説明

光波長可変フィルターの製造装置及び製造方法

【課題】 光学基板上に直接、膜厚が変化する誘電体多層膜を積層させた光波長可変フィルターを製造する。
【解決手段】 光学基板12を保持する基板ホルダー111と、基板ホルダー111の中心を軸として回転する自転機構108と、基板ホルダー111の直下にあり、基板ホルダー111の中心部が全開しており、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材112とを設けている成膜製造装置を用いる。光学基板12を基板ホルダー111で保持し、自転機構108によって回転させた状態で、蒸着源であるルツボ104a、104bから発散して光学基板12に到達する蒸着物質の量を遮蔽部材112の開口部により制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単調に膜厚が変化する誘電体多層膜を、直接、光学基板に形成した光波長可変フィルターの製造装置及び該製造方法を用いた光波長可変フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光計測等では特定の波長を透過するバンドパスフィルター、特定の波長を反射するノッチフィルター、透過する波長域と反射する波長域を分けるエッジフィルターなどの誘電体多層膜を積層させたフィルターが用いられている。誘電体多層膜を積層させたフィルターでは、フィルターへの光の入射角を0°〜10°程度で変化させることで、分光特性を変化させることができる。そこで、これを利用して所望の分光特性を得ることが行われていた。しかし、入射角の増加によって透過率が低下したり、偏光成分が大きく変化するという問題が生じていた。それらの問題を解決するために、基板上の膜厚を変化させて形成することで、所望の分光特性を得る光波長可変フィルターが開発された。
【0003】
基板上の膜厚が変化する従来の光波長可変フィルターは、基台の底面に対する面を所定の曲面にし、その曲面に剥離可能な透明体薄板を貼着させ、底面に対して垂直方向から誘電体多層膜を蒸着させる。そして誘電体多層膜を設けた透明体薄板を基台から剥離させ、透明基板表面に貼着して製造する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−281480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の光波長可変フィルターの製造方法では、基台へ透明体薄板を貼着する際に、透明体薄板にしわが生じたり、基台から透明体薄板を剥離する際に、透明体薄板と誘電体多層膜に破損が生じる問題がある。そのため、所望の光学性能が得られないといった不具合が生じる。また、従来の製造方法では工程が複雑であるため、製造コストが高くなる。
【0005】
本発明では上記課題を考慮してなされたものであり、光学基板上に直接、膜厚が変化する誘電体多層膜を積層させた光波長可変フィルターの製造装置および該製造装置を用いた光波長可変フィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1における光波長可変フィルターの製造装置は、光学基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーの中心を軸として回転する自転機構と、前記基板ホルダーの直下にあり、前記基板ホルダーの中心部が全開しており、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材とを設けていることを特徴とする。
【0007】
請求項1の光波長可変フィルターの製造装置によれば、基板ホルダーの中心部が全開口であり、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材を設けることで、蒸発源から発散して光学基板に到達する蒸着物質の量を開口部により制限することができる。
【0008】
本発明の請求項2における光波長可変フィルターの製造方法は、光学基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーの中心を軸として回転する自転機構と、前記基板ホルダーの直下にあり、基板ホルダーの中心部が全開しており、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材とを設けている製造装置を用いた光波長可変フィルターの製造方法であって、前記光学基板を前記基板ホルダーで保持し、前記自転機構によって回転させた状態で、蒸着源から発散して前記光学基板に到達する蒸着物質の量を開口部により制限することで、前記光学基板の面内で分光特性に分布を持たせることを特徴とする。
【0009】
請求項2の光波長可変フィルターの製造方法によれば、基板ホルダーを中心として光学基板を回転させる自転機構を有する通常の成膜装置に、基板ホルダーの直下に基板ホルダーの中心が全開口であり、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材を設けることにより、蒸着源より発散して光学基板に到達する蒸着物質の量が開口角度によって異なるため、光学基板の一方向において、膜厚が減少する。この膜厚変化を利用し、中心からの距離を任意に選択する事により、所望の分光特性が得られるバンドパスフィルター、エッジフィルター、ノッチフィルターなどの光波長可変フィルターを容易に作る事ができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学基板に直接、光学基板の半径方向に膜厚が変化する光学薄膜を、変化させて成膜することができるため、光波長可変フィルターの製造工程が容易となる。よって、製造コストの削減につながる。また、本発明で用いた光波長可変フィルターの製造装置は通常の成膜製造装置からの転用が容易であり、汎用性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光波長可変フィルターの製造方法及び製造装置について、図面を参照して説明する。
【0012】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る光波長可変フィルターの製造方法について説明する。説明に先立って、まず、本実施形態の方法で製造されるフィルターを、図2を用いて説明する。光学素子11はガラス平板からなる光学基板12と、光学基板12の表面12a上に形成された光波長可変フィルター(光学多層膜)13を備えている。図2に示す光学基板12には、外径が24mmで、基板屈折率が1.52のS−BSL7(OHARA製)を用いた。光波長可変フィルター13は、設計波長λを650nmとして設計されている。具体例を、後述する表2に示す。まず、光学基板12の表面12a上に、第1層目として高屈折率膜14が形成されている。次に、高屈折率膜14上に、低屈折率膜15が形成されている。そして、高屈折膜14と低屈折率膜15が、交互に第7層まで光学膜厚λ/4で積層されている。第8層は低屈折率膜15が光学膜厚λ/2で形成されている。以下、第9〜15層は高屈折率膜14と低屈折率膜15を、交互に光学膜厚λ/4で積層した。本実施形態では、高屈折率膜14として屈折率2.25のTaを、低屈折率膜15として屈折率1.47のSiOを用いた。
【0013】
上述した光波長可変フィルターを製造する製造装置について説明する。本実施の形態で用いるイオンアシスト蒸着装置の縦断面図を図1に示す。真空チャンバー101の右側面には排気口102があり、左側面にはガス導入口103がある。排気口102からは、真空チャンバー101内の気体が排気される。ガス導入口103からは、Oガスが真空チャンバー101内に導入される。真空チャンバー101の底部には、複数のルツボ104a、104b、電子銃105a、105b、シャッター106a 、106bおよびイオン源107がある。
【0014】
成膜にあたっては、電子銃105a、105bから照射される電子ビームによって、ルツボ104a、104b内の蒸着材料を蒸発させる。イオン源107は光学基板12に向かってイオンアシストをする。成膜の開始と終了はシャッター106a、106bの開閉で行う。真空チャンバー101の上部には、自転機構108、クリスタル監視計109、および光学監視計110がある。自転機構108には、光学基板12を入れた基板ホルダー111が設置されている。成膜中は、光学基板12の中心を軸として、光学基板12が回転する。クリスタル監視計109は成膜される物理膜厚を測定し、光学監視計110は成膜中のモニターガラス114上の反射光量の変化を測定する。自転機構108の直下には、開口を有する遮蔽部材112がある。
【0015】
図3に、光学基板12が遮蔽部材112によって遮蔽された状態を示す。光学基板12の中心から半径rAXの円周上の点をフィルター使用点AXとすると、図3に示す遮蔽部材112の開口形状は、そのフィルター使用点AXの円周上の開口角度αAXで決まる。このときrAXは光学基板12の中心から各フィルター使用点までの距離であり、この距離を、フィルター使用点距離とする。開口角度は式(1)で示される。
【0016】
αAX(°)=360・rAO/rAX・yAX …式(1)
ただし、x=0,1,2,3…
【0017】
式(1)では、フィルター使用点AOの膜設計を基本設計とし、その基本設計の膜厚を1としたときの各フィルター使用点の膜厚比をyAXとする。表1に、各フィルター使用点における膜厚比yAX、フィルター使用点距離rAXと開口角度αAXを示す。実施形態1の遮蔽部材の形状は、表1の開口角度より、図3の開口形状とした。例えば、フィルター使用点Aにおけるフィルターの透過波長は600nmであり、このときの膜厚比yA2は0.92である。よって、式(1)よりフィルター使用点A1の円周上の開口角度αA1は124.2°となる。
【0018】
【表1】

【0019】
実施形態1では、図2に示すイオンアシスト蒸着装置を用いる。この成膜製造装置を用いて、前述の光波長可変フィルター13の第1層として、光学基板12上の表面12aに設計値λ/4の高屈折率膜14を形成する。その際、あらかじめ基板ホルダー111に光学基板12を取り付け、真空チャンバー101を1.0×10−3Paとなるまで減圧する。次いで、ガス導入口102よりOガスを導入し、真空度2.0×10−3Paとなるように、圧力一定の制御をする。ガス導入後、自転機構108によって、光学基板12を光学基板12の中心を軸として回転させる。そして、イオン源107より、プラズマを発生させる。
【0020】
シャッター106aでルツボ104aの上を覆う状態にし、電子銃105aより電子ビームを照射する。この照射によって、ルツボ104a中の蒸着材料Taの溶かし込みを164秒間行う。溶かし込み終了後、シャッター106aをルツボ104aの上から外した位置に移動させる事により、Ta膜が成膜される。成膜速度はクリスタル監視計109により制御される。装置制御プログラムには、あらかじめ所定の膜厚が入力されている。そこで、所定の膜厚に達した際に、シャッター106aはルツボ104a上に移動する。以上のような工程により、光学基板12上に高屈折率膜14がλ/4形成されることになる。
【0021】
次に、高屈折率膜14上に低屈折率膜15を形成する。本実施形態では、低屈折率膜15を形成するのに、ルツボ104bに蒸着材料SiOを用いた。前述の工程と同様に、イオン源107よりプラズマを発生させる。そして、シャッター106bがルツボ104b上を覆っている状態で電子銃105bから電子ビームを照射する。この照射によって、ルツボ104b中の蒸着材料SiOの溶かし込みを45秒間行った。溶かし込み終了後、シャッター106bをルツボ104b上から外し、SiO膜を成膜した。高屈折率膜14と同様に、光学基板12上に低屈折率膜15がλ/4形成されると、シャッター106bはルツボ104b上を覆う。これにより、SiO膜の形成は終る。順次、同様のプロセスにより、合計15層からなる光波長可変フィルター13を作製した。
【0022】
なお、本実施の形態1における光波長可変フィルターの製造装置は、開口を有する遮蔽部材を設けたイオンアシスト蒸着装置であるが、これに限定されるものではない。例えば、遮蔽部材を設けた真空蒸着装置やスパッタリング装置でも、同等の光波長可変フィルターを得ることができる。また、本実施の形態1では表1の各フィルター使用点の膜厚比、開口角度および各フィルター使用点距離と、表2のバンドパスフィルターの基本設計より、各フィルター使用点での透過波長が決められている。しかしながら、フィルターの基本設計や膜厚比を変えることで、可視域だけではなく他の波長域で利用可能な光波長可変フィルターを得ることができる。例えば、光通信で使用する波長域で、所望の分光特性が得られる光波長可変フィルターを得ることができる。
【0023】
【表2】

【0024】
図4に本実施の形態1における光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターの分光透過率特性を示す。各フィルター使用点A〜Aにおける透過波長と半値幅を表3に示す。表3より、図2に示された中心から半径1.5mmのフィルター使用点Aにおける透過率は、波長650nmにピークを持つ。中心から半径2.5mmの位置では、フィルター使用点はAの位置になり、透過波長が600nmになる。各ピーク波長では、透過率が90%以上であり、半値幅は8nm以下である。
【0025】
【表3】

【0026】
このように、実施の形態1によれば、光学基板12の半径方向に従い、光学基板12上に膜厚を変化させて成膜された光波長可変フィルター13を容易に得ることができる。
そして、本実施の形態1の光波長可変フィルター13は、通常の成膜製造装置に遮蔽部材112を取り付けるだけで製造できる。よって、本実施形態の製造方法を実施する装置は、通常の成膜製造装置からの転用が容易である。すなわち、本実施形態の製造方法は汎用性に優れている。
【0027】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターを、図5を用いて説明する。光学素子21はガラス平板からなる光学基板22と光学基板22の表面22a 上に形成された光波長可変フィルター23を備えている。図5に示す光学基板22は大きさが3×10.5×1mmで、基板屈折率が1.77のS−LAH66(OHARA製)を用いた。光波長可変フィルター23は、設計波長λを650nmとして表2に示す設計で、光学基板22の表面22a上に第1層目として高屈折率膜14と、次に高屈折率膜14上に低屈折率膜15とを交互に実施の形態1と同様に積層して成膜した。
【0028】
本実施の形態では、実施の形態1と同じイオンアシスト蒸着装置を用いて成膜する。この成膜製造装置を用いて、光学基板22を基板ホルダー211に入れ、実施の形態1と同様プロセスにより光波長可変フィルターを作製した。
図6に、図5示す光学基板22が基板ホルダー211に入れられ、固定機構113によって固定された遮蔽部材112で遮蔽された状態を示す。図6に示す遮蔽部材112は、実施の形態1で用いた遮蔽部材である。
【0029】
なお、本実施の形態2における光波長可変フィルターの製造装置は、遮蔽部材を設けたイオンアシスト蒸着装置であるが、これに限定されるものではなく、遮蔽部材を設けた真空蒸着装置やスパッタリング装置でも同等の光波長可変フィルターを得ることができる。また、本実施の形態2では表4の各フィルター使用点の膜厚比、開口角度および各フィルター使用点距離と、表2のバンドパスフィルターの基本設計より各フィルター使用点での透過波長が決められたが、フィルターの基本設計や膜厚比を変えることで所望の分光特性が得られる光波長可変フィルターの膜厚を得ることができる。また、本実施の形態2における遮蔽部材112は開口角度を自由自在に変えられるので、この遮蔽部材112一つで様々な光波長可変フィルターの製造に対応できる。
【0030】
【表4】

【0031】
図7に本実施の形態2における光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターの分光透過率特性を示す。各フィルター使用点B〜Bにおける透過波長と半値幅を表5に示す。表6より図5に示された光学基板の端から2.5mmのフィルター使用点B1における透過率は波長600nmにピークがあり、光路に対して光波長可変フィルターを2mm移動させると、フィルター使用点B2の位置になり、透過波長が524nmに移動することがわかる。各ピーク波長は透過率が90%以上であり、半値幅は8nm以下である。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
このように、実施の形態2によれば、光学基板22の一方向に従い、光学基板22上に膜厚を変化させて成膜された光波長可変フィルター23を得ることができる。
そして、本実施の形態2における光波長可変フィルターの製造方法では、通常の成膜製造装置に遮蔽部材112を取り付けるだけで光波長可変フィルター23を製造することができるので、通常の成膜製造装置から転用が極めて容易であり、汎用性に優れている。
【0035】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターを、図8を用いて説明する。光学素子31はガラス平板からなる光学基板32と光学基板32の表面32a 上に形成された光波長可変フィルター33を備えている。図8に示す光学基板32には外径が22mmで、基板屈折率が1.60のS−BSM14(OHARA製)を用いた。光波長可変フィルター33は、設計波長λを650nmとして表7に示すように、光学基板32の表面32a 上に第1層目として高屈折率膜34と、次に高屈折率膜34上に低屈折率膜35とを交互に第9層まで光学膜厚λ/4で積層し、第10層は低屈折率膜35の光学膜厚をλ/2とし、以下第11〜19層は高屈折率膜34と低屈折率膜35を交互に光学膜厚λ/4で積層して成膜した。高屈折率膜34として屈折率2.14のTaを、低屈折率膜35として屈折率1.46のSiOを用いた。
【0036】
【表7】

【0037】
本実施の形態3では、実施の形態1と同じイオンアシスト蒸着装置を用いて成膜する。この成膜製造装置を用いて、光学基板32を基板ホルダー311に入れて成膜した。その際、成膜は1.0×10-3Paで開始し、イオン源107を使わず、そのほかは実施の形態1と同様のプロセスにより、合計19層の光波長可変フィルターを作製した。
図9に、図8に示す光学基板32が固定機構113によって遮蔽部材312によって遮蔽された状態を示す。図9に示す遮蔽部材312の開口形状は、実施の形態1と同様に表6のフィルター使用点距離と膜厚比を用いて式(1)から算出した開口角度によって決めた。
【0038】
図9に示す遮蔽部材312の開閉屋根313は円状に開閉をすることができ、固定ピン314によって開閉屋根の開き度合いを調節できるため、特定のフィルター使用点距離に対して遮蔽部材の開口角度を自由自在に変化させることができる。
【0039】
なお、本実施の形態3における光波長可変フィルターの製造装置は、遮蔽部材を設けたイオンアシスト蒸着装置であるが、これに限定されるものではなく、遮蔽部材を設けた真空蒸着装置やスパッタリング装置でも同等の光波長可変フィルターを得ることができる。本実施の形態3では表6の各フィルター使用点の膜厚比、開口角度および各フィルター使用点距離と、表7のバンドパスフィルターの基本設計より各フィルター使用点での透過波長が決められたが、フィルターの基本設計や膜厚比を変えることで所望の分光特性が得られる光波長可変フィルターの膜厚を得ることができる。また、本実施の形態3における遮蔽部材は開口角度を自由自在に変えられるので、この遮蔽部材一つで様々な光波長可変フィルターの製造に対応できる。
【0040】
図10に本実施の形態3における光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターの分光透過率特性を示す。各フィルター使用点C〜Cにおける透過波長と半値幅を表8に示す。表8より図8に示された中心から半径3mmのフィルター使用点Cにおける透過率は波長650nmにピークがあり、光路に対して光波長可変フィルターを1.5mm移動させると、フィルター使用点Cの位置になり、透過波長が625nmに移動することがわかる。各ピーク波長は透過率が90%以上であり、半値幅は5nm以下である。
【0041】
【表8】

【0042】
【表9】

【0043】
このように、実施の形態3によれば、光学基板32の半径方向に従い、光学基板32上に膜厚を変化させて成膜された光波長可変フィルター33を得ることができる。
そして、本実施の形態3における光波長可変フィルターの製造方法では、通常の成膜製造装置に遮蔽部材312を取り付けるだけで光波長可変フィルター33を製造することができるので、通常の成膜製造装置から転用が極めて容易であり、汎用性に優れている。
また、本実施の形態3の遮蔽部材312は、自由自在に開口角度を変えることができるので、フィルター毎に遮蔽部材を作る必要がない。
【0044】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係る光波長可変フィルターの製造方法により製造されるフィルターを、図11を用いて説明する。光学素子41はガラス平板からなるモニターガラス42とモニターガラス42の表面42a 上に形成された光波長可変フィルター43を備えている。図11に示すモニターガラス42には外径が24mmで、基板屈折率が1.52のS−BSL7(OHARA製)を用いた。光波長可変フィルター43は、設計波長λを650nmとして表10に示すように、モニターガラス42の表面42a上に第1層目として高屈折率膜44を光学膜厚1.37×λ/4、次に高屈折率膜44上に低屈折率膜45を光学膜厚1.33×λ/4で積層し、以下第3〜19層は高屈折率膜44と低屈折率膜45を交互に表8の設計に基づいて積層して成膜した。高屈折率膜44として屈折率2.21のTaを、低屈折率膜45として屈折率1.46のSiOを用いた。
【0045】
【表10】

【0046】
本実施の形態4で用いるイオンアシスト蒸着装置の縦断面図を図12に示す。真空チャンバー401の右側面には排気口402があり、左側面にはガス導入口403がある。排気口402は真空チャンバー401内を排気し、成膜中にガス導入口403よりOガスを真空チャンバー401内に導入する。真空チャンバー401の底部には、ルツボ404a、404b、電子銃405a、405b、シャッター406a、406bおよびイオン源407がある。電子銃405a、405bから照射される電子ビームによってルツボ404a、404b内の蒸着材料を蒸発させる。イオン源407はドーム408の全体に向かってイオンを照射する。
【0047】
成膜の開始と終了はシャッター406a、406bの開閉で行う。真空チャンバー401の上部にはクリスタル監視計409、および光学監視計410がある。クリスタル監視計409はクリスタル基板411に成膜される物理膜厚を測定し、シャッター406a、406bの開閉をする。また、クリスタル監視計409の測定結果より成膜速度も制御する。光学監視計410は成膜中のモニターガラス42をモニターガラス42の中心を軸として回転させる。光学監視計410の直下には開口を有する遮蔽部材412がある。遮蔽部材412は固定部413によって光学監視計410の直下に固定されている。
【0048】
図13に示すモニターガラス42が遮蔽部材412によって覆われた状態を示す。表9に各フィルター使用点における膜厚比、フィルター使用点距離と開口角度を示す。実施の形態4の遮蔽部材412の開口形状は表9のフィルター使用点距離と膜厚比を用いて式(1)から算出した開口角度より図13の開口形状とした。
【0049】
実施の形態4では、図12に示すイオンアシスト蒸着装置を用いる。この成膜製造装置を用いて、前述の光波長可変フィルター43の第1層目として、モニターガラス42上の表面42aに設計値1.37×λ/4の高屈折率膜44を形成する際、あらかじめモニターガラス42を取り付け、真空チャンバー401を1.0×10-3Paまで減圧する。次いで、ガス導入口402よりOガスを導入し、真空度2.0×10-3Paで圧力一定の制御をする。ガス導入後、光学監視計410はモニターガラス42をモニターガラス42の中心を軸として回転させ、イオン源407よりプラズマを発生させる。
【0050】
シャッター406aでルツボ404aの上を覆う状態にし、電子銃405aから電子ビームを照射させ、ルツボ404a中の蒸着材料Taの溶かし込みを160秒間行う。溶かし込み終了後シャッター406aをルツボ404aの上から外した位置に移動させる事により、Ta膜が成膜される。
【0051】
成膜速度はクリスタル監視計409により制御される。あらかじめ、装置制御プログラムに入力した膜厚に達した際に、シャッター406aはルツボ404a上に移動し、モニターガラス42上に高屈折率膜44が1.37×λ/4形成されることになる。次に、高屈折率膜44上に低屈折率膜45を形成する。低屈折率膜45を形成する際には、ルツボ404bに蒸着材料SiOを用いた。イオン源407よりプラズマを発生させ、シャッター406bがルツボ404b上を覆っている状態で電子銃405bによって電子ビームを照射させ、ルツボ404b中の蒸着材料SiOの溶かし込みを45秒間行った。
【0052】
溶かし込み終了後、シャッター406bをルツボ404b上から外し、SiO膜を成膜した。高屈折率膜44と同様に、モニターガラス42上に低屈折率膜45が1.33×λ/4形成されるとシャッター406bはルツボ404b上を覆い、SiO膜の形成は終る。順次、同様のプロセスにより、合計19層の光波長可変フィルターを作製した。
【0053】
ここで、本実施の形態4における光波長可変フィルターの製造装置は、モニターガラスをモニターガラスの中心を軸として回転させる光学監視計を持つ通常のイオンアシスト装置に、遮蔽部材が光学監視計の直下に固定したものであるが、通常のイオンアシスト装置に限定されるものではなく、モニターガラスをモニターガラスの中心を軸として回転させる光学監視計を有し、遮蔽部材が光学監視計の直下に固定できる真空蒸着装置やスパッタリング装置でも同等の光波長可変フィルターを得ることができる。
【0054】
また、本実施の形態4では表9の各フィルター使用点における膜厚比、開口角度および各フィルター使用点距離と、表10のバンドパスフィルターの基本設計より各使用点での透過波長が決められたが、フィルターの基本設計や膜厚比を変えることで所望の特性が得られる光波長可変フィルターの膜厚を得ることができる。
【0055】
図14に本実施の形態4における光波長可変フィルター製造方法により製造されるフィルターの分光透過率特性を示す。各フィルター使用点D〜Dにおける透過波長と半値幅を表11に示す。表11より図11に示された中心から半径2mmのフィルター使用点D0における透過率は波長800nmにピークがあり、光路に対して光波長可変フィルターを1.5mm移動させると、フィルター使用点Dの位置になり、透過波長が721nmに移動することがわかる。各ピーク波長は透過率90%以上であり、半値幅は8nm以下である。
【0056】
【表11】

【0057】
このように、実施の形態4によれば、モニターガラス42の半径方向に従い、モニターガラス42上に膜厚を変化させて成膜された光波長可変フィルター43を得ることができる。
そして、本実施の形態4における光波長可変フィルターの製造装置は、モニターガラス42を、自転運動させる光学監視計410を有する一般的な成膜製造装置に遮蔽部材412と固定部413を取り付けるだけで製造装置を得ることができ、通常の成膜製造装置への転用は極めて容易であり、汎用性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1で製造される光学素子の断面図である。
【図2】実施の形態1で用いるイオンアシスト蒸着装置の縦断面図である。
【図3】実施の形態1で用いる遮蔽部材と光学基板の図である。
【図4】実施の形態1で製造されるフィルターの分光透過率特性を示す図である。
【図5】実施の形態2で製造される光学素子の断面図である。
【図6】実施の形態2で用いる遮蔽部材と光学基板の図である。
【図7】実施の形態2で製造されるフィルターの分光透過率特性を示す図である。
【図8】実施の形態3で製造される光学素子の断面図である。
【図9】実施の形態3で用いる遮蔽部材と光学基板の図である。
【図10】実施の形態3で製造されるフィルターの分光透過率特性を示す図である。
【図11】実施の形態4で製造される光学素子の断面図である。
【図12】実施の形態4で用いるイオンアシスト蒸着装置の縦断面図である。
【図13】実施の形態4で用いる遮蔽部材とモニターガラスの図である。
【図14】実施の形態4で製造されるフィルターの分光透過率特性を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
12、22、32 光学基板
13、23、33、43 光波長可変フィルター
42 モニターガラス(光学基板)
104a、104b、404a、404b ルツボ(蒸着源)
108 自転機構
111、211、311 基板ホルダー
112、312、412 遮蔽部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーの中心を軸として回転する自転機構と、前記基板ホルダーの直下にあり、前記基板ホルダーの中心部が全開しており、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材とを設けていることを特徴とする光波長可変フィルターの製造装置。
【請求項2】
光学基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーの中心を軸として回転する自転機構と、前記基板ホルダーの直下にあり、前記基板ホルダーの中心部が全開しており、その中心から外側に向かって開口角度が狭くなる開口部を有する遮蔽部材とを設けている製造装置を用いた光波長可変フィルターの製造方法であって、
前記光学基板を前記基板ホルダーで保持し、前記自転機構によって回転させた状態で、蒸着源から発散して前記光学基板に到達する蒸着物質の量を開口部により制限することで、前記光学基板の面内で分光特性に分布を持たせることを特徴とする光波長可変フィルターの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−139102(P2006−139102A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329125(P2004−329125)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】