説明

全反射蛍光X線分析用試料板及び試料作成用のカーボン純化方法

【課題】分析対象の元素を小液滴に濃縮して分析用試料板上で蒸発乾固し、全反射蛍光X線分析を行なう高感度化に関して、試料板由来のSiエネルギーピークを避けるために使用する高温でのガス処理純化を経たアモルファスカーボンウェーハ試料板の清浄度をさらに向上させ、半導体用高純度シリコンウェーハのレベルまで純化することを課題としている。
【解決手段】純化対象のアモルファスカーボンウェーハを三酸化二ホウ素ガラスの熔融液に接触させて、該ウェーハの表面並びに表面近くの浅い層にある分析を妨害する元素を液に吸出させ、冷却後加熱した超純水でリンスして純化し、分析面を疎水性化する。要すれば酸化性処理液で該純化ウェーハを洗浄して表面を一旦親水性化し、これに対して再度前記の熔融液の接触による純化を追加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射蛍光X線分析法により高純度液体試料中の超微量成分を分析するに際し使用する器具の高純度化に関する。特に半導体用シリコンウェーハ表面に付着した微量不純物をフッ酸液滴に回収し、この液体試料に適用する超高純度分析に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶か或いは非晶質である平板状試料の表面が平坦な鏡面で、面上のある区域の不純物を分析する場合、該分析区域の直上に半導体検出器を設け、励起X線を全反射臨界角より小さな角度で該分析区域に入射させると、大部分のX線が通過する深さ数nm程度の層を構成する原子とその層内及び表面上にある不純物原子とから蛍光X線が発生して上述の検出器に到達するが、その光子エネルギーは元素によって異なる。この不純物からの蛍光X線のエネルギーと強度とを測定して、元素分析とその定量を行なうのが全反射蛍光X線分析である。入射X線の殆どが全反射するので、検出器に入る散乱線は非常に少なくなり、即ちS/N比が著しく高くなりこれら不純物の高感度分析が可能になる。
【0003】
従って半導体用の単結晶シリコン鏡面ウェーハ上の超微量不純物はもっとも好適な分析対象であり、遷移金属を中心とした重金属の検出下限の現状は10atoms/cmの後半から10atoms/cmの前半となっている。そこで市販装置の大半は半導体分野で使われている。分析結果は原子番号の順のスペクトルで示されるが、当然母材であるSiの蛍光X線ピークが傑出して強く、原子番号の近接したAl,Mg,Pのピークは干渉しあって正確な観測が出来なくなる。元素毎の蛍光X線の発生効率は理論的に計算され、原子番号が小さくなる程低下する。また半導体検出器は通常高感度のエネルギー分散型が使われるが、その検出効率はCl位から輕元素になる程下がって、特にAl,Mg,Naで急速に低下し、原子番号10以下では実質的には検出出来ない。従ってシリコンウェーハ表面のこれら輕金属元素の全反射蛍光X線分析は難しい。
【0004】
一方、シリコンデバイスの高度化に伴い、ウェーハの表面分析に関してもさらなる高感度化が求められているので、気相分解法のような手法でウェーハ全面の不純物をフッ酸のような揮発性の酸の液滴に濃縮し、この滴をSiウェーハ上の一点において蒸発乾固して全反射傾向分析を適用することが試みられており(例えば特許文献1)、2桁の感度向上が期待されている。
【0005】
特許文献2によれば、この蒸発乾固を母材が原子番号10以下の元素よりなり、表面が平坦な鏡面である分析用試料板上で行うと、上述した理由で母材の元素から発生する蛍光X線は実質的に検出されず、Na以上の原子番号の表面不純物元素に対してウェーハ由来のSiエネルギーピークの妨害を受けることなく全反射蛍光X線分析が実施出来ると提案されている。該試料板が十分に高純度であれば、上述したウェーハ全面の不純物を濃縮して得られる高感度化の利点も享受出来る。特許文献2の実施例の母材としては無定形炭素が使われている。
【特許文献1】 特許第3179175号
【特許文献2】 特許第3457378号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の蒸発乾固の為の分析用試料板の母材として無定形炭素を使う場合、入射する励起X線が全反射するとき表面から深さ数nm程度の層までは入り込むので、少なくとも表面上とこの表面層内の不純物濃度は分析における検出下限以下即ち半導体用シリコンウェーハ並でないと高感度化の目的が達せられない。特許文献2の実施例においては約100nmの厚さの無定形炭素スパッタ膜が使われているが、市販のスパッタ装置では金属汚染レベルが高く、この清浄化対策を常時実施することは実用上困難である。また、100nm程度の膜厚では全反射を洩れた入射X線による下地元素からの蛍光のピークが出て妨害を起こす危険がある。
【0007】
無定形炭素だけからなる基板で工業的に利用されているものでは、半導体デバイス製造用のアモルファスカーボンダミーウェーハがあり、シリコンウェーハとほぼ同形状であって表面が鏡面で仕上げられている。不純物が外方拡散して半導体プロセスを汚染しないように必要な純化はなされているが、全反射蛍光分析用試料板としては素材自体の純度が半導体用シリコンウェーハに著しく劣る。高純度と称しているアモルファスカーボンウェーハの製造方法の一例を示すと、フルフリルアルコールを原料としてまず精留し、触媒を添加して重合させ、板状に注型してから高温で焼成して無定形炭素化する。これをウェーハ状に研磨・加工した後、塩酸、塩素あるいはフッ素等のガス雰囲気の炉内で2000℃程度の高温処理を行ない、ウェーハ内部に残存する金属不純物をハロゲン化して外方拡散により純化する。
【0008】
無定形炭素を焼成する手法及び高温で純化する処理法並びにそれらの為の装置は製造メーカによって異なるが、ウェーハ表面に対して全反射蛍光X線分析を行うと、メーカの如何にかかわらずシリコンウェーハに比してFe,Ni,Cu等の重要な金属の分析値が2桁以上悪い。また、後出の比較例1に見られるように中央部と比べてその周囲の部分の分析値が高く、この傾向はどのメーカでも同じである。要するに高温純化炉並びにその処理自体に共通する問題があって、炉壁から微量の金属汚染が発生したり、ハロゲン化物として気化した金属不純物が再付着して、傾向の揃った汚染パターンとなっているのである。
【0009】
この分析法ではある元素に注目してピーク強度の入射角依存性を調べると深さ方向の分布が分かるが、これらの金属は通常の洗浄では除けない深さのところまで汚染している。要するにこれらを吸出すような除去法が必要であるが、上述の気化による外方拡散純化が行詰まっているので、特許文献3や特許文献4にみられるような別の外方拡散現象を使う純化方法も考えられる。しかしこれらはシリコンウェーハに対するもので、前者はSi面に接触させた金属(例えば、Sn)或いは金属塩(例えば塩化鉛)の溶融体が吸出剤になり、後者はSi面に形成したPやBを含むSiOガラス膜が吸出し剤になって高温処理で純化ができる。この際吸出剤の主成分は逆にSiのごく表面近くに拡散で入るが、Siの場合僅かなエッチングを伴う適当な洗浄液があり、実質的にこの拡散層を除く純化ができる。ところがアモルファスカーボンでこれらの吸出処理を実施すると、内方拡散により前者では基板表面にSn或いはPb等の金属汚染が後者ではSi汚染がみられ、これらはかなり高濃度になるので完全に除去出来る強力な洗浄法がない。
【0010】
本発明は、高温ガス処理により既にある程度純化されたアモルファスカーボンウェーハに対して、全反射蛍光X線分析の高感度化を満足させる半導体用シリコンウェーハ並みの高純度と蒸発乾固面積の制御が出来る疎水性表面とを与える純化方法を提供することを課題とするものである。
【特許文献1】 特開平10−284453号
【特許文献2】 特開平11−67780号
【課題を解決する為の手段】
【0011】
本発明は、全反射蛍光X線分析の為に分析対象元素を表面に保持させる分析用試料板のアモルファスカーボンウェーハを純化する手段であって、該ウェーハを三酸化二ホウ素ガラスの熔融液に浸漬するか或いは分析面だけを接触させて、該ウェーハの表面並びに内部の表面に近い領域にある分析妨害元素を該熔融液内に吸出した後、該ウェーハを該溶融液から分離し、該ウェーハに付着した三酸化二ホウ素を加熱した超純水をリンス液として除去し、分析用試料板として高純度で表面疎水性のアモルファスカーボンウェーハを作成することをもっとも主要な特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記純化手段の実施に際して使用するカーボン器具並びに上記で純化されたアモルファスカーボン分析試料板の面に分析対象元素を保持させる前の段階で該元素含有液の処理に用いるカーボン器具を純化する為の手段であって、該カーボン器具を三酸化二ホウ素ガラスの熔融液に浸漬しその後は上記と同様に処理して純化することも特徴としている。
【0013】
さらに、本発明は、アモルファスカーボンウェーハを酸化性の処理液で洗浄してウェーハ表面を親水性化して、表面状態が不純物捕獲の核とならないように試み、その後上述の三酸化二ホウ素ガラスの熔融液による純化手段で純化して疎水性表面の高感度分析用試料板用アモルファスカーボンウェーハを作成することもまた特徴としている。酸化性処理液の洗浄としては250℃以上の濃硫酸処理、150℃以上の硫酸過酸化水素処理或いは熱硫硝酸洗浄等が有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全反射蛍光X線分析で1012atoms/cmに近いFeやCuなどが検出される半導体製造工程のダミー用アモルファスカーボンウェーハをすべての金属元素について5×10atoms/cm以下まで2回の処理で純化出来る。またSiピークも検出されないか或いは僅かに見られる程度まで低減できる。
【0015】
熔融液に接触させて吸い出す純化では熔融液の主成分が被処理体の表面に拡散してその濃度が固溶度まで達し、通常は表面分析上きわめて大きな妨害汚染となる。しかし本発明の処理では熔融液から汚染するBとOは原子番号が小さく、全反射蛍光X線分析の検出対象外の元素であって、まったく分析の妨害とはならない。これは本発明の大きな特色である。従って本発明で純化されたアモルファスカーボンウェーハは、シリコンウェーハ上の不純物を化学的手法で小容積の液滴に回収し、全反射蛍光X線分析を可能にするために用いる該回収液の蒸発乾固用の分析用試料板として問題なく使用できる。
【0016】
また本発明で純化されるアモルファスカーボンの分析試料板と分析用器具は広く液体試料中の超微量不揮発性元素の定量分析を可能にし、しかも試料は少量でよいので、薬品や水などを扱う業界に迅速かつ熟練度を要しない分析法を提供する。
【0017】
その他本発明では、アモルファスカーボンウェーハのP、S、Clなどの非金属元素の濃度もを低減できて、しかもカーボン基板は環境雰囲気中の酸性ガスを吸収しやすいので、クリーンルームを汚染する微量のPイオン、Clイオン、SOイオン等の為の迅速簡便な環境分析を可能にする。
【発明を実施する為の最良の形態】
【0018】
本発明は、まず三酸化二ホウ素が赤熱の炭素で還元されないという性質を活用している。三酸化二ホウ素ガラスの軟化点は500〜600℃であり、1000℃を越すと気化が多くなるので、熔融液はその温度以下約650℃以上が処理に適した温度といえる。固体である無定形炭素と液体である三酸化二ホウ素ガラス熔融液との高温における二相間の溶質の分配と拡散について考察した結果、前者中にあって有意な速度で拡散する不純物元素を後者が吸出し得ること、一方で熔融液のBが無定形炭素の表面層を汚染することが分かった。後述の表1の分析結果で見られるようにもっとも純度の悪い元素はFeであるから、Feに関しての吸出し挙動を、放射性同位元素の59Feで標識したFe(以下59Feと略称)を使ってトレーサ法で検討した。
【0019】
直径3″のアモルファスカーボンウェーハを59Feが9×1014atoms/cm含まれた70℃のアンモニア水(28%):過酸化水素水(30%):水=1容:1容:12容の液に10分浸漬してリンス・乾燥後、イメージングプレートを使ったラジオルミノグラフィ手法でウェーハ表面の放射線画像を作成し、放射線量の計測結果から59Feの吸着分布はおおむね均一で、平均は2.4×1011atoms/cmであった。なお、イメージングプレートを感光させる59Feからのβ線のエネルギーは炭素で吸収されるので裏面に吸着した59Feからのβ線の影響は無視できる。
【0020】
このウェーハを石英ガラス炉芯管に入れて環状炉中で窒素ガスを流して1000℃で1時間熱処理し、放冷して350℃で取り出し、塩酸過酸化水素洗浄液による70℃10分の洗浄を行い、さらにフッ酸洗浄を追加してリンス・乾燥後、上記と同様のウェーハ表面の放射線計測を行ったところ、59Fe濃度は変わっておらず、吸着していた59Feのすべてが洗浄が効かないウェーハ内部に拡散していることが分かった。
【0021】
このウェーハに対して三酸化二ホウ素ガラス熔融液による59Fe吸出し実験を施した。深い石英ガラス槽の中にグラファイト製の深皿をおき、重い不活性ガスであるアルゴンガスを常時石英槽に充満させ、深皿中に三酸化二ホウ素の粉末を入れて石英ガラス槽の下方から温調を働かせつつ該粉末を加熱した。550℃を越すと流動性が明らかなガラス状になり、650℃を越すとウェーハ浸漬が容易なまで粘性は低下し熔融液となった。
【0022】
熔融液の温度を1000℃に制御して、石英ガラス管の一端で真空吸引が出来るようにしたウェーハ支持具を使い、上記の59Fe拡散ウェーハの表面を液面に向け徐々に下降させ、該表面が液に接触して浮遊できる状態になったら支持具をウェーハから離脱させた。ウェーハの比重はほぼ液と同程度であり、また液の表面張力が大きいので浮遊状態は継続できる。ウェーハ表面の接触が1時間経由したところで再びウェーハ支持具で最初は徐々に引き上げ、ウェーハが赤くなくなったら直ちに引き上げて、加熱した窒素ガスを吹き付け付着している液滴を吹き飛ばした。ウェーハが冷却したら煮沸に近い温度の超純水に浸漬して残存三酸化二ホウ素を溶解除去した後、超純水の流水でリンスしてスピン乾燥した。このウェーハの表面に対して上述のように放射線画像の計測を行ったところ、ウェーハの全面で59Feの残存率が5〜7%であった。(1〜1.6)×1010atoms/cm59Feが表面近くに残っている。この熔融液接触処理後の面は強い疎水性で、分析用試料板上での液滴乾固に好ましい面が得られている。
【0023】
残存している59Feの大部分はウェーハ表面まで移動していて表面に生じた欠陥に捕捉されている筈なので、250℃の濃硫酸による酸化洗浄を施したところ表面は著しい親水性と化して欠陥はかなり消滅していると推察した。そこで改めて上記の熔融液処理を繰返したところ、表面の59Feは1×10atoms/cm前後となりおおむね高純度シリコンウェーハの純度レベルに達した。
【0024】
本発明では、最良のアモルファスカーボンウェーハの純化法は酸化性洗浄を挟んで三酸化二ホウ素熔融液処理を2度実施することであって不純物濃度は3桁近く低減できる。
【実施例】
【0025】
以下の実施例と比較例で本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【比較例1】
【0026】
本発明の純化法の効果を調べる為に、評価対象として焼成法も高温ガス処理による純化法も異なる3社の高純度アモルファスカーボンウェーハ製品を入手し、それぞれの数枚に対して全反射蛍光X線分析を実施し、それぞれの測定結果の中でもっとも清浄度の悪いものをA,B,Cとして表1で比較する。いずれのウェーハも中央部付近の清浄度が比較的高いので、ノッチを含む半径において中心から10mm毎(ウェーハ径は6″)に測定し、従来の測定結果から他の元素に較べて比較的汚染レベルが高くかつ半導体用デバイスで不良原因となりやすいFe,Ni,Cuについて比較した。Bがやや優れておりAとCは同傾向であった。
【0027】
【表1】

【実施例1】
【0028】
使用した三酸化二ホウ素は試薬特級のホウ酸を90℃以上に加熱した超純水に溶かして約10重量%の水溶液を作成し、冷却して結晶を晶出させる再結晶精製を繰返して、Fe,Ni,Cu,Crが1ppb以下の高純度ホウ酸を作成しこれを出発原料とした。
【0029】
前記の枚葉で三酸化二ホウ素熔融液面に接触させる処理は生産性に欠けるので、多数ウェーハの同時処理が可能な浸漬法による純化を枚葉実験炉で試みた。実験に用いた熔融三酸化二ホウ素による純化装置の概念図を断面図で図1に示す。三酸化二ホウ素熔融液1を入れる容器2は、半導体材料を溶解して精製する際に使用する素材と純度レベルが同等のグラファイトで作られている。この容器2は四隅の礎石3に支えられた石英ガラス槽4と取り外し可能で穴明きの蓋5の中に格納され、保温材6付で対面する電熱ヒーター7で加熱される。両加熱体は容易に着脱が出来る機構が付属している(図示せず)。また石英ガラス槽の下には移動の容易な電熱ヒーター8がセットされている。被純化アモルファスカーボンウェーハ9は上記と同じ材質のグラファイト棒10の先端に取り付けられた載台11にはめこみ熔融液1に所定時間浸して不純物のウェーハ内の拡散と吸出し効果で純化処理を行う。処理に先立ち石英槽内は不活性ガス例えば窒素ガスで置換する必要があるので、該ガスの導入の為の取り外し自在な石英ガラス管12を石英槽に具備させてある。
【0030】
純化処理は次のように行った。石英ガラス管でまず半導体用の高純度窒素ガスを石英槽内に供給して最初は約100℃に加熱してメタホウ酸に変え、徐々に昇温させて脱水しさらに加熱を続けて粘性のある三酸化二ホウ素のガラス状態を経て熔融状態に移行させ、確実に熔解させた後、上記アモルファスカーボンウェーハの1枚を載台にセットして熔融液に浸漬した。浸漬後液を15分で900℃まで昇温させて30分放置し、その後ヒーターの電源を切ると共にそれぞれのヒーターを石英槽から離して、熔融液を冷却した。700℃に達したところで、ウェーハを引上げ、加熱した窒素ガスをウェーハ面に吹付けて該面上に残存する液滴を吹き落す。ウェーハの冷却をまってまず煮沸超純水でリンスし、次いで室温の超純水でリンスしてスピン乾燥する。
【0031】
熔融液面での接触処理の場合と同様にスピン乾燥したウェーハを250℃で15分濃硫酸洗浄した後、超純水リンス・スピン乾燥を経て、再度650℃に保持していた上記熔融液に浸漬し同じプロセスで純化処理を遂行した。上記3枚のウェーハで一連の処理を行った結果を表2に示す。CuとNiはおおむね半導体用シリコンウェーハのレベルに達したが、Feは純化前のレベルが悪く若干分析値が劣る。しかし、5×10atoms/cm以下には殆どがなっており、分析用試料板として使用は可能である。
【0032】
【表2】

【実施例2】
【0033】
デバイスの高度化でシリコンウェーハ表面の重金属不純物は10atoms/cmオーダーの分析が求められていて、また工場で迅速なプロセス汚染の管理をする為、現場で広く使われている全反射蛍光X線分析装置で輕元素の分析が可能になることが切望されている。ここではこの要望に応える為、2桁程度の感度上昇が期待出来るVPD−TXRF法即ちウェーハをHFで気相分解して表面の金属不純物を揮発性の酸の液滴に集め、この液滴を分析用試料板上で蒸発乾固してウェーハ全面の不純物元素を試料板面の小面積上に保持させ、全反射蛍光X線分析を実施する手法に本発明を適用した。Al,Mg等のピークを出来るだけ感度が下がらないように検出するには、使用する器具等から汚染を受けることなく、液滴中のSiをあらかじめ確実に除去して微小容積の液滴に蒸発濃縮する前処理が必要である。本実施例の概念図を図2に示す。
【0034】
被検シリコンウェーハ面から気相分解→回収の定法の処理で得られた液滴試料はグラッシイカーボンで作られた小型蒸発皿13に移される。この蒸発皿は独国SLGカーボン社製で、実施例1と類似の三酸化二ホウ素熔融装置を使い、溶融液で実施例1と同様に純化処理を行い、同様に超純水リンスした。ただし900℃での処理時間は1時間である。蒸発皿に移された液滴14は石英ガラス板15を隔てて設けられた電熱ヒーター16により一旦蒸発乾固され、室温で蒸溜された超高純度のフッ酸を少量添加して加熱蒸発乾固し、液滴に溶解していたSiF2−をSiFで揮散させる。内径2mmのフッ素樹脂管17を特許文献5に示された手法で十分に清浄化し、超高純度の塩酸と過酸化水素を含む回収液50μLを表面張力だけで先端に吸引して蒸発皿底に運び、管から僅かに送気して液を落下させて乾固物を溶解する。
【0035】
実施例1の手法により純化した分析用試料板18を石英ガラス板15を隔てて電熱ビーター19で加熱出来るようにし、フッ素樹脂管17の先端で蒸発皿底の回収液滴を表面張力で吸引し、試料板状の指定位置に落下させ、電熱ビーターの加熱をコントロールして徐々に乾固させる。この乾固領域に対して全反射蛍光X線分析を適用した。Siのピークはほとんど検出されず、AlとMgは上記気相分解の結果とほとんど一致した。
【特許文献5】特許第3032563号
【実施例3】
【0036】
ケミカルフィルターを装備して雰囲気中のCl,S,Pが除去されているクリーンルーム内で、三酸化二ホウ素熔融液による吸出し純化と超純水リンスと乾燥が施されたアモルファスカーボンウェーハ分析用試料板はCl,S,Pの全反射蛍光X線分析の検出限界以下まで純化することが出来る。このような試料板はこれらの元素に関する環境分析に利用し得る。即ち、この純化された分析試料板を保存中に環境から汚染が生じないよう加熱処理したアルミニウム箔封じのアルミニウム容器に封入し、環境分析の分析箇所で所定時間暴露する。通常これらの汚染量はかなり多く全反射蛍光X線分析で容易に測定できる。
【0037】
半導体用クリーンルー厶におけるフロントエンドプロセスでは、デバイスの世代が変わるごとにドーパントであるPのプロセス装置まわりの管理に厳しさが加わる。本実施例の分析用試料板による環境からのP汚染管理は費用の負担が少なく、結果が迅速に得られるので、問題装置のまわりに多数暴露して汚染源の発見を容易にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】熔融三酸化二ホウ素による純化装置の概念図を示す断面図である。
【図2】熔融三酸化二ホウ素で純化したグラッシィカーボン蒸発皿を利用して、Siを除去した分析用液滴でアモルファスカーボン試料板面に分析領域を形成する概念を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1. 熔融液 13. グラッシィカーボン蒸発皿
2. グラファイト容器 14. 気相分解回収液滴
3. 石英ガラス槽用礎石 15. 石英ガラス板
4. 石英ガラス槽 16,19電熱ヒーター
5. 石英ガラス蓋 17. フッ素樹脂製液滴移送管
6. 保温部 18. アモルファスカーボン分析試料板
7,8 電熱ヒーター
9. アモルファスカーボンウェーハ
10. グラファイト棒
11. ウェーハ載台
12. ガス供給用石英ガラス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射蛍光X線分析の為に分析対象元素を表面に保持させる分析用試料板のアモルファスカーボンウェーハを純化する手段であって、該ウェーハを三酸化二ホウ素ガラスの熔融液に浸漬するか或いは分析面だけを接触させて、該ウェーハの表面並びに内部の表面に近い領域にある分析妨害元素を該熔融液内に吸出した後、該ウェーハを該熔融液から分離し、該ウェーハ面に付着した三酸化二ホウ素をリンス液で除去することを特徴とする分析用試料板としてのアモルファスカーボンウェーハの純化方法。
【請求項2】
請求項1の純化手段の実施に際して使用するカーボン器具並びに請求項1で純化されたアモルファスカーボン分析試料板の表面に分析対象元素を保持させる前の段階で該元素含有液の処理に用いるカーボン器具を純化する手段であって、該器具を三酸化二ホウ素ガラスの熔融液に浸漬して該器具の表面並びに内部の表面に近い領域にある分析妨害元素を該熔融液内に吸出した後、該器具を該溶融液から分離し、該器具面に付着した三酸化二ホウ素をリンス液で除去することを特徴とするカーボン器具の純化方法。
【請求項3】
リンス液として加熱した超純水を使用し、乾燥後は疎水性の面が得られることを特徴とする請求項1及び請求項2の純化方法。
【請求項4】
請求項1或いは請求項2に使用した三酸化二ホウ素を加熱した超純水に溶解した後、生成したホウ酸を再結晶法で精製し、加熱脱水して粘性が観測される三酸化二ホウ素ガラスとし、さらに加熱して熔融液としてリサイクル使用することを特徴とする請求項1および請求項2の純化方法。
【請求項5】
アモルファスカーボンウェーハを酸化性の処理液で洗浄してウェーハ表面を十分に親水性化した後、請求項1の方法で純化して疎水性の表面とすることを特徴とする分析試料板用アモルファスカーボンウェーハの純化方法。
【請求項6】
アモルファスカーボンウェーハの分析用試料板を環境雰囲気中のC1,S,Pの吸着捕集体として使用し、全反射蛍光X線分析で環境分析を遂行するにあたり、分析個所に暴露するに先立って実施することを特徴とする実施例1のアモルファスカーボンウェーハの純化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−64681(P2006−64681A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274171(P2004−274171)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(390039619)株式会社ピュアレックス (19)
【Fターム(参考)】