説明

光波干渉計測装置

【課題】簡易な構成で高速に絶対距離計測が可能な光波干渉計測装置を提供する。
【解決手段】光波干渉計測装置は、第1基準波長λと第2基準波長λとの間で周期的に波長走査をして光束を射出する波長可変レーザと、第3基準波長λの光束を射出する波長固定レーザと、前記波長可変レーザおよび前記波長固定レーザから射出した光束を参照光束および被検光束に分割する光束分割素子と、前記参照光束を反射する参照面と、前記被検光束を反射する被検面と、前記参照光束と前記被検光束との干渉信号から位相を検出する位相検出部と、第3基準波長λ、第1合成波長Λ12、第2合成波長Λ13、波長走査の際の位相変化量の整数成分、および、第1合成波長と第2合成波長の干渉次数から逐次的に第3基準波長λの干渉次数を決定し、被検面と参照面との間の絶対距離を算出する解析装置とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波干渉を用いて絶対距離を計測する光波計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の絶対距離を計測する光波干渉計測装置として、波長走査型の光波干渉計測装置が知られている。一般に、波長走査による絶対距離計測は精度が低いため、固定波長による相対距離計測を組み合わせて精度を改善する方法が用いられる。これらの方式では、波長走査量の精度、固定波長の精度、相対距離計測時の位相計測精度が主要な精度要因となる。
【0003】
特許文献1には、単一の干渉信号強度を計測し、波長走査によって発生する干渉信号の強度変化から絶対距離を算出するFMヘテロダイン法が開示されている。特許文献2には、FMヘテロダイン法より高精度な絶対距離計測方式として90度位相のずれた2つの干渉信号強度からリサージュ波形により位相計測を導入した方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2725434号
【特許文献2】特許第2810956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の光波干渉計測装置おいて、絶対距離計測と相対距離計測とを組み合わせて十分な計測精度を得るには、大きな波長走査量が必要であった。大きな波長走査量を実現し、高速に絶対距離を計測しようとする場合には、以下の問題点がある。安価なDFBレーザを用いる場合、温度変調による波長走査によって大きな波長走査量は可能だが、追随に時間がかかるために高速に波長走査できない。この対策として、グレーティングの傾きを調整することによって高速に波長走査することが可能な外部共振器型LD等があるが、これらは高価である。また、被検面が変動している場合に干渉次数の決定が行えないため、絶対測長を行うには被検面を安定化させる複雑な処理が必要だった。
【0006】
そこで本発明は、簡易な構成で高速に絶対距離計測が可能な光波干渉計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての光波干渉計測装置は、第1基準波長と第2基準波長との間で周期的に波長走査をして光束を射出する波長可変レーザと、第3基準波長の光束を射出する波長固定レーザと、前記波長可変レーザから射出する前記光束の波長を前記第1基準波長および前記第2基準波長に設定する波長基準素子と、前記波長可変レーザおよび前記波長固定レーザから射出した光束を参照光束および被検光束に分割する光束分割素子と、前記参照光束を反射する参照面と、前記被検光束を反射する被検面と、前記参照面で反射した参照光束と前記被検面で反射した被検光束との干渉信号から位相を検出する位相検出部と、前記第1基準波長をλ、前記第2基準波長をλ、前記第3基準波長をλ、λ・λ/|λ−λ|で表される第1合成波長をΛ12、λ・λ/|λ−λ|で表される第2合成波長をΛ13としたとき、該第3基準波長λ、該第1合成波長Λ12、該第2合成波長Λ13、前記波長走査の際の位相変化量の整数成分、および、該第1合成波長と該第2合成波長の干渉次数から逐次的に該第3基準波長λの干渉次数を決定し、前記被検面と前記参照面との間の絶対距離を算出する解析装置とを有する。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成で高速に絶対距離計測が可能な光波干渉計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態における光波干渉計測装置の構成図である。
【図2】第1実施形態における光源の波長の関係を示す図である。
【図3】第1実施形態における光源の波長の時間変化を示す図である。
【図4】第1、第2実施形態における計測方法のフローチャートである。
【図5】第1、第2実施形態における干渉次数M12の概念図である。
【図6】第2実施形態における光波干渉計測装置の構成図である。
【図7】第2実施形態における光源の波長の関係を示す図である。
【図8】第2実施形態における位相検出ユニットの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態における光波干渉計測装置について説明する。図1は、本実施形態における光波干渉計測装置500の構成図である。光波干渉計測装置500は、図1に示されるように、周期的に波長が走査される波長可変レーザ1と波長が固定されている波長固定レーザ2とを有する。波長可変レーザ1は、第1基準波長λと第2基準波長λとの間で周期的に波長走査をして光束を射出する。波長固定レーザ2は、第3基準波長λの光束を射出する。
【0012】
また、光波干渉計測装置500は、波長基準素子としてのガスセル3、波長基準素子としてのファブリペローエタロン4(エタロン)、および、光束分割素子としての偏光ビームスプリッタ20を有する。波長基準素子は、波長可変レーザ1から射出する光束の波長を第1基準波長λおよび第2基準波長λに設定する。光束分割素子は、波長可変レーザ1および波長固定レーザ2から射出した光束を参照光束および被検光束に分割する。
【0013】
さらに、光波干渉計測装置500は、参照面6および被検面7と、参照面6と被検面7との光路差(参照光と被検光との光路差)による干渉信号の位相の検出部を有する。参照面6は参照光束を反射し、被検面7は被検光束を反射するように構成されている。また光波干渉計測装置500は、参照面6と被検面7との間の絶対距離を算出する解析装置8を有する。参照面6と被検面7との間の絶対距離とは、参照面6の位置を基準とした被検面7の絶対位置であり、参照光束と被検光束との間の光路差から得られる。解析装置8は、第3基準波長λ、合成波長Λ12、Λ13、波長走査の際の位相変化量の整数成分、および、合成波長Λ12、Λ13の干渉次数から逐次的に第3基準波長λの干渉次数を決定し、被検面7と参照面6との間の絶対距離を算出する。なお、合成波長Λ12(第1合成波長)は、λ・λ/|λ−λ|で表され、合成波長Λ13(第2合成波長)は、λ・λ/|λ−λ|で表される。
【0014】
光波干渉計測装置500は、以上の構成により、周期的に波長が走査される波長可変レーザ1と波長固定レーザ2とから生成される2つの合成波長を繋ぎ合わせることにより、干渉次数を決定することができる。このため、波長可変レーザ1の波長走査量が大幅に低減される。これにより、レーザの電流変調による波長走査が可能となり、高速な絶対測長が実現される。
【0015】
以下、本実施形態の光波干渉計測装置500の構成について詳述する。波長可変レーザ1を射出した光束はビームスプリッタ5で分割される。また、波長可変レーザ1と異なる波長を有する波長固定レーザ2を射出した光束もビームスプリッタ5に入射し、光線軸が波長可変レーザ1と同軸になると同時に光束も分割される。ビームスプリッタ5で分割された光束の一方はファブリペローエタロン4を透過後、分光素子12で波長可変レーザ1と波長固定レーザ2の光束それぞれに分離される。ファブリペローエタロン4を透過後の光量は、波長可変レーザ1の光束は検出器13a、波長固定レーザ2の光束は検出器13bでそれぞれ検出される。
【0016】
さらに波長固定レーザ2の射出光束はガスセル3にも入射する。ここで、波長可変レーザ1と波長固定レーザ2はどちらも同様のDFB半導体レーザを用いる。また、本実施形態では波長可変レーザ1と波長固定レーザ2は別素子のレーザとしているが、光通信に用いられる多波長光源と同様に複数の半導体レーザを1つの素子に集積した構造としても構わない。この場合にはコストおよび寸法の観点で有利である。ガスセル3透過後の波長固定レーザ2の射出光束は、検出器15で透過光量を検出される。本実施形態では、波長可変レーザ1の波長として1.5μm近傍の波長を使用するものとして、ガスセル3として、アセチレンを用いる。1.5μm近傍の波長帯において使用可能なその他の封入ガスは一酸化炭素やシアン化水素等がある。それぞれのガスは波長帯域および中心波長精度が異なるため、必要に応じて選択すればよい。
【0017】
図2(a)はガスセル3の透過スペクトルを、図2(b)はファブリペローエタロン4の透過スペクトルを示しており、図2(c)は波長可変レーザ1と波長固定レーザ2のスペクトルを示す。
【0018】
波長制御装置14(レーザ制御ユニット)では、検出器15の信号を用いて波長固定レーザ2の波長をガスセル3の吸収線である第3基準波長λに安定化するように制御を行う。波長制御装置14は同時に、検出器13bの信号を用いてファブリペローエタロン4の透過スペクトルが第3基準波長λに一致するようにファブリペローエタロン4の光路長の制御を行う。ここでファブリペローエタロン4の透過スペクトルは波長の絶対値が保証されていることが必要である。
【0019】
次に図2を参照して、第1基準波長λ又は第2基準波長λにおける波長安定化制御について説明する。図2(b)に示されるように、ファブリペローエタロン4は均等な周波数間隔FSRで周期的な透過特性を有し、前述の通り、その真空波長の絶対値は保証されている。第1基準波長λとしては、ファブリペローエタロン4の透過スペクトルの1つが用いられる。波長の安定化は、検出器13aの透過強度が一定となるように、波長制御装置14が波長可変レーザ1の波長を調整することにより行われる。ファブリペローエタロン4への入射光量の変動が影響する場合には、入射光量をも検出してその補正を行う。波長を調整する方法としては、注入電流を変調する方法が用いられる。
【0020】
波長可変レーザ1は、第1基準波長λに相当するファブリペローエタロン4の透過スペクトルに安定化されている。波長可変レーザ1の安定化制御が解除された後、電流変調によって第2基準波長λに波長走査されることにより、波長可変レーザ1は第2基準波長λに安定化される。第2基準波長λから第1基準波長λへの波長走査も同様である。このように、波長可変レーザ1は、少なくとも2つの基準波長(第1基準波長λ、第2基準波長λ)のいずれかに安定化される。また、波長可変レーザ1は、第1基準波長λと第2基準波長λとの間を周期的に且つ高速に走査する。図3は、本実施形態における波長可変レーザ1と波長固定レーザ2のそれぞれの波長の時間変化を示している。図3に示されるように、波長可変レーザ1は、第1基準波長λで安定化される第1期間(0≦t≦t)および第2基準波長λで安定化される第2期間(t≦t≦t’)を有する。なお本実施形態では、ガスセル3に加えてファブリペローエタロン4を用いることにより基準波長の精度を向上させているが、以下のように次数決定のための精度条件を満たせば、ガスセル3のみを用いても構わない。
【0021】
位相計の計測精度をdφとするとき、干渉次数NおよびM23を誤差なく決定するための条件は式(1)、式(2)で表される。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
式(1)においてDが1.5m、第3基準波長λが1.5μmの場合にはD/λは10となる。一方、dΛ23/Λ23、およびdλ/λは、ファブリペローエタロンとガスセルに対して波長安定化を図ることで10−7を実現することが可能である。このため、不等式(1)における制約条件は左辺第1項となる。dφ/2πが10−4[wave]程度であるとすると、Λ23が1.5mmとなるように第2基準波長λを選択することにより、式(1)を満たすことが可能となる。
【0025】
以上の条件下では、式(2)において必要なΛの最大値は1.5m程度となり、第2基準波長λと第1基準波長λの波長差(波長走査量)に換算すると、波長走査量は1.5pmと非常に小さい値になる。半導体DFBレーザで大きな波長走査を実現するには温度変調が必要であり、波長走査に時間がかかるという問題があるが、上述のように波長走査量を小さくすれば、電流変調で高速な走査が実現可能である。また、波長固定レーザ2とは異なる別の波長固定レーザを追加すれば、さらに波長可変レーザの波長走査量を小さくすることができる。
【0026】
ビームスプリッタ5で分割された他方の光束は、ビームスプリッタ18によって更に分割される。ビームスプリッタ18で分割された一方の光束(第1光束)は、偏光ビームスプリッタ19まで伝播する。分割された他方の光束(第2光束)は、波長シフタ11に入射する。波長シフタ11は、波長可変レーザ1と波長固定レーザ2のそれぞれから出力される光束について、音響光学素子(不図示)を用いて入射波長に対して一定量の周波数シフトdνを印加する。また波長シフタ11は、波長板(不図示)を用いて偏光を90度回転させ、入射偏光と直交する偏光を射出する。波長シフタ11から射出された光束は、偏光ビームスプリッタ19まで伝播する。第1光束と第2光束は、偏光ビームスプリッタ19により再び共通光路となった後、ビームスプリッタ21によって2つに分岐される。
【0027】
ビームスプリッタ21で分岐された光束の一方は、分光素子17に入射する。分光素子17は、同軸で入射した波長可変レーザ1と波長固定レーザ2の光束を分離する。分光素子17としては、アレイ導波路型の回折格子が用いられる。ただしこれに限定されるものではなく、プリズムやバルク型の回折格子を用いることができ、要求される波長分解能とコストから選択すればよい。分光素子17を介して得られた第1基準波長λの第1光束と第2光束の干渉信号として、両光束の周波数差に相当するビート信号が位相検出器10bにより検出される。また、第3基準波長λの第1光束と第2光束の干渉信号として、両光束の周波数差に相当するビート信号が位相検出器10aにより検出される。第1光束と第2光束の干渉信号は、位相検出器10a、10bの内部において、偏光子で第1光束と第2光束との共通偏光成分を抽出することで得られる。以下、分光素子17を介して位相検出器10a、10bで検出される干渉信号を基準信号と称す。
【0028】
ビームスプリッタ21で分岐された他方の光束は、距離計測干渉計100に入射する。距離計測干渉計100内の偏光ビームスプリッタ20は、第1光束を透過し、第2光束を反射するように構成される。偏光ビームスプリッタ20で反射した第2光束は、参照面6で反射され、偏光ビームスプリッタ20で反射した後、分光素子16に入射する。また、偏光ビームスプリッタ20を透過した第1光束は、被検面7で反射され、偏光ビームスプリッタ20を透過した後、分光素子16に入射する。以下、参照面6で反射した光束を参照光束、被検面7で反射した光束を被検光束と称す。
【0029】
分光素子16に入射した第1基準波長λの参照光束と被検光束の干渉信号は、位相検出器10bで検出される。また、第3基準波長λの参照光束と被検光束の干渉信号は、位相検出器10aで検出される。このように、位相検出器10a、10b(位相検出部)は、参照面6で反射した参照光束と被検面7で反射した被検光束との干渉信号から位相を検出する。以下、分光素子16を介して位相検出器10a、10bで検出される干渉信号を計測信号と称す。計測信号は、第1光束と第2光束の干渉信号として両光束の周波数差に相当するビート信号である点は基準信号と同一であるが、干渉信号の位相は、被検光束と参照光束の光路長差に応じて、基準信号の位相とは異なる。
【0030】
距離計測干渉計100の光束分割素子として偏光成分で分割可能な偏光ビームスプリッタ20を用いることにより、参照面6と被検面7のそれぞれで反射する光束を偏光により分離することが可能となる。このため、直交する2つの偏光間で僅かに周波数シフト差を加えることで被検面7と参照面6との間のヘテロダイン検出が可能となり、高精度な位相計測が実現する。本実施形態では、距離計測干渉計100の光束分割素子として偏光ビームスプリッタ20が用いられているが、これに限定されるものではなく、無偏光ビームスプリッタを用いてもよい。この場合、無偏光ビームスプリッタと参照面6との間にλ/8板を配置し、参照面6での反射光束と被検面7での反射光束が再び重なった後に、偏光ビームスプリッタを介してそれぞれの偏光成分について強度検出する。検出される2つの干渉信号の位相は、それぞれ0°と90°シフトしている。これら2つの干渉信号から位相計測すればよい。この場合、構成は容易になるが、位相計測精度が低下するため、式(1)、(2)に基づき波長走査量の拡大等の対策が必要となる。
【0031】
また、被検面7の近傍には、被検面7の近傍における大気屈折率を決定するための環境計測ユニット9が配置される。環境計測ユニット9は、大気温度および気圧の計測センサを備えて構成される。大気屈折率の温度敏感度は1ppm/℃、気圧敏感度は0.3ppm/hPaであり、比較的安価な温度計や気圧計でも0.1ppm程度の屈折率を容易に保証することができる。なお本実施形態では、環境計測ユニット9で計測された大気屈折率から計測波長の補正を行っているが、被検光路の近傍に配置されたエアギャップのエタロン等を用いて大気波長を制御する場合には、屈折率の計測は不要となる。
【0032】
解析装置8は、基準信号、計測信号および環境計測ユニット9からの信号が入力され、被検面7と参照面6との間の絶対距離(被検光と参照光の光路差)を算出する。また解析装置8は、波長制御装置14に接続されており、計測フローに応じて波長可変レーザ1の波長制御を行う。なお本実施形態は、1つの光源ユニット200に対して複数の距離計測干渉計100を配置する場合、光源ユニット200とビームスプリッタ18との間で光束を分割することにより容易に対応可能である。
【0033】
次に、図4を参照して、本実施形態における計測方法について説明する。図4は、本実施形態における計測方法のフローチャートである。フローは大きく2つのループに分けられる。1つは波長制御ループであり、他の1つは計測ループである。また、計測ループの中には、ステップS101〜S105によって高速に相対測長するフローと、ステップS101〜S103→S110〜S112→S105によって絶対測長するフローが含まれる。
【0034】
図3で示されるように、波長制御ループでは、波長可変レーザ1を第1基準波長λと第2基準波長λとの間で走査し(ステップS401、S403)、その後、いずれか一方の基準波長に安定化制御する(ステップS402、S404)ことが繰り返される。またステップS402、S404では、基準波長に制御完了後、波長走査完了フラグを計測ループ側のステップS103へ送信する。ステップS103では、波長走査完了フラグを受けて、波長走査が完了したか否かを判断する。
【0035】
次に、図4に示される計測ループについて説明する。まずステップS101、S201において、第1基準波長λおよび第3基準波長λ
の場合に位相計測を行う。またステップS301において、環境計測が行われる。このとき、環境計測ユニット9から被検光束の大気の環境計測結果を解析装置8で取り込む。本実施形態では、被検光路の湿度は保証されているものとし、環境計測として大気の温度tと気圧pを計測する。
【0036】
位相計測とは、計測信号と基準信号の位相差を計測することであり、解析装置8において基準信号と計測信号の位相を位相計で計測し、それらの差分を算出することにより得られる。また、計測される位相は位相接続され、時間に対して連続的に変化する。
【0037】
次に、計測される位相について数式を用いて説明する。まずパラメータを以下のように設定する。波長可変レーザ1を射出してから偏光ビームスプリッタ19までの被検光束と参照光束の光路長差をL、偏光ビームスプリッタ19から位相検出器10a又は位相検出器10bまでの被検光束と参照光束の光路長差を2n(λ)Dとする。ここで、n(λ)は被検光束の光路の屈折率、Dは参照面と被検面との間の絶対距離である。以上のパラメータより、基準信号Irefと計測信号Itestはそれぞれ式(3)で表される。
【0038】
【数3】

【0039】
式(3)より、波長および参照面と被検面の絶対距離が時間的に連続的に変化する場合、時間に依存する位相Φ(t)は式(4)で表される。
【0040】
【数4】

【0041】
また、ある時刻における位相を0〜2πの範囲で表すためには、式(5)が用いられる。
【0042】
【数5】

【0043】
式(5)より、ステップS201で計測される波長可変レーザ1の位相φ(t)は、式(6)で表される。図3に示されるように、時刻tのときの波長可変レーザ1の波長は第1基準波長λである。ここで、「mod(u,k)」は第1引数uの第2引数kに対する剰余を表す。
【0044】
【数6】

【0045】
さらに、このときの位相の整数成分は、式(4)を用いて式(7)で表される。ここで、「round()」は引数を整数に丸める関数を表す。
【0046】
【数7】

【0047】
また、ステップS101で計測される位相φ(t)は式(8)で表される。ただし、図3に示されるように、波長固定レーザ2の波長は常に第3基準波長λである。
【0048】
【数8】

【0049】
ステップS102、S202にて、ステップS101、201で求めた位相計測結果の履歴をそれぞれ残しておく。
【0050】
ステップS103にて、波長制御ループでのステップS402、S404から送信された波長走査完了フラグに基づいて、波長走査が完了したか否かが判断される。波長走査が未完の場合にはステップS104へ進み、完了している場合にはステップS110へ進む。
【0051】
まず、ステップS103にて波長走査が未完であると判断された場合について説明する。この場合、ステップS104では、ステップS102の位相接続された計測結果から、前回計測時の干渉次数N(i)と位相計測結果Φ(i)、および、今回の位相計測結果Φ(i+1)を用いて、干渉次数Nを式(9)にて算出する。
【0052】
【数9】

【0053】
そしてステップS105において、第3基準波長λの相対的な位相変化と、ステップS301での環境計測結果から補正した大気波長を用いて、絶対距離Dを算出する。詳細は後述する。次の波長走査完了のフラグが確認されるまで、このように高速な相対測長と干渉次数Nを用いて絶対距離Dを算出する。そして計測ループの最初へ戻る。
【0054】
次に、ステップS103にて波長走査が完了している場合について説明する。ステップS110にて、2つの合成波長の位相計測時、および、波長走査時の位相変化量の計測時における被検面位置の変化を、第3基準波長λの相対変位の算出結果を用いて補正する。すなわち、波長走査の際における第3基準波長λの位相変化から被検面7の相対変位が算出され、被検面7の相対変位による影響を受けないように合成波長Λ12、Λ13の干渉次数が補正される。時刻tでの波長可変レーザ1の位相は、式(10)より求められる。
【0055】
【数10】

【0056】
さらに、このときの位相の整数成分は、式(4)を用いて式(11)で表される。
【0057】
【数11】

【0058】
一方、時刻tでの波長固定レーザ2の位相φ(t)は、式(12)で表される。この位相結果を用いて時刻tの絶対距離Dが算出される。
【0059】
【数12】

【0060】
また式(4)より、時刻t〜t間の連続的な位相変化から相対変位ΔD(t〜t)は式(13)によって算出される。
【0061】
【数13】

【0062】
ステップS202にて履歴に残された位相Φ(t)(計測位相結果)から、第1基準波長λのままで、絶対距離D(t)のときの位相φ(t)へ式(14)より補正する。
【0063】
【数14】

【0064】
ステップS111では、絶対距離Dの計測時刻tにおける干渉次数M12(t)を算出する。
【0065】
まず図5を参照して、波長走査時に被検面が変動しない場合(D(t)=一定)の干渉次数M12について説明する。図5は、本実施形態における干渉次数M12の概念図である。被検面が変動しない場合、干渉次数M12は、時刻tでの位相Φ(t)の整数成分から、時刻tでの位相Φ(t)の整数成分を引くことにより算出される。しかし被検面が変動している場合には、それぞれの時刻において絶対距離Dが異なるため、干渉次数M12には被検面の変動による位相変化が含まれてしまう。そこで、絶対距離D(t)で第1基準波長λと第2基準波長λとの間で波長走査を行った場合、干渉次数M12(t)は式(15)で表される補正式で算出される。
【0066】
【数15】

【0067】
式(10)、式(14)より、干渉次数M12(t)は式(16)で表される。ここで、Λ12は第1基準波長λと第2基準波長λの合成波長である。また、n(λ、λ)は第1基準波長λ、第2基準波長λに対する群屈折率を表す。
【0068】
【数16】

【0069】
ステップS112では、第3基準波長λによる干渉計測の干渉次数N(t)を算出する。まず、第1の絶対距離D(t)を、合成波長Λ12を用いて式(17)により算出する。
【0070】
【数17】

【0071】
第2基準波長λと第3基準波長λとの合成波長をΛ23とすると、第1の絶対距離D(t)と第2基準波長λおよび合成波長Λ23との関係は、それぞれ式(18)、(19)で表される。
【0072】
【数18】

【0073】
【数19】

【0074】
式(17)、(18)、(19)において、それぞれの波長および合成波長はλ<<Λ23<<Λ12の関係を有するため、干渉次数N(t)、M23(t)は式(20)で表される。また、ステップS112で求められた干渉次数Nは、ステップS104に送信され、ステップS104に記録されている干渉次数Nが更新される。
【0075】
【数20】

【0076】
次に、ステップ105で大気屈折率と絶対距離Dの算出を行う。まず、乾燥空気の大気屈折率nは、温度t[℃]と気圧p[Pa]からEdlenによる式(21)で計算される。
【0077】
【数21】

【0078】
ここで、被検光束の環境が乾燥空気で無い場合には、環境計測ユニット9には湿度計を追加することが望ましい。この場合、式(21)の代わりに湿度補正項を含むEdlenの式を用いればよい。本実施形態では、屈折率計測部として環境計測ユニット9を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば屈折率計測干渉計を用いても構わない。屈折率計測干渉計は、既知の長さの真空光路を有する真空参照光路と、真空参照光路と同一の長さの大気光路を有する大気参照光路の光路差によって生じる干渉信号から屈折率を算出する。
【0079】
最後に、絶対距離D(t)の算出を行う。ステップS105における絶対距離D(t)は、式(22)により算出される。ここで、第1基準波長λ、第2基準波長λ、および、第3基準波長λの位相をそれぞれφ、φ、φとする。また、第3基準波長λ、第1合成波長Λ12、第2合成波長Λ13に対するそれぞれの大気屈折率n(λ)、n(λ、λ)、n(λ、λ)とする。
【0080】
【数22】

【0081】
また本実施形態では、図3に示される時刻t〜tの間(波長走査λ→λ)の位相計測結果から時刻tでの絶対距離を算出するフローについて説明した。ただし本実施形態はこれに限定されるものではなく、時間t’〜t’の間(波長走査λ→λ)の位相計測結果を用いても時刻t’の絶対距離を同様に算出することができる。
【0082】
このように、波長可変レーザの波長を周期的かつ高速に走査することによって、常に絶対測長が可能となる。したがって、本実施形態によれば、波長走査量の低減が可能となり、簡易な構成で高速な絶対距離計測が可能な光波干渉計測装置を提供することができる。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態における光波干渉計測装置について説明する。図6は、本実施形態における光波干渉計測装置600の構成図である。本実施形態は、第1実施形態における波長可変レーザ1の代わりに、波長固定レーザ30に対して周波数オフセットロックされた波長可変レーザ31が用いられている点と、位相検出方式としてホモダイン方式が用いられている点で、第1実施形態とは異なる。波長固定レーザ30は周波数安定化光源であり、波長可変レーザ31の波長基準素子として機能する。
【0083】
本実施形態において、波長固定レーザ30から射出した光束は、ビームスプリッタ35で分割される。また、波長固定レーザ30とは異なる波長を有する波長固定レーザ2から射出した光束もビームスプリッタ35に入射し、その光線軸が波長固定レーザ30と同軸になるとともに光束も分割される。ビームスプリッタ35で分割された光束の一方は、ファブリペローエタロン4を透過後、分光素子12で波長固定レーザ30及び波長固定レーザ2の光束のそれぞれに分離される。ファブリペローエタロン4を透過した後の光量は、波長固定レーザ30の光束については検出器13aで検出され、波長固定レーザ2の光束については検出器13bで検出される。
【0084】
ビームスプリッタ35で分割された他方の光束は、偏光ビームスプリッタ22まで伝播し、波長固定レーザ30の光束は偏光ビームスプリッタ22を透過して検出器23へ入射する。また、波長固定レーザ2の光束は偏光ビームスプリッタ22で反射した後、距離計測干渉計100へ入射する。波長可変レーザ31から射出した光束も偏光ビームスプリッタ22に入射し、光線軸が波長固定レーザ30と同軸になるとともに、光束も分割される。このうち第1光束は検出器23へ入射し、第2光束は距離計測干渉計100へ入射する。検出器23では、波長可変レーザ31と波長固定レーザ30の差の周波数に相当するビート信号が検出される。
【0085】
ビート信号の位相は、波長制御装置33の内部の位相比較器で、既知の周波数信号を出力する周波数シンセサイザ34からの信号の位相と比較される。そして、波長可変レーザ31の周波数は、波長固定レーザ30の周波数に周波数シンセサイザ34の周波数をオフセットした周波数で安定化されている。ここで、周波数シンセサイザ34の周波数を掃引すると、それに追随して波長可変レーザ31の波長も走査される。波長可変レーザ31は、第1基準波長λと第2基準波長λとの間で自由に安定化可能であり、これらの波長の間(λ〜λ間)を周期的かつ高速に走査する。
【0086】
図7は、ガスセル3の透過スペクトル、および、波長可変レーザ31、波長固定レーザ30、波長固定レーザ2のスペクトルを示す図である。波長固定レーザ2の射出光束はガスセル3に入射し、第3基準波長λに安定化される。波長固定レーザ30の射出光束もガスセル3に入射し、第1基準波長λよりも短い波長に相当する透過スペクトルに安定化される。
【0087】
距離計測干渉計100に入射した光束は、位相検出ユニット32a、32b(位相検出部)に入射し、被検面7と参照面6の光路差による干渉信号が生成される。位相検出ユニット32aは、分光素子16を介して、第1基準波長λにおける参照光路と被検光路の光路差による干渉位相を検出する。一方、位相検出ユニット32bは、第2基準波長λにおける参照光路と被検光路の光路差による干渉位相を検出する。
【0088】
本実施形態においても、距離計測干渉計100の光束分離素子として偏光ビームスプリッタ20が用いられているため、参照面6と被検面7のそれぞれで反射する光束を偏光により分離することが可能となる。従って、偏光差を用いた位相差制御によるホモダイン検出が可能であり、高精度な位相計測を実現することができる。
【0089】
図8は、位相検出ユニット32a、32bの構成図である。位相検出ユニット32a、32bでは、被検光束と参照光束の偏光軸角度と45度となる進相軸を有するλ/4板41により、被検光束と参照光束の偏光を右回り円偏光と左回り円偏光に変換する。偏光変換後の光束は、グレーティングビームスプリッタ42により0次、±1次回折光の3つの等光量な光束に分割される。分割後の3つの光束は、それぞれの光束に対して透過偏光の角度が異なるように配置された偏光子アレイ43を透過し、それぞれの偏光方位の干渉信号光量が検出器50a、50b、50cで検出される。偏光子アレイ43のそれぞれの偏光子角度を120度ピッチとすると、検出器50a、50b、50cで得られる光量I、I、Iは式(23)で表される。
【0090】
【数23】

【0091】
ここで、φは被検光束と参照光束の光路長差に伴う干渉信号の位相差である。式(23)より、位相差φは式(24)を用いて算出される。
【0092】
【数24】

【0093】
位相検出ユニット32a、32bは、解析装置8に接続されている。解析装置8は、光量検出結果から式(24)を用いて第1基準波長λにおける被検光束と参照光束の光路長による位相と、第3基準波長λにおける被検光束と参照光束の光路長による位相を検出する。
【0094】
なお本実施形態の位相検出ユニット32a、32bは、図8に示される構成で3つの既知の位相差における干渉信号強度の検出を行うが、他の構成で複数の既知位相差における干渉信号強度の検出を行ってもよい。例えば、位相検出ユニットを、複屈折を有するプリズムを用いて被検光束と参照光束間にティルト縞を発生させて空間的に位相差を生成して光量を検出するように構成してもよい。また、既知の位相差の数や既知の位相差の間隔に関しても上述のように限定されるものではなく、必要な精度に応じて適宜選択すればよい。
【0095】
本実施形態のようなホモダイン検出の場合には高周波の信号が存在しないため、実施形態1のヘテロダイン検出に比較し安価に検出系を構成することができる。また位相計測精度に関しては、検出器50a、50b、50cの利得、オフセット、位相の特性を補正することにより、ヘテロダイン同様の10−4[wave]程度を実現することが可能である。また本実施形態では、第1実施形態と同様に、被検面7の近傍には被検面近傍の大気屈折率を決定するための環境計測ユニット9が配置される。なお、本実施形態の計測方法は第1実施形態と同様であるため省略する。
【0096】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0097】
1:波長可変レーザ
2:波長固定レーザ
3:ガスセル
4:ファブリペローエタロン
6:参照面
7:被検面
8:解析装置
10a、10b:位相検出器
20:偏光ビームスプリッタ
500:光波干渉計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基準波長と第2基準波長との間で周期的に波長走査をして光束を射出する波長可変レーザと、
第3基準波長の光束を射出する波長固定レーザと、
前記波長可変レーザから射出する前記光束の波長を前記第1基準波長および前記第2基準波長に設定する波長基準素子と、
前記波長可変レーザおよび前記波長固定レーザから射出した光束を参照光束および被検光束に分割する光束分割素子と、
前記参照光束を反射する参照面と、
前記被検光束を反射する被検面と、
前記参照面で反射した参照光束と前記被検面で反射した被検光束との干渉信号から位相を検出する位相検出部と、
前記第1基準波長をλ、前記第2基準波長をλ、前記第3基準波長をλ、λ・λ/|λ−λ|で表される第1合成波長をΛ12、λ・λ/|λ−λ|で表される第2合成波長をΛ13としたとき、該第3基準波長λ、該第1合成波長Λ12、該第2合成波長Λ13、前記波長走査の際の位相変化量の整数成分、および、該第1合成波長Λ12と該第2合成波長Λ13の干渉次数から逐次的に該第3基準波長λの干渉次数を決定し、前記被検面と前記参照面との間の絶対距離を算出する解析装置と、を有することを特徴とする光波干渉計測装置。
【請求項2】
前記解析装置は、前記波長走査の際における前記第3基準波長の位相変化から前記被検面の相対変位を算出し、該被検面の相対変位による影響を受けないように前記第1合成波長および前記第2合成波長の干渉次数を補正することを特徴とする請求項1に記載の光波干渉計装置。
【請求項3】
前記解析装置は、前記第1基準波長λから前記第2基準波長λへの波長走査の際に、前記第3基準波長λの位相変化から時刻t〜t間における前記被検面の相対変位ΔD(t〜t)を算出し、
以下の式(1)を用いて、時刻tにおける前記第1基準波長λの位相Φ(t)を時刻tにおける位相φ’(t)に補正し、
以下の式(2)を用いて、前記第1合成波長Λ12の干渉次数M12(t)を算出することを特徴とする請求項1に記載の光波干渉計装置。



【請求項4】
前記解析装置は、前記第1基準波長λ、前記第2基準波長λ、および、前記第3基準波長λの位相をそれぞれφ、φ、φ、前記第3基準波長λ、前記第1合成波長Λ12、および、前記第2合成波長Λ13に対するそれぞれの大気屈折率n(λ)、n(λ、λ)、n(λ、λ)を用いて、前記参照面と前記被検面の間の絶対距離を以下の式により算出することを特徴とする請求項3に記載の光波干渉計測装置。

【請求項5】
前記波長可変レーザは、前記第1基準波長で安定化される第1期間および前記第2基準波長で安定化される第2期間を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光波干渉計測装置。
【請求項6】
前記波長基準素子はエタロンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光波干渉計測装置。
【請求項7】
前記波長基準素子は周波数安定化光源であり、
前記波長可変レーザは、前記周波数安定化光源に周波数オフセットロックされて構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光波干渉計測装置。

【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−179934(P2011−179934A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43690(P2010−43690)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】