説明

免震機構併用による制震システム

【課題】建築計画的な自由度を確保したまま、免震構造、制震構造のそれぞれの長所をバランス良く発揮すること可能となり、耐震耐風性能を向上させるようにした。
【解決手段】建物1の柱2(上部柱、下部柱)に組み込まれた免震装置10と、それら上部柱、下部柱と梁3(上部梁、下部梁)とによって囲まれる架構内に設けられた制震装置20とを備えている。免震装置10は、上層階の上部柱の下端から下層階へ突出して延びて下層階の下部柱の上端に軸力を支持させる免震支持柱11と、この免震支持柱11の下端に下部柱に対して水平方向に変位可能な転がり支承12とを備え、制震機構は、一端が下部柱の柱頭部2bに連結するとともに、他端が下部柱に隣り合う別の下部柱に支持される免震支持柱11に連結してなるブレース21と、このブレース21に介装された制震ダンパー22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震機構と制震機構とを併せ持つ免震機構併用による制震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の免震機構と制震機構とを併せ持つ制震システムを備えた建物として、例えば特許文献1に示されるものが知られている。
特許文献1には、最上階および中間階に連層耐震壁の変形を制御する大梁が連層耐震壁と剛接合して外周部位に及ぶ長さに設けられ、コア部分とその外周の居室部分との間に位置する廊下部分における連層耐震壁とこれに隣接する柱との間の短スパン境界梁が制震梁として設置された建物について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−45933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の免震機構と制震機構とを併せ持つ制震システムにあっては、以下のような問題があった。
すなわち、制震システムを構成する制震機構としては、例えばブレース型ダンパーや間柱型ダンパー等の制震装置がフレームと並列に配置される構造が多くなっている。この場合、制震効果を発揮させるためにフレームを変形させる必要があるが、場合によってはそれに起因してフレームが損傷するといった問題があった。
また、制震システムの固有周期などの動特性に建物本体の架構の特性が大きく関与し、性能設計の自由度が制限されるうえ、建物全体の曲げ変形が卓越してしまい、下層部にしかダンパー効果が得られないといった不具合もあった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、建築計画的な自由度を確保したまま、免震構造、制震構造のそれぞれの長所をバランス良く発揮すること可能となり、耐震耐風性能を向上させることができる免震機構併用による制震システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る免震機構併用による制震システムでは、建物の同一層に免震機構と制震機構を併せもつ免震機構併用による制震システムであって、免震機構は、上層の上部柱の下端から下層へ突出して延びて下層の下部柱の上端に軸力を支持させる免震支持柱と、免震支持柱の下端に下部柱に対して水平方向に変位可能な免震部とを備え、制震機構は、一端が下部柱の柱頭部に連結するとともに、他端が下部柱に隣り合う別の下部柱に支持される免震支持柱に連結してなるブレースと、ブレースに介装された制震ダンパーとを備えていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、制震機構のブレースの一端が当該層の柱頭部に連結され、他端が隣り合う別の下部柱に支持される上層の免震支持柱に連結されているので、地震時に建物に水平方向の振動が与えられると、当該層とその上層との水平方向および上下方向の相対変位に対して各層に設けられる制震ダンパーによって減衰力が作用することとなる。そのため、双方の層間に生じる相対変位が小さくなり、各層に生じる水平振動を制震ダンパーで吸収することができる。
さらに、免震機構の上層の免震支持柱に設けられる免震部が下層の柱頭部に対して水平方向に変位し、下層の振動を吸収することで上層の振動を抑制する機能を発揮するので、建物全体に伝わる地震力を小さくすることができる。しかも各層に免震機構が設けられ、水平方向の変位を複数の層に分散させることが可能となるので、変位に対応して建物に設けられる水平方向のクリアランスを小さくすることができる。
そして、本制震システムでは、制震ダンパーがブレースを介して上層と下層とに対して直列に配置され、層間変位をブレースを通じて制震ダンパーに直接伝達させることができるので、建物の柱梁により形成される架構を変形させることなく制震効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の免震機構併用による制震システムによれば、制震機構の制震ダンパーがブレースを介して上層と下層とに対して直列に配置され、層間変位をフレームの変形により処理するのではなく、ブレースを介して制震ダンパーに直接伝達させて変形を処理することが可能となるので、架構を変形させることなく制震効果を発揮させることができ、しかも各層に設けられる免震機構により水平方向の変位を分散させて小さくすることで、免震構造、制震構造のそれぞれの長所をバランス良く発揮すること可能となり、耐震耐風性能を向上させることができる。
しかも、架構のフレームの変形を抑えつつ制震効果の発揮が可能であることから、建築計画的な自由度を確保できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態による制震システムの概要を示す立面図である。
【図2】免震装置の構成を示す側面図である。
【図3】図1に示すA−A線矢視図である。
【図4】地震時の建物の変形状態を示す図である。
【図5】地震時に架構に作用する応力分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態による免震機構併用による制震システムについて、図面に基づいて説明する。
【0011】
図1および図2に示すように、本実施の形態による制震システムは、建物1の柱2(図2に示す上部柱2A、下部柱2B)に組み込まれた免震装置10(免震機構)と、それら上部柱2A、下部柱2Bと梁3(図1に示す上部梁3A、下部梁3B)とによって囲まれる架構内に設けられた制震装置20(制震機構)とを備え、建物1に作用する地震や風などの振動エネルギーを減少または減衰させる構成としたものである。すなわち、本実施の形態による制震システムは、下層階の振動を吸収することで上層階の振動を抑制する機能を発揮する免震要素と、各層に生じる水平振動を制震ダンパー22(後述)で吸収してエネルギー吸収機能を発揮する制震要素とを併せ持つ構造となっている。
【0012】
ここで、本実施の形態による建物1の構造は、鉄筋コンクリート造又は図1、図2などに示すようなCFT(Concrete Filled Steel Tube)造の柱2と梁3から形成され、柱2が階層毎に独立している。つまり、鉛直方向に同軸線上に配置される柱2、2どうしが上下の階層で接合されず、すなわち階層毎に設けられる柱2は下端2aが梁3に一体的に接合され、柱頭部2bが自由端となっている。なお、梁3上には、スラブ4が設けられている。
【0013】
先ず、各階層の柱2に設けられる免震装置10について図面に基づいて説明する。
図2に示すように、免震装置10は、各階層の柱2の下端2aから下層階の空間へ突出して延びる免震支持柱11が設けられ、この免震支持柱11の下端11aに下層階の柱2の上端に載置された状態で支持される転がり支承12(免震部)を備えて概略構成されている。
【0014】
ここで、RC造の柱2の柱頭部2bには、その上面に転がり支承12の摺動面を構成する摺動板2cが設けられるとともに、この摺動板2cの外周縁から適宜な高さをもって上方に突出する外周壁2dが設けられている。外周壁2dは、後述する上層側の柱2(図2で上部柱2A)の免震支持柱11(転がり支承12)の水平方向への摺動を規制して制止させる機能を有し、その免震支持柱11の摺動範囲を形成している。
【0015】
図2に示すように、免震支持柱11は、当該階層の柱2の軸力を支持するものであり、その部材として高強度鉄骨のH型鋼材等が用いられ、材軸方向が柱2の軸方向(鉛直方向)に平行にして配置され、且つ上部11bが所定の長さをもって柱2の下端2aに埋設されている。そして、免震支持柱11は、その下端11aが梁3よりも下方に突出しており、その下端11aには前記転がり支承12が設けられている。なお、免震支持柱11と梁3とは、溶接などの固定手段により接合されている。
【0016】
転がり支承12は、免震支持柱11の下端11aに前記摺動板2c上を転動する転がり材13を収容させたものである。これにより、免震支持柱11は、当該階層の柱2、梁3、スラブ4からなる1階層分の構造体とともに柱2の摺動板2c上を摺動する。
具体的に転がり支承12は、球体をなす複数の転がり材13を下面側を露出させた状態で回転可能に支持するボールベアリングを構成し、摺動板2c上(柱2の上面)で外周壁2dに囲まれた摺動範囲内で、水平方向に移動自在となっている。なお、転がり支承12には、内部に収容する転がり材13の周囲を密閉するとともに、摺動板2cとの間を塞ぐカバー(図示省略)を設けるようにしてもよい。
【0017】
また、柱2毎に対応して設けられる免震支持柱11のうち一部の免震支持柱11には、後述するブレース21の一端(上層側端部21b)がヒンジにより支持されている。このヒンジが設けられる支持部の位置は、免震支持柱11における梁下に露出した側面の所定位置となる。
【0018】
次に、架構に設けられる制震装置20について図面に基づいて説明する。
図1乃至図3に示すように、制震装置20は、一端(下層側支持部21a)が下部柱2B(図2)の柱頭部2bに固定されるとともに、他端(上層側支持部21b)が上層階の免震支持柱11に固定されるブレース21と、このブレース21に介装される制震ダンパー22とを備え、各階層の天井裏に配置されている。ここで、図1の符号Lは、天井面の位置を示している。
【0019】
制震装置20は、図3に示す平面視で柱2と梁3によって四方が囲われる区画内に配置されている。ブレース21は、長尺のH型鋼材等からなる4本の第1〜第4ブレース材21A、21B、21C、21Dにより平面視で菱形状に配置され、一方の対角線方向の頂点のうち下層側支持部21aが柱2に支持され、上層側支持部21bが免震支持柱11に支持されている。下層側支持部21aは、図2に示すように、柱2の外周壁2dの外面に溶接などにより固定されたブラケット5Aに、図示しないピン等で水平方向を回転軸O1として回転可能に支持されている。上層側支持部21bは、免震支持柱11の外面に固定されたブラケット5Bに、図示しないピン等で水平方向を回転軸O1として回転可能に支持されている。
【0020】
一方、図3に示すように、他方の対角線方向の頂点(第1交点21c、第2交点21d)どうしが制震ダンパー22を備えた第5ブレース材21Eによってボルト、或いはピン等の接続手段を用いて連結されている。
【0021】
制震ダンパー22は、例えばオイルダンパーや粘弾性ダンパーを用いることができ、第5ブレース材21Eの材軸方向(図3で矢印E方向)で略中央部に設けられており、第5ブレース材21Eをその材軸方向Eに減衰させる機能を有している。なお、耐震ダンパー22は、天井面L(図1)よりも上の位置、すなわち柱頭レベルの高さに位置することが好ましい。
【0022】
そして、図1に示すように、制震装置20は、側面視で若干傾斜をもった状態、すなわち下層階の柱2側(下層側支持部21a)から上層階の免震支持柱11側(上層側支持部21b)へ向かうにしたがって漸次上向きとなる傾斜を有している。そのため、制震ダンパー22は、鉛直方向と水平方向の両方向に減衰作用が効く構造となっている。
【0023】
次に、免震装置10と制震装置20を備えた制震システムの作用について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、制震装置20のブレース21の下層側支持部21aが当該階層の柱頭部2bに連結され、上層側支持部21bが隣り合う別の下部柱2Bに支持される上層階の免震支持柱11に連結されているので、地震時に建物1に水平方向の振動が与えられると、当該階層とその上層階との水平方向および上下方向の相対変位に対して各層に設けられる制震ダンパー22によって減衰力が作用することとなる。そのため、双方の階層間に生じる相対変位が小さくなり、各階層に生じる水平振動を制震ダンパー22で吸収することができる。
【0024】
さらに、免震装置10の上層階の免震支持柱11に設けられる転がり支承12が下層階の柱頭部2bに対して水平方向に変位し、下層階の振動を吸収することで上層階の振動を抑制する機能を発揮するので、建物全体に伝わる地震力を小さくすることができる。
しかも、各階層に免震装置10が設けられ、水平方向の変位を複数の階層に分散させることが可能となるので、変位に対応して建物1に設けられる水平方向のクリアランスを各階層ごとに分散させて各々を小さくすることができる。
【0025】
そして、本制震システムでは、制震ダンパー22がブレース21を介して上層階と下層階とに対して直列に配置され、層間変位をブレース21を通じて制震ダンパー22に直接伝達させることができるので、建物1の柱梁により形成される架構を変形させることなく制震効果を発揮させることができる(図4参照)。なお、図4は、地震時における建物1の変形状態を示しているが、階層毎に免震装置10が設けられているので、各階層(図4で符号R1、R2、R3)がそれぞれ一体構造となって、上下の階層に対して水平方向に相対変位するので、架構、すなわち柱2や梁3に生じる変形が抑制されることになる。
【0026】
ここで、図5は、建物1に形成される所定の架構に作用する応力分布を側面から見た図である。具体的には、図5に示すように、建物1に水平方向の地震力Pが作用したとき、柱2に生じる第1応力M1は、柱2の反曲点が柱頭部2b近傍となるため、柱脚(符号2a)に生じる曲げ応力を例えばCFT柱等を用いて処理することができる。他方、柱頭部2bに生じる曲げ応力が微小となるため、梁3に生じる第2応力M2は、一般的な梁と同程度となる。
【0027】
また、制震装置20の全てが天井裏に配置されるため、建築計画上の自由度も損なわれることがなく、不整形架構や軸力の偏在などに起因する偏心の解消にも効果的である。
【0028】
上述のように本実施の形態による免震機構併用による制震システムでは、制震装置20の制震ダンパー22がブレース21を介して上層階と下層階とに対して直列に配置され、層間変位をフレームの変形により処理するのではなく、ブレース21を介して制震ダンパー22に直接伝達させて変形を処理することが可能となるので、架構を変形させることなく制震効果を発揮させることができ、しかも各階層に設けられる免震装置10により水平方向の変位を分散させて小さくすることで、免震構造、制震構造のそれぞれの長所をバランス良く発揮すること可能となり、耐震耐風性能を向上させることができる。
しかも、架構のフレームの変形を抑えつつ制震効果の発揮が可能であることから、建築計画的な自由度を確保できるといった効果を奏する。
【0029】
以上、本発明による免震機構併用による制震システムの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では制震装置20を各階層の天井裏の空間に配置させる構成としているが、このような配置に制限されることはない。要は、制震ダンパー22が隣接する柱間に配置されていれば良いのであって、その位置に制限を受けることはない。
【0030】
また、本実施の形態では建物において1フロアーからなる階層毎に免震装置10と制震装置20とを設けた構造としているが、これに限定されることはなく、例えば1フロアーおき、すなわち2フロアーを1層として制震システム1を設ける等、何階層かおきに配置する構成であってもかまわない。この場合、制震システムが設けられない階層においては、層間に設けられる免震支持柱が不要となり、当該制震システムが設けられない階層の柱と上層階の柱とを一体的に構築した構造とすることができる。
【0031】
また、本実施の形態では免震装置10として転がり材13を用いた転がり支承12を対象としているが、このような支承に限らず、ステンレス、ポリ4フッ化エチレン等を用いたすべり支承、或いは積層ゴムによるものであっても良い。
そして、要求性能に応じて、転がり支承12の摩擦係数(積層ゴムの場合にはその硬さ)、および制震ダンパー22の配置、種類、容量は自由に設定することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 建物
2 柱
2A 上部柱
2B 下部柱
2b 柱頭部
3 梁
4 スラブ
10 免震装置(免震機構)
11 免震支持柱
12 転がり支承(免震部)
20 制震装置(制震機構)
21 ブレース
22 制震ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の同一層に免震機構と制震機構を併せもつ免震機構併用による制震システムであって、
前記免震機構は、上層の上部柱の下端から下層へ突出して延びて下層の下部柱の上端に軸力を支持させる免震支持柱と、該免震支持柱の下端に前記下部柱に対して水平方向に変位可能な免震部とを備え、
前記制震機構は、一端が前記下部柱の柱頭部に連結するとともに、他端が該下部柱に隣り合う別の下部柱に支持される前記免震支持柱に連結してなるブレースと、該ブレースに介装された制震ダンパーとを備えていることを特徴とする免震機構併用による制震システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−241647(P2011−241647A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116491(P2010−116491)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】