説明

光学微小機械装置

【課題】本発明は、単位エネルギー当たりの光輻射力の発生効率及び検出効率を高く保ちつつ、外部からの光の入力を容易にする光学微小機械装置を提供することを目的とする。
【解決手段】所定間隔12を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブ、11を有し、
前記所定間隔は、前記2枚のフォトニック結晶スラブの定在波モードの波長の光が前記フォトニック結晶スラブの面上に照射されたときに、該定在波モードが結合して結合モードとなる距離であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学微小機械装置に関し、特に、フォトニック結晶スラブを含む光学微小機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体微細加工技術によって実現されるマイクロマシン又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が知られている。かかるマイクロマシン又はMEMSの分野は急速に伸展しており、様々な微小機械が実現されている。微小機械においては、機械を駆動するための力を発生させるアクチュエータの機能と、機械変位を検出するセンサとしての機能が特に重要であり、従来、主に電気的な力の発生及び検出を中心に実施されてきた(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、櫛形駆動アクチュエータの自励発振を用いた変位センサのマイクロマシンが開示されている。
【0003】
ところで、近年、かかるマイクロマシンの分野において、電気的な力の発生及び検出に関するアクチュエータばかりでなく、光の輻射圧を用いて微小機械を駆動する方法及び変位を検出する方法が提案され、研究が行われている。これらの研究では、マイクロリング共振器やフォトニック結晶欠陥共振器などの、特殊な構造の共振器を利用する方法や、導波路を利用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Katsuyori Suzuki, Kenjiro Ayano and Gen Hashiguchi: "The Displacement Measurement Device using a Comb-Drive Actuator", IEEJ Trans. SM, Vol. 127, No. 3, pp.148-152 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特殊な共振器を利用した方法では、共振器への効率的な光の入出力が困難であるという問題があった。つまり、外部からある程度大きなパワーの光を効率よく微小な共振器内に導入するには、特殊な構造の共振器と導波路との間の結合効率を精密に制御する必要があるが、通常、この制御は容易ではないため、かなりの割合の光が損失し、光輻射圧の発生及び変位の検出に寄与しないという問題があった。特に、空間系からの照射による光の入力が著しく困難であった。一方、導波路を利用する方法においては、単位光エネルギー当たりに発生する光輻射力が小さい点が問題となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、単位エネルギー当たりの光輻射力の発生効率及び検出効率を高く保ちつつ、外部からの光の入力を容易にする光学微小機械装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る光学微小機械装置は、所定間隔を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブを有し、
前記所定間隔は、前記2枚のフォトニック結晶スラブの定在波モードの波長の光が前記フォトニック結晶スラブの面上に照射されたときに、該定在波モードが結合して結合モードとなる距離であることを特徴とする。
【0008】
これにより、2枚のフォトニック結晶スラブの定在波モードの結合モードを利用することにより、フォトニック結晶スラブの面上に光を照射する入力によっても、十分な機械的パワーを得ることができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る光学微小機械装置において、
前記結合モードのときに、光輻射力を発生させることを特徴とする。
【0010】
これにより、光学微小機械装置をアクチュエータとして利用することができ、例えば、共振器として利用することができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明に係る光学微小機械装置において、
前記結合モードは、前記2枚のフォトニック結晶スラブ間で対称な電界分布を有する対称モードと、前記2枚のフォトニック結晶スラブ間で反対称な電界分布を有する反対称モードとを有し、
前記輻射力は、前記対称モードでは斥力を発生し、前記反対称モードでは引力を発生することを特徴とする。
【0012】
これにより、対称モードを反対称モードの利用により、斥力と引力の双方を発生させることができ、種々の用途のアクチュエータに利用することができる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明に係る光学微小機械装置において、
前記フォトニック結晶スラブの力学的変位又は前記フォトニック結晶スラブに印加された力の大きさを、前記フォトニック結晶スラブに照射した光の反射波又は透過波から検出することを特徴とする。
【0014】
これにより、光学微小機械装置を、変位センサ又は圧力センサとして利用することができ、種々の用途に利用することができる。
【0015】
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明に係る光学微小機械装置において、
前記結合モードは、前記2枚のフォトニック結晶スラブに形成された穴の径、周期又は前記2枚のフォトニック結晶スラブの厚さにより調整されることを特徴とする。
【0016】
これにより、結合モードを、種々の構成パラメータを用いて調整することができ、フォトニック結晶スラブの構成により、所望の機械的駆動を実現することができる。
【0017】
第6の発明は、第5の発明に係る光学微小機械装置において、
前記2枚のフォトニック結晶スラブに形成された穴の径は、前記フォトニック結晶スラブの最も外側に形成された穴の径が最も大きく、最も中心に近い穴の径が最も小さいことを特徴とする。
【0018】
これにより、中央のバンドエッジモードの周波数を外側のバンドエッジモードの周波数よりも下げ、外側よりも内側のエネルギーを小さくして閉じ込め効果を高めることができる。
【0019】
第7の発明は、第1〜6のいずれかの発明に係る光学微小機械装置において、
前記2枚のフォトニック結晶スラブは、半導体基板で構成され、
前記所定間隔を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブの側面は、前記半導体基板を含む多層構造を有する支持部で囲まれていることを特徴とする。
【0020】
これにより、多層の半導体基板を加工して光学微小機械装置を構成することができ、種々の半導体加工プロセスを利用して、精密な微細加工を行って光学微小機械装置を構成することができる。
【0021】
第8の発明は、第7の発明に係る光学微小機械装置において、
前記支持部により、前記2枚のフォトニック結晶スラブの片側端又は両側端が支持されたことを特徴とする。
【0022】
これにより、用途に応じて、種々の支持構造を容易に構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、光の入力を容易にしつつ、機械的な力を高効率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1に係る光学微小機械装置の全体構成を透過的に示した斜視図である。
【図2】フォトニック結晶スラブ10、11の基本構造を示した分解斜視図である。
【図3】スラブ間隔12の変化による結合モードの変化特性を示した図である。
【図4】スラブ間隔12と、蓄積されるエネルギー及び発生する輻射力との関係特性を示した図である。
【図5】実施例1に係る光学微小機械装置をアクチュエータとして構成した例を示した図である。図5(A)は、光学微小機械装置を片側支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。図5(B)は、光学微小機械装置を両側支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。図5(C)は、光学微小機械装置を四端支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。
【図6】実施例2に係る光学微小機械装置の全体構成の一例を示した斜視図である。
【図7】実施例2の変形例に係る光学微小機械装置の全体構成の一例を示した斜視図である。
【図8】実施例3に係る光学微小機械装置の基本構造を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係る光学微小機械装置の全体構成の一例を透過的に示した斜視図である。図1において、実施例1に係る光学微小機械装置は、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11と、支持部25とを備える。また、支持部25は、支持基板20、21と、中間層22とを多層構造として備える。フォトニック結晶スラブ10、11は、2次元の薄膜で構成され、空気穴13が形成されている。また、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11は、所定間隔12を有して対向して配置された2層構造を有している。フォトニック結晶スラブ10、11は、種々の薄膜で構成されてよいが、例えば、シリコン基板で構成されてもよい。
【0027】
フォトニック結晶スラブ10、11の水平横方向両側には、支持基板20、21及び中間層22からなる支持部25が備えられ、フォトニック結晶スラブ10、11の側面を密閉している。支持基板20、21は、フォトニック結晶スラブ10、11と同じ材質で、フォトニック結晶スラブ10、11と連続的に構成される。よって、フォトニック結晶スラブ10、11がシリコン基板で構成されている場合には、支持基板20、21もシリコン基板で構成される。中間層22は、支持基板20、21の中間に存在する層であり、支持基板20、21がシリコン基板の場合には、二酸化ケイ素(SiO)で構成されてもよい。
【0028】
実施例1に係る光学微小機械装置を形成するには、Si/SiO/Si/SiO/Siのような、SOI(Silicon On Insulator)基板の上に更にSiOとSiが形成された多層基板上を加工して形成するようにしてもよい。例えば、上述のSi/SiO/Si/SiO/Siの多層基板において、リソグラフィとドライエッチングを施して、上層の3層のSi/SiO/Siを貫通する垂直な空気穴13をまず形成する。その後に、SiO層を選択エッチングで除去することにより、SiO/Si層上に、図1に示すような2枚のフォトニック結晶スラブ10、11が間隔12を有して対向した構成を形成することができる。次いで、底面のSiO/Si層を、エッチングにより総て除去すれば、図1に示す構成の実施例1に係る光学微小機械装置を製造することができる。
【0029】
よって、実施例1に係る光学微小機械装置は、中央のフォトニック結晶スラブ10、11が形成されている領域には間隔12が形成されているが、側面及び支持部25の部分は、空隙が形成されておらず、支持基板20、21と中間層22の多層構造となっている。よって、実施例1に係る光学微小機械装置は、全体的には、間隔12を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブ10、11が、側面を多層構造の支持部25で囲まれた構成となる。
【0030】
なお、今まで、Si/SiO/Si/SiO/Siの多層基板を用いて実施例1に係る光学微小機械装置を構成した例を挙げて説明したが、光学微小機械装置は、種々の半導体基板を用いて構成することができる。例えば、InP/InGaAsP/InP/InGaAsP/InPの多層構造において、リソグラフィとエッチングを施して、上の3層のInP/InGaAsP/InPを貫通する空気穴13を形成し、その後にInGaAsP層を選択エッチングで除去して構成してもよい。その後に、下層のInGaAsP/InPを総てエッチングで除去する点も、SOI基板を用いた場合と同様である。この場合、フォトニック結晶スラブ10、11及び支持基板20、21がInP層で形成され、中間層22がInGaAsP層で形成されることになる。同様に、GaAs/AlGaAs/GaAs/AlGaAs/GaAsの多層基板から、実施例1に係る光学微小機械装置を構成してもよい。この場合は、フォトニック結晶スラブ10、11及び支持基板20、21がGaAs層で構成され、中間層22がAlGaAs層で構成されることになる。このように、実施例1に係る光学微小機械装置は、種々の多層構造の半導体基板から製造することができる。
【0031】
次に、図1のAA'断面及びBB'断面で切断した実施例1に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ10、11の構成の詳細について説明する。
【0032】
図2は、実施例1に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ10、11の基本構造を示した分解斜視図である。図2において、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11が、間隔12を有して対向して配置された2層構造を有しており、各フォトニック結晶スラブ10、11が、空気穴13を有している点は、図1と同様である。
【0033】
図2において、実施例1に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ10、11は、例えば、各々が、厚さ200nmのシリコンの薄膜に、周期900nmで2次元正方形格子状に直径450nmの空気穴13が開いた形状を有する。そして、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11は、200nmの間隔12を有して2枚が対向して配置された構成を有する。
【0034】
また、図2において、フォトニック結晶スラブ10、11の上方には、関連構成要素として、光源40と、レンズ50が示されている。
【0035】
各フォトニック結晶スラブ10、11は、フォトニックバンド構造を有し、フォトニックバンドギャップ付近のフォトニックバンド端に、定在波モードを有する。ここで、フォトニックバンドギャップは、フォトニック結晶において実現する光の固有モードの存在しない波長領域である。フォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶は、該当する波長領域で光の絶縁体として作用する。よって、ここで言うフォトニックバンド端は、フォトニックバンドギャップに近いフォトニックバンド内の端部付近の領域を意味しており、この領域で、フォトニック結晶スラブ10、11は、定在波モードを有する。
【0036】
ここで、定在波モードは、特に、面内方向の波数成分が0であるガンマ点上の定在波モードが、非結合モードと呼ばれ、閉じ込め力が強い。ここで、非結合モードは、フォトニック結晶スラブ10、11の面と垂直な方向への光の漏れが少ないとともに、面内方向においても、光の移動速度が遅く、面内にも光が広がり難い状態となるモードである。よって、この非結合モードを利用することにより、特殊な共振器構造を用いずに、強い光閉じ込め機能を実現することができる。また、ガンマ点上の定在波モードは、垂直方向から僅かに数度外れた領域に最も光が放出されるため、垂直方向から空間系を用いて光を照射すると、高効率で、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11を共振器モードに結合させることができる。
【0037】
このように、本実施例に係る圧電アクチュエータにおいては、2層構造のフォトニック結晶スラブ構造を用い、各フォトニック結晶スラブ10、11内に生じるバンドエッジモードの間に生じる高いQ値を持つ結合モードを利用して、光輻射力を発生させることができる。この結合モードは、フォトニック結晶スラブ10、11の全体に広がったモードであるため、フォトニック結晶スラブ10、11に垂直方向から空間光学系を用いて光を入力させると、容易に高い結合効率が得られる。
【0038】
図2においては、フォトニック結晶スラブ10への光の照射は、フォトニック結晶スラブ10の上方の空間にある光源40から発射された光が、レンズ50を介して、2次元のフォトニック結晶スラブ10の面に略垂直に入射して行われている。このように、実施例1に係る光学微小機械装置においては、フォトニック結晶スラブ10、11への光の入力が、空間系を用いて面に垂直に光を照射するだけで容易に行うことができ、導波路を用いる必要が無い。なお、図2においては、光源40とフォトニック結晶スラブ10との間にレンズ50が設置されているが、レンズ50は必ずしも設置されていなくてもよい。空間系を用いて、光をフォトニック結晶スラブ10の面上に垂直に光を照射することができれば、光の照射入力は種々の方法により行われてよい。
【0039】
また、図2に示されるように、実施例1に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ10、11は、欠陥を有せず、総て周期的に正方形格子状に配列された空気穴13を有する。このように、実施例1に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ10、11は、特殊な共振器構造を備えることなく、容易に面上から光の入力を可能とする構成を有している。
【0040】
また、実施例1に係る光学微小機械装置の構成においては、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11を近接して配置しているため、上述の定在波モードが結合して、2種類の結合モードが形成される。1つの結合モードは、上下に対称な電界分布を持つ対称モードであり、もう1つの結合モードは、上下に反対称な電界分布を持つ反対称モードである。
【0041】
図3は、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12の変化による結合モードの変化特性を示した図である。図3において、横軸は間隔12、縦軸は光の波長を示している。また、上方の曲線は、対称モード特性曲線Cであり、下方の曲線は、反対称モード特性曲線Dである。
【0042】
図3に示されるように、対称モード及び反対称モードは、フォトニック結晶スラブ10、11の間隔12をわずかに変化させただけで、大きく波長が変化する特性を有する。図3に示したように、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11を対向させた構造の共振モード(結合モード)の波長が、スラブ間隔12に敏感に変化するときには、光学微小機械装置内に光が蓄積されると、大きな光輻射力が発生する。
【0043】
なお、図3における破線部から矢印で示された図は、図2において説明した間隔12が200nmの2層のフォトニック結晶スラブ10、11の対称モード及び反対称モードの電界状態を示した図である。上方に反対称モードの電界状態が示され、下方に対称モードの電界状態が示されている。
【0044】
図4は、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12と、蓄積されるエネルギー及び発生する輻射力との関係特性を示した図である。図4において、横軸は2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12であり、縦軸は蓄積された光の単位エネルギー毎の発生する力を示している。ここで、光の力の強さFは、(1)式のように表せる。
【0045】
【数1】

ここで、(1)式において、ωは共鳴モードの角周波数であり、zはスラブ間隔12である。(1)式に示されるように、光の力の強さFは、dω/dzに比例し、F/Uは、図4に示すようになる。力の方向は、共振モードの対称性によって異なり、対称モードでは斥力が発生し、反対称モードでは引力が発生する。図4においては、対称モードが特性曲線Eで表され、反対称モードが特性曲線Fで表されている。
【0046】
図4に示されるように、例えば、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12が50nmのときに、1pJの光エネルギーが蓄積された場合、発生する力は約1μNである。この値は、従来の光ピンセット等の光マイクロマシンよりも遙かに大きい。また、実施例1に係る光学微小機械装置と同様に、2枚のフォトニック結晶スラブを対向させて、各々に点欠陥を形成した点欠陥共振器とほぼ同等の値である。
【0047】
また、図4に示されるように、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12が狭い程、単位エネルギー毎に発生する力が大きい。よって、加工精度が向上し、より狭い間隔12で2枚のフォトニック結晶スラブ10、11を対向配置することができれば、2層の簡素な構造であっても、大きな力学的な力を得ることが可能となる。
【0048】
このように、実施例1に係る光学微小機械装置によれば、従来の複雑な微小共振器を用いた光学微小機械構造よりもはるかに単純な構造で、外部の空間系から光の入出力が容易な光学微小機械装置が実現される。例えば、図1に示したように、多層基板上で加工した上述の2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の側面固定構造を考えると、垂直方向から反対称モードに共鳴した光を照射することにより、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間に反発力を生じさせ、フォトニック結晶スラブ10、11を互いに遠ざかる方向に変位させるアクチュエータを実現することができる。
【0049】
図5は、実施例1に係る光学微小機械装置を、具体的なアクチュエータとして構成した例を示した図である。図1において説明した光学微小機械装置の他、実施例1に係る光学微小機械装置は、種々の構成をとることができる。
【0050】
図5(A)は、実施例1に係る光学微小機械装置を、片側支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。図5(A)において、2層構造のフォトニック結晶スラブのうち、上面のフォトニック結晶スラブ15が示されており、その片側端が支持部26で支持されている。フォトニック結晶スラブ15には、空気穴13が二次元格子状に配列されて形成されている点は、図1及び図2のフォトニック結晶スラブ10、11と同様である。
【0051】
図5(A)において、例えば、フォトニック結晶スラブ15の全体を薄膜状に構成し、側面を、支持基板20、21及び中間層22を含む多層構造で囲み、支持部26を側方と同様に支持基板20、21及び中間層22を含む多層構造とすれば、薄板状の領域が増加することになる。これにより、アクチュエータの弾性定数を高めることができる。
【0052】
図5(B)は、実施例1に係る光学微小機械装置を、両側支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。図5(B)において、2層構造のフォトニック結晶スラブのうち、上面のフォトニック結晶スラブ15が示されており、フォトニック結晶スラブ15には、空気穴13が二次元格子状に配列されて形成されている点は、図5(A)と同様である。フォトニック結晶スラブ15は、図5(A)と同様の構成であるので、同一の参照番号を付している。また、フォトニック結晶スラブ15の側面が、半導体基板を含む多層構造で囲まれている点も、図5(A)と同様である。
【0053】
図5(B)に示すアクチュエータは、フォトニック結晶スラブ15を支持する支持部27が、フォトニック結晶スラブ15の両側に設けられ、両側端からフォトニック結晶スラブ15を支持している点で、図5(A)に係るアクチュエータと異なっている。このように、実施例1に係る光学微小機械装置を、両側支持のアクチュエータとして構成してもよい。両側から薄板構造のフォトニック結晶スラブ15を、支持基板20、21及び中間層22を含む多層構造の支持部27で支持するので、アクチュエータをより強固に構成することができ、アクチュエータの機械的耐性を向上させることができる。
【0054】
図5(C)は、実施例1に係る光学微小機械装置を、四端支持のアクチュエータとして構成した例を示した上面図である。図5(C)に係るアクチュエータは、フォトニック結晶スラブ16が、両端がはしご状に構成され、各端部が2本に分離した形状を有する点で、図5(A)、(B)に係るアクチュエータと異なる。フォトニック結晶スラブ16を、半導体基板で形成された支持基板20、21及び中間層22を含む多層構造の支持部27で両側端から支持している点は、図5(B)に係るアクチュエータと同様である。
【0055】
このように、実施例1に係る光学微小機械装置は、種々の構成のアクチュエータとして構成することができる。これらのアクチュエータでは、フォトニック結晶スラブ15、16により様々な機械振動子が構成されている。アクチュエータの性能は、機械振動子の機械共鳴振動数や、弾性定数により変えることができる。よって、図5(A)〜(C)において説明したように、フォトニック結晶スラブ15、16の構成及び支持基板20a、20bによる支持の方法により、これらのパラメータを変化させ、用途に応じたアクチュエータを構成することができる。
【実施例2】
【0056】
図6は、本発明の実施例2に係る光学微小機械装置の全体構成の一例を示した斜視図である。実施例2に係る光学微小機械装置は、変位センサ又は圧力センサ等の検出器として構成される。
【0057】
図6において、光学微小機械装置は、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の部分が抜き出して示されている。実施例2に係る光学微小機械装置は、フォトニック結晶スラブ10、11を含む本体部は、実施例1に係る光学微小機械装置と同様であり、同様の構成要素には、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。また、図6においては、2層構造のフォトニック結晶スラブ10、11の内部構成のみが示されているが、支持基板20、21及び中間層22等の支持部25を含む側面支持構造を同様に備えていてよい。同様に、関連構成要素の光源40及びレンズ50も、実施例1に係る光学微小機械装置と同様の構成要素であるので、実施例1と同一の参照番号を付してその説明を省略する。
【0058】
実施例2に係る光学微小機械装置は、反射率検出手段30と、演算手段31とを備える点で、実施例1に係る光学微小機械装置と異なっている。実施例2に係る光学微小機械装置は、フォトニック結晶スラブ10、11の変位又はフォトニック結晶スラブ10、11に印加された圧力を、垂直方向からの光の入射に伴う反射率の変化によって検出する。つまり、図3及び図4において説明したように、フォトニック結晶スラブ10、11間の間隔12の距離は、波長や力との相関を有している。よって、フォトニック結晶スラブ10、11に外部から力が加えられ、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11の間隔12の距離が変化したときに、その力学変位量や、加えられた力の大きさを、垂直方向から入射された光の反射率の変化によって検出することができる。
【0059】
このように、実施例2に係る光学微小機械装置は、光源40からレンズ50を経て、フォトニック結晶スラブ10、11に入射した光の反射光を、フォトニック結晶スラブ10の上方に設けられた反射率検出手段30で検出して反射率を検出し、演算手段31で力学的変位量は加えられた力を算出する。
【0060】
よって、実施例2に係る光学微小機械装置は、変位センサ又は加えられた力を検出する圧力センサ等の検出器に適用することができる。
【0061】
図7は、実施例2の変形例に係る光学微小機械装置の全体構成の一例を示した斜視図である。図7において、2枚のフォトニック結晶スラブ10、11を含む本体の構成と、関連要素の光源40及びレンズ50の構成は、図6に係る光学微小機械装置と同様である。
【0062】
図7においては、透過率検出手段32と、演算手段33が、下面のフォトニック結晶スラブ11の下方に設けられている点で、図6に係る光学微小機械装置と異なっている。実施例2の変形例に係る光学微小機械装置においては、フォトニック結晶スラブ10、11に力学的変位や、加えられた力の大きさを、光の透過率に基づいて検出する。よって、実施例2の変形例に係る光学微小機械装置においては、フォトニック結晶スラブ10の上面に垂直に光を照射することにより、フォトニック結晶スラブ11の下面から透過して放出された透過光を透過率検出手段32により検出する。そして、透過率検出手段32で検出した透過率に基づいて、演算手段32が、フォトニック結晶スラブ10、11の力学的変位量や、フォトニック結晶スラブ10、11に加えられた力を算出する。
【0063】
このように、実施例2に係る光学微小機械装置によれば、変位センサや圧力センサ等の検出器として構成することができ、光を用いて微小な変位や力を検出することができる。
【実施例3】
【0064】
図8は、本発明の実施例3に係る光学微小機械装置の基本構造を示した平面図である。実施例1及び実施例2に係る光学微小機械装置においては、各フォトニック結晶スラブ10、11、15、16には均一なフォトニック結晶構造を用いたが、実施例3に係る光学微小機械装置においては、図8に示すように、空気穴14の径が分布を有するフォトニック結晶構造を導入する。これにより、更に光閉じ込め性能を増強することが可能である。
【0065】
実施例3に係る光学微小機械装置のフォトニック結晶スラブ17の構造では、中心に向かうほど空気穴14が小さくなる平面構成を有している。つまり、最も外側の空気穴14の径が最も大きく、中心(重心)Gに接近するにつれて径が小さくなり、最も中心Gに近い空気穴14が、最も径が小さい形状を有している。この構成により、中心Gに近いほどバンドエッジモードが低周波数に下がる。光の周波数が高い程、光のエネルギーは大きいので、実施例3に係る光学微小機械装置においては、フォトニック結晶スラブ17の外側のエネルギーが高く、中心付近が外側よりもエネルギーが小さいことになる。これにより、中心付近に光のエネルギーが閉じ込められることになり、中心付近に閉じ込められた定在波モードが形成される。この場合も、2層化することにより、実施例1の図3及び図4において説明したのと同様な共鳴モードが形成され、大きな光輻射力が発生する。この構造を用いることにより、外部から光を照射する際に、その光のビーム形状に応じた共鳴モード形状を設計することが可能になり、さらに光結合効率が増強される。
【0066】
なお、この結果は中心部に向かって、空気穴14の周期またはフォトニック結晶スラブ17の厚みを大きくしても、同様の結果が得られる。従って、穴径の変調以外にも、周期の変調、スラブ厚の変調によっても同様な効果が期待できる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光学MEMS、光学マイクロマシン、光学センサ、光学アクチュエータ等の光学微小機械装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10、11、15、16、17 フォトニック結晶スラブ
12 間隔
13、14 空気穴
20、21 支持基板
22 中間層
25、26、27 支持部
30 反射率検出手段
31、33 演算手段
32 透過率検出手段
40 光源
50 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブを有し、
前記所定間隔は、前記2枚のフォトニック結晶スラブの定在波モードの波長の光が前記フォトニック結晶スラブの面上に照射されたときに、該定在波モードが結合して結合モードとなる距離であることを特徴とする光学微小機械装置。
【請求項2】
前記結合モードのときに、光輻射力を発生させることを特徴とする請求項1に記載の光学微小機械装置。
【請求項3】
前記結合モードは、前記2枚のフォトニック結晶スラブ間で対称な電界分布を有する対称モードと、前記2枚のフォトニック結晶スラブ間で反対称な電界分布を有する反対称モードとを有し、
前記輻射力は、前記対称モードでは斥力を発生し、前記反対称モードでは引力を発生することを特徴とする請求項2に記載の光学微小機械装置。
【請求項4】
前記フォトニック結晶スラブの力学的変位又は前記フォトニック結晶スラブに印加された力の大きさを、前記フォトニック結晶スラブに照射した光の反射波又は透過波から検出することを特徴とする請求項1に記載の光学微小機械装置。
【請求項5】
前記結合モードは、前記2枚のフォトニック結晶スラブに形成された穴の径、周期又は前記2枚のフォトニック結晶スラブの厚さにより調整されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学微小機械装置。
【請求項6】
前記2枚のフォトニック結晶スラブに形成された穴の径は、前記フォトニック結晶スラブの最も外側に形成された穴の径が最も大きく、最も中心に近い穴の径が最も小さいことを特徴とする請求項5に記載の光学微小機械装置。
【請求項7】
前記2枚のフォトニック結晶スラブは、半導体基板で構成され、
前記所定間隔を有して対向して配置された2枚のフォトニック結晶スラブの側面は、前記半導体基板を含む多層構造を有する支持部で囲まれていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学微小機械装置。
【請求項8】
前記支持部により、前記2枚のフォトニック結晶スラブの片側端又は両側端が支持されたことを特徴とする請求項7に記載の光学微小機械装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−51058(P2011−51058A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201988(P2009−201988)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】