説明

光機能素子及び光学認証システム

【課題】従来から提案されている電子的情報に基づく認証システムとは異なる、セキュリティ性に優れた認証システムを提供可能とすること
【解決手段】透光性を有する平板状の第1の基板11内に、微小構造体12を所定の配列パターンで複数個に亘って配列させた第1の偏光素子10と、透光性を有する平板状の第2の基板21内に、微小構造体22を、第1の偏光素子10の配列パターンに基づいて、所定の配列パターンで複数個に亘って配列させた第2の偏光素子20とを備える。第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とが互いに正しい組み合わせであり、更に正しい位置関係で配置して用いた場合においてのみ、第1の偏光素子10に対して照射した光が、第2の偏光素子20から伝搬光として放射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認証技術の分野において使用するのに好適な光機能素子及び光学認証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話、携帯ゲーム機等をはじめとして、各種の携帯型の電子機器が広く用いられている。このような携帯型の電子機器は、電池パックのような二次電源を電力源としている場合が多く、これによって、充電による繰り返し使用が可能となっている。
【0003】
ところで、このような二次電源は、一般に、その内部に電解液として可燃性の有機溶媒が用いられている。このため、各種電子機器や二次電源の製造者は、正規品の電子機器に対して、耐衝撃性や耐温性等の各種性能が保証されている正規品としての二次電池の使用をユーザに推奨しているが、このような正規品としての二次電池は一般に高価であることから、ユーザによっては安価な模造品等の非正規品を使用する場合があった。しかしながら、このような非正規品は、各種性能についての保証が十分になされていないことがあり、二次電池内の有機溶媒が揮発し、これによって発火、爆発事故を招くおそれがあった。
【0004】
このため、従来においては、このような非正規品としての二次電池が正規品としての電子機器に使用されるのを防ぐべく、二次電池が電子機器に装着された場合に、その二次電池が正規品であるか非正規品であるかを見分ける仕組みを設けた機器認証に関する認証技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1に開示された認証システムにおいては、電池パックや電子機器毎に識別番号が割り当てられ、電池パックの充電を行う充電装置によってこの電池パックや電子機器の識別番号を読み取らせ、読み取った識別番号に関する情報を充電装置から通信回線を介して中央管理装置へ送信し、この中央管理装置でこの識別番号を認証し、これに基づき充電装置から電池パックへと充電実行の可否が判断される。
【0006】
このようなデジタルIDのような電子的情報を用いての認証システムは、特許文献1の他に数多く提案されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【0007】
また、このような機器認証に関する認証技術の他にも、所定の道具や書類、施設等を利用しようとする被認証者が、これら道具等の利用、閲覧、入場の権限があるか否かを確認するための本人認証に関する認証技術も数多く提案されている。このような本人認証技術においては、IDカード、磁気カード等のカードデバイスやイモビライザーシステムで用いられるキーデバイスのような物理デバイスを、これに対応したカードリーダーや鍵穴等の読み取り装置に装着させたり、被認証者の身体情報を認証装置等に読み取らせる(バイオメトリクス認証)ことによって本人確認を行なっている(例えば、特許文献5、6参照。)。
【0008】
例えば、特許文献5に開示された認証システムにおいては、ATM(Automated Teller Machine)の利用時に、暗証番号等の電子的情報が記録されたIDカードを要求し、正しいIDカードを認識した場合においてのみATMによる金融取引処理を可能としている。
【0009】
また、特許文献6に開示された認証システムにおいては、キーシリンダに差し込まれるキーデバイスに固有コードを記憶させ、キーリシンダにキーデバイスを差し込んだ際に、この固有コードを照合することによってキーデバイスが正規のものであるか否か判断し、正規のキーデバイスが差し込まれた場合においてのみキーシリンダによるロックを解除し、車のエンジン等を駆動可能としている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−222457号公報
【特許文献2】特開2006−331815号公報
【特許文献3】特開2006−128911号公報
【特許文献4】特開2005−151368号公報
【特許文献5】特開2007−164547号公報
【特許文献6】特開平9−49352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、現代社会においては、非正規品の使用防止や悪意ある第三者による各種デバイスの不正使用等を防ぐために、様々な要素について機器認証や本人認証のような認証行為を要求しており、これによって、これら要素の安全性やブランド価値の維持を図っている。
【0012】
しかしながら、上記において提案されている認証システムは、いずれの場合においても読み取り装置等にIDカードやキーデバイス、身体情報等の電子的情報を登録し、これを利用することによって認証を行なっている。これら電子的情報は、暗号化を施す等によってその漏洩や改ざんを防止しているが、近年においては暗号化技術とともに暗号解読技術も向上しており、認証行為について万全を期すことが困難であった。このため、電子的情報に基づく認証システムとは異なる方式に基づく、セキュリティ性に優れた認証システムの提案が望まれており、これによって、非正規品の使用や、悪意ある第三者による不正使用を根底から排除することが望まれていた。
【0013】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、従来から提案されている電子的情報に基づく認証システムとは異なる、セキュリティ性に優れた認証システムを提供可能な光機能素子及び光学認証システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上述した課題を解決するために、本願請求項1に記載のように、透光性を有する平板状の第1の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた第1の構造体列並びに第2の構造体列が上記長軸方向に略直交する直交方向に向けて交互に配列され、上記第1の構造体列を構成する第1の微小構造体における一方の長軸端部が、上記第2の構造体列を構成する第2の微小構造体の他方の長軸端部に対して近接し、当該第1の微小構造体における他方の長軸端部が、当該第2の微小構造体の長軸方向に隣接する他の第2の微小構造体の一方の長軸端部に近接するように位置調整された第1の偏光素子と、透光性を有する平板状の第2の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた構造体列が複数列に亘って配列され、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置された場合に、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れかの向きに近接する第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整された第2の偏光素子とを備えることを特徴とする光機能素子を発明した。
【0015】
また、本願請求項2に係る発明は、透光性を有する平板状の第1の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた第1の構造体列並びに第2の構造体列が上記長軸方向に略直交する直交方向に向けて交互に配列され、上記第1の構造体列を構成する第1の微小構造体における一方の長軸端部が、上記第2の構造体列を構成する第2の微小構造体の他方の長軸端部に対して近接し、当該第1の微小構造体における他方の長軸端部が、当該第2の微小構造体の長軸方向に隣接する他の第2の微小構造体の一方の長軸端部に近接するように位置調整された第1の偏光素子と、透光性を有する平板状の第2の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた構造体列が複数列に亘って配列され、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置された場合に、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れか一方の向きに近接する第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整されるとともに、上記第1の微小構造体の他方の長軸端部と、その他方の長軸端部から上記直交方向の他方の向きに近接する第2の微小構造体の一方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整された第2の偏光素子とを備えることを特徴とする光機能素子である。
【0016】
また、本願請求項3に係る発明は、本願請求項1又は2に係る発明において、上記第1の偏光素子において上記長軸方向並びに上記直交方向に互いに近接する微小構造体間の間隔は、照射されるべき伝搬光の波長に対して回折限界未満の間隔をあけて配置されることを特徴とする。
【0017】
また、本願請求項4に係る発明は、光学認証システムであって、請求項1〜3の何れか1項に記載の上記第1の偏光素子を有する第1のデバイスと、請求項1〜3の何れか1項に記載の上記第2の偏光素子を有する第2のデバイスとを備え、上記第1のデバイス又は上記第2のデバイスは、上記第2の偏光素子から射出される光を検出可能な光検出手段を有することを特徴とする。
【0018】
また、本願請求項5に係る発明は、本願請求項4に係る発明において、上記第1のデバイス又は上記第2のデバイスは、上記第1の偏光素子に対して光を照射する光照射手段を有することを特徴とする。
【0019】
また、本願請求項6に係る発明は、本願請求項4又は5に係る発明において、上記第1のデバイス及び上記第2のデバイスは、互いに着脱可能に構成され、何れかのデバイスを他方のデバイスに装着させた場合に、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置され、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れかの向きに近接する上記第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するように位置調整されていることを特徴とする。
【0020】
また、本願請求項7に係る発明は、本願請求項6に係る発明において、上記光照射手段は、上記第1のデバイス及び上記第2のデバイスの何れかのデバイスを他方のデバイスに装着させた場合に、上記第1の偏光素子に対して光を照射するよう構成されてなることを特徴とする。
【0021】
また、本願請求項8に係る発明は、本願請求項4〜7の何れか1項に係る発明において、上記第1のデバイスは、電池パックにより構成され、上記第2のデバイスは、上記電池パックによる電圧源に基づき電力を供給可能とされた電子機器により構成され、上記電子機器は、上記光信号受信手段によって光信号を受信した場合に、上記電池パックから上記電子機器に電力を供給可能に構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明を適用した光機能素子1は、第1の偏光素子10内の微小構造体12に対して第2の偏光素子20内の微小構造体22が、相対的な大きさや配置条件が所定の条件から若干ずれたりするのみで、第1の偏光素子10に対して光を照射した場合に第1の偏光素子10の微小構造体12内で生じる複雑な電荷部分から、一部の電荷分布を第2の偏光素子20を介して選択的に取り出すことが出来ず、第2の偏光素子20から伝搬光が放射されない。これは、換言すれば、正しい「鍵穴」(第1の偏光素子)に対して、正しい「鍵」(第2の偏光素子)を正しい位置関係で配置して用いた場合にのみ、これらの「鍵」と「鍵穴」を介して伝搬光が放射されることを意味している。そして、これを利用することによって、「鍵」と「鍵穴」を用いた物理的な認証システムを構築可能となる。
【0023】
本発明を適用した光学認証システム3は、「鍵」と「鍵穴」に相当する第1の偏光素子10、第2の偏光素子20の微小構造体12、22の各々が数μm以下、場合によっては1μm以下の非常に微小な構造である。このため、これら第1の偏光素子10、第2の偏光素子20を偽造、複製等するためには、まず、各偏光素子内の微小構造体の形状、大きさを測定した上で、これと対応した所定の形状、大きさからなる微小構造体を基板内に配列する必要があり、技術的に非常に高い精度が要求される。このため、このような一対の正しい組み合わせの偏光素子10、20を作製した後において、何れか一方又は両方の偏光素子10、20を偽造、複製することは現実上困難であると考えられる。従って、この光機能素子1を利用した光学認証システム3は、セキュリティ性に非常に優れたものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
先ず、本発明を適用した光機能素子の構成について説明する。
【0026】
光機能素子1は、図1の模式図に示すように、第1の偏光素子10と、第2の偏光素子20との二つ一組から構成されるものである。本実施の形態における第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とは、図2に示すように、平板状の第1の基板11内、第2の基板21内に複数個の微小構造体12、22を、所定の配列パターンに基づいて配列させて構成されるものである。この光機能素子1は、その使用時において、第1の基板11の一面側11aと、第2の基板21の一面側21aとが略平行となるように接触配置又は近接配置させたうえで、第1の基板11の他面側11bに対して伝搬光としての光を照射することによって使用される。
【0027】
第1の基板11、第2の基板21は、透光性を有する誘電体であり、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)等の硼珪酸ガラスや、ポリエチレンテレフタラート、カプトン等のプラスチック、或いはCaF、Si、ZnSe、AlOなどの材料等によって具体化されるものである。
【0028】
第1の基板11、第2の基板21の形状は、これを限定するものではないが、平板状であることが好ましい。これは、第1の基板11、第2の21の表面が湾曲した形状であると、これに入射する光が屈折してしまい、所定の作用効果を得られにくくなってしまうためである。
【0029】
微小構造体12、22は、光が照射された場合に微小構造体12、22内において電子を励起可能な吸収体であればよく、例えばAu、Ag、Pt、Cu、Al等の金属、またはこれら金属の合金によって具体化される。また、微小構造体12、22は、光が照射された場合に、その表面において分極が励起される誘電体から構成することも可能である。
【0030】
図4は、本実施の形態における微小構造体12、22の構成の模式図である。本実施の形態における微小構造体12、22の形状は、全体として平板状に形成されており、その高さ方向に直交する面における断面形状が略矩形の断面形状となるように形成されている。微小構造体12、22の形状は、これに限るものではなく、その全体構造が平板状の他に、角棒状、丸棒状等の全体構造から構成されていてもよい。またその高さ方向に直交する面における断面形状は、少なくとも一方向に延長された形状であればよく、略矩形断面の他に、略楕円形断面や略菱形断面の形状等から構成されていてもよい。
【0031】
本発明を適用した微小構造体12、22のサイズは、長さL、幅d、高さHで表現することができるものとする。本発明を適用した第1の偏光素子10においては、後述するように、微小構造体12に対して近接場光を発生させる必要があるので、この微小構造体12の長さL、幅d、高さHのサイズはそれぞれ1μm以下で構成されることが望ましい。
【0032】
この微小構造体12、22を、第1の基板11、第2の基板21内に配置する場合は、様々な方法を適用することによって実現できる。例えば、電子ビームリソグラフィ技術を用いた直接描画による方法や、DUV(遠紫外線)、EUV(深紫外線)リソグラフィ技術による一括露光を行う方法、モールドと呼ばれる型を用い、熱をかけて押し付けるナノインプリンティング技術などが適用できる。また、相変化材料や遷移金属酸化物材料にレーザー光を照射することにより、材料特性を変化させ、エッチンググレードの違いを利用してエッチングする手法も適用できる。
【0033】
この微小構造体12、22は、第1の基板11、第2の基板21の表面から空気中に剥き出しになっていてもよいし、完全に埋め込まれていてもよい。
【0034】
このような微小構造体12、22は、第1の基板11、第2の基板21内における略同一平面内に二次元的に配列されており、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とでその配列パターンが異なっている。
【0035】
先ず、第1の偏光素子10の微小構造体12の配列パターンについて説明する。
【0036】
第1の偏光素子10においては、第1の基板11内に、複数の微小構造体12をそれぞれ長軸方向(以下、これをX1方向という。)に所定間隔をあけて配置することによって第1の構造体列13並びに第2の構造体列14が形成されている。この第1の構造体列13と第2の構造体14とは、X1方向に略直交する直交方向(以下、これをY1方向という。)に向けて交互に配列されている。複数の微小構造体12は、このX1方向とY1方向がなす面と略同一平面内に配列されていることになる。なお、ここでいう第1の構造体列13と第2の構造体列14とは、Y1方向に複数列に亘って配列される微小構造体12がなす構造体列を、一列毎に区分する際の一指標として定義したものである。
【0037】
この第1の構造体列13を構成する微小構造体12における一方の長軸端部12aは、第2の構造体列14を構成し、互いに隣り合う微小構造体12のうちの一方の微小構造体12(図中右側の微小構造体)の、他方の長軸端部12b(図中左側の長軸端部)に対して、Y1方向の向きに近接配置されている。また、この第1の構造体列13を構成する微小構造体12における他方の長軸端部12bは、その第2の構造体列14を構成し、互いに隣り合う微小構造体12のうちの他方の微小構造体12(図中左側の微小構造体)の、一方の長軸端部12a(図中右側の長軸端部)に対して、Y1方向の向きに近接配置されている。第1の偏光素子10における各微小構造体12は、このような位置関係を満たすように位置調整されて構成されるものである。なお、ここでいう微小構造体12の長軸端部12a、12bとは、微小構造体12の長軸方向の両側の端部のことをいう。図3(a)に示す例では、第1の構造体列13を構成する微小構造体12の一方の長軸端部12aが、これに近接する第2の構造体列14を構成する微小構造体12の他方の長軸端部12bよりも図中右側に位置しているが、これが図中左側に位置していてもよい。また、これと同様に、第1の構造体列13を構成する微小構造体12の他方の長軸端部12aは、これに近接する第2の構造体列14を構成する一方の長軸端部12bよりも図中左側、図中右側の何れに位置していてもよい。
【0038】
また、第1の偏光素子10においてX1方向並びにY1方向に互いに隣接する微小構造体12間の間隔は、照射されるべき伝搬光の波長に対して互いに回折限界未満の間隔をあけて配置されているのが望ましい。これによって、第1の偏光素子10に対して照射される伝搬光としての光は、そのまま第1の基板11の他面側11bから一面側11aに透過することがなくなり、第2の偏光素子20に対して、第1の偏光素子10における微小構造体12を介した光のみが作用することになる。なお、このX1方向並びにY1方向に互いに隣接する微小構造体12間の間隔は、照射されるべき伝搬光の波長の1/4で構成されていると、一層好ましい。
【0039】
第1の偏光素子10は、上述のような微小構造体12の配置条件を満たすように構成されるものである。なお、上述の例では、一列の第1の構造体列13と、これにY1方向の一方の向きにおいて隣接する一列の第2の構造体列14との間における微小構造体12の配置条件について説明したが、この一列の第1の構造体列13に対してY1方向の逆向きにおいて隣接する一列の第2の構造体列14との間においても、同様の配置条件を充たすように配列されることになる。
【0040】
次に、第2の偏光素子20の微小構造体22の配列パターンについて説明する。
【0041】
第2の偏光素子20においては、複数の微小構造体22をそれぞれ長軸方向(以下、これをY2方向という。)に所定間隔をあけて形成させた構造体列23が、長軸方向に略直交する直交方向(以下、これをX2方向という。)に向けて複数列に亘って配列される。複数の微小構造体22は、このX2方向とY2方向がなす面と略同一平面内に配列されていることになる。
【0042】
この第2の偏光素子20の微小構造体22の配列パターンは、第1の偏光素子10の微小構造体12の配列パターンに応じて定まるものである。図3(c)は、第1の偏光素子10における第1の基板11の一面側11aと、第2の偏光素子20における第2の基板21の一面側21aとを、内部に配列されている微小構造体12、22が所定の位置関係を充たすように、互いに略平行となるように接触配置又は近接配置させた場合における平面図である。この場合においては、第1の偏光素子10におけるX1方向、Y1方向が、それぞれ第2の偏光素子20におけるX2方向、Y2方向に対して略同一の方向を向くことになる。
【0043】
この図3(c)に示されるように、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とを所定位置に配置した場合、第2の偏光素子20における微小構造体22のY2方向の両側の長軸端部22a、22bは、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12のX1方向の一方の長軸端部12aと、この第1の構造体列13の一方の長軸端部12aからY1方向の図中上側の向きに近接する、第2の構造体列20を構成する微小構造体12のX1方向の他方の長軸端部12bとに対して近接するようにして配置されることになる。第2の偏光素子20の各微小構造体22は、このように、第1の偏光素子10の各微小構造体12の長軸端部の位置に応じて配列されるものであり、このような配列関係を充たすように作製時に位置調整されている。そして、このような配列関係を充たすことにより、後述するように、正しい組み合わせの第1の偏光素子10、第2の偏光素子20を、正しい位置関係で配置することによって、第1の偏光素子10に対して照射した光が、第2の偏光素子20から放射されるようになる。
【0044】
なお、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20との各微小構造板12、22が充たすべき配列関係は、第2の偏光素子20における微小構造体22のY2方向の両側の長軸端部22a,22bが、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12のX1方向の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部からY1方向の何れかの向きに近接する、第2の構造体列14を構成する微小構造体12のX1方向の他方の長軸端部とに対して近接配置されるようにすればよい。即ち、第1の偏光素子10における第1の構造体列13の一つの微小構造体12につき、第2の偏光素子20の各微小構造体22の取り得る配置は、第1の偏光素子10における第1の構造体列13を構成する微小構造体12の何れの端部に近接配置されるかで二通り、そして、第1の構造体列13に対して何れの向きに位置する第2の構造体列14の微小構造体12の端部に近接配置されるかで二通り、計四通りあることになる。そして、第2の偏光素子20における各微小構造体22は、何れもこの四通りある配置条件のうち、何れか一つの配置条件を充たすようにして配列されるものである。なお、四通りある配置条件のうち一つの配置条件を充たしさえすれば、第2の偏光素子20内の微小構造体22がなす構造体列は、必ずしも周期的に配列されている必要はなく、その一部において省略されていてもよい。
【0045】
このような構成からなる光機能素子1の使用方法及び作用効果について説明する。
【0046】
まず、第1の偏光素子10の一面側11aと第2の偏光素子20の一面側21aとを、内部に配列されている微小構造体12、22が所定の位置関係を満たすようにして、互いに接触配置、又は近接配置させる。これによって、図3(c)に示すように、第2の偏光素子20における微小構造体22のY2方向の両側の長軸端部22a、22bが、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12のX1方向の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部からY1方向の何れかの向きに隣接する、第2の構造体列14を構成する微小構造体12のX1方向の他方の長軸端部とに対して近接配置される。
【0047】
次に、X1方向に平行な直線偏光を有する光を、第1の偏光素子10の他面側11bに対して照射させる。なお、この光は、所定の光源から照射されるものである。その光源が直線偏光を照射するもので無ければ、その光の伝達経路の一部において照明光学系を介して偏光成分を制御することによって照射されることになる。
【0048】
この場合、この入射光と微小構造体12中の自由電子との間での相互作用に基づいて、微小構造体12内では、その長軸方向に沿って、入射光に応じて振動する電流が流れ、図5(a)に示すような電荷分布が微小構造体12表面に生じる。微小構造体12の両側の長軸端部12a、12bにおいては、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れることになる。
【0049】
ここで、各微小構造体12の分極に基づいて、各微小構造体12間で生じる電場成分の振動を、各微小構造体12の両側の長軸端部12a、12bに生じる電荷分布の正極と負極を接続したベクトルV1(以下、これをフローベクトルという。)によって評価する。なお、このフローベクトルは、電気双極子モーメントと同等である。
【0050】
この場合、例えば、図5(a)に示す領域S1内においては、X1方向に隣接するフローベクトルのY1方向成分が互いに逆向きとなって配列されている。このため、領域S1内においては、X1方向に隣接するフローベクトルのY1方向成分によって、電気四重極子に類似の状態が形成されることになる。このような状態が各構造体列13、14全体で生じており、第1の偏光素子10の出射側では、遠隔場領域において、X1方向に隣接するフローベクトルが互いに打ち消し合い、Y1方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されないことになる。
【0051】
これに対して、フローベクトルが生じている近傍、即ち、近接場領域においては、それぞれのフローベクトルが電場成分の振動であることから、これらフローベクトルからY1方向成分の局所的な電場成分が放射され、Y1方向の偏光成分を有する近接場光が生じることになる。
【0052】
ここで、本発明においては、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12のX1方向の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部からY1方向の何れかの向きに隣接する、第2の構造体列14を構成する微小構造体12のX1方向の他方の長軸端部とに対して、第2の偏光素子20における微小構造体22の両側の長軸端部が近接配置されるように調整されている。即ち、第2の偏光素子20における各微小構造体22は、図5(b)における領域S2内に重なるようにして配置され、何れも略同一の大きさ、向きのフローベクトルの近傍に配置されることになる。これによって、第1の偏光素子10に生じている複雑な電荷分布から、選択的に略同一の大きさ、向きの電場成分のみが第2の偏光素子20の微小構造体22に対して作用し、第2の偏光素子20の各微小構造体22内では、その長軸方向に沿って振動する電流が流れ、図5(c)に示すような電荷分布が微小構造体22表面に生じることになる。
【0053】
第1の偏光素子10で発生した近接場光に基づき、その内部で電流が流れる第2の偏光素子20の各微小構造体22は、図5(c)に示すように、双極子に類似の状態を呈している。そして、第2の偏光素子20の微小構造体22がX2方向、Y2方向に周期的に配列されているため、各微小構造体22がなす双極子に基づき、第2の偏光素子20の出射側においてY2方向に平行な直線偏光を有する伝搬光が放射されることになる。
【0054】
このように、第2の偏光素子20は、第1の偏光素子10において生じる複雑な電荷分布から、選択的に略同一の大きさ、向きの電場成分のみを取り出すように微小構造体22が配列されており、これによって、その出射側において伝搬光が放射されることになる。
【0055】
因みに、第2の偏光素子20の第2の基板21内の微小構造体22は、例えば、図5(b)に示される領域S2のみならず、図6(a)に示すような領域S3に対して重なり合うように配置されていてもよい。
【0056】
この場合、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とを所定位置に配置した場合に、第2の偏光素子20の一部の微小構造体22の両側の長軸端部22は、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の何れか一方の長軸端部12aと、その一方の長軸端部12aからY1方向の何れか一方の向き(図中では上向き)に近接する、第2の構造体列14を構成する微小構造体12のX1方向の他方の長軸端部12bとに対して近接するよう位置調整されている。また、第2の偏光素子20の残りの微小構造体22の両側の長軸端部22は、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の他方の長軸端部12bと、その他方の長軸端部12bからY1方向の他方の向き(図中では下向き)に近接する、第2の構造体列14を構成する微小構造体12の一方の長軸端部12aとに対して近接するよう位置調整されている。
【0057】
このような配列パターンの第2の偏光素子20の一面側21と第1の偏光素子10の一面側11aとを、内部に配列されている微小構造体12、22が所定の位置関係を満たすように配置させて、X1方向に平行な直線偏光を有する光を照射させた場合、第2の偏光素子の微小構造体22内で、その長軸方向に沿って振動する電流が流れ、図6(b)に示すような電荷分布が現れることになる。
【0058】
ここで、各微小構造体22内で生じる電荷分布は、図6(b)に示すように、極性の分布状態が何れも同一の状態になっているため、各微小構造体22がなす双極子に基づき、第2の偏光素子20の出射側においてY2方向に平行な直線偏光を有する伝搬光が放射されることになる。
【0059】
これに対して、第2の偏光素子20の第2の基板21内の微小構造体22が、図7(a)に示すような領域X1に対して重なり合うように配列されている場合は、上述のような効果は発揮されない。
【0060】
即ち、領域S2のみならず、領域X1に対して重なり合うように、第2の偏光素子20の微小構造体22を配列した場合、図7(b)に示される領域X3のように、X2方向に隣接する微小構造体22内で現れる電荷分布が、電気四重極子と類似の状況を形成しており、第2の偏光素子20の出射側からY2方向に平行な直線偏光を有する伝搬光が放射されない。
【0061】
このように、光機能素子1は、第1の偏光素子10内の微小構造体12に対して第2の偏光素子20内の微小構造体22が、相対的な大きさや配置条件が所定の条件から若干ずれたりするのみで、第1の偏光素子10に対して光を照射した場合に第1の偏光素子10の微小構造体12内で生じる複雑な電荷部分から、一部の電荷分布を第2の偏光素子20を介して選択的に取り出すことが出来ず、第2の偏光素子20から伝搬光が放射されない。これは、換言すれば、正しい「鍵穴」(第1の偏光素子)に対して、正しい「鍵」(第2の偏光素子)を正しい位置関係で配置して用いた場合にのみ、これらの「鍵」と「鍵穴」を介して伝搬光が放射されることを意味している。そして、これを利用することによって、「鍵」と「鍵穴」を用いた物理的な認証システムを構築可能となる。
【0062】
この光機能素子1を利用した認証システムは、例えば、IDカードやキーデバイス等の物理デバイスに第2の偏光素子20を埋め込んでおき、これら物理デバイスの読取装置に第1の偏光素子10を内装させることによって具体化される。この場合は、「鍵穴」である読取装置内に正しい「鍵」である物理デバイスを装着させた場合においてのみ、読み取り装置に光出力がされ、これに基づき読取装置が所定の動作を行わせることが可能となり、これによって本人認証が可能となる。
【0063】
また、この光機能素子1を利用した他の認証システムとしては、例えば、電池パックに第2の偏光素子20を内装させ、電池パックの電力による動作する電子機器に第1の偏光素子10を内装させることによっても具体化される。この場合は、正しい電子機器に対して、正しい電池パックを装着させた場合においてのみ、第2の偏光素子20から光出力がされ、これに基づき電池パックが電子機器に電力を供給させることが可能となり、これによって機器認証が可能となる。
【0064】
このように光機能素子1を利用することによって、「鍵」と「鍵穴」を用いた種々の認証システムが構築可能となる。ここで、光機能素子1は、「鍵」と「鍵穴」に相当する第1の偏光素子10、第2の偏光素子20の微小構造体12、22の各々が数μm以下、場合によっては1μm以下の非常に微小な構造である。このため、これら第1の偏光素子10、第2の偏光素子20を偽造、複製等するためには、まず、各偏光素子内の微小構造体の形状、大きさを測定した上で、これと対応した所定の形状、大きさからなる微小構造体を基板内に配列する必要があり、技術的に非常に高い精度が要求される。このため、このような一対の正しい組み合わせの偏光素子10、20を作製した後において、何れか一方又は両方の偏光素子10、20を偽造、複製することは現実上困難であると考えられる。従って、この光機能素子1を利用した認証システムは、セキュリティ性に非常に優れたものとなっている。
【0065】
因みに、光の照射時において第1の偏光素子10で生じる近接場光は、微小構造体12の表面にまとわりついて局在する非伝搬光であり、微小構造体12の表面に対してその物体の寸法と同程度の厚みt1をもった領域内に発生している。このため、第1の偏光素子10の出射側から滲出されている近接場光を第2の偏光素子20に作用させるためには、この近接場光が発生している領域内に、第2の偏光素子20の微小構造体22を近接配置させる必要がある。この第1の偏光素子10の微小構造体12の端部と、第2の偏光素子20の微小構造体12の端部との間は、限定するものではないが、例えば、1〜100nm程度の間隔があけられる。
【0066】
次に、上述した光機能素子1を用いた光学認証システム3であって、機器認証や本人認証のような認証システムを提供可能な光学認証システム3について詳細に説明する。
【0067】
図8は、本発明を適用した光学認証システム3の実施例を示したブロック図である。
【0068】
本発明を適用した光学認証システム3は、第1の偏光素子10を有する第1のデバイス5と、第2の偏光素子20を有する第2のデバイス7とから構成される。機器認証を目的とした光学認証システム3の場合、この第1のデバイス5、第2のデバイス7は、一方のデバイスが他方のデバイスに対して、電力や電子的情報の授受を行なうデバイスによって具体化され、例えば、電池パックとこれを用いる電子機器の組み合わせや、外部記憶装置とこれを用いる電子機器の組み合わせ等によって具体化される。機器認証の場合は、正規品である一方のデバイスに対して用いられる他方のデバイスが正規品であるか否かを確認することを目的としており、他方のデバイスのいわゆるなりすましを防止するものである。
【0069】
また、本人認証を目的とした光学認証システム3の場合、第1のデバイス5、第2のデバイス7は、一方のデバイスが、カードやキーデバイス等の物理デバイスによって具体化され、他方のデバイスがこれを読み取る読取装置等によって具体化される。本人認証の場合は、所定のデバイスや書類、施設等を利用しようとする被認証者がカード等の物理デバイスを利用することによって、これらデバイス等の利用、閲覧、入場の権限があることを証明することを目的として利用される。
【0070】
本実施例においては、第1のデバイス5として電池パック30を適用し、第2のデバイス7として携帯電話のような電子機器40を適用し、これを例にとって説明する。
【0071】
第1のデバイス5である電池パック30は、電子機器40の電力供給源であり、電子機器40に対して装着させた場合に、電子機器40に対して電力を供給するものである。
【0072】
第2のデバイス7である電子機器40は、電池パック30から供給される電力に基づき、所定の動作を行うものであり、携帯電話の他に、例えばパーソナルコンピュータ、携帯情報端末(Personal Digital Assistant)、デジタルカメラ、携帯ゲーム機器等によって具体化されるものである。
【0073】
携帯電話としての電子機器40には、図9(a)に示すように、その背面下部に電池パック30が着脱自在に装着されることになる。
【0074】
電池パック30は、二次電池31と、パック側電源制御部32と、パック側正極端子36と、パック側負極端子37と、着脱機構38とを有するものである。
【0075】
電子機器40は、本体側電源制御部41と、本体側正極端子45と、本体側負極端子46とを有するものである。
【0076】
二次電池31は、電圧源であり、図示しない充電器等から電力が供給された電力を内部に蓄えるものである。
【0077】
パック側電源制御部32は、光照射部33と、第1の偏光素子10と、光学制御系35とを有している。パック側電源制御部32は、電池パック30が電子機器40に装着された場合において、その装着を検出した後、光照射部33に対して第1の偏光素子20に向けて光を照射するよう通知するものである。
【0078】
光照射部33は、例えばレーザーダイオード等によって具体化され、電池パック30が電子機器40に装着された場合において、制御回路32からの通知を検出した後、第1の偏光素子20に対して光を照射するものである。
【0079】
照明光学系35は、光照射部33から照射された光の形状や偏光方向を制御可能とするものであり、これによって偏光方向が制御された光が第1の偏光素子10に対して照射される。なお、第1の偏光素子10に対しては、第1の偏光素子10におけるX1方向に平行な直線偏光を有する光を照射するように、光照射部33又は照明光学系35を制御することになる。
【0080】
着脱機構38は、電池パック30と電子機器40とを互いに着脱可能とする機構であり、公知のいかなる着脱機構を適用するようにしてもよい。
【0081】
パック側正極端子36は、二次電池31の正極に接続されており、電池パック30が電子機器40に装着された場合において、本体側正極端子45に対して接続されるものである。また、パック側正極端子37は、二次電池31の負極に接続されており、電池パック30が電子機器40に装着された場合において、本体側負極端子46に対して接続されるものである。
【0082】
本体側電源制御部41は、第2の偏光素子20と、光検出部43と、スイッチ切替回路44とを有するものである。本体側電源制御部41は、光検出部43によって光信号を検出した場合に、スイッチ切替回路43に対してスイッチSW1のOn/Offを切り替えるように通知するものである。
【0083】
光検出部43は、例えばフォトダイオード等の各種光検出器によって具体化され、第2の偏光素子30を介して放出される伝搬光を検出するものである。なお、光検出部43においては、第2の偏光素子20におけるY2方向に平行な直線偏光を有する光のみを検出するように光検出部43を制御したり、Y2方向に平行な直線偏光のみを透過させる偏光板等を用い、これを透過する光を検出することになる。
【0084】
なお、電池パック30を電子機器40に対して装着させた場合に、第1の偏光素子10における第1の基板11の一面側11aと、第2の偏光素子20における第2の基板21の一面側21aとが接触配置又は近接配置され、第2の偏光素子20における微小構造体22の長軸方向の両方の長軸端部22a、22bが、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の長軸方向の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部からY1方向の何れかの向きに隣接する第2の構造体列14を構成する微小構造体12の長軸方向の他方の長軸端部に対して近接配置されるように調整されていることが好ましい。この場合、第1の偏光素子10、第2の偏光素子20の第1の基板11、第2の12の形状や配置位置を適宜調整することになる。これによって、電池パック30を電子機器40を装着した後に、第1の偏光素子10、第2の偏光素子20の位置調整を行なう必要性がなくなる。なお、上述の場合における第2の基板21内の微小構造体22は、図5(c)に示すような配列パターンから構成されていることになるが、第2の基板21内の微小構造体22が図6(b)に示すような配列パターンの場合も同趣旨の調整がされていることが好ましい。
【0085】
このようにして構成される光学認証システム3の動作について説明する。
【0086】
まず、電池パック30を電子機器40に対して装着させ、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20との内部の微小構造体12、22が正しい位置関係となるようにして配置させる。なお、ここでいう正しい位置関係とは、上述したような、第2の偏光素子20の微小構造体22の両方の長軸端部22a、22bが第1の偏光素子10の微小構造体12の長軸端部に近接配置されるような関係をいう。また、この場合は、パック側正極端子36、パック側負極端子37がそれぞれ本体側正極端子45、本体側負極端子46に対して接続されることになる。図9(b)は、電子機器40の一例である携帯電話に対して電池パック30を装着させた例を示している。
【0087】
次に、パック側電源制御部32が、電池パック30が電子機器40に対して装着されたのを検出し、光照射部33に対して第1の偏光素子20に向けて光を照射するよう通知する。なお、このような通知は、電池パック30が電子機器40に対して装着された後に、自動的にされなくとも、電池パック30等の外部スイッチ等によって手動で通知されるようにしてもよい。
【0088】
通知を受けた光照射部33は、照明光学系35を介して第1の偏光素子20に対して光を照射することになる。ここで、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とが正しい位置関係で、かつ、正しい組み合わせで配置されている場合においてのみ、第1の偏光素子10に照射された光が、第2の偏光素子20の出射側から伝搬光として放射されることになる。そして、第2の偏光素子30から放射された伝搬光を、光検出部43によって検出し、スイッチ切替回路44を介してスイッチSW1がOnとなり、二次電池31から電子機器40の各種要素、例えばCPU(Central Processing Unit)や液晶ディスプレイ等に電力が供給されることになる。
【0089】
このように、本発明を適用した光学認証システム3は、正しい組み合わせの第1の偏光素子10、第2の偏光素子20を用いた場合においてのみ、第2の偏光素子20から光信号が出力がされることになり、この出力された光信号に基づき、電池パック30からの電力が電子機器40の各種要素に供給されることになる。
【0090】
なお、第2の偏光素子20から光信号が出力された場合に発揮される効果は、これに限定するものではなく、光信号が検出された場合に、電池パック30や電子機器40等の各種デバイスが通常有している機能が発現されるように制御されるものである。
【0091】
上述の例においては、電池パック30と電子機器40との間における機器認証に用いられる認証システムとしての光学認証システム3について説明したが、本人認証に用いられる認証システムに適用した場合は、例えば、以下のようにして用いられる。
【0092】
この場合は、例えば、図10に示すように、第2のデバイスとしての認証用カード50に第2の偏光素子20を埋込配置しておき、これを第1のデバイスとしての携帯電話60内に第1の偏光素子10を予め内装させる。そして、認証用カード50を携帯電話60内に装着させた場合に、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20とを正しい位置関係で配置させるようにして、第1の偏光素子10に対して光を照射させることによって認証が行なわれることになる。この場合は、正しい認証用カード50が装着された場合にのみ、光信号が検出され、認証が正しく行なわれることになり、これによって、携帯電話60の使用が可能となったり、種々の機能が発現されることになる。
【0093】
なお、光照射部33は、第1のデバイスである電池パック30であっても、第2のデバイスである電子機器40の何れに内装されていてもよい。また、第1の偏光素子10が電子機器40に、第2の偏光素子20が電池パック30に内装されるようにしてもよい。また、光検出部43が第1のデバイスである電池パック30に内装されるようにしてもよい。
【0094】
また、上述した実施例においては、電池パック30と電子機器40とからなる本発明を適用した光学認証システム3を機能させるための最小限の構成について説明したが、実際の電池パック30や電子機器40が有している各種手段や機構をこの他に有していてもよいのは勿論である。例えば、この電池パック30は、二次電池31の過充電や過放電を防止するための保護回路や電池の変形に伴う内部短絡を防止する安全弁等の安全機構を有していてもよい。また、電子機器40は、電子機器40全体を制御するためのCPUやデータの蓄積や展開等に使用する作業領域としてのRAM(Random Access Memory)、操作ボタンやキーボード等によって具体化される各種制御用の指令を入力するための操作部、各種情報の表示を制御するための表示制御部、表示制御部からの出力された情報を実際に表示するモニタとしての表示部、ハードディスク等によって具体化され、実行すべき検索を行なうためのプログラムを格納するための記憶部、これらを接続する内部パス等を有していてもよい。
【実施例】
【0095】
図11(a)は、本発明例1、2並びに比較例1〜5としての第1の偏光素子と第2の偏光素子とを所定位置に配置させ、これら偏光素子に対して伝搬光を照射した場合の、遠隔場領域における電場強度比を表している。本発明例1、2並びに比較例3〜5は、図11(b)に示すような、第1の偏光素子と第2の偏光素子との組合せからなるものである。また、比較例1、2は、それぞれ第1の偏光素子のみ、第2の偏光素子のみを配置したものである。また、図11(b)の図中右欄は、第1の偏光素子と第2の偏光素子とを所定位置に配置した後の状態を示す図である。また、図11(b)に示す微小構造体12、22の配列パターンは、あくまで模式的に示したものである。
【0096】
本発明例1は、第2の偏光素子20の微小構造体22の両方の長軸端部が、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の一方の長軸端部と、これに隣接する第2の構造体列14を構成する微小構造体12の他方の長軸端部とに対して近接するものであり、図3に示す第1の偏光素子10、第2の偏光素子20と同様の微小構造体12、22の配列パターンを有するものである。また、本発明例2は、第2の偏光素子20の一部の微小構造体22の両側の長軸端部が、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の一方の長軸端部12aと、その一方の長軸端部12aからY1方向の図中上向きに近接する第2の構造体列14を構成する微小構造体の他方の長軸端部12bとに対して近接され、第2の偏光素子20の残りの微小構造体22の長軸端部が、第1の偏光素子10の第1の構造体列13を構成する微小構造体12の他方の長軸端部12bと、その他方の長軸端部12bからY1方向の図中下向きに近接する第2の構造体列14を構成する微小構造体12の一方の長軸端部12aとに対して近接するものであり、図6に示す第1の偏光素子10、第2の偏光素子20と同様の微小構造体12、22の配列パターンを有するものである。
【0097】
比較例3は、本発明例1の第2の偏光素子20のX2方向の構造体列23間の間隔を約半分程度としたものであり、図7に示す第1の偏光素子10、第2の偏光素子20と同様の微小構造体12、22の配列パターンを有するものである。また、比較例4は、本発明例1の第2の偏光素子20の微小構造体22のY2方向長さを約三倍程度としたものである。また、比較例5は、比較例4の第2の偏光素子20のX2方向の構造体列23間の間隔を約半分程度としたものである。比較例1〜5は、何れも本発明例の効果を説明するための例である。
【0098】
第1の偏光素子10の微小構造体12は、長さRが400nm、厚みdが60nm、高さHが200nmの略矩形断面の平板状の形状のものを適用した。各構造体列における二つの微小構造体間の間隔は200nm、各構造体列間の間隔は240nmのものを適用した。また、第2の偏光素子20の微小構造体22は、長さRが300nm、厚みdが60nm、高さHが60nmの略矩形断面の角棒状のものを適用した。また、第1の偏光素子10の各微小構造体12の入射側側面がなす面から入射側の法線方向に向けて500nm離間した箇所に光源を設置し、光源の波長λは、729nmとした。また、微小構造体12、22の材質は、金とした。また、第2の偏光素子20の各微小構造体22の出射側側面がなす面から出射側の法線方向に向けて2μm離間した領域の電場強度を測定した。また、第1の偏光素子10の各微小構造体12の出射側側面がなす面と、第2の偏光素子20の各微小構造体12の入射側側面がなす面との面間隔は、10nmとした。また、第1の偏光素子10には、X1方向に平行な偏光成分を有する直線偏光を入射させ、第2の偏光素子20の出射側では、Y2方向に平行な偏光成分を有する電場成分を検出した。
【0099】
この結果、本発明例1、2の組み合わせの場合に、比較例1〜5と比較して強い電場強度を有する伝搬光の放射が確認された。本発明例1との間で最も少ない電場強度比差を有する例は、比較例2であるが、本発明例1との間で10倍も異なっている。これより、第1の偏光素子10と第2の偏光素子20との微小構造体12、22の相対的な大きさや配置条件が少しでも所定条件からずれたのみで、光の出力がされないことが確認された。また、本発明例1よりも本発明例2の組み合わせのほうが数倍高い電場強度が得られることが確認された。
【0100】
図12(a)は、本発明例1の組合せからなる第1の偏光素子と第2の偏光素子とを所定位置に配置させた後に、第1の偏光素子10の各微小構造体12の出射側側面がなす面と、第2の偏光素子20の各微小構造体22の入射側側面がなす面とを、X方向又はY方向に所定距離変位させた場合の、電場強度比を表している。この図に示すように、X方向、Y方向の変位が大きくなるにつれて、電場強度比が小さくなることと、微小構造体12、22のサイズが大きいほど、電場強度の損失の割合が小さくなることとが確認された。
【0101】
図12(b)は、本発明例1の組合せからなる第1の偏光素子と第2の偏光素子とを所定位置に配置させた後に、第1の偏光素子10の各微小構造体12の出射側側面がなす面と、第2の偏光素子20の各微小構造体22の入射側側面がなす面との面間の間隔を変位させた場合の電場強度比を示している。この図に示すように、面間の変位が大きくなるにつれて、電場強度比が小さくなることと、微小構造体12、22のサイズが大きいほど、電場強度の損失の割合が小さくなることとが確認された。これは、第1の偏光素子10において生じる近接場光の階層性に基づくものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明を適用した光機能素子について説明するための図である。
【図2】(a)は第1の偏光素子の構成を示す斜視図であり、(b)は第2の偏光素子の構成を示す斜視図である。
【図3】(a)は第1の偏光素子の構成を示す平面図であり、(b)は第2の偏光素子の構成を示す平面図であり、(c)は第1の偏光素子と第2の偏光素子とを所定位置に配置した場合における平面図である。
【図4】微小構造体の構成を示す模式図である。
【図5】光機能素子の作用について説明するための図である。
【図6】第2の偏光素子が取り得る微小構造体の配列パターンの一例を示す図である。
【図7】光機能素子の作用について説明するための図である。
【図8】本発明を適用した光学認証システムの一例を示すブロック図である。
【図9】光学認証システムを適用した電池パックと電子機器との構成について示す図である。
【図10】光学認証システムを適用した認証用カードと携帯電話との構成について示す図である。
【図11】第1の偏光素子に対する第2の偏光素子の微小構造体の配列パターンを変化させた場合における電場強度比を示す図である
【図12】第1の偏光素子の位置に対する第2の偏光素子の変位、面間の間隔を変化させた場合における電場強度比を示す図である。
【符号の説明】
【0103】
1 光機能素子
3 光システム
5 第1のデバイス
7 第2のデバイス
10 第1の偏光素子
11 第1の基板
11a 一面側
11b 他面側
12 微小構造体
13 第1の構造体列
14 第2の構造体列
20 第2の偏光素子
21 第2の基板
21a 一面側
21b 他面側
22 微小構造体
23 構造体列
30 電池パック
31 二次電池
32 パック側電源制御部
33 光照射部
34 光学制御系
36 パック側正極端子
37 パック側負極端子
38 着脱機構
40 電子機器
41 本体側電源制御部
43 光検出部
44 スイッチ切替回路
45 本体側正極端子
46 本体側負極端子
50 認証用カード
60 携帯電話

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する平板状の第1の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた第1の構造体列並びに第2の構造体列が上記長軸方向に略直交する直交方向に向けて交互に配列され、上記第1の構造体列を構成する第1の微小構造体における一方の長軸端部が、上記第2の構造体列を構成する第2の微小構造体の他方の長軸端部に対して近接し、当該第1の微小構造体における他方の長軸端部が、当該第2の微小構造体の長軸方向に隣接する他の第2の微小構造体の一方の長軸端部に近接するように位置調整された第1の偏光素子と、
透光性を有する平板状の第2の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた構造体列が複数列に亘って配列され、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置された場合に、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れかの向きに近接する第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整された第2の偏光素子とを備えること
を特徴とする光機能素子。
【請求項2】
透光性を有する平板状の第1の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた第1の構造体列並びに第2の構造体列が上記長軸方向に略直交する直交方向に向けて交互に配列され、上記第1の構造体列を構成する第1の微小構造体における一方の長軸端部が、上記第2の構造体列を構成する第2の微小構造体の他方の長軸端部に対して近接し、当該第1の微小構造体における他方の長軸端部が、当該第2の微小構造体の長軸方向に隣接する他の第2の微小構造体の一方の長軸端部に近接するように位置調整された第1の偏光素子と、
透光性を有する平板状の第2の基板内に、複数の微小構造体をそれぞれ長軸方向に所定間隔をあけて形成させた構造体列が複数列に亘って配列され、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置された場合に、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れか一方の向きに近接する第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整されるとともに、上記第1の微小構造体の他方の長軸端部と、その他方の長軸端部から上記直交方向の他方の向きに近接する第2の微小構造体の一方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整された第2の偏光素子とを備えること
を特徴とする光機能素子。
【請求項3】
上記第1の偏光素子において上記長軸方向並びに上記直交方向に互いに近接する微小構造体間の間隔は、照射されるべき伝搬光の波長に対して回折限界未満の間隔をあけて配置されること
を特徴とする請求項1又は2記載の光機能素子。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の第1の偏光素子を有する第1のデバイスと、
請求項1〜3の何れか1項に記載の第2の偏光素子を有する第2のデバイスとを備え、
上記第1のデバイス又は上記第2のデバイスは、上記第2の偏光素子から射出される光を検出可能な光検出手段を更に有すること
を特徴とする光学認証システム。
【請求項5】
上記第1のデバイス又は上記第2のデバイスは、上記第1の偏光素子に対して光を照射する光照射手段を有すること
を特徴とする請求項4記載の光学認証システム。
【請求項6】
上記第1のデバイス及び上記第2のデバイスは、互いに着脱可能に構成され、何れかのデバイスを他方のデバイスに装着させた場合に、上記第1の基板と上記第2の基板とが略平行となるように接触配置又は近接配置され、上記第2の基板内における各微小構造体の両方の長軸端部が、上記第1の基板内の第1の微小構造体の何れか一方の長軸端部と、その一方の長軸端部から上記直交方向の何れかの向きに近接する第2の微小構造体の他方の長軸端部とに対して近接するよう位置調整されていること
を特徴とする請求項4又は請求項5記載の光学認証システム。
【請求項7】
上記光照射手段は、上記第1のデバイス及び上記第2のデバイスの何れかのデバイスを他方のデバイスに装着させた場合に、上記第1の偏光素子に対して光を照射するよう構成されてなること
を特徴とする請求項6記載の光学認証システム。
【請求項8】
上記第1のデバイスは、電池パックにより構成され、
上記第2のデバイスは、上記電池パックによる電圧源に基づき電力を供給可能とされた電子機器により構成され、
上記電子機器は、上記光信号受信手段によって光信号を受信した場合に、上記電池パックから上記電子機器に電力を供給可能に構成されてなること
を特徴とする請求項4〜7の何れか1項記載の光学認証システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−151040(P2009−151040A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328125(P2007−328125)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173636)財団法人光産業技術振興協会 (19)
【Fターム(参考)】