説明

光学活性化合物の製造方法

アルケニルエステル類の加水分解反応やアルケニルエーテル類の開裂反応を利用した光学活性化合物の製造方法であって、酸性化合物や塩基性化合物を使用せず、また、高濃度で反応が出来、酵素反応や微生物を用いた反応のように緩衝液や栄養源等の必要もない、簡便で且つ生産効率のよい製造法の提供。
一般式[1]


(式中、R、R及びRはそれぞれ異なる基を表し、R、R及びRは、水素原子、アルキル基等を表し、Aはメチレン基、カルボニル基又は単結合を表す。)で表されるアルケニルエステル又はアルケニルエーテルに、特定の光学活性配位子を有する遷移金属錯体の存在下、水を作用させることを特徴とする一般式[6]


で表される光学活性カルボン酸又は光学活性アルコールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光学活性化合物の新規製造方法に関する。詳しくは光学活性な配位子を有する金属錯体を触媒として、アルケニルエステル類、アルケニルエーテル類の炭素−酸素結合を開裂し、光学活性化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
一般的に、ビニルエステル類の加水分解反応あるいはビニルエーテル類の開裂反応は酸又は塩基触媒存在下で行われるが、酸塩基に敏感な官能基や保護基が存在する場合はこの方法は使用できない。
このため、温和な方法として、化学的手法以外の酵素や微生物を用いる方法が知られている(例えば、先行技術文献1等参照。)。
更に、現在はまだ実用的ではないが、人工的に合成した分子で酵素機能を再現しようという人工酵素の研究もある(例えば、先行技術文献2等参照。)。
しかしながら、酵素反応や、人工酵素を用いた方法では、基質濃度は重量濃度で0.1%〜数%程度の場合が多く、かなり希釈された反応条件であるため反応効率が悪い。
更に、酵素反応や、微生物を用いた反応では相当量の緩衝液を用いてpHの調整を行う必要があり、栄養源を必要とするものも多い。
また、金属化合物を用いる例も知られており、パラジウム化合物と銅化合物を用い、温和な条件下でプロペニルエーテルを開裂させ、アルコール類を得る方法が知られているが、この方法ではラセミ体しか得られない(例えば、先行技術文献3等参照。)。
本願の発明に関連する先行技術文献としては次のものがあり、これらは参照として本明細書中に取り込まれる。
1.Luzzio.F.AらTetrahedron:Asymmetry,2002,1173−1180
2.Zhang.B.;J.Am.Chem.Soc.,1997,119,1676−1681
3.Tetrahedron,Vol.53,17501−17512,1997
【発明の開示】
本発明は、アルケニルエステル類の加水分解反応やアルケニルエーテル類の開裂反応を利用した光学活性化合物の製造方法であって、酸性化合物や塩基性化合物を使用せず、また、高濃度で反応が出来、酵素反応や微生物を用いた反応のように緩衝液や栄養源等の必要もない、簡便で且つ生産効率のよい製造法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、光学活性配位子を有する種々の金属錯体が、アルケニルエステル類やアルケニルエーテル類の炭素−酸素結合を開裂し、ラセミ体の原料から、光学活性カルボン酸又は光学活性アルコールが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は下記一般式[1]

(式中、R、R及びRは、互いに異なって、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアラルキルチオ基、置換基を有していてもよいベンゾイルオキシ基、トリ置換シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、水酸基、テトラヒドロピラン−2−イルオキシ基又はメルカプト基を表す。また、R、R、Rの何れか二つで環を形成していてもよく、その環は環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基を表し、RとR又はRとRとで隣接している二重結合の炭素原子と一緒になって環を形成していてもよい。Aはメチレン基、カルボニル基又は単結合を表す。)
で表される化合物に、下記一般式[2]、[3]、[4]又は[5]

(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、メチル基又はメトキシ基を表し、R及びR10は水素原子を表す。また、RとR及び/又はRとR10が一緒になって環を形成していてもよく、その環は環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。)

(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)

(式中、R17及びR18は、それぞれ独立してアルキル基又はフェニル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)

(式中、R19はアルキル基又はフェニル基を表し、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物の何れかを配位子として有する遷移金属錯体1種以上の存在下、水を作用させることを特徴とする下記一般式[6]

(式中、R、R及びAは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物の製造法に関する。
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造法は、一般式[1]で表されるアルケニルエステル又はアルケニルエーテルに、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、水を作用させることにより、一般式[6]で表される光学活性カルボン酸又は光学活性アルコールを製造する方法である。
一般式[1]において、Aがカルボニル基の場合には、アルケニルエステル類の加水分解反応となり光学活性カルボン酸が生成し、Aがメチレン基又は単結合の場合には、アルケニルエーテル類の開裂反応となり光学活性アルコールが生成する。
上記一般式[1]及び[6]において、R、R及びRで表される置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、3,3−ジメチル−2−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、2−ボルニル基などが挙げられる。
置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基のアルケニル基としては、例えば、炭素数3〜10、好ましくは3〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基が挙げられ、具体例としては、例えば、2−プロペニル基、2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、3或いは4−シクロペンテニル基、3或いは4−シクロヘキセニル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシ基のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、2,2−ジメチルプロポキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えば、炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアラルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、ベンジル基、α−メチルベンジル基、フェネチル基、4−メチルベンジル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアリール基のアリール基としては、例えば、炭素数6〜20、好ましくは6〜14のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよい複素環基の複素環基としては、環中に少なくとも1個以上の窒素原子、酸素原子又は/及び硫黄原子を有し、1個の環の大きさが5〜20員、好ましくは5〜10員であって、シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はアリール基などの炭素環式基と縮合していてもよい飽和又は不飽和の単環、多環又は縮合環式のものが挙げられ、具体例としては、例えば、1,3−ジオキソラン−4−イル基、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル基、2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基、ピロリジル基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピペラジル基、モルホリノ基、モルホリニル基、ピリジル基、チエニル基、フェニルチエニル基、チアゾリル基、オキサゾリジル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、キノリル基、ピリミジル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基のアルコキシカルボニル基としては、例えば、炭素数2〜7の直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、tert−ブチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基のアラルキルオキシ基としては、例えば、炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、ベンジルオキシ基、1−フェネチルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基のアルカノイルオキシ基としては、例えば、炭素数1〜6のアルカノイルオキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキルチオ基のアルキルチオ基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキルチオ基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、tert−ブチルチオ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアラルキルチオ基のアラルキルチオ基としては、例えば、炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアラルキルチオ基が挙げられ、具体例としては、例えば、ベンジルチオ基、1−フェネチルチオ基、ナフチルメチルチオ基等が挙げられる。
これらアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基、複素環基等、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシ基、アルカノイルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基が有していてもよい置換基としては、本発明に係る反応に支障を来さない置換基であればどのような置換基でもよいが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、フェニル基、ベンジル基、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニルオキシ基、ベンゾイル基、ベンジルオキシ基、メトキシメチル基、2H−テトラヒドロピラン−2−イルオキシ基、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、ベンジルオキシカルボニルオキシ基、オキシラン−2−イル基、1,3−ジオキソラン−4−イル基、2−オキソ−1,3−ジオキソラン−イル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アセトキシアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基、アニリノ基、ベンジルアミノ基等が挙げられる。
上記一般式[1]及び[6]において、R、R及びRで表される置換基を有していてもよいベンゾイルオキシ基の具体例としては、例えば、ベンゾイルオキシ基、4−トルオイルオキシ基、4−アニソイルオキシ基、4−ニトロベンゾイルオキシ基、4−クロロベンゾイルオキシ基、2,4,6−トリクロロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
トリ置換シリルオキシ基の具体例としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、トリフェニルシリルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ベンジルアミノ基のようなモノ置換アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基のようなジ置換アミノ基、アセチルアミノ基またはベンゾイルアミノ基のようなアミド基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基のようなウレタン基等が挙げられる。
更に、R、R、Rの何れか二つで形成される環としては、例えば、置換基を有する5〜6員環のシクロアルカン、置換基を有する炭素数7〜12のビシクロアルカン、3〜6員環の複素環、インダン環等が挙げられる。
置換基を有する5〜6員環のシクロアルカンとしては、例えば、2−メチルシクロペンタン、2,2−ジメチルシクロペンタン、2−tert−ブチルシクロヘキサン、4−tert−ブチルシクロヘキサン、2−フェニルシクロヘキサン、2−アミノシクロペンタン、2−アセチルアミノシクロヘキサン、2−メチルアミノシクロペンタン、2−ヒドロキシシクロヘキサン、2−アセトキシシクロヘキサン等が挙げられ、置換基を有する炭素数7〜12のビシクロアルカンとしては、2−ノルボルナン、ボルナン等が挙げられ、3〜6員環の複素環としてはオキシラン、1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−オキソ−1,3−ジオキソラン、ピロリジン環、ピペリジン環等が挙げられ、インダン環としては、インダン、1−アミノインダン、1−アセチルアミノインダン等が挙げられる。
上記一般式[1]において、R、R及びRで表される置換基を有していても良い直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換基を有していても良い直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基及び置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基の定義及び具体例としては、上記R、R及びRにおけるそれらと全く同じものが挙げられる。また、これらアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基等が有していても良い置換基も、R、R及びRの場合と同様、本発明に係る反応に支障を来さない置換基であればどのような置換基でも良く、その具体例も上記R、R及びRにおけるそれらと全く同じものが挙げられる。
上記一般式[1]において、R、R及びRで表される置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基のアリールオキシカルボニル基としては、例えば、炭素数7〜15のアリールオキシカルボニル基が挙げられ、それら置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基の具体例としては、例えば、フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、キシリルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、メトキシフェニルオキシカルボニル基、フルオロフェニルオキシカルボニル基、トリフルオロメチルフェニルオキシカルボニル基、ジメチルアミノフェニルオキシカルボニル基、アセチルアミノフェニルオキシカルボニル基、メチルナフチルオキシカルボニル基、メトキシナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
また、置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基のアラルキルオキシカルボニル基としては、例えば、炭素数8〜16のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、それら置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基の具体例としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ナフチルメチルオキシカルボニル基、α−メチルベンジルオキシカルボニル基、4−メチルベンジルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
また、RとR又はRとRとが隣接する二重結合の炭素原子と一緒になって形成する環としては、例えば、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロオクテン環、2−ボルネン環、2−ノルボルネン環、1−メンテン環、インデン環等が挙げられる。
本発明の製造法において、原料として用いられる一般式[1]で示されるアルケニルエステル類或いはアルケニルエーテル類は、市販品をそのまま用いても、必要に応じてこれを適宜精製して用いても、或いは自体公知の一般的な製法で自製したものを用いても何れにてもよい。
次に、本発明で用いられる光学活性配位子について説明する。
本発明で用いられる光学活性配位子のうちの一つは、上記一般式[2]で表される光学活性ホスフィン化合物である。
一般式[2]において、Ar、Arで示される置換基を有していてもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等で1乃至複数箇所が置換されていてもよいフェニル基が挙げられる。
一般式[2]において、RとR及び/又はRとR10が一緒になって環を形成している場合の環としては、例えばベンゼン環等が挙げられ、また、トリメチレン基、テトラメチレン基、メチレンジオキシ基等を形成していてもよい。
本発明で用いられる光学活性配位子のうちの他の一つは、上記一般式[3]で表される光学活性サレン化合物である。
一般式[3]において、R13、R14、R15及びR16で示されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
本発明で用いられる光学活性配位子のうちの更なる一つは、上記一般式[4]で表される光学活性ビスオキサゾリン化合物である。
一般式[4]において、R17及びR18で示されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
本発明で用いられる光学活性配位子のうちの残りの一つは、上記一般式[5]で表される光学活性オキサゾリン化合物である。
一般式[5]において、Arで示される置換基を有していてもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等で1乃至複数箇所が置換されていてもよいフェニル基が挙げられる。
また、R19で示されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
本発明の製造法において用いられる遷移金属錯体は、上記一般式[2]〜[5]の何れかで表される光学活性化合物と遷移金属化合物とを、好ましくはアルゴンや窒素のような不活性ガス雰囲気中、系内の化合物と反応しない適当な溶媒中で、要すれば加熱下に混合撹拌し、反応終了後は、濃縮、再結晶、晶析等、常法に従って後処理を行えば容易に得られる。
また、斯くして得られた本発明に係る遷移金属錯体を、更に他の配位子と反応させて他の所望の遷移金属錯体とすることも出来る。この場合の反応は、通常、大気開放下、適当な溶媒中、室温で行われる。反応後の後処理等は上記と同じである。
本発明で用いられる遷移金属化合物としては周期表で9〜12族に属する遷移金属の化合物が好ましく、9族、10族、12族に属する遷移金属の化合物がより好ましい。中でも、コバルト、パラジウム、白金、水銀等の化合物が特に好ましい。
本発明で用いられる好ましい遷移金属化合物としては、上記の如くコバルト化合物、パラジウム化合物、白金化合物、水銀化合物等が挙げられるが、コバルト化合物の具体例としては、例えば、酢酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、塩化コバルト、臭化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルトのような2価又は3価のコバルト化合物の水和物又は非水和物が挙げられる。
パラジウム化合物の具体例としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、パラジウムビスヘキサフルオロペンタンジオナート、パラジウムビスペンタンジオナートのような0価又は2価のパラジウム化合物が挙げられる。
白金化合物の具体例としては、例えば、ジクロロビス(アセトニトリル)白金、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金、塩化テトラアミン白金水和物、テトラクロロ白金酸カリウムなどが挙げられる。
水銀化合物の具体例としては、例えば、酢酸第二水銀、硫酸第二水銀、トリフルオロ酢酸第二水銀などが挙げられる。
本発明に係る遷移金属錯体は、本発明の製造法において出発原料として用いられるアルケニルエステル又はアルケニルエーテルに対して触媒量用いることにより、充分その効果を発揮し得る。また、それぞれ異なる金属からなる2種以上の遷移金属錯体を組み合わせて用いることにより、更に高い光学純度で光学活性化合物を得ることができる場合もあるのでそのような使用法も好ましい態様の一つである。
本発明に係る遷移金属錯体の使用量は通常は10モル%以下で十分である。
本発明の製造法において用いられる水の量は、アルケニルエステル又はアルケニルエーテルに対して、通常1〜10当量、好ましくは1〜5当量である。
本発明に係る反応は、原料のアルケニルエステル又はアルケニルエーテルが固体で無い限り、無溶媒でも充分に反応が進行するが、通常は有機溶媒中で行われる。
溶媒は任意のものを用いることができるが、水と混ざるものが好ましい。ただし、基質が高い濃度で存在するときは、水が分離した状態となり、その状態でも反応が進行する。
本発明で用いられる溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、メトキシエタノールなどのアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどの環状、非環状のエーテル類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
反応温度はあまりに低温では反応が有利な速度で進行せず、あまりに高温では遷移金属錯体が分解するおそれがあるので、通常は0℃から100℃の範囲から選ばれ、好ましくは20℃から90℃の範囲で実施される。
反応時間は、原料として使用するアルケニルエステル又はアルケニルエーテルの種類及び量、遷移金属錯体の種類及び量、反応温度その他の条件等により自ずから異なるが、通常数十分〜数十時間である。
本発明に係る反応は、空気中等の酸素の存在下でも進行するが、触媒の種類により、あるいは原料や生成物の種類により酸素に敏感なものもあるので、そのような場合には、空気や酸素を排除して、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うのが望ましい。
反応後の後処理は、ろ過、溶媒回収、各種クロマトグラフィー、蒸留、再結晶等、自体公知の後処理方法、生成物の単離、精製方法等を適宜組み合わせて行うことにより容易に達成される。
なお、本発明の製造法によれば、一般式[1]で表される化合物の内、光学活性カルボン酸や光学活性アルコールへ転化しなかった分は、一般式[1]で表される化合物の光学活性体となって得られる。
即ち、本発明の製造法は、一般式[6]で表される光学活性化合物の製造法であると同時に、一般式[1]で表されるアルケニルエステル類やアルケニルエーテル類の光学活性体の製造法でもある。
従って、必要に応じて、各種反応条件、錯体の種類やモル比、水の量、溶媒等を適宜置き換えて反応を行うことにより、一般式[1]で表されるアルケニルエステル類やアルケニルエーテル類の光学活性体をよりリッチに得ることも可能である。
なお、特願2003−52187明細書に記載された内容を、本明細書にすべて取り込む。
【実施例】
以下、実施例、参考例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例、参考例によりなんら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、転化率および光学純度はガスクロマトグラフィー(GC)で測定した。ガスクロマトグラフ:アジレントGC−6850に、キャピラリーカラム:CYCLODEX−B(0.25mmφX30m)を装填したものを用いて行った。また、生成物の同定はNMRスペクトル(Bruker ARX400)を用いて行った。なお、Ph基はフェニル基を表す。
参考例1
[(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリシリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミン](以下、錯体の配位子としてはLと略す。)(10.9g,20.0mmol)をジクロロメタン(80mL)に溶解し、酢酸コバルト4水和物(5.98g,24.0mmol)のメタノール溶液(80mL)に加え、室温で15分間撹拌すると、赤色固体が沈殿してきた。0℃で30分間撹拌した後、これを濾取し、乾燥して、Co(L)11.6g(赤色固体)を得た(収率:96%)。
参考例2
Co(L)のトルエン溶液(約1M)に対し2当量の酢酸を加え、大気開放下1時間撹拌した。その後、トルエンを減圧下留去してCo(OAc)(L)を定量的収率で得た。
【実施例1】
大気開放下、2−ボルニルビニルエーテル360mg(2mmol)とHg(L)(OCOCF16mg(0.02mmol)の混合物を2−プロパノール0.5mlに溶解し、水0.09mL(5mmol)を加え、室温で45分間撹拌した。GCで反応混合物を分析したところ、99.8%の転化率で2−ボルニルビニルエーテルが光学活性ボルネオールに転化しており、その光学純度は23%eeであった。

【実施例2】
大気開放下、α−メトキシフェニル酢酸ビニル336mg(2mmol)とPdCl(L)14.8mg(0.04mmol)の混合物を2−プロパノールに溶解し、水0.09mL(5mmol)を加え、80℃で6時間撹拌した。GCで反応混合物を分析したところ、90%の転化率でα−メトキシフェニル酢酸ビニルが光学活性α−メトキシフェニル酢酸に転化しており、その光学純度は12%eeであった。

【実施例3】
大気開放下、2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル168mg(0.92mmol)とCo(OAc)(L)30mg(0.046mmol)を2−プロパノール0.5mlに溶解し、[Pt(L)(HO)](BF10.7mg(0.0092mmol)を加え、撹拌した後、水45μL(2.5mmol)を加え、60℃に加熱した。6時間後、反応液をGCで分析したところ、2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが20%残存し、その光学純度を測定したところ80.8%eeで、(1R,2S)体であった。また、同時に2−tert−ブチルシクロヘキサノールも80%生成し、その光学純度は8.2%eeで、(1S,2R)体であった。

【実施例4】
大気開放下、2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル91mg(0.5mmol)とCo(OAc)(L)6.6mg(0.01mmol)及びトリフルオロメタンスルホン酸カリウム1.8mg(0.01mmol)を2−プロパノール0.5mlに溶解し、撹拌した後、水45μL(2.5mmol)を加え、60℃に加熱した。45時間後、反応液をGCで分析したところ、2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが12%残存し、その光学純度を測定したところ91.5%eeで、(1S,2R)体であった。また、同時に2−tert−ブチルシクロヘキサノールも83%生成し、その光学純度は20%eeで、(1R,2S)体であった。

【実施例5】
大気開放下、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル1.09g(6.00mmol)とCo(OAc)(L)199mg(0.30mmol)をメタノール6.0mlに溶解し、水540μl(30mmol)を加えて、20℃にて攪拌した。11時間後、反応液をGCで分析したところ、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが23%残存し、その光学純度を測定したところ92%eeで、(1R,2R)体であった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、反応基質である2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル及び反応生成物である2−tert−ブチルシクロヘキサノールを単離したところ、それぞれ22%及び77%であった。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は4.9であった。
なお、選択性を示す、両鏡像体の反応速度比krelは、以下の計算式で算出した(以降の実施例のすべてについても同様である)。

(ただし、eeは未反応基質の鏡像体過剰率、convは反応の変換率を表す。)
【実施例6】
実施例5において、反応温度を−10℃、反応時間を103時間とした以外は、実施例5と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが32%残存し、その光学純度を測定したところ91%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物である2−tert−ブチルシクロヘキサノールが68%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は7.4であった。
【実施例7】
実施例5において、Co錯体をCo(L)に替え、反応時間を140時間とした以外は、実施例5と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが25%残存し、その光学純度を測定したところ94%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物である2−tert−ブチルシクロヘキサノールが75%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は5.8であった。
参考例3
大気開放下、2,4−ジニトロフェノール(20%含水)5.8mg(0.025mmol)とCo(L)15.1mg(0.025mmol)をトルエン50μlに溶解し、室温(20℃)にて1時間攪拌した後、減圧下でトルエンを留去し、Co[OC(2,4−(NO)](L)錯体を得た。得られた錯体は精製せずにそのまま以下の反応に用いた。
【実施例8】
参考例3で得られたCo錯体とcis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル91.5mg(0.50mmol)をメタノール0.5mlに溶解し、水45μl(2.5mmol)を加えて、−10℃にて攪拌した。77時間後、反応液をGCで分析したところ、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテル(1a)が38%残存し、その光学純度を測定したところ90%eeで、(1R,2R)体であった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物である2−tert−ブチルシクロヘキサノールが62%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は10.0であった。
【実施例9】
実施例8において、ビニルエーテルの開裂反応の反応温度を20℃、反応時間を10時間とした以外は、実施例8と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、cis−2−tert−ブチルシクロヘキシルビニルエーテルが27%残存し、その光学純度を測定したところ90%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物である2−tert−ブチルシクロヘキサノールが73%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は5.4であった。
【実施例10】
大気開放下、DL−メンチルビニルエーテル183mg(1.00mmol)とCo(OAc)(L)19.9mg(0.030mmol)を2−プロパノール1.0mlに溶解し、水90μL(5.0mmol)を加えて、−10℃にて攪拌した。10時間後、反応液をGCで分析したところ、メンチルビニルエーテルが32%残存し、その光学純度を測定したところ92%eeで、(1R,2S,5R)体であった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、反応基質であるメンチルビニルエーテル及び反応生成物であるメントールを単離したところ、それぞれ28%及び68%であった。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は7.8であった。
【実施例11】
実施例10において、反応温度を20℃、反応時間を3時間とした以外は、実施例10と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、メンチルビニルエーテルが32%残存し、その光学純度を測定したところ79%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物であるメントールが68%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は4.9であった。
【実施例12】
実施例10において、溶媒の2−プロパノールをメタノールに替え、反応温度を20℃、反応時間を1時間とした以外は、実施例10と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、メンチルビニルエーテルが27%残存し、その光学純度を測定したところ58%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物であるメントールが73%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は2.5であった。
【実施例13】
実施例10において、溶媒の2−プロパノールをメタノールに替え、反応時間を2時間とした以外は、実施例10と同様にして反応を行い、反応液をGCで分析したところ、メンチルビニルエーテルが12%残存し、その光学純度を測定したところ76%eeであった。更に反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物であるメントールが88%の収率で得られた。また、この時の反応の選択性を示すkrel値は2.3であった。
【実施例14】
大気開放下、O−ビニルビナフトール62.4mg(0.20mmol)とCo(OAc)(L)1.3mg(0.002mmol)をメタノール50μlに溶解し、水18μl(1.0mmol)を加えて、−10℃にて攪拌した。5時間後、反応液をHPLCで分析したところ、O−ビニルビナフトールが89%残存し、その光学純度を測定したところ10%eeであった。また、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物であるビナフトールが11%の収率で得られた。この時の反応の選択性を示すkrel値は11.0であった。
【実施例15】
大気開放下、2−アセチルオキシ−2’−ビニルオキシ1,1’−ビナフチル30.4mg(0.086mmol)とCo(OAc)(L)2.8mg(0.004mmol)をメタノールとTHFの混合溶媒(2:1)90μlに溶解し、水8μl(0.44mmol)を加えて、0℃にて攪拌した。10時間後、反応液をHPLCで分析したところ、2−アセチルオキシ−2’−ビニルオキシ1,1’−ビナフチルが66%残存し、その光学純度を測定したところ44%eeであった。また、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、反応生成物であるO−アセチルビナフトールが34%の収率で得られた。この時の反応の選択性を示すkrel値は20.7であった。
【実施例16】
大気開放下、2−アセチルオキシ−2’−ビニルオキシ−1,1’−ビナフチル95.8mg(0.27mmol)とCo(OAc)(L)9.0mg(0.014mmol)をメタノールとTHFの混合溶媒(2:1)0.27mlに溶解し、水25μl(1.4mmol)を加えて、0℃にて攪拌した。21時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、2−アセチルオキシ−2’−ビニルオキシ−1,1’−ビナフチルが34%残存し、その光学純度をHPLCにより測定したところ、86%eeであった。また、反応生成物であるO−アセチルビナフトールが66%の収率で得られた。この時の反応の選択性を示すkrel値は6.6であった。
【実施例17】
実施例16において、2−アセチルオキシ−2’−ビニルオキシ−1,1’−ビナフチルの代りに2−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2’−ビニルオキシ−1,1’−ビナフチルを用い、反応温度20℃、反応時間22時間とした以外は、実施例16と同様にして反応を行い、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、2−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2’−ビニルオキシ−1,1’−ビナフチルが67%残存し、その光学純度をHPLCにより測定したところ、38%eeであった。また、反応生成物であるO−アセチルビナフトールが33%の収率で得られた。この時の反応の選択性を示すkrel値は12.7であった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、アルケニルエステル類の加水分解反応やアルケニルエーテル類の開裂反応を利用した光学活性化合物の製造方法を提供するものであり、高濃度で反応が出来、酸性化合物や塩基性化合物を用いる必要が無く、また、酵素反応や微生物を用いた反応のように緩衝液や栄養源等の必要もなく、ラセミ体の原料から、容易に光学活性カルボン酸や光学活性アルコールを得ることが出来る。
また、本発明の製造法によれば、アルケニルエステル類やアルケニルエーテル類の光学活性体を製造することも可能であり、必要に応じて、各種反応条件、錯体の種類やモル比、水の量、溶媒等を適宜置き換えて反応を行うことにより、アルケニルエステル類やアルケニルエーテル類の光学活性体をよりリッチに得ることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]

(式中、R、R及びRは、互いに異なって、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアラルキルチオ基、置換基を有していてもよいベンゾイルオキシ基、トリ置換シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、水酸基、テトラヒドロピラン−2−イルオキシ基又はメルカプト基を表す。また、R、R、Rの何れか二つで環を形成していてもよく、その環は環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基を表し、RとR又はRとRとで隣接している二重結合の炭素原子と一緒になって環を形成していてもよい。Aはメチレン基、カルボニル基又は単結合を表す。)
で表される化合物に、下記一般式[2]、[3]、[4]又は[5]

(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、メチル基又はメトキシ基を表し、R及びR10は水素原子を表す。また、RとR及び/又はRとR10が一緒になって環を形成していてもよく、その環は環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。)

(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)

(式中、R17及びR18は、それぞれ独立してアルキル基又はフェニル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)

(式中、R19はアルキル基又はフェニル基を表し、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物の何れかを配位子として有する遷移金属錯体1種以上の存在下、水を作用させることを特徴とする下記一般式[6]

(式中、R、R及びAは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物の製造法。
【請求項2】
一般式[1]及び一般式[6]において、Aがカルボニル基である請求の範囲第1項に記載の製造法。
【請求項3】
一般式[1]及び一般式[6]において、Aがメチレン基又は単結合である請求の範囲第1項に記載の製造法。
【請求項4】
遷移金属錯体が周期表で9〜12族に属する遷移金属の錯体である請求の範囲第1項〜第3項の何れかに記載の製造法。
【請求項5】
周期表で9〜12族に属する遷移金属の錯体が周期表で9族、10族又は12族に属する遷移金属の錯体である請求の範囲第4項に記載の製造法。
【請求項6】
周期表で9族に属する遷移金属がコバルトである請求の範囲第5項に記載の製造法。
【請求項7】
周期表で10族に属する遷移金属がパラジウム又は白金である請求項の範囲第5項に記載の製造法。
【請求項8】
周期表で12族に属する遷移金属が水銀である請求の範囲第5項に記載の製造法。
【請求項9】
有機溶媒中で反応を行う請求の範囲第1項〜第8項の何れかに記載の製造法。
【請求項10】
一般式[1]で表される化合物の光学活性体を併せて製造する請求の範囲第1項〜第9項の何れかに記載の製造法。

【国際公開番号】WO2004/076391
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502817(P2005−502817)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000729
【国際出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】