説明

光触媒コーティング光ファイバ、光触媒コーティング光ファイバの製造装置および製造方法、並びに、光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置

【課題】光触媒機能を損なうことなく、折れにくく、長期にわたって信頼性の高い光触媒コーティング光ファイバ、光触媒コーティング光ファイバの製造装置および製造方法、並びに、光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒コーティング光ファイバは、光ファイバ1と、該光ファイバ1の外周面の一部をコーティングする有機樹脂2と、前記光ファイバ1の外周面の他部をコーティングする光触媒3とを備えてなり、前記有機樹脂2と前記光触媒3は前記光ファイバ1の長さ方向の全長にわたって連続して設けられ、前記有機樹脂2が前記光ファイバ1の構成材料よりも屈折率が低いフッ素系樹脂であり、前記光ファイバ1の断面円周のうち10〜90%が前記フッ素樹脂でコーティングされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンなどの光触媒を光ファイバの外周面にコーティングした光触媒コーティング光ファイバ、その光触媒コーティング光ファイバの製造装置および製造方法、並びに、光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(TiO)粒子は、ペイント、化粧品、食品添加物における白色顔料として広く使用されてきた。その他に、酸化チタンが示す光触媒作用により、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)の分解や水質汚濁を生じる有機溶剤の分解などへの利用が検討されている。
【0003】
酸化チタンを光触媒として機能させるには、フィルターやガラス板など、被処理物が効率良く接触できる基材に酸化チタンを担持することが望ましい(例えば、特許文献1、2参照。)。
触媒の機能上、当然のことであるが、酸化チタンが被処理物と接触している必要があり、また、それと同時に励起光(反応光)である紫外光線または可視光線が光触媒部分に有効に到達することが必要とされる。そのため、被処理物と接触する面積が広く、かつ、基材内部を励起光が伝達するような機構を持った線材の表面に光触媒を塗布した物体が提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。特に、線材としてガラス製の光ファイバを用いたものは、大きな吸着表面積を有し、導光性に優れており、優れた触媒能力を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3258023号公報
【特許文献2】特許第2574840号公報
【特許文献3】特開平9−225262号公報
【特許文献4】特開平11−290701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス製の光ファイバは非常に脆く、折れやすいため、酸化チタンなどの光触媒を外周面にコーティングしても実用に耐えられないものであった。例えば、光触媒をコーティングした光ファイバの端面より光触媒励起用の紫外光を入射し、光ファイバ外周面からの漏れ光で光触媒活性を得ようとした場合、光ファイバに曲げを加えることで任意の個所で任意量の漏れ光を生じさせるため、必要な曲げを加えると光ファイバが折れてしまうという問題があった。また、この光触媒をコーティングした光ファイバを用いて空気や排水の浄化を行う場合、気流や水流により光ファイバが外力を受け、振動や瞬間的な過度の負荷が加わって光ファイバが折れるという問題があった。また、荷重付加がかからない用途で使用しても、長期にわたる信頼性の低さが問題となっている。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、光触媒機能を損なうことなく、折れにくく、長期にわたって信頼性の高い光触媒コーティング光ファイバ、光触媒コーティング光ファイバの製造装置および製造方法、並びに、光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバと、該光ファイバの外周面の一部をコーティングする有機樹脂と、前記光ファイバの外周面の他部をコーティングする光触媒とを備えてなり、前記有機樹脂と前記光触媒は前記光ファイバの長さ方向の全長にわたって連続して設けられ、前記有機樹脂が前記光ファイバの構成材料よりも屈折率が低いフッ素系樹脂であり、前記光ファイバの断面円周のうち10〜90%が前記フッ素樹脂でコーティングされていることを特徴とする光触媒コーティング光ファイバを提供する。
【0008】
本発明の光触媒コーティング光ファイバにおいて、光触媒が酸化チタンであることが好ましい。
【0009】
本発明は、本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバの製造装置であって、光ファイバを挿通した際に光ファイバの外周面の一部を露出させ、他部を覆うマスクと、該マスクから露出した光ファイバの外周面の一部に有機樹脂または光触媒をスプレー塗布するように配置されたスプレーとを含むコーティングユニットを複数備えたことを特徴とする光触媒コーティング光ファイバの製造装置を提供する。
【0010】
本発明は、光ファイバを挿通した際に光ファイバの外周面の一部を露出させ他部を覆うマスクと、該マスクから露出した光ファイバの外周面の一部に有機樹脂または光触媒をスプレー塗布するように配置されたスプレーとを含む複数のコーティングユニットを多段に配置した光触媒コーティング光ファイバの製造装置を用い、これらのコーティングユニットに光ファイバを順次通過させながら、光ファイバの外周の一部に有機樹脂をコーティングし、他部に光触媒をコーティングすることによって本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバを得ることを特徴とする光触媒コーティング光ファイバの製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射し、光ファイバから励起光を漏らし、この漏れ光により光触媒を励起させ、光触媒と接触する被処理物中の汚染物質を分解することを特徴とする汚染物質分解方法を提供する。
【0012】
本発明の汚染物質分解方法において、光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねたバンドルを用いることが好ましい。
【0013】
本発明は、励起した光触媒に被処理物中の汚染物質を接触させて分解する汚染物質分解装置であって、本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバを含む反応部と、該反応部の光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射する励起光源とを備えたことを特徴とする汚染物質分解装置を提供する。
【0014】
本発明の汚染物質分解装置において、前記反応部は前記光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねてなるバンドルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒コーティング光ファイバは、光ファイバの外周面の一部が有機樹脂によってコーティングされ、他部が光触媒によってコーティングされてなるものなので、光ファイバの端面から光触媒を励起し得る励起光を入射し、光ファイバ内を導光し、適所で光ファイバ外周面に励起光を漏れ出させ、光触媒を励起させ、光触媒に接触した被処理物中の汚染物質を分解することができる。
本発明の光触媒コーティング光ファイバは、光ファイバの外周面の一部が有機樹脂によってコーティングされ、他部が光触媒によってコーティングされてなるものなので、折れにくく、長期にわたって信頼性の高い光触媒活性を維持することができる。
本発明の光触媒コーティング光ファイバにおいて、有機樹脂として通常の光ファイバの被覆材であるウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を用いることにより、通常の光ファイバの製造ラインを使って簡単に製造することができる。
また、有機樹脂として、フッ素系樹脂などの光ファイバ構成材料よりも屈折率が低い有機樹脂を用いることによって、この有機樹脂をコーティングした部分からの励起光漏れ出しを防いで、光触媒をコーティングした部分に集中して励起光を漏れ出させることができ、有機樹脂のコーティング部分を広くして光ファイバの曲げ耐性を強化しても十分に高い光触媒による汚染物質分解能力を得ることができる。
【0016】
また、本発明の光触媒コーティング光ファイバの製造装置によれば、光ファイバを挿通した際に光ファイバの外周面の一部を露出させ、他部を覆うマスクと、該マスクから露出した光ファイバの外周面の一部に有機樹脂または光触媒をスプレー塗布するように配置されたスプレーとを含むコーティングユニットを複数備えた構成としたので、第1のコーティングユニットにより光ファイバ外周面の一部に有機樹脂または光触媒の一方をスプレー塗布し、続いて第2のコーティングユニットにより光ファイバ外周面の他部に有機樹脂または光触媒の他方をスプレー塗布することによって、本発明の前記光触媒コーティング光ファイバを連続生産することができ、各層が均一な厚さに形成された高品質の光触媒コーティング光ファイバを低コストで製造することができる。
【0017】
また、本発明の光触媒コーティング光ファイバの製造方法によれば、前記光触媒コーティング光ファイバの製造装置を用い、コーティングユニットに光ファイバを順次通過させながら、光ファイバの外周の一部に有機樹脂をコーティングし、他部に光触媒をコーティングすることによって、各層が均一な厚さに形成された高品質の光触媒コーティング光ファイバを低コストで製造することができる。
【0018】
また、本発明の汚染物質分解方法によれば、本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射し、光ファイバから励起光を漏らし、この漏れ光により光触媒を励起させ、光触媒と接触する被処理物中の汚染物質を分解することによって、折れにくく、長期にわたって信頼性の高い光触媒活性を維持することができる。
また、前記光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねたバンドルを用いることにより、機械強度が高められ、光触媒と被処理物との接触面積が大きくなるので、耐久性に優れ、光触媒による汚染物質分解能力を高めることができる。
【0019】
また、本発明の汚染物質分解装置によれば、本発明に係る前記光触媒コーティング光ファイバを含む反応部と、該反応部の光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射する励起光源とを備えた構成としたので、折れにくく、長期にわたって信頼性の高い光触媒活性を維持することができる。
【0020】
また、前記光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねたバンドルを用いることにより、機械強度が高められ、光触媒と被処理物との接触面積が大きくなるので、耐久性に優れ、光触媒による汚染物質分解能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光触媒コーティング光ファイバの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光触媒コーティング光ファイバ製造装置の一例を示す構成図である。
【図3】図2の製造装置の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の光触媒コーティング光ファイバ、光触媒コーティング光ファイバの製造装置および製造方法、並びに、光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は本発明の光触媒コーティング光ファイバの一例を示す断面図であり、この光触媒コーティング光ファイバは、光ファイバ1の外周面の一部が有機樹脂2によってコーティングされ、他部が光触媒3によってコーティングされた構造になっている。
本例示において、光ファイバ1の断面円周が円中心を通る直径で4等分され、交互に有機樹脂2と光触媒3がコーティングされている。
【0024】
この光ファイバ1としては、励起光を高効率で導光できれば特に制限されず、石英ガラス系シングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、全樹脂製光ファイバ、クラッド樹脂−コア石英ガラス系光ファイバ、フッ化物ガラス光ファイバなどの各種光ファイバを用いることができ、特に、石英ガラス系シングルモード光ファイバまたはマルチモード光ファイバが好ましい。
【0025】
また、有機樹脂2としては、通常の石英系光ファイバの被覆材として用いられる有機樹脂、例えば、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂や低屈折率のフッ素系樹脂が用いられる。
この有機樹脂2からなるコーティング層は、光ファイバ1の外周面に未硬化樹脂を塗布し、紫外線照射して硬化させることによって形成される。
【0026】
また、光触媒3としては、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム(BaTi)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸ナトリウム(NaTi13)、二酸化ジルコニウム、硫化カドミウム、α−Fe、酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられ、これらの中でも酸化チタンが好ましい。
この光触媒3を含むコーティング層は、微粒子状、好ましくは、粒径がμm以下のオーダーの微粒子、特に、ナノ粒子を適当な溶媒に分散させ、必要に応じて有機樹脂などのバインダーを添加してスラリーとし、これを光ファイバ1の外周面に塗布することにより形成される。
【0027】
有機樹脂コーティング部分と光触媒コーティング部分は、例えば、光ファイバ1の断面円周を10等分にして交互に形成するなど、等分数を増やして設けることもでき、等分数を増やすことで光ファイバ1から励起光を漏らす際、光ファイバ全体で均一な触媒活性を得ることができる。
光ファイバ1が直径125μmもしくは200μmとした場合には、製造時の工数増しによるコスト増加を考慮して、断面円周を2等分または4等分にして交互に有機樹脂コーティング部分と光触媒コーティング部分を形成することが望ましい。
【0028】
また、有機樹脂コーティング部分と光触媒コーティング部分が等分である必要はなく、使用環境に合わせてそれらのコーティング割合を変化させることができる。一般に、高負荷、高信頼性が求められる個所で使用する光触媒コーティング光ファイバは、有機樹脂コーティング部分を多くすることが有効であり、一方、光触媒機能を高めたい場合には、光触媒コーティング部分の割合を増やすことができる。
【0029】
通常、光ファイバの被覆に用いられるウレタンアクリレートなどの紫外線硬化樹脂を用いる場合、光ファイバ全体の強度と光触媒性能を考慮して、光ファイバ1の断面円周の10%〜70%を有機樹脂2でコーティングすることが望ましい。
【0030】
また、有機樹脂2として、光ファイバ1を構成するガラスよりも低屈折率の樹脂を用いる場合、実質的に樹脂部分から励起光の漏れがなく、光触媒コーティング部分から集中して漏れることになるため、有機樹脂コーティング部分の占有割合が上がっても実質的な光触媒機能による分解力は低下しない。例えば、石英ガラスからなる光ファイバに、それよりも屈折率が低いフッ素系樹脂でコーティングした場合、光ファイバ断面円周の90%までフッ素樹脂でコーティングしても、高い触媒活性を得ることができる。
【0031】
光ファイバ1の直径が125μmであるとき、ウレタンアクリレートまたはフッ素系樹脂からなる有機樹脂2の厚さは、10μm〜100μmの範囲が望ましい。
有機樹脂2の厚さが10μm未満では外部負荷から十分な保護ができず、また、有機樹脂2の厚さが100μmを超えると光ファイバを曲げる際の最小曲げ径が制限されることから好ましくない。
【0032】
次に、前記光触媒コーティング光ファイバの製造方法および製造装置を説明する。
前記光触媒コーティング光ファイバは、例えば、次の(1)、(2)に示す製造方法で製造することができる。
(1)図2に示すように、光ファイバ紡糸時にパスライン上でマスキングを施してスプレーによるコーティングにより有機樹脂と光触媒を塗布する方法。
(2)光ファイバ紡糸時にダイスを用いて光ファイバの外周全面に有機樹脂コーティングを施した後、光触媒コーティングを施す部分の有機樹脂を削り取り、ディップコーティングにより光触媒を有機樹脂の間に入れる方法。有機樹脂を削り取る方法としては、内径の一部に鉋刃が付いたダイスに樹脂を全面コーティングした光ファイバを通す方法が簡単でよい。
【0033】
前記(1)のマスクとスプレーによる方法では、ガラス円筒母材(以下、プリフォームと記す。)から紡糸(線引き)時に、光触媒と有機樹脂塗布工程を経て、直接ボビン巻きを行うことができるので、工業的に有利である。
【0034】
図2は、本発明に係る光触媒コーティング光ファイバの製造装置の一例を示す構成図であり、この製造装置は、光ファイバ原料の石英ガラスからなるプリフォーム4を加熱する加熱用ヒータ5と、プリフォーム4先端から紡糸(線引き)された光ファイバ6(光ファイバ裸線)を通過させながら、その外周面の一部に有機樹脂2と光触媒3のいずれか一方をスプレー塗布するマスク8とスプレー7とからなる多段に配置されたコーティングユニットと、外周面に有機樹脂2と光触媒3とをコーティングして得られた光触媒コーティング光ファイバを巻き取る巻き取りボビン9とを備えて構成されている。
【0035】
また、図3は、同じ製造装置に用いられているマスク8とスプレー7とからなるコーティングユニットの平面図である。このマスク8は、紡糸された光ファイバ6を通過させ、その外周面の一部を露出させ、他部を覆う切欠が設けられている。
また、スプレー7は、このマスク8から露出した光ファイバ6の外周面の一部に有機樹脂またはスラリー状に調製した光触媒をスプレーして均一に塗布できるように配置されている。
【0036】
このコーティングユニットは、光ファイバの流れ方向(図2においては上から下)に沿って、コーティングする有機樹脂2と光触媒3の数(光ファイバ1外周面に存在する有機樹脂コーティング部分の数と光触媒部分の数との合計数)に合わせて多段に配置することが望ましい。また、それぞれのコーティングユニットの間には、紫外線光源や乾燥機など、有機樹脂や光触媒の塗膜を硬化、乾燥させるために必要な機器が配置される。多段に配置されたコーティングユニットのスプレー面(マスク8の露出部)は、光ファイバ1外周面の所定位置に有機樹脂2と光触媒3を形成できるように、光ファイバ外周面に対してそれぞれ角度を変えて配置されている。
【0037】
本発明に係る光触媒コーティング光ファイバの製造方法は、前述した製造装置を用いて実施することができる。
この製造方法では、プリフォーム4を加熱し、先端部から光ファイバ6を線引きし、それを多段に配置されたコーティングユニットに順次通過させながら、個々のコーティングユニットにおいて光ファイバ外周面の一部に有機樹脂2または光触媒3をスプレー塗布する。これを硬化または乾燥後、次段のコーティングユニットにおいて光ファイバ外周面の別な部分に有機樹脂2または光触媒3をスプレー塗布する。これを必要数繰り返し行って、光ファイバ外周面の一部に有機樹脂2からなるコーティング部分を形成するとともに、他部に光触媒3を含むコーティング部分を形成し、光触媒コーティング光ファイバとし、これを巻き取りボビン9に巻き取ることで、光触媒コーティング光ファイバを連続生産する。
【0038】
前記の方法で有機樹脂2と光触媒3とをコーティングして得られる光触媒コーティング光ファイバは、連続的な製法であるため、均一な光触媒膜厚となり、光触媒機能に優れている。
【0039】
また、本発明は、このように製造された光触媒コーティング光ファイバを用いた汚染物質分解方法および汚染物質分解装置を提供する。
本発明の汚染物質分解方法は、前記光触媒コーティング光ファイバ、または、これを多数本束ねたバンドルを用い、光ファイバの端面から光触媒を励起し得る励起光を入射し、光ファイバ内を導光し、適所で光ファイバ外周面に励起光を漏れ出させ、光触媒を励起させ、光触媒に接触した被処理物中の汚染物質を分解する。
【0040】
光触媒コーティング光ファイバの光ファイバ外周面から励起光を漏れ出させる方法としては、光ファイバに曲げを与えて漏れ出させる方法が効果的であり、光ファイバ内の屈折率プロファイルを調整することで実施できる。例えば、光ファイバ内にリング状に高屈折率の領域を設けたり、光ファイバ外側に屈折率の低い層をわずかな厚さで設けたりすることで実施できる。
【0041】
励起光としては紫外光または可視光が用いられる。
この汚染物質分解方法によって分解される汚染物質としては、被処理物である排水や空気(排ガスも含む)中に含まれる窒素酸化物(NOx)、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸などのカルボン酸類、含硫化合物や含窒素化合物などの悪臭成分、環境ホルモン、レジオネラ菌などが挙げられる。
【0042】
また、本発明の汚染物質分解装置は、前記光触媒コーティング光ファイバ、または、これを多数本束ねたバンドルからなる反応部と、該反応部の光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射する励起光源とを備えている。
この励起光源としては、光触媒を励起させる励起光を効率良く発生するLEDや紫外線ランプなどが用いられる。
【0043】
この汚染物質分解装置は、被処理物の物性(液体、気体)に応じて、被処理物を貯留するタンク、循環装置、通風装置などの付属機器を設けることができる。
この汚染物質分解装置は、励起光源からバンドルファイバ端に入射し、光ファイバ導光を用いて光ファイバ表面にコーティングされた光触媒に励起光を当てて励起し、被処理物中の汚染物質などを分解する。
【0044】
この汚染物質分解装置は、前記光触媒コーティング光ファイバを用いたものなので、長期にわたって信頼性の高い光触媒活性を維持することができる。また、前記光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねたバンドルを用いることにより、機械強度が高められ、光触媒と被処理物との接触面積が大きくなるので、耐久性に優れ、光触媒による汚染物質分解能力を高めることができる。
なお、光ファイバの設計として光ファイバの径方向に適当な屈折率分布を持たせてやり、光触媒コーティング光ファイバを曲げてやることにより所望の漏れ光量で光触媒を励起することもでき、その用途としても用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
図2に示す製造装置を用いて、石英ガラスを主成分とする直径125μmの光ファイバの外周面にウレタンアクリレート系の有機樹脂と酸化チタンからなる光触媒をスプレー法でコーティングした。光ファイバ断面円周において有機樹脂コーティングが成されている割合は30%であった。また、有機樹脂コーティング層の厚さは20μmとした。
この光ファイバを長さ1200mmに切断し、光ファイバ端からφ60mmの円柱に全長を巻き付け、再び直線状に延ばすという負荷を100回繰り返して加えた。
これを200本の光ファイバについて行ったところ、200本全ての光ファイバが破損することなく負荷をクリアした。
【0047】
[比較例1]
石英ガラスを主成分とする直径125μmの光ファイバに酸化チタンからなる光触媒をスプレー法でコーティングした。光ファイバ断面円周において全面を酸化チタン光触媒でコーティングした。
この光ファイバを長さ1200mmに切断し、光ファイバ端からφ60mmの円柱に全長を巻き付け、再び直線状に延ばすという負荷を100回繰り返して加えた。
これを200本の光ファイバについて行ったところ、200本全ての光ファイバが繰り返し回数5回以下の負荷で破損した。
【0048】
[実施例2]
石英ガラスを主成分とする直径200μmの光ファイバに石英ガラスよりも屈折率が低いフッ素系樹脂と酸化チタンからなる光触媒をスプレー法でコーティングした。光ファイバ断面円周において有機樹脂コーティングがなされている割合は80%であった。有機樹脂コーティング層の厚さは40μmとした。
この光ファイバを長さ800mmに切断し、420本を束ね光触媒コーティングバンドルとした。このバンドルをφ50mmのステンレス鋼製パイプの内部に設置し、パイプ内に1000mm/secの流速で水を流通させた。
720時間後、パイプからバンドルを抜き出してみたところ、光触媒コーティングバンドルにファイバ折れなどの破損は無かった。
【0049】
[比較例2]
石英ガラスを主成分とする直径200μmの光ファイバに酸化チタンからなる光触媒をスプレー法でコーティングし、光ファイバ断面円周において全面が酸化チタンでコーティングされた光触媒コーティング光ファイバを作製した。
この光ファイバを長さ800mmに切断し、420本を束ね光触媒コーティングバンドルとした。このバンドルをφ50mmのステンレス鋼製パイプの内部に設置し、パイプ内に1000mm/secの流速で水を流通させた。
720時間後、パイプからバンドルを抜き出してみたところ、約半数のファイバが折れており、流水と共に流れ出していたことがわかった。
【0050】
[実施例3]
石英ガラスを主成分とする直径200μmの光ファイバに石英ガラスよりも屈折率が低いフッ素系樹脂と酸化チタンからなる光触媒をスプレー法でコーティングした。光ファイバ断面円周において有機樹脂コーティングがなされている割合は70%であった。有機樹脂コーティング層の厚さは40μmとした。
この光ファイバを長さ800mmに切断し、420本を束ね光触媒コーティングバンドルとし、φ60mm×6ターンの曲げを加え、10μmol/Lメチレンブルー水溶液150mlに沈めた。この光ファイバは、内部の屈折率分布を調整することにより、φ60mmの曲げを加えると、内部を導光している光が1m当たり70%ずつ光ファイバ外周面に漏れる構造とした。
バンドルの端面から光を入射させてメチレンブルーの分解を行った。励起光源には高圧水銀灯を用いた。メチレンブルーの分解率は、溶液の光透過率を元に測定して評価した。
光照射前はメチレンブルーの吸収波長域の光透過率は18%であったのに対し、励起光入射後180分では透過率は98%になった。メチレンブルーの大半を分解することができ、優れた光触媒性能を示した。
【符号の説明】
【0051】
1,6・・・光ファイバ、2・・・有機樹脂、3・・・光触媒、4・・・プリフォーム、5・・・加熱ヒータ、7・・・スプレー、8・・・マスク、9・・・巻き取りボビン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、該光ファイバの外周面の一部をコーティングする有機樹脂と、前記光ファイバの外周面の他部をコーティングする光触媒とを備えてなり、前記有機樹脂と前記光触媒は前記光ファイバの長さ方向の全長にわたって連続して設けられ、前記有機樹脂が前記光ファイバの構成材料よりも屈折率が低いフッ素系樹脂であり、前記光ファイバの断面円周のうち10〜90%が前記フッ素樹脂でコーティングされていることを特徴とする光触媒コーティング光ファイバ。
【請求項2】
前記光触媒が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒コーティング光ファイバ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光触媒コーティング光ファイバの製造装置であって、
光ファイバを挿通した際に、該光ファイバの外周面の一部を露出させ、他部を覆うマスクと、該マスクから露出した前記光ファイバの外周面の一部に有機樹脂または光触媒をスプレー塗布するように配置されたスプレーとを含むコーティングユニットを複数備えたことを特徴とする光触媒コーティング光ファイバの製造装置。
【請求項4】
光ファイバを挿通した際に光ファイバの外周面の一部を露出させ他部を覆うマスクと、該マスクから露出した光ファイバの外周面の一部に有機樹脂または光触媒をスプレー塗布するように配置されたスプレーとを含む複数のコーティングユニットを多段に配置した光触媒コーティング光ファイバの製造装置を用い、これらのコーティングユニットに光ファイバを順次通過させながら、光ファイバの外周の一部に有機樹脂をコーティングし、他部に光触媒をコーティングすることによって請求項1または2に記載の光触媒コーティング光ファイバを得ることを特徴とする光触媒コーティング光ファイバの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光触媒コーティング光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射し、光ファイバから励起光を漏らし、この漏れ光により光触媒を励起させ、光触媒と接触する被処理物中の汚染物質を分解することを特徴とする汚染物質分解方法。
【請求項6】
光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねたバンドルを用いることを特徴とする請求項5に記載の汚染物質分解方法。
【請求項7】
励起した光触媒に被処理物中の汚染物質を接触させて分解する汚染物質分解装置であって、
請求項1または2に記載の光触媒コーティング光ファイバを含む反応部と、該反応部の光ファイバの端面から光触媒を励起させる励起光を入射する励起光源とを備えたことを特徴とする汚染物質分解装置。
【請求項8】
前記反応部が請求項1または2に記載の光触媒コーティング光ファイバを多数本束ねてなるバンドルであることを特徴とする請求項7に記載の汚染物質分解装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120848(P2010−120848A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289714(P2009−289714)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2004−9028(P2004−9028)の分割
【原出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】