説明

光重合性樹脂組成物および感光性平版印刷版材料

【課題】405nm付近の光に高感度を有し、露光後に加熱処理を行うこと無しに、耐薬品性、接着性に優れた良好な光硬化性を有する光重合性樹脂組成物を与えること、さらにこれを利用した耐刷性に優れ、クリーナー液耐性に優れた感光性平版印刷版材料を与える。
【解決手段】(A)一般式Iで表される化合物またはトリハロアルキル置換s−トリアジン環基を2個有する特定の化合物、(B)有機ホウ素塩化合物、(C)380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素、(D)重合性化合物、(E)バインダーポリマーを含有する光重合性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、405nm付近に高感度を有する光重合性樹脂組成物とこれを用いた感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター上で作成したデジタルデータをもとにフィルム上に出力せずに直接印刷版上に出力するコンピュータートゥープレート(CTP)技術が開発され、出力機として種々のレーザーを搭載した各種プレートセッターとこれらに適合する感光性平版印刷版材料の開発が盛んに行われている。こうしたレーザー走査露光に感度を有する感光性平版印刷版材料の例として、高感度フォトポリマー系が挙げられる。これは、基本的には光重合開始剤とこれを増感する色素および重合性二重結合を有する化合物およびバインダー樹脂から成り立ち、レーザー光照射部において増感された光重合開始剤の分解が起こり、生じた活性種により重合性二重結合を有する化合物が重合、架橋化することで、現像液に不溶化することを利用したものである。
【0003】
上記した種々のレーザー光源として、アルゴンレーザー(488nm)やFD−YAGレーザー(532nm)が代表的な例として挙げられるが、最近になって405nm付近に連続発振する青紫色半導体レーザーが実用化されるようになり、対応する高感度フォトポリマーを利用した感光性平版印刷版材料の開発が行われている。例えば特開2004−315594号公報(特許文献1)には金属アレーン化合物とハロゲン化合物との組み合わせからなる重合開始剤系を利用した平版印刷版が開示され、特開2002−278066号公報(特許文献2)にはチタノセン化合物を用いる系が、特開2002−296764号公報(特許文献3)にはヘキサアリールビイミダゾール化合物を用いる系などが開示されている。
【0004】
これらの系ではいずれも405nm付近の光に対する感度を有し、例えば405nm付近に発光する青紫色半導体レーザーを用いた描画システムを用いて描画、製版することが可能である。しかしながら、新聞社などのように製版枚数が多いユーザー先ではますます高速描画が要求され、さらなる感度アップが必要とされている。具体的な目標感度としてはおおよそ50μJ/cm程度の感度が要求されているが、未だ十分な感度を示す高感度フォトポリマー系が見出されていない。
【0005】
加えて、レーザー光照射において架橋する高感度フォトポリマー系の架橋密度が十分でなく、機械的強度や耐薬品性、支持体との接着性などに劣る場合があり、特に平版印刷版として利用しようとした場合には、耐刷性に劣り、また版面を洗浄するために用いられる各種クリーナー液に対する耐性が不十分で、画像が欠落するなどの問題があった。
【0006】
特開2006−276205号公報(特許文献4)などには、青紫色半導体レーザーによる露光後に、版面を100℃前後の温度に加熱処理を行う方法が示されている。この例のように、レーザー露光後に加熱処理を行う方法では、版面全体を均一な温度に加熱することが困難であり、特に大面積の版材を処理する場合には部分的に加熱不良を生じ、耐刷不良を発生する場合や、あるいは部分的に温度が上昇しすぎて現像不良、地汚れの発生が生じる場合があった。また、加熱処理に伴う自動処理装置の複雑化、コストアップおよび処理時間の増大、消費電力の増大その他多くの問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−315594号公報
【特許文献2】特開2002−278066号公報
【特許文献3】特開2002−296764号公報
【特許文献4】特開2006−276205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、405nm付近の光に高感度を有し、露光後に加熱処理を行うこと無しに、耐薬品性、接着性に優れた良好な光硬化性を有する光重合性樹脂組成物を与えることを課題とする。さらに耐刷性に優れ、クリーナー液耐性に優れた感光性平版印刷版材料を与えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、(A)一般式Iまたは一般式IIで表される化合物、(B)有機ホウ素塩化合物、(C)380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素、(D)重合性化合物、(E)バインダーポリマーを含有する光重合性樹脂組成物、およびこれを利用する感光性平版印刷版材料により解決される。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、Xはハロゲン原子を表す。Rは水素原子またはメチル基を表す。Rはアルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Yは2価の連結基を表す。Lは置換していても良いアルキレン基、フェニレン基、−OC=O−基、−NHC=O−基もしくはこれらの組み合わせからなる基を表す。nは1または2を表す。mは0〜3の整数を表す。
【0012】
【化2】

【0013】
式中、Xはハロゲン原子を表す。R、Rは各独立してアルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。YおよびYは2価の連結基を表す。Lは置換していても良いアルキレン基、フェニレン基、−OC=O−基、−NHC=O−基もしくはこれらの組み合わせからなる基を表す。pおよびqは0〜3の整数を表す。
【発明の効果】
【0014】
405nm付近の光に高感度を有し、露光後に加熱処理を行うこと無しに、耐薬品性、接着性に優れた良好な光硬化性を有する光重合性樹脂組成物が得られる。さらに耐刷性に優れ、クリーナー液耐性に優れた感光性平版印刷版材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における光重合性樹脂組成物を構成する各要素について順に説明を行う。
【0016】
(A)一般式Iで表される化合物とは、分子内にトリハロアルキル置換s−トリアジン環基とともに重合性二重結合基を併せて有する化合物を表す。この重合性二重結合基は連結基を介してベンゼン環に結合していることが特徴である。トリハロアルキル置換s−トリアジン環基は光照射によりハロゲン原子が解離し、アルキルラジカルが生成し、このアルキルラジカルが光重合性樹脂組成物中に含まれる(D)重合性化合物に付加することで光重合が開始すると考えられる。即ち光重合開始剤として作用する化合物である。さらに該トリアジン環基とともに同一分子内に重合性二重結合基を有することから、このような一般式Iで表される化合物は分子内に2個以上の反応性基を有しており、光重合開始剤としての作用と、架橋剤としての作用の両方の機能を併せ持つことが特徴である。
【0017】
一般式Iにおいて置換基Rとしては、無くても良いが特にメトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基の場合が好ましい。また2価の連結基Yとしては、アルキレンオキシ基が特に好ましく、酸素原子を介してベンゼン環に結合している場合が好ましい。一般式Iで表される化合物の好ましい例を下記に示す。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
(A)一般式IIで表される化合物とは、分子内にトリハロアルキル置換s−トリアジン環基を2個有する化合物であり、置換基RおよびRとしては、無くても良いが特にメトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基の場合が好ましい。また2価の連結基YおよびYとしては、アルキレンオキシ基が特に好ましく、酸素原子を介してベンゼン環に結合している場合が好ましい。Lとしてはアルキレン基や、両末端に−OCONH−基を有するアルキレン基およびフェニレン基、あるいは両末端に−OC=O−基を有するアルキレン基およびフェニレン基である場合が好ましい。好ましい化合物の例を下記に示す。このような一般式IIで表される化合物も先の一般式Iの化合物と同様に、分子内に2個以上の反応性基を有しており、光重合開始剤としての作用と、架橋剤としての作用の両方の機能を併せ持つことが特徴である。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
一般式Iおよび一般式IIで表される化合物の共通した特徴の一つとして、該s−トリアジン環基が炭素−炭素二重結合(スチリル基)を介してベンゼン環に結合している点である。このことで、一般式Iおよび一般式IIで表される化合物の両方とも吸収波長が350〜400nm程度まで長くなり、本発明の目的である405nm付近に高感度を有する光重合性組成物の構成要素として極めて効果的であることが挙げられる。
【0026】
一般式Iおよび一般式IIで表される化合物は各々単独で使用しても良いし、あるいは両者を任意の割合で混合して用いても良い。本発明における光重合性樹脂組成物中において含まれる割合については好ましい範囲が存在し、該光重合性樹脂組成物全体を100質量部とした場合、一般式Iまたは一般式IIで表される化合物の好ましい割合は0.5質量部から50質量部の範囲であり、さらに1質量部から30質量部の範囲にある場合が更に好ましい。
【0027】
(B)有機ホウ素塩化合物について説明を行う。本発明における有機ホウ素塩化合物とは下記一般式IIIで示される有機ホウ素アニオンを有する化合物であることを意味する。
【0028】
【化9】

【0029】
上記式中、R、R、RおよびRは各々同じであっても異なっていても良く、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R、R、RおよびRの内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0030】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩化合物の例を下記に示す。
【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
(B)有機ホウ素塩化合物は(A)一般式Iおよび一般式IIで表される化合物と組み合わせて用いることで、(A)単独で使用する場合に比較して光重合開始剤としての感度が大幅に増大することが特徴である。
【0034】
上記のような(B)有機ホウ素塩化合物が本発明における光重合性樹脂組成物中において含まれる割合については好ましい範囲が存在し、該光重合性樹脂組成物全体を100質量部とした場合、有機ホウ素塩化合物の好ましい割合は0.5質量部から50質量部の範囲であり、さらに1質量部から30質量部の範囲にある場合が更に好ましい。
【0035】
(C)380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素について説明を行う。この増感色素とは(A)および(B)の組み合わせからなる光重合開始剤系の有する感度を更に(C)の添加により大幅に増大させる働きを有するものである。380〜410nmの波長域の感度を増大される化合物としてシアニン系色素、特開平7−271284号公報、特開平8−29973号公報等に記載されるクマリン系化合物、特開平9−230913号公報、特開2001−42524号公報等に記載されるカルバゾール系化合物や、特開平8−262715号公報、特開平8−272096号公報、特開平9−328505号公報等に記載されるカルボメロシアニン系色素、特開平4−194857号公報、特開平6−295061号公報、特開平7−84863号公報、特開平8−220755号公報、特開平9−80750号公報、特開平9−236913号公報等に記載されるアミノベンジリデンケトン系色素、特開平4−184344号公報、特開平6−301208号公報、特開平7−225474号公報、特開平7−5685号公報、特開平7−281434号公報、特開平8−6245号公報などに記載されるピロメチン系色素、特開平9−80751号公報などに記載されるスチリル系色素、あるいは(チオ)ピリリウム系化合物等が挙げられる。これらの内、シアニン系色素またはクマリン系化合物あるいは(チオ)ピリリウム系化合物が好ましい。好ましく用いることのできるシアニン系色素として下記一般式IVで表される構造の化合物が挙げられる。
【0036】
【化12】

【0037】
一般式IVにおいて、R、R10、R11およびR12は各々同じであっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。また、R、R10、およびR11、R12は互いに結合して縮合環を形成していても良く、縮合した複素環基であっても良い。R13およびR14はアルキル基、γ−スルホアルキル基を表す。QおよびQは各独立して酸素原子、硫黄原子、アルキル基の結合した窒素原子、またはアルキル基の結合した炭素原子を表す。Aはアニオンを表す。
【0038】
380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素としての一般式IVで表されるシアニン色素の好ましく用いることのできる例を下記に示す。
【0039】
【化13】

【0040】
380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素としての一般式IV以外のシアニン色素の好ましく用いることのできる例を下記に示す。これらの例では一般式IVの色素とほぼ同等の感度を示すが、一般式IVの色素の方が、光重合性樹脂組成物中において、保存安定性が良好で、感度の経時変化が小さいという特徴を有するため好ましい。
【0041】
【化14】

【0042】
380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素として用いることのできる好ましいクマリン系化合物としての例を下記に示す。
【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
【化17】

【0046】
380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素として用いることのできる好ましい(チオ)ピリリウム系化合物としての例を下記に示す。
【0047】
【化18】

【0048】
上記のような(C)380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素の本発明における光重合性樹脂組成物中において含まれる割合については好ましい範囲が存在し、該光重合性樹脂組成物全体を100質量部とした場合、該増感色素の好ましい割合は0.5質量部から50質量部の範囲であり、さらに1質量部から30質量部の範囲にある場合が更に好ましい。
【0049】
(D)重合性化合物について説明を行う。本発明に用いることができる重合性化合物は、少なくとも1個の重合性二重結合基を有する化合物であり、重合性二重結合基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該技術分野において公知のものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、即ち2量体、3量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマーおよびその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、および単官能もしくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0050】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、イソシアヌール酸エチレンオキシ変性トリアクリレート等がある。
【0051】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
【0052】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
【0053】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭51−47334号公報、特開昭57−196231号公報記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号公報、特開昭59−5241号公報、特開平2−226149号公報記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。更に、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0054】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726号公報記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0055】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、2−ヒドロキシエチルアクリレートや2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基を有するアクリレートまたはメタクリレート化合物を付加することによって得られる各種ウレタン系付加重合性化合物も本発明に関わる(D)重合性化合物として好ましく用いることができる。
【0056】
その他の例としては、特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報、特公昭52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号公報、特公平1−40337号公報、特公平1−40336号公報に記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。
【0057】
上記のような(D)重合性化合物の本発明における光重合性樹脂組成物中において含まれる割合については好ましい範囲が存在し、該光重合性樹脂組成物全体を100質量部とした場合、該重合性化合物の好ましい割合は5質量部から70質量部の範囲であり、さらに10質量部から50質量部の範囲にある場合が更に好ましい。
【0058】
(E)バインダーポリマーについて説明を行う。本発明では、光重合性組成物の膜強度や皮膜性の向上、および感光性平版印刷版としての現像性の向上のために、バインダーポリマーを用いることができる。バインダーポリマーとしては、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有する線状有機ポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーの例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる。
【0059】
バインダーポリマーは、光重合に際して積極的に重合に関与する重合性二重結合基を構造中、特に側鎖に有していることが好ましく、この場合、光重合性組成物としての感度が大幅に増大することがあるため特に好ましく用いることができる。このような側鎖に重合性二重結合を有するバインダーポリマーとして下記一般式Vで示す置換基を側鎖に有する場合が特に好ましい。
【0060】
【化19】

【0061】
式中、Zはヘテロ環を有する連結基を表し、R16、R17、およびR18は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R15は水素原子と置換可能な基または原子を表す。rは0〜4の整数を表し、sは1〜3の整数を表す。上記ヘテロ環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。一般式Vで表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0062】
【化20】

【0063】
上記一般式Vで表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R16およびR17が水素原子でR18が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、複素環基としてはチアジアゾール環を含むものが好ましく、sは1または2であるものが好ましい。
【0064】
バインダーポリマーとしては、水またはアルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのために親水性基を有する共重合体成分をバインダーポリマーの構造中に有することが好ましい。
【0065】
アルカリ性水溶液を現像液として用いる場合には、カルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含むバインダーポリマーであることが特に好ましい。カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0066】
水を現像液として用いる場合には、下記一般式VIで示されるスルホン酸塩基を含むモノマーを共重合成分として含むバインダーポリマーであることが特に好ましい。
【0067】
【化21】

【0068】
式中、Lは無くても良い任意の原子または基からなる連結基を表し、酸素原子、硫黄原子、置換していても良い直鎖あるいは分岐のアルキレン基、アリーレン基、−NH−、−COO−、−CONH−、−CO−、およびこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。R19は水素原子またはメチル基を表す。Dはカチオンを表す。
【0069】
こうしたスルホン酸塩基を有するモノマーの例として、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、アリルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、メタリルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、メタクリル酸3−スルホプロピルエステルのアルカリ金属塩およびそのアミン塩等が好ましい例として挙げられる。ここでいうアルカリ金属塩とはナトリウム塩、カリウム塩およびリチウム塩であり、アミン塩とはアミンとしてアンモニア、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、n−ブチルジエタノールアミン、t−ブチルジエタノールアミン等を用いて形成される塩を意味する。
【0070】
バインダーポリマーを形成するモノマーとしての一般式Vで示す置換基を有する繰り返し単位と、カルボキシル基含有モノマーあるいは一般式VIで表されるスルホン酸塩基を有するモノマーによる繰り返し単位との割合については好ましい範囲が存在する。バインダーポリマーの構成において一般式Vの置換基は質量比でバインダーポリマー全体を100質量部とした場合に10〜60質量部の範囲にあることが好ましく、更には20質量部から50質量部である場合が最も好ましい。この範囲を超えて一般式Vの置換基が含まれた場合には、水もしくはアルカリ性水溶液を用いた現像液に溶解しない場合がある。
【0071】
本発明に関わるバインダーポリマーの分子量に関しては好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で5000から50万の範囲が好ましく、これ以下の分子量では膜強度や接着性が不十分である場合がある。また50万を超える分子量では塗布する際の塗液粘度が高くなりすぎ、均一な塗布が困難になる場合がある。最も好ましい分子量範囲は1万から30万の間である。
【0072】
上記重合体組成中には、目的に応じて種々の繰り返し単位を更に導入することができる。例えば、親水性モノマーとして、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマーおよびこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマーおよびこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマーおよびこれらの4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これら親水性モノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を併せて用いても良い。
【0073】
あるいは、疎水性モノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート類またはアリールアルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを挙げることができる。
【0074】
上記のような親水性モノマーあるいは疎水性モノマーを併せて用いることにより本発明におけるバインダーポリマーを合成する場合には、該バインダーポリマー中に於ける割合は全体の50質量%以下に留めることが好ましく、これ以上の割合で導入した場合には本発明の目的とする高感度である光重合性組成物の性能に支障を来す場合がある。
【0075】
上記のような(E)バインダーポリマーの本発明における光重合性樹脂組成物中において含まれる割合については好ましい範囲が存在し、該光重合性樹脂組成物全体を100質量部とした場合、該バインダーポリマーの好ましい割合は20質量部から70質量部の範囲であり、更に30質量部から60質量部の範囲にある場合が更に好ましい。
【0076】
本発明に於ける好ましい重合体の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。式中、数字は各繰り返し単位の重合体中に於ける質量%を表す。
【0077】
【化22】

【0078】
【化23】

【0079】
本発明に関わる光重合性樹脂組成物中には、更に長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩類等が好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、該組成物トータル量100質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0080】
本発明に関わる光重合性樹脂組成物を用いて感光性平版印刷版を形成するための支持体としては各種プラスチックフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。プラスチックフィルム支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロースなどが代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは表面に本発明に関わる感光性平版印刷版材料を用いた層を設ける前にフィルム表面に親水化加工が施されていることが好ましい。
【0081】
こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。更なる親水化加工としてフィルム上に種々の水溶性ポリマーを含む層を設けることも好ましく行うことができる。例えば、特開2008−250195号公報に記載される水溶性ポリマー、コロイダルシリカおよび架橋剤から構成される親水性層を上記フィルム上に形成することが好ましく行われる。更には、設ける親水性層との接着性を高めるためフィルム上にあらかじめ下引き層を設けても良い。下引き層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂が好ましい。特に好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコールが挙げられる。こうした下引き層を介してフィルム支持体と親水性層を形成することで、多部数にわたるロングラン印刷条件での耐刷性が向上するため好ましく利用される。
【0082】
支持体としてアルミニウム板を使用する場合には、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板が好ましく用いられる。更に、表面をシリケート処理したアルミニウム板も好ましく用いることができる。あるいは、更に表面に上記の親水性層を形成したアルミニウム板を用いることもできる。
【0083】
上記のような支持体を用いてこれに本発明の光重合性樹脂組成物を用いて感光性平版印刷版を形成するためには、本発明の光重合性樹脂組成物を含む層を支持体表面あるいは上記の親水性層を介して支持体表面に形成することが好ましい。この場合の光重合性樹脂組成物を含む層自体の乾燥固形分塗布量に関しては、乾燥質量で1平方メートルあたり0.3gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更に0.5gから3gの範囲であることが良好な解像度を発揮し、かつ細線画像や微小網点画像の耐刷性を確保し、同時に耐摩耗性を大幅に向上させるために極めて好ましい。光重合性樹脂組成物を含む層は上述の種々の要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体表面あるいは親水性層上に塗布、乾燥される。
【0084】
本発明の感光性平版印刷版材料においては、光重合性樹脂組成物を含む層の上に、更に保護層を設けることも好ましく行われる。保護層は、感光層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素や塩基性物質等の低分子化合物の感光層への混入を防止し、大気中での露光感度を更に向上させる好ましい効果を有する。更には感光層表面を傷から防止する効果も併せて期待される。従って、このような保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低く力学的強度に優れ、更に、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、感光層との密着性に優れ、かつ、露光後の現像工程で容易に除去できることが望ましい。本発明の水現像可能な感光性平版印刷版材料においては、水現像の過程においてこうした保護層と光硬化性感光層の未露光部の除去が同時に行うことも可能であるため、特に保護層の除去工程を設ける必要が無いことが特徴である。更に、先に述べたような光硬化性感光層に含まれる該重合体が水溶性であるが故に大気中の水分を吸湿しブロッキングを発生したり、保存中に感度変化等の問題を生じる場合があるが、保護層を光硬化性感光層の上部に設けることでこうしたブロッキングや感度変化の問題を解消することが可能である。加えて、特に405nm付近の波長域の青紫色半導体レーザーを使用して記録を行う場合、特に高感度である感光層が要求される。こうした場合に、保護層を設けることで更に感度が上昇するため特に好ましく適用することができる。
【0085】
この様な、保護層に関する工夫が従来よりなされており、米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報等に詳しく記載されている。保護層に使用できる材料としては例えば、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが良く、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸などのような水溶性ポリマーが知られているが、これらの内、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。こうした保護層を適用する際の乾燥固形分塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、感光層上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.1gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更には0.2gから2gの範囲が好ましい。保護層は、公知の種々の塗布方式を用いて光硬化性感光層上に塗布、乾燥される。
【0086】
上記のようにして支持体上に形成された光重合性樹脂組成物を含む層を有する材料を感光性平版印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することで水あるいはアルカリ性水溶液に対する溶解性が低下することから、水あるいはアルカリ性水溶液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0087】
本発明において、現像に使用される水とは、純水もしくはこれに各種無機、有機イオン性化合物が含まれても良く、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどが含まれる水であっても良い。あるいは水中に公知である各種界面活性剤などが含まれていても良い。また、水には各種アルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ポリエチレングリコールなどの溶剤が含まれていても良い。あるいは、水現像の際に、市販される各種ガム液を添加して現像することも、版面を指紋汚れ等から保護する目的で好ましく用いることができる。但し、次に述べるアルカリ性水溶液とはそのpHをもって明確に区別される。本発明における現像に使用される水とはpHが4〜9の範囲にあり、以下のアルカリ性水溶液とはpHが10以上である水溶液を意味する。
【0088】
現像に用いるアルカリ性水溶液としては、pHが10以上であり、本発明に関わるバインダーポリマーを溶解する液であれば特に制限は無いが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出できるため極めて好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアゴム等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【0089】
その他の添加剤として、本発明に関わる光重合性樹脂組成物中には、液物性、硬化反応性、硬化物の物理的性質(力学的、光学的等)を改善する目的で種々の添加剤が含有されていても良い。液物性を改善する目的で、水、アルコール類、ケトン類、炭化水素溶媒、芳香族溶媒、エーテル類、アミン類、アミド類等の種々の化合物を添加することが好ましく行われる。更にはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン系樹脂等の種々の疎水性樹脂や、あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体等の親水性樹脂を添加して使用することも可能である。
【0090】
光重合性樹脂組成物の着色を目的として、カーボンブラック、フタロシアニン系顔料、酸化チタン、群青、亜鉛華、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ白等の種々の顔料や公知の各種染料を含むことも好ましく行われる。
【実施例】
【0091】
以下に本発明に関わる一般式IおよびIIで表される化合物の合成例を示す。尚、実施例に記載される部は質量部を表す。
【0092】
(合成例1)T−3の合成例
みどり化学株式会社から入手される下記構造の化合物であるTAZ−123を使用し、これを65g秤量し、酢酸エチル160gに分散した。40℃の水浴上に移し、ジブチルスズジラウレート0.5gを添加し、更にアクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズAOI)を21g加え撹拌した。数分の内に懸濁した分散系が均一となった。10分後、ヘキサン500ml中に全体を移し、析出した結晶を濾取、乾燥した。プロトンNMRによる構造解析の結果、T−3で示される構造の化合物であることを確認した。
【0093】
【化24】

【0094】
(合成例2〜4)T−4およびT−1,2の合成例
T−4も同様にして、TAZ−123とメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズMOI)から合成した。T−1はTAZ−123とアクリル酸クロリド(東京化成工業株式会社製試薬)をテトラヒドロフラン中、0℃にてピリジンの存在下、24時間撹拌し、全体を水中にあけて酢酸エチルで有機相を抽出し、エバポレートすることで得た。T−2も同様にしてTAZ−123とメタクリル酸クロリド(東京化成工業株式会社製試薬)を用いて合成した。
【0095】
(合成例5)T−5の合成例
温度計、還流冷却管、および撹拌機を備えた1Lフラスコ内に4−クロロメチルスチレンとしてAGCセイミケミカル株式会社から市販されるCMS−14を使用し、これを152.6g秤取した。4−ヒドロキシベンズアルデヒド(東京化成工業株式会社製試薬)を122.1g、炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製試薬)を70g、重合禁止剤としてクペロン(東京化成工業株式会社製試薬:N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を0.5g加え、エタノール600gを加えて撹拌を行った。75℃に加熱した水浴上で激しく撹拌を行い、6時間後水浴を氷冷水に置換し、撹拌を続けながら反応混合物を冷却した。析出した生成物をグラスフィルター上に移し、吸引濾過を行い、メタノール200mlで洗浄し、さらに5%水酸化ナトリウム水溶液200mlで洗浄した後、イオン交換水200mlで2回洗浄を行った。再び、メタノール200mlで洗浄した後、グラスフィルター上の生成物を取り出し、風乾し、下記構造のベンズアルデヒド誘導体を得た。
【0096】
【化25】

【0097】
温度計、還流冷却管、および撹拌機を備えた1Lフラスコ内に上記構造のベンズアルデヒド誘導体120gを秤取り、更に下記構造のトリアジン誘導体(みどり化学株式会社製TAZ−100(2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−メチル−1,3,5−トリアジン)を165g添加し、エタノール600gを加えて撹拌を行った。これに酢酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)40gおよび重合禁止剤としてクペロン(東京化成工業株式会社製試薬:N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を0.5g添加した。75℃に加熱した水浴上で激しく撹拌を行い、2時間後水浴を氷冷水に置換し、撹拌を続けながら反応混合物を冷却した。析出した生成物をグラスフィルター上に移し、吸引濾過を行い、メタノール200mlを用いて2回洗浄を行い、グラスフィルター上の生成物を取り出し、風乾した。収率90%で目的とする化合物T−5を得た。同様に化合物T−6〜T−12についても対応するヒドロキシベンズアルデヒドからベンズアルデヒド誘導体を得て、上記と全く同様にしてTAZ−100を用いて反応を行い目的化合物を得た。
【0098】
【化26】

【0099】
(合成例6)T−15の合成例
温度計、還流冷却管、および撹拌機を備えた1Lフラスコ内に1,5−ジブロモペンタン(東京化成工業株式会社製試薬)を115g秤取り、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(東京化成工業株式会社製試薬)を122.1g、炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製試薬)を70g、エタノール600gを加えて撹拌を行った。75℃に加熱した水浴上で激しく撹拌を行い、6時間後水浴を氷冷水に置換し、撹拌を続けながら反応混合物を冷却した。析出した生成物をグラスフィルター上に移し、吸引濾過を行い、メタノール200mlで洗浄し、更に5%水酸化ナトリウム水溶液200mlで洗浄した後、イオン交換水200mlで2回洗浄を行った。再び、メタノール200mlで洗浄した後、グラスフィルター上の生成物を取り出し、風乾し、下記構造のベンズアルデヒド誘導体を得た。
【0100】
【化27】

【0101】
温度計、還流冷却管、および撹拌機を備えた1Lフラスコ内に上記構造のベンズアルデヒド誘導体78gを秤取り、更にトリアジン誘導体(みどり化学株式会社製TAZ−100(2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−メチル−1,3,5−トリアジン)を165g添加し、エタノール600gを加えて撹拌を行った。これに酢酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製試薬)40gを添加した。75℃に加熱した水浴上で激しく撹拌を行い、2時間後水浴を氷冷水に置換し、撹拌を続けながら反応混合物を冷却した。析出した生成物をグラスフィルター上に移し、吸引濾過を行い、メタノール200mlを用いて2回洗浄を行い、グラスフィルター上の生成物を取り出し、風乾した。収率80%で目的とする化合物T−15を得た。類似する他の化合物T−13,T−14およびT−16〜T−19も対応するジブロモアルカンとヒドロキシベンズアルデヒド誘導体から得られるベンズアルデヒド誘導体とTAZ−100を使用して同様にして合成を行った。
【0102】
(合成例7)T−20の合成例
温度計、還流冷却管、および撹拌機を備えた1Lフラスコ内にTAZ−123を65g秤量し、酢酸エチル160gに分散した。50℃の水浴上に移し、ジブチルスズジラウレート0.5gを添加し、更にイソホロンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製試薬)を30g加え撹拌した。約30分後に懸濁した分散系が均一となった。3時間後、ヘキサン500ml中に全体を移し、析出したオイルをデカンテーションにて回収し、乾燥して目的とする化合物T−20をほぼ定量的に得た。
【0103】
(光重合性樹脂組成物およびこれを利用した感光性平版印刷版材料の実施例1〜4および比較例1〜3)
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板に、更に珪酸ナトリウムを使用してシリケート処理を行ったアルミニウム板を支持体として使用した。本発明に関わる一般式IまたはIIで表される化合部として下記表1に示される化合物を使用し、先のP−1で示される構造を有するバインダーポリマーを用いて下記光重合性樹脂組成物処方の塗布液を作製し、該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥することで、光硬化性感光層を形成し、各々光重合性樹脂組成物およびこれを利用した感光性平版印刷版材料の実施例1〜4を作製した。比較例1では一般式IまたはIIで表される化合物を使用せずに光硬化性感光層を作製した。比較例2および3として、表1で示す比較化合物を一般式IまたはIIで表される化合物の代わりに使用して光硬化性感光層を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。更に、この光硬化性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。
【0104】
(光重合性樹脂組成物処方)
バインダーポリマー(P−1) 1部
トリメチロールプロパントリアクリレート 0.20部
一般式IまたはIIの化合物(表1) 0.15部
有機ホウ素塩化合物(BC−6) 0.15部
増感色素(S−7) 0.04部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.02部
ジオキサン 5部
エタノール 1部
【0105】
【表1】

【0106】
【化28】

【0107】
【化29】

【0108】
(露光試験)
上記のようにして作製した光重合性組成物を使用した感光性平版印刷版材料を用いて以下のようにして露光試験を行った。露光は波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが50μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線を出力した。露光された感光性平版印刷版材料を下記の構成で作成された現像液を用いて現像を行った(現像時間は15秒、現像液温度は30℃)。また、現像に先立って、露光済みの感光性平版印刷版材料を110℃に加熱した乾燥機内に15秒間入れることで加熱処理を行った場合についても併せて評価を行った。
【0109】
(現像液処方)
ジメチルアミノエチルアルコール 30部
水酸化テトラメチルアンモニウム 15部
ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム 10部
水を加えて全量を1000部に調整し、更に85%リン酸を加えてpHを12に調整した。
【0110】
(解像性評価)
上記の現像液を用いて処理を行った場合の解像性評価として、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表2に纏めた。
【0111】
【表2】

【0112】
(耐薬品性評価)
上記の現像処理後の各々の試料を1規定水酸化ナトリウム水溶液中およびジメチルホルムアミド(DMF)中に24時間室温にて浸漬を行い、その後流水で水洗して乾燥させた。アルミニウム板上の光重合性樹脂組成物から形成された層が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに白化あるいは膨潤の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも軽微な白化あるいは表面の変化などの薬品の影響が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表3に示した。
【0113】
【表3】

【0114】
(接着性評価)
上記の現像処理後の各々の試料を用い、アルミニウム板上の光重合性樹脂組成物から形成された層に対して消しゴムを用いて10回擦りつけた。該樹脂層が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに剥離の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも剥離の形跡が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表4に示した。
【0115】
【表4】

【0116】
(印刷性試験)
先の現像処理後の各々の試料を用い、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価として、耐刷性については印刷開始から5万枚まで通して20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的にかけている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。結果を表5に纏めた。
【0117】
【表5】

【0118】
(クリーナー液耐性評価)
先の現像処理後の各々の試料(未加熱処理品)を用い、クリーナー液として(A)日研化学研究所製スリーパワーおよび(B)日研化学研究所製ノンVOCプレートクリーナーをそれぞれ使用して、アルミニウム板上の光重合性樹脂組成物から形成された画像部表面を布に湿したクリーナー液で繰り返し擦りつけた。この際、画像が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに擦過の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも軽微な傷あるいは表面の変化などのクリーナー液の影響が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表6に示した。
【0119】
【表6】

【0120】
(感光性平版印刷版材料の実施例6〜10および比較例4〜6)
厚みが175μmであるポリエステルフィルムを支持体として使用して、この上に特開2008−250195号公報に記載される親水性層として、下記の親水性層塗液処方を使用して乾燥質量で1平方メートル当たり3gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料は更に40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光硬化性感光層の塗布に給した。
【0121】
(親水性層塗液処方)
ポリアクリルアミド−アクリル酸(80/20)共重合体10%水溶液 100部
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスPS−S)
(20%濃度) 100部
エポキシ架橋剤(長瀬産業(株)製デナコールEX−512)原液 2部
蒸留水 100部
【0122】
先の実施例のバインダーポリマーP−1に代わりP−4で示すスルホン酸塩基を有するポリマーを用いた以外は同様にして前記光重合性樹脂組成物処方の塗布液を作製し、先の親水性層の上に、塗布、乾燥することで、光硬化性感光層を形成し、各々感光性平版印刷版材料の実施例6〜10および比較例4〜6を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。更に、この光硬化性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。
【0123】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料を以下のようにして露光試験を行った。露光は光波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが40μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線を出力し、後述する解像度の評価を行った。
【0124】
(水現像による解像度評価)
上記で描画を行った各感光性平版印刷版を30℃に調節した水中に10秒間浸けスポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去した。この際、解像度の評価を行い、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表7に纏めた。
【0125】
【表7】

【0126】
(印刷性試験)
先の現像処理後の各々の試料を用い、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価として、耐刷性については印刷開始から2万枚まで通して20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的にかけている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。結果を表8に纏めた。
【0127】
【表8】

【0128】
(耐薬品性評価)
上記の現像処理後の各々の試料を1規定水酸化ナトリウム水溶液中およびジメチルホルムアミド(DMF)中に6時間室温にて浸漬を行い、その後流水で水洗して乾燥させた。フィルム支持体表面の親水性層上の光重合性樹脂組成物から形成された層が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに白化あるいは膨潤の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも軽微な白化あるいは表面の変化などの薬品の影響が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表9に示した。
【0129】
【表9】

【0130】
(接着性評価)
上記の現像処理後の各々の試料を用い、フィルム支持体表面の親水性層上の光重合性樹脂組成物から形成された層に対して消しゴムを用いて10回擦りつけた。該樹脂層が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに剥離の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも剥離の形跡が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表10に示した。
【0131】
【表10】

【0132】
(クリーナー液耐性評価)
先の現像処理後の各々の試料を用い、クリーナー液として(A)日研化学研究所製スリーパワーおよび(B)日研化学研究所製ノンVOCプレートクリーナーをそれぞれ使用して、フィルム支持体表面の親水性層上の光重合性樹脂組成物から形成された画像部表面を布に湿したクリーナー液で繰り返し擦りつけた。この際、画像が剥離した場合に×とし、層が残存しているが明らかに擦過の形跡が認められた場合を△とし、わずかながらでも軽微な傷あるいは表面の変化などのクリーナー液の影響が認められる場合を○とし、全く変化が認められなかった場合を◎とした。結果を表11に示した。
【0133】
【表11】

【0134】
以上の結果から本発明により、露光後に加熱処理を行うこと無しに、耐薬品性、接着性に優れた良好な光硬化性を有する光重合性樹脂組成物を与えられることが分かる。またこの光重合性樹脂組成物を利用した感光性平版印刷版材料は、耐刷性に優れ、クリーナー液耐性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
405nm付近の波長域に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いるCTP印刷版作製方式において、プラスチックフィルムベース印刷版およびアルミニウムベース印刷版が与えられる。更に、プリント配線基板作製用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適な光重合性樹脂組成物が与えられる。また、このようにして得られた樹脂組成物は優れた耐薬品性、耐摩耗性、良好な接着性を有するため幅広い分野で利用可能である。特に、種々のレジスト用途、印刷用途、あるいは電子回路用基板、例えば車載用基板、屋外設置機器の基板、各種電源基板等のポッティングやコーティング、携帯電話キーパッドのコーティング、液晶ディスプレイ周りの防湿接着剤等に利用が可能である。またこれらの用途にとどまらず、接着、防湿、耐熱、耐薬品性、耐摩耗性が必要な用途に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式Iまたは一般式IIで表される化合物、(B)有機ホウ素塩化合物、(C)380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素、(D)重合性化合物、(E)バインダーポリマーを含む光重合性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。Rは水素原子またはメチル基を表す。Rはアルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Yは2価の連結基を表す。Lは置換していても良いアルキレン基、フェニレン基、−OC=O−基、−NHC=O−基もしくはこれらの組み合わせからなる基を表す。nは1または2を表す。mは0〜3の整数を表す)。
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。R、Rは各独立してアルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。YおよびYは2価の連結基を表す。Lは置換していても良いアルキレン基、フェニレン基、−OC=O−基、−NHC=O−基もしくはこれらの組み合わせからなる基を表す。pおよびqは0〜3の整数を表す)。
【請求項2】
前記(C)の380〜410nmの波長域に吸収を有する増感色素がシアニン系色素、クマリン系化合物またはピリリウム系化合物から選ばれる請求項1記載の光重合性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)のバインダーポリマーが側鎖に重合性二重結合基を有するバインダーポリマーである請求項1記載の光重合性樹脂組成物。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂組成物を用いた感光性平版印刷版材料。

【公開番号】特開2010−197509(P2010−197509A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39910(P2009−39910)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】