説明

入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法および装置

【課題】誘導加熱装置の入側の鋼板温度を適切に推定するための入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】入側板温度推定モデルで推定された入側の鋼板温度と誘導加熱装置の出側の鋼板実績温度から算出した推定実績熱量と、前記誘導加熱装置への実績投入電力との比を算出し、該比の鋼板間におけるばらつきが、所定範囲になるように入側板温度推定モデルのパラメータを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛鍍金製造ラインにおける誘導加熱装置の入側の鋼板温度を推定する入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛鍍金製造ラインでは、合金化温度すなわち合金化炉(誘導加熱装置)の出側の鋼鈑温度を所定の温度に保つことが、鋼鈑の品質(合金化度)の面から極めて重要である。
【0003】
これまでの合金化炉の制御方法には、例えば特許文献1に開示された技術がある。この技術は、伝熱計算により、合金化炉の入側板温を推定し、推定した合金化炉の入側板温と合金化炉の出側目標板温に基づいて合金化炉への投入熱量を制御する合金化炉の制御方法である。
【特許文献1】特開平5−93251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、合金化炉(誘導加熱装置)の入側板温の推定温度が正しいとして制御するため、入側板温の推定が適切でない場合、加熱装置での加熱量が過大もしくは過小になる恐れがあった。 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、誘導加熱装置の入側の鋼板温度を適切に推定するための入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る発明は、溶融亜鉛鍍金製造ラインにおける誘導加熱装置の入側の鋼板温度を推定する入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法であって、前記入側板温度推定モデルで推定された入側の鋼板温度と前記誘導加熱装置の出側の鋼板実績温度から算出した推定実績熱量と、前記誘導加熱装置への実績投入電力との比を算出し、この算出した比の鋼板間におけるばらつきが、所定範囲になるように前記入側板温度推定モデルのパラメータを決定することを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法である。
【0006】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法において、前記比を、鋼種区分、鋼板サイズ区分ごとに算出することを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法である。
【0007】
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のパラメータ決定方法で設定されたパラメータを用いた入側板温度推定モデルによって推定される入側の鋼板温度にもとづいて、前記誘導加熱装置を制御することを特徴とする誘導加熱装置の制御方法である。
【0008】
また本発明の請求項4に係る発明は、請求項3記載の誘導加熱装置の制御方法を用いて溶融亜鉛鍍金鋼板を製造することを特徴とする溶融亜鉛鍍金鋼板の製造方法である。
【0009】
さらに本発明の請求項5に係る発明は、溶融亜鉛鍍金製造ラインにおける誘導加熱装置の入側の鋼板温度を推定する入側板温度推定モデルのパラメータ決定装置であって、前記誘導加熱装置における出側の鋼板温度の測定値および実績投入電力値が、操業実績データとともに記憶されている操業実績データベースと、前記操業実績データにおける熱量と投入電力との比をもとめて、そのバラツキを算出し、バラツキのもっとも少ないパラメータを決定するパラメータ変更部と、前記操業実績データから、前記誘導加熱装置における入側の鋼板温度を推定し、それに基づき、必要熱量を算出する入側板温モデル計算部とを備えることを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、合金化炉(誘導加熱装置)の入側板温を推定する際のモデル式のパラメータを効果的に推定するようにしたので、合金化炉(誘導加熱装置)での過大もしくは過小な加熱を防止することができるようになり、この結果、目標とする合金化度が達成され溶融亜鉛めっき鋼板の品質向上が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、誘導加熱装置の出側測定板温と入側推定板温の差から求まる鋼板への推定投入熱量と、誘導加熱装置への投入電力の比について、ある鋼種区分、鋼板サイズ区分ごとにばらつきができるだけ小さくなるように入側板温モデルのパラメータを推定する。鋼種、鋼板サイズが同じであれば、この比は等しいはずであるから、できるだけそれぞれの鋼種区分、サイズ区分で近い値をとるように入側板温モデルのパラメータを推定することで、板温推定誤差が小さくなり、適切な加熱量を鋼板に与えることでき、適切な合金化度を達成する溶融亜鉛めっきが可能となる。
【0012】
この比は、鋼種およびサイズが大きく異なれば、大きく変わりうるので、できるだけ区分を細かくすることが望ましい。また、入側板温推定誤差を小さくするためには、誤差の大きい操業条件での比と誤差の小さい操業条件との比をできるだけ一致するようにしなければならない。誤差が大きい操業条件と誤差が小さい操業条件とを、できる限り比較することが望ましい。
【実施例】
【0013】
図2は、合金化処理制御を行なうための装置構成例を示す図である。鋼板1が亜鉛ポット2に侵入し、引き上げられることで亜鉛が鋼板1に付着する。亜鉛が付着した鋼板1はワイピングノズル5によって、亜鉛の付着量を調整され誘導加熱装置3に至る。誘導加熱装置に至った鋼板1は合金化制御装置6によって計算された投入電力を、誘導加熱装置3で与えられ合金化される。
【0014】
合金化制御装置6による投入電力の計算は、ライン情報、コイル情報、および誘導加熱装置入側推定板温に基いて行われる。誘導加熱装置入側推定板温は、入側板温モデル計算機7によって計算される。入側板温モデル計算機7は、コイル情報、ライン情報に基いて入側板温を推定するが、この際に入側板温モデルのモデルパラメータが必要になる。モデルパラメータの初期値は、適当と思われる値があらかじめ計算機7にセットされている。
【0015】
本発明は、モデルパラメータを、以下に示すように初期値から最適な値に修正する方法を与えるものである。また、モデルパラメータとは、例えば、前述の特許文献1に示される式(2)のα、すなわち熱伝達率のように、鋼板固有の値で実測ができないものである。この実施例での装置レイアウトにおいては、誘導加熱装置の入側に温度計の設置スペースがないために、入側の鋼板温度をモデル式から推定する手順をとる。
【0016】
推定された入側の鋼板温度と、出側の目標温度の差に基づき、加熱するための必要熱量が算出されて、誘導加熱装置に投入する電力を求める。誘導加熱装置への投入電力計算は、加熱装置の加熱効率(加熱ロス等)を推定して、熱量に何倍か(加熱効率が0.8であれば、0.8の逆数である1.25倍)を設定する。
【0017】
なお、誘導加熱装置の出側においては温度計の設置スペースがあるので、実績の出側鋼板温度を測定することが可能である。本発明では、出側の実績鋼板温度と実績投入電力量を、操業ごとに記憶して、その過去の操業実績に基づいて、入側板温モデルのパラメータの値を決定するものである。
【0018】
板温計4で測定される誘導加熱装置出側板温と入側推定板温からまず、鋼板1に投入されたと推定される熱量を算出する。この投入熱量と、その際の投入電力との比を鋼種区分、鋼板サイズ区分ごとに算出する。次にこの比を鋼種区分、鋼板サイズ区分ごとにできるだけばらつきがなくなるように入側板温モデル計算機7のモデルパラメータを調整する。本実施例では、合金化制御装置6と入側モデル計算機7を分けたが、もちろん同じ計算機を用いて実現しても良い。
【0019】
以下、図1および図3に基づいて、装置および処理フローの面から本発明を詳細に説明する。先ず、図1は、パラメータを決定するための装置構成の一例を示す図である。パラメータ決定装置10は、入側板温モデル計算部11、パラメータ変更部12、結果表示部13、および操業実績データベース14から構成される。入側板温モデル計算部11は、図2の入側板温計算機7が演算する計算処理と同じ処理ができる機能を有しており、操業実績(操業条件(通板速度、目標合金化度等)、鋼板の諸元(鋼種、板幅や板厚などのサイズ、等))から、入側の鋼板温度を推定し、それに基づき、必要熱量を算出する機能を有している。
【0020】
パラメータ変更部12は、最適なパラメータを導出するための演算の制御処理機能を有しており、各操業実績データにおける熱量と投入電力との比をもとめて、そのバラツキを算出し、バラツキのもっとも少ないパラメータを求め、入側板温推定モデルのパラメータを順次変更するものである。なお、その結果は、結果表示部13に出力されて、たとえば、図1に示すように横軸にパラメータの値、縦軸に各データの比の値、あるいはばらつきの値をグラフ表示するようになっている。
【0021】
操業実績データベース14は、パラメータ決定装置10で必要な過去の実績データを記憶するためのものであり、出側の温度計の測定値、実績投入電力値が、操業条件や鋼板諸元とともに記憶されている。パラメータの最適値を算出する際には、このデータベースから演算に必要なデータ、たとえば、対象となる鋼種区分やサイズ区分に該当するデータを読み出す処理が行なわれる。
【0022】
次に本発明における演算処理フロー例を、図3に基づいて説明する。図中、中央の破線の左側は図1でのパラメータ変更部12の処理を、破線の右側は図1での入側板温モデル計算部11の処理をそれぞれ示している。
【0023】
まず、パラメータ変更部において、パラメータの最適値を求める際に、今回の求めたい対象となる区分データ(鋼種、サイズ等)を入力端末(図示せず)から入力する(Step01)。さらに、その区分データに基づいて、対象となるデータを操業実績データベース14から抽出し、入力する(Step02)。この際、区分データに該当する実績データは全て、操業実績データベース14から読み出して、パラメータ決定装置の記憶装置(図示せず。たとえば、HDDやメモリなど)に一次記憶される。
【0024】
次に、設備仕様や経験的な操業の観点からパラメータが取りうる範囲の数値を一つ決定し、設定する(Step03)。設定の仕方には種々考えられるが、たとえば、最初は範囲の最小値とし、自動的に順次所定値間隔で増やしてゆくようにすればよい。
【0025】
この設定されたパラメータと、前記データベースから読み出したすべての実績データの1データ(一つずつ、順次読み出していくことになる)を入側板温モデル計算部に出力(Step04)し、モデル計算を開始する指令を出力する(Step05)。
【0026】
これをうけて、入側板温モデル計算部11では、実績出側温度(オンラインでの演算時では、出側目標温度に対応する)、モデルパラメータを入力(Step06)し、まず、入側の温度を算出(Step07)し、それにもとづいて、実績出側温度にするために必要な熱量を算出(Step08)し、パラメータ変更部12に算出した熱量を出力する(Step09)。
【0027】
これをうけて次に、パラメータ変更部12では、熱量を入力(Step10)し、1つの実績データにおける熱量と投入電力の比を算出する(Step11)。
これを、データベースから読み出した全データの個数分を繰り返して(Step12)、1つのパラメータに対する比の値を求める。これから、たとえば、標準偏差や最大値と最小値の差などのばらつき量を算出(Step13)し、1つのパラメータに対する処理をおえる。次に、パラメータの値を変更して、前述と同じ処理を変更するパラメータ範囲全てを行なうまで繰り返す(Step14)。
【0028】
すべての処理が完了したら、その結果を表示部に出力する(Step15)。
【0029】
この結果により、ばらつきが所定の値以下になるパラメータを選択して、オンラインの制御において、利用することになる。
【0030】
このようにして求めたパラメータは、オンライン制御での入側板温モデル計算機7での処理時に、鋼種区分やサイズ区分ごとに設定して、切り替えて利用できるようにテーブルなどを用意して格納するようにする。そしてこれらを参照して入側板温モデル計算に使用する構成にすることで、オンライン制御に反映できる。こうすることで、推定の精度が向上し、合金化度のばらつきが低減し、鋼板の品質も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】パラメータを決定するための装置構成の一例を示す図である。
【図2】合金化処理制御を行なうための装置構成例を示す図である。
【図3】本発明における演算処理フロー例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】


1 鋼板
2 亜鉛ポット
3 誘導加熱装置
4 板温計
5 ワイピングノズル
6 合金化制御装置
7 入側板温モデル計算機
10 パラメータ決定装置
11 入側板温モデル計算部
12 パラメータ変更部
13 結果表示部
14 操業実績データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛鍍金製造ラインにおける誘導加熱装置の入側の鋼板温度を推定する入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法であって、

前記入側板温度推定モデルで推定された入側の鋼板温度と前記誘導加熱装置の出側の鋼板実績温度から算出した推定実績熱量と、前記誘導加熱装置への実績投入電力との比を算出し、この算出した比の鋼板間におけるばらつきが、所定範囲になるように前記入側板温度推定モデルのパラメータを決定することを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法において、
前記比を、鋼種区分、鋼板サイズ区分ごとに算出することを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパラメータ決定方法で設定されたパラメータを用いた入側板温度推定モデルによって推定される入側の鋼板温度にもとづいて、前記誘導加熱装置を制御することを特徴とする誘導加熱装置の制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の誘導加熱装置の制御方法を用いて溶融亜鉛鍍金鋼板を製造することを特徴とする溶融亜鉛鍍金鋼板の製造方法。
【請求項5】
溶融亜鉛鍍金製造ラインにおける誘導加熱装置の入側の鋼板温度を推定する入側板温度推定モデルのパラメータ決定装置であって、
前記誘導加熱装置における出側の鋼板温度の測定値および実績投入電力値が、操業実績データとともに記憶されている操業実績データベースと、
前記操業実績データにおける熱量と投入電力との比をもとめて、そのバラツキを算出し、バラツキのもっとも少ないパラメータを決定するパラメータ変更部と、
前記操業実績データから、前記誘導加熱装置における入側の鋼板温度を推定し、それに基づき、必要熱量を算出する入側板温モデル計算部とを備えることを特徴とする入側板温度推定モデルのパラメータ決定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77417(P2007−77417A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263245(P2005−263245)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】