説明

光接続装置の製造法及びその光接続装置

【目的】 本発明は、光通信分野で使用される光接続装置の製造法に関し、光配線層の端面加工過程で切断された箇所を自己形成光導波路により適宜接続すること。
【構成】 光配線層Aの光軸に対して90度光路変換が可能になるように対称的に45度ミラー面3としてV字溝4を形成すること。該V字溝4に前記光配線層A端面の屈折率差を消失させる感光性媒質Bを充填する。前記光配線層Aの所望の光導波路1から直進する伝搬光により前記感光性媒質B内に自己形成光導波路7を形成する。該自己形成光導波路7の形成後に、前記感光性媒質Bを除去することで光接続装置を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野で使用される光接続装置に関し、特に、光配線層の端面加工過程で切断された箇所を自己形成光導波路により適宜接続することができる光接続装置の製造法及びその光接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送される情報量の増加に伴い、より一層の高速大容量伝送が求められている。そのため、長距離伝送だけでなく、コンピュータ内部などの短距離伝送でも、装置の高速化・高密度化が求められてきている。しかし、従来の電気配線による情報伝送では、配線間の信号の干渉や、配線距離の長尺化による伝搬遅延などの問題が顕著に表れてきている。そこで、従来の電気配線を光配線へ置き換える、光通信技術が注目されている。光には、電気のような混信や遅延などの問題がないため、装置の高密度化、高速化に適している。しかし、光配線を導入するには、いくつかの課題が残る。まず、光素子間、もしくは光配線間を接続する際の実装コストが挙げられる。これは、光接続の難しさに起因している。電気配線の場合、はんだ等の接合材料を使用すれば、厳密な調心を必要とせずに情報伝送を行えた。しかし、光配線は、光の直進性のため、数ミクロンオーダーの厳密な調心が必要となる。そのため、精度の高い実装装置を使用しなければならず、コストの上昇へと直結する。
【特許文献1】特開2000−347043
【非特許文献1】エレクトロニクス実装学術講演大会,18B-03,p.103,2003.3
【0003】
この問題を解決するために、特許文献1に示すように、自己形成光導波路による簡易接続法が提案されている。自己形成光導波路とは、光を感光性媒質に照射するだけで作製可能な光導波路である。既設の光導波路を伝搬する光によって自己形成光導波路を作製する場合、既設の光導波路と自己形成光導波路は無調心で光接続できる。そのため、厳密な調心を必要とせず、実装コストの低下につながると考えられる。自己形成光導波路を用いることにより、光結合効率や機械的強度が向上するという利点もある。
【0004】
また、短距離配線の光実装時に必須となるのが、90度光路変換である。通常、短距離配線の発光素子には、VCSEL(面発光レーザ:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)、受光素子にはPD(Photo Diode)が用いられる。これらの光素子は、基板の垂直方向に光軸を持つ。これに対し、光配線層は基板の水平方向に配置する。つまり、発光・受光素子と光配線層の光軸が90度異なってしまう。そのため、高密度配線が要求されるボードレベルの光実装には、光の角度を90度折り曲げる、90度光路変換が必要不可欠となる。90度光路変換は、光配線層を45度に切断することでミラー面を作製して実現する。光配線層の切断には90度のダイシングブレードを用いて、一括切断する方法が一般的であり、従来公知の光配線層実装モデルの構成図を図7に示した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、90度光路変換は、光配線層をダイシングブレードにより一括切断して実現できる。しかし、一般的に光配線層は複数の光導波路にて構成され、光導波路が数百μm間隔でアレイ状に配置されるが、ダイシングブレードを用いて光配線層を切断すると、アレイ状に並べられた全ての光導波路が切断される。つまり、全ての伝送路が1地点対1地点での情報伝送しか行えなくなるため、配線の自由度は著しく低くなる。今後の発展性を考慮すると、任意の場所に信号を導ける光接続装置が望ましい。1枚の光配線層板で、1地点対N地点もしくは、N地点対N地点での情報伝送を行えることが理想的である。本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、ダイシングブレード等により、一括切断された光配線層を再結合し、配線自由度を向上させ得る光配線層装置の製造法及びその光配線層装置を提供するものである。
【0006】
本発明は、配線の自由度を向上させた光配線層装置の製造法を提供するものであり、特に、ダイシングブレード等によって一括切断されたコア箇所である、V字溝箇所の必要な部分のみ光接続するものであり、この接続には、自己形成光導波路を使用するものである。該自己形成光導波路の作製には、使用する光配線層を導波する光を使用することが必須である。通常、自己形成光導波路の作製には、照射光に紫外光、感光性媒質に紫外線硬化樹脂が用いられる。照射光を伝搬させる媒体に光ファイバーを使用する場合は、紫外光を使用しても問題はない。しかし、ポリイミドなどの光導波路は、紫外吸収が大きいため、紫外光を伝搬することができない。つまり、ポリイミド導波路を使用する場合は、紫外光以外の波長領域をもつ光を使用する必要がある。そこで、ポリイミド導波路を伝搬するグリーンレーザを用いて自己形成光導波路を作製する技術が提案されている(小澤秀明、渡邉則利、村田佳一、尾山雄介、高林幸司、三上修、塩田剛史:“ボード間光インタコネクション向け45度光ピンとVCSELの自己形成接続”)。しかし、グリーンレーザを紫外線硬化性樹脂に照射しても硬化現象は起こらない。
【0007】
そのため、グリーンレーザに吸収ピークを持つ色素(例えばローダミン6G)を調合した、色素混合樹脂を作製し使用することで、グリーンレーザからの自己形成光導波路作製を可能にしている。色素混合樹脂の作製手順について説明する。まず、グリーンレーザの波長に吸収ピークを持つ色素と、エチルアルコールを調合し、色素混合溶液を作製する。ここで、エチルアルコールを使用する理由は、色素を紫外線硬化性樹脂に溶解しやすくするためである。その後、作製した色素混合溶液と、紫外線硬化性樹脂を調合し、色素混合樹脂を作製する。このとき色素は、硬化現象において光増感剤として作用している。以上のように、使用する光配線層に応じて、自己形成光導波路作製時に用いる照射光と、感光性媒質を選択する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、光配線層の光軸に対して90度光路変換が可能になるように対称的に45度ミラー面としてV字溝を形成し、該V字溝に前記光配線層端面の屈折率差を消失させる感光性媒質を充填し、前記光配線層の所望の光導波路から直進する伝搬光により前記感光性媒質内に自己形成光導波路を形成し、該自己形成光導波路の形成後に、前記感光性媒質を除去することを特徴とする光接続装置の製造法としたことにより、前記課題を解決した。また、請求項2の発明を、前記構成において、前記光配線層の光導波路を樹脂にて構成すると共に、前記感光性媒質を色素混合樹脂とし、且つ前記伝搬光をグリーンレーザとしてなることを特徴とする光接続装置の製造法としたことにより、前記課題を解決した。
【0009】
また、請求項3の発明を、前記構成において、前記光配線層の光導波路を光ファイバーにて構成すると共に、前記感光性媒質を紫外線硬化樹脂とし、且つ前記伝搬光を紫外光としてなることを特徴とする光接続装置の製造法としたことにより、前記課題を解決した。請求項4の発明を、前記構成において、前記感光性媒質を除去後に、前記光配線層のV字溝開口側に基板を設けることを特徴とする光接続装置の製造法としたことにより、前記課題を解決した。また、請求項5の発明を、前記構成において、前記感光性媒質を除去後に、前記光配線層のV字溝に硬化性樹脂を充填することを特徴とする光接続装置の製造法としたことにより、前記課題を解決した。さらに、請求項6の発明を、前述の製造法から製造されてなることを特徴とする光接続装置としたことにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明においては、光配線層において加工プロセス時に切断された任意の箇所を、自己形成光導波路によって再結合することにより、光配線層の自由度を著しく向上させることができる。つまり、光配線層を45度に切断したとしても、任意の箇所を再結合できるという特有の効果がある。また、請求項2の発明においては、光導波路が樹脂で構成されている場合において切断された任意の箇所を請求項1の発明と同様に再結合し、光配線における自由度を著しく向上させ得る。また、請求項3の発明では、光導波路が光ファイバーで構成されている場合において切断された任意の箇所を請求項1の発明と同様に再結合し、光配線における自由度を向上させることができる。また、請求項4の発明では、特にV字溝開口側に基板を設けることで補強が簡易にできる利点がある。また、請求項5の発明では、V字溝に硬化性樹脂を充填することで補強等ができる。さらに、請求項6の発明では、加工プロセス時に切断された任意の箇所を、自己形成光導波路によって再結合することができる光接続装置を提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。以下、本発明の具体的な製造手順を説明する。つまり光接続装置の製造法について図1乃至図3に示す。まず、Aは光配線層であって、主に光導波路1,1,…が並列状に形成されている。つまり、光導波路1,1,…がアレイ状に並んで構成されている。該光導波路1は、コア部とその廻りのクラット部1bで構成されている。そして、製造法の最初に、図3(A)に示すように、前記光配線層Aの各光導波路1,1,…を90度ダイシングブレード10にて切断する。該切断によって各光導波路1の端面に、対称的に45度ミラー面3、3としたV字溝4を形成する。このとき、光導波路1,1間に前記V字溝4が形成されていれば、切断時の厳密な角度(45度面)・端面状態・配線間距離は問わない。続いて、切断した光導波路1,1間のV字溝4に、感光性媒質Bを充填する[図3(B)]。このとき、光導波路1と感光性媒質Bの間の屈折率差は、非常に小さくする。すなわち、同等の屈折率差の値である。前記感光性媒質Bの屈折率は、45度ミラー面3付き光導波路1の屈折率に出来るだけ近いほうが望ましい。理由は、屈折率差が小さいほうが45度ミラー面3での反射損失が小さくなるためである。
【0012】
その後、図3(C)に示すように、光配線層Aにおける所望の光導波路1に光を入射する。つまり、光は、接続したい光導波路1にのみ入射させる。このとき使用する光は、光導波路1を伝搬して使用した感光性媒質Bを硬化するものであればよい。ここで入射した光は、45度ミラー面3で90度光路変換されず、そのほとんどが直進する。この理由は、光導波路1と感光性媒質Bとの間の屈折率差が小さく、45度ミラー面3において反射条件を満たさなくなるためである。直進した光によって、一方の光導波路1の端から感光性媒質Bが硬化しつつ、自己形成光導波路7として伸長し、該自己形成光導波路7が他方の光導波路1に到達して、V字溝4を介した両光導波路1,1の接続が完了する[図3(D)]。該接続されて硬化するのは、光導波路1及び感光性媒質B材質、伝搬光の種類にもよるが数秒乃至数十秒であり、自己形成光導波路7が形成されたとの概念は、硬化された後の状態を指すものである。
【0013】
該自己形成光導波路7の形成後、図3(E)に示すように、感光性媒質Bの未硬化の部位を除去する。この除去によって両光導波路1,1の接続されていない箇所は、45度ミラー面3として旧位に戻ることになる[図2(C)]。これによって、所望の両光導波路1,1の接続箇所は光配線層を再結合させることができ[図2(B)及び図3(F)]、配線自由度を向上させることができる。この状態にて完成品としての光接続装置を提供する[図2(A)]。また、必要に応じて、強度確保のために上部から、すなわち、V字溝4の開口側から、適宜な厚さの基板8を接着して[図2(A)鎖線部及び図1]、光接続装置を製造することもある。
【0014】
また、実施形態の変形例としては、前記光配線層Aを光導波路1,1,…にて構成すると共に、前記感光性媒質Bを色素混合樹脂5とし、且つ前記伝搬光をグリーンレーザとした場合の光接続装置の製造法である。すなわち、光導波路1とした場合には、伝搬光としてグリーンレーザが、該グリーンレーザでの感光性媒質Bとしては、色素混合樹脂5がそれぞれ好適である。伝搬光としてグリーンレーザが入射すると、45度ミラー面3で90度光路変換されず、そのほとんどが直進して色素混合樹脂5内で硬化しつつ、自己形成光導波路7として伸長し、該自己形成光導波路7が他方の光導波路1に到達して、V字溝4を介した両光導波路1,1の接続が完了し光接続装置を製造できる。そして、必要に応じて、適宜な厚さの基板8を接着して補強する。
【0015】
また、実施形態の別の変形例としては、前記光配線層Aを光ファイバー2とすると共に、前記感光性媒質Bを紫外線硬化樹脂6とし、且つ前記伝搬光を紫外光とした場合の光接続装置の製造法である。すなわち、光ファイバー2とした場合には、伝搬光として紫外光が、該紫外光での感光性媒質Bとしては、紫外線硬化樹脂6がそれぞれ好適である。伝搬光として紫外光が入射すると、45度ミラー面3で90度光路変換されず、そのほとんどが直進して紫外線硬化樹脂6内で硬化しつつ、自己形成光導波路7として伸長し、該自己形成光導波路7が他方の光ファイバー2に到達して、V字溝4を介した両光ファイバー2,2の接続が完了し光接続装置を製造する。該光ファイバー2が多数並列状に形成されている場合には、必要に応じて、適宜な厚さの基板8を接着して補強することもある。
【0016】
製造した光配線層の実装モデルを図4に示す。特に、基板8が除去された構成であり、前記V字溝4には、硬化性樹脂20が充填されている。該硬化性樹脂20の屈折率は、前記光導波路1に用いられる材質の屈折率と比較して非常に小さいものを使用する。製造された光接続装置には、自己形成光導波路7にて接続された光導波路1と、接続されていない光導波路1とが存在する。接続されていない光導波路1の伝搬光は、45度ミラー面3に到達すると、90度光路変換され受光素子に伝達されるのに対し、自己形成光導波路7にて接続された光導波路1の伝搬光は、90度光路変換されずに自己形成光導波路7へと直進する。これにより、本発明により製造した光接続装置では、任意の場所へ光を導くことが可能となり、配線自由度を著しく向上させることができる。特に、ダイシングブレード10等により、一括切断された光配線層Aであっても、該光配線層Aを再結合して配線自由度を向上させ得るという光配線層装置の製造法及びその光配線層装置を提供するものである。また、本発明の実装モデルの別の実施形態を図5に示す。特に、補強用の基板8が設けられた構成である。その回路構成は図4と同一であり、その説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一部切除した斜視図である。
【図2】(A)は本発明の斜視図、(B)は(A)のX−X矢視断面図、Y−Y矢視断面図である。
【図3】(A)乃至(F)は本発明の製造工程の略示図である。
【図4】は本発明の断面図である。
【図5】は本発明の別の実施形態の断面図である。
【図6】は従来技術の構成図である。
【符号の説明】
【0018】
A…光配線層、1…光導波路、2…光ファイバー、3…45度ミラー面、4…V字溝、B…感光性媒質、5…色素混合樹脂、6…紫外線硬化樹脂、7…自己形成光導波路、
8…基板、20…硬化性樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光配線層の光軸に対して90度光路変換が可能になるように対称的に45度ミラー面としてV字溝を形成し、該V字溝に前記光配線層端面の屈折率差を消失させる感光性媒質を充填し、前記光配線層の所望の光導波路から直進する伝搬光により前記感光性媒質内に自己形成光導波路を形成し、該自己形成光導波路の形成後に、前記感光性媒質を除去することを特徴とする光接続装置の製造法。
【請求項2】
請求項1において、前記光配線層の光導波路を樹脂にて構成すると共に、前記感光性媒質を色素混合樹脂とし、且つ前記伝搬光をグリーンレーザとしてなることを特徴とする光接続装置の製造法。
【請求項3】
請求項1において、前記光配線層の光導波路を光ファイバーにて構成すると共に、前記感光性媒質を紫外線硬化樹脂とし、且つ前記伝搬光を紫外光としてなることを特徴とする光接続装置の製造法。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、前記感光性媒質を除去後に、前記光配線層のV字溝開口側に基板を設けることを特徴とする光接続装置の製造法。
【請求項5】
請求項1,2又は3において、前記感光性媒質を除去後に、前記光配線層のV字溝に硬化性樹脂を充填することを特徴とする光接続装置の製造法。
【請求項6】
請求項1,2,3,4又は5において、その光接続装置の製造法から製造されてなることを特徴とする光接続装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−78607(P2006−78607A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260338(P2004−260338)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】