免震構造及び建築物
【課題】低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供する。
【解決手段】免震構造18が、構造物12を支持する空気層20と、構造物12に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段22とを有している。よって、構造物12の上下方向の長周期化を図ることができ、構造物12に発生する上下方向の振動を減衰手段22によって低減することができる。
【解決手段】免震構造18が、構造物12を支持する空気層20と、構造物12に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段22とを有している。よって、構造物12の上下方向の長周期化を図ることができ、構造物12に発生する上下方向の振動を減衰手段22によって低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に発生する上下方向の振動を低減する免震構造及びこの免震構造を有する建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により建築物に発生する水平方向の振動を低減する技術として、建築物の免震層に積層ゴム支承等の免震装置を設置する水平免震構造が広く普及している。
これに対して、地震等により建築物に発生する上下方向の振動を低減する上下免震の有効な技術は、あまり普及していないものと思われる。その理由の1つとして、上下免震を実現する部材の設計が困難であることが挙げられる。
【0003】
例えば、線形の応力−歪特性を有する部材(以下、「上下免震部材」とする)を介して地盤上に構造物を支持させる場合、構造物の上下方向の周期を大きくして免震性を高めるために上下免震部材を柔らかくすると、上下免震部材は構造物の自重によって上下方向に大きく変形してしまう。また、過大な上下免震部材が設計上必要となる。
【0004】
この問題の解決策の1つとして、空気室内の圧力によって構造物を支持する空気バネを用いることが考えられる。空気バネは、空気の収縮により高い変形性能を発揮し、構造物の長周期化が期待できる。また、構造物の自重による変形は、空気室の圧力調整によってキャンセルすることができる。
【0005】
しかし、建築物のような重い構造物を支えるためには、空気室の圧力を大気圧の6〜7倍にしなければならない。空気室を高圧の状態で保持し続けることは難しく、空気室から高圧の空気が漏れてしまうことが懸念される。また、空気室を高圧にするために容量の大きなコンプレッサーが必要となる。
【0006】
特許文献1の空気圧浮上式免震装置では、図22に示すように基礎底盤300の上面に、建物と一体となる基礎上盤302が設置されている。そして、地震による揺れを感知するとバルブ304が開き、基礎底盤300と基礎上盤302との間へ空気タンク306から圧縮空気が注入される。これによって基礎上盤302と共に建物を浮上させ、基礎底盤300と基礎上盤302との間の摩擦をなくして地震による揺れを逃がす。
【0007】
しかし、特許文献1の空気圧浮上式免震装置は水平免震装置であるので、構造物に発生する上下方向の振動を低減する効果は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第3119675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は係る事実を考慮し、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、構造物を支持する空気層と、前記構造物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、を有する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、免震構造が空気層と減衰手段とを有している。空気層は構造物を支持し、減衰手段はこの構造物に発生する上下方向の振動を低減する。
【0012】
よって、空気層が構造物を支持するので、構造物の上下方向の長周期化を図ることができる。さらに、構造物に発生する上下方向の振動を減衰手段によって低減することができる。
また、構造物の下方に平面積の大きな空気層を形成することが可能となる(空気層の上面の平面積を、最大で構造物の1層分の全床面積にほぼ等しい大きさにすることが可能となる)。すなわち、空気層の受圧面積を大きくして、一般的な空気バネよりも空気層の圧力を小さくすることができる。
【0013】
これらにより、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記空気層は、前記構造物の下面と前記構造物の支持面との間に空気を取り囲むように設けられる弾性部材によって形成されている。
【0015】
請求項2に記載の発明では、構造物の下面と構造物の支持面との間に、弾性部材が設けられている。弾性部材は、空気を取り囲むように設けられて空気層を形成している。
【0016】
よって、空気層は構造物の重量を支え、弾性部材は構造物の荷重の一部を受けながらこの空気層の変形に追随して変形することができる。また、弾性部材の変形によってこの弾性部材の上下に配置された部材(例えば、構造物の下面、構造物の支持面等)に密着させることができる。これにより、接着剤等を使用せずに弾性部材をこの弾性部材の上下に配置された部材に圧着することができ、また、シール材等を使用せずに空気層からの空気の漏れを防ぐことができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記弾性部材は、線状部材である。
【0018】
請求項3に記載の発明では、弾性部材は線状部材であるので、この弾性部材の材軸方向に連続した壁面を形成することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記弾性部材は、中空の部材である。
【0020】
請求項4に記載の発明では、弾性部材は中空の部材であるので、弾性部材の軽量化を図ることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記弾性部材は、積層されている。
【0022】
請求項5に記載の発明では、弾性部材を積層することにより、さまざまな高さの空気層を形成することができる。
【0023】
また、例えば、円形横断面を有する弾性部材の場合、1つの弾性部材で高さの大きい空気層を形成しようとすると弾性部材の横断面の径が大きくなり、材料ボリュームも大きくなってしまう。これにより材料コストが掛かり、また、搬送や設置時等において弾性部材が取り扱い難くなる。これに対して、請求項5では、径の小さい円形横断面を有する弾性部材を積層すればよいので、トータルとしての材料ボリュームを小さくすることができ、また、弾性部材の取り扱いが容易になる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が前記弾性部材の側方に設けられている。
【0025】
請求項6に記載の発明では、弾性部材の側方に、弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が設けられている。
【0026】
よって、壁部材により弾性部材のはらみを防ぐことにより、免震構造の有する所定の免震性を維持することができる。
【0027】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物である。
【0028】
請求項7に記載の発明では、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造を有する建築物を構築することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は上記構成としたので、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性部材を示す説明図である。
【図3】図1のA−A矢視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る建築物の比較例を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る免震構造の作用を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図8】図7のB−B矢視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る免震構造の作用を示す説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図15】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図17】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図18】図17のC−C断面図である。
【図19】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す拡大図である。
【図20】本発明の実施形態に係る建築物の変形例の作用を示す説明図である。
【図21】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す拡大図である。
【図22】従来の空気圧浮上式免震装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面を参照しながら、本発明の免震構造及び建築物を説明する。なお、本実施形態では、鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用した例を示すが、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建築物に対して適用することができる。
【0032】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0033】
図1の立面図に示すように、建築物10は、構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物12と、地盤14上に設けられた支持基盤としての鉄筋コンクリート造の基礎16と、基礎16と上部建物12との間に設けられた免震構造18とによって構成されている。
【0034】
免震構造18は、空気層としての空気室20と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。空気室20は、基礎16上に形成されて上部建物12を支持している。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。
【0035】
空気室20は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎16の上面16Aとの間に配置され空気Qを取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成されている。弾性部材24は、ゴム製の線状部材であり、図2(a)の左の横断面図に示すように、弾性部材24の横断面形状は円形となっている。なお、線状部材とは、一定の横断面形状を有する細長い形状の部材を意味する。
【0036】
図1のA−A矢視図である図3(a)に示すように、弾性部材24は、平面視にて角部が丸みを帯びた略矩形の環状に配置されている。このように、空気室20の上面は、上部建物12の下面のほぼ全域によって形成されている。すなわち、空気層(空気室20)は、建築物10を構成する梁やスラブ等の水平部材と、弾性部材24とによって囲まれた空間である。なお、説明の都合上、図3(a)にはオイルダンパー22が省略されている。
【0037】
図1に示すように、空気室20には、上部建物12内の下部に設置されたエアーポンプ26から送られた空気Qが封入されている。エアーポンプ26は常時稼働しており、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室20内の圧力が所定の大きさになるように調整し、これによって空気室20に上部建物12が支持されている。
【0038】
このとき、弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態となっている。図2(a)の左の図は、弾性部材24が変形する前の状態を示した横断面図であり、図2(a)の右の図は、弾性部材24が上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態を示した横断面図である。
【0039】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0040】
第1の実施形態の免震構造18では、空気室20が上部建物12を支持するので、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0041】
例えば、図4に示すモデル図のように、線形の応力−歪特性を有する上下免震部材100を介して基礎16上に上部建物12を支持させることを考えた場合、上部建物12の質量をM、重力加速度をg、上下免震部材100の上下方向のばね定数をK、上部建物12の自重による上下免震部材100の変形をx0とすると、式(1)の関係が成り立つ。
【0042】
【数1】
【0043】
また、上部建物12の上下方向の振動の固有周期をT、円振動数をωとすると、式(2)の関係が成り立つので、式(2)に式(1)を代入することにより式(3)の関係を導きだすことができる。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
すなわち、上部建物12の上下方向の振動の固有周期Tによって、上下免震部材100の変形x0が決定される。例えば、固有周期Tが0.5秒の場合の変形x0は約6cmとなるので、長期歪が1/1000の上下免震部材100を用いる場合には、約60mの過大な上下免震部材100が設計上必要となる。
【0047】
これに対して免震構造18では、図5のモデル図に示すように、空気室20の上下方向の振動の固有周期をT、空気室20の体積をV0、ポリトロープ指数(動的の場合は1.4)をn、空気室20の受圧面積をS、空気室20の高さをH、上部建物12の自重によって空気室20に作用する等分布荷重をP0、大気圧をPaとすると、固有周期Tは、式(4)によって求めることができる。
【0048】
【数4】
【0049】
式(4)から、空気室20の高さHを3m程度とした場合に、固有周期2秒の免震効果を得られることがわかる。すなわち、空気層の高さHをそれほど大きくしなくても上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0050】
なお、免震効果を発揮させるための固有周期は1秒以上が望ましい。空気室20の変形が大きくなりすぎることが懸念される場合は、固有周期を5秒以下程度にするのが望ましい。
【0051】
また、上部建物12に発生する上下方向の振動は、減衰手段としてのオイルダンパー22によって低減することができる。
【0052】
また、上部建物12の下方に平面積の大きな空気室20を形成することが可能となる(図3(a)で示したように、空気室20の上面の平面積を、最大で上部建物12の1層分の全床面積にほぼ等しい大きさにすることが可能となる)。すなわち、空気室20の受圧面積を大きくして、一般的な空気バネよりも空気室20の圧力を小さくすることができる。
【0053】
例えば、上部建物12の重量を2500tonfとし、空気室20上面の大きさを12m×25mとした場合、空気室20の圧力は約0.08MPaとなる。この圧力の大きさは、タイヤや空気バネで一般的に扱われている空気圧に比べてかなり小さい。
【0054】
そして、これまでに説明した効果により、免震構造18は低い圧力の空気層(空気室20)によって構造物(上部建物12)を上下方向に免震支持することが可能となる。
このように、空気層を低い圧力にすることにより空気漏れを防ぐことができ、メンテナンスの手間も軽減することができる。また、タイヤの空気入れに用いる程度の簡易なコンプレッサー等をエアーポンプ26として用いることができる。
【0055】
また、空気室20は上部建物12の重量を支え、弾性部材24は上部建物12の荷重の一部を受けながらこの空気室20の変形に追随して変形することができる。また、図2(a)の右の図に示すように、弾性部材24の変形によってこの弾性部材24の上下に配置された部材に密着させることができる。図2(a)の右の図では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎16の上面16Aとが密着している。
【0056】
これにより、接着剤等を使用せずに弾性部材24をこの弾性部材24の上下に配置された部材に圧着することができ、また、シール材等を使用せずに空気室20からの空気Qの漏れを防ぐことができる。
【0057】
また、弾性部材24は線状部材であるので、この弾性部材24の材軸方向に連続した壁面を形成することができる。
【0058】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0059】
なお、第1の実施形態では、弾性部材24の横断面形状を円形とした例を示したが、他の形状であってもよい。例えば、図2(b)に示すように四角形としてもよいし、図2(c)に示すように円環状としてもよいし、図2(d)に示すように内部に減衰材28を充填してもよい。図2(b)〜(d)の左の図は、弾性部材24が変形する前の状態を示した横断面図であり、図2(b)〜(d)の右の図は、弾性部材24が上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態を示した横断面図である。
【0060】
図2(a)、(c)、(d)のように横断面の外形状が円形のものであれば、水平方向に転動することによる水平免震の効果が期待できる。また、図2(c)の場合、弾性部材24は中空の部材となるので、弾性部材24の軽量化を図ることができる。また、図2(d)の場合、上部建物12に発生する上下方向の振動を減衰する手段として弾性部材24を機能させることができる。この場合、免震構造18にオイルダンパー22を設けないで弾性部材24を減衰手段をとしてもよいし、弾性部材24を減衰手段としてオイルダンパー22と併用して用いてもよい。
【0061】
また、第1の実施形態では、上部建物12の荷重の一部により弾性部材24を変形させて、この弾性部材24の上下に配置された部材に密着させた例を示したが、弾性部材24とこの弾性部材24の上下に配置された部材とを接着剤を用いて接着してもよいし、弾性部材24とこの弾性部材24の上下に配置された部材との接合部にシール処理を施して空気室20からの空気Qの漏れを防ぐようにしてもよい。
【0062】
また、第1の実施形態では、1つの空気室20によって上部建物12を支持した例を示したが、図1のA−A矢視図の変形例である図3(b)、(c)に示すように、複数の空気室36、38によって上部建物12を支持するようにしてもよい。なお、説明の都合上、図3(b)、(c)にはオイルダンパー22が省略されている。
【0063】
また、第1の実施形態では、基礎16と上部建物12との間の基礎免震層に免震構造18を設けた例を示したが、図6の立面図に示すように、建築物30の中間免震層に免震構造18を設けてもよい。建築物30では、支持基盤としての鉄筋コンクリート造の下部建物32と、構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物34との間の中間免震層に免震構造18が設けられている。
【0064】
次に、本発明の第2の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0065】
図7の立面図に示すように、第2の実施形態の建築物80の基礎免震層には免震構造44が設けられている。免震構造44では、弾性部材24と鉄筋コンクリート造の安定部材40、42とが上下方向に交互に積層されている。安定部材40、42は、図7のB−B矢視図である図8に示すように、平面視にて弾性部材24の材軸に沿った板状の枠部材である。なお、説明の都合上、図8にはオイルダンパー22が省略されている。
【0066】
図9の拡大図に示すように、各弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図9では、最下段の弾性部材24と、基礎16の上面16A及び安定部材40の下面40Bとが密着し、中段の弾性部材24と、安定部材40の上面40A及び安定部材42の下面42Bとが密着し、最上段の弾性部材24と、安定部材42の上面42A及び上部建物12の下面12Bとが密着している。
【0067】
各弾性部材24と、基礎16の上面16A、上部建物12の下面12B、安定部材40、42の上面40A、42A、及び安定部材40、42の下面40B、42Bとの接触面の摩擦係数が大きくなるように、各弾性部材24の表面、基礎16の上面16A、上部建物12の下面12B、安定部材40、42の上面40A、42A、及び安定部材40、42の下面40B、42Bを形成するのが好ましい。
【0068】
よって、第2の実施形態の免震構造44では、弾性部材24を積層することにより、さまざまな高さの空気室20を形成することができる。すなわち、弾性部材24の標準化が可能となる。
【0069】
また、例えば、円形横断面を有する弾性部材24の場合、1つの弾性部材24で高さの大きい空気室20を形成しようとすると弾性部材24の横断面の径が大きくなり、材料ボリュームも大きくなってしまう。これにより材料コストが掛かり、また、搬送や設置時等において弾性部材24が取り扱い難くなる。これに対して、免震構造44では、径の小さい円形横断面を有する弾性部材24を積層すればよいので、トータルとしての材料ボリュームを小さくすることができ、また、弾性部材24の取り扱いが容易になる。
【0070】
また、図9に示すように、空気室20の圧力によって各弾性部材24に空気室20の外部に向かう水平力が作用した場合、中段の弾性部材24を先頭にして各弾性部材24は空気室20の外部にはらもうとするが、安定部材40、42と各弾性部材24との間に発生する摩擦抵抗によりこのはらみが低減される。
【0071】
次に、本発明の第3の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0072】
図10の立面図に示すように、第3の実施形態の建築物82の基礎免震層には、免震構造46が設けられている。免震構造46では、鉄筋コンクリート造の構造壁48の上に弾性部材24が設置され、その弾性部材24の上に上部建物12が載置されている。構造壁48は、基礎16上に設置され、空気Qを取り囲むように配置されている。
【0073】
弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図10では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と構造壁48の上面48Aとが密着している。
【0074】
よって、横断面形状の高さが小さい弾性部材24を用いた場合においても、高さの大きい空気室20を構築することができる。すなわち、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0075】
なお、高さの大きい空気室20を構築する他の構成としては、例えば、図11の建築物84の有する免震構造50に示すように、地盤14を掘削して地下空間Rを形成し、この地下空間Rを空気室20の一部にしてもよい。
【0076】
また、中間免震の場合には、図12の建築物86の有する免震構造52に示すように、下部建物32の上面32Aに下方に凹んだ凹部54を形成し、上部建物34の下面34Bに上方に凹んだ凹部56を形成して、空気室20の容積を大きくしてもよい。
【0077】
次に、本発明の第4の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第4の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0078】
図13の立面図に示すように、第4の実施形態の建築物88の基礎免震層には免震構造58が設けられている。免震構造58では、弾性部材24の側方に、この弾性部材24が空気室20の外部へはらむことを防ぐ壁部材としてのたれ壁60が設けられている。たれ壁60は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0079】
弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図13では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎16の上面16Aとが密着している。
【0080】
よって、たれ壁60により弾性部材24のはらみを防ぐことによって、免震構造58の有する所定の免震性を維持することができる。
なお、弾性部材24のはらみの許容量によって、弾性部材24とたれ壁60とを離して配置してもよいし、弾性部材24とたれ壁60とを接触させて配置してもよい。
【0081】
以上、本発明の第4の実施形態について説明した。
【0082】
なお、第4の実施形態では、壁部材をたれ壁60とした例を示したが、弾性部材24が空気室20の外部へはらむことを防ぐものであればよい。例えば、壁部材を、柵状の部材や網状の部材にしてもよい。また、たれ壁60を、上部建物12の支持が可能な強度を有する構造体にして、空気Qが空気室20に完全に封入する前の状態において上部建物12を仮支持できるようにすれば、フェールセーフ機構として壁部材を機能させることができる。また、エアーポンプ26による空気室20への送気をスムーズに行うことができる。
【0083】
次に、本発明の第5の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第5の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0084】
図14の立面図に示すように、第5の実施形態の建築物90の基礎免震層には免震構造62が設けられている。免震構造62は、基礎16上に設置された積層ゴム64によって支持された鉄筋コンクリート造の基礎構造体66と、上部建物12との間に設けられている。
【0085】
免震構造62は、空気層としての空気室20と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。空気室20は、基礎構造体66上に形成されて上部建物12を支持している。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。
【0086】
空気室20は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎構造体66の上面66Aとの間に配置され空気Qを取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成されている。図14では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎構造体66の上面66Aとが密着している。
【0087】
基礎構造体66の周縁部にはこの周縁部に沿って鉄筋コンクリート造のガイド壁68が形成されている。上部建物12は上下方向には自由に移動できるが、上部建物12の横方向の移動はガイド壁68によって拘束されている。
【0088】
よって、地盤14に発生する横方向の振動は積層ゴム64によって水平免震され、地盤14に発生する上下方向の振動は免震構造62によって上下免震される。すなわち、免震構造62と積層ゴム64とによって、三次元免震構造70を構成することができる。
【0089】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明した。
【0090】
なお、第1〜第5の実施形態では、弾性部材24をゴム製の線状部材とした例を示したが、空気を取り囲むように設けられて空気層を形成でき、且つ上部建物の上下方向の移動に追随するものであればよく、例えば、シート状の部材としてもよい。
【0091】
また、第1〜第5の実施形態は、上部建物の下部の形状や上部建物を支持する基盤の形状に影響を受けることなく、さまざまな立地条件の建築物に広く適用することができる。例えば、図15、16の立面図に示す建築物92、94のように、免震構造72、74によって上部建物76、78が上下免震される構成にしてもよい。
【0092】
また、第1〜第5の実施形態では、空気層(空気室20、36、38)を、空気を取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成した例を示したが、図17の立面図に示す構成によって空気層(空気室208)を形成するようにしてもよい。
【0093】
図17の建築物200は、上部建物12、地盤14上に設けられた支持基盤としての鉄筋コンクリート造の基礎構造物202、及び基礎構造物202の底部204と上部建物12の下面12Bとの間に設けられた免震構造206によって構成されている。
【0094】
免震構造206は、空気層としての空気室208と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。図17のC−C断面図である図18に示すように、空気室208は、上部建物12の下面12Bの下方に4つ形成されており、基礎構造物202の底部204上に上部建物12を支持し、ダイアフラム型に近い形式の空気バネを構成している。4つの空気室208を合わせた受圧面積は、上部建物12の下面12Bの全面積に近い大きさであり、大きな面積となっている。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。なお、上部建物12の下面12Bの下方に形成する空気室208の数はいくつであってもよい。空気室208を4つ以上形成するのが望ましい。
【0095】
空気室208は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎構造物202の底部204の上面204Aとの間に配置され、基礎構造物202の壁部218によって空気室208の側面を取り囲むことにより形成されている。上部建物12の下面12Bには、下方に突出する鉄筋コンクリート造の壁構造体210が、平面視にて空気室208の外縁に沿って設けられており、図19の拡大図に示すように、壁構造体210の下端部と、壁部218の上端部との間に形成される隙間212が、ゴムシール214によって塞がれている。
【0096】
空気室208に面する上部建物12の下面12B、基礎構造物202の底部204の上面204A、基礎構造物202の壁部218の側面、壁構造体210の側面、及び壁構造体210の下面には、空気室208の気密性を確保するために、ゴムシート216が貼られている。なお、ゴムシート216に替えて、耐漏気性を有する他の材料を貼り付けたり塗布したりしてもよいし、基礎構造物202の底部204上に水を溜めて空気室208の気密性を確保するようにしてもよい。
【0097】
ゴムシール214は、アラミド繊維が混入されたゴムシートによって形成されており、図19に示すように、湾曲部が上方に凸となるように湾曲した状態で端部が基礎構造物202の壁部218、及び壁構造体210に固定されている。なお、ゴムシール214を、アラミド繊維によって表面が補強されたゴムシートとしてもよい。
【0098】
ゴムシール214は、鋼板220、222、及びボルト224によって、壁部218及び壁構造体210に固定されている。鋼板220は、この鋼板220に設けられたスタッド226を、壁部218及び壁構造体210に埋設することによって、壁部218及び壁構造体210に固定されている。そして、鋼板220と鋼板222とによってゴムシール214の端部を挟み込んだ状態で、ボルト224を押さえ付け金具228、鋼板222、ガスケット230、ゴムシール214、ガスケット232、鋼板220の順に貫通させ、鋼板220に設けられたスタッド234の内壁に形成された雌ネジに捩じ込んで締め付けることにより、ゴムシール214の端部を壁部218及び壁構造体210に固定している。なお、ガスケット230、232は、機密性を確保するために設けられている。
【0099】
図20(b)の拡大図に示すように、ゴムシール214は、基礎構造物202(壁部218)と上部建物12(壁構造体210)との上下方向の相対移動に対し変形してこの移動を許容すると共に、隙間212から空気Qが漏れるのを防ぐことができる。図20(a)の拡大図には、基礎構造物202(壁部218)に対して上部建物12(壁構造体210)が上下方向に移動する前の状態が示されている。
【0100】
また、図20(c)の拡大図に示すように、ゴムシール214は、基礎構造物202(壁部218)と上部建物12(壁構造体210)との横方向の相対移動に対し変形してこの移動を許容すると共に、隙間212から空気Qが漏れるのを防ぐことができる。すなわち、空気室208を、横方向に対して上部建物12を長周期化する水平免震層とすることができる。
【0101】
図17に示すように、空気室208には、上部建物12内の下部に設置されたエアーポンプ26から送られた空気Qが封入されている。エアーポンプ26は常時稼働しており、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室208内の圧力が所定の大きさになるように調整し、これによって空気室208に上部建物12が支持されるので、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0102】
空気室208の高さの設定は、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室208内の圧力を調整することにより行うことができる。また、上部建物12に発生する上下方向の振動は、減衰手段としてのオイルダンパー22によって低減することができる。
【0103】
また、4つの空気室208を合わせた受圧面積は、上部建物12の下面12Bの全面積に近い大きさであり、大きな面積となっているので、一般的な空気バネよりも空気室208の圧力を小さくすることができる。よって、空気室208から外部へ空気が漏れ難くでき、メンテナンスの手間も軽減することができる。また、タイヤの空気入れに用いる程度の簡易なコンプレッサー等をエアーポンプ26として用いることができる。
【0104】
ゴムシール214は、図21の拡大図に示すように、湾曲部が横方向へ凸となるように設けてもよいし、図19で示した湾曲部が上方に凸となるように設けたゴムシール214と、図21で示した湾曲部が横方向へ凸となるように設けたゴムシール214とを組み合わせて用いてもよい。このようにすれば、ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくしても上下及び左右の両方向に対して十分な変形量を確保することができる。ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくできれば、ゴムシール214への負担を低減することができる。
また、図19で示した湾曲部が上方に凸となるように設けたゴムシール214や、図21で示した湾曲部が横方向へ凸となるように設けたゴムシール214を複数並べて(繋げて)設けてもよい。これによっても、ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくできるので、ゴムシール214への負担を低減することができる。
【0105】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第5の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0106】
10、30、80、82、84、86、88、90、92、94 建築物
12、34、76、78 上部建物(構造物)
18、44、46、50、52、58、62、72、74 免震構造
20、36、38 空気室(空気層)
22 オイルダンパー(減衰手段)
24 弾性部材
60 たれ壁(壁部材)
Q 空気
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に発生する上下方向の振動を低減する免震構造及びこの免震構造を有する建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により建築物に発生する水平方向の振動を低減する技術として、建築物の免震層に積層ゴム支承等の免震装置を設置する水平免震構造が広く普及している。
これに対して、地震等により建築物に発生する上下方向の振動を低減する上下免震の有効な技術は、あまり普及していないものと思われる。その理由の1つとして、上下免震を実現する部材の設計が困難であることが挙げられる。
【0003】
例えば、線形の応力−歪特性を有する部材(以下、「上下免震部材」とする)を介して地盤上に構造物を支持させる場合、構造物の上下方向の周期を大きくして免震性を高めるために上下免震部材を柔らかくすると、上下免震部材は構造物の自重によって上下方向に大きく変形してしまう。また、過大な上下免震部材が設計上必要となる。
【0004】
この問題の解決策の1つとして、空気室内の圧力によって構造物を支持する空気バネを用いることが考えられる。空気バネは、空気の収縮により高い変形性能を発揮し、構造物の長周期化が期待できる。また、構造物の自重による変形は、空気室の圧力調整によってキャンセルすることができる。
【0005】
しかし、建築物のような重い構造物を支えるためには、空気室の圧力を大気圧の6〜7倍にしなければならない。空気室を高圧の状態で保持し続けることは難しく、空気室から高圧の空気が漏れてしまうことが懸念される。また、空気室を高圧にするために容量の大きなコンプレッサーが必要となる。
【0006】
特許文献1の空気圧浮上式免震装置では、図22に示すように基礎底盤300の上面に、建物と一体となる基礎上盤302が設置されている。そして、地震による揺れを感知するとバルブ304が開き、基礎底盤300と基礎上盤302との間へ空気タンク306から圧縮空気が注入される。これによって基礎上盤302と共に建物を浮上させ、基礎底盤300と基礎上盤302との間の摩擦をなくして地震による揺れを逃がす。
【0007】
しかし、特許文献1の空気圧浮上式免震装置は水平免震装置であるので、構造物に発生する上下方向の振動を低減する効果は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第3119675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は係る事実を考慮し、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、構造物を支持する空気層と、前記構造物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、を有する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、免震構造が空気層と減衰手段とを有している。空気層は構造物を支持し、減衰手段はこの構造物に発生する上下方向の振動を低減する。
【0012】
よって、空気層が構造物を支持するので、構造物の上下方向の長周期化を図ることができる。さらに、構造物に発生する上下方向の振動を減衰手段によって低減することができる。
また、構造物の下方に平面積の大きな空気層を形成することが可能となる(空気層の上面の平面積を、最大で構造物の1層分の全床面積にほぼ等しい大きさにすることが可能となる)。すなわち、空気層の受圧面積を大きくして、一般的な空気バネよりも空気層の圧力を小さくすることができる。
【0013】
これらにより、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記空気層は、前記構造物の下面と前記構造物の支持面との間に空気を取り囲むように設けられる弾性部材によって形成されている。
【0015】
請求項2に記載の発明では、構造物の下面と構造物の支持面との間に、弾性部材が設けられている。弾性部材は、空気を取り囲むように設けられて空気層を形成している。
【0016】
よって、空気層は構造物の重量を支え、弾性部材は構造物の荷重の一部を受けながらこの空気層の変形に追随して変形することができる。また、弾性部材の変形によってこの弾性部材の上下に配置された部材(例えば、構造物の下面、構造物の支持面等)に密着させることができる。これにより、接着剤等を使用せずに弾性部材をこの弾性部材の上下に配置された部材に圧着することができ、また、シール材等を使用せずに空気層からの空気の漏れを防ぐことができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記弾性部材は、線状部材である。
【0018】
請求項3に記載の発明では、弾性部材は線状部材であるので、この弾性部材の材軸方向に連続した壁面を形成することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記弾性部材は、中空の部材である。
【0020】
請求項4に記載の発明では、弾性部材は中空の部材であるので、弾性部材の軽量化を図ることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記弾性部材は、積層されている。
【0022】
請求項5に記載の発明では、弾性部材を積層することにより、さまざまな高さの空気層を形成することができる。
【0023】
また、例えば、円形横断面を有する弾性部材の場合、1つの弾性部材で高さの大きい空気層を形成しようとすると弾性部材の横断面の径が大きくなり、材料ボリュームも大きくなってしまう。これにより材料コストが掛かり、また、搬送や設置時等において弾性部材が取り扱い難くなる。これに対して、請求項5では、径の小さい円形横断面を有する弾性部材を積層すればよいので、トータルとしての材料ボリュームを小さくすることができ、また、弾性部材の取り扱いが容易になる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が前記弾性部材の側方に設けられている。
【0025】
請求項6に記載の発明では、弾性部材の側方に、弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が設けられている。
【0026】
よって、壁部材により弾性部材のはらみを防ぐことにより、免震構造の有する所定の免震性を維持することができる。
【0027】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物である。
【0028】
請求項7に記載の発明では、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造を有する建築物を構築することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は上記構成としたので、低い圧力の空気層によって構造物を上下方向に免震支持することが可能な免震構造、及びこの免震構造を有する建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性部材を示す説明図である。
【図3】図1のA−A矢視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る建築物の比較例を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る免震構造の作用を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図8】図7のB−B矢視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る免震構造の作用を示す説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図15】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図17】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図18】図17のC−C断面図である。
【図19】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す拡大図である。
【図20】本発明の実施形態に係る建築物の変形例の作用を示す説明図である。
【図21】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す拡大図である。
【図22】従来の空気圧浮上式免震装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面を参照しながら、本発明の免震構造及び建築物を説明する。なお、本実施形態では、鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用した例を示すが、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建築物に対して適用することができる。
【0032】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0033】
図1の立面図に示すように、建築物10は、構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物12と、地盤14上に設けられた支持基盤としての鉄筋コンクリート造の基礎16と、基礎16と上部建物12との間に設けられた免震構造18とによって構成されている。
【0034】
免震構造18は、空気層としての空気室20と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。空気室20は、基礎16上に形成されて上部建物12を支持している。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。
【0035】
空気室20は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎16の上面16Aとの間に配置され空気Qを取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成されている。弾性部材24は、ゴム製の線状部材であり、図2(a)の左の横断面図に示すように、弾性部材24の横断面形状は円形となっている。なお、線状部材とは、一定の横断面形状を有する細長い形状の部材を意味する。
【0036】
図1のA−A矢視図である図3(a)に示すように、弾性部材24は、平面視にて角部が丸みを帯びた略矩形の環状に配置されている。このように、空気室20の上面は、上部建物12の下面のほぼ全域によって形成されている。すなわち、空気層(空気室20)は、建築物10を構成する梁やスラブ等の水平部材と、弾性部材24とによって囲まれた空間である。なお、説明の都合上、図3(a)にはオイルダンパー22が省略されている。
【0037】
図1に示すように、空気室20には、上部建物12内の下部に設置されたエアーポンプ26から送られた空気Qが封入されている。エアーポンプ26は常時稼働しており、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室20内の圧力が所定の大きさになるように調整し、これによって空気室20に上部建物12が支持されている。
【0038】
このとき、弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態となっている。図2(a)の左の図は、弾性部材24が変形する前の状態を示した横断面図であり、図2(a)の右の図は、弾性部材24が上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態を示した横断面図である。
【0039】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0040】
第1の実施形態の免震構造18では、空気室20が上部建物12を支持するので、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0041】
例えば、図4に示すモデル図のように、線形の応力−歪特性を有する上下免震部材100を介して基礎16上に上部建物12を支持させることを考えた場合、上部建物12の質量をM、重力加速度をg、上下免震部材100の上下方向のばね定数をK、上部建物12の自重による上下免震部材100の変形をx0とすると、式(1)の関係が成り立つ。
【0042】
【数1】
【0043】
また、上部建物12の上下方向の振動の固有周期をT、円振動数をωとすると、式(2)の関係が成り立つので、式(2)に式(1)を代入することにより式(3)の関係を導きだすことができる。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
すなわち、上部建物12の上下方向の振動の固有周期Tによって、上下免震部材100の変形x0が決定される。例えば、固有周期Tが0.5秒の場合の変形x0は約6cmとなるので、長期歪が1/1000の上下免震部材100を用いる場合には、約60mの過大な上下免震部材100が設計上必要となる。
【0047】
これに対して免震構造18では、図5のモデル図に示すように、空気室20の上下方向の振動の固有周期をT、空気室20の体積をV0、ポリトロープ指数(動的の場合は1.4)をn、空気室20の受圧面積をS、空気室20の高さをH、上部建物12の自重によって空気室20に作用する等分布荷重をP0、大気圧をPaとすると、固有周期Tは、式(4)によって求めることができる。
【0048】
【数4】
【0049】
式(4)から、空気室20の高さHを3m程度とした場合に、固有周期2秒の免震効果を得られることがわかる。すなわち、空気層の高さHをそれほど大きくしなくても上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0050】
なお、免震効果を発揮させるための固有周期は1秒以上が望ましい。空気室20の変形が大きくなりすぎることが懸念される場合は、固有周期を5秒以下程度にするのが望ましい。
【0051】
また、上部建物12に発生する上下方向の振動は、減衰手段としてのオイルダンパー22によって低減することができる。
【0052】
また、上部建物12の下方に平面積の大きな空気室20を形成することが可能となる(図3(a)で示したように、空気室20の上面の平面積を、最大で上部建物12の1層分の全床面積にほぼ等しい大きさにすることが可能となる)。すなわち、空気室20の受圧面積を大きくして、一般的な空気バネよりも空気室20の圧力を小さくすることができる。
【0053】
例えば、上部建物12の重量を2500tonfとし、空気室20上面の大きさを12m×25mとした場合、空気室20の圧力は約0.08MPaとなる。この圧力の大きさは、タイヤや空気バネで一般的に扱われている空気圧に比べてかなり小さい。
【0054】
そして、これまでに説明した効果により、免震構造18は低い圧力の空気層(空気室20)によって構造物(上部建物12)を上下方向に免震支持することが可能となる。
このように、空気層を低い圧力にすることにより空気漏れを防ぐことができ、メンテナンスの手間も軽減することができる。また、タイヤの空気入れに用いる程度の簡易なコンプレッサー等をエアーポンプ26として用いることができる。
【0055】
また、空気室20は上部建物12の重量を支え、弾性部材24は上部建物12の荷重の一部を受けながらこの空気室20の変形に追随して変形することができる。また、図2(a)の右の図に示すように、弾性部材24の変形によってこの弾性部材24の上下に配置された部材に密着させることができる。図2(a)の右の図では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎16の上面16Aとが密着している。
【0056】
これにより、接着剤等を使用せずに弾性部材24をこの弾性部材24の上下に配置された部材に圧着することができ、また、シール材等を使用せずに空気室20からの空気Qの漏れを防ぐことができる。
【0057】
また、弾性部材24は線状部材であるので、この弾性部材24の材軸方向に連続した壁面を形成することができる。
【0058】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0059】
なお、第1の実施形態では、弾性部材24の横断面形状を円形とした例を示したが、他の形状であってもよい。例えば、図2(b)に示すように四角形としてもよいし、図2(c)に示すように円環状としてもよいし、図2(d)に示すように内部に減衰材28を充填してもよい。図2(b)〜(d)の左の図は、弾性部材24が変形する前の状態を示した横断面図であり、図2(b)〜(d)の右の図は、弾性部材24が上部建物12の荷重の一部を受けて変形した状態を示した横断面図である。
【0060】
図2(a)、(c)、(d)のように横断面の外形状が円形のものであれば、水平方向に転動することによる水平免震の効果が期待できる。また、図2(c)の場合、弾性部材24は中空の部材となるので、弾性部材24の軽量化を図ることができる。また、図2(d)の場合、上部建物12に発生する上下方向の振動を減衰する手段として弾性部材24を機能させることができる。この場合、免震構造18にオイルダンパー22を設けないで弾性部材24を減衰手段をとしてもよいし、弾性部材24を減衰手段としてオイルダンパー22と併用して用いてもよい。
【0061】
また、第1の実施形態では、上部建物12の荷重の一部により弾性部材24を変形させて、この弾性部材24の上下に配置された部材に密着させた例を示したが、弾性部材24とこの弾性部材24の上下に配置された部材とを接着剤を用いて接着してもよいし、弾性部材24とこの弾性部材24の上下に配置された部材との接合部にシール処理を施して空気室20からの空気Qの漏れを防ぐようにしてもよい。
【0062】
また、第1の実施形態では、1つの空気室20によって上部建物12を支持した例を示したが、図1のA−A矢視図の変形例である図3(b)、(c)に示すように、複数の空気室36、38によって上部建物12を支持するようにしてもよい。なお、説明の都合上、図3(b)、(c)にはオイルダンパー22が省略されている。
【0063】
また、第1の実施形態では、基礎16と上部建物12との間の基礎免震層に免震構造18を設けた例を示したが、図6の立面図に示すように、建築物30の中間免震層に免震構造18を設けてもよい。建築物30では、支持基盤としての鉄筋コンクリート造の下部建物32と、構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物34との間の中間免震層に免震構造18が設けられている。
【0064】
次に、本発明の第2の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0065】
図7の立面図に示すように、第2の実施形態の建築物80の基礎免震層には免震構造44が設けられている。免震構造44では、弾性部材24と鉄筋コンクリート造の安定部材40、42とが上下方向に交互に積層されている。安定部材40、42は、図7のB−B矢視図である図8に示すように、平面視にて弾性部材24の材軸に沿った板状の枠部材である。なお、説明の都合上、図8にはオイルダンパー22が省略されている。
【0066】
図9の拡大図に示すように、各弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図9では、最下段の弾性部材24と、基礎16の上面16A及び安定部材40の下面40Bとが密着し、中段の弾性部材24と、安定部材40の上面40A及び安定部材42の下面42Bとが密着し、最上段の弾性部材24と、安定部材42の上面42A及び上部建物12の下面12Bとが密着している。
【0067】
各弾性部材24と、基礎16の上面16A、上部建物12の下面12B、安定部材40、42の上面40A、42A、及び安定部材40、42の下面40B、42Bとの接触面の摩擦係数が大きくなるように、各弾性部材24の表面、基礎16の上面16A、上部建物12の下面12B、安定部材40、42の上面40A、42A、及び安定部材40、42の下面40B、42Bを形成するのが好ましい。
【0068】
よって、第2の実施形態の免震構造44では、弾性部材24を積層することにより、さまざまな高さの空気室20を形成することができる。すなわち、弾性部材24の標準化が可能となる。
【0069】
また、例えば、円形横断面を有する弾性部材24の場合、1つの弾性部材24で高さの大きい空気室20を形成しようとすると弾性部材24の横断面の径が大きくなり、材料ボリュームも大きくなってしまう。これにより材料コストが掛かり、また、搬送や設置時等において弾性部材24が取り扱い難くなる。これに対して、免震構造44では、径の小さい円形横断面を有する弾性部材24を積層すればよいので、トータルとしての材料ボリュームを小さくすることができ、また、弾性部材24の取り扱いが容易になる。
【0070】
また、図9に示すように、空気室20の圧力によって各弾性部材24に空気室20の外部に向かう水平力が作用した場合、中段の弾性部材24を先頭にして各弾性部材24は空気室20の外部にはらもうとするが、安定部材40、42と各弾性部材24との間に発生する摩擦抵抗によりこのはらみが低減される。
【0071】
次に、本発明の第3の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0072】
図10の立面図に示すように、第3の実施形態の建築物82の基礎免震層には、免震構造46が設けられている。免震構造46では、鉄筋コンクリート造の構造壁48の上に弾性部材24が設置され、その弾性部材24の上に上部建物12が載置されている。構造壁48は、基礎16上に設置され、空気Qを取り囲むように配置されている。
【0073】
弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図10では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と構造壁48の上面48Aとが密着している。
【0074】
よって、横断面形状の高さが小さい弾性部材24を用いた場合においても、高さの大きい空気室20を構築することができる。すなわち、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0075】
なお、高さの大きい空気室20を構築する他の構成としては、例えば、図11の建築物84の有する免震構造50に示すように、地盤14を掘削して地下空間Rを形成し、この地下空間Rを空気室20の一部にしてもよい。
【0076】
また、中間免震の場合には、図12の建築物86の有する免震構造52に示すように、下部建物32の上面32Aに下方に凹んだ凹部54を形成し、上部建物34の下面34Bに上方に凹んだ凹部56を形成して、空気室20の容積を大きくしてもよい。
【0077】
次に、本発明の第4の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第4の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0078】
図13の立面図に示すように、第4の実施形態の建築物88の基礎免震層には免震構造58が設けられている。免震構造58では、弾性部材24の側方に、この弾性部材24が空気室20の外部へはらむことを防ぐ壁部材としてのたれ壁60が設けられている。たれ壁60は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0079】
弾性部材24は、上部建物12の荷重の一部を受けることにより変形し、各弾性部材24の上下に配置された部材に密着している。図13では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎16の上面16Aとが密着している。
【0080】
よって、たれ壁60により弾性部材24のはらみを防ぐことによって、免震構造58の有する所定の免震性を維持することができる。
なお、弾性部材24のはらみの許容量によって、弾性部材24とたれ壁60とを離して配置してもよいし、弾性部材24とたれ壁60とを接触させて配置してもよい。
【0081】
以上、本発明の第4の実施形態について説明した。
【0082】
なお、第4の実施形態では、壁部材をたれ壁60とした例を示したが、弾性部材24が空気室20の外部へはらむことを防ぐものであればよい。例えば、壁部材を、柵状の部材や網状の部材にしてもよい。また、たれ壁60を、上部建物12の支持が可能な強度を有する構造体にして、空気Qが空気室20に完全に封入する前の状態において上部建物12を仮支持できるようにすれば、フェールセーフ機構として壁部材を機能させることができる。また、エアーポンプ26による空気室20への送気をスムーズに行うことができる。
【0083】
次に、本発明の第5の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第5の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0084】
図14の立面図に示すように、第5の実施形態の建築物90の基礎免震層には免震構造62が設けられている。免震構造62は、基礎16上に設置された積層ゴム64によって支持された鉄筋コンクリート造の基礎構造体66と、上部建物12との間に設けられている。
【0085】
免震構造62は、空気層としての空気室20と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。空気室20は、基礎構造体66上に形成されて上部建物12を支持している。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。
【0086】
空気室20は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎構造体66の上面66Aとの間に配置され空気Qを取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成されている。図14では、弾性部材24と上部建物12の下面12B、及び弾性部材24と基礎構造体66の上面66Aとが密着している。
【0087】
基礎構造体66の周縁部にはこの周縁部に沿って鉄筋コンクリート造のガイド壁68が形成されている。上部建物12は上下方向には自由に移動できるが、上部建物12の横方向の移動はガイド壁68によって拘束されている。
【0088】
よって、地盤14に発生する横方向の振動は積層ゴム64によって水平免震され、地盤14に発生する上下方向の振動は免震構造62によって上下免震される。すなわち、免震構造62と積層ゴム64とによって、三次元免震構造70を構成することができる。
【0089】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明した。
【0090】
なお、第1〜第5の実施形態では、弾性部材24をゴム製の線状部材とした例を示したが、空気を取り囲むように設けられて空気層を形成でき、且つ上部建物の上下方向の移動に追随するものであればよく、例えば、シート状の部材としてもよい。
【0091】
また、第1〜第5の実施形態は、上部建物の下部の形状や上部建物を支持する基盤の形状に影響を受けることなく、さまざまな立地条件の建築物に広く適用することができる。例えば、図15、16の立面図に示す建築物92、94のように、免震構造72、74によって上部建物76、78が上下免震される構成にしてもよい。
【0092】
また、第1〜第5の実施形態では、空気層(空気室20、36、38)を、空気を取り囲むように設けられる弾性部材24によって形成した例を示したが、図17の立面図に示す構成によって空気層(空気室208)を形成するようにしてもよい。
【0093】
図17の建築物200は、上部建物12、地盤14上に設けられた支持基盤としての鉄筋コンクリート造の基礎構造物202、及び基礎構造物202の底部204と上部建物12の下面12Bとの間に設けられた免震構造206によって構成されている。
【0094】
免震構造206は、空気層としての空気室208と、減衰手段としてのオイルダンパー22とを有している。図17のC−C断面図である図18に示すように、空気室208は、上部建物12の下面12Bの下方に4つ形成されており、基礎構造物202の底部204上に上部建物12を支持し、ダイアフラム型に近い形式の空気バネを構成している。4つの空気室208を合わせた受圧面積は、上部建物12の下面12Bの全面積に近い大きさであり、大きな面積となっている。オイルダンパー22は、上部建物12に発生する上下方向の振動を低減する。なお、上部建物12の下面12Bの下方に形成する空気室208の数はいくつであってもよい。空気室208を4つ以上形成するのが望ましい。
【0095】
空気室208は、上部建物12の下面12Bと、上部建物12の支持面となる基礎構造物202の底部204の上面204Aとの間に配置され、基礎構造物202の壁部218によって空気室208の側面を取り囲むことにより形成されている。上部建物12の下面12Bには、下方に突出する鉄筋コンクリート造の壁構造体210が、平面視にて空気室208の外縁に沿って設けられており、図19の拡大図に示すように、壁構造体210の下端部と、壁部218の上端部との間に形成される隙間212が、ゴムシール214によって塞がれている。
【0096】
空気室208に面する上部建物12の下面12B、基礎構造物202の底部204の上面204A、基礎構造物202の壁部218の側面、壁構造体210の側面、及び壁構造体210の下面には、空気室208の気密性を確保するために、ゴムシート216が貼られている。なお、ゴムシート216に替えて、耐漏気性を有する他の材料を貼り付けたり塗布したりしてもよいし、基礎構造物202の底部204上に水を溜めて空気室208の気密性を確保するようにしてもよい。
【0097】
ゴムシール214は、アラミド繊維が混入されたゴムシートによって形成されており、図19に示すように、湾曲部が上方に凸となるように湾曲した状態で端部が基礎構造物202の壁部218、及び壁構造体210に固定されている。なお、ゴムシール214を、アラミド繊維によって表面が補強されたゴムシートとしてもよい。
【0098】
ゴムシール214は、鋼板220、222、及びボルト224によって、壁部218及び壁構造体210に固定されている。鋼板220は、この鋼板220に設けられたスタッド226を、壁部218及び壁構造体210に埋設することによって、壁部218及び壁構造体210に固定されている。そして、鋼板220と鋼板222とによってゴムシール214の端部を挟み込んだ状態で、ボルト224を押さえ付け金具228、鋼板222、ガスケット230、ゴムシール214、ガスケット232、鋼板220の順に貫通させ、鋼板220に設けられたスタッド234の内壁に形成された雌ネジに捩じ込んで締め付けることにより、ゴムシール214の端部を壁部218及び壁構造体210に固定している。なお、ガスケット230、232は、機密性を確保するために設けられている。
【0099】
図20(b)の拡大図に示すように、ゴムシール214は、基礎構造物202(壁部218)と上部建物12(壁構造体210)との上下方向の相対移動に対し変形してこの移動を許容すると共に、隙間212から空気Qが漏れるのを防ぐことができる。図20(a)の拡大図には、基礎構造物202(壁部218)に対して上部建物12(壁構造体210)が上下方向に移動する前の状態が示されている。
【0100】
また、図20(c)の拡大図に示すように、ゴムシール214は、基礎構造物202(壁部218)と上部建物12(壁構造体210)との横方向の相対移動に対し変形してこの移動を許容すると共に、隙間212から空気Qが漏れるのを防ぐことができる。すなわち、空気室208を、横方向に対して上部建物12を長周期化する水平免震層とすることができる。
【0101】
図17に示すように、空気室208には、上部建物12内の下部に設置されたエアーポンプ26から送られた空気Qが封入されている。エアーポンプ26は常時稼働しており、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室208内の圧力が所定の大きさになるように調整し、これによって空気室208に上部建物12が支持されるので、上部建物12の上下方向の長周期化を図ることができる。
【0102】
空気室208の高さの設定は、エアーポンプ26からの送気量をコントロールして空気室208内の圧力を調整することにより行うことができる。また、上部建物12に発生する上下方向の振動は、減衰手段としてのオイルダンパー22によって低減することができる。
【0103】
また、4つの空気室208を合わせた受圧面積は、上部建物12の下面12Bの全面積に近い大きさであり、大きな面積となっているので、一般的な空気バネよりも空気室208の圧力を小さくすることができる。よって、空気室208から外部へ空気が漏れ難くでき、メンテナンスの手間も軽減することができる。また、タイヤの空気入れに用いる程度の簡易なコンプレッサー等をエアーポンプ26として用いることができる。
【0104】
ゴムシール214は、図21の拡大図に示すように、湾曲部が横方向へ凸となるように設けてもよいし、図19で示した湾曲部が上方に凸となるように設けたゴムシール214と、図21で示した湾曲部が横方向へ凸となるように設けたゴムシール214とを組み合わせて用いてもよい。このようにすれば、ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくしても上下及び左右の両方向に対して十分な変形量を確保することができる。ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくできれば、ゴムシール214への負担を低減することができる。
また、図19で示した湾曲部が上方に凸となるように設けたゴムシール214や、図21で示した湾曲部が横方向へ凸となるように設けたゴムシール214を複数並べて(繋げて)設けてもよい。これによっても、ゴムシール214の湾曲部の半径を小さくできるので、ゴムシール214への負担を低減することができる。
【0105】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第5の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0106】
10、30、80、82、84、86、88、90、92、94 建築物
12、34、76、78 上部建物(構造物)
18、44、46、50、52、58、62、72、74 免震構造
20、36、38 空気室(空気層)
22 オイルダンパー(減衰手段)
24 弾性部材
60 たれ壁(壁部材)
Q 空気
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する空気層と、
前記構造物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、
を有する免震構造。
【請求項2】
前記空気層は、前記構造物の下面と前記構造物の支持面との間に空気を取り囲むように設けられる弾性部材によって形成されている請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、線状部材である請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記弾性部材は、中空の部材である請求項2又は3に記載の免震構造。
【請求項5】
前記弾性部材は、積層されている請求項2〜4の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項6】
前記弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が前記弾性部材の側方に設けられている請求項2〜5の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物。
【請求項1】
構造物を支持する空気層と、
前記構造物に発生する上下方向の振動を低減する減衰手段と、
を有する免震構造。
【請求項2】
前記空気層は、前記構造物の下面と前記構造物の支持面との間に空気を取り囲むように設けられる弾性部材によって形成されている請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、線状部材である請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記弾性部材は、中空の部材である請求項2又は3に記載の免震構造。
【請求項5】
前記弾性部材は、積層されている請求項2〜4の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項6】
前記弾性部材が外側へはらむことを防ぐ壁部材が前記弾性部材の側方に設けられている請求項2〜5の何れか1項に記載の免震構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造を有する建築物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−58624(P2011−58624A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160922(P2010−160922)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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