説明

光安定性が改善された薬剤

【課題】α−リポ酸等の薬剤成分の熱安定性及び光安定性が向上し、特に長期にわたって光照射下に保持された場合にも、光分解が有効に抑制され、長期光安定性に優れた経口または経皮薬剤を提供する。
【解決手段】α−リポ酸等の薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体と、鉄分含有粒子とを含有する粉末からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−リポ酸等の光安定性の低い薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体と、鉄分含有粒子とを含有する薬剤に関する。より詳細には、α−リポ酸、コエンザイムQ10、レチノール等の薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体と、鉄分含有粒子とを含有しており、経口投与或いは経皮吸収により適用される薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
α−リポ酸(チオクト酸)は天然産生分子であり、ある種の酵素のための補因子として作用し、優れた抗酸化剤やフリーラジカル捕捉剤として働く。このようなα−リポ酸は、II型糖尿病に対してインスリン感受性を改善し得ることが知られており、糖尿病、アルコール性疾患、各種の神経障害に対しての治療用薬剤成分として使用されている。また、α−リポ酸は、ビタミンの一種であり、最近では、栄養補助剤などとしても使用されている。
【0003】
ところで、α−リポ酸は、熱安定性や光安定性が低いという欠点があり、例えば保存中に熱や光により劣化し、場合によってはイオウ臭のごとき不快な異臭を発生することもある。
【0004】
このようなα−リポ酸の熱安定性や光安定性を改善するために、例えばα−リポ酸をシクロデキストリンに取り込んだ包接体として使用することが知られている(特許文献1)。
【0005】
シクロデキストリン(CD)は、D−グルコピラノース単位からなる環状オリゴ糖であり、1分子に含まれるグルコース単位の数により、α−CD(6量体)、β−CD(7量体)、γ−CD(8量体)と呼ばれている。このようなシクロデキストリンは、環状分子中の空洞に種々のゲスト化合物を取り込み、包接体を形成するという特異な性質を有しており、α−リポ酸を取り込んだシクロデキストリン包接体では、α−リポ酸に光や熱が直接作用することが防止され、これにより、α−リポ酸の上記欠点が改善されるものと思われる。
【特許文献1】特開2006−169253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、α−リポ酸が取り込まれたシクロデキストリン包接体では、α−リポ酸の熱安定性に関しては、確かに向上するのであるが、その光安定性の改善が不十分であり、特に長期間にわたって光が照射された条件下では、その光安定性が不満足である。例えば、このシクロデキストリン包接体を、太陽光照射下に20日間保持した場合、約50%のα−リポ酸が光分解してしまう。
【0007】
従って、本発明の目的は、α−リポ酸等の薬剤成分の熱安定性及び光安定性が向上し、特に長期にわたって光照射下に保持された場合にも、光分解が有効に抑制され、長期光安定性に優れ、経口投与或いは経皮吸収により使用される薬剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、α−リポ酸等の薬剤成分がシクロデキストリンに取り込まれた包接体と鉄分含有粒子とが複合した形態で含有し、該薬剤成分の長期光安定性が向上した経口または経皮薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、α−リポ酸等の薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体が、鉄成分と共存する場合には、α−リポ酸等の薬剤成分の光安定性、特に長期光安定性が向上するという新規知見を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、α−リポ酸、コエンザイムQ10、レチノール、クロロフィル、カロテノイド類、フラボノイド及びスチルベノイドからなる群より選択された少なくとも1種の薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体と、鉄分含有粒子とを含有する粉末からなる薬剤が提供される。
【0010】
本発明においては、
(1)前記薬剤成分が、α−リポ酸、コエンザイムQ10またはレチノールであること、
(2)前記薬剤成分が、100重量部のシクロデキストリンに対して5乃至50重量部の量で包接されていること、
(3)鉄分含有粒子が、鉄化合物の粒子または鉄分含有粘土の粒子であること、
(4)鉄分含有粒子が、鉄酸化物(Fe)換算で2重量%以上の量で鉄成分を含有していること、
(5)鉄化合物の粒子が、ベンガラまたは鉄コロイド粒子であること、
(6)鉄分含有粘土の粒子が鉄分含有スメクタイト系粘土であり、鉄酸化物(Fe)換算で、3重量%以上の量で鉄原子を含んでいるベントナイトまたは酸性白土であること、
(7)シクロデキストリンがγ型シクロデキストリンであること、
(8)経口投与剤または経皮吸収剤として使用されること、
(9)化粧料に配合して使用されること、
(10)栄養補助剤として使用されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬剤は、α−リポ酸等の光安定性や熱安定性の低い薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体を含有するものであるが、該包接体と共に、鉄化合物の粒子や鉄分含有粘土の粒子などの鉄分含有粒子が共存している。
【0012】
即ち、α−リポ酸が取り込まれたシクロデキストリン包接体では、先にも述べたように、α−リポ酸の熱安定性は向上しているものの、光安定性は不十分である。しかるに、本発明では、シクロデキストリン包接体と共存しているために、熱安定性が損なわれること無く、その光安定性が顕著に向上し、例えば、後述する実施例1の薬剤では、20日間、太陽光の照射下に保持していた場合にも、α−リポ酸の残存率(光分解しないで残存している割合)は74%と極めて高い。因みに、α−リポ酸が包接されたシクロデキストリン包接体が鉄分と共存していない系では、その残存率は約50%である(比較例1)。
【0013】
また、α−リポ酸と同様に光安定性の低いコエンザイムQ10において、後述する実施例8では、42日間太陽光の照射下に保持していた場合にも、コエンザイムQ10の残存率(光分解しないで残存している割合)は42%と、鉄分を添加しない場合に比べ(比較例3は34%)高い。レチノールにおいても、後述する実施例9では、20日間太陽光の照射下に保持していた場合にも、レチノールの残存率(光分解しないで残存している割合)は60%と、鉄分を添加しない場合(比較例4は49%)に比べて高い。
【0014】
上記のことから理解されるように、本発明においては、鉄分自体が光を吸収もしくは反射し、この結果、シクロデキストリン中に取り込まれているα−リポ酸等の薬剤成分の光安定性が向上するものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<シクロデキストリン包接体>
本発明の薬剤において、有効薬剤成分としてはα−リポ酸、コエンザイムQ10(補酵素)、レチノール(ビタミンA)が好適に使用され、α−リポ酸が最も好適であるが、これら以外にも、クロロフィル(葉緑素)、β−カロテン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン等のカロテノイド類、アントシナニン等のフラボノイドやスチルベノイドを、それぞれ単独或いは組み合わせて使用することができ、α−リポ酸等を用いた場合と同様、その光安定性を向上させることができる。本発明において、α−リポ酸等の薬剤成分は、シクロデキストリン(以下、CDと略す)に取り込まれたCD包接体の形態で使用される。
【0016】
α−リポ酸は、1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸であり、ビタミン様物質に分類され、ビタミンB14とも称されている。この化合物は、先にも述べたように、熱安定性及び光安定性が低く、熱や光によって分解し、イオウ臭の如き悪臭を発生する。
コエンザイムQ10は、ユビキノンであり、補酵素Q、ビタミンQ、CoQ10、ユビデカレノンとも称される。一般名ユビデカレノンとして日本薬局方に収載され、技術情報がJPTI2001や日本薬局方外医薬品規格に収載されている。コエンザイムQ10の融点が約48℃、黄色〜橙色の結晶粉末で、脂溶性物質であり水にほとんど溶解しない。また、熱や光により徐々に分解する。
レチノールは、ビタミンAの前駆体(プロビタミンA)であり体内に消化吸収されビタミンAに変換され動物の成長、正常な視力維持に必須のビタミンである。ビタミンAは皮膚の角化作用を正常にし、粘膜を保護する役割を持っているが、熱や光により徐々に分解する。
本発明では、このようなα−リポ酸等薬剤成分をCDに包接させることにより、この熱安定性が改善される。
【0017】
一方、CDは、先にも述べたように、環状オリゴ糖であり、α−CD(6量体)、β−CD(7量体)、γ−CD(8量体)の3種がある。これらのCDは、何れも、環状分子中の空洞に種々のゲスト化合物を取り込み、包接体を形成するという性質を有しており、本発明では、これらCDの何れをも使用することができるが、最も好ましくは、γ−CDが好適に使用される。
【0018】
α−リポ酸等の薬剤成分をCDに包接させる手段としては、公知の手段を採用することができ、例えば、薬剤成分とCDとを、約40℃程度に加温された水中に投入して懸濁分散させ、数時間にわたって攪拌を続ける。これにより、薬剤成分は水中に溶解し、CDの分子内部の空洞に侵入する。従って、この分散液を冷却し、ろ別し、さらに凍結乾燥することにより、薬剤成分のCD包接体の微粉末を得ることができる。
【0019】
上記のようなCD包接体において、薬剤成分は、CD100重量部当り、5乃至50重量部、好ましくは6乃至35重量部、最も好ましくは7乃至35重量部の量で使用するのがよい。即ち、上記範囲よりも少量である場合には、薬剤成分の効能が十分に発揮されにくくなり、また上記範囲よりも多量に使用すると、CD分子の内部からはみ出した薬剤成分の量が多くなり、この結果、CDの包接による熱安定性や光安定性の向上が不十分となるおそれを生じるからである。
【0020】
<鉄分含有粒子>
本発明においては、上記のCD包接体と鉄分含有粒子とを混合して粉末とする。即ち、かかる鉄分含有粒子に含まれる鉄分が光安定剤として作用し、CD包接体中の薬剤成分の光安定性が向上するのである。
【0021】
鉄分含有粒子は、鉄酸化物(Fe)換算で2重量%以上、好ましくは3乃至15重量%の量で鉄成分を含有することにより熱安定性と共に光安定性を向上させることができる。
また、本発明において、鉄分含有粒子は、中位径(D50)が10μm以下、好ましくは1.0μm以下の微粒子であることが好適である。即ち、このような微粒子形態の鉄分含有粒子を使用することにより、薬剤成分が取り込まれたCD包接体と該鉄分含有粒子が均一に混合され、鉄分含有粒子の光安定剤としての機能が十分に発揮され、CD包接体中の光安定性を有効に向上させることが可能となる。
【0022】
本発明においては、前述したCD包接体は、鉄分含有粒子中にまぶされていることが好適である。このような場合には、後述する実施例1、2に示されているように、黄色度が40以下で、見た目にも不安定感を与えない色調となり、経口投与や経皮吸収に際して、使用者に不快感を与えないからである。
【0023】
本発明において、上述した鉄分含有粒子としては、所定量の鉄を含有している限り、種々のものを使用することができる。具体的には、食品添加物として認可されている各種の鉄酸化物、例えばFe(ベンガラ、鉄コロイド)、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄(二価鉄)、塩化第二鉄(三価鉄)、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、鉄クロロフィリンナトリウム、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄や、鉄分含有粘土、例えば鉄分含有スメクタイト系粘土などを例示することができる。これらの中でも、微粒子形態のものを容易に得ることができるという点で、Fe(鉄コロイド)や鉄分含有スメクタイト系粘土が好適であり、特にCD包接体を取り込んだ粒子を生成し得るという観点から、鉄分含有スメクタイト系粘土の中でも鉄分含有のベントナイトが特に好適である。
【0024】
即ち、スメクタイト系粘土としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどのジオクタヘドラル型スメクタイトを主成分とするもの(酸性白土、ベントナイト)と、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのトリオクタヘドラル型スメクタイトを主成分とするものが代表的である。主成分であるスメクタイトは、SiO四面体層−AlO八面体層−SiO四面体層からなり、且つこれらの四面体層と八面体層が部分的に異種金属で同形置換された三層構造を単位層としており、このような単位層の積層層間には、Ca,K,Na等の陽イオンや水素イオンとそれに配位している水分子が存在している。また、三層構造の八面体層中の元素の一部がMgやFe(II)に置換したり、四面体層中のSiの一部がAlに置換したりしているため、単位層はマイナスの電荷を有しており、このマイナスの電荷が基本層間に存在する金属陽イオンや水素イオンにより中和されている。このようなスメクタイトを主成分とする粘土は、単位層間に存在する陽イオンの種類や量、及び水素イオン量などによってそれぞれ異なる特性を示すが、何れも水分散性を有しており、このため、水に分散させて攪拌することにより、微粒子状に調整することができる。特に、Na型ベントナイトでは、単位層間に存在するNaイオン量がCa型ベントナイトや酸性白土に比して多く、このため、水分散性が高く、本発明では好適に使用され、Ca型ベントナイトや酸性白土でもアルカリ処理によるNaイオンの導入により、水分散性を高めることができる。
【0025】
また、本発明において使用されるスメクタイト系粘土は、鉄分を多く含んでいるものが好適であり、例えば、本発明において、最も好適に使用されるベントナイトの組成は必ずしもこれに限定されるものでないが、一例として、酸化物換算で、以下の通りである。
SiO: 58.3重量%
Al; 17.0重量%
NaO; 1.8重量%
CaO; 1.6重量%
Fe; 9.0重量%
その他の酸化物(MgOなど); 5.4重量%
強熱減量; 7.5重量%
【0026】
上記の組成において、Feは、三層構造の八面体層中のAlの一部に置換されて存在していることが好ましく、特に、八面体層中に組み込まれているFe量が、酸化物換算で3重量%以上の範囲にあるのがよい。即ち、鉄分の多くがスメクタイトの単位層から成る基本骨格中に組み込まれて存在しているものの方が、長期にわたって光安定性を高めることができる。この理由は明確ではないが、おそらく、スメクタイト骨格中に組み込まれているFe原子は各々孤立して存在しており、Feなどのように酸素を介して縮合している場合に比して、化学的に不安定であり、このため、光吸収もしくは反射能が高く、優れた光安定性向上効果を示すのではないかと思われる。粘土における鉄の酸化状態の分別定量は難しいが、Feは、二価の状態よりも三価の状態の方が好ましいと思われる。
【0027】
本発明において、上記のように鉄分を多く含むベントナイトは、例えばインドに多く産出され、必要により、これを炭酸ソーダやNaCl、NaOHなどのアルカリ化剤によってアルカリ処理することにより得られる。
【0028】
<薬剤の製造>
上述したα−リポ酸等の薬剤成分が取り込まれたCD包接体と鉄分含有粒子とを含む粉末とからなる本発明の薬剤は、最も簡単には、鉄分含有粒子とCD包接体の粉末とを混合することにより得られるが、鉄分含有粒子を前述した微粒子状とし、CD包接体をこの微粒子中にまぶすためには、適当な粒度に粗粉砕された鉄分含有粒子を水に懸濁分散させて0.1乃至5重量%程度の水分散液を調製し、この分散液に所定の量のCD包接体の粉末を室温乃至50℃程度の温度に加温しながら1日〜10日程度、攪拌を続け、次いで凍結乾燥し、篩にかけて大径の粒子を除去することにより得られる。この場合、ベントナイトのように、特に水分散性の良好なスメクタイト系粘土を使用した場合には、その分散粒子中にCD包接体が取り込まれて一体化されることとなる。
【0029】
上記のようにして得られた粉末は、有効成分である薬剤成分がシクロデキストリンに包接されているため、その熱安定性が向上しており、またこのようなCD包接体が光安定剤として機能する鉄分含有粒子により保護されているため、α−リポ酸に代表される薬剤成分の光安定性も著しく向上している(図2参照)。例えば、α−リポ酸や、α−リポ酸を取り込んだCD包接体(比較例1)は、340nm付近の電子線を吸収するためか、この波長領域における反射率はきわめて低い。一方、本発明にしたがって粘土を用いた薬剤(実施例1、2、3)は、含有する鉄化合物がこの波長領域の電子線をより効果的に反射するため、包接体に取り込まれている薬剤に到達する電子線が激減し、光安定性が向上したと考えられる。
【0030】
従って、かかる粉末は、保存安定性が極めて高く、経口投与され、または経皮吸収に使用される薬剤として、例えば、糖尿病、アルコール性疾患、各種の神経障害に対しての治療用薬剤として使用される。さらに、栄養補助剤としても使用することができるばかりか、経皮吸収に使用される薬剤として、化粧料に配合して使用することもできる。
なお、かかる薬剤は、経口投与される場合には、通常、粉末の形態で使用されるが、必要により、顆粒状、タブレット状等の任意の形状に成形して使用に供することもできる。また、経皮吸収させる場合には、オイルやワックスなどと練ることによってペースト状にし、皮膚に塗布するなどして使用される。
更に、ペットフードあるいは動物飼料用の添加剤として用いることもでき、特に鉄分含有粒子として粘土を用いる場合には、経口投与による人体への適用が薬理法等により制限されることがあるため、このようペット乃至動物飼料用としての使用が好適である。
【実施例】
【0031】
以下の実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、実施例における測定は、以下の方法で行った。
【0032】
(1)化学組成
強熱減量(Loss on Ignition)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ナトリウム(NaO)の分析はJIS.M.8853:1998に準拠して測定した。
また、Fe、CaO、MgO、KOは原子吸光法を用いた。なお、測定試料は110℃乾燥物を基準とする。
【0033】
(2)粒径測定
Malvern社製Mastersizer2000を使用して、レーザ回折散乱法あるいは
Malvern社製Zetasizer3000HSを使用して、動的光散乱法で測定し、中位径(D50)を求めた。
【0034】
(3)黄色度
JIS K−7105に準じて、東京電色(株)製オートマチック反射計TR−600型を用いて測定した。
【0035】
(4)電子スペクトル
試料粉末を円盤状に圧縮成型した物を固体試料ホルダにはさみ、積分球装置ISV−469型を取り付けた日本分光(株)製可視紫外分光光度計Ubest V−560型を用いて電子スペクトルを測定した。
【0036】
(5)光安定性試験
試料を透明なプラスチックシャーレに量り取り、直射日光下で静置させる。経時的に試料を回収し、リポ酸残存率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析し光安定性を評価した。なお、クロマトグラフィーの測定条件は、以下の表1に示すようにして行った。
【0037】
【表1】

【0038】
(6)熱安定性試験
サンプルを100mg程度サンプル瓶に量り取り、温度70℃、飽和水蒸気中で2時間静置させた後の、薬剤成分含有率をHPLCで分析した。HPLC分析方法は光安定性試験と同様の条件で行った。
【0039】
(比較例1)
α−リポ酸が22.5%取り込まれたγ−シクロデキストリン包接体粉末(株式会社シクロケム製αリポ酸CD−20)について分析を行い、結果を表2に示す(この試料を粉末1とする)。
【0040】
(実施例1)
インド国産ベントナイト粉末100gに、NaCOを3.2g添加混合した。関係湿度35%のデシケータに一晩置いてから、水10Lに入れ、撹拌分散させた。一晩静置し、上層懸濁液を遠心分離し、回収した固形分を凍結乾燥し、45gのNa型ベントナイト(B−1とする)を得た。動的光散乱法での中位径は0.51μmであった。
次に、予め煮沸放冷しておいた水300gにB−1を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体粉末5.0gを添加し、218時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤1を得た。得られた薬剤1について分析を行い、結果を表2に示す。
【0041】
(実施例2)
実施例1において、インド国産ベントナイト粉末の代わりに山形県産酸性白土(1)粉末(動的光散乱法での中位径は0.26μm)を用いたほかは同様に行って薬剤2を得た。得られた薬剤2について分析を行い、結果を表2に示す。
【0042】
(比較例2)
実施例1において、インド国産ベントナイト粉末の代わりに新潟県産酸性白土(1)粉末(動的光散乱法での中位径は0.31μm)を用いたほかは同様に行ってNa型ベントナイト(B−2とする)を得た。
次に、予め煮沸放冷しておいた水300gにB−2を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体粉末5.0gを添加し、218時間撹拌を継続した後、凍結乾燥した。
得られた乾燥物10gとTiO(ルチル;レーザ回折散乱法での中位径が0.86μm)の0.2gとを、日陶科学(株)製自動乳鉢ANM1000型で5分間混合粉砕し粉末2を得た。得られた粉末2について分析を行い、結果を表2に示す。
【0043】
(実施例3)
予め煮沸放冷しておいた水300gにB−2を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体5.0gとFeSO・(NH)SO・6HO(Mohr塩)0.16gを添加し、87時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤3を得た。得られた薬剤3について分析を行い、結果を表2に示す。
【0044】
(実施例4)
FeCl・6HOを10.0g水に溶解して38gの塩化鉄水溶液を得た。沸騰している水20gに、この塩化鉄水溶液を一気に注下し、放冷して赤ワイン色の鉄コロイドを54g得た。
次に、予め煮沸放冷しておいた水300gにB−2を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体5.0gを添加し、さらに上記鉄コロイドを2.0g添加して、47時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤4を得た。得られた薬剤について分析を行い、結果を表2に示す。
【0045】
(実施例5)
比較例2において、TiOに変えて、Fe(レーザ回折散乱法での中位径が9.8μm)を用いた以外は同様にして行い、薬剤5を得た。得られた薬剤5について分析を行い、結果を表2に示す。
【0046】
(実施例6)
比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体粉末の5gと実施例1で用いたインド国産ベントナイト粉末の5gとを、日陶科学(株)製自動乳鉢ANM1000型で5分間混合粉砕し薬剤6を得た。得られた薬剤6について分析を行い、結果を表2に示す。
【0047】
(実施例7)
予め煮沸放冷しておいた水300gにコロイダルシリカ(固形分20%;動的光散乱法での中位径が0.043μm)を25.0g添加し、電磁撹拌して分散させた。そこに、比較例1で用いたγ−シクロデキストリン包接体5.0gとFeSO・(NH)SO・6HO(Mohr塩)0.16gを添加し、218時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤7を得た。得られた薬剤7について分析を行い、結果を表2に示す。
【0048】
(比較例3)
コエンザイムQ10が21.4%取り込まれたγ−シクロデキストリン包接体粉末(株式会社シクロケム製CoQ10W)5.0gに結晶セルロース5.0gを添加した粉末4について分析を行い、結果を表2に示す。また、光安定性試験において42日後の残存率は34%であった。
【0049】
(実施例8)
山形県産酸性白土(2)粉末194gを水1.5Lに入れ、撹拌分散させた。37μmの篩を通過した微粒子懸濁液を遠心分離し、回収した固形分を凍結乾燥し、63gの酸性白土(B−4とする)を得た。動的光散乱法での中位径は0.37μmであった。
予め煮沸放冷しておいた水120gにB−4を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例3で用いたγ−シクロデキストリン包接体粉末5.0gを添加し、120時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤8を得た。得られた薬剤8について分析を行い、結果を表2に示す。
また、光安定性試験において42日後の残存率は42%であった。
【0050】
(比較例4)
レチノールが7.8%取り込まれたγ−シクロデキストリン包接体粉末(株式会社シクロケム製レチノール/γCD)5.0gに結晶セルロース5.0gを添加した粉末5について分析を行い、結果を表2に示す。
【0051】
(実施例9)
実施例1において、インド国産ベントナイト粉末の代わりに新潟県産酸性白土(2)粉末(動的光散乱法での中位径は0.30μm)を用いたほかは同様に行ってNa型ベントナイト(B−5とする)を得た。
予め煮沸放冷しておいた水100gにB−5を5.0g添加し、一晩、電磁撹拌し充分に分散させた。そこに、比較例4で用いたγ−シクロデキストリン包接体粉末5.0gを添加し、72時間撹拌を継続した後、凍結乾燥して薬剤9を得た。得られた薬剤9について分析を行い、結果を表2に示す。
【0052】
(参考例)
実施例2において、γ−シクロデキストリン包接体の代わりに株式会社シクロケム製α−シクロデキストリン包接体を用いた他は同様に行って粉末3を得た。得られた粉末3について分析を行い、結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】光安定性を示す図である。
【図2】実施例1、2、3、7、比較例1およびリポ酸の電子スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リポ酸、コエンザイムQ10、レチノール、クロロフィル、カロテノイド類、フラボノイド及びスチルベノイドからなる群より選択された少なくとも1種の薬剤成分が取り込まれたシクロデキストリン包接体と、鉄分含有粒子とを含有する粉末からなる薬剤。
【請求項2】
前記薬剤成分が、α−リポ酸、コエンザイムQ10またはレチノールである請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記薬剤成分が、100重量部のシクロデキストリンに対して5乃至50重量部の量で包接されている請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
鉄分含有粒子が、鉄化合物の粒子または鉄分含有粘土の粒子である請求項1乃至3の何れかに記載の薬剤。
【請求項5】
鉄分含有粒子が、鉄酸化物(Fe)換算で2重量%以上の量で鉄成分を含有している請求項1乃至4の何れかに記載の薬剤。
【請求項6】
鉄化合物の粒子が、ベンガラまたは鉄コロイド粒子である請求項4に記載の薬剤。
【請求項7】
鉄分含有粘土の粒子が鉄分含有スメクタイト系粘土であり、鉄酸化物(Fe)換算で、3重量%以上の量で鉄原子を含んでいるベントナイトまたは酸性白土である請求項4に記載の薬剤。
【請求項8】
シクロデキストリンがγ型シクロデキストリンである請求項1乃至7の何れかに記載の薬剤。
【請求項9】
経口投与剤として使用される請求項1乃至8の何れかに記載の薬剤。
【請求項10】
経皮吸収剤として使用される請求項1乃至8の何れかに記載の薬剤。
【請求項11】
化粧料中に配合される請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
栄養補助剤として使用される請求項1乃至8の何れかに記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106041(P2008−106041A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231857(P2007−231857)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【Fターム(参考)】