜が存在しない図11で見られるような低屈折率体301と透明電極302との界面で発生する乱反射を低減し、この結果、光取出し効率を顕著に向上することができる。言い換えると、低屈折率層2とゾルゲル膜3との界面と、ゾルゲル膜3と第一電極層20との界面の2つの界面が本実施形態に係る重要な要素となっている。
【0044】
以下、本実施形態に係る光学基板を構成する各部について詳細に説明する。
【0045】
透明基板1は、発光素子の光取り出し基板として使用される。少なくとも可視光領域の一部の波長を透過するものである。本実施形態における透明基板1とは、波長が400〜800nmの少なくとも一部の光を通すものであれば良く、材質は無機材でも有機材でも構わない。無機材としてはガラス等、有機材としてはプラスチック等を用いることができる。ガラスとしては、溶融石英、無アルカリガラス、ソーダガラス、重フリントガラスの光学ガラスが使用できる。プラスチックとしては、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のエンジニアリングプラスチックが利用できる。透明基板1の屈折率としては1.4〜2.1程度のものが好適である。透明基板1には、水分や酸素の透過を抑制するバリア層をコートすることもできる。透明基板1の厚さは特に限定されないが、実用上の観点から0.1〜2.0mm程度が望ましい。
【0046】
低屈折率層2は、透明基板1よりも屈折率が低い透明材料を用いる。透明基板と同様に波長が400〜800nmの少なくとも一部の光を通すものであれば良い。屈折率は、1.003〜1.400の範囲が望ましい。屈折率を小さくするには限界があり、1.003が実用上の限界とされている。低屈折率層として用いる材料はシリカエアロゲルが最も好ましい。
【0047】
シリカエアロゲルは、アルコキシシランを加水分解、重合反応して得られるシリカ骨格からなる湿潤状態のゲル状化合物を、アルコール等の溶媒の存在下で、この溶媒の臨界点以上の超臨界状態で乾燥することにより製造することができる。
【0048】
ゾルゲル膜3は、透明基板1並びに低屈折率層2と同様に波長が400〜800nmの少なくとも一部の光を通すものであれば良い。シリコン、チタン等の金属アルコキシド、水、酸、アルコール等からなるゾル溶液が使用できるが、透過度や製造上の取り扱い易さなどから、シリコン系アルコキシドが好ましい。
【0049】
図3に本実施形態に係る光学基板の製造方法の一例を示す。図3(A)は透明基板1上に低屈折率層2を設けた状態を示している。この状態から図3(B)に示すように低屈折率層2上にゾルゲル膜をコートし、乾燥して溶媒を除去し、ゾルゲル膜の前駆体3’を得る。そこで、紫外線8をゾルゲル膜の前駆体3’に照射し、ゾルゲル膜中の縮合などの反応を促進させる。これにより、図3(C)に示すようにゾルゲル膜の前駆体3’と比べて膜厚が減少した、言い換えると密度が増加したゾルゲル膜3を得ることができる。ここで、紫外線照射時に加温することも可能である。加温雰囲気とすることで、更に密度が増加する場合もある。本実施形態に係る発光素子及び表示装置においても同様の手法で製造することができる。紫外線の波長としては、ゾルゲル膜前駆体3’が吸収するものであれば、何れのものが利用できる。紫外線の光源としては、キセノンランプ、キセノン水銀ランプ、水銀ランプ、エキシマランプ、エキシマレーザ、YAGレーザ等がある。本発明の光学基板には、エキシマランプが有効であり、中でも、波長172nmのXe2ランプ、波長146nmのKr2ランプ、波長126nmのAr2ランプが好ましい。
【0050】
図4にゾルゲル膜3としてシリコン系アルコキシドを使用した場合の光反応前後の赤外吸収スペクトルを示す。図4(A)において、Aは826±2cm-1のSi−Hの吸収ピークを、Bは1070±2cm-1のSi−O−Siの吸収ピークを、Cは1107±2cm-1のSi−O−Cの吸収ピークを、Dは2360±2cm-1のSi−Hの吸収ピークである。図4(B)は図4(A)の波数1000〜1200cm-1の領域を拡大したものである。ゾルゲル膜4は一般的に光反応や加熱反応によって硬化するが、先ほど製造方法で説明した紫外線による光反応前後での吸収ピークを比較すると、Si−Hによる波数826cm-1のピークが光反応後に大きく減少することが分かる。これは、ゾルゲル膜の前駆体には光反応性の高いSi−H基が含まれており、紫外線照射による光反応によってSi−H基がほとんど消失することに起因する。但し、紫外線照射後もゾルゲル膜中にSi−H基が残存しても構わない。
【0051】
この紫外線照射による光反応を用いることで、低温硬化プロセスが可能となる。これは、透明基板としてプラスチック基板のような温度耐性の低い材料が用いることができ、基板材料の選択肢が増える。このため、軽量で薄型化可能でフレキシビリティを有する光学基板、並びにこの光学基板を用いた光取り出し効率の高い発光素子を容易に得ることができる。更に、低温プロセスにより図8に示すような薄膜トランジスタ(TFT)が形成されている基板に対しても、TFT特性や信頼性の劣化が小さくなるというメリットが生じる。このため、軽量で薄型化可能でフレキシビリティを有し、高輝度で品質・信頼性の高い表示装置の提供が容易となる。
【0052】
また図4を参照すると、ゾルゲル膜3の反応後にSi−O−Cの吸収ピークが残存している。低屈折率層にシリカエアロゲル膜を用いた場合、シリカエアロゲル膜にもSi−O−Cの吸収ピークが存在するために、ゾルゲル膜3にシリコン系アルコキシドを用いることで、化学的親和性が高いというメリットが生じる。Si−O−Cの吸収ピークはSi−O−Siの吸収ピークに対して強度比(吸光度比:Si−O−C/Si−O−Si)0.5〜1.0が好適である。この強度比が1.0より大きい場合はゾルゲル膜の縮合反応が不十分であることを意味している。
【0053】
なお、本実施形態に係る光学基板は、透明基板1上に低屈折率層2、ゾルゲル膜3を順次積層して製造される。本実施形態に係る発光素子はその光学基板上に少なくとも第一電極20および発光層を積層して製造される。このため、透明基板1の表面に凹凸が存在すると、第一電極20や発光層にもその凹凸が影響を及ぼし、電極間の電流リークやショートの原因となる。従って、透明基板1は平滑なものを利用することが好ましい。しかし、低屈折率層2はシリカエアロゲルに代表されるようなポーラスな膜質を特徴とするものが多く、表面粗さは小さくない。そこで、低屈折率層2の表面粗さをRa1、低屈折率層2上のゾルゲル膜3の表面粗さをRa2とすると、
Ra1>Ra2
の関係を満たす必要がある。ここで、表面粗さは中心線平均粗さで定義している。これにより、第一電極20の下地を平滑化させ、電極間の電流リークやショートの発生を抑制すると共に、上記した2つの界面、一つは低屈折率層2とゾルゲル膜3との界面、もう一つはゾルゲル膜3と第一電極層20との界面の乱反射を低減させ、光取り出し効率を向上させることができる。
【0054】
また、ゾルゲル膜3によって低屈折率層2の凹凸の緩和並びにゾルゲル膜3表面の表面粗さを小さくするためには、ポーラスな膜質よりも緻密な膜質が要求させる。一般的に緻密さが向上すると屈折率は大きくなる。従って、ゾルゲル膜3の屈折率は低屈折率層よりも大きい方が好ましい。
【0055】
また、ゾルゲル膜3の厚さは0.05〜1.0μmが好適であるが、好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.05〜0.3μmである。0.05μm未満の場合は、低屈折率層2の凹凸の緩和、言い換えると上記Ra2を小さくすることが困難となる。1.0μmより膜厚が大きくなると、膜形成時に起因した膜厚ムラやクラックが発生し易くなり、光学特性の不安定要因となる。
【0056】
本実施形態において、ゾルゲル膜3にITO(酸化インジウムスズ合金)やATO(アンチモンドープ酸化スズ)などの透明導電性材料を用いることにより、第一電極層20の抵抗を下げる補助電極として利用することもできる。
【0057】
(第2の実施の形態)
本実施形態では、第1の実施の形態で述べた光学基板を、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に用いた例を示す。
【0058】
図5は、本実施形態に係る有機EL素子の一例の断面図である。光学基板10上に第一電極20、有機発光層50、第二電極30を順次具備している。ここで、有機発光層50というのは1層または複数層で構成されており、複数層の場合は、正孔輸送層/発光層もしくは発光層/電子輸送層からなる2層構造や、正孔輸送層/発光層/電子輸送層からなる3層構造、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層からなる4層構造、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層からなる5層構造など様々な構造が挙げられる。また、陰極は発光層側に低仕事関数金属やフッ化物等のバッファ層を具備することも可能である。なお、本実施形態に係る有機EL素子は、低分子タイプ、高分子タイプの両方が利用できる。なお、本実施形態に係る有機EL素子では、光学基板は、発光層からの出射光が光学基板を通過するように配置される。
【0059】
正孔輸送材料としては種々のものを用いることができる。具体的には、N,N’−ジフェニル−N,N’―ビス(3−メチルフェニル)−1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン(TPDと略記)、N,N’―ジフェニル−N,N’―ビス(α―ナフチル)―1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン(α―NPDと略記)等のジアミン誘導体、4,4’,4”―トリス(3―メチルフェニルフェニルアミノ)―トリフェニルアミン等や、スターバースト型分子等が挙げられる。
【0060】
電子輸送材料としては種々のものを用いることができる。具体的には、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)や2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ビス{2−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール}−m−フェニレン等のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、キノリノール系の金属錯体が挙げられる。
【0061】
発光材料としては、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)やビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)、1,4ビス(p−トリル−p−メチルスチリルフェニル)ナフタレンなどがある。また、電荷輸送材料に蛍光材料をドープした層を発光材料として用いることもできる。例えば、前記のAlq3などのキノリノール金属錯体に4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、2,3−キナクリドン[7]などのキナクリドン誘導体、3−(2’−ベンゾチアゾール)−7−ジエチルアミノクマリンなどのクマリン誘導体、ペリレン、ジベンゾナフタセン、ベンゾピレン等をドープした層、あるいは電子輸送材料ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリン)−4−フェニルフェノール−アルミニウム錯体にペリレン等の縮合多環芳香族をドープした層、あるいは正孔輸送材料4,4’−ビス(m−トリルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)にルブレン等をドープした層を用いることができる。
【0062】
図5に示す素子において、第一電極20は、正孔を正孔輸送層または発光層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが好ましい。本実施形態に用いられる第一電極80の材料としては、ITO(酸化インジウムスズ合金)、IZO(酸化インジウム亜鉛合金)などの透明性導電材料を用いることができる。第二電極30は、電子輸送層又は発光層に電子を注入する役割を担うものであり、仕事関数の小さい材料が好ましい。陰極120材料は特に限定されないが、具体的にはインジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等を使用できる。
【0063】
なお、本実施形態に係る有機EL素子は、パッシブ駆動で利用することもできるし、薄膜トランジスタ(TFT)等のアクティブ素子を付加し、アクティブ駆動で利用することもできる。
【0064】
本実施形態における有機EL素子の各層の形成方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択できる。例えば、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE法)あるいは溶媒に溶かした溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の塗布法、等があげられる。
【0065】
本実施形態において、光学基板10は可視領域において出射光の波長に依存せず光取出し効率を向上させることができる。従って、有機発光層50としては赤色、緑色、青色それぞれ独立に発光する材料を用いて高効率エリアカラー素子や高効率フルカラー素子を得ることができる他に、図6に示す白色発光層70を利用した高効率カラーフィルタ型有機EL素子や図7に示すような青色発光層80を利用した高効率色変換型有機EL素子を構成することも可能である。ここで、白色発光層や青色発光層は上述したような複数層で構成されても良い。
【0066】
図6のカラーフィルタ型有機EL素子は、透明基板1と低屈折率層2とゾルゲル膜3を具備した光学基板10の低屈折率層2と反対側の面に赤色カラーフィルタ220、緑色カラーフィルタ221、青色カラーフィルタ222を具備し、ゾルゲル膜3上に第一電極20、白色発光層70、第二電極30を順次積層した構成を有している。白色発光層70からの白色出射光210は、赤色カラーフィルタ220、緑色カラーフィルタ221、青色カラーフィルタ222によってそれぞれ、赤色出射光200、緑色出射光201、青色出射光202に分離される。これにより高輝度のフルカラー素子を得ることができる。
【0067】
また、図7の色変換型有機EL素子は、透明基板1と低屈折率層2とゾルゲル膜3を具備した光学基板10の低屈折率層2と反対側の面に赤色変換フィルタ230、緑色変換フィルタ231を具備し、ゾルゲル膜3上に第一電極20、青色発光層80、第二電極30を順次積層した構成を有している。青色発光層80からの青色出射光202は、赤色変換フィルタ230、緑色カラーフィルタ231によってそれぞれ、赤色出射光200、緑色出射光201に変換される。この際に、青色出射光202は、そのまま出射させても構わないし、カラーフィルタを設けて更に色純度を向上させた後に出射させても構わない。
【0068】
以上説明したとおり、本実施形態に係る発光素子によれば、高い発光効率を有するフルカラー有機EL素子を得ることができる。
【0069】
図5〜図7では発光素子に関する素子構造を示したが、実際の表示装置においては透明基板1に発光素子と薄膜トランジスタ(TFT)等の駆動手段を設けたものが用いられる。
【0070】
図8は、本実施形態に係る有機EL表示装置の一例の断面図である。TFT形成基板110の一方の面に、低屈折率層2とゾルゲル膜3が設けられ、ゾルゲル膜3上に、各画素に対応した第一電極20、有機発光層50、第二電極30が順に積層されている。また、発光層50は非常に薄い膜であることから、第一電極20のエッジの凹凸により第二電極30と電極間ショートを防ぐためにエッジ保護層109を具備している。TFT形成基板110において、100は画素駆動TFT回路部、101はポリシリコン、105はゲート酸化膜、102はドレイン電極、103はソース電極、106は第1層間膜、107は第2層間膜、108は段差緩和膜を示す。画素駆動TFT回路部100は発光層50の発光制御を行う素子であり、互いに直行する方向に伸びたゲート線とデータ線(図示せず)の各交点の1つ1つに対応して配置されている。画素駆動TFT回路部は駆動方式により複数備えることも可能である。
【0071】
本実施形態に係る表示装置において、段差緩和膜108は画素駆動TFT回路部100領域外、言い換えると発光層50に対応した領域Lに設けられている。段差緩和膜を設けない場合、画素駆動TFT回路部100によって領域Lの部分が凹となるために、低屈折率層2又はゾルゲル膜3をウエットコーティングする場合に液だまりとなり、膜厚ムラやクラックが発生し、画質不良を招く。このため、段差緩和膜108を設けることにより上記問題を解決している。
【0072】
また、本実施形態に係る光学基板や発光素子においては、低屈折率層2の膜厚は任意で構わないが、本実施形態に係る表示装置においては、低屈折率層2の膜厚が4μm以上の場合、ソース電極103と第一電極20を接続するためのコンタクトホール形成が困難となる。特に、130ppi以上の高精細の表示装置においては、画素間距離が小さくなるために、高開口率を達成させるためには4μm以下のコンタクトホールサイズが求められる。このため、低屈折率層2の膜厚は4μm以下が望ましく、1μm以下であれば更に好ましい。低屈折率層の効果を十分に発揮させる点から、その膜厚は0.1μm以上であることが好ましい。
【0073】
以上説明したとおり、本実施形態に係る表示装置によれば、高輝度で低消費電力のフルカラー表示装置を得ることができる。
【0074】
(第3の実施の形態)
本実施形態では、第2の実施の形態で述べた発光素子において、ゾルゲル膜と第一電極との間にバリア層を設けた例を示す。
【0075】
図9は、本実施形態に係る有機EL素子の一例の断面図である。光学基板10上にバリア層4を設け、バリア層4上に第一電極20、有機発光層50、第二電極30を順次具備している。
【0076】
一般的にゾルゲル膜は平坦化機能に優れている反面、膜の化学的構造に起因して吸水性が高いという特徴を持っている。有機EL素子を構成する有機材料は、水分に対して劣化しやすい材料も多く存在する。このため、有機材料の形成時に光学基板を高温加熱などの脱水処理が必要となる。
【0077】
バリア層4はゾルゲル膜3からの放出される水分を閉じ込める機能を有している。バリア層4を設けることで、このような脱水処理を不要、もしくは脱水処理工程時間を短縮させることができる。これにより低コストの高輝度のフルカラー有機EL素子を得ることができる。
【0078】
(第4の実施の形態)
本実施形態では、第1の実施の形態で述べた光学基板を、無機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に用いた例を示す。
【0079】
図10は、本実施形態に係る無機EL素子の一例の断面図である。光学基板10上に第一電極20、絶縁層40、無機発光層60、絶縁層40、第二電極30を順次具備している。本実施形態に係る無機EL素子では、光学基板は、発光層からの出射光が光学基板を通過するように配置される。なお、本実施形態に係る無機EL素子は、公知の材料を使用することができる。
【0080】
本実施形態において、光学基板10は可視領域において出射光の波長に依存せず光取出し効率を向上させることができる。従って、無機発光層60としては赤色、緑色、青色それぞれ独立に発光する材料を用いて高効率エリアカラー素子や高効率フルカラー素子を得ることができる他に、第二の実施の形態で述べたように、白色発光層を利用した高効率カラーフィルタ型無機EL素子や青色発光層を利用した高効率色変換型無機EL素子を構成することも可能である。これにより高輝度のフルカラー無機EL素子を得ることができる。
【実施例】
【0081】
実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能なものである。
【0082】
以下の実施例において、有機EL素子の発光特性の測定は輝度計(TOPCON製 SR−3)を基板法線方向に配置し、集光角0.1度の条件で行った。また、有機EL素子の発光部の面積は0.4cm2とし、この素子に定電流を印加して、電流密度1mA/cm2時の電流輝度効率と第一電極と第二電極間にかかる素子電圧について測定した。なお、1つの素子に発光部は4箇所存在し、測定値は4箇所の平均値とした。但し、電極間リークや画素ショートが発生した発光部のデータは除いた。
【0083】
以下の実施例並びに比較例では、所定の光学基板に対して発光層に緑色、赤色、青色をそれぞれ用いた例を示しているが、緑色の場合は比較例1を、赤色の場合は比較例2を、青色の場合は比較例3をそれぞれ基準とし、電流輝度効率(発光効率)については基準を100とした場合の相対値を、素子電圧については基準との相対電圧差を示すこととする。また、これらの結果を表1に示す。
【0084】
実施例1
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を成膜した。この時の低屈折率層の表面粗さRa1は8nmであった。次に、低屈折率層上にゾルゲル膜として、スピンコート法により屈折率1.50、厚さ0.1μmのシリコン系アルコキシド(東京応化工業製T12−800)を成膜し、光学基板を作製した。ここで、ゾルゲル膜成膜時には積算光量600mJ/cm2の紫外線照射を実施している。この時のゾルゲル膜の表面粗さRa2は5nmとRa1よりも小さくなっていた。
【0085】
続いて、光学基板上に第一電極としてITOをスパッタリング法によってシート抵抗15Ω/□以下となるように成膜し、所定のパターンを得るために塩酸、硝酸、水からなるエッチャントを用いウエットエッチングを行った。ITOの膜厚は100nmであり、屈折率は1.78とした。次に、ITO上に正孔注入・輸送層として、α−NPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(α−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)を50nmの膜厚で真空蒸着法により成膜した。次に、発光層としてAlq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体)にドーパントとしてキナクリドン(ドーピング濃度4wt%)を25nm共蒸着した。続いて、電子輸送層としてAlq3を35nmの膜厚で真空蒸着法により成膜した。最後に、陰極層としてAlとLiを共蒸着により30nm、その後Alのみを40nm蒸着し、緑色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は184であり、素子電圧差は0.4Vであった。
【0086】
実施例2
発光層としてAlq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体)にドーパントとしてジシアノメチレンピラン(DCM、ドーピング濃度5wt%)を25nm共蒸着した以外は実施例1と同一の条件で、赤色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は166であり、素子電圧差は0.3Vであった。
【0087】
実施例3
発光層として4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニルを35nm共蒸着した以外は実施例1と同一の条件で、青色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は182であり、素子電圧差は0.3Vであった。
【0088】
実施例4
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を成膜した。この時の低屈折率層の表面粗さRa1は8nmであった。次に、ゾルゲル膜として、スピンコート法により屈折率1.50、厚さ0.1μmのシリコン系アルコキシド(東京応化工業製T12−800)を成膜し、光学基板を作製した。ここで、ゾルゲル膜成膜時には積算光量600mJ/cm2の紫外線照射を実施している。この時のゾルゲル膜の表面粗さRa2は5nmとRa1よりも小さくなっていた。
【0089】
続いて、光学基板上にバリア層としてCVD法により屈折率1.5、厚さ0.05μmのシリコン酸化膜を成膜し、バリア層上に第一電極としてITOをスパッタリング法によってシート抵抗15Ω/□以下となるように成膜し、所定のパターンを得るために塩酸、硝酸、水からなるエッチャントを用いウエットエッチングを行った。ITOの膜厚は100nmであり、屈折率は1.78とした。次に、ITO上に正孔注入・輸送層として、α−NPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(α−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)を50nmの膜厚で真空蒸着法により成膜した。次に、発光層としてAlq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体)にドーパントとしてキナクリドン(ドーピング濃度4wt%)を25nm共蒸着した。続いて、電子輸送層としてAlq3を35nmの膜厚で真空蒸着法により成膜した。最後に、陰極層としてAlとLiを共蒸着により30nm、その後Alのみを40nm蒸着し、緑色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は170であり、素子電圧差は0.1Vであった。
【0090】
実施例5
発光層としてAlq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体)にドーパントとしてジシアノメチレンピラン(DCM、ドーピング濃度5wt%)を25nm共蒸着した以外は実施例4と同一の条件で、赤色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は160であり、素子電圧差は0Vであった。
【0091】
実施例6
発光層として4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニルを35nm共蒸着した以外は実施例4と同一の条件で、青色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は171であり、素子電圧差は0Vであった。
【0092】
比較例1
低屈折率層並びにゾルゲル膜を形成しない透明基板を用いて、実施例1と同一の条件で緑色発光素子を作成した。本比較例の電流輝度効率並びに素子電圧値を各実施例の緑色発光素子の基準値とした。
【0093】
比較例2
低屈折率層並びにゾルゲル膜を形成しない透明基板を用いて、実施例2と同一の条件で赤色発光素子を作成した。本比較例の電流輝度効率並びに素子電圧値を各実施例の赤色発光素子の基準値とした。
【0094】
比較例3
低屈折率層並びにゾルゲル膜を形成しない透明基板を用いて、実施例3と同一の条件で青色発光素子を作成した。本比較例の電流輝度効率並びに素子電圧値を各実施例の青色発光素子の基準値とした。
【0095】
比較例4
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を成膜した。この時の低屈折率層の表面粗さRa1は8nmであった。次に、低屈折率層上にスパッタリング法により屈折率1.50、厚さ0.1μmのシリコン酸化膜を成膜し、光学基板を作製した。この時のシリコン酸化膜の表面粗さRa2は8nmとRa1と比べて変化がなかった。この光学基板上に実施例1と同一の条件で緑色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は120であり、素子電圧差は0.1Vであった。また、4箇所ある発光部のうち、1箇所は電極間リーク電流が大きく、所定の発光が得られなかった。
【0096】
比較例5
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を成膜した。この時の低屈折率層の表面粗さRa1は8nmであった。次に、低屈折率層上にスパッタリング法により屈折率1.50、厚さ0.1μmのシリコン酸化膜を成膜し、光学基板を作製した。この時のシリコン酸化膜の表面粗さRa2は8nmとRa1と比べて変化がなかった。この光学基板上に実施例2と同一の条件で赤色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は116であり、素子電圧差は0Vであった。また、4箇所ある発光部のうち、2箇所は電極間リーク電流が大きく、所定の発光が得られなかった。
【0097】
比較例6
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を成膜した。この時の低屈折率層の表面粗さRa1は8nmであった。次に、低屈折率層上にスパッタリング法により屈折率1.50、厚さ0.1μmのシリコン酸化膜を成膜し、光学基板を作製した。この時のシリコン酸化膜の表面粗さRa2は8nmとRa1と比べて変化がなかった。この光学基板上に実施例3と同一の条件で青色発光の有機EL素子を形成した。その結果、電流輝度効率は118であり、素子電圧差は0.1Vであった。また、4箇所ある発光部のうち、1箇所は電極間リーク電流が大きく、所定の発光が得られなかった。
【0098】
比較例7
透明基板として厚さ0.7mm、屈折率1.52の無アルカリガラス(日本電気硝子製OA−10)を使用し、この透明基板の一方の面に、低屈折率層として、スピンコート法により屈折率1.25、厚さ0.85μmのシリカエアロゲル膜を設け、光学基板を作製した。この光学基板上に第一電極としてITOをスパッタリング法によってシート抵抗15Ω/□以下となるように成膜し、所定のパターンを得るために塩酸、硝酸、水からなるエッチャントを用いウエットエッチングを行った。しかし、低屈折率層であるシリカエアロゲル膜のポーラスな膜質に起因して、非エッチング領域にまでエッチャントが回り込み所定のITOパターンを得ることができなかった。
【0099】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の活用例として、有機EL素子、無機EL素子、発光ダイオード素子、プラズマディスプレイ素子などに使用される発光素子並びに表示装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の光学基板の一例の断面図である。
【図2】本発明の光学基板の一例の断面図である。
【図3】本発明の光学基板の製法を示す工程図である。
【図4】ゾルゲル膜の光反応前後での赤外吸収スペクトル図である。
【図5】本発明の光学素子の一例の断面図である。
【図6】本発明の光学素子の一例の断面図である。
【図7】本発明の光学素子の一例の断面図である。
【図8】本発明の表示装置の一例の断面図である。
【図9】本発明の光学素子の一例の断面図である。
【図10】本発明の光学素子の一例の断面図である。
【図11】従来の光学基板を示す断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1 透明基板
2 低屈折率層
3 ゾルゲル膜
3’ ゾルゲル膜前駆体
4 バリア層
8 紫外線
10 光学基板
20 第一電極
30 第二電極
40 絶縁膜
50 有機発光層
60 無機発光層
70 有機白色発光層
80 有機青色発光層
100 画素駆動TFT回路部
101 ポリシリコン
102 ドレイン電極
103 ソース電極
104 ゲート電極
105 ゲート酸化膜
106 第一層間膜
107 第二層間膜
108 段差緩和膜
109 エッジ保護膜
110 TFT形成基板
200 赤色出射光
201 緑色出射光
202 青色出射光
210 白色出射光
220 赤色カラーフィルタ
221 緑色カラーフィルタ
222 青色カラーフィルタ
230 赤色変換フィルタ
231 緑色変換フィルタ
301 低屈折率体
302 透明導電性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、該透明基板上に設けられた当該透明基板より屈折率の低い低屈折率層と、該低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜を有することを特徴とする光学基板。
【請求項2】
前記低屈折率層の屈折率が1.003〜1.400であることを特徴とする請求項1に記載の光学基板。
【請求項3】
前記低屈折率層がシリカエアロゲルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学基板。
【請求項4】
前記ゾルゲル膜がSi−O−C構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光学基板。
【請求項5】
前記ゾルゲル膜が赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光学基板。
【請求項6】
前記ゾルゲル膜が赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収Aと、Si−O−Siに由来する波数1070±2cm-1の吸収Bを有し、吸収Aと吸収Bとの強度比A/Bが0.5〜1.0の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光学基板。
【請求項7】
前記低屈折率層の表面粗さをRa1、前記低屈折率層上の前記ゾルゲル膜の表面粗さをRa2としたとき、
Ra1>Ra2
であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光学基板。
【請求項8】
前記ゾルゲル膜の屈折率が前記低屈折率層よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の光学基板。
【請求項9】
前記ゾルゲル膜の厚みが0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の光学基板。
【請求項10】
前記ゾルゲル膜は、Si−H基を有する前駆体を用いて形性されたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の光学基板。
【請求項11】
前記透明基板がプラスチック基板であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の光学基板。
【請求項12】
前記ゾルゲル膜上にバリア層を有する請求項1乃至11のいずれかに記載の光学基板。
【請求項13】
前記透明基板が薄膜トランジスタを具備した基板であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の光学基板。
【請求項14】
透明基板と、該透明基板上に設けられた当該透明基板より屈折率の低い低屈折率層と、該低屈折率層上に設けられたゾルゲル膜と、該ゾルゲル膜上の第一電極と、該第一電極上の発光層と、該発光層上の第二電極とを有することを特徴とする発光素子。
【請求項15】
前記低屈折率層の屈折率が1.003〜1.400であることを特徴とする請求項14に記載の発光素子。
【請求項16】
前記低屈折率層がシリカエアロゲルであることを特徴とする請求項14又は15に記載の発光素子。
【請求項17】
前記ゾルゲル膜がSi−O−C構造を有することを特徴とする請求項14乃至16のいずれかに記載の発光素子。
【請求項18】
前記ゾルゲル膜が赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収を有することを特徴とする請求項14乃至17のいずれかに記載の発光素子。
【請求項19】
前記ゾルゲル膜が赤外吸収スペクトルにおいてSi−O−Cに由来する波数1107±2cm-1の吸収Aと、Si−O−Siに由来する波数1070±2cm-1の吸収Bを有し、吸収Aと吸収Bとの強度比A/Bが0.5〜1.0の範囲であることを特徴とする請求項14乃至18のいずれかに記載の発光素子。
【請求項20】
前記低屈折率層の表面粗さをRa1、前記低屈折率層上の前記ゾルゲル膜の表面粗さをRa2としたとき、
Ra1>Ra2
であることを特徴とする請求項14乃至19のいずれかに記載の発光素子。
【請求項21】
前記ゾルゲル膜の屈折率が前記低屈折率層よりも大きいことを特徴とする請求項14乃至20のいずれかに記載の発光素子。
【請求項22】
前記ゾルゲル膜の厚みが0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項14乃至21のいずれかに記載の発光素子。
【請求項23】
前記ゾルゲル膜は、Si−H基を有する前駆体を用いて形性されたことを特徴とする請求項14乃至22のいずれかに記載の発光素子。
【請求項24】
前記透明基板がプラスチック基板であることを特徴とする請求項14乃至23のいずれかに記載の光学素子。
【請求項25】
前記ゾルゲル膜上にバリア層を有し、該バリア層上に前記第一電極を有する請求項14乃至24のいずれかに記載の光学素子。
【請求項26】
前記透明基板が薄膜トランジスタを具備した基板であることを特徴とする請求項14乃至25のいずれかに記載の発光素子。
【請求項27】
前記透明基板に色変換フィルタが設けられたことを特徴とする請求項14乃至26のいずれかに記載の発光素子。
【請求項28】
前記透明基板にカラーフィルタが設けられたことを特徴とする請求項14乃至26のいずれかに記載の発光素子。
【請求項29】
前記発光層からの発光が単色光であることを特徴とする請求項14乃至28のいずれかに記載の発光素子。
【請求項30】
前記単色光が白色光であることを特徴とする請求項29に記載の発光素子。
【請求項31】
前記単色光が青色光であることを特徴とする請求項29に記載の発光素子。
【請求項32】
前記発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子である、請求項14乃至31のいずれかに記載に発光素子。
【請求項33】
請求項14乃至32のいずれかに記載の発光素子と該発光素子を駆動する手段とが透明基板上に設けられたことを特徴とする表示装置。
【請求項34】
前記駆動手段は薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項33に記載の表示装置。
【請求項35】
前記薄膜トランジスタによる凸部を緩和する段差緩和膜を具備することを特徴とする請求項34に記載の表示装置。
【請求項36】
前記低屈折率層の膜厚が4μm以下であることを特徴とする請求項33、34又は35に記載の表示装置。
【請求項37】
透明基板上に低屈折率層を設ける工程と、該低屈折率層上にゾルゲル膜をコートする工程と、乾燥後、紫外線照射によりゾルゲル膜の密度を増加させる工程を有することを特徴とする光学基板の製造方法。
【請求項38】
透明基板上に低屈折率層を設ける工程と、該低屈折率層上にゾルゲル膜をコートする工程と、乾燥後、紫外線照射によりゾルゲル膜の密度を増加させる工程と、該ゾルゲル膜上に請求項14乃至32に記載の発光素子を形成する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項39】
駆動手段を備えた透明基板上に低屈折率層を設ける工程と、該低屈折率層上にゾルゲル膜をコートする工程と、乾乾燥後、紫外線照射によりゾルゲル膜の密度を増加させる工程と、該ゾルゲル膜上に請求項14乃至32に記載の発光素子を形成する工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−30548(P2006−30548A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208718(P2004−208718)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】