説明

光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、さらに消去を行う光記録媒体の保護膜を形成するための異常放電発生の少ないスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%を含有し、さらに必要に応じて酸化アルミニウム:0.05〜2%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成、並びに素地中に最大粒径:15μm以下かつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある二酸化珪素が分散している光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、並びに消去を行う光記録媒体の保護膜を形成するための異常放電発生の少ないスパッタリングターゲット(以下、ターゲットと云う)に関するものであり、そのターゲットを用いてAgまたはAg合金反射膜を硫化し変色し反射率を低下させることの少ない光記録媒体の保護膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、上記の光ディスクなどの光記録媒体を構成する保護膜(下部保護膜および上部保護膜を含む。以下、同じ)はスパッタリングにより形成することが知られており、例えば、特許文献1には、質量%で、二酸化けい素(SiO2):4〜20%、酸化亜鉛(ZnO):20〜35%を含有し、さらに必要に応じて、Al23、Ga23、TiO2、MgO、およびNb2のうちの1種または2種以上:0.5〜5%を含有し、残部が硫化亜鉛(ZnS)からなるホットプレス焼結体で構成した光記録媒体保護層形成用ターゲットが知られている。この光記録媒体保護層形成用ターゲットは、高出力スパッタ条件でスパッタリングを行っても割れが発生することがない優れた耐割損性を有するターゲットであるとされている。
【0003】
さらに特許文献2には、硫化亜鉛を主成分とし、さらに酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛から選択した1種以上の導電性酸化物:1〜50モル%、さらに酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、酸化ニオブから選択した1種以上の酸化物を導電性酸化物に対して質量換算で0.01〜20%含有し、さらに酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化燐、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の内の1種以上を二酸化珪素に対する質量比で0.1%以上含有する二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物:1〜30モル%含有したターゲットが記載されている。ここで二酸化珪素をガラス形成酸化物として添加する理由は、二酸化珪素を単独で添加すると異常放電の起点となり易いが、二酸化珪素をガラス形成酸化物として含有させると異常放電がなくなるからであるとされている。
【特許文献1】特開2001−98361号公報
【特許文献2】特開2003−242684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の光記録媒体の高速記録化に伴い、光記録媒体の反射膜として熱伝導率が高くかつ反射率が高い特性を必要とすることから、Ag膜が使用されてきている。しかし、Agは硫黄による酸化(硫化)により変色しやすく、そのために反射率が低下しやすい特性を有しており、ZnSを主成分とする保護膜がAg反射膜に接して形成されている光記録媒体は高温高湿環境下に置かれるとAg反射膜は硫黄により腐食され、Ag反射膜の反射率が低下する。かかるAg反射膜の硫化による変色とそれに伴う反射率の低下を防止すべく反射膜を耐硫化性に優れた各種Ag合金膜からなる反射膜が提案されているが、十分に満足できるものではなかった。
【0005】
さらに、従来の二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物粉末を添加した混合粉末をホットプレスしてターゲットを作製すると、二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物粉末は軟化し易いから、特に密度を高める目的で高温高圧でホットプレスすると、ガラス形成酸化物は軟化してターゲットの断面組織において扁平状に変形し、スパッタ中にターゲットに割れが発生したり、異常放電を発生したりする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは上述の観点から高温高湿環境下に置かれてもAgまたはAg合金からなる反射膜が硫化して反射率が低下するのを防止すべく、さらにスパッタ中にターゲットの割れが発生したり異常放電が発生したりすることのない光記録媒体保護膜形成用のターゲットを得るべく研究を行った。その結果、
(イ)前記硫化に伴うAgまたはAg合金反射膜の反射率の低下は、スパッタ中にZnSが一部乖離して硫黄(S)が遊離することが原因であり、こうした遊離したSによる硫化を防止するには、酸化亜鉛:10〜30%と、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%を共に含むことが有効であること、
(ロ)前記スパッタ中にターゲットの割れが発生したり異常放電が発生したりすること防止するためには、二酸化珪素は、ガラス形成酸化物として含まれるよりも、微細な二酸化ケイ素粉末として含まれる方が異常放電の発生が少ないこと、その微細な二酸化ケイ素粉末の含有量は従来の含有量よりも少量の1〜5モル%であること、その粒径は最大粒径:15μm以下でかつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にあることが好ましい、などの研究結果が得られたのである。
【0007】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(2)モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成、並びに二酸化珪素は最大粒径:15μm以下でかつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある微細粒子として素地中に分散している組織を有する光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
本発明者らはさらに研究を行った結果、前記(1)または(2)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットにさらに酸化アルミニウムを0.05〜2モル%含有させることによりターゲット自体の導電性をさらに高め、特に直流スパッタに際して異常放電の抑制効果をさらに発揮すること、この酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した導電性酸化物の状態でターゲットに含まれることが一層好ましいこと、などの研究結果が得られたのである。
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(3)モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%、酸化アルミニウム:0.05〜2%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(4)モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%、酸化アルミニウム:0.05〜2%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成、並びに酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した状態で含まれており、さらに二酸化珪素は最大粒径:15μm以下でかつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある微細粒子として素地中に分散している組織を有する光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0008】
前記(1)〜(2)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末として、平均粒径:1〜3μmの酸化亜鉛粉末、平均粒径:1〜3μmの酸化ガリウム粉末、平均粒径:1〜3μmの酸化インジウム粉末、最大粒径:15μm以下かつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある二酸化珪素粉末、平均粒径:3〜8μmの硫化亜鉛粉末を用意し、これら原料粉末を、モル%で、酸化亜鉛粉末:10〜30%、酸化ガリウム粉末:1〜15%、酸化インジウム粉末:1〜15%、二酸化珪素粉末:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末からなる配合組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をホットプレスすることにより製造することができる。
【0009】
前記(3)〜(4)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末として、モル%で、酸化アルミニウムを0.5〜2%を含有する平均粒径:0.2〜1μmの導電性酸化亜鉛粉末、平均粒径:1〜3μmの酸化ガリウム粉末、平均粒径:2〜3μmの酸化インジウム粉末、最大粒径:15μm以下かつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある二酸化珪素粉末、平均粒径:3〜5μmの硫化亜鉛粉末を用意し、これら原料粉末を、モル%で、導電性酸化亜鉛粉末:10〜30%、酸化ガリウム粉末:1〜15%、酸化インジウム粉末:1〜15%、二酸化珪素粉末:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末からなる配合組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をホットプレスすることにより製造することができる。
【0010】
この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲットの成分組成を上記の通りに限定した理由を説明する。
【0011】
(a)酸化亜鉛
酸化亜鉛は、硫化亜鉛とともにスパッタされ混合膜となると、スパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散を抑制し、SとAgとの反応を抑制してAgまたはAg合金反射膜の硫化を抑制する作用を有し、さらに酸化亜鉛は真空または還元性雰囲気において容易に酸素欠損を生じ、電子を放出することにより導電性を付与する役割があり、高周波スパッタのみならず直流スパッタにも適用することを可能とし、さらにスパッタ中の成膜速度を高くすることができる作用を有するが、その含有量が10モル%未満では前記Sの拡散防止効果および導電性の付与効果がなく、一方、30モル%を越えて含有すると酸素欠損のムラが生じ、直流スパッタにおいて異常放電が生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化亜鉛の含有量を10〜30モル%に定めた。酸化亜鉛の含有量の一層好ましい範囲は20〜25モル%である。
【0012】
(b)酸化インジウム
酸化インジウムは、酸化亜鉛とともに含有させると、スパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散をより抑制し、SとAgとの反応をより抑制することによりAgまたはAg合金反射膜の硫化をより抑制するとともに、保護膜のアモルファス安定性に効果があるが、その含有量が1モル%未満では前記の効果が得られず、一方、15モル%を越えて含有すると密度ムラが生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化インジウムの含有量を1〜15モル%に定めた。酸化インジウムの含有量の一層好ましい範囲は4〜8モル%である。
【0013】
(b)酸化ガリウム
酸化ガリウムは酸化インジウムと同様に酸化亜鉛とともに含有させることでスパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散を抑制し、SとAgとの反応を抑制することによりAgまたはAg合金反射膜の硫化を抑制し、さらに酸化亜鉛との界面にて固溶体を形成してターゲットの耐スパッタ割れ性を向上させる作用を有するが、その含有量が1モル%未満では前記のいずれの効果も発揮できず、一方、15モル%を越えて含有すると密度ムラが生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化ガリウムの含有量を1〜15モル%に定めた。酸化ガリウムの含有量の一層好ましい範囲は4〜8モル%である。
【0014】
(c)二酸化珪素
二酸化珪素は、硫化亜鉛との混合膜となることにより保護膜のアモルファス安定性を向上させる作用があるが、その含有量が1モル%未満では前記のいずれの効果も発揮できず、一方、5モル%を越えて含有するとスパッタ中の異常放電が多くなり易くなるので好ましくない。したがって、二酸化ケイ素の含有量を1〜5モル%に定めた。二酸化ケイ素の含有量の一層好ましい範囲は2.0〜3.5モル%である。
【0015】
また、二酸化珪素は、ターゲットの組織においてその粒径が異常放電に大きく影響を及ぼし、素地中に均一分散している二酸化ケイ素粒は微細であるほど異常放電の発生が少なくなる。したがって、素地中に均一分散している二酸化ケイ素粒は最大粒径が15μm以下でかつ平均粒径が0.5〜3μmの範囲内にあることが好ましい。その理由は、ターゲット素地中に15μmを越える大きな二酸化珪素粒があると異常放電が発生し易くなるので好ましくなく、また、素地中に均一分散している二酸化珪素粒の平均粒径が0.5μm未満のターゲットを作製しようとすると原料粉末として0.5μm未満の微細な二酸化珪素粉末を使用する必要があり、かかる微細な二酸化珪素粉末を使用してターゲットを製造しようとすると、その製造時に粉末同士が凝集し、大きな凝集塊となってターゲット素地中に分散するようになり、この大きな凝集塊が素地中に分散しているターゲットはスパッタに際してかえって異常放電が発生し易くなるからである。また、素地中に均一分散している二酸化珪素粒の平均粒径が3μmを越えるようになると、微小なノジュールが発生し易くなり、異常放電の起点となりやすいので好ましくないからである。
【0016】
(d)酸化アルミニウム
酸化アルミニウムは、ターゲット自身の導電性を高め、特に直流スパッタに際して異常放電の抑制効果をさらに発揮するので必要に応じて添加するが、その含有量は0.05モル%未満では十分な異常放電抑制効果を発揮することができず、一方、2モル%を越えて含有すると、保護膜の光学特性が損なわれるようになるので好ましくない。したがって、酸化アルミニウムの含有量は0.05〜2モル%に定めた。
なお、酸化アルミニウムは、酸化亜鉛に固溶することにより導電性酸化物となることから、酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した導電性酸化物の状態でターゲットに含有されていることが特に直流スパッタに際して一層好ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明の光記録媒体保護膜形成用のターゲットは、スパッタに際したスパッタ中にターゲットが割れたり異常放電が発生したりすることのないので効率的に光記録媒体保護膜を作製することができ、また得られた光記録媒体保護膜はAgまたはAg合金からなる反射膜が硫化して反射率が低下するのを防止することができるなど優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の態様】
【0018】
つぎに、この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲットを実施例により具体的に説明する。
【0019】
原料粉末として、平均粒径:4.5μmを有する純度:99.99%以上のZnS粉末、平均粒径:1.1μmを有する純度:99.99%以上のZnO粉末、平均粒径:1.5μmを有する純度:99.9%以上のGa23粉末、平均粒径:0.83μmを有する純度:99.9%以上のIn23粉末を用意し、さらに最大粒径および平均粒径の異なる純度:99.99%以上のSiO2粉末を用意した。
【0020】
さらにZnOにAl23が0.5モル%、1.0モル%および5モル%固溶した平均粒径がそれぞれ0.73μm、0.70μmおよび0.65μmを有する導電性酸化亜鉛粉末を用意した。
実施例1
これら原料粉末を表1〜2に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末を黒鉛型に充填した状態で、ホットプレス装置に装入し、雰囲気:1×10-2Torrの真空雰囲気、温度:1100℃、圧力:30MPa、保持時間:3時間の条件で焼結してホットプレスすることにより、いずれも直径:154mm×厚さ:6mmの寸法をもった表1〜2の配合組成と同じ成分組成を有する本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10を作製し、これら本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10の素地中に分散しているSiO2粒の最大粒径および平均粒径を測定し、その結果を表1〜2に示した。
【0021】
本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10の素地中に分散しているSiO2粒の最大粒径はターゲットの任意の1個所から10mm角程度に切り出してサンプルを作製し、サンプルの断面を研磨したのち、走査型電子顕微鏡にて倍率:1000倍で観察することにより視野内のSiO2粒の最大長さを実測し、その最大長さを最大粒径と定義して測定することにより求め、さらに本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10の素地中に分散しているSiO2粒の平均粒径は、焼結前後において体積変化がないことから、原料としてのSiO2粉末の平均粒径をレーザー回折・散乱法にて測定することにより求めた。
【0022】
得られた本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置した。
【0023】
かかる状態で本発明ターゲット1〜16および比較ターゲット1〜10を用い、直流電源にてスパッタ電力:1kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成した保護膜成膜サンプルを作製した。この保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜について、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表1〜2に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0024】
また、スパッタ中の放電の安定性を評価するために、前記光記録媒体保護膜の形成条件にて5時間連続スパッタし、スパッタ中の異常放電回数を測定し、その結果を表1〜2に示した。
【0025】
次に、Nd:0.9質量%、Cu:1質量%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表1〜2に示した。
従来例1
原料粉末として、珪酸ガラス(SiO2−0.2%AlO3−0.12%Na2O)粉末を用意し、SiO2粉末の代りに珪酸ガラス粉末を使用する以外は実施例1と同様にして従来ターゲット1を作製し、従来ターゲット1を使用して実施例1と同じ条件で従来光記録媒体保護膜を前記ポリカーボネート基板表面に形成することにより保護膜成膜サンプルを作製した。
【0026】
この保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜について、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表2に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0027】
また、スパッタ中の放電の安定性を評価するために、前記光記録媒体保護膜の形成条件にて5時間連続スパッタし、スパッタ中の異常放電回数を測定し、その結果を表2に示した。
【0028】
次に、Nd:0.9質量%、Cu:1質量%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表2に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1〜2に示される結果から、本発明ターゲット1〜16で形成された保護膜は従来ターゲット1で形成した保護膜に比べてAg合金反射膜を変色させることが少ないこと、さらに本発明ターゲット1〜16は従来ターゲット1に比べてスパッタ中の異常放電回数が格段に少ないことから、本発明ターゲット1〜16は従来ターゲット1に比べてパーティクル発生数が少なく、優れた保護膜を歩留良く形成することができることなどが解る。
実施例2
先に用意したZnOにAl23が0.5モル%、1.0モル%および5モル%固溶した平均粒径:1μmを有する導電性酸化亜鉛粉末を表3に示される配合組成となるように配合し、混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を実施例1と同じ条件で焼結してホットプレスすることにより表4に示される本発明ターゲット17〜20を作製し、本発明ターゲット17〜20をを使用して実施例1と同じ条件でポリカーボネート基板表面に形成することにより保護膜成膜サンプルを作製した。
【0032】
この保護膜成膜サンプルを用い、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表4に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0033】
その保護膜成膜サンプル作製のためのスパッタリング中に発生した異常放電回数を測定し、その結果を表4に示した。
【0034】
次に、Nd:0.9質量%、Cu:1質量%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表4に示した。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表3〜4に示される結果から、さらにAl23をZnOに固溶した状態で含む本発明ターゲット17〜20は、一層異常放電回数が少なくなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成、並びに二酸化珪素は最大粒径:15μm以下でかつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある微細粒子として素地中に分散している組織を有することを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%、酸化アルミニウム:0.05〜2%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
モル%で、酸化亜鉛:10〜30%、酸化ガリウム:1〜15%、酸化インジウム:1〜15%、二酸化珪素:1〜5%、酸化アルミニウム:0.05〜2%を含有し、残部:硫化亜鉛および不可避不純物からなる組成、並びに酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した状態で含まれており、さらに二酸化珪素は最大粒径:15μm以下でかつ平均粒径:0.5〜3μmの範囲内にある微細粒子として素地中に分散している組織を有することを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2006−299307(P2006−299307A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119135(P2005−119135)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】